(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077785
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】電動圧縮機及び製造方法
(51)【国際特許分類】
F04B 39/12 20060101AFI20230530BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
F04B39/12 F
F04B39/00 106C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191223
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】今西 岳史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄史
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB05
3H003AC03
3H003CD00
3H003CE02
3H003CE03
3H003CF04
(57)【要約】
【課題】冷凍効率の低下を抑制しつつ、小型化が可能な電動圧縮機を提供する。
【解決手段】電動圧縮機100は、モータ200と、モータ200の回転によって駆動され、冷媒を圧縮する圧縮部101と、冷媒が充填される内部空間を有し、内部空間にモータ200及び圧縮部101を内蔵するケース107と、ケース107と連結されることで、内部空間を覆うカバー109と、を備え、ケース107とカバー109とは、ボルト141と、ケース107に形成された連結部140であって、ボルト141が螺入されるボルト穴142を有する連結部140とにより連結され、連結部140の少なくとも一部は、内部空間の内側に向けて突出し、ケース107は、ボルト穴142と内部空間とを連通する連通部(陥入部137)を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転によって駆動され、冷媒を圧縮する圧縮部と、
前記冷媒が充填される内部空間を有し、前記内部空間に前記モータ及び前記圧縮部を内蔵するケースと、
前記ケースと連結されることで、前記内部空間を覆うカバーと、を備え、
前記ケースと前記カバーとは、ボルトと、前記ケースに形成された連結部であって、前記ボルトが螺入されるボルト穴を有する連結部とにより連結され、
前記連結部の少なくとも一部は、前記内部空間の内側に向けて突出し、
前記ケースは、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する連通部を有する
電動圧縮機。
【請求項2】
前記連通部は、前記ボルト穴の深さ方向における、螺入された前記ボルトの先端位置よりも底部側において、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する
請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記連通部は、前記ボルト穴の底部において、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する
請求項2に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記ケースと前記カバーとは、2以上の前記ボルトと、2以上の前記ボルトが螺入される前記ボルト穴をそれぞれが有する2以上の連結部とにより連結され、
前記連通部は、前記内部空間の外側に向けて陥入した陥入部であって、2以上の前記連結部の並び面に平行な仮想面において円形断面を有する陥入部からなり、
前記陥入部の前記円形断面の円周部が前記ボルト穴に接続されている
請求項1~3のいずれか1項に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記陥入部は、旋削により形成された旋削痕を有する
請求項4に記載の電動圧縮機。
【請求項6】
さらに、前記内部空間に内蔵される内部部品を有し、
前記陥入部は、前記カバー側から見た前記内部空間の奥側に、前記内部部品を係止する係止面を有する
請求項4又は5に記載の電動圧縮機。
【請求項7】
モータと、
前記モータの回転によって駆動され、冷媒を圧縮する圧縮部と、
前記冷媒が充填される内部空間を有し、前記内部空間に前記モータ及び前記圧縮部を内蔵するケースと、
前記ケースと連結されることで、前記内部空間を覆うカバーと、を備え、
