(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078536
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】飲料水の水質検査器材
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20230531BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20230531BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20230531BHJP
C12Q 1/04 20060101ALN20230531BHJP
【FI】
C12M1/26
G01N33/18 F
G01N1/10 N
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191697
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】591237641
【氏名又は名称】株式会社日研生物
(74)【代理人】
【識別番号】100088948
【弁理士】
【氏名又は名称】間宮 武雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 常雄
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G052AA06
2G052AA36
2G052AC17
2G052BA17
2G052DA08
2G052DA14
2G052JA02
2G052JA04
4B029AA08
4B029AA09
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA03
4B029GA08
4B029GB05
4B029GB10
4B029HA05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ16
4B063QQ18
4B063QR57
4B063QR66
4B063QR69
4B063QS10
4B063QS22
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】特定酵素基質培地法による大腸菌および大腸菌群の検査を行う場合において、保管性や運搬性・携行性が良好で、検査使用後の廃棄物処理も比較的簡単であり、検査に要する手間や時間も少なくて済む水質検査器材を提供する。
【解決手段】柔軟性を有する透明の樹脂フィルム材12、14、16により密閉袋形態に形成され、上端部付近の開封切裂き予定線30より袋中央側でその近傍にかつ開封切裂き予定線と平行にチャックテープ32が取着され、収容部38の内部に100mlの検水を注入できるようにした検査袋10から構成され、検査袋の収容部の内部に、チオ硫酸ナトリウム剤44と、内部に100mlの検水の検査に必要な量の発色酵素基質培地成分が少量の水と共に収容されて密封され外面に加えられる押圧力により破袋して内部の発色酵素基質培地成分を含む液が流出するようにした包装小袋46とを封入した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料水中に大腸菌および大腸菌群が存在するか否かを検査するために使用される飲料水の水質検査器材において、
柔軟性を有する透明の樹脂フィルム材により、上端部、底部および両側端部が閉塞された矩形状の袋形態に形成され、上端部付近の開封切裂き予定線より袋中央側であってその近傍にかつ開封切裂き予定線と平行にチャックテープが取着され、チャックテープと底部と両側端部とで囲まれた収容部が、その内部に100mlの検水を注入することができる内容積となるように形成された検査袋からなり、
この検査袋の収容部の内部に、0.02g~0.05gのチオ硫酸ナトリウム剤を封入するとともに、柔軟性を有する樹脂フィルム材により小袋状に形成され、内部に100mlの検水の検査に必要な量の発色酵素基質培地成分が少量の水と共に収容されて密封され、外面に加えられる押圧力により破袋して内部の発色酵素基質培地成分を含む液が流出するようにした包装小袋を封入したことを特徴とする飲料水の水質検査器材。
【請求項2】
前記検査袋は、
2枚の胴部樹脂フィルム材を重ね合わせ、それら2枚の胴部樹脂フィルム材の下部に、底部樹脂フィルム材を二つ折りにして折込み部が内方側となるように介挿し、2枚の胴部樹脂フィルム材の上端縁部同士および両側端縁部同士、ならびに、各胴部樹脂フィルム材の下端縁部と二つ折りの底部樹脂フィルム材の各下端縁部同士をそれぞれ熱接着させて形成されたスタンディングパウチ形態であり、
