IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

特開2023-78533アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体
<>
  • 特開-アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体 図1
  • 特開-アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体 図2
  • 特開-アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体 図3
  • 特開-アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体 図4
  • 特開-アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体 図5
  • 特開-アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078533
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20230531BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20230531BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20230531BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230531BHJP
   H01M 8/0656 20160101ALN20230531BHJP
【FI】
C25B13/08 301
C25B13/02 301
C25B13/04 301
C25B9/23
C25B1/04
C25B9/00 A
H01M8/0656
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191691
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】古賀 功一
(72)【発明者】
【氏名】引地 巧
(72)【発明者】
【氏名】山内 将樹
【テーマコード(参考)】
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021CA04
4K021DB28
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
5H127BA02
5H127BA14
5H127EE12
(57)【要約】
【課題】本開示は、周縁領域において膨潤が小さく応力耐性の高いアルカリ水電解用隔膜とその製造方法を提供する。
【解決手段】本開示におけるアルカリ水電解用隔膜は、イオン交換可能なアニオンを含む高分子からなり、第1の領域と、第1の領域を取り囲む第2の領域と、を有しており、第1の領域を構成する高分子は、アニオンとして水酸化物イオンを含み、第2の領域を構成する高分子は、実質的に水酸化物イオンを含まないことを特徴とする。本開示のアルカリ水電解用隔膜は、アニオン交換膜の周縁領域に含まれる水酸化物イオンを、イオン交換により水酸化物イオン以外のアニオンに置換することによって製造することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の領域と、前記第1の領域を取り囲む第2の領域とを有する、イオン交換可能なアニオンを含む高分子からなるアルカリ水電解用隔膜であって、
前記第1の領域を構成する高分子は、アニオンとして水酸化物イオンを含み、
前記第2の領域を構成する高分子は、実質的に水酸化物イオンを含まない、
アルカリ水電解用隔膜。
【請求項2】
前記第2の領域は、前記アルカリ水電解用隔膜の支持部として使用されるように形成されている、請求項1に記載のアルカリ水電解用隔膜。
【請求項3】
イオン交換可能な水酸化物イオンを含むアニオン交換膜を、準備する工程と、
前記アニオン交換膜の周縁領域に含まれる水酸化物イオンを、イオン交換により水酸化物イオン以外のアニオンに置換する工程と、
を含む、アルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のアルカリ水電解用隔膜と、
前記アルカリ水電解用隔膜の両面に配置される電極触媒層と、
を備える、膜電極接合体。
【請求項5】
前記第1の領域にのみ電極触媒層を備える、請求項4に記載の膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びに膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、水を電気分解することによって水素を製造する水電解セルを開示する。この水電解セルは、固体高分子電解質膜の両面に電極触媒層を配置した膜電極接合体と、陽極側給電体と、陰極側給電体と、パッキンと、セパレータと、を備える。
【0003】
非特許文献1は、アルカリ水電解用の水電解セルに用いる膜電極接合体を開示する。この膜電極接合体は、水酸化物イオンを伝導するアニオン交換膜と、該アニオン交換膜の周縁領域を除いた中央領域に配置される電極触媒層と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-250736号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS Appl. Energy Mater. 2021,4,1053-1058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、周縁領域において膨潤が小さく応力耐性の高いアルカリ水電解用隔膜とその製造方法を提供し、また、このアルカリ水電解用隔膜を用いた、耐久性の高い膜電極接合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示におけるアルカリ水電解用隔膜は、イオン交換可能なアニオンを含む高分子からなり、第1の領域と、第1の領域を取り囲む第2の領域と、を有しており、第1の領域を構成する高分子は、アニオンとして水酸化物イオンを含み、第2の領域を構成する高分子は、実質的に水酸化物イオンを含まないことを特徴とする。
