(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077723
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】3D造形用レーザ光吸収率測定装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20230530BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20230530BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20230530BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20230530BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20230530BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20230530BHJP
B29C 64/386 20170101ALI20230530BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20230530BHJP
B22F 10/28 20210101ALN20230530BHJP
B22F 1/00 20220101ALN20230530BHJP
【FI】
G01N25/20 Z
B22F10/34
B33Y30/00
B33Y50/00
B29C64/153
B29C64/268
B29C64/386
B23K26/00 M
B22F10/28
B22F1/00 R
B22F1/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191120
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】本田 博史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 誠
【テーマコード(参考)】
2G040
4E168
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
2G040AB12
2G040BA08
2G040BA29
2G040CA02
2G040CA12
2G040CA23
2G040DA03
2G040DA13
2G040EA06
2G040EC01
2G040EC09
2G040ZA08
4E168BA35
4E168BA81
4E168BA86
4E168BA87
4E168CA11
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA37
4E168EA15
4E168FB03
4E168FB06
4F213AC04
4F213AP05
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL87
4K018AA06
4K018AA09
4K018BA03
4K018BA04
(57)【要約】
【課題】積層造形が可能な装置で使用されているレーザ光に対する粉末等の材料による吸収率の温度依存性を測定できる3D造形用レーザ光吸収率測定装置を提供すること。
【解決手段】既存の積層造形装置内に、窪み63aを付けた金属プレート63を設置すると共に、前記窪みに測定対象となる試料62を堆積させて、試料62の照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置20と、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の試料温度を、窪みを付けた金属プレートの裏面に取り付けられた熱電対端子30によって測定する熱電対温度計測部42とを用いて、試料のレーザ光吸収率を測定する方法であって、前記レーザ装置の照射条件、前記照射スポット部における昇温温度、並びに熱損失の理論的な関係を用いて、試料62又は金属プレート63の実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の積層造形装置内に、窪みを付けた金属プレートを設置すると共に、前記窪みに測定対象となる試料を堆積させて、
前記試料の照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置と、
前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、前記窪みを付けた金属プレートの裏面に取り付けられた熱電対によって測定する熱電対温度計と、
を用いて、試料のレーザ光吸収率を測定する方法であって、
前記熱電対温度計によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後における前記照射スポット部の前記実温度を測定する試料温度測定工程と、
前記レーザ装置の照射条件及び前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により前記熱電対温度計で測定する昇温温度、並びに前記熱電対温度計で測定した昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、前記試料又は前記金属プレートの少なくとも一方の実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出工程と、
を備えるレーザ光吸収率測定方法。
【請求項2】
前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱に際し、
前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱又は冷却の少なくとも一方の応答時間に相当する時間を数値計算から求め、
過渡現象を含む時刻の温度履歴を解析から省いて、前記照射スポット部における昇温温度による熱損失の理論的な関係を算出し、
前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱の非一様性からくる測定誤差を抑えて、前記試料の実レーザ光吸収率を算出する前記実吸収率算出工程と、
を備える請求項1に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【請求項3】
前記実吸収率算出工程での前記試料の実レーザ光吸収率の算出は、次式を用いる請求項1又は2に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【数1】
ここで、添え字1は試料を表し、添え字2は金属プレートを表す。mは質量、cは比熱、Tは温度、A(T)は吸収率の温度依存性を表すパラメータ、L(T)は熱損失の温度依存性を表すパラメータ、Eは照射間隔(ステップ間隔)内の照射エネルギー、Δtは時間的な照射間隔である。
【請求項4】
前記実吸収率算出工程での前記試料の実レーザ光吸収率の算出は、次式を用いる請求項1又は2に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【数2】
ここで、添え字1は試料を表し、添え字2は金属プレートを表す。mは質量、cは比熱、Tは温度、A(T)は吸収率の温度依存性を表すパラメータ、L(T)は熱損失の温度依存性を表すパラメータ、Eは照射間隔(ステップ間隔)内の照射エネルギー、Δtは時間的な照射間隔であり、試料と金属プレート材料の比熱は許容誤差の範囲内で同じであるとする。