この検査袋を開封し胴部を膨らませ自立させた状態にして収容部に100mlの検水を注入したときに検水の液面となる位置に標線を付した請求項1に記載の飲料水の水質検査器材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水道水等の飲料水の水質を検査するための用具、特に飲料水中に大腸菌(E.coli)および大腸菌群が存在するか否かを検査するための飲料水の水質検査器材に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水、水源の水、井戸水等の飲用に供される水(飲料水)の水質検査は、「厚生労働省告示第261号 水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法」に準拠して行われ、大腸菌を対象とする検査は、その別表第2に定める特定酵素基質培地法により行われる。この方法は、検水をピルビン酸添加XGal-MUG培地、MMO-MUG培地等の培地に加えて培養し、大腸菌および大腸菌群が特異的に保有・産生する酵素によりXGal、MUG等の発色酵素基質を分解して生成される物質による培地の着色や蛍光色の有無を目視し、検水中の大腸菌および大腸菌群の存否を判定する、といったものである。また、ピルビン酸添加XGal-MUG培地やMMO-MUG培地を使用した検査方法における問題点に鑑み、特定の培地成分、特定の着色性基質や蛍光性基質および特定のグッド緩衝剤を組み合わせて用いることにより、短時間の簡便な操作で高感度に大腸菌および大腸菌群を検出する方法が提案されており(例えば、特許文献1参照。)、また、特定酵素基質培地法における各工程を自動化し、被検体中の大腸菌群の存否を自動的に判定する大腸菌群判定装置の開発も行われている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
特定酵素基質培地法による大腸菌および大腸菌群の検査を手作業により行う場合には、以下のようにする。
予め塩素除去処理用のチオ硫酸ナトリウムを検水100mlにつき0.02g~0.05gの割合で採水瓶に入れ、その採水瓶に100mlの検水を採取する。100mlの検水の検査に必要な量の培地、例えばピルビン酸添加XGal-MUG培地を試験容器に入れ、その培地に検水100mlを加え、直ちに試験容器に蓋をして容器を密封し、試験容器を振って培地を溶解・混合させた後、試験容器を恒温器内に静置して24時間培養する。培養後、培地を目視で観察し、培地が青緑~青色に呈色していると、大腸菌群陽性(大腸菌群が存在する)と判定する。また、紫外線ランプを用いて波長366nmの紫外線を培地に照射し、蛍光の有無を確認し、培地に対応する比色液より蛍光が強い場合は大腸菌陽性(大腸菌が存在する)と判定し、比色液より蛍光が弱い場合は大腸菌陰性(大腸菌が存在しない)と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4331582号公報
【特許文献2】特開2004-229655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特定酵素基質培地法による大腸菌および大腸菌群の検査を手作業により行う場合には、密閉可能な蓋付きの試験容器を用意する必要があるが、その保管や運搬時等に嵩張るため、保管に場所をとり、また、持ち運びに不便であり、運搬の作業効率が悪くコスト高となる。また、検査に使用した試験容器および蓋を廃棄する必要があり、その廃棄の際にも嵩張るため、廃棄物の処分が厄介である。さらに、残留塩素を含む検水の検査を行う場合には、検水中の残留塩素を除去する処理が必須となり、必要量のチオ硫酸ナトリウムを秤取して採水瓶に入れ、その採水瓶に検水を採取し、また、必要量の培地を秤取して試験容器に入れ、塩素除去処理した検水を試験容器内の培地に加える、といった操作を行うことになる。この一連の操作に手間と時間がかかる、といった問題点がある。
【0006】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、特定酵素基質培地法による大腸菌および大腸菌群の検査を行う場合において、保管性や運搬性・携行性が良好で、検査使用後の廃棄物処理も比較的簡単であり、検査に要する手間や時間も少なくて済む飲料水の水質検査器材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明では、容器に代えて袋を使用し、培養前の全ての処理を袋内で完結させることができるようにした。
