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特開2023-77975ポリウレタン系複合材料、該ポリウレタン系複合材料からなる成形体の製造方法および歯科切削加工用材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077975
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】ポリウレタン系複合材料、該ポリウレタン系複合材料からなる成形体の製造方法および歯科切削加工用材料
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/00 20060101AFI20230530BHJP
   A61K 6/893 20200101ALI20230530BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20230530BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20230530BHJP
   A61C 13/087 20060101ALI20230530BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20230530BHJP
【FI】
C08F283/00
A61K6/893
A61K6/887
C08G18/48 066
A61C13/087
A61C5/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191505
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛正
(72)【発明者】
【氏名】海老原 拓弥
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
4J026
4J034
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA13
4C089BC06
4C089BD02
4C089BD03
4C089BD05
4C089BD06
4C089BE10
4C089CA04
4C089CA06
4C089CA08
4C159SS04
4J026AB33
4J026BA28
4J026DB05
4J026DB15
4J026GA01
4J034BA02
4J034CA04
4J034DA01
4J034FA02
4J034FB01
4J034FC03
4J034FD01
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC61
4J034JA01
4J034MA04
4J034QB14
4J034RA12
(57)【要約】
【課題】 ポリウレタン成分の含有率が80質量%を超え且つ架橋構造を有するポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散してなり、均一で強度及び耐水性に優れるポリウレタン系複合材料及びその成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 ラジカル重合性ジオール(a1)、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)、10時間半減期温度:T10が60℃以上である熱重合開始剤(C)、充填材(D)を含む第1原料組成物にジイソシアネート(a2)を加えて、(a1)と(a2)の重付加物である、数平均分子量:1500~5000のラジカル重合性基含有ポリウレタン成分(A)を含み、且つ有機成分中に占める(A)の含有率が80質量%を超える第2原料組成物を調製し、これを40~(T10-15)℃の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、(T10-10)~(T10+25)℃でラジカル重合を行って硬化させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、
前記ポリウレタン系樹脂は、数平均分子量が1500~5000であり、且つ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分の前記ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、
前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が80質量%を超え95質量%以下である、
ことを特徴とする前記ポリウレタン系複合材料。
【請求項2】
請求項1に記載のポリウレタン系複合材料からなる成形体を製造する方法であって、
1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(B);10時間半減期温度:T10が60℃以上である熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して前記ジオール化合物(a1)と該ジイソシアネート化合物(a2)とを重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、かつ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(A)を形成させて、該ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ジオール化合物(a1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得る成型工程、
を含み、
前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ジオール化合物(a1)の含有量:a1r及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2rとしたときに、
式:Rr=100×Br/〔a1r+a2r+Ar+Br〕
で定義される重合性単量体配合比率Rrを5質量%以上20質量%未満とする、
ことを特徴とする、ポリウレタン系複合材料成形体の製造方法。
【請求項3】
前記第2原料組成物中における前記充填材(D)の含有割合が60質量%~80質量%である、請求項2に記載のポリウレタン系複合材料成形体の製造方法。
【請求項4】
前記重合性単量体(B)が、下記構造式(1)に示す重合性単量体を含む、請求項2又は3に記載のポリウレタン系複合材料成形体の製造方法。
【化1】
〔前記構造式(1)中、R11及びR12は水素原子又はメチル基であり、nは1~10の整数である。〕
【請求項5】
前記ジオール化合物(a1)が、ジオール化合物に含まれる2つのヒドロキシル基間に介在する2価の有機残基における主鎖を構成する原子の数が2~8であるジオール化合物である、請求項2~4の何れか1項に記載のポリウレタン系複合材料成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリウレタン系複合材料からなる歯科切削加工用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン系複合材料、該ポリウレタン系複合材料からなる成形体の製造方法および歯科切削加工用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ、インプラント上部構造などの歯科用補綴物を作製する一手法として、歯科用CAD/CAMシステムを用いて切削加工する方法がある。歯科用CAD/CAMシステムとは、コンピュータを利用し三次元座標データに基づいて歯科用補綴物の設計を行い、切削加工機などを用いて歯冠修復物を作製するシステムである。切削加工用材料としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、レジンなど様々な材料が用いられる。歯科切削加工用レジン系材料としては、シリカ等の無機充填材、メタクリレートなどの重合性単量体、重合開始剤等を含有する硬化性組成物を用い、これをブロック形状、ディスク形状に硬化させた硬化物が使用されている。切削加工用材料は、コンピュータシステムを活用することにより、従来の歯科用補綴物の作製方法よりも、工程数が短いことに起因する作業性の高さや、硬化体の審美性、ないし強度の観点から関心が高まっている。
【0003】
このような切削加工用材料は、主に歯冠部で適用されており、大臼歯冠やブリッジとして使用される場合、より高強度が求められる。しかしながら、現在の切削加工用材料は、(メタ)アクリル樹脂がベースとなっており、その強度に限界がある点が課題となっている。
【0004】
これに対し、ポリウレタン樹脂は、一般的に高強度を有することが知られており、歯科材料として用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、ポリウレタン樹脂の内部にラジカル重合性基の重合により形成される架橋構造を導入することにより、ポリウレタン樹脂の「高強度」であるという特徴を生かしつつ、その欠点である耐水性の低さを改善したポリウレタン系複合材料(以下、このようにして架橋構造を導入したポリウレタン系複合材料を「架橋構造導入ポリウレタン系複合材料」ともいう。)及びその製造方法が記載されている。
