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特開2023-7779Mg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007779
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】Mg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 9/12 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
C25D9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110846
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】廣本 祥子
(72)【発明者】
【氏名】土井 康太郎
(57)【要約】
【課題】本発明は、数十秒~数十分の短時間の電解析出処理で、Mg基合金又はAl基合金の表面を均一な金属水酸化物を製膜する方法を提供する。
【解決手段】有機溶媒と水の混合溶媒である電解液に金属イオンを添加する工程と、添加した前記金属イオンを含む前記電解液に電極基板と対極板を浸漬する工程であって、前記電極基板は被覆処理される金属板であり、前記電極基板と前記対極板との間に電場を印加することにより、前記電極基板上に前記金属イオンを水酸化物として電解析出させる工程を有すると共に、前記電解析出した金属水酸化物が層状複水酸化物であるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒と水の混合溶媒である電解液に金属イオンを添加する工程と、
添加した前記金属イオンを含む前記電解液に電極基板と対極板を浸漬する工程であって、前記電極基板は被覆処理される金属板であり、
前記電極基板と前記対極板との間に電場を印加することにより、前記電極基板上に前記金属イオンを水酸化物として電解析出させる工程を有し、
Mg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項2】
前記有機溶媒と水の体積の割合は、有機溶媒:水=99:1~70:30であることを特徴とする請求項1に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルフォルムアミド、クロロホルムの何れか1種類を含むことを特徴とする請求項2に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項4】
前記金属イオンは、Mg,Al,Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca、Cr、Inの何れか1種類を含む金属イオンであり、
前記金属イオンを生成する金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩又は塩化物である、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項5】
前記金属イオンは、MgとAl及び不可避的不純物からなり、前記電解液中のMgイオン:Alイオン濃度比の範囲は、Mgイオン:Alイオン濃度比として、10:0.2以上10:50以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項6】
前記金属イオンは、MgとAl及び不可避的不純物からなり、前記電解液中のMgイオン濃度は、0.001mol/L以上1mol/L以下である、
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項7】
前記析出した金属水酸化物は、一般式:[M2+ (1-x)3+ (OH)][An- x/n・yHO]で表されると共に、
2+は、Mg(マグネシウム),Zn(亜鉛),Ca(カルシウム),Mn(マンガン),Pd(パラジウム),Sr(ストロンチウム),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Cu(銅)の何れか1種類から選択される二価金属イオンであり、
3+は、Al(アルミニウム),Bi(ビスマス),Ga(ガリウム),Ni,Mn,V(バナジウム),Ce(セリウム),La(ランタン),Cr(クロム),Fe(鉄),Co(コバルト),In(インジウム)の何れか1種類から選択される三価金属イオンであり、
前記Aは、NO ,CO 2-,OH,Cl,SO 2-,SiO 4-,リン酸、クロム酸、過マンガン酸、バナジン酸、セレン酸、ホウ酸、フッ化物、カルボン酸の何れか1種類から選択されるn価(n=1、2、3、又は4)の陰イオンである、
