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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007835
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】揚重装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 3/14 20060101AFI20230112BHJP
   E04H 3/22 20060101ALI20230112BHJP
   E04B 1/343 20060101ALI20230112BHJP
   A63K 3/00 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
E04H3/14 C
E04H3/14 D
E04H3/22
E04B1/343 102
A63K3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110932
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】517064843
【氏名又は名称】河野 久米彦
(71)【出願人】
【識別番号】502410196
【氏名又は名称】株式会社 横河システム建築
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 久米彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】朱 大立
(72)【発明者】
【氏名】村岡 真
(72)【発明者】
【氏名】今井 卓司
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 峰義
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち、吊ロープトを利用して吊荷を昇降させるとともに、上昇した吊荷や床面上に載置された吊荷から吊ロープを取り外すことができる揚重装置を提供することである。
【解決手段】本願発明の揚重装置は、基礎床面上に載置される吊荷を昇降させる装置であって、天井体と天井滑車、吊ロープ、吊ロープ昇降手段、吊荷支持手段を備えたものである。天井体まで上昇した吊荷を吊荷支持手段によって支持することによって、吊荷と吊ロープとの連結解除が可能となる。また、昇降手段が吊ロープを降下させることによって、吊ロープに連結された吊荷を降下させることができ、吊荷が基礎床面上に載置されると吊荷と吊ロープとの連結解除が可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎床面上に載置される吊荷を、上昇させるとともに降下させる装置であって、
前記基礎床面よりも高い位置に設置された天井体と、
前記天井体に取り付けられ、鉛直又は略鉛直面内で回転可能な天井滑車と、
前記天井滑車に掛け回されて垂下する吊ロープと、
前記吊ロープを昇降させる吊ロープ昇降手段と、
前記吊荷を支持可能な吊荷支持手段と、を備え、
垂下した前記吊ロープの下端に取り付けられた係止具を、前記吊荷の被係止具に係止することによって、該吊ロープと該吊荷が連結され、
前記昇降手段は、前記吊ロープを引き上げることによって、該吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を前記吊荷支持手段によって支持することによって、該吊荷と前記吊ロープとの連結解除が可能であり、
前記昇降手段は、前記吊ロープを降下させることによって、前記吊ロープに連結された前記吊荷を降下させ、
前記吊荷が前記基礎床面上に載置されると、該吊荷と前記吊ロープとの連結解除が可能である、
ことを特徴とする揚重装置。
【請求項2】
前記被係止具は、前記吊荷の側面から側方に突出した突起体であり、
前記天井滑車は、鉛直面内を斜方向に移動可能であり、
上方かつ前記吊荷側に前記天井滑車を移動することによって、前記係止具が前記被係止具の下方に当接して該係止具が該被係止具に係止される、
ことを特徴とする請求項1記載の揚重装置。
【請求項3】
前記天井体には、水平な軸である主軸に沿って複数の前記天井滑車が取り付けられるとともに、それぞれの該天井滑車には、前記吊ロープが掛け回され、
前記被係止具は、前記吊荷の前記側面に沿って一連で設けられるとともに、複数個所に切欠きが形成された櫛状であり、
前記係止具は、複数の前記吊ロープの下端に取り付けられ、前記主軸方向に配置される棒状又は柱状であり、
前記側面が前記主軸方向となるように載置された前記吊荷の前記切欠き内に、それぞれの前記吊ロープが配置された状態で、前記係止具を前記被係止具の下方に当接することによって該係止具と該被係止具が係止される、
