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特開2023-77765抗アレルゲン性を有する繊維材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077765
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】抗アレルゲン性を有する繊維材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/238 20060101AFI20230530BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20230530BHJP
【FI】
D06M13/238
D06M101:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191179
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】390014487
【氏名又は名称】住江織物株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮村 佳成
(72)【発明者】
【氏名】秋山 裕義
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC10
4L033BA21
(57)【要約】
【課題】
天然繊維はもちろんのこと、柿渋成分が固着し難いポリエステル系繊維等の合成繊維からなる繊維材料に対しても柿渋成分を固着させることができ、高い抗アレルゲン性能を付与することができ、なおかつ光による変色や退色を目立ちにくい繊維材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
柿渋粉末を水に溶解させた柿渋処理液を調製する工程、繊維材料に柿渋処理液に浸漬させる工程、繊維材料を浸漬させた柿渋処理液を35℃~105℃まで昇温する工程、柿渋処理液の温度を35℃~105℃に保持することで繊維材料に抗アレルゲン性を付与する。また柿渋処理液中の柿渋粉末濃度を0.05%owf~2%owfにすることで、繊維材料に色が付きにくくなるため、光による変色・退色が目立ちにくい繊維材料になる。
【選択図】なし





【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法であって、
柿渋粉末を水に溶解させて柿渋処理液を調製する工程(調製工程)と、
繊維材料を前記柿渋処理液に浸漬する工程(浸漬工程)と、
繊維材料を前記柿渋処理液に浸漬させた状態で柿渋処理液の温度を35℃~105℃まで昇温する工程(昇温工程)と、
前記昇温工程において35℃~105℃まで昇温させた状態で、前記柿渋処理液の温度を保持する工程(処理工程)と、
を順に行い、前記柿渋処理液中の柿渋粉末の濃度は0.05%owf~2%owfであることを特徴とする、抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法。
【請求項2】
前記柿渋粉末は、主成分が柿果実から抽出した水溶性カキタンニンであり、水に沈殿することなく溶解することを特徴とする、請求項1に記載の抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法。
【請求項3】
前記繊維材料は、ポリエステル系繊維からなる請求項1又は2に記載の抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法。
【請求項4】
水溶性カキタンニンが繊維材料の表面に固着されていることを特徴とする、抗アレルゲン性を有する繊維材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然由来の材料である柿渋を用いて、繊維材料に抗アレルゲン性能を付与する方法及び、抗アレルゲン性能を付与した繊維材料に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋の中にはハウスダストやダニ、花粉、ペットの毛などアレルギーを引き起こす原因となるアレルゲンが多く存在し、居住者がこれらアレルゲンによって、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を多く発症しており、従来より問題となっている。