請求項1乃至6の何れか1項に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項8】
前記析出した金属水酸化物の三価金属イオンは、二価金属イオンを最大モル比M2+:M3+=2:1まで置換していることを特徴とする請求項7に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項9】
前記電極基板は、純Mg材、AZ31(Mg-3Al-1Zn)合金、AZ91(Mg-9Al-1Zn)合金、AM60(Mg-6Al-0.4Mn)合金、AXM(Mg-Al-(Zn)-Ca)合金、WE43(Mg-4Y-3RE)合金、又はZK60(Mg-6Zn-0.5Zr)合金であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項10】
前記電極基板に印加される電場は、定電圧又はパルス電圧を用いることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【請求項11】
前記電解析出した金属水酸化物が、層状複水酸化物、又はナノ結晶であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金およびアルミニウム合金は輸送機器(自動車、電車など)や家電製品、携帯電子機器、福祉材料(車椅子、杖など)などの軽量化部材として期待されているが、特に塩化物イオンを含む環境での耐食性が低いという課題がある。輸送機器や家電製品は、塩化物イオンを含む雨や海水の飛沫や人の汗に曝される。このため、高耐食性被膜の形成と、部材によっては高耐食性被膜に加えて塗装が必要とされている。
従来のマグネシウム材の耐食性被膜は、クロム、マンガンやフッ素などの環境負荷が高い元素を含むものが主流であったが、RoHSやREACHなどの環境規制が強化されクロメート処理は使用禁止や排除になっている。このため、製造工程での環境負荷が小さく、使用中の環境への安全性も高い元素で構成されている耐食性被膜が求められている。
【0003】
リン酸を主成分とする環境負荷の低い元素で構成されている溶液中での陽極酸化により形成した高耐食性皮膜(特許文献1)の報告もあるが、陽極酸化は消費電力量が大きいという欠点がある。
また、リン酸、マンガン酸および酸化カルシウムを含む化成処理溶液および陽極酸化用電解液が開発されており(非特許文献1~4)、製造された皮膜は高い耐食性および塗料との密着性を示している。しかし、マンガン酸は廃液処理が必要な物質であることから、さらに環境負荷の低い耐食性皮膜およびその製造方法が望まれている。
【0004】
Mg合金表面の酸化皮膜組成以外に耐食性を向上する方法として、疎水性・撥水性被膜の開発が行われている。これは、腐食の主原因である水を金属表面に接触させないためである。疎水基を持つステアリン酸などの脂肪酸や撥水性を示すシリコン樹脂などが用いられている。一方、水中でMg合金を高温高圧処理すると、撥水性を示す構造のMg(OH)層が得られるという報告もある(非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5517024号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shulha, et al., Sci. Rep., 8: 16409 (2018).
【非特許文献2】Wu et al., Appl. Surf. Sci., 313 834 (2014)
【非特許文献3】軽金属 第67巻第10号(2017),511-517
【非特許文献4】Electrochimica Acta, 283 (2018) 1845-1857
【非特許文献5】石崎ら、表面技術、71(3), 239 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マグネシウム合金やアルミニウム合金表面に層状複水酸化物(LDH)を被覆する従来の方法には、処理時間が数時間から数日と長い、水を主成分とする処理溶液の腐食性が高く処理できる合金組成に制限がある、高温高圧処理のためにコストが高いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、電解析出法を用いることで、処理時間が短縮できるのではないかと考え、本願発明を想到するに至った。電解析出法は、種々の金属イオンを溶存させた電解液に電極基板を浸漬し、対極との間に電場を印加することにより、金属イオンを水酸化物もしくは酸化物として析出・堆積させる方法である。通常は電解液に水を主成分とする溶媒を用いるが、有機溶媒を主成分とする電解液を用いることで、電解液中での基材マグネシウム合金の腐食および基材表面での水素発生を抑制する。また、電解析出法の利点として、被膜の原料を電解液中に金属イオンとして供給できる点がある。
【0009】
