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特開2023-78353多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞直接分化用培地、それを利用して間葉系幹細胞を製造する方法、及びそれによって製造された間葉系幹細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078353
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞直接分化用培地、それを利用して間葉系幹細胞を製造する方法、及びそれによって製造された間葉系幹細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20230530BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20230530BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230530BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230530BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230530BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230530BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230530BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230530BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20230530BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20230530BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12N5/0775
A61K35/28
A61K9/08
A61K9/10
A61L27/38 300
A61P43/00 111
A61L27/54
C12N5/0735
A61K35/545
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023045082
(22)【出願日】2023-03-22
(62)【分割の表示】P 2021512726の分割
【原出願日】2019-09-06
(31)【優先権主張番号】10-2018-0107385
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】518017901
【氏名又は名称】チャ バイオテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ドン リュル
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジョン エウン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,スー キュン
(72)【発明者】
【氏名】パク,キュン スン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジ フン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞直接分化用培地、それを利用して間葉系幹細胞を製造する方法、それによって製造された間葉系幹細胞、及びそれを含む細胞治療剤を提供する。
【解決手段】DNA修復剤及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤を含む、多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化誘導用培地組成物を提供する。
【効果】培地組成物及び方法によれば、短期間内に高取得率で間葉系幹細胞を製造するだけではなく、胚様体状の段階なしに、製造工程が単純であり、均質性を有する細胞を得ることができ、既存方法よりも短縮された期間でもって細胞治療剤提供が可能であるという効果がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA修復剤及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤を含む、多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化誘導用培地組成物。
【請求項2】
前記DNA修復剤は、3-[(ベンジルアミノ)スルホニル]-4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)ベンズアミドまたは4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)-3-[[(フェニルメチル)アミノ]スルホニル]-ベンズアミドである、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
前記ROCK抑制剤は、ファスジル、リパスジル、4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド、4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ(2,3-b)ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、N-(6-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-6-オキソ-4-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-ピリジンカルボキサミド、1-(3-ヒドロキシベンジル)-3-[4-(ピリジン-4-イル)チアゾール-2-イル]尿素、2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピンジヒドロクロリド、N-[2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]-4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-カルボキサミドジヒドロクロリド]、2-フルオロ-N-[[4-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)フェニル]メチル]ベンゼンメタンアミンジヒドロクロリド、N-[3-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-6-イル]オキシ]フェニル]-4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]ベンズアミド、(3S)-1-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-7-イル]カルボニル]-3-ピロリジンアミンジヒドロクロリド、N-[(1S)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-N’-[4-(4-ピリジニル)フェニル]-尿素、アザインドール-1及びナルシクラシンからなる群から選択されるいずれか一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
TGF-β抑制剤をさらに含む、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項5】
前記TGF-β抑制剤は、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジン、4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、4-[4-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(1、1-ジメチルエチル)-1H-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-[(4-ピリジル)アミノ]プテリジン、6-[2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル]-キノキサリン、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール及び3-[[5-(6-メチル-2-ピリジニル)-4-(6-キノキサリニル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]ベンズアミドからなる群から選択されるいずれか一つである、請求項4に記載の培地組成物。
【請求項6】
前記DNA修復剤は、5μMないし20μMの濃度で含まれるものである、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項7】
前記ROCK抑制剤は、5μMないし20μMの濃度で含まれるものである、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項8】
前記TGF-β抑制剤は、0.2μMないし2.0μMの低濃度で含まれるものである、請求項4に記載の培地組成物。
【請求項9】
分離された多能性幹細胞を培養する段階と、
前記培養された多能性幹細胞を、DNA修復剤及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤を含む培地で培養し、間葉系幹細胞に分化誘導する段階と、
を含む多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞を製造する方法。
【請求項10】
培養された胚性幹細胞を、TGF-β抑制剤の存在下で中胚葉性細胞に分化させる段階をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分化誘導された間葉系幹細胞を、間葉系幹細胞成熟培地で培養する段階、または前記成熟培地で培養された間葉系幹細胞を継代培養する段階をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記分離された多能性幹細胞を培養する段階は、支持細胞の不在下で細胞付着機能強化剤がコーティングされた培養容器で培養する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
