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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077996
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】車両用ホイール
(51)【国際特許分類】
   B60B 3/04 20060101AFI20230530BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B60B3/04 E
B60B3/04 Z
C09K3/10 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191539
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】521388508
【氏名又は名称】株式会社 タッチョー
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】達布 希拉図
(72)【発明者】
【氏名】青 松
【テーマコード(参考)】
4H017
【Fターム(参考)】
4H017AB15
4H017AD02
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】 錆の発生を抑制し、耐久性を高めた車両用ホイールを提供する。
【解決手段】 車両用ホイールは、ディスク部とリム部とを接合し、当該接合部が溶接により固着部で固着されてなるホイール本体と、前記ディスク部と前記リム部の固着部の隙間において、当該隙間の手前側から奥側に向かって浸透性が大きくなる複数段階の軟弾性材料から構成される多層被膜層と、を備える。
【選択図】 図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク部とリム部とを接合し、当該接合部が溶接により固着部で固着されてなるホイール本体と、
前記ディスク部と前記リム部の固着部の隙間において、当該隙間の手前側から奥側に向かって浸透性が大きくなる複数段階の軟弾性材料から構成される多層被膜層と、
を備えることを特徴とする、
車両用ホイール。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ホイールにおいて、
前記軟弾性材料が、シリコーンゴムからなる、
車両用ホイール。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の車両用ホイールにおいて、
前記多層被膜層のうち少なくとも1層の被膜層を構成する前記軟弾性材料が、アルカリ金属塩を含有する、
車両用ホイール。
【請求項4】
請求項3に記載の車両用ホイールにおいて、
前記アルカリ金属塩が、前記隙間の奥側の被膜層のほうが手前側の被膜層よりも配合率が高い、
車両用ホイール。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の車両用ホイールにおいて、
前記アルカリ金属塩が、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、及び、ケイ酸マグネシウム、からなる群から選択される1以上である、
車両用ホイール。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のタイヤに装着される車両ホイールに関し、特に耐久性を高めた車両ホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のタイヤに装着される金属製の車両ホイールは、ディスク部とリム部が溶接により固着して形成されている。しかし、このディスク部とリム部を固着して物理的に完全に密着させることは実際は困難であり、大なり小なり隙間が生じてしまう。車両ホイールの長年の使用により、この隙間から経年的に水分や粉塵が侵入し蓄積することで、金属酸化が生じて錆が発生しやすくなる。錆が発生すると、ディスク部の表面に錆汁が流出して美観を損なうのみならず、錆による腐食が進行してエアー漏れやメッキ剥離が生じて故障の原因ともなり、また車両ホイール自体の強度も低下して耐久性が低下してしまう。
【0003】
そのため、従来から、このディスク部とリム部とが固着した隙間に生じる錆や錆汁の問題を改善する目的で、様々な車両ホイールの開発研究がなされている。
【0004】
例えば、従来の車両用ホイールとしては、リム部とディスク部との接合部に形成される凹陥部を適宜の充填材にて閉塞してなる車両ホイールが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