すなわち、請求項1に係る発明は、飲料水中に大腸菌および大腸菌群が存在するか否かを検査するために使用される飲料水の水質検査器材において、柔軟性を有する透明の樹脂フィルム材により、上端部、底部および両側端部が閉塞された矩形状の袋形態に形成され、上端部付近の開封切裂き予定線より袋中央側であってその近傍にかつ開封切裂き予定線と平行にチャックテープが取着され、チャックテープと底部と両側端部とで囲まれた収容部が、その内部に100mlの検水を注入することができる内容積となるように形成された検査袋からなり、この検査袋の収容部の内部に、0.02g~0.05gのチオ硫酸ナトリウム剤を封入するとともに、柔軟性を有する樹脂フィルム材により小袋状に形成され、内部に100mlの検水の検査に必要な量の発色酵素基質培地成分が少量の水と共に収容されて密封され、外面に加えられる押圧力により破袋して内部の発色酵素基質培地成分を含む液が流出するようにした包装小袋を封入したことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の検査器材において、2枚の胴部樹脂フィルム材を重ね合わせ、それら2枚の胴部樹脂フィルム材の下部に、底部樹脂フィルム材を二つ折りにして折込み部が内方側となるように介挿し、2枚の胴部樹脂フィルム材の上端縁部同士および両側端縁部同士、ならびに、各胴部樹脂フィルム材の下端縁部と二つ折りの底部樹脂フィルム材の各下端縁部同士をそれぞれ熱接着させて、スタンディングパウチ形態の検査袋を形成し、この検査袋を開封し胴部を膨らませ自立させた状態にして収容部に100mlの検水を注入したときに検水の液面となる位置に標線を付したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明の検査器材を使用して飲料水の水質検査を行うときは、検査袋の上端部付近の開封切裂き予定線に沿って検査袋を切り裂いた後、チャックテープの雄型線条部材と雌型線条部材とを離脱させて検査袋の上端部を開口させ、上端開口から検水100mlを検査袋内に注入する。そして、チャックテープの雄型線条部材と雌型線条部材とを係合させて検査袋の上端部を閉塞した後、検査袋を振ってチオ硫酸ナトリウム剤を溶解させる。この操作により、検水中の残量塩素が除去される。次に、検査袋の表・裏両面から内部の包装小袋を摘むようにして包装小袋の外面に力を加えることにより、包装小袋を破裂させて内部の発色酵素基質培地成分を含む液を流出させた後、検査袋を振って、培地成分を含む液と検水とを十分に混合させる。その後は、通常の検査の手順に従い、検査袋を恒温器内に静置して24時間培養し、培養後に大腸菌および大腸菌群の陽性・陰性を判定する。
したがって、この検査基材を使用すると、水質検査における培養前の操作の省力化と迅速化が図られる。また、検査が終了すると、検査袋を滅菌した後に廃棄するだけでよく、従来に比べて廃棄物が減容化されて廃棄物処理も比較的簡単になる。さらに、この検査器材は、軽量で嵩張ることなく、保管性や運搬性・携行性にも優れている。
【0010】
請求項2に係る発明の検査器材では、開封された状態の検査袋を、その胴部を膨らませて自立させた状態にし、収容部内に標線の位置まで検水を注入することにより、100mlの検水を採取することができるので、検水を秤量するための手間が省かれる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の実施形態の1例を示し、飲料水の水質検査器材の構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示した検査器材の検査袋の上端部付近を切り裂いた状態を示す平面図である。
【
図3】
図1に示した検査器材の検査袋を開封し収容部内に検水を注入した状態を示す側面断面図である。
【
図4】
図1に示した検査器材の検査袋を開封し収容部内に検水を注入した後に検査袋の上端部を閉塞した状態を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示した飲料水の水質検査器材は、柔軟性を有する非通気性・非透水性で透明の樹脂フィルム材により形成され上端部、底部および両側端部が閉塞された矩形状の袋形態をなす検査袋10を有している。この検査袋10は、表・裏2枚の胴部樹脂フィルム材12、14を重ね合わせ、それら2枚の胴部樹脂フィルム材12、14の下部に、底部樹脂フィルム材16を二つ折りにして折込み部が内方側となるように介挿し、2枚の胴部樹脂フィルム材12、14の上端縁部同士および両側端縁部同士、ならびに、各胴部樹脂フィルム材の下端縁部と二つ折りの底部樹脂フィルム材の各下端縁部同士をそれぞれ熱接着させて、上端部接着部18、両側部接着部20、22および表・裏底部接着部24、26により閉塞され、四周縁が密閉されている。そして、検査袋10は、その胴部を膨らませた状態とすることで自立するスタンディングパウチ形態を有している。このようなスタンディングパウチ形態の検査袋10は、自立させることができるので、取扱い上好ましいが、検査袋の製作方法や形態は、図示例のものに限定されない。例えば、表・裏2枚の樹脂フィルム材を重ね合わせ、上端縁部同士、両側端縁部同士および下端縁部同士をそれぞれ熱接着させて密閉袋形態にしたものや、1枚の樹脂フィルム材を折り重ね、上端縁部同士および両側端縁部同士を熱接させて密閉袋形態にしたものでもよく、両側部にマチを有するガゼット袋などでもよい。