【請求項5】
前記実吸収率算出工程での前記試料の実レーザ光吸収率の算出は、次式を用いる請求項1又は2に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【数3】
ここで、添え字1は試料を表し、添え字2は金属プレートを表す。mは質量、cは比熱、Tは温度、A(T)は吸収率の温度依存性を表すパラメータ、L(T)は熱損失の温度依存性を表すパラメータ、Eは照射間隔(ステップ間隔)内の照射エネルギー、Δtは時間的な照射間隔であり、試料の比熱は許容誤差の範囲内で一定値であるとする。
【請求項6】
前記実吸収率算出工程での前記試料の実レーザ光吸収率の算出は、次式を用いる請求項1又は2に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【数4】
ここで、添え字2は金属プレートを表す。mは質量、cは比熱、Tは温度、A(T)は吸収率の温度依存性を表すパラメータ、L(T)は熱損失の温度依存性を表すパラメータ、Eは照射間隔(ステップ間隔)内の照射エネルギー、Δtは時間的な照射間隔であり、試料の熱容量は金属プレート材料の熱容量と比べ許容誤差の範囲内で無視できるとする。
【請求項7】
前記レーザ光をデフォーカスしつつ高速に走査することで、その積層造形環境下での前記試料のレーザ光吸収率をその温度依存性とともに測定する請求項1乃至6に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【請求項8】
前記レーザ光をデフォーカスしつつ高速に走査することで、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部では前記試料が溶融しない範囲で温度上昇する請求項1乃至7に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【請求項9】
前記レーザ光をデフォーカスしつつ高速に走査することは、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の温度上昇が、前記試料と前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱の一様性が許容限度内に抑えられるように、前記レーザ光の前記照射面上のストライプの間隔と長さ、並びに前記レーザ光のパワーと走査速度が定められる請求項7又は8に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【請求項10】
さらに、各走査線の間隔、その全走査線パターンを照射する回数やその全走査線パターン照射の時間間隔を変えることにより、加熱パターンも変えるレーザ光照射制御部を備える請求項1乃至9に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【請求項11】
前記試料は、金属粉末、セラミックス粉末、又はプラスチック粉末である請求項1乃至10に記載のレーザ光吸収率測定方法。
【請求項12】
既存の積層造形装置内に、金属プレートを設置すると共に、前記金属プレートの照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置と、
前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、窪みを付けた金属プレートの裏面に取り付けられた熱電対によって測定する熱電対温度計と、
を用いて、前記金属プレートのレーザ光吸収率を測定する方法であって、
前記熱電対温度計によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後における前記照射スポット部の前記実温度を測定する温度測定工程と、
前記レーザ装置の照射条件及び前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により前記熱電対温度計で測定する昇温温度、並びに前記熱電対温度計で測定した昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、前記金属プレートの実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出工程と、
を備えるレーザ光吸収率測定方法。
【請求項13】
既存の積層造形装置内に、窪みを付けた金属プレートを設置すると共に、前記窪みに測定対象となる試料を堆積させて、
前記試料の照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置と、
前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、窪みを付けた金属プレートの裏面に取り付けられた熱電対によって測定する熱電対温度計測部と、
を用いて、試料のレーザ光吸収率を測定する装置であって、
前記熱電対温度計測部は、前記熱電対によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後おける前記照射スポット部の前記実温度を測定すると共に、
前記レーザ装置の照射条件及び前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により前記熱電対温度計測部で測定する昇温温度、並びに前記熱電対温度計測部で測定した昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、前記試料又は前記金属プレートの少なくとも一方の実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出部、
を備えるレーザ光吸収率測定装置。
【請求項14】
前記試料は、金属粉末、セラミックス粉末、又はプラスチック粉末である請求項13に記載のレーザ光吸収率測定装置。
【請求項15】
既存の積層造形装置内に、金属プレートを設置すると共に、前記金属プレートの照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置と、
前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、窪みを付けた金属プレートの裏面に取り付けられた熱電対によって測定する熱電対温度計測部と、
を用いて、前記金属プレートのレーザ光吸収率を測定する装置であって、
前記熱電対温度計測部は、前記熱電対によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後おける前記照射スポット部の前記実温度を測定すると共に、
前記レーザ装置の照射条件及び前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により前記熱電対温度計測部で測定する昇温温度、並びに前記熱電対温度計測部で測定した昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、前記金属プレートの実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出部、