さらにこのような充填材に関して、例えば、従来の車両用ホイールとしては、リム部とディスク部の間の溶接接合による嵌合部を軟弾性物質から成るシール材により外部空間からシールした車両ホイールが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭54-144501号公報
【特許文献2】実開昭60-121903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の車両用ホイールは、リム部とディスク部の間の溶接接合による嵌合部に、例えば軟弾性物質等の適宜の充填材を充填して、当該嵌合部の隙間を埋めることで、当該隙間からの錆の発生を抑制しようとするが、このような充填材であっても物理的に微細な形状の隙間を完全に埋めることはできず、依然として嵌合部の隙間からの錆の発生を抑制できていないという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決することであり、錆の発生を抑制し、耐久性を高めた車両用ホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、リム部とディスク部の間の溶接接合による接合部の隙間の構造に工夫を凝らした結果、接合部の隙間についての新たな構造を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本願に開示する車両用ホイールは、ディスク部とリム部とを接合し、当該接合部が溶接により固着部で固着されてなるホイール本体と、前記ディスク部と前記リム部の固着部の隙間において、当該隙間の手前側から奥側に向かって浸透性が大きくなる複数段階の軟弾性材料から構成される多層被膜層と、を備えるものである。
【0011】
このように、ディスク部とリム部とを接合し、当該接合部が溶接により固着部で固着されてなるホイール本体と、前記ディスク部と前記リム部の固着部の隙間において、当該隙間の手前側から奥側に向かって浸透性が大きくなる複数段階の軟弾性材料から構成される多層被膜層と、を備えることから、当該隙間の奥側では高い浸透性を有する軟弾性材料の被膜層が形成されることにより、当該隙間の奥深くの混み合った形状に対しても、当該軟弾性材料の高い浸透性により奥深くまで浸透すると共に、当該隙間の手前側では低い浸透性を有する軟弾性材料の被膜層により、水分や粉塵等の外部と直接接触する当該隙間の手前側において、当該軟弾性材料が低い浸透性により高い硬度で被膜層が形成されることとなり、当該隙間の密閉性が高められると共に外部との接触に対する強度も高められ、高い耐久性を発揮することができ、ディスク部とリム部との接合部からの錆の発生を抑制することができる。
【0012】
本願に開示する車両用ホイールは、必要に応じて、前記軟弾性材料が、シリコーンゴムからなるものである。このように、前記軟弾性材料が、シリコーンゴムからなることから、前記ディスク部と前記リム部の固着部の細かい隙間にも深く浸透しやすい粘度と、高い耐熱性及び耐寒性がシリコーンゴムにより発揮されることとなり、厳しい外部環境下においてもディスク部とリム部との接合部からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。
【0013】
本願に開示する車両用ホイールは、必要に応じて、前記多層被膜層のうち少なくとも1層の被膜層を構成する前記軟弾性材料が、アルカリ金属塩を含有するものである。前記多層被膜層のうち少なくとも1層の被膜層を構成する前記軟弾性材料が、アルカリ金属塩を含有することから、アルカリ金属塩を含有することで前記軟弾性材料の粘性が低下して前記多層被膜層を構成する被膜層間の粘度の違い(浸透性の違い)が容易に形成されると同時に、前記多層被膜層からアルカリ金属塩由来のアルカリ性の成分が経年的に徐放されてpH調整作用により外部からの酸化を抑制することとなり、経年的に酸化を受けやすい外部環境下においてもディスク部とリム部との接合部からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。
【0014】
本願に開示する車両用ホイールは、必要に応じて、前記アルカリ金属塩が、前記隙間の奥側の被膜層のほうが手前側の被膜層よりも配合率が高いものである。このように、前記アルカリ金属塩が、前記隙間の奥側の被膜層のほうが手前側の被膜層よりも配合率が高いことから、アルカリ金属塩の配合率の違いのみによって、アルカリ金属塩を含有することで前記軟弾性材料の粘性が低下することにより前記多層被膜層を構成する多段階の被膜層間の粘度の違い(浸透性の違い)が容易に形成されると同時に、前記多層被膜層からアルカリ金属塩由来のアルカリ性の成分が経年的に徐放されてpH調整作用により外部からの酸化を抑制することとなり、経年的に酸化を受けやすい外部環境下においてもディスク部とリム部との接合部からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。
