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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078051
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/02 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
G01R27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009521
(22)【出願日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2021191228
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 直人
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
(72)【発明者】
【氏名】安達 剛熙
【テーマコード(参考)】
2G028
【Fターム(参考)】
2G028BB10
2G028BC04
2G028CG08
2G028DH05
2G028DH11
2G028HN03
2G028HN09
(57)【要約】
【課題】特定のスラリーに含まれる材料の電気特性を考慮しつつ、スラリーの状態を測定する。
【解決手段】測定装置2は、測定データに示される交流インピーダンスの周波数特性に近似するようスラリー等価回路30の回路定数を設定する。測定装置2は、設定したスラリー等価回路30の回路定数に基づいてスラリーSの状態を示す状態指標を演算する。スラリーSは、ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質と、カーボンナノチューブを含む導電助剤と、非イオン性高分子を少なくとも含む分散剤と、Nメチル2ピロリドンを含む溶媒と、を含む。スラリー等価回路30は、抵抗素子及び容量素子が互いに並列接続された四つの並列回路31乃至34の各々を互いに直列接続した回路からなる。測定装置2は、設定した四つの並列回路31乃至34の回路定数に基づいて活物質、導電助剤及び溶媒の少なくとも一つの電気特性を示す特性指標を演算する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気特性が異なる複数の材料を含むスラリーの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する取得手段と、
前記測定データに示される前記交流インピーダンスの周波数特性に対して前記スラリーを模擬する所定の等価回路におけるインピーダンスの周波数特性が近似するよう前記所定の等価回路の回路定数を設定する設定手段と、
前記設定手段により設定される前記所定の等価回路の回路定数に基づいて前記スラリーの状態を示す状態指標を演算する演算手段と、を含み、
前記複数の材料は、
ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質と、
カーボンナノチューブを含む導電助剤と、
非イオン性高分子を少なくとも含む分散剤と、
Nメチル2ピロリドンを含む溶媒と、
を含み、
前記所定の等価回路は、
抵抗素子及び容量素子が互いに並列接続された四つの並列回路を含み、前記並列回路の各々を互いに直列接続した回路からなり、
前記演算手段は、
前記設定手段により設定される前記四つの並列回路のうちピーク周波数が220Hzに最も近い並列回路が前記導電助剤に対応する前記並列回路であると決定し、
前記四つの並列回路のうちピーク周波数が3.9kHzに最も近い並列回路が前記活物質に対応する前記並列回路であると決定し、
前記四つの並列回路のうちピーク周波数が310kHzに最も近い並列回路、及び、ピーク周波数が1.4MHzに最も近い並列回路が共に前記溶媒に対応する前記並列回路であると決定し、
前記導電助剤、前記活物質及び前記溶媒のうち少なくとも一つの材料に対応する前記並列回路の回路定数を用いて前記少なくとも一つの材料の電気特性を示す特性指標を演算する、
測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の測定装置であって、
前記容量素子は、CPEである、
測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の測定装置であって、
前記演算手段は、前記材料の前記特性指標に基づいて前記スラリーの前記状態指標を演算する、
測定装置。
【請求項4】
電気特性が異なる複数の材料を含むスラリーの状態を測定する測定方法であって、
前記スラリーの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する取得ステップと、
前記測定データに示される前記交流インピーダンスの周波数特性に対して前記スラリーを模擬する所定の等価回路におけるインピーダンスの周波数特性が近似するよう前記所定の等価回路の回路定数を設定する設定ステップと、
前記設定ステップにおいて設定される前記所定の等価回路の回路定数に基づいて前記スラリーの状態を示す状態指標を演算する演算ステップと、を含み、
前記複数の材料は、
ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質と、
カーボンナノチューブを含む導電助剤と、
非イオン性高分子を少なくとも含む分散剤と、
Nメチル2ピロリドンを含む溶媒と、
を含み、
前記所定の等価回路は、
抵抗素子及び容量素子が互いに並列接続された四つの並列回路を含み、前記並列回路の各々を互いに直列接続した回路からなり、
前記演算ステップは、
前記設定ステップにおいて設定される前記四つの並列回路のうちピーク周波数が220Hzに最も近い並列回路が前記導電助剤に対応する並列回路であると決定し、
前記四つの並列回路のうちピーク周波数が3.9kHzに最も近い並列回路が前記活物質に対応する並列回路であると決定し、