を備えるレーザ光吸収率測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末床溶融結合法等に用いて好適な3D造形用レーザ光吸収率測定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料による光の吸収率は、いくつかの典型的な材料については、理想的な表面状態に対し求められているが、その材料の種類は多くはなく、また、実際の材料の使用環境下ではその材料の表面状態は理想的なものとは異なり、光の吸収率も変化する可能性がある。さらには、その吸収率の材料の温度依存性については、ほとんど求められていないのが現状である。
【0003】
非特許文献1、2においては、積層造形装置を使わずに、専用の測定系を外部の環境で構築し、そこで使用しているレーザ波長に対する金属プレートおよび金属粉末の温度依存性を測定している。また、非特許文献3においては、特別に作成した積層造形装置を用い、造形過程中でのレーザ光の吸収率測定を行っている。
特許文献1においては、赤外線カメラ装置によって、レーザ光照射部位の昇温過程を測定することで、試料のレーザ光吸収率測定をする方法が提案されている。特許文献2においては、レーザ加工機等を構成する光学部品の吸収率測定方法として、短時間に複数回の温度を自動計測して、統計処理により温度上昇曲線を決定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-207344号公報
【特許文献2】特開昭62-297745号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A. Rubenchik, et al., “Direct measurements of temperature-dependent laser absorptivity of metal powders,” Appl. Opt. 54, 7230-7233 (2015).
【非特許文献2】A. M. Rubenchik, et al., “Temperature-dependent 780-nm laser absorption by engineering grade aluminum, titanium, and steel alloy surfaces,” Opt. Eng. 53, 122506 (2014)
【非特許文献3】J. Trapp, et al., “In situ absorptivity measurements of metallic powders during laser powder-bed fusion additive manufacturing,” Appl. Mater. Today 9, 341-349 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1、2では、積層造形を行う環境ではなく、別に外部で用意した専用の測定装置の環境下で吸収率の温度依存性を得ているため、使用レーザの波長や測定環境が実際の積層造形時のものとは異なるという課題がある。
また、非特許文献3では、特別に作成した積層造形装置の環境下での造形過程中のレーザ光の吸収率を得ているが、粉末が溶融しキーホールが発生したときの全体としての吸収率であり、また、吸収率の温度依存性は測定されていない。粉末が溶融していない条件での測定においても、その測定条件での全体としての吸収率であり、温度依存性は測定されていないという課題がある。
【0007】
特許文献1では、赤外線カメラ装置によって試料温度の非接触測定が提案されているが、金属粉末3Dプリンタに赤外線カメラ装置を外付けで装着しようとする場合に、必ずしも観測用窓が設けられているとは限らず、適用できる金属粉末3Dプリンタの種類が限定されていた。
特許文献2では、赤外透明材料の光学特性を測定する用途であるため、本発明の用途とする金属粉末3Dプリンタのようにレーザ光の照射が細いビーム径に収束された状態で、高速で往復走査している状況での試料のレーザ光の吸収率測定には、そのままでは適用できないという課題があった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するもので、実際に使用されている材料および環境下でのレーザ光の吸収率を明らかにするため、積層造形が可能な装置を用い、当該装置で使用されているレーザ光に対する粉末等の材料による吸収率の温度依存性を測定できる3D造形用レーザ光吸収率測定装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、最近普及の進んでいるレーザ積層造形装置を活用し、その使用レーザ光に対する材料による吸収率の温度依存性を、その積層造形装置で設定できる環境下で測定することが出来るのではないかと考え、本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置および方法を着想した。
【0010】
[1]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法は、例えば、
図1に示すように、既存の積層造形装置内に、窪み63aを付けた金属プレート63を設置すると共に、前記窪みに測定対象となる試料62を堆積させて、試料62の照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置20と、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、窪みを付けた金属プレートの裏面に取り付けられた熱電対端子30によって測定する熱電対温度計測部42とを用いて、試料のレーザ光吸収率を測定する方法であって、
前記熱電対温度計測部によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後における前記照射スポット部の前記実温度を測定する試料温度測定工程と、
前記レーザ装置の照射条件及び前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により前記熱電対温度計測部で測定する昇温温度、並びに前記熱電対温度計測部で測定した昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、試料62又は金属プレート63の少なくとも一方の実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出工程を備える。
【0011】
[2]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]において、好ましくは、前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱に際し、
前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱又は冷却の少なくとも一方の応答時間に相当する時間を数値計算から求め、
過渡現象を含む時刻の温度履歴を解析から省いて、前記照射スポット部における昇温温度による熱損失の理論的な関係を算出し、
前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱の非一様性からくる測定誤差を抑えて、前記試料の実レーザ光吸収率を算出する前記実吸収率算出工程と、を備えるとよい。
[3]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]又は[2]において、好ましくは、前記実吸収率算出工程での試料の実レーザ光吸収率の算出は、次式を用いるとよい。
【数1】
ここで、添え字1は試料を表し、添え字2は金属プレートを表す。mは質量、cは比熱、Tは温度、A(T)は吸収率の温度依存性を表すパラメータ、L(T)は熱損失の温度依存性を表すパラメータ、Eは照射間隔(ステップ間隔)内の照射エネルギーである。
