(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078387
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】厚さの異なる区域を有するガラス系物品を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20230530BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023046611
(22)【出願日】2023-03-23
(62)【分割の表示】P 2020520264の分割
【原出願日】2018-10-09
(31)【優先権主張番号】62/570,344
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】リェルカ ウクラインツィク
(72)【発明者】
【氏名】ロヒット ライ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】厚さの異なる区域を有するガラス系物品の製造方法を提供する。
【解決手段】方法は、ガラス系基板の、第1の厚さ(t1)および第1の区域表面を有する第1の区域と、第2の厚さ(t2)および第2の区域表面を有する第2の区域を、アルカリ金属イオンを含む浴に暴露して、ガラス系基板をイオン交換し、第1の区域表面からt1の少なくとも一部分中に第1の区域内で変動する第1の非ゼロ濃度と、第2の区域表面からt2の少なくとも一部分中に第2の区域内で変動する第2の非ゼロ濃度とを有するアルカリ金属酸化物を含むガラス系物品を形成する工程を有し、t2はt1より小さく、そのガラス系物品は、第1の最大中央張力(CT1)を有する第1の中央張力領域を含む第1の区域の第1の応力プロファイルおよび第2の最大中央張力(CT2)を有する第2の中央張力領域を含む第2の区域の第2の応力プロファイルを有し、CT2はCT1より小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス系物品を製造する方法において、
ガラス系基板を、アルカリ金属イオンを含む浴に暴露して、該ガラス系基板をイオン交換する工程であって、前記ガラス系基板は、第1の厚さ(h1)を有する第1の区域と、第2の厚さ(h2)を有する第2の区域を有し、
前記第1の区域の表面から前記第1の厚さの少なくとも一部分中に前記第1の区域内で変動する第1の非ゼロ濃度と、前記第2の区域の表面から前記第2の厚さの少なくとも一部分中に前記第2の区域内で変動する第2の非ゼロ濃度とを有するアルカリ金属酸化物と、
を含むガラス系物品を形成する工程、
を有してなり、
前記第1の区間は、第1の第1の応力プロファイルを有し、前記第2の区間は、第2の第1の応力プロファイルを有し、
前記ガラス系物品は、拡散率Dを有し、0.0156h1/D<t<0.18h2/ddである、方法。
ここで、式中、h1は、厚い区域の厚さである。
【請求項2】
0.07<sqrt(4Dt/h2)<0.85である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
0.18<sqrt(4Dt/h1)<0.67である、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
0.25<sqrt(4Dt/h1)<0.51である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の応力プロファイルは、第1の最大中央張力(CT1)を有する第1の中央張力領域を含み、前記第2の応力プロファイルは、第2の最大中央張力(CT2)を有する第2の中央張力領域を含み、|CT2|は|CT1|より小さい、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の応力プロファイルが、第1の圧縮深さ(DOC1)を有し、前記第2の応力プロファイルが、第2の圧縮深さ(DOC2)を有し、DOC1>0.15・t1であり、DOC2が、0.075・t2から0.15・t2の範囲にある、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の応力プロファイルは、450MPa以上の第1の圧縮応力領域内の第1の表面圧縮応力(CS1)を含み、前記第2の応力プロファイルが、450MPa以上の第2の圧縮応力領域内の第2の表面圧縮応力(CS2)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の応力プロファイルの一部が、前記第1の区域表面から屈曲部まで延在し、その屈曲部が、2から30マイクロメートルの範囲の前記第1の区域表面からの深さに位置しており、前記第1の区域表面と屈曲部との間に位置する前記第1の応力プロファイルの全ての点が、10MPa/マイクロメートル以上の値を有する正接を含む、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全てが引用される、2017年10月10日に出願された米国仮特許出願第62/670344号の優先権の恩恵を主張するものである。
また、本願は、特願2020-520264号を原出願として令和5年 3月23日に分割したものである。
【技術分野】
【0002】
本開示の実施の形態は、広く、厚さの異なる区域を有するガラス系物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ガラス系物品が、家庭用電化製品、輸送、建築、防衛、医療、および包装を含む多くの様々な産業界に使用されている。家庭用電化製品について、携帯電話、スマートフォン、タブレット、ビデオプレーヤー、情報端末(IT)機器、ラップトップコンピュータ、ナビゲーションシステムなどの、移動式または携帯型電子通信および娯楽装置用のカバープレートまたは窓として電子機器に、ガラス系物品が使用されている。建築において、ガラス系物品は、窓、シャワーパネル、およびカウンタートップに含まれており;輸送において、ガラス系物品は、自動車、列車、航空機、および船舶に存在する。ガラス系物品は、破壊抵抗が優れているが、薄く軽量の物品を要求する任意の用途に適している。各産業界にとって、ガラス系物品の機械的および/または化学的信頼性は、一般に、機能性、性能、および費用により決定される。これらの物品の機械的および/または化学的信頼性を改善することは、継続している目標である。
【0004】
化学処理は、以下のパラメータ:圧縮応力(CS)、圧縮深さ(DOC)、および最大中央張力(CT)の1つ以上を有する所望の/設計された応力プロファイルを与える強化方法である。設計された応力プロファイルを有するものを含む多くのガラス系物品は、ガラス表面で最高またはピークにあり、表面から離れて移動するにつれてピーク値から減少する圧縮応力を有し、ガラス系物品内の応力が引張になる前に、ガラス系物品のある内部位置で応力がゼロになる。アルカリ含有ガラスのイオン交換(IOX)による化学強化は、この分野で実証された方法である。
【0005】
家庭用電化製品産業において、化学強化ガラスは、プラスチックと比べて良好な美的感覚と耐引掻性、および非強化ガラスと比べて良好な落下性能に加え、良好な耐引掻性のために、ディスプレイカバーの好ましい材料として使用されている。過去には、カバーガラスの厚さは、ほとんど均一であった(エッジ近くを除いて)。しかし、最近は、厚さがエッジから離れると不均一になるカバーガラスデザインが関心を集めるようになってきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不均一な厚さを有する化学強化ガラス物品が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の態様は、厚さの異なる区域を有するガラス系物品およびその製造方法に関する。
【0008】
態様(1)によれば、ガラス系物品が提供される。そのガラス系物品は、第1の厚さ(t1)および第1の区域表面を有する第1の区域;t1より小さい第2の厚さ(t2)および第2の区域表面を有する第2の区域;第1の圧縮応力領域と、第1の最大中央張力(CT1)を有する第1の中央張力領域とを含む第1の区域の第1の応力プロファイル;第2の圧縮応力領域と、第2の最大中央張力(CT2)を有する第2の中央張力領域とを含む第2の区域の第2の応力プロファイル;および第1の区域表面からt1の少なくとも一部分中に第1の区域内で変動する第1の非ゼロ濃度と、第2の区域表面からt2の少なくとも一部分中に第2の区域内で変動する第2の非ゼロ濃度とを有するアルカリ金属酸化物を含み、CT2はCT1より小さい。
