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特開2023-78038口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078038
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
C08J7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191617
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】山本 純
(72)【発明者】
【氏名】松元 一頼
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073AA09
4F073BA08
4F073BB01
4F073CA45
4F073EA62
4F073EA65
(57)【要約】
【課題】 誤ってヒトが口腔に触れることがあったとしても適切な安全性が確保されており、かつ優れた抗菌性を発現することもできる、口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法は、口腔接触性基材にエネルギー線を照射して口腔接触性基材の表面を改質する工程、および口腔接触性基材に食品用防腐剤を付与する工程を包含する。本発明によれば、ヒトの口が触れるおそれのある食品包装材料、食品容器、食器などの食品製品やその関連製品に加え、例えば乳幼児が使用する玩具等に対しても安全性が高められた状態で抗菌性を付与できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法であって、
該口腔接触性基材にエネルギー線を照射して該口腔接触性基材の表面を改質する工程、および
該口腔接触性基材に食品用防腐剤を付与する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記エネルギー線がUV光である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記口腔接触性基材が、前記表面の改質により20°~78°の水接触角を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記食品用防腐剤が水溶液の形態で付与される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記食品用防腐剤がアミノ基含有ポリマーである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アミノ基含有ポリマーがε-ポリリジンである、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多数の抗菌加工製品が存在する。そのような抗菌加工製品の中には、抗菌紙という紙に抗菌性を付与させた商品も存在する。しかし、抗菌紙を構成する抗菌成分は、銀、銅、酸化チタン、第4級アンモニウム塩などが主流であり、誤って経口摂取しても問題ないほどの安全性はない。また、抗菌紙の生産時に生じる廃液処理も容易であるとも言い難い。
【0003】
紙の中にはポリオレフィンのような高分子材料で構成される合成紙と呼ばれるものも存在する。しかし、当該合成紙は抗菌成分の密着性に劣り、十分な抗菌性が発現されない等の問題が指摘されている。近年では、多孔質の高分子材料で構成される基材を用いることも提案されている(例えば特許文献1)が、当該基材を用いたとしても未だ十分な抗菌性を得るにはさらなる改良の余地がある。
【0004】
一方、食品包装用の紙、フィルム、シートおよび容器や、食器、玩具等の各種製品においては、内容物(例えば、包装される食品)やこれに接触するヒト(例えば、乳幼児)の安全性を確保するために、これらの製品自体に抗菌性を付与することが求められている。
【0005】
しかし、こうした製品は使用の際に誤ってヒトの口腔に触れることもある。このため抗菌性を保持しつつ、誤って経口摂取しても安全な材料で構成されていることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005-510608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、誤ってヒトが口腔に触れることがあったとしても適切な安全性が確保されており、かつ優れた抗菌性を発現することもできる、口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、口腔接触性基材に抗菌性を付与するための方法であって、
該口腔接触性基材にエネルギー線を照射して該口腔接触性基材の表面を改質する工程、および
該口腔接触性基材に食品用防腐剤を付与する工程、
を包含する、方法である。
【0009】
1つの実施形態では、上記エネルギー線はUV光である。
【0010】
1つの実施形態では、上記口腔接触性基材は、上記表面の改質により20°~78°の水接触角を有する。
【0011】
1つの実施形態では、上記食品用防腐剤は水溶液の形態で付与される。
【0012】
さらなる実施形態では、上記食品用防腐剤はアミノ基含有ポリマーである。
【0013】