前記ケースと前記カバーとは、ボルトと、前記ケースに形成された連結部であって、前記ボルトが螺入されるボルト穴を有する連結部とにより連結され、
前記連結部の少なくとも一部は、前記内部空間の内側に向けて突出している電動圧縮機の製造方法であって、
前記ケースに、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する連通部を形成するステップを含む
製造方法。
【請求項8】
前記ケースと前記カバーとは、2以上の前記ボルトと、2以上の前記ボルトが螺入される前記ボルト穴をそれぞれが有する2以上の連結部とにより連結され、
前記連通部は、前記内部空間の外側に向けて陥入した陥入部であって、2以上の前記連結部の並び面に平行な仮想面において円形断面を有する陥入部からなり、
前記連通部を形成するステップでは、前記陥入部を旋削により形成する
請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動圧縮機、及び、当該電動圧縮機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の用途に用いられる電動圧縮機が知られている。例えば、特許文献1には、各種の駆動部分を支持する軸受が配置された空間に向けて延びる通路が設けられており、当該通路を介して供給される潤滑油により、各軸受において良好な潤滑性が確保される電動圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動圧縮機の適用先の要件によっては、電動圧縮機の小型化が必要になる場合がある。一方で、電動圧縮機を小型化する際に、その冷凍効率が低下する場合がある。
【0005】
そこで、本開示は、冷凍効率の低下を抑制しつつ、小型化が可能な電動圧縮機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動圧縮機は、モータと、前記モータの回転によって駆動され、冷媒を圧縮する圧縮部と、前記冷媒が充填される内部空間を有し、前記内部空間に前記モータ及び前記圧縮部を内蔵するケースと、前記ケースと連結されることで、前記内部空間を覆うカバーと、を備え、前記ケースと前記カバーとは、ボルトと、前記ケースに形成された連結部であって、前記ボルトが螺入されるボルト穴を有する連結部とにより連結され、前記連結部の少なくとも一部は、前記内部空間の内側に向けて突出し、前記ケースは、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する連通部を有する。
【0007】
また、本開示の一態様に係る製造方法は、モータと、前記モータの回転によって駆動され、冷媒を圧縮する圧縮部と、前記冷媒が充填される内部空間を有し、前記内部空間に前記モータ及び前記圧縮部を内蔵するケースと、前記ケースと連結されることで、前記内部空間を覆うカバーと、を備え、前記ケースと前記カバーとは、ボルトと、前記ケースに形成された連結部であって、前記ボルトが螺入されるボルト穴を有する連結部とにより連結され、前記連結部の少なくとも一部は、前記内部空間の内側に向けて突出している電動圧縮機の製造方法であって、前記ケースに、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する連通部を形成するステップを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電動圧縮機によれば、冷凍効率の低下を抑制しつつ、そのサイズを小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る電動圧縮機の分解斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る電動圧縮機を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る電動圧縮機の製造方法及び冷凍サイクルへの組み込み方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に至った経緯)
電動圧縮機は、様々な用途に用いられ、例えば、車載用の空気調和装置の冷却装置として使用される。このような電動圧縮機では、筐体の内部に電動のモータと、当該モータの回転駆動によって低温を媒介する媒質(言い換えると、冷媒)の圧縮を行う圧縮部とが内蔵されている。背景技術の欄において説明したように、電動圧縮機の適用先の要件によっては、電動圧縮機のサイズを小型化する必要がある。ここで、電動圧縮機を製造する際、上記のように、モータ及び圧縮部を内蔵する必要がある。このため、一般的に電動圧縮機を構成する外郭部分は、モータ及び圧縮部を内蔵するための内部空間から、モータ及び圧縮部が通過可能な大きさで外部に開口した第1筐体と、モータ及び圧縮部を内蔵した後に第1筐体に連結させることで開口を閉塞させて内部空間を密閉状態にする第2筐体との2つの筐体から構成される。