【0008】
本開示のアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、イオン交換可能な水酸化物イオンを含むアニオン交換膜を、準備する工程と、アニオン交換膜の周縁領域に含まれる水酸化物イオンを、イオン交換により水酸化物イオン以外のアニオンに置換する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本開示における膜電極接合体は、アルカリ水電解用隔膜の両面に電極触媒層を配置してなり、アルカリ水電解用隔膜に、本開示におけるアルカリ水電解用隔膜を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示におけるアルカリ水電解用隔膜は、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域の膨潤を抑制することができる。そのため、膨潤収縮の繰り返しによるアルカリ水電解用隔膜の周縁領域の変形や応力集中を緩和し、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域の応力耐性を高めることができる。
【0011】
また、本開示におけるアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、アルカリ水電解用隔膜の周
縁領域含まれる水酸化物イオンを水酸化物イオン以外のアニオンに置換することで、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域における膨潤を抑制することができる。そのため、膨潤収縮の繰り返しによるアルカリ水電解用隔膜の周縁領域の変形や応力集中を緩和することができるので、周縁領域において応力耐性の高いアルカリ水電解用隔膜を製造することができる。
【0012】
また、本開示における膜電極接合体は、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域の応力耐性を向上することができる。そのため、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域における破損を低減し、膜電極接合体の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は実施の形態1におけるアルカリ水電解用隔膜の概略を示す外観斜視図、(b)は(a)のA-A線断面図
図2】実施の形態1におけるアルカリ水電解用隔膜の製造方法を示すフローチャート
図3】実施の形態1におけるアルカリ水電解用隔膜の製造方法における工程の様子を模式的に示す工程図
図4】実施の形態2における膜電極接合体の概略を示す構成図
図5】実施の形態2における膜電極接合体の製造方法における工程の様子を模式的に示す工程図
図6】実施の形態3における水電解セルの概略を示す構成図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、水酸化物イオンを含むアニオン交換膜からなるアルカリ水電解用隔膜の両面に電極触媒層で構成されるアノードとカソードを配置した膜電極接合体を用いて水電解セルを構成し、水電解セルにアルカリ水溶液を供給することで、水を電気分解し水素を製造する技術があった。
【0015】
これにより、太陽光、風力などの出力変動が大きい再生可能エネルギー由来の余剰電力を水素に変換することができる。
【0016】
水電解セルにおいては、アルカリ水溶液や水電解により生成するガスが水電解セルの外部へ漏洩することを防止するために、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域を除いた中央領域に電極触媒層を配置して、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域にはガスケット等で構成されるシール部材を配置することで、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域をいわゆる単身で保持して、膜電極接合体を製造設計するのが一般的であった。
【0017】
そうした状況下において、発明者らは、水電解セルについて、エネルギー効率を計測しながら耐久試験を行った。
【0018】
その結果、エネルギー効率が低下した水電解セルにおいては、膜電極接合体のアノードとカソードの間で水電解により生成したガスの透過量が増大していること、また、膜電極接合体において、アルカリ水電解用隔膜がいわゆる単身で保持されているアルカリ水電解用隔膜の周縁領域において、アルカリ水電解用隔膜に変形や亀裂、破損が生じていることを見出した。
【0019】
上記試験結果に基づき、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域において、変形や亀裂、破損の発生を抑え、水電解により生成するガスのアノードとカソードの間での透過量を抑制することで、膜電極接合体ひいては水電解セルの耐久性を高めることができるという着想を
得た。
【0020】
そして、発明者らは、その着想を実現するには、アルカリ水電解用隔膜がいわゆる単身で保持されているアルカリ水電解用隔膜の周縁領域において、湿潤状態が大きく変化するという課題があることを発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0021】
そこで、本開示は、アルカリ水電解用隔膜の周縁領域の膨潤を抑制し、周縁領域の応力耐性が高いアルカリ水電解用隔膜及びその製造方法を提供する。また、周縁領域の応力耐性が高いアルカリ水電解用隔膜を用いて、周縁領域におけるアルカリ水電解用隔膜の破損を低減し、耐久性の高い膜電極接合体を提供する。
【0022】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0023】
なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを、意図していない。
【0024】
(実施の形態1)
以下、図1を用いて、実施の形態1におけるアルカリ水電解用隔膜を説明する。
【0025】
[1-1.構成]
[1-1-1.アルカリ水電解用隔膜の構成]