胚様体形成段階を含まないものである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記DNA修復剤は、3-[(ベンジルアミノ)スルホニル]-4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)ベンズアミドまたは4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)-3-[[(フェニルメチル)アミノ]スルホニル]-ベンズアミドである、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記ROCK抑制剤は、ファスジル、リパスジル、4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド、4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ(2,3-b)ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、N-(6-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-6-オキソ-4-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-ピリジンカルボキサミド、1-(3-ヒドロキシベンジル)-3-[4-(ピリジン-4-イル)チアゾール-2-イル]尿素、2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピンジヒドロクロリド、N-[2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]-4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-カルボキサミドジヒドロクロリド]、2-フルオロ-N-[[4-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)フェニル]メチル]ベンゼンメタンアミンジヒドロクロリド、N-[3-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-6-イル]オキシ]フェニル]-4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]ベンズアミド、(3S)-1-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-7-イル]カルボニル]-3-ピロリジンアミンジヒドロクロリド、N-[(1S)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-N’-[4-(4-ピリジニル)フェニル]-尿素、アザインドール-1及びナルシクラシンからなる群から選択されるいずれか一つである、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記TGF-β抑制剤は、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジン、4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、4-[4-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(1、1-ジメチルエチル)-1H-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-[(4-ピリジル)アミノ]プテリジン、6-[2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル]-キノキサリン、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール及び3-[[5-(6-メチル-2-ピリジニル)-4-(6-キノキサリニル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]ベンズアミドからなる群から選択されるいずれか一つである、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記TGF-β抑制剤の存在下で中胚葉性細胞に分化させる段階は、TGF-β抑制剤を含む培地で2日ないし7日間培養する段階を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記培地で分化誘導する段階は、DNA修復剤、ROCK抑制剤及びTGF-β抑制剤を含む培地で1日ないし2日間分化誘導する段階を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記成熟培地で培養する段階は、トリプシンで処理する段階と、DMEM/F12(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:栄養混合物F-12)成熟培地で培養する段階と、前記成熟培地で培養された細胞を遠心分離する段階と、を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記継代培養する段階は、細胞付着機能強化剤がコーティングされた培養容器において、トリプシン存在下で継代培養する、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記継代培養は、1ないし10継代まで行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記継代培養は、脱落された非中胚葉性幹細胞を除去し、中胚葉性幹細胞を分離する段階を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
前記多能性幹細胞は、核移植多能性幹細胞(NT-hPSC)、単為生殖生物由来ヒト多能性幹細胞(pn-hPSC)、逆分化万能幹細胞(iPSC)または胚性幹細胞(ESC)である、請求項9に記載の方法。
【請求項24】
前記間葉系幹細胞に分化誘導する段階において、前記間葉系幹細胞は、未成熟間葉系幹細胞であり、前記未成熟間葉系幹細胞を経由して間葉系幹細胞が製造される、請求項9に記載の方法。
【請求項25】
前記未成熟間葉系幹細胞は、細胞集団の10%以下が、血液・血管形成前駆細胞のマーカーであるVEGFR2を発現し、血液・血管形成前駆細胞を経由しない、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記製造された間葉系幹細胞は、細胞集団の70%以上が、マーカーCD29、CD44、CD90またはCD105に対して陽性であり、細胞集団の10%以下が、マーカーTRA-160、CD34またはVEFGR2に対して陰性である、請求項9に記載の方法。
【請求項27】
前記間葉系幹細胞は、造血幹細胞、筋肉細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、泌尿器官細胞、腎臓細胞、血管細胞、網膜細胞及びニューロン細胞からなる群から選択される1種以上への分化能を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項28】
DNA修復剤及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤の存在下で分化誘導された、多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞。
【請求項29】
前記間葉系幹細胞は、細胞集団の70%以上が、マーカーCD29、CD44、CD90またはCD105に対して陽性であり、細胞集団の10%以下が、マーカーTRA-160、CD34またはVEFGR2に対して陰性である、請求項28に記載の細胞。
【請求項30】
請求項9に記載の方法によって製造された間葉系幹細胞を、少なくとも3継代で継代培養する段階であり、細胞治療剤適用のための多能性幹細胞からの分化誘導及び培養期間が、20日ないし40日である段階を含む、間葉系幹細胞を含む細胞治療剤を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性幹細胞、例えば、胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞直接分化用培地、それを利用して間葉系幹細胞を製造する方法、それによって製造された間葉系幹細胞、及びそれを含む細胞治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト胚性幹細胞を利用した間葉系幹細胞を製造する従来技術としては、胚様体形成後、TGF-β抑制剤を14日間処理して製造する方法がある。該TGF-β抑制剤は、胚様体の内胚葉系細胞分化を抑制させることにより、中胚葉系細胞の確保を容易にするために処理される。また、一般的に、ヒト胚性幹細胞を利用した間葉系幹細胞の製造時に使用するTGF-β抑制剤において、SB431542の処理用量は、10μM以上で処理する。TGF-β抑制剤において、SB431542の1μM以上の処理は、内胚葉系分化に必要な転写因子の活性を抑制し、中胚葉系分化に必要な転写因子の活性を増大させる効果がある。また、胚様体を経由しない直接分化方法においても、TGF-β抑制剤の一つであるSB431542を処理して分化を誘導した場合があるが、ほとんど10μM以上の高濃度において、11日以上の長期間薬物処理期間が必要となると報告されている。従って、既存に報告された方法によって製造された間葉系幹細胞が高含量の中胚葉性特性を示すまでには、長期間の時間がかかる実情である。また、大きさと形態とが均一な胚様体を形成させて利用するにしても、胚様体の内部と外部とを構成する細胞における微細環境の差により、処理薬物の効果が均一ではない可能性があり、分化効率、及び分化細胞の性質に影響を及ぼしうる技術的不安定性を有してしまう。
【0003】
それにより、細胞の増殖現象を基に製造される生物学的治療製剤にもかかわらず、増殖現象によって引き起こされうる細胞老化及び突然変異危険性に対する予防的あるいは補完的な措置が施されていない状態で製造されている状況であり、それを解決するための技術が必要である実情である。
【発明の概要】
【0004】
一様相は、DNA修復剤(DNA repair agent)及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤を含む多能性幹細胞の間葉系幹細胞分化誘導用培地組成物を提供するものである。
【0005】
他の様相は、多能性幹細胞の間葉系幹細胞分化誘導用培地組成物の製造に使用するためのDNA修復剤及びROCK抑制剤の用途を提供するものである。
【0006】
他の様相は、分離された多能性幹細胞を培養する段階と、前記培養された多能性幹細胞を、DNA修復剤及びROCK抑制剤を含む培地で培養し、間葉系幹細胞に分化誘導する段階と、を含む多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞を製造する方法を提供するものである。
【0007】
さらに他の様相は、DNA修復剤及びROCK抑制剤の存在下で分化誘導された多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞を提供するものである。
【0008】
さらに他の様相は、前記多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞を含む細胞治療剤を提供するものである。
【0009】
さらに他の様相は、細胞治療剤の製造に使用するための前記多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞の用途を提供するものである。
【0010】
さらに他の様相は、前記多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞を個体に投与する段階を含む、疾病を治療する方法を提供するものである。
【0011】
一様相は、DNA修復剤(DNA repair agent)及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤を含む多能性幹細胞の間葉系幹細胞分化誘導用培地組成物を提供する。
【0012】
他の様相は、多能性幹細胞の間葉系幹細胞分化誘導用培地組成物の製造に使用するためのDNA修復剤及びROCK抑制剤の用途を提供する。
【0013】
本明細書において、「多能性幹細胞」は、自家再生することができ(未分化状態を維持しながら、多数の細胞分裂周期を通過する能力を有し)、1種以上の多重分化能(1種以上の専門化された細胞に分化する性能)を示すことができる細胞を意味する。間葉系幹細胞(MSC:mesenchymal stem cell)は、骨、軟骨、脂肪、筋肉細胞を含むさまざまな中胚葉性細胞または神経細胞のような外胚葉性細胞にも分化する能力を有した多分化能幹細胞である。前記多能性幹細胞は、核移植多能性幹細胞(NT-hPSC)、単為生殖生物由来多能性幹細胞(pn-hPSC)、逆分化万能幹細胞(人工多能性細胞;iPSC)または胚性幹細胞(ESC)でもある。
【0014】
本発明において、「体細胞」は、性細胞、またはその前駆体を除いた体内の任意組織細胞を意味する。
【0015】
本明細書で使用された「成熟」は、最終的に分化された細胞種類に向けて導く調和された生化学的段階によって構成された過程を意味する。
【0016】
本明細書において、「分化」は、特定の形態または機能に対する細胞の適応を意味する。
【0017】