【0011】
第1筐体と第2筐体とを連結するには、ボルト穴を有する連結部(ボルト穴の空洞とその周囲のバルク部分とを含む)にボルトを螺入させて互いに締結するという手法が用いられる。ボルト及びボルト穴は、通常、第1筐体と第2筐体との接触面に直交する方向が長手方向となるように設けられる。そして、ボルト及びボルト穴の長手方向を筐体の表面に平行な方向とすることで、内部空間及び外部のいずれにも比較的突出が生じない電動圧縮機を実現できる。ただし、ボルト穴の強度を確保するという観点で、連結部の特にバルク部分は、十分な肉厚を有する。このため、連結部は、筐体の他の部分に比べて比較的大きな厚みが必要となる。
【0012】
モータ及び圧縮部を大型化する場合、電動圧縮機の内部空間を広く確保する必要がある。この場合には、筐体の外部に連結部を突出させるようにして連結部に必要な厚みを確保することができる。つまり、ボルト穴の短手方向における連結部の少なくとも一部を筐体の外部に向けて突出させて、連結部に十分な厚みを持たせることができる。一方で、このような筐体の外側への突出は、電動圧縮機の小型化の観点で適切ではない。電動圧縮機を小型化する場合、このような筐体の外部ではなく、内部空間の内側に向けて連結部を突出させるようにして連結部に必要な厚みを確保すればよい。つまり、ボルト穴の短手方向における連結部の少なくとも一部を内部空間の内側に向けて突出させて、連結部に十分な厚みを持たせることができる。
【0013】
ただし、電動圧縮機では、第1筐体及び第2筐体の間での内部空間の密閉性の確保のために、2つの筐体間にガスケットを挟持させることが多い。ガスケットには、第1筐体と第2筐体との接触面に沿って、開口を一周するビードが設けられている。ビードは、第1筐体と第2筐体との接触面に沿う平板状のガスケットの主面から面外方向(つまり、第1筐体と第2筐体との接触面に交差する方向)に突出させた、開口の周に対応して延びる凸起状である。ガスケットを挟持することで、第1筐体と第2筐体とによりこのビードをつぶして、第1筐体及び第2筐体の間にガスケット以外の隙間が生じにくくなる。
【0014】
ガスケットには、ボルトが挿通されるための孔が設けられているので、ビードは、この孔を避けて延びている。上記のようにビードをつぶすことができるだけの締結力を付与する必要があるが、ビードの延伸長さが長いほど、より強い締結力を付与しなければならない。このように強い締結力を付与することは、製造品質管理の観点で好ましくなく、ビードの延伸長さを可能な限り短くする必要がある。上記のように、連結部を内部空間の内側に向けて突出させる構成では、ビードの延伸長さを最短にするためには、ボルトが挿通されるための孔よりも外側をビードが延びている必要がある。すると、ボルトが挿通されるための孔は、ビードよりも内部空間側に位置することとなり、当然、連結部のボルト穴もビードよりも内部空間側に位置することとなる。
【0015】
このとき、ボルト穴には、ボルトが螺入された後も空洞が残っており、この空洞には、組み立て環境における空気が閉じ込められる。そして、電動圧縮機を使用している間に徐々に内部空間に空気が漏れ出てくるため、電動圧縮機が適用された冷凍サイクル内に冷媒以外の空気が混入してしまう。この空気は、不凝縮ガスであるので、冷凍効率を低下させる要因となる。
【0016】
本開示では、連結部を内部空間の内側に向けて突出させる小型化可能な構成の電動圧縮機において、上記のような冷凍効率の低下を抑制する電動圧縮機、すなわち、冷凍効率の低下を抑制しつつ、そのサイズを小型化することが可能な電動圧縮機を提供する。
【0017】
(開示の概要)
上記に鑑みて、本開示の一態様に係る電動圧縮機は、モータと、前記モータの回転によって駆動され、冷媒を圧縮する圧縮部と、前記冷媒が充填される内部空間を有し、前記内部空間に前記モータ及び前記圧縮部を内蔵するケースと、前記ケースと連結されることで、前記内部空間を覆うカバーと、を備え、前記ケースと前記カバーとは、ボルトと、前記ケースに形成された連結部であって、前記ボルトが螺入されるボルト穴を有する連結部とにより連結され、前記連結部の少なくとも一部は、前記内部空間の内側に向けて突出し、前記ケースは、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する連通部を有する。