図1において、(a)は、実施の形態1におけるアルカリ水電解用隔膜10の概略を示す外観斜視図であり、(b)は、(a)のA-A線断面図である。
【0026】
図1に示すように、アルカリ水電解用隔膜10は、主面の中央領域に形成される第1の領域10aと、第1の領域10aを取り囲んで主面の周縁領域に形成される第2の領域10bと、を有する。なお、「主面」は、最も広い面積を有する面を意味する。
【0027】
アルカリ水電解用隔膜10は、イオン交換可能な水酸化物イオンを含む高分子で構成された隔膜である。アルカリ水電解用隔膜10は、具体的には、水酸化物イオン交換基としてトリメチルアンモニウム基などの4級アミンを有する高分子で構成されている。
【0028】
アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aと第2の領域10bとは、互いにアニオンとして含まれる水酸化物イオンの含有量が異なり、第1の領域10aでは、水酸化物イオンを含んでいるのに対して、第2の領域10bでは、水酸化物イオンに代わり塩化物イオンを含んでいる。
【0029】
[1-1-2.アルカリ水電解用隔膜の製造]
アルカリ水電解用隔膜10は、以下に説明する方法によって製造され得る。図2は、アルカリ水電解用隔膜10の製造方法を示すフローチャートであり、図3は、アルカリ水電解用隔膜10の製造方法における工程の様子を模式的に示す工程図である。
【0030】
図2に示すように、アルカリ水電解用隔膜10の製造方法は、イオン交換可能な水酸化物イオンを含むアニオン交換膜を、準備するアニオン交換膜準備工程(S11)と、アニオン交換膜の周縁領域に含まれる水酸化物イオンを、イオン交換により水酸化物イオン以外のアニオンに置換するイオン交換工程(S12)と、を含んでいる。
【0031】
以下、上記したアルカリ水電解用隔膜10の製造方法について、図2及び図3を参照しながら、各工程を、順を追って、さらに詳細に説明する。なお、図3において、図1に示したアルカリ水電解用隔膜10と同一の構成要素については、同一符号を付して、重複する説明を省略する場合もある。
【0032】
<アニオン交換膜準備工程(S11)>
この工程では、イオン交換可能な水酸化物イオンを含むアニオン交換膜30を、準備する。
【0033】
具体的には、水酸化物イオン交換基としてトリメチルアンモニウム基などの4級アミンを有する高分子で構成されるアニオン交換膜30を準備する(図3の(a))。
【0034】
<イオン交換工程(S12)>
この工程では、アニオン交換膜準備工程(S11)で準備したアニオン交換膜30の周縁領域に含まれる水酸化物イオンを、水酸化物イオン以外のアニオンに置換する。
【0035】
具体的には、アニオン交換膜30の四辺の周縁領域を、処理液32として塩化ナトリウム水溶液を貯えた容器31に所定の条件下で浸漬することで、アニオン交換膜30の周縁領域に含まれる水酸化物イオンを塩化物イオンに置換する。
【0036】
その後、アニオン交換膜30を容器31から取り出して、蒸留水で水洗することによって、アニオン交換膜30の四辺の周縁領域に、実質的に水酸化物イオンを含まない領域を形成する(図3の(b))。これにより、本実施の形態におけるアルカリ水電解用隔膜10が得られる。
【0037】
[1-2.動作]
以上のように構成されたアルカリ水電解用隔膜10について、図1を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0038】
まず、水の電気分解によって生成した水酸化物イオンが、アルカリ水電解用隔膜10の一方の主面に送られる。アルカリ水電解用隔膜10に送られた水酸化物イオンは、アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aを通ってアルカリ水電解用隔膜10の他方の主面に移動する。
【0039】
アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aは、水酸化物イオンを含んでいるため、水に対する親和性が高く、高い吸湿性を維持する。これにより、水酸化物イオンの移動抵抗を下げ、円滑な水酸化物イオンの移動を促す。
【0040】
アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bは、水酸化物イオンに代わって塩化物イオンを含んでいるため、水酸化物イオンの移動は妨げられる。また、塩化物イオンは、水酸化物イオンに比べて水に対する親和性が低いために、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bにおいて吸湿性が低下する。
【0041】
これにより、アルカリ水電解用隔膜10の周縁領域の膨潤を抑制し、膨潤収縮の繰り返しによる変形や応力集中を緩和する。
【0042】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、アルカリ水電解用隔膜10は、主面の中央領域に形成される第1の領域10aと、第1の領域10aを取り囲んで主面の周縁領域に形成
される第2の領域10bと、を有する。
【0043】
アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aは、アニオンとして水酸化物イオンを含んでおり、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bは、実質的に水酸化物イオンを含んでいない(水酸化物イオンに代わって塩化物イオンを含んでいる)。
【0044】
これにより、アルカリ水電解用隔膜10の周縁領域に位置する第2の領域10bにおいて、実質的に水酸化物イオンを含んでいないため(塩化物イオンは水酸化物イオンに比べて水に対する親和性が低くなるため)に吸湿性が低下し、膨潤を抑制することができる。
【0045】
そのため、膨潤収縮の繰り返しによるアルカリ水電解用隔膜10の周縁領域の変形や応力集中が緩和されるので、アルカリ水電解用隔膜10の周縁領域の応力耐性を高めることができる。
【0046】
また、本実施の形態において、アルカリ水電解用隔膜10を他の部品に組み込んで使用するときに、アルカリ水電解用隔膜10の周縁領域に位置する第2の領域10bが、アルカリ水電解用隔膜10を支持する支持部となるように、第2の領域10bを形成してもよい。
【0047】
