(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078512
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】めっき液の解析方法及び解析装置、並びに、めっき浴の管理方法及び管理システム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20230531BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20230531BHJP
C25D 21/14 20060101ALI20230531BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20230531BHJP
【FI】
G01N27/416 341B
C25D21/12 C
C25D21/14 K
G06T7/00 610Z
G06T7/00 350C
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191664
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】506293063
【氏名又は名称】サン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】秋山 正弘
(72)【発明者】
【氏名】淀 優介
(72)【発明者】
【氏名】河合 陽賢
(72)【発明者】
【氏名】水品 愛都
(72)【発明者】
【氏名】若林 信一
(72)【発明者】
【氏名】高▲柳▼ 佑太
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096BA03
5L096CA02
5L096FA32
5L096FA67
5L096GA02
5L096GA19
5L096GA34
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】めっき液から得られる析出パターンに関するデータを処理することによってめっき液の状態を統一された基準で定量的に解析することができる解析方法及び解析装置、並びに、その解析方法を用いためっき浴の管理方法及び管理システムを提供する。
【解決策】本発明のめっき液の解析方法は、めっき液から得られた析出パターンに関するデータを取り込み、前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習された解析モデルを用いることにより、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を得ることを特徴とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液から得られた析出パターンに関するデータを取り込み、
前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習された解析モデルを用いることにより、
前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を得る、めっき液の解析方法。
【請求項2】
前記解析モデルは、前記データ若しくは前記処理データから、前記めっき液に含まれる成分の種類若しくは量を導出する、
請求項1に記載のめっき液の解析方法。
【請求項3】
前記成分は添加剤である、
請求項2に記載のめっき液の解析方法。
【請求項4】
前記解析モデルは、前記データ若しくは前記処理データから、前記めっき液に含まれる不純物の種類若しくは量を導出する、
請求項1-3のいずれか一項に記載のめっき液の解析方法。
【請求項5】
前記データは前記析出パターンの表面態様の画像データである、
請求項1-4のいずれか一項に記載のめっき液の解析方法。
【請求項6】
前記画像データは、前記析出パターンから600dpi以上の解像度で生成したデータである、
請求項5に記載のめっき液の解析方法。
【請求項7】
前記析出パターンから常時一定の光学条件で前記画像データを生成する、
請求項6に記載のめっき液の解析方法。
【請求項8】
前記解析モデルは、前記析出パターンがハルセル試験により得られたものである場合において、前記画像データの電流密度の変化に対応する第1の方向に沿った前記析出パターンの表面態様の変化を示す前記処理データに基づいて解析を行うものである、
請求項5-7のいずれか一項に記載のめっき液の解析方法。
【請求項9】
前記処理データは、前記画像データを前記第1の方向に沿って微分してなる微分処理データである、
請求項8に記載のめっき液の解析方法。
【請求項10】
前記処理データは、前記画像データを前記第1の方向に沿って2次微分してなる2次微分処理データである、
請求項9に記載のめっき液の解析方法。
【請求項11】
前記処理データは、前記画像データの前記第2の方向に求めた代表値を前記第1の方向に沿って配列させた一次元化データである、
請求項8のいずれか一項に記載のめっき液の解析方法。
【請求項12】
前記代表値は平均値である、
請求項11に記載のめっき液の解析方法。
【請求項13】
前記処理データは、前記画像データの前記第1の方向と直交する第2の方向についての両端部近傍のデータを除いた幅方向中央領域のデータに基づくものである、
請求項9-12のいずれか一項に記載のめっき液の解析方法。
【請求項14】
前記解析モデルは、前記画像データを複数の領域に分割し、前記析出パターンの表面態様の複数の種別のいずれかに各分割領域をラベル付けすることによって形成した前記処理データにより機械学習されたものであり、当該処理データに基づいて解析を行う、
請求項5-13のいずれか一項に記載のめっき液の解析方法。
【請求項15】
めっき液から得られた析出パターンに関するデータを取得し、又は、受信するデータ取得手段と、
前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習され、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を出力する解析モデルと、
前記解析結果若しくは前記解析結果から得られるめっき液の状況を示す情報を提示し、出力し、又は、送信する情報提示手段と、
を具備する、めっき液の解析装置。
【請求項16】
めっき浴から取り出しためっき液から得られた析出パターンに関するデータを取得し、又は受信する第1工程と、
前記データを取り込み、前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習された解析モデルを用いることにより、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を得る第2工程と、
前記解析結果から前記めっき浴の状況を示す情報、或いは、前記めっき浴に対する調製や作業の方法を示す情報、を提示し、出力し、又は、送信する第3工程と、
を具備する、めっき浴の管理方法。
【請求項17】
めっき浴から取り出しためっき液から得られた析出パターンに関するデータを取得し、又は受信するデータ取得手段と、
前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習された解析モデルであって、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を出力する前記解析モデルと、
前記解析結果から前記めっき浴の状況を示す情報、或いは、前記めっき浴に対する調製や作業の方法を示す情報、を提示し、出力し、又は、送信する情報提示手段と、
を具備する、めっき浴の管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液から得られた析出パターンに関するデータを取り込み、そのデータを解析する方法、或いは、AIによる機械学習法により得られたデータ処理手段、および、得られたデータのめっき浴管理への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、めっき浴の管理には、ハルセル試験や均一電着性試験(ハーリングセル試験)、ベントカソードテストなどの析出パターンを用いた試験が用いられている。例えば、ハルセル試験の結果を示すハルセル陰極板の析出パターンの評価項目には、光沢範囲、半光沢範囲、歪み、曇り、ピット、クラックなどがある。ハルセル試験の目的は、めっき作業を続けることによる「めっき液組成の変化」や不純物の蓄積により得られる「めっき液の劣化」をハルセル陰極板より読み取り、そのめっき液やめっき条件を適正な範囲に補正することにある。
【0003】
