(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077622
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】軸受装置の予圧取得方法、及び軸受装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 25/06 20060101AFI20230530BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230530BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20230530BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
F16C25/06
F16C19/18
F16C43/04
G01L5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190964
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楼 黎明
(72)【発明者】
【氏名】坂崎 司
【テーマコード(参考)】
2F051
3J012
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
2F051BA07
3J012AB04
3J012BB03
3J012CB10
3J012FB09
3J012HB02
3J117AA03
3J117DA01
3J117DB08
3J117HA04
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701FA41
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】軸受装置の予圧をより正確に取得する。
【解決手段】予圧取得方法は、軸受装置の外方部材と内方部材との間の電気的情報と、軸受装置の予圧との関係を示す関係情報を生成する準備工程S21と、対象軸受装置の予圧を取得する取得工程S22とを備える。準備工程S21は、軸受装置に予圧を付与した状態にある基準軸受装置に対して、軸方向の追加荷重を付与するとともに、基準軸受装置の電気的情報を計測する処理を、追加荷重を変化させて行い、追加荷重の情報と電気的情報とのデータセットを複数について取得する計測工程S211と、複数のデータセットから、複数のデータセットに倣う予測線情報を生成し、予測線情報を用いて関係情報を取得する処理工程S214とを含む。取得工程S22で、予圧を付与した状態にある対象軸受装置の電気的情報を計測し、計測した電気的情報と前記関係情報とに基づいて、対象軸受装置に付与されている予圧を取得する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外方部材、内方部材、および、前記外方部材と前記内方部材との間に介在する複数の転動体を備える軸受装置を、検査対象となる対象軸受装置として、予圧を取得する方法であって、
前記軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報と、前記軸受装置の予圧との関係を示す関係情報を生成する準備工程と、
前記対象軸受装置の予圧を取得する取得工程と、
を備え、
前記準備工程は、
前記軸受装置に予圧を付与した状態にある基準軸受装置に対して、軸方向の追加荷重を付与するとともに、前記基準軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報を計測する処理を、前記追加荷重を変化させて行い、前記追加荷重の情報と前記電気的情報とのデータセットを複数について取得する計測工程と、
前記計測工程で取得した複数の前記データセットから、複数の前記データセットに倣う予測線情報を生成し、前記予測線情報を用いて前記関係情報を取得する処理工程と、
を含み、
前記取得工程で、
予圧を付与した状態にある前記対象軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報を計測し、計測した前記電気的情報と前記関係情報とに基づいて、前記対象軸受装置に付与されている予圧を取得する、
軸受装置の予圧取得方法。
【請求項2】
前記準備工程は、さらに、
前記軸受装置に予圧を付与する前の状態にある基準軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報として、付与前電気的情報を取得する、予備計測工程を含み、
前記処理工程で、
前記予測線情報を、前記付与前電気的情報に基づいて変換し、変換予測線情報を生成し、前記変換予測線情報を用いて前記関係情報を取得する、
請求項1に記載の軸受装置の予圧取得方法。
【請求項3】
前記処理工程で、
前記予測線情報において前記付与前電気的情報に対応する荷重を、荷重ゼロとするように前記予測線情報を変換して、前記変換予測線情報を生成する、
請求項2に記載の軸受装置の予圧取得方法。
【請求項4】
前記処理工程で、
前記軸受装置に付与する軸方向の荷重と前記予圧との関係が線形関係であることを用いて、前記予測線情報に基づいて前記関係情報を取得する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の軸受装置の予圧取得方法。
【請求項5】
前記内方部材は、軸本体と、前記軸本体に外嵌して取り付けられる内輪と、を有し、
前記外方部材の内周面および前記内輪の外周面に前記転動体が接触する軌道面が形成されていて、
前記軸本体の軸方向端部を加締めることによって前記内輪を軸方向に押圧することで、前記軸受装置に予圧が付与され、
前記計測工程では、前記軸方向端部を加締めることによって予圧を付与した状態にある前記基準軸受装置に対して、さらに軸方向の追加荷重を付与する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の軸受装置の予圧取得方法。