【0005】
すなわち、特許文献1には、原料として、1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(a1);ジイソシアネート化合物(a2);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ジオール化合物(a1)および前記ジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(以下、「非重付加性ラジカル重合性単量体」ともいう。)(B);ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む原料組成物を用い、前記a1とa2を重付加させて特定の分子量のポリウレタン成分(A)を形成した後に該(A)に含まれるラジカル重合性基と前記(B)とを反応させて架橋構造を導入することによって製造されるポリウレタン系複合材料は、全体が均一で強度及び耐水性に優れ、歯科用切削加工用材料に適したものであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2021/153446号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料においては、その均一性を良好に保つために、樹脂成分中に占めるポリウレタン成分の割合を、80質量%を超えて高くすることができない。具体的には、前記原料組成物中のモノマー成分の合計質量{a1、a2及びBの合計質量}に占めるBの質量の割合(質量%)で定義される「重合性単量体配合比率Rr」を20~80質量%とする必要がある(ポリウレタン成分の割合を表す「100-Rr」は80~20質量%となる)。
【0008】
このため、ポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える領域について架橋構造導入ポリウレタン系複合材料がどのような特性を有するか、あるいは、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料と同様に全体が均一で強度及び耐水性に優れるという特長を有するのか否かは不明であった。架橋構造導入ポリウレタン系複合材料中のポリウレタン成分の含有率が増加することにより、(ポリウレタン構造に由来する)高強度化が期待できるばかりでなく、仮にポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料が製造できるようになり、均一性や耐水性が良好に保たれる領域の存在が確認されれば、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料と同様の特性を有する新たな架橋構造導入ポリウレタン系複合材料が利用可能となる。
【0009】
そこで、本発明は、ポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を製造することができる方法を提供し、延いてはポリウレタン成分の含有率が80質量%を超える架橋構造導入ポリウレタン系複合材料であって、均一で強度及び耐水性に優れる架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、ポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、
前記ポリウレタン系樹脂は、数平均分子量が1500~5000であり、且つ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(以下、「ラジカル重合性ポリウレタン成分」ともいう。)の前記ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、
前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が80質量%を超え95質量%以下である、
ことを特徴とする前記ポリウレタン系複合材料(以下、「本発明のポリウレタン系複合材料」ともいう。)である。
【0011】
また、本発明の第二の形態は、本発明のポリウレタン系複合材料からなる成形体を製造する方法であって、
1つ以上のラジカル重合性基を有するジオール化合物(以下、「ラジカル重合性ジオール化合物」ともいう。)(a1);分子内に1つ以上のラジカル重合性基を有し、前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物の何れとも重付加反応を起こさない重合性単量体(以下、「非重付加性ラジカル重合性単量体」ともいう。)(B);10時間半減期温度:T10が60℃以上である熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)と該ジイソシアネート化合物(a2)とを重付加反応させることにより、数平均分子量が1500~5000であり、且つ、ラジカル重合性基を有するポリウレタン成分(ラジカル重合性ポリウレタン成分)(A)を形成させて、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ジオール化合物(a1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得る成型工程、を含み、
前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記非重付加性重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の含有量:a1r及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2rとしたときに、
式:Rr=100×Br/〔a1r+a2r+Ar+Br〕
で定義される重合性単量体配合比率Rrを5質量%以上20質量%未満とする、
ことを特徴とする、ポリウレタン系複合材料成形体の製造方法である。
【0012】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、前記第2原料組成物中における前記充填材(D)の含有割合が60質量%~80質量%であることが好ましい。
【0013】
また、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)が、下記構造式(1)に示す重合性単量体を含むことが好ましい。
【0014】
【化1】
【0015】
〔前記構造式(1)中、R11及びR12は水素原子又はメチル基であり、nは1~10の整数である。〕
さらに、前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)が、ジオール化合物に含まれる2つのヒドロキシル基間に介在する2価の有機残基における主鎖を構成する原子の数が2~8であるジオール化合物であることが好ましい。
【0016】
本発明の第三の形態は、本発明のポリウレタン系複合材料からなる歯科切削加工用材料である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、特許文献1に記載されたポリウレタン系複合材料と同様に、強度、耐水性、及び、均一性にも優れた、歯科切削加工用材料として好適に使用することができるポリウレタン系複合材料が提供される。また、本発明の製造方法によれば、上記のような特徴を有する本発明のポリウレタン系複合材料の成形体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前記したように、特許文献1に記載された前記ポリウレタン系複合材料においては、その均一性を良好に保つために、樹脂成分中に占めるポリウレタン成分の割合を、80質量%を超えて高くすることができないが、特許文献1には、その理由は特に記載されていない。そこで、本発明者等は、前記課題を解決するために、先ず、その理由について検討を行った。その結果、架橋構造導入ポリウレタン系複合材料は、通常、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)、前記重合性単量体(非重付加性ラジカル重合性単量体)(B)、ラジカル重合開始剤(C)及び充填材(D)を含む原料組成物(本発明の製造方法における第2原料組成物に相当する)をラジカル重合によって重合硬化させて所期の形状の成形体を得、必要に応じてこれを加工して使用されるところ、上記割合が80質量%を超える場合には、上記原料組成物が非常に硬く流動性を殆ど有しない組成物となり、場合によっては非重付加反応性単量体が組成物中で(均一に分布せずに)偏在してしまうことがあるという知見を得た。
【0019】
本発明者らは、上記知見に基づき、(第2)原料組成物の流動性を高めて成分の均一化を図ることができれば、上記割合が80質量%を超える場合でも均一な原料組成物の成形体を得ることができ、その物性を評価することができると考え、さらに検討を行ったところ、(1)(第2)原料組成物をラジカル重合が実質的に起こらない温度に加熱すれば均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料の成形体を得ることができること、および(2)上記割合が95質量%以下であれば、高い耐水性が維持できること、を見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0020】