【0018】
このような電動圧縮機では、ボルト穴とケースの内部空間とが連通部によって連通される。電動圧縮機を小型化するために、連結部を内部空間に突出させる構成を採用した際に、内部空間と空間的につながるボルト穴内に、電動圧縮機の組み立て時における空気が残留する場合があり、このような残留空気は、冷凍サイクルに悪影響を及ぼし、例えば、冷凍効率の低下の要因となりうる。上記の構成によれば、ボルト穴内に空気が残留した場合も、内部空間に冷媒を充填する前の真空引きの工程において、連通部を介して残留空気を排出することができる。よって、冷凍効率の低下を抑制しつつ、そのサイズを小型化する構成を採用することが可能な電動圧縮機を実現できる。
【0019】
また、例えば、前記連通部は、前記ボルト穴の深さ方向における、螺入された前記ボルトの先端位置よりも底部側において、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通してもよい。
【0020】
これによれば、ボルト穴に螺入されるボルトの先端よりもボルト穴の内部側、すなわち、ボルト穴の深さ方向における底部側に空気が残留しやすく、ボルトの先端位置よりも底部側において、連通部を介してこのような残留空気を効率的に排出することができる。
【0021】
また、例えば、前記連通部は、前記ボルト穴の底部において、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通してもよい。
【0022】
これによれば、ボルト穴に螺入されるボルトの先端よりもボルト穴の内部側、すなわち、ボルト穴の深さ方向における底部側に空気が残留しやすく、ボルト穴の底部において、連通部を介してこのような残留空気を効率的に排出することができる。また、底部に連通部を設けることで、ボルト穴のメネジ部の有効長を稼ぐことができる。
【0023】
また、例えば、前記ケースと前記カバーとは、2以上の前記ボルトと、2以上の前記ボルトが螺入される前記ボルト穴をそれぞれが有する2以上の連結部とにより連結され、前記連通部は、前記内部空間の外側に向けて陥入した陥入部であって、2以上の前記連結部の並び面に平行な仮想面において円形断面を有する陥入部からなり、前記陥入部の前記円形断面の円周部が前記ボルト穴に接続されていてもよい。
【0024】
これによれば、円形断面を有して内部空間からボルト穴が設けられた外側に向けて陥入した陥入部によって、2以上のボルト穴と内部空間とを連通することができる。このような円形断面を有する陥入部は、例えば、内部空間が円筒形状を有する場合に、当該円筒形状から外側に向けて一様な深さで溝を形成するだけで、ボルト穴と内部空間とを連通することができるので、設計容易性及び加工容易性の観点で有利な連通部によって冷凍効率の低下を抑制しつつ、そのサイズを小型化する構成を採用することが可能な電動圧縮機を実現できる。
【0025】
また、例えば、前記陥入部は、旋削により形成された旋削痕を有してもよい。
【0026】
これによれば、旋削によって、旋削痕を有する陥入部を形成することができる。
【0027】
また、例えば、さらに、前記内部空間に内蔵される内部部品を有し、前記陥入部は、前記カバー側から見た前記内部空間の奥側に、前記内部部品を係止する係止面を有してもよい。
【0028】
これによれば、陥入部の形成とともに、電動圧縮機を組み立てる際に内部空間に係止されることで固定される内部部品の組み込みに利用可能な係止面を形成することができる。つまり、内部部品を固定するための内部空間の加工を、ボルト穴との空間の連通(連通部の形成)とともに行うことができるので、電動圧縮機の製造工程を短縮することができる。
【0029】
また、例えば、本開示の一態様に係る製造方法は、モータと、前記モータの回転によって駆動され、冷媒を圧縮する圧縮部と、前記冷媒が充填される内部空間を有し、前記内部空間に前記モータ及び前記圧縮部を内蔵するケースと、前記ケースと連結されることで、前記内部空間を覆うカバーと、を備え、前記ケースと前記カバーとは、ボルトと、前記ケースに形成された連結部であって、前記ボルトが螺入されるボルト穴を有する連結部とにより連結され、前記連結部の少なくとも一部は、前記内部空間の内側に向けて突出している電動圧縮機の製造方法であって、前記ケースに、前記ボルト穴と前記内部空間とを連通する連通部を形成するステップを含む。
【0030】
これによれば、上記に記載の効果を奏する電動圧縮機を製造することができる。
【0031】