【請求項6】
前記電気的情報は、前記外方部材と前記内方部材との間のインピーダンスまたはリアクタンスに関する情報である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の軸受装置の予圧取得方法。
【請求項7】
外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に介在する複数の転動体と、を備える軸受装置の製造方法であって、
前記外方部材、前記内方部材、および前記転動体を組み立てる組み立て工程と、
組み立てられた軸受装置を検査対象として予圧を取得する検査工程と、
を備え、
前記検査工程に、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の予圧取得方法が含まれる、
軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置の予圧取得方法、及び軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のハブユニット(車輪用の軸受装置)は、複列の転がり軸受を含み、予圧が付与された状態で用いられる。予圧は、いわゆる負すきまによって管理される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハブユニットでは、予圧を増加すると、支持剛性が高まり車輪の面振れが小さくなる。これに対して、予圧の増加は、内軸部材、外輪、および転動体への負荷の増大につながる。その結果、摩耗や剥離などの損傷が発生しやすくなり、また、摩擦トルクも大きくなる。近年、自動車の燃費向上のため、ハブユニットにおける摩擦トルクの低減が要求されている。予圧の管理は、製品性能に大きな影響を与えることから、より厳密な管理が要求される。
【0005】
従来、ハブユニット等の軸受装置に付与される予圧は、負すきまで管理されている。つまり、軸受装置の構成部材間の寸法を計測することで、間接的に予圧を管理している。負すきまと予圧との相関性は明確でないため、負すきまに基づく管理の場合、実際に付与される予圧にばらつきが生じる可能性がある。
【0006】
そこで、軸受装置の予圧をより正確に取得する新たな技術的手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、軸受装置の予圧の取得方法について鋭意研究が進めた。その中で、軸受装置の内方部材と外方部材との間の電気的情報と予圧との間に相関があるという知見を得ることができ、さらに、予圧を付与した状態にある軸受装置に対して軸方向の追加荷重を付与した場合に、その追加荷重と予圧とに相関があることを見出した。その結果、次のような本発明が得られた。
【0008】
すなわち、本発明に係る軸受装置の予圧取得方法は、外方部材、内方部材、および、前記外方部材と前記内方部材との間に介在する複数の転動体を備える軸受装置を、検査対象となる対象軸受装置として、予圧を取得する方法であって、
前記軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報と、前記軸受装置の予圧との関係を示す関係情報を生成する準備工程と、
前記対象軸受装置の予圧を取得する取得工程と、
を備え、
前記準備工程は、
前記軸受装置に予圧を付与した状態にある基準軸受装置に対して、軸方向の追加荷重を付与するとともに、前記基準軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報を計測する処理を、前記追加荷重を変化させて行い、前記追加荷重の情報と前記電気的情報とのデータセットを複数について取得する計測工程と、
前記計測工程で取得した複数の前記データセットから、複数の前記データセットに倣う予測線情報を生成し、前記予測線情報を用いて前記関係情報を取得する処理工程と、
を含み、
前記取得工程で、
予圧を付与した状態にある前記対象軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報を計測し、計測した前記電気的情報と前記関係情報とに基づいて、前記対象軸受装置に付与されている予圧を取得する。
【0009】
比較例の方法として、予圧を付与する前の状態にある軸受装置に対して、例えば内方部材の軸方向の端部を加締めて予圧を付与しながら前記電気的情報を取得し、これに基づいて、電気的情報と予圧との検量線(関係情報)を取得し、その検量線を用いて、対象軸受装置の予圧を取得する方法が考えられる。しかし、この場合、加締めの際に例えば部材に滑りが生じ、加締めによる荷重のすべてが予圧に反映されるとは限らず、その荷重と予圧との関係も明らかではなく、取得される検量線の正確性が低くなる可能性がある。
【0010】
これに対して、本発明の予圧取得方法では、準備工程において、予圧を付与した状態にある基準軸受装置に軸方向の追加荷重を付与し、前記電気的情報を計測し、データセットを複数について取得する。これらデータセットに倣う予測線情報を生成し、それを用いて電気的情報と予圧との関係情報を取得する。このため、より正確な関係情報が得られる。その関係情報を用いることで、対象軸受装置の予圧をより正確に取得することが可能となる。
【0011】
また、好ましくは、前記準備工程は、さらに、前記軸受装置に予圧を付与する前の状態にある基準軸受装置の前記外方部材と前記内方部材との間の電気的情報として、付与前電気的情報を取得する、予備計測工程を含み、前記処理工程で、前記予測線情報を、前記付与前電気的情報に基づいて変換し、変換予測線情報を生成し、前記変換予測線情報を用いて前記関係情報を取得する。
この場合、追加荷重と電気的情報との関係を整理することが可能となる。その結果、対象軸受装置の予圧を正確に取得し易くなる。
【0012】