[4]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]又は[2]において、好ましくは、前記実吸収率算出工程での試料の実レーザ光吸収率の算出は、次式を用いるとよい。
【数2】
ここで、試料と金属プレート材料の比熱は許容誤差の範囲内で同じであるとする。
[5]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]又は[2]において、好ましくは、前記実吸収率算出工程での前記試料の実レーザ光吸収率の算出は次式を用いるとよい。
【数3】
ここで、試料の比熱は、許容誤差の範囲内で一定値であるとする。
[6]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]又は[2]において、好ましくは、前記実吸収率算出工程での前記試料の実レーザ光吸収率の算出は、次式を用いるとよい。
【数4】
ここで、試料の熱容量は金属プレート材料の熱容量と比べ、許容誤差の範囲内で無視できるとする。
【0012】
[7]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]乃至[6]において、好ましくは、前記レーザ光をデフォーカスしつつ高速に走査することで、その積層造形環境下での前記試料のレーザ光吸収率をその温度依存性とともに測定するとよい。
ここで、デフォーカスとは、レーザ光をフォーカスして試料の照射面に照射する場合に比較して、照射光の面積を拡大することをいう。レーザ光をフォーカスして試料の照射面に照射する場合は、照射面の照射スポット部の試料温度は試料の溶融温度を超えることになるのに対して、レーザ光をデフォーカスすることで、照射面の照射スポット部の試料に照射されるエネルギーが減少して、当該試料が溶融しない程度の温度上昇に抑えることが出来る。また、高速に走査とは、レーザ光を通常の速度で走査する場合に比較して、高速に走査することで照射面の照射スポット部の試料に照射されるエネルギーを減少させて、当該試料が溶融しない程度の温度上昇に抑えることをいう。レーザ光を通常の速度で走査する場合は、照射面の照射スポット部の試料温度は試料の溶融温度を超えることになる。
[8]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]乃至[7]において、好ましくは、前記レーザ光をデフォーカスしつつ高速に走査することで、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部では前記試料が溶融しない範囲で温度上昇するとよい。
[9]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[7]又は[8]において、好ましくは、レーザ光をデフォーカスしつつ高速に走査することは、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の温度上昇が、前記試料と前記金属プレートの前記レーザ装置による加熱の一様性が許容限度内に抑えられるように、前記レーザ光の前記照射面上のストライプの間隔と長さ、並びに前記レーザ光のパワーと走査速度が定められるとよい。
[10]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]乃至[9]において、好ましくは、さらに、各走査線の間隔、その全走査線パターンを照射する回数やその全走査線パターン照射の時間間隔を変えることにより、加熱パターンも変えるレーザ光照射制御部を備えるとよい。
[11]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法[1]乃至[10]において、好ましくは、試料は、金属粉末、セラミックス粉末、又はプラスチック粉末であるとよい。
【0013】
[12]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法は、例えば、
図1に示すように、既存の積層造形装置内に、金属プレート63を設置すると共に、金属プレート63の照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置20と、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、金属プレート63の裏面に取り付けられた熱電対端子30によって測定する熱電対温度計測部42とを用いて、金属プレートのレーザ光吸収率を測定する方法であって、
前記熱電対温度計測部によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後における前記照射スポット部の前記実温度を測定する温度測定工程と、
前記レーザ装置の照射条件及び前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により前記熱電対温度計測部で測定する昇温温度、並びに前記熱電対温度計測部で測定した昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、金属プレート63の実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出工程を備える。
【0014】
[13]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置は、例えば、
図1に示すように、既存の積層造形装置内に、窪み63aを付けた金属プレート63を設置すると共に、前記窪みに測定対象となる試料62を堆積させて、試料62の照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置20と、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、窪みを付けた金属プレートの裏面に取り付けられた熱電対端子30によって測定する熱電対温度計測部42とを用いて、試料のレーザ光吸収率を測定する装置であって、熱電対温度計測部42は、熱電対端子30によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後における前記照射スポット部の前記実温度を測定すると共に、前記レーザ装置の照射条件、前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により昇温する熱電対温度計測部42で測定される昇温温度、並びに熱電対温度計測部42で測定された昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、試料62又は金属プレート63の少なくとも一方の実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出部45を備える。
[14]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置[13]において、好ましくは、試料は、金属粉末、セラミックス粉末、又はプラスチック粉末であるとよい。
[15]本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置は、既存の積層造形装置内に、窪み63aを付けた金属プレート63を設置すると共に、金属プレート63の照射面に対してレーザ光を走査して照射するレーザ装置20と、前記レーザ光が照射される前記照射面の照射スポット部の実温度を、金属プレート63の裏面に取り付けられた熱電対端子30によって測定する熱電対温度計測部42とを用いて、金属プレートのレーザ光吸収率を測定する装置であって、