ことを特徴とする請求項2記載の揚重装置。
【請求項4】
前記吊荷は、左側面と右側面を有する板状又は函体状であり、
前記天井体は、同一又は略同一の高さに配置される左天井体と右天井体とを含んで構成され、
前記天井滑車は、前記左天井体に取り付けられる左天井滑車と、前記右天井体に取り付けられる右天井滑車と、を含んで構成され、
前記吊ロープは、前左天井滑車に掛け回される左吊ロープと、前右天井滑車に掛け回される右吊ロープと、を含んで構成され、
前記吊ロープ昇降手段は、前記左吊ロープを昇降させる左吊ロープ昇降手段と、前記右吊ロープを昇降させる右吊ロープ昇降手段と、を含んで構成され、
前記吊荷支持手段は、左吊荷支持手段と、右吊荷支持手段と、を含んで構成され、
前記吊荷は、前記左天井滑車から垂下する前記左吊ロープと前記右天井滑車から垂下する前記右吊ロープとの間であって、前記左側面が前記主軸方向となるように前記左吊ロープ側に配置されるとともに、前記右側面が該主軸方向となるように前記右吊ロープ側に配置されるように、前記基礎床面上に載置され、
前記吊荷の前記左側面に設けられた前記被係止具に前記左吊ロープの前記係止具を係止するとともに、前記吊荷の前記右側面に設けられた前記被係止具に前記右吊ロープの前記係止具を係止することによって、前記吊ロープと該吊荷が連結され、
前記左昇降手段が前記左吊ロープを引き上げるとともに、前記右昇降手段が前記右吊ロープを引き上げることによって、前記吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を、前記左吊荷支持手段と前記右吊荷支持手段が支持する、
ことを特徴とする請求項3記載の揚重装置。
【請求項5】
前記左吊荷支持手段と前記右吊荷支持手段によって支持された前記吊荷を、前記主軸方向にスライド移動させるスライド移動手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項4記載の揚重装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、吊荷を昇降させる揚重装置に関するものであり、より具体的には、吊ロープを用いて吊荷を昇降させるとともに、上昇した吊荷や地上に載置された吊荷から吊ロープを取り外すことができる揚重装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
競技場は、ある特定の競技を行うため、あるいはその競技を観戦させることを目的とする施設であり、野球場やサッカー場などはその代表的な例である。ところが、競技場で行われる競技の回数(例えば試合数)は一般的に年間を通じて数十回程度であり、そのため現状では年間を通じて安定的に収益を上げることは難しい。
【0003】
そこでスポーツ庁では、官民連携によるスタジアムやアリーナの整備計画策定に対して財政支援を行うこととしており、「稼げる」という視点を重視したうえでスポーツ以外のイベントも常時開催できる多機能型・複合型の施設の整備を推し進めている。そして、「稼げる」を重視した多機能型・複合型のスタジアムやアリーナを2025年までに全国的に整備する目標を掲げている。
【0004】
野球とサッカー、そしてコンサートなどに使用することができる多目的競技場は、1年を通じて定常的に集客機会が得られることから収益面にとっては極めて好適であり、これまでにも多目的競技場に関する様々な提案が行われてきた。例えば特許文献1では、フィールドの周囲に設置された外壁のうち一部の外壁を平面移動(スライド移動)することによってフィールドの広さ(面積)を可変とする多目的競技場について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-33721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される多目的競技場は、可動壁を平面移動することによって通常の競技用の空間よりも狭小な催事用空間を形成することができ、またフィールド全体を平面移動することによってその催事用空間からフィールドを取り除くことができる競技場である。これにより、本来の競技場としての用途であるサッカー等を実施することができるうえに、狭小な催事用空間を形成することで臨場感をもってコンサート等を開催することもでき、しかもフィールドを移動していることから天然芝の損傷を気にすることなく各種催事(イベント)を執り行うことができる。このように特許文献1に開示される発明は、極めて有効に多目的を達成することができるものであるが、可動壁を平面移動するため競技用の空間を維持したまま各種催事を執り行うことができないという問題を抱えていた。
【0007】
