IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2023-77662高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法
<>
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図1
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図2
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図3A
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図3B
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図4
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図5A
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図5B
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図6
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図7A
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図7B
  • 特開-高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法 図7C
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077662
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/68 20060101AFI20230530BHJP
   H01B 12/02 20060101ALI20230530BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20230530BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20230530BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
H01R4/68
H01B12/02
H01R4/02 Z
H01F6/06 140
H01F6/06 150
H01R43/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191010
(22)【出願日】2021-11-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 令和2年12月3日公開 公益社団法人 低温工学・超電導学会発行 第100回2020年度秋季低温工学・超電導学会の講演概要集(https://www.csj.or.jp/conference/2020a/index.html) (2) 令和2年12月9日開催 公益社団法人 低温工学・超電導学会主催 第100回2020年度秋季低温工学・超電導学会(https://www.csj.or.jp/conference/2020a/index.html) (3) 令和3年9月16日公開 公益社団法人 低温工学・超電導学会発行 the 27th International Conference on Magnet Technology(MT27)の予稿集 (4) 令和3年11月15~19日開催 公益社団法人 低温工学・超電導学会主催 the 27th International Conference on Magnet Technology(MT27) 福岡国際会議場(福岡県福岡市博多区石城町2-1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】井上 和朗
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
【テーマコード(参考)】
5E051
5E085
5G321
【Fターム(参考)】
5E051KA01
5E051KB01
5E085CC03
5E085DD01
5E085HH01
5E085JJ03
5G321AA05
5G321AA12
5G321BA03
5G321BA06
(57)【要約】
【課題】高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材とを接続するにあたり、接合長が短くて済み、接合抵抗として、例えば1x10-10Ω以下を実現する。
【解決手段】高温酸化物超伝導線材として、BiSrCaCu10(以下、Bi2223と表記する)線材を準備し、金属系低温超伝導線材として、NbTi線材を準備し、高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の接合材料として、鉛-ビスマス2元系合金を準備すると共に、鉛-ビスマス2元系合金の組成割合は、質量%で、鉛:40%から60%、残部をビスマス及び不可避的不純物とし、高温酸化物超伝導線材よりなる超伝導線材の端部と、金属系低温超伝導線材よりなる超伝導線材の端部を溶融状態にある前記鉛-ビスマス2元系合金の中で一定時間、浸漬後、冷却して固化し、然して、前記鉛-ビスマス2元系合金を介して高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材が接続される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法であって、
前記高温酸化物超伝導線材として、BiSrCaCu10線材を準備し、
前記金属系低温超伝導線材として、NbTi線材を準備し、
前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材の接合材料として、鉛-ビスマス2元系合金を準備すると共に、前記鉛-ビスマス2元系合金の組成割合は、質量%で、鉛:40%から60%、残部をビスマス及び不可避的不純物とし、