そのようにすれば、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bは、第1の領域10aよりも応力耐性が高いので、アルカリ水電解用隔膜10を安定な状態で支持することできるので、アルカリ水電解用隔膜10を組み込んだ部品の信頼性、耐久性を、高めることができる。
【0048】
(実施の形態2)
以下、図4図5を用いて、実施の形態2における膜電極接合体を説明する。なお、図4図5において、図1に示した実施の形態1のアルカリ水電解用隔膜10と同一の構成要素については、同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合もある。
【0049】
[2-1.構成]
[2-1-1.膜電極接合体の構成]
図4は、実施の形態2における膜電極接合体の概略を示す構成図であり、詳細には、実施の形態2の膜電極接合体における電極が設けられた部分を、厚み方向に平行な平面で切断した場合の切断面を模式的に示す断面図である。
【0050】
図4に示すように、実施の形態2における膜電極接合体40は、実施の形態1に係るアルカリ水電解用隔膜10と、アノード触媒層41とアノードガス拡散層42とで構成されるアノード43と、カソード触媒層44とカソードガス拡散層45とで構成されるカソード46と、を備える。
【0051】
アノード触媒層41は、アルカリ水電解用隔膜10の一方の主面の中央領域に位置する第1の領域10aに形成(配置)されている。
【0052】
カソード触媒層44は、アルカリ水電解用隔膜10の他方の主面の中央領域に位置する第1の領域10aに形成(配置)されている。
【0053】
アノードガス拡散層42は、アノード触媒層41と接するように、アノード触媒層41におけるアルカリ水電解用隔膜10と接する面とは反対側の面に配置されている。
【0054】
カソードガス拡散層45は、カソード触媒層44と接するように、カソード触媒層44
におけるアルカリ水電解用隔膜10と接する面とは反対側の面に配置されている。
【0055】
アノード触媒層41は、酸化イリジウムからなるアノード触媒と水酸化物イオンを輸送するアイオノマーを含んで構成されている。アノード触媒層41は、アノード触媒層41に供給されるアルカリ水溶液に含まれる水の電気分解を促進する機能を、果たしている。
【0056】
カソード触媒層44は、白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒と水酸化物イオンを輸送するアイオノマーを含んで構成されている。カソード触媒層44は、カソード触媒層44に供給されるアルカリ水溶液に含まれる水の電気分解を促進する機能を、果たしている。
【0057】
アノードガス拡散層42は、アノード触媒層41とほぼ同じ大きさであり、ガス通気性と電子伝導性を併せ持つ炭素繊維を主成分とする導電性素材から構成されている。アノードガス拡散層42は、膜電極接合体40に供給されるアルカリ水溶液をアノード触媒層41に送る機能と、アノード触媒層41において水電解により生成する酸素を膜電極接合体40の外部に取り出す機能を果たしている。
【0058】
カソードガス拡散層45は、カソード触媒層44とほぼ同じ大きさであり、ガス通気性と電子伝導性を併せ持つ炭素繊維を主成分とする導電性素材から構成されている。カソードガス拡散層45は、膜電極接合体40に供給されるアルカリ水溶液をカソード触媒層44に送る機能と、カソード触媒層44において水電解により生成する水素を膜電極接合体40の外部に取り出す機能を、果たしている。
【0059】
[2-1-2.膜電極接合体の製造]
膜電極接合体40は、以下に説明する方法によって製造され得る。図5は、膜電極接合体40の製造方法における工程の様子を模式的に示す工程図である。
【0060】
以下、上記した膜電極接合体40の製造方法について、図4及び図5を参照しながら、各工程を、順を追って、詳細に説明する。なお、図5において、図4に示した膜電極接合体40と同一の構成要素については、同一の符号を付して、重複する説明を省略する場合もある。
【0061】
まず、図1に示した実施の形態1に係るアルカリ水電解用隔膜10を準備する(図5の(a))。アルカリ水電解用隔膜10は、アルカリ水電解用隔膜10の主面の中央領域に形成される第1の領域10aと、第1の領域10aを取り囲んで主面の周縁領域に形成される第2の領域10bと、を有する。
【0062】
併せて、アノード触媒層41を形成するためのアノード触媒組成物51と、カソード触媒層44を形成するためのカソード触媒組成物52とを調整する。
【0063】
アノード触媒組成物51は、例えば、溶媒に酸化イリジウムからなる触媒と水酸化物イオンを輸送するアイオノマーを分散媒に分散させることによって調製する。
【0064】
カソード触媒組成物52は、例えば、溶媒に白金を担持した炭素粒子からなる触媒と水酸化物イオンを輸送するアイオノマーを分散媒に分散させることによって調製する。
【0065】
次に、アルカリ水電解用隔膜10の一方の主面の第1の領域10aにアノード触媒組成物51を塗布する(図5の(b))。
【0066】
次に、一方の主面の第1の領域10aに塗布したアノード触媒組成物51から分散媒を
加熱乾燥により除去することによって、アルカリ水電解用隔膜10の一方の主面の第1の領域10aにアノード触媒層41を形成する(図5の(c))。
【0067】
次に、アルカリ水電解用隔膜10を裏返して、アノード触媒層41が下側になるように固定した後、アルカリ水電解用隔膜10の他方の主面の第1の領域10aにカソード触媒組成物52を塗布する(図5の(d))。
【0068】
次に、他方の主面の第1の領域10aに塗布したカソード触媒組成物52から分散媒を加熱乾燥により除去することによって、アルカリ水電解用隔膜10の他方の主面の第1の領域10aにカソード触媒層44を形成する(図5の(e))。
【0069】
次に、アノードガス拡散層42及びカソードガス拡散層45として、炭素繊維を含む多孔体からなるカーボンペーパーを用意し、アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aに形成したアノード触媒層41及びカソード触媒層44とほぼ同じ大きさなるように切り出し、アノード触媒層41とカソード触媒層44における外側の主面に固定する(図5の(f))。これにより、本実施の形態における膜電極接合体40が得られる。