また、例えば、前記ケースと前記カバーとは、2以上の前記ボルトと、2以上の前記ボルトが螺入される前記ボルト穴をそれぞれが有する2以上の連結部とにより連結され、前記連通部は、前記内部空間の外側に向けて陥入した陥入部であって、2以上の前記連結部の並び面に平行な仮想面において円形断面を有する陥入部からなり、前記連通部を形成するステップでは、前記陥入部を旋削により形成してもよい。
【0032】
これによれば、上記に記載の効果を奏する電動圧縮機を製造することができる。
【0033】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の包括的又は具体的な一例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、並びに、ステップ及びステップの順序等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0034】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺などは必ずしも一致していない。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0035】
(実施の形態)
[構成]
図1は、実施の形態に係る電動圧縮機の分解斜視図である。
図1では、本開示の電動圧縮機100の主要な構成要素を分解した状態で簡略化して図示した概念図が示されている。したがって、電動圧縮機100には、さらに各部の補強や構成要素同士を接続するための構造、及び図示しない他の構成要素等が付加されてもよい。
【0036】
図1に示すように、電動圧縮機100は、ケース107(第1筐体)、及びカバー109(第2筐体)に分割される筐体と、筐体内に配置されるモータ200と、固定スクロール111及び旋回スクロール112を有する圧縮部101(後述する
図2参照)と、モータ200の回転軸を支持するための内部部品である軸受部材120と、ケース107及びカバー109に挟み込まれるガスケット108と、を備える。筐体、圧縮部101、ガスケット108、及び、軸受部材120は、例えば、アルミ、ステンレス等の金属及び合金、ならびに強化樹脂等の材料を組み合わせて形成される。なお、
図1の固定スクロール111では、旋回スクロール112との嵌合構成をわかりやすくするために、後述する
図2における排気口125が設けられるディスク部111aの図示を省略している。
【0037】
ケース107には、モータ200及び圧縮部101が内蔵されるための内部空間の大部分が設けられている。この内部空間では、モータ200の回転によって圧縮部101が駆動され、冷媒の圧縮が行われる。ケース107の内部空間は、このようにモータ200を回転可能に収容し、かつ、圧縮部101を駆動可能に収容するとともに、外部からモータ200及び圧縮部101を保護する。
【0038】
モータ200の大部分は、カバー109側から見て内部空間の奥側に収容される。モータ200は、圧縮部101の旋回スクロール112を旋回させるための動力を発生させる。具体的には、モータ200のうち、駆動部201(後述する
図2参照)が、回転力を発生し、軸部202(後述する
図2参照)が回転されることで、旋回スクロール112を旋回させるための動力としてこの回転力が伝達される。以上のようにして、モータ200の発生した回転力によって圧縮部101で冷媒が圧縮される。圧縮された冷媒は、固定スクロール111側からカバー109側へと排気される。
【0039】
カバー109は、ケース107と連結されることで内部空間を覆う筐体の一部である。カバー109内には、固定スクロール111から排気された圧縮後の高温かつ高圧の冷媒が通過するための空間(内部空間の一部)が設けられている。
【0040】
圧縮された冷媒は、電動圧縮機100の吐出口(不図示)から冷凍サイクルへと吐出され、当該冷凍サイクルを循環した後、電動圧縮機100の吸入口(不図示)から吸入される。なお、吐出口及び吸入口の具体的な位置は、特に限定されないが、少なくとも、吐出口がカバー109に設けられ、吸入口がケース107に設けられる。
【0041】
そして、内部空間で圧縮される冷媒の漏れを抑制し、かつ、外部から内部空間への空気の流入を抑制するためにガスケット108が、ケース107とカバー109との間に配置されている。ガスケット108にはビード108aが形成されており、ボルト141(後述する
図2参照)による締結力によってビード108aがつぶされて、内部空間の密閉性が向上されている。ビード108aよりも内部空間側にボルト穴142(後述する