従来、上記析出パターンの読み取り(評価)は、人間の眼によって行われている。この場合、正確な読み取りを行うには、めっき液の管理を長年行ってきた熟練技術者である必要がある。非特許文献1には、目視により評価が行われている事、また目視による判定と光度計による測定結果も示されており、目視による判定が難しい事が問題として提起されている。また、特許文献1には、陰極面に析出した金属皮膜の表面粗さを測定し、この測定値と電流密度により電解液中の微量成分を管理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】小西 三郎,"ハルセルによるめっきのいろいろな性質の測定法とその問題点 (上)",実務表面技術, 1978 年 25 巻 7 号 p. 322-328)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の析出パターンの人間の眼による評価では、上記のように評価基準がむずかしく、評価者によりバラツキがでるという問題がある。また、人間の眼の感度・分解能には限界があり、高感度化・高分解能化が難しく、個人差もある。さらに、析出パターンの各種評価項目(光沢範囲、半光沢範囲、歪み、曇り、ピット、クラック等)の認定基準が人によりばらつくとともに、各種評価項目とめっき液の組成、不純物濃度などの関係が複雑であるため、評価基準や判断基準、また、それらに対応するめっき浴の調製作業やめっき処理作業の適正化をはかる作業の基準もばらつくため、定量的な評価が難しい。最後に、上記析出パターンの読み取りがアナログ的に行われるため、読み取りや評価の電子化がされていないことで、評価結果の共有が難しく、めっき浴の調製処理やめっき処理作業へのフィードバックに遅れがでるという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題の少なくとも一つに対処するものであり、その課題は、めっき液から得られる析出パターンに関するデータを処理することによってめっき液の状態を統一された基準で定量的に解析することができる解析方法及び解析装置、並びに、その解析方法を用いためっき浴の管理方法及び管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るめっき液の解析方法は、前記めっき液から得られた析出パターンに関するデータを取り込み、前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習された解析モデルを用いることにより、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を得ることを特徴とする。
【0009】
これにより、めっき液の析出パターンに関するデータを定量的に解析することで、人間によるめっき液の評価のバラツキを抑制することができる。すなわち、評価に際して、機械学習された解析モデルを用いることにより、統一した基準で解析することができるため、析出パターンやめっき液の状態を客観的かつ安定的に把握できる。また、データに基づく解析モデルによる解析結果を導出するため、入力情報や出力情報の電子化を図ることができる。
【0010】
ここで、前記析出パターンの解析結果とは、前記析出パターンの表面態様、例えば、光沢、無光沢(くもり)、半光沢、(縦)縞(条痕)、ピット(穴)、ざらつき(小突起)、ふくれ(剥離)、焦げ(やけ)、樹脂状めっき、クラック(ビリ)、無めっきなどの情報が挙げられ、表面粗さ、表面の色彩(色相や彩度)、被覆性や付きまわり性などの情報も挙げられる。また、前記析出パターンの状態には、上記各表面状態の領域の分布状況や、各領域の配置や広さ(面積)などの情報も挙げられる。
【0011】
さらに、前記めっき液の解析結果とは、めっき液の組成、例えば、金属イオン供給源の種類や量、陽極溶解促進剤の種類や量、pH緩衝剤の種類や量、めっき液中の添加物(1次光沢材や2次光沢材など)の種類や量、不純物の種類や量などに関する情報が挙げられる。
【0012】
本発明において、前記解析モデルは、前記データ若しくは前記処理データから、前記めっき液に含まれる成分の種類若しくは量を導出することが好ましい。ここで、上記成分としては、金属イオン供給源、陽極溶解促進剤、pH緩衝剤、添加剤が挙げられる。これらのなかでも、前記めっき液に含まれる添加剤の種類若しくは量を導出することが望ましく、特に、添加剤の量を導出することがさらに望ましい。添加剤としては、例えば、1次光沢材や2次光沢材などが挙げられる。ここで、1次光沢剤としては、サッカリン、ナフタレンジスルホン酸ナトリウムなどの硫黄化合物がある。また、2次光沢剤としては、ブチンジオール、プロパンギルアルコール、クマリンなどの不飽和アルコール類がある。
【0013】
本発明において、前記解析モデルは、前記データ若しくは前記処理データから、前記めっき液に含まれる不純物の種類若しくは量を導出することが好ましい。特に、前記めっき液に含まれる不純物の量を導出することが望ましい。不純物としては、一般に、めっき浴に導入される被めっき部材から溶出されるCu,Zn,Fe,Pb,Al,Cr,Caなどの金属や、ナトリウム、カリウム、シアン、硝酸、リン酸、アンモニウムなどのイオンや、過酸化物、有機不純物などが挙げられる。
【0014】
本発明において、前記解析モデルは、前記データ若しくは前記処理データに基づいたディープラーニングにより学習されたニューラルネットワークによって構成されることが好ましい。特に、前記データ若しくは処理データが画像系データである場合には、前記解析モデルは、畳み込みニューラルネットワークであることが望ましい。
【0015】
本発明において、前記データは、前記析出パターンの表面態様の画像データであることが好ましい。これにより、析出パターンの表面態様に基づいて析出パターン若しくはめっき液を解析できるため、従来の析出パターンに関する知見を利用してさらに客観的で高精度な解析結果を得ることができる。
【0016】
本発明において、前記画像データは、前記析出パターンから600dpi以上の解像度で生成したデータであることが好ましい。特に、800dpi以上の解像度であることが望ましい。これにより、人間の眼を超える感度・分解能で生成された画像データに基づいて解析を行うことができるため、析出パターンの評価を高精度かつ確実に行うことができる。上記データは、通常、輝度(光反射強度)やカラー(色相・明度・彩度)の値を示すデータである。この場合において、人間の眼の分解能は0.1-0.2mmとされているが、それよりも1桁以上の分解能(50μm以下、好ましくは35μm以下)の画像データを取得できる。解像度の上限は特に限定されないが、通常、60000dpi以下の解像度であることが好ましい。この範囲であれば、析出パターンの微細な表面粗さの態様も認識可能になるからである。ただし、データ数を低減し、画像処理の負担を軽減するためには、6000dpi以下であることが好ましく、1200dpi以下であることが望ましい。
【0017】
ここで、上記画像データは、スキャナやカメラなどの撮像手段によって生成できる。一般的には、画像データは、所定の解像度の各画素が輝度値やカラーを備えたものである。ここで、上記の輝度やカラーのデータの代わりに、各画素ごとの光沢度や反射率のデータであってもよい。また、映り込み防止のためにレフ板からなるライトボックスや、ディフューザーを用いて撮像することが好ましい。さらに、前記析出パターンから常時一定の(統一された)光学条件(解像度、照明条件、及び、検出感度)で前記画像データを生成することにより、安定した解析を行うことが可能になる。この点で、スキャナを用いた画像データの生成は常時一定の光学条件を容易に実現できる点で好ましい。人間の瞳孔径は暗所で7-8mmと言われていて1mm程度の個人差があり、見る者の明るさの差は誤差につながるため、担当者が変わると評価結果も変わる可能性が高い。本発明では、一定の光学条件で画像データを取得することによって、評価結果を安定させることができる。ここで、前記画像データは、メディアンフィルタ、ガウシアンフィルタなどのノイズ除去フィルタによって処理されることが好ましい。めっき液の析出パターンにおいて、めっき液による影響以外のほこりや鋭い傷などに起因する微細なノイズを含む表面態様は、事前に除去することが望ましい。
【0018】
本発明において、前記析出パターンは、めっき液から得られる析出パターンであればいかなるものであってもよく、例えば、単なる試験めっき片からなる析出パターンや、ハーリングセルで形成された(一対の)析出パターン、ベントカソードテストの析出パターンも含まれる。ただし、特に、ハルセル試験により得られる析出パターンであることが好ましい。ハルセル試験により得られる析出パターンであれば、電流密度を所定の範囲内で変化させたときの析出状態の変動分布に関する情報を取得することができるので、その析出パターンが得られためっき液に関する情報をより詳細に解析することが可能になる。
【0019】
本発明において、前記解析モデルは、前記画像データを複数の領域に分割し、前記析出パターンの表面態様の複数の種別のいずれかに各分割領域をラベル付けすることによって形成した前記処理データに基づいて解析を行うことが好ましい。ここで、各分割領域のラベル付け(ラベリング処理)は、個々のラベル付けを作業者が行うようにしても構わないが、一般的には、効率の観点から、分割領域の画像処理によって自動的に行われることが好ましい。この場合において、分割領域の画像処理によるラベル付けは、既定の複数の表面態様の基準に従って行われてもよく、或いは、分割領域ごとにラベル付けされた教師データにより学習された前処理モデルによって行われてもよい。