またさらなる実施形態では、上記アミノ基含有ポリマーはε-ポリリジンである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヒトに対する安全性が高められた状態で口腔接触性基材に優れた抗菌性を発現することができる。これにより、ヒトの口が触れるおそれのある食品包装材料、食品容器、食器などの食品製品やその関連製品に加え、例えば乳幼児が使用する玩具等に対しても安全性が高められた状態で抗菌性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳述する。
【0016】
本発明においては、まず口腔接触性基材にエネルギー線が照射される。
【0017】
口腔接触性基材は、使用を通じてヒトの口腔が直接的または間接的に接触する可能性がある基材を包含して言い、例えば、フィルム、シート、繊維、その他の立体的形状を有する成形体が挙げられる。
【0018】
ここで、「使用を通じてヒトの口腔が直接的に接触する可能性がある基材」とは、例えば、ヒトの口腔が接触して使用されることが必須となる基材、および使用の際に無意識にヒトの口腔が接触することがある基材を包含する。「使用を通じてヒトの口腔が直接的に接触する可能性がある基材」としては、例えば、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品等を包装するためのフィルム、シート、および容器(これらを食品等包装材ということがある);食器(例えば、合成樹脂製、紙製あるいは木または竹製の箸、スプーン、フォーク、ナイフ、串、皿、茶碗、汁椀、湯飲み、マグカップ、コーヒーカップ、ティーカップ、爪楊枝など);乳幼児用玩具、おしゃぶり、哺乳瓶用ニップル;マウスガード、マウスピース;衛生製品(例えば、タオル、ハンカチ、ガーゼ、ティッシュペーパー、包袋、マスク);ならびに文房具(例えば、ノート、レポート用紙、メモ用紙、伝票用紙、付箋、画用紙、色紙、ボール紙、半紙などの紙製品や、ボールペン、サインペン、シャープペンシル、万年筆等のペン軸および鉛筆や、消しゴム、修正テープ筐体などの消字製品や、直線定規、三角定規、分度器などの定規類や、ハサミ、カッター等の柄や、手帳カバー、ブックカバーなどのカバー類)が挙げられる。
【0019】
「使用を通じてヒトの口腔が間接的に接触する可能性がある基材」とは、例えば、ヒトの口腔と基材との直接的な接触はないが、基材と直接接触した他の物体がヒトの口腔に移動して、当該口腔と直接接触する可能性を生じる基材を包含する。「使用を通じてヒトの口腔が間接的に接触する可能性がある基材」としては、例えば、上記食品等包装材が挙げられる。
【0020】
本発明において口腔接触性基材の具体的な例としては、汎用性に富みかつ抗菌性に優れた基材を作製することができるとの理由から、フィルムまたはシートのような成形体であることが好ましく、紙製、樹脂製、またはこれらの組み合わせ(例えば積層体)でなるフィルムまたはシートであることがより好ましい。
【0021】
口腔接触性基材を構成する紙の例としては、洋紙、和紙、および板紙、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富みかつ後述する食品用防腐剤を強固に付与できるとの理由から洋紙が好ましい。洋紙の例としては、非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙、特殊印刷用紙、情報用紙、未晒包装紙、晒包装紙、衛生用紙、工業用雑種紙、および家庭用雑種紙が挙げられる。
【0022】
口腔接触性基材を構成する合成樹脂の例としては、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(エーテルスルホン)、ポリスルホン、ニトロセルロース、セルロース、およびナイロン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富みかつ後述する食品用防腐剤を強固に付与できるとの理由からポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンの例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンビニルアセテート、エチレンメチルアクリレート、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ポリ(1-ブテン)、ポリスチレン、ポリ(2-ブテン)、ポリ(1-ペンテン)、ポリ(2-ペンテン)、ポリ(3-メチル-1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、1,2-ポリ-1,3-ブタジエン、1,4-ポリ-1,3-ブタジエン; ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニリデンクロリド)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、およびポリ(テトラフルオロエチレン)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。汎用性に富みかつ後述する食品用防腐剤をさらに強固に付与できるとの理由からポリプロピレンが好ましい。
【0023】