なお、上記(1)に関し、(第2)原料組成物を比較的低い温度に加熱することにより均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料の成形体が得られるようになる理由は必ずしも明らかではなく、また、本発明は何ら論理に拘束されるものではないが、本発明者らが、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及びジイソシアネート化合物(a2)のみを用いて重付加反応を行って得た多くのラジカル重合性ポリウレタン成分(A)のガラス転移点が35~50℃程度であったことから、ラジカル重合が実質的に起こらない比較的低い温度であっても加熱によりラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の流動性が高まり均一性が高まると共に成形可能となったものと推定している。
【0021】
本発明のポリウレタン系複合材料は、ポリウレタン系樹脂からなるマトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料であって、前記ポリウレタン系樹脂は、ラジカル重合性基を有する、数平均分子量が1500~5000のポリウレタン成分の前記ラジカル重合性基とラジカル重合性単量体とがラジカル重合することにより形成された架橋構造を有し、前記ポリウレタン系樹脂に占める前記ポリウレタン成分の割合が80質量%を超え95質量%以下である、ことを特徴とするものであるが、その微細構造は、製造方法に依存し、これを分析等によって特定することは困難である。本発明のポリウレタン系複合材料は、本発明の製造方法によって製造される成形体を構成する材料であることから、以下に本発明の製造方法について詳しく説明する。
【0022】
なお、本願明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本願明細書において、「(メタ)アクリル」との用語は「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味する。
【0023】
1.本発明の製造方法
本発明の製造方法は、本発明のポリウレタン系複合材料からなる成形体を製造する方法であって、
ラジカル重合性ジオール化合物(a1);非重付加性ラジカル重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する第1原料組成物調製工程、
前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)と該ジイソシアネート化合物(a2)とを重付加反応させることにより、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成させて、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B);10時間半減期温度:T10が60℃以上である熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する第2原料組成物調製工程、
前記第2原料組成物の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得る成型工程、を含み、
前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記非重付加性重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の含有量:a1r及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2rとしたときに、
式:Rr=100×Br/〔a1r+a2r+Ar+Br〕
で定義される重合性単量体配合比率:Rrを5質量%以上20質量%未満とする、ことを特徴とする。なお、本発明の効果が顕著であるという理由から、前記Rrを5~15質量%とすることが好ましい。
【0024】
以下に、本発明の製造方法で使用する各種原材料および各工程等について詳しく説明する。
【0025】
2.各種原材料について
2-1.ラジカル重合性ジオール化合物(a1)
ラジカル重合性ジオール化合物(a1)は、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成するための原料となる化合物である。そして、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)が有する2つのヒドロキシル基と、もう一方のポリウレタン前駆体成分であるジイソシアネート化合物(a2)のイソシアネート基とが、第2原料組成物調製工程で重付加反応を起こすことにより、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)が形成される。
【0026】
ラジカル重合性ジオール化合物(a1)としては、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、2個のヒドロキシル基を有する化合物が特に制限なく使用できる。ここで、ラジカル重合性基とは、ラジカルを発生させる開始剤により反応し、重合する官能基を意味し、具体的には、ビニル基、(メタ)アクリレート基、及び、スチリル基等のラジカル重合性炭素-炭素二重結合を有する基を意味する。
【0027】
ジオール化合物がラジカル重合性基を有することによって重付加反応により形成されるポリウレタン分子の主鎖にラジカル重合性基が導入される。また、成型工程におけるラジカル重合の際にラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の分子内のラジカル重合性基同士、あるいは、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の分子内のラジカル重合性基と非重付加性ラジカル重合性単量体(B)のラジカル重合性基と、が反応して結合を形成することにより架橋が形成される。これにより、硬化体であるポリウレタン系複合材料の耐水性が向上する。
【0028】
生成物であるポリウレタン系複合材料の強度および耐水性の観点から、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、1~4であることが好ましく、特に1~2であることが好ましい。ラジカル重合性基の数を4以下とした場合には、ラジカル重合反応時に形成される硬化体の収縮を抑制することがより容易となる。
【0029】
また、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の分子内に含まれる2つのヒドロキシル基間に介在する2価の有機残基における主鎖を構成する原子の数(以下、「OH間距離」と称す場合がある)は、2~8であることが好ましく、2~6がより好ましく、2~4であることが特に好ましい。ラジカル重合性ジオール化合物(a1)のOH間距離を上記範囲内とすることにより、重付加反応により得られるラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の分子中にラジカル重合性基及びウレタン結合を高密度に導入することができ、ポリウレタン系複合材料の強度を高めることができる。
【0030】
なお、2種類以上のラジカル重合性ジオール化合物(a1)を用いる場合、OH間距離は、2種類以上のラジカル重合性ジオール化合物(a1)の平均値として計算された値を意味する。ここで、OH間距離の平均値は、2以上の整数であるn種類のラジカル重合性ジオール化合物(a1)を用いる場合には、各ラジカル重合性ジオール化合物のOH間距離:Dxに、ラジカル重合性ジオール化合物の総モル数に占める各ラジカル重合性ジオール化合物のモル数として定義される各ラジカル重合性ジオール化合物のモル分率(モル/モル):Mxを乗じた積の総和として計算される値を意味する。
【0031】
ラジカル重合性ジオール化合物(a1)として好適に使用される化合物としては、たとえば、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルの酸((メタ)アクリル酸やビニル安息香酸)開環物等を挙げることができる。これらは、単独で、又は異なる種類のものを混合して使用することができる。
【0032】
2-2.ジイソシアネート化合物(a2)
ジイソシアネート化合物(a2)は、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成するためのもう一方のポリウレタン前駆体成分であり、1分子中に2個のイソシアネート基を有する公知の化合物が特に限定されず使用できる。
【0033】