【0003】
これらのアレルゲンへの対策としては、空気清浄機やエアコンのフィルターでアレルゲンを除去する方法や、アレルゲンを不活性化する方法などが挙げられる。
【0004】
しかし、空気清浄機やエアコンのフィルターで取り除くことができるのは、空気中に舞うアレルゲンのみであり、床や壁、あるいはソファーやカーテンなどの表面に付着したアレルゲンは除去することができなかった。また空気清浄機、エアコンはいずれもフィルター交換を行った際に、アレルゲンが再飛散してしまうという問題もあった。そのため近年では、材料表面に抗アレルゲン加工を施して、材料表面に付着したアレルゲンを不活性化する製品が多く存在する。
【0005】
前述した背景の中でアレルゲンを不活性化する天然由来の材料として柿渋が注目されている。柿渋は、柿の果実を粉砕し、圧搾して得られた汁液を発酵させたものでタンニンやシブオールを多量に含む、発酵によって生じた酢酸や酪酸の臭気を有する赤褐色の半透明の液で、古くから防腐剤や塗料、補強材として用いられてきた。
【0006】
柿渋には、ポリフェノールの一種であるカキタンニンが多く含まれている。近年の研究では、柿渋に含まれるカキタンニンには、消臭性、抗菌性、抗ウイルス性、抗アレルゲン性など、様々な効果があることがわかってきた。これらの機能性を有する柿渋を繊維材料に固着させることで、機能性を付与しようとする試みは従来から行われている。
【0007】
例えば、特許文献1では、植物繊維を柿渋液とナノ銀溶液を混合した染色液を用いて浸漬法で柿渋染めし、抗菌性を付与した繊維製品が記載されている。
【0008】
しかし柿渋染めで機能性を付与しようとした時に対象となる繊維は、ほとんどが綿や麻などのセルロース系といった天然繊維であり、特許文献1においても植物繊維を対象にしている。一方で、セルロース系繊維と同様に汎用繊維であるポリエステル系の合成繊維は吸湿性が低く疎水性であるため、ポリエステル系の合成繊維を対象にし、柿渋を含む一般的な天然染料を用いて機能加工を試みた場合、染料がほとんど固着せず、柿渋由来の性能を付与することが困難だった。
【0009】
また柿渋自身の耐光性が低いため、柿渋を繊維材料の機能加工に用いた場合、柿渋加工を施した繊維材料が光によって変色・退色し、色の変化が目立ってしまうといった課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-128614号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる技術的背景を鑑みて、天然繊維はもちろんのこと、柿渋成分が固着し難いポリエステル系繊維等の合成繊維からなる繊維材料に対しても柿渋成分を固着させることができ、高い抗アレルゲン性能を付与することができ、なおかつ光による変色や退色が目立ちにくい繊維材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、[1]~[4]の構成からなる。
【0013】
[1]抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法であって、
柿渋粉末を水に溶解させて柿渋処理液を調製する工程(調製工程)と、
繊維材料を前記柿渋処理液に浸漬する工程(浸漬工程)と、
繊維材料を前記柿渋処理液に浸漬させた状態で柿渋処理液の温度を35℃~105℃まで昇温する工程(昇温工程)と、
前記昇温工程において35℃~105℃まで昇温させた状態で、前記柿渋処理液の温度を保持する工程(処理工程)と、
を順に行い、また前記柿渋処理液中の柿渋粉末の濃度は0.05%owf~2%owfであることを特徴とする、抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法。
【0014】
[2]前記柿渋粉末は、主成分が柿果実から抽出した水溶性カキタンニンであり、水に沈殿することなく溶解することを特徴とする、前項1に記載の抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法。
【0015】
[3]前記繊維材料は、ポリエステル系繊維からなる前項1又は2に記載の抗アレルゲン性を有する繊維材料の製造方法。
【0016】
