(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078056
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】水難救助信号発信機
(51)【国際特許分類】
B63C 9/20 20060101AFI20230530BHJP
B63C 9/00 20060101ALI20230530BHJP
B63C 9/08 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
B63C9/20 A
B63C9/00 A
B63C9/08 E
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062492
(22)【出願日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021190758
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500487963
【氏名又は名称】芳賀 直
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 直
(57)【要約】
【課題】単独で海や湖などで行動して遭難した場合であっても、小型・軽量で身体に容易に装着でき、水面に浮上した発信機から救助を求めることが可能な水難救助信号発信機を提供する。
【解決手段】身体に装着可能なベース部と、発信機を有し、ベース部に磁気的に係合されるフロータとで構成され、水没したときに、フロータがベース部から分離されると共に、水面に浮上して発信機から水難救助信号を発信する水難救助信号発信機である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体に装着可能なベース部と、
発信機を有し、前記ベース部に磁気的に係合されるフロータと、
で構成され、水没したときに、前記フロータが前記ベース部から分離されると共に、水面に浮上して前記発信機から水難救助信号を発信するようになっていることを特徴とする水難救助信号発信機。
【請求項2】
前記発信機が電波を発信するアンテナであり、前記アンテナはバネ線の先端部に設けられており、通常時は前記アンテナが倒されており、前記フロータが前記ベース部から分離される時に、前記アンテナが前記バネ線のバネ作用によって自動的に起立するようになっている請求項1に記載の水難救助信号発信機。
【請求項3】
前記ベース部と前記フロータとを覆うカバー筐体が設けられており、前記水没時に自動的に外れるようになっている請求項1又は2に記載の水難救助信号発信機。
【請求項4】
前記ベース部と前記フロータが、堅牢なワイヤ類若しくは紐類で接続されている請求項1乃至3のいずれかに記載の水難救助信号発信機。
【請求項5】
前記ベース部と前記フロータの結合及び分離を検出するスイッチ手段が設けられており、前記スイッチ手段により前記分離が検出された時に、前記水難救助信号を発信する起動を行うようになっている請求項1乃至4のいずれかに記載の水難救助信号発信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に小型・軽量であり、身体に装着して、水難事故の場所(水難救助を求めている場所)を電波で送信することが可能な水難救助信号発信機に関する。海、湖、河川などの水辺で単独若しくは集団から離れて作業をする場合などに、船や岸辺から水中に転落したり、水に溺れかかった場合などに、救助隊や救急隊などに確実な救助を求めるための水難救助信号を、自動的に発信することが可能な水難救助信号発信機である。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶や航空機に搭載され、これらが事故に遭遇したときに位置情報(GPS情報)などを含む救助信号を発信する水難救助信号発信装置が知られている。船舶や航空機が水難事故に遭遇した場合には、水没する船体又は機体から発信器を離脱させて水面近傍に浮上させ、救助を求める必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-001811号公報
【特許文献2】特開2003-231494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶や航空機が水難事故に遭遇した場合には、船舶や航空機には多くの人が乗船、乗機しており、事故時においても周りに多くの人がいるため、何らかの信号の発信によって救助を求めることが可能である。しかしながら、海、湖、河川などの水辺で単独で作業や遊泳等をしたり、岸辺から離れて釣りや遊泳等をする場合には、周りに人がいないため、船や岸辺から転落したり、水に溺れかかった場合などに、救助を求めること自体が非常に困難である。時化や暴風雨などの危険な領域、時間帯においても作業をしなければならないといった場合もあり、このような状況にあっては、例え遭難しても迅速に救助を求めることが重要である。