前記のように、追加荷重と電気的情報との関係を整理するための具体的手段として、好ましくは、前記処理工程で、前記予測線情報において前記付与前電気的情報に対応する荷重を、荷重ゼロとするように前記予測線情報を変換して、前記変換予測線情報を生成する。
【0013】
また、好ましくは、前記処理工程で、前記軸受装置に付与する軸方向の荷重と前記予圧との関係が線形関係であることを用いて、前記予測線情報に基づいて前記関係情報を取得する。
この方法により、追加荷重と電気的情報との関係から、軸受装置の予圧と電気的情報との関係情報が容易に得られる。
さらに、前記線形関係を用いれば、必要な予圧を軸受装置に付与するために必要となる軸方向の荷重を求めることが可能となる。
【0014】
また、好ましくは、前記内方部材は、軸本体と、前記軸本体に外嵌して取り付けられる内輪と、を有し、前記外方部材の内周面および前記内輪の外周面に前記転動体が接触する軌道面が形成されていて、前記軸本体の軸方向端部を加締めることによって前記内輪を軸方向に押圧することで、前記軸受装置に予圧が付与され、前記計測工程では、前記軸方向端部を加締めることによって予圧を付与した状態にある前記基準軸受装置に対して、さらに軸方向の追加荷重を付与する。
この方法により、対象軸受装置の予圧をより正確に取得することが可能となる。
【0015】
また、好ましくは、前記電気的情報は、前記外方部材と前記内方部材との間のインピーダンスまたはリアクタンスに関する情報である。内方部材と外方部材との間のインピーダンスまたはリアクタンスと予圧との間に相関があり、対象軸受装置に付与される予圧をより正確に取得することが可能となる。
【0016】
本発明は、外方部材と、内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に介在する複数の転動体と、を備える軸受装置の製造方法であって、前記外方部材、前記内方部材、および前記転動体を組み立てる組み立て工程と、組み立てられた軸受装置を検査対象として予圧を取得する検査工程と、を備え、前記検査工程に、前記予圧取得方法が含まれる。
前記予圧取得方法が製造工程に含まれるため、予圧の管理は正確となり、安定した品質の軸受装置が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軸受装置の予圧をより正確に取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図2は、
図1に示す軸受装置の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、中間品を加締め装置に配置した状態であり、加締め加工の途中状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、特殊軸受装置の一部を示す断面図である。
【
図6】
図6は、追加荷重とインピーダンス値との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、予圧とインピーダンス値との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、インピーダンス値による予圧変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、追加荷重と予圧との関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、追加荷重と予圧との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、横軸を追加荷重とし、縦軸をインピーダンス値とするグラフに、取得した複数のデータセットをプロットした図である。
【
図12】
図12は、第一直線を延長した第二直線を示す図である。
【
図13】
図13は、追加荷重とインピーダンス値との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、予圧とインピーダンス値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔軸受装置の全体構成〕
図1は、軸受装置10の断面図である。本実施形態の軸受装置10は、自動車に用いられる車輪用の軸受装置(ハブユニット)である。軸受装置10は、自動車の車体に設けられている懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する。軸受装置10は、円筒形状を有する外方部材、その径方向内側に位置する内方部材、および、これら外方部材と内方部材との間に介在する複数の転動体を備える。本実施形態では、外方部材は外輪11であり、内方部材は内軸部材(ハブ軸)12であり、転動体は玉13である。
【0020】
軸受装置10は、さらに、玉13を保持する環状の保持器14、および、軸受内部への異物の進入を防止するシール部材18,19を備える。外輪11と内軸部材12とは同心状に配置される。外輪11に対して内軸部材12が中心線C1回りに回転可能となる。前記中心線C1は、固定輪となる外輪11の中心線である。本実施形態では、外輪11の中心線C1を軸受装置10の中心線とする。
【0021】
本発明の説明に関して、中心線C1に沿う方向を「軸方向」と定義する。この軸方向に、中心線C1に平行な方向も含まれる。軸受装置10が車体に取り付けられた状態で、車両アウタ側を軸方向一方側と定義し、車両インナ側を軸方向他方側と定義する。中心線C1に直交する方向を「径方向」と定義する。中心線C1を中心とする円に沿った方向を「周方向」と定義する。内軸部材12が中心線C1回りに回転する方向が「周方向」となる。
【0022】
外輪11は、機械構造用炭素鋼または軸受鋼等により形成されている。外輪11は、円筒形状であり、その外周側にフランジ11cを有する。フランジ11cは、ボルトにより車体側の懸架装置に固定される。外輪11の内周面に、複列(二列)の外側軌道11b,11bが設けられている。