前記高温酸化物超伝導線材よりなる超伝導線材の端部と、前記金属系低温超伝導線材よりなる超伝導線材の端部を溶融状態にある前記鉛-ビスマス2元系合金の中で一定時間、浸漬後、冷却して固化し、
然して、前記鉛-ビスマス2元系合金を介して前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材が接続されること、
を特徴とする高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項2】
前記鉛-ビスマス2元系合金の溶融状態での温度は210℃以下である請求項1に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項3】
前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材の接合長さは60cm以下であり、
前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材の接合抵抗は10-10Ω以下である請求項1又は2に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項4】
前記鉛-ビスマス2元系合金の組成割合は、質量%で、鉛:50%、残部をビスマス及び不可避的不純物とする請求項1乃至3の何れかに記載の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法。
【請求項5】
高温酸化物超伝導線材よりなる超伝導線材の端部と、金属系低温超伝導線材よりなる超伝導線材の端部を接合材料を介して接合する超伝導線材接合構造であって、
前記高温酸化物超伝導線材はBiSrCaCu10線材であり、
前記金属系低温超伝導線材はNbTi線材であり、
前記接合材料は、鉛-ビスマス2元系合金であって、前記鉛-ビスマス2元系合金の組成割合は、質量%で、鉛:40%から60%、残部をビスマス及び不可避的不純物とする、
超伝導線材接合構造。
【請求項6】
請求項5に記載の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超伝導線材接合構造を用いたNMR、MRI、又は超伝導輸送機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材のハイブリッド型超低抵抗接続構造及びその接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NMRや医療用MRIでは、超伝導線材材料としてNbTi(ニオブチタン)の超伝導マグネットが使用されており、生成磁場が0.5Tから3T程度である。しかし、NMRやMRIにおいて、例えば20T以上の高磁場を生成する場合は、金属系低温超伝導線材(NbTi、NbSn)と高温酸化物超伝導線材(レアアース系超伝導体、ビスマス系超伝導体)を組み合わせて使用されている。特に、高磁場を生成する超伝導マグネットを永久電流運転モードで動作させるための解決策の一つとして、金属系低温超伝導線材と高温酸化物超伝導線材の異種超伝導線材間の接合が必要である。
【0003】
金属系低温超伝導線材同士を接合する場合には、低融点のはんだ系低融点超伝導材料を介在させるのが一般的であり、抵抗ゼロの超伝導接合を実現している。金属系低温超伝導線材と高温酸化物超伝導線材を接合する場合、従来技術のはんだ系低融点超伝導材料で接合しても、抵抗ゼロの超伝導接合を実現できていない(例えば非特許文献2参照)。
代替技術として、レアアース系超伝導線材の場合、特許文献1では、常伝導接合を採用して、接合面積(接合長さ)を大きくすることで、永久電流運転可能とされる抵抗値まで下げる手法が開発された。しかしながら、接合長さが非常に長くなり、省スペース化のために、線材を巻き上げるなどの複雑な構造を必要とする。
ビスマス系超伝導線材の場合、特許文献2や非特許文献1、3では、スズ含有はんだにビスマス系超伝導線材を挿入して接合する方法を提案している。しかし、接合抵抗が9×10-9Ωで、NMR等の永久電流モードで使用可能な超伝導線材接合を実現することができなかった。
【0004】
特許文献3では、実施例としてBiSrCaCu(Bi2212)が開示されており、接合長さ3cmで、接合抵抗が10-10Ω以下を達成している。Bi2212線材を利用したNMR用超伝導マグネットの開発は、主にアメリカで行われている。
他方で、日本ではBiSrCaCu10(以下、Bi2223と表記する)線材を採用しており、特許文献3の構成をそのまま適用したのでは、永久電流運転可能とされる抵抗値まで下げることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-535431号公報
【特許文献2】特開2018-129294号公報
【特許文献3】特開2001-283660号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Physics Express 10,093102(2017). doi:10.7567/APEX.10.093102
【非特許文献2】Nobuya Banno et al “A new concept for developing a compact joint structure for reducing joint resistance between high-temperature superconductors (HTS) and low-temperature superconductors (LTS)”, 2020 Supercond. Sci. Technol. 33 115015
【非特許文献3】井上和朗 他、『Bi-Pb-Snはんだを利用したBi2223線材とNbTi線材の超伝導接合』、第98回 2019年度春季低温工学・超電導学会 2P―p09