同じ空間を維持したまま競技と各種イベントを実施するためには、競技用のフィールド(例えば、芝生のフィールド)とイベント用の床(例えば、コンクリート床やフローリング床)を用意し、これらを2層構造とすることが考えられる。サッカー等を実施するときは競技用フィールドをグランドレベルに配置し、一方、コンサート等を開催するときは、この競技用フィールドを上方高く吊上げてイベント用床の利用を可能とするわけである。
【0008】
通常、競技用フィールドなど大きな重量の吊荷を昇降させる場合、ウィンチなどの昇降手段(以下、「昇降手段」という。)と吊ロープ(ワイヤーロープなど)が利用される。最も身近な例がエレベーターであり、滑車を介して吊ロープの一端がハッチ(乗降スペース)に固定され、昇降手段が吊ロープを巻き取ったり巻き下げたりすることによってハッチを昇降させるわけである。
【0009】
ところで、エレベーターをはじめ吊ロープを利用した従来の巻上機(揚重装置)は、この吊ロープと吊荷(例えば、エレベーターのハッチ)が常に連結された状態であって解除されることはなかった。したがって、従来どおり吊ロープを利用して競技用のフィールドを昇降させようとすると、吊ロープと競技用のフィールドは常に連結された状態となり、つまりグランドレベルに配置された競技用フィールドには上方から垂下する多数の吊ロープが連結した状態となり、競技を行う者にとっても観戦する者にとっても極めて不都合な状態となる。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち、吊ロープを利用して吊荷を昇降させるとともに、床面上に載置された吊荷から吊ロープを取り外すことができる揚重装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、吊ロープの下端に係止具を設けるとともに、吊荷に被係止具を設けることとし、これら係止具と被係止具を着脱自在に係止可能にするという点、上昇した吊荷を吊荷支持手段で支持することによって吊ロープと吊荷の連結解除を可能にするという点に着目して開発されたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の揚重装置は、基礎床面上に載置される吊荷を昇降させる装置であって、天井体と天井滑車、吊ロープ、吊ロープ昇降手段、吊荷支持手段を備えたものである。天井体は、基礎床面よりも高い位置に設置され、天井滑車は、略鉛直(鉛直を含む)面内で回転可能であり天井体に取り付けられる。吊ロープは、天井滑車に掛け回されて垂下し、吊ロープ昇降手段は、吊ロープを昇降させる手段であり、吊荷支持手段は、吊荷を支持することができる手段である。なお、垂下した吊ロープの下端に取り付けられた係止具を吊荷の被係止具に係止することによって吊ロープと吊荷が連結され、昇降手段が吊ロープを引き上げることによって吊ロープに連結された吊荷が上昇する。そして天井体まで上昇した吊荷を吊荷支持手段によって支持することで、吊荷と吊ロープとの連結解除が可能(吊荷と吊ロープとの連結を解除しても吊荷は落下しない状態)となる。また、昇降手段が吊ロープを降下させることによって、吊ロープに連結された吊荷を降下させることができ、吊荷が基礎床面上に載置されると吊荷と吊ロープとの連結解除が可能となる。
【0013】
本願発明の揚重装置は、被係止具を吊荷の側面から側方に突出した突起体としたものとすることもできる。この場合の天井滑車は、鉛直面内を斜方向に移動可能とされ、上方かつ吊荷側に天井滑車を移動することによって、係止具が被係止具の下方に当接して係止具が被係止具に係止される。
【0014】
本願発明の揚重装置は、主軸(水平軸)に沿って複数の天井滑車が天井体に取り付けられたものとすることもできる。なお、それぞれの天井滑車には吊ロープが掛け回される。この場合の被係止具は、吊荷の側面に沿って一連で設けられるとともに、複数個所に切欠きが形成された櫛状とされ、係止具は、複数の吊ロープの下端に取り付けられた棒状や柱状(ただし、主軸方向に配置)とされる。そして、側面が主軸方向となるように載置された吊荷の切欠き内にそれぞれの吊ロープが配置された状態で、係止具を被係止具の下方に当接することによって係止具と被係止具が係止される。
【0015】
本願発明の揚重装置は、天井体が略同一(同一を含む)の高さに配置される左天井体と右天井体とを含んで構成されたものとすることもできる。この場合の天井滑車は、左天井体に取り付けられる左天井滑車と右天井体に取り付けられる右天井滑車を含んで構成され、吊ロープは、天井滑車に掛け回される左吊ロープと右天井滑車に掛け回される右吊ロープを含んで構成され、吊ロープ昇降手段は、左吊ロープを昇降させる左吊ロープ昇降手段と右吊ロープを昇降させる右吊ロープ昇降手段を含んで構成され、吊荷支持手段は、左吊荷支持手段と右吊荷支持手段を含んで構成される。左天井滑車から垂下する左吊ロープと右天井滑車から垂下する右吊ロープとの間であって左側面が主軸方向かつ左吊ロープ側に配置されるとともに右側面が主軸方向かつ右吊ロープ側に配置されるように吊荷が基礎床面上に載置されると、吊荷の左側面に設けられた被係止具に左吊ロープの係止具を係止するとともに吊荷の右側面に設けられた被係止具に右吊ロープの係止具を係止することによって吊ロープと吊荷が連結される。そして、左昇降手段が左吊ロープを引き上げるとともに右昇降手段が右吊ロープを引き上げることによって、吊ロープに連結された吊荷が上昇し、天井体まで上昇した吊荷は左吊荷支持手段と右吊荷支持手段によって支持される。
