(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077650
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】双ドラム式連続鋳造装置、および、薄肉鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/06 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
B22D11/06 330B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190997
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴士
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】金川 浩太
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 雅文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 浩太
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004DA13
4E004NC01
4E004QA08
4E004SC05
4E004SC07
4E004SE08
(57)【要約】
【課題】薄肉鋳片の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生を抑制でき、厚みの均一な薄肉鋳片を安定して製造可能な双ドラム式連続鋳造装置を提供する。
【解決手段】冷却ドラムのドラムキス点に位置する回転角度位置を取得する回転角度位置取得手段と、冷却ドラムの所定の回転角度位置の間隔の前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定手段と、冷却ドラムを所定回数回転させた際の前記薄肉鋳片厚み測定手段で測定された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算手段と、前記薄肉鋳片平均厚み演算手段で算出された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算手段と、前記薄肉鋳片厚み偏差演算手段で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム間の距離を調整するドラム位置調整手段と、を備えている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、前記冷却ドラムの周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合して圧下し、薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置であって、
前記冷却ドラムの回転角度位置を取得する回転角度位置取得手段と、
前記冷却ドラムの所定の回転角度位置の間隔の前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定手段と、
前記冷却ドラムを所定回数回転させた際の前記薄肉鋳片厚み測定手段で測定された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算手段と、
前記薄肉鋳片平均厚み演算手段で算出された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算手段と、
前記薄肉鋳片厚み偏差演算手段で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム間の距離を調整するドラム位置調整手段と、
を備えていることを特徴とする双ドラム式連続鋳造装置。
【請求項2】
前記冷却ドラムの回転方向の基準位置が前記ドラムキス点に到達した際にパルス信号を発生させるパルス信号発生手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の双ドラム式連続鋳造装置。
【請求項3】
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、前記冷却ドラムの周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合して圧下し、薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記冷却ドラムの回転角度位置を取得する回転角度位置取得工程と、
前記冷却ドラムの所定の回転角度位置の間隔の前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定工程と、
前記冷却ドラムを所定回数回転させた際の前記薄肉鋳片厚み測定工程で測定された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算工程と、
前記薄肉鋳片平均厚み演算工程で算出された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算工程と、
前記薄肉鋳片厚み偏差演算工程で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム間の距離を調整するドラム位置調整工程と、
を備えていることを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【請求項4】