本明細書において、「分化された細胞」は、本明細書にその用語が定義されているように、その本来形態において多能性ではない任意体細胞を含む。従って、用語「分化された細胞」は、また部分分化された細胞、例えば、多分化能細胞、または本明細書に記載された任意の組成物及び方法を利用して生成された、安定しており、非多能性の部分再プログラミングされているか、あるいは部分分化された細胞である細胞を含む。いくつかの実施様態において、分化された細胞は、安定している中間細胞、例えば、非多能性、部分再プログラミングされた細胞である細胞である。培養物中に、多くの一次細胞を位置させれば、完全分化された特性を若干消失してしまうということに留意しなければならない。従って、そのような分化された細胞または体細胞を単に培養することは、該細胞が非分化細胞(例えば、未分化細胞)または多能性細胞にはならせない。分化された細胞(安定している、非多能性部分再プログラミングされた細胞中間体を含む)の全分化能への転移は、培養物中に位置させるとき、分化された特性を部分消失させる刺激を超える再プログラミング刺激を必要とする。再プログラミングされたいくつかの実施様態において、部分再プログラミングされた細胞は、また一般的に、培養物中にただ制限された数の分裂に対する能力を有するさらに低い発生可能性を有する母細胞に比べ、成長可能性の消失なしに延長された継代培養を経る能力を有する特性を有する。いくつかの実施様態において、用語「分化された細胞」は、また(例えば、未分化細胞または再プログラミングされた細胞から)より特殊化されていない細胞類型(すなわち、発生可能性増大)の細胞(ここで、該細胞は、細胞内分化工程を経る)に由来するさらに特殊化された細胞類型(すなわち、発生可能性低減)の細胞を意味する。詳細には、本明細書において、造血幹細胞(造血母細胞)、筋肉細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、泌尿器官細胞、脂肪細胞、腎臓細胞、血管細胞、網膜細胞、間葉系幹細胞(MSC)及びニューロン細胞からなる群れのうちからも選択される。
【0018】
一具体例において、前記DNA修復剤は、Rad51の活性を増大させる物質(Rad51活性剤)でもある。前記Rad51活性剤は、3-[(ベンジルアミノ)スルホニル]-4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)ベンズアミド(3-[(benzylamino)sulfonyl]-4-bromo-N-(4-bromophenyl)benzamide)または4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)-3-[[(フェニルメチル)アミノ]スルホニル]-ベンズアミド(4-bromo-N-(4-bromophenyl)-3-[[(phenylmethyl)amino]sulfonyl]-benzamide)でもある。前記DNA修復剤は、5μMないし25μM、5μMないし20μM、6μMないし18μM、8μMないし15μM、または8μMないし12μMの濃度で含まれてもよい。RAD51活性剤は、損傷されたDNAの修復機能があるRAD51タンパク質のssDNA(single strand DNA)あるいはdsDNA(double strand DNA)への結合安定性を維持させることにより、RAD51タンパク質の活性を高め、DNA修復効果を持続させる機能を有することができる。それにより、特定理論に制限されることなしに、多能性幹細胞から中胚葉性幹細胞への分化RAD51活性剤を処理することにより、細胞増殖と反復継代とによる突然変異確率、及び細胞老化の発生時期を遅延させ、遺伝的安全性を有した細胞治療剤を製造することができる。
【0019】
一具体例において、前記ROCK抑制剤は、ファスジル(Fasudil)、リパスジル(Ripasudil)、4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド(4-((R)-1-aminoethyl)-N-(pyridin-4-yl)cyclohexanecarboxamide)、4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ(2,3-b)ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド(4-(1-aminoethyl)-N-(1H-pyrrolo(2,3-b)pyridin-4-yl)cyclohexanecarboxamidedihydrochloride)、N-(6-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-6-オキソ-4-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-ピリジンカルボキサミド(N-(6-Fluoro-1H-indazol-5-yl)-1,4,5,6-tetrahydro-2-methyl-6-oxo-4-[4-(trifluoromethyl)phenyl]-3-pyridinecarboxamide)、1-(3-ヒドロキシベンジル)-3-[4-(ピリジン-4-イル)チアゾール-2-イル]尿素(1-(3-Hydroxybenzyl)-3-[4-(pyridin-4-yl)thiazol-2-yl]urea)、2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピンジヒドロクロリド(2-methyl-1-[(4-methyl-5-isoquinolinyl)sulfonyl]-hexahydro-1h-1,4-diazepinedihydrochloride)、N-[2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]-4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-カルボキサミドジヒドロクロリド(N-[2-[2-(dimethylamino)ethoxy]-4-(1h-pyrazol-4-yl)phenyl-2,3-dihydro-1,4-benzodioxin-2-carboxamidedihydrochloride])、2-フルオロ-N-[[4-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)フェニル]メチル]ベンゼンメタンアミンジヒドロクロリド(2-fluoro-N-[[4-(1H-pyrrolo[2,3-b]pyridin-4-yl)phenyl]methyl]benzenemethanamine dihydrochloride)、N-[3-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-6-イル]オキシ]フェニル]-4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]ベンズアミド(N-[3-[[2-(4-amino-1,2,5-oxadiazol-3-yl)-1-ethyl-1H-imidazo[4,5-c]pyridin-6-yl]oxy]phenyl]-4-[2-(4-morpholinyl)ethoxy]benzamide)、(3S)-1-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-7-イル]カルボニル]-3-ピロリジンアミンジヒドロクロリド((3S)-1-[[2-(4-amino-1,2,5-oxadiazol-3-yl)-1-ethyl-1H-imidazo[4,5-c]pyridin-7-yl]carbonyl]-3-pyrrolidinaminedihydrochloride)、N-[(1S)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-N’-[4-(4-ピリジニル)フェニル]-尿素(N-[(1S)-2-hydroxy-1-phenylethyl]-N’-[4-(4-pyridinyl)phenyl]-urea)、アザインドール-1(azaindole-1)及びナルシクラシン(Narciclasine)からなる群から選択されるいずれか一つでもある。前記ROCK抑制剤は、5μMないし25μM、5μMないし20μM、6μMないし18μM、8μMないし15μM、または8μMないし12μMの濃度で含まれてもよい。細胞治療剤開発におけるROCK抑制剤の機能は、分子生物学的に活性RHOタンパク質による中間フィラメント(intermediate filament)瓦解効果、アクチン・膜連結(actin-membrane linkage)効果、細胞死滅メカニズム活性効果及び反復的継代によって生じうる細胞老化関連マーカーP16及び同P21の発現誘導をいずれも抑制させる機能を有することができる。そのような機能を基にROCK抑制剤は、細胞分化過程中に生じうる急激な物質代謝変化による細胞ストレス増大抑制効果及び細胞老化遅延効果を有する。従って、特定理論に制限されることなしに、ROCK抑制剤の適正処理用量と処理期間とを再調整することにより、中胚葉性幹細胞への分化に安定性と効率とを向上させることができる。
【0020】
他の具体例において、前記培地組成物は、TGF-β抑制剤をさらに含むものでもある。前記TGF-β抑制剤は、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物(4-{4-[3-(pyridin-2-yl)-1H-pyrazol-4-yl]-pyridin-2-yl}-N-(tetrahydro-2H-pyran-4-yl)benzamidehydrate)、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン(4-[3-(2-pyridinyl)-1H-pyrazol-4-yl]-quinoline)、2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジン(2-[3-(6-methyl-2-pyridinyl)-1H-pyrazol-4-yl]-1,5-naphthyridine)、4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物(4-(5-benzol[1,3]dioxol-5-yl-4-pyridin-2-yl-1H-imidazol-2-yl)-benzamidehydrate)、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物(4-[4-(1,3-benzodioxol-5-yl)-5-(2-pyridinyl)-1H-imidazol-2-yl]-benzamidehydrate)、4-[4-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物(4-[4-(3,4-methylenedioxyphenyl)-5-(2-pyridyl)-1H-imidazol-2-yl]-benzamidehydrate)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド(3-(6-methyl-2-pyridinyl)-N-phenyl-4-(4-quinolinyl)-1H-pyrazole-1-carbothioamide)、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(2-(3-(6-methylpyridine-2-yl)-1H-pyrazol-4-yl)-1,5-naphthyridine)、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン(4-[3-(2-pyridinyl)-1H-pyrazol-4-yl]-quinoline)、2-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(1,1-ジメチルエチル)-1H-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン(2-[4-(1,3-benzodioxol-5-yl)-2-(1,1-dimethylethyl)-1H-imidazol-5-yl]-6-methyl-pyridine)、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-[(4-ピリジル)アミノ]プテリジン(2-(5-chloro-2-fluorophenyl)-4-[(4-pyridyl)amino]pteridine)、6-[2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル]-キノキサリン(6-[2-tert-butyl-5-(6-methyl-pyridin-2-yl)-1H-imidazol-4-yl]-quinoxaline)、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物(4-{4-[3-(pyridin-2-yl)-1H-pyrazol-4-yl]-pyridin-2-yl}-N-(tetrahydro-2H-pyran-4-yl)benzamide hydrate)、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール(4-[2-fluoro-5-[3-(6-methyl-2-pyridinyl)-1H-pyrazol-4-yl]phenyl]-1H-pyrazole-1-ethanol)及び3-[[5-(6-メチル-2-ピリジニル)-4-(6-キノキサリニル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]ベンズアミド(3-[[5-(6-methyl-2-pyridinyl)-4-(6-quinoxalinyl)-1H-imidazol-2-yl]methyl]benzamide)からなる群から選択されるいずれか一つでもある。前記TGF-β抑制剤は、0.2μMないし2.0μM、0.2μMないし1.6μM、0.4μMないし1.6μM、0.6μMないし1.4μM、0.8μMないし1.2μM、または0.6μMないし1.0μMの濃度にも処理される。一具体例において、前記培地組成物を使用すれば、既存に報告されたTGF-β抑制剤の処理濃度より顕著に低い低濃度のTGF-β抑制剤を使用することにより、高濃度のTGF-β抑制剤による副作用を低減させることができ、低濃度のTGF-β抑制剤を使用しても、高収率の中胚葉性幹細胞を得ることができるという効果がある。