熱電対温度計測部42は、熱電対端子30によって、前記レーザ光の照射前、照射中、及び照射後における前記照射スポット部の前記実温度を測定すると共に、
前記レーザ装置の照射条件、前記レーザ光の前記照射スポット部への照射により昇温する、熱電対温度計測部42で測定される昇温温度、並びに熱電対温度計測部42で測定された昇温温度による熱損失の理論的な関係を用いて、金属プレート63の実レーザ光吸収率を算出する実吸収率算出部45を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置は、各種粉末を使用する積層造形において、その積層造形装置の使用環境下で、実際に使用する粉末等のレーザ光の吸収率の温度依存性を測定することができる。その測定値は積層造形物を製作する際の最適パラメータの決定のための数値計算等への使用や造形物作成のための積層条件の絞り込み、積層造形効率や造形物の諸特性の向上などに活用できる。
既存の積層造形装置に用いられているレーザ光およびレーザ光の走査システムを活用し、レーザをデフォーカスしつつ高速に走査することで、その積層造形環境下での粉末等の材料のレーザ吸収率をその温度依存性とともに測定でき、3D造形用レーザ光吸収率測定装置が最小限度の追加コストで構築できる。
【0016】
請求項12に記載する本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定方法や、請求項15に記載する3D造形用レーザ光吸収率測定装置によれば、試料である金属粉末を載荷していない、金属プレートのみでの吸収率の温度依存性についても測定できる。そして、この測定値は、その金属プレートと同じ材質の材料のレーザ溶接やレーザ表面改質等に対し、数値計算等への使用や加工条件の絞り込みなどに活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施に用いられる3D造形用レーザ光吸収率測定装置の機能ブロック図である。
【
図2】粉末床溶融結合法に用いる金属粉末3Dプリンタの一実施例を示す、全体の機能ブロック図である。
【
図3】金属粉末3Dプリンタの動作の一例を説明するフローチャートである。
【
図4】金属粉末試料のレーザ光照射範囲の一実施例を示す要部構成図で、(A)は斜視図、(B)は要部断面図を表している。
【
図5】レーザ光吸収率の算定式を説明する図で、ステップ状加熱過程からの光吸収率の算定式を説明する図である。
【
図6】本発明の一実施例である、チタン合金(Ti-6Al-4V)の比熱の温度依存性を説明する図である。
【
図7A】本発明の一実施例である、各ステップ状加熱過程の条件において、一回のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合の、最高到達温度を説明する図で、チタン合金(Ti-6Al-4V)トレー単体の場合を示している。
【
図7B】本発明の一実施例である、一回のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合の温度変化を説明する図で、チタン合金(Ti-6Al-4V)トレー単体の場合を示している。
【
図7C】本発明の一実施例である、各ステップ状加熱過程の条件において、一回のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合の、チタン合金(Ti-6Al-4V)粉末試料の最高到達温度を説明する図で、トレーに粉体を載荷した場合を示している。
【
図7D】本発明の一実施例である、一回のステップ状加熱過程10回繰り返した場合の、チタン合金(Ti-6Al-4V)粉末試料の放熱による温度変化を説明する図で、トレー単体の場合とトレーに粉体を載荷した場合を示している。
【
図8A】あるステップ状加熱過程の条件において、冷却過程の温度低下曲線から熱損失の温度依存性を表すパラメータL(T)を求める場合の説明図(冷却曲線の一例)。
【
図8B】あるステップ状加熱過程の条件において、冷却過程の温度低下曲線から熱損失の温度依存性を表すパラメータL(T)を求める場合の説明図(冷却曲線の一次微分dT/dt[K/s])。
【
図8C】あるステップ状加熱過程の条件において、冷却過程の温度低下曲線から熱損失の温度依存性を表すパラメータL(T)を求める場合の説明図(冷却曲線から求めた熱損失パラメータL(T)に関連するm・c(T)・dT/dt[W])。
【
図9A】各ステップ状加熱過程の条件において、吸収率A(T)を求めた図(トレー単体の場合)。
【
図9B】各ステップ状加熱過程の条件において、吸収率A(T)を求めた図(トレーに粉体を載荷した場合)。
【
図10】トレー単体を模擬した数値計算による一回目のステップ状加熱過程での温度分布の説明図で、(A)はトレー表面とトレー底面のストライプと直交する方向の温度分布、(B)は照射レーザ光の強度分布、(C)はトレー単体の場合の全体温度分布図、(D)は全体温度分布図(C)の温度スケールを示している。
【
図11A】トレー単体を模擬した数値計算による一回目のステップ状加熱過程での温度変化曲線の説明図(トレー表面中央での温度変化)。
【
図11B】トレー単体を模擬した数値計算による一回目のステップ状加熱過程での温度変化曲線の説明図(トレー底面の熱電対端子30装着位置付近での温度変化)。
【
図12】トレー単体を模擬した数値計算による一回目のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合での温度変化曲線の説明図で、(A)はトレー表面中央、(B)はトレー底面の熱電対端子30装着位置付近での温度変化を示している。
【
図13】
図12(B)において数値計算による冷却なし『w/o Cooling』の場合での各照射間での温度差ΔTの時間変化の説明図で、局所値の極大値と極小値のそれぞれから求めた値を示している。
【
図14】各ステップ状加熱過程の条件において、加熱初期での過渡現象の影響がなくなる区間を抽出して、吸収率A(T)を求めた図で、(A)はトレー単体の場合、(B)はトレーに粉体を載荷した場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の実施に用いられる3D造形用レーザ光吸収率測定装置の機能ブロック図である。本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置は、金属粉末積層造形装置を用いて粉末等の材料による吸収率の温度依存性を測定する方法である。
図1に示すレーザ光吸収率測定装置10は、金属粉末試料62にレーザ光L1を照射することによって金属粉末試料62のレーザ光吸収率(実レーザ光吸収率A(T))を測定する装置である。このとき、金属粉末試料62は、レーザ照射によって3D造形を行なう金属部材と同じ材質、形状及び仕様であることが好ましい。本実施形態においては、金属トレー63及び金属粉末試料62は、レーザ加工が可能な材料であればよく、例えばチタン合金(Ti-6Al-4V)、ハステロイ(登録商標)のようなニッケル基超合金、およびSUS316のようなステンレス鋼等がよい。金属トレー63は、中央部にトレー凹部63aを有しており、このトレー凹部63aに金属粉末試料62が散布される。
【0019】
また、金属粉末試料62の照射面62aは、レーザ光L1の照射前において、粉体状態であるものとする。このため、照射面62aでは、トレー63の研磨された鏡面状態の場合よりもレーザ光L1が吸収されやすくなる。これにより、照射したレーザ光L1を照射面62aに吸収させ、昇温させることによって金属粉末試料62の実レーザ光吸収率A(T)を求める本発明にとって精度のよい結果を得やすくなる。なお、実レーザ光吸収率A(T)の詳細については、後述する。