【0020】
本発明において、前記解析モデルは、前記析出パターンがハルセル試験により得られたものである場合において、前記画像データの電流密度の変化に対応する第1の方向に沿った前記析出パターンの表面態様の変化を示す前記処理データに基づいて解析を行うものであることが好ましい。この場合にはさらに、前記処理データは、前記画像データを前記第1の方向に沿って微分してなる微分(差分)処理データであることが望ましい。ここで、前記処理データは、前記画像データを2回微分(2次微分)してなることがさらに望ましい。これにより、第1の方向に沿った表面態様の変化状態をノイズを増大させずに明確化できる。また、前記処理データは、前記画像データの前記第2の方向に求めた代表値(好ましくは平均値)を前記第1の方向に沿って配列させた一次元化データであることが望ましい。これにより、第1の方向の表面態様の変化を確実に抽出できる。これらの場合において、前記処理データは、前記画像データの前記第1の方向と直交する第2の方向についての両端部近傍のデータを除いた幅方向中央領域のデータに基づくことがさらに望ましい。第2の方向の両端部を除くことにより、めっき液の液面のゆれや、底面の存在による影響若しくは撹拌の影響を除外できる。
【0021】
本発明において、前記解析モデルは、複数種類(2種類以上)の前記データを教師データとして機械学習されたものであり、前記複数種類のデータを入力として解析結果を出力することが好ましい。特に、前記画像データ若しくは前記処理データとともに、前記めっき液に関する前記画像データ若しくは前記処理データに基づく情報以外の他の情報を教師データとして機械学習された解析モデルであり、前記画像データ若しくは前記処理データ並びに前記他の情報に基づいて、前記析出パターンの状態或いは前記めっき液の状態の解析結果を得ることが好ましい。ここで、前記他の情報としては、前記析出パターンの膜厚データ(代表値若しくは膜厚分布のデータ)、前記析出パターンの表面粗さデータ(表面粗さ計により測定したもの、代表値若しくは表面粗さ分布のデータ、或いは、顕微鏡やSEMなどによる拡大表面像など)、前記析出パターンの合金組成データ(半田などの合金めっきの場合)、前記析出パターンが得られた温度、前記めっき液のめっき処理量(例えば、析出パターンを形成するためのめっき液を抽出しためっき浴の電流密度Aとめっき処理時間Tの積A・Tなど)が挙げられる。また、解析モデルの入力として、2以上の画像系データを用いるようにしてもよい。
【0022】
次に、本発明に係るめっき液の解析装置は、前記めっき液から得られた析出パターンに関するデータを取得し、又は、受信するデータ取得手段と、前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習され、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を出力する解析モデルと、前記解析結果若しくは前記解析結果から得られるめっき液の状況を示す情報を提示し、出力し、又は、送信する情報提示手段と、を具備する。これにより、めっき液の析出パターンに関するデータを定量的に解析することで、人間によるめっき液の評価のバラツキを抑制することができる。なお、前記析出パターンに関するデータを取得するとは、前記析出パターンに関するデータを生成することだけでなく、既に生成されているデータを受け取ることを含む。
【0023】
次に、本発明に係るめっき浴の管理方法は、めっき浴から取り出しためっき液から得られた析出パターンに関するデータを取得し、又は、受信する第1工程と、前記データを取り込み、前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習された解析モデルを用いることにより、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を得る第2工程と、前記解析結果から前記めっき浴の状況を示す情報を提示し、出力し、又は、送信する第3工程と、を具備する。ここで、前記第3工程では、前記めっき浴の状況を示す情報とともに、或いは、当該情報に代えて、前記めっき浴に対する調製などの作業が必要な場合には、当該調製や作業の方法を示す情報を提示し、出力し、又は、送信することが好ましい。また、前記第3工程では、前記データ若しくは前記処理データとともに、それ以外の前記めっき液に関する他のデータを用いて、前記めっき液の状況や前記調整や作業の方法を示す情報を提示し、出力し、又は、送信することが好ましい。さらに、前記第2工程では、前記解析モデルは、前記データ若しくは前記処理データとともに、前記めっき液に関する他のデータを用いて、解析結果を得るように構成されていてもよい。
【0024】
次に、本発明に係るめっき浴の管理システムは、めっき浴から取り出しためっき液から得られた析出パターンに関するデータを取得し、又は、受信するデータ取得手段と、前記データ若しくは前記データの処理により得られる処理データを教師データとして機械学習された解析モデルであって、前記データ若しくは前記処理データに基づいて、前記析出パターン若しくは前記めっき液の解析結果を出力する前記解析モデルと、前記解析結果から前記めっき浴の状況を示す情報を提示し、出力し、又は、送信する情報提示手段と、を具備する。ここで、前記情報提示手段は、前記めっき浴の状況を示す情報とともに、或いは、当該情報に代えて、前記めっき浴に対する調製などの作業が必要な場合には、当該調製や作業の方法を示す情報を提示し、出力し、又は、送信することが好ましい。また、前記情報提示手段は、前記データ若しくは前記処理データとともに、それ以外の前記めっき液に関する他のデータを用いて、前記めっき液の状況や前記調整や作業の方法を示す情報を提示し、出力し、又は、送信することが好ましい。
【0025】
さらに、前記解析モデルは、前記データ若しくは前記処理データとともに、前記めっき液に関する他のデータを用いて、解析結果を得るように構成されていてもよい。ここで、上記データ取得手段に含まれる、前記データ若しくは前記処理データを受信するデータ受信手段と、前記情報提示手段により提示される前記情報を送信する情報送信手段とをさらに具備することが好ましい。この場合には、前記データ受信手段が受信可能な前記データ若しくは前記処理データを送信可能に構成されたデータ送信手段と、前記情報送信手段により送信された前記情報を受信可能に構成された情報受信手段と、をさらに具備する送受信サイトが設けられることが望ましい。この送受信サイトは、前記情報を提示し、出力し、又は、送信する情報提示手段をさらに具備することが望ましい。上記送受信サイトは、前記めっき浴と、前記めっき浴の制御部と、前記めっき液から析出パターンを得るための試験設備とを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、めっき液から得られる析出パターンに関するデータを処理することによってめっき液の状態を統一された基準で定量的に解析することができる解析方法及び解析装置、並びに、その解析方法を用いためっき浴の管理方法及び管理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ハルセル試験の説明図(a)及び(b)、並びに、ハルセル陰極板13の析出パターンの説明図(c)及びこの析出パターンの画像データの例を示す写真(d)である。
【
図2】析出パターンの画像データ(a)、及び、この画像データにノイズ除去処理を行った後の処理データ(b)、上記画像データを分割してラベル付けをする様子を示す説明図(c)及び(d)、上記画像データ(e)及びこの画像データを第1の方向(電流密度の変化方向)Xに2回微分した処理データ(f)をそれぞれ示す説明図である。
【
図3】析出パターンの画像データを示す図(a)、当該画像データから第2の方向(第1の方向Xと直交する方向)Yの両側部分を除去してなる幅方向中央領域のデータを示す図(b)、及び、幅方向中央領域データの第2の方向Yの代表値を第1の方向Xに沿って配列した値を示すグラフ(c)、析出パターンにおいて基準となる電流密度に対応する軸線との関係を示す図(d)、及び、当該軸線を中心とした矩形中央領域のデータを示す図(e)、並びに、めっき液中の不純物の種類や量を知るための検出領域のデータを示す図(f)である。
【
図4】画像データ若しくはその処理データを入力としてめっき液の解析結果を出力する解析モデルの例としてCNNの構造を模式的に示す図である。
【
図5】第1の方向Xの一次元化データを入力としてめっき液の解析結果を出力するNNの構造を模式的に示す図である。
【
図6】画像データ若しくはその処理データを分割してなる各分割領域を前処理モデルでラベル付けし、そのラベル付けデータを解析モデルで解析する構成を模式的に示す説明図である。
【
図7】実施形態の解析方法及び解析装置の構成を模式的に示す概略ブロック図である。
【