即ち、本発明は、上述した課題を解決したもので、数十秒~数十分程度の短時間処理で、様々な組成の金属水酸化物を製膜する方法を提供するものである。
【0010】
[1]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法は、例えば図1図2に示すように、有機溶媒と水の混合溶媒である電解液に金属イオンを添加する工程と、
添加した前記金属イオンを含む前記電解液に電極基板と対極板を浸漬する工程であって、前記電極基板は被覆処理される金属板であり、
前記電極基板と前記対極板との間に電場を印加することにより、前記電極基板上に前記金属イオンを水酸化物として電解析出させる工程を有すると共に、前記電解析出した金属水酸化物が層状複水酸化物である、
Mg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法。
【0011】
[2]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは前記有機溶媒と水の体積の割合は、有機溶媒:水=99:1~70:30であるとよい。
[3]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記有機溶媒は、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、ジメチルフォルムアミド、クロロホルムの何れか1種類を含むとよい。
[4]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記金属イオンは、Mg,Al,Zn、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ca、Cr、Inの何れか1種類を含む金属イオンであり、金属イオンを生成する金属塩は、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、カルボン酸塩、リン酸塩又は塩化物であるとよい。
[5]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記金属イオンは、MgとAl及び不可避的不純物からなり、前記電解液中のMgイオン:Alイオン濃度比の範囲は、Mgイオン:Alイオン濃度比として、10:0.2以上10:50以下であるとよい。前記電解液中のMgイオン:Alイオン濃度比の範囲としては、さらに好ましい範囲は、Mgイオン:Alイオン濃度比として10:1以上10:20以下であり、最適の範囲としては、Mgイオン:Alイオン濃度比として10:1.5以上10:15以下である。
[6]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記金属イオンは、MgとAl及び不可避的不純物からなり、前記電解液中のMgイオン濃度は、好ましい範囲として0.001mol/L以上1mol/L以下であるとよい。前記電解液中のMgイオン濃度として、さらに好ましいMgイオン濃度範囲は、0.001mol/L以上0.5mol/L以下であり、最適のMgイオン濃度範囲は、0.01mol/L以上0.5mol/L以下である。
【0012】
[7]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記析出した金属水酸化物は、一般式:[M2+ (1-x)3+ (OH)][An- x/n・yHO]で表されると共に、
2+は、Mg(マグネシウム),Zn(亜鉛),Ca(カルシウム),Mn(マンガン),Pd(パラジウム),Sr(ストロンチウム),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Cu(銅)の何れか1種類から選択される二価金属イオンであり、
3+は、Al(アルミニウム),Bi(ビスマス),Ga(ガリウム),Ni,Mn,V(バナジウム),Ce(セリウム),La(ランタン),Cr(クロム),Fe(鉄),Co(コバルト),In(インジウム)の何れか1種類から選択される三価金属イオンであり、
前記Aは、NO ,CO 2-,OH,Cl,SO 2-,SiO 4-,リン酸、クロム酸、過マンガン酸、バナジン酸、セレン酸、ホウ酸、フッ化物、カルボン酸の何れか1種類から選択されるn価(n=1、2、3、又は4)の陰イオンであるとよい。
[8]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記析出した金属水酸化物の三価金属イオンは、二価金属イオンを最大モル比M2+:M3+=2:1まで置換しているとよい。
【0013】
[9]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記電極基板は、純Mg材、AZ31(Mg-3Al-1Zn)合金、AZ91(Mg-9Al-1Zn)合金、AM60(Mg-6Al-0.4Mn)合金、AXM(Mg-Al-(Zn)-Ca)合金、WE43(Mg-4Y-3RE)合金、又はZK60(Mg-6Zn-0.5Zr)合金であるとよい。