【0009】
態様(2)によれば、ソーダ石灰ケイ酸塩、アルカリアルミノケイ酸塩、アルカリ含有ホウケイ酸塩、アルカリ含有アルミノホウケイ酸塩、またはアルカリ含有リンケイ酸塩を含む、態様(1)のガラス系物品が提供される。
【0010】
態様(3)によれば、リチウム含有アルミノケイ酸塩を含む、態様(2)のガラス系物品が提供される。
【0011】
態様(4)によれば、第2の区域がガラス系物品の全エッジからずれている、態様(1)から(3)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0012】
態様(5)によれば、t2が少なくとも100マイクロメートルだけt1より小さい、態様(1)から(4)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0013】
態様(6)によれば、t2が0.05・t1から0.96・t1の範囲にある、態様(1)から(5)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0014】
態様(7)によれば、t1が0.3mmから2.5mmの範囲にあり、t2が0.025mmから2.4mmの範囲にある、態様(1)から(6)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0015】
態様(8)によれば、第1の応力プロファイルが、0.15・t1以上の深さに位置する第1の圧縮深さ(DOC1)をさらに含む、態様(1)から(7)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0016】
態様(9)によれば、DOC1が0.15・t1から0.23・t1の範囲にある、態様(8)のガラス系物品が提供される。
【0017】
態様(10)によれば、第2の応力プロファイルが、0.075・t2以上の深さに位置する第2の圧縮深さ(DOC2)をさらに含む、態様(1)から(9)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0018】
態様(11)によれば、DOC2が0.075・t2から0.15・t2の範囲にある、態様(10)のガラス系物品が提供される。
【0019】
態様(12)によれば、第1の応力プロファイルが、450MPa以上の第1の圧縮応力領域内の第1の表面圧縮応力(CS1)をさらに含み、第2の応力プロファイルが、450MPa以上の第2の圧縮応力領域内の第2の表面圧縮応力(CS2)をさらに含む、態様(1)から(11)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0020】
態様(13)によれば、第1の応力プロファイルの一部が、第1の区域表面から屈曲部まで延在し、その屈曲部が、約2から約30マイクロメートルの範囲の第1の区域表面からの深さに位置しており、第1の区域表面と屈曲部との間に位置する第1の応力プロファイルの全ての点が、10MPa/マイクロメートル以上の値を有する正接を含む、態様(1)から(12)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0021】
態様(14)によれば、第1の応力プロファイルの一部が、屈曲部から第1の圧縮深さ(DOC1)まで延在し、屈曲部とDOC1との間に位置する第1の応力プロファイルの全ての点が、約0と2MPa/マイクロメートルの間にある値を有する正接を含む、態様(13)のガラス系物品が提供される。
【0022】
態様(15)によれば、アルカリ金属酸化物が、リチウム、カリウム、およびナトリウムの1つ以上を含む、態様(1)から(14)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0023】
態様(16)によれば、銀、銅、亜鉛、チタン、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選択される1種類以上の金属をさらに含む、態様(1)から(15)のいずれか1つのガラス系物品が提供される。
【0024】
態様(17)によれば、家庭用電気製品が提供される。その家庭用電気製品は、前面、背面、および側面を有する筐体;その筐体内に少なくとも部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも制御装置、メモリ、およびその筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられているディスプレイを含む電気部品;およびそのディスプレイの上に配置されたカバープレートを備え、その筐体およびカバープレートの少なくとも一方の一部は、態様(1)から(16)の内の1つのガラス系物品から作られている。
【0025】
態様(18)によれば、ガラス系物品を製造する方法が提供される。その方法は、ガラス系基板の、第1の厚さ(t1)および第1の区域表面を有する第1の区域と、第2の厚さ(t2)および第2の区域表面を有する第2の区域を、アルカリ金属イオンを含む浴に暴露して、そのガラス系基板をイオン交換し、第1の区域表面からt1の少なくとも一部分中に第1の区域内で変動する第1の非ゼロ濃度と、第2の区域表面からt2の少なくとも一部分中に第2の区域内で変動する第2の非ゼロ濃度とを有するアルカリ金属酸化物を含むガラス系物品を形成する工程を有してなり、t2はt1より小さく、そのガラス系物品は、第1の最大中央張力(CT1)を有する第1の中央張力領域を含む第1の区域の第1の応力プロファイルおよび第2の最大中央張力(CT2)を有する第2の中央張力領域を含む第2の区域の第2の応力プロファイルを有し、CT2はCT1より小さい。
【0026】
態様(19)によれば、ガラス系基板が、第1の期間に亘りアルカリ金属イオンを含む第1の浴に暴露され、その後、第2の期間に亘りアルカリ金属イオンを含む第2の浴に暴露される、態様(18)の方法が提供される。
【0027】
態様(20)によれば、ガラス系基板がリチウム含有アルミノケイ酸塩であり、浴がカリウムおよびナトリウムのイオンを含む、態様(18)の方法が提供される。
【0028】
本明細書に含まれ、その一部を構成する添付図面は、下記に記載されるいくつかの実施の形態を示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図5A】ここに開示された強化された積層ガラス系物品のいずれかを組み込んだ例示の電子機器の平面図
【
図6】スケーリングされた拡散距離の関数としての、3つのパラメータ:圧縮応力(CS)、中央張力(CT)、および圧縮深さ(DOC)のグラフ
【
図7】正規化位置に対するスケーリングされた濃度のグラフ
【
図9】実施例1および比較例Aに関する絶対位置に対する応力のグラフ
【
図10】実施例1および比較例Aに関する正規化位置に対する応力のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0030】
いくつかの例示の実施の形態を記載する前に、本開示は、以下の開示に述べられた構成または工程段階の詳細に限定されないことを理解すべきである。ここに与えられる開示は、他の実施の形態も可能であり、様々な様式で実施するまたは実行することができる。
【0031】
本明細書を通じての「1つの実施の形態」、「特定の実施の形態」、「様々な実施の形態」、「1つ以上の実施の形態」または「ある実施の形態」への言及は、その実施の形態に関して記載された特定の特徴、構造、材料、または特性が、本開示の少なくとも1つの実施の形態に含まれることを意味する。それゆえ、本明細書に亘る様々な場所における「1つ以上の実施の形態」、「特定の実施の形態」、「様々な実施の形態」、「1つの実施の形態」、または「ある実施の形態」などの句の出現は、必ずしも、同じ実施の形態を称するものではない。さらに、その特定の特徴、構造、材料、または特性は、1つ以上の実施の形態において、どの適切な様式で組み合わされてもよい。
【0032】