図2参照)が配置される。ボルト穴142は、ケース107の内面に設けられた陥入部143によって、内部空間と連通されている。なお、内部空間と連通しているとは、ケース107とカバー109との接触面(より詳しくは、ガスケット108を介した間接接触面)での、表面粗さによるわずかな空間同士の接続を意図したものではなく、肉眼で確認できる大きさ、例えば、100マイクロメートルよりも大きい断面径を有して空間同士が接続されていることを意図している。
【0042】
以下、電動圧縮機100のより詳細な構成について
図2を用いて説明する。
図2は、実施の形態に係る電動圧縮機を示す断面図である。
図2に示すように、ケース107及びカバー109は、ボルト141のボルト穴142への螺入に伴う締結力によって一体化された筐体を形成する。
【0043】
ここで、軸受部材120は、ケース107の奥側の空間(以下、モータ室121ともいう)に向けて凹む構造を有する。言い換えると、軸受部材120よりも手前側の空間(以下、圧縮室122ともいう)は、モータ室121側に向けて突出するように広がっている。つまり、軸受部材120は、モータ室121と圧縮室122とを隔てる隔壁である。
【0044】
軸受102は、軸受部材120の凹む構造によって広がる空間内に圧入されることで設置される。軸受102は、例えば、ボールベアリングであるが、貫通される軸が回転可能に保持される構成であればこれに限らない。ローラベアリング、又は、軸部202及び筐体との摩擦係数が比較的低い筒状部材が用いられてもよい。また、モータ室121の最も奥側(つまり紙面右側)に副軸受104が設けられている。副軸受104の種類も、軸受102と同様に、任意の構成が用いられる。また、副軸受104の設置方法にも特に限定はないが、一例として、ケース107の内面に設けられたモータ室121の内部に向けて筒形状に突出する箇所に副軸受104が圧入されることで設置される。
【0045】
軸受102と副軸受104とは、貫通される軸の方向が一致しており、これら2つの軸受機構によって、モータ200の軸部202が回転可能に保持されている。また、軸部202を回転させる駆動部201は、ケース107の内面に固定されたコイル211で実現される固定子と、軸部202と一体化された永久磁石212とを有する。軸部202と一体化した永久磁石212によって回転子が形成され、回転子は、固定子であるコイル211への電圧の印加によって回転する。つまり、モータ200は、いわゆるPM同期モータである。また、モータ200の制御は、U相、V相、W相の三相交流によって行われる。
【0046】
軸部202の圧縮室122側の端部は、上記したように、軸受部材120を貫通して軸受102に保持されて圧縮室122の内部に存在する。当該端部には、偏心軸105が設置され、軸部202の回転に応じて軸部202の回転軸を中心に公転する。つまり偏心軸105によって軸部202の回転軸回りに旋回する軌道が形成される。また、偏心軸105は、軸部202を旋回スクロール112に接続するための接続部材106に接続されている。偏心軸105は、一例として、軸部202及び接続部材106のそれぞれに形成された穴に挿入されることでこれらに接続されている。接続部材106は、旋回スクロール112と接続し、偏心軸105とともに旋回する軌道を形成して回転する本体部と、当該本体部と対応して180度ずれて回転するバランスウェイトとが一体形成された構造である。このようにすることで、偏心に伴って発生し得る電動圧縮機100の振動が軽減される。
【0047】
接続部材106の本体部には、駆動軸受103が設けられており、接続部材106の回転を伝達することなく、旋回スクロール112を旋回させる。旋回スクロール112は、ディスク部(紙面上下方向に長尺の箇所)と、当該ディスク部から立設された渦巻き状の壁部(紙面左右方向に長尺の複数の箇所)とを有する。一方、固定スクロール111も同様にディスク部111aと、当該ディスク部111aから立設された渦巻き状の壁部とを有する。旋回スクロール112及び固定スクロール111の各々の壁部は、旋回スクロール112の旋回を許容するように嵌合している。
【0048】
この状態で旋回スクロール112が旋回されることで、圧縮部101の低圧端124(渦巻き状の最外周)に存在している冷媒は、固定スクロール111の壁部及び旋回スクロール112の壁部同士の間に形成された空間によって圧縮部101中心(渦巻き状の中心部)の高圧端へと誘導される。なお、低圧端124には、ケース107と軸受部材120との隙間に設けられた流路を介してモータ室121から媒質が供給される。
【0049】