前記冷却ドラムの回転方向の基準位置が前記ドラムキス点に到達した際にパルス信号を発生させ、前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得することを特徴とする請求項3に記載の薄肉鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、前記冷却ドラムの周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合して圧下し、薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置、および、薄肉鋳片の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する方法として、例えば、特許文献1、2に示すように、内部に水冷構造を有する冷却ドラムを備え、回転する一対の冷却ドラム間に形成された溶融金属溜まり部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、一対の冷却ドラムの周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合し、圧下して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法が提供されている。このような双ドラム式連続鋳造装置を用いた製造方法は、各種金属において適用されている。
【0003】
ここで、双ドラム式連続鋳造装置には、薄肉鋳片の厚みを変更するために、一対の冷却ドラムを前記薄肉鋳片の板面と直交する方向に移動させて間隔を調整するドラム位置調整手段が設けられている。
例えば特許文献1には、相対する一対の冷却ドラムの平行度を保つために、冷却ドラムの軸方向の両端にそれぞれ油圧シリンダを配設し、これらの油圧シリンダを個別に位置制御しつつ、常に同量だけ移動させる構造が開示されている。
【0004】
また、双ドラム式連続鋳造装置においては、鋳造開始時には、冷却ドラムを停止した状態で溶融金属プール部に溶融金属を供給していることから、冷却ドラムのうち溶融金属と接触する部位は、局所的に加熱されて熱膨張し、熱膨張部が形成される。一方、溶融金属と接触していない部位は、熱膨張しておらず、前記熱膨張部との間には冷却ドラム回転軸中心からドラム表面までの半径方向の距離に差が生じる。
そこで、特許文献3には、鋳造開始時において、熱膨張部に対応して一対の冷却ドラムの圧力制御を行う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01-166863号公報
【特許文献2】特開平05-228586号公報
【特許文献3】特開2018-176251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、製造する薄肉鋳片の厚みの変動を抑制するためには、冷却ドラム間の距離を一定に保持することが有効であり、冷却ドラム位置を決めるシリンダの位置を固定(ギャップ一定制御)して鋳造する。そして、速やかにオンライン板厚計のデータを基にシリンダの位置を微修正することにより、目的とする厚みの薄肉鋳片を得ることができる。
【0007】
しかしながら、ギャップ一定制御を行っても、薄肉鋳片の鋳造方向においてドラム1回転周期の厚みの変動が発生することがあった。
この原因としては、上述した鋳造開始時の熱膨張部の生成、および、冷却ドラムの偏心が考えられる。
しかしながら、冷却ドラムの偏心をさらに小さくすることは、機械加工上の困難度が増し、現実的でなかった。
【0008】
また、停止したドラム間に注湯してから鋳造(ドラム回転)を開始する方法いわゆるダミーシート方式の場合、熱膨張部の発生を抑制することはできない。
なお、冷却ドラムを定常条件で回転させた状態で注湯を開始する方法は、薄肉鋳片を安定して搬送することができず、安定して鋳造を開始できないおそれがあった。
【0009】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、薄肉鋳片の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生を抑制でき、厚みの均一な薄肉鋳片を安定して製造することが可能な双ドラム式連続鋳造装置、および、薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明に係る双ドラム式連続鋳造装置は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、前記冷却ドラムの周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合して圧下し、薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置であって、前記冷却ドラムの前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得する回転角度位置取得手段と、前記冷却ドラムの所定の回転角度位置の間隔の前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定手段と、前記冷却ドラムを所定回数回転させた際の前記薄肉鋳片厚み測定手段で測定された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算手段と、前記薄肉鋳片平均厚み演算手段で算出された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算手段と、前記薄肉鋳片厚み偏差演算手段で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム間の距離を調整するドラム位置調整手段と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
上述の構成の双ドラム式連続鋳造装置によれば、前記冷却ドラムの前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得する回転角度位置取得手段と、前記冷却ドラムの所定の回転角度位置の間隔の前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定手段と、前記冷却ドラムを所定回数回転させた際の前記薄肉鋳片厚み測定手段で測定された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算手段を備えているので、冷却ドラムの偏心や局所的な熱膨張に起因した薄肉鋳片の厚みの変動を精度良く把握することができる。
そして、前記薄肉鋳片平均厚み演算手段で算出された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算手段と、前記薄肉鋳片厚み偏差演算手段で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム間の距離を調整するドラム位置調整手段を備えているので、薄肉鋳片の厚さが目標値となるように一対の冷却ドラム間の距離の調整(ギャップ調整)を行うことができ、薄肉鋳片の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生を抑制することができる。