【0023】
内軸部材12は、内軸16と内輪17とを有する。内軸16および内輪17は、機械構造用炭素鋼または軸受鋼等により形成されている。内軸16は、軸方向に沿って延びる軸本体16aと、軸本体16aの軸方向一方側から径方向外方に突出するフランジ部16bとを有する。軸本体16aとフランジ部16bとは一体である。フランジ部16bに、車輪およびブレーキディスク(図示せず)が取り付けられる。
【0024】
内輪17は、環状の部材である。内輪17は、内軸16の軸方向他方側の端部に固定される。軸本体16aは、フランジ部16bと繋がる大径部16fと、軸方向他方側に設けられ大径部16fよりも外径が小さい小径部16cとを有する。内輪17は、小径部16cに軸方向他方側から圧入され嵌合する。さらに、
図1に示すように、内軸16の軸方向他方側の端部16dを径方向外方へ塑性変形させて加締めることによって、内輪17は内軸16に固定される。内輪17は、軸本体16aの大径部16fに軸方向に突き当てられ、小径部16cに外嵌して取り付けられる。後にも説明するが、内軸16の端部16dの加締めにより、軸受装置10に予圧が付与される。
【0025】
軸本体16a(大径部16f)の外周面の一部に、内側軌道16eが設けられている。内側軌道16eは、軸方向一方側の外側軌道11bと対向する。内輪17の外周面に、内輪軌道17eが設けられている。内輪軌道17eは、軸方向他方側の外側軌道11bと対向する。外側軌道11b及び内側軌道16e,17eは、それぞれ中心線C1を含む断面において凹円弧形状である。
【0026】
玉13は、軸受鋼により形成されている。第一の列の転動体となる複数の玉13が、軸方向一方側の外側軌道11bと内側軌道16eとの間に設けられている。第二の列の転動体となる複数の玉13が、軸方向他方側の外側軌道11bと内輪軌道17eとの間に設けられている。玉13は、外側軌道11b、内側軌道16e、および内輪軌道17eそれぞれに対して所定の接触角を有して接触する(点接触する)。軸受装置10は、複列のアンギュラ玉軸受を含み、外輪11及び内軸部材12が、アンギュラ玉軸受の軌道輪を構成する。
【0027】
〔軸受装置10の製造方法〕
図2は、
図1に示す軸受装置10の製造方法を示すフローチャートである。その製造方法に、組み立て工程S1と検査工程S2とが含まれる。組み立て工程S1は、外輪11、内軸16と内輪17とを有する内軸部材12、および複数の玉13を組み立てる工程である。検査工程S2は、組み立てられた軸受装置10を検査対象として、その軸受装置10に付与されている予圧を取得する工程(予圧を検査する工程)である。
【0028】
〔組み立て工程S1について〕
組み立て工程S1に、軸受装置10の中間品を得る第一工程S11と、前記中間品に予圧を付与して完成品を得る第二工程S12とが含まれる。
第一工程S11で、外輪11、内軸部材12、複数の転動体13、保持器14等の各構成部材を組み立て、中間品が得られる。ただし、その中間品は、外輪11と内軸部材12との間に二列となって複数の玉13が介在しているが、内軸16の端部16dが加締められていない状態である。
【0029】
図3は、中間品20を加締め装置30に配置した状態であり、加締め加工の途中状態を示す断面図である。第二工程S12で、加締め装置30を用いて中間品20における内軸16の端部16dを塑性変形させ加締める。この加締めにより、軸受装置10に予圧が付与される。予圧は、完成品である軸受装置10に与えられているアキシアル荷重である。中間品20の状態で、内輪17を軸本体16aに圧入するとともに、内輪17に対して前記加締めによって軸方向一方側へ向く荷重を付加する。端部16dが塑性変形することによって、内輪17を内軸16に固定して完成品とするとともに、その完成品に対して予圧を付与することが可能となる。
【0030】
加締め装置30は、回転機構(図示せず)により回転する加締め機構32と、拘束部材33とを備える。加締め機構32は、前記回転機構の電動モータ(図示せず)により、上下方向の基準軸Zに対して所定の角度について傾く回転軸C2回りに回転するパンチ32aを有する。拘束部材33は、内輪17に外嵌する。
【0031】
加締め加工について説明する。中間品20は、中心線C1を基準軸Zと一致させて載置台31の上に装着される。前記回転機構によりパンチ32aが回転軸C2回りに回転する。加締め機構32を降下させ、回転するパンチ32aを内軸16の端部16dに押し付ける。これにより、パンチ32aが端部16dを径方向外方へ塑性変形させる。その結果、端部16dは加締められ、内輪17は、内軸16の軸方向他方側の端部に固定される。
【0032】
このとき、内輪17に軸方向一方側へ向く荷重が付加される。第二工程S12では、内輪17に対して軸方向一方側へ向く荷重を付加した状態で、端部16dを塑性変形させ、端部16dを加締めて内輪17を内軸16に固定する。第二工程S12により、完成品である軸受装置10が得られる。
以上のように、軸本体16aの軸方向の端部16dを加締めることによって、内輪17を大径部16fに向かって軸方向に押圧することで、軸受装置10に予圧が付与される。
【0033】
パンチ32aによって内輪17に付加される軸方向の荷重は、加締め機構32の降下位置を調整することで変更可能である。端部16dにパンチ32aを押し付け、加締め機構32を所定の降下位置まで降下させる。その後、加締め機構32を上昇させ、端部16dからパンチ32aを離間させることで、第二工程S12が終了する。その後、検査工程S2が開始される。検査工程S2に、次に説明する軸受装置10の予圧取得方法が含まれる。なお、検査工程S2には、さらに、他に検査として、外観検査、回転状態の検査なども含まれる。
【0034】
〔軸受装置10の予圧取得方法〕
予圧取得方法で用いられる予圧取得システム50の構成について説明する。