前記四つの並列回路のうちピーク周波数が310kHzに最も近い並列回路、及び、ピーク周波数が1.4MHzに最も近い並列回路が共に前記溶媒に対応する並列回路であると決定し、
前記導電助剤、前記活物質及び前記溶媒の少なくとも一つの材料に対応する前記並列回路の回路定数を用いて前記少なくとも一つの材料の電気特性を示す特性指標を演算する、
測定方法。
【請求項5】
電気特性が異なる複数の材料を含むスラリーの状態を測定するコンピュータに、
前記スラリーの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する取得ステップと、
前記測定データに示される前記交流インピーダンスの周波数特性に対して前記スラリーを模擬する所定の等価回路におけるインピーダンスの周波数特性が近似するよう前記所定の等価回路の回路定数を設定する設定ステップと、
前記設定ステップにおいて設定される前記所定の等価回路の回路定数に基づいて前記スラリーの状態を示す状態指標を演算する演算ステップと、を実行させるためのプログラムであって、
前記複数の材料は、
ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質と、
カーボンナノチューブを含む導電助剤と、
非イオン性高分子を少なくとも含む分散剤と、
Nメチル2ピロリドンを含む溶媒と、
を含み、
前記所定の等価回路は、
抵抗素子及び容量素子が互いに並列接続された四つの並列回路を含み、前記並列回路の各々を互いに直列接続した回路からなり、
前記演算ステップは、
前記設定ステップにおいて設定される前記四つの並列回路のうちピーク周波数が220Hzに最も近い並列回路が前記導電助剤に対応する並列回路であると決定し、
前記四つの並列回路のうちピーク周波数が3.9kHzに最も近い並列回路が前記活物質に対応する並列回路であると決定し、
前記四つの並列回路のうちピーク周波数が310kHzに最も近い並列回路、及び、ピーク周波数が1.4MHzに最も近い並列回路が共に前記溶媒に対応する並列回路であると決定し、
前記導電助剤、前記活物質及び前記溶媒の少なくとも一つの材料に対応する前記並列回路の回路定数を用いて前記少なくとも一つの材料の電気特性を示す特性指標を演算する、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、活物質及び導電助剤を含むペーストの品質を判定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-222651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の手法では、ペーストと同じようにスラリーの状態を測定することは可能であるものの、スラリーに含まれる材料の電気特性を考慮したうえでスラリーの状態を測定することは難しかった。
【0005】
本発明は、上記問題点に着目してなされたものであり、特定のスラリーに含まれる材料の電気特性を考慮しつつ、スラリーの状態を測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある一つの態様によれば、測定装置は、電気特性が異なる複数の材料を含むスラリーの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する取得手段を含む。さらに測定装置は、前記測定データに示される前記交流インピーダンスの周波数特性に対して前記スラリーを模擬する所定の等価回路におけるインピーダンスの周波数特性が近似するよう前記所定の等価回路の回路定数を設定する設定手段を含む。そして測定装置は、前記設定手段により設定される前記所定の等価回路の回路定数に基づいて前記スラリーの状態を示す状態指標を演算する演算手段を含む。前記複数の材料は、ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質と、カーボンナノチューブを含む導電助剤と、非イオン性高分子を少なくとも含む分散剤と、Nメチル2ピロリドンを含む溶媒と、を含む。前記所定の等価回路は、抵抗素子及び容量素子が互いに並列接続された四つの並列回路を含み、前記並列回路の各々を互いに直列接続した回路からなる。前記演算手段は、前記設定手段により設定される前記四つの並列回路のうちピーク周波数が220Hzに最も近い並列回路が前記導電助剤に対応する並列回路であると決定し、前記四つの並列回路のうちピーク周波数が3.9kHzに最も近い並列回路が前記活物質に対応する並列回路であると決定する。そして前記演算手段は、前記四つの並列回路のうちピーク周波数が310kHzに最も近い並列回路、及び、ピーク周波数が1.4MHzに最も近い並列回路が共に前記溶媒に対応する並列回路であると決定する。さらに前記演算手段は、前記導電助剤、前記活物質及び前記溶媒の少なくとも一つの材料に対応する前記並列回路の回路定数を用いて前記少なくとも一つの材料の電気特性を示す特性指標を演算する。
【発明の効果】
【0007】
上述のスラリーを模擬する所定の等価回路の周波数特性を測定データに近似させることにより、並列回路の各々はスラリーを構成する材料の電気特性に対して相関性を有することを発明者らは知見した。
【0008】
それゆえ、本態様によれば、並列回路の時定数によってその並列回路に対応する材料が特定されるので、特定された材料の電気特性を、その材料に対応する並列回路の回路定数に基づいて求めることが可能となる。このため、特定のスラリーに含まれる材料の電気特性を考慮しつつスラリーの状態を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態におけるスラリーの測定装置を備えた測定システムの構成を示す概略図である。
図2図2は、スラリーの測定データに基づいて描かれるナイキスト線図の一例を示す図である。
図3A図3Aは、スラリーの電気特性を表す等価回路の構成を示す回路図である。
図3B図3Bは、図3Aに示した等価回路を用いた等価回路解析により、図2に示したナイキスト線図におけるスラリーの材料成分を観念的に示した図である。
図4図4は、スラリーのナイキスト線図におけるピーク周波数に対応する材料を示す対応テーブルを説明するための図である。
