(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007837
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】重力式揚重装置
(51)【国際特許分類】
E04H 3/14 20060101AFI20230112BHJP
E04H 3/22 20060101ALI20230112BHJP
E04B 1/343 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
E04H3/14 C
E04H3/22
E04H3/14 D
E04B1/343 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110934
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】517064843
【氏名又は名称】河野 久米彦
(71)【出願人】
【識別番号】502410196
【氏名又は名称】株式会社 横河システム建築
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 久米彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】朱 大立
(72)【発明者】
【氏名】村岡 真
(72)【発明者】
【氏名】今井 卓司
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 峰義
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち、カウンターウェイトを利用して吊荷を昇降させるとともに、上昇した吊荷や床面上に載置された吊荷から吊ロープを取り外すことができる重力式揚重装置を提供することである。
【解決手段】本願発明の重力式揚重装置は、基礎床面上に載置される吊荷を昇降させる装置であって、天井体と前方主滑車、後方主滑車、主吊ロープ、係止具、重錘、吊荷支持手段、昇降手段を備えたものである。天井体まで上昇した吊荷を吊荷支持手段によって支持することで、吊荷と主吊ロープとの連結解除が可能となる。また、昇降手段が重錘を上昇させることによって、主吊ロープに連結された吊荷を降下させることができ、吊荷が基礎床面上に載置されると吊荷と主吊ロープとの連結解除が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎床面上に載置される吊荷を、上昇させるとともに降下させる装置であって、
前記基礎床面よりも高い位置に設置された天井体と、
前記天井体に取り付けられ、鉛直又は略鉛直面内で回転可能な前方主滑車、及び後方主滑車と、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下するとともに前記後方主滑車に掛け回されて垂下する主吊ロープと、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられた係止具と、
前記後方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられ、前記吊荷よりも重い重錘と、
前記吊荷を支持可能な吊荷支持手段と、
前記重錘を上昇させるとともに降下させる昇降手段と、を備え、
前記係止具を、前記吊荷の被係止具に係止することによって、該主吊ロープと該吊荷が連結され、
前記昇降手段は、前記重錘を降下させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を前記吊荷支持手段が支持することによって、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能であり、
前記昇降手段は、前記重錘を上昇させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を降下させ、
前記吊荷が前記基礎床面上に載置されると、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能である、
ことを特徴とする重力式揚重装置。
【請求項2】
基礎床面上に載置される吊荷を、上昇させるとともに降下させる装置であって、
前記基礎床面よりも高い位置に設置された天井体と、
前記天井体に取り付けられ、鉛直又は略鉛直面内で回転可能な前方主滑車、及び後方主滑車と、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下するとともに前記後方主滑車に掛け回されて垂下する主吊ロープと、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられた係止具と、
前記後方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられ、前記吊荷よりも重い重錘と、
前記吊荷を支持可能な吊荷支持手段と、
前記重錘を上昇させるとともに降下させる昇降手段と、を備え、
前記主吊ロープは、前記後方主滑車に掛け回されて垂下するとともに、下端で動滑車に掛け回されたうえで先端が固定され、
前記係止具を、前記吊荷の被係止具に係止することによって、該主吊ロープと該吊荷が連結され、
前記昇降手段は、前記重錘を降下させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を前記吊荷支持手段が支持することによって、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能であり、
前記昇降手段は、前記重錘を上昇させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を降下させ、
前記吊荷が前記基礎床面上に載置されると、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能である、
ことを特徴とする重力式揚重装置。
【請求項3】
前記重錘は、底部重錘と、該底部重錘より上方に配置される本体重錘と、を含んで構成され、
前記本体重錘を支持可能な重錘支持手段を、さらに備え、
前記吊荷が前記基礎床面上に載置されて該吊荷と前記主吊ロープとの連結が解除され、かつ前記本体重錘が前記重錘支持手段によって支持されると、前記昇降手段が前記底部重錘を降下させることによって、前記係止具を上昇させる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の重力式揚重装置。
【請求項4】
前記吊荷は、左側面と右側面を有する板状又は函体状であり、
前記天井体は、同一又は略同一の高さに配置される左天井体と右天井体とを含んで構成され、
前記前方主滑車は、前記左天井体に取り付けられる左前方主滑車と、前記右天井体に取り付けられる右前方主滑車と、を含んで構成され、
前記後方主滑車は、前記左天井体に取り付けられる左後方主滑車と、前記右天井体に取り付けられる右後方主滑車と、を含んで構成され、
前記主吊ロープは、前記左前方主滑車と前記左後方主滑車とに掛け回される左主吊ロープと、前記右前方主滑車と前記右後方主滑車とに掛け回される右主吊ロープと、を含んで構成され、
前記係止具は、前記左前方主滑車に掛け回されて垂下する前記左主吊ロープの下端に取り付けられる左係止具と、前記右前方主滑車に掛け回されて垂下する前記右主吊ロープの下端に取り付けられる右係止具と、を含んで構成され、
前記重錘は、前記左後方主滑車に掛け回されて垂下する前記左主吊ロープの下端に取り付けられる左重錘と、前記右後方主滑車に掛け回されて垂下する前記右主吊ロープの下端に取り付けられる右重錘と、を含んで構成され、
前記吊荷支持手段は、左吊荷支持手段と、右吊荷支持手段と、を含んで構成され、
前記昇降手段は、前記左重錘を上昇させるとともに降下させる左昇降手段と、前記右重錘を上昇させるとともに降下させる右昇降手段と、を含んで構成され、
前記吊荷は、前記左前方主滑車から垂下する前記左主吊ロープと前記右前方主滑車から垂下する前記右主吊ロープとの間であって、前記左側面が前記左主吊ロープ側に配置されるとともに、前記右側面が前記右主吊ロープ側に配置されるように、前記基礎床面上に載置され、
前記吊荷の前記左側面に設けられた前記被係止具に前記左係止具を係止するとともに、前記吊荷の前記右側面に設けられた前記被係止具に前記右係止具を係止することによって、前記主吊ロープと該吊荷が連結され、
前記左昇降手段が前記左重錘を降下させるとともに、前記右昇降手段が前記右重錘を降下させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を、前記左吊荷支持手段と前記右吊荷支持手段が支持する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の重力式揚重装置。
【請求項5】
基礎床面上に載置される吊荷を、上昇させるとともに降下させる装置であって、
前記基礎床面よりも高い位置に設置された天井体と、
前記天井体に取り付けられ、鉛直又は略鉛直面内で回転可能な前方主滑車、及び後方主滑車と、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下するとともに前記後方主滑車に掛け回されて垂下する主吊ロープと、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられた係止具と、
前記後方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられ、前記吊荷よりも軽い重錘と、
前記吊荷を支持可能な吊荷支持手段と、
前記係止具を上昇させるとともに降下させる昇降手段と、を備え、
前記係止具を、前記吊荷の被係止具に係止することによって、該主吊ロープと該吊荷が連結され、
前記昇降手段は、前記係止具を上昇させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を前記吊荷支持手段が支持することによって、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能であり、
前記昇降手段は、前記係止具を降下させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を降下させ、
前記吊荷が前記基礎床面上に載置されると、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能である、
ことを特徴とする重力式揚重装置。
【請求項6】
基礎床面上に載置される吊荷を、上昇させるとともに降下させる装置であって、
前記基礎床面よりも高い位置に設置された天井体と、
前記天井体に取り付けられ、鉛直又は略鉛直面内で回転可能な前方主滑車、及び後方主滑車と、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下するとともに前記後方主滑車に掛け回されて垂下する主吊ロープと、
前記前方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられた係止具と、
前記後方主滑車に掛け回されて垂下する前記主吊ロープの下端に取り付けられ、前記吊荷よりも軽い重錘と、