[4]水溶性カキタンニンが繊維材料の表面に固着されていることを特徴とする、抗アレルゲン性を有する繊維材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法を用いることで、天然繊維で構成される繊維材料はもちろん、一般的に柿渋成分が固着し難いポリエステル系繊維等の合成繊維からなる材料に対しても柿渋成分を固着させることができるので、高い抗アレルゲン性能を有し、また光による変色・退色が目立ちにくい繊維材料を提供することができる。以下に本発明について詳述する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、柿渋粉末を含む処理液(本明細書中では、これを「柿渋処理液」と記述する)を使用し、調製工程、浸漬工程、昇温工程、処理工程の4つの工程を順に行うことで、処理を行う。(本明細書中では、本発明の方法で繊維材料に処理を施すことを「柿渋処理」と記述する)
【0019】
調製工程は、水に柿渋粉末を溶解させた柿渋処理液の調製を行う工程である。この調製工程で調製する柿渋処理液には、柿渋粉末の他に必要に応じて適宜助剤を添加してもよい。浸漬工程は、調製工程で作製した柿渋処理液に、処理したい繊維材料を浸漬させる工程である。昇温工程は、浸漬工程で繊維材料を柿渋処理液に浸漬した状態で加熱し、35℃~105℃(以下、処理温度と記載する)まで昇温する工程である。処理工程は、昇温工程で昇温させた繊維材料が浸漬している柿渋処理液の温度を35℃~105℃の処理温度で保持し、繊維材料に柿渋を固着させる工程である。
【0020】
本発明の第一の特徴は、処理液に使用する柿渋粉末は主成分が水溶性カキタンニンであるため、柿渋粉末は水に沈殿することなく溶解することが特徴である。そのため柿渋処理液は容易に調製することができ、本発明の柿渋処理を施すことで繊維材料に高い抗アレルゲン性能を付与することができる。
【0021】
ここでカキタンニンについて、さらに詳しく説明する。カキタンニンは一般的に、強烈な渋みを有する水溶性カキタンニンと、この水溶性カキタンニンにアルコールやアルデヒドが結合し、水に不溶となる不溶性カキタンニンに分けられる。水溶性カキタンニンが不溶性カキタンニンに変わることを「脱渋」という。柿渋が抗アレルゲン性能を始め、消臭性や抗菌性、抗ウイルス性に効果があるのは、この水溶性カキタンニンの持つフェノール性水酸基の生理活性の高さに起因するものと考えられている。この水溶性カキタンニンは、渋柿に多く含まれており、渋柿を食べたときに強烈な渋みを感じるのは、この水溶性カキタンニンによるものである。
【0022】
不溶性カキタンニンは前述したフェノール性水酸基がアルコールやアルデヒドと反応し、生理活性のあるフェノール性水酸基の量が減少しているが、水溶性カキタンニンは生理活性が高いフェノール性水酸基を豊富に含んでいるため、高い抗アレルゲン性能を持つ。本発明では柿渋粉末の主成分として水溶性カキタンニンを含有するため、この柿渋処理液で繊維材料を処理することによって前述した水溶性カキタンニンが繊維材料の表面に固着し、高い抗アレルゲン性能を持つ繊維材料となる。またこの水溶性カキタンニンが主成分となる柿渋粉末は水に沈殿することなく溶解するため容易に柿渋処理液の調製することができ、天然繊維はもちろんポリエステルのような合成繊維に対しても水溶性カキタンニンを固着させることができ、そのため高い抗アレルゲン性能を有する繊維材料となる。
【0023】
本発明の第二の特徴は、処理工程における柿渋処理液の処理温度が35℃~105℃であることである。35℃未満で処理を行うと、柿渋成分を繊維材料に十分に固着できず、十分な抗アレルゲン性能を繊維材料に付与することができないため好ましくない。また柿渋処理液の温度が105℃を超えると柿渋処理液中の水溶性カキタンニンが繊維材料内部にまで浸透し、繊維材料表面に固着する水溶性カキタンニンの量が減少するため、繊維材料に高い抗アレルゲン性を付与することができず好ましくない。
【0024】
本発明の第三の特徴は、柿渋粉末の濃度が0.05%owf~2%owfの柿渋処理液で繊維材料の柿渋処理を行うことである。柿渋処理液中の柿渋粉末の濃度が0.05%owf未満であれば、繊維材料に十分な抗アレルゲン性能を付与することができないため、好ましくない。また柿渋処理液中の柿渋濃度が2%owfを超える場合は、繊維材料に高い抗アレルゲン性能を付与することはできるが、柿渋処理を施した繊維材料自身の色が濃色になり、光による変色・退色が目立ちやすくなるため好ましくない。柿渋処理液中の柿渋粉末の濃度を0.05%owf~2%owfになるように調製し加工を行うことにより、繊維材料に高い抗アレルゲン性能を付与することができ、なおかつ柿渋処理した繊維材料に色が付きすぎないため、光による変色・退色が目立ちにくい繊維材料を製造することができる。