図5図5は、測定装置に含まれる処理部の機能構成例を示すブロック図である。
図6図6は、本実施形態におけるスラリーの状態を測定するための測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。本明細書においては、全体を通じて、同一の要素には同一の符号を付する。
【0011】
図1は、本実施形態における測定システムの構成を示す概略図である。
【0012】
測定システム100は、スラリーSの状態を測定するための状態測定システムである。
【0013】
スラリーSは、電気特性が異なる複数の材料を含有する混合液であり、液槽Xに貯蔵されている。スラリーSには、導電助剤Xa及び活物質Xbが溶媒Xcに混合されている。
【0014】
スラリーSは、カーボンナノチューブを少なくとも含む導電助剤Xaと、ニッケル及びコバルトを少なくとも含む活物質Xbと、非イオン性高分子を少なくとも含む分散剤と、Nメチル2ピロリドンを含む溶媒Xcと、を含む。
【0015】
導電助剤Xaとしては、例えば、短尺、長尺、単層(シングル)又は多層(マルチ)などの一種類のカーボンナノチューブ、或いは、これらのうち少なくとも二種類以上のカーボンナノチューブが用いられる。
【0016】
活物質Xbとしては、ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質が用いられる。例えば、活物質Xbとしては、ニッケルと、コバルトと、マンガン、アルミニウム、チタン及びマグネシウムのいずれか一つの物質と、を固溶した層状岩塩型の活物質が用いられる。本実施形態では、活物質XbとしてNaFeO2型構造を持つ層状岩塩型の活物質が用いられ、具体例として、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)及びニッケル・コバルト・アルミニウムの酸化物(NCA)などが挙げられる。
【0017】
また、非イオン性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪アルコールエトキシレート、及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが挙げられる。分散剤としては、非イオン性高分子の他に、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び、これらをナノファイバー状に加工したものなどが挙げられる。
【0018】
本実施形態のスラリーSにおいては、溶媒XcがNメチル2ピロリドン(NMP)であり、活物質Xbがニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)であり、分散剤が少なくともポリビニルピロリドン(PVP)を含む。そして第一の導電助剤Xaが単相のカーボンナノチューブ(sw-CNT)であり、第二の導電助剤Xaが多層のカーボンナノチューブ(mw-CNT)である。スラリーSには、バインダは含まれていない。
【0019】
測定システム100は、スラリーSを収容する液槽Xに浸される電極部1と、電極部1に接続された測定装置2と、を備える。
【0020】
電極部1は、スラリーSに交流信号を印加するための部品である。本実施形態における電極部1は、互いに対向するように液槽Xの周壁に設けられる一対の電極から構成されている。電極部1は、これに限定されるものではなく、例えば、複数の電極から構成されてもよい。
【0021】
スラリーSに印加される交流信号は、正弦波に限らず、例えば三角波であってもよい。また、交流信号は、交流電圧に限らず、例えば交流電流であってもよい。
【0022】
測定装置2は、スラリーSの状態を測定するためにスラリーSに含まれる材料の電気特性を測定する装置である。本実施形態における測定装置2は、スラリーSの状態を示す状態指標を演算する。本実施形態における状態指標は、スラリーSの電気伝導性を評価するための指標であり、この状態指標としては、例えば、スラリーSの直流抵抗、特定材料の抵抗比率、及び均一性などが挙げられる。
【0023】
測定装置2は、例えば、コンピュータで実現され、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インターフェース、及びこれらを相互に接続するバスなどによって構成される。
【0024】
測定装置2は、測定部21と、記憶部22と、操作部23と、表示部24と、処理部25と、を含む。
【0025】
測定部21は、交流インピーダンス法に従ってスラリーSにおける交流インピーダンスの周波数特性を測定する。ここにいう交流インピーダンスとは、実部及び虚部に分解可能な複素インピーダンスのことである。
【0026】
本実施形態において、測定部21は、例えば定電圧電源(CV)又は定電流電源(CC)によって構成され、電極部1を構成する一対の電極間に位置するスラリーSに交流信号として交流電圧を印加する。測定部21は、交流電圧を印加した状態でスラリーSに生じる応答信号として応答電流を検出する。
【0027】
そして、測定部21は、電極間に印加される交流電圧の周波数を徐々に変化させながらスラリーSに流れる応答電流を周波数ごとに検出する。交流電圧の振幅は、例えば100[mV]であり、交流電圧を掃引するための掃引周波数範囲は、例えば10[Hz]から10[MHz]である。
【0028】
測定部21は、検出した各周波数における応答電流及び交流電圧に基づいてスラリーSにおける各周波数の交流インピーダンスを演算する。このように、測定部21は、スラリーSにおける交流インピーダンスの周波数特性を測定する。
【0029】
測定部21は、演算したスラリーSにおける交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを生成し、生成した測定データを処理部25に出力する。
【0030】
記憶部22は、RAM及びROMによって構成される。記憶部22には、スラリーSに含まれる材料の電気的特性を測定する測定処理を実行させるためのプログラムが記憶される。すなわち、記憶部22は、処理部25の動作プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。なお、記憶部22は、処理部25と一体に構成されてもよい。