【0070】
[2-2.動作]
以上のように構成された膜電極接合体40について、図4を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0071】
まず、アルカリ水溶液が、膜電極接合体40のカソードガス拡散層45を介してカソード触媒層44に送られる。カソード触媒層44に送られたアルカリ水溶液に含まれる水は電気化学反応を受け(外部の直流電源から電子を受け)て、水素と水酸化物イオンを生成する。カソード触媒層44において生成した水酸化物イオンは、アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aを厚み方向に透過して、膜電極接合体40のアノード触媒層41に移動する。
【0072】
このとき、アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aは、水酸化物イオンを含んでいるため、水に対する親和性が高く、高い吸湿性を維持する。これにより、水酸化物イオンの移動抵抗を下げ、円滑な移動を促す。
【0073】
膜電極接合体40のアノード触媒層41に移動した水酸化物イオンは、電気化学反応を受け(外部の直流電源に電子を放出し)て、酸素と水を生成する。
【0074】
アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bは水酸化物イオンに代わって塩化物イオンを含んでいるため、第2の領域10bでは水酸化物イオンの移動は妨げられる。また、塩化物イオンは水酸化物イオンに比べて水に対する親和性が低いために、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bにおいて吸湿性が低下する。
【0075】
これにより、膜電極接合体40におけるアルカリ水電解用隔膜10の周縁領域の膨潤を抑制し、膨潤収縮の繰り返しによる変形や応力集中を緩和する。
【0076】
[2-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、膜電極接合体40は、アルカリ水電解用隔膜10と、アルカリ水電解用隔膜10の一方の主面の第1の領域10aに配置された電極触媒層としてのアノード43と、アルカリ水電解用隔膜10の他方の主面の第1の領域10aに配置されたカソード46と、を備える。
【0077】
アルカリ水電解用隔膜10は、主面の中央領域に形成される第1の領域10aと、第1
の領域10aを取り囲んで主面の周縁領域に形成される第2の領域10bと、を有する。アルカリ水電解用隔膜10の第1の領域10aはアニオンとして水酸化物イオンを含んでおり、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bは実質的に水酸化物イオンを含んでいない。
【0078】
アノード43は、アルカリ水電解用隔膜10の一方の主面の第1の領域10aに接するアノード触媒層41と、アノード触媒層41におけるアルカリ水電解用隔膜10と接する面とは反対側の面に配置されるアノードガス拡散層42とで構成されている。
【0079】
カソード46は、アルカリ水電解用隔膜10の他方の主面の第1の領域10aに接するカソード触媒層44と、カソード触媒層44におけるアルカリ水電解用隔膜10と接する面とは反対側の面に配置されるカソードガス拡散層45とで構成されている。
【0080】
これにより、膜電極接合体40におけるアルカリ水電解用隔膜10の周縁領域の膨潤が小さくなり、応力耐性を高めることができる。そのため、アルカリ水電解用隔膜10の周縁領域における破損が低減するので、膜電極接合体40の耐久性を高めることができる。
【0081】
(実施の形態3)
以下、図6を用いて、実施の形態3における水電解セルを説明する。なお、図6において、図1に示した実施の形態1のアルカリ水電解用隔膜10または図4に示した実施の形態2の膜電極接合体40と同一の構成要素については、同一の符号を付して、重複する説明は省略する場合もある。
【0082】
[3-1.水電解セルの構成]
図6は、実施の形態3における水電解セルの概略を示す構成図である。図6に示すように、水電解セル60は、実施の形態2の膜電極接合体40と、シール部材としてのガスケット61と、アノードセパレータ62と、カソードセパレータ65と、電源69と、を備える。
【0083】
膜電極接合体40は、締結部材(図示せず)により、ガスケット61を介してアノードセパレータ62及びカソードセパレータ65で挟まれた状態で固定されている。
【0084】
ガスケット61は、樹脂を主成分として構成され、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bを支持部として支持され、第2の領域10bの一部を単身で保持することで、膜電極接合体40の四辺の端部に封止部を形成する。これにより、膜電極接合体40からアルカリ水溶液及び水電解により生成するガスの漏洩を防止している。
【0085】
アノード43側に配置されるアノードセパレータ62は、樹脂を含浸した黒鉛板から構成され、膜電極接合体40のアノード43にアルカリ水溶液を供給するためのアノード入口63と、水電解で利用されなかったアルカリ水溶液と水電解により生成した酸素と水を排出するためのアノード出口64とが、アノードセパレータ62の一方の主面から他方の主面に至る貫通孔として形成されている。
【0086】
また、アノードセパレータ62におけるアノード43(アノードガス拡散層42)と接する面には、一端(流入側の端)がアノード入口63と連通し他端(流出側の端)がアノード出口64と連通してアルカリ水溶液を通流するための通流溝68が形成されている。
【0087】
アノードセパレータ62における膜電極接合体40と対向する面の周縁領域には、アノードセパレータ62と膜電極接合体40のアルカリ水電解用隔膜10との隙間からアルカリ水溶液及び水電解により生成するガスが漏洩しないように、アルカリ水電解用隔膜10
の第2の領域10bと当接して弾性変形するガスケット61が配置されている。
【0088】
また、カソード46側に配置されるカソードセパレータ65は、樹脂を含浸した黒鉛板から構成され、アルカリ水溶液を供給するためのカソード入口66と、水電解で利用されなかったアルカリ水溶液及び水電解により生成した水素を排出するためのカソード出口67とが、カソードセパレータ65の一方の主面から他方の主面に至る貫通孔として形成されている。