【0021】
前記培地は、MEM(minimal essential medium)、DMEM(Dulbecco modified Eagle Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute Medium)、K-SFM(Keratinocyte Serum Free Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、F12及びDMEM/F12によって構成された群のうちから選択される培地でもある。
【0022】
また、該培地は、等張液中の中性緩衝剤(例えば、リン酸塩及び/または高濃度重炭酸塩)及びタンパク質栄養分(例えば、血清、例えば、FBS(fetal bovine serum)、FCS(fetal calf serum)、ウマ血清、血清代替物、アルブミン、あるいは必須アミノ酸(essential amino acid)及び非必須アミノ酸(non-essential amino acid)、例えば、グルタミン、L-グルタミン)を含んでもよい。さらに、脂質(脂肪酸、コレステロール、血清のHDL抽出物またはLDL抽出物)、及びそれら種類のほとんどの保存液培地で見出されるその他成分(例えば、トランスフェリン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、ピルビン酸塩、任意のイオン化形態または塩である糖源、例えば、グルコース、グルココルチコイド、例えば、ヒドロコルチゾン及び/または還元剤、例えば、β-メルカプトエタノール)を含んでもよい。
【0023】
また、該培地は、細胞が互いに癒着するか、容器壁に癒着するか、あるいは過度に大きい束を形成することを防止する目的で、抗凝集剤(anti-clumping agent)、例えば、Invitrogenが販売するものなど(Cat#0010057AE)を含むことが有益でもある。
【0024】
そのうちでも、下記の1以上のさらなる添加剤を含んでもよい:
幹細胞因子(SCF;steel因子)、cキットを二量化する他のリガンドまたは抗体、及び同一信号伝達経路の他の活性剤;他のチロシンキナーゼ関連受容体、例えば、血小板誘導成長因子(PDGF:platelet-derived growth factor)・大食細胞コロニー刺激因子・Flt-3リガンド及び血管内皮成長因子(VEGF:vascular endothelial growth factor)の受容体のためのリガンド;環形AMP濃度を高める因子、例えば、フォルスコリン;gp130を誘導する因子、例えば、LIFまたはオンコスタチンM;造血母成長因子、例えば、トロンボポイエチン(TPO);変形性成長因子、例えば、TGFβ1;ニューロトロピン、例えば、CNTF;抗生物質、例えば、ゲンタマイシン(gentamicin)、ペニシリン、ストレプトマイシン。
【0025】
一具体例による培地組成物は、前記成分以外に、FBS、NAC(N-acetyl-L-cysteine)、非必須アミノ酸(NEAA)、線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インシュリンまたはインシュリン類似因子、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、bFGF(basic fibroblast growth factor)、へパラン硫酸(heparan sulfate)、2-メルカプトエタノール(2-mercaptoethanol)及びEGF(epidermal growth factor)によって構成された群のうちから選択される1種以上の成分を追加して含んでもよい。
【0026】
一具体例による前記培地組成物は、多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化誘導のために使用されるものでもある。詳細には、前記培地組成物は、培養された多能性幹細胞を中胚葉性細胞に分化させた後(例えば、TGF-β抑制剤の処理)、前記中胚葉性細胞を間葉系幹細胞に成熟分化させる前に使用されるものでもある。従って、前記培地組成物は、間葉系幹細胞の成熟分化前の未成熟間葉系幹細胞(中胚葉性細胞)の前処理に使用されるものでもある。
【0027】
また、一具体例による前記培地組成物は、直接分化誘導培地組成物でもある。
【0028】
本明細書において、用語「直接分化(direct differentiation)」は、多能性幹細胞を間葉系幹細胞に分化させるにあたり、胚様体を形成せずに、血液・血管形成前駆細胞(hamangioblast)を経由せず、造血幹細胞(造血母細胞)性質を有する未成熟間葉系幹細胞を経由する形態で、最終間葉系幹細胞に分化されることを意味しうる。
【0029】
他の様相は、分離された多能性幹細胞を培養する段階と、前記培養された多能性幹細胞を、DNA修復剤及びROCK抑制剤を含む培地で培養し、間葉系幹細胞に分化誘導する段階と、を含む多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞を製造する方法を提供する。
【0030】
前記方法は、詳細には、分離された多能性幹細胞を培養する段階、前記培養された多能性幹細胞を中胚葉性細胞に分化させる段階(例えば、TGF-β抑制剤の存在下において)、前記中胚葉性細胞を、DNA修復剤及びROCK抑制剤を含む培地で培養し、間葉系幹細胞に分化誘導する段階(「培地で培養し、前処理する段階」、または「培地で培養し、未成熟間葉系幹細胞を製造する段階」と互換的に使用される)、前記分化誘導された間葉系幹細胞を間葉系幹細胞成熟培地で培養する段階、及び/または前記成熟培地で培養された間葉系幹細胞を継代培養する段階を含むものでもある。
【0031】
他の具体例において、前記方法は、胚様体形成段階を実質的に含まないものでもある。
【0032】
前記分離された多能性幹細胞を培養する段階は、支持細胞の不在下で遂行されるものでもある。また、前記培養する段階は、細胞付着機能強化剤(例えば、CTS CellstartTM)がコーティングされた培養容器で培養するものでもある。前記培養は、幹細胞培養液(例えば、mTeSRTM)でも行われ、約1日ないし10日、または3日ないし10日の間行われうる。
【0033】
前記中胚葉性細胞に分化させる段階は、TGF-β抑制剤の存在下で遂行されるものでもある。一具体例において、前記段階は、TGF-β抑制剤を含む培地において、1日ないし8日、2日ないし7日、2日ないし6日、または2日ないし4日の間培養する段階を含んでもよい。前記培養が7日以上維持される場合、細胞の老化が起こったり、細胞の形態学的(morphology)特徴の変形が示されたり、細胞の増殖力が低下されたりもする。前述の細胞老化、形態学的特徴または増殖力の側面において、前記培養は、2日ないし6日間培養するものでもある。前記培地は、MEM、DMEM(Dulbecco modified Eagle Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute Medium)、K-SFM(Keratinocyte Serum Free Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、F12及びDMEM/F12によって構成された群のうちから選択される培地でもある。また、培地に対し、本明細書の説明で言及された追加成分をさらに含んでもよい。
【0034】
前記中胚葉性細胞を、DNA修復剤及びROCK抑制剤を含む培地で培養し、間葉系幹細胞に分化誘導する段階は、間葉系幹細胞の成熟分化前の前処理する段階、または未成熟間葉系幹細胞に分化誘導する段階を意味しうる。前記培地については、前述の通りである。前記培養は、DNA修復剤、ROCK抑制剤、及び/またはTGF-β抑制剤を含む培地において、1日ないし4日、または1日ないし2日の間分化誘導する段階を含むものでもある。前記間葉系幹細胞に分化誘導する段階において、前記間葉系幹細胞は、未成熟間葉系幹細胞でもある。従って、一具体例による方法は、前記未成熟間葉系幹細胞を経由し、間葉系幹細胞が製造されるものでもある。詳細には、一具体例による方法は、血液・血管形成前駆細胞を経由せず、未成熟間葉系幹細胞を経由し、間葉系幹細胞が製造されるものでもある。前記未成熟間葉系幹細胞は、血液・血管形成前駆細胞のマーカーであるVEGFR2に対し、細胞集団の10%以下に発現することを確認することにより、一具体例による方法は、血液・血管形成前駆細胞を経由しないということが分かった。
【0035】
前記分化誘導された間葉系幹細胞を、間葉系幹細胞成熟培地で培養する段階は、間葉系幹細胞にトリプシン(トリプシン/EDTA溶液)を処理し、単一細胞化する段階、間葉系幹細胞成熟培地で培養する段階、前記成熟培地で培養された細胞を遠心分離する段階、及び/または前記成熟培地で培養された間葉系幹細胞を継代培養する段階を含んでもよい。前記成熟培地で培養する段階は、成熟培地において、1日ないし15日、1日ないし12日、または4日ないし12日の間培養するものでもある。また、前記成熟培地は、MEM、DMEM(Dulbecco modified Eagle Medium)、RPMI(Roswell Park Memorial Institute Medium)、K-SFM(Keratinocyte Serum Free Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、F12及びDMEM/F12によって構成された群のうちから選択される培地でもある。また、該培地につき、本明細書の説明で言及された追加成分をさらに含んでもよい。前記遠心分離以後、遠心分離して得られた細胞を継代培養することができる。前記継代培養は、前記成熟培地と類似しているか、あるいは同一の培地においても行われる。また、前記継代培養は、トリプシン(例えば、トリプシン/EDTA溶液)の存在下で、単一細胞化する方式によっても行われる。また、前記継代培養は、細胞付着機能強化剤がコーティングされた培養容器においても行われる。本明細書において、「継代培養」とは、細胞を健康な状態で持続的に長期間培養するために、周期的に細胞の一部を新たな培養容器に移した後、培養培地を変えながら、細胞の代を継代させて培養する方法を意味しうる。限定された空間を有した培養容器内において、細胞の数が増えながら一定時間が経てば、増殖栄養分が消費されたり、汚染物質がたまったりし、細胞が自然死してしまうので、健康な細胞の数を増やすための方法として使用され、一般的に1回培地(培養容器)を替えること、または細胞群を分けて培養することを1継代(1passage)と言う。該継代培養の方法は、当業界に公知された方法を制限なしに使用することができ、例えば、機械的分離または酵素的分離によっても遂行される。前記継代培養は、1ないし20継代、3ないし20継代、3ないし15継代まで行われるものでもある。また、前記継代培養は、脱落した非中胚葉性幹細胞を除去し、中胚葉性幹細胞を分離する段階を含んでもよい。そのような継代培養を介し、最終間葉系幹細胞を製造することができる。
【0036】
さらに他の様相は、前記方法によって製造された間葉系幹細胞を提供するものである。
【0037】