【0031】
操作部23は、スラリーSに対する測定処理の開始及び停止などを指示するための各種の操作スイッチを備える。操作部23は、これらの操作に応じた操作信号を処理部25に出力する。なお、操作部23は、操作スイッチの代わりに表示部24の表示画面内に設けられるタッチ操作部によって構成されてもよい。
【0032】
表示部24は、処理部25の指示に従って測定結果等を表示する。表示部24は、例えば、LEDディスプレイ又は液晶パネルなどによって構成される。
【0033】
処理部25は、あらかじめ定められたスラリーSの電気特性を模擬する等価回路の回路定数を設定(算出)する設定手段、及び、スラリーSの状態を示す状態指標を演算する演算手段として機能する。以下では、スラリーSの電気特性を模擬する等価回路のことをスラリー等価回路と称し、スラリー等価回路の回路構成については図3を参照して後述する。
【0034】
処理部25は、測定部21から上記の測定データを取得し、その測定データに示される交流インピーダンスの周波数特性に対してスラリー等価回路におけるインピーダンスの周波数特性が近似するようスラリー等価回路の回路定数を設定する。
【0035】
すなわち、処理部25は、スラリーSにおける交流インピーダンスの周波数特性とスラリー等価回路のインピーダンスの周波数特性とが一致するように等価回路解析を実行する。
【0036】
処理部25は、設定したスラリー等価回路の回路定数に基づいてスラリーSの状態指標を演算する。処理部25は、演算した状態指標を結果情報として記憶部22に記録する。
【0037】
処理部25は、例えば、コンピュータを構成する一又は複数のプロセッサによって構成される。プロセッサとしては、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)などが挙げられる。
【0038】
なお、本実施形態では測定装置2に測定部21、記憶部22、操作部23及び表示部24が備えられているが、これらのうち少なくとも一つを測定装置2の構成から省略してもよい。
【0039】
続いて、スラリーSの等価回路解析について図2図3A及び図3Bを参照して説明する。
【0040】
図2は、測定データに基づいて生成されるナイキスト線図(コールコールプロット)の一例を示す図である。図2では、横軸が実部電気抵抗(Rs)であり、横軸が虚部リアクタンス(-X)である。
【0041】
以下では、測定データに基づいて生成されたナイキスト線図のことを実測ナイキスト線図と称する。実測ナイキスト線図は、図2に示すように、大きさの異なる二つの半円弧を重ねたような曲線を示す。
【0042】
図3Aは、処理部25における等価回路解析に用いられるスラリー等価回路の回路構成を示す回路図である。
【0043】
スラリー等価回路30は、スラリーSの電気特性を模擬する所定の等価回路である。スラリー等価回路30は、等価回路の要素として四つの並列回路31乃至34を含み、並列回路31乃至34の各々を互いに直列接続した回路からなる。
【0044】
並列回路31乃至34の各々については、直流抵抗成分を示す抵抗素子と容量性を示す容量素子とが互いに並列接続されている。容量素子としては、例えば、コンデンサ及びCPE(コンスタント・フェーズ・エレメント)が挙げられる。本実施形態では、精度向上の観点から、容量素子としてCPEが採用されている。
【0045】
容量素子CPEは、静電容量Cに対して、種々の外乱を考慮することのできる因子を含む要素である。容量素子CPEのインピーダンスZCPEは、次式(1)により表される。
【0046】
【数1】
ただし、
jは、虚数単位であり、
ωは、角周波数であり、
Tは、CPE定数であり、
pは、CPE指数(ZCPEの次数)である。
【0047】
上式(1)に示したように、容量素子CPEのインピーダンスZCPEは、CPE定数TとCPE指数pとによって構成される。例えば、インピーダンスZCPEが単純な容量性挙動を示す場合に、CPE指数pは、「0.0」から「1.0」までの範囲内の値をとる。p=1のとき、インピーダンスZCPEは、通常の静電容量Cの値を示す。
【0048】
図3Aに示すように、並列回路31には、抵抗素子R1及び容量素子CPE1が互いに並列接続され、並列回路32には、抵抗素子R2及び容量素子CPE2が互いに並列接続されている。同様に、並列回路33には、抵抗素子R3及び容量素子CPE3が互いに並列接続され、並列回路34には、抵抗素子R4及び容量素子CPE4が互いに並列接続されている。
【0049】
なお、以下では抵抗素子R1乃至R4の一つを単に抵抗素子Rと称し、容量素子CPE1乃至CPE4の一つを単に容量素子CPEと称する。
【0050】
図3Bは、図3Aに示したスラリー等価回路30におけるインピーダンスの周波数特性を、図2に示した実測ナイキスト線図に近似したときの並列回路31乃至34の各々のインピーダンスの周波数特性を示す観念図である。
【0051】
発明者らは、スラリー等価回路30を用いてスラリーSの等価回路解析を実施したところ、解析結果である四つの並列回路31乃至34の各々の電気特性は、スラリーSの導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcのいずれかの電気特性に対して相関性を示すことを知見した。
【0052】
それゆえ、ナイキスト線図における四つの並列回路31乃至34によって形成される円弧のピーク周波数は、それぞれスラリーSの導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcの電気特性に起因して定まることを発明者らは見出した。ここにいうピーク周波数とは、並列回路31乃至34の各々によって形成される虚部リアクタンス(-X)がピークとなる極点の周波数のことである。
【0053】
具体的には、四つの並列回路31乃至34の各ピーク周波数は、図3Bに示すように、実部電気抵抗(Rs)が低い順に、それぞれ1.4[MHz]、310[MHz]、3.9[kHz]及び220[Hz]である。