図4は、予圧取得システム50の説明図である。軸受装置10に付与されている予圧を取得するために、本実施形態では、外輪11と内軸部材12との間の電気的情報としてインピーダンスを計測する。そこで、
図4に示すように、軸受装置10に計測器40を接続する。計測器40は、LCRメータまたはインピーダンスアナライザ等のインピーダンスを計測するための装置である。計測器40は、接続クリップ42が設けられた接続ケーブル44を一対有する。計測器40は、一対の接続クリップ42,42間に接続される被計測物のインピーダンスを計測する。
【0035】
一方の接続クリップ42は、外輪11のフランジ11cに取り付けられる。他方の接続クリップ42は、内軸部材12のフランジ部16bに取り付けられる。計測器40は、一対の接続ケーブル44、44を介して外輪11と内軸部材12との間に交流波を印可し、外輪11と内軸部材12との間のインピーダンスを計測する。
以上の構成により、計測器40は、軸受装置10の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報として、インピーダンスの値を計測することが可能となる。計測したインピーダンスの値は、処理装置46へ与えられる。
【0036】
処理装置46は、例えば、コンピュータであり、CPU等からなる演算部と、入出力部と、メモリやハードディスク等からなる記憶部とを備える。入出力部は、キーボードや、マウス、タッチパネルといった入力デバイスと、ディスプレイやプリンタといった出力デバイスとを含む。前記記憶部に、前記演算部が実行するためのコンピュータプログラム等が記憶されている。前記演算部は、前記記憶部に記録されたコンピュータプログラムを読み込み、実行することで、処理装置46の各機能が実現される。また、前記記憶部に、後述する関係情報などの各種情報を記憶する記憶領域が設定されている。関係情報は、型番(タイプ)が異なる複数の軸受装置10毎に記憶されていてもよい。前記演算部は、複数の関係情報の中から、計測対象である軸受装置10の型番に対応する関係情報を選択して用いることができる。
【0037】
以上の構成を備える予圧取得システム50を用いて行う予圧取得方法について説明する。
図2に示すように、予圧取得方法に、準備工程S21と取得工程S22とが含まれる。
準備工程S21では、軸受装置10の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報と、軸受装置10の予圧との関係を示す関係情報i-4を生成する。本実施形態では、前記電気的情報は、外輪11と内軸部材12との間のインピーダンスに関する情報である。準備工程S21において、関係情報i-4を生成するために用いられる軸受装置10は、前記組み立て工程S1を終え、検査の対象となる対象軸受装置(
図1に示す軸受装置10)と同じ構成、および同じ型式・仕様を有する。
【0038】
取得工程S22では、検査の対象となる対象軸受装置の予圧、つまり、前記組み立て工程S1を終えた軸受装置10の予圧を取得する。取得工程S22は、軸受装置10に付与されている予圧を検査する工程であるとも言える。取得する予圧は前記関係情報i-4を用いて求める推定値である。この検査により予圧が所定の基準を満たすことで、軸受装置10は合格品となる。
以下、準備工程S21および取得工程S22について説明する。
【0039】
〔準備工程S21〕
図2に示すように、準備工程S21に、計測工程S211、予備計測工程S212、参照計測工程S213、および処理工程S214が含まれる。これら各工程の概略を説明する。
計測工程S211では、前記のように組み立てが完了し、軸受装置10に予圧を付与した状態にある基準軸受装置が用いられる。この基準軸受装置に軸方向の追加荷重をさらに付与し、外輪11と内軸部材12との間のインピーダンス値を計測器40(
図4参照)により計測する。これを複数回実施し、複数のデータセットを取得する。
予備計測工程S212では、組み立て途中にある基準軸受装置を用いる。つまり、軸受装置10において、内軸16の軸方向の端部16dを加締める前、つまり予圧を付与する前の状態にある基準軸受装置を用いる。その基準軸受装置の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報として、付与前インピーダンス値の情報を計測する。
【0040】
参照計測工程S213は、計測工程S211および予備計測工程S212と同様に、処理工程S214よりも前に行われる。参照計測工程S213では、特殊軸受装置が用いられ、その特殊軸受装置における予圧と電気的情報としてインピーダンス値の情報との関係を示す情報が取得される。特殊軸受装置は、後にも説明するが、製品とならず、計測専用の軸受装置である。
処理工程S214では、コンピュータ(処置装置46)を用いた処理が行われる。その処理として、計測工程S211で取得した複数のデータセットから、関係情報i-4を取得する。
以下、各工程の具体例を順に説明する。
【0041】
<計測工程S211>
計測工程S211では、組み立て工程S1で説明したように組み立てられ、内軸16の端部16dの加締めによって予圧を付与した状態にある軸受装置10の一部(一つ)を、基準軸受装置とする。ここで用いられる基準軸受装置は、組み立て完了品であり、対象軸受装置(
図1に示す軸受装置10)と同じ構成、および同じ型式・仕様を有する。
【0042】
その基準軸受装置に対して、軸方向の追加荷重を付与し、その基準軸受装置の外輪11と内軸部材12との間のインピーダンス値を計測器40(
図4)によって計測する。
図4では前記追加荷重を「F」として示す。追加荷重は、例えば図外のプレス機により基準軸受装置の内軸16に付与される。
さらに、前記追加荷重を変化させてインピーダンス値の計測を繰り返し行う。これにより、前記追加荷重の情報とインピーダンス値の情報とのデータセットが、複数について取得される。取得されたデータセットを処理装置46が記憶する。
図6は、前記データセットをグラフとして表現した図である。グラフの横軸は、軸方向の追加荷重の値であり、グラフの縦軸は、計測されたインピーダンス値である。