「ガラス系物品」および「ガラス系基板」という用語は、ガラスセラミック(非晶相および結晶相を含む)を含む、ガラスから全てがまたは部分的に製造された任意の物体を含むために使用される。積層ガラス系物品は、ガラス材料と結晶質材料の積層体などのガラス材料と非ガラス材料の積層体を含む。1つ以上の実施の形態によるガラス系基板は、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラス、アルカリ含有アルミノホウケイ酸塩ガラス、およびアルカリ含有リンケイ酸塩から選択されることがある。
【0033】
「基礎組成」は、任意のイオン交換(IOX)処理の前の基板の化学的組成である。すなわち、基礎組成は、IOXからのどのイオンもドープされていない。
【0034】
「実質的に」および「約」という用語は、任意の定量比較、値、測定、または他の表現に帰することがある不確実さの固有の程度を表すためにここに利用されることがある。これらの用語は、定量的表現が、問題となっている主題の基本機能に変化を生じずに、述べられた言及から変動することのある程度を表すためにもここに利用されることがある。それゆえ、例えば、「MgOを実質的に含まない」ガラス系物品は、MgOが、ガラス系物品に能動的に添加されたり、バッチ配合されたりしていないが、0.01モル%未満の量など、汚染物質として非常に少量存在することがあるものである。
【0035】
特に明記のない限り、ここに記載された全ての組成は、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で表されている。
【0036】
「応力プロファイル」は、ガラス系物品またはその任意の部分の位置に関する応力である。圧縮応力領域は、物品の第一面から圧縮深さ(DOC)まで延在し、ここで、その物品は、圧縮応力下にある。中央張力領域は、DOCから延在し、物品が引張応力下にある領域を含む。
【0037】
ここに用いられているように、圧縮深さ(DOC)は、ガラス系物品内の応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さを称する。DOCでは、応力は正の(圧縮)応力から負の(引張)応力に交差し、それゆえ、ゼロの応力値を示す。機械の技術分野に通常使用される慣例によれば、圧縮は、負の(<0)応力として表され、張力は、正の(>0)応力として表される。しかしながら、本記載に亘り、圧縮応力(CS)は、正の値または絶対値として表される-すなわち、ここに挙げられているように、CS=|CS|である。それに加え、引張応力は、ここでは、負の(<0)応力として表される、または引張応力が具体的に特定されているある状況では、絶対値として表される。中央張力(CT)は、ガラス系物品の中央領域または中央張力領域における引張応力を称する。最大中央張力(最大CTまたはCTmax)は、中央張力領域で生じ、大抵、0.5・hに位置し、ここで、hは物品の厚さである。厚さが異なり、それぞれ、第1の厚さ(t1)および第2の厚さ(t2)を有する第1と第2の区域を有する物品の本開示について、第1の区域における第1の最大中央張力(CT1)は、名目上は、0.5・t1にあり、第2の区域における第2の最大中央張力(CT2)は、名目上は、0.5・t2にある。「名目上」0.5・h、0.5・t1、および0.5・t2への言及により、最大引張応力の位置の正確な中心からの変動を可能にする。
【0038】
応力プロファイルの「屈曲部」は、応力プロファイルの勾配が急から穏やかに移行する物品の深さである。この屈曲部は、勾配が変化する深さの範囲に亘る移行区域を称することがある。
【0039】
物品の厚さ(h)、第1の区域の厚さ(t1)、または第2の区域の厚さ(t2)の少なくともかなりの部分に沿って変動する非ゼロのアルカリ金属酸化物濃度は、イオン交換の結果として、応力が、それぞれ、物品、第1の区域、または第2の区域内で生じていることを示す。金属酸化物濃度の変動は、ここでは、金属酸化物濃度勾配と称されることがある。濃度が非ゼロであり、厚さの一部に沿って変動する金属酸化物は、ガラス系物品内に応力を生じると記載されることがある。1つ以上の金属酸化物の濃度勾配または変動は、ガラス系基板内の複数の第1の金属イオンが複数の第2の金属イオンと交換される、ガラス系基板の化学強化により生じる。
【0040】
特に明記のない限り、CTおよびCSは、ここでは、メガパスカル(MPa)で表され、一方で、厚さおよびDOCは、ミリメートルまたはマイクロメートルで表される。
【0041】
CSおよびDOCは、Glasstress(エストニア国)からのSCALP-5測定システムを使用する散乱偏光分析法などによって、当該技術分野に公知の手段を使用して測定される。CSおよびDOCを測定するための他の可能性のある技術に、有限会社小原製作所(日本国)により製造されているFSM-6000などの市販の機器を使用する表面応力測定(FSM)がある。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関係する応力光学係数(SOC)の精密測定に依存する。SOCは、次に、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題する、ASTM標準C770-16に記載された手順C(ガラスディスク法)などの当該技術分野に公知の方法にしたがって測定される。
【0042】
アルカリ含有ガラスの最新式のイオン交換(IOX)は、均一な厚さのガラス系物品に焦点を当てている。しかしながら、ガラス系物品は、今では、エッジから離れた区域における厚さが不均一であるように設計されている。1つの例示の用途は、指紋センサを受け入れるための従来の貫通孔またはスロットを置き換えるために、指紋センサを収容するためにガラス系カバー内に凹部を有することがある。強化ガラス内に指紋センサを収容することによって、従来の高分子指紋センサカバーはなくなり、改善された耐引掻性および良好なユーザ・エクスペリエンスが可能になる。何故ならば、カバーガラス上に突出したまたは穴のある特徴がないからである。エッジから離れた区域の厚さが不均一な基板が、最新式のIOX方法で化学強化される場合、より薄い区域はより厚い区域よりも高い中央張力(CT)を有し得る。より薄い区域におけるより高いCTは、最終的なガラス系物品の信頼性にとって有害であり得、多くの場合、その物品を壊れやすくし得、このことは、以前に認識されなかった問題である。
【0043】
ここに開示されたガラス系物品は、第1の厚さを有する第1の区域における第1の中央張力および第2の厚さを有する第2の区域における第2の中央張力を含む圧縮プロファイルとの組合せで、厚さの異なる区域を有し、その第2の厚さは第1の厚さより小さく、第2の中央張力は第1の中央張力より小さいという点で有益である。このガラス系物品は、基礎組成に1種類以上のアルカリ金属を有する基板から形成され、その基板は、その物品が1種類以上のイオン交換された金属を含むようにイオン交換が施されている。その1種類以上のイオン交換された金属は、リチウム、カリウム、およびナトリウムの内の1つ以上を含むことがある。さらに、イオン交換された金属は、銀、銅、亜鉛、チタン、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選択される1種類以上の金属を含むことがある。
【0044】
ガラス系基板は、一段階、二段階、または多段階イオン交換(IOX)により強化されることがある。浸漬の間に洗浄工程および/または徐冷工程がある、多数のイオン交換浴中にガラスが浸漬される、イオン交換過程の非限定例が、ガラスが、異なる濃度の塩浴中の多数の連続したイオン交換処理における浸漬により強化される、「Glass with Compressive Surface for Consumer Applications」と題するDouglas C. Allan等による米国特許第8561429号明細書;およびガラスが、流出イオンで希釈された第1の浴中のイオン交換により強化され、続いて、第1の浴より小さい濃度の流出イオンを有する第2の浴に浸漬される、「Dual Stage Ion Exchange for Chemical Strengthening of Glass」と題する2012年11月20日に発行されたChristopher M. Lee等による米国特許第8312739号明細書に記載されている。米国特許第8561429号および同第8312739号の各明細書の内容が、ここに全て引用される。
