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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007834
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】自動車用エアバッグドア
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/215 20110101AFI20230112BHJP
   B60R 21/205 20110101ALI20230112BHJP
【FI】
B60R21/215
B60R21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110928
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高井 一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 千春
(72)【発明者】
【氏名】石田 真一
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA08
3D054AA14
3D054BB09
3D054BB17
3D054CC09
3D054DD11
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】エアバッグを膨張初期に早期に上方へ展開させ、エアバッグのうち、乗員拘束に対する寄与の低い部分の後方への展開及び膨張を抑制し、さらに、ドア本体部との接触により乗員に及ぼす影響を小さくする。
【解決手段】自動車用エアバッグドア20は、後上部の内部にエアバッグ装置40が配置されたインストルメントパネル13に適用され、ドア本体部21を構成部分の1つとして備える。インストルメントパネル13のうち、ドア本体部21の周りを周囲部15とし、同周囲部15のうち、ドア本体部21に対し上方に隣接する箇所を上隣接部16とする。ドア本体部21は、エアバッグ55が展開及び膨張するときに後方へ押されて、周囲部15から後方へ面状に突出することにより、周囲部15により囲まれた領域14を開放するとともに、ドア本体部21の上端部と上隣接部16との間に上開口部63を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張用ガスにより後方へ展開及び膨張するエアバッグを備えたエアバッグ装置が、自動車の助手席の前方であり、かつ自身の後上部の内部に配置されたインストルメントパネルに適用され、前記インストルメントパネルのうち、前記エアバッグ装置の後方となる箇所を構成するドア本体部を、構成部分の1つとして備える自動車用エアバッグドアであり、
前記インストルメントパネルのうち、前記ドア本体部の周りの箇所を周囲部とし、前記周囲部のうち、前記ドア本体部に対し上方に隣接する箇所を上隣接部とした場合、
前記ドア本体部は、前記エアバッグが展開及び膨張するときに後方へ押されて、前記周囲部から後方へ面状に突出することにより、前記周囲部により囲まれた領域を開放するとともに、前記ドア本体部の上端部と前記上隣接部との間に上開口部を形成するように構成されている自動車用エアバッグドア。
【請求項2】
前記周囲部のうち、前記ドア本体部に対し下方に隣接する箇所を下隣接部とした場合、
前記ドア本体部は、前記周囲部から後方へ突出することにより、前記ドア本体部の下端部と前記下隣接部との間に下開口部を形成するように構成されている請求項1に記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項3】
前記ドア本体部は可撓性を有しており、
前記エアバッグ装置は、前記エアバッグを収容するケースを備え、
前記自動車の車幅方向における前記ドア本体部の両側部にはそれぞれスライド部が設けられ、
前記周囲部又は前記ケースのうち、各スライド部の前方には、それぞれ被スライド部が設けられ、
各スライド部は、対応する前記被スライド部に対し、前記車幅方向にスライド可能に取付けられており、
前記ドア本体部は、後方へ押されたときには、前記車幅方向における中央部に近づくに従い前記周囲部から多く突出するように湾曲した曲面状に撓むように構成されている請求項1又は2に記載の自動車用エアバッグドア。
【請求項4】
前記領域に対し前後方向にスライド可能に挿通され、かつ自身の後部の少なくとも上端部が開放されたフレーム部を備え、
前記フレーム部は、前記自動車の車幅方向における両側部を構成する一対の側壁部と、両側壁部の後端部同士を連結する後壁部とを備え、前記後壁部が前記ドア本体部により構成され、
前記フレーム部が前記構成部分の1つとされる自動車用エアバッグドアであり、
前記フレーム部は、前記エアバッグが展開及び膨張する前には、前記領域を前記ドア本体部で塞ぎ、前記エアバッグが展開及び膨張するときには後方へ押されて、前記ドア本体部を、両側壁部の後部と一緒に前記周囲部から後方へ突出させて、前記領域を開放するとともに前記上開口部を形成するように構成されている請求項1又は2に記載の自動車用エアバッグドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ装置が後上部の内部に配置されたインストルメントパネルに適用され、そのインストルメントパネルのうち、エアバッグ装置の後方となる箇所を構成する自動車用エアバッグドアに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の助手席に着座している乗員を衝突等の衝撃から保護するために、インストルメントパネルの内部であって、助手席の前方となる箇所にエアバッグ装置が配置されることがある。エアバッグ装置は、膨張用ガスにより展開及び膨張するエアバッグを備える。
【0003】
一方で、自動車の分野では、インストルメントパネルの上下方向の寸法を小さくしたいという要望がある。
そこで、助手席の前方であり、かつインストルメントパネルの後上部の内部にエアバッグ装置を配置し、エアバッグを後方へ展開及び膨張させることが考えられている(例えば、特許文献1~特許文献4参照)。
【0004】
この場合、インストルメントパネルのうち、エアバッグ装置の後方となる箇所は、自動車用エアバッグドアのドア本体部によって構成される。ここで、インストルメントパネルのうち、ドア本体部の周りを周囲部とすると、エアバッグが展開及び膨張する前には、周囲部によって囲まれた領域がドア本体部によって塞がれる。
