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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078032
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】骨由来吸着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/02 20060101AFI20230530BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B01J20/02 C
B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191608
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】507009135
【氏名又は名称】株式会社アムロン
(71)【出願人】
【識別番号】517360491
【氏名又は名称】株式会社エヌ・シー・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一平
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 和晃
(72)【発明者】
【氏名】三好 しおり
(72)【発明者】
【氏名】仁志 直史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀典
(72)【発明者】
【氏名】末永 慶寛
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA02B
4G066AA49B
4G066AA75A
4G066BA36
4G066CA45
4G066CA46
4G066CA47
4G066DA07
4G066DA08
4G066FA12
4G066FA22
(57)【要約】
【課題】幅広い種類の重金属を吸着する骨由来吸着剤を提供すること。
【解決手段】骨由来吸着剤は、脊椎動物の骨を母材とし、鉄イオン化合物を含有する。骨由来吸着剤は、鉄イオン化合物を含有することによって、カチオン種のみならず、アニオン種の重金属(ヒ素、セレンなど)を吸着することができる。骨由来吸着剤の製造方法は、骨を焼成させ、焼成骨とする焼成工程と、鉄イオン化合物水溶液に焼成骨を浸漬させ、鉄分含浸骨を形成する鉄分含浸工程と、鉄分含浸骨を乾燥させ、骨由来吸着剤とする乾燥工程と、を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物の骨を母材とする吸着剤であって、
鉄イオン化合物を含有することを特徴とする骨由来吸着剤。
【請求項2】
前記鉄イオン化合物が、ハロゲンイオン、ヒドロキシイオン又は硫黄のオキソ酸イオンの少なくとも何れか1種を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の骨由来吸着剤。
【請求項3】
前記骨が魚類の骨であることを特徴とする請求項1に記載の骨由来吸着剤。
【請求項4】
前記骨を焼成させ、焼成骨とする焼成工程と、
鉄イオン化合物水溶液に前記焼成骨を浸漬させ、鉄分含浸骨を形成する鉄分含浸工程と、
該鉄分含浸骨を乾燥させ、骨由来吸着剤とする乾燥工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の骨由来吸着剤の製造方法。
【請求項5】
前記鉄分含浸工程の前又は後の工程に、ヒドロキシイオン化合物水溶液に、前記焼成骨又は前記鉄分含浸骨を含浸させる、ヒドロキシイオン含浸工程を有することを特徴とする請求項4に記載の骨由来吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、脊椎動物の骨を母材とし、重金属を吸着する骨由来吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、脊椎動物の骨を母材とし、重金属を吸着する骨由来吸着剤が知られている(たとえば、特許文献1及び2)。これらは、カチオン種の重金属を吸着することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-192481号公報
【特許文献2】特開2015-182901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献に記載の従来の骨由来吸着剤には、幅広い種類の重金属を吸着させたいという要望がある。