図8】別の実施形態の解析方法及び解析装置の構成を模式的に示す概略ブロック図である。
【
図9】また別の実施形態の解析方法及び解析装置の構成を模式的に示す概略ブロック図である。
【
図10】さらに別の実施形態の解析方法及び解析装置の構成を模式的に示す概略ブロック図である。
【
図11】実施形態のめっき浴を管理するための管理システムを示す概略ブロック図である。
【
図12】画像データから所定の画像領域を抜き出した状態を示す画像(a)及び画像領域のノイズを除去した状態を示す画像(b)である。
【
図13】ニッケル浴(ワット浴)の光沢剤の有無による析出パターンの相違を示す画像である。
【
図14】めっき液へ一次光沢剤のみを添加した場合と二次光沢剤のみを添加した場合の析出パターンを比較して示す画像である。
【
図15】めっき液へ一次光沢剤を2.0/L添加した場合の析出パターンの元の画像(a)と、第1の方向Xに2回微分処理を実行した画像(b)である。
【
図16】めっき液へ一次光沢剤を0.6/L添加した場合の析出パターンの元の画像(a)と、第1の方向Xに2回微分処理を実行した画像(b)である。
【
図17】第2の方向Yの中央の100個のデータの平均値を算出する場合の説明図である。
【
図18】
図17の平均値を第1の方向Xに沿って示すグラフである。
【
図19】析出パターンの第1の方向に沿った膜厚データ(a)及び第2の方向に沿った膜厚データ(b)である。
【
図20】一次光沢剤の量による析出パターンの表面状態の差を示す拡大写真(a)及び(b)である。
【
図21】析出パターンへの不純物の種類や量による影響を示す画像(a)、(b)及び(c)である。
【
図22】2つの析出パターンの資料1と2の写真(a)(c)とスキャナ画像(b)(d)である。
【
図23】標準めっき液の析出パターンにおける表面粗さの測定箇所を示す写真図(a)及び限界めっき液の析出パターンにおける表面粗さの測定箇所を示す写真図(b)である。
【
図24】標準めっき液と限界めっき液の各析出パターンにおける特定領域における表面粗さの測定データを拡大して示す拡大図(a)及び(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、本発明に係るめっき液の解析方法及び解析装置の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、ハルセル試験によって得られたハルセル陰極板の析出パターンを用いる場合の例について説明する。
【0029】
図1は、本実施形態に用いる析出パターンの説明を行うための図である。本実施形態では、
図1(a)に示すように、ハルセル試験器11に金属板等よりなる陽極12と陰極13を設置し、ハルセル試験器11内にめっき液10を入れる。ハルセル試験器11は、
図1(b)に示すように、陽極12に対して対向する陰極13が傾斜姿勢となるように構成されている。陽極12と陰極13の間に電圧を印加し、めっき液10に電流を流すことにより、陰極13に析出パターンが形成される。このとき、上記ハルセル試験器11の形状により、電流密度は、陰極13の陽極12に近い領域(
図1(b)の陰極13の図示上端)で最も大きく、図示下方に向けて徐々に減少し、陽極12から離れた領域(
図1(b)の陰極13の図示下端)で最も小さくなる。
【0030】
図1(c)は、上記陰極13の表面に形成された析出パターンを模式的に示す説明図である。この図の点線ハッチングで示すように、陰極13の表面には、析出パターンAが、上述の電流密度が変化する方向である第1の方向Xに沿った辺(図示例では長辺)と、この第1の方向Xと直交する第2の方向Yに沿った辺(図示例では短辺)とを有する矩形状に構成される。陰極13の上部には、めっき液10の液面LS上に露出することによって析出パターンAに覆われない露出領域が設けられる。この析出パターンAは、高電流部HAと、液面位置LSと、低電流部LAと、底面位置BTとによって囲まれている。
図1(d)には、析出パターンAの典型的な表面態様(良好なめっき液を備える場合)の写真を示す。
【0031】
上記析出パターンAの表面態様は、最初に、カメラやスキャナ等を用いて画像データとして生成されることにより、電子データ化される。本実施形態では、電子データ化のための装置として、高感度・高解像度の同じ構成のスキャナを用いて、同じ光学条件(撮像手段の構成条件(解像度や感度)と、照明条件)でデータ化する。この電子データ化の工程では、「画像取得環境を一定に保つこと」によって、取得された画像データが客観的に対比可能とされるため、安定した基準による解析や判定ができるようになる。特に、人間の暗所での瞳孔径は7-8mmであり、1mm前後のばらつきを有するので、観察者によって析出パターンAの明度が変わることとなる。この明度の変化は、表面態様の解析や判定に大きな影響を与える。電子データ化を行う本実施形態では、このような影響を排除することができる。
【0032】
また、上記電子データ化の工程では、600dpi(dot per inch)以上の解像度で析出パターンAの画像データGaを生成する。通常、人間の眼の解像度は0.1-0.2mm程度であるが、600dpi以上の解像度とすることにより、一辺が50μm以下の画素サイズを得ることができる。特に、800dpi以上の解像度とすることにより、一辺が35μm以下の画素サイズを得ることができる。このように、「人間の眼を超える感度・解像度で画像を取得すること」によって、熟練者の客観化されていない判断基準を越えた正確な解析や判定が可能になる。解像度の上限は特に限定されないが、通常、60000dpi以下の解像度であることが好ましい。この範囲であれば、析出パターンの微細な表面粗さの態様も認識可能になるからである。例えば、
図20(a)と(b)に示すSEM画像の表面態様の差も判別可能となる。ただし、データ数を低減し、画像処理の負担を軽減するためには、6000dpi以下であることが好ましく、1200dpi以下であることが望ましい。これらの場合には、微細な表面態様の差を判別することは困難になるものの、この差が影響しにくい解析結果を求めるものであれば問題はなく、また、別途、他の画像データや、表面粗さデータなどの非画像系データを併用することで、解析精度を確保することもできる。
【0033】
本実施形態において、画像取得環境には、入射光波長、照明光量などの照明条件に加えて、撮像手段の構成条件、すなわち、検出感度や解像度が一定であるため、常に一定の条件で電子データ化が行われるといった光学条件の統一が重要である。ここで、同一のスキャナを用いることによって、撮像手段の構成条件を一定にするとともに、照明条件もスキャナによって設定することができるので、光学条件を容易に一定に保つことができる。なお、解析精度を高めるという観点では、後述するように、敢えて光学条件を異ならしめた複数種類の画像データを併用することも有効である。
【0034】
析出パターンAの画像データGaは、上記解像度に対応する数とサイズの画素Gxを備える。この画像データGaには、
図2(a)に模式的に示すように、めっき液の状態とは無関係な、パターン表面に付着したほこりや表面に形成された傷などに起因するノイズSが含まれる場合、ノイズ除去フィルタなどを用いた画像処理を実施するノイズ除去処理を行い、
図2(b)に模式的に示すように、ノイズSの除去された画像データGa′を得ることが好ましい。このときの画像処理は、除去すべきノイズSの態様に応じたものとすることが好ましい。一般的には、このノイズ除去処理としては、メディアンフィルタやガウシアンフィルタなどを用いたフィルタ処理を実行する。このようにノイズ処理の前後の画像データの例を、
図12(a)-処理前、及び、
図12(b)-処理後にそれぞれ示す。この例では、細線の除去に適したメディアンフィルタを用いている。
【0035】
上記画像データGaの前処理としては、
図2(c)に模式的に示すように、析出パターンAの画像データGaに複数の分割領域Gvを設定し、これらの分割領域Gvごとに、その表面態様の複数の種別(例えば、前述の評価項目に対応したものなど)に応じたラベルLvを設定するラベリング処理(ラベル付け)を実施する。そして、
図2(d)に模式的に示すように、画像データGaの全ての分割領域GvごとにラベルLvが対応するラベル平面配列データHvが生成される。このラベリング処理では、予め決められた分割領域Gv内の画像の輝度分布やカラー分布に応じたラベルを設定しておき、画像処理によって分割領域Gvごとに対応するラベルを決定する。これにより、析出パターンAの表面態様の特徴を分割領域GvごとのラベルLvにより明確に設定できるので、画像データGaやそのノイズ処理後の画像データGa′に比べて処理すべきデータ量を低減できる。また、ラベリング処理のラベル付けの設定により、解析や判定の内容や精度を容易に設定することができる。なお、上記のラベリング処理は、後述するように、所定の教師データを用いて機械学習が施された前処理モデルを用いて行うことも可能である。
【0036】
図2(e)に模式的に示す画像データGa,Ga′に対しては、第1の方向Xに沿って2回微分処理を実施することにより、