前記吊荷を支持可能な吊荷支持手段と、
前記係止具を、上昇させるとともに降下させる昇降手段と、を備え、
前記主吊ロープは、前記後方主滑車に掛け回されて垂下するとともに、下端で動滑車に掛け回されたうえで先端が固定され、
前記係止具を、前記吊荷の被係止具に係止することによって、該主吊ロープと該吊荷が連結され、
前記昇降手段は、前記係止具を上昇させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を前記吊荷支持手段が支持することによって、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能であり、
前記昇降手段は、前記係止具を降下させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を降下させ、
前記吊荷が前記基礎床面上に載置されると、該吊荷と前記主吊ロープとの連結解除が可能である、
ことを特徴とする重力式揚重装置。
【請求項7】
前記重錘は、底部重錘と、該底部重錘より上方に配置される本体重錘と、を含んで構成され、
前記本体重錘を支持可能な重錘支持手段を、さらに備え、
前記吊荷が前記基礎床面上に載置されて該吊荷と前記主吊ロープとの連結が解除され、かつ前記本体重錘が前記重錘支持手段によって支持されると、前記昇降手段が前記係止具を上昇させることによって、前記底部重錘を降下させる、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6記載の重力式揚重装置。
【請求項8】
前記吊荷は、左側面と右側面を有する板状又は函体状であり、
前記天井体は、同一又は略同一の高さに配置される左天井体と右天井体とを含んで構成され、
前記前方主滑車は、前記左天井体に取り付けられる左前方主滑車と、前記右天井体に取り付けられる右前方主滑車と、を含んで構成され、
前記後方主滑車は、前記左天井体に取り付けられる左後方主滑車と、前記右天井体に取り付けられる右後方主滑車と、を含んで構成され、
前記主吊ロープは、前記左前方主滑車と前記左後方主滑車とに掛け回される左主吊ロープと、前記右前方主滑車と前記右後方主滑車とに掛け回される右主吊ロープと、を含んで構成され、
前記係止具は、前記左前方主滑車に掛け回されて垂下する前記左主吊ロープの下端に取り付けられる左係止具と、前記右前方主滑車に掛け回されて垂下する前記右主吊ロープの下端に取り付けられる右係止具と、を含んで構成され、
前記重錘は、前記左後方主滑車に掛け回されて垂下する前記左主吊ロープの下端に取り付けられる左重錘と、前記右後方主滑車に掛け回されて垂下する前記右主吊ロープの下端に取り付けられる右重錘と、を含んで構成され、
前記吊荷支持手段は、左吊荷支持手段と、右吊荷支持手段と、を含んで構成され、
前記昇降手段は、前記左係止具を上昇させるとともに降下させる左昇降手段と、前記右係止具を上昇させるとともに降下させる右昇降手段と、を含んで構成され、
前記吊荷は、前記左前方主滑車から垂下する前記左主吊ロープと前記右前方主滑車から垂下する前記右主吊ロープとの間であって、前記左側面が前記左主吊ロープ側に配置されるとともに、前記右側面が前記右主吊ロープ側に配置されるように、前記基礎床面上に載置され、
前記吊荷の前記左側面に設けられた前記被係止具に前記左係止具を係止するとともに、前記吊荷の前記右側面に設けられた前記被係止具に前記右係止具を係止することによって、前記主吊ロープと該吊荷が連結され、
前記左昇降手段が前記左係止具を上昇させるとともに、前記右昇降手段が前記右係止具を上昇させることによって、前記主吊ロープに連結された前記吊荷を上昇させ、
前記天井体まで上昇した前記吊荷を、前記左吊荷支持手段と前記左吊荷支持手段が支持する、
ことを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の重力式揚重装置。
【請求項9】
前記被係止具は、前記吊荷の側面から側方に突出した突起体であり、
前記前方主滑車は、鉛直面内を斜方向に移動可能であり、
上方かつ前記吊荷側に前記前方主滑車を移動することによって、前記係止具が前記被係止具の下方に当接して該係止具が該被係止具に係止される、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の重力式揚重装置。
【請求項10】
前記天井体には、水平な軸である主軸に沿って複数の前記前方主滑車及び前記後方主滑車が取り付けられるとともに、それぞれの該前方主滑車及び該後方主滑車には、前記主吊ロープが掛け回され、
前記被係止具は、前記吊荷の前記側面に沿って一連で設けられるとともに、複数個所に切欠きが形成された櫛状であり、
前記係止具は、複数の前記主吊ロープの下端に取り付けられ、前記主軸方向に配置される棒状又は柱状であり、
前記側面が前記主軸方向となるように載置された前記吊荷の前記切欠き内に、それぞれの前記主吊ロープが配置された状態で、前記係止具を前記被係止具の下方に当接することによって該係止具と該被係止具が係止される、
ことを特徴とする請求項9記載の重力式揚重装置。
【請求項11】
前記吊荷支持手段によって支持された前記吊荷を、前記主軸方向にスライド移動させるスライド移動手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項10記載の重力式揚重装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、吊荷を昇降させる揚重装置に関するものであり、より具体的には、吊ロープとカウンターウェイトを用いて吊荷を昇降させるとともに、上昇した吊荷や地上に載置された吊荷から吊ロープを取り外すことができる揚重装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
競技場は、ある特定の競技を行うため、あるいはその競技を観戦させることを目的とする施設であり、野球場やサッカー場などはその代表的な例である。ところが、競技場で行われる競技の回数(例えば試合数)は一般的に年間を通じて数十回程度であり、そのため現状では年間を通じて安定的に収益を上げることは難しい。
【0003】
そこでスポーツ庁では、官民連携によるスタジアムやアリーナの整備計画策定に対して財政支援を行うこととしており、「稼げる」という視点を重視したうえでスポーツ以外のイベントも常時開催できる多機能型・複合型の施設の整備を推し進めている。そして、「稼げる」を重視した多機能型・複合型のスタジアムやアリーナを2025年までに全国的に整備する目標を掲げている。
【0004】
野球とサッカー、そしてコンサートなどに使用することができる多目的競技場は、1年を通じて定常的に集客機会が得られることから収益面にとっては極めて好適であり、これまでにも多目的競技場に関する様々な提案が行われてきた。例えば特許文献1では、フィールドの周囲に設置された外壁のうち一部の外壁を平面移動(スライド移動)することによってフィールドの広さ(面積)を可変とする多目的競技場について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される多目的競技場は、可動壁を平面移動することによって通常の競技用の空間よりも狭小な催事用空間を形成することができ、またフィールド全体を平面移動することによってその催事用空間からフィールドを取り除くことができる競技場である。これにより、本来の競技場としての用途であるサッカー等を実施することができるうえに、狭小な催事用空間を形成することで臨場感をもってコンサート等を開催することもでき、しかもフィールドを移動していることから天然芝の損傷を気にすることなく各種催事(イベント)を執り行うことができる。このように特許文献1に開示される発明は、極めて有効に多目的を達成することができるものであるが、可動壁を平面移動するため競技用の空間を維持したまま各種催事を執り行うことができないという問題を抱えていた。
【0007】
同じ空間を維持したまま競技と各種イベントを実施するためには、競技用のフィールド(例えば、芝生のフィールド)とイベント用の床(例えば、コンクリート床やフローリング床)を用意し、これらを2層構造とすることが考えられる。サッカー等を実施するときは競技用フィールドをグランドレベルに配置し、一方、コンサート等を開催するときは、この競技用フィールドを上方高く吊上げてイベント用床の利用を可能とするわけである。
【0008】
通常、競技用フィールドなど大きな重量の吊荷を昇降させる場合、ウィンチなどの巻上機(以下、「昇降手段」という。)と吊ロープ(ワイヤーロープなど)、そしてカウンターウェイトが利用される。最も身近な例がエレベーターであり、滑車を介して吊ロープの一端がハッチ(乗降スペース)に固定され、その他端がカウンターウェイトに固定される。これによりハッチとカウンターウェイトがある程度バランスすることになり、ハッチを昇降させる昇降手段の負担が軽減され、すなわち大規模な昇降手段の設置を回避することができるわけである。
【0009】
ところで、エレベーターをはじめカウンターウェイトを利用した従来の昇降装置(揚重装置)は、吊ロープと吊荷(例えば、エレベーターのハッチ)が常に連結された状態であって解除されることはなかった。したがって、従来どおりカウンターウェイトを利用して競技用のフィールドを昇降させようとすると、吊ロープと競技用のフィールドは常に連結された状態となり、つまりグランドレベルに配置された競技用フィールドには上方から垂下する多数の吊ロープが連結した状態となり、競技を行う者にとっても観戦する者にとっても極めて不都合な状態となる。また、競技用のフィールドは、降雨や積雪によって全体重量の10%程度が増加することが知られており、これを考慮することなくカウンターウェイトを計画すると比較的大きな規模の昇降手段を用意しなければならない。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち、カウンターウェイトを利用して吊荷を昇降させるとともに、上昇した吊荷や床面上に載置された吊荷から吊ロープを取り外すことができる重力式揚重装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、吊ロープの下端に係止具を設けるとともに、吊荷に被係止具を設けることとし、これら係止具と被係止具を着脱自在に係止可能にするという点、上昇した吊荷を吊荷支持手段で支持することによって吊ロープと吊荷の連結解除を可能にするという点に着目して開発されたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の重力式揚重装置は、基礎床面上に載置される吊荷を昇降させる装置であって、天井体と前方主滑車、後方主滑車、主吊ロープ、係止具、重錘、吊荷支持手段、昇降手段を備えたものである。天井体は、基礎床面よりも高い位置に設置され、前方主滑車と後方主滑車は、略鉛直(鉛直を含む)面内で回転可能であり天井体に取り付けられる。主吊ロープは、前方主滑車に掛け回されて垂下するとともに後方主滑車に掛け回されて垂下し、係止具は、前方主滑車に掛け回されて垂下する主吊ロープの下端に取り付けられる。吊荷よりも重い重錘は、後方主滑車に掛け回されて垂下する主吊ロープの下端に取り付けられる。昇降手段は、重錘を昇降させる手段であり、吊荷支持手段は、吊荷を支持することができる手段である。なお、係止具を吊荷の被係止具に係止することによって主吊ロープと吊荷が連結され、昇降手段が重錘を降下させることによって主吊ロープに連結された吊荷が上昇する。そして天井体まで上昇した吊荷を吊荷支持手段によって支持することで、吊荷と主吊ロープとの連結解除が可能(吊荷と主吊ロープとの連結を解除しても吊荷は落下しない状態)となる。また、昇降手段が重錘を上昇させることによって、主吊ロープに連結された吊荷を降下させることができ、吊荷が基礎床面上に載置されると吊荷と主吊ロープとの連結解除が可能となる。