【0054】
そして、ピーク周波数が220[Hz]である円弧を描く並列回路の電気特性は、導電助剤Xaの電気特性に対応し、ピーク周波数が3.9[kHz]である円弧を描く並列回路の電気特性は、活物質Xbの電気特性に対応する。また、ピーク周波数が1.4[MHz]である円弧を描く並列回路、及びピーク周波数が310[kHz]である円弧を描く並列回路の双方を合成した電気特性は、溶媒Xcの電気特性に対応する。
【0055】
このような対応関係を有することを、スラリー等価回路30を用いてスラリーSの等価回路解析を実施したことにより、発明者らは見出した。
【0056】
図4は、記憶部22に記憶される対応テーブル40の一例を示す図である。
【0057】
対応テーブル40には、並列回路31乃至34の各々のピーク周波数と、スラリーSに含まれる材料と、の相関関係が示されている。対応テーブル40に示されたピーク周波数は、実験及びシミュレーションなどによって得られた値である。
【0058】
対応テーブル40において、例えば、並列回路31乃至34のうちピーク周波数が220[Hz]付近である並列回路は、スラリーSの導電助剤Xaとして用いられる単相のカーボンナノチューブ(sw-CNT)及び多層のカーボンナノチューブ(mw-CNT)の電気特性と相関することが示されている
【0059】
また、並列回路31乃至34のうちピーク周波数が3.9[kHz]付近である並列回路は、スラリーSの活物質Xbとして用いられるニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)の電気特性と相関することが示されている。
【0060】
また、並列回路31乃至34のうちピーク周波数が310[kHz]付近及び1.4[MHz]付近である二つの並列回路は、スラリーSの溶媒Xcとして用いられるNメチル2ピロリドン(NMP)の電気特性と相関することが示されている。
【0061】
このように、対応テーブル40を参照することにより、処理部25は、スラリーSに含まれる導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcの少なくとも一つの電気特性を推定することが可能となる。
【0062】
次に、測定装置2を構成する処理部25の機能について図3を参照して説明する。
【0063】
図5は、本実施形態における処理部25の機能構成を示すブロック図である。図5に示す例では、図4に示した対応テーブル40が記憶部22にあらかじめ記憶されている。
【0064】
処理部25は、データ取得部251と、等価回路解析部252と、演算部253と、を備える。
【0065】
データ取得部251は、測定部21から、スラリーSの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する。そしてデータ取得部251は、取得した測定データを等価回路解析部252に出力する。
【0066】
等価回路解析部252は、データ取得部251からの測定データに示された交流インピーダンスの周波数特性に対してスラリー等価回路30におけるインピーダンスの周波数特性が近似するよう、スラリー等価回路30の回路定数を設定する設定手段として機能する。ここにいうインピーダンスの周波数特性とは、周波数掃引範囲内の各周波数の複素インピーダンスのことである。
【0067】
本実施形態における等価回路解析部252は、スラリー等価回路30を用いて上記の測定データに対する等価回路解析を実行する。
【0068】
具体例として、等価回路解析部252は、測定データに示された各周波数の交流インピーダンスに基づいて実測ナイキスト線図を作成する。
【0069】
続いて等価回路解析部252は、スラリー等価回路30におけるインピーダンスの周波数特性に基づく等価回路ナイキスト線図が実測ナイキスト線図に重なるよう、スラリー等価回路30の回路定数を調整してフィッティングを行う。
【0070】
上述したスラリー等価回路30の回路定数は、抵抗素子R1乃至R4の各々の抵抗値、並びに、容量素子CPE1乃至CPE4の各々の静電容量C及びCPE指数pである。
【0071】
そして等価回路解析部252は、等価回路ナイキスト線図と実測ナイキスト線図との一致度合いが最も高いときのスラリー等価回路30の回路定数を取得し、取得した回路定数を演算部253に出力する。
【0072】
演算部253は、等価回路解析部252により設定されるスラリー等価回路30の回路定数に基づいてスラリーSに含まれる材料の電気特性を示す特性指標を演算する演算手段として機能する。
【0073】
本実施形態における演算部253は、並列回路特定部253Aと材料状態演算部253Bとを備える。
【0074】
並列回路特定部253Aは、等価回路解析部252によって得られる四つの並列回路31乃至34の時定数に基づいて、四つの並列回路31乃至34の中からスラリーSを構成する材料(Xa乃至Xc)の各々に対応する並列回路を決定する。
【0075】
具体的には、まず、並列回路特定部253Aは、並列回路31乃至34のピーク周波数を求める。より詳細には、並列回路特定部253Aは、四つの並列回路31乃至34の各々について、抵抗素子Rの抵抗値と、容量素子CPEの静電容量Cと、容量素子CPEのCPE指数pと、をそれぞれ乗じて時定数(R×C×p)を算出する。そして並列回路特定部253Aは、並列回路31乃至34の時定数(R×C×p)の逆数を取ることにより、並列回路31乃至34のピーク周波数を取得する。
【0076】
そして、並列回路特定部253Aは、図4に示した対応テーブル40を記憶部22から読み出す。そして並列回路特定部253Aは、読み出した対応テーブル40を参照し、四つの並列回路31乃至34のうち、ピーク周波数を表す時定数の逆数が220Hzに最も近い並列回路が導電助剤Xaに対応する並列回路であると決定する。以下では、並列回路31が導電助剤Xaに対応する並列回路と仮定する。
【0077】
同様に、並列回路特定部253Aは、対応テーブル40を参照し、四つの並列回路31乃至34のうち時定数の逆数が3.9[kHz]に最も近い並列回路が活物質Xbに対応する並列回路であると決定する。以下では、並列回路32が活物質Xbに対応する並列回路と仮定する。