【0016】
本願発明の揚重装置は、スライド移動手段をさらに備えたものとすることもできる。このスライド移動手段は、左吊荷支持手段と右吊荷支持手段によって支持された吊荷を主軸方向にスライド移動させる手段である。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の揚重装置には、次のような効果がある。
(1)例えば、サッカーや野球などの競技場に利用した場合、本来目的としている競技(サッカーや野球など)を行うことができるうえ、これら競技と同様の空間を維持したままコンサートなどの各種のイベントを執り行うことができる。すなわち、多様な用途に適用することができ、その結果、競技場の稼働率を高めることができる。
(2)床面上に載置された吊荷(例えば、フィールド)から吊ロープを取り外し、さらにその吊ロープを巻き上げることができ、すなわち吊荷周辺から吊ロープを取り除くことができることから、例えば競技場に利用した場合、通常どおり競技を行ことができ、好適に観戦することができる。
(3)上昇した吊荷を吊荷支持手段で支持することから、上方の吊荷を安全に支持することができる。また、吊荷から吊ロープを取り外すことによって、吊ロープに作用する緊張力を解除することができ、その結果、吊ロープの損傷が低減され長期にわたる使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本願発明の揚重装置の一例を模式的に示す断面図。
図2】本願発明の揚重装置の一例を模式的に示す平面図。
図3】(a)は吊荷の側面に沿った方向に見た鉛直断面図、(b)は(a)に示すA-A矢視方向に見た鉛直断面図。
図4】複数の吊ロープの下端に取り付けられた棒状の係止具を模式的に示す正面図。
図5】(a)は天井体内に収容された吊荷支持手段を模式的に示す鉛直断面図、(b)は天井体から引き出された吊荷支持手段を模式的に示す鉛直断面図。
図6】(a)は定常位置から斜め上方向に移動した天井滑車を模式的に示す鉛直断面図、(b)は定常位置から斜め下方向に移動した天井滑車を模式的に示す鉛直断面図。
図7】スライド移動手段によって主軸方向にスライド移動しているフィールドを上方から見た平面図。
図8】天井体付近で吊荷支持手段に支持されたフィールドを基礎床面まで降下させる主な手順の流れを示すフロー図。
図9】天井体付近で吊荷支持手段に支持されたフィールドを基礎床面まで降下させる主な手順を示すステップ図。
図10】基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順の流れを示すフロー図。
図11】基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明の揚重装置の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0020】
1.全体概要
本願発明の揚重装置は、屋外の地面や屋内の床面、あるいは競技場のグランドレベル面といった平面(以下、便宜上ここでは「基礎床面」という。)の上に置かれた吊荷を昇降させる(上昇させ、かつ降下させる)ものであり、天井体と天井滑車、吊ロープ、吊ロープ昇降手段、吊荷支持手段などを備える装置である。「天井体」は、基礎床面よりも高い位置に設置されるものであり、例えばコンクリートスラブや鋼製トラス構造など相当の作用荷重(特に、鉛直力や、鉛直力に伴う曲げモーメントなど)に抵抗し得る構造体である。
【0021】
天井体の側面や内部に設けられた空間には、略鉛直面(鉛直面を含む)内で回転可能な滑車(プーリー)である「天井滑車」が取り付けられ、「吊ロープ」はこの天井滑車に掛け回されて下方に垂下する。吊ロープとしては、吊荷の重量に応じて種々の材質のものを利用することができ、例えば吊荷の重量が大きいケースではワイヤーロープを採用するとよい。なお、天井滑車から垂下した吊ロープの下端にはフックや後述する棒状係止具などの「係止具」が取り付けられており、一方、吊荷にはアイボルトや後述する突起体などの「被係止具」が設けられている。そして、吊ロープ下端の係止具が吊荷の被係止具に係止されることによって、吊ロープと吊荷が連結される。
【0022】