口腔接触性基材はまた、合成紙であってもよい。合成紙は上記のような合成樹脂を主原料とするものであり、具体的な例としてはユポ紙(登録商標)が挙げられる。
【0024】
本発明においては、食品用防腐剤を強固に付与することができかつ優れた抗菌性を発現できるとの理由から、口腔接触性基材は合成紙であることが好ましい。
【0025】
口腔接触性基材に照射されるエネルギー線は、照射によって口腔接触性基材の表面を改質し得るものであり、例えばUV光および電子線が挙げられる。本発明において、比較的簡便な設備を用いて照射することができるとの理由から、エネルギー線はUV光であることが好ましい。
【0026】
UV光を構成する波長は、好ましくは150nm~430nmであり、より好ましくは180nm~270nmである。UV光はこのような波長範囲を含むものであれば特に限定されず、バンドパスフィルター等の任意の手段によって他の波長が取り除かれていてもよく、取り除かれていなくてもよい。
【0027】
口腔接触性基材へのエネルギー線の照射時間は、口腔接触性基材の種類や当該エネルギー線の強度によって変動するため、特に限定されないが、例えば、ランプと基材との距離(照射距離)が5cm~8cmの範囲内において照度が8~15mW/cmである場合の照射時間は、好ましくは5秒間~20分間、より好ましくは1分間~2分間である。このような条件におけるUV光の照射時間が5秒間を下回ると、口腔接触性基材の表面がUV光によって十分に改質せず、当該口腔接触性基材に後述の食品用防腐剤が効率良く付与されないことがある。UV光の照射時間が20分間を上回ると、口腔接触性基材自体が変形または変色することがある。
【0028】
本発明では、上記口腔接触性基材は、エネルギー線の照射による表面の改質を通じて、好ましくは20°~78°の水接触角を有する。エネルギー線の照射によって得られる口腔内接触性基材の表面の水接触角がこのような範囲内にあることにより、当該表面におけるUV光の改質効果が最も顕著に表れる傾向にある。
【0029】
このようにして口腔接触性基材の表面が改質される。
【0030】
次いで、本発明においては、口腔接触性基材に食品用防腐剤が付与される。
【0031】
食品用防腐剤は、保存料または日持向上剤とも呼ばれ、食品加工一般に使用される食品添加剤の一種である。食品用防腐剤は一般に細菌の増殖を抑制し、かつ食品の変質や腐敗を防ぐものとして使用されている。食品用防腐剤はそれ自体は人体に対して無害であり、仮に口腔を通じて体内に摂取されたとしても重篤な影響を及ぼさないものとして広く知られている。
【0032】
本発明に用いられる食品用防腐剤としては、例えば、アミノ基含有ポリマー(好ましくはアミノ基含有カチオンポリマー)、タンパク質由来成分、不飽和脂肪酸およびその塩、パラベン、不飽和環化化合物、植物抽出物、pH調整剤、および細菌生産物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
アミノ基含有ポリマーの例としては、ε-ポリリジン、キチンおよびキトサン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。タンパク質由来成分の例としては、プロタミン(しらこたん白抽出物)およびリゾチーム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
不飽和脂肪酸およびその塩の例としては、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、リノール酸、およびアラキドン酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
パラベンの例としては、パラオキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)、パラオキシ安息香酸エチル(エチルパラベン)、パラオキシ安息香酸プロピル(プロピルパラベン)、パラオキシ安息香酸イソプロピル(イソプロピルパラベン)、パラオキシ安息香酸ブチル(ブチルパラベン)、パラオキシ安息香酸イソブチル(イソブチルパラベン)、およびパラオキシ安息香酸ベンジル(ベンジルパラベン)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
不飽和環化化合物の例としては、α-ツヤプリシン、β-ツヤプリシン(ヒノキチオール)、およびγ-ツヤプリシン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
植物抽出物の例としては、ブドウ果皮抽出物、グレープフルーツ種子抽出物、からし抽出物、オレガノ抽出物、イチジク葉抽出物、およびカワラヨモギ抽出物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
pH調整剤の例としては、クエン酸、リンゴ酸、および酒石酸、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
細菌生産物の例としては、バクテリオシンが挙げられる。
【0040】
上記口腔接触性基材に対して強固に付与されるとともに、良好な抗菌性を発現できるとの理由から、食品用防腐剤としてはアミノ基含有ポリマーが好ましく、ε-ポリリジンがより好ましい。
【0041】