【0013】
本願発明の重力式揚重装置は、動滑車を利用したものとすることもできる。この場合の主吊ロープは、後方主滑車に掛け回されて垂下するとともに、下端で動滑車に掛け回されたうえで先端が固定される。
【0014】
本願発明の重力式揚重装置は、重錘が底部重錘と本体重錘(ただし、底部重錘より上方に配置される)を含んで構成され、この本体重錘を支持する重錘支持手段をさらに備えたものとすることもできる。この場合、吊荷が基礎床面上に載置されて吊荷と主吊ロープとの連結が解除されるとともに本体重錘が重錘支持手段によって支持されると、昇降手段が底部重錘を降下させることによって係止具は上昇する。
【0015】
本願発明の重力式揚重装置は、天井体が略同一(同一を含む)の高さに配置される左天井体と右天井体とを含んで構成されたものとすることもできる。この場合の前方主滑車は、左天井体に取り付けられる左前方主滑車と右天井体に取り付けられる右前方主滑車を含んで構成され、後方主滑車は、左天井体に取り付けられる左後方主滑車と右天井体に取り付けられる右後方主滑車を含んで構成され、主吊ロープは、左前方主滑車と左後方主滑車に掛け回される左主吊ロープと右前方主滑車と右後方主滑車に掛け回される右主吊ロープを含んで構成され、係止具は、左前方主滑車に掛け回されて垂下する左主吊ロープの下端に取り付けられる左係止具と右前方主滑車に掛け回されて垂下する右主吊ロープの下端に取り付けられる右係止具を含んで構成され、重錘は、左後方主滑車に掛け回されて垂下する左主吊ロープの下端に取り付けられる左重錘と右後方主滑車に掛け回されて垂下する右主吊ロープの下端に取り付けられる右重錘を含んで構成され、吊荷支持手段は、左吊荷支持手段と右吊荷支持手段を含んで構成され、昇降手段は、左重錘を昇降させる左昇降手段と右重錘を昇降させる右昇降手段を含んで構成される。左前方主滑車から垂下する左主吊ロープと右前方主滑車から垂下する右主吊ロープとの間であって左側面が左主吊ロープ側に配置されるとともに右側面が右主吊ロープ側に配置されるように吊荷が基礎床面上に載置されると、吊荷の左側面に設けられた被係止具に左係止具を係止するとともに吊荷の右側面に設けられた被係止具に右係止具を係止することによって主吊ロープと吊荷が連結される。そして、左昇降手段が左重錘を降下させるとともに右昇降手段が右重錘を降下させることによって、主吊ロープに連結された吊荷が上昇し、天井体まで上昇した吊荷は左吊荷支持手段と右吊荷支持手段によって支持される。
【0016】
本願発明の重力式揚重装置は、吊荷よりも軽い重錘を利用したものとすることもできる。この場合の昇降手段は、係止具を昇降させる。そして、昇降手段が係止具を上昇させることによって主吊ロープに連結された吊荷が上昇し、係止具を降下させることによって吊荷は降下する。
【0017】
吊荷よりも軽い重錘を利用した本願発明の重力式揚重装置は、動滑車を利用したものとすることもできる。この場合の主吊ロープは、後方主滑車に掛け回されて垂下するとともに、下端で動滑車に掛け回されたうえで先端が固定される。
【0018】
吊荷よりも軽い重錘を利用した本願発明の重力式揚重装置は、重錘が底部重錘と本体重錘(ただし、底部重錘より上方に配置される)を含んで構成され、この本体重錘を支持する重錘支持手段をさらに備えたものとすることもできる。この場合、吊荷が基礎床面上に載置されて吊荷と主吊ロープとの連結が解除されるとともに本体重錘が重錘支持手段によって支持されると、昇降手段が係止具を上昇させることによって底部重錘は降下する。
【0019】
本吊荷よりも軽い重錘を利用した本願発明の重力式揚重装置は、天井体が略同一(同一を含む)の高さに配置される左天井体と右天井体とを含んで構成されたものとすることもできる。この場合の前方主滑車は、左天井体に取り付けられる左前方主滑車と右天井体に取り付けられる右前方主滑車を含んで構成され、後方主滑車は、左天井体に取り付けられる左後方主滑車と右天井体に取り付けられる右後方主滑車を含んで構成され、主吊ロープは、左前方主滑車と左後方主滑車に掛け回される左主吊ロープと右前方主滑車と右後方主滑車に掛け回される右主吊ロープを含んで構成され、係止具は、左前方主滑車に掛け回されて垂下する左主吊ロープの下端に取り付けられる左係止具と右前方主滑車に掛け回されて垂下する右主吊ロープの下端に取り付けられる右係止具を含んで構成され、重錘は、左後方主滑車に掛け回されて垂下する左主吊ロープの下端に取り付けられる左重錘と右後方主滑車に掛け回されて垂下する右主吊ロープの下端に取り付けられる右重錘を含んで構成され、吊荷支持手段は、左吊荷支持手段と右吊荷支持手段を含んで構成され、昇降手段は、左係止具を昇降させる左昇降手段と右係止具を昇降させる右昇降手段を含んで構成される。左前方主滑車から垂下する左主吊ロープと右前方主滑車から垂下する右主吊ロープとの間であって左側面が左主吊ロープ側に配置されるとともに右側面が右主吊ロープ側に配置されるように吊荷が基礎床面上に載置されると、吊荷の左側面に設けられた被係止具に左係止具を係止するとともに吊荷の右側面に設けられた被係止具に右係止具を係止することによって主吊ロープと吊荷が連結される。そして、左昇降手段が左係止具を上昇させるとともに右昇降手段が右係止具を上昇させることによって、主吊ロープに連結された吊荷が上昇し、天井体まで上昇した吊荷は左吊荷支持手段と右吊荷支持手段によって支持される。
【0020】
本願発明の重力式揚重装置は、被係止具を吊荷の側面から側方に突出した突起体としたものとすることもできる。この場合の前方主滑車は、鉛直面内を斜方向に移動可能とされ、上方かつ吊荷側に前方主滑車を移動することによって、係止具が被係止具の下方に当接して係止具が被係止具に係止される。
【0021】
本願発明の重力式揚重装置は、主軸(水平軸)に沿って複数の前方主滑車と後方主滑車が天井体に取り付けられたものとすることもできる。なお、それぞれの前方主滑車と後方主滑車には主吊ロープが掛け回される。この場合の被係止具は、吊荷の側面に沿って一連で設けられるとともに、複数個所に切欠きが形成された櫛状とされ、係止具は、複数の主吊ロープの下端に取り付けられた棒状や柱状(ただし、主軸方向に配置)とされる。そして、側面が主軸方向となるように載置された吊荷の切欠き内にそれぞれの主吊ロープが配置された状態で、係止具を被係止具の下方に当接することによって係止具と被係止具が係止される。
【0022】
本願発明の重力式揚重装置は、スライド移動手段をさらに備えたものとすることもできる。このスライド移動手段は、荷支持手段によって支持された吊荷を主軸方向にスライド移動させる手段である。
【発明の効果】
【0023】
本願発明の重力式揚重装置には、次のような効果がある。
(1)例えば、サッカーや野球などの競技場に利用した場合、本来目的としている競技(サッカーや野球など)を行うことができるうえ、これら競技と同様の空間を維持したままコンサートなどの各種のイベントを執り行うことができる。すなわち、多様な用途に適用することができ、その結果、競技場の稼働率を高めることができる。
(2)重錘(カウンターウェイト)を利用することから、昇降手段の負担が軽減され、すなわち比較的小規模な昇降手段を設置することができ、その結果、装置全体に係る費用を低減することができる。
(3)床面上に載置された吊荷(例えば、フィールド)から吊ロープを取り外し、さらにその吊ロープを巻き上げることができ、すなわち吊荷周辺から吊ロープを取り除くことができることから、例えば競技場に利用した場合、通常どおり競技を行ことができ、好適に観戦することができる。
(4)上昇した吊荷を吊荷支持手段で支持することから、上方の吊荷を安全に支持することができる。また、吊荷から吊ロープを取り外すことによって、吊ロープに作用する緊張力を解除することができ、その結果、吊ロープの損傷が低減され長期にわたる使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本願発明の重錘型重力式揚重装置の一例を模式的に示す断面図。
【
図2】本願発明の重力式揚重装置の一例を模式的に示す平面図。
【
図3】(a)は吊荷の側面に沿った方向に見た鉛直断面図、(b)は(a)に示すA-A矢視方向に見た鉛直断面図。
【
図4】複数の主吊ロープの下端に取り付けられた棒状の係止具を模式的に示す正面図。
【
図5】(a)は前方主滑車と主吊ロープ、後方主滑車が配置された箇所で切断した重錘型重力式揚重装置の鉛直断面図、(b)は昇降手段と後方副滑車、副吊ロープが配置された箇所で切断した重錘型重力式揚重装置の鉛直断面図。
【
図6】重錘支持手段を備えた重錘型重力式揚重装置を模式的に示す鉛直断面図。
【
図7】(a)は主吊ロープの一部に動滑車が掛け回され底部重錘の上に本体重錘が載置された重錘型重力式揚重装置を模式的に示す鉛直断面図、(b)は主吊ロープの一部に動滑車が掛け回され底部重錘のみが基礎床面まで降下した重錘型重力式揚重装置を模式的に示す鉛直断面図。
【
図8】(a)は天井体内に収容された吊荷支持手段を模式的に示す鉛直断面図、(b)は天井体から引き出された吊荷支持手段を模式的に示す鉛直断面図。
【
図9】(a)は定常位置から斜め上方向に移動した天井滑車を模式的に示す鉛直断面図、(b)は定常位置から斜め下方向に移動した天井滑車を模式的に示す鉛直断面図。
【
図10】スライド移動手段によって主軸方向にスライド移動しているフィールドを上方から見た平面図。
【
図11】重錘型重力式揚重装置を使用して、天井体付近で吊荷支持手段に支持されたフィールドを基礎床面まで降下させる主な手順の流れを示すフロー図。
【
図12】重錘型重力式揚重装置を使用して、天井体付近で吊荷支持手段に支持されたフィールドを基礎床面まで降下させる主な手順を示すステップ図。
【
図13】重錘型重力式揚重装置を使用して、基礎床面上に載置されたフィールドを天井体まで上昇させる主な手順の流れを示すフロー図。
【
図14】重錘型重力式揚重装置を使用して、基礎床面上に載置されたフィールドを天井体まで上昇させる主な手順を示すステップ図。
【
図15】本願発明の吊荷型重力式揚重装置の一例を模式的に示す断面図。
【
図16】(a)は前方主滑車と主吊ロープ、後方主滑車が配置された箇所で切断した吊荷型重力式揚重装置の鉛直断面図、(b)は昇降手段と後方副滑車、副吊ロープが配置された箇所で切断した吊荷型重力式揚重装置の鉛直断面図。
【
図17】重錘支持手段を備えた吊荷型重力式揚重装置を模式的に示す鉛直断面図。
【
図18】(a)は主吊ロープの一部に動滑車が掛け回され底部重錘の上に本体重錘が載置された吊荷型重力式揚重装置を模式的に示す鉛直断面図、(b)は主吊ロープの一部に動滑車が掛け回され底部重錘のみが基礎床面まで降下した吊荷型重力式揚重装置を模式的に示す鉛直断面図。
【
図19】吊荷型重力式揚重装置を使用して、天井体付近で吊荷支持手段に支持されたフィールドを基礎床面まで降下させる主な手順の流れを示すフロー図。