【0015】
本願に開示する車両用ホイールは、必要に応じて、前記アルカリ金属塩が、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、及び、ケイ酸マグネシウム、からなる群から選択される1以上であるものである。このように、前記アルカリ金属塩が、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、及び、ケイ酸マグネシウム、からなる群から選択される1以上であることから、入手しやすいアルカリ金属塩を含有することで前記軟弾性材料の粘性を簡易に制御できると共に、前記前記多層被膜層からアルカリ金属塩由来のアルカリ性の成分が経年的に徐放されてpH調整作用により外部からの酸化を抑制することとなり、経年的に酸化を受けやすい外部環境下においてもディスク部とリム部との接合部からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る車両用ホイールに係るホイール本体の構成図を示す。
図2】本発明の実施形態に係る車両用ホイールに係る多層被膜層の充填方法を説明する説明図を示す。
図3】本発明の実施形態に係る車両用ホイールに係る多層被膜層の充填方法を説明する説明図を示す。
図4】本発明の実施形態に係る車両用ホイールに係る多層被膜層の充填状態を説明する説明図を示す。
図5】本発明の実施形態に係る車両用ホイールに係る多層被膜層の充填状態を説明する説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る車両用ホイールは、図1に示すように、ディスク部11とリム部12とを接合し、図2(a)に示すように、この接合部13が溶接により固着部14で固着されてなるホイール本体1と、図2(b)に示すように、このディスク部11とこのリム部12の固着部14の隙間14aにおいて、この隙間14aの手前側Bから奥側Aに向かって浸透性が大きくなる複数段階の軟弾性材料から構成される多層被膜層2と、を備えて構成される。
【0018】
このディスク部11とは、上述の図1に示すように、金属製の円盤状で形成されるタイヤ部材であり、例えば、スチールホイール、アルミホイール等の軽合金ホイールが一例として挙げられる。
【0019】
このリム部12とは、上述の図1に示すように、複数のスポーク及び飾り穴等の装飾が適宜形成され、このディスク部11の外周と一体的に接合されて、リム部12の外周に沿ってタイヤを装着固定する部材である。
【0020】
このディスク部11とリム部12との接合部13に用いられる溶接には、公知の溶接方法を適用することができ、特に限定されない。この溶接で固着された固着部14に隙間14aが形成されることから、この隙間14aにおいて、この隙間14aの手前側Bから奥側Aに向かって浸透性が大きくなる複数段階の軟弾性材料が充填されて多層被膜層2が形成される。
【0021】
すなわち、浸透性の異なる複数段階の軟弾性材料から、複数の被膜層が形成され、これら被膜層が積層されて多層被膜層2が形成される。
【0022】
この軟弾性材料は、特に限定されないが、取り扱いの容易さ及び高機能性から、シリコーンゴムからなるものが好適である。シリコーンゴムとは、シロキサン結合(Si-O)を主骨格としたシリコーン(ジメチルポリシロキサン)からなるゴムであり、このシロキサン結合(Si-O)を基本骨格に有するゴムであれば特に限定されない。シリコーンゴムは、優れた耐熱性や耐寒性を有し、難燃性であり、成形安定性が高いという優れた特性を有する。
【0023】
このように、この軟弾性材料が、シリコーンゴムからなることから、このディスク部11とこのリム部12の固着部14に形成された細かい隙間14aにも深く浸透しやすい粘度と、高い耐熱性及び耐寒性がシリコーンゴムにより発揮されることとなり、例えば運転時間が昼夜の長時間にわたりタイヤの高温化が起きやすいトラック運送等の厳しい外部環境下においてもディスク部11とリム部12との接合部13からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。
【0024】
図2(a)に示すように、この隙間14aの奥側Aとは、この隙間14aの溶接個所に近い側であって外面からみて手前よりも奥深くにある側を指す。この隙間14aの手前側Bとは、この隙間14aの溶接個所から遠く離れた側であって外面からみて手前側Bを指す。