上記の壁部同士の間に形成された空間は、高圧端に向かうにつれて容積が減少されるため、冷媒が圧縮される。このようにして圧縮された冷媒は、固定スクロール111のディスク部111aの中心近傍に形成された排気口125から排気される。なお、排気口125は、単純な貫通孔であり、排気口125の外部側(つまりカバー109側)に排気口125を覆う排気弁113が設けられている。気体は、排気弁113を変形し得る圧力に達するまで、圧縮部101内に押し留められている。このようにして、カバー109及び固定スクロール111が覆う空間(以下、高圧室123ともいう)内に、高圧の気体が排気される。このように内部空間は、モータ室121、圧縮室122、及び、高圧室123を含む。ここで、排気口125から排気された高圧の冷媒は、排気弁113を変形させたわずかな隙間から排気されるため、高速で高圧室123に排気される。
【0050】
高圧室123には、図示しない分離機構が形成されており、上記の冷媒の流速を利用することで、冷媒に混ざる比較的比重の大きい潤滑剤を分離して、冷媒のみが冷凍サイクルへと吐出される。
【0051】
ここで、上記したように、本例の電動圧縮機100では、ケース107とカバー109とがボルト141のボルト穴142への螺入に伴う締結力によって連結されている。そして、ボルト穴142を含む連結部140は、少なくとも一部が内部空間の内側に向けて突出している。この構成のため、ボルト穴142の空洞は、ケース107とカバー109との接触面を介してわずかに内部空間とつながっている。ボルト穴142にボルト141を螺入した後、ボルト141の先端よりもボルト穴142の長手方向(つまり深さ方向)における底側に、空洞の残留空間が形成されているので、この部分に、電動圧縮機100を組み立てた際の環境における空気が残留する。
【0052】
ただし、本例における電動圧縮機100は、螺入後のボルト141の先端よりもボルト穴142の底側、より具体的には、ボルト穴142の最底部で、ボルト穴142の空洞と、ケース107及びカバー109による内部空間とが連通される陥入部143が形成されている。このため、電動圧縮機100の組み立て工程における冷媒充填の前の、内部空間の真空引きによって、ボルト穴142に残留する空気が排出される。これにより、ボルト穴142の底側に、空洞の残留空間に空気が残留しないので、このような空気が冷媒に混ざることがなくなる。つまり、連結部140を内部空間の内側に向けて突出させることで電動圧縮機100を小型化可能とする構成において、ボルト穴142からの空気の混入による冷凍効率の低下を抑制することが可能となる。
【0053】
なお、陥入部143は、連結部140の内部空間の最も内側に位置している部分や、モータ室121側の内部空間の最も内側に位置している部分よりも外部に向けて陥入している。言い換えると、陥入部143において、内部空間が外部側に向かって拡大されている。そして、陥入部143は、内部空間よりも外部側に設けられたボルト穴142の空洞と接続されている。
【0054】
なお、陥入部143は、
図2に示す断面が矩形の形状である。具体的には、陥入部143は、最も外部に陥入した陥入部143の底と、モータ室121側の側壁と、高圧室123側の側壁と、内部空間の内側に接続されている境界とを有する。さらに、この陥入部143は、筒状の内部空間の軸回りに内部空間を外部側へと旋削することで形成される。例えば、本例の電動圧縮機100は、少なくとも
図2の断面図の上下の2箇所、より正確には、さらに4箇所の、計6箇所において、6つのボルト141と6つの連結部140のそれぞれが有するボルト穴142とによって、ケース107とカバー109とが締結されて連結されているが、6つのボルト穴142に対して旋削することで、一度に陥入部143を形成することができる。
【0055】
より詳しくは、電動圧縮機100は、内部にモータ200などの回転体を有することから、少なくとも内部空間を略円筒形状に形成することが効率的である。このような円筒形状の内部空間を均一な力で覆うようにケース107とカバー109とを連結するためには、ボルト穴142は、円筒形状の断面円形に対応する円周状に配置されるとよい。すると、上記のように旋削によって陥入部143を形成することで、これらの円周状に配置されたボルト穴142の全てに効率的に連通する陥入部143を形成することが可能となる。この結果、陥入部143は、2以上の連結部140の並び面に平行な仮想面において円形断面を有する。陥入部143は、言い換えると、円筒形状の断面円の円周に沿って延びる溝ともいえる。
【0056】