【
図20】吊荷型重力式揚重装置を使用して、天井体付近で吊荷支持手段に支持されたフィールドを基礎床面まで降下させる主な手順を示すステップ図。
【
図21】吊荷型重力式揚重装置を使用して、基礎床面上に載置されたフィールドを天井体まで上昇させる主な手順の流れを示すフロー図。
【
図22】吊荷型重力式揚重装置を使用して、基礎床面上に載置されたフィールドを天井体まで上昇させる主な手順を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明の重力式揚重装置の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0026】
1.全体概要
本願発明の重力式揚重装置は、屋外の地面や屋内の床面、あるいは競技場のグランドレベル面といった平面(以下、便宜上ここでは「基礎床面」という。)の上に置かれた吊荷を昇降させる(上昇させ、かつ降下させる)ものであり、天井体と前方主滑車、後方主滑車、主吊ロープ、係止具、重錘(カウンターウェイト)、昇降手段、吊荷支持手段などを備える装置である。「天井体」は、基礎床面よりも高い位置に設置されるものであり、例えばコンクリートスラブや鋼製トラス構造など相当の作用荷重(特に、鉛直力や、鉛直力に伴う曲げモーメントなど)に抵抗し得る構造体である。
【0027】
天井体の側面や内部に設けられた空間には、略鉛直面(鉛直面を含む)内で回転可能な滑車(プーリー)である「前方主滑車」と「後方主滑車」が取り付けられる。なお、前方主滑車と後方主滑車は略同一(同一を含む)の高さに配置され、また前方主滑車は吊荷に近い位置に、一方の後方主滑車は吊荷から遠い位置に配置される。「主吊ロープ」は、これら前方主滑車と後方主滑車に掛け回されて下方に垂下し、前方主滑車から垂下する主吊ロープの下端にはフックや後述する棒状係止具といった「係止具」が取り付けられ、他方、後方主滑車から垂下する主吊ロープの下端には相当の重量を有する「重錘」が取り付けられる。主吊ロープとしては、吊荷の重量に応じて種々の材質のものを利用することができ、例えば吊荷の重量が大きいケースではワイヤーロープを採用するとよい。なお、吊荷にはアイボルトや後述する突起体などの「被係止具」が設けられており、この被係止具に係止具が係止されることによって主吊ロープと吊荷が連結される。
【0028】
「昇降手段」は、ウィンチやホイストといった荷揚げ用の装置であり、前方主滑車や後方主滑車と同様、天井体の側面や内部空間に設置され、「副吊ロープ」を巻き上げたり巻き下げたり(巻き出したり)するものである。この副吊ロープの下端には重錘あるいは係止具が取り付けられ、したがって昇降手段が副吊ロープを巻き上げることで重錘や係止具を上昇させ、昇降手段が副吊ロープを巻き下げることで重錘や係止具を降下させることができる。当然ながら主吊ロープと副吊ロープは異なるものであり、つまり2種類の吊ロープが配置され、主吊ロープの両端にはそれぞれ重錘と係止具が取り付けられるのに対して、副吊ロープの一端は昇降手段、他端には重錘あるいは係止具が取り付けられる。前方主滑車と後方主滑車、主吊ロープは、略同一(同一を含む)の鉛直面内に配置され、それぞれがいわば一組となって機能することから、これら前方主滑車と後方主滑車、主吊ロープからなる一連の組み合わせのことを、便宜上ここでは「昇降体セット」ということとする。
【0029】
「重錘」は、いわゆるカウンターウェイトであり、したがって吊荷の重量と概ね同等の重量とされ、吊荷の重量よりもやや大きな重量とすることもできるし、吊荷の重量よりもやや小さな重量とすることもできる。なお、吊荷が例えば競技用のフィールドのようなケースでは、既述したように降雨や積雪によって全体重量の10%程度が増加する。そのためこの場合は、平常時の競技用フィールドより大きな吊荷重量(例えば、1.1倍の重量)としたうえで重錘の重量を計画するとよい。上記したように被係止具に係止具が係止されると、主吊ロープと吊荷が連結される。このとき、主吊ロープの一方下端には重錘、他方下端には吊荷が連結された状態となるが、重錘と吊荷は同等の重量であるため概ね均衡が保たれており、したがってそれほど大きくない力(重錘と吊荷との重量差程度)で吊荷を昇降させることができる。より詳しくは、重錘が吊荷よりも重いケースでは昇降手段が重錘に取り付けられた副吊ロープを巻き上げたり巻き下げたりすることで吊荷を昇降させることができ、一方、重錘が吊荷よりも軽いケースでは昇降手段が係止具(つまり、吊荷)に取り付けられた副吊ロープを巻き上げたり巻き下げたりすることで吊荷を昇降させることができる。
【0030】
「吊荷支持手段」は、天井体の高さまで上昇した吊荷を支持するものであり、吊荷がその位置(天井体付近)から落下しないように支えるいわばストッパーである。例えば、吊荷支持手段を天井体から出し入れ可能(左右にスライド可能)な構造とし、天井体から引き出した吊荷支持手段を天井体の下面に配置したり、天井体の一部に挿入したりすることで、吊荷を支持することができる。なお吊荷支持手段は、他の手段を必要とすることなく、つまり単体で吊荷を支持することができ、したがって、吊荷が吊荷支持手段によって支持されると、主吊ロープ下端の係止具と吊荷の被係止具の係止を解除しても吊荷はその位置で維持される(落下しない)。
【0031】
以下、本願発明の重力式揚重装置について、より詳しく説明する。なお、上記したとおり本願発明の重力式揚重装置は、吊荷よりも重い重錘を用いることもできるし、吊荷よりも軽い重錘を用いることもでき、そして重錘の重量に応じてその構成(特に、昇降手段と副吊ロープ)は異なる。そこで、吊荷よりも重い重錘を用いる本願発明の重力式揚重装置のことを便宜上ここでは「重錘型重力式揚重装置」、吊荷よりも軽い重錘を用いる本願発明の重力式揚重装置のことを便宜上ここでは「吊荷型重力式揚重装置」ということとしたうえで、それぞれについて順に説明する。
【0032】
2.重錘型重力式揚重装置
図1は、本願発明の重力式揚重装置100の1形態である重錘型重力式揚重装置100Wの一例を模式的に示す断面図(鉛直面で切断した図)であり、
図2は、本願発明の重力式揚重装置100の一例を模式的に示す平面図(上方から見た図)である。なお本願発明の重力式揚重装置100は、あらゆる物を吊荷として利用することができるが、便宜上ここではサッカー競技場におけるサッカー用のフィールド200を吊荷とする例で説明することとする。
【0033】
フィールド200など比較的面積が大きく板状(あるいは函体状)の吊荷を対象とする場合、
図1に示すように、重錘型重力式揚重装置100Wの各要素を吊荷の両側にそれぞれ配置するとよい。すなわち
図1に示すように、天井体101が左天井体101Lと右天井体101Rを含む構成とし、同様に、前方主滑車102が左前方主滑車102Lと右前方主滑車102Rを含み、主吊ロープ103が左主吊ロープ103Lと右主吊ロープ103Rを含み、後方主滑車104が左後方主滑車104Lと右後方主滑車104Rを含み、吊荷支持手段105が左吊荷支持手段105Lと右吊荷支持手段105Rを含み、係止具106が左係止具106Lと右係止具106Rを含み、重錘107が左重錘107Lと右重錘107Rを含み、昇降手段108が左昇降手段108Lと右昇降手段108Rを含み、副吊ロープ110が左副吊ロープ110Lと右副吊ロープ110Rを含む構成とする。なおこの図では、左後方副滑車109Lと右後方副滑車109Rを含む後方副滑車109を設置しており、昇降手段108の副吊ロープ110がこの後方副滑車109に掛け回されたうえでその下端に重錘107を取り付ける構成としているが、これに限らず、後方副滑車109を設けることなく昇降手段108の副吊ロープ110の下端に直接、重錘107を取り付ける構成とすることもできる。
【0034】
そして、左天井体101Lと左前方主滑車102L、左主吊ロープ103L、左後方主滑車104L、左吊荷支持手段105L、左係止具106L、左重錘107L、左昇降手段108L、左後方副滑車109L、左副吊ロープ110Lを板状(あるいは函体状)のフィールド200に形成された左側面201L側(図では左側)に配置するとともに、右天井体101Rと右前方主滑車102R、右主吊ロープ103R、右後方主滑車104R、右吊荷支持手段105R、右係止具106R、右重錘107R、右昇降手段108R、右後方副滑車109R、右副吊ロープ110をフィールド200に形成された右側面201R側(図では右側)に配置する。なお、左天井体101Lと右天井体101Rは、略同一(同一を含む)の高さに配置される。
【0035】
フィールド200など比較的面積が大きく板状(あるいは函体状)の吊荷を対象とする場合、
図2に示すように、複数の「昇降体セット(前方主滑車と後方主滑車、主吊ロープからなる一連の組み合わせ)」を配置するとよい。例えば
図2では、左天井体101Lと右天井体101Rそれぞれに12組の昇降体セットが配置されている。この場合、同一の水平軸(以下、「主軸」という。)に沿って複数の前方主滑車102(左前方主滑車102L、右前方主滑車102R)を配置するとともに、同一の主軸に沿って複数の後方主滑車104(左後方主滑車104L、右後方主滑車104R)を配置するとよい。また、前方主滑車102(左前方主滑車102L、右前方主滑車102R)と後方主滑車104(左後方主滑車104L、右後方主滑車104R)の間に張設される主吊ロープ103(左主吊ロープ103L、右主吊ロープ103R)は、主軸に対して垂直な軸(以下、「副軸」という。)方向に配置するとよい。
【0036】
また、重錘型重力式揚重装置100Wの各要素を吊荷の両側に配置し、しかも主軸方向に複数の昇降体セットを配置する場合、基礎床面上のフィールド200(吊荷)は主軸方向に沿って配置するとよい。具体的には、左前方主滑車102Lから垂下する左主吊ロープ103Lと右前方主滑車102Lから垂下する右主吊ロープ103Rとの間であって、フィールド200の左側面201Lが左主吊ロープ103L側となりその右側面201Rが右主吊ロープ103R側となるように、さらにフィールド200の左側面201Lが左側の主軸方向と略平行(平行を含む)となりその右側面201Rが右側の主軸方向と略平行(平行を含む)となるように、フィールド200を配置するわけである。なお重錘型重力式揚重装置100Wは、各要素を吊荷の両側に配置したり、主軸方向に複数の昇降体セットを配置したりする構成に限らず、吊荷の重量や形状によっては、吊荷の一方側にのみ各要素を配置したり、1の昇降体セットを配置したりする構成とすることもできる。
【0037】
主吊ロープ103の下端に取り付けられた係止具106は、フィールド200(吊荷)の被係止具に係止されることで、主吊ロープ103とフィールド200を連結するものであり、例えば、係止具106としてフックを利用するとともに被係止具として環状治具(アイボルトなど)を利用することができる。あるいは
図3に示すように、被係止具として「突起体202」を利用することもできる。
図3は、フィールド200の側面201に形成された突起体202を模式的に示す図であり、(a)は側面201に沿った方向(
図2に示す主軸方向)に見た鉛直断面図であり、(b)は
図3(a)に示すA-A矢視方向(
図2に示す副軸方向)に見た鉛直断面図である。