【0045】
ガラス系物品において、t1の少なくとも一部に沿った第1の区域、およびt2の少なくとも一部に沿った第2の区域の両方において、独立して変動する非ゼロ濃度を有するアルカリ金属酸化物がある。各区域におけるその応力プロファイルは、各厚さの一部に沿って変動する金属酸化物の非ゼロ濃度のために生じる。いくつかの実施の形態において、金属酸化物の濃度は、非ゼロであり、約0・(t1またはt2)から約0.3・(t1またはt2)までの厚さ範囲の両方に沿って変動する。いくつかの実施の形態において、金属酸化物の濃度は、非ゼロであり、約0・(t1またはt2)から約0.35・(t1またはt2)まで、約0・(t1またはt2)から約0.4・(t1またはt2)まで、約0・(t1またはt2)から約0.45・(t1またはt2)まで、約0・(t1またはt2)から約0.48・(t1またはt2)まで、または約0・(t1またはt2)から約0.50・(t1またはt2)までの厚さ範囲に沿って変動する。濃度の変動は、上述した厚さ範囲に沿って連続的であることがある。濃度の変動は、約100マイクロメートルの厚さ区分に沿った少なくとも約0.2モル%の金属酸化物濃度の変化を含むことがある。金属酸化物濃度の変化は、約100マイクロメートルの厚さ区分に沿って、少なくとも約0.3モル%、少なくとも約0.4モル%、または少なくとも約0.5モル%であることがある。この変化は、マイクロプローブを含む、当該技術分野に公知の方法によって測定されることがある。
【0046】
いくつかの実施の形態において、濃度の変動は、約10マイクロメートルから約30マイクロメートルの範囲の厚さ区分に沿って連続的であることがある。いくつかの実施の形態において、金属酸化物の濃度は、第1または第2の区域の第一面から、その第一面と第二面との間の地点まで減少し、その地点から第二面まで増加する。
【0047】
金属酸化物の濃度は、複数の金属酸化物(例えば、Na2OおよびK2Oの組合せ)を含むことがある。2種類の金属酸化物が使用され、イオンの半径が互いに異なる、いくつかの実施の形態において、浅い深さでは、半径が大きい方のイオンの濃度は、半径が小さい方のイオンの濃度より大きく、一方で、より深い深さでは、半径が小さい方のイオンの濃度は、半径が大きい方のイオンの濃度より大きい。例えば、イオン交換過程に、1つのNaおよびK含有浴が使用される場合、ガラス系物品中のK+イオンの濃度は、より浅い深さでは、Na+イオンの濃度より大きく、一方で、Na+の濃度は、より深い深さでは、K+の濃度より大きい。これは、一部には、ガラス中により小さい一価イオンと交換される一価イオンのサイズのためである。そのようなガラス系物品において、表面またはその近くの領域は、表面またはその近くの大きい方のイオン(すなわち、K+イオン)の量がより多いために、より大きいCSを有する。さらに、応力プロファイルの勾配は、一般に、所定の表面濃度からの化学拡散により達成される濃度プロファイルの性質のために、表面からの距離とともに減少する。
【0048】
1つ以上の実施の形態において、金属酸化物の濃度勾配は、その区域の厚さt1またはt2のかなりの部分、もしくは全厚t1またはt2を通じて延在する。いくつかの実施の形態において、金属酸化物の濃度は、第1および/または第2の区域の全厚に沿って約0.5モル%以上(例えば、約1モル%以上)であることがあり、第一面および/または第二面0・(t1またはt2)で最大であり、第一面と第二面の間の地点まで、実質的に一定に減少する。その地点で、金属酸化物の濃度は、全厚t1またはt2に沿って最小である;しかしながら、その濃度は、その地点で非ゼロである。言い換えると、その特定の金属酸化物の非ゼロ濃度は、厚さt1またはt2のかなりの部分(ここに記載されたような)、もしくは全厚t1またはt2に沿って延在する。そのガラス系物品中の特定の金属酸化物の総濃度は、約1モル%から約20モル%の範囲にあることがある。
【0049】
その金属酸化物の濃度は、前記ガラス系物品を形成するようにイオン交換されたガラス系基板中の金属酸化物の基礎濃度から決定されることがある。
【0050】
図面に移ると、
図1は、エッジから離れて不均一な厚さを有するガラス系物品100を示している。第1の区域102は、第1の厚さ(t
1)および第1の最大中央張力(CT
1)を有する。線114は、物品100の中線を示す。第2の区域104は、第2の厚さ(t
2)および第2の最大中央張力(CT
2)を有する。一般に、t
1とt
2との間の差は、少なくとも100マイクロメートルである。1つ以上の実施の形態において、t
1は、少なくとも100マイクロメートルだけt
2より大きい。t
2は、0.05・t
1から0.69・t
1の範囲にあることがある。1つ以上の実施の形態において、t
2は、t
1に対して約20%、または約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、およびその間の全ての値と部分的範囲だけ小さい。t
1は、0.3mmから2.5mmの範囲、およびその間の全ての値と部分的範囲にあることがあり;t
2は、0.025mmから2.4mmの範囲、およびその間の全ての値と部分的範囲にあることがある。CT
2はCT
1より小さく、このことは、第2の区域が、第1の区域と同じ条件下でイオン交換されたにもかかわらず、壊れやすくないことを確実にするのに都合よい。これらの図面は、物品の残りと異なる厚さを有する1つの区域を示しているが、同じ物品に深さの異なる区域またはポケットが多数あってもよいことに留意のこと。
【0051】
この実施の形態において、第2の区域104は、物品100の全てのエッジ106、108、110、および112からずれている。すなわち、第2の区域104は、エッジ106、108、110、および112のいずれとも交差していない。
【0052】
図2は、側面116、118、120、および122により画成されている第2の区域104を示している。この実施の形態において、第2の区域104は、指紋センサなどを収容するように設計された薄いポケットである。線124は、第2の区域104の中心線を示す。
図3は、
図2の線124に沿った物品100の断面を示している。側面116、118、120、および122は、第2の区域104の主要部105から第1の区域102への移行を与えている。いくつかの実施の形態において、この物品は、141.4ミリメートル×68.4ミリメートルのサイズを有し、第1の区域の厚さは0.6ミリメートルである。いくつかの実施の形態において、ポケットは、5.6ミリメートル×12.3ミリメートルのサイズを有し、第2の区域の厚さは0.3ミリメートルである。
【0053】
図4Aは、
図1の中線114に沿った物品100の断面および第2の区域104の位置を示している。
図4Bは、第1の区域102に移行する側面120および122を有する第2の区域104の断面の拡大図を示している。
【0054】
ここに開示されたガラス系物品は、ディスプレイを有する物品(またはディスプレイ物品)および/または筐体(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどを含む家庭用電化製品)、建築物品、輸送物品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、電気器具、またはある程度の透明性、耐引掻性、耐摩耗性またはその組合せを必要とする任意の物品などの別の物品に組み込まれることがある。ここに開示された強化物品のいずれかを組み込んだ例示の物品が、
図5Aおよび5Bに示されている。詳しくは、
図5Aおよび5Bは、前面304、背面306、および側面308を有する筐体302;その筐体内に少なくとも部分的に内部のまたは完全に中にある電気部品(図示せず)であって、少なくとも制御装置、メモリ、およびその筐体の前面またはそれに隣接したディスプレイ310を含む電気部品;およびディスプレイの上にあるように筐体の前面またはその上にあるカバープレート312を備えた消費者向け電子機器300を示している。いくつかの実施の形態において、カバープレート312の少なくとも一部は、ここに開示された強化物品のいずれかを含むことがある。いくつかの実施の形態において、筐体302の少なくとも一部は、ここに開示された強化物品のいずれかを含むことがある。
【0055】