【0020】
図1に示すように、レーザ光吸収率測定装置10は、レーザ装置20と、熱電対端子30と、制御部40と、を備える。レーザ装置20は、レーザ発振器21、レーザヘッド22、及び筐体23を備える。レーザヘッド22は、筐体23内に配置される。
【0021】
本実施形態において、レーザ発振器21は、ファイバーレーザの発振器である。レーザ発振器21が発振するレーザ光L1の波長は、1070nm(1.07μm)前後である。また、レーザ発振器21は、制御部40の制御によって出力の変更が可能となっている。
【0022】
なお、レーザ発振器21は、ファイバーレーザの発振器に限らず、半導体レーザ、YAGレーザ、CO2レーザの発振器であってもよい。レーザ光の波長は3D造形では金属に関しては青色のものも使われてきており(樹脂では紫外線)、例えば各レーザ光の波長は0.4μm~1.2μmの範囲にあることが好ましい。レーザ発振器21は、レーザ発振器21から発振されたレーザ光L1をレーザヘッド22に伝送する機構25を備える。
【0023】
図2に示すように、筐体23内に配置されるレーザヘッド22は、金属粉末試料62の照射面62aから距離Xを隔て、且つ金属粉末試料62の照射面62aに対向して配置される。
レーザヘッド22は、Z軸レンズ24、偏向鏡26、及び偏向制御装置28を有している。偏向鏡26は、コリメートされたレーザ光L1が、レーザ光L1の進行方向を変換する。本実施形態において、偏向鏡26は、偏向制御装置28からの偏向制御信号によって、金属粉末試料62の照射面62aの所望の位置に、レーザ光L1を照射しており、例えば所定の周期と空間間隔でスキャンしている。レーザ光L1は、偏向鏡26によって偏向光線として金属粉末試料62の平面に偏向され、Z軸レンズ24により集光される。Z軸レンズ24は2枚のレンズで構成され、集光距離を変えるもので、例えば2枚のレンズ(平凹と両凸)で構成されている。
【0024】
次に、熱電対端子30について説明する。熱電対端子30は、トレー63の底面に装着されるもので、トレー63の底面の熱電対端子装着部位の温度に対応する起電力を生成する。熱電対端子30は、二種類の異なる金属導体で構成された温度センサで、ゼーベック効果により、2種類の金属の接合部(測温接点)の温度と計測器側接点(基準接点)の温度差Tによる電圧を発生する。熱電対を使用して温度を計測する場合、計測器でこの電圧を測定し、次の2種類の測定方法がある。
第1は、基準接点を0°C(冷接点補償)にして温度を直読する方法である。
第2は、基準接点の気温を測り(基準接点補償)、温度差に加算する方法である。
二種類の異なる金属導体としては、例えば、+極側が白金ロジウム合金、-極側が白金であり、例えば0~+1100℃の範囲の測定できる。また、+極側がニッケルおよびクロムを主とした合金、-極側がニッケルおよびアルミニウムを主とした合金であり、例えば-200~+1200℃の範囲の測定できる。
【0025】
制御部40は、レーザ光照射制御部41と、熱電対温度計測部42と、トレー位置制御部43と、金属粉末供給制御部44と、実吸収率算出部45と、を備える。
レーザ光照射制御部41は、レーザ装置20のレーザ発振器21に電気的に接続され、レーザ光L1の照射のON/OFFによって照射時間を制御するとともに、レーザ光L1の照射出力Pを制御し、さらにZ軸レンズ24へ集光に関する信号、偏向制御装置28へスキャン制御信号を送る。レーザ光照射制御部41は、さらに、レーザ光L1をデフォーカスしつつ高速に走査する制御信号を出力して、レーザ光L1が照射される照射面の照射スポット部の温度上昇が、金属粉末試料62とトレー63のレーザ装置20による加熱の一様性が許容限度内に抑えられるように、レーザ光L1の照射面上のストライプの間隔と長さ、並びにレーザ光L1のパワーと走査速度とを制御する。
熱電対温度計測部42は、熱電対端子30と電気的に接続され、熱電対端子30の二種類の異なる金属導体の発生電圧から、熱電対端子30の温度(実温度)データに変換する。
【0026】
トレー位置制御部43は、金属プレートとしてのトレー63の前後方向、幅方向、および高さ方向の三次元的な位置を制御している。
金属粉末供給制御部44は、図示しないホッパーに貯蔵された金属粉末を、トレー63に設けられた窪みとしてのトレー凹部63aに供給することを制御している。
実吸収率算出部45は、トレー63の底面に装着された熱電対端子30の装着部位での温度に応じた、金属粉末試料62のレーザ光実吸収率を算出する。
【0027】
本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置に用いられる金属粉末積層造形装置には、例えば、ドイツ連邦共和国、リューベック(Lubeck)市に所在するSLMソリューション社製のSLM280を用いることができる。
[レーザ金属粉末積層造形装置の概要]
図2は、粉末床溶融結合法に用いる金属粉末3Dプリンタの一実施例を示す、全体機能ブロック図である。
図2を参照して、積層造形装置100は、例えば、レーザ積層造形装置である。積層造形装置100は、レーザ装置110と、ガルバノミラー120と、制御装置130と、チャンバ200とを備える。
【0028】
レーザ装置110は、レーザ光を出射する。レーザ装置110はたとえば、ファイバーレーザやCO2レーザ等である。レーザ装置110には、レンズ系(図示せず)を設けてもよい。レンズ系は、レーザ装置110からレーザ光を受け、レーザ光を収束してレーザ112を形成する。ガルバノミラー120は、レーザ112の照射操作を行う。つまり、ガルバノミラー120により、レーザ112が照射される位置が調整される。
【0029】
チャンバ200は、層形成室210と、造形テーブル230と、粉末供給室220と、リコータ250とを備える。レーザ112の照射操作の際に、金属粉末粒子140が酸化されるのを防止するため、チャンバ200内は不活性ガス(アルゴン、窒素等)を充填された状態を維持するか、或いは真空状態に維持される。
【0030】
層形成室210は、上端に開口を有する筐体状である。造形テーブル230は、層形成室210に収納され、上下方向に昇降可能に支持される。造形テーブル230は、図示しないモータにより昇降する。
【0031】
粉末供給室220は、層形成室210の隣に配置される。粉末供給室220は筐体状であり、上下方向に昇降可能なピストン240を内部に備える。ピストン240上には、金属粉末粒子140が積層されている。金属粉末粒子140は、造形物の原料となる。ピストン240が上昇することにより、層形成室210の上部開口から金属粉末粒子140の層が排出される。金属粉末粒子140は、例えば、耐熱性の高いニッケル基超合金、コバルト基超合金、鉄基超合金の金属粉末で、商品名として、例えばハステロイがある。なお、金属粉末粒子140に代えて、Al2O3等に代表されるセラミックスを金属粉末粒子140と共に用いてもよく、またセラミックス粒子のような無機粉末粒子を単体で用いてもよい。
【0032】
リコータ250は、粉末供給室220の上部開口の近傍に配置される。リコータ250は、図示しないモータにより特定方向(水平方向)に移動し、粉末供給室220及び層形成室210の間を往復する。
図2では、リコータ250は、X方向に往復移動する。