一具体例において、前記間葉系幹細胞は、DNA修復剤及びROCK抑制剤の存在下で分化誘導された多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞でもある。
【0038】
本明細書において提供される多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞は、細胞表面に発現される細胞標識子に対し、CD29,CD44,CD90またはCD105陽性表面マーカーを、少なくとも約20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または約99%発現し、TRA-160,CD34またはVEFGR2陰性マーカーをおよそ、少なくとも70%以下、少なくとも60%以下、少なくとも50%以下、少なくとも40%以下、少なくとも30%以下、少なくとも20%以下、少なくとも10%以下、少なくとも5%以下、または少なくとも1%以下に発現するものでもある。本発明において、用語「陽性」は、幹細胞標識と係わり、その標識が基準になる他の非幹細胞と比較したとき、さらに多くの量、またはさらに高い濃度で存在することを意味しうる。すなわち、細胞は、ある標識が細胞の内部または表面に存在するために、その標識を利用し、その細胞を1以上の他の細胞類型と区別することができるならば、その標識について陽性になる。また、細胞が背景値よりさらに大きい値で、信号、例えば、細胞測定装置の信号を出すことができるほどの量でその標識を有しているということを意味しうる。例えば、細胞を、CD29に特異的な抗体でもって検出可能に標識することができ、該抗体からの信号が対照群(例えば、背景値)より検出可能にさらに大きければ、その細胞は、「CD29+」である。本発明において、用語「陰性」は、特定細胞表面標識に特異的な抗体を使用しても、背景値に比較し、その標識を検出することができないことを意味する。例えば、CD34に特異的な抗体でもって細胞を検出可能に標識することができなければ、その細胞は、「CD34-」である。
【0039】
前記免疫学的特性は、本発明が属する技術分野に公知された一般的な方法によっても決定される。例えば、流細胞分析、免疫組織化学染色またはRT-PCRなど多様な方法が利用されうる。
【0040】
また、前記間葉系幹細胞は、造血幹細胞(造血母細胞)、筋肉細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、泌尿器官細胞、腎臓細胞、血管細胞、網膜細胞及びニューロン細胞からなる群から選択される1種以上の分化能を有するものでもある。
【0041】
他の様相は、前記方法によって製造された間葉系幹細胞集団を提供する。
【0042】
さらに他の様相は、前記方法によって製造された間葉系幹細胞、その細胞集団またはその培養液を有効成分として含む細胞治療剤、薬学的組成物または製剤を提供する。
【0043】
さらに他の様相は、細胞治療剤、薬学的組成物または製剤の製造に使用するための前記方法によって製造された間葉系幹細胞、その細胞集団またはその培養液の用途を提供する。
【0044】
さらに他の様相は、前記方法によって製造された間葉系幹細胞、その細胞集団またはその培養液の有効量を個体に投与する段階を含む、疾病を治療する方法を提供する。
【0045】
一具体例による間葉系幹細胞製造方法は、既存に報告された方法より短縮された期間で、細胞治療剤としての提供が可能である。従って、前記細胞治療剤または前記薬学的組成物は、少なくとも3継代以上、例えば、3継代ないし10継代培養されたものであり、細胞治療剤として適用されるために、多能性幹細胞から、20日ないし40日、22日ないし38日、25ないし35日の間分化誘導及び培養されるものでもある。前記細胞治療剤として適用されるための培養期間は、多能性幹細胞に対し、当日(day 0)から、細胞治療剤適用可能時点に逹するまでにかかる分化時間を意味しうる。
【0046】
さらに他の様相は、前記方法によって製造された間葉系幹細胞を継代培養する段階を含む間葉系幹細胞を含む細胞治療剤を製造する方法を提供する。
【0047】
前記継代培養する段階は、少なくとも3継代以上、例えば、3継代ないし10継代培養する段階であり、細胞治療剤適用のための分化誘導及び培養期間が、多能性幹細胞(当日)から、20日ないし40日目のものである段階を含むものでもある。
【0048】
また、例えば、前記方法によって製造された間葉系幹細胞、その細胞集団またはその培養液を有効成分として含む、炎症性疾患、虚血性疾患及び/または神経退行性疾患の治療または予防のための薬学的組成物を提供する。
【0049】
また、例えば、該炎症性疾患、該虚血性疾患及び/または該神経退行性疾患の治療または予防のための薬学的組成物の製造に使用するための前記方法によって製造された間葉系幹細胞、その細胞集団またはその培養液の用途を提供する。
【0050】
さらに他の様相は、前記方法によって製造された間葉系幹細胞、その細胞集団またはその培養液の有効量を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、炎症性疾患、虚血性疾患及び/または神経退行性疾患を予防または治療する方法を提供する。
【0051】
前記方法によって製造された間葉系幹細胞については、前述の通りである。
【0052】
前記疾患の例は、炎症性疾患、虚血性疾患及び/または神経退行性疾患を含んでもよい。前記炎症性疾患の例は、気管支炎、胃炎、動脈硬化症、関節炎、炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)、肝炎、胆嚢炎、真菌性感染症、胃潰瘍、喘息、アトピー性皮膚炎、腱炎または腎臓炎を含んでもよい。前記虚血性疾患の例は、虚血性脳卒中、心筋梗塞、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性心不全、虚血性腸炎、虚血性血管疾患、虚血性眼疾患、虚血性網膜証、虚血性緑内障、虚血性腎不全または虚血性下肢疾患を含んでもよい。
【0053】
前記神経退行性疾患の例は、脊髄損傷、多発性硬化症、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、前頭側頭葉痴呆(frontotemporal dementia)、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy)、皮質基底核変性(corticobasal degeneration)、ピック病(Pick’s disease)または拳闘家痴呆(DP:dementia pugilistica)を含んでもよい。
【0054】
一具体例による細胞治療剤または薬学的組成物の投与量は、間葉系幹細胞を基準に、1.0X10ないし1.0X1010細胞/kg(体重)または個体、または1.0X10ないし1.0X10細胞/kg(体重)または個体でもある。ただし、該投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢・体重・性別・病的状態、飲食物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因により、多様にも処方され、当業者であるならば、そのような要因を考慮し、投与量を適切に調節することができるであろう。投与回数は、1回、または臨床的に容認可能な副作用の範囲内において、2回以上が可能であり、投与部位についても、1ヵ所または2ヵ所以上に投与することができる。ヒト以外の動物についても、kg当たりまたは個体当たり、ヒトと同一投与量にするか、あるいは、例えば、目的とする動物とヒトとの器官(心臓など)の容積比(例えば、平均値)などにより、前述の投与量を換算した量を投与することができる。一具体例による治療の対象動物としては、ヒト及びそれ以外の目的とする哺乳動物を例として挙げることができ、具体的には、ヒト、猿、マウス、ラット、兎、羊、牛、犬、馬、豚などが含まれる。
【0055】
一具体例による細胞治療剤または薬学的組成物は、有効成分として、前記間葉系幹細胞と薬学的に許容可能な担体及び/または添加物を含んでもよい。例えば、滅菌水、生理食塩水、慣用の緩衝剤(リン酸、クエン酸、それ以外の有機酸など)、安定剤、塩、酸化防止剤(アスコルビン酸など)、界面活性剤、懸濁液剤、等張化剤または保存剤などを含んでもよい。局所投与のために、生体高分子(biopolymer)のような有機物、ヒドロキシアパタイトのような無機物、具体的には、コラーゲンマトリックス、ポリ乳酸重合体またはその共重合体、ポリエチレングリコール重合体またはその共重合体、及びその化学的誘導体などと組み合わせることも望ましい。一具体例による細胞治療剤または薬学的組成物が注射に適当な剤形に調剤される場合には、細胞集合体が、薬学的に許容可能な担体内に溶解されているか、あるいはまたは溶解されている溶液状態に凍結されたものでもある。
【0056】
一具体例による間葉系幹細胞は、身体の組織または器官が目的とする細胞群集、例えば、幹細胞または由来細胞群集の生着、移植または注入により、強化、治療または代替される多様な種類の治療プロトコルにも使用される。前記多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞は、存在する組織を代替または強化させ、新たであったり、変化された組織になるようにするか、あるいは生物学的組織または構造と結合させることができる。
【0057】
一具体例による細胞治療剤または薬学的組成物は、その投与方法や剤形によって必要な場合、懸濁液剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤、界面活性化剤、希釈剤、賦形剤、pH調整剤、無痛化剤、緩衝剤、還元剤、酸化防止剤などを適切に含んでもよい。前述のところに例示されたものなどを含め、本発明に適する、薬学的に許容される担体及び製剤は、文献[Remington’s Pharmaceutical Sciences, 19th ed., 1995]に詳細に記載されている。
【0058】
一具体例による細胞治療剤または薬学的組成物は、当該発明が属する技術分野で当業者が容易に実施することができる方法により、薬学的に許容される担体及び/または賦形制を利用して製剤化することにより、単位用量形態に製造されるか、あるいは多用量容器内に内入させても製造される。このとき、当該剤形は、オイル内または水性媒質内の溶液、懸濁液または乳化液形態でもあり、粉末、顆粒、錠剤またはカプセル型でもある。また、細胞治療剤は、注射用剤形にも剤形化される。その場合、剤形化するための公知された一般的成分が利用され、一般的な方法によっても剤形化される。
【発明の効果】
【0059】
一様相による培地組成物及び方法によれば、短期間内に、高い取得率で間葉系幹細胞を製造するだけではなく、胚様体状の段階なしに、製造工程が単純であり、均質性を有する細胞を得ることができ、既存方法より短縮された期間でもって、細胞治療剤提供が可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】一具体例によるヒト胚性幹細胞を間葉系幹細胞に直接分化させる方法を図式化して示した図である。
図2】一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態学的特性を示した写真である。
図3】比較例による胚様体形成システムを介するヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態学的特性を示した写真である。
図4】一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞取得率(直接分化+(SB431542+RS1+Y27632))を胚様体形成システムを利用したヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞取得率(胚様体経由分化+SB431542)と比較したグラフである。
図5】一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞(直接分化+(SB431542+RS1+Y27632))を細胞治療剤として活用するために必要となる分化期間を、胚様体形成システムを利用したヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞(胚様体+SB431542))と比較したグラフである。
図6】一具体例による培養30日目(passage 4)のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞表面発現マーカーを、流細胞分析によって分析した結果を示した図である。