【0043】
ここで基準軸受装置として用いられる軸受装置10の「前記一部」は、一つであってもよいが、複数であってもよい。複数の場合、追加荷重の値毎に、複数の軸受装置(基準軸受装置)10から取得されたインピーダンス値の統計値として、平均値または中央値が用いられる。
【0044】
このように計測工程S211では、内軸16の軸方向の端部16dを加締めることによって、軸受装置10に予圧を付与した状態にある基準軸受装置に対して、軸方向の追加荷重を付与する。前記追加荷重を付与した状態での前記基準軸受装置の外輪11と内軸部材12との間のインピーダンス値を計測する処理を、前記追加荷重を変化させて繰り返し行う。これにより、前記追加荷重の情報と前記インピーダンス値の情報とのデータセットを複数について取得することができる(
図6参照)。
【0045】
<予備計測工程S212>
予備計測工程S212で用いられる基準軸受装置は、前記組み立て工程S1で説明したように組み立てが行われる途中の状態にある軸受装置10の一部(一つ)である。その基準軸受装置は、組み立て完了前の中間品であるが、対象軸受装置と同じ構成、および同じ型式・仕様を有する。ただし、予備計測工程S212では、軸受装置10に予圧を付与する前の状態、つまり、前記端部16dの加締めを行う前の状態にある基準軸受装置の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報として、付与前インピーダンス値の情報を計測する。計測されて得た付与前インピーダンス値の情報を、処理装置46が記憶する。
【0046】
ここの説明では、予圧および追加荷重が付与されていない状態で測定された、付与前インピーダンス値の情報として「α(mΩ)」という情報が得られたとする。「α」は所定の数である。
予備計測工程S212において、基準軸受装置として用いられる軸受装置10の「前記一部」は、一つであってもよいが、複数であってもよい。複数の場合、複数の軸受装置10から取得された付与前インピーダンス値の統計値として、平均値または中央値が用いられる。
【0047】
<参照計測工程S213>
前記のとおり、参照計測工程S213では、特殊軸受装置70が用いられる。
図5は、特殊軸受装置70の一部を示す断面図である。前記基準軸受装置および前記対象軸受装置と比較して、特殊軸受装置70では、内軸部材12(軸本体16a)の小径部16cと内輪17との嵌め合い構造が異なり、さらに、内軸部材12(軸本体16a)の大径部16fと内輪17との接触態様が異なる。つまり、基準軸受装置および対象軸受装置では、内輪17と小径部16cとは「しまり嵌め状態(密着嵌合状態)」にあるのに対して、
図5に示す特殊軸受装置70では、内輪17と小径部16cとは「すきま嵌め状態」にある。基準軸受装置および対象軸受装置では、内輪17と大径部16fとは軸方向について接触状態にあるが、
図5に示す特殊軸受装置70では、内輪17と大径部16fとの間に軸方向についてすきまが設けられており非接触状態にある。
【0048】
このため、
図5に示す特殊軸受装置70の場合、内輪17に軸方向の荷重が付与され、内輪17が軸方向一方に押されると、その軸方向の荷重のすべて(ほぼすべて)が、転動体である玉13への予圧として反映され付与される。
なお、特殊軸受装置70のその他の構成は、基準軸受装置および対象軸受装置(つまり、
図1に示す軸受装置10)と同じ構成(ただし、端部16dの加締め前の状態)を備えており、ここではその説明を省略する。
【0049】
特殊軸受装置70を用いて、内輪17に軸方向の荷重を付与し、それに応じた予圧を付与した状態で、外輪11と内軸部材12との間の電気的情報として、インピーダンスの値を計測器40(
図4参照)によって計測する。しかも、その軸方向の荷重を変化させて、計測を複数回実行する。これにより、
図7に示すような、特殊軸受装置70における予圧と電気的情報(インピーダンス値の情報)との関係を示す予備情報i-0が取得される。予備情報i-0を処理装置46が記憶する。なお、特殊軸受装置70の内輪17に付与する軸方向の荷重は、端部16dを加締めることによって作用させてもよいが、内輪17に直接プレス等によって作用させる。
【0050】
図7に示すように、予圧とインピーダンス値とが線形関係を有する予備情報i-0が取得される。また、前記計測工程S211で得られた結果として、
図6に示すように、基準軸受装置に関する追加荷重とインピーダンス値との間には、線形関係を有する。
図6および
図7に示すような、これら線形関係により、インピーダンス値を基準としてグラフを書き直せば、
図8に示すように、インピーダンス値による予圧変化を示す情報が得られる。この情報によれば、インピーダンス値と予圧との間に線形関係が存在する。その線形関係を示す第一情報(第一関数情報)i-1が処理装置46に記憶される。
また、
図6および
図7に示すような、前記線形関係により
図9に示すように、加締め後の軸受装置10に付与する前記追加荷重(以下、「加締め後追加荷重」という。)と、予圧との関係を示す情報が得られる。
図9によれば、加締め後追加荷重と予圧との間に線形関係が存在する。その線形関係を示す第二情報(第二関数情報)i-2を処理装置46が記憶する。
【0051】
図9では、加締め後追加荷重が付与されない状態、つまり加締め後追加荷重がゼロであっても、予圧が付与されていることになっている。そこで、
図9に示す第二情報i-2から、加締め後追加荷重がゼロである場合に、予圧がゼロとなる第三情報i-3を生成する(
図10)。つまり、
図9に示す第二関数情報(i-2)が示す1次関数の切片をゼロとし、加締め後追加荷重がゼロである場合に、予圧の値がゼロとなるように、第二情報i-2を第三情報i-3へと変換する(書き換える)。このように第二情報i-2(
図9参照)に基づいて、
図10に示すような、加締め後追加荷重と予圧との第三情報(第三関数情報)i-3が得られる。第三情報i-3を処理装置46が記憶する。