【0005】
そして、エアバッグが展開及び膨張すると、そのエアバッグによってドア本体部が押し開かれる。これに伴い、インストルメントパネルの上記領域が開放される。
エアバッグは、一部をインストルメントパネルの内部に残した状態で、上記領域を通ってインストルメントパネルの外部へ出る。エアバッグは、助手席の乗員の上半身の前方で引き続き展開及び膨張する。乗員は、慣性により前方へ移動しようとするが、上記エアバッグによって受け止められ、衝撃から保護される。
【0006】
上記自動車用エアバッグドアとして、特許文献1に記載されたものは、ドア本体部が車幅方向における両側へ開く。特許文献2に記載された自動車用エアバッグドアでは、ドア本体部の上部が、上側へ開く。特許文献3に記載された自動車用エアバッグドアでは、ドア本体部の上半分が、後ろ側ほど高くなるように傾斜した状態で開く。特許文献4に記載された自動車用エアバッグドアでは、ドア本体部を構成する上側ドア及び下側ドアが、それぞれ上方へ開く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-45241号公報
【特許文献2】特開2008-285092号公報
【特許文献3】特開2011-56992号公報
【特許文献4】特開2011-143856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、エアバッグのうち、インストルメントパネルの上記領域から後方へ出た部分は、エアバッグの他の部分よりも乗員拘束に対する寄与が低い。しかし、上記特許文献1及び特許文献2に記載された自動車用エアバッグドアが採用されると、エアバッグの上記部分が、乗員拘束に必要な量以上、展開及び膨張しやすい。
【0009】
また、上記特許文献3及び特許文献4に記載された自動車用エアバッグドアが採用されると、エアバッグのうち、インストルメントパネルの上記領域から後方へ出た部分が、斜め後上方へ展開及び膨張しやすい。そのため、エアバッグの膨張初期に上方へ早期に展開させる点で改善の余地がある。また、ドア本体部が傾斜した状態で開き、同ドア本体部の後側の端末部分が乗員に対向した状態となる。そのため、エアバッグによる乗員拘束の終盤において、上記端末部分に接触した場合に乗員が受ける影響が懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する自動車用エアバッグドアは、膨張用ガスにより後方へ展開及び膨張するエアバッグを備えたエアバッグ装置が、自動車の助手席の前方であり、かつ自身の後上部の内部に配置されたインストルメントパネルに適用され、前記インストルメントパネルのうち、前記エアバッグ装置の後方となる箇所を構成するドア本体部を、構成部分の1つとして備える自動車用エアバッグドアであり、前記インストルメントパネルのうち、前記ドア本体部の周りの箇所を周囲部とし、前記周囲部のうち、前記ドア本体部に対し上方に隣接する箇所を上隣接部とした場合、前記ドア本体部は、前記エアバッグが展開及び膨張するときに後方へ押されて、前記周囲部から後方へ面状に突出することにより、前記周囲部により囲まれた領域を開放するとともに、前記ドア本体部の上端部と前記上隣接部との間に上開口部を形成するように構成されている。
【0011】
上記の構成によれば、エアバッグ装置のエアバッグに膨張用ガスが供給されて、同エアバッグが展開及び膨張するときには、ドア本体部が後方へ押される。ドア本体部は、インストルメントパネルの周囲部よりも後方へ突出する。この突出に伴い、インストルメントパネルのうち周囲部によって囲まれた領域が開放される。エアバッグは、一部をインストルメントパネルの内部に残した状態で、上記領域を通り、周囲部よりも後方へ出る。
【0012】
また、上記突出に伴い、ドア本体部の上端部と、周囲部の上隣接部との間に上開口部が形成される。そのため、周囲部よりも後方へ出たエアバッグは、膨張初期には、上開口部を通って早期に上方へ展開する。引き続き展開及び膨張するエアバッグによって、乗員の上半身が受け止められて拘束される。
【0013】
ここで、上記領域の後方でエアバッグが多く展開及び膨張しても、その部分は、エアバッグの他の部分よりも乗員拘束に対する寄与が低い。しかし、上記のように後方へ突出したドア本体部によって、エアバッグの後方への展開及び膨張が規制される。エアバッグが上記領域の後方へ必要以上に展開及び膨張することが抑制される。その分、エアバッグのうち、乗員拘束に対する寄与の高い部分を展開及び膨張させて、乗員拘束性能を高めることが可能となる。
【0014】
さらに、ドア本体部は面状に突出する。そのため、エアバッグによる乗員拘束の終盤に乗員がドア本体部と接触しても、接触面積が広く、接触により乗員に及ぶ影響が抑制される。
【0015】
上記自動車用エアバッグドアにおいて、前記周囲部のうち、前記ドア本体部に対し下方に隣接する箇所を下隣接部とした場合、前記ドア本体部は、前記周囲部から後方へ突出することにより、前記ドア本体部の下端部と前記下隣接部との間に下開口部を形成するように構成されていることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、後方へ押されたドア本体部が、周囲部から後方へ突出すると、上記領域の開放及び上記上開口部の形成に加え、ドア本体部の下端部と、周囲部の下隣接部との間に下開口部が形成される。そのため、エアバッグは、膨張初期には、上記のように上開口部を通って早期に上方へ展開するとともに、下開口部を通って早期に下方へも展開する。引き続き展開及び膨張するエアバッグによって、乗員の上半身に加え膝部が受け止められて拘束される。
【0017】
上記自動車用エアバッグドアにおいて、前記ドア本体部は可撓性を有しており、前記エアバッグ装置は、前記エアバッグを収容するケースを備え、前記自動車の車幅方向における前記ドア本体部の両側部にはそれぞれスライド部が設けられ、前記周囲部又は前記ケースのうち、各スライド部の前方には、それぞれ被スライド部が設けられ、各スライド部は、対応する前記被スライド部に対し、前記車幅方向にスライド可能に取付けられており、前記ドア本体部は、後方へ押されたときには、前記車幅方向における中央部に近づくに従い前記周囲部から多く突出するように湾曲した曲面状に撓むように構成されていることが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、ドア本体部における各スライド部は、周囲部又はケースにおける被スライド部に対し車幅方向へスライド可能である。また、ドア本体部は可撓性を有していて、車幅方向に撓むことが可能である。