リコータ250は、X方向に移動することにより、粉末供給室220から排出された金属粉末粒子140の層を水平方向に移動させて層形成室210に供給する。層形成室210の造形テーブル230上に堆積された金属粉末粒子140により、造形テーブル230上に金属粉末粒子140からなる金属粉末層260が形成される。リコータ250がX方向に移動することにより、金属粉末粒子140が水平方向に移動し、金属粉末層260の表面を平坦に整える。
【0033】
制御装置130は、図示しない中央演算処理装置(CPU)と、メモリと、ハードディスクドライブ(HDD)等の記憶装置とを備える。記憶装置には、周知のCAD(Computer Aided Design)アプリケーションとCAM(Computer Aided Manufacturing)アプリケーションとが格納される。制御装置130は、CADアプリケーションを利用して、製造したい造形物の3次元形状データを作成する。
【0034】
制御装置130はさらに、CAMアプリケーションを利用して、3次元データに基づいて、加工条件データを作成する。積層造形法では、レーザ112により形成される複数の造形物部が積層されて造形物が形成される。加工条件データは、各造形物部が形成されるときの加工条件を含む。つまり、加工条件データは、各造形物部ごとに作成される。制御装置130は、加工条件データに基づいてレーザ装置110、レンズ系及びガルバノミラー120を制御して、レーザ112の出力、走査速度、走査間隔及び照射位置を調整する。
【0035】
[製造プロセスの詳細]
図3は、金属粉末3Dプリンタの動作の一例を説明するフローチャートである。金属粉末積層造形装置では、造形物対象物を
図3に示すようなフローチャートに従い、次の工程で製造する。
金属粉末積層造形装置の事前準備工程として、真空ポンプを用いて、チャンバ200を真空に引く。チャンバ200内が真空になった後、チャンバ200内に不活性ガス(アルゴン、窒素等)を供給する。なお、真空に引かなくても、不活性ガスを流しながらチャンバ200内を置換してもよく、また、層形成室210の造形テーブル230は予熱されていてもよい。
【0036】
次に、金属粒子を含む粉末材料の薄層である金属粉末層260を形成する(S100)。次に、前記薄層にレーザ光を選択的に照射して、前記粉末材料に含まれる金属粒子が焼結または溶融結合してなる造形物層を形成する(S110)。前記薄層を形成する工程と前記造形物層を形成する工程とをこの順に複数回繰り返し、前記造形物層を積層する(S120)。
このようにして、目的とする立体造形物の形状をえる(S140)。
【実施例0037】
図4は、金属粉末試料のレーザ光照射範囲の一実施例を示す要部構成図で、(A)は斜視図、(B)は要部断面図を表している。
金属粉末試料62は、水平なトレー63に設けられたトレー凹部63aに散布されている。トレー63は、金属粉末積層造形装置に設けられている。トレー63は、外形寸法が10mmx10mmx1mmで、トレー凹部63aは外形寸法が9mmx9mmx0.1mmになっている。金属粉末試料62は、トレー凹部63aに充填されるもので、レーザ光照射される範囲の外形寸法が8mmx8mmになっている。レーザ光L1はデフォーカスされたもので、照射範囲の径は金属粉末試料62面上で、例えば0.44mm程度になっている。ストライプの間隔が0.02mmのときはストライプ本数が401本となり、ストライプの間隔が0.05mmのときはストライプ本数が161本となっている。レーザ光照射のストライプ1本当たりの長さは8mmになっている。
【0038】
トレー63と金属粉末試料62には、チタン合金(Ti-6Al-4V)が用いられ、トレー63のみの質量は0.4083g、トレー63と金属粉末試料62の合計質量は0.4242gであった。
レーザ光照射のパワーは50W~70W、ストライプ状の照射パターンの照射間隔は約1秒、照射回数は10回、照射速度は20m/秒であった。
【0039】
一次元の熱伝導を想定すると、トレー63と金属粉末試料62を一体として計算される温度上昇率は次式で表される。
【数5】
ここで、添え字1は金属粉末試料を表し、添え字2はトレーを表す。mは質量、cは比熱、Tは温度、A(T)は吸収率の温度依存性を表すパラメータ、Pはレーザ光照射パワー、L(T)は熱損失の温度依存性を表すパラメータである。
【0040】
図5は、レーザ光吸収率の算定式を説明する図で、ステップ状加熱過程からの光吸収率の算定式を説明する図である。金属粉末積層造形装置によるレーザ光照射は、ラスタースキャン方式に類似した走査線走査方式で行われており、レーザ光照射は走査線の往路と復路でオンとなり、それらの間の方向転換のときにオフになっている。
一回のステップ状加熱過程の温度上昇をΔT、一回のステップ状加熱過程の時間間隔Δtとすると、上記(1)式は差分を用いて、次のように表される。
【数6】
ここで、PΔtは一回のステップ状加熱過程のレーザ光照射エネルギー、Δtは時間的な照射間隔である。すると、(2)式は次のように表される。
【数7】
ここで、Eは照射間隔(ステップ間隔)内の照射エネルギーである。レーザ光照射は、走査に合わせてオンオフを繰り返しているため、オンの時だけを積算する。
【0041】
上記(3)式を変形して、吸収率の温度依存性を表すパラメータA(T)は次式で表される。なお、熱損失の温度依存性を表すパラメータL(T)に関しては、温度依存性を考慮したものとすると共に、金属粉末試料とトレーの質量を峻別する場合を示している。
【数8】
今回は、トレー63の材料の比熱は、金属粉末試料62の比熱とほぼ同じなので、上記(4)式を変形して、次式が得られる。
【数9】
金属粉末試料の比熱は、許容誤差の範囲内で一定値であるとすると、上記(5)式を変形して、次式が得られる。
【数10】
さらに、金属粉末試料の熱容量は金属プレート材料の熱容量と比べ、許容誤差の範囲内で無視できるとすると、上記(6)式を変形して、次式が得られる。
【数11】
【0042】
図6は、本発明の一実施例である、チタン合金(Ti-6Al-4V)の比熱の温度依存性を説明する図である。チタン合金の比熱は、摂氏25℃で約0.55[J/(g・K)]であり、摂氏900℃の約0.73[J/(g・K)]まで直線状に増大する。
【0043】
図7Aは、本発明の一実施例である、各ステップ状加熱過程の条件において、一回のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合の最高到達温度を説明する図で、チタン合金(Ti-6Al-4V)トレー単体の場合を示している。
各ステップ状加熱過程の条件として、レーザ光照射のパワーは50W~70W、ストライプの間隔が0.05mmと0.02mm、ストライプ本数が161本と401本、トレー63単体の場合を示している。
チタン合金(Ti-6Al-4V)トレー単体の最高到達温度は、レーザ光照射のパワーは50W、ストライプの間隔が0.05mm、ストライプ本数が161本の場合に、約85℃であった。レーザ光照射のパワーは70W、ストライプの間隔が0.02mm、ストライプ本数が401本の場合に、約190℃であった。他のステップ状加熱過程の条件では、最高到達温度はその中間でレーザ光照射の総照射パワーに応じたものになっている。
【0044】
図7Bは、本発明の一実施例である、一回のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合の、チタン合金(Ti-6Al-4V)トレー単体の温度変化を説明する図で、トレー単体の場合を示している。ここでは、レーザ光照射のパワーは70W、ストライプの間隔が0.05mm、ストライプ本数が161本の場合の温度履歴を表している。