【0078】
同様に、並列回路特定部253Aは、対応テーブル40を参照し、四つの並列回路31乃至34のうち時定数の逆数が310[kHz]に最も近い並列回路と、時定数の逆数が1.4[MHz]に最も近い並列回路と、が共に溶媒Xcに対応する並列回路であると決定する。以下では、並列回路33及び34が溶媒Xcに対応する二つの並列回路と仮定する。
【0079】
なお。本実施形態の並列回路特定部253Aではピーク周波数を求めるにあたり時定数の逆数が用いられたが、これに限られるものではない。例えば、並列回路特定部253Aは、次式(2)のように、並列回路31乃至34の各々について、抵抗素子Rの抵抗値と、容量素子CPEのCPE指数p及びCPE定数Tと、を用いてピーク周波数を求めるものであってもよい。
【0080】
【数2】
【0081】
続いて、材料状態演算部253Bの機能について説明する。
【0082】
材料状態演算部253Bは、並列回路31乃至34の少なくとも一つの並列回路の回路定数に基づいて、その並列回路に対応する材料の特性指標を演算する。本実施形態の特性指標としては、例えば、各材料(Xa乃至Xc)における直流抵抗、静電容量及び均一性などが挙げられる。
【0083】
例えば、材料状態演算部253Bは、スラリーSを構成する材料の一つである導電助剤Xaに対応する並列回路31の回路定数を用いて導電助剤Xaの特性指標を演算する。
【0084】
具体的には、材料状態演算部253Bは、並列回路31の回路定数のうち、抵抗素子R1の抵抗値をスラリーSにおける導電助剤Xaの直流抵抗として算出し、容量素子CPE1の静電容量C1にCPE指数p1を乗じた値をスラリーSにおける導電助剤Xaの電気容量として算出する。さらに材料状態演算部253Bは、並列回路31の回路定数のうち容量素子CPE1のCPE指数p1をスラリーSにおける導電助剤Xaの均一性として算出する。
【0085】
同様に、材料状態演算部253Bは、スラリーSを構成する材料の一つである活物質Xbに対応する並列回路32の回路定数を用いて活物質Xbの特性指標を演算する。
【0086】
具体的には、材料状態演算部253Bは、並列回路32の回路定数のうち抵抗素子R2の抵抗値を活物質Xbの直流抵抗として算出し、容量素子CPE2の静電容量C2にCPE指数p2を乗じた値を活物質Xbの電気容量として算出する。さらに材料状態演算部253Bは、並列回路32の回路定数のうち容量素子CPE2のCPE指数p2を、活物質Xbの均一性として算出する。
【0087】
同様に、材料状態演算部253Bは、スラリーSを構成する材料の一つである溶媒Xcに対応する並列回路33の回路定数を用いて溶媒Xcの特性指標として演算する。
【0088】
具体的には、材料状態演算部253Bは、並列回路33及び34の回路定数のうち抵抗素子R3の抵抗値と抵抗素子R4の抵抗値との和(R3+R4)を溶媒Xcの直流抵抗として取得する。そして材料状態演算部253Bは、容量素子CPE3の静電容量C3にCPE指数p3を乗じた値と容量素子CPE3の静電容量C3にCPE指数p3を乗じた値との合成値を溶媒Xcの静電容量として算出する。
【0089】
材料状態演算部253Bは、取得した材料の特性指標に基づいてスラリーSの状態指標を演算する。
【0090】
例えば、材料状態演算部253Bは、次式(3)のように、導電助剤Xaの直流抵抗(R1)、活物質Xbの直流抵抗(R2)及び溶媒Xcの直流抵抗(R3+R4)を用いて、スラリーSの直流抵抗DCRを算出する。
【0091】
DCR = R1+R2+R3+R4 ・・・(3)
【0092】
または、材料状態演算部253Bは、次式(4)のように、導電助剤Xaの直流抵抗に相当する並列回路31の抵抗素子R1の抵抗値、及び式(3)で得られるスラリーSの直流抵抗DCRを用いて、スラリーSの抵抗比率Rratioを算出する。
【0093】
ratio = R1/DCR ・・・(4)
【0094】
抵抗比率Rratioは、スラリーSに形成される多数の導電経路のうち導電助剤Xaによって形成される導電経路が占める割合を表す。スラリーSの抵抗比率Rratioが大きいほど、導電助剤Xaのネットワークが良好に形成されていると推定される。導電助剤Xaの均一性に着目する理由は、スラリーSの電気伝導性において電気抵抗が最も低い導電助剤Xaの影響が重要となるからである。
【0095】
あるいは、材料状態演算部253Bは、次式(5)のように、導電助剤Xaの均一性に相関する並列回路31における容量素子CPE1のCPE指数p1を用いて、スラリーSにおける均一性U(Uniformity)を算出する。
【0096】
U = p1 ・・・(5)
【0097】
CPE指数p1=1.0のとき、導電助剤Xaの緩和過程が均一であり、導電助剤Xaの分布に偏りを持たないため、導電助剤XaがスラリーS中に均一に分布していると推定される。一方で、CPE指数p1が小さくなるにつれて、導電助剤Xaの緩和過程での不均一が大きくなり、スラリーSの導電助剤Xaが不均一であると推定される。導電助剤Xaの均一性に着目する理由は、スラリーSの均一性において導電経路が最も多い導電助剤Xaの影響が支配的となるからである。
【0098】
材料状態演算部253Bは、算出したスラリーSの直流抵抗DCR、抵抗比率Rratio及び均一性Uなどの状態指標と、導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcの特性指標と、を測定結果として記憶部22に出力する。
【0099】
次に、コンピュータを構成する測定装置2の動作について図6を参照して説明する。
【0100】
図6は、本実施形態における測定装置2によるスラリーSの状態を測定するための測定方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0101】
ステップS1において測定装置2は、スラリーSの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する。
【0102】