[10]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記電極基板に印加される電場は、定電圧又はパルス電圧を用いるとよい。
[11]本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法において、好ましくは、前記電解析出した金属水酸化物が、層状複水酸化物、又はナノ結晶であるとよい。
【発明の効果】
【0014】
(1)本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法[1]によれば、電解析出を用いているので、基材の合金組成によらずに任意組成の金属水酸化物被膜を形成できると共に、基材Mg合金の腐食の原因になるNO などの陰イオンを対極である陽極側に引き付けることができるため、処理中のMg合金の腐食を抑制できる。
(2)本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法[1]によれば、電解析出を用いているので、サブマイクロメートルから数マイクロメートルの比較的薄くて均質な金属水酸化物被膜を形成できる。薄い被膜は、被膜の密着性や基材の変形に対する追随性の点で有利である。
【0015】
(3)本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法[3]に示すように、電解液の溶媒にエタノール-水混合溶媒やイソプロパノール-水混合溶媒を用いることで、電解中の水素発生源であり、またマグネシウム合金の腐食原因である水の影響を低減できる。マグネシウム合金の腐食反応におけるカソード反応は水の還元反応であることから、水の割合を低下させることで、マグネシウム合金の腐食を抑制できる。また、水の還元反応で発生する水素ガスを減らすことができるため、被膜の欠陥を減らすことができる。なお、エタノールやイソプロパノールに変えてエチレングリコールなどの有機溶媒を用いることもできる。
(4)本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法[3]、[4]に示すように、エタノール-水混合溶媒にMg(NOおよび/もしくはAl(NOを添加した電解液中で析出させた金属水酸化物層では、イソプロパノール中での超音波洗浄後でも目視でわかる変化なく残っており、被膜の密着性が高い。
【0016】
(5)本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法[9]、[11]に示すように、AZ系Mg合金(Mg-xAl-yZn)では、大気酸化皮膜の結晶性は低いが、皮膜中に基材からのAlが濃化するために、合金中のAl濃度が高い方が大気酸化皮膜の耐食性が高くなる。Mg合金の化成処理や陽極酸化で形成した耐食被膜では、結晶性が低い酸化物(MgO)にスピネル(MgA1)が混合した被膜の耐食性が高い場合が多い(高谷、表面技術、44(11),874(1993))。これらより、本発明のMg-Al金属水酸化物はLDH結晶構造を取らなくても耐食性を示すことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の層状複水酸化物を主成分とする被膜を表面に有する金属板を製造するために用いる電解析出装置の概要図である。
図2】本発明の第1の態様による様々な濃度のMgイオンおよびAlイオンを含むエタノール-水電解液中で電解析出を行ったAZ31表面の電子顕微鏡像を示している。
図3】様々な濃度のMgイオンおよびAlイオンを含むエタノール-水電解液中で電解析出を行ったAZ31の断面の電子顕微鏡像である。
図4A】様々な濃度のMgイオンおよびAlイオンを含むエタノール-水電解液中で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
図4B】様々な濃度のMgイオンおよびAlイオンを含むエタノール-水電解液中で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
図5】析出物層厚さと電解液中のMgイオンとAlイオンの合計濃度との関係を説明する図である。
図6】乾湿繰り返し試験後の外観写真である。
図7】エタノール-水電解液およびイソプロパノール-水電解液中で様々な定電圧で電解析出を行ったAZ31表面の外観写真を示している。
図8A】エタノール-水電解液およびイソプロパノール-水電解液中で様々な定電圧で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
図8B】エタノール-水電解液およびイソプロパノール-水電解液中で様々な定電圧で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