【0005】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、単独で海や湖などで行動して遭難した場合であっても、小型で身体に容易に装着した発信機から、ほぼ自動的に救助を求めることが可能な水難救助信号発信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、遭難時に水難救助信号を発信する水難救助信号発信機に関し、本発明の上記目的は、身体に装着可能なベース部と、発信機を有し、前記ベース部に磁気的に係合されるフロータとで構成され、水没したときに、前記フロータが前記ベース部から分離されると共に、水面に浮上して前記発信機から水難救助信号を発信するようになっていることによって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水難救助信号発信機によれば、非常に小型・軽量であり、容易に身体若しくはライフジャケットなどに装着することができ、水難事故に遭遇した場合でも、ほぼ自動的にアンテナを水面上に浮かせることができると共に、自動的に水難救助信号を発信することができ、救助隊などの救援を迅速かつ確実に要請することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の水難救助信号発信機の一例(カバー有り)を示す外観図である。
【
図2】カバー筐体と本体部との関係を示す展開外観図である。
【
図3】カバー筐体と、フロータと、ベース部との関係を示す展開外観図である。
【
図4】カバー筐体のベース部への装着例を示す一部断面図である。
【
図5】フロータの機能を説明するための模式図である。
【
図6】本発明の水難救助信号発信機の作動例を示す模式的な結線図である。
【
図7】フロータとベース部との配置関係を示す外観図である。
【
図8】本発明の水難救助信号発信機の他の例(カバー無し)を示す外観図である。
【
図9】
図2のX-X’の一例を示す断面構造図である。
【
図10】
図2のX-X’の他の例を示す断面構造図である。
【
図12】ベース部とフロータの係合の構造例を示す外観図である。
【
図15】アンテナの自動起立の一例を示す機構図(外部)である。
【
図16】アンテナの自動起立の一例を示す機構図(内部)である。
【
図17】本発明の水難救助信号発信機の回路構成例を示す結線図である。
【
図19】本発明の動作例を示すフローチャートである。
【
図20】ベース部とフロータの分離機構の他の構造例を示す構造図である。
【
図21】アンテナの自動起立の他の機構例を示す機構図である。
【
図22】ベース部とフロータの分離機構の更に他の構造例を示す構造図である。
【
図23】分離機構の具体的な構造例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、海、湖、河川などの水辺で、誤って水中に転落・落下したり、遊泳中或いはダイビング中などに溺れかかった場合など(以下、単に「遭難」若しくは「水難事故」とする)に、水難救助信号を発信する発信機を自動的に水面に浮上させて作動させ、電波で救助隊などに迅速かつ確実に救助を求めるための装置である。本発明の装置は非常に小型・軽量であり、身体の腕或いはライフジャケットなどに容易に装着でき、水難事故の場所を救助隊に電波で送信する水難救助信号発信機である。本発明の水難救助信号発信機は、人体若しくはライフジャケットなどに装着される固定部(以下、「ベース部」とする)と、固定部から任意に若しくは自動的に分離されて水面に浮上し、発信回路やアンテナなどの送信機により自動的に送信状態となる浮上部(以下、「フロータ」とする)とで構成されており、通常時は、フロータはベース部に磁気的に係合(連結)されている。ベース部とフロータで本体部を構成し、通常時は本体部の外部全体を覆うカバー筐体でカバーされて装置を防護若しくは保護するようになっている。カバー筐体は無くても良い。
【0010】
そして、落水等の遭難時に、遭難者による任意の操作若しくは遭難時の衝撃によってカバー筐体が外され、更に遭難時の衝撃又は水(海水も含むが、以下では単に「水」とする)によるストッパの自然溶出作用でフロータがベース部から分離され、フロータは水面に浮上して自動的に送信状態になる。ベース部は人体若しくはライフジャケットに装着されており、フロータが分離された状態でも、ベース部とフロータは、人体に危害が及ばない強度のワイヤ若しくはロープなどのワイヤ類或いは紐類で繋がれ、風や水流などでフロータがベース部(遭難者)から遠ざかることはなく、浮上したフロータから自動的に、かつ一定位置から水難救助信号を電波で送信するようになっている。従って、救助隊は容易に遭難場所にたどり着いて、遭難者を救助することが可能である。