【0005】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、上述の点に鑑みてなされたものであり、幅広い種類の重金属を吸着する骨由来吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る骨由来吸着剤は、脊椎動物の骨を母材とする吸着剤であって、
鉄イオン化合物を含有することを特徴とする。
【0007】
本明細書の実施形態に係る骨由来吸着剤によれば、アニオン種の重金属を吸着することができる。
【0008】
ここで、上記骨由来吸着剤において、前記鉄イオン化合物が、ハロゲンイオン、ヒドロキシイオン又は硫黄のオキソ酸イオンの少なくとも何れか1種を含有するものとすることができる。
【0009】
これによれば、アニオン種の重金属を好適に吸着することができる。
【0010】
また、上記骨由来吸着剤において、前記骨が魚類の骨である、ものとすることができる。
【0011】
これによれば、入手が容易であり、かつ、アニオン種の重金属を好適に吸着することができる。
【0012】
ここで、上記骨由来吸着剤の製造方法は、前記骨を焼成させ、焼成骨とする焼成工程と、
鉄イオン化合物水溶液に前記焼成骨を浸漬させ、鉄分含浸骨を形成する鉄分含浸工程と、
該鉄分含浸骨を乾燥させ、骨由来吸着剤とする乾燥工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
これによれば、容易に骨由来吸着剤を製造することができる。
【0014】
また、上記骨由来吸着剤の製造方法において、前記鉄分含浸工程の前又は後の工程に、ヒドロキシイオン化合物水溶液に、前記焼成骨又は前記鉄分含浸骨を含浸させる、ヒドロキシイオン含浸工程を有する、ものとすることができる。
【0015】
これによれば、骨由来吸着剤の吸着性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書の骨由来吸着剤によれば、アニオン種の重金属を好適に吸着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態の骨由来吸着剤の製造工程のフロー図である。
図2】製造方法例1-1で製造された骨由来吸着剤(魚骨)のヒ素(アニオン)の吸着等温線を示す図である。
図3】製造方法例1-2で製造された骨由来吸着剤(魚骨)のヒ素(アニオン)の吸着等温線を示す図である。
図4】製造方法例2で製造された骨由来吸着剤(魚骨)のヒ素(アニオン)の吸着等温線を示す図である。
図5】各製造方法例による骨由来吸着剤(魚骨)のヒ素(アニオン)の吸着効果を示す図である。
図6】未処理(鉄分含浸工程を経ていない)の骨由来吸着剤(魚骨、豚骨、鳥骨)のヒ素(アニオン)の吸着効果を示す図である。
図7】製造方法例1-1で製造された骨由来吸着剤(魚骨、豚骨、鳥骨)のヒ素(アニオン)の吸着効果を示す図である。
図8】製造方法例1-2で製造された骨由来吸着剤(魚骨、豚骨、鳥骨)のヒ素(アニオン)の吸着効果を示す図である。
図9】製造方法例2で製造された骨由来吸着剤(魚骨、豚骨、鳥骨)のヒ素(アニオン)の吸着効果を示す図である。
図10】各製造方法例による骨由来吸着剤(魚骨)のセレン(アニオン)の吸着効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本明細書の実施形態に係る骨由来吸着剤について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態に係る骨由来吸着剤は、脊椎動物の骨を母材とし、鉄イオン化合物を含有するものである。骨由来吸着剤は、鉄イオン化合物を含有することによって、カチオン種のみならず、アニオン種の重金属(ヒ素、セレンなど)を吸着することができるものとなる。骨由来吸着剤の製造方法は、骨を焼成させ、焼成骨とする焼成工程と、鉄イオン化合物水溶液に焼成骨を浸漬させ、鉄分含浸骨を形成する鉄分含浸工程と、鉄分含浸骨を乾燥させ、骨由来吸着剤とする乾燥工程と、を有するものである。
【0019】
重金属とは、元素周期表11族から15族の金属元素を指し、一定量が人体に含まれているが、適正量を超えると、人体に悪影響を及ぼすことがあるものである。人体に悪影響を及ぼすことがある重金属の例として、ヒ素、セレン、カドミウム、水銀、鉛などがある。
【0020】
骨由来吸着剤の母材となる骨は、脊椎動物の骨であり、脊椎動物の骨は特に限定されるものではなく、脊椎動物である、円口類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類又は哺乳類の骨であれば使用することができる。これらは、ヒドロキシアパタイト(Hydroxyapatite)(Ca10(PO46(OH)2)を主成分とするものである。