図9】表3のイソプロパノールを用いた電解液中で電解析出した析出物層の外観写真である。
図10】表3のイソプロパノールを用いた電解液中で電解析出した析出物層の電子顕微鏡写真である。
図11A】表3のイソプロパノールを用いた電解液中で電解析出した析出物層のX線回折パターンである。
図11B】表3のイソプロパノールを用いた電解液中で電解析出した析出物層のX線回折パターンである。
図12】表4のイソプロパノールを用いた電解液中で電解析出した析出物層の外観写真である。
図13A】様々なMgイオン:Alイオン濃度比のイソプロパノール-水電解液中で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
図13B】様々なMgイオン:Alイオン濃度比のイソプロパノール-水電解液中で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
図14】表5のイソプロパノールを用いた電解液中で電解析出した析出物層の外観写真である。
図15A】表5の電解液中で、様々な印加電圧で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
図15B】表5の電解液中で、様々な印加電圧で電解析出を行ったAZ31表面のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明を説明する。なお、本明細書において、数値範囲を表す『~』に関しては、『下限値~上限値』の表記により下限値以上上限値以下を表すものとし、境界値を含むものとする。
図1は、本発明の金属板を製造するために用いる電気泳動堆積装置の概要図で、添加金属イオンの電解析出処理を示している。図1において、電気泳動堆積装置は、電解槽6、スターラー8、直流電源9、関数発生器10を備えている。
【0019】
図1では、電解槽6は、金属イオン4が添加された表面処理溶液3を収容していると共に、表面処理溶液3に被処理金属基板としての基材1、対極板2が浸されており、攪拌子7が表面処理溶液3の下部に位置している。基材1には、電気泳動堆積法による処理の進行に従って、基材1の表面に金属イオン水酸化物5bの堆積層が存在する。直流電源9の一方の極と基材1との間は、電線32で結線されている。直流電源9の他方の極と対極板2との間は、電線34で結線されている。
基材1と対極板2との間で生ずる電位差によって、表面処理溶液3の溶液内で添加金属イオン4が対極板2から基材1に移動して、堆積した金属水酸化物5の層が形成される。直流電源9の電圧は、電解析出に必要な電圧としている。
【0020】
このように構成された電気泳動堆積装置の動作を説明する。
電気泳動堆積装置では、粉末を堆積させる基板である基材1を陰極、ステンレス板等の対極板2を陽極にして電場を印加する。このため、電解液中でプラスに帯電している粉末および陽イオン(カチオン)が陰極に引き付けられ、陰イオン(アニオン)が陽極側に引き付けられる。陰極に引き付けられた粉末は電場により押し付けられた状態となっている。同時に陰極表面では水の電気分解が起こり、水素発生とpH上昇が起こる。このため、陰極に引き付けられた陽イオン(カチオン)は高pH環境で水酸化物として陰極表面に析出する。
本発明の電気泳動堆積装置において、図1では、Mgイオンおよび/もしくはAlイオンのpH上昇による水酸化物としての析出や有機溶媒との化合物である有機金属化合物としての析出が起きている。
【0021】
表面処理溶液3は、表面処理用の電解液であって、その組成は電気泳動の溶液として次の様になっている。
有機溶媒―水混合溶媒:有機溶媒は、アルコール系として、エタノール、メタノール、ブタノールエタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコールなどがある。ケトン系として、アセトン、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどがある。エーテル系として、ジエチルエーテルなどがある。その他として、ジメチルスルホキシド、ジメチルフォルムアミド、クロロホルムなどがある。
【0022】
金属イオン水酸化物5の堆積層は、例えば、層状複水酸化物(LDH)であるがナノ結晶の場合もある。
LDHは、一般式:[M2+ (1-x)3+ (OH)][An- x/n・yHO]で表される(成田榮一、粘土科学,46(4),207-218(2007)参照)。
ここで、基本層のM2+は、Mg(マグネシウム),Zn(亜鉛),Ca(カルシウム),Mn(マンガン),Pd(パラジウム),Sr(ストロンチウム),Fe(鉄),Co(コバルト),Ni(ニッケル),Cu(銅),などの二価金属イオンである。