「吊ロープ昇降手段」は、ウィンチやホイストといった荷揚げ用の装置であり、天井滑車と同様、天井体の側面や内部空間に設置される。また吊ロープ昇降手段は、吊ロープを巻き上げることで上昇させ、巻き下げる(巻き出す)ことで降下させることができ、すなわち吊ロープ下端の係止具や、吊ロープに連結された吊荷を昇降させることができる。吊ロープ昇降手段と天井滑車、吊ロープは、略同一(同一を含む)の鉛直面内に配置され、それぞれがいわば一組となって機能することから、吊ロープ昇降手段と天井滑車、吊ロープからなる一連の組み合わせのことを、便宜上ここでは「昇降体セット」ということとする。
【0023】
「吊荷支持手段」は、天井体の高さまで上昇した吊荷を支持するものであり、吊荷がその位置(天井体付近)から落下しないように支えるいわばストッパーである。例えば、吊荷支持手段を天井体から出し入れ可能(左右にスライド可能)な構造とし、天井体から引き出した吊荷支持手段を天井体の下面に配置したり、天井体の一部に挿入したりすることで、吊荷を支持することができる。なお吊荷支持手段は、他の手段を必要とすることなく、つまり単体で吊荷を支持することができ、したがって、吊荷が吊荷支持手段によって支持されると、吊ロープ下端の係止具と吊荷の被係止具の係止を解除しても吊荷はその位置で維持される(落下しない)。
【0024】
本願発明の揚重装置は、上記のような構成としたことで、基礎床面上に載置された吊荷を上昇させることができ、しかも天井体まで上昇した吊荷を支持することができる。具体的には、吊ロープ昇降手段が吊ロープを巻き下げることでロープ下端の係止具を降下させ、吊荷まで降下した係止具を被係止具に係止すると、今度は吊ロープ昇降手段が吊ロープを巻き上げることで吊ロープに連結された吊荷を上昇させ、天井体まで上昇した吊荷は吊荷支持手段によって支持され、これにより係止具と被係止具との係止が解除可能となる。
【0025】
2.揚重装置
図1は、本願発明の揚重装置100の一例を模式的に示す断面図(鉛直面で切断した図)であり、図2は、本願発明の揚重装置100の一例を模式的に示す平面図(上方から見た図)である。なお本願発明の揚重装置100は、あらゆる物を吊荷として利用することができるが、便宜上ここではサッカー競技場におけるサッカー用のフィールド200を吊荷とする例で説明することとする。
【0026】
フィールド200など比較的面積が大きく板状(あるいは函体状)の吊荷を対象とする場合、図1に示すように、本願発明の揚重装置100の各要素を吊荷の両側にそれぞれ配置するとよい。すなわち図1に示すように、天井体101が左天井体101Lと右天井体101Rを含む構成とし、同様に、天井滑車102が左天井滑車102Lと右天井滑車102Rを含み、吊ロープ103が左吊ロープ103Lと右吊ロープ103Rを含み、吊ロープ昇降手段104が左吊ロープ昇降手段104Lと右吊ロープ昇降手段104Rを含み、吊荷支持手段105が左吊荷支持手段105Lと右吊荷支持手段105Rを含み、係止具106が左係止具106Lと右係止具106Rを含む構成とする。そして、左天井体101Lと左天井滑車102L、左吊ロープ103L、左吊ロープ昇降手段104L、吊荷支持手段105L、左係止具106Lを板状(あるいは函体状)のフィールド200に形成された左側面201L側(図では左側)に配置するとともに、右天井体101Rと右天井滑車102R、右吊ロープ103R、右吊ロープ昇降手段104R、吊荷支持手段105R、右係止具106Rをフィールド200に形成された右側面201R側(図では右側)に配置する。なお、左天井体101Lと右天井体101Rは、略同一(同一を含む)の高さに配置される。
【0027】
フィールド200など比較的面積が大きく板状(あるいは函体状)の吊荷を対象とする場合、図2に示すように、複数の「昇降体セット(吊ロープ昇降手段と天井滑車、吊ロープからなる一連の組み合わせ)」を配置するとよい。例えば図2では、左天井体101Lと右天井体101Rそれぞれに12組の昇降体セットが配置されている。この場合、同一の水平軸(以下、「主軸」という。)に沿って複数の天井滑車102(左天井滑車102L、右天井滑車102R)を配置するとともに、同一の主軸に沿って複数の吊ロープ昇降手段104(左吊ロープ昇降手段104L、右吊ロープ昇降手段104R)を配置するとよい。また、天井滑車102(左天井滑車102L、右天井滑車102R)と吊ロープ昇降手段104(左吊ロープ昇降手段104L、右吊ロープ昇降手段104R)の間に張設される吊ロープ103(左吊ロープ103L、右吊ロープ103R)は、主軸に対して垂直な軸(以下、「副軸」という。)方向に配置するとよい。
【0028】
また、揚重装置100の各要素を吊荷の両側に配置し、しかも主軸方向に複数の昇降体セットを配置する場合、基礎床面上のフィールド200(吊荷)は主軸方向に沿って配置するとよい。具体的には、左天井滑車102Lから垂下する左吊ロープ103Lと右天井滑車102Lから垂下する右吊ロープ103Rとの間であって、フィールド200の左側面201Lが左吊ロープ103L側となりその右側面201Rが右吊ロープ103R側となるように、さらにフィールド200の左側面201Lが左側の主軸方向と略平行(平行を含む)となりその右側面201Rが右側の主軸方向と略平行(平行を含む)となるように、フィールド200を配置するわけである。なお、既述したように本願発明の揚重装置100は、各要素を吊荷の両側に配置したり、主軸方向に複数の昇降体セットを配置したりする構成に限らず、吊荷の重量や形状によっては、吊荷の一方側にのみ各要素を配置したり、1の昇降体セットを配置したりする構成とすることもできる。