上記のスラリーSを構成する複数の材料として、活物質Xbとして作用するニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)と、導電助剤Xaとして作用する単相のカーボンナノチューブ(sw-CNT)及び多層のカーボンナノチューブ(mw-CNT)と、が含まれる。さらに複数の材料として、分散剤として作用するポリビニルピロリドン(PVP)と、溶媒Xcとして作用するNメチル2ピロリドン(NMP)と、が含まれる。
【0103】
ステップS2において測定装置2は、ステップS1で取得した測定データに基づいて、スラリー等価回路30を用いた等価回路解析を実行する。具体的には、測定装置2は、測定データに示される交流インピーダンスの周波数特性に対してスラリー等価回路30におけるインピーダンスの周波数特性が近似するよう、スラリー等価回路30の回路定数を設定する。
【0104】
上記のスラリー等価回路30は、抵抗素子R及び容量素子CPEが互いに並列接続された四つの並列回路31乃至34を含み、並列回路31乃至34の各々を互いに直列接続した回路からなる。
【0105】
ステップS3及びS4において測定装置2は、ステップS2で設定されたスラリー等価回路30の回路定数に基づいて、スラリーSに含まれる材料(Xa乃至Xc)の電気特性を示す特性指標を、スラリーSの状態を示す状態指標として演算する。
【0106】
具体的には、ステップS3において測定装置2は、ステップS2で設定された四つの並列回路31乃至34のうちピーク周波数が220Hzに最も近い並列回路が導電助剤Xaに対応する並列回路であると決定し、ピーク周波数が3.9kHzに最も近い並列回路が活物質Xbに対応する並列回路であると決定する。さらに測定装置2は、四つの並列回路31乃至34のうちピーク周波数が310kHzに最も近い並列回路、及び、ピーク周波数が1.4MHzに最も近い並列回路が共に溶媒Xcに対応する並列回路であると決定する。このように、測定装置2は、四つの並列回路31乃至34のピーク周波数に基づいて、導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcに対応する並列回路を決定する。
【0107】
そして、ステップS4において測定装置2は、導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcのうち少なくとも一つの材料に対応する並列回路の回路定数を用いることにより、当該並列回路に対応する少なくとも一つの材料の電気特性を示す特性指標を演算する。さらに測定装置2は、例えば、演算した特性指標に基づいて、上記の式(3)乃至(5)のうち少なくとも一つのスラリーSの状態指標を算出する。
【0108】
ステップS4の処理が完了すると、本実施形態における測定方法についての一連の処理手順が終了する。
【0109】
上記実施形態ではスラリーSの活物質Xbとしてニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)が用いられたが、これに限られず、活物質Xbは、ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質であればよい。例えば、ニッケルと、コバルトと、マンガン、アルミニウム、チタン及びマグネシウムのいずれか一つの物質と、を固溶したNaFeO2型構造を持つ層状岩塩型の活物質などが挙げられる。具体例としては、ニッケル・コバルト・アルミニウムの酸化物(NCA)などが用いられてもよい。このような活物質を含むスラリーSであっても、測定装置2は、上記と同じ測定処理を実行することにより、スラリーSに含まれる材料の電気特性を考慮しつつ、スラリーSの状態を測定することができる。
【0110】
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
【0111】
本実施形態における測定装置2は、電気特性が異なる複数の材料(Xa乃至Xc)を含むスラリーSの状態を測定するための装置であり、データ取得部251と、等価回路解析部252と、演算部253と、を含む。データ取得部251は、スラリーSの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する取得手段として機能する。等価回路解析部252は、データ取得部251が取得した測定データに示される交流インピーダンスの周波数特性に対してスラリーSを模擬するスラリー等価回路30におけるインピーダンスの周波数特性が近似するようスラリー等価回路30の回路定数を設定する設定手段として機能する。演算部253は、等価回路解析部252により設定されるスラリー等価回路30の回路定数に基づいてスラリーSの状態を示す状態指標を演算する演算手段として機能する。
【0112】
上述したスラリーSを構成する複数の材料は、ニッケル及びコバルトを少なくとも含む層状岩塩型の活物質Xbと、カーボンナノチューブを含む導電助剤Xaと、非イオン性高分子を少なくとも含む分散剤と、Nメチル2ピロリドンを含む溶媒Xcと、を含む。活物質Xbとしては、例えば、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)又はニッケル・コバルト・アルミニウムの酸化物(NCA)が用いられ、非イオン性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドンが用いられる。
【0113】
上述したスラリー等価回路30は、抵抗素子R及び容量素子CPEが互いに並列接続された四つの並列回路31乃至34を含み、並列回路31乃至34の各々を互いに直列接続した所定の等価回路からなる。
【0114】
そして演算部253は、等価回路解析部252により設定される四つの並列回路31乃至34のうちピーク周波数が220Hzに最も近い並列回路が導電助剤Xaに対応する並列回路であると決定し、ピーク周波数が3.9kHzに最も近い並列回路が活物質Xbに対応する並列回路であると決定する。また、演算部253は、四つの並列回路31乃至34のうちピーク周波数が310kHzに最も近い並列回路、及び、ピーク周波数が1.4MHzに最も近い並列回路が共に溶媒Xcに対応する並列回路であると決定する。