形成されている。
【0089】
また、カソードセパレータ65におけるカソード46(カソードガス拡散層45)と接する面には、一端がカソード入口66と連通し他端がカソード出口67と連通してアルカリ水溶液を通流するための通流溝68が形成されている。
【0090】
カソードセパレータ65における膜電極接合体40と対向する面の周縁領域には、カソードセパレータ65と膜電極接合体40のアルカリ水電解用隔膜10との隙間からアルカリ水溶液及び水電解により生成するガスが漏洩しないように、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bと当接して弾性変形するガスケット61が配置されている。
【0091】
電源69は、正極がアノード43と電気的に接続され、負極がカソード46と電気的に接続された直流電源であって、膜電極接合体40のアノード43の電位をカソード46の電位よりも高くして、膜電極接合体40のアノード43とカソード46との間に電流を流すものである。
【0092】
[3-2.動作]
以上のように構成された水電解セル60について、図6を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0093】
まず、アルカリ水溶液供給源(図示せず)から、アノードセパレータ62のアノード入口63とカソードセパレータ65のカソード入口66を介して、70℃に加温されたアルカリ水溶液を水電解セル60に供給する。
【0094】
水電解セル60に供給されたアルカリ水溶液は、アノードセパレータ62とカソードセパレータ65の通流溝68を通流し、アノードガス拡散層42及びカソードガス拡散層45を介して、アノード触媒層41及びカソード触媒層44に送られる。
【0095】
水電解セル60は温度70℃となるように、温度調節器(図示せず)を制御器(図示せず)で制御し、電源69により、水電解セル60のアノード43とカソード46に電流を流す。
【0096】
この動作により、アノード43では、(化1)に示す、水酸化物イオンから酸素と水が生成する酸化反応が起こり、カソード46では、(化2)に示す、水が水素と水酸化物イオンになる還元反応が起こる。
【0097】
【化1】
【0098】
【化2】
【0099】
(化1)と(化2)に示す電気化学反応により、水電解セル60のカソード46において水素が得られる。
【0100】
[3-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、水電解セル60は、実施の形態2に係る膜電極接合体40と、アノード43と接する面にアルカリ水溶液を通流するための通流溝68が形成されたアノードセパレータ62と、カソード46と接する面にアルカリ水溶液を通流するための通流溝68が形成されたカソードセパレータ65と、膜電極接合体40のアノード43とカソード46との間に所定方向の電流を流す電源69と、を備える。
【0101】
また、アノードセパレータ62またはカソードセパレータ65と膜電極接合体40との隙間から、アルカリ水溶液及び水電解により生成するガスが漏洩しないように、アノードセパレータ62とカソードセパレータ65における膜電極接合体40と対向する面の周縁領域に、アルカリ水電解用隔膜10の第2の領域10bと当接して弾性変形するシール部材としてのガスケット61を備える。
【0102】
ガスケット61は、アルカリ水電解用隔膜10の周縁領域に位置する第2の領域10bを支持部として支持される。
【0103】
これにより、アルカリ水電解用隔膜10の周縁領域に位置する第2の領域10bにおける破損が低減し、膜電極接合体40の耐久性を高めることができる。そのため、水電解セル60の耐久性が高くなるので、水電解セル60は長期に亘って安定した水素製造を維持することができる。
【0104】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1~3を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1~3で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0105】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0106】
実施の形態1では、アルカリ水電解用隔膜の製造に用いるアニオン交換膜の具体例として、水酸化物イオン交換基としてトリメチルアンモニウム基などの4級アミンを有する高分子を用いるアルカリ水電解用隔膜を説明したが、アニオン交換膜は、水酸化物イオンを伝導するものであればよい。
【0107】
したがって、アニオン交換膜はトリメチルアンモニウム基などの4級アミンを有する高分子を用いるものに限定されず、例えば、水酸化物イオン交換基としてジメチルアミンなどの3級アミンを有する高分子や、1級アミンを有する高分子を用いてもよい。
【0108】
ただし、トリメチルアンモニウム基などの4級アミン基を有する高分子を用いれば、水酸化物イオンの移動抵抗が小さくなり、アルカリ水電解用隔膜を用いた膜電極接合体及び水電解セルの性能を向上することができる。
【0109】
実施の形態1では、アニオン交換膜の周縁領域に実質的に水酸化物イオンを含まない領域を形成するために用いる処理液の具体例として、塩化ナトリウム水溶液を用いるアルカリ水電解用隔膜の製造方法を説明したが、処理液は、アニオン交換膜の周縁領域に含まれる水酸化物イオンを水酸化物イオン以外のアニオンに置換できる材料であればよい。
【0110】
したがって、処理液は塩化ナトリウム水溶液に限定されず、例えば、処理液として、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウム、塩化リチウム、塩化銅(II)、塩化銀、フッ化塩素などの無機ハロゲン化物の溶液や、塩化トロピリウム、塩化テトラオクチルアンモニウムなどの有機ハロゲン化合物の溶液などを用いてもよい。
【0111】
実施の形態2では、膜電極接合体のアノード触媒層を形成するためのアノード触媒の具体例として、酸化イリジウムからなるアノード触媒を用いる膜電極接合体を説明したが、アノード触媒は、水を電気分解し、酸素を生成するものであればよい。
【0112】