【0019】
従って、エアバッグが展開及び膨張するときに、ドア本体部が後方へ押されて、両スライド部が車幅方向に互いに接近することで、ドア本体部は、車幅方向における中央部に近づくに従い周囲部から多く突出するように湾曲した曲面状に撓む。ドア本体部の上記突出に伴い、上記領域が開放される。また、ドア本体部の上端部と上隣接部との間に上開口部が形成される。
【0020】
また、ドア本体部は可撓性を有しているため、これに乗員が接触したときに撓みやすい。従って、乗員がドア本体部との接触により受ける影響がさらに抑制されやすい。
また、車幅方向におけるドア本体部の両側部が車幅方向にスライド可能であるため、ドア本体部が同方向に撓みやすい。従って、ドア本体部の上端部と上隣接部との間に上開口部が形成されやすい。
【0021】
上記自動車用エアバッグドアにおいて、前記領域に対し前後方向にスライド可能に挿通され、かつ自身の後部の少なくとも上端部が開放されたフレーム部を備え、前記フレーム部は、前記自動車の車幅方向における両側部を構成する一対の側壁部と、両側壁部の後端部同士を連結する後壁部とを備え、前記後壁部が前記ドア本体部により構成され、前記フレーム部が前記構成部分の1つとされる自動車用エアバッグドアであり、前記フレーム部は、前記エアバッグが展開及び膨張する前には、前記領域を前記ドア本体部で塞ぎ、前記エアバッグが展開及び膨張するときには後方へ押されて、前記ドア本体部を、両側壁部の後部と一緒に前記周囲部から後方へ突出させて、前記領域を開放するとともに前記上開口部を形成するように構成されていることが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、後壁部がドア本体部によって構成されたフレーム部は、上記領域に対し前後方向へスライド可能である。
ドア本体部は、エアバッグが展開及び膨張する前には上記領域を塞ぐ。これに対し、エアバッグが展開及び膨張すると、フレーム部が後方へ押される。ドア本体部は、直接又はフレーム部の他の箇所を介して間接に押される。フレーム部は、上記のように押されることで、後方へスライドする。このスライドにより、ドア本体部は、フレーム部の両側壁部の後部と一緒に周囲部から後方へ突出して、上記領域を開放する。また、上記突出に伴い、ドア本体部の上端部と上隣接部との間に上開口部が形成される。そのため、エアバッグは、膨張初期には、上開口部を通って早期に上方へ展開する。引き続き展開及び膨張するエアバッグによって、乗員の上半身が受け止められて拘束される。
【0023】
また、ドア本体部は、周囲部から突出するときに変形しにくい。そのため、ドア本体部の乗員との接触面積が広く維持されやすく、乗員がドア本体部との接触により受ける影響が効果的に抑制される。
【0024】
さらに、フレーム部が形状を保ちながら後方へスライドして上開口部が形成されるため、上開口部の形状のばらつきが少なく、展開及び膨張を完了したときのエアバッグの形状が安定しやすい。
【発明の効果】
【0025】
上記自動車用エアバッグドアによれば、エアバッグを膨張初期に早期に上方へ展開させ、エアバッグのうち、乗員拘束に対する寄与の低い部分の後方への展開及び膨張を抑制し、さらに、ドア本体部との接触により乗員に及ぼす影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】第1実施形態における自動車用エアバッグドアが適用されたインストルメントパネルを、その周辺箇所とともに示す概略側断面図である。
図2図1におけるインストルメントパネルの部分正面図である。
図3図1におけるエアバッグ装置及び自動車用エアバッグドアの部分側断面図である。
図4図2における4-4線断面図である。
図5図2における5-5線断面図である。
図6図4におけるA部の拡大断面図である。
図7図5におけるB部の拡大断面図である。
図8図5に対応する図であり、エアバッグが展開及び膨張した状態の部分平断面図である。
図9図4に対応する図であり、エアバッグが展開及び膨張した状態の部分平断面図である。
図10】第2実施形態における自動車用エアバッグドアを、エアバッグが展開及び膨張する前のエアバッグ装置とともに示す概略平断面図である。
図11】第2実施形態における自動車用エアバッグドアを、エアバッグが展開及び膨張したエアバッグ装置とともに示す概略平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、自動車用エアバッグドアの第1実施形態について、図1図9を参照して説明する。
【0028】
なお、以下の記載においては、自動車の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は自動車の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって自動車の前進時の左右方向と一致するものとする。また、助手席には、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が、予め定められた正規の姿勢で着座し、シートベルト装置によって拘束されているものとする。
【0029】
図1及び図2に示すように、自動車10の室内において助手席80の前方には、インストルメントパネル13が配置されている。インストルメントパネル13よりも上方には、ウインドシールド11が、上部ほど後方に位置するように傾斜した状態で配置されている。
【0030】
インストルメントパネル13内の上部には、左右方向に延びるインパネリインホース12が配設されている。インパネリインホース12は、その両端部において自動車10のフロントフェンダ(図示略)に固定されている。
【0031】
インストルメントパネル13の後上部の内部であって、インパネリインホース12の後方であり、かつ助手席80の前方となる箇所には、同助手席80に着座している乗員P1を、前面衝突等の衝撃から保護するエアバッグ装置40が配置されている。エアバッグ装置40の構成については、後述する。
【0032】