図3(a)に示すように突起体202は、フィールド200の側面201から突出した形状であり、その下面側には凹部(図では半円状の凹部)が形成されている。なお、フィールド200のように両側の主吊ロープ103(左主吊ロープ103Lと右主吊ロープ103R)によって吊り上げられる場合、突起体202などの被係止具はもちろん両方の側面201(左側面201Lと右側面201R)に設けられる。
【0038】
被係止具として突起体202を利用する場合、係止具106としては
図4に示す棒状のものを利用するとよい。この棒状の係止具106は、断面寸法に比して軸方向寸法が卓越した棒状や柱状であり、中実とすることも中空(つまり、管状)とすることもできる。また、1の棒状の係止具106は、複数の主吊ロープ103の下端に取り付けることができ、例えば
図4では3本の主吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106が取り付けられている。もちろん、
図4の例に限らず、2本あるいは4本以上の主吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106を取り付けることもできるし、全て(
図4では12本)の主吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106を取り付けることもできる。
【0039】
棒状の係止具106は、突起体202(被係止具)の下方に当接することで係止される。例えば
図3(a)では、突起体202の下面側に形成された凹部に棒状の係止具106の一部が嵌合することによって係止されている。したがって、双方の形状を円形や半円とするなど、係止具106の断面形状は突起体202の凹部の形状に合わせることが望ましい。
【0040】
ところで、フィールド200のような吊荷を対象とする場合、フィールド200の側面201(左側面201Lや右側面201R)に沿って一連の被係止具(例えば、突起体202)が設けられることとなるが、複数の主吊ロープ103の下端に1の棒状の係止具106を取り付けると主吊ロープ103が被係止具に干渉することとなる。この場合、
図3(b)に示すように突起体202(被係止具)の複数個所に切欠き203を形成し、突起体202をいわば櫛状にするとよい。主吊ロープ103を切欠き203内に配置することで、すべての突起体202の凹部に棒状の係止具106を嵌合させることができるわけである。なお
図3(b)では、間隔を設けつつ独立した複数の突起体202を設置する構成としているが、これに限らず一部(例えば、フィールド200の側面201側の一部)は連続して形成されるが主吊ロープ103が配置される部分には切欠き203が形性される構成とすることもできる。
【0041】
既述したとおり被係止具(例えば、突起体202)に係止具106が係止されると主吊ロープ103とフィールド200(吊荷)が連結され、主吊ロープ103の一方(後方主滑車104側)の下端には重錘107、他方(前方主滑車102側)の下端にはフィールド200が連結された状態となる。そして、重錘型重力式揚重装置100Wではフィールド200よりも重い重錘107を用いるため、重量のバランスに応じてフィールド200は上昇することができるものの、何らの力も加えることなく重錘107が上昇することはない。したがって重錘型重力式揚重装置100Wは、昇降手段108によって重錘107を昇降させる必要がある。
【0042】
図5は重錘型重力式揚重装置100Wを模式的に示す図であり、(a)は前方主滑車102と主吊ロープ103、後方主滑車104(つまり、昇降体セット)が配置された箇所で切断した鉛直断面図であり、(b)は昇降手段108と後方副滑車109、副吊ロープ110が配置された箇所で切断した鉛直断面図である。この図に示すように、前方主滑車102と主吊ロープ103、後方主滑車104(つまり、昇降体セット)からなる経路と、昇降手段108と後方副滑車109、副吊ロープ110からなる経路は、それぞれ別経路として配置されるが、主吊ロープ103、副吊ロープ110ともにその一端(図では左端)には同じ重錘107が取り付けられる。そして、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって重錘107が上昇するとともに主吊ロープ103に取り付けられた係止具106は降下し、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって重錘107が降下するとともに係止具106は上昇する。
【0043】
図1や
図2に示すように、重錘型重力式揚重装置100Wの各要素を吊荷の両側に配置し、しかも主軸方向に複数の昇降体セットを配置する場合、1の主吊ロープ103に1の重錘107を取り付けることもできるし、複数の主吊ロープ103に1の重錘107(左重錘107L、右重錘107R)を取り付けることもできる。例えば
図2の場合、独立した重錘107(左重錘107L、右重錘107R)を昇降体セットの数(つまり、計24個)だけ用意し、それぞれの主吊ロープ103に個々の重錘107を取り付けることができる。あるいは、それぞれ4個の左重錘107Lと右重錘107Rを用意し、3本の左主吊ロープ103Lに1の左重錘107Lを取り付けるとともに、3本の右主吊ロープ103Rに1の右重錘107Rを取り付けることもできる。さらに、それぞれ1個の左重錘107Lと右重錘107Rを用意し、すべて(つまり、12本)の左主吊ロープ103Lに1の左重錘107Lを取り付けるとともに、すべて(つまり、12本)の右主吊ロープ103Rに1の右重錘107Rを取り付けることもできる。いずれにしろ、使用する重錘107の総重量は、フィールド200(吊荷)の重量よりやや大きな重量とされる。また、昇降手段108(左昇降手段108L、右昇降手段108R)と、後方副滑車109(左後方副滑車109L、右後方副滑車109R)、副吊ロープ110(左副吊ロープ110L、右副吊ロープ110R)からなる組み合わせは、昇降体セットの数(
図2の場合、計24組)だけ配置することもできるし、重錘107と同数だけ配置することもできる。
【0044】
重錘型重力式揚重装置100Wは、
図6に示すように重錘支持手段111を備えたものとすることもできる。そして、この場合の重錘107は、底部重錘107Bと本体重錘107Mを含む構成にするとよい。なお底部重錘107Bは、本体重錘107Mよりも軽量のものを用いるとよい。本体重錘107Mは底部重錘107Bよりも上方に配置され、本体重錘107Mと底部重錘107Bはそれぞれ独立して昇降することができる。主吊ロープ103の下端には底部重錘107Bのみが取り付けられるとともに、副吊ロープ110の下端にも底部重錘107Bのみが取り付けられており、主吊ロープ103と副吊ロープ110は本体重錘107M内に設けられた貫通孔に挿通されている。したがって、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって底部重錘107Bが上昇するとともにその上に配置された本体重錘107Mも一緒に上昇し、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって底部重錘107Bが降下するとともにその上に配置された本体重錘107Mも一緒に降下する。
【0045】
重錘支持手段111は、上昇した本体重錘107Mをその位置で支持するものであり、本体重錘107Mがその位置から落下しないように支えるいわばストッパーである。例えば重錘支持手段111は、柱や壁体あるいは天井体101など固定された構造体内に収容されるとともに、構造体から引き出すことができるように、左右(
図2に示す副軸方向)にスライド可能な構造とすることができる。この場合、本体重錘107Mが上昇してくるときは、重錘支持手段111がその上昇の妨げとならないように構造体内に収容し、一方、本体重錘107Mが上昇した後は、本体重錘107Mを支持するために重錘支持手段111を引き出すことができる。なお本体重錘107Mは、本体重錘107Mのみを支持するものであり、したがって本体重錘107Mと底部重錘107Bとの間には所定の(重錘支持手段111が挿入できる程度の)隙間が設けられており、引き出された重錘支持手段111はこの隙間内に挿入される。また重錘支持手段111をスライドさせるにあたっては、ウィンチなどの巻き上げ装置を利用したり、油圧や空圧、電力等を利用したりするなど、従来用いられている種々の動力を利用することができる。さらに、複数の独立した重錘支持手段111を主軸方向(
図2)に並べて配置することもできるし、主軸方向に連続する一体型の重錘支持手段111を配置することもできる。
【0046】
図6に示すように、本体重錘107Mが重錘支持手段111に支持されると、底部重錘107Bは単独での昇降が可能となる。つまり、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって底部重錘107Bが単独で降下するとともに主吊ロープ103に取り付けられた係止具106が上昇し、降下した底部重錘107Bは昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって単独で上昇するするとともに係止具106が降下するわけである。また、本体重錘107Mの位置まで底部重錘107Bが上昇し、重錘支持手段111による本体重錘107Mの支持が解除されると、本体重錘107Mの自重は底部重錘107Bに預けられ、今度は本体重錘107Mと底部重錘107Bが一体となって昇降する。
【0047】
重錘型重力式揚重装置100Wは、
図7に示すように主吊ロープ103の一部に動滑車112が掛け回されたものとすることもできる。
図7は、主吊ロープ103の一部に動滑車112が掛け回された重錘型重力式揚重装置100Wを模式的に示す鉛直断面図であり、(a)は底部重錘107の上に本体重錘107Mが載置された状況を示し、(b)は底部重錘107のみが基礎床面まで降下した状況を示している。この場合、後方主滑車104に掛け回されて垂下する主吊ロープ103は、その下端で動滑車112に掛け回されるとともに、この動滑車112で折り返して上方に向かう先端(図では上端)が構造体(天井体101など)に固定される。
【0048】
図7に示すように動滑車112を用いた「動滑車形式」としたケースでも、
図7(b)に示すように底部重錘107Bと本体重錘107Mを含む重錘107と、重錘支持手段111を備えたものとすることができる。具体的には、主吊ロープ103の下端で掛け回された動滑車112と副吊ロープ110の下端で掛け回された動滑車に底部重錘107Bが取り付けられ、主吊ロープ103と副吊ロープ110は本体重錘107M内に設けられた貫通孔(この場合、往復用の2本の貫通孔)に挿通される。このような構成にすることにより、本体重錘107Mが重錘支持手段111に支持されると、動滑車112と底部重錘107Bは本体重錘107Mから独立して昇降が可能となる。つまり、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって動滑車112と底部重錘107Bが降下するとともに主吊ロープ103に取り付けられた係止具106が上昇し、降下した動滑車112と底部重錘107Bは昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって上昇するとともに係止具106が降下するわけである。このように動滑車112を用いた動滑車形式にすると、
図5や