したがって、アノード触媒は酸化イリジウムに限定されず、例えば、アノード触媒として、酸化イリジウム被覆チタン、イリジウムルテニウムコバルト酸化物、イリジウムルテニウムスズ酸化物、イリジウムルテニウム鉄酸化物、イリジウムルテニウムニッケル酸化物、イリジウムスズ酸化物、イリジウムジルコニウム酸化物、ルテニウムチタン酸化物、ルテニウムジルコニウム酸化物、ルテニウムタンタル酸化物、ルテニウムチタンセリウム酸化物などを用いてもよい。
【0113】
ただし、アノード触媒として酸化イリジウムからなるアノード触媒を用いれば、アノードにおける電気化学反応の活性化エネルギーが低下し、膜電極接合体を用いた水電解セルのエネルギー効率を高めることができる。
【0114】
実施の形態2では、膜電極接合体のカソード触媒層を形成するためのカソード触媒の具体例として、白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒を用いる膜電極接合体を説明したが、カソード触媒は、水を電気分解し、水素を生成するものであればよい。
【0115】
したがって、カソード触媒は、白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒に限定されず、例えば、カソード触媒として、白金被覆チタン、パラジウム担持カーボン、コバルトグリオキシム、ニッケルグリオキシムなどを用いてもよい。ただし、カソード触媒として白金を担持した炭素粒子からなるカソード触媒を用いれば、カソードにおける電気化学反応の活性化エネルギーが低下し、膜電極接合体を用いた水電解セルのエネルギー効率を高めることができる。
【0116】
なお、上記の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【実施例0117】
(実施例1)
以下の方法によって、実施例1のアルカリ水電解用隔膜を作製した。
【0118】
<アニオン交換膜>
水酸化物イオンを含むアニオン交換膜として、一辺の長さが100mmの正方形の形状を有するアニオン交換膜(Dioxide Materials社製、製品名:Sustanion(登録商標)X37)を準備した。
【0119】
<処理液>
塩化ナトリウム100重量部に対して、純水500重量部を容器に採取し、攪拌器(ヤマト科学(株)製、製品名:マグミキサ)を用いて、25℃で10分間攪拌して、塩化ナトリウム水溶液からなる処理液を作製した。
【0120】
<アルカリ水電解用隔膜>
上記アニオン交換膜の四辺の周縁領域(末端から10mmの領域)を各端部ごとに、上記した塩化ナトリウム水溶液を貯えた容器に30分間浸漬して、アニオン交換膜の四辺の周縁領域に含まれていた水酸化物イオンを塩化物イオンに置換した。
【0121】
その後、容器から取り出し、蒸留水で10分間洗浄し、アニオン交換膜の四辺の周縁領域に実質的に水素イオンを含まない領域を形成したアルカリ水電解用隔膜(以下、隔膜Aと称す)を得た。
【0122】
なお、塩化ナトリウム水溶液の量は、アニオン交換膜の周縁領域のみが塩化ナトリウム水溶液に浸かるように、アニオン交換膜の周縁領域がすり切り浸かるまでとした。
【0123】
[膨潤率評価試験]
隔膜Aの周縁領域と周縁領域以外の中央領域の膨潤率を、以下の評価方法により評価した。
【0124】
隔膜Aの周縁領域及び中央領域から、10mm角の試験片を切り出し、金属直尺(シンワ測定(株)製:品番14028/直尺ステン)を用いて、隔膜Aの25℃、相対湿度50%における寸法を測定し、初期寸法L0とした。
【0125】
続いて、試験片を70℃の温水を貯めた容器に密封状態で30分間浸漬させた後、試験片を容器から取り出した直後の寸法を金属直尺(シンワ測定(株)製:品番14028/直尺ステン)を用いて測定し、膨潤時の寸法Lとした。
【0126】
得られた値から、下記の(数1)により、各試験片の膨潤率ΔSwを算出し、隔膜Aの周縁領域及び中央領域の膨潤率とした。なお、膨潤率ΔSwの測定は、アニオン交換膜をシート状に加工する際のアニオン交換膜の流れ方向(MD)とMDの垂直方向(TD)について行った。
【0127】
【数1】
【0128】
隔膜Aの周縁領域及び中央領域の膨潤率は、下記の(表1)に示す通りであり、隔膜Aは、周縁領域の膨潤率が中央領域の膨潤率より小さな値を示し、周縁領域において膨潤率が小さいものであった。
【0129】
(比較例1)
アニオン交換膜として、実施例1と同じ、一辺の長さが100mmの正方形の形状を有するアニオン交換膜を準備し、アルカリ水電解用隔膜(以下、隔膜Bと称す)とした。隔膜Bは、上記した実施例1の処理液を用いて周縁領域をイオン交換処理していないので、周縁領域には水酸化物イオンが含まれている。
【0130】
続いて、隔膜Bの膨潤率ΔSwを上記した評価方法により評価したところ、隔膜Bの周
縁領域の膨潤率ΔSwは、下記の(表1)に示す通りであり、膨潤率ΔSwはMD、TD共に隔膜Aの周縁領域より大きな値を示し、隔膜Aの周縁領域に比べ膨潤は大きなものであった。
【0131】
以上の結果を(表1)にまとめた。
【0132】
【表1】
【0133】
アルカリ水電解用隔膜の膨潤率ΔSwに関し、本実施例に係る隔膜Aは、第2の領域に対応する周縁領域において膨潤率ΔSwが小さいものであった。これは、隔膜Aの周縁領域に含まれる水酸化物イオンを塩化物イオンに置換することにより、水に対する親和性が低くなることで、隔膜Aの周縁領域の吸湿性が低下し、膨潤が小さくなったためと考えられる。
【0134】
一方、比較例に係る隔膜Bの周縁領域は、本実施例に係る隔膜Aの周縁領域に比べ、膨潤率ΔSwが大きいものであった。これは、周縁領域には水酸化物イオンが含まれているため、隔膜Bの周縁領域において吸湿性が高く、膨潤が大きくなったためと考えられる。
【0135】
以上のアルカリ水電解用隔膜の膨潤率評価試験から、本実施例で作製されたアルカリ水電解用隔膜は周縁領域において膨潤は小さいことが確認できた。
【0136】
(実施例2)
以下の方法によって、実施例2の膜電極接合体を作製した。そして、膜電極接合体を備える水電解セルを作製し、水電解試験を行った。
【0137】
<アルカリ水電解用隔膜>
アルカリ水電解用隔膜として、実施例1で作製した隔膜Aを準備した。
【0138】
<アノード触媒組成物>