インストルメントパネル13のうち、上記エアバッグ装置40の後方となる箇所はドア本体部21によって構成されている。ドア本体部21は、自動車用エアバッグドア20の構成部分の1つである。
【0033】
ドア本体部21は、可撓性を有する素材、例えば軟質の樹脂材料によって形成されている。該当する樹脂材料としては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)等が挙げられる。ドア本体部21は、インストルメントパネル13のうち、同ドア本体部21の周囲の形状に対応した形状、ここでは、後方へ膨らむように緩やかに湾曲した曲面状に形成されている。
【0034】
ここで、インストルメントパネル13のうち、ドア本体部21の周りの箇所を周囲部15という。また、周囲部15のうち、ドア本体部21に対し上方に隣接する箇所を上隣接部16といい、同ドア本体部21に対し下方に隣接する箇所を下隣接部17というものとする。インストルメントパネル13において周囲部15によって囲まれた領域14は、上記ドア本体部21によって閉塞及び開放される。
【0035】
図1に示すように、上記エアバッグ装置40は、ケース41、エアバッグ55及びインフレータ61を備えている。
図3及び図5に示すように、ケース41は、鋼板等の板材によって形成されており、収容部42及びフランジ44を備えている。収容部42は、前端部が前壁部43によって閉塞され、かつ後端部が開放された略四角形の箱状をなしている。フランジ44は、収容部42の後端部の外周囲に形成されている。ここで、フランジ44のうち、収容部42よりも左側に位置していて上下方向に延びる部分を縦長フランジ部45Lといい、同収容部42よりも右側に位置していて上下方向に延びる部分を縦長フランジ部45Rという。また、フランジ44のうち、収容部42よりも上側及び下側に位置していて、それぞれ左右方向に延びる部分を横長フランジ部47というものとする。
【0036】
ケース41は、車体側の強度の高い部材、例えば、上記インパネリインホース12(図1参照)に対し、図示しないブラケット等を介し締結されている。
エアバッグ55は、折り畳まれた状態で収容部42に収容されている。エアバッグ55は、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等によって形成されている。
【0037】
図1及び図2において二点鎖線で示すように、エアバッグ55は、上膨張部56、下膨張部57及び連結部58を備えている。上膨張部56は、一般的な助手席用エアバッグ装置のエアバッグと同様、インストルメントパネル13と乗員P1の上半身、特に、頭部PHから胸部PTにかけての領域との間で展開及び膨張し得る大きさを有している。下膨張部57は、一般的な膝保護用エアバッグ装置のエアバッグと同様、インストルメントパネル13と乗員P1の膝部PKとの間で展開及び膨張し得る大きさを有している。連結部58は、上膨張部56及び下膨張部57の間に配置されており、上膨張部56及び下膨張部57を連通させた状態で連結している。連結部58は、領域14の後方で展開及び膨張する。
【0038】
図3及び図5に示すように、インフレータ61は円盤状をなしており、ガス噴出部62を自身の後部に有している。ガス噴出部62は、収容部42内において、エアバッグ55の前端部の内部に配置されている。インフレータ61は、ガス噴出部62から膨張用ガスを噴出して、これをエアバッグ55内に供給する。
【0039】
インフレータ61のうち、ガス噴出部62よりも前方部分は、上記前壁部43に挿通されていて、ケース41から露出している。インフレータ61は、エアバッグ55の前端部とともに、上記前壁部43に締結されている。
【0040】
図2図5及び図7に示すように、上下方向におけるドア本体部21の中間部であって、同ドア本体部21の左側部にはスライド部22Lが設けられている。スライド部22Lは、取付突部23L及びスライドピン24Lを備えている。取付突部23Lは、ドア本体部21から前方へ突出している。スライドピン24Lは、円柱状をなすピン本体部25Lと、ピン本体部25Lの前端部に形成され、かつ同ピン本体部25Lよりも大径状の頭部26Lとを備えている。
【0041】
上下方向におけるドア本体部21の中間部であって、同ドア本体部21の右側部にはスライド部22Rが設けられている。スライド部22Rは、取付突部23R及びスライドピン24Rを備えている。取付突部23Rは、ドア本体部21から前方へ突出している。スライドピン24Rは、円柱状をなすピン本体部25Rと、ピン本体部25Rの前端部に形成され、かつ同ピン本体部25Rよりも大径状の頭部26Rとを備えている。
【0042】
これに対し、左側の縦長フランジ部45Lのうち、取付突部23Lの前方となる箇所には、被スライド部48Lが設けられている。被スライド部48Lは、左右方向へ延びる長孔49Lを有している。長孔49Lは、上記ピン本体部25Lの直径よりも大きく、かつ上記取付突部23L及び頭部26Lの直径よりも小さな幅を有している。
【0043】
上記ピン本体部25Lは、頭部26Lを縦長フランジ部45Lよりも前方に位置させた状態で、長孔49Lに対し前方から挿通され、上記取付突部23Lに結合されている。
ピン本体部25Lは、長孔49Lに沿って左右方向へスライド可能である。縦長フランジ部45Lは、頭部26Lと取付突部23Lとによって前後両側から挟み込まれている。頭部26Lは、縦長フランジ部45Lのうち、長孔49Lの周辺部分に対し前方から接触することで、ピン本体部25Lが長孔49Lから後方へ抜け出すのを規制する役割を担っている。
【0044】
上記と同様に、右側の縦長フランジ部45Rのうち、取付突部23Rの前方となる箇所には、被スライド部48Rが設けられている。被スライド部48Rは、右右方向へ延びる長孔49Rを有している。長孔49Rは、上記ピン本体部25Rの直径よりも大きく、かつ上記取付突部23R及び頭部26Rの直径よりも小さな幅を有している。
【0045】
上記ピン本体部25Rは、頭部26Rを縦長フランジ部45Rよりも前方に位置させた状態で、長孔49Rに対し前方から挿通され、上記取付突部23Rに結合されている。
ピン本体部25Rは、長孔49Rに沿って左右方向へスライド可能である。縦長フランジ部45Rは、頭部26Rと取付突部23Rとによって前後両側から挟み込まれている。頭部26Rは、縦長フランジ部45Rのうち、長孔49Rの周辺部分に対し前方から接触することで、ピン本体部25Rが長孔49Rから後方へ抜け出すのを規制する役割を担っている。