図2(f)に模式的に示す微分処理データGwとなり、析出パターンAの表面態様の第1の方向Xに沿った変化の特徴が明確化される。図示例では横微分フィルタ(水平方向の微分(差分)フィルタ)を2回適用することによってこの処理を実施している。ここで、横微分フィルタの例としては、例えば、3行3列の各要素について、2行1列を-1、2行2列を0、2行3列を+1とし、他の要素(1行各列と3行各列)を全て0としたものが挙げられる。フィルタの種類はこれに限らず、SobelフィルタやRrewittフィルタの水平方向の係数行列を用いてもよい。この2回微分処理(2次微分処理)によって得られる処理データGwには、画像データGa,Ga′の第1の方向Xの輝度やカラーの変化率の変動が第2の方向Yにほぼ沿った複数の線によって示されるため、析出パターンAの第1の方向Xの表面態様の変化を明確かつ容易に認識できるようになる。
【0037】
図15と
図16のそれぞれの画像(a)が元の画像データGaの例であり、それぞれの画像(b)が2回微分処理後の処理データGwの例である。なお、微分処理データとしては、画像データGa,Ga′を第1の方向に1回だけ1次微分(差分)したデータであってもよく、3回以上の処理でもよいが、2回微分(2次微分)を行うことによって、第1の方向Xに沿った表面態様の変化状態をより明確化できるとともに、余分なノイズを生成することも少ない。また、各微分処理においては、例えば、処理後の微分値の最大値に対して既定の割合の閾値を設け、この閾値未満をノイズとして除去することも可能である。
【0038】
図3(a)に模式的に示す画像データGa,Ga′は、第1の方向Xと、これに直交する第2の方向Yに向けて平面的に広がった範囲に配列されている。ここで、第1の方向Xは、前述のように、ハルセル試験において電流密度が変化する方向であり、この方向に沿って、電流密度の変化による析出パターンの表面態様の変化が反映される。このため、当該変化を把握するには、第1の方向Xに沿った表面態様の変化を精度よく抽出する必要がある。この実施形態では、
図3(a)に点線で示すように、画像データGa,Ga′の第2の方向Yの両端部近傍のデータを除去し、
図1(c)に示す幅方向中央領域Bに対応する、第2の方向Yの幅方向中央領域データGbを
図3(b)のように抽出する。そして、この幅方向中央領域データGbから、第2の方向Yに沿った各列のデータの平均値を求め、この平均値の1行のデータ列からなる一次元化データHxを求める。
【0039】
この一次元化データHxは、予め第2の方向Yの両端部のデータを除去して生成されていることにより、ハルセル試験時の液面LSの影響(液面LSによる析出状態への影響)と、ハルセル試験時の底面BTの影響(容器底面や撹拌による析出状態への影響)とを除外したデータとなっている。また、残りの幅方向中央領域データGbの第2の方向Yの代表値(以下の例では平均値であるが、中央値などの代表値であってもよい。)を求めることによって、第2の方向Yに沿った影響を低減しているため、第1の方向Xに沿った析出パターンAの表面態様の変化を確実かつ精度よく抽出することができる。すなわち、析出パターンAにおいて、安定しためっき付着箇所である中央付近のデータに注目して、その平均値その他の代表値をとることにより、2次元データを1次元データに変換し機械学習を容易にしている。画像データGa,Ga′の代わりに、幅方向中央データGbを1次元化することなく、そのまま画像系データとして用いてもよい。また、この幅方向中央領域データGbと同様に、前述の微分処理データGwを第2の方向Yの両端部を除外した範囲で形成し、これを解析に用いてもよい。
【0040】
なお、
図17は実際の画像データGa,Ga′から幅中央領域データGbとして第2の方向Yに沿って配列された100個の画素データを残し、その第2の方向Yの100個のデータの平均値を算出する旨の説明図である。また、
図18は、その平均値を第1の方向Xに沿って配列させた一次元化データHxを示すグラフである。グラフの右側で光強度が大きくなっているのは、ハルセル陰極板の高電流部HAの表面と比べて低電流部LAで表面が荒れることにより、乱反射が起り、光に対する反射強度が大きくなったことに起因していると考えられる。これは、ハルセル試験時における電流密度の大小に起因している。
【0041】
図3(d)に示すように、析出パターンAの画像データGa,Ga′から、基準となる電流密度(例えば、4A/dm
2)の対応位置を示す軸線Cxを中心とし、
図1(c)に示す析出パターンAの矩形中央領域Cに対応した矩形中央領域データGcを、
図3(e)に示すように抽出する。この矩形中央領域データGcは、実際にめっき浴を運用するときの基準となる電流密度を示す軸線Cxを中心に見たとき、当該中心の周囲にどれくらいの適正な析出領域が存在するかを導出する場合に好適な画像データである。この矩形中央領域データGcは、好ましくは、第2の方向Yについては、両端部を除いた領域である。また、第1の方向Xについては、好ましくは、高電流部HAと低電流部LAの少なくとも一部を除いた領域である。これらの理由は、いずれも、めっき液の液面LSや底面BTなどの境界位置による影響を除外するためである。矩形中央領域データGcを用いることによって、軸線Cxを中心とした析出パターンの表面態様の適正範囲の広がり(第1の方向Xの長さや範囲)を把握することができるため、めっき液の電流密度の変化に耐えうる範囲を把握しやすくなり、後述する解析モデルAMにより、めっき浴の安定性や条件変更に対する余裕度を知ることができる。なお、このような解析結果としての出力や出力値を得るためには、上述のように限定された矩形中央領域データGcを用いることにより、上記の安定性や余裕度を示す解析結果の精度を容易に向上できる。ただし、画像データGa,Ga′を用いて上記のような解析結果を得るようにしても構わない。
【0042】
図3(f)は、めっき液の不純物の種類や量を把握するための抽出データを示す説明図である。この例では、
図1(c)に示す析出パターンAの上縁に沿った帯状の領域と、同析出パターンAの低電流部LAとを含むL字状の境界領域Dに対応する、境界領域データGdを抽出する。この境界領域データGdでは、不純物の含有量が増大すると、液面LSの近傍に白色領域が表れたり、低電流部LAに影が形成されたりする。ここで、不純物は、通常、被めっき物から溶出する金属が多く、Cu,Zn,Fe,Pb,Al,Cr,Caなどが挙げられる。また、不純物としては、ナトリウム、カリウム、シアン、硝酸、リン酸、アンモニウムなどのイオンや、過酸化物、有機不純物なども挙げられる。
図21には、めっき液中にZnが10ppm混入したもの(a)、不純物が混入していないもの(b)、Cuが10ppm混入したもの(c)の析出パターンAの画像を対比して示す。このように、不純物が存在すると、微量であっても、上記境界領域Dの液面LSの近傍や低電流部LAに特徴が表れることがわかる。なお、このような解析結果としての出力や出力値を得るためには、上述のように限定された境界領域データGdを用いることにより、上記解析結果の精度を容易に向上できる。ただし、画像データGa,Ga′を用いて上記のような解析結果を得るようにしても構わない。
【0043】
図4は、本実施形態において用いる解析モデルの一例として、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)の構成を模式的に示す説明図である。このCNNからなる解析モデルAMは、上記画像データGa,Ga′、ラベル平面配列データHv、微分処理データGw、幅方向中央領域データGb、矩形中央領域データGc、境界領域データGdなどの析出パターンAの表面態様を反映する平面的に配列されたデータ情報(画像系データ)を入力とする。この解析モデルAMの構造としては、上記データ情報を入力とする畳み込み層とプーリング層、或いは、これらの2回以上の繰り返しで構成される特徴抽出部と、この特徴抽出部によって抽出された特徴マップの各画素データを入力値とする認識部とを有する。なお、図中において、丸印は各層のノードを仮想的に示し、四角印は演算子を仮想的に示す。上記特徴抽出部は、上記データ情報の配列パターンの特徴を効率的に抽出することができ、その特徴マップは、全結合層などで構成される認識部において処理され、解析結果に対応する出力を形成する。なお、図示例では出力ノードは3つであり、画像データを3つのいずれかに判別(分類)する判別(分類)機能によってめっき液の解析を行う例を示してある。ただし、判別数は3以外の任意の数とすることができ、また、複数の出力ノードから図示点線で示す出力関数OFを用いることで、特定の成分の量を特定する出力値を算出するように構成してもよい。出力関数OFとしては、例えば、ソフトマックス関数、ロジスティック関数(シグモイド関数)、ガウス関数などが挙げられる。
【0044】