10重量部のアノード触媒及び30重量部のアイオノマーを容器に採取した。アノード触媒として、酸化イリジウム(AlfaAesar社製)を用いた。アイオノマーとして、電解質樹脂(Dioxide Materials社製、製品名:Sustanion(登録商標)XA9の5%分散液)を用いた。
【0139】
次に、分散媒として、15重量部の純水と45重量部のエタノールとを容器に更に加えた。得られた混合物を室温で2時間混練し、アノード触媒組成物を得た。混錬には、分散機及び超音波ホモジナイザーを用いた。
【0140】
<カソード触媒組成物>
10重量部のカソード触媒及び30重量部のアイオノマーを容器に採取した。カソード触媒として、白金を担持した炭素粉末(田中貴金属社製、品番:TEC10E50E)を用いた。アイオノマーとして、上記電解質樹脂を用いた。
【0141】
次に、分散媒として、5重量部の純水と45重量部のエタノールを容器に更に加えた。得られた混合物を室温で2時間混練し、カソード触媒組成物を得た。混錬には、分散機及び超音波ホモジナイザーを用いた。
【0142】
<アノードガス拡散層>
アノードガス拡散層として、一辺の長さが80mmの正方形の形状を有するカーボンペーパー(東レ社製、製品名:TGP-H-120)を用いた。
【0143】
<カソードガス拡散層>
カソードガス拡散層として、一辺の長さが80mmの正方形の形状を有するカーボンペーパー(東レ社製、製品名:TGP-H-120)を用いた。
【0144】
<膜電極接合体>
スクリーン印刷法によって、実施例1で作製した隔膜Aの一方の主面の周縁領域以外の中央領域に上記したアノード触媒組成物を塗布した。恒温器に隔膜Aを入れ、80℃、1時間の条件で隔膜Aを加熱して分散媒を除去した。その後、室温、2時間の条件で隔膜Aを冷却し、隔膜Aの一方の主面にアノード触媒層を形成した。
【0145】
スクリーン印刷法によって、アノード触媒層を形成した隔膜Aの他方の主面の周縁領域以外の中央領域に上記したカソード触媒組成物を塗布した。恒温器に隔膜Aを入れ、80℃、1時間の条件で隔膜Aを加熱して分散媒を除去した。その後、室温、2時間の条件で隔膜Aを冷却し、隔膜Aの他方の主面にカソード触媒層を形成した。
【0146】
上記したアノードガス拡散層とカソードガス拡散層を、隔膜Aを挟んで、アノード触媒層とカソード触媒層の形成面が対向するように重ね、2MPaの圧力で、130℃、10分間ホットプレスすることにより、隔膜Aにアノードとカソードを形成し、膜電極接合体(以下、膜電極接合体Aと称す)を得た。
【0147】
<水電解セル>
膜電極接合体Aのアノードの外周部にシリコーン樹脂製のガスケットを接合した。膜電極接合体Aのカソードの外周部にシリコーン樹脂製のガスケットを接合した。次に、アルカリ水溶液を通流する通流溝を有するアノードセパレータとカソードセパレータを膜電極接合体Aのアノードガス拡散層とカソードガス拡散層の外側に配置した。
【0148】
次に、締結部材を用いて、ガスケットを介して、膜電極接合体Aとアノードセパレータ及びカソードセパレータを固定した。膜電極接合体Aのアノードとカソードに直流電源を接続し、水電解セルを作製した。
【0149】
[水電解試験]
アルカリ水溶液供給源から、アルカリ水溶液として70℃に加温された3重量%の水酸化カリウム溶液を水電解セルのアノード入口及びカソード入口に供給した。温度調節器を制御器で制御し、水電解セルを70℃に加熱した。水電解セルのアノードとカソードとの間に1.0A/cmの電流密度で電流を流した。
【0150】
アルカリ水溶液をアノードとカソードに供給しながら電流を流すことによって、上記した(化1)及び(化2)に示す電気化学反応が起こる。これにより、カソードにおいて水素が生成された。そして、電流密度1.0A/cmにおける水電解運転を12時間継続した後、水電解セルの水電解運転を12時間停止した。
【0151】
以上の水電解運転を1サイクルとし、200サイクルの運転を行った。水電解セルのエネルギー効率は運転開始直後に75%であった。水電解セルのエネルギー効率は200サイクル運転後も変化しなかった。水電解試験を終了した後、水電解セルを解体し、隔膜Aの状態を確認したところ、隔膜Aは周縁領域を含めて、亀裂、破損は確認されなかった。
【0152】
(比較例2)
アルカリ水電解用隔膜を上記した比較例1に係る隔膜Bに代えたこと以外は、実施例2と同じ方法により膜電極接合体(以下、膜電極接合体Bと称す)を作製した。そして、膜電極接合体Bを用いて、実施例2と同じ方法により、水電解セルを作製し、水電解試験を行った。
【0153】
水電解セルのエネルギー効率は運転開始直後に75%であったが、200サイクル運転後には70%まで低下した。運転試験を終了した後、水電解セルを解体し、隔膜Bの状態を確認したところ、隔膜Bの周縁領域において、亀裂、破損が確認された。
【0154】
隔膜Bの亀裂箇所や破損箇所を介して、アノードで生成した酸素とカソードで生成した水素がアノードとカソード間で漏洩して反応することで水素が消費されたため、水電解セルのエネルギー効率が低下したと考えられる。
【0155】
以上の水電解試験から、実施例1で作製されたアルカリ水電解用隔膜は周縁領域において応力耐性が高いことが確認できた。また、本実施例で作製された膜電極接合体は耐久性が高いことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本開示のアルカリ水電解用隔膜は、周縁領域において膨潤が小さく応力耐性が高いという効果を有するので、長期に亘って安定に水素を生成する水電解セルに適用可能である。具体的には、燃料電池車等の水素利用機器に水素を供給する水素供給システムなどに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0157】
10 アルカリ水電解用隔膜
10a 第1の領域
10b 第2の領域
30 アニオン交換膜
31 容器
32 処理液
40 膜電極接合体
41 アノード触媒層
42 アノードガス拡散層
43 アノード
44 カソード触媒層
45 カソードガス拡散層
46 カソード
51 アノード触媒組成物
52 カソード触媒組成物
60 水電解セル
61 ガスケット
62 アノードセパレータ
63 アノード入口
64 アノード出口
65 カソードセパレータ
66 カソード入口
67 カソード出口
68 通流溝
69 電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6