【0021】
骨由来吸着剤の母材となる骨は、別の実施形態として、食用動物の残渣である、魚骨(魚類の骨)、鳥骨(鳥類の骨)、豚骨又は牛骨(哺乳類の骨)とすることができる。これらは、容易に入手することができるためである。さらに別の実施形態として、粉砕などの骨の加工を容易にすることができる、食用動物の残渣の魚骨とすることができる。
【0022】
また、骨由来吸着剤の母材となる骨は、組織の違いから、軟骨組織と硬骨組織とがあるが、どちらであっても使用することができる。別の実施形態として、加工の際に定型性を保ち易い硬骨組織とすることができる。
【0023】
骨由来吸着剤の母材となる骨は、詳しくは製造方法についての説明にて述べるが、肉が除去された状態で、製造工程に流される。
【0024】
鉄イオン化合物とは、鉄イオンを供給する鉄化合物であり、骨由来吸着剤に含有させることにより、形成される骨由来吸着剤に、アニオン種の重金属を吸着可能にする化合物である。鉄イオンと、焼成骨のヒドロキシアパタイトのヒドロキシイオン(水酸化物イオン)とが、化合物を形成し、ヒドロキシアパタイトの表面(吸着面)に、鉄イオンとヒドロキシイオンの化合物が形成され、ヒドロキシアパタイトと鉄イオンとヒドロキシイオンの化合物が、アニオン種の重金属を吸着(化学吸着)すると推測される。
【0025】
鉄イオン化合物は、本明細書の実施形態では、II価又はIII価の鉄イオンを塩として含む化合物であり、例えば、塩化鉄、臭化鉄、水酸化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、燐酸鉄又はこれら混合物などをあげることができる。別の実施形態として、鉄イオン化合物は、吸着性能に優れるIII価の鉄イオンを塩として含む化合物とすることができる。また、別の実施形態として、鉄イオン化合物は、アニオン種の重金属の吸着性に優れる、塩化鉄、水酸化鉄、硫酸鉄又はこれら混合物とすることができる。なお、鉄イオン化合物は、固体、水溶液又はコロイド溶液の状態で使用することができる。
【0026】
実施形態の骨由来吸着剤には、ヒドロキシイオン化合物を含有させることができる。ヒドロキシイオン化合物は、骨由来吸着剤に含有させることにより、骨由来吸着剤の吸着性能を高めることができるものである。ヒドロキシイオン化合物は、本明細書の実施形態では、ヒドロキシイオン(水酸化物イオン)を塩として含む化合物を意味し、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化銅、水酸化鉄又はこれら混合物などをあげることができる。別の実施形態として、ヒドロキシイオン化合物は、鉄イオンに水酸化物イオンを供与し、吸着性能をより高めることができる、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化鉄又はこれら混合物とすることができる。なお、ヒドロキシイオン化合物は、固体、水溶液又はコロイド溶液の状態で使用することができる。
【0027】
次に、実施形態に係る骨由来吸着剤の製造方法について説明する。骨由来吸着剤の製造方法は、骨を焼成させ、焼成骨とする焼成工程と、鉄イオン化合物水溶液に焼成骨を浸漬させ、鉄分含浸骨を形成する鉄分含浸工程と、鉄分含浸骨を乾燥させ、骨由来吸着剤とする乾燥工程と、を有する。また、鉄分含浸工程の前又は後の工程に、ヒドロキシイオン化合物水溶液に、前記焼成骨又は前記鉄分含浸骨を含浸させる、ヒドロキシイオン含浸工程を有することができる。
【0028】
焼成工程で焼成される骨は、食用動物の残渣である骨を例に説明すると、骨の表面に、肉が付着しているものである。表面に肉が付着している骨を、焼成炉を用いて焼成すると、肉が燃焼し、肉から油分やすすなどが発生し、焼成炉を傷めるおそれがある。従って、骨の表面に付着した肉を除去する必要があり、骨の表面に付着した肉を除去する前処理工程から説明する。なお、焼成炉を傷めるおそれがあるものの、前処理工程を省略して、食用動物の残渣である骨を、焼成工程から加工することも可能である。
【0029】
前処理工程では、表面に肉が付着している骨を煮沸する煮沸工程と、煮沸工程の次に行われる、物理的に肉を除去する除去工程と、必要により、除去工程の次に行われる、水酸化ナトリウム水溶液で残っている肉を溶かすアルカリ工程と、から構成される。
【0030】
煮沸工程では、表面に肉が付着している骨を水(湯)で煮沸することにより、表面に付着した肉を柔らかくするとともに除去する。なお、煮沸工程では、圧力釜を用いることにより、高圧下とし、水の沸点を上げることにより、効率よく煮沸することもできる。