上記解析モデルAMは、予め用意された画像系データGa,Ga′,Gb,Gc,Gd,Gv,Gw等を入力値とし、これらの画像系データに対応する析出パターンAの状態(表面態様)若しくはめっき液10の状態を示す情報を正答値とする教師データとして用いて機械学習を行った学習済モデルである。この機械学習としては、多数の教師データの入力値を解析モデルAMに入力し、その解析結果を教師データの正答値と比較することによって行われる。通常、解析結果と教師データの正答値とから算出した誤差関数(損失関数、評価関数)を用いて、例えば、勾配法や誤差逆伝搬法などの公知の最適化手法によって機械学習(ここでは深層学習)が行われる。なお、全結合層については、過学習を回避するために、適宜にドロップアウトを設定してもよい。
【0045】
図5には、全結合層からなるNN(ニューラルネットワーク)構造を備える解析モデルAMの例を模式的に示す。この解析モデルAMでも、基本的には入力値と対応する出力値とを有する教師データによって機械学習された学習済モデルである。この解析モデルAMでは、前述の一次元化データHxのような一次元データとして意味のある配列データを入力値とする場合に効果的であるが、前述の画像データGa等のような平面的な配列を備えるデータ(行列データ)であっても、一次元データとして展開して入力して構わない。なお、ネットワークの図示の印の意味、出力関数OF、機械学習の方法やドロップアウト等については
図4の場合と同様である。
【0046】
図6には、解析モデルAMの前段に、ラベリング処理を行うための前処理モデルPMを用いる例を模式的に示す。この例では、
図2(c)に示す画像データGa,Ga′を分割してなる分割領域Gvの画像の態様(元は析出パターンAの表面態様の一部)に応じて、前処理モデルPMにより、各分割領域Gvに対応するラベルLvを判別し、
図2(d)に示すラベル平面配列データHvを形成する。そして、このラベル平面配列データHvを入力値として、解析モデルAMによって、解析結果を出力し、必要に応じて出力関数OFによって出力値を得る。この場合、前処理モデルPMは、上記
図4や
図5に示すような学習済モデルであってもよいが、単に画像処理を行った結果として各分割領域Gvに対応するラベルLvを割り付けていくコンピュータプログラムの実行により実現される機能実現手段や、専用処理回路で構成されるものであってもよい。
【0047】
図7は、析出パターンAから解析結果を得るまでの全体の流れをまとめて模式的に示す説明図である。析出パターンAの画像データG0を取得し、この画像データG0を適宜に処理して形成した画像系データG1を機械学習済の解析モデルAMに入力し、必要に応じて出力関数OFを介して解析結果や出力値を得る。そして、最終的には、ディスプレイやプリンタ、送信器などの情報提示手段である出力装置DPにて解析結果を示す情報が表示される。ここで、画像系データG1は、前述の画像データGa,Ga′であってもよく、或いは、析出パターンAの一部から得られる各種の画像(平面的データ配列)として表示可能なデータGb、Gc、Gd、Hvなどであってもよい。
【0048】
次に、より具体的なめっき液の解析方法及び解析装置について説明する。
図13は、光沢ニッケルめっきを行うためのワット浴を用いた析出パターンAの例を示す。
図13の左側の写真は光沢剤を全く添加しないめっき液から得た析出パターンAであり、右側の写真は、光沢剤を添加しためっき液から得た析出パターンAを示す。このように、光沢剤を用いることによってめっきの被覆性が向上し、均一かつ光沢のある表面態様が実現される。これは、1次光沢剤としてサッカリンナトリウム2水和物(以下、単に「サッカリン」という。)、2次光沢剤として2ブチン1,4ジオール(以下、単に「ブチンジオール」という。)を添加したものである。1次光沢剤は主として内部応力を抑制し、めっき膜を柔らかくする作用があり、2次光沢剤は主として平滑化(レベリング)作用を奏する。これらの双方を適量ずつ添加することによって、めっき膜の良好な被覆性や光沢が得られる。
図14には、1次光沢剤のみを用いた場合と、2次光沢剤のみを用いた場合を示すが、いずれの表面態様も、双方を用いた場合には及ばない。
【0049】
本実施例で用いるめっき液は、上記と同様の光沢ニッケルめっきを行うためのワット浴であり、金属イオン供給源として、硫酸ニッケルを240g/L、陽極溶解促進剤として、塩化ニッケルを45g/L、pH緩衝剤として、ホウ酸を30g/L、添加剤の1次光沢剤として上記サッカリンを2g/L、2次光沢剤として上記ブチンジオールを0.2g/Lを、標準組成とした。ここで、添加剤以外の基本組成を大きく変化させると、析出パターンAが大きく変化する場合が考えられるが、その一例として、ホウ酸の量を0g/Lに減らしたところ、高電流部HAにおいて水酸化ニッケルが沈着し、表面態様としては焦げやクラックが表れる。また、ホウ酸の量を15g/Lとした場合でも、高電流部Hにおいて狭い範囲ではあるもの無光沢部が生ずる。このような状況については、析出パターンAに基づく画像データGa,Ga′、幅方向中央領域データGbなどに対して、
図4-
図7に示す解析モデルAMによってホウ酸などの基本組成の量を解析結果として出力することが可能である。また、このときには、例えば、
図2(c)及び(d)に示し、
図6にも示したラベリング処理を施したデータHvを作成することが比較的容易であるため、ラベル付けされたデータHvを入力値とする解析モデルAMによる解析結果を用いることが有効である。
【0050】
上記のような基本組成の量については、析出パターンAに比較的大きな変動を生ずるため、解析結果を得ることは容易である。また、このような基本組成は、めっき液10の化学分析によっても実現可能である。これに対して、添加剤の種類や量は、化学分析では正確に検出しにくく、また、検出できたとしても、他の成分や使用時間などによって異なる影響を受ける場合もあるため、その効果が捉えにくい。ここで、添加剤としては、付着物機構としての付着抑制作用を奏するものとして、サッカリン、ベンゾチアゾール、チオ尿素、ヤーヌスグリーンB(JGB)、ベンザルアセトン、鉛、ビスマスなど、界面錯形成作用を奏するものとして、塩化物イオン、CN、SCN、硫黄系化合物(チオ尿素、3,3'-ジチオビス(1- プロパンスルホン酸)2 ナトリウム(SPS)、ジメルカプトチアジアゾール(DMTD)など)、ホウ酸、シュウ酸、マロン酸など、皮膜形成作用を奏するものとして、ポリエチレングリコール(PEG)、ノニルフェニルエイコサエチレングリコールエーテル(NPEGE)、ポリビニルアルコール、ゼラチンなどがある。また、電解拡散消耗機構を奏するものとして、不飽和アルコール(ブチルジオール、プロパギルアルコール、クマリンなど)、NO3、Fe3+などがある。
【0051】
例えば、上述の実施例の標準組成では、1次光沢剤の量が2.0g/Lとなっているが、ハルセル試験の析出パターンAの表面態様では、1次光沢剤が1.0g/L-2.0g/Lの範囲では判別不可能であり、0.5-1.0g/Lの範囲では、熟練した職人であっても、ほとんど判別ができない。実際、1次光沢剤を0.5g/L-2.0g/Lの範囲内で変化させても、肉眼で析出パターンAの表面態様の相違を把握することはできなかった。一方、1次光沢剤が0.5g/Lと0.0g/Lとは、析出パターンAの光沢状態で明確に判別可能であった。ただし、実際にめっき液10の添加剤の状態を知り、安定しためっきの光沢状態を得る上で重要な点は、1次光沢剤の有無ではなく、析出パターンAの外観が区別しにくい1次光沢剤が上述の0.5g/L-2.0g/Lの範囲で、量を判別することができることである。
【0052】
そこで、本実施例では、1次光沢剤の量が標準組成(2.0g/L)である標準めっき液と、1次光沢剤の量が0.6g/Lである限界めっき液とを用いて、それぞれ他の条件を同一とし、ハルセル試験を実施した。ここで、各めっき液はそれぞれ500mlずつ作成し、そのうちの約250mlを取り出してハルセル試験を行い、試験後に一旦めっき液を元に戻して500mlとし、撹拌した上で、再び250mlを取り出してハルセル試験を行うといった方法で、繰り返し、ハルセル試験を行った。そして、この試験で得られた析出パターンAからそれぞれ画像データGaを作成した。そして、メディアンフィルタを適用することによってノイズ除去を行い、画像データGa′を準備した。
【0053】
上記画像データGa′の一部(70%)を教師データ(訓練データ)として使用し、
図4に示す解析モデルAMの機械学習を実施した。ここで、畳み込み層では3×3のフィルタを用い、プーリング層は2×2とし、全結合層を合計3層構造とした。ドロップアウト率は0.2とした。出力層のノード数は標準めっき液のノードと限界めっき液のノードの2つである。その結果、残り(30%)の画像データGa′を検証データ(テストデータ)として使用し、2つのノードから得られる出力値と正答との間に正の相関がみられる結果を得ることができた。
【0054】
上記と同様の標準めっき液と限界めっき液のそれぞれの上記画像データGa′について、
図15及び
図16に示すように2回微分を行う画像処理を実施し、線状の模様を有する微分処理データGwを形成した。この微分処理データGwを
図4に示す解析モデルAMの入力値とした。このときの出力ノード数も標準と限界の2つである。上記2回微分を行う画像処理により、
図15(b)及び
