(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077688
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】電解液およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20230530BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230530BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20230530BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230530BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191061
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小笠 博司
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英紀
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ07
5H029HJ16
(57)【要約】
【課題】ハイレート充電時およびハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率を向上させることが可能な電解液を提供する。
【解決手段】電解液は、フッ化マグネシウムと、リチウム塩と、第一の溶媒と、第二の溶媒と、を含む。第一の溶媒は、誘電率が10よりも小さく、第二の溶媒は、誘電率が50よりも大きい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化マグネシウムと、
リチウム塩と、
第一の溶媒と、
第二の溶媒と、を含み、
前記第一の溶媒は、誘電率が10よりも小さく、
前記第二の溶媒は、誘電率が50よりも大きい、電解液。
【請求項2】
前記第一の溶媒および前記第二の溶媒の総量に対する前記第二の溶媒の体積比が6%以上12%以下である、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記フッ化マグネシウムの含有量が0.3質量%以上1.0質量%以下である、請求項1または2に記載の電解液。
【請求項4】
前記第一の溶媒は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートからなる群より選択される一種以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項5】
前記第二の溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびビニレンカーボネートからなる群より選択される一種以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の電解液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の電解液を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
気候関連災害の観点から、CO2を削減するために、電気自動車への関心が高まっており、車載用途としても、リチウムイオン二次電池の使用が検討されている。また、電気自動車のシステム全体を小型軽量化することで、エネルギー効率の改善を図ることができる。
【0003】
リチウムイオン二次電池の一例として、正極集電体と、正極合材層と、セパレータと、負極合材層と、負極集電体と、が順次積層されており、セパレータに電解液が充填されているリチウムイオン二次電池が知られている。リチウムイオン二次電池は、充放電時に、電極と電解液との界面にSEI被膜が形成される。このため、リチウムの酸化還元電位が低いが、電解液の連続分解が抑制される。
【0004】
特許文献1には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が溶解している電解液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ハイレート充電時およびハイレート放電時の初期容量および容量維持率が低下し、ハイレート電池を実現することができない。
【0007】
本発明は、ハイレート充電時およびハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率を向上させることが可能な電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、電解液において、フッ化マグネシウムと、リチウム塩と、第一の溶媒と、第二の溶媒と、を含み、前記第一の溶媒は、誘電率が10よりも小さく、前記第二の溶媒は、誘電率が50よりも大きい。
【0009】
上記の電解液は、前記第一の溶媒および前記第二の溶媒の総量に対する前記第二の溶媒の体積比が6%以上12%以下であってもよい。
【0010】
上記の電解液は、前記フッ化マグネシウムの含有量が0.3質量%以上1.0質量%以下であってもよい。
【0011】
前記第一の溶媒は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートからなる群より選択される一種以上であってもよい。
【0012】
前記第二の溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートおよびビニレンカーボネートからなる群より選択される一種以上であってもよい。
【0013】
本発明の他の一態様は、リチウムイオン二次電池において、上記の電解液を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハイレート充電時およびハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率を向上させることが可能な電解液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時の初期充放電曲線を示す図である。
【
図2】比較例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時の初期充放電曲線を示す図である。
【
図3】実施例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時のサイクル特性を示す図である。
【
図4】実施例2の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時のサイクル特性を示す図である。
【
図5】比較例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時のサイクル特性を示す図である。
【
図6】比較例2の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時のサイクル特性を示す図である。
【
図7】実施例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時の充放電曲線を示す図である。
【
図8】比較例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時の充放電曲線を示す図である。
【
図9】実施例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時のサイクル特性を示す図である。
【
図10】実施例2の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時のサイクル特性を示す図である。
【
図11】比較例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時のサイクル特性を示す図である。
【
図12】比較例2の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時のサイクル特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
[電解液]
本実施形態の電解液は、フッ化マグネシウム(MgF2)と、リチウム塩と、第一の溶媒と、第二の溶媒と、を含み、第一の溶媒は、誘電率が10よりも小さく、第二の溶媒は、誘電率が50よりも大きい。ここで、フッ化マグネシウムの第一の溶媒に対する溶解度が高いため、本実施形態の電解液を用いると、ハイレート充電時およびハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率が向上する。これは、充放電時に、電極と電解液との界面に、均一なSEI被膜が形成されるためであると推察される。ここで、フッ化マグネシウムは、電離せずに、溶媒和していると推察される。
【0018】
これに対して、フッ化マグネシウム以外の金属フッ化物(例えば、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カルシウム(CaF2)等)は、第一の溶媒に対する溶解度が低いため、電解液が白濁し、ハイレート充電時およびハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率が維持される場合もあるが、再現性が低い。これは、充放電時に形成されるSEI被膜が懸濁状態により変化するためであると推察される。