図7】一具体例による培養4日目のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞表面発現マーカーを、流細胞分析によって分析した結果を示した図である。
図8】一具体例による培養30日目(passage 4)のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞と、培養4日目のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞との細胞表面発現マーカーを比較したグラフである。
図9】一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞分化能を確認したグラフである。
図10】一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態特性を、DNA修復剤とROCK抑制剤との単独処理によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態特性と比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明について、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1.ヒト胚性幹細胞の間葉系幹細胞への直接分化
1.1.ヒト胚性幹細胞の培養
ヒト胚性幹細胞を、支持細胞なしに培養するために下記のように遂行した。
【0063】
具体的には、ヒト由来成分だけで構成された細胞付着機能強化剤であるCTS CellstartTMを表面積2.0cmである4ウェル組織細胞培養容器(tissue culture dish)に、160μl/ウェルの濃度で、4℃で24時間処理した。その後、残っているCTS CellstartTMを常温で組織細胞培養容器路からいずれも除去した後、胚性幹細胞培養液であるmTeSRTM(Stemcells、米国)培養液を、500μl/ウェルの濃度で、前記組織細胞培養容器に入れた後、37℃、5% COインキュベータに位置させた。
【0064】
次に、支持細胞上で増殖されたヒト胚性幹細胞(CHA-hES NT 18、CHA University)をマイクロチップ(Micro-tip、Axygen、米国)を利用し、機械的継代(mechanical sub-passage)法で、小さい群集体(small clumps)に切り、それらをインキュベータに位置させた前記組織細胞培養容器に、15ないし20群集体/ウェルになるように分注した。その後、5日間毎日新たな胚性幹細胞培養液(mTeSRTM)500μl/ウェルに替えながら、ヒト胚性幹細胞を支持細胞なしに増殖させた。
【0065】
1.2.ヒト胚性幹細胞の中胚葉性細胞への分化誘導
前記実施例1.1.において、支持細胞なしに増殖させたヒト胚性幹細胞を、中胚葉性細胞に分化させるために、TGF-β抑制剤を処理した。
【0066】
具体的には、TGF-β阻害剤(SB431542)を、DMSO(dimethyl sulfoxide、Sigma、米国)に、1mMストック濃度で溶かした後、最終濃度1μMになるように、胚性幹細胞分化液(DMEM/F12、20%(v/v)SR、1%(v/v)NEAA、0.1mM β-メルカプトエタノール、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシン)に希釈させた。その後、前記実施例1.1.において、5日間増殖培養されたヒト胚性幹細胞を、SB431542を含む前記胚性幹細胞分化液で、4日目まで(当日、翌日、2日目)処理し、中胚葉性細胞に分化させた。
【0067】
1.3.中胚葉性細胞の前処理
前記実施例1.2.において、胚性幹細胞分化液処理3日目(day 3)に配置を入れ替え、さらに1日培養した。具体的には、該培地は、Rad51促進剤(RS1)10μM、ROCK阻害剤(Y27632)10μM、TGF-β阻害剤(SB431542)1μMが含有された分化培地に入れ替え、中胚葉性細胞を前処理した。
【0068】
1.4.間葉系幹細胞への分化誘導
前記実施例1.3.で前処理した中胚葉性細胞を間葉系幹細胞に成分分化させ、継代培養し、中胚葉性幹細胞を得た。
【0069】
具体的には、分化4日目(day 4)に、培養培地をいずれも除去した後、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシンを混合したPBSで細胞を洗浄した。その後、0.125%トリプシンを常温で処理し、単一細胞化させた後、間葉系幹細胞成熟培地(DMEM/F12、10%(v/v)FBS、4ng/ml bFGF、1%(v/v)NEAA、0.1mMβ-メルカプトエタノール、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシン)で中性化させた後、1,000rpmで5分間遠心分離させた。次に、遠心分離させて得られた細胞を、CTS CellstartTMが事前にコーティングされた1ウェル/12ウェルディッシュにいずれも分注し、その後、80~90%の細胞密集度(confluency)に至るたびに、12ウェルディッシュ(passage 0)→6ウェルディッシュ(passage 1)→T-25フラスコ(passage 2)→T-75フラスコ(passage 3)の順に、0.05%トリプシンを常温で処理し、単一細胞化させる方式で続けて継代培養した。この過程において、非中胚葉性幹細胞は脱落し、中胚葉性幹細胞が得られた。
【0070】
一具体例による間葉系幹細胞を製造する方法を図1に図式化して示した。
【0071】
比較例1.胚様体形成システムを介する間葉系幹細胞の製造
対照群として、胚様体形成システムを介するヒト胚性幹細胞から間葉系幹細胞を製造した。該胚様体形成システムを介する間葉系幹細胞は、下記のように製造した。
【0072】
具体的には、ヒト胚性幹細胞株を、7.5x10細胞/ウェル(0.1%ゼラチンコーティングディッシュ、4ウェル)の濃度に事前に準備されたMEF培養補助細胞上で、コロニー状に共培養した。EB形成のために、前記hESCを解剖顕微鏡下で滅菌されたチップを使用し、機械的にいくつかの群(2~4の群集体状)に分離し、20% KSR(knockout-serum replacement、Invitrogen)が添加されたDMEM/F12(Dulbecco’s Modified Eagle Medium、栄養混合物(nutrient mixture)F-12)培地の60mmペトリ皿上で5日間培養した。EBが形成された後、20% KSR+DMEM/F12培地(EB培養液:hESC培養液からbFGFだけが除外された培養液)で一日培養した後、前記EB培養液に、1μM TGF-beta抑制剤(SB431542)を添加し、2週間(13日間)培養し、培地は、2日に1回入れ替えた。その後、1ウェルに、EBが5ないし7個の密度になるように、0.1%ゼラチン(30分空気乾燥)でコーティングされた6ウェルプレートに移し、10% FBS及び1% P/S(ペニシリン・ストレプトマイシン、Invitrogen)が添加されたDMEM(低グルコース(low glucose);5.5mM Dグルコース(1g/L))で16日間培養した。培養48時間後、EBの付着、及びEBから出てくる細胞を確認し、培地は、1週間に2回入れ替えた。16日後、EBにおいて伸びて育った細胞は、TrypLE溶液(Invitrogen;1ウェル当たり500μl TrypLE、2分インキューベーション)で分離し、0.1%ゼラチンがコーティングされた75Tフラスコに移し、10% FBS及び1% P/Sが添加されたDMEM(低グルコース;5.5mMDグルコース(1g/L))で培養した。翌日、10% FBS及び1% P/Sが添加されたDMEM(低グルコース;5.5mMDグルコース(1g/L))において、継代培養し、10%FBS、1% NEAA(非必須アミノ酸、Invitrogen)及び0.1% β-メルカプトエタノール(Invitrogen)を含むMSC増殖培地において細胞が当該継代に逹するたびに、0.05% トリプシン-EDTA(75Tフラスコ当たり1.5ml、2分インキュベーション)を利用して継代培養する方式で間葉系幹細胞を製造した。
【0073】
比較例2.DNA修復剤単独処理を介する間葉系幹細胞の製造
前記実施例1.3.において、ROCK抑制剤を使用せず、Rad51促進剤(RS1)10μM及びTGF-β阻害剤(SB431542)1μMを処理したことだけを除いては、前記実施例1と同一方法で間葉系幹細胞を製造した。
【0074】
比較例3.ROCK抑制剤単独処理を介する間葉系幹細胞の製造
前記実施例1.3.において、DNA修復剤を使用せず、ROCK阻害剤(Y27632)10μM及びTGF-β阻害剤(SB431542)1μMを処理したことだけを除いては、前記実施例1と同一方法で間葉系幹細胞を製造した。
【0075】
実験例.ヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の特性分析
1.細胞形態学的特性分析
前記実施例1及び比較例1で得られた間葉系幹細胞の細胞形態学的特性を分析するために、位相差顕微鏡(phase-contrast microscope)(Nikon TE-2000)下で、間葉系幹細胞特異的な細胞増殖形態(渦状(spindle-like shape))を形成しつつ増殖されているか否かということを確認し、その結果は、それぞれ図2及び図3に示した。
【0076】
図2は、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態学的特性を示した写真である。
【0077】
図3は、比較例による胚様体形成システムを介するヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態学的特性を示した写真である。
【0078】
図2に示されているように、一具体例による製造方法によって製造されたヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞は、分化約10日目から、成体組織由来の間葉系幹細胞と類似した渦状の細胞を形成し、だんだんと増殖され、分化約24日目に至っては、ほとんどの細胞が間葉系幹細胞類型を有するということを確認することができた。それに反し、図3に示されているように、既存に報告された胚様体形成システムを利用したヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞は、40日目に渦状を形成し、増殖されることを確認することができた。
【0079】
これは、一具体例による方法が、既存に報告された方法よりもさらに短期間内に、高純度の間葉系幹細胞特異的な形態を示す細胞を確保することができるということを意味する。
【0080】
2.細胞取得率分析
前記実施例1の方法による細胞の取得率を分析するために、増殖細胞数を確認した。具体的には、前記実施例1及び比較例1の間葉系幹細胞を製造する過程において、トリプシンによって単一細胞化する段階において、0.4%(v/v)トリパンブルー溶液で細胞を染色した。その後、ヘモサイトメータを利用し、得られた細胞の生存細胞数を分析し、その結果を図4に示した。
【0081】
また、前記実施例2.1.の細胞形態学的観点において、一具体例による方法によって製造されたヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の、細胞治療剤として使用可能な適用時点は、間葉系幹細胞特異的な細胞増殖形態である渦形態の増殖特徴を示す3継代数以上からである。それにより、細胞治療に適用するためのヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞株の分化所要時間も、前述のところと同一方法によって分析し、その結果を図5に示した。
【0082】
図4は、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞取得率(直接分化+(SB431542+RS1+Y27632))を、胚様体形成システムを利用したヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞取得率(胚様体+SB431542))と比較したグラフである。
【0083】
図5は、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞(直接分化+(SB431542+RS1+Y27632))を細胞治療剤として活用するために必要となる分化期間を、胚様体形成システムを利用したヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞(胚様体+SB431542))と比較したグラフである。