【0046】
このようにして、各スライド部22L,22Rは、対応する被スライド部48L,48Rに対し、左右方向にスライド可能に取付けられている。
図2図4及び図6に示すように、ドア本体部21の上端部であって、左右方向における複数箇所には、それぞれクリップ31が設けられている。各クリップ31は、基部32、軸部33及び係止部34を備えている。基部32は、ドア本体部21から前方へ突出している。軸部33は円柱状をなし、基部32から前方へ突出している。係止部34は、軸部33よりも大径状をなし、同軸部33の前端部に形成されている。なお、図示はしないが、ドア本体部21の下端部であって、左右方向における複数箇所にも、上記と同様のクリップ31が設けられている。
【0047】
これに対し、上側の横長フランジ部47のうち、各基部32の前方となる箇所には、それぞれ被係止部51が設けられている。各被係止部51は、前後方向に延びる貫通孔52を有している。各貫通孔52は、上記軸部33の直径よりも大きく、かつ上記基部32及び係止部34の各直径よりも小さな孔径を有している。なお、図示はしないが、下側の横長フランジ部47のうち、各基部32の前方となる箇所にも、上記と同様の貫通孔52を有する被係止部51が設けられている。
【0048】
クリップ31毎の軸部33は、対応する貫通孔52に対し、後方から挿通されている。クリップ31毎の係止部34の一部は、被係止部51よりも前方に位置している。
そして、上述したドア本体部21を主要部とし、これに対し、スライド部22L,22R、クリップ31等の付随する部分が加わったものによって、第1実施形態の自動車用エアバッグドア20が構成されている。
【0049】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
<エアバッグ装置40の非作動時>
図3図5に示すように、自動車10に対し前方から衝撃が加わらないときには、インフレータ61のガス噴出部62から膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ55は折り畳まれた状態に保持され続ける。また、左側のピン本体部25Lは長孔49Lの左端部に位置し、右側のピン本体部25Rは長孔49Rの右端部に位置している。左右の両ピン本体部25L,25Rの間隔は、取り得る最大となっている。ドア本体部21は領域14を塞いでいる。
【0050】
(1A-1)このときには、各クリップ31が、対応する被係止部51に係止され続ける。すなわち、各クリップ31は、軸部33と係止部34とが繋がった状態を維持する。クリップ31毎の係止部34の一部は、貫通孔52よりも前側に位置している。各係止部34の被係止部51との接触により、ドア本体部21が後方へ動く(撓む)ことが規制される。そのため、ドア本体部21を、領域14を塞いだ状態に保持することができる。従って、自動車用エアバッグドア20ひいてはインストルメントパネル13の外観の向上を図ることができる。
【0051】
<エアバッグ装置40の作動時>
自動車10に対し、前面衝突等により、前方から衝撃が加わると、助手席80に着座している乗員P1は慣性により前方へ移動しようとする。
【0052】
一方、上記衝撃に応じ、インフレータ61から膨張用ガスが噴出され、エアバッグ55に供給される。膨張用ガスが供給されたエアバッグ55は、折り状態を解消(展開)しながら膨張する。
【0053】
ここで、図5及び図7に示すように、左側のピン本体部25Lは、長孔49Lの左端部に位置していて、同長孔49Lに沿って右方へスライドすることが可能である。右側のピン本体部25Rは、長孔49Rの右端部に位置していて、同長孔49Rに沿って左方へスライドすることが可能である。また、ドア本体部21は可撓性を有していて、撓むことが可能である。
【0054】
従って、図9に示すように、展開及び膨張するエアバッグ55によってドア本体部21が後方へ押されると、ドア本体部21に繋がっている各クリップ31に対し、後方へ向かう力が加わる。上述したように、各係止部34は、対応する被係止部51に接触していて、後方への移動を規制されている。そのため、各クリップ31では軸部33と係止部34とが分断され、同軸部33が貫通孔52から抜け出す。このようにして、各クリップ31が、対応する被係止部51から外れる。そのため、ドア本体部21が撓んで周囲部15から突出することが可能となる。
【0055】
また、図8に示すように、左側のピン本体部25Lが長孔49Lに沿って右方へスライドし、右側のピン本体部25Rが長孔49Rに沿って左方へスライドする。これらのスライドにより、左右の両ピン本体部25L,25Rが互いに接近する。
【0056】
スライド部22L,22Rの被スライド部48L,48Rに対する上記スライドにより、ドア本体部21は、左右方向における中央部に近づくに従い周囲部15から後方へ多く突出するように湾曲した曲面状に撓む。
【0057】
ドア本体部21の上記突出に伴い、領域14が開放される。図1において二点鎖線で示すエアバッグ55は、一部をインストルメントパネル13の内部に残した状態で、上記領域14を通って、インストルメントパネル13の外部であって、周囲部15とドア本体部21との間に出る。ドア本体部21は、エアバッグ55のうち、連結部58が上記領域14から後方へ多く展開及び膨張するのを規制しようとする。
【0058】
また、上記突出に伴い、ドア本体部21の上端部と上隣接部16との間に上開口部63が形成される。エアバッグ55の上膨張部56は、上記上開口部63を通って上方へ展開及び膨張する。上膨張部56は、引き続きインストルメントパネル13の上部とウインドシールド11との間で展開及び膨張する。この上膨張部56によって、乗員P1の上半身が受け止められて拘束される。
【0059】
また、上記突出に伴い、ドア本体部21の下端部と下隣接部17との間に下開口部64が形成される。エアバッグ55の下膨張部57は、上記下開口部64を通って下方へ展開及び膨張する。引き続き展開及び膨張する下膨張部57によって、乗員P1の膝部PKが受け止められて拘束される。
【0060】
このように、1つのエアバッグ装置40でありながら、助手席用エアバッグ装置及び膝保護用エアバッグ装置と同様の乗員保護性能が発揮される。
なお、ケース41が、展開及び膨張するエアバッグ55から後方へ向かう反力を受けても、その反力は、ブラケットを介してインパネリインホース12によって受け止められる。
【0061】