基本層のM3+は、Al(アルミニウム),Bi(ビスマス),Ga(ガリウム),Ni,Mn,V(バナジウム),Ce(セリウム),La(ランタン),Cr(クロム),Fe(鉄),Co(コバルト),In(インジウム)などの三価金属イオンである。
水酸化物基本層中の三価金属イオンは、二価金属イオンを最大モル比M2+:M3+=2:1まで置換することができる。
中間層の陰イオンAは、NO ,CO 2-,OH,Cl,SO 2-,SiO 4-,リン酸、クロム酸、過マンガン酸、バナジン酸、セレン酸、ホウ酸、フッ化物、カルボン酸などのn価の陰イオンである。
【実施例0023】
実施例では、基材には、Mg-3mass%Al-1mass%Zn(AZ31)合金板を用いた。AZ31合金は、現在、自動車やカメラ、パソコン、携帯電話等の部材に使用されている汎用マグネシウム合金である。
図1は、本発明の層状複水酸化物を主成分とする金属水酸化物被膜を表面に有する金属板を製造するために用いる電解析出装置の概要図である。
【0024】
<実施例1>エタノール-水混合溶媒の電解液に添加する金属イオン濃度を変えた場合の電解析出
基材には、表面を#1200の耐水研磨紙で仕上げたAZ31板を用いた。電解液には、エタノール:水=4:1(体積比)の溶媒に、硝酸マグネシウムおよび硝酸アルミニウムを表1の濃度で溶解した溶液を用いた。同溶液を撹拌しながら、作用極として基材AZ31板および対極としてステンレス鋼メッシュ板を挿入した。AZ31板を陰極として対極との間にピーク―ピーク(p-p)電圧10V、周波数0.1Hz、Duty比98%のパルス電圧を10分間印加し、電解析出を行った。電解析出後のAZ31板を100℃で1時間乾燥し、金属水酸化物の析出層を得た。
【0025】
表1の電解液中で電解析出した析出物層の電子顕微鏡写真を図2に示す。Mgイオンおよび/またはAlイオンが水酸化物/酸化物を析出して析出物層を形成したことがわかる。また、MgイオンおよびAlイオン濃度が低い方が均質な析出物層になる傾向がみられた。
【0026】
【表1】
【0027】
図3に、比較的厚い析出物層が得られたサンプルの断面SEM像を示す。析出物層には断面観察試料の作製工程でできたき裂がみられるが、緻密で均一な厚さの層が形成されたことがわかる。
図4に表1の電解液中で電解析出した析出物層のX線回折パターンを示す。MgイオンもしくはAlイオンのどちらか一方のみ含む電解液中では、主に結晶性の低いMg(OH)が堆積していた。MgイオンおよびAlイオンを含む電解液中では、Mgイオン:Alイオン=4:1ではハイドロタルサイト(HT)が析出し、Mgイオン:Alイオン=8:1ではスピネルが析出した。MgイオンおよびAlイオンを含む電解液中での電解析出によりLDH層もしくはLDHとスピネルの混合層を形成できることが示された。
【0028】
ワンショット3D形状測定機(キーエンス製、検出感度:1μm以上)で計測した析出物層厚さと電解液中のMgイオンとAlイオンの合計濃度との関係を図5に示す。測定機の検出感度(検出下限:1μm)を考慮すると、MgおよびAlイオンのみの場合でも厚さサブマイクロメートルから10μmまでの堆積層が形成されたことが示された。
【0029】
<実施例2>実施例1で作製したサンプルの乾湿繰り返し試験
基材にAZ31を用いて作製した表1に示すサンプルの乾湿繰り返し試験を行った。サンプル表面に1g/mのNaClを付着させた後、相対湿度RH30%に8時間、RH95%に8時間、RH30%に8時間を1サイクルとしてサンプル周囲の相対湿度を変化させる乾湿繰り返し試験を、合計4サイクル行った。図6に乾湿繰り返し試験後の外観写真を示す。比較のために、同様の乾湿繰り返し試験を行った研磨ままAZ31の外観写真を示す。いずれのサンプルでも、目視でわかる深い腐食孔はほとんどみられなかった。本発明の製造方法で作製したLDH被膜が耐食被膜として働くことが示された。
【0030】
<実施例3>エタノール-水混合溶媒およびイソプロパノール-水混合溶媒の電解液中で印加電圧を変えた場合の電解析出
基材には、表面を#1200の耐水研磨紙で仕上げたAZ31板を用いた。電解液には、エタノール:水=4:1体積比)の溶媒もしくはイソプロパノール:水=4:1の溶媒に、硝酸マグネシウムおよび硝酸アルミニウムを表2の濃度で溶解した溶液を用いた。作用極として基材AZ31板および対極としてステンレス鋼板を挿入した。AZ31板を陰極として対極との間に定電圧を表2に示す5V~100Vで1分間印加し、電解析出を行った。電解析出後のAZ31板を100℃で1時間乾燥し、金属水酸化物の析出層を得た。
【0031】
表2の電解液中および定電圧で電解析出した析出物層の外観写真を図7に示す。5Vという低い電圧でも半透明の被膜が形成され、印加電圧の増加に伴い白色が濃くなった。100Vという高い電圧でも均一な被膜が形成されていた。図8に表面のXRDパターンを示す。溶媒の種類および印加電圧に関わらず、層状複水酸化物(LDH)由来の回折ピークが現れ、印加電圧の増加に伴いピーク強度が増加した。これらの結果より、LDHの電解析出に有機溶媒の種類は影響を及ぼさないこと、および印加電圧でLDHの析出量を変化させられることがわかった。