図6に示す「定滑車形式」に比べ重錘107の重量を2倍にする必要があるものの、動滑車112と底部重錘107Bの昇降長さ(ストローク長)が半分となり、ストローク長の確保が難しいケースでは動滑車形式を好適に採用することができる。なお、主吊ロープ103を動滑車形式とした場合、副吊ロープ110も同様に動滑車形式にすることもできるし、
図5や
図6に示す定滑車形式(副吊ロープ110の下端は動滑車に掛け回さることなく底部重錘107Bを直接取り付ける形式)とすることもできる。また、
図7では動滑車112の下方に底部重錘107Bが取り付けられているが、これに限らず動滑車112の上方に底部重錘107Bを取り付けることもできる。
【0049】
吊荷支持手段105は、天井体101内に収容されるとともに、天井体101から引き出すことができるように、左右(
図2に示す副軸方向)にスライド可能な構造とすることもできる。
図8は、左右にスライド可能な吊荷支持手段105を模式的に示す鉛直断面図であり、(a)は天井体101内に収容された吊荷支持手段105を示し、(b)は天井体101から引き出された吊荷支持手段105を示している。この場合、フィールド200が上昇してくるときは、吊荷支持手段105がその上昇の妨げとならないように天井体101内に収容し、一方、フィールド200が上昇した後は、フィールド200を支持するために吊荷支持手段105を天井体101から引き出すことができる。なお、吊荷支持手段105をスライドさせるにあたっては、ウィンチなどの巻き上げ装置を利用したり、油圧や空圧、電力等を利用したりするなど、従来用いられている種々の動力を利用することができる。また、複数の独立した荷支持手段105を主軸方向(
図2)に並べて配置することもできるし、主軸方向に連続する一体型の荷支持手段105を配置することもできる。
【0050】
前方主滑車102は、鉛直面内を斜方向に移動可能な構造とすることもできる。
図9は、鉛直面内を斜方向に移動可能な前方主滑車102を模式的に示す鉛直断面図であり、(a)は定常位置(図で示す破線の位置)から斜め上方向に移動した前方主滑車102を示し、(b)は定常位置(図で示す破線の位置)から斜め下方向に移動した前方主滑車102を示している。この場合、前方主滑車102の移動によって、フィールド200の被係止具(例えば、突起体202)に係止具106を係止させることができるとともに、その係止を解除することができる。具体的には、
図9(a)に示すように前方主滑車102が定常位置(図で示す破線の位置)から斜め上方向に移動すると、係止具106が潜り込むように突起体202の下方に配置され、その結果、突起体202の凹部に棒状の係止具106を嵌合させることができる。他方、
図6(b)に示すように前方主滑車102が定常位置(図で示す破線の位置)から斜め下方向に移動すると、係止具106が突起体202の下方配置から外れ、その結果、突起体202と係止具106との係止が解除される。なお、吊荷支持手段105の移動は50~100cm程度で足りることから油圧を利用した構成とするのが好ましいが、これに限らず従来用いられている種々の動力を利用することもできる。
【0051】
重錘型重力式揚重装置100Wは、吊荷支持手段105(吊荷支持手段105Lと吊荷支持手段105R)によって支持された吊荷を主軸方向に水平移動させる「スライド移動手段」をさらに備えたものとすることもできる。
図10は、スライド移動手段によって主軸方向にスライド移動しているフィールド200を上方から見た平面図である。この場合、フィールド200が上昇した(つまり、取り除かれた)後の基礎床面における利用が多様化する。すなわち、雨天時などは屋根として利用すべくフィールド200をスライド移動させず、一方、晴天時などはスライド移動手段によってフィールド200をスライド移動させるわけである。なお、フィールド200をスライドさせるにあたっては、ウィンチなどの巻き上げ装置を利用したり、油圧や空圧、電力等を利用したりするなど、従来用いられている種々の動力を利用することができる。また
図10では、2分割された左フィールド200Lと左フィールド200Rをそれぞれ反対方向にスライド移動させているが、これに限らず一体の(つまり、分割されない)フィールド200をどちらか一方向にスライド移動させる仕様とすることもでき。
【0052】
(使用例)
重錘型重力式揚重装置100Wを使用して、基礎床面までフィールド200を降下させる例について、
図11と
図12を参照しながら説明する。
図11は、重錘型重力式揚重装置100Wを使用して、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200を基礎床面まで降下させる主な手順の流れを示すフロー図であり、
図12は、重錘型重力式揚重装置100Wを使用して、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200を基礎床面まで降下させる主な手順を示すステップ図である。
【0053】
まず、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200の被係止具(例えば、突起体202)に係止具106を係止させ、主吊ロープ103とフィールド200を連結する(
図11のStep11)。例えば、
図9(b)に示すように前方主滑車102が定常位置(図で示す破線の位置)よりも斜め下方向に位置している場合、前方主滑車102を定常位置に戻すように斜め上方向に移動させ、突起体202の凹部に棒状の係止具106を嵌合させる。
【0054】
図12(a)に示すように係止具106が突起体202に係止されると、吊荷支持手段105によるフィールド200の支持を解除する(
図11のStep12)。例えば、
図9(a)に示すように前方主滑車102を定常位置(図で示す破線の位置)から斜め上方向に移動することによって、フィールド200を若干量だけ持ち上げる。その結果、吊荷支持手段105はフィールド200の自重から解放され、
図12(b)に示すように天井体101内に収容されるように吊荷支持手段105をスライド移動することができ、すなわち吊荷支持手段105によるフィールド200の支持が解除される。
【0055】
吊荷支持手段105によるフィールド200の支持が解除されると、前方主滑車102を定常位置に戻したうえで、昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き上げることで重錘107を上昇させ、
図12(c)に示すように係止具106に係止されたフィールド200を基礎床面まで降下させる(
図11のStep13)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左重錘107Lと右重錘107R2を略同時(同時を含む)に上昇させる。そして、フィールド200が基礎床面に着地すると、
図12(d)に示すように重錘支持手段111をスライド移動させて構造体内から引き出し、上昇した本体重錘107Mをその位置で支持する(
図11のStep14)。
【0056】
重錘支持手段111によって本体重錘107Mが支持されると、突起体202と係止具106の係止を解除する(
図11のStep15)。例えば、
図12(e)に示すように前方主滑車102を定常位置から斜め下方向に移動させ、突起体202と係止具106との係止を解除する。突起体202と係止具106の係止が解除されると、昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き下げることで底部重錘107Bのみを降下させ、
図12(f)に示すように係止具106を天井体101まで上昇させる(
図11のStep16)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左右の底部重錘107Bを降下させる。なお、係止具106を底部重錘107Bよりも軽量としておくと、昇降手段108を使用することなく底部重錘107Bが降下するとともに係止具106が上昇するが、急速な昇降に伴う底部重錘107Bや係止具106の損傷を防ぐため、昇降手段108によって制動力を働かせつつこれらを昇降させることが望ましい。以上の手順を行うことにより、フィールド200周辺(つまり、グランドレベル)から主吊ロープ103が排除され、競技を行う者にとっても観戦する者にとっても好適な環境が形成されるわけである。
【0057】
続いて、重錘型重力式揚重装置100Wを使用して、天井体101までフィールド200を上昇させる例について、
図13と
図14を参照しながら説明する。
図13は、基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順の流れを示すフロー図であり、
図14は、基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順を示すステップ図である。
【0058】
まず、昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き上げることで底部重錘107Bのみを上昇させ、
図14(g)に示すように係止具106を降下させる(
図13のStep21)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左右の底部重錘107Bを上昇させる。そして、係止具106がフィールド200まで降下すると、係止具106を突起体202に係止させ、主吊ロープ103とフィールド200を連結する(
図13のStep22)。例えば
図14(h)に示すように、定常位置から斜め下方向に位置する前方主滑車102を、定常位置に戻るように斜め上方向に移動させ、係止具106を突起体202に係止させる。そして係止具106が突起体202に係止されると、
図14(i)に示すように構造体内に収容されるように重錘支持手段111をスライド移動させ、重錘支持手段111による本体重錘107Mの支持を解除する(
図13のStep23)。
【0059】
重錘支持手段111による本体重錘107Mの支持が解除されると、昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き下げることで重錘107(底部重錘107Bと本体重錘107M)を降下させ、
図14(j)に示すように係止具106に係止されたフィールド200を天井体101まで上昇させる(
図13のStep24)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左重錘107Lと右重錘107Rを略同時(同時を含む)に上昇させる。なお重錘型重力式揚重装置100Wの場合、重錘107よりもフィールド200の方がやや軽量であるため、昇降手段108を使用することなく重錘107が降下するとともにフィールド200が上昇するが、急速な昇降に伴う重錘107やフィールド200の損傷を防ぐため、昇降手段108によって制動力を働かせつつこれらを昇降させることが望ましい。
【0060】
フィールド200が天井体101まで上昇すると、
図14(k)に示すように吊荷支持手段105をスライド移動させて天井体101から引き出す(
図13のStep25)。このとき、フィールド200の下面と吊荷支持手段105との間に若干の隙間が生じるようにフィールド200は吊上げられており、すなわちフィールド200の自重は昇降体セットがすべて負担していることから、吊荷支持手段105を円滑に引き出すことができる。