【0029】
吊ロープ103の下端に取り付けられた係止具106は、フィールド200(吊荷)の被係止具に係止されることで、吊ロープ103とフィールド200を連結するものであり、例えば、係止具106としてフックを利用するとともに被係止具として環状治具(アイボルトなど)を利用することができる。あるいは図3に示すように、被係止具として「突起体202」を利用することもできる。図3は、フィールド200の側面201に形成された突起体202を模式的に示す図であり、(a)は側面201に沿った方向(図2に示す主軸方向)に見た鉛直断面図であり、(b)は図3(a)に示すA-A矢視方向(図2に示す副軸方向)に見た鉛直断面図である。図3(a)に示すように突起体202は、フィールド200の側面201から突出した形状であり、その下面側には凹部(図では半円状の凹部)が形成されている。なお、フィールド200のように両側の吊ロープ103(左吊ロープ103Lと右吊ロープ103R)によって吊り上げられる場合、突起体202などの被係止具はもちろん両方の側面201(左側面201Lと右側面201R)に設けられる。
【0030】
被係止具として突起体202を利用する場合、係止具106としては図4に示す棒状のものを利用するとよい。この棒状の係止具106は、断面寸法に比して軸方向寸法が卓越した棒状や柱状であり、中実とすることも中空(つまり、管状)とすることもできる。また、1の棒状の係止具106は、複数の吊ロープ103の下端に取り付けることができ、例えば図4では3本の吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106が取り付けられている。もちろん、図4の例に限らず、2本あるいは4本以上の吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106を取り付けることもできるし、全て(図4では12本)の吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106を取り付けることもできる。
【0031】
棒状の係止具106は、突起体202(被係止具)の下方に当接することで係止される。例えば図3(a)では、突起体202の下面側に形成された凹部に棒状の係止具106の一部が嵌合することによって係止されている。したがって、双方の形状を円形や半円とするなど、係止具106の断面形状は突起体202の凹部の形状に合わせることが望ましい。
【0032】
ところで、フィールド200のような吊荷を対象とする場合、フィールド200の側面201(左側面201Lや右側面201R)に沿って一連の被係止具(例えば、突起体202)が設けられることとなるが、複数の吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106を取り付けると吊ロープ103が被係止具に干渉することとなる。この場合、図3(b)に示すように突起体202(被係止具)の複数個所に切欠き203を形成し、突起体202をいわば櫛状にするとよい。吊ロープ103を切欠き203内に配置することで、すべての突起体202の凹部に棒状の係止具106を嵌合させることができるわけである。なお図3(b)では、間隔を設けつつ独立した複数の突起体202を設置する構成としているが、これに限らず一部(例えば、フィールド200の側面201側の一部)は連続して形成されるが吊ロープ103が配置される部分には切欠き203が形性される構成とすることもできる。
【0033】
吊荷支持手段105は、天井体101内に収容されるとともに、天井体101から引き出すことができるように、左右(図2に示す副軸方向)にスライド可能な構造とすることもできる。図5は、左右にスライド可能な吊荷支持手段105を模式的に示す鉛直断面図であり、(a)は天井体101内に収容された吊荷支持手段105を示し、(b)は天井体101から引き出された吊荷支持手段105を示している。この場合、フィールド200が上昇してくるときは、吊荷支持手段105がその上昇の妨げとならないように天井体101内に収容し、一方、フィールド200が上昇した後は、フィールド200を支持するために吊荷支持手段105を天井体101から引き出すことができる。なお、吊荷支持手段105をスライドさせるにあたっては、ウィンチなどの巻き上げ装置を利用したり、油圧や空圧、電力等を利用したりするなど、従来用いられている種々の動力を利用することができる。また、複数の独立した荷支持手段105を主軸方向(図2)に並べて配置することもできるし、主軸方向に連続する一体型の吊荷支持手段105を設置することもできる。