【0012】
ここで、本発明の双ドラム式連続鋳造装置においては、前記冷却ドラムの回転方向の基準位置が前記ドラムキス点に到達した際にパルス信号を発生させるパルス信号発生手段を備えていることが好ましい。
この場合、前記冷却ドラムの回転方向の基準位置が前記ドラムキス点に到達した際にパルス信号を発生させ、前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得する構成としているので、前記冷却ドラムの前記ドラムキス点に位置する回転角度位置における薄肉鋳片の厚みを精度良く測定することができる。
【0013】
本発明に係る薄肉鋳片の製造方法は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶融金属プール部に溶融金属を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成・成長させ、前記冷却ドラムの周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で接合して圧下し、薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、前記冷却ドラムの前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得する回転角度位置取得工程と、前記冷却ドラムの所定の回転角度位置の間隔の前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定工程と、前記冷却ドラムを所定回数回転させた際の前記薄肉鋳片厚み測定工程で測定された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算工程と、前記薄肉鋳片平均厚み演算工程で算出された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算工程と、前記薄肉鋳片厚み偏差演算工程で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム間の距離を調整するドラム位置調整工程と、を備えていることを特徴としている。
【0014】
上述の構成の薄肉鋳片の製造方法によれば、前記冷却ドラムの前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得する回転角度位置取得工程と、前記冷却ドラムの所定の回転角度位置の間隔の前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定工程と、前記冷却ドラムを所定回数回転させた際の前記薄肉鋳片厚み測定工程で測定された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算工程を備えているので、冷却ドラムの偏心や局所的な熱膨張に起因した薄肉鋳片の厚みの変動を精度良く把握することができる。
そして、前記薄肉鋳片平均厚み演算工程で算出された前記回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算工程と、前記薄肉鋳片厚み偏差演算工程で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム間の距離を調整するドラム位置調整工程を備えているので、薄肉鋳片の厚さが目標値となるように一対の冷却ドラム間の距離の調整(ギャップ調整)を行うことができ、薄肉鋳片の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生を抑制することができる。
【0015】
ここで、本発明の薄肉鋳片の製造方法においては、前記冷却ドラムの回転方向の基準位置が前記ドラムキス点に到達した際にパルス信号を発生させ、前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得することが好ましい。
この場合、前記冷却ドラムの回転方向の基準位置が前記ドラムキス点に到達した際にパルス信号を発生させ、前記ドラムキス点に位置する回転角度位置を取得する構成としているので、前記冷却ドラムの前記ドラムキス点に位置する回転角度位置における薄肉鋳片の厚みを精度良く測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
上述のように、本発明によれば、薄肉鋳片の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生を抑制でき、厚みの均一な薄肉鋳片を安定して製造することが可能な双ドラム式連続鋳造装置、および、薄肉鋳片の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態である双ドラム式連続鋳造装置の説明図である。
【
図2】
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置の一部拡大説明図である。
【
図3】本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法における冷却ドラムのギャップ調整のフロー図である。
【
図4】冷却ドラムのドラムキス点に位置する回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの測定結果を示すグラフである。
【
図5】冷却ドラムのドラムキス点に位置する回転角度位置に対応する薄肉鋳片の平均厚みと目標厚みとの偏差を示すグラフである。
【
図6】冷却ドラムのギャップ調整状態を示すグラフである。
【
図7】冷却ドラムのギャップ調整後における冷却ドラムのドラムキス点に位置する回転角度位置に対応する薄肉鋳片の厚みの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態である双ドラム式連続鋳造装置、および、薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