様々な異なる過程を使用して、ガラス系基板を提供することができる。例えば、例示のガラス系基板を形成する方法に、フロートガラス法、およびフュージョンドロー法およびスロットドロー法などのダウンドロー法がある。溶融ガラスを溶融金属、典型的にスズの床の上に浮遊させるて、フロートガラスを製造することによって調製されるガラス系基板は、滑らかな表面および均一な厚さにより特徴付けられる。例示の過程において、溶融スズ床の表面上に供給される溶融ガラスが、浮遊するガラスリボンを形成する。このガラスリボンがスズ浴に沿って流れるときに、その温度は、ガラスリボンが、スズからローラに持ち上げられる固体のガラス系基板に固化するまで、徐々に低下する。一旦浴から離れたら、そのガラス系基板は、さらに冷却し、焼き鈍して、内部応力を減少させ、必要に応じて、研磨することができる。
【0056】
ダウンドロー法では、比較的無垢な表面を有する均一な厚さを持つガラス系基板が製造される。ガラス系基板の平均曲げ強度は、表面傷の量とサイズにより制御されるので、無垢な表面はより高い初期強度を有する。次いで、この高強度ガラス系基板がさらに強化(例えば、化学的に)されると、結果として得られた強度は、ラップ仕上げされ研磨された表面を有するガラス系基板の強度よりも高くあり得る。ダウンドローされたガラス系基板は、約2mm未満の厚さまで板引きされることがある。その上、ダウンドローされたガラス系基板は、費用のかかる研削および研磨を行わずに最終用途に使用できる、非常に平らで滑らかな表面を有する。
【0057】
フュージョンドロー法では、例えば、溶融ガラス原材料を受け入れるための通路を有するドロー用タンクを使用する。その通路には、通路の両側に通路の長さに沿って上部で開いた堰がある。その通路が溶融材料で満たされると、溶融ガラスが堰を越えて溢れる。溶融ガラスは、重力のために、2つの流れるガラス膜としてドロー用タンクの外面を下方に流れる。ドロー用タンクのこれらの外面は、ドロー用タンクの下の縁で接合するように、下方かつ内側に延在する。この2つの流れるガラス膜はこの縁で接合し、融合して、単一の流れるガラス系基板を形成する。このフュージョンドロー法は、通路を越えて流れる2つのガラス膜は互いに融合するので、結果として得られたガラス系基板の外面はその装置のどの部分とも接触しないという利点を提供する。したがって、フュージョンドロー法により形成されたガラス系基板の表面特性は、そのような接触により影響を受けない。
【0058】
スロットドロー法は、フュージョンドロー法とは異なる。スロットドロー法において、溶融原材料ガラスがドロー用タンクに提供される。このドロー用タンクの下部には開放スロットがあり、このスロットの長さに亘りノズルが延在している。溶融ガラスは、このスロット/ノズルを通って流れ、連続した基板として下方に、焼き鈍し領域へと板引きされる。
【0059】
基板の例示の基礎組成は、以下に限られないが、ソーダ石灰ケイ酸塩、アルカリアルミノケイ酸塩、アルカリ含有ホウケイ酸塩、アルカリ含有アルミノホウケイ酸塩、またはアルカリ含有リンケイ酸塩を含むことがある。ガラス系基板は、リチウム含有アルミノケイ酸塩を含むことがある。
【0060】
基板として使用できるガラスの例に、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物またはアルカリ含有アルミノホウケイ酸塩ガラス組成物があるが、他のガラス組成物も考えられる。そのようなガラス組成物は、イオン交換可能であると特徴付けられることがある。ここに用いられているように、「イオン交換可能」とは、その組成物から作られた基板が、その基板の表面またはその近くに位置する陽イオンを、サイズが大きいかまたは小さいかのいずれかの同じ価数の陽イオンと交換できることを意味する。
【0061】
ある実施の形態において、基礎ガラス組成物は、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラスを含む。ある実施の形態において、そのソーダ石灰ケイ酸塩ガラスの組成は、酸化物基準で、73.5質量%のSiO2、1.7質量%のAl2O3、12.28質量%のNa2O、0.24質量%のK2O、4.5質量%のMgO、7.45質量%のCaO、0.017質量%のZrO2、0.032質量%のTiO2、0.002質量%のSnO2、0.014質量%のSrO、0.093質量%のFe2O3、0.001質量%のHfO2、0.028質量%のCl酸化物、および0.203質量%のSO3である。
【0062】
特定の実施の形態において、前記基板に適したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成は、アルミナ、少なくとも1種類のアルカリ金属、およびいくつかの実施の形態において、50モル%超のSiO2、他の実施の形態において、少なくとも58モル%のSiO2、さらに他の実施の形態において、少なくとも60モル%のSiO2を含み、ここで、比((Al2O3+B2O3)/Σ改質剤)>1であり、この比において、成分はモル%で表され、改質剤はアルカリ金属酸化物である。このガラス組成は、特定の実施の形態において、58~72モル%のSiO2、9~17モル%のAl2O3、2~12モル%のB2O3、8~16モル%のNa2O、および0~4モル%のK2Oを含み、ここで、比((Al2O3+B2O3)/Σ改質剤)>1である。
【0063】
さらに別の実施の形態において、前記基板は、64~68モル%のSiO2、12~16モル%のNa2O、8~12モル%のAl2O3、0~3モル%のB2O3、2~5モル%のK2O、4~6モル%のMgO、および0~5モル%のCaOを含み、ここで、66モル%≦(SiO2+B2O3+CaO)≦69モル%、(Na2O+K2O+B2O3+MgO+CaO+SrO)>10モル%、5モル%<(MgO+CaO+SrO)≦8モル%、(Na2O+B2O3)<Al2O3<2モル%、2モル%<NaO<Al2O3<6モル%、および4モル%<(Na2O+K2O)<Al2O3≦10モル%であるアルカリアルミノケイ酸塩ガラス組成物を含むことがある。
【0064】
代わりの実施の形態において、前記基板は、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスから作られることがある。ある実施の形態において、そのアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、2モル%以上のAl2O3および/またはZrO2または4モル%以上のAl2O3および/またはZrO2を含む組成を有する。
【0065】
別の実施の形態において、前記基板は、リチウム含有アルカリアルミノケイ酸塩ガラスから作られることがある。ある実施の形態において、そのリチウム含有アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、モル%で表して、約60%から約75%の範囲の量のSiO2、約12%から約20%の範囲の量のAl2O3、約0%から約5%の範囲の量のB2O3、約2%から約8%の範囲の量のLi2O、約4%超の量のNa2O、約0%から約5%の範囲の量のMgO、約0%から約3%の範囲の量のZnO、約0%から約5%の範囲の量のCaO、および非ゼロ量のP2O5を含む組成を有し、このガラス基板は、イオン交換可能であり、非晶質であり、この組成中のAl2O3およびNa2Oの総量は、約15モル%超である。
【0066】
基礎組成を有するガラス基板の化学強化は、ガラス中に拡散する陽イオン(K+、Na+、Ag+など)を含有する溶融浴中にイオン交換可能なガラス基板を入れ、その間に、ガラスのより小さいアルカリイオン(Na+、Li+)が溶融浴中に拡散することによって行われる。大きい陽イオンによる小さい陽イオンの置換により、ガラスの上面近くに圧縮応力が生じる。その表面近くの圧縮応力を釣り合わせるために、ガラスの内部に引張応力が生じる。均一な厚さのガラスの平らな小片について、応力(σ(z))は、式(I)
【0067】
【0068】