【0034】
天井滑車102は、鉛直面内を斜方向に移動可能な構造とすることもできる。図6は、鉛直面内を斜方向に移動可能な天井滑車102を模式的に示す鉛直断面図であり、(a)は定常位置(図で示す破線の位置)から斜め上方向に移動した天井滑車102を示し、(b)は定常位置(図で示す破線の位置)から斜め下方向に移動した天井滑車102を示している。この場合、天井滑車102の移動によって、フィールド200の被係止具(例えば、突起体202)に係止具106を係止させることができるとともに、その係止を解除することができる。具体的には、図6(a)に示すように天井滑車102が定常位置(図で示す破線の位置)から斜め上方向に移動すると、係止具106が潜り込むように突起体202の下方に配置され、その結果、突起体202の凹部に棒状の係止具106を嵌合させることができる。他方、図6(b)に示すように天井滑車102が定常位置(図で示す破線の位置)から斜め下方向に移動すると、係止具106が突起体202の下方配置から外れ、その結果、突起体202と係止具106との係止が解除される。なお、吊荷支持手段105の移動は50~100cm程度で足りることから油圧を利用した構成とするのが好ましいが、これに限らず従来用いられている種々の動力を利用することもできる。
【0035】
本願発明の揚重装置100は、吊荷支持手段105(吊荷支持手段105Lと吊荷支持手段105R)によって支持された吊荷を主軸方向に水平移動させる「スライド移動手段」をさらに備えたものとすることもできる。図7は、スライド移動手段によって主軸方向にスライド移動しているフィールド200を上方から見た平面図である。この場合、フィールド200が上昇した(つまり、取り除かれた)後の基礎床面における利用が多様化する。すなわち、雨天時などは屋根として利用すべくフィールド200をスライド移動させず、一方、晴天時などはスライド移動手段によってフィールド200をスライド移動させるわけである。なお、フィールド200をスライドさせるにあたっては、ウィンチなどの巻き上げ装置を利用したり、油圧や空圧、電力等を利用したりするなど、従来用いられている種々の動力を利用することができる。また図7では、2分割された左フィールド200Lと右フィールド200Rをそれぞれ反対方向にスライド移動させているが、これに限らず一体の(つまり、分割されない)フィールド200をどちらか一方向にスライド移動させる仕様とすることもでき。
【0036】
3.使用例
本願発明の揚重装置100を使用して基礎床面までフィールド200を降下させる例について、図8図9を参照しながら説明する。図8は、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200を基礎床面まで降下させる主な手順の流れを示すフロー図であり、図9は、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200を基礎床面まで降下させる主な手順を示すステップ図である。
【0037】
まず、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200の被係止具(例えば、突起体202)に係止具106を係止させる(図8のStep11)。例えば、図6(b)に示すように天井滑車102が定常位置(図で示す破線の位置)よりも斜め下方向に位置している場合、天井滑車102を定常位置に戻すように斜め上方向に移動させ、突起体202の凹部に棒状の係止具106を嵌合させる。
【0038】
図9(a)に示すように係止具106が突起体202に係止されると、吊荷支持手段105によるフィールド200の支持を解除する(図8のStep12)。例えば、図6(a)に示すように天井滑車102を定常位置(図で示す破線の位置)から斜め上方向に移動することによって、フィールド200を若干量だけ持ち上げる。その結果、吊荷支持手段105はフィールド200の自重から解放され、図9(b)に示すように天井体101内に収容されるように吊荷支持手段105をスライド移動することができ、すなわち吊荷支持手段105によるフィールド200の支持が解除される。
【0039】
吊荷支持手段105によるフィールド200の支持が解除されると、天井滑車102を定常位置に戻したうえで、吊ロープ昇降手段104によって吊ロープ103を巻き下げ、図9(c)に示すように係止具106に係止されたフィールド200を基礎床面まで降下させる(図8のStep13)。そして、フィールド200が基礎床面に着地すると、突起体202と係止具106の係止を解除する(図8のStep14)。例えば、図9(d)に示すように天井滑車102を定常位置から斜め下方向に移動させ、突起体202と係止具106との係止を解除する。