【0061】
吊荷支持手段105を天井体101から引き出すと、フィールド200を吊荷支持手段105に支持させる。具体的には、昇降手段108によって主吊ロープ103を若干量だけ巻き下げ、
図14(l)に示すようにフィールド200を降下させる。この結果、フィールド200の下面と吊荷支持手段105との間の隙間が消失し、すなわちフィールド200の自重は吊荷支持手段105がすべて負担する。スライド移動手段によってフィールド200を主軸方向にスライド移動させる場合、突起体202と係止具106の係止を解除する(
図13のStep26)。例えば、前方主滑車102を定常位置から斜め下方向に移動させ、突起体202と係止具106との係止を解除する。これにより、主吊ロープ103に作用する緊張力を解除することができ、その結果、主吊ロープ103の損傷が低減され長期にわたる使用が可能となるわけである。
【0062】
3.吊荷型重力式揚重装置
図15は、本願発明の重力式揚重装置100の1形態である吊荷型重力式揚重装置100Fの一例を模式的に示す断面図(鉛直面で切断した図)である。以下、吊荷型重力式揚重装置100Fについて詳しく説明する。なお吊荷型重力式揚重装置100Fは、ここまで説明した重錘型重力式揚重装置100Wと一部の構成(主に昇降手段108と後方副滑車109、副吊ロープ110)が異なるだけである。したがって重錘型重力式揚重装置100Wで説明した内容と重複する説明は避け、吊荷型重力式揚重装置100Fに特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「2.重錘型重力式揚重装置」で説明したものと同様である。
【0063】
フィールド200など比較的面積が大きく板状(あるいは函体状)の吊荷を対象とする場合、
図2に示すように、吊荷型重力式揚重装置100Fの各要素を吊荷の両側にそれぞれ配置するとよい。すなわち
図2に示すように、天井体101が左天井体101Lと右天井体101Rを含む構成とし、同様に、前方主滑車102が左前方主滑車102Lと右前方主滑車102Rを含み、主吊ロープ103が左主吊ロープ103Lと右主吊ロープ103Rを含み、後方主滑車104が左後方主滑車104Lと右後方主滑車104Rを含み、吊荷支持手段105が左吊荷支持手段105Lと右吊荷支持手段105Rを含み、係止具106が左係止具106Lと右係止具106Rを含み、重錘107が左重錘107Lと右重錘107Rを含み、昇降手段108が左昇降手段108Lと右昇降手段108Rを含み、副吊ロープ110が左副吊ロープ110Lと右副吊ロープ110Rを含む構成とする。なおこの図では、左前方副滑車113Lと右前方副滑車113Rを含む前方副滑車113を設置しており、昇降手段108の副吊ロープ110がこの前方副滑車113に掛け回されたうえでその下端に係止具106を取り付ける構成としているが、これに限らず、前方副滑車113を設けることなく昇降手段108の副吊ロープ110の下端に直接、係止具106を取り付ける構成とすることもできる。
【0064】
そして、左天井体101Lと左前方主滑車102L、左主吊ロープ103L、左後方主滑車104L、左吊荷支持手段105L、左係止具106L、左重錘107L、左昇降手段108L、左副吊ロープ110L、左前方副滑車113Lを板状(あるいは函体状)のフィールド200に形成された左側面201L側(図では左側)に配置するとともに、右天井体101Rと右前方主滑車102R、右主吊ロープ103R、右後方主滑車104R、右吊荷支持手段105R、右係止具106R、右重錘107R、右昇降手段108R、右副吊ロープ110、右前方副滑車113Rをフィールド200に形成された右側面201R側(図では右側)に配置する。なお、左天井体101Lと右天井体101Rは、略同一(同一を含む)の高さに配置される。
【0065】
フィールド200など比較的面積が大きく板状(あるいは函体状)の吊荷を対象とする場合、重錘型重力式揚重装置100Wと同様、
図2に示すように複数の「昇降体セット」を配置するとよい。例えば
図2では、左天井体101Lと右天井体101Rそれぞれに12組の昇降体セットが配置されている。この場合、同一の主軸に沿って複数の前方主滑車102(左前方主滑車102L、右前方主滑車102R)を配置するとともに、同一の主軸に沿って複数の後方主滑車104(左後方主滑車104L、右後方主滑車104R)を配置するとよい。また、前方主滑車102(左前方主滑車102L、右前方主滑車102R)と後方主滑車104(左後方主滑車104L、右後方主滑車104R)の間に張設される主吊ロープ103(左主吊ロープ103L、右主吊ロープ103R)は、副軸方向に配置するとよい。
【0066】
また、吊荷型重力式揚重装置100Fの各要素を吊荷の両側に配置し、しかも主軸方向に複数の昇降体セットを配置する場合、基礎床面上のフィールド200(吊荷)は主軸方向に沿って配置するとよい。具体的には、左前方主滑車102Lから垂下する左主吊ロープ103Lと右前方主滑車102Lから垂下する右主吊ロープ103Rとの間であって、フィールド200の左側面201Lが左主吊ロープ103L側となりその右側面201Rが右主吊ロープ103R側となるように、さらにフィールド200の左側面201Lが左側の主軸方向と略平行(平行を含む)となりその右側面201Rが右側の主軸方向と略平行(平行を含む)となるように、フィールド200を配置するわけである。なお吊荷型重力式揚重装置100Fは、各要素を吊荷の両側に配置したり、主軸方向に複数の昇降体セットを配置したりする構成に限らず、吊荷の重量や形状によっては、吊荷の一方側にのみ各要素を配置したり、1の昇降体セットを配置したりする構成とすることもできる。
【0067】
既述したとおり被係止具(例えば、突起体202)に係止具106が係止されると主吊ロープ103とフィールド200(吊荷)が連結され、主吊ロープ103の一方(後方主滑車104側)の下端には重錘107、他方(前方主滑車102側)の下端にはフィールド200が連結された状態となる。そして、吊荷型重力式揚重装置100Fではフィールド200よりも軽い重錘107を用いるため、重量のバランスに応じて重錘107は上昇することができるものの、何らの力も加えることなくフィールド200が上昇することはない。したがって吊荷型重力式揚重装置100Fは、昇降手段108によって係止具106(つまり、フィールド200)を昇降させる必要がある。
【0068】
図16は吊荷型重力式揚重装置100Fを模式的に示す図であり、(a)は前方主滑車102と主吊ロープ103、後方主滑車104(つまり、昇降体セット)が配置された箇所で切断した鉛直断面図であり、(b)は昇降手段108と前方副滑車113、副吊ロープ110が配置された箇所で切断した鉛直断面図である。この図に示すように、前方主滑車102と主吊ロープ103、後方主滑車104(つまり、昇降体セット)からなる経路と、昇降手段108と前方副滑車113、副吊ロープ110からなる経路は、それぞれ別経路として配置されるが、主吊ロープ103、副吊ロープ110ともにその一端(図では右端)には同じ係止具106が取り付けられる。そして、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって係止具106(つまり、フィールド200)が上昇するとともに主吊ロープ103に取り付けられた重錘107は降下し、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって係止具106(つまり、フィールド200)が降下するとともに重錘107は上昇する。
【0069】
図15や
図2に示すように、吊荷型重力式揚重装置100Fの各要素を吊荷の両側に配置し、しかも主軸方向に複数の昇降体セットを配置する場合、昇降手段108(左昇降手段108L、右昇降手段108R)と、前方副滑車113(左前方副滑車113L、右前方副滑車113R)、副吊ロープ110(左副吊ロープ110L、右副吊ロープ110R)からなる組み合わせは、昇降体セットの数(
図2の場合、計24組)だけ配置することもできるし、重錘107と同数だけ配置することもできる。
【0070】
吊荷型重力式揚重装置100Fは、
図17に示すように重錘支持手段111を備えたものとすることもできる。そして、この場合の重錘107は、底部重錘107Bと本体重錘107Mを含む構成にするとよい。なお底部重錘107Bは、本体重錘107Mよりも軽量のものを用いるとよい。本体重錘107Mは底部重錘107Bよりも上方に配置され、本体重錘107Mと底部重錘107Bはそれぞれ独立して昇降することができる。主吊ロープ103の下端には底部重錘107Bのみが取り付けられており、主吊ロープ103は本体重錘107M内に設けられた貫通孔に挿通されている。したがって、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって底部重錘107Bが降下するとともにその上に配置された本体重錘107Mも一緒に降下し、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって底部重錘107Bが上昇するとともにその上に配置された本体重錘107Mも一緒に上昇する。
【0071】
図17に示すように、本体重錘107Mが重錘支持手段111に支持されると、底部重錘107Bは単独での昇降が可能となる。つまり、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって係止具106が上昇するとともに主吊ロープ103に取り付けられた底部重錘107Bが単独で降下し、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって係止具106が降下するとともに降下した底部重錘107Bは単独で上昇するわけである。また、本体重錘107Mの位置まで底部重錘107Bが上昇し、重錘支持手段111による本体重錘107Mの支持が解除されると、本体重錘107Mの自重は底部重錘107Bに預けられ、今度は本体重錘107Mと底部重錘107Bが一体となって昇降する。
【0072】
吊荷型重力式揚重装置100Fは、
図18に示すように主吊ロープ103の一部に動滑車112が掛け回されたものとすることもできる。
図18は、主吊ロープ103の一部に動滑車112が掛け回された吊荷型重力式揚重装置100Fを模式的に示す鉛直断面図であり、(a)は底部重錘107の上に本体重錘107Mが載置された状況を示し、(b)は底部重錘107のみが基礎床面まで降下した状況を示している。この場合、後方主滑車104に掛け回されて垂下する主吊ロープ103は、その下端で動滑車112に掛け回されるとともに、この動滑車112で折り返して上方に向かう先端(図では上端)が構造体(天井体101など)に固定される。
【0073】
図18に示すように動滑車112を用いた「動滑車形式」としたケースでも、
図18(b)に示すように底部重錘107Bと本体重錘107Mを含む重錘107と、重錘支持手段111を備えたものとすることができる。具体的には、主吊ロープ103の下端で掛け回された動滑車112に底部重錘107Bが取り付けられ、主吊ロープ103は本体重錘107M内に設けられた貫通孔(この場合、往復用の2本の貫通孔)に挿通される。なお、