【0011】
本発明の水難救助信号発信機は、ベルト、紐などで身体若しくはライフジャケットなどに装着され、フロータは水に浮き、分離されたフロータとベース部とは安全なワイヤ類などで繋がれているので、水難者の位置と同じ位置のフロータの発信機から、水難救助信号を数キロ~数十キロ以上の範囲で送信することができ、受信した救助隊は遭難者の位置を特定して、救助を確実に行うことが可能となる。フロータ及びベース部はマグネットの吸着力及び保持部材の押圧力で係合され、遭難者の手でも任意に分離させることができると共に、水没時の衝撃、或いは水の溶出作用により磁気的に吸着された係合部が押し広がり、フロータとベース部が自動的に分離される。フロータには、バネ弾性による折り畳み式のアンテナが装備されており、保持部材から外れることにより、或いはバネ線の復元力によってアンテナは自動的に直線状に上方に伸びて起立し、水面から十分な位置に配置される。これにより、電波の送信距離を伸ばすことができる。誤って使用者が保持部材を外しても、アンテナを畳んで巻き、保持部材で保持することで起動を停止して復旧することができる簡易な構造となっている。
【0012】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明の水難救助信号発信機100の外観例を示し、本体部が円筒状のカバー筐体110で覆われ、本体部のベース部130の両側に接続された2枚のバンド101及び102で、人体の腕やライフジャケットなどに装着されるようになっている。
【0014】
図2は、カバー筐体110と本体部(ベース部130+フロータ120)との係合関係を示しており、本体部の全体が上方より脱着可能なカバー筐体110によって覆われる構造となっている。
図3は、カバー筐体110、フロータ120、ベース部130の分離関係を示している。即ち、人体の腕などにバンド101及び102によって巻回されて装着される円盤状のベース部130と、ベース部130の上面に設置されて係合された円盤状のフロータ120とで本体部を構成し、円筒状のカバー筐体110が本体部の全体を上方より覆うようになっており、水難事故時等には、
図3に示されるように先ずカバー筐体110が外され、次いでフロータ120がベース部130から分離され、フロータ120が
図5に示されるように水面に浮上し、固定部121で起立したアンテナ140により、自動的に水難救助信号WHwを電波で送信するようになっている。
【0015】
なお、カバー筐体110とベース部130との係合関係は
図4に示すようになっており、カバー筐体110の底面全周若しくは一部にネオジム磁石(NdFeB)111が取り付けられている。ベース部130の上面には、水溶性のプラシート(plastic sheet)136が配設されて固定されており、プラシート136の上面に磁性体の係合部137がネオジム磁石111に対向して設けられている。通常時は、ネオジム磁石111と係合部137とが磁気結合され、これによってカバー筐体110はベース部130に磁気係合した形態となっている。ここで、水中に落下などした場合、水溶性のプラシート136が溶出するので、ネオジム磁石111と係合部137とが磁気結合したまま一緒にベース部130から分離され、カバー筐体110がベース部130から抜け落ちる。
【0016】
図6は、水難事故時の水難救助信号WHwを発信する様子を模式的に示しており、カバー筐体110がプラシート134の溶出によって本体部から分離されて外され、更にフロータ120がベース部130から分離され、水中の遭難者の腕に装着されたベース部130からワイヤ133で繋がれたフロータ120が水面に浮上し、フロータ120の上面の固定部121に起立したバネ線141の先端部のアンテナ140から、水難救助信号WHwが電波で送信される様子を示している。
図7は、フロータ120がベース部130から分離され、フロータ120の上面からバネ線141が上方に起立した様子を示している。
【0017】
なお、ワイヤ133の長さは十分あり、水面から遭難者までの深さ(例えば水深10m程度)をカバーするようになっており、フロータ120が水面に浮上しないことがないように調整されている。
【0018】
上述ではカバー筐体110が有る場合を説明したが、カバー筐体110は無くても良く、その場合の外観構成は
図8である。
【0019】
図9は
図2におけX-X’線の断面構造を示しており、この断面構造を参照して、フロータ120及びベース部130の構造を説明する。
【0020】
ベース部130は上面が円形で平坦なベース本体131を有し、ベース本体131の側面両側に、布地、合成皮革、ゴムなどで成る長形状の2枚のバンド101及び102が取り付けられており、後述するように、ベース本体131の上部内部にはネオジウム磁石(NdFeB)134が埋設されている。また、ベース本体131の上面端部には、弾性力を有する衝立状の1対の保持部材132A及び132Bが垂設されており、保持部材132A及び132Bの上部でフロータ120の側面を押圧して保持するようになっている。