ここで、本実施形態では、溶融金属として溶鋼を用いており、鋼材からなる薄肉鋳片1を製造するものとされている。また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が200mm以上1800mm以下の範囲内、厚さが0.8mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0019】
本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10は、
図1に示すように、一対の冷却ドラム11(11a、11b)と、冷却ドラム11の下方側に製出された薄肉鋳片1の進行方向を略水平方向に向けて湾曲させる湾曲部18と、薄肉鋳片1を略水平方向に搬送する搬送部20を備えている。
なお、本実施形態では、湾曲部18は、冷却ドラム11の下方側に製出された薄肉鋳片1をそのまま湾曲させて搬送部20へと接続する「湾曲形」とされている。
【0020】
そして、本実施形態においては、一対の冷却ドラム11(11a、11b)のうち、一方の冷却ドラム11aが移動側ドラム、他方の冷却ドラム11bが固定側ドラムとされている。
ここで、一方の冷却ドラム11a(移動側ドラム)に一対の冷却ドラムの間の距離(ドラムギャップ)を調整する位置調整シリンダ31が配設されている。また、他方の冷却ドラム11b(固定側ドラム)に圧力計32が配設されている。
【0021】
本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10においては、
図2に示すように、一対の冷却ドラム11(11a,11b)の幅方向端部にサイド堰(図示なし)が配設され、一対の冷却ドラム11(11a,11b)とサイド堰とによって溶鋼プール部13が形成されている。
一対の冷却ドラム11(11a,11b)の上方には、溶鋼プール部13に供給される溶鋼5を保持するタンディッシュ14と、このタンディッシュ14から溶鋼プール部13へと溶鋼5を供給する浸漬ノズル15と、が配置されている。
【0022】
また、本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10においては、
図1に示すように、搬送部20には、薄肉鋳片1を上下方向に挟持するピンチロール21,22と、薄肉鋳片1を圧下する圧延機25と、を備えている。
さらに、本実施形態では、
図1に示すように、圧延機25の入側には、薄肉鋳片1の厚みを測定するオンライン板厚計27が配設されている。
【0023】
そして、本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10においては、冷却ドラム11のドラムキス点Pに位置する回転角度位置を取得する回転角度位置取得手段41と、冷却ドラム11の所定の回転角度位置の間隔の回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の厚みを測定する薄肉鋳片厚み測定手段42と、冷却ドラム11を所定回数回転させた際の薄肉鋳片厚み測定手段42で測定された回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の厚みの平均値を算出する薄肉鋳片平均厚み演算手段43と、薄肉鋳片平均厚み演算手段43で算出された回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する薄肉鋳片厚み偏差演算手段44と、薄肉鋳片厚み偏差演算手段44で算出された目標厚みとの偏差に応じて一対の冷却ドラム11(11a,11b)間の距離を調整するドラム位置調整手段45と、を備えている。
【0024】
本実施形態では、薄肉鋳片厚み測定手段42としてオンライン板厚計27を有しており、ドラム位置調整手段45として位置調整シリンダ31を有している。
また、薄肉鋳片厚み測定手段42(オンライン板厚計27)においては、パルス信号発生手段46によって、冷却ドラム11の回転方向の基準位置がドラムキス点Pに到達した際にパルス信号を発生させることにより、冷却ドラム11の所定の回転角度位置の間隔の回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の厚みを測定する構成とされている。
【0025】
次に、上述した双ドラム式連続鋳造装置10を用いた薄肉鋳片1の製造方法について説明する。
【0026】
図2に示すように、一対の冷却ドラム11(11a,11b)とサイド堰によって形成された溶鋼プール部13に、タンディッシュ14から浸漬ノズル15を介して溶鋼5を供給するとともに、一対の冷却ドラム11(11a,11b)を回転方向Rに向けて、すなわち、一対の冷却ドラム11(11a,11b)同士が近接する領域が薄肉鋳片1の引抜方向(
図1においては下方向)に向かうように、それぞれの冷却ドラム11(11a,11b)を回転させる。
【0027】
すると、溶鋼5が回転する冷却ドラム11(11a,11b)に接触して冷却されることにより、冷却ドラム11(11a,11b)の周面の上で凝固シェル7、7が成長し、一対の冷却ドラム11(11a,11b)にそれぞれ形成された凝固シェル7、7同士がドラムキス点Pで圧着されることによって、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0028】
ここで、本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10においては、上述の双ドラム式連続鋳造装置10において鋳造開始時には、一対の冷却ドラム11(11a,11b)が停止した状態で、冷却ドラム11(11a,11b)の間にダミーシート(図示なし)が挿入され、溶鋼プール部13に向けて溶鋼5が供給される。このとき、冷却ドラム11(11a,11b)の溶鋼プール部13に向く部分のみが加熱され、局所的に熱膨張することになる。
また、冷却ドラム11(11a,11b)には、加工精度によって偏心が生じることがある。
【0029】
上述の冷却ドラム11の局所的な熱膨張や偏心に起因して、製造される薄肉鋳片1には、鋳造方向に冷却ドラム11の1回転周期の厚み変動が生じることがある。
そこで、本実施形態である薄肉鋳片1の製造方法においては、
図3のフロー図に示すように、一対の冷却ドラム11(11a,11b)の間の距離(ドラムギャップ)の制御を行う。