図16(b)の画像に示すように、標準めっき液の入力画像と限界めっき液の入力画像の間に明確な相違が生ずるように処理することができた。その結果、
図4に示す解析モデルAMの機械学習後、高い正答率を得ることができる学習済モデルとすることができた。
【0055】
ここで、析出パターンAの
図15(a)と
図16(a)に示す元の画像は人間の眼では判別できないものであるが、人間の眼よりも、高感度・高解像でスキャンしたデータを画像処理することで、人間の眼でも特徴を容易に把握することができる。ここで、2回微分により強調されているのは、反射光量の変化が一番大きかった場所(図示白線)である。この場所は、第2の方向Y方向に連続的に続いており、めっき状態の第2の方向Yに沿った移り変わりが連続的であることがよくわかる。
図15(b)と
図16(b)を比べると、標準の画像では、強調されている線が右側によっており(密集しており)、その線は第2の方向Yに沿ってまっすぐである。これに対して、限界の画像では、強調されている線が左側にも広がってきており、その線は斜めに傾いている。こののように、直接人間の眼では判断できなかったサンプルも、画像処理することでその特徴を判断できるようになる。このことは、析出パターンの画像データに対する画像処理により、解析結果の精度向上を図ることができることを意味する。
【0056】
一方、標準めっき液と限界めっき液のそれぞれの上記画像データGa′について
図17に示す方法で
図18に示す1次元化データHxを生成し、それを
図5に示す解析モデルAMの入力値とした。また、出力関数OFとしてシグモイド関数を用い、出力値(標準と限界の確率値)を得るように構成した。上記1次元化データHxの一部を教師データとして用いて、
図5に示す解析モデルAMを学習させた。その後、出力関損失関数(誤差関数)を求めて正答率を高めるように機械学習を進め、最終的に、上記解析モデルAMを、80-90%程度の正答率を得ることができる学習済モデルとすることができた。
【0057】
次に、
図8を参照して、上記と同様に教師データにより機械学習された解析モデルAMを用いた各種の解析方法及び解析装置の別の実施形態について説明する。めっき液の析出パターンAを用いる解析方法及び解析装置としては、複数種類のデータとして、析出パターンAに基づく画像系データG1と、析出パターンA以外のデータに基づく非画像系データD1とを共に教師データとして機械学習された解析モデルAMを用いる。ここで、上記非画像系データD1としては、析出パターンAの表面粗さデータ(特に、特定領域内に限定された表面粗さの値)や、析出パターンAの全体の光反射率や散乱係数(特に、それらの代表値)などが挙げられる。なお、
図19に示すように、上記標準めっき液(実線)と限界めっき液(破線)の析出パターンAの第1の方向Xに沿った膜厚分布(図示左側のグラフ(a))や上記軸線Cx(電流密度4A/dm
2に相当する位置)上を第2の方向Yに沿った膜厚分布(図示右側のグラフ(b))等といった、析出パターンAの膜厚分布は、前述の標準めっき液と限界めっき液ではほとんど差がみられないため、1次光沢剤の量の解析には不適であるが、析出速度の電流密度特性が変化するような成分の量を解析する場合、例えば、基本組成の金属イオン供給源の量、陽極溶解促進剤の量、pH緩衝剤の量などを解析するときには、
図19(a)に示すような第1の方向Xに沿った膜厚分布を上記画像系データに付加して入力することにより、解析精度を向上させることができる。
【0058】
図20は、標準めっき液と限界めっき液の析出パターンAの表面態様の相違を見るために、析出パターンAの幅方向中央部における第1の方向Xの中央位置と低電流部LAとの間の領域をSEM(表面電子顕微鏡)で撮影した写真である。これらの写真からわかるように、表面態様は実際にはかなり大きく異なるものの、上記画像系データG1では、表面態様の差はわかりにくい。そこで、非画像系データD1として、例えば、表面粗さ計で計測した表面粗さのデータ(例えば、第1の方向Xに沿った表面粗さの配列データ)を用いることもできる。これを用いることによって、解析精度をさらに向上させることができる。特に、注目する解析結果に応じた特定領域内のデータを用いることにより、解析精度を高めることができる。
【0059】
このような
図8に示す解析モデルAMを用いた方法及び装置は、前述のように、本来、析出パターンAの人による解析作業が極めて困難であり、また、解析自体はできても、人によって基準がばらつくとともに、経験による差が大きいために、安定した客観的な評価ができない、という課題を解消するための一つの解決手段である。非画像系データD1としては、上記の膜厚データや表面粗さデータの他に、析出時の温度、基本組成や不純物等の化学分析結果、めっき液の使用データ(例えば、電流値A×析出時間Tなど)、析出パターンAの合金組成データ(はんだめっきなどの合金めっきの場合)などが挙げられる。
【0060】
図9は、上記と同様に教師データにより機械学習された解析モデルAMを用いた各種の解析方法及び解析装置の異なる実施形態を模式的に示す説明図である。この実施形態では、複数種類のデータとして、2つの画像系データG1とG2を入力として析出パターンAの表面態様やめっき液の状態を解析する解析モデルAMを用いる。また、この解析モデルAMの機械学習は、2つの画像系データG1とG2の教師データを用いて行われる。なお、入力される画像系データの種類の数は、2に限らず、3以上であっても構わない。このように、複数の画像系データを解析モデルの入力とする理由は、上記析出パターンAの表面態様に基づいてめっき液の状態を解析する場合の従来の人手による解析との間で、本実施形態は解析の客観性や解析基準の精度に有利な点があるとしても、あいかわらず、解析精度の向上が難しい点には変わりがないためである。
【0061】
例えば、
図21の不純物の種類や量を上記境界領域データGdによって判定する場合でも、析出パターンAの液面LS付近の領域や低電流部LAの表面態様(
図1(c)参照)、例えば、色相や明度は微妙であり、判別精度の向上が難しい場合がある。このような場合、境界領域データGdだけでなく、矩形中央領域データGcなどの他の画像系データを別に入力することによって、判別精度が向上する。これと同様に、
図22に示すように、析出パターンAの資料1と資料2について、カメラによって撮影した写真(上段)と、スキャナによって入力したイメージ(下段)とで、同じ資料であるにも拘わらず、全く異なる印象の画像が得られる。このため、同じ画像系データではあっても、入力手段や光学条件によって異なった様相を見せることとなり、異なった様相から異なった情報が抽出できることから、複数の画像系データG1,G2を併用することによって、解析モデルAMの解析精度を向上させることができる。
【0062】
図23は、標準めっき液の析出パターンAの表面粗さと、限界めっき液の析出パターンAの表面粗さの測定範囲を示す写真図(a)及び(b)である。いずれの析出パターンでも、第2の方向(幅方向)Yの中央箇所を矢印で示すように第1の方向Xに沿って表面粗さ計を走査し、表面の凹凸を計測した。表面粗さ計は、触針式段差・表面粗さ計「サーフコーダーET3000i」(小坂研究所)を用いた。析出パターンAの全体の測定範囲1では、
図23に示すように、第1の方向Xの測定距離は96mm、縦横倍率は1000倍、カットオフ値は0.25mm、送り速さは0.05mm/sとした。ただし、上記測定範囲1のうちの光沢剤の濃度に影響を受けやすい領域(特定領域)として、第1の方向Xの図示右側の端部から10mm戻った位置を中心としてX方向に±0.125mm(合計で0.25mm)の測定範囲2を設定した。この測定範囲2については、縦横倍率で10000倍、送り速さ0.02mm/sでより詳細に測定した。
【0063】
上記析出パターンAの表面測定では、標準めっき液でも限界めっき液でも、陰極13を構成する金属板の湾曲等によって影響を受けるため、上記測定範囲1のデータのX方向の両端部の値を一致させる態様のレベリング処理を行い、この処理後の上記測定範囲2のデータについて、さらに測定範囲2の両端部の値を一致させる態様のレベリング処理を施した。これらの処理後の測定範囲2における表面凹凸データを
図24に示す。ここで、標準めっき液の析出パターンに関するデータは
図24(a)に、限界めっき液の析出パターンに関するデータは
図24(b)に示す。ただし、
図24(a)の縦軸は1目盛が0.01μm、
図24(b)の縦軸は1目盛が0.02μmである。なお、横軸の1目盛はいずれも0.02mmである。
図24(a)の標準めっき液の析出パターンの測定範囲2の表面粗さは、RMS(二乗平均平方根)値で0.217μm、
図24(b)の限界めっき液の析出パターンの測定範囲2の表面粗さは、RMS値で0.402μmとなった。この表面粗さの関係は、前述の
図20に示すSEM画像の対応関係とも符合する。なお、表面粗さデータとして、この例ではRMS値(各データの2乗の平均の平方根)を用いたが、算術表面粗さRa、最大高さRz、二乗平均平方根高さ(標準偏差、すなわち、各データと平均との差の二乗の平均の平方根)Rq、などの各種のデータ(数値)を用いることができることは当然である。