ステップ状加熱過程を10回繰り返すことで、加熱前の38℃から、10回繰り返すことで約105℃まで上昇しているが、1回のステップ状加熱で8℃程度上昇するものの、冷却によって2~4℃程度下降する。
【0045】
図7Cは、本発明の一実施例である、各ステップ状加熱過程の条件において、一回のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合の、チタン合金(Ti-6Al-4V)粉末試料の最高到達温度を説明する図で、トレーに粉体を載荷した場合を示している。
各ステップ状加熱過程の条件として、レーザ光照射のパワーは50W~70W、ストライプの間隔が0.05mmと0.02mm、ストライプ本数が161本と401本、トレー63単体と、トレー63と金属粉末試料62の同時加熱の場合を示している。
チタン合金(Ti-6Al-4V)粉末試料の最高到達温度は、レーザ光照射のパワーは50W、ストライプの間隔が0.05mm、ストライプ本数が161本の場合に、約115℃であった。レーザ光照射のパワーは70W、ストライプの間隔が0.02mm、ストライプ本数が401本の場合に、約270℃であった。他のステップ状加熱過程の条件では、最高到達温度はその中間でレーザ光照射の総照射パワーに応じたものになっている。
【0046】
図7Dは、本発明の一実施例である、一回のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合の、チタン合金(Ti-6Al-4V)粉末試料の熱損失による温度低下を説明する図で、トレー単体の場合とトレーに粉体を載荷した場合を示している。各ステップ状加熱過程の条件において、冷却開始時の高温領域で、温度低下速度の全体的な傾向からのずれが表れている。
これは、トレー63の加熱の非一様性に起因する温度分布の均一化に伴う過渡現象によるものと推定される。
【0047】
図8は、あるステップ状加熱過程の条件において、冷却過程の温度低下曲線から熱損失の温度依存性を表すパラメータL(T)を求める場合の説明図で、(A)は冷却曲線の一例、(B)は冷却曲線の一次微分dT/dt[K/s]、(C)は冷却曲線から求めた熱損失パラメータL(T)に関連するm・c(T)・dT/dt[W]を示している。
ここでは、レーザ光照射のパワーは70W、ストライプの間隔が0.05mm、ストライプ本数が161本の場合の温度履歴を表している。冷却曲線は温度分布の均一化に伴う過渡現象後の90℃から周囲環境温度の38℃まで凹曲線状に低下しており、折れ線近似で時定数は24秒程度になっている。冷却曲線の一次微分は、90℃付近で2.3[K/s]程度になっている。熱損失パラメータL(T)は、0.5[W]程度になっている。
【0048】
図9は、各ステップ状加熱過程の条件において、上記5式から求めた吸収率A(T)の説明図で、(A)はトレー単体の場合、(B)はトレーに粉体を載荷した場合を示している。
吸収率A(T)は、トレー単体の場合で0.35~0.45、トレーに粉体を載荷した場合で0.6~0.8であるが、温度が80℃程度以下の比較的低温側で結果の揺らぎが大きくなっている。
【0049】
図10は、トレー単体を模擬した数値計算による一回目のステップ状加熱過程での温度分布の説明図で、(A)はトレー表面とトレー底面のストライプと直交する方向の温度分布、(B)は照射レーザ光の強度分布、(C)はトレーを模擬した全体温度分布図、(D)は全体温度分布図(C)の温度スケールを示している。
温度分布が主にストライプと直交する方向に非一様であるため、照射レーザ光の吸収が起こっている部位と、熱電対による測定にはズレが生じている。
【0050】
図11は、トレー単体を模擬した数値計算による一回目のステップ状加熱過程での温度変化曲線の説明図で、(A)はトレー表面中央、(B)はトレー底面の熱電対端子30装着位置付近での温度変化を示している。ここで、w/o Coolingは、熱収支数値計算において、熱放射、熱伝達ともなし(冷却なし)、w/ Radiation & Transferは、熱放射、熱伝達とも考慮する場合を示している。なお、実験値からの熱伝達率の推定値は98W/(m
2・K)となっている。
トレー表面中央では、照射レーザ光の照射時間、例えばデフォーカスの照射レーザ光のビーム径が0.44mm、走査速度が20m/sとすると、照射レーザ光のビーム径程度の範囲を22μs程度で通過している。そこで、熱収支数値計算において、熱放射、熱伝達ともに考慮しない場合、トレー表面中央では最高温度が89℃程度に到達するが、照射レーザ光が通過すると温度が下降し始め、1秒以内に50℃程度まで低下する。これに対して、トレー底面の熱電対端子30装着位置付近では最高温度が49℃程度に到達し、照射レーザ光が通過すると温度が下降し始めるものの、1秒経過しても48℃以上を保持している。どちらも照射レーザ光の通過から約3秒間の区間は温度の時間変化が見られ、レーザ光の通過終了から約3秒経過後は、トレー表面中央及びトレー底面での温度は、同じ47.5℃程度まで低下しほぼ平坦となる。そして、熱収支数値計算において、熱放射、熱伝達ともに考慮すると、考慮しない場合よりも迅速に温度が下降する。
【0051】
図12は、トレー単体を模擬した数値計算による一回目のステップ状加熱過程を10回繰り返した場合での温度変化曲線の説明図で、(A)はトレー表面中央、(B)はトレー底面の熱電対端子30装着位置付近での温度変化を示している。ここで、w/o Coolingは、熱収支数値計算において、熱放射、熱伝達ともなし(冷却なし)である。w/ Radiation & Transferは、熱放射、熱伝達とも考慮している。
【0052】
図13は、
図12(B)において数値計算による冷却なし『w/o Cooling』の場合での各照射間での温度差ΔTの時間変化の説明図で、局所値の極大値と極小値のそれぞれから求めた値を示している。
レーザ光の照射開始から3秒間の区間は、各照射間での温度差ΔTの時間変化が急変しており、レーザ光の照射開始から3秒経過後の区間の数値のように平坦ではない。そこで、加熱初期での過渡現象の影響がなくなる区間を抽出すればよいと考えて、このレーザ光の照射開始から3秒間の区間を除去して再度計算し直した。
【0053】
図14は各ステップ状加熱過程の条件において、加熱初期での過渡現象の影響がなくなる区間を抽出して、吸収率A(T)を求めた図で、(A)はトレー単体の場合、(B)はトレーに粉体を載荷した場合を示している。
吸収率A(T)は、トレー単体の場合で0.35~0.40、トレーに粉体を載荷した場合で0.61~0.66であるが、温度が80℃以下の比較的低温側でも温度が80℃以上の比較的高温側の結果と同じ程度であり、揺らぎが解消されている。
【0054】
なお、上記の実施の形態においては、金属トレー63の中央部にトレー凹部63aを設けて、このトレー凹部63aに金属粉末試料62が堆積される場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、トレーのみを用いてトレーの材料のレーザ光吸収率測定を行うようにしてもよい。この場合、金属粉末試料を用いる必要はない。
また、上記の実施の形態においては、金属粉末試料のレーザ光吸収率測定をする場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、試料となる粉末の材料は、3D造形に用いられるセラミックスやプラスチック等の材料であってもよい。
本発明の3D造形用レーザ光吸収率測定装置および方法は、最近普及の進んでいるレーザ積層造形装置を活用し、その使用レーザ光に対する3D造形用材料による吸収率の温度依存性を、その積層造形装置で設定できる環境下で3D造形用材料のレーザ光吸収率測定をすることが出来る。