【0030】
(回転角度位置取得工程S01)
まず、回転角度位置取得手段により、冷却ドラム11の回転角度位置を取得する。本実施形態では、冷却ドラム11の回転方向の基準位置がドラムキス点Pに到達した際に、パルス信号発生手段46からパルス信号を発生させ、ドラムキス点Pに位置する回転角度位置を取得する構成とされている。
【0031】
(薄肉鋳片厚み測定工程S02)
次に、冷却ドラム11の所定の回転角度位置の間隔の回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の厚みを、薄肉鋳片厚み測定手段42(オンライン板厚計27)を用いて測定する。なお、薄肉鋳片1の幅端部においては外乱によって厚みが変動しやすいため、薄肉鋳片1の厚みは、幅端部から50mm以上内側の部分で測定することが好ましい。本実施形態では、薄肉鋳片1の幅中央部で厚みを測定している。
ここで、薄肉鋳片1の厚みを測定する回転角度位置の間隔は、5°以上45°以下の範囲内とすることが好ましい。
【0032】
(薄肉鋳片平均厚み演算工程S03)
次に、薄肉鋳片平均厚み演算手段43を用いて、冷却ドラム11を所定回数回転させた際の薄肉鋳片厚み測定工程S02で測定された回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の厚みの平均値を算出する。
ここで、平均値を算出する際の冷却ドラム11の所定回転数は、5回以上10回以下の範囲内とすることが好ましい。
【0033】
(薄肉鋳片厚み偏差演算工程S04)
次に、薄肉鋳片厚み偏差演算手段44を用いて、薄肉鋳片平均厚み演算工程S03で算出された回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出する。
【0034】
(ドラム位置調整工程S05)
そして、ドラム位置調整手段45(位置調整シリンダ31)を用いて、薄肉鋳片厚み偏差演算工程S04で算出された目標厚みとの偏差に応じて、一対の冷却ドラム11(11a,11b)の間の距離(ドラムギャップ)を調整する。
【0035】
上述の回転角度位置取得工程S01、薄肉鋳片厚み測定工程S02、薄肉鋳片平均厚み演算工程S03、薄肉鋳片厚み偏差演算工程S04、ドラム位置調整工程S05を繰り返し実施することにより、製造される薄肉鋳片1において、鋳造方向における冷却ドラム11の1回転周期の厚み変動を抑制する。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10、および、薄肉鋳片1の製造方法によれば、冷却ドラム11のドラムキス点Pに位置する回転角度位置を取得し、冷却ドラム11の所定の回転角度位置の間隔の回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の厚みを測定し、冷却ドラム11を所定回数回転させた際の回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の厚みの平均値を算出しているので、冷却ドラム11の偏心や局所的な熱膨張に起因した薄肉鋳片1の厚みの変動を精度良く把握することができる。
【0037】
そして、回転角度位置に対応する薄肉鋳片1の平均厚みと目標厚みとの偏差を算出し、この偏差に応じて、一対の冷却ドラム11(11a,11b)間の距離(ドラムギャップ)を調整する構成としているので、薄肉鋳片1の厚さが目標値となるように一対の冷却ドラム11(11a,11b)間の距離の調整(ギャップ調整)を行うことができ、薄肉鋳片1の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生を抑制することができる。
【0038】
本実施形態において、冷却ドラム11の回転方向の基準位置がドラムキス点Pに到達した際にパルス信号を発生させ、ドラムキス点Pに位置する回転角度位置を取得する構成とした場合には、冷却ドラム11のドラムキス点Pに位置する回転角度位置における薄肉鋳片1の厚みの測定を精度良く測定することができる。よって、薄肉鋳片1の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生をさらに抑制することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態である本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10、および、薄肉鋳片1の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これに限定されることはない。
【実施例0040】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
図1に示す双ドラム式連続鋳造装置を用いて、以下の鋳造条件によって、薄肉鋳片の製造を実施した。
鋼種:低炭素鋼(炭素濃度:0.4質量%)
ドラムサイズ:幅400mm、直径600mm
ドラム反力:2tonf
鋳片サイズ:目標厚み1.8mm×幅400mm×長さ100m目標
溶鋼量:500kg
【0041】
そして、本実施形態に示すように、冷却ドラムのギャップ調整を実施した。ここで、薄肉鋳片1の厚みを測定する回転角度位置の間隔は10°(ドラム1回転で36回データサンプリング)、平均値を算出する際の冷却ドラムの所定回転数は5回とした。
なお、鋳片の厚みは中央で(鋳片幅方向位置)で 測定した。
【0042】
回転角度位置取得工程S01、薄肉鋳片厚み測定工程S02によって、
図4に示す冷却ドラムの回転角度位置と薄肉鋳片の幅中央部の関係を得た。
図4に示すように、冷却ドラムの1回転周期の厚み変動が認められる。
次に、薄肉鋳片平均厚み演算工程S03および薄肉鋳片厚み偏差演算工程S04によって、
図5に示す目標厚みと薄肉鋳片の平均厚みとの偏差を求めた。
そして、この偏差に応じて、ドラム位置調整工程S05によって、
図6に示すように、ドラムギャップの調整を行った。
その結果、
図7に示すように、冷却ドラムの1回転周期の厚み変動を抑えることができた。
【0043】
以上の実験結果から、本発明によれば、薄肉鋳片の鋳造方向におけるドラム1回転周期の厚みの変動の発生を抑制でき、厚みの均一な薄肉鋳片を安定して製造することが可能な双ドラム式連続鋳造装置、および、薄肉鋳片の製造方法を提供可能であることが確認された。