【0064】
上述の非画像系データD1,D2としては、析出パターンAの特定領域(上記測定範囲2)の表面粗さデータ(上記RMS値等)を用いることができる。一方、析出パターンAの表面粗さとしては、上記の非画像系データに限らず、表面粗さの分布に依存する特性に関しては、上記の画像系データG1,G2として、析出パターンAの表面粗さのメッシュデータを用いることも可能である。
【0065】
図10は、二つの非画像系データD1、D2を入力とする解析モデルAMを用いた解析方法及び解析装置の実施形態を模式的に示す説明図である。複数種類のデータとして、前述のいずれの非画像系データであってもよい。例えば、非画像系データとしては、上記の膜厚データや表面粗さデータ、析出時の温度、基本組成や不純物等の化学分析結果、めっき液の使用データ(例えば、電流値A×析出時間Tなど)、析出パターンAの合金組成データ(はんだめっきなどの合金めっきの場合)などが挙げられる。複数の非画像系データの組み合わせは任意であるが、少なくとも一つは、析出パターンの少なくとも一部領域に関する分布データ、例えば、上記一次元化データ、第1の方向Xに沿った膜厚データ、第1の方向Xに沿った表面粗さのデータなど)であることが好ましい。また、得たい解析結果に応じて、必要な情報が含まれるような、複数種類のデータの組み合わせであることが好ましい。例えば、上記一次元化データと膜厚データ、基本組成の化学分析データと表面粗さデータなどが挙げられる。
【0066】
なお、上述の
図8から
図10までに示した複数種類のデータを用いた解析方法及び解析装置においては、例えば、それぞれの種類のデータにそれぞれ対応する複数の入力層を用意し、それぞれのデータ処理が行われるように構成した後に、出力を統合することによって、最終的な出力若しくは出力値を求めることができる。例えば、2以上の画像系データをそれぞれのデータ種類に専用に設けられた各入力層に入力した後にそれぞれで特徴抽出を行い、その後において、全結合層で統合したり、或いは、それぞれの出力を統合して最適な出力若しくは出力値を得るようにしてもよい。また、非画像系データであっても、一次元化データのようなパラメータ数の多いデータであれば、上述のように、当該データに対応する独自の入力層を設けるようにしてもよいが、温度や処理時間(A・T)のようなパラメータ数の少ないデータの場合には、本来の解析モデルの出力に修正を加えるための補正データとしてのみ用いるようにしてもよい。いずれの場合でも、必要とされる解析結果との間に相関をもつと考えられる入力データを複数種類用いることによって、解析結果の精度を高めることが可能になる。
【0067】
図11は、本発明に係るめっき浴の管理方法及び管理システムの実施形態を模式的に示す説明図である。ここで、めっき浴1は、工場などに設置されてめっき処理を行うものであり、工場などのめっき浴制御部1aによって、温度状態や撹拌状態、電流印加状態などが制御される。めっき浴1からは、定期的若しくは不定期に、めっき液10が採取され、前述のハルセル試験器11を用いた試験が行われる。必要に応じて、ハルセル試験とともに、或いは、その代わりに、均一電着性試験(ハーリングセル試験)を行ったり、被覆性を確認するためにベントカソードテストを行ったりしてもよい。いずれの場合でも、各試験により得られた析出パターンAから画像データGa,Ga′その他の処理データや他のデータを取得し、それらのデータを、直接に出力するか、或いは、有線若しくは無線により送信機を介して送信する。これらのデータは画像系データでも非画像系データでもよいが、本実施形態では、画像データG0とする。この画像データG0は、必要に応じてノイズ除去やデータ加工などの適宜の処理を施され、画像系データG1として、上記解析モデルAMに入力される。ここで、解析モデルAMは、前述のいずれのモデルであっても構わない。また、必要に応じて出力関数OFを介して解析結果が出力され、その結果は、記憶装置1Mや管理装置1Sに出力される。
【0068】
管理装置1Sは、めっき浴1の基本組成や光沢剤などの添加剤の情報、使用履歴、めっき仕様、被めっき材の情報、不純物の種類や濃度などの化学分析の結果などを管理し、外部より入力された情報や計算結果などを記憶装置1Mに保存し、必要に応じて、記憶装置1Mから取り出した情報、めっき浴制御部から入力した情報、或いは、解析モデルから得られる解析結果等を処理するように構成される。管理装置1Sは、例えば、MPU(マイクロプロセッサユニット)などのコンピュータ装置によって構成できる。なお、物理的には、この管理装置1Sの一部に、上記解析モデルAMや出力関数OFの機能が包含されるように構成されていてもよい。
【0069】
管理装置1Sは、上記解析モデルAMの出力若しくは出力関数OFの出力値を入力し、内部の処理結果として、解析モデルAMの出力する解析結果を用いて、めっき浴制御部1aに情報を出力し、或いは、送信する。必要に応じて、上記解析結果に加えて、めっき浴制御部1aから収集した情報や記憶装置1Mから読みだした情報を追加して、上記情報を出力し、送信してもよい。また、管理装置1Sがめっき浴1の履歴情報を考慮して、どのような情報をどのタイミングで出力若しくは送信すべきか、判定するようにしてもよい。これらの情報は、例えば、解析結果、或いは、当該解析結果と他の情報から得られる基本組成、添加剤の量、不純物の量、或いは、これらから得られるめっき液の問題点に関する情報、さらには、これらの情報から得られるめっき浴に要する処理や作業などの情報である。めっき浴に要する処理や作業としては、基本組成を構成する薬剤の追加、添加剤の追加、不純物の種類や量に応じて行われる弱電解処理(定電流部LAに析出しやすいCuやZnの除去に利用される。)や活性炭処理(有機不純物を除去する方法、必要に応じて酸化剤処理法も併用される。)などが挙げられる。
【0070】
めっき浴1の管理方法及び管理システムとしては、
図11に示す各構成が全て同一の工場内に配置されるようにしてもよいが、例えば、めっき浴1とハルセル試験器11などが工場などの第1の箇所に配置され、、管理装置1S、記録装置1M、解析モデルAMなどが、上記第1の箇所とは別の第2の箇所に設置されていてもよい。ここで、第1の箇所と第2の箇所とは、別の事業所や別企業などの相対的に遠隔の地にある場所であってもよい。このとき、めっき浴制御部1aと管理装置1Sとが送受信機をそれぞれ備え、有線若しくは無線の通信機を介して、相互に通信可能に構成されることが好ましい。このようにすると、遠く離れた工場などの第1の箇所(めっき現場)で析出パターンAを用意するとともに、この析出パターンAに関する画像データなどの各種データを、めっき浴制御部1aから第2の箇所の管理装置1Sに送信したり、この管理装置1Sから種々の情報をめっき浴制御部1aに送信したりすることができるため、現場と管理装置1Sとの位置関係を任意に設定できる。
【0071】
なお、本発明に係るめっき液の解析方法及び解析装置、並びに、めっき浴の管理方法及び管理システムは、上述の例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、画像データの特徴を強調する際の微分処理は2回微分(2次微分)が最も好ましいが、これに限らず、1回、或いは、3回以上とすることができる。また、析出パターンAに対する評価項目(光沢、半光沢、ピット、ビリ等)に応じて、機械学習の方法(例えば、画素ごとのデータの重みづけ、等)や、有効となる画像範囲(例えば、液面付近に付着する白い線、等)も適したものに変更することができる。
【0072】
また、上記実施例では、ニッケルめっきを行うためのめっき液、めっき浴(ワット浴、クエン酸浴、スルファミン酸浴等)を例として説明したが、本発明は、銅めっき(硫酸銅浴、シアン浴等)、クロムめっき(サージェント浴、フッ化物浴等)、亜鉛めっき(シアン浴、ジンケート浴、塩化アンモニウム浴等)、金めっき(アルカリ浴、酸性浴等)、シアン化銀めっき、硫酸すずめっき、無電解ニッケルめっき、無電解銅めっきなどのめっき液やめっき浴の析出パターンにも用いることができる。
【0073】
さらに、コンピュータで自動検出された上記評価項目の候補位置を、情報提示手段である液晶モニタなどの表示画像上にマーカー(印)などでハルセル評価者に示すことによって、評価者のうっかりミスを減少させることに期待ができる。また、例えば、めっき液を販売する薬液メーカーは、顧客のめっき液のコンディションを現場で作成したハルセルパターンを伝送してもらうことで(モノの移動なしてデータだけで)適正に判断し、管理データにして顧客にフィードバックすることができる。
【符号の説明】
【0074】
10…めっき液、11…ハルセル試験器、12…陽極、13…陰極、A…析出パターン、GaGa′…画像データ、Gx…画素、Gv…分割領域、Gw…処理データ、X…第1の方向、Y…第2の方向、Hx…一次元化データ、1…めっき浴、1a…めっき浴制御部、1S…管理装置、AM…解析モデル、1M…記録装置、G1,G2…画像系データ、D1,D2…非画像系データ、DP…出力装置、PM…前処理モデル