【0021】
フロータ120は、ベース本体131の上面に磁気結合で分離可能に係合され、両側を保持部材132A及び132Bで押圧されて保持される円盤状の構造であり、ベース本体131のネオジウム磁石134と磁気結合する磁気材料としての鉄片124が、対向部分に設けられている。更に、フロータ120内にはバッテリ151が埋設されると共に、バッテリ151に接続された発信回路150が埋設され、更に発信回路150の起動を自動的に指示するマイクロスイッチ122が、スイッチ手段として上面に突出して設けられている。マイクロスイッチ122の接点部は防水性であり、ベース本体131の上面と係合し、通常時、即ちフロータ120がベース部130に係合されている時はその接点は「OFF」となっており、フロータ120がベース部130から分離されると接点が「ON」となる機能を有している。
【0022】
フロータ120は
図5及び
図6に示すように水面に浮かぶ必要があるので、材料自体の比重を水より小さくするか、若しくは密封された空洞を形成して浮力を有する構造とする。また、フロータ120の底部の空洞123内には、フロータ120をベース部130から機械的に所定距離(例えば10m)以上離さないようにするワイヤ133が巻回されて収納されている。更に、フロータ120の側面には、アンテナ140と、アンテナ140を自動起立するバネ線141と、バネ線141を被覆したアンテナリード152とが巻回されており、フロータ120がベース部130から分離されると、バネ線141のバネ作用により、アンテナ141は自動的に固定部121で起立するようになっている。固定部121で起立したアンテナ140から、水難救助信号WHwが電波で発信される。
【0023】
図9の構造例は、フロータ120に発信回路150を設ける場合であるが、
図10に示すようにベース部130にバッテリ151及び発信回路150を設けても良い。この場合、マイクロスイッチ122はベース部130の上面に突出して設けられ、ワイヤ133は、
図11に示すようにワイヤ133を防水のパイプ状にして、内部に電気信号を送信するリード線133Aを敷設する必要がある。
図10の構造例では、ベース部130からフロータ120に、リード線133Aを経て水難救助信号WHを送信する必要があり、特殊構造のワイヤを用いる必要があるので、構造的に
図9の構造の方が望ましい。
【0024】
なお、いずれの場合も、ベース部130にネオジウム磁石134を設け、フロータ120に鉄片124を設ける構造となっているが、逆にベース部130に鉄片124を設け、フロータ120にネオジウム磁石134を設けるような磁気結合の構造であっても良い。
【0025】
図12は、フロータ120とベース部130の磁気結合(係合)の機構例を示しており、
図13は、その係合部の一部の詳細を断面構造で示している。本例では、ベース部130のベース本体131の上部周縁部に4個のネオジウム磁石134A~134Dが埋設され、フロータ120の底面にはこれらネオジウム磁石134A~134Dに対応する位置に磁気材料としての鉄片124A~124Dが配設されている。ネオジウム磁石134A~134Dは埋設されいなくとも、磁石表面がベース本体131の上面と同一であっても良い。そして、ネオジウム磁石134A~134Dと鉄片124A~124Dとの間に、分離用のプラシート(plastic sheet)135が配設されている。プラシート135は、ネオジウム磁石134A~134Dと鉄片124A~124Dの磁気結合の強度を弱める作用があるが、通常時においては磁力の吸着力により、フロータ120とベース部130の係合を保持している。その吸着力は、遭難者が容易に引きはがしができる程度であると共に、落水時の衝撃によって自然に分離される強さに、プラシート135の厚さで調整されている。
【0026】
なお、磁気的結合力及び分離の容易性などは、プラシート135の厚さのみならず、ネオジウム磁石134A~134Dと鉄片124A~124Dの特性も影響するので、これらの総合的な特性で調整される。
【0027】
図14はアンテナ140の構造例を示しており、アンテナ140はバネ線141の先端部に接続されると共に、発信回路150に接続されているアンテナリード152にも接続されている。即ち、バネ線141の外側は、螺旋状に巻回されたアンテナリード152で被覆されており、アンテナ140は機構的にはバネ線141に接続され、電気的にはアンテナリード152により発信回路150と接続されている。これにより、アンテナ140は自動起立が可能であると共に、発信回路150からの水難救助信号WHを、アンテナリード152を経てアンテナ140から送信することができる。
【0028】
図15及び