【0019】
本実施形態の電解液中の第一の溶媒および第二の溶媒の総量に対する第二の溶媒の体積比は、6%以上12%以下であることが好ましい。本実施形態の電解液中の第一の溶媒および第二の溶媒の総量に対する第二の溶媒の体積比が6%以上であると、SEI(第二の溶媒により形成される有機被膜部分)の欠落が生じにくくなり、容量維持率が向上すると推察される。一方、本実施形態の電解液中の第一の溶媒および第二の溶媒の総量に対する第二の溶媒の体積比が12%以下であると、薄い有機被膜が形成され、ハイレート動作時の抵抗が減少すると推察される。
【0020】
本実施形態の電解液中のフッ化マグネシウムの含有量は、0.3質量%以上1.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上0.6質量%以下であることがさらに好ましい。本実施形態の電解液中のフッ化マグネシウムの含有量が0.3質量%以上であると、欠陥のないSEIを形成するための第二の溶媒量を低減することが可能となり、ハイレート動作時の抵抗が低減する。一方、本実施形態の電解液中のフッ化マグネシウムの含有量が1.0質量%以下であると、フッ化マグネシウム自体の抵抗を抑制でき、リチウムイオン二次電池の初期容量が向上する。フッ化マグネシウム自体の抵抗とフッ化マグネシウム添加による第二の溶媒量の低減効果に起因する抵抗減少を勘案すると、総合的にSEIの抵抗を低減できるのは、フッ化マグネシウムの添加量が0.3質量%以上0.6質量%以下であると推察される。
【0021】
第一の溶媒としては、誘電率が10よりも小さい溶媒であれば、特に限定されないが、例えば、鎖状カーボネートを用いることができる。鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0022】
第二の溶媒としては、誘電率が50よりも大きい溶媒であれば、特に限定されないが、例えば、環状カーボネートを用いることができる。環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0023】
リチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0024】
本実施形態の電解液は、増粘剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0025】
増粘剤としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0026】
本実施形態の電解液の粘度は、5000mPa・s以上であってもよい。これにより、電解液の製造時のハンドリング性が向上する。
【0027】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、本実施形態の電解液を備える。本実施形態のリチウムイオン二次電池は、特に限定されないが、例えば、正極集電体と、正極合材層と、セパレータと、負極合材層と、負極集電体と、が順次積層されており、セパレータに電解液が充填されている。
【0028】
正極集電体としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム箔等の金属箔等が挙げられる。
【0029】
正極合材層は、正極活物質を含み、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、結着剤等をさらに含んでいてもよい。
【0030】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、LiCoO2、Li(Ni5/10Co2/10Mn3/10)O2、Li(Ni6/10Co2/10Mn2/10)O2、Li(Ni8/10Co1/10Mn1/10)O2、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2、Li(Ni1/6Co4/6Mn1/6)O2、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、LiCoO4、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4、硫化リチウム、硫黄等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0031】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、Si、SiO、炭素材料等が挙げられる。これらの負極活物質は、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0032】
炭素材料としては、例えば、人工黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。
【0033】
セパレータとしては、セパレータ自体が大きな抵抗とならないよう、ハイレート対応のセパレータが好ましい。構造は、特に限定されないが、例えば、微孔シート状セパレータ等が挙げられる。材料は、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0034】
なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、公知の方法により、製造することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
EC-DMC混合溶媒(EC:9体積%)中に、1Mとなるように、LiPF6を溶解させた後、0.6質量%となるように、MgF2を溶解させ、電解液を得た。
【0038】
[実施例2]
EC-DMC混合溶媒(EC:12体積%)中に、1Mとなるように、LiPF6を溶解させた後、0.3質量%となるように、MgF2を溶解させ、電解液を得た。
【0039】
[比較例1]
EC-DMC混合溶媒(EC:33体積%)中に、1Mとなるように、LiPF6を溶解させ、電解液を得た。
【0040】
[比較例2]
EC-DMC混合溶媒(EC:12体積%)中に、1Mとなるように、LiPF6を溶解させ、電解液を得た。
【0041】
[リチウムイオン二次電池の作製]
実施例または比較例の電解液をセパレータに充填して、以下の構成を備えるリチウムイオン二次電池を作製した。
【0042】
正極:16mmφ
正極集電体:厚さ20μmのAl箔
正極活物質:コバルト酸リチウム(3mAh)
負極:16mmφ
負極集電体:厚さ20μmのCu箔
負極活物質:グラファイト(3.6mAh)
セパレータ:微孔シート状ポリプロピレン
電池は、アルゴン雰囲気中で、セパレータに電解液を含侵し、正負極で挟んでコイン状のセルに配置して構成した。
【0043】
[ハイレート放電]
リチウムイオン二次電池の定電流充放電試験を、以下の条件で実施した。
充電レート:1C
放電レート:20C
温度:35℃
サイクル数:100サイクル
【0044】
図1、2に、それぞれ実施例1、比較例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時の初期充放電曲線を示す。
【0045】
図1、2から、実施例1の電解液を用いると、ハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量が高くなることがわかる。これに対して、比較例1の電解液は、MgF
2を含まないため、ハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量が低くなる。
【0046】
図3~6に、それぞれ実施例1、2、比較例1、2の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート放電時のサイクル特性を示す。
【0047】
図3~6から、実施例1、2の電解液を用いると、ハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率が高くなることがわかる。これに対して、比較例1、2の電解液は、MgF
2を含まないため、ハイレート放電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率が低くなる。
【0048】
[ハイレート充電]
リチウムイオン二次電池の定電流充放電試験を、以下の条件で実施した。
充電レート:10C
放電レート:1C
温度:35℃
サイクル数:100サイクル
【0049】
図7、8に、それぞれ実施例1、比較例1の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時の初期充放電曲線を示す。
【0050】
図7、8から、実施例1の電解液を用いると、ハイレート充電時のリチウムイオン二次電池の初期容量が高くなることがわかる。これに対して、比較例1の電解液は、MgF
2を含まないため、ハイレート充電時のリチウムイオン二次電池の初期容量が低くなる。
【0051】
図9~12に、それぞれ実施例1、2、比較例1、2の電解液を備えるリチウムイオン二次電池のハイレート充電時のサイクル特性を示す。
【0052】
図9~12から、実施例1、2の電解液を用いると、ハイレート充電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率が高くなることがわかる。これに対して、比較例1、2の電解液は、MgF
2を含まないため、ハイレート充電時のリチウムイオン二次電池の初期容量および容量維持率が低くなる。