にしたがう濃度プロファイルから計算することができ、式中、C(z)は、zでの大きい陽イオンの濃度であり、Cavgは物品中の大きいイオンの平均濃度であり、hはガラスの厚さであり、Bは網目構造膨張係数であり、Eはヤング率であり、νはポアソン比であり、zは、物品の表面での値が0およびhである、厚さ方向の座標である。大きい方のイオンの濃度は、典型的に、表面で最大であり、厚さの中間で最小である。C(z)>Cavgである、表面近くでは、応力は圧縮である、C(z)=Cavgのときに、応力はゼロになり、この深さが圧縮深さ(DOC)と称される。C(z)<Cavgである、それより深い深さでは、応力は、引張であり、一般に、物品の厚さの中間で最大値に到達する。引張応力のこの最大値は、最大中央張力と称される。
【0069】
ガラス系基板は、第1の期間に亘り、アルカリ金属イオンを含む第1の浴に暴露され、その後、第2の期間に亘り、アルカリ金属イオンを含む第2の浴に暴露されることがある。詳細な実施の形態において、そのガラス系基板はリチウム含有アルミノケイ酸塩であり、浴は、カリウムとナトリウムのイオンを含む。
【0070】
耐引掻性および落下性能をより良くするためには、より高い圧縮応力(CS)が望ましい。より大きいDOCも、落下性能を改善し、したがって、同様に好ましい。しかしながら、より高いCSおよびDOCは、より高いCTをもたらし、このことは、亀裂の伝搬にとって望ましくなく、もし高すぎると、サンプルの壊れやすさがもたらされ得る。
【0071】
図6は、スケーリングされた拡散距離、Sqrt(4Dt)/hの関数としての、3つのパラメータ:圧縮応力(CS)、最大中央張力(CT)、および圧縮深さ(DOC)のグラフであり、DOCは、全厚hの割合として表され、Dは拡散率であり、tは時間である。1段階の3イオン拡散交換に関する傾向があり、第1の交換対(Li-Na)は、放物線応力プロファイルを与え、第2の交換対(Na-K)はスパイクを与える。異なる厚さのガラス物品に関する曲線は、このように表された場合、重複する。曲線の正確な形状は、拡散率の濃度依存性、交換されるイオン対(例えば、Na
+に代えてK
+、Li
+に代えてNa
+など)、および異なる浴組成および/または温度で行われるIOX工程の数に依存する。例えば、既にイオン交換されたガラス物品に浅い深さの高勾配の高いCSスパイクを加えると、一般に、DOCが減少する。他方で、
図6のCSおよびCT曲線のスケールは、項BEΔC/(1-ν)により決まり、ここで、ΔCは、大きい陽イオンの表面濃度と基礎基板組成の濃度との間の差である。Bは、網目構造膨張係数であり、イオン交換対に依存し、Eは、ヤング率であり、各ガラス組成について固定されている。ΔCは、IOX浴の組成と温度を変えることによって、調節できる。
図6は、以下の傾向を示す。
【0072】
DOCとCTの両方とも、最初に、項sqrt(4Dt)/hと共に増加し、最大値に到達し、次いで、さらなるイオン交換の際に減少する。1段階の2イオン交換の場合(図示せず)、DOC対sqrt(4Dt)/hは、安定値(約0.22)に到達するであろう。ピークを越えるDOCの減少(
図6)は、スパイクの効果による。圧縮応力は、sqrt(4Dt)/hと共に単調に減少する。
【0073】
DOCに関して、最初に、益々イオンがガラス中に拡散するにつれて、C(z)=C
avgである位置は、中心へとさらに向けられる。すなわち、DOCは、IOX時間と共に増加する。
図6に示されるように、1つのイオン対(例えば、Li-Na)が応力プロファイルの深いまたは放物線部分を生じ、別の対(例えば、Na-K)がスパイクを生じる、3イオンのIOXについて、DOCは、最初に、平坦域に到達し、次に、減少し始める。無限IOX時間について、濃度はどこでも均一であろうことに留意のこと。DOCは、そのような状況下で、最終的に、1段階2イオン交換についてさえ、ゼロに到達するであろう。
【0074】
CTについて、最初に、IOX時間が増加すると、厚さの中間での濃度C(z=h/2)を増加させずに、Cavgを増加させる。この期間中、CTは、式Iにしたがって増加する。しかしながら、イオンが中心に到達し始めるにつれて、Cavgの増加速度は、C(z=h/2)の増加速度に上回られる。この地点から前方には、CTは減少し始める。このように、DOCおよびCTは、同様の傾向(最初に増加し、次いで、IOX時間と共に減少する)を示すが、DOCとCTのピークは、異なるIOX時間で到達する。
【0075】
CSに関して、IOX時間の増加により、ガラス中の平均濃度は着実に増加し、表面濃度はほとんど対応して変化しない。したがって、表面CSは、IOX時間の増加により徐々に減少する。
【0076】
図7は、0.075、0.15、0.25、および0.40のsqrt(4Dt)/h値に関する、表面からの正規化位置に対するスケーリングされた濃度のグラフである。一点鎖線は、対応するsqrt(4Dt)/h値の曲線に関する平均濃度(スケーリングされた)値を示す。点線は、sqrt(4Dt)/h=0.25および0.40に関する放物線当て嵌め曲線を示す。一点鎖線と実線曲線の交差点は、DOCを表す。DOCは、IOX時間と共に増加する。
【0077】
図8は、
図7の値に対応するsqrt(4Dt)/h値に関する、表面からの正規化位置に対する応力のグラフである。sqrt(4Dt)/h=0.25、0.40に関する放物線当て嵌め曲線も示されている。sqrt(4Dt)/h<0.25について、表面からのイオンは、ガラスの中心に到達していない。この地点までは、濃度および応力プロファイルは、短い拡散時間に関する拡散のフィックの法則の解から得られる1つの誤差関数(erfc)プロファイルに似ている。sqrt(4Dt)/h<0.25について、フィックの法則の解は、多数のerfc項の追加を含み、結果として得られるプロファイルは、放物型方程式y=ax
2+bx+cにより近似できる。
【0078】
図7~8のグラフは、一対の交換種(Li
+に代えてNa
+、Na
+に代えてK
+など)だけの1段階イオン交換過程を表す。しかしながら、これらの概念は、多数の対および/または多段階のイオン交換過程にも同様に適用できる。典型的なケースは、イオン交換の深い部分を説明する一対のイオン交換(例えば、Li
+に代えてNa
+)または1段階、および急な表面スパイクを説明する別の対(Na
+に代えてK
+)のものであろう。
【0079】
不均一な厚さのガラス物品(例えば、
図1~4)がイオン交換されると、全表面は、同じ温度で実質的に同じ表面濃度に暴露される。それゆえ、パラメータCS、DOC、およびCTの値は、同じ曲線から決定できる。sqrt(4Dt)/hの値が、ガラスの薄い区域について高いので、その薄い区域に関するCS、CT、およびDOC値は、
図6の曲線の右にシフトされる(厚い区域に対して)。例えば、0.6mmの第1の厚さおよび0.3mmの第2の厚さを選ぶと、薄い0.3mm区域のsqrt(4Dt)/h値は、厚い0.6mm区域の値の2倍である。この例において、物品の大部分は0.6mm厚であるので、DOCが曲線のピークにあるまたはそれに近いことが望ましい。ピークCTは、ピークDOCの左側に位置しているので(
図6)、CTは、曲線の低下している側に近いか、またはすでにその側にある。したがって、0.3mm厚の領域について、CT値は、ピークよりもずっと低くなる。同じケースがDOCに当てはまり、このことは望ましくない。しかしながら、より薄い領域が、より厚い領域のほんのわずかであるこのような物品について、壊れやすさの限界よりCTを低くすることが、わずかに減少したDOCよりも重要である。
【0080】
薄い区域の領域が、全領域のかなりの割合である設計について、特定のガラス組成について、より短いIOX時間にシフトすることによって、CTを壊れやすさの限界より低く維持しつつ、DOCが増加させられることがある。これにより、より厚い区域のDOCおよび/またはCTが減少するであろう。
【0081】
厚い区域のDOCは、0.15h超であることがあり、好ましくは0.18h超である。
図6の例について、このことは、0.18<sqrt(4Dt/h
1)<0.67、好ましくは、0.25<sqrt(4Dt/h
1)<0.51とすることによって、達成でき、式中、h
1は、厚い区域の厚さであり、Dは拡散率である。薄い区域のDOCは、0.075h
2超であることがあり、好ましくは0.1h
2より大きく、ここで、h
2は薄い区域の厚さである。
図6の例について、これは、0.07<sqrt(4Dt/h
2)<0.85とすることによって、達成できる。別の実施の形態において、最も薄い区域のDOCは、10マイクロメートル超であり、好ましくは、20マイクロメートル超である。
【0082】