また、旋削によって形成された上記の矩形形状の断面のモータ室121側の側壁は、旋削における回転軸に交差する段差面144となっている。この段差面144は、モータ室121側の内部空間における円筒形状の内側面と、最も外部に陥入した陥入部143の底と、を円筒形状の断面円の円周上を一周にわたって接続している。ここで、軸受部材120は、固定スクロール111とともに、カバー109を連結させる力(図中の軸方向に沿う力)によってモータ室121側へと押圧されている。したがって、上記の段差面144を係止面として、軸受部材120を係止することで、軸受部材120の位置を固定してもよい。このため、軸受部材120は、
図1に示すように、連結部140を回避するように中心に向かって凹む部分を除き、モータ室121の内部空間の径方向の大きさよりも大きく、かつ、内部空間の奥行方向における位置が連結部140と同じ位置での径方向の大きさよりも小さい径を有する。この構成により、軸受部材120を固定するための構造(段差面144、すなわち係止面)を、陥入部143の形成と同時に形成することができる。なお、旋削によって陥入部143を形成すると、例えば、最も外部に陥入した陥入部143の底の面などに旋削痕が形成される。このような旋削痕の有無によって、陥入部143を旋削によって形成したか否かを特定することができる。
【0057】
内部空間とボルト穴142の空洞とを連通する構成は上記の陥入部143に限らない。例えば、単に、内部空間からボルト穴142に向けて延びる細孔によって連通するなど、2つの空間を連通するような連通部であれば、どのような構成が適用されてもよい。
【0058】
以上に説明したように、本例における電動圧縮機100は、連結部140が内部空間の内側に突出されるようにして、電動圧縮機100のサイズを小型化可能に構成しながら、ボルト穴142の空洞内に不凝縮ガスの空気が残留しにくくできるので、このような空気が冷凍サイクルに混入することによる冷凍効率の低下を抑制することが可能となる。
【0059】
[製造方法及び冷凍サイクルへの組み込み方法]
次に、以上に説明した電動圧縮機100を製造する製造方法及び冷凍サイクルへの組み込み方法について、
図3を用いて説明する。
図3は、実施の形態に係る電動圧縮機の製造方法及び冷凍サイクルへの組み込み方法を示すフローチャートである。
【0060】
図3に示すように、まず、加工後にケース107となるケース用基材を準備する(S101)。ケース用基材には、あらかじめ内部空間、及び、それぞれがボルト穴142を有する2以上の連結部140が形成されている。
【0061】
次に、旋削によって陥入部143を形成し、ボルト穴142のそれぞれの底部側において、ボルト穴142の空洞とケース107の内部空間とを連通する(S102)。
【0062】
その後、ケース107にモータ200、軸受部材120、及び、圧縮部101の順に、これらを組み込み、カバー109の位置を合わせてボルト141をボルト穴142に螺入することで、ケース107とカバー109とを連結する。これにより、電動圧縮機100を組み立てる(S103)。以上のステップS101~ステップS103によって電動圧縮機100が製造される。
【0063】
次に、製造された電動圧縮機100の吐出口(不図示)と吸入口(不図示)とを冷凍サイクルに接続しながら真空引きして、冷凍サイクル、内部空間、及び、ボルト穴142内の気体(組み上げ時の残留空気)を排出する(S104)。そして、冷凍サイクル、内部空間、及び、ボルト穴142内に冷媒を充填する(S105)。以上のステップS104~ステップS105によって電動圧縮機100が冷凍サイクルに組み込まれる。
【0064】
(その他の実施の形態)
以上、本開示の一つ又は複数の態様に係る電動圧縮機について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の一つ又は複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示は、例えば車両等に搭載される空気調和装置に使用され得る電動圧縮機などとして有用である。
【符号の説明】
【0066】
100 電動圧縮機
101 圧縮部
102 軸受
103 駆動軸受
104 副軸受
105 偏心軸
106 接続部材
107 ケース
108 ガスケット
108a ビード
109 カバー
111 固定スクロール
111a ディスク部
112 旋回スクロール
113 排気弁
120 軸受部材(内部部品)
121 モータ室
122 圧縮室
123 高圧室
124 低圧端
125 排気口
140 連結部
141 ボルト
142 ボルト穴
143 陥入部
144 段差面(係止面)
200 モータ
201 駆動部
202 軸部
211 コイル
212 永久磁石