【0052】
<処理工程S214>
計測工程S211で取得した前記複数のデータセット(
図6参照)から、これら複数のデータセットに倣う予測線情報(
図12に示す「f2」)を生成する。予測線情報の生成手段について具体的に説明する。
図11は、横軸を追加荷重とし、縦軸をインピーダンス値とするグラフに、取得した前記複数のデータセット(
図6)をプロットした図である。
図6により説明したように、追加荷重とインピーダンス値とは線形関係を有することから、
図11において、その回帰式として第一直線(1次関数)f1が得られる。例えば、最小二乗法などによって第一直線f1が得られる。
図12は、第一直線f1を延長した第二直線f2を示す図である。第二直線f2が、前記「予測線情報」である。
【0053】
このように、処理工程S214では、計測工程S211で取得した複数のデータセットから、これら複数のデータセットに倣う予測線情報(第二直線f2)を生成する。つまり、複数のデータセットに沿う予測線情報(第二直線f2)を生成する。
【0054】
本実施形態の処理工程214では、その予測線情報(第二直線f2)を、前記予備計測工程S212において、追加荷重が付与されていない状態で測定された付与前インピーダンス値の情報(付与前電気的情報)に基づいて変換して(書き換えて)、
図14に示すような、変換予測線情報(第一検量線)i-4を生成する。以下、これを具体的に説明する。
【0055】
前記のとおり予備計測工程S212において、付与前インピーダンス値の情報として、「α(mΩ)」という値の情報が得られている。そこで、この付与前インピーダンス値と、同じ値α(mΩ)の場合の、追加荷重を前記予測線情報(
図12に示す、第二直線f2)から取得する。すると、
図12の場合、追加荷重-β(N)が得られる。前記付与前インピーダンス値は、軸受装置10に予圧を付与する前の状態にある基準軸受装置の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報である。そこで、前記付与前インピーダンス値α(mΩ)に相当する追加荷重-β(N)を、ゼロとするように、
図12のグラフの座標を変換する。つまり、
図12に示すグラフ(第二直線f2、予測線情報)を、
図13に示すように変換する。
なお、
図12において、追加荷重-βは、基準軸受装置に端部16dの加締めによって付与されている加締め力と言える。
【0056】
すると、
図13に示すように、追加荷重がゼロから始まる、インピーダンス値の関係を示すグラフとなる。このグラフ(1次関数)を第一検量線f3とする。この第一検量線f3が「変換予測線情報」となる。
このように、本実施形態の処理工程S214では、予測線情報(第二直線f2)において付与前インピーダンス値α(mΩ)の情報に対応する荷重(追加荷重、-β(N))を、荷重ゼロとするように予測線情報(第二直線f2)を変換して、変換予測線情報(第一検量線f3)を生成する。
【0057】
図13に示す第一検量線f3を、
図14に示す第二検量線f4に変換する。この変換は、前記参照計測工程S213で得られた、
図10に示す加締め後追加荷重と予圧との第三情報(第三関数情報)i-3に基づいて行われる。第三情報i-3によれば、加締め後追加荷重と予圧とが線形関係を有する。このため、変換された第二検量線f4(
図14参照)についても、線形が維持され、予圧とインピーダンスの値との1次関数が得られる。第二検量線f4は、予圧とインピーダンス値との関係を示す。この第二検量線f4が、軸受装置10の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報としてのインピーダンス値と、軸受装置10の予圧との関係を示す関係情報i-4である。
【0058】
このように、処理工程S214では、計測工程S211で取得した複数のデータセットから、これら複数のデータセットに倣う予測線情報(
図12、第二直線f2)を生成し、その予測線情報を用いて関係情報i-4(
図14参照)を取得する。特に本実施形態の処理工程S214では、予測線情報(
図12、第二直線f2)を、前記付与前インピーダンス値α(mΩ)の情報に基づいて変換して、変換予測線情報(
図13、第一検量線f3)を生成する。さらに処理工程S214で、
図10に示す軸受装置10に付与する軸方向の荷重(加締め後追加荷重)と予圧との関係が線形関係であることを用いて、変換予測線情報(
図13、第一検量線f3)に基づいて関係情報i-4(
図14)を取得する。
以上より、関係情報i-4が得られ、関係情報i-4を処理装置46が記憶する。
【0059】
〔取得工程S22〕
図2において、軸受装置10の予圧取得方法は、軸受装置10の製造工程が有する検査工程に含まれており、予圧取得方法における取得工程S22は、前記のとおり、軸受装置10に付与されている予圧を検査する工程である。
取得工程S22では、予圧を付与した状態にある対象軸受装置の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報としてインピーダンス値を計測器40(
図4参照)によって計測する。ここで計測したインピーダンス値と、処理工程S214ですでに取得されている関係情報i-4(
図14)とに基づいて、対象軸受装置に付与されている予圧を取得する。つまり、計測したインピーダンス値に対応する予圧を、
図14から求め、その予圧が、その対象軸受装置の予圧であると推定する。求めた予圧の値が、所定の基準(所定の閾値の範囲内にあること)を満たすことで、その対象軸受装置は合格品となる。
【0060】
〔本実施形態の予圧取得方法に関して〕
以上のように、本実施形態の予圧取得方法は、外輪11、内軸部材12、および、外輪11と内軸部材12との間に介在する複数の玉13を備える軸受装置10を、検査対象となる対象軸受装置として、その対象軸受装置の予圧を取得する方法である。その方法は、関係情報i-4(