ジイソシアネート化合物(a2)として好適に使用される化合物としては、たとえば、1,3-ビス(2-イソシアナト-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-イソシアナトフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、4,4‘-ジイソシアン酸メチレンジフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4‘-ジイソシアナトビフェニル、4,4’-ジイソシアナト-3,3‘-ジメチルビフェニル、ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアナート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアネート、ジイソシアン酸イソホロン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、ジイソシアン酸1,3-フェニレン、トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、トリレン-2,4-ジイソシアナート、トリレン-2,6-ジイソシアナート、m-キシリレンジイソシアナートなどを挙げることができる。
【0034】
これらの中でも、ジイソシアネート化合物(a2)としては、得られる第2原料組成物の流動性と得られるポリウレタン系複合材料の強度との観点から分子内にフェニル基を有するジイソシアネート化合物(a2)が好ましい。
【0035】
第2原料組成物調製工程におけるラジカル重合性ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物(a2)の使用量は、モル比〔ジイソシアネート化合物(a2)使用量/ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の使用量〕で1モル/モル前後であれば特に制限されないが、一般的には、0.9~1.2モル/モル程度であることが好ましい。なお、第2原料組成物調製工程において、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)とが定量的に反応してラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成すると共に未反応物を極力減らすという観点からは、モル比は、1.0~1.1モル/モルが好ましい。
【0036】
2-3.ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)
ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)は、第2原料組成物調製工程においてラジカル重合性ジオール化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)との重付加反応により形成される成分である。そして、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の構造は、第1原料組成物調製工程において使用するラジカル重合性ジオール化合物(a1)および第2原料組成物調製工程で使用されるジイソシアネート化合物(a2)によってほぼ一義的に決定される。
【0037】
また、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)は、熱ラジカル重合開始剤(C)の触媒作用により、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)とラジカル重合することによって、最終生成物であるポリウレタン系複合材料中のポリウレタン系樹脂マトリックスを構成する成分でもある。したがって、第2原料組成物から、充填材(D)を除外した残りの成分、言い換えれば、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)と、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)と、熱ラジカル重合開始剤(C)とを主成分として含む成分は、マトリックス原料組成物と呼ぶことができる。なお、第2原料組成物が、A~D成分以外の第五の成分をさらに含む場合において、第五の成分がラジカル重合性ポリウレタン成分(A)および/または非重付加性ラジカル重合性単量体(B)に溶解するときは、第五の成分もマトリックス原料組成物を構成する。
【0038】
第2原料組成物に含まれるラジカル重合性ポリウレタン成分(A)は、その数平均分子量が1500~5000である必要がある。数平均分子量を1500以上とすることにより、十分な強度を有するポリウレタン系複合材料を得ることができる。また、本発明者等の検討によれば、前記5成分の共存系内で数平均分子量が5000を越えるラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を得ることは実質的に不可能であるか非常に困難である。なお、数平均分子量が1500~5000の範囲内において、数平均分子量をより小さくすると、マトリックス原料組成物中にラジカル重合性ポリウレタン成分(A)が析出するのをより確実に抑制して均一なラジカル重合をより行いやすくなる。第2原料組成物の流動性とポリウレタン系複合材料の強度とをバランスよく両立させる観点から、上記数平均分子量は、1500~3500であることが好ましく、2000~3000であることがより好ましい。
【0039】
ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィ)測定で決定されるポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。第2原料組成物中のラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量は、第2原料組成物に必要に応じてTHF(テトラヒドロフラン)等の溶媒を加え、充填材(D)などの不溶成分を濾過、遠心分離などの操作で除去し、得られた溶液(すなわち、マトリックス原料組成物、あるいは、マトリックス原料組成物と必要に応じて加えた溶媒との混合物からなる溶液)についてGPC測定を行うことにより、求めることができる。測定は、Advanced Polymer Chromatography(日本ウォーターズ社製)を用いて、下記測定条件にて行うことができる。
【0040】
[測定条件]
・カラム:ACQUITY APCTMXT45 1.7μm
ACQUITY APCTMXT125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF
・流量:0.5ml/分
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)
【0041】
2-4.非重付加性ラジカル重合性単量体(B)
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は、分子内に、少なくとも1つのラジカル重合性基を有し、かつ、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない化合物である。ここで、「ラジカル重合性ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物(a2)の何れとも重付加反応を起こさない」とは、分子内に、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)と重付加反応を起こす基、および、ジイソシアネート化合物(a2)と重付加反応を起こす基の双方が含まれないことを意味し、具体的にはヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基が含まれないことを意味する。これらの官能基のうち、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)と重付加反応を起こし得る基は、イソシアネート基が挙げられ、ジイソシアネート化合物(a2)と重付加反応を起こし得る基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプト基が挙げられる。したがって、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は、分子内にヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基およびメルカプト基を有さない。また、ラジカル重合性基は、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)が有するラジカル重合性基と同様の基が利用できる。好適なラジカル重合性基としては、(メタ)アクリレート基および/または(メタ)アクリルアミド基や、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)が有するラジカル重合性基と同一の分子構造を持つ基が好ましい。非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の分子内に含まれるラジカル重合性基の数は、架橋の形成し易さの観点から、2~6個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましい。ラジカル重合性基の数を2個以上とすることにより、架橋密度をより大きくできるため、十分な強度を有する硬化体を得ることがより容易になる。また、ラジカル重合性基の数を6個以下とすることにより、硬化時の収縮を抑制することがより容易になる。また、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は室温(すなわち25℃)で液体であることが好ましい。
【0042】