図18では動滑車112の下方に底部重錘107Bが取り付けられているが、これに限らず動滑車112の上方に底部重錘107Bを取り付けることもできる。このような構成にすることにより、本体重錘107Mが重錘支持手段111に支持されると、動滑車112と底部重錘107Bは本体重錘107Mから独立して昇降が可能となる。つまり、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き上げることによって係止具106が上昇するとともに主吊ロープ103に取り付けられた動滑車112と底部重錘107Bが降下し、昇降手段108が副吊ロープ110を巻き下げることによって係止具106が降下するとともに降下した動滑車112と底部重錘107Bは上昇するわけである。このように動滑車112を用いた動滑車形式にすると、
図16や
図17に示す「定滑車形式」に比べ重錘107の重量を2倍にする必要があるものの、動滑車112と底部重錘107Bのストローク長が半分となり、ストローク長の確保が難しいケースでは動滑車形式を好適に採用することができる。
【0074】
(使用例)
吊荷型重力式揚重装置100Fを使用して、基礎床面までフィールド200を降下させる例について、
図19と
図20を参照しながら説明する。
図19は、吊荷型重力式揚重装置100Fを使用して、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200を基礎床面まで降下させる主な手順の流れを示すフロー図であり、
図20は、吊荷型重力式揚重装置100Fを使用して、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200を基礎床面まで降下させる主な手順を示すステップ図である。
【0075】
まず、天井体101付近で吊荷支持手段105に支持されたフィールド200の被係止具(例えば、突起体202)に係止具106を係止させ、主吊ロープ103とフィールド200を連結する(
図19のStep31)。例えば、
図9(b)に示すように前方主滑車102が定常位置(図で示す破線の位置)よりも斜め下方向に位置している場合、前方主滑車102を定常位置に戻すように斜め上方向に移動させ、突起体202の凹部に棒状の係止具106を嵌合させる。
【0076】
図20(a)に示すように係止具106が突起体202に係止されると、吊荷支持手段105によるフィールド200の支持を解除する(
図19のStep32)。例えば、
図9(a)に示すように前方主滑車102を定常位置(図で示す破線の位置)から斜め上方向に移動することによって、フィールド200を若干量だけ持ち上げる。その結果、吊荷支持手段105はフィールド200の自重から解放され、
図20(b)に示すように天井体101内に収容されるように吊荷支持手段105をスライド移動することができ、すなわち吊荷支持手段105によるフィールド200の支持が解除される。
【0077】
吊荷支持手段105によるフィールド200の支持が解除されると、前方主滑車102を定常位置に戻したうえで、昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き下げることで、
図20(c)に示すように係止具106に係止されたフィールド200を基礎床面まで降下させるとともに、重錘107を上昇させる(
図19のStep33)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左重錘107Lと右重錘107Rを略同時(同時を含む)に上昇させる。なお吊荷型重力式揚重装置100Fの場合、フィールド200よりも重錘107の方がやや軽量であるため、昇降手段108を使用することなく重錘107が上昇するとともにフィールド200が降下するが、急速な昇降に伴う重錘107やフィールド200の損傷を防ぐため、昇降手段108によって制動力を働かせつつこれらを昇降させることが望ましい。そして、フィールド200が基礎床面に着地すると、
図20(d)に示すように重錘支持手段111をスライド移動させて構造体内から引き出し、上昇した本体重錘107Mをその位置で支持する(
図19のStep34)。
【0078】
重錘支持手段111によって本体重錘107Mが支持されると、突起体202と係止具106の係止を解除する(
図19のStep35)。例えば、
図20(e)に示すように前方主滑車102を定常位置から斜め下方向に移動させ、突起体202と係止具106との係止を解除する。突起体202と係止具106の係止が解除されると、
図20(f)に示すように昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き上げることで係止具106を天井体101まで上昇させ、底部重錘107Bのみを降下させる(
図19のStep36)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左右の底部重錘107Bを降下させる。以上の手順を行うことにより、フィールド200周辺(つまり、グランドレベル)から主吊ロープ103が排除され、競技を行う者にとっても観戦する者にとっても好適な環境が形成されるわけである。
【0079】
続いて、吊荷型重力式揚重装置100Fを使用して、天井体101までフィールド200を上昇させる例について、
図21と
図22を参照しながら説明する。
図21は、基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順の流れを示すフロー図であり、
図22は、基礎床面上に載置されたフィールド200を天井体101まで上昇させる主な手順を示すステップ図である。
【0080】
まず
図22(g)に示すように、昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き下げることで係止具106を降下させ、底部重錘107Bのみを上昇させる(
図21のStep41)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左右の底部重錘107Bを上昇させる。なお、底部重錘107Bを係止具106よりも軽量としておくと、昇降手段108を使用することなく係止具106が降下するとともに底部重錘107Bが上昇するが、急速な昇降に伴う底部重錘107Bや係止具106の損傷を防ぐため、昇降手段108によって制動力を働かせつつこれらを昇降させることが望ましい。そして、係止具106がフィールド200まで降下すると、係止具106を突起体202に係止させ、主吊ロープ103とフィールド200を連結する(
図21のStep42)。例えば
図22(h)に示すように、定常位置から斜め下方向に位置する前方主滑車102を、定常位置に戻るように斜め上方向に移動させ、係止具106を突起体202に係止させる。そして係止具106が突起体202に係止されると、
図22(i)に示すように構造体内に収容されるように重錘支持手段111をスライド移動させ、重錘支持手段111による本体重錘107Mの支持を解除する(
図21のStep43)。
【0081】
重錘支持手段111による本体重錘107Mの支持が解除されると、
図22(j)に示すように昇降手段108によって副吊ロープ110を巻き上げることで係止具106に係止されたフィールド200を天井体101まで上昇させ、重錘107(底部重錘107Bと本体重錘107M)を降下させる(
図21のStep44)。このとき、重錘107として左重錘107Lと右重錘107Rが配置されているときは、左重錘107Lと右重錘107Rを略同時(同時を含む)に降下させる。
【0082】
フィールド200が天井体101まで上昇すると、
図22(k)に示すように吊荷支持手段105をスライド移動させて天井体101から引き出す(
図21のStep45)。このとき、フィールド200の下面と吊荷支持手段105との間に若干の隙間が生じるようにフィールド200は吊上げられており、すなわちフィールド200の自重は昇降体セットがすべて負担していることから、吊荷支持手段105を円滑に引き出すことができる。
【0083】
吊荷支持手段105を天井体101から引き出すと、フィールド200を吊荷支持手段105に支持させる。具体的には、昇降手段108によって主吊ロープ103を若干量だけ巻き下げ、
図22(l)に示すようにフィールド200を降下させる。この結果、フィールド200の下面と吊荷支持手段105との間の隙間が消失し、すなわちフィールド200の自重は吊荷支持手段105がすべて負担する。スライド移動手段によってフィールド200を主軸方向にスライド移動させる場合、突起体202と係止具106の係止を解除する(
図21のStep46)。例えば、前方主滑車102を定常位置から斜め下方向に移動させ、突起体202と係止具106との係止を解除する。これにより、主吊ロープ103に作用する緊張力を解除することができ、その結果、主吊ロープ103の損傷が低減され長期にわたる使用が可能となるわけである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本願発明の重力式揚重装置は、サッカー競技場や野球場、陸上競技場といった種々のスポーツ競技施設や、コンサートや展示会、物産展といった種々のイベントを行う興行施設など、様々な施設で利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
100 本願発明の重力式揚重装置
100W (重力式揚重装置のうちの)重錘型重力式揚重装置
100F (重力式揚重装置のうちの)吊荷型重力式揚重装置
101 (重力式揚重装置の)天井体
101L (天井体の)左天井体
101R (天井体の)右天井体
102 (重力式揚重装置の)前方主滑車
102L (前方主滑車の)左前方主滑車
102R (前方主滑車の)右前方主滑車
103 (重力式揚重装置の)主吊ロープ
103L (主吊ロープの)左主吊ロープ
103R (主吊ロープの)右主吊ロープ
104 (重力式揚重装置の)後方主滑車
104L (後方主滑車の)左後方主滑車
104R (後方主滑車の)右後方主滑車
105 (重力式揚重装置の)吊荷支持手段
105L (吊荷支持手段の)左吊荷支持手段
105R (吊荷支持手段の)右吊荷支持手段
106 (重力式揚重装置の)係止具
106L (係止具の)左係止具
106R (係止具の)右係止具
107 (重力式揚重装置の)重錘
107L (重錘の)左重錘
107R (重錘の)右重錘
107B (重錘の)底部重錘
107M (重錘の)本体重錘
108 (重力式揚重装置の)昇降手段
108L (昇降手段の)左昇降手段
108R (昇降手段の)右昇降手段
109 (重力式揚重装置の)後方副滑車
109L (後方副滑車の)左後方副滑車
109R (後方副滑車の)右後方副滑車
110 (重力式揚重装置の)副吊ロープ
110L (副吊ロープの)左副吊ロープ
110R (副吊ロープの)右副吊ロープ
111 (重力式揚重装置の)重錘支持手段
112 (重力式揚重装置の)動滑車
113 (重力式揚重装置の)前方副滑車
113L (前方副滑車の)左前方副滑車
113R (前方副滑車の)右前方副滑車
200 フィールド
200L (フィールドの)左フィールド
200R (フィールドの)右フィールド
201 (フィールドの)側面
201L (側面のうちの)左側面
201R (側面のうちの)右側面
202 (フィールドの)突起体
203 (フィールドの)切欠き