図14参照)を生成する準備工程S21と、前記対象軸受装置の予圧を取得する取得工程S22とを備える。関係情報i-4は、外輪11と内軸部材12との間の電気的情報(インピーダンス値の情報)と、軸受装置10の予圧との関係を示す情報である。
【0061】
準備工程S21に、計測工程S211と処理工程S214とが含まれる。
計測工程S211では、加締めによって予圧を付与した状態にある軸受装置10を基準軸受装置とし、その基準軸受装置に対して、軸方向の追加荷重を付与する。これとともに、追加荷重を付与した状態での前記基準軸受装置の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報として、インピーダンスの値の情報を計測する処理を、前記追加荷重を変化させて行う。これにより、前記追加荷重の情報とインピーダンスの値の情報とのデータセットを複数について取得する。
処理工程S214では、計測工程S211で取得した複数の前記データセットから、これらデータセットに倣う予測線情報(
図12、第二直線f2)を生成し、その予測線情報を用いて関係情報i-4(
図14参照)を取得する。
【0062】
そして、取得工程S22で、予圧を付与した状態にある対象軸受装置の外輪11と内軸部材12との間の電気的情報として、インピーダンスを計測する。計測したインピーダンスの値の情報と関係情報i-4とに基づいて、その対象軸受装置に付与されている予圧を取得する。
【0063】
本実施形態の予圧取得方法では、準備工程S21において、予圧を付与した状態にある基準軸受装置に軸方向の追加荷重を付与し、電気的情報としてインピーダンス値を計測し、データセットを複数について取得する。これらデータセットに倣う予測線情報(
図12、第二直線f2)を生成し、それを用いて関係情報i-4を取得する。基準軸受装置では、すでに、端部16dの加締めが終えられているため、軸本体16aに外嵌する内輪17に滑りが生じず、より正確な関係情報i-4が得られる。その関係情報i-4を用いることで、対象軸受装置の予圧をより正確に取得することが可能となる。
【0064】
ここで、比較例の方法として、予圧を付与する前(加締め前)の状態にある軸受装置に対して、例えば内軸16の端部16dを加締めて予圧を付与しながらインピーダンスの値を取得し、これに基づいて、インピーダンス値と予圧との検量線(関係情報)を取得する方法が考えられる。その検量線を用いることで、対象軸受装置の予圧を取得することが可能である。
しかし、この比較例の場合、加締めの際に例えば軸本体16aに外嵌する内輪17に滑りが生じ、加締めによる荷重のすべてが予圧に反映されるとは限らず、取得される検量線の正確性が低くなる可能性がある。これは、インピーダンス値の取得を、端部16dを加締めて内輪17を押圧し変位させて予圧を付与しながら行うと、その加締めによる荷重が、軸受装置の予圧の他に、内輪17と内軸16の小径部16cとの間の摩擦力にもなり、軸方向の荷重と予圧との関係が明らかではないためである。
【0065】
しかし、本実施形態の予圧取得方法では、すでに端部16dの加締め加工が完了している軸受装置10に対して、追加的に軸方向荷重を付与する。このために、前記比較例よりも正確な検量線として、関係情報i-4が得られる。
【0066】
また、本実施形態では、準備工程S21に、予備計測工程S212が含まれる。予備計測工程S212では、軸受装置10に予圧を付与する前(加締め前)の状態にある基準軸受装置のインピーダンス値の情報として、付与前電気的情報(前記「α(mΩ))を計測する。そして、処理工程S214で、予測線情報(
図12、第二直線f2)を、前記付与前電気的情報に基づいて変換して、変換予測線情報(
図13、第一検量線f3)を生成し、その変換予測線情報を用いて関係情報i-を取得する。この場合、
図12と
図13とを比較して明らかなように、追加荷重とインピーダンスの値との関係を整理することが可能となり、その結果、対象軸受装置の予圧を正確に取得し易くなる。
【0067】
以上の予圧取得方法が検査工程S2に含まれることで、軸受装置10の製造工程において、予圧の管理は正確となり、安定した品質の軸受装置10が得られる。
【0068】
さらに、
図9に示すように、軸受装置10に付与する軸方向の荷重と予圧との関係が線形関係である。この線形関係を用いることで、必要な予圧を軸受装置10に付与するために必要となる軸方向の荷重を求めることが可能となる。つまり、加締めを行うための加締め装置30の出力(加締め力設定値)を決定することも可能となる。
【0069】
〔その他〕
前記実施形態では、外輪11と内軸部材12との間のインピーダンスを計測し、そのインピーダンスの計測結果に基づいて関係情報i-4を取得し、そして、対象軸受装置の予圧を求める場合を例示した。しかし、これ以外として、外輪11と内軸部材12との間のリアクタンスを計測し、そのリアクタンスの計測結果に基づいて関係情報を取得し、そして、対象軸受装置の予圧を求めてもよい。リアクタンスと予圧とに相関があることから、この場合においても、インピーダンスと同様、軸受装置10の予圧を精度よく取得することが可能となる。
【0070】
前記実施形態では、軸受装置10に予圧を付与する手段として、内軸16の端部16dを加締める場合について説明したが、それ以外として、図示しないが、軸本体16aの端部に締め付けて取り付けるナットなどの締結部材によって、軸受装置10に予圧が付与されてもよい。
【0071】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0072】
10 軸受装置
11 外輪(外方部材)
11b 外側軌道(軌道面)
12 内軸部材(内方部材)
13 玉(転動体)
16a 軸本体
16d 端部
16e 内側軌道(軌道面)
17 内輪
17e 内輪軌道(軌道面)
i-4 関係情報
S21 準備工程
S22 取得工程
S211 計測工程
S212 予備計測工程
S213 参照計測工程
S214 処理工程