【0031】
除去工程では、ブラシによる研磨や高圧洗浄などを用いて、骨の表面に付着している肉を物理的に除去する。
【0032】
アルカリ工程では、除去工程後において、なおも骨の表面に肉が付着している場合に、水酸化ナトリウム水溶液を用いて肉を溶かすものである。
【0033】
このようにして、骨の表面に付着した肉を除去する前処理工程を経た骨は、図1に示す、骨由来吸着剤の製造工程の焼成工程に移行される。
【0034】
焼成工程は、肉が除去された骨を高温で焼成する工程である。骨が焼成されることにより、骨の内部の組織の有機物が燃焼し、有機物が燃焼することによって生じた空隙が多孔質層を形成し、骨由来吸着剤は、化学吸着性能に加え、多孔質層による物理吸着性能を発揮するものとなる。
【0035】
焼成工程の焼成温度は、600~1000℃とすることができる。効率よく骨の内部の組織の有機物を燃焼させることができるためである。焼成温度が600℃未満である場合には、有機物を燃焼させることができないおそれがある。一方、1000℃を超えると、熱効率が劣るおそれがある。別の実施形態として、焼成工程の焼成温度は、700~900℃とすることができる。
【0036】
焼成工程の焼成時間は、例えば、焼成温度が800℃の場合、4~10時間とすることができる。なお、焼成工程の燃焼時間は、焼成炉の条件などによって異なるため、定めた焼成温度に対して、骨の重量が恒量となる時間を確認して、定めることができる。
【0037】
鉄分含浸工程は、焼成工程で焼成された焼成骨を鉄イオン化合物水溶液に浸し、鉄イオン化合物を焼成骨に含有させる工程である。焼成骨の表面(吸着面)に、ヒドロキシアパタイトと鉄イオンとヒドロキシイオンの化合物が形成され、骨由来吸着剤は、アニオン種の重金属を吸着(化学吸着)することができると推測される。
【0038】
鉄イオン化合物水溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~30質量%とすることができる。効率よく鉄イオン化合物を焼成骨に含有させることができるためである。鉄イオン化合物水溶液の濃度が0.1質量%未満である場合には、焼成骨に含有させる鉄イオン化合物の量が少なく、アニオン種の重金属を吸着する効果が不十分となるおそれがある。一方、鉄イオン化合物水溶液の濃度が30質量%を超えると、鉄イオン化合物水溶液の調製が困難となるおそれがある。別の実施形態として、鉄イオン化合物水溶液の濃度は、1~10質量%とすることができる。
【0039】
鉄イオン化合物水溶液に焼成骨を浸漬させる時間は、特に限定されるものではないが、例えば、3~24hとすることができる。効率よく鉄イオン化合物を焼成骨に含有させることができるためである。焼成骨を浸漬させる時間が3h未満である場合には、焼成骨に含有させる鉄イオン化合物の量が少なく、アニオン種の重金属を吸着する効果が不十分となるおそれがある。一方、焼成骨を浸漬させる時間が24hを超えると、過剰な時間となり、吸着剤製造の効率性が劣るおそれがある。別の実施形態として、焼成骨を浸漬させる時間は、6~16hとすることができる。
【0040】
ヒドロキシイオン含浸工程は、鉄分含浸工程の前又は後に、ヒドロキシイオン化合物水溶液に、焼成骨又は鉄分含浸骨を含浸させる工程で、焼成骨のヒドロキシアパタイトのヒドロキシイオンを補充するものであり、必要により組み込まれる工程である。別の実施形態として、ヒドロキシイオン含浸工程は、鉄分含浸工程の前とすることができる。先にヒドロキシイオンを焼成骨に含浸させることによって、鉄イオン化合物の焼成骨への含浸を誘導することができるためである。ヒドロキシイオン化合物水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液が使用されるが、これに限定されるものでなく、ヒドロキシイオンを含有している化合物であれば使用することができる。
【0041】
ヒドロキシイオン化合物水溶液の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~30質量%とすることができる。効率よくヒドロキシイオン化合物を焼成骨に含有させることができるためである。ヒドロキシイオン化合物水溶液の濃度が0.1質量%未満である場合には、焼成骨に含有させるヒドロキシイオン化合物の量が少なく、アニオン種の重金属を吸着する効果が不十分となるおそれがある。一方、ヒドロキシイオン化合物水溶液の濃度が30質量%を超えると、過剰な濃度となり不経済となるおそれがある。別の実施形態として、ヒドロキシイオン化合物水溶液の濃度は、1~10質量%とすることができる。