【0032】
【表2】

【0033】
<実施例4>電解液であるイソプロパノール-水混合溶媒の水の比率が低い場合の電解析出
基材には、表面を#1200の耐水研磨紙で仕上げたAZ31板を用いた。電解液には、イソプロパノール:水=50:1もしくは40:1(体積比)の溶媒に、硝酸マグネシウムおよび硝酸アルミニウムを表3の濃度で溶解した溶液を用いた。溶液に作用極として基材AZ31板および対極としてステンレス鋼板を挿入した。AZ31板を陰極として対極との間に定電圧100Vを1分間印加し、電解析出を行った。電解析出後のAZ31板を100℃で1時間乾燥し、金属水酸化物の析出層を得た。
【0034】
表3の電解液中で電解析出した析出物層の外観写真を図9に示す。Mgイオンおよび/またはAlイオン濃度に関わらず、白色の被膜が形成されたことがわかる。濃度が0.0002mol/Lと低い場合には下地の金属が透けてみえる薄い被膜だったが、濃度の増加に伴い厚さが増加していることが示唆された。
【0035】
表3の電解液中で電解析出した析出物層の電子顕微鏡写真を図10に示す。Mgイオンおよび/またはAlイオンが水酸化物/酸化物として析出物層を形成したことがわかる。また、MgイオンおよびAlイオン濃度が低い方が均質な析出物層になる傾向がみられた。Mgイオンおよび/またはAlイオンが水酸化物/酸化物として析出物層を形成したことがわかる。また、MgイオンおよびAlイオン濃度が低い方が均質な析出物層になる傾向がみられた。濃度が高いと、本実施例の電解析出条件では析出層が厚くなりすぎ、このためにひび割れと基材からの剥離が生じたと考えられる。
【0036】
【表3】
【0037】
図11に表3の電解液中で電解析出した析出層のX線回折パターンを示す。MgイオンおよびAlイオン濃度およびMg:Al濃度比に関わらず、基材AZ31からの回折ピーク以外に明瞭な回折ピークは現れなかった。析出した金属水酸化物は結晶性が低いもしくはナノ結晶であることが示唆された。電解液中の水の比率は、析出する金属水酸化物の結晶性に影響を及ぼすことがわかった。
【0038】
<層状複水酸化物の形成についてMgイオンとAlイオンの濃度比の影響>
目的の物質である層状複水酸化物の形成には、電解液のMgおよびAlイオン濃度よりもMgイオンとAlイオンの濃度比が関係している。そこで、所定量のイソプロパノールに対して添加する所定濃度の硝酸マグネシウムおよび硝酸アルミニウム水溶液の量を変化させることで、Mgイオン:Alイオン濃度比を変化させた<実施例5>。電解析出条件は、印加電圧を定電圧10V、電圧印加時間を1分間とした。
<実施例6>は、これまでの結果より、10Vよりも電圧を増加すると電解析出する物質の量が増加し、層状複水酸化物への結晶化も促進されることが予測される。また、電圧印加時間を増加しても、電解析出する物質の量が増加し、層状複水酸化物への結晶化も促進されることが予想される。なお、電解液中のMgおよびAlイオン濃度を増加すると、電解析出する物質の量が増加する。
【0039】
<電解液中のMgイオン:Alイオン濃度比の範囲>
下の実施例より求めた、印加電圧が定電位10Vの場合の、電解液中のMgイオン:Alイオン濃度比の範囲
最も広い範囲のAlイオン濃度比の下限: Mgイオン:Alイオン濃度比=10:0.2
最も広い範囲: Mgイオン:Alイオン濃度比=10:0.2~10:50
好ましい範囲: Mgイオン:Alイオン濃度比=10:1~10:20
最適の範囲: Mgイオン:Alイオン濃度比=10:1.5~10:15
【0040】
<電解液中のMgイオン濃度の範囲>
下の実施例より求めた、印加電圧が定電位5V~100V、電圧印加時間10秒~1分間で、電解液中のMgイオン:Alイオン濃度比=4:1の場合のMgイオン濃度の範囲
広いMgイオン濃度範囲: 0.001mol/L<Mgイオン濃度<1mol/L
好ましいMgイオン濃度範囲: 0.001mol/L<Mgイオン濃度<0.5mol/L
最適のMgイオン濃度範囲: 0.01mol/L<Mgイオン濃度<0.5mol/L
なお、Mg:Al比が異なる場合、印加電圧がより高い場合および印加時間がより短い場合および長い場合は、上記の範囲の限りではない。
【0041】
<実施例5> 電解液中のMg:Al濃度比が異なる場合の電解析出
基材には、表面を#1200の耐水研磨紙で仕上げたAZ31板を用いた。電解液には、表4に示す、イソプロパノールに添加する硝酸マグネシウムおよび硝酸アルミニウム水溶液の量によってMgイオン:Alイオン濃度比(Mg:Al比)を変化させた溶液を用いた。溶液に作用極として基材AZ31板および対極としてステンレス鋼板を挿入した。AZ31板を陰極として対極との間に定電圧10Vを1分間印加し、電解析出を行った。電解析出後のAZ31板を100℃で1時間乾燥し、金属水酸化物の析出層を得た。