また、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)と強く相互作用(特に水素結合)するような官能基を含まない方が好ましい。ポリウレタン成分(A)と強く相互作用する官能基を例示すれば、アミド基、ウレタン基、ウレア基が挙げられる。これらの官能基を含む場合、より高い温度を用いて成型工程を行わなければ、十分な流動性及び均一性を得ることが難しいことがある。
【0043】
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の粘度は特に制限されないが、常温において1mPa・s~1000mPa・Sの範囲であることが好ましく、1mPa・s~100mPa・sの範囲であることがより好ましい。前記範囲の非重付加性ラジカル重合性単量体を用いることで、成型工程における加温による効果が大きくなる。
【0044】
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)としては、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を分散させやすいという観点から、下記式構造式(1)で表される重合性単量体を含むことが好ましい。
【0045】
【化2】
【0046】
なお、構造式(1)中、R11及びR12は水素原子又はメチル基を意味し、nは1~10の整数、好ましくは1~3の整数を意味する。
【0047】
非重付加性ラジカル重合性単量体(B)として好適に使用できる化合物としては、たとえば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカノール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの中でも、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、が特に好ましい。
【0048】
第2原料組成物中の非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の含有量は、前記第2原料組成物に含まれる前記各成分の含有量(質量部)を、夫々、前記ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の含有量:Ar、前記非重付加性重合性単量体(B)の含有量:Br、前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の含有量:a1r及び前記ジイソシアネート化合物(a2)の含有量:a2rとしたときに、
式:Rr=100×Br/〔a1r+a2r+Ar+Br〕
で定義される重合性単量体配合比率:Rrが5質量%以上20質量%未満となる量である。5質量%未満である場合には、均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料を得ることが非常に困難となる。
【0049】
2-5.熱ラジカル重合開始剤(C)
熱ラジカル重合開始剤(C)は、成型工程におけるラジカル重合反応を開始する機能を有し、ラジカル重合性基同士を反応させて結合させることにより、第2原料組成物を重合硬化させると共に架橋点を形成させる機能を有する。本発明の製造方法では、モールド(成形型)内に充填された第2原料組成物を加熱して重合させるため、ラジカル重合開始剤として熱ラジカル重合開始剤(C)を使用する。また、モールド内に充填する前及び充填時において、所定の温度に加熱された第2原料組成物中でラジカル重合が起こらないようにするために、熱重合開始剤としては、10時間半減期温度:T10が60℃以上であるものを使用する。T10の上限温度は、特に限定されないが、通常は150℃である。流動性等の観点からT10が70~120℃、特に80~100℃の範囲であるものを使用することが好適である。ここで、10時間半減期温度:T10とは、熱重合開始剤の存在量が、初期から10時間経過後に初期の半分に減ずる温度のことであり、熱重合開始剤の反応性を表す指標として用いられる。好適に使用できる熱ラジカル重合開始剤を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイドやtert-ブチルパーオキシラウレートなどのような過酸化物開始剤、アゾビスブチロニトリルなどのようなアゾ系の開始剤などを挙げることができる。これら熱重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0050】
ラジカル重合開始剤(C)の使用量は、その種類に応じて適宜決定すればよいが、通常、マトリックス原料組成物の質量を基準として0.005質量%~2.0質量%の範囲であることが好ましく、0.01質量%~1.0質量%の範囲であることがより好ましい。 2-6.充填材(D)
充填材(D)は、ポリウレタン系樹脂マトリックス中に分散して、ポリウレタン系樹脂マトリックスと複合化することにより、ポリウレタン系樹脂複合材料の機械的強度、耐摩耗性および耐水性等の物性を向上させる機能を有する。
【0051】
充填材(D)としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物、ガラス等の無機充填材を用いることが好ましい。このような、無機充填材を具体的に例示すれば、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナなどの球形状粒子あるいは不定形状粒子を挙げることができる。なお、本発明の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料成形体を歯科材料として利用する場合、充填材(D)としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、あるいは、それらの複合酸化物を用いることが好ましく、シリカ、あるいは、その複合酸化物であることが特に好ましい。これらの無機充填材は、口腔内環境において溶解のおそれがなく、ポリウレタン樹脂系マトリックスとの屈折率差が調整しやすく、透明性や審美性を制御しやすいためである。
【0052】
充填材(D)の形状は、特に限定されず、目的のポリウレタン系複合材料の用途に応じて適宜選択することができるが、たとえば、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れたポリウレタン系複合材料が得られる観点からは、球形状であることが好適である。また、球形状の充填材(D)を分散含有するポリウレタン系複合材料は歯科用途においても特に好適である。ここでいう球形状とは、走査型あるいは透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において求められる平均均斉度が0.6以上であることを意味する。平均均斉度は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。平均均斉度は、走査型あるいは透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において、n個(通常40個以上、好ましくは100個以上)の粒子の夫々について、最大径である長径(L)および長径(L)に直交する短径(B)を測定して、その比(B/L)求め、その総和(ΣB/L)をnで除することにより算出することができる。
【0053】
充填材(D)の平均粒子径は、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点から0.001μm~100μmであることが好ましく、0.01μm~10μmであることがより好ましい。また、ポリウレタン系複合材料中における充填材(D)の含有率を向上させやすいという点から、複数の粒径を有する充填材(D)を用いることが好ましい。具体的には、0.001μm~0.1μmの粒径と0.1μm~100μmの粒径を組み合わせることが好ましく、0.01μm~0.1μmの粒径と0.1μm~10μmの粒径を組み合わせることがより好ましい。
【0054】
充填材(D)としては、ポリウレタン系樹脂マトリックスとのなじみをよくし、ポリウレタン系複合材料の機械的強度や耐水性を向上させるために、表面処理を行ったものを使用することが好ましい。表面処理剤としては、一般的にシランカップリング剤が用いられ、特にシリカをベースとする無機粒子系の充填材(D)に対しては、シランカップリング剤による表面処理の効果が高い。シランカップリング剤として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、等が好適に用いられる。
【0055】
充填材(D)の使用量は、目的とするポリウレタン系複合材料の強度等の物性に応じて適宜決定すればよいが、ポリウレタン系複合材料の高強度化の観点から、第2原料組成物の質量を基準とする質量%(以下、単に「充填率」と称す場合がある。)で表して、60質量%~80質量%であることが好ましく、65質量%~75質量%がより好ましい。また、本実施形態のポリウレタン系複合材料の製造方法により製造されたポリウレタン系複合材料を歯科切削加工用材料として使用する場合の充填率は65質量%~75質量%であることがより好ましい。
【0056】
2-7.その他の添加剤
第1原料組成物あるいは第2原料組成物には以上に説明した必須成分の他に、その他の各種の添加剤を配合しても良い。各種添加剤としては、重合禁止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌材、X線造影剤など挙げることができ、その添加量は所望の目的に応じて適宜決定すればよい。
【0057】
3.各工程について
本発明の製造方法は、第1原料組成物調製工程、第2原料組成物調製工程、及び成型工程を含む。以下に各工程の詳細について説明する。
【0058】
3-1.第1原料組成物調製工程及び第2原料組成物調製工程
第1原料組成物調製工程では、ラジカル重合性ジオール化合物(a1);非重付加性ラジカル重合性単量体(B);熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含む第1原料組成物を調製する。そして第2原料組成物調製工程では、前記第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)とを混合して前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)と該ジイソシアネート化合物(a2)とを重付加反応させることにより、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成させて、該ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)、前記非重付加性ラジカル重合性単量体(B);10時間半減期温度:T10が60℃以上である熱ラジカル重合開始剤(C);及び充填材(D)を含み、未反応の前記ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及び/又は未反応の前記ジイソシアネート化合物(a2)を含んでいてもよい第2原料組成物を調製する。
【0059】
なお、これら工程における各成分の配合量は次のようにして決定される。すなわち、第1原料組成物の組成は、得ようとする第2原料組成物の組成をベースとして決定される。具体的には、等モルのラジカル重合性ジオール化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)とが定量的に重付加反応してラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を生成することを前提に、第2原料組成物調製工程におけるラジカル重合性ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物(a2)の使用量は、モル比〔ジイソシアネート化合物(a2)使用量/ラジカル重合性ジオール化合物(a1)の使用量〕で1モル/モル前が、一般的には、0.9~1.2モル/モル程度、好ましくは1.0~1.1モル/モルとなるようにし、更に重合性単量体配合比率:Rrが5質量%以上20質量%未満の範囲の所定値(質量%)となるようにして、第1原料組成物における(a1)及び(B)の量、並びに第2原料組成物調製工程で使用する(a2)の量が決定される、そして、これら配合量により第2原料組成物における、(A)、(B)、残存(a1)又は残存(a2)の量も自動的に決定される。また、(C)及び(D)の配合量は夫々前記した基準に基づく好ましい量とすればよい。
【0060】
第1原料組成物は、第1原料組成物を構成する全ての成分を一度に混合して調製してもよく、第1原料組成物を構成する一部の成分を混合した混合物を調製した後に、第1原料組成物を構成する残りの成分を添加・混合して調製してもよい。第1原料組成物の調製に際して、各成分を混合する際の混合方法は特に限定されず、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、遠心混合機等を用いた方法が適宜使用される。また、充填材(D)を均一に分散させやすいという理由から、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)及び非重付加性ラジカル重合性単量体(B)を先に混合することで混合組成物を調製した後、この混合組成物に充填材(D)を添加して混合することにより第1原料組成物を調製することが好ましい。さらに、副反応を抑制しやすく、分散が容易である点から、ラジカル重合開始剤(C)も第1原料組成物に添加することが好ましい。同様に、その他の添加剤も第1原料組成物に添加することが好ましい。このようにして調製された第1原料組成物は、脱泡処理を施し、内部に含まれる気泡を無くしておくことが好ましい。脱泡の方法としては公知の方法が用いられ、加圧脱泡、真空脱泡、遠心脱泡等の方法を任意に用いることができる。
【0061】
なお、第1原料組成物には、その他の添加剤として、必要であれば重付加反応を促進する触媒がさらに含まれていてもよいが、重付加反応を促進する触媒が含まれていなくてもよい。なお、重付加反応を促進する触媒としては、たとえば、オクチル酸錫や二酢酸ジブチル錫などを例示できる。
【0062】
第2原料組成物調製工程では、第1原料組成物に含まれるラジカル重合性ジオール化合物(a1)と、ジイソシアネート化合物(a2)とを重付加反応させることでラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成する。重付加反応は、第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)を混合すると同時に、あるいは、第1原料組成物とジイソシアネート化合物(a2)を混合後に必要に応じて加熱することにより開始される。重付加反応は、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)およびジイソシアネート化合物(a2)の少なくとも一方が重付加反応により実質的に消費し尽くされるまで重付加反応を進行させるように、言い換えれば、重付加反応の進行度が最大値(飽和値)近傍となるまで、実施する。このとき、第1原料組成物は10時間半減期温度:T10が60℃以上である熱ラジカル重合開始剤(C)を含むので、使用する熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも低い反応温度で重付加反応を行う必要があり、T10よりも80℃~20℃低い温度、特に70℃~30℃低い温度に保った状態で重付加反応を行うことが好ましい。なお、本発明の製造方法においては、上記したような方法を採用しても不可避的に僅かながら生じるラジカル重合反応は許容される。
【0063】
反応時間は反応温度により異なり、例えば(1)反応温度が30℃以上50℃未満であれば60時間以上が好ましく、72時間以上がより好ましく、(2)加熱温度が50℃以上80℃未満であれば24時間以上が好ましく、36時間以上がより好ましく、(3)加熱温度が80℃以上であれば15時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましい。なお、上記(1)~(3)に示すケースにおいて、加熱時間の上限値は特に限定されるものではないが、生産性などの実用上の観点からは120時間以下が好ましい。
【0064】
第2原料組成物を調製する際に、各成分を混合するために用いる混合手段は特に限定されず公知の混合手段が適宜利用できる。このような混合手段としては、たとえば、マグネチックスターラー、ライカイ機、プラネタリーミキサー、遠心混合機等を挙げることができる。また、混合中の組成物への気泡の混入を避けるために、加圧条件下、および/または、真空条件下で混合してもよい。
【0065】
3-2.成型工程
成型工程では、前記第2原料組成物の温度を40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)の10時間半減期温度:T10よりも15℃低い温度以下の温度に保持した状態で、モールド内に充填した後に、前記熱ラジカル重合開始剤(C)のT10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合を行うことによりポリウレタン系複合材料成形体を得る。
【0066】
第2原料組成物を構成する4つの必須成分のうち、含有量の点で主成分となるのは、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)および充填材(D)である。ここで、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)は常温では液状の低分子物質である。一方、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)は高分子ではあるものの、その数平均分子量は1500~5000という比較的小さい値である(すなわち、分子サイズがかなり小さい)ため、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)が第2原料組成物中に重合性単量体配合比率:Rrが20質量%以上となるような量で存在する場合には、その一部が溶解したり、膨潤したりすることによって室温においても第2原料組成物は均一性を保ち、且つ流動性を有するペースト状のものとなる。しかし、Rrが20質量%未満、特に15質量%以下である場合には、第2原料組成物は流動性を失い、固体のような状態となり、場合によっては液体成分である非重付加性ラジカル重合性単量体(B)が分離して偏在する等によって均一性も低下する。
【0067】
本発明の製造方法では、ラジカル重合を行う前に、第2原料組成物を所定の温度、具体的には40℃以上で且つ前記熱ラジカル重合開始剤(C)の10時間半減期温度:T10よりも15℃低い温度以下の温度、に加熱することにより、その性状を均一な流動性ペースト状としてから所定の形状に成形し、均一性を保ったままの状態でラジカル重合を行うので、均一な架橋構造導入ポリウレタン系複合材料からなる成形体を効率的に得ることが可能である。
【0068】
より均一にペースト状態に変化させることができる点から、熱ラジカル重合開始剤(C)として10時間半減期温度:T10が70~120℃、特に80~100℃の範囲であるものを使用し、モールド充填前に前記第2原料組成物を保持する温度(加熱温度)を、45℃~T10より15℃低い温度、特に50℃~T10より20℃低い温度とすることが好適である。
【0069】
モールド充填前に前記第2原料組成物を保持する温度(加熱温度)に保持する方法としては、局所的に高温になることを避けるために、第2原料組成物を保持した容器を所定の温度に保持された雰囲気中に置く方法、所定の温度に保持された熱媒体(液体やプレートなどの個体)と接触させる方法などが好適に採用できる。所定の温度に保持する時間は(保持期間中に置けるラジカル重合により)モールド充填に悪影響を与えない範囲であれば良く、所定の温度に達してから、通常は5分~数時間、好ましくは10~60分の範囲である。なお、前記した温度に保持することにより、特に撹拌等の操作を行わなくても第2原料組成物は均一な状態となるが、内部に気泡等が残らないようにすれば、撹拌操作を行ってもよい。
【0070】
成形工程で使用するモールド(成形型)としては、目的とする成形体の形状に応じたキャビティーを有するものが適宜使用できる。その材質は、ラジカル重合を行う際の温度や圧力に耐え得るものであれば特に制限されず、金属やセラミックス、樹脂の材料を用いることができる。具体的には、SUSやポリプロピレン、ポリアセタール、ポリテトラフルオロエチレンなどからなるものが好適に使用できる。
【0071】
モールド内への第2原料組成物の充填は、上述の温度範囲内の温度に加熱した状態で行う以外は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。このとき、加圧注型、あるいは、真空注型をすることにより好適に行うことができる。特に、加圧注型である場合、第2原料組成物への伝熱を確実に行うことができるため、より好ましい。加圧の方法に制限はなく、機械的な加圧や空気による加圧を行うことができる。
【0072】
モールド内に充填された第2原料組成物は、前記熱ラジカル重合開始剤(C)の10時間半減期温度:T10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱されることによりラジカル重合を行い、目的とする形状を有するポリウレタン系複合材料成形体とされる。この場合、加熱温度は150℃を超えないように制御することが好ましい。加熱温度を下限温度(T10よりも10℃低い温度)以上に設定することにより、ラジカル重合速度を十分に大きくすることができる上に、硬化体の意図せぬ着色の発生も抑制することが容易となる。また、加熱温度を上限温度(T10よりも25℃高い温度)以下に設定することにより、急激なラジカル重合の進行を抑制することができる。上述した温度範囲内に加熱温度を制御することにより、工業的に許容できる反応速度で重合硬化を進行させ、急激な反応進行により硬化体中に歪やクラックが発生することも抑制でき、さらに非重付加性ラジカル重合性単量体(B)の劣化が生じるのも抑制することが極めて容易になる。また、加熱によりラジカル重合させる際には、気泡に起因するボイドが硬化体中に形成されるのを抑制するために、ラジカル重合中の第2原料組成物を加圧しても良い。加圧の方法に制限はなく、機械的に加圧しても良いし、窒素等の気体による加圧を行っても良い。
【0073】
このようにしてラジカル重合工程を行うことにより、ポリウレタン系樹脂マトリックス中に充填材(D)が分散したポリウレタン系複合材料からなる成形体を得ることができる。
【0074】
4.本発明の製造方法の適用例(歯科切削加工用材料の製造)
本発明のポリウレタン系複合材料は、口腔内のような親水環境下においても高い強度を維持しつつ耐水性も有する。このように高い耐水性を有するために、本発明の製造方法は、特に歯科用CAD/CAMシステムを用いて歯科切削加工用材料を切削加工することにより歯科用補綴物を作製する場合において、当該歯科切削加工用材料の製造方法として好適に使用することができる。以下に、本発明の製造方法について、歯科切削加工用材料の製造に利用した場合の好適な具体例について説明する。
【0075】
まず、本発明の製造方法と同様にして、第2原料組成物を準備する。次に、第2原料組成物を40℃~T10-15℃に加熱した状態で、モールドに注入した後、T10よりも10℃低い温度~T10よりも25℃高い温度に加熱してラジカル重合(成型工程)を実施する。型成形に用いる型枠は特に限定されず、製品形態ごとにあらかじめ想定している形状に応じて、角柱、円柱、角板、円板状のものが適宜使用される。また、型枠の寸法形状は、ラジカル重合時の収縮率等を考慮して、ラジカル重合後の硬化体の寸法形状に略一致する寸法形状でもよく、あるいは、ラジカル重合により得られた硬化体を後工程で加工する場合には加工代を見込んで、得られた硬化体の寸法形状よりも大きめの寸法形状であってもよい。
【0076】
モールドへの第2原料組成物の注入方法は、上述の温度範囲内の温度に加熱した状態で行う以外は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。しかしながら、加圧注型あるいは真空注型を採用することが好適である。このような注入方法を採用することで、得られる硬化体(ポリウレタン系複合材料)中への気泡の混入やボイドの形成を抑制でき、結果的に、強度および審美性に優れた歯科切削加工用材料を得ることができる。なお、加圧注型の場合、加圧の方法に制限はなく、機械的に加圧しても良いし、窒素等の気体による加圧を行っても良い。
【0077】
得られた硬化体は、モールドから取り出された後に、必要に応じて、残留応力を緩和させるための熱処理、切削による形状の修正、研磨などの後処理・後加工を行う。続いてこれら後処理・後加工を経た硬化体に対して、更にCAD/CAM装置に保持するためのピン等の固定具を接合することで、歯科切削加工用材料を得る。
【実施例0078】
以下、本発明を、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0079】
1.原材料
各実施例および比較例において用いた各成分とその略称を以下に示す。
【0080】
(1)ラジカル重合性ジオール化合物(a1)
GLM:グリセロールモノメタクリレート(OH間距離:2)
EGDGMA:エチレングリコールジグリシジルメタクリレート(OH間距離:8)
(2)ジイソシアネート化合物(a2)
XDI:m-キシリレンジイソシアナート
(3)非重付加性ラジカル重合性単量体(B)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサンと1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサンの混合物
(4)ラジカル重合開始剤(C)
PBL:t-ブチルパーオキシラウレート(10時間半減期温度98℃)
PBC:t-ブチルクミルパーオキド(10時間半減期温度120℃)
(5)充填材(D)
F1:シリカ-ジルコニア(平均粒径:0.4μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)
F2:シリカ-チタニア(平均粒径:0.08μm、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル表面処理物)
2.ポリウレタン系複合材料の製造方法
以下に本発明のポリウレタン系複合材料の製造方法の実施例を、比較例と共に示す。
【0081】
実施例1
(1)第1原料組成物調製工程
先ず、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)であるGLM(12.5質量部)、非重付加性ラジカル重合性単量体(B)であるTEGDMA(2.7質量部)、及びラジカル重合開始剤(C)であるPBL(0.1質量部)を混合した混合組成物を調製した。次に、この混合物組成物に対して、充填材(D)であるF1(49.0質量部)及びF2(20.9質量部)を添加して混練することにより、第1原料組成物を調製した。
【0082】
(2)第2原料組成物調製工程
得られた第1原料組成物の全量を含む自転公転ミキサー内にジイソシアネート化合物(a2)であるXDI(14.7質量部)を加えて混練することにより重付加反応性原料組成物を調製した。次に、得られた重付加反応性原料組成物を37℃で72時間インキュベーター内に静置して重付加反応を行い、ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)を形成して第2原料組成物を調製した。
【0083】