本発明において、上記食品用防腐剤の口腔接触性基材への付与は、当該食品用防腐剤の水溶液の形態で行われることが好ましい。食品用防腐剤が水溶液の形態を有することにより、口腔接触性基材に対してより均一な付与が可能となり、取り扱いも容易となるという利点がある。水溶液に使用される水は、純水、イオン交換水、蒸留水、RO水および水道水のいずれであってもよい。
【0042】
食品用防腐剤の水溶液の濃度は特に限定されないが、好ましくは1質量%~80質量%、より好ましくは2質量%~25質量%の濃度に調製される。食品用防腐剤の水溶液の濃度が1質量%を下回ると、口腔接触性基材に十分な抗菌性を発現させるためには、より大量の食品用防腐剤の水溶液が必要になることがある。食品用防腐剤の水溶液の濃度が80質量%を上回ると、水溶液が飽和状態となるかあるいは飽和に近づくため、水溶液の調製に多くの時間を要し、また口腔接触性基材への均一な付与が困難になることがある。
【0043】
上記食品用防腐剤の水溶液は、口腔接触性基材に対して例えばスプレー、浸漬、塗布等の当業者に周知の手段を用いて行われる。なお、食品用防腐剤の水溶液が口腔接触性基材に付与された後、必要に応じて所定温度で乾燥が行われてもよい。
【0044】
このようにして、口腔接触剤基材に食品用防腐剤が付与される。
【0045】
口腔接触性基材に付与された食品用防腐剤は、感染型細菌、毒素型細菌などの種々の細菌に対して抗菌性を発現し得る。本発明の方法により処理された口腔接触性基材は、例えば、大腸菌(病原性大腸菌)、サルモネラ菌、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、セレウス菌などに対して優れた抗菌性を発揮し得る。これにより、使用を通じてヒトの口腔が当該口腔接触性基材と直接的または間接的に接触することがあったとしても、所望でない細菌性食中毒の発症を予防することができる。また、このような予防が可能となることから、使用者は安心して当該口腔接触性基材で構成される製品を使用することができる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(参考例1:口腔接触性基材の改質)
口腔接触性基材として厚さ0.2mmを有する合成紙(株式会社ユポ・コーポレーション製ユポ紙(登録商標)/材質:ポリプロピレン)のサンプル表面に対して、UV装置(セン特殊光源株式会社製)を用いて184.9nmおよび253.7nmのUV光で構成される複合光を、照射距離(基材とUV装置の間の距離)を約6.5cmに固定して、1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、10分間および20分間それぞれ照射し、当該口腔接触性基材の表面の改質を行った。また、当該照射を行わない(照射0分間)の合成紙のサンプルも用意した。
【0048】
これらのサンプルについて、照射後3分以内に改質表面の水接触角を接触角計(協和界面科学株式会社製DM-301)により測定した。得られた各照射時間に基づくサンプルの水接触角と、上記照射0分間(未照射)のサンプルの水接触角とから、以下の式に基づく水接触角の変動率(%)を算出した。
【0049】
【数1】
【0050】
結果を表1および表2に示す。
【0051】
(参考例2:口腔接触性基材の改質)
口腔接触性基材として合成紙の代わりに、厚さ0.2mmを有するクリアファイル(材質:再生ポリプロピレン)のサンプルを用いたこと以外は、参考例1と同様にして当該サンプルに所定時間のUV光を照射し、当該照射を行わない(照射0分間)のクリアファイルのサンプルともに各サンプル表面の水接触角を測定し、かつ得られた水接触角に基づく変動率(%)を算出した。結果を表1および表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表1および2に示すように、合成紙(参考例1)およびクリアファイル(参考例2)のいずれを用いた場合も、UV光を約2分間照射した後のサンプルの表面の水接触角が最も小さくなり、変動率も大きかった。すなわち、UV光の照射を約2分間とすることで、サンプルの表面の改質が最も効果的に生じていたことがわかる。
【0055】
(参考例3:口腔接触性基材の改質)
参考例1と同様にして、合成紙に対して2分間のUV光を照射し、当該照射を行わない(照射0分間)の合成紙のサンプルともに各サンプル表面の水接触角(照射直後)を測定し、かつ得られた水接触角に基づく変動率(%)(照射直後)を算出した。
【0056】
さらに、UV照射後のサンプルを透明なチャック付き袋に入れ、脱気および遮光することなく密封し、常温でそのまま保管した。次いで、照射から24時間経過後および48時間経過後の各サンプル表面の水接触角を測定し、かつ得られた水接触角に基づく変動率(%)を算出した。
【0057】
結果を表3および表4に示す。
【0058】
(参考例4:口腔接触性基材の改質)
参考例2と同様にして、クリアファイルに対して2分間のUV光を照射し、当該照射を行わない(照射0分間)のクリアファイルのサンプルともに各サンプル表面の水接触角(照射直後)を測定し、かつ得られた水接触角に基づく変動率(%)(照射直後)を算出した。さらに、UV照射後のサンプルを透明なチャック付き袋に入れ、脱気および遮光することなく密封し、常温でそのまま保管した。次いで、照射から24時間経過後および48時間経過後の各サンプル表面の水接触角を測定し、かつ得られた水接触角に基づく変動率(%)を算出した。これらの結果を表3および表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