特定のIOC浴組成および温度について、IOX時間は、ガラス中に拡散するより大きいイオン(KまたはNa)の拡散率および物品の最大厚と最小厚に基づいて計算することができる。最も厚い区域のDOCにより最小IOX時間が決定され、最も薄い区域のDOCにより、最大IOX時間が決定される、例えば、0.0156h1/D<t<0.18h2/D。
【0083】
最も厚い区域と最も薄い区域の表面CSは、450MPa超、好ましくは650MPa超であることがある。CSは、イオン交換浴の濃度および温度を変えることによって、調節できる。
【0084】
薄い区域の最大CT値は、壊れやすさの限界より低い。
【0085】
物品は、約2~30マイクロメートルまたは約5~20マイクロメートルの深さに亘り延在する表面近くの圧縮応力プロファイルの高勾配(>10MPa/μm)を有することがある。450MPa超、好ましくは650MPa超のピーク圧縮応力が、この表面に存在することがある。この領域は、スパイクと称されることがある。
【0086】
圧縮応力プロファイルの深い低勾配(<2MPa/μm)領域は、約20~30μmの深さから物品の中心まで延在することがある。この領域は、放物型(応力=az2+bz+c)または近放物型形状により特徴付けられる。この領域の実際のプロファイルは、濃度依存拡散性などの、様々な要因のために、いくぶん逸脱するであろう。
【0087】
不均一な厚さを有する基板を形成するために、様々な過程を使用してよい。厚さが第1の区域の所望の厚さである、実質的に均一な厚さの基板を得ることができる。厚さがより薄い第2の区域は、第1の区域の一部を除去することによって、厚さがより厚い第1の区域に形成することができる。その除去は、機械加工などの機械的処理、またはエッチングなどの化学的処理、または機械的処理と化学的処理の組合せにより、行うことができる。不均一な厚さを有する基板は、中に薄い区域が設計された成形型を使用することによって、形成されることがある。いくつかの実施の形態において、その成形型は、厚さが異なる区域を有する所望の基板プロファイルを製造するように選択されることがある。いくつかの実施の形態において、成形された基板は、次に、異なる厚さの区域を形成するために、機械加工、エッチング、またはその組合せなどのさらに別の加工が施されることがある。
【0088】
次に、不均一な厚さの基板をイオン交換して、強化されたガラス系物品を形成する。そのイオン交換条件は、薄い区域が壊れやすくないことを確実にするために、薄い区域の中央張力(CT)を維持しつつ、厚い区域の所望の圧縮深さ(DOC)を含む応力プロファイルを達成するように選択される。不均一な厚さの基板のイオン交換の際に、基礎組成および1種類以上のイオン交換された金属を含む、厚さの異なる区域を有するガラス系物品が形成される。
【0089】
壊れやすい挙動は、強化済みガラス物品(例えば、プレートまたはシート)の多数の小片(例えば、1mm以下)への破壊;ガラス物品の単位面積当たりに形成された破片の数;ガラス物品における初期亀裂から枝分れした多数の亀裂;少なくとも1つの破片のその元の位置からの規定の距離(例えば、約5cm、または約2インチ)への激しい放出;並びに先の破壊(サイズおよび密度)、亀裂、および放出挙動のいずれかの組合せの内の少なくとも1つによって特徴付けられることがある。ここに用いられているように、「壊れやすい挙動」および「壊れやすさ」という用語は、コーティング、接着剤層などの、どのような外部的制約もない強化済みガラス物品の激しいまたはエネルギー的破砕の様式を称する。コーティング、接着剤層などを、ここに記載された強化済みガラス物品と共に使用してもよいが、そのような外部的制約は、ガラス物品の壊れやすさまたは壊れやすい挙動を決定する上では使用されない。
【0090】
いくつかの実施の形態において、第1の区域における第1の圧縮深さ(DOC1)は、0.15・t1以上の深さに位置する。DOC1は、0.15・t1から0.23・t1の範囲、およびそれらの間の全ての値と部分的範囲にあることがある。
【0091】
いくつかの実施の形態において、第2の区域における第2の圧縮深さ(DOC2)は、0.075・t2以上の深さに位置する。DOC2は、0.075・t2から0.15・t2の範囲、およびそれらの間の全ての値と部分的範囲にあることがある。
【0092】
いくつかの実施の形態において、前記ガラス系物品は、450MPa以上の第1の区域の表面圧縮応力(CS1)、および450MPa以上の第2の区域の表面圧縮応力(CS2)を有することがある。CS1およびCS2は、独立して、450MPaから1.2GPa、700MPaから950MPa、または約800MPa、およびそれらの間の全ての値と部分的範囲にあることがある。
【0093】
いくつかの実施の形態において、第1の区域の応力プロファイルは、第1の区域表面以下から、約2から約30マイクロメートルの範囲の屈曲部まで延在する圧縮応力領域をさらに含み、その第1の区域表面と屈曲部との間の圧縮応力領域の全ての点が、10MPa/マイクロメートル以上の値を有する正接を含む。その正接値は、約10から約500MPa/マイクロメートルの範囲、およびそれらの間の全ての値と部分的範囲にあることがある。
【0094】
いくつかの実施の形態において、第1の区域の応力プロファイルは、屈曲部から物品の中心まで延在する内部応力領域の全ての点が、約0と約5MPa/マイクロメートルの間、およびそれらの間の全ての値と部分的範囲にある値を有する正接を含むように減少する、屈曲部から延在する内部応力領域をさらに含む。
【実施例0095】
様々な実施の形態が、以下の実施例によりさらに明白になるであろう。実施例において、実施例は、強化前に、「基板」と称される。実施例は、強化が施された後に、「物品」または「ガラス系物品」と称される。
【0096】
以下の実施例を設計し、有限要素モデル化に基づく、二次元(2D)平面歪みイオン交換(IOX)モデルを使用して、応力プロファイルを生成した。
【0097】
実施例1
イオン交換によって、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス基板から形成されたガラス系物品をモデル化した。その基板は、63.60モル%のSiO2、15.67モル%のAl2O3、10.81モル%のNa2O、6.24モル%のLi2O、1.16モル%のZnO、0.04モル%のSnO2、および2.48モル%のP2O5の基礎組成を有した。IOXは、2段階を含んだ。工程1は、1時間50分に亘り380℃の浴温度の浴中で行われ、その浴は、38質量%のNaおよび62質量%のKを含有した。工程2は、33分間に亘り380℃の温度の浴中で行われ、その浴は、9質量%のNaおよび91質量%のKを含有した。したがって、イオン交換されたイオンは、KおよびNaを含んだ。その物品は、0.6ミリメートルの厚さを有する第1の区域および0.3ミリメートルの厚さを有する第2の区域を有した。
【0098】
比較例A
イオン交換によって、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス基板から形成されたガラス系物品をモデル化した。その基板は、ここに引用される、米国特許第9156724号明細書にしたがって製造した。その基板は、57.43モル%のSiO2、16.10モル%のAl2O3、17.05モル%、2.81モル%のMgO、0.003モル%のTiO2、6.54モル%のP2O5、および0.07モル%のSnO2の基礎組成を有した。シミュレーションしたIOXは、2段階を含んだ。工程1は、8時間30分に亘り450℃の浴温度の浴中で行われ、その浴は、51質量%のNaおよび49質量%のKを含有した。工程2は、14分間に亘り390℃の温度の浴中で行われ、その浴は、0.5質量%のNaおよび99.5質量%のKを含有した。したがって、イオン交換されたイオンは、KおよびNaを含んだ。その物品は、0.6ミリメートルの厚さを有する第1の区域および0.3ミリメートルの厚さを有する第2の区域を有した。
【0099】
実施例2
実施例1および比較例Aの各区域(厚いおよび薄い)に関する応力プロファイルが、2D平面歪みモデルにしたがって、
図9~11に与えられている。物品の表面からの絶対位置(マイクロメートル)に対するMPaで表された応力が
図9に与えられており、正規化位置(z/h)に対する応力が、
図10および11に与えられている。
図11は、物品の中心点(0.5h)までの