【0084】
図4に示されているように、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の製造方法は、既存に報告された方法に比べ、さらに短期間内に多数の細胞が得られるということが分かった。
【0085】
また、図5に示されているように、一具体例による方法は、既存に報告された胚様体形成システムに比べ、細胞治療剤として適用可能な分化期間を、約1.5倍から2倍ほど短縮させたということが分かった。
【0086】
3.表面発現マーカー分析
前記実施例1.で製造されたヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の表面マーカー発現分析のために、流細胞分析を行った。
【0087】
具体的には、前記ヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞培養(培養30日目(passage 4))を、1%(v/v)ペニシリン・ストレプトマイシンが含まれたPBSで水洗いした後、トリプシン(0.05%、トリプシン/EDTA、Gibco、米国)を使用し、単一細胞化させた。その後、冷たい4%ホルムアルデヒド溶液で、常温で30分間固定させた後、0.2%(v/v)FBSを含むPBSで4回水洗いした。その後、APCまたはPEが標識された抗体を、0.2% FBSを含むPBSに、最終的に5~15μgの濃度になるように希釈した後、暗いところで30分間常温で処理した。次に、0.2%(v/v)FBSが含有されたPBSで4回水洗いした後、流細胞分析器を介し、発現程度を確認した。抗体は、未分化細胞標識子であるTRA-1-60(PE(phycoerythrin)-conjugated mouse anti-human TRA-1-60;Cat.560193、BD PharmingenTM)、造血幹細胞(造血母細胞)標識子であるCD34(APC(allophycocyanine)-conjugated mouse anti-human CD34;Cat.555824、BD PharmingenTM)、血液・血管形成前駆細胞標識子であるVEGFR2(APC-conjugated mouse anti-human VEGFR2;Cat.BD PharmingenTM)、間葉系幹細胞標識子であるCD29(APC-conjugated mouse anti-human CD29;Cat.559883、BD PharmingenTM)、CD44(APC-conjugated mouse anti-human CD44;Cat.559942、BD PharmingenTM))、CD90(APC-conjugated mouse anti-human CD90;Cat.561971、BD PharmingenTM)及びCD105(APC-conjugated mouse anti-human CD105;Cat.562408、BD PharmingenTM)に対する抗体を使用した。
【0088】
前述の流細胞分析結果は、図6に示した。
【0089】
また、一具体例による方法が、血液・血管形成前駆細胞を経由せずに分化されるか否かということを確認するために、培養4日目(実施例1.3)の細胞の表面マーカー発現を流細胞分析によって分析し、その結果を図7に示した。
【0090】
同時に、前記培養30日目(passage 4)と培養4日目との細胞表面マーカー発現分析結果を比較し、その結果を図8に示した。
【0091】
図6は、一具体例による培養30日目(passage 4)のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞表面発現マーカーを、流細胞分析によって分析した結果を示した図面である。
【0092】
図7は、一具体例による培養4日目のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞表面発現マーカーを、流細胞分析によって分析した結果を示した図面である。
【0093】
図8は、一具体例による培養30日目(passage 4)のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞と、培養4日目のヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞との細胞表面発現マーカーを比較したグラフである。
【0094】
図6に示されているように、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の未分化細胞マーカー(pluripotent marker)であるTRA-1-60、造血幹細胞(造血母細胞)マーカー(hematopoietic stem cell marker)であるCD34、そして間葉系幹細胞マーカー(mesenchymal stem cell maker)であるCD29、CD44、CD90、CD105の発現いかんを確認した結果、未分化細胞標識因子であるTRA-1-60は、発現していない一方(TRA-1-60、0.00%)、間葉系幹細胞マーカーは、高比率で発現していることが分かった(CD29 99.70%、CD44 99.45%、CD90 87.15%、CD105 96.60%)。従って、一具体例による方法で誘導されたヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞は、高い中胚葉性性質を有する細胞であるということを確認した。
【0095】
また、図7に示されているように、分化4日目に細胞表面マーカーを分析した結果、造血幹細胞(造血母細胞)標識子であるCD34の発現比率が非常に高く示されながら(CD34 69.65%)、血液・血管形成前駆細胞のマーカーであるVEGFR2は、ほとんど発現していないことが分かった(VEGFR2 0.70%)。
【0096】
また、前述の図6及び図7の結果を総合すれば、図8に示されているように、分化30日目(passage 4)においては、間葉系幹細胞マーカーが高比率で発現し、分化4日目には、造血幹細胞(造血母細胞)標識子であるCD34が高比率で発現し、血液・血管形成前駆細胞のマーカーであるVEGFR2が低比率で発現するということが分かった。
【0097】
以上の結果は、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の製造方法が、血液・血管形成前駆細胞を経由せず、造血幹細胞(造血母細胞)性質を有する未成熟間葉系幹細胞を経由する形態に製造されるということを意味する。
【0098】
4.細胞分化能分析
前記実施例1で製造されたヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の脂肪細胞分化能、骨細胞分化能及び軟骨細胞分化能を確認した。
【0099】
具体的には、脂肪細胞分化誘導剤(StemPro(登録商標) Adipocyte differentiation kit、Gibco)、骨細胞分化誘導剤(StemPro(登録商標) Osteocyte differentiation kit、Gibco)及び軟骨細胞分化誘導剤(StemPro(登録商標) Chondrocyte differentiation kit、Gibco)を利用し、それぞれ脂肪細胞、骨細胞及び軟骨細胞に、製造社の指示によって分化誘導した。その後、脂肪細胞(adipocyte)特異的、骨細胞(osteocyte)特異的及び軟骨細胞(chondrocyte)特異的な染色液(それぞれ順にオイルレッドO、アリザリンレッドそしてアルシアンブルー)を使用し、細胞分化を最終的に確認し、その結果を図9に示した。
【0100】
図9は、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞分化能を確認したグラフである。
【0101】
図9に示されているように、脂肪細胞に分化誘導した場合には、脂質特異的染色液であるオイルレッドOにより、細胞内脂質成分が赤色に染色される脂質滴(lipid droplet)の形態を確認し、骨細胞に分化誘導した場合には、アリザリンレッド溶液により、細胞内蓄積されたカルシウムが濃オレンジ色を帯びる形態を確認し、軟骨細胞に分化誘導した場合には、軟骨細胞特異的染色液であるアルシアンブルーにより、軟骨細胞の細胞外基質(matrix)物質であるミューシンが青色に染色されることを確認した。前述の結果により、一具体例によって製造された間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞に分化することができ、多分化能があるということが分かる。
【0102】
5.単独物質処理による期間別細胞形態差分析
DNA修復剤とROCK抑制剤との単独処理による期間別細胞形態差を分析するために、前記実施例1、前記比較例2及び前記比較例3の細胞の細胞形態を、前記実験例1と同一方法で分析した。対照群(control)としては、DNA修復剤とROCK抑制剤とをいずれも使用せず、TGF-β抑制剤であるSB431542を単独処理したものを使用し、その結果を図10に示した。
【0103】
図10は、一具体例によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態特性を、DNA修復剤とROCK抑制剤との単独処理によるヒト胚性幹細胞由来の間葉系幹細胞の細胞形態特性と比較した写真である。
【0104】
図10に示されているように、全てのグループにおいて、渦形態の間葉系幹細胞増殖形態が示されているが、最も先に間葉系幹細胞形態を示しながら、高収率を示したのは、一具体例による間葉系幹細胞(SB431542+RS1+Y27632)であることが分かった。また、SB431542+Y27632処理時またはSB431542+RS1処理時には、約30日以上で間葉系幹細胞への均一な増殖がなされ、SB431542単独処理した対照群グループにおいては、23日目ころに大きい細胞増殖が観察されるが、30日目ことに至っては、ほとんど消滅し、他グループと同じ間葉系幹細胞形態の細胞が示されるが、均一性が落ちるということが分かった。
【0105】
以上の結果により、一具体例による間葉系幹細胞の製造方法は、短期間内に高取得率で間葉系幹細胞を製造するだけではなく、胚様体状の段階がなく、製造工程が単純であり、均質性を有する細胞を得ることができ、既存方法より短縮された期間で細胞治療剤の提供が可能であるということが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-04-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rad51活性剤、ROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤、及びTGF-β抑制剤を含む、多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化誘導用培地組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0105
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0105】
以上の結果により、一具体例による間葉系幹細胞の製造方法は、短期間内に高取得率で間葉系幹細胞を製造するだけではなく、胚様体状の段階がなく、製造工程が単純であり、均質性を有する細胞を得ることができ、既存方法より短縮された期間で細胞治療剤の提供が可能であるということが分かった。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]DNA修復剤及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤を含む、多能性幹細胞の間葉系幹細胞への分化誘導用培地組成物。
[実施形態2]前記DNA修復剤は、3-[(ベンジルアミノ)スルホニル]-4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)ベンズアミドまたは4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)-3-[[(フェニルメチル)アミノ]スルホニル]-ベンズアミドである、実施形態1に記載の培地組成物。