【0025】
軟弾性材料が、この隙間14aの手前側Bから奥側Aに向かって浸透性が大きくなるとは、例えば、図2(b)に示すように、この隙間14aの溶接個所に近い側であって外面からみて奥深くにある側に近づくにつれて、浸透性が大きい軟弾性材料が使用された第一被膜層2aが形成され、この隙間14aの溶接個所から遠く離れた側であって外面からみて手前側Bとなるにつれて、浸透性が小さい軟弾性材料が使用された第二被膜層2bが形成される。
【0026】
この隙間14aの溶接個所に近い側であって外面からみて奥深くにある側となるにつれて、浸透性が大きい軟弾性材料が使用された第一被膜層2aが形成されることから、溶接個所近傍に形成される細かい隙間14aに対して軟弾性材料が高い浸透性(低い粘性)により浸透することとなり、細かい隙間14aに対しても十分に軟弾性材料が浸透して充填され、隙間14aの形成を抑制することができる。
【0027】
また、この隙間14aの溶接個所から遠く離れた側であって外面からみて手前側Bとなるにつれて、浸透性が小さい軟弾性材料が使用された第二被膜層2bが形成されることから、溶接個所から離れて外部環境に直接接触する側にも低い浸透性(高い粘性)により軟弾性材料がしっかりと固定されることとなり、外部環境に面した側で十分な強度の被膜層が形成される。
【0028】
このような多層被膜層2の多層構造の形成方法は、図3(a)に示すように、ディスク部11とリム部12とを接合し、この接合部13が溶接により固着部14で固着されてホイール本体1が形成された後、図3(b)に示すように、このディスク部11とこのリム部12の固着部14の隙間14aの溶接個所に近い側であって外面からみて奥深くにある側に近づくにつれて、浸透性が大きい軟弾性材料が使用された第一被膜層2aが形成される。
【0029】
次に、図3(c)に示すように、この隙間14aの溶接個所から遠く離れた側であって外面からみて手前側Bにおいて、第一被膜層2aに対して、浸透性が小さい軟弾性材料が使用された第二被膜層2bが積層され、多層被膜層2が形成される。
【0030】
この多層被膜層2は、2層以上であれば特に限定されない。例えば、図4(a)に示すように、この隙間14aの溶接個所に近い側であって外面からみて奥深くにある側から、この隙間14aの溶接個所から遠く離れた側であって外面からみて手前側Bとなるに向かって、第一被膜層2a、第二被膜層2b、及び第三被膜層2cで積層された3層構造とすることもできる。この場合、第一被膜層2a、第二被膜層2b、及び第三被膜層2cの順に浸透性が小さくなる軟弾性材料が使用される。また、例えば、図4(b)に示すように、第一被膜層2a、第二被膜層2b、第三被膜層2c、及び第四被膜層2dで積層された4層構造とすることもできる。この場合、第一被膜層2a、第二被膜層2b、第三被膜層2c、及び第四被膜層2dの順に浸透性が小さくなる軟弾性材料が使用される。
【0031】
この軟弾性材料は、その配合成分は特に限定されず、公知の添加剤、例えば、増粘剤、増量剤、硬化剤等を単独又は組み合わせて用いることが可能であるが、この多層被膜層2のうち少なくとも1層の被膜層を構成するこの軟弾性材料が、アルカリ金属塩を含有することが好適である。
【0032】
この軟弾性材料がアルカリ金属塩を含有することで、アルカリ金属塩で増量された分、その軟弾性材料の粘度を簡易に下げることができる。
【0033】
この多層被膜層2が2層の被膜層で構成される場合には、アルカリ金属塩を含有する軟弾性材料と、アルカリ金属塩を含有しない軟弾性材料の2層の被膜層でこの多層被膜層2を構成することができる。
【0034】
この他にも、この多層被膜層2が2層の被膜層で構成される場合には、アルカリ金属塩を低濃度で含有する軟弾性材料と、アルカリ金属塩を高濃度で含有する軟弾性材料の2層の被膜層で構成することができる。
【0035】
すなわち、このアルカリ金属塩が、この隙間の奥側の被膜層のほうが手前側の被膜層よりも配合率が高いように構成することができる。このように、このアルカリ金属塩が、この隙間の奥側の被膜層のほうが手前側の被膜層よりも配合率が高いことから、アルカリ金属塩の配合率の違いのみによって、アルカリ金属塩を含有することでこの軟弾性材料の粘性が低下することにより多層被膜層2を構成する多段階の被膜層間の粘度の違い(浸透性の違い)が容易に形成されると同時に、この多層被膜層2からアルカリ金属塩由来のアルカリ性の成分が経年的に徐放されてpH調整作用により外部からの酸化を抑制することとなり、経年的に酸化を受けやすい外部環境下においてもディスク部11とリム部12との接合部からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。すなわち、このようなアルカリ金属塩の配合によって、従来には無いpH調整作用付き車両ホイールが形成される。