【0042】
表4の様々なMg:Al濃度比の電解液中で電解析出した析出物層の外観写真を図12に示す。電解液のMg:Al濃度比に関わらず、白色の被膜が形成されたことがわかる。Mg:Al濃度比と被膜の外観には明瞭な関係は認められなかった。
図13に表4の電解液で作製した表面のXRDパターンを示す。層状複水酸化物(LDH)の特徴的な回折ピークである10~11.5度付近および22~23度付近のピークは、Mg:Al比が10:0.5~10:40の範囲で観察された。Al/Mg比が1/100より大きいと、層状複水酸化物を電解析出できることが示された。
【0043】
Mg:Al比が10:0.1ではMg(OH)由来のブロードな回折ピークが観察された。Mg:Al比が10:0.5および10:1では、層状複水酸化物と共にMg(OH)が形成されていた。そして、Mg:Al比が10:2~10:5の範囲では、層状複水酸化物の特徴的な回折ピークが特に明瞭に観察され、Mg(OH)由来の回折ピークはみられなかった。Mg:Al比が10:6~10:10では、層状複水酸化物由来の回折ピーク強度は低いが、層状複水酸化物および基材AZ31由来の回折ピーク以外は観察されなかったことから、結晶性は低いが層状複水酸化物のみが形成されたと考えられる。層状複水酸化物の形成量は印加電圧の上昇により増加することから、10:6~10:10のMg:Al比の範囲は層状複水酸化物の形成範囲といえる。したがって、Mg:Al比が10:2~10:10の範囲で層状複水酸化物が形成できることが明らかになった。Mg:Al比が10:20および10:40では、微小な層状複水酸化物由来の回折ピークに加えて、Al(OH)ピーク位置付近にわずかにベースラインの膨らみがみられたことから、Al/Mgが2より大きいと結晶性の低いAl(OH)が層状複水酸化物と共に析出すると考えられる。ここで、<実施例3>の図8より、印加電圧が変化しても析出する金属水酸化物の種類に変化はなかったことから、印加電圧が5V以上100V以下の範囲では、本実施例の10Vの場合と同様の析出物が析出すると考えられる。
【0044】
【表4】

【0045】
<実施例6> 電解液のMgおよびAlイオン濃度および印加電圧の影響
基材には、表面を#1200の耐水研磨紙で仕上げたAZ31板を用いた。電解液には、イソプロパノール:水=4:1の溶媒に、硝酸マグネシウムおよび硝酸アルミニウムを濃度比=4:1で、表5に示す濃度で溶解した溶液を用いた。表5の電解液のMgイオンおよびAlイオン濃度は、<実施例3>の表2の電解液濃度のそれぞれ10倍および100倍である。溶液に作用極として基材AZ31板および対極としてステンレス鋼板を挿入した。AZ31板を陰極として対極との間に、表5に示す定電圧10V~100Vを1分間もしくは10秒間印加し、電解析出を行った。電解析出後のAZ31板を100℃で1時間乾燥し、金属水酸化物の析出層を得た。
【0046】
表5の電解液中で、10~100Vで電解析出した析出物層の外観写真を図14に示す。電解液の濃度、印加電圧および電圧印加時間に関わらず、白色の被膜が形成されたことがわかる。印加電圧の増加に伴い白色が濃くなり、被膜が厚くなったことが示唆された。また、高電圧もしくは高濃度の電解液の場合、10秒間という短時間の電解析出でも均一な被膜が形成された。
図15に、表5の電解液で作製した表面のXRDパターンを示す。電解液の濃度、印加電圧および電圧印加時間に関わらず、層状複水酸化物(LDH)由来の回折ピークが現れた。<実施例3>において、電解液のMgイオン濃度が表5の電解液よりも1/10以上低い0.002mol/Lの場合でも、印加電圧に関わらず層状複水酸化物由来の回折ピークが現れた。以上の結果より、本発明の電解析出法では、電解液のMgイオン濃度が0.002~0.2mol/Lという広い範囲で、層状複水酸化物が形成できることが示された。
【0047】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0048】
以上詳細に説明したように、本発明のMg基合金又はAl基合金の表面を金属水酸化物で被覆する方法によればマグネシウム合金およびアルミニウム合金において、高耐食性被膜の形成と、用途によっては高耐食性被膜に加えて塗装も容易に行えるので、これら軽合金を輸送機器や家電製品に用いる場合に、塩化物イオンを含む雨や海水の飛沫や人の汗に曝されても耐久性が高まる。
【符号の説明】
【0049】
1:基材(被処理金属基板、電極基板)
2:対極板
3:表面処理溶液(電解液)
4:添加金属イオン
5:堆積した金属水酸化物
6:電解槽
7:攪拌子
8:スターラー
9:直流電源
10:関数発生器
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13A
図13B
図14
図15A
図15B