(1B-1)図1に示すように、第1実施形態では、エアバッグ55の膨張初期にドア本体部21を周囲部15から後方へ突出させることで、ドア本体部21の上端部と上隣接部16との間に上開口部63を形成している。また、ドア本体部21の下端部と下隣接部17との間に、下開口部64を形成している。
【0062】
そのため、エアバッグ55の膨張初期には、上膨張部56を、上開口部63から上方へ早期に展開させることができ、また、下膨張部57を、下開口部64から下方へ早期に展開させることができる。
【0063】
(1B-2)図5及び図8に示すように、第1実施形態では、ドア本体部21にスライド部22L,22Rが設けられ、ケース41に被スライド部48L,48Rが設けられていて、ドア本体部21の左右方向の両側部が同方向にスライド可能である。そのため、上記両側部が固定されていてスライドできない場合に比べ、ドア本体部21を左右方向に撓みやすくすることができる。また、同様の理由により、上開口部63及び下開口部64をともに形成しやすくすることができる。
【0064】
(1B-3)また、長孔49L,49R毎の上下の両壁面がピン本体部25L,25Rに接触することにより、ピン本体部25L,25Rの移動方向が、左右方向に制限される。そのため、ドア本体部21に対し、後方へ向かう力が加えられた場合、ドア本体部21を、左右方向における中央部に近づくに従い周囲部15から多く突出するように湾曲しやすくすることができる。
【0065】
(1B-4)仮に、連結部58が領域14の後方で多く展開及び膨張しても、その連結部58は、エアバッグ55の他の部分よりも乗員拘束に対する寄与が低い。連結部58は、乗員P1のうち、上膨張部56が主に保護する頭部PHや胸部PTとは異なる部位である腹部PB等の前方で展開及び膨張するからである。
【0066】
しかし、上記のように後方へ突出したドア本体部21によって、連結部58の後方への展開及び膨張が規制される。連結部58が後方へ必要以上に展開及び膨張するのを抑制できる。その分、エアバッグ55のうち、乗員拘束に対する寄与の高い部分である上膨張部56及び下膨張部57を展開及び膨張させて、乗員拘束性能を高めることができる。
【0067】
(1B-5)さらに、図8及び図9に示すように、ドア本体部21は面状に突出する。そのため、エアバッグ55による乗員拘束の終盤に乗員P1がドア本体部21と接触しても、接触面積が広く、ドア本体部21との接触により乗員P1に及ぶ影響を抑制できる。
【0068】
(1B-6)特に、ドア本体部21は軟質樹脂材料によって形成されていて可撓性を有している。そのため、ドア本体部21は、これに乗員P1が接触したときに撓みやすい。従って、乗員P1がドア本体部21との接触により受ける影響がさらに抑制されやすい。
【0069】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
(1Cー1)図1に示すように、第1実施形態では、エアバッグ55は、上膨張部56、連結部58及び下膨張部57を備える構成を採っていて、1つのインフレータ61によってこのエアバッグ55を展開及び膨張させている。
【0070】
そのため、一般的な助手席用エアバッグ装置、及び一般的な膝保護用エアバッグ装置の両者をインストルメントパネル13に組込む場合よりも、エアバッグ装置40をコンパクトにすることができる。エアバッグ装置40をインストルメントパネル13に組込むために必要なスペースが小さくてすむ。
【0071】
また、第1実施形態では、インストルメントパネル13の内部であって、インパネリインホース12の後方にエアバッグ装置40の一部が配置される。そのため、エアバッグ装置40がインパネリインホース12よりも上方に配置された場合よりも、インストルメントパネル13の上下方向の寸法を小さくすることが可能となる。
【0072】
(1C-2)図1に示すように、第1実施形態では、展開及び膨張するエアバッグ55によってドア本体部21が押される。表現を変えると、第1実施形態ではエアバッグ55が展開及び膨張するエネルギーを利用して、ドア本体部21を押すようにしている。そのため、エアバッグ55の展開及び膨張に連動してドア本体部21を押し開かせるアクチュエータを別途設けなくてもすむ。
【0073】
(第2実施形態)
次に、自動車用エアバッグドアの第2実施形態について、図10及び図11を参照して説明する。なお、図10及び図11では、エアバッグ装置40が簡略化して図示されている。また、インストルメントパネル13において、自動車用エアバッグドア70の周りの構成については、第1実施形態と同様であるため、図示が省略されている。
【0074】
第2実施形態は、自動車用エアバッグドア70のドア本体部73が変形することなく後方へ移動することによって上開口部63及び下開口部64が形成される。この点で、第2実施形態は、ドア本体部21が撓むことで上開口部63及び下開口部64が形成される第1実施形態と異なっている。
【0075】
次に、第2実施形態の自動車用エアバッグドア70について、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
インストルメントパネル13は、上記領域14に前後方向にスライド可能に挿通されたフレーム部71を備えている。フレーム部71は、自動車用エアバッグドア70の構成部分の1つである。フレーム部71は、左右方向に互いに離間した状態で前後方向に延びる一対の側壁部72と、左右方向へ延びて、両側壁部72の後端部同士を連結する後壁部とを備えている。フレーム部71の前端部、上端部及び下端部はそれぞれ開放されている。
【0076】
第2実施形態におけるドア本体部73は、第1実施形態のドア本体部21よりも硬質の材料、例えば金属によって形成されている。このドア本体部73によって、フレーム部71の上記後壁部が構成されている。なお、ドア本体部73は硬質の樹脂材料によって形成されてもよい。
【0077】
フレーム部71のうち、ドア本体部73とは異なる箇所もまた、ドア本体部73と同様、硬質の材料によって形成されている。フレーム部71は、図10に示すように、ドア本体部73が領域14を塞ぐ閉塞位置と、図11に示すように、ドア本体部73が周囲部15から後方へ突出して領域14を開放する開放位置との間で前後方向へスライド可能である。
【0078】
一方、周囲部15の左右の両側部であって、各側壁部72に対し隣接する箇所からは、フレーム部71のスライドをガイドするガイド壁部74がそれぞれ前方へ延びている。