【0025】
本発明の方法で処理することができる繊維材料は、例えば、柿渋を始めとする一般的な天然染料で染色可能な繊維、例えば、綿、麻などのセルロース系繊維を含む天然繊維、またはシルク、羊毛などの動物繊維が挙げられる。またポリエステル系の繊維材料に対して本発明の処理方法は好ましく使用することができ、高い抗アレルゲン性能を有し、光による変色・退色が目立ちにくい繊維材料となる。
【0026】
本発明の方法で処理できる繊維材料の形状は、特に限定されず、例えば糸の形状であっても、布帛(織物、編物、不織布など)の形状でも処理することができる。処理方法は、一般的な浴中染色(浸漬法)ができる方法であれば、特に限定されない。例えば、糸染めであれば、かせ染めやチーズ染めなどの方法で処理することができ、布帛の形状であれば液流染色機、ドラム型染色機、ウインス染色機、ジッカー染色機、ビーム型染色機などで本発明の処理を行うことが可能である。
【0027】
本発明で使用される柿渋粉末は、一般的には未熟な渋柿の果実を粉砕して得られた果汁液を発酵させ、水溶性カキタンニンを含む赤褐色の液を凍結乾燥することで得ることができる。発酵させる方法は、自然発酵法やアルコール発酵法などの周知の方法を用いることができる。
【0028】
柿渋粉末の製造方法としては、例えば奈良県の製造方法が挙げられる。(特許4500078号)。奈良県の製造方法で製造した柿渋粉末は、水溶性カキタンニンの純度を高くすることができるため、水に沈殿することなく溶解し柿渋処理液を容易に調製することができ、そのため本発明の方法で処理することにより水溶性カキタンニンに起因する高い抗アレルゲン性能を有する繊維材料を製造できるため、特に好ましい。
【0029】
また繊維材料と柿渋処理液の浴比は特に限定されないが、例えば一般的な染色の浴比である1:5~1:100が好ましい。浴比が1:5未満であると、柿渋処理液が充分に繊維材料に浸漬しないため、十分な抗アレルゲン性能を付与することができず好ましくない。また浴比が1:100を超えても本発明の柿渋処理は可能であるが、繊維材料に処理を行った後、廃棄する柿渋処理液の量が増えるため好ましくない。
【0030】
昇温工程における柿渋処理液の温度の昇温速度は特に限られたものではなく、処理を行う繊維材料の性質や生産性を考慮して適宜調整することができる。
【0031】
また処理工程における柿渋処理液の保持時間は20分~60分が好ましい。ここでいう保持時間は、柿渋処理液温度が35℃~105℃の処理温度に到達してからの経過時間をさす。処理工程における柿渋処理液温度の保持時間が20分未満であれば、繊維材料の表面に柿渋成分を固着させることができず、繊維材料に十分な抗アレルゲン性能を付与することができないので好ましくない。また処理工程における柿渋処理液温度の保持時間が60分を超える場合は、繊維材料の内部にまで水溶性カキタンニンが浸透してしまうため繊維材料表面の水溶性カキタンニンの量が減少し、繊維材料に十分な抗アレルゲン性能を付与することができないので好ましくない。
【0032】
(実施例)
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
今回、柿渋処理する繊維材料として、ポリエステルトロピカル布帛(目付158g/m2)(以下、ポリエステル布帛と記載する)を使用した。ポリエステル布帛を所定重量になるようにカットした。
【0034】
[調整工程]今回、布帛の処理に使用する柿渋粉末は、奈良県の特許製法(第4500078号)で、ナガラ柿から水溶性カキタンニンを抽出し、その水溶液を凍結乾燥することにより得られた柿渋粉末(主成分が水溶性カキタンニンであり、沈殿せず水に溶解する)を使用した。柿渋処理液中の柿渋粉末が2%owf、浴比が1:10となるように蒸留水を加えスターラーで1時間撹拌し、これを柿渋処理液とした(調製工程)。
【0035】
[浸漬、昇温、処理工程]