図16は、アンテナ140の自動起立の機構例を示しており、
図15が外部の様子を示し、
図16はフロータ120の内部構造を示している。通常時は、
図15(A)及び
図16(A)に示されるように、アンテナ140及びアンテナリード152(バネ線141)はフロータ120の側面に巻回され、両側を保持部材132A及び132Bで押圧・保持されているが、保持部材132A及び132Bが外されると
図15(B)に示されるように、バネ線141の復元力でアンテナ141及びアンテナリード152(バネ線141)は外方に向かって開放される。バネ線141は固定部121(支持点F1)でフロータ120の上面に係合されているので、その後、
図15(C)に示されるように、固定部121に垂直な状態にアンテナ140及びアンテナリード152(バネ線141)が自動的に起立される。なお、
図15では、アンテナリード152は省略されている。
【0029】
図16はフロータ120の内部構成を示しており、支持点F1及びF2の間に巻回されたバネ部143が形成されている。支持点F1(固定点121)及びF2の保持位置は固定であるが、支持点F1はバネ線141に対して可動、つまりバネ線141は支持点F1の位置を自在に移動可能となっている。そして、通常時は、バネ部143は位置P1にあり、アンテナ140は、アンテナリード152と一緒にフローラ120の側面に巻回されている。そして、保持部材132A及び132Bによってアンテナ140の保持が開放されると、バネ部143の復元力により、支持点F2に一端が保持されたまま、支持点F1に対してバネ線141が上方に移動するので、アンテナ140はフローラ120の上面に
図16(B)のように自動的に起立する。
【0030】
図17は電気系の結線関係を示しており、バッテリ151の電力は、マイクロスイッチ122が「ON」の時に発信回路150に供給され、通常時はマイクロスイッチ122が「OFF」されている。つまり、ノーマルOFFのマイクロスイッチである。発信回路150は、マイクロスイッチ122の接点が「ON」になるとバッテリ151から電力を供給され、自動的に内蔵の処理回路、発振回路、増幅回路などが起動され、所定の水難救助信号WHを出力する。水難救助信号WHはリード線、アンテナリード152を経てアンテナ140に送信され、アンテナ140から電波の水難救助信号WHwが発信される。水難救助信号WH及びWHwは、
図18に示されるように、少なくとも送信機の固有IDであるID、GPSによる位置情報を含んでいる。救助隊の方では水難救助信号WHwを受信し、それに含まれるIDと位置情報に基づいて水難場所に向かうことができる。
【0031】
なお、バッテリ151は、
図9の構成の場合にはフロータ120に設けられ、
図10の構成の場合にはベース部130に設けられ、いずれの場合も発信回路150側に設けるのが好都合である。また、バッテリ151は、外部から充電可能なものが望ましい。
【0032】
このような構成において、その動作例を
図19のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
図2に示されるように、フロータ120がベース部130に係合された状態では、マイクロスイッチ122は、
図9及び
図10のいずれの場合にもその接点は「OFF」であり、発信回路150は停止状態となっている(ステップS1)。そして、水中に落下するなどすると衝撃が生じ(ステップS2)、その衝撃により或いは水溶性のプラシート134が溶出してカバー筐体110が自動的に外され(ステップS3)、更にプラシート135の剥離作用でフロータ120がベース部130から自動的に分離される(ステップS4)。
図3及び
図6に示すようにフロータ120がベース部130から分離されると、マイクロスイッチ122の接点が「ON」となる(ステップS5)。遭難者が任意に手で、カバー筐体110やフロータ120をベース部130から分離する場合もあるが、プラシート135の厚さなどで調整された結合力が落水時の衝撃により減衰され、また、水の浸水・侵入により、フロータ120がベース部130から自動的に分離されるようになっている。
【0034】
また、フロータ120が、保持部材132から外されてベース部130から分離されると、フロータ120はワイヤ133に繋がれたまま浮力によって水中を上昇し、遂には水面に浮上すると共に、
図15及び
図16で説明したようにアンテナ140が自動的に起立する(ステップS6)。フロータ120がベース部130から分離されると、
図9及び
図10のいずれの場合もマイクロスイッチ122の接点が「ON」となる。これにより、バッテリ151から発信回路150に電力が供給されるので、発信回路150が自動的に起動される(ステップS7)。発信回路150の起動により、発信回路150で水難救助信号WHが発信されて送信され(ステップS8)、アンテナリード152を経てアンテナ140に送信され、アンテナ140から電波の水難救助信号WHwが発信される(ステップS9)。