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決したもので、金属系低温超伝導線材と高温酸化物超伝導線材間の接続において、1GHz超級NMR用30T超伝導マグネットを永久電流モードで運転可能にするのに十分低い接合抵抗(具体的には、10-10Ω以下)を有する接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法は、
前記高温酸化物超伝導線材として、BiSrCaCu10線材を準備し、
前記金属系低温超伝導線材として、NbTi線材を準備し、
前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材の接合材料として、鉛-ビスマス2元系合金を準備すると共に、前記鉛-ビスマス2元系合金の組成割合は、質量%で、鉛:40%から60%、残部をビスマス及び不可避的不純物とし、
前記高温酸化物超伝導線材よりなる超伝導線材の端部と、前記金属系低温超伝導線材よりなる超伝導線材の端部を溶融状態にある前記鉛-ビスマス2元系合金の中で一定時間、浸漬後、冷却して固化し、
然して、前記鉛-ビスマス2元系合金を介して前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材が接続されることを特徴とする。
【0009】
〔2〕本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕において、好ましくは、鉛-ビスマス2元系合金の溶融状態での温度は210℃以下であるとよい。
〔3〕本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕または〔2〕において、好ましくは、前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材の接合長さは60cm以下であり、前記高温酸化物超伝導線材と前記金属系低温超伝導線材の接合抵抗は10-10Ω以下であるとよい。
〔4〕本発明の高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法〔1〕~〔3〕において、好ましくは、前記鉛-ビスマス2元系合金の組成割合は、質量%で、鉛:50%、残部をビスマス及び不可避的不純物とするとよい。
【0010】
〔5〕本発明の超伝導線材接合構造は、高温酸化物超伝導線材よりなる超伝導線材の端部と、金属系低温超伝導線材よりなる超伝導線材の端部を接合材料を介して接合する超伝導線材接合構造であって、
前記高温酸化物超伝導線材はBiSrCaCu10線材であり、
前記金属系低温超伝導線材はNbTi線材であり、
前記接合材料は、鉛-ビスマス2元系合金であって、前記鉛-ビスマス2元系合金の組成割合は、質量%で、鉛:40%から60%、残部をビスマス及び不可避的不純物とする。
〔6〕本発明のNMR、MRI、又は超伝導輸送機器は、高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超伝導線材接合構造〔5〕を用いることを特徴としている。
【0011】
このように構成された高温酸化物超伝導線材と金属系低温超伝導線材の超低抵抗接続方法およびその構造によれば、次のように作用する。
[1]NbTi金属系低温超伝導線材よりなる超伝導線材の端部と接合材である鉛-ビスマス系合金超伝導材料は、超伝導接合であり、電気抵抗ゼロで接合界面を電流が流れる。
[2]Bi2223よりなる超伝導線材の端部と接合材である鉛-ビスマス系合金超伝導材料は、常伝導接合であり、接合界面でオーム抵抗が発生する。
[3]従って、本発明の超伝導線材接合構造は、上記2種の超伝導線材をはんだ系接合材料を介して、超伝導接合と常伝導接合を直列に接続したハイブリッド(複合)型を特徴としている。
【0012】
NMR等で使用される超伝導マグネットの永久電流モードで使用可能な超低抵抗を実現するためには、この常伝導接合部のオーム抵抗を極小化する必要があり、その方法を見出した。即ち、本発明の超伝導線材ハイブリッド型接合構造において、接合材の鉛-ビスマス合金の組成割合の最適化、鉛-ビスマス合金の溶融温度の低温化及び接合長さの長尺化により接合抵抗を大幅に抑制した。その結果、1GHz超級NMR用30T超伝導マグネットの永久電流運転モードで使用可能な超低抵抗(10-10Ω以下)の超伝導線材接合構造を実現した。
特に、接合長さの長尺化が重要なプロセスであり、Bi2223よりなる超伝導線材と接合材である鉛-ビスマス系合金超伝導材料の接合抵抗は、接合長さと逆比例の関係がある。接合長さ36cm以上でオーム抵抗が10-10Ω以下の超低抵抗となり、1GHz超級NMR用30T超伝導マグネットで永久電流運転モードが使用可能な接続が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のビスマス系高温酸化物超伝導線材とNbTi系低温超伝導線材間のハイブリッド型接合構造において、接合抵抗を10-10Ω以下の超低抵抗に低減することに成功した。その結果、1GHz超級のNMR用30T超伝導マグネットの永久電流運転モードで十分使用可能な超伝導線材接合構造を実現した。
1GHz超級のNMRが運用され普及拡大すれば、タンパク質の詳細な分析など、医療、製薬及び物質科学の分野の発展に大いに貢献できる。また、NMRやMRI以外の他用途の高磁場超伝導マグネットを永久電流運転モードで使用可能になるなどの様々な応用が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態を示す超伝導線材ハイブリッド型接合構造の構成図である。
図2】本発明で開発した手法で実際に作製した超伝導線材ハイブリッド型接合部の写真である。
図3A】本発明の超伝導線材接合構造のミクロ組織を説明する図で、Bi2223超伝導線材と接合材である鉛-ビスマス系はんだ合金の接合界面を説明している。
図3B】本発明の超伝導線材接合構造のミクロ組織を説明する図で、NbTi線材と接合材である鉛-ビスマス系はんだ合金の接合界面を説明している。
図4】本発明の一実施形態を示す、超伝導線材ハイブリッド型接合部の接合抵抗と接合長さの逆比例の関係を示す図である。
図5A】本発明の一実施例を示すBi2223線材をリング状に巻いて接合する場合の構成図である。