柿渋処理工程では、MINI-COLOR(株)テクサム技研)を使用した。一般的な浴中処理ができる方法であれば、加工機は限定されない。MINI-COLOR用の染色ポッドに所定重量にカットしたポリエステル布帛を入れ、前記調製工程で調製した柿渋処理液を加え、ポリエステル布帛を浸漬した(浸漬工程)。次に染色ポッドをMINI-COLORにセットし、ポリエステル布帛を柿渋処理液に浸漬させた状態で常温(約20℃)から2℃/分の昇温速度で昇温した(昇温工程)。柿渋処理液の温度が80℃に到達した後、柿渋処理液の温度を80℃の状態で30分間保持して、ポリエステル布帛に固着させた(処理工程)。最後に染色ポッドを急冷し、染色ポッドからポリエステル布帛を取り出し、ポリエステル布帛を水洗、熱乾燥し、柿渋成分を固着させたポリエステル布帛(下記、柿渋処理を施したこの布帛を「柿渋処理布帛」と記載する)を作製した。
【0036】
<ELISA法による抗アレルゲン性評価>
ELISA法のサンドイッチ法で評価を行った。使用したアレルゲンはスギである。
生成した発色物質の吸光度を吸光度計で読み取り、濃度既知の標準試薬を用いて作成した標準曲線から、サンプル中のアレルゲン量を定量して、アレルゲン低減化率を算出し、アレルゲン低減率80%以上を◎(合格)、70%以上80%未満を〇(合格)、70%未満を×(不合格)とした。
【0037】
上記実施例1の方法で作製した柿渋処理布帛のELISA法によるアレルゲン低減化率は84.4%となり、抗アレルゲン性能評価は◎であった。
【0038】
<柿渋処理布帛の耐光性評価>
JIS L 0842(2004)の紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅牢度試験(63℃、48時間)にて、柿渋処理を施した前記柿渋処理布帛の耐光性を評価した。グレースケールを用いて評価し、4級以上を〇(合格:光による変色・退色が目立ちにくい)、4級未満を×(不合格:光による変色・退色が目立ちやすい)とした。
【0039】
上記実施例1の方法で作製した柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は、4-5級となり、耐光性評価は〇となった。またこの柿渋処理布帛の抗アレルゲン性評価は◎、耐光性評価は〇となったため、実施例1の方法で作製した柿渋処理布帛は高い抗アレルゲン性能を有し、光による変色・退色が目立ちにくいため、総合評価は〇(合格)とした。
【0040】
<実施例2>
柿渋の処理温度を80℃→40℃と変更し、柿渋処理液中の柿渋濃度を2%owf→0.05%owfと変更した以外は実施例1と同様の処理方法でポリエステル布帛に対し、柿渋処理を行った。
この方法で作製した柿渋処理布帛のアレルゲン低減化率は87.8%となり、抗アレルゲン性能評価は◎であった。またこの柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は5級となり、耐光性評価は〇となった。よって、実施例2で作製した柿渋処理布帛の総合評価は〇(合格)であった。
【0041】
<実施例3>
柿渋の処理温度を80℃→100℃と変更し、柿渋処理液中の柿渋濃度を2%owf→1%owfと変更した以外は実施例1と同様の処理方法でポリエステル布帛に対し、柿渋処理を行った。この方法で作製した柿渋処理布帛のアレルゲン低減化率は90.1%となり、抗アレルゲン性能評価は◎であった。またこの柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は4級となり、耐光性評価は〇となった。よって、実施例3で作製した柿渋処理布帛の総合評価は〇(合格)であった。
【0042】
<比較例1>
前記記載の柿渋処理液に、ポリエステル布帛を常温(約20℃)で24時間浸漬した。その後、柿渋処理液からポリエステル布帛を取り出し、水洗し、自然乾燥した。この方法で作製した柿渋処理布帛のアレルゲン低減化率が60.4%となり、抗アレルゲン性能評価は×であった。またこの柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は2-3級となり、耐光性評価は×となった。よって、比較例1で作製した柿渋処理布帛の総合評価は×(不合格)であった。
【0043】
<比較例2>
柿渋処理液中の柿渋濃度を2%owf→0.01%owfとした以外は実施例1と同様の処理方法でポリエステル布帛に対し、柿渋処理を行った。この方法で作製した柿渋処理布帛のアレルゲン低減化率が65.3%となり、抗アレルゲン性能評価は×であった。またこの柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は5級となり、耐光性評価は〇であった。よって、比較例2で作製した柿渋処理布帛は、耐光性は〇であったが抗アレルゲン性能が低く、総合評価は×(不合格)であった。