【0035】
上述の実施形態では、落水などしたときの衝撃によって、フロータ120がベース部130から自動的に分離される場合を説明したが、機構的に確実に分離する実施形態を、
図20に示して説明する。
【0036】
本例では固形の水溶性ストッパ161を用いる場合を示し、
図20(A)は通常時の結合状態であり、
図20(B)は落水して自動的に分離される状態を示している。かかる機構は、例えば
図12の場合、ネオジウム磁石(132A~132D)と鉄片(124A~124D)の各係合部に配設され、各係合部で同時に分離される。
【0037】
例えばネオジウム磁石132A(ベース部130)と鉄片124A(フロータ120)との間には、線状の引っ張りゼンマイ164が配設されており、引っ張りゼンマイ164の端部164Aは固形の水溶性ストッパ161に保持(固定)されている。引っ張りゼンマイ164は図示の右方向に引っ張りトルクを有している。そして、ネオジウム磁石132Aと鉄片124Aとの間の引っ張りゼンマイ164には、リード部プラシート163が被覆され、更に水溶性ストッパ161にはパーマロイマグネットキャンセラシート162が連結されて被覆されており、パーマロイマグネットキャンセラシート162にはくさび形セパレータ160が取り付けられている。
【0038】
通常時は
図20(A)に示すように、引っ張りゼンマイ164の端部164Aが固形の水溶性ストッパ161に保持(固定)されているので、ネオジウム磁石132Aと鉄片124Aとの間はリード部プラシート163を挟持して磁気係合されている。しかしながら、水難事故等で水難救助信号発信機100が水没すると、水溶性ストッパ161が溶出してしまうのでストッパが外され、引っ張りゼンマイ164の引っ張りトルクでくさび形セパレータ160が、ネオジウム磁石132Aと鉄片124Aとの間に入り込み、ネオジウム磁石132Aと鉄片124Aとの間、つまりベース部130とフロータ120とが分離される。
【0039】
次に、アンテナ140が自動的に起立する他の機構を、
図21に示して説明する。
【0040】
本例でもアンテナ140は、バネ線141の先端部に接続されており、バネ線141はフロータ120の上面の支持点F3及び底部の支持点F4に保持されていると共に、支持点F3及びF4の間に巻回されたバネ部144が形成されている。支持点F3及びF4の保持位置は固定であるが、バネ線141に対して可動となっている。通常時は、バネ部144は位置P1Bにあり、アンテナ140はフロータ120の上面に倒れており、頂部が開閉可能なストッパ126で係止されている。そして、水中への落下時にその衝撃、若しくは人為的にストッパ126が外されると、バネ部144の復元力により、支持点F3及びF4に対してバネ線141が移動するので、アンテナ140はフロータ120の上面に自動的に起立する。
【0041】
図22は、フロータ120をベース部130から自動的に分離する機構の具体例を示しており、引っ張りゼンマイ172の一端174が水溶性のストッパ171内に固定されており、水中に落下などするとストッパ171が溶出する。これによりくさび170が引っ張りゼンマイ172のバネ部173側に引っ張られ、くさび170の挿入作用により、磁石と鉄片との間を引き離す。これにより、フロータ120はベース部130から自動的に分離される。
図23は実物の外観を示している。
【0042】
なお、上述では水難救助信号発信機100を、2枚のバンド(101、102)で腕に装着する場合を説明したが、ライフジャケットなどに装着することも可能であり、バンドに代えて、弾性体で成る輪(リング)、マジックテープ(登録商標)、フックなどを用いることも可能である。また、上述ではスイッチ手段として機械式のマイクロスイッチを例に挙げたが、これに限定されるものではなく、電気的な近接スイッチ等を用いることも可能である。
【0043】
更に、上述ではベース部及びフロータを円盤状の形状としているが、矩形や多角形の形状であっても良い。また、カバー筐体は必須のものではく、無くても良い。
【符号の説明】
【0044】
100 水難救助信号発信機
101,102 バンド
110 カバー筐体
111 ネオジウム磁石
120 フロータ
121 固定部
122 マイクロスイッチ
123 空洞
124(124A~124D) 鉄片
126 ストッパ
130 ベース部
131 ベース本体
132A、132B 保持部材
133 ワイヤ
134(134A~134D) ネオジウム磁石
135、137 プラシート
136 係合部
140 アンテナ
141 バネ線
143,144 バネ部
150 発信回路
151 バッテリ
152 アンテナリード
160 くさび形セパレータ
161 水溶性ストッパ
162 パーマロイマグネットキャンセラシート
163 リード部プラシート
164 引っ張りゼンマイ