【0013】
検査袋10には、その上端部接着部18付近に、袋面を切り裂いて開封するためのノッチ28が形設されており、開封切裂き予定線30より袋中央側であってその近傍にかつ開封切裂き予定線30と平行にチャックテープ32が取着されている。チャックテープ32は、雄型線条部材34を有するテープと雌型線条部材36を有するテープ(
図3参照)を表・裏の各胴部樹脂フィルム材12、14の内面側にそれぞれを熱接着することにより取り付けられている。このチャックテープ32と表・裏の胴部樹脂フィルム材12、14と底部樹脂フィルム材16とで囲まれた内方空間が収容部38となる。この収容部38は、その内部に100mlの検水を注入することができる内容積となるように形成されている。そして、検査袋10を開封し胴部を膨らませ自立させた状態にして収容部38に100mlの検水40を注入したときに(
図3参照)、袋面の、検水40の液面となる位置に標線42が付されている。
【0014】
検査袋10の収容部38の内部には、0.02g~0.05gのチオ硫酸ナトリウム(五水和物)剤44が封入されている。また、検査袋10の収容部38の内部に、柔軟性を有する非通気性・非透水性の樹脂フィルム材により小袋状に形成された包装小袋46が収容されている。包装小袋46内には、100mlの検水の検査に必要な量の発色酵素基質培地、例えばピルビン酸添加XGal-MUG培地の成分が少量の水と共に収容されて密封されている。包装小袋46内のピルビン酸添加XGal-MUG培地成分の組成は、ペプトン0.5g、塩化ナトリウム0.5g、ピルビン酸ナトリウム0.1g、硝酸カリウム0.1g、リン酸一水素カリウム0.4g、リン酸二水素カリウム0.1g、ラウリル硫酸ナトリウム10mg、4-メチルウンベリフェリル-β-D-グルクロニド10mg、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド10mgおよびイソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド10mgである。この包装小袋46は、その外面に対して押圧力が加えられることにより、周縁部の一部が容易に剥離して破袋し、内部の発色酵素基質培地成分を含む液が流出するように、周縁部が弱く接着されて形成されている。
【0015】
この検査器材を使用し、飲料水中に大腸菌および大腸菌群が存在するか否かを検査するときは、まず、検査袋10の上端部接着部18付近に形設されたノッチ28の位置から開封切裂き予定線30に沿って横方向に袋面を切り裂き、
図2に示すように検査袋10を開封する。次に、
図3に示すように、チャックテープ32の雄型線条部材34と雌型線条部材36とを離脱させて検査袋10の上端部を開口させる。続いて、検査袋10を、その胴部を膨らませて自立させた状態にし、上端開口から収容部38内に標線42の位置まで検水40を注入する。これにより、検査袋10内に100mlの検水が採取される。そして、
図4に示すように、チャックテープ32の雄型線条部材34と雌型線条部材36とを係合させて検査袋10の上端部を閉塞した後、検査袋10を振ってチオ硫酸ナトリウム剤44を溶解させる。この操作により、検査袋10内部の検水中の残量塩素が除去される。次に、検査袋10の表・裏両面から内部の包装小袋46を摘むようにして包装小袋46の外面に力を加えることにより、包装小袋46を破裂させて内部の発色酵素基質培地成分を含む液を流出させた後、検査袋10を振って、培地成分を含む液と検水40とを十分に混合させる。この操作により、密封された検査袋10内に発色酵素基質培地48が作成される。この後、検査袋10を恒温器内に静置して24時間培養し、培養後に、検査袋10の透明の袋面を通して培地48を目視で観察する。観察の結果、培地48が青緑~青色に呈色していると、大腸菌群陽性(大腸菌群が存在する)と判定する。また、検査袋10の袋面を通して培地48に紫外線ランプを用いて波長366nmの紫外線を培地に照射し、蛍光の有無を確認する。そして、培地に対応する比色液より蛍光が強い場合は大腸菌陽性(大腸菌が存在する)と判定し、比色液より蛍光が弱い場合は大腸菌陰性(大腸菌が存在しない)と判定する。検査が終了すると、検査袋10を滅菌した後に廃棄する。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この発明に係る検査器材は、飲料水中に大腸菌および大腸菌群が存在するか否かを検査する場合に使用されるものであり、この発明は、飲料水の水質検査を行う検査器材を製造する業界などにおいて利用される。
【符号の説明】
【0017】
10 検査袋
12、14 胴部樹脂フィルム材
16 底部樹脂フィルム材
18 上端部接着部
20、22 両側部接着部
24、26 表・裏底部接着部
28 ノッチ
30 開封切裂き予定線
32 チャックