(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007799
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】試験片およびこれを用いたアルコールの検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/52 20060101AFI20230112BHJP
G01N 33/98 20060101ALI20230112BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
G01N33/52 B
G01N33/98
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110876
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】591045677
【氏名又は名称】関東化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】相澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 優理
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045DA74
2G045FB01
2G045FB17
2G045GC12
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ61
4B063QR03
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】
本発明は、濃度0.01%~0.64%のアルコールに対する感度が長期保存によって変化することのない、保存安定性に優れた試験片の提供を目的とする。
【解決手段】
アルコールに反応して変色する試薬を含浸させ乾燥した担体を含む試験片であって、25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した後で濃度0.01%~0.64%のアルコールを検出するための、前記試験片。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールに反応して変色する試薬を含浸させ乾燥した担体を含む試験片であって、
25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した後で濃度0.01%~0.64%のアルコールを検出するための、前記試験片。
【請求項2】
アルコールに反応して変色する試薬がアルコールオキシダーゼを含む、請求項1に記載の試験片。
【請求項3】
担体に含浸させる溶液中のアルコールオキシダーゼの濃度が0.1U/mL~100U/mLである、請求項2に記載の試験片。
【請求項4】
25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間~240時間保持した後で濃度0.01%~0.64%のアルコールを検出するための、請求項1~3のいずれか一項に記載の試験片。
【請求項5】
唾液中のアルコール濃度を検出するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の試験片。
【請求項6】
変色に必要なアルコールの濃度が各々異なる2つ以上の担体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の試験片。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の試験片を25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した、試験片。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の試験片を用いた、アルコールの検出方法。
【請求項9】
変色した担体の個数および/または色の濃さによりアルコールの濃度を測定する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化することを含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
請求項7に記載の試験片を製造する方法であって、
アルコールに反応して変色する試薬を担体に含浸させる工程と、これを乾燥する工程と、担体を25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持させる工程とをこの順で含む、前記方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の試験片、および、アルコールの濃度と担体の変色との対応関係を示す色見本を含む、検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片およびこれを用いたアルコールの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールの濃度の正確な定量は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどの分析機器によって行われる。しかし、これらの機器は高価であり、操作に熟練が必要で、結果を得るまで長時間を要するため、経済性や迅速性に難点がある。そのため、特別な装置や技術を要することなく、任意の場所で簡便、かつ安価にアルコールを検出する方法の開発が行われてきた。例えば、担体に酵素などの試薬群を固相化し、これを土台となる支持体の上に設置したアルコール試験紙が開発されている(例えば、下記特許文献1~4を参照)。
【0003】
担体に固相化する試薬群は大きく2種類に分類される。一つ目は、(a)アルコールデヒドロゲナーゼ、(b)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドフォスフェイト(NADP)、(c)ジアホラーゼ、(d)変色剤からなる群である(特許文献1、2)。変色剤としては例えばホルマザン色素やメチレンブルーなどが挙げられる。(a)-(d)によってエタノールが呈色する原理を
図1に示す。原料に由来する微量なNADHが問題になる場合には、これを消去する目的で過硫酸カリウムなどの(e)酸化剤を加えることもある。二つ目は、(a)’アルコールオキシダーゼ、(b)’ペルオキシダーゼ、(c)’変色剤からなる群である(特許文献3、4)。変色剤としては例えば1種類で呈色する3,3’-ジアミノベンジジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)や、4-アミノアンチピリンと酸化縮合して呈色する所謂トリンダー試薬などが挙げられる。(a)’-(c)’によってエタノールが呈色する原理を
図2に示す。原料に由来する微量な過酸化水素が問題となる場合には、これを消去する目的でアスコルビン酸などの(d)’還元剤を加えることもある。
【0004】
上記いずれの方法もエタノールを検出することが可能であるが、アルコールデヒドロゲナーゼおよびアルコールオキシダーゼはいずれも不安定であるため、アルコール試験紙の保存安定性が問題となっている。
【0005】
アルコール試験紙の保存安定性を高める目的で、担体にマンニットなどの多価アルコールやシクロデキストリンなどの糖類を添加する例が報告されている(特許文献5、6)。しかし、いずれも37℃で20日以内の保存安定性しか示されておらず、また、保存開始時と保存期間経過後との間の感度の定量的な比較についても検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60-164498号公報
【特許文献2】特開昭59-166098号公報
【特許文献3】特開昭60-172298号公報
【特許文献4】特開平03-004799号公報
【特許文献5】特開昭61-212300号公報
【特許文献6】特開昭60-075299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、濃度0.01%~0.64%のアルコールに対する感度が長期保存によって変化することのない、保存安定性に優れた試験片を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記試験片によるアルコールの検出方法、前記試験片を含む検出用キット、および、前記試験片の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意研究する中で、本発明者らは、アルコールに反応して変色する試薬を含浸させ乾燥した担体を含む試験片を、25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持することにより、濃度0.01%~0.64%のアルコールに対する感度が長期にわたって安定化することを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1] アルコールに反応して変色する試薬を含浸させ乾燥した担体を含む試験片であって、
25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した後で濃度0.01%~0.64%のアルコールを検出するための、前記試験片。
[2] アルコールに反応して変色する試薬がアルコールオキシダーゼを含む、[1]に記載の試験片。
[3] 担体に含浸させる溶液中のアルコールオキシダーゼの濃度が0.1U/mL~100U/mLである、[2]に記載の試験片。
【0010】
[4] 25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間~240時間保持した後で濃度0.01%~0.64%のアルコールを検出するための、[1]~[3]のいずれか一つに記載の試験片。
[5] 唾液中のアルコール濃度を検出するための、[1]~[4]のいずれか一つに記載の試験片。
[6] 変色に必要なアルコールの濃度が各々異なる2つ以上の担体を含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の試験片。
【0011】
[7] [1]~[6]のいずれか一つに記載の試験片を25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した、試験片。
[8] [1]~[7]のいずれか一つに記載の試験片を用いた、アルコールの検出方法。
[9] 変色した担体の個数および/または色の濃さによりアルコールの濃度を測定する、[8]に記載の方法。
[10] 変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化することを含む、[8]または[9]に記載の方法。
【0012】
[11] [7]に記載の試験片を製造する方法であって、
アルコールに反応して変色する試薬を担体に含浸させる工程と、これを乾燥する工程と、担体を25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持させる工程とをこの順で含む、前記方法。
[12] [1]~[7]のいずれか一つに記載の試験片、および、アルコールの濃度と担体の変色との対応関係を示す色見本を含む、検出用キット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の試験片は、長期保存によるアルコール検出感度の低下が従来技術による試験片よりも小さく、40℃以下の温度条件下で60日間以上保存しても問題なく使用することができる。この性質は、アルコール試験紙を商業的に利用する際に非常に重要となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、アルコールデヒドロゲナーゼを用いたエタノールの呈色法の原理を表す図である。
【
図2】
図2は、アルコールオキシダーゼを用いたエタノールの呈色法の原理を表す図である。
【
図3】
図3は、変色した担体の個数および/または色の濃さによりアルコールの濃度を測定するための、本発明の一態様による試験片の模式図を表す図である。
【
図4】
図4は、変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化することによりアルコールの濃度を測定するための、本発明の一態様による試験片の模式図を表す図である。
【
図5】
図5は、(A)発明品と(B)対照品の担体上にそれぞれ0.08%エタノールを供し、5分後の外観を観察した結果を示す図である。
【
図6】
図6は、(A)発明品と(B)対照品を25℃で62日間保存した試験片の担体上にそれぞれ0.08%エタノールを供し、5分後の外観を観察した結果を示す図である。
【
図7】
図7は、(A)発明品と(B)対照品を37℃で62日間保存した試験片の担体上にそれぞれ0.08%エタノールを供し、5分後の外観を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の試験片は、アルコールに反応して変色する試薬を含浸させ乾燥した担体を含み、25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した後で、濃度0.01%~0.64%のアルコールの検出に供するための試験片である。
【0016】
アルコールに反応して変色する試薬を担体に含浸させ乾燥してから25℃~40℃の温度条件下で保持したとき、かかる担体を含む試験片のアルコールに対する感度は、アルコールに反応して変色する試薬の固相状態における安定性が乏しく失活してしまうため、乾燥直後(保持前)から24時間経過するまでの間に急激に低下する。ところが、乾燥から24時間経過以降(保持後)は、意外にも、前記温度条件下で保持しても感度に大きな変化は生じず、アルコールに対する感度が安定化する。
乾燥から24時間経過以降にアルコールに対する感度が安定化する理由は定かではなく、アルコールに反応して変色する試薬の変化をその構造または特性で直接特定することも困難である。本発明を理論により束縛することを目的としないが、一つの仮説として、アルコールに反応して変色する試薬に含まれる特定の成分中に熱への耐性があるものとないものとが存在し、その結果、25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間経過するまでに熱への耐性がないものが失活し、その後は熱への耐性があるもののみが残ることが考えられる。この場合、保持後のアルコールに対する感度が経時的に変化する恐れがなく、アルコール検出時までにさらに時間が経過した試験片(保存後の試験片)であっても安定した感度でのアルコール検出が可能となると考えられる。
【0017】
アルコールに反応して変色する試薬を担体に含浸させ乾燥した後で行う保持の温度条件は25℃~40℃であり、好ましくは27℃~35℃であり、より好ましくは28℃~32℃である。
保持の温度条件が25℃より低い場合には、試験片のアルコールに対する感度が安定するまでの時間が長くなりすぎたり、アルコールに対する感度が十分に安定化していない試験片を与える恐れがあるため、好ましくない。また、保持の温度条件が40℃より高い場合には、アルコールに反応して変色する試薬が必要以上に失活し、濃度0.01%~0.64%のアルコール検出に必要な感度が十分に得られない恐れがあるため、好ましくない。
【0018】
25℃~40℃の温度条件下で保持する時間は、アルコールに反応して変色する試薬を担体に含浸させ乾燥してから24時間以上であれば特に限定されないが、好ましくは24時間~240時間の範囲、より好ましくは24時間~200時間の範囲、さらに好ましくは24時間~150時間の範囲である。
保持時間が24時間未満の場合、アルコールに反応して変色する試薬の失活が十分に進んでおらず、さらなる失活の余地が残る状態となるため、アルコール検出の感度が経時的に変化する恐れがあり、好ましくない。
試験片の保持は、試験片を乾燥剤とともに保持するなどの乾燥条件下で行うことが好ましい。また、試験片の保持は、試験片をアルミ袋に閉じるなどの遮光条件下で行うことが好ましい。
【0019】
25℃~40℃の温度条件下での保持は、乾燥された担体が同条件下で保持される限りその態様に制限はない。例えば、乾燥された担体のみの状態で保持を行ってもよく、乾燥された担体と基材等の他の構成要素とを組み合わせた試験片の状態で保持を行ってもよい。
【0020】
乾燥には特に制限がなく、担体から後述する溶媒が十分に除去されればよい。乾燥の一態様として、真空ポンプを用いて行う減圧乾燥および凍結乾燥が挙げられる。アルコールに反応して変色する試薬の失活を防ぐため、室温以下の温度で乾燥することが好ましい。乾燥を行う温度範囲は、好ましくは1℃~40℃の範囲、より好ましくは4℃~30℃の範囲、なおより好ましくは4℃~25℃の範囲である。
乾燥後の溶媒の残存量は少ないほど良いが、例えば、溶媒として水を用いた場合、25℃で一晩減圧乾燥することにより達成され得る一般的な範囲で十分である。
【0021】
本発明の試験片において、25℃~40℃の温度条件下で、アルコールに反応して変色する試薬を担体に含浸させ乾燥してから24時間以上保持した後のアルコール検出感度は、一般的には保持前の30%~90%程度と考えられる。
【0022】
本発明で用いられるアルコールに反応して変色する試薬は、アルコールが一定の濃度を超えることにより変色するものであれば、特に限定されない。変色は、本明細書において、呈色および退色を包含する。本発明で用いられるアルコールに反応して変色する試薬は、例えば特許文献1~6などに記載の発明の原理に基づく試薬でもよい。
【0023】
本発明の好ましい態様において、アルコールに反応して変色する試薬は、アルコールオキシダーゼを含有し、より好ましい態様において、アルコールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、変色剤、および還元剤を含有し、なおより好ましくは、アルコールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、変色剤、還元剤、および安定化剤を含有する。
本発明の好ましい態様において、アルコールオキシダーゼはEC 1.1.3.13に分類されるものであって、例えば酵母由来のものが挙げられる。
本発明の好ましい態様において、ペルオキシダーゼはEC 1.11.1.7に分類されるものであって、例えば西洋わさび由来のものが挙げられる。
【0024】
本発明の好ましい態様において、変色剤は、単独でも2種類以上の組み合わせで使用してもよい。単独の変色剤は、例えば3,3’-ジアミノベンジジンまたはその塩、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンまたはその塩、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)またはその塩、などが挙げられる。また2種類以上の組み合わせの変色剤は、例えば4-アミノアンチピリンや3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾンなどと、フェノール性化合物やアニリン誘導体などとの組み合わせが挙げられ、好ましくは4-アミノアンチピリンとTOOS(Sodium 3-(N-ethyl-3-methylanilino)-2-hydroxypropanesulfonate)との組み合わせである。
【0025】
本発明の好ましい態様において、還元剤は、アルコールオキシダーゼの自己酸化などに由来する、検体の適用前に生じる過酸化水素を還元できるものであれば特に限定されず、例えば、アスコルビン酸、還元型グルタチオン、システイン、などが挙げられ、好ましくはアスコルビン酸である。
【0026】
本発明の好ましい態様において、安定化剤は、例えば、多糖類、オリゴ糖類、二糖類、単糖類、およびこれらの誘導体などであり、好ましくは還元性のない糖アルコール、シクロデキストリン、トレハロース、スクロースであり、最も好ましくはスクロースである。
【0027】
本発明の試験片により検出されるアルコールの濃度範囲は、例えば、試薬の成分または担体の個数を変化させることなどにより調節可能である。
本発明の試験片により検出されるアルコールの濃度は0.01~0.64%の範囲であり、好ましくは0.02~0.4%の範囲である。本明細書中、アルコールの濃度を示す「%」は体積%(vol%)を意味する。
検出されるアルコールの濃度をかかる範囲に設定することにより、試験片を特定の目的、例えば、ドライバーの飲酒運転の取り締まりの目的に用いることができる。
【0028】
本発明の好ましい態様において、アルコールに反応して変色する試薬は、溶媒と組み合わせた溶液の状態で担体に含浸される。溶媒は、乾燥によって除去される。
本発明の好ましい態様において、溶媒は、アルコールに反応して変色する試薬を溶解させることができ、かつ、乾燥によって除去可能なものであれば特に制限がない。典型的には、溶媒として水が用いられる。
【0029】
本発明の好ましい態様において、溶媒として水を用いてアルコールに反応して変色する試薬の水溶液を調製する場合、水溶液のpHの範囲には特に制限がない。アルコールに反応して変色する試薬を安定化させる観点、特に酵素の働きによる良好な発色反応を安定して得る観点から、アルコールオキシダーゼを用いる反応様式の場合、水溶液のpHは好ましくはpH7.0~9.0の範囲、より好ましくはpH7.0~8.5の範囲、なおより好ましくはpH7.5~8.5の範囲である。
水溶液のpHを安定化させるため、溶媒である水に緩衝剤を添加した緩衝液を用いてもよい。このような緩衝液の例として、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝液、各種グッド緩衝液などが挙げられる。これらのうち、酵素が働く中性~弱アルカリ性に緩衝域を有するリン酸緩衝液、および、トリス(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)緩衝液、ならびに、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)または4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)などのグッド緩衝液がより好ましい。
【0030】
本発明の好ましい態様において、担体に含浸させる溶液中のアルコールオキシダーゼの濃度は0.1U/mL~100U/mLの範囲であり、より好ましくは0.5U/mL~50U/mLの範囲、なおより好ましくは4~30U/mLの範囲、特に好ましくは4~20U/mLの範囲である。かかる濃度範囲を採用することにより、25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した試験片が、濃度0.01%~0.64%のアルコールの検出に対して適切な感度を示すため、好ましい。
【0031】
本発明の好ましい態様において、担体に含浸させる溶液中のペルオキシダーゼの濃度は、検出されるアルコールの濃度などの観点から、0.1U/mL~1000U/mLの範囲であり、より好ましくは1U/mL~500U/mLの範囲、なおより好ましくは10U/mL~100U/mLの範囲である。
【0032】
本発明の好ましい態様において、担体に含浸させる溶液中の変色剤の濃度は、検出されるアルコールの濃度などの観点から、0.01mmol/L~100mmol/Lの範囲であり、より好ましくは0.1mmol/L~10mmol/Lの範囲、なおより好ましくは0.5mmol/L~5mmol/Lの範囲である。
【0033】
本発明の好ましい態様において、担体に含浸させる溶液中の還元剤の濃度は、検出されるアルコールの濃度などの観点から、0mmol/L~100mmol/Lの範囲であり、より好ましくは0.1mmol/L~10mmol/Lの範囲、なおより好ましくは0.5mmol/L~5mmol/Lの範囲である。
【0034】
本発明の好ましい態様において、担体に含浸させる溶液中の安定化剤の濃度は0%~30%の範囲であり、より好ましくは1%~20%の範囲、なおより好ましくは5%~15%の範囲である。本明細書中、安定化剤の濃度を示す「%」は質量体積%(g/100mL)を意味する。
【0035】
本発明の試験片に適用される検体は、アルコール以外に任意の物質を含んでもよいが、好ましくは水溶液中のアルコールまたは唾液中のアルコールである。
本発明の試験片に適用される検体のアルコールは、本発明の試薬により変色を示すものであれば特に限定されないが、好ましくは1級アルコール、より好ましくはメタノールまたはエタノール、最も好ましくはエタノールである。
【0036】
本発明の試験片に含まれる担体は、常温で水、唾液、およびアルコールに不溶性または難溶性のものであれば限定されない。例えば、ゼラチン、寒天、シクロデキストリン、セルロース、紙、キチン、グルカンなどに代表される天然物の低分子から高分子のものや、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ナイロン、アクリルなどの反合成から合成高分子などを用いてもよい。吸水性と保水性の観点から、好ましくはポリビニルアルコールである。
前記担体の大きさ、厚さ、形状などには特に制限がない。
【0037】
本発明の試験片は、担体を基材上に設けることにより構成されていてもよい。基材の材質は特に限定されず、例えば、紙、プラスチック、ゴム、樹脂などでもよい。また、基材の形状は、棒状、円形状、多角形状など、特に限定されない。
【0038】
本発明の試験片は、変色に必要な濃度が各々異なる2つ以上の担体を含むことができる。かかる態様の試験片を複数組み合わせて用いることにより、
図3に示すように、変色した担体の個数と各担体の色の濃さとの2つの観点からアルコールの濃度を測定し検出することができる。これにより、測定者の主観によらずにアルコールの濃度の測定が可能となるため、好ましい。
試験片が複数の担体を含む場合、アルコールの測定可能な濃度範囲ならびに試験片および担体の製造の簡便性などの観点から、担体の個数は、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~5個であり、なおより好ましくは2~4個であり、特に好ましくは2~3個である。