ここで、本実施例において、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)に対するジイソシアネート化合物(a2)のモル比(以下、「a2/a1モル比」と称す場合がある)は、1.0である。また、重合性単量体配合比率Rrは、9質量%である。さらに、第2原料組成物の質量に占める充填材(D)の質量の割合(充填率)は、70質量%となっている。また、重付加反応を行う際に37℃に加熱した場合を除いて、各種組成物の調製は全て常温(25℃)環境下において実施した。
【0084】
(3)第2原料組成物の評価
(3-1)ラジカル重合性ポリウレタン成分(A)の数平均分子量測定(GPC測定)
得られた第2原料組成物1gをスクリュー管瓶に測り取り、THFを3.5ml加え撹拌して得られたTHF溶液を遠心分離機(アズワン株式会社製)にて、10000rpmで10分間遠心分離を行った。次に遠心分離により得られた上澄み液をメンブレンフィルター(PORE SIZE 20μm,株式会社ADVANTEC製)で濾過することにより濾液を得た。そしてこの濾液について、下記に示すGPC測定条件にてGPC測定を行うことにより、重付加反応により得られたラジカル重合性ポリウレタン成分(A)のポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。その結果、数平均分子量は2500であった。
【0085】
[GPC測定条件]
測定装置:Advanced Polymer Chromatography(日本ウォーターズ社製)
・カラム:ACQUITY APCTMXT45 1.7μm
ACQUITY APCTMXT125 2.5μm
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:THF(流量:0.5ml/分)
・検出器:フォトダイオードアレイ検出器 254nm(PDA検出器)
【0086】
(3-2)流動性の評価
第2原料組成物の室温(23℃)及びモールド充填時の保持温度(加熱温度)である45℃における流動性を、直径5mmのステンレス(SUS)製丸棒を所定の速度で所定の深さまで押し込んだときの最大荷重を以下の手順で測定することにより評価した。すなわち、まず、第2原料組成物をSUS製ナット状型に填入して表面を平らにならし、5分間測定温度(23℃、あるいは、前記保持温度)で放置した。次に、サンレオメーターCR-150(株式会社サン科学製)に、第2原料組成物を充填したSUS製ナット状型と、感圧軸として5mmSUS製棒と、を取り付けた。続いて、23℃及び前記保持温度において、感圧軸を120mm/分の速度で第2原料組成物中に深さ2mmまで圧縮進入させた。そしてこの時の最大荷重[kg]を測定した。その結果、23℃における最大荷重は測定上限である10.0[kg]を超え、45℃における最大荷重は9.4[kg]であった。
【0087】
なお、上記測定によって得られた最大荷重が10kgを超える場合には、著しく流動性が低く、第2原料組成物をモールド(型枠)内に隙間なく充填することが不可能である。
【0088】
(3-3)ポリウレタン成分(A)のガラス転移点の評価
参考として、別途、ラジカル重合性ジオール化合物(a1)とジイソシアネート化合物(a2)と、実施例1における量比と同じ量比で重付加反応させて得られたポリウレタン成分のガラス転移点を次のようにして評価した。
【0089】
すなわち、DSC8230(リガク製)を用いて、窒素雰囲気下、20℃から、昇温速度10℃/分で100℃まで昇温させ、その後降温し、20℃となった点から再度昇温速度10℃/分で100℃まで昇温させた、その過程により、得られたポリウレタン成分のDSC曲線を得、得られたDSC曲線の内、再度昇温したときの曲線において低温側のベースラインを延長した直線と階段状変化部分の接線とが交わる温度をガラス転移点としたところ、43℃であった。
【0090】
(4)成型工程
得られた第2原料組成物を45℃に加熱した加熱プレス(井元製作所製)上に5分間静置して、第2原料組成物を45℃に加熱した(加熱温度:45℃)。モールド(縦12mm×横18mm×厚さ14mm)内に注入し、2MPaの荷重を加えて、プレスし5分間保持し、モールドに充填を行った。
【0091】
(5)ラジカル重合工程(硬化工程)
モールドに充填された第2原料組成物を120℃で15時間、窒素加圧下(0.3MPa)にてラジカル重合することにより、ポリウレタン系樹脂マトリックス中に充填材が分散したポリウレタン系複合材料を得た。ラジカル重合による硬化により得られた硬化体の外観は、硬化が部分的に不十分な部分も存在しておらず、均一な硬化体が得られた。
【0092】
(6)ポリウレタン系複合材料(硬化体)の評価
得られたポリウレタン系複合材料について、曲げ強さ、水中曲げ強さ、維持率(耐水性)および均一性を評価した。評価方法と結果を以下に示す。
【0093】
[曲げ強さBS
得られたポリウレタン系複合材料(硬化体)を低速のダイヤモンドカッター(Buehler社製)で切り出した後、#2000の耐水研磨紙を用いて研磨することにより、5本の角柱状の試験片(厚さ:約1.2mm×幅:約4.0mm×長さ:14.0mm)を作製した。次に、各試験片についてオートグラフ(島津製作所製)を用いて3点曲げ試験を行い、最大点の曲げ荷重を測定した。そして、下式(1)に基づき曲げ強さBSを求めた。最大点の曲げ荷重は、支点間距離は12.0mm、クロスヘッドスピードは1.0mm/分に設定して測定した。その結果、5本の試験片の曲げ強さBSの平均値(曲げ強さBS)は、249MPaであった。
・式(1) BS=3PS/2WB
〔式(1)中、BSは曲げ強さ(MPa)、Pは最大点の曲げ荷重(N)、Sは支点間距離(12.0mm)、Wは試験片の幅(実測値、mm)、Bは試験片の厚さ(実測値、mm)を意味する。〕
【0094】
[水中曲げ強さBS
[曲げ強さ]の欄にて説明した場合と同様にして試験片5本を作製し、全ての試験片をイオン交換水中にて、37℃で1週間保管した。その後、イオン交換水から取り出した試験片について、表面に付着した水分を除去した後、[曲げ強さ]の欄にて説明した場合と同様の試験条件にて3点曲げ試験を行い、水中保管後の試験片の最大点の曲げ荷重を測定した。その後、個々の水中保管後の試験片について式(1)に基づき曲げ強さBSを求めた。その結果、5本の水中保管後の試験片の曲げ強さBSの平均値(水中曲げ強さBS)は、207MPaであった。
【0095】
[維持率(耐水性)]
硬化体の耐水性を示す指標となる維持率は、下式(2)に基づいて計算した。本実施例では、維持率は83%であり、高い耐水性を有することが確認された。
・式(2) 維持率(%)=100×BS/BS
〔式(2)中、BSは、10個の水中保管後の試験片の曲げ強さBSの平均値(MPa)、BSは、10個の試験片の曲げ強さBSの平均値(MPa)を表す。〕
【0096】
[均一性]
得られた硬化体の外観および硬化体を略2等分して得た切断面を目視で観察することにより、硬化体の均一性を評価した。ここで、硬化体が均一性を有するか否かは、硬化体の表面および切断面において、硬化ムラが存在するか否か、亀裂が存在するか否か、により判断し、硬化ムラおよび亀裂共に確認されない場合は均一と判定し、硬化ムラおよび亀裂の少なくとも一方が確認された場合は不均一と判定した。実施例1の硬化体については、硬化ムラおよび亀裂共に確認されず、均一であることが判った。
【0097】
実施例2~3
成型工程におけるモールド充填時の保持温度(加熱温度)を表2に示すように変更して、実施例1で得られた第2原料組成物をモールドに充填した後ラジカル重合工程を実施することでポリウレタン系複合材料を製造した。第2原料組成物の成型工程での加熱温度における流動性、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表2に示す。
【0098】
比較例1~2
成型工程におけるモールド充填時の保持温度(加熱温度)を表2に示すように変更して、実施例1で得られた第2原料組成物をモールドに充填した後にラジカル重合工程を実施することでポリウレタン系複合材料を製造した。第2原料組成物の成型工程での加熱温度における流動性、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表2に示す。なお、均一性評価における「不均一」とは、硬化ムラがあったことを意味している。
【0099】
実施例4~8
実施例1において、使用する原料、a2/a1モル比、重合性単量体配合比率Rr及び充填率を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして第2原料組成物を調製し、成型工程におけるモールド充填時の保持温度(加熱温度)を表2に示すように変更して、得られた第2原料組成物をモールドに充填した後にラジカル重合を実施することでポリウレタン系複合材料を製造した。第2原料組成物の成型工程での加熱温度における流動性、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表2に示す。
【0100】
比較例3
成型工程におけるモールド充填時の保持温度(加熱温度)を表2に示すように変更して、実施例4で得られた第2原料組成物をモールドに充填した後にラジカル重合を実施することでポリウレタン系複合材料を製造した。第2原料組成物の成型工程での加熱温度における流動性、得られたポリウレタン系複合材料について実施例1と同様に評価を行った。その結果を表2に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】