【0042】
ヒドロキシイオン化合物水溶液に焼成骨を浸漬させる時間は、特に限定されるものではないが、例えば、3~24hとすることができる。効率よくヒドロキシイオン化合物を焼成骨に含有させることができるためである。焼成骨を浸漬させる時間が3h未満である場合には、焼成骨に含有させるヒドロキシイオン化合物の量が少なく、アニオン種の重金属を吸着する効果が不十分となるおそれがある。一方、焼成骨を浸漬させる時間が24hを超えると、過剰な時間となり、製造の効率性が劣るおそれがある。別の実施形態として、焼成骨を浸漬させる時間は、6~16hとすることができる。
【0043】
鉄分含浸工程(ヒドロキシイオン含浸工程)を経た焼成骨は、溶媒である水を含んでいるため、乾燥させる乾燥工程を経ることによって、吸着性能を有する骨由来吸着剤となる。
【0044】
乾燥工程は、自然乾燥又は加熱乾燥によって行なう。乾燥条件は、例を挙げると、自然乾燥の場合、24時間を要し、50℃の熱風循環炉を用いた加熱乾燥の場合、6時間を要する。乾燥条件は、加熱温度に対して、予め、鉄分含浸工程及び/又はヒドロキシイオン含浸工程を経た焼成骨が恒量となる時間を把握して、乾燥時間を定めるのが好ましい。
【0045】
乾燥工程を経た焼成骨は、篩分けされ、粒度が整えられ、骨由来吸着剤となる。実施形態の骨由来吸着剤は、カチオン種のみならず、アニオン種の重金属を吸着することができ、上水、地下水、工場排水、焼却灰、工場跡地などの残土などを浄化することができる。
【実施例0046】
実施形態の骨由来吸着剤は、焼成工程(800℃で10時間焼成)を経た骨を、鉄分含浸工程から、以下に記載する、製造方法例1-1、製造方法例1-2、製造方法例2によって、加工して、骨由来吸着剤を作成した。また、焼成工程を経ただけの骨を未処理の骨とし、比較対象とした。
【0047】
骨は、特に断らない限り、魚骨を使用し、魚骨は、徳島県内の水産加工所から排出された残渣の魚骨に、前処理工程(煮沸工程、除去工程、アルカリ工程)を施したものである。
【0048】
(製造方法例1-1)
製造方法例1-1は、鉄分含浸工程で、焼成骨1gを、水0.7mLと硫酸鉄(III)0.8gからなる鉄イオン化合物水溶液に6時間浸し、焼成骨を鉄イオン化合物水溶液から回収し、乾燥工程で24時間自然乾燥をし、篩掛工程で目開き0.85mmの篩に掛け、骨由来吸着剤を作成した。
【0049】
(製造方法例1-2)
製造方法例1-2は、ヒドロキシイオン含浸工程と鉄分含浸工程を有する製造方法例であり、焼成骨のヒドロキシアパタイトのヒドロキシイオンが少ない(欠損している)ものに適している。製造方法例1-2は、ヒドロキシイオン含浸工程で、焼成骨5gを、水10mLと水酸化ナトリウム5gからなる水酸化物イオン化合物水溶液に6時間浸し、鉄分含浸工程で、焼成骨を、水10mLと塩化鉄(III)2gからなる鉄イオン化合物水溶液に6時間浸させた。鉄イオン化合物水溶液から回収した焼成骨を、製造方法例1-1と同じ条件の乾燥工程と篩掛工程を施し、骨由来吸着剤を作成した。
【0050】
(製造方法例2)
製造方法例2は、鉄イオン化合物水溶液を別途作成し、この鉄イオン化合物水溶液を鉄分含浸工程に使用した。鉄イオン化合物水溶液は、蒸留水100mLと塩化鉄(III)1gを分液漏斗に入れ、溶解するまで混合し、水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、分液漏斗から、コロイド状の水酸化鉄を取り出し、ろ過したコロイド溶液を使用した。製造方法例2は、鉄分含浸工程で、焼成骨5gを、上記のコロイド溶液からなる鉄イオン化合物水溶液に6時間浸させ、鉄イオン化合物水溶液から回収した焼成骨を、製造方法例1-1と同じ条件の乾燥工程と篩掛工程を施し、骨由来吸着剤を作成した。
【0051】
このように作製した骨由来吸着剤(比較対象の未処理の骨を含む)について、以下の吸着試験を行なった。
【0052】
(ヒ素(アニオン)に対する吸着試験)
吸着対象となるヒ素アニオン水溶液には、ヒ素の濃度で約1.0mg/Lのヒ酸二ナトリウム(Na2HAsO4)水溶液を用いた。試験体は、容器に、ヒ素アニオン水溶液と、ヒ素アニオン水溶液に対して、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、2.0質量%、3.0質量%、の骨由来吸着剤と、をそれぞれ封入したものとした。
【0053】
試験は、ヒ素アニオン水溶液と骨由来吸着剤とが封入された試験体の容器を、200回/分に設定した振とう機を用いて6時間振とうさせ、振とう後のヒ素アニオン水溶液の濃度を測定することによって行なった。