[実施形態3]前記ROCK抑制剤は、ファスジル、リパスジル、4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド、4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ(2,3-b)ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、N-(6-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-6-オキソ-4-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-ピリジンカルボキサミド、1-(3-ヒドロキシベンジル)-3-[4-(ピリジン-4-イル)チアゾール-2-イル]尿素、2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピンジヒドロクロリド、N-[2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]-4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-カルボキサミドジヒドロクロリド]、2-フルオロ-N-[[4-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)フェニル]メチル]ベンゼンメタンアミンジヒドロクロリド、N-[3-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-6-イル]オキシ]フェニル]-4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]ベンズアミド、(3S)-1-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-7-イル]カルボニル]-3-ピロリジンアミンジヒドロクロリド、N-[(1S)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-N'-[4-(4-ピリジニル)フェニル]-尿素、アザインドール-1及びナルシクラシンからなる群から選択されるいずれか一つである、実施形態1に記載の方法。
[実施形態4]TGF-β抑制剤をさらに含む、実施形態1に記載の培地組成物。
[実施形態5]前記TGF-β抑制剤は、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジン、4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、4-[4-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(1、1-ジメチルエチル)-1H-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-[(4-ピリジル)アミノ]プテリジン、6-[2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル]-キノキサリン、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール及び3-[[5-(6-メチル-2-ピリジニル)-4-(6-キノキサリニル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]ベンズアミドからなる群から選択されるいずれか一つである、実施形態4に記載の培地組成物。
[実施形態6]前記DNA修復剤は、5μMないし20μMの濃度で含まれるものである、実施形態1に記載の培地組成物。
[実施形態7]前記ROCK抑制剤は、5μMないし20μMの濃度で含まれるものである、実施形態1に記載の培地組成物。
[実施形態8]前記TGF-β抑制剤は、0.2μMないし2.0μMの低濃度で含まれるものである、実施形態4に記載の培地組成物。
[実施形態9]分離された多能性幹細胞を培養する段階と、
前記培養された多能性幹細胞を、DNA修復剤及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤を含む培地で培養し、間葉系幹細胞に分化誘導する段階と、
を含む多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞を製造する方法。
[実施形態10]培養された胚性幹細胞を、TGF-β抑制剤の存在下で中胚葉性細胞に分化させる段階をさらに含む、実施形態9に記載の方法。
[実施形態11]前記分化誘導された間葉系幹細胞を、間葉系幹細胞成熟培地で培養する段階、または前記成熟培地で培養された間葉系幹細胞を継代培養する段階をさらに含む、実施形態9に記載の方法。
[実施形態12]前記分離された多能性幹細胞を培養する段階は、支持細胞の不在下で細胞付着機能強化剤がコーティングされた培養容器で培養する、実施形態9に記載の方法。
[実施形態13]胚様体形成段階を含まないものである、実施形態9に記載の方法。
[実施形態14]前記DNA修復剤は、3-[(ベンジルアミノ)スルホニル]-4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)ベンズアミドまたは4-ブロモ-N-(4-ブロモフェニル)-3-[[(フェニルメチル)アミノ]スルホニル]-ベンズアミドである、実施形態9に記載の方法。
[実施形態15]前記ROCK抑制剤は、ファスジル、リパスジル、4-((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド、4-(1-アミノエチル)-N-(1H-ピロロ(2,3-b)ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミドジヒドロクロリド、N-(6-フルオロ-1H-インダゾール-5-イル)-1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-6-オキソ-4-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-3-ピリジンカルボキサミド、1-(3-ヒドロキシベンジル)-3-[4-(ピリジン-4-イル)チアゾール-2-イル]尿素、2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピンジヒドロクロリド、N-[2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]-4-(1H-ピラゾール-4-イル)フェニル-2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-2-カルボキサミドジヒドロクロリド]、2-フルオロ-N-[[4-(1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-4-イル)フェニル]メチル]ベンゼンメタンアミンジヒドロクロリド、N-[3-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-6-イル]オキシ]フェニル]-4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]ベンズアミド、(3S)-1-[[2-(4-アミノ-1,2,5-オキサジアゾール-3-イル)-1-エチル-1H-イミダゾ[4,5-c]ピリジン-7-イル]カルボニル]-3-ピロリジンアミンジヒドロクロリド、N-[(1S)-2-ヒドロキシ-1-フェニルエチル]-N'-[4-(4-ピリジニル)フェニル]-尿素、アザインドール-1及びナルシクラシンからなる群から選択されるいずれか一つである、実施形態9に記載の方法。
[実施形態16]前記TGF-β抑制剤は、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-1,5-ナフチリジン、4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、4-[4-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-5-(2-ピリジル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、2-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-2-(1、1-ジメチルエチル)-1H-イミダゾール-5-イル]-6-メチル-ピリジン、2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)-4-[(4-ピリジル)アミノ]プテリジン、6-[2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル]-キノキサリン、4-{4-[3-(ピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル]-ピリジン-2-イル}-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)ベンズアミド水和物、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール及び3-[[5-(6-メチル-2-ピリジニル)-4-(6-キノキサリニル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]ベンズアミドからなる群から選択されるいずれか一つである、実施形態9に記載の方法。
[実施形態17]前記TGF-β抑制剤の存在下で中胚葉性細胞に分化させる段階は、TGF-β抑制剤を含む培地で2日ないし7日間培養する段階を含む、実施形態10に記載の方法。
[実施形態18]前記培地で分化誘導する段階は、DNA修復剤、ROCK抑制剤及びTGF-β抑制剤を含む培地で1日ないし2日間分化誘導する段階を含む、実施形態9に記載の方法。
[実施形態19]前記成熟培地で培養する段階は、トリプシンで処理する段階と、DMEM/F12(Dulbecco's Modified Eagle Medium:栄養混合物F-12)成熟培地で培養する段階と、前記成熟培地で培養された細胞を遠心分離する段階と、を含む、実施形態11に記載の方法。
[実施形態20]前記継代培養する段階は、細胞付着機能強化剤がコーティングされた培養容器において、トリプシン存在下で継代培養する、実施形態11に記載の方法。
[実施形態21]前記継代培養は、1ないし10継代まで行われる、実施形態20に記載の方法。
[実施形態22]前記継代培養は、脱落された非中胚葉性幹細胞を除去し、中胚葉性幹細胞を分離する段階を含む、実施形態11に記載の方法。
[実施形態23]前記多能性幹細胞は、核移植多能性幹細胞(NT-hPSC)、単為生殖生物由来ヒト多能性幹細胞(pn-hPSC)、逆分化万能幹細胞(iPSC)または胚性幹細胞(ESC)である、実施形態9に記載の方法。
[実施形態24]前記間葉系幹細胞に分化誘導する段階において、前記間葉系幹細胞は、未成熟間葉系幹細胞であり、前記未成熟間葉系幹細胞を経由して間葉系幹細胞が製造される、実施形態9に記載の方法。
[実施形態25]前記未成熟間葉系幹細胞は、細胞集団の10%以下が、血液・血管形成前駆細胞のマーカーであるVEGFR2を発現し、血液・血管形成前駆細胞を経由しない、実施形態24に記載の方法。
[実施形態26]前記製造された間葉系幹細胞は、細胞集団の70%以上が、マーカーCD29、CD44、CD90またはCD105に対して陽性であり、細胞集団の10%以下が、マーカーTRA-160、CD34またはVEFGR2に対して陰性である、実施形態9に記載の方法。
[実施形態27]前記間葉系幹細胞は、造血幹細胞、筋肉細胞、心筋細胞、肝細胞、軟骨細胞、上皮細胞、泌尿器官細胞、腎臓細胞、血管細胞、網膜細胞及びニューロン細胞からなる群から選択される1種以上への分化能を有する、実施形態9に記載の方法。
[実施形態28]DNA修復剤及びROCK(Rho associated coiled-coil containing protein kinase)抑制剤の存在下で分化誘導された、多能性幹細胞由来の間葉系幹細胞。
[実施形態29]前記間葉系幹細胞は、細胞集団の70%以上が、マーカーCD29、CD44、CD90またはCD105に対して陽性であり、細胞集団の10%以下が、マーカーTRA-160、CD34またはVEFGR2に対して陰性である、実施形態28に記載の細胞。
[実施形態30]実施形態9に記載の方法によって製造された間葉系幹細胞を、少なくとも3継代で継代培養する段階であり、細胞治療剤適用のための多能性幹細胞からの分化誘導及び培養期間が、20日ないし40日である段階を含む、間葉系幹細胞を含む細胞治療剤を製造する方法。