【0039】
また、本発明は、アルコールに反応して変色する試薬を含浸させ乾燥した担体を含み、25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持した、濃度0.01%~0.64%のアルコールの検出に供するための試験片に関する。
かかる試験片を採用することにより、濃度0.01%~0.64%のアルコールの検出に対して良好かつ経時的に安定した感度が得られるため、好ましい。
前記のとおり保持した試験片をさらに保存する場合、アルコールに反応して変色する試薬の失活を防ぐ観点から低温条件下で保存することが好ましいが、40℃以下の温度条件であれば最低60日間は性能の劣化なく保存することができる。
試験片の保存は、試験片を乾燥剤とともに保存するなどの乾燥条件下で行うことが好ましい。また、試験片の保存は、試験片をアルミ袋に閉じるなどの遮光条件下で行うことが好ましい。
【0040】
さらに、本発明は、上述の試験片を用いたアルコールの検出方法に関する。
本発明による試験片を用いたアルコールの検出方法は、少なくとも検体が担体に供される態様であれば、特に制限がない。検体を担体に供する方法は、例えば、検体を担体上に滴下する方法、試験片ごと検体に浸す方法が含まれる。
【0041】
本発明による試験片を用いたアルコールの検出方法は、変色した担体の個数および/または色の濃さによりアルコールの濃度を測定することにより行ってもよく、例えば、
図4に示すように、変色した担体の個数および/または色の濃さを点数化してアルコールの濃度を測定することにより行ってもよい。点数化は、変色した担体の個数によって行われ得る。例えば、試験片の担体が0個変色した場合0点、1個変色した場合1点、2個変色した場合2点などと、単調減少または単調増加するよう行われる。さらに点数化は、例えば、各担体の色の濃さによって、変色しない場合0点、淡く変色した場合1点、次に淡く変色した場合2点などと、単調減少または単調増加するよう行われる。各担体の色の濃さによる点数化は、各担体につき、任意の段階で行われてもよいが、色の濃さの判断の容易さなどの観点から、2~4段階、好ましくは3段階で行われる。さらにまた、点数化は、担体の個数と各担体の色の濃さとの両方の組み合わせにより行われてもよい。
【0042】
本発明の試験片の製造方法の一態様として、アルコールに反応して変色する試薬を担体に含浸させる工程と、これを乾燥する工程と、担体を25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持させる工程とをこの順で含む方法が挙げられる。かかる試験片の製造方法における好ましい態様は、試験片について述べた好ましい態様と同様である。
【0043】
本発明の試験片は、アルコールの濃度と担体の変色との対応関係を示す色見本と組み合わせた検出用キットとしてもよい。検出の現場で簡易にできる比色法として、アルコールの濃度に対応する色見本の複数を点数化して配列した評価用サンプルを作製し、検体による変色が色見本のどの色に対応するか比べることにより、より高い精度で所定の濃度のアルコールを検出することができる。前記評価用サンプルは、写真または印刷物などでもよい。
【実施例0044】
以下に、本発明の実施例を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
表1および表2に示す処方で試薬1および2を作製した。試薬1をポリビニルアルコール性の担体に染み込ませ、25℃で一晩減圧乾燥することによって固相化したものを乾燥剤と共にアルミ袋に閉じ、30℃で5日間保持したものを発明品とした。試薬2をポリビニルアルコール性の担体に染み込ませ、25℃で一晩減圧乾燥することによって固相化したものを対照品とした。
【0046】
【0047】
【0048】
(評価1:長期保存前の試験片の評価)
0.08%エタノールを発明品と対照品の担体上に供し、5分後の外観を観察した(各サンプル数:2)。
図5に示すとおり、(A)発明品および(B)対照品ともに良好な発色反応を示した。
【0049】
(評価2-1:長期保存後の試験片の評価1)
発明品と対照品を乾燥剤と共にアルミ袋に閉じ、25℃で62日間保存した試験片の担体上にそれぞれ0.08%エタノールを供し、5分後の外観を観察した(各サンプル数:2)。
図6に示すとおり、(A)発明品は長期保存前と同等の感度で発色反応を示した。他方、(B)対照品は長期保存前に比べて感度が低下しており、非常に弱い発色反応を示すのみであった。
【0050】
(評価2-2:長期保存後の試験片の評価2)
発明品と対照品を乾燥剤と共にアルミ袋に閉じ、37℃で62日間保存した試験片の担体上にそれぞれ0.08%エタノールを供し、5分後の外観を観察した(各サンプル数:2)。
図7に示すとおり、(A)発明品は長期保存前と同等の感度で発色反応を示した。他方、(B)対照品は長期保存前に比べて感度が極度に低下しており、発色反応をほとんど確認することができなかった。
【0051】
以上の結果より、試験片を25℃~40℃の温度条件下、乾燥から24時間以上保持するによって、濃度0.01%~0.64%のアルコールに対する感度が安定化することが分かった。