【0115】
さらに演算部253は、導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcのうち少なくとも一つの材料に対応する並列回路の回路定数を用いて、当該並列回路に対応する少なくとも一つの材料の電気特性を示す特性指標を演算する。
【0116】
また、本実施形態における測定方法は、電気特性が異なる複数の材料(Xa乃至Xc)を含むスラリーSの状態を測定する方法である。この測定方法は、スラリーSの交流インピーダンスの周波数特性を示す測定データを取得する取得ステップ(S1)と、取得された測定データに示される交流インピーダンスの周波数特性に対してスラリーSを模擬するスラリー等価回路30におけるインピーダンスの周波数特性が近似するようスラリー等価回路30の回路定数を設定する設定ステップ(S2)とを含む。さらに測定方法は、設定されたスラリー等価回路30の回路定数に基づいてスラリーSの状態を示す状態指標を演算する演算ステップ(S3及びS4)を含む。
【0117】
上記の演算ステップにおいては、設定された四つの並列回路31乃至34のうちピーク周波数が220Hzに最も近い並列回路が導電助剤Xaに対応する並列回路であると決定し、ピーク周波数が3.9kHzに最も近い並列回路が活物質Xbに対応する並列回路であると決定する。さらに、四つの並列回路31乃至34のうちピーク周波数が310kHzに最も近い並列回路、及び、ピーク周波数が1.4MHzに最も近い並列回路が共に溶媒Xcに対応する並列回路であると決定する。
【0118】
そして、導電助剤Xa、活物質Xb及び溶媒Xcのうち少なくとも一つの材料に対応する並列回路の回路定数を用いて、当該並列回路に対応する少なくとも一つの材料の電気特性を示す特性指標を演算する。
【0119】
さらに、本実施形態におけるプログラムは、上記測定方法を実行するためのプログラムである。
【0120】
これらを構成するにあたり、発明者らは、上述のスラリーSを模擬するスラリー等価回路30のインピーダンスの周波数特性を測定データに近似させることによって、並列回路の各々はスラリーSを構成する材料の電気特性に対して相関性を有することを知見した。
【0121】
より詳細には、並列回路31乃至34のうち、ナイキスト線図におけるピーク周波数が220[Hz]付近である並列回路は、スラリーSにおける導電助剤Xaの電気特性に対して相関性を有し、ナイキスト線図におけるピーク周波数が3.9[kHz]付近である並列回路は、スラリーSにおける活物質Xbの電気特性に対して相関性を有する。さらにナイキスト線図におけるピーク周波数が310[kHz]付近及び1.4[MHz]付近である二つの並列回路は、スラリーSの溶媒Xcの電気特性に対して相関性を有する。
【0122】
それゆえ、これらの構成を採用することにより、並列回路31乃至34のピーク周波数に基づいて並列回路31乃至34の各々に対応する材料が決定されるので、決定された材料の電気特性を、その材料に対応する並列回路の回路定数に基づいて求めることが可能となる。したがって、特定のスラリーSに含まれる材料の電気特性を考慮しつつ、スラリーSの状態を測定することができる。
【0123】
例えば、演算部253は、四つの並列回路31乃至34のうち時定数の逆数が220[Hz]に最も近い並列回路がスラリーSの導電助剤Xaに対応する並列回路であると決定する。そして演算部253は、決定した並列回路の回路定数に基づいてスラリーSにおける導電助剤Xaの電気特性を示す特性指標を演算する。このように、決定した並列回路の回路定数に基づく特性指標を求めることにより、スラリーSの導電助剤Xaの電気特性を測定することができる。
【0124】
あるいは、演算部253は、四つの並列回路31乃至34のうち時定数の逆数が3.9[kHz]に最も近い並列回路がスラリーSの活物質Xbに対応する並列回路であると決定する。そして演算部253は、決定した並列回路の回路定数に基づいてスラリーSにおける活物質Xbの電気特性を示す特性指標を演算する。このように、決定した並列回路の回路定数に基づく特性指標を求めることにより、スラリーSにおける活物質Xbの電気特性を測定することができる。
【0125】
または、演算部253は、四つの並列回路31乃至34のうち時定数の逆数が310[kHz]に最も近い並列回路、及び、時定数の逆数が1.4[MHz]に最も近い並列回路が、共にスラリーSの溶媒Xcに対応する並列回路であると決定する。そして演算部253は、決定した並列回路の各々の回路定数に基づいてスラリーSの溶媒Xcの特性指標を演算する。このように、決定した並列回路の回路定数に基づく特性指標を求めることにより、スラリーSにおける溶媒Xcの電気特性を測定することができる。
【0126】
また、本実施形態における並列回路31乃至34の各々の容量素子はCPE(コンスタント・フェーズ・エレメント)である。この構成によれば、容量素子としてコンデンサを採用する場合に比べて、スラリーSにおける材料の電気特性についての測定精度を高めることができる。
【0127】
また、本実施形態における演算部253は、スラリーSを構成する材料の特性指標に基づいてスラリーSの状態指標を演算する。例えば、演算部253は、上式(3)乃至(5)のように、スラリーSの直流抵抗DCR、抵抗比率Rratio及び均一性Uを演算する。
【0128】
この構成によれば、スラリーSを構成する材料の特性指標を考慮しつつ、スラリーSの電気伝導性を評価することができる。
【0129】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0130】
例えば、測定部21は、測定装置2とは別体に構成されてもよい。
【符号の説明】
【0131】
1 電極部
2 測定装置
25 処理部
251 データ取得部(取得手段)
252 等価回路解析部(設定手段)
253 演算部(演算手段)
Xa 導電助剤
Xb 活物質
Xc 溶媒
S スラリー
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6