各側壁部72と、その側壁部72の隣のガイド壁部74とには、フレーム部71が上記開放位置(図11参照)よりも後方へスライドするのを規制する規制機構部75が設けられている。規制機構部75は、各ガイド壁部74に設けられた規制部76と、各側壁部72のうち規制部76よりも前方に設けられたストッパ77とを備えている。第2実施形態では、規制部76はガイド壁部74の前端部によって構成され、ストッパ77は側壁部72の前端部に設けられている。両ストッパ77は、側壁部72の前端部から左右方向における外方、すなわち、互いに遠ざかる方向へ突出している。上記開放位置(図11参照)では、各ストッパ77が、対応する規制部76に対し前方から接触するか、又は前方に接近した箇所に位置する。
【0079】
さらに、ドア本体部73よりも後方には、同ドア本体部73の後面よりも大きな面積を有する加飾フィルム78が、同後面を覆った状態で配置されている。加飾フィルム78は、ドア本体部73の後面に対し、接着等によって固定されてもよいし、固定されなくてもよい。加飾フィルム78の少なくとも左右両方向の側部79は、インストルメントパネル13のうち、同方向における領域14よりも外方に固定されている。
【0080】
そして、上述したドア本体部73を自身の後壁部として有するフレーム部71を主要部とし、これに対し、ストッパ77、加飾フィルム78等の付随する部分が加わったものによって、第2実施形態の自動車用エアバッグドア70が構成されている。
【0081】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において、第1実施形態で説明したものと同様の要素、例えば、エアバッグ装置40等については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0082】
次に、上記のように構成された第2実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
第2実施形態では、後壁部がドア本体部73によって構成されたフレーム部71は、領域14に対し前後方向へスライド可能である。
【0083】
<エアバッグ装置40の非作動時>
図10に示すように、自動車10に対し前方から衝撃が加わらないときには、インフレータ61から膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ55は折り畳まれた状態に保持され続ける。
【0084】
また、ドア本体部73は閉塞位置に位置し、領域14を塞いでいる。各ストッパ77は、対応する規制部76から前方へ大きく離れている。
(2A-1)このとき、ドア本体部73の後面と、少なくとも周囲部15の後面とが加飾フィルム78によって覆われている。ドア本体部73と周囲部15との境界部分も加飾フィルム78によって覆われている。そのため、インストルメントパネル13において、ドア本体部73及び周囲部15の外観向上を図ることができる。
【0085】
(2A-2)また、閉塞位置に位置するドア本体部73と周囲部15との間には、段差が生じていないか、生じていたとしても僅かである。そのため、加飾フィルム78に段差が生じにくく、インストルメントパネル13の外観のさらなる向上を図ることができる。
【0086】
<エアバッグ装置40の作動時>
図1において、自動車10に対し、前面衝突等により、前方から衝撃が加わると、助手席80に着座している乗員P1は慣性により前方へ移動しようとする。
【0087】
一方、上記衝撃に応じ、インフレータ61から膨張用ガスが噴出され、エアバッグ55に供給される。膨張用ガスが供給されたエアバッグ55は、展開しながら膨張する。
ここで、ドア本体部73を含め、フレーム部71の全体が硬質の材料によって形成されている。そのため、展開及び膨張するエアバッグ55によって、フレーム部71の例えばドア本体部73が後方へ押されると、フレーム部71の全体が、形状を保ちながら後方へスライドする。ドア本体部73は、加飾フィルム78を伸ばしながら、フレーム部71の両側壁部72の後部と一緒に周囲部15から後方へ突出して、領域14を開放する。
【0088】
図11に示すように、フレーム部71が開放位置までスライドすると、ストッパ77が規制部76に当接する。この当接により、フレーム部71がその開放位置よりも後方へ移動することが規制される。
【0089】
エアバッグ55は、一部をインストルメントパネル13の内部に残した状態で、上記領域14を通って、インストルメントパネル13の外部であって、周囲部15とドア本体部73との間に出る。
【0090】
また、上記突出に伴い、ドア本体部73の上端部と上隣接部16との間に上開口部63が形成される。エアバッグ55の上膨張部56は、上記上開口部63を通って上方へ展開及び膨張する。そして、引き続き展開及び膨張する上膨張部56によって、乗員P1の上半身が受け止められて拘束される。
【0091】
また、上記突出に伴い、ドア本体部73の下端部と下隣接部17との間に下開口部64が形成される。エアバッグ55の下膨張部57は、上記下開口部64を通って下方へ展開及び膨張する。引き続き展開及び膨張する下膨張部57によって、乗員P1の膝部PKが受け止められて拘束される。
【0092】
従って、エアバッグ装置40の作動時には、上記(1B-1),(1B-4),(1B-5)と同様の効果が得られるほか、次の効果が得られる。
(2B-1)第2実施形態では、フレーム部71における両側壁部72がともに前後方向に延び、後壁部を構成するドア本体部73が左右方向に延びている。両側壁部72の後部とドア本体部73とによって、矩形の上開口部63と、矩形の下開口部64が形成される。そのため、ドア本体部21が撓むことによって上開口部63及び下開口部64が形成される第1実施形態よりも大きな上開口部63及び下開口部64を簡単に形成することができる。
【0093】
(2B-2)第2実施形態では、フレーム部71が後方へスライドして上開口部63及び下開口部64が形成される。そのため、ドア本体部21が撓んで上開口部63及び下開口部64が形成される第1実施形態に比べて、上開口部63及び下開口部64の形状のばらつきが少ない。従って、展開及び膨張を完了したときのエアバッグ55の形状を安定させることができる。
【0094】