図5B】実際に作製したリング型接合試料の写真である。
図6】接合熱処理温度と接合抵抗の関係を示す図である。
図7A】Bi2223超伝導線材と接合材の鉛-ビスマス合金の界面付近のSEM像で、接合熱処理温度160℃である。
図7B】Bi2223超伝導線材と接合材の鉛-ビスマス合金の界面付近のSEM像で、接合熱処理温度260℃である。
図7C】Bi2223超伝導線材と接合材の鉛-ビスマス合金の界面付近のSEM像で、接合熱処理温度310℃である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の実施形態を示す超伝導線材ハイブリッド型接合構造の構成図である。
図1に示す実施例では、高温酸化物超伝導線材としてBi2223線材、金属系低温超伝導線材としてNbTi線材を接合材を使用して接合した。接合材のはんだ系低融点超伝導材料には、鉛-ビスマス合金(Pb-50wt%Bi)を用いた。
【0016】
このように構成された超伝導線材ハイブリッド型接合構造の製造工程は以下の如くである。
[1]住友電工製DI-BSCCO Type HTシリーズのBi2223線材を使用する場合、予め補強材料を除去することが望ましい。
[2]NbTi線材は、銅シースを予め除去することが望ましい。
[3][1]及び[2]の工程で前処理されたBi2223線材とNbTi線材を、溶融状態の鉛-ビスマスはんだ合金に浸漬して、所定時間保持した後、冷却して固化することで超伝導線材とはんだ合金が強固に接合する。
【0017】
図2に作製した超伝導線材接合部を示す。
図3は、本発明の超伝導線材接合構造のミクロ組織を説明する図で、図3Aは、Bi2223超伝導線材と接合材である鉛-ビスマス系はんだ合金の接合界面を説明している。接合界面には、Bi2223超伝導線材の周囲に銀シースが存在し、これを介して電流が流れるため、常伝導接合であり接合界面でオーム抵抗が発生する。図3Bは、NbTi線材と接合材である鉛-ビスマス系はんだ合金の接合界面を説明している。NbTi線材と鉛-ビスマス系はんだ合金が直接的に接合しており、超伝導接合を形成する。
はんだ溶融状態の温度は、はんだ合金の融点以上で210℃以下の範囲で接合すると、接合抵抗を低減できる効果がある。
【0018】
接合材である鉛-ビスマスはんだ合金の鉛とビスマスの組成割合は、質量%で、鉛40%から60%:ビスマス60%から40%の割合がよく、鉛ビスマス2元系の共焦点の組成付近(Pb-50wt%Bi)が好ましい。不可避的不純物は鉛やビスマスの原料に含有される第3の元素を含むものであり、純度100%の鉛やビスマスを調整することは実用上困難であるため、表記してある。
Bi2223よりなる超伝導線材と接合材である鉛-ビスマス系合金超伝導材料の接合抵抗は、接合長さと逆比例の関係がある。異なる接合長さをもつ複数の試料を作製し、Bi2223よりなる超伝導線材とNbTiよりなる超伝導線材に電極を取り付け、液体ヘリウムに浸漬し4端子法による抵抗測定を行った。各々の実測の抵抗値を基準にして、接合抵抗値R(Ω)と接合長さL(cm)の関係式(R=3.6×10-9/L)を導いた。
【0019】
図4は、接合抵抗と接合長さの関係を示している。R-L関係式より、接合長さ36cm以上でオーム抵抗が10-10Ω以下の超低抵抗となり、1GHz超級NMR用30T超伝導マグネットで永久電流運転モードが使用可能な接続が得られる。
NbTiよりなる超伝導線材と接合材の鉛-ビスマス系合金超伝導材料の接合は、超伝導接合であるので、接合長さは、1cm程度で十分である。
【0020】
図5Aは、Bi2223線材をリング状に巻いて接合する場合の構成図である。また、図5Bは、実際に作製した接合試料の写真である。リング形状にすることで接合部のコンパクト化を実現した。
【0021】
図6は、接合熱処理温度と接合抵抗の関係を示す図である。接合長さ3cmの接合試料を測定した。接合抵抗は、210℃を超えると急激に増加する。本件のNMR用超伝導マグネットの構造上の制約から、接合長さは、約60cm以下が望ましい。接合長さ60cmで、10-10Ω以下を達成するためには、接合抵抗値R(Ω)と接合長さL(cm)の関係式(R=6×10-9 /L)を用いて逆算すると、接合長さ3cmで2.0×10-9Ω以下に相当する。図6より、この条件を満たすためには、接合熱処理温度を210℃以下にすることが望ましい。
【0022】
図7は、Bi2223超伝導線材と接合材の鉛-ビスマス合金の界面付近のSEM像である。図7(A)は接合熱処理温度160℃、図7(B)は接合熱処理温度260℃、及び図7(C)は接合熱処理温度310℃でそれぞれ作製した。
図7(A)は、接合熱処理温度160℃で作製した試料のSEM像を示す。Bi2223超伝導線材は、Ag(銀)シースで完全に覆われており、Ag外縁で鉛-ビスマス合金と接続している。図7(B)及び(C)は、接合熱処理温度260℃及び310℃でそれぞれ作製した試料のSEM像を示す。接合熱処理温度を上げるにつれて、Agシースが除去されていく様子が分かる。接合熱処理温度310℃では、中央部のAgはまだ残存しているが、外縁部では、ほぼ消失している。図6の接合熱処理温度と接合抵抗の関係と図7のSEM写真から、低い接合抵抗を達成するためには、Agシースが除去されないことが望ましく、低い接合熱処理温度で作製する必要がある。
【0023】
本件のNMR用超伝導マグネットの構造上の制約から、接合長さは、約60cm以下が望ましい。本実施の形態では、例えば接合長36cmで、例えば10-10Ω以下を達成しており、接合抵抗の技術的課題のみならず、NMR用超伝導マグネットの構造上の技術的課題も克服している。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のビスマス系高温酸化物超伝導線材とNbTi系低温超伝導線材間の超伝導線材接合構造において、接合抵抗を例えば10-10Ω以下の超低抵抗に低減することができる。その結果、例えば1GHz超級のNMR用30T超伝導マグネットの永久電流運転モードで十分使用可能な超伝導線材接合構造を提供できる。

図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C