表3および4に示すように、合成紙(参考例1)およびクリアファイル(参考例2)のいずれを用いた場合も、UV光の照射直後から、照射48時間後にかけて、サンプルの表面の水接触角は上昇し、元に戻ろうとする傾向があった。ただし、参考例1の合成紙と比較して、参考例2のクリアファイルの方が水接触角が上昇は小さく、元に戻り難い傾向にあったこともわかる。
【0062】
(実施例1:口腔接触性基材への抗菌性の付与)
合成紙(株式会社ユポ・コーポレーション製ユポ紙(登録商標)/材質:ポリプロピレン)を用い、参考例1と同様にして、UV装置(セン特殊光源株式会社製)を用いて184.9nmおよび253.7nmのUV光で構成される複合光を、照射距離(基材とUV装置の間の距離)を約6.5cmに固定して、2分間照射し、表面を改質した口腔接触性基材を得た
【0063】
照射終了後、直ちにこの表面を改質した口腔接触性基材を4cm×4cmの大きさにカットし、これに2.5質量%のε-ポリリジン水溶液を十分に含ませたスポンジを改質した表面上に2秒間押し付けた後、スポンジを取り外して、改質した表面上に残る当該水溶液をキムワイプ(日本製紙クレシア株式会社製)で丁寧に拭き取って、サンプル(E1)を複数枚作製した。
【0064】
上記で得られたサンプル(E1)について、JIS Z 2801(フィルム密着法)に準拠した抗菌性試験を以下のようにして実施した。
【0065】
5枚のサンプル(E1)(n=5)に対し、培養した黄色ブドウ球菌(S.aureus)株を生理食塩水で500倍に希釈したブイヨン培地を用いて10CFU/mL程度に調整した。その菌液0.4mLをシャーレに滴下し、当該サンプル(E1)を被せ、サンプル全体に菌液が広がるように軽く押さえつけた後、シャーレの蓋をし、35℃24時間保存した。サンプル(E1)に付着した菌液を3.6ml生理食塩水で洗い出し、生菌数を測定することにより、当該サンプル(E1)における黄色ブドウ球菌の抗菌性を評価した。コントロール(ポリリジンの塗布とUV処理との両方を行わなかった)およびUV照射を行わなかったサンプル(E1)の結果とともに表5に示す。
【0066】
次いで、上記で得られたサンプル(E1)に対して黄色ブドウ球菌の代わりに大腸菌(E.coli)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、当該サンプル(E1)における大腸菌の抗菌性を評価した。コントロール(ポリリジンの塗布とUV処理との両方を行わなかった)およびUV照射を行わなかったサンプル(E1)の結果とともに表5に示す。
【0067】
(実施例2:口腔接触性基材への抗菌性の付与)
クリアファイル(材質:再生ポリプロピレン)を用い、参考例1と同様にして、UV装置(セン特殊光源株式会社製)を用いて184.9nmおよび253.7nmのUV光で構成される複合光を、照射距離(基材とUV装置の間の距離)を約6.5cmに固定して、2分間照射し、表面を改質した口腔接触性基材を得た
【0068】
照射終了後、直ちにこの表面を改質した口腔接触性基材を4cm×4cmの大きさにカットし、これに2.5質量%のε-ポリリジン水溶液を十分に含ませたスポンジを改質した表面上に2秒間押し付けた後、スポンジを取り外して、改質した表面上に残る当該水溶液をキムワイプ(日本製紙クレシア株式会社製)で丁寧に拭き取って、サンプル(E2)を複数枚作製した。
【0069】
このようなサンプル(E2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして当該サンプル(E2)における黄色ブドウ球菌の抗菌性を評価した。コントロール(ポリリジンの塗布とUV処理との両方を行わなかった)およびUV照射を行わなかったサンプル(E2)の結果とともに表6に示す。
【0070】
次いで、上記で得られたサンプル(E2)に対して黄色ブドウ球菌の代わりに大腸菌(E.coli)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、当該サンプル(E2)における大腸菌の抗菌性を評価した。コントロール(ポリリジンの塗布とUV処理との両方を行わなかった)およびUV照射を行わなかったサンプル(E2)の結果とともに表6に示す。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
表5および表6に示すように、実施例1で得られたサンプル(E1)(ε-ポリリジンを付与した表面改質合成紙)および実施例2で得られたサンプル(E2)(ε-ポリリジンを付与した表面改質クリアファイル)はいずれも、黄色ブドウ球菌および大腸菌のいずれに対しても優れた抗菌性を有していたことがわかる。また、表3および表4に示したように、UV光を照射後の合成紙およびクリアファイルの水接触角や変動率は照射直後から照射後48時間にかけて徐々に変化する傾向にあったが、表5および表6に示す抗菌性の結果には、このような抗菌性の変化は見られず、安定した抗菌性を有していたこともわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば加工食品、医薬品、玩具、衛生製品、スポーツ製品などの各種製造分野において有用である。