図10の拡大版である。表1には、各例の各区域に関する、圧縮応力(CS)、最大中央張力(CT
max)、および圧縮深さ(DOC)が纏められている。試料の各区域の屈曲部深さは、屈曲部での圧縮応力(CSk)と共に特定される。表面圧縮応力領域における勾配は、表面を通り屈曲部までの最良適合線により決定されることがある。内部応力領域における勾配は、屈曲部から中心までの最良適合線により決定されることがある
【0100】
【0101】
実施例1に関して、厚い区域のCTは-63Mpaであり、薄い区域のCTは-40MPaであった。それゆえ、CTは、同じIOX処理について、厚い区域に対して薄い区域で減少している。対照的に、比較例Aについては、厚い区域のCTは-49MPaであり、薄い区域のCTは-93MPaであり、それゆえ、CTは、同じIOX処理について、厚い区域に対して薄い区域で増加している。比較例Aの薄い区域は、その最大CTに基づいて壊れやすい。比較例Aの薄い区域を壊れにくくするには、薄い区域の最大CTを減少させるために、IOXの程度を減少させる必要があるであろう。そのため、この厚い区域のDOCが小さくなるという望ましくない結果がもたらされる。
【0102】
先は、様々な実施の形態に関するが、本開示の他とさらに別の実施の形態は、その基本的な範囲から逸脱せずに、考案されるであろう。その範囲は、以下の特許請求の範囲により決定される。
【0103】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0104】
実施形態1
ガラス系物品において、
第1の厚さ(t1)および第1の区域表面を有する第1の区域、
t1より小さい第2の厚さ(t2)および第2の区域表面を有する第2の区域、
前記第1の区域の第1の応力プロファイルであって、
第1の圧縮応力領域と、
第1の最大中央張力(CT1)を有する第1の中央張力領域と、
を含む第1の区域の第1の応力プロファイル、
前記第2の区域の第2の応力プロファイルであって、
第2の圧縮応力領域と、
第2の最大中央張力(CT2)を有する第2の中央張力領域と、
を含む第2の区域の第2の応力プロファイル、および
前記第1の区域表面からt1の少なくとも一部分中に前記第1の区域内で変動する第1の非ゼロ濃度と、前記第2の区域表面からt2の少なくとも一部分中に前記第2の区域内で変動する第2の非ゼロ濃度とを有するアルカリ金属酸化物、
を含み、
CT2はCT1より小さい、ガラス系物品。
【0105】
実施形態2
ソーダ石灰ケイ酸塩、アルカリアルミノケイ酸塩、アルカリ含有ホウケイ酸塩、アルカリ含有アルミノホウケイ酸塩、またはアルカリ含有リンケイ酸塩を含む、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0106】
実施形態3
リチウム含有アルミノケイ酸塩を含む、実施形態2に記載のガラス系物品。
【0107】
実施形態4
前記第2の区域が前記ガラス系物品の全エッジからずれている、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0108】
実施形態5
t2が少なくとも100マイクロメートルだけt1より小さい、実施形態1から4のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0109】
実施形態6
t2が0.05・t1から0.96・t1の範囲にある、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0110】
実施形態7
t1が0.3mmから2.5mmの範囲にあり、t2が0.025mmから2.4mmの範囲にある、実施形態1から6のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0111】
実施形態8
前記第1の応力プロファイルが、0.15・t1以上の深さに位置する第1の圧縮深さ(DOC1)をさらに含む、実施形態1から7のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0112】
実施形態9
DOC1が0.15・t1から0.23・t1の範囲にある、実施形態8に記載のガラス系物品。
【0113】
実施形態10
前記第2の応力プロファイルが、0.075・t2以上の深さに位置する第2の圧縮深さ(DOC2)をさらに含む、実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0114】
実施形態11
DOC2が0.075・t2から0.15・t2の範囲にある、実施形態10のに記載ガラス系物品。
【0115】
実施形態12
前記第1の応力プロファイルが、450MPa以上の前記第1の圧縮応力領域内の第1の表面圧縮応力(CS1)をさらに含み、前記第2の応力プロファイルが、450MPa以上の前記第2の圧縮応力領域内の第2の表面圧縮応力(CS2)をさらに含む、実施形態1から11のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0116】
実施形態13
前記第1の応力プロファイルの一部が、前記第1の区域表面から屈曲部まで延在し、該屈曲部が、約2から約30マイクロメートルの範囲の該第1の区域表面からの深さに位置しており、該第1の区域表面と該屈曲部との間に位置する該第1の応力プロファイルの全ての点が、10MPa/マイクロメートル以上の値を有する正接を含む、実施形態1から12のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0117】
実施形態14
前記第1の応力プロファイルの一部が、前記屈曲部から第1の圧縮深さ(DOC1)まで延在し、該屈曲部とDOC1との間に位置する該第1の応力プロファイルの全ての点が、約0と2MPa/マイクロメートルの間にある値を有する正接を含む、実施形態13に記載のガラス系物品。
【0118】
実施形態15
前記アルカリ金属酸化物が、リチウム、カリウム、およびナトリウムの1つ以上を含む、実施形態1から14のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0119】
実施形態16
銀、銅、亜鉛、チタン、ルビジウム、およびセシウムからなる群より選択される1種類以上の金属をさらに含む、実施形態1から15のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0120】
実施形態17
家庭用電気製品において、
前面、背面、および側面を有する筐体、
前記筐体内に少なくとも部分的に設けられた電気部品であって、少なくとも制御装置、メモリ、および該筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられているディスプレイを含む電気部品、および
前記ディスプレイの上に配置されたカバープレート、
を備え、
前記筐体および前記カバープレートの少なくとも一方の一部は、実施形態1から16のいずれか1つに記載のガラス系物品から作られている、家庭用電気製品。
【0121】
実施形態18
ガラス系物品を製造する方法において、
ガラス系基板の、第1の厚さ(t1)および第1の区域表面を有する第1の区域と、第2の厚さ(t2)および第2の区域表面を有する第2の区域を、アルカリ金属イオンを含む浴に暴露して、該ガラス系基板をイオン交換し、前記第1の区域表面からt1の少なくとも一部分中に前記第1の区域内で変動する第1の非ゼロ濃度と、前記第2の区域表面からt2の少なくとも一部分中に前記第2の区域内で変動する第2の非ゼロ濃度とを有するアルカリ金属酸化物を含むガラス系物品を形成する工程、
を有してなり、
t2はt1より小さく、前記ガラス系物品は、第1の最大中央張力(CT1)を有する第1の中央張力領域を含む前記第1の区域の第1の応力プロファイルおよび第2の最大中央張力(CT2)を有する第2の中央張力領域を含む前記第2の区域の第2の応力プロファイルを有し、CT2はCT1より小さい、方法。
【0122】
実施形態19
前記ガラス系基板が、第1の期間に亘りアルカリ金属イオンを含む第1の浴に暴露され、その後、第2の期間に亘りアルカリ金属イオンを含む第2の浴に暴露される、実施形態18に記載の方法。
【0123】
実施形態20
前記ガラス系基板がリチウム含有アルミノケイ酸塩であり、前記浴がカリウムおよびナトリウムのイオンを含む、実施形態18に記載の方法。