【0044】
<比較例3>
柿渋処理液中の柿渋濃度を2%owf→3%owfとした以外は実施例1と同様の処理方法でポリエステル布帛に対し、柿渋処理を行った。
この方法で作製した柿渋処理布帛のアレルゲン低減化率が92.1%となり、抗アレルゲン性能評価は◎であった。しかしこの柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は2級となり、耐光性評価は×であった。よって、比較例3で作製した柿渋処理布帛の総合評価は×(不合格)であった。
【0045】
<比較例4>
柿渋処理液の処理温度を80℃→130℃に変更し、柿渋処理液中の柿渋濃度を2%owf→0.1%owfとした以外は実施例1と同様の処理方法でポリエステル布帛に対し、柿渋処理を行った。
この方法で作製した柿渋処理布帛のアレルゲン低減化率が57.2%となり、抗アレルゲン性能評価は×であった。またこの柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は3-4級となり、耐光性評価は×であった。よって、比較例4で作製した柿渋処理布帛の総合評価は×(不合格)であった。
【0046】
<比較例5>
柿渋処理液の処理温度を80℃→130℃に変更し、柿渋処理液中の柿渋濃度を2%owf→3%owfとした以外は実施例1と同様の処理方法でポリエステル布帛に対し、柿渋処理を行った。
この方法で作製した柿渋処理布帛のアレルゲン低減化率が65.6%となり、抗アレルゲン性能評価は×であった。またこの柿渋処理布帛の耐光性のグレースケール評価は2級となり、耐光性評価は×であった。よって、比較例5で作製した柿渋処理布帛の総合評価は×(不合格)であった。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1~3の方法で製造した柿渋処理布帛は、高い抗アレルゲン性能を有し、なおかつ光による変色・退色が目立ちにくい布帛になるという結果になった。しかし比較例1のように常温(約20℃)で24時間処理液に浸漬させた場合、抗アレルゲン性能が低く不合格となった。したがって、20℃の条件で24時間、柿渋処理液にポリエステルの繊維を浸した場合は柿渋中の水溶性カキタンニンが繊維材料の表面に十分に固着せず、十分な抗アレルゲン性能が付与できなかったと考えられる。また比較例2は処理温度を実施例1と同じ80℃で、柿渋処理液中の柿渋濃度が少ない場合であるが、水溶性カキタンニンが十分に繊維材料の表面に固着できず、抗アレルゲン性能が低くなり、不合格であった。
【0049】
また比較例3は、処理温度80℃という条件は実施例1と同じにして、柿渋処理液中の柿渋濃度を高めた場合であるが、この場合本発明の方法で処理したポリエステル布帛は高い抗アレルゲン性能を発揮するが、柿渋処理した布帛の色が濃色になり、光による変色・退色が目立つようになり、不合格となった。
【0050】
また比較例4と5のように処理温度を130℃にした場合は、柿渋処理液の柿渋濃度に依らず抗アレルゲン性が低くなるという結果になり不合格となった。130℃という温度はポリエステルの結晶に隙間ができる温度であるため、柿渋中の水溶性カキタンニンがポリエステル繊維の内部まで浸透し、ポリエステル布帛表面の水溶性カキタンニンの量が減少してしまうため、抗アレルゲン性能が低下していることが考えられる。
【0051】
したがって、本発明のように水溶性カキタンニンを主成分に含む柿渋処理液に繊維材料を浸漬し、35℃~105℃の処理温度で処理することで、生理活性の高い水溶性カキタンニンの繊維材料内部への浸透を抑制することができ、繊維材料表面により多くの水溶性カキタンニンを固着させることができるため、高い抗アレルゲン性能をもつ繊維材料を製造することができる。なおかつ、柿渋処理液中の柿渋濃度を0.05%owf~2%owfの特定の範囲として繊維材料に処理を行うことにより、高い抗アレルゲン性能を繊維材料に付与しながらも、繊維材料自身に色を付きにくくすることができるため、光による変色・退色が目立ちにくい繊維材料を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、高い抗アレルゲン性能を有し、なおかつ光による変色・退色が目立ちにくくなる繊維材料及びその製造方法を提供するもので、利用される分野は屋内に使用されるインテリア商材に限らず、繊維材料への機能性付与の方法として広く利用されうる。