(2B-3)第2実施形態では、エアバッグ装置40の作動時にドア本体部73が変形しにくい。そのため、ドア本体部73の乗員P1との接触面積が広く維持されやすい。乗員P1がドア本体部73との接触により受ける影響を効果的に抑制することができる。
【0095】
(2B-4)第2実施形態では、ストッパ77の規制部76との接触により、ドア本体部73が適正位置よりも後方へ移動するのを規制できる。その結果、ドア本体部73は、連結部58が領域14よりも後方へ必要以上に展開及び膨張するのを抑制する効果を発揮しやすくなる。
【0096】
さらに、第2実施形態によれば、第1実施形態における(1Cー1),(1C-2)と同様の効果が得られる。
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0097】
<第1及び第2実施形態に共通する事項>
・エアバッグ55における下膨張部57及び連結部58が適宜省略されてもよい。
<第1実施形態に関する事項>
・被スライド部48L,48Rが、ケース41に代えて周囲部15に設けられてもよい。
【0098】
・ドア本体部21の左右両側部におけるスライド部22L,22Rの組み合わせが、ドア本体部21の上下方向の中間部であることを条件に、同上下方向における複数箇所に設けられてもよい。
【0099】
この場合には、被スライド部48L,48Rの組み合わせが、縦長フランジ部45L,45Rのうち、スライド部22L,22Rに対応する複数箇所に設けられる。
・ドア本体部21の上部及び下部におけるクリップ31の数及び位置が第1実施形態とは異なる数及び位置に変更されてもよい。
【0100】
この場合には、上下の横長フランジ部47における被係止部51の数及び位置が、クリップ31に対応した数及び位置に変更される。
・エアバッグ55の折り畳み方を工夫することで、上開口部63から上膨張部56が上方へ展開した後に、同上膨張部56を斜め後方へ展開させるようにしてもよい。
【0101】
・エアバッグ装置40の作動前に、ドア本体部21が周囲部15に対し、ティアライン(破断予定部)を介して繋がっていてもよい。この段階では、領域14がドア本体部21によって塞がれる。
【0102】
エアバッグ装置40の作動時にドア本体部21に対し後方へ向かう力が加えられることで、ティアラインが開裂される。この開裂により、ドア本体部21が周囲部15から分離される。ドア本体部21が周囲部15よりも後方へ突出することにより、領域14が開放される。
【0103】
上記のように、ドア本体部21が周囲部15に繋がっているため、第1実施形態とは異なり、クリップ31及び被係止部51が不要となる。ただし、ドア本体部21を撓ませるために、この変形例でも、スライド部22L,22R及び被スライド部48L,48Rは第1実施形態と同様に設けられる。
【0104】
・ドア本体部21が後方へ向かう力を受けたときに、クリップ31が破断される構成に代えて、係止部34が軸部33と一緒に被係止部51の貫通孔52から抜け出る構成に変更されてもよい。
【0105】
<第2実施形態に関する事項>
・インストルメントパネル13に表皮が貼られている場合、その表皮はドア本体部73の後面に貼付けられてもよい。このようにすると、周囲部15及びドア本体部73は、表皮を介して繋がった状態となる。この場合、表皮は加飾フィルム78に代わるものとして用いられる。この段階では、領域14はドア本体部73によって塞がれる。
【0106】
このようにすると、エアバッグ装置40の作動前には表皮によってドア本体部21を隠し、インストルメントパネル13の外観向上を図ることができる。
また、エアバッグ55が展開及び膨張する際にフレーム部71が後方へ押されたときに、表皮のうち、ドア本体部21の周囲の部分が後方へ押されて破断されるようにしてもよい。この破断後も、フレーム部71が後方へスライドされることにより、領域14が開放される。上隣接部16とドア本体部73の上端部との間に上開口部63が形成される。また、下隣接部17とドア本体部73の下端部との間に下開口部64が形成される。
【0107】
・フレーム部71のスライドが、エアバッグ55とは異なるアクチュエータによって行なわれてもよい。この際、フレーム部71は、ドア本体部73において押されてもよいし、ドア本体部73とは異なる箇所において押されてもよい。表現を変えると、ドア本体部73は、アクチュエータによって直接押されてもよいし、フレーム部71のドア本体部73とは異なる箇所を介して間接に押されてもよい。
【0108】
上記いずれの場合でも、エアバッグ55の展開及び膨張に合わせてアクチュエータを作動させて、フレーム部71を閉塞位置から開放位置までスライドさせる。ストッパ77及び規制部76は省略可能である。
【0109】
・フレーム部71の形状が変更されてもよい。
例えば、フレーム部71の上端部は、少なくとも後部であって上開口部63を形成する箇所が開放されていればよい。従って、第2実施形態のように、フレーム部71の上端部の全体が開放されてもよいが、後部のみが開放されてもよい。
【0110】
同様に、フレーム部71の下端部は、少なくとも後部であって下開口部64を形成する箇所が開放されていればよい。従って、第2実施形態のように、フレーム部71の下端部の全体が開放されてもよいが、後部のみが開放されてもよい。
【0111】
・エアバッグ55が下膨張部57及び連結部58を有しない場合、フレーム部71の下端部が閉塞されてもよい。この場合、フレーム部71が周囲部15から突出したときに、上開口部63のみが形成されることになる。
【0112】
・フレーム部71が後方へスライドしたときに、加飾フィルム78がドア本体部73によって押されて破断される仕様に変更されてもよい。
・加飾フィルム78が適宜省略されてもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…自動車
13…インストルメントパネル
14…領域
15…周囲部
16…上隣接部
17…下隣接部
20,70…自動車用エアバッグドア
21,73…ドア本体部
22L,22R…スライド部
40…エアバッグ装置
41…ケース
48L,48R…被スライド部
55…エアバッグ
63…上開口部
64…下開口部
71…フレーム部
72…側壁部
80…助手席
図1
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図3
図4
図5
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図10
図11