【0036】
このアルカリ金属塩の配合率は、特に限定されないが、例えば、0.1mmol/L~80mmol/Lの比率で配合することができ、より好適には1mmol/L~60mmol/Lの比率で配合することができ、シリコーンゴムの特性を活かしつつ適度な浸透性を付与することが可能となる。
【0037】
上記のアルカリ金属塩配合のいずれの場合でも、被膜層における粘度の違いにより浸透性の異なる2層の被膜層としての多層被膜層2が形成される。
【0038】
この多層被膜層2が3層以上の被膜層で構成される場合にも同様に、アルカリ金属塩を異なる濃度で含有する複数の軟弾性材料から構成される複数の被膜層でこの多層被膜層2を構成することができる。このように、複数の被膜層ごとに、異なる濃度のアルカリ金属塩を含有することで、各多層被膜層2を構成する軟弾性材料の粘度の高低(浸透性の高低)を簡易に設定することができる。また、アルカリ金属塩を含有しない軟弾性材料の被膜層をこの多層被膜層2を構成する被覆層に含めることもできる。いずれの場合でも、この多層被膜層2を構成する各被覆層の粘度の違いにより、浸透性の異なる3層以上の被膜層から多層被膜層2が形成される。
【0039】
さらに、この軟弾性材料がアルカリ金属塩を含有することで、上記のように、被膜層ごとに浸透性の異なる多層被膜層2が簡易に得られると同時に、アルカリ金属塩を含有する被膜層からアルカリ金属塩由来のアルカリ性の成分が経年的に徐放されることによって、外部環境から受ける水分や粉塵が多層被膜層2に接した場合であっても、この多層被膜層2から徐放されて多層被膜層2の表面に顕出したアルカリ性の成分がこれら水分や粉塵による酸化の作用を抑制する。
【0040】
この軟弾性材料がシリコーンゴムで構成された場合には、シリコーンゴムは乳白色の外観を呈するが、一般に、経年的な酸化によって変色してゴム特有の黄ばみとなりやすい。本実施形態では、アルカリ金属塩を含有する多層被膜層2が形成されることによって、このような黄ばみを抑制することが可能となる。
【0041】
このように、この軟弾性材料がアルカリ金属塩を含有することで、この軟弾性材料の粘性が低下して各多層被膜層2間の粘度の違い(浸透性の違い)を生み出すと同時に、この多層被膜層2からアルカリ金属塩由来のアルカリ性の成分が経年的に徐放されて外部からの酸化を抑制することとなり、経年的に酸化を受けやすい外部環境下においても、ディスク部11とリム部12との接合部13からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。
【0042】
このようなアルカリ金属塩としては、アルカリ性を示す化合物であれば特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、及び、ケイ酸マグネシウム、からなる群から選択される1以上であることが好適である。
【0043】
このように、入手しやすいアルカリ金属塩を含有することでこの軟弾性材料の粘性を簡易に制御できると共に、この被膜層からアルカリ金属塩由来のアルカリ性の成分が経年的に徐放されることでpH調整作用により外部からの酸化を抑制することとなり、経年的に酸化を受けやすい外部環境下においてもディスク部11とリム部12との接合部13からの錆や錆汁の発生を抑制することができる。
【0044】
なお、上記では、本実施形態に係る車両用ホイールは、この固着部14を起点として一方向の隙間に対して、奥側Bから手前側Aに向かって第一被膜層2a及び第二被膜層2bからなる多層被膜層2を形成したが、この構成に限定されず、図5に示すように、この固着部14を起点として両方向の隙間に対して、両方向のうち一方向の隙間の奥側Bから手前側Aに向かって、第一被膜層2a及び第二被膜層2bからなる多層被膜層2とを形成すると共に、両方向のうち他方向の隙間の奥側B’から手前側A’に向かって、第一被膜層2a’及び第二被膜層2b’からなる多層被膜層2とを、各々形成することも可能である。
【0045】
また、本実施形態に係る車両用ホイールを着用可能な車両は、特に限定されず、軽自動車、普通車、トラック等、広範に適用でき、いずれの車両に適用しても、錆の発生を抑制し、耐久性を高めることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ホイール本体
11 ディスク部
12 リム部
13 接合部
14 固着部
14a 隙間
2 多層被膜層
2a 第一被膜層
2a’ 第一被膜層
2b 第二被膜層
2b’ 第二被膜層
2c 第三被膜層
2d 第四被膜層

図1
図2
図3
図4
図5