【0040】
突起体202と係止具106の係止が解除されると、吊ロープ昇降手段104によって吊ロープ103を巻き上げ、図9(e)に示すように係止具106を天井体101まで上昇させる(図8のStep15)。これにより、フィールド200周辺(つまり、グランドレベル)から吊ロープ103が排除され、競技を行う者にとっても観戦する者にとっても好適な環境が形成されるわけである。
【0041】
続いて、本願発明の揚重装置100を使用して天井体101までフィールド200を上昇させる例について、図10図11を参照しながら説明する。図10は、基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順の流れを示すフロー図であり、図11は、基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順を示すステップ図である。
【0042】
まず、吊ロープ昇降手段104によって吊ロープ103を巻き下げ、図11(f)に示すように係止具106を降下させる(図10のStep21)。そして、係止具106がフィールド200まで降下すると、係止具106を突起体202に係止させ、吊ロープ103とフィールド200を連結する(図10のStep22)。例えば図11(g)に示すように、定常位置から斜め下方向に位置する天井滑車102を、定常位置に戻るように斜め上方向に移動させ、係止具106を突起体202に係止させる。
【0043】
係止具106が突起体202に係止されると、吊ロープ昇降手段104によって吊ロープ103を巻き上げ、図11(h)に示すように係止具106に係止されたフィールド200を天井体101まで上昇させる(図10のStep23)。フィールド200が天井体101まで上昇すると、図11(i)に示すように吊荷支持手段105をスライド移動させて天井体101から引き出す(図10のStep24)。このとき、フィールド200の下面と吊荷支持手段105との間に若干の隙間が生じるようにフィールド200は吊上げられており、すなわちフィールド200の自重は昇降体セットがすべて負担していることから、吊荷支持手段105を円滑に引き出すことができる。
【0044】
吊荷支持手段105が天井体101から引き出すと、フィールド200を吊荷支持手段105に支持させる(図10のStep25)。具体的には、吊ロープ昇降手段104によって吊ロープ103を若干量だけ巻き下げ、図11(j)に示すようにフィールド200を降下させる。この結果、フィールド200の下面と吊荷支持手段105との間の隙間が消失し、すなわちフィールド200の自重は吊荷支持手段105がすべて負担する。フィールド200を主軸方向にスライド移動させる場合、突起体202と係止具106の係止を解除する(図10のStep26)。例えば、図11(k)に示すように天井滑車102を定常位置から斜め下方向に移動させ、突起体202と係止具106との係止を解除する。これにより、吊ロープ103に作用する緊張力を解除することができ、その結果、吊ロープ103の損傷が低減され長期にわたる使用が可能となるわけである。その後、スライド移動手段によってフィールド200を主軸方向にスライド移動させる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の揚重装置は、サッカー競技場や野球場、陸上競技場といった種々のスポーツ競技施設や、コンサートや展示会、物産展といった種々のイベントを行う興行施設など、様々な施設で利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
100 本願発明の揚重装置
101 (揚重装置の)天井体
101L (天井体の)左天井体
101R (天井体の)右天井体
102 (揚重装置の)天井滑車
102L (天井滑車の)左天井滑車
102R (天井滑車の)右天井滑車
103 (揚重装置の)吊ロープ
103L (吊ロープの)左吊ロープ
103R (吊ロープの)右吊ロープ
104 (揚重装置の)吊ロープ昇降手段
104L (吊ロープ昇降手段の)左吊ロープ昇降手段
104R (吊ロープ昇降手段の)右吊ロープ昇降手段
105 (揚重装置の)吊荷支持手段
105L (吊荷支持手段の)吊荷支持手段
105R (吊荷支持手段の)吊荷支持手段
106 (揚重装置の)係止具
106L (係止具の)左係止具
106R (係止具の)右係止具
200 フィールド
200L (フィールドの)左フィールド
200R (フィールドの)右フィールド
201 (フィールドの)側面
201L (側面のうちの)左側面
201R (側面のうちの)右側面
202 (フィールドの)突起体
203 (フィールドの)切欠き
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11