【0054】
ヒ素アニオン水溶液の濃度の測定は、水溶液を0.45μmのフィルタでろ過し、ろ液を原子吸光光度計(Z-2000シリーズ(偏光ゼーマン原子吸光光度計)(株式会社日立ハイテクサイエンス社製))を用いて測定した。
【0055】
比較対象の未処理の骨の試験結果を表1に、製造方法例1-1の骨由来吸着剤の試験結果を表2に、製造方法例1-2の骨由来吸着剤の試験結果を表3に、製造方法例2の骨由来吸着剤の試験結果を表4に、それぞれ記載する。また、製造方法例1-1の骨由来吸着剤の吸着等温線を図2に、製造方法例1-2の骨由来吸着剤の吸着等温線を図3に、製造方法例2の骨由来吸着剤の吸着等温線を図4に、記載し、各製造方法例による骨由来吸着剤と未処理の吸着効果を示すグラフを図5に記載する。なお、図5のグラフにおいて、未処理の骨由来吸着剤は破線、製造方法1-1の骨由来吸着剤は実線、製造方法1-2の骨由来吸着剤は一点鎖線、製造方法2の骨由来吸着剤は二点鎖線、で示した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
表1~4及び図5から、未処理の骨(焼成工程を経ただけの骨)と比較して、製造方法例1-1の骨由来吸着剤、製造方法例1-2の骨由来吸着剤及び製造方法例2の骨由来吸着剤は、アニオン種の重金属(ヒ素)を好適に吸着していることが分かる。
【0061】
(骨の比較(ヒ素(アニオン)に対する吸着試験))
次に、魚骨のみならず、豚骨及び鳥骨について、ヒ素(アニオン)に対する吸着試験の比較を行なった。骨由来吸着剤の製造方法は、上記の製造方法例1-1、製造方法例1-2及び製造方法例2に従い、吸着試験は、上記のヒ素(アニオン)に対する吸着試験と同じ条件で行った。未処理の骨由来吸着剤の試験結果を表5に、製造方法例1-1の骨由来吸着剤の試験結果を表6に、製造方法例1-2の骨由来吸着剤の試験結果を表7に、製造方法例2の骨由来吸着剤の試験結果を表8に、それぞれ記載する。また、これらの骨吸着効果を示すグラフを、それぞれ、図6図9に記載する。なお、図6図9のグラフにおいて、魚骨の骨由来吸着剤は実線、豚骨の骨由来吸着剤は一点鎖線、鳥骨の骨由来吸着剤は破線、で示した。
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
表5~表8及び図6図9から、豚骨又は鳥骨であっても、魚骨同様に、未処理の骨(焼成工程を経ただけの骨)と比較して、製造方法例1-1、製造方法例1-2の骨由来吸着剤及び製造方法例2の骨由来吸着剤は、アニオン種の重金属(ヒ素)を好適に吸着していることが分かる。
【0067】
(セレン(アニオン)に対する吸着試験)
吸着対象となるセレンアニオン水溶液には、セレンの濃度で約1.0mg/Lの亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)水溶液を用いた。試験体は、容器に、セレンアニオン水溶液と、セレンアニオン水溶液に対して、0.1質量%、1.0質量%、の骨由来吸着剤と、をそれぞれ封入したものとした。
【0068】
試験は、セレンアニオン水溶液と骨由来吸着剤とが封入された試験体の容器を、200回/分に設定した振とう機を用いて6時間振とうさせ、振とう後のセレンアニオン水溶液の濃度を測定することによって行なった。
【0069】
セレンアニオン水溶液の濃度の測定は、水溶液を0.45μmのフィルタでろ過し、ろ液を前述の原子吸光光度計を用いて測定した。
【0070】
比較対象の未処理の骨の試験結果を表9に、製造方法例1-1の骨由来吸着剤の試験結果を表10に、製造方法例1-2の骨由来吸着剤の試験結果を表11に、製造方法例2の骨由来吸着剤の試験結果を表12に、それぞれ記載する。また、各製造方法例による骨由来吸着剤と未処理の吸着効果を示すグラフを図10に記載する。なお、図10のグラフにおいて、未処理の骨由来吸着剤は破線、製造方法1-1の骨由来吸着剤は実線、製造方法1-2の骨由来吸着剤は一点鎖線、製造方法2の骨由来吸着剤は二点鎖線、で示した。
【0071】
【表9】
【0072】
【表10】
【0073】
【表11】
【0074】
【表12】
【0075】
表9~12及び図10から、未処理の骨(焼成工程を経ただけの骨)と比較して、製造方法例1-1の骨由来吸着剤及び製造方法例2の骨由来吸着剤は、アニオン種の重金属(セレン)を好適に吸着していることが分かる。製造方法例1-2の骨由来吸着剤は、今回の試験では、アニオン種の重金属(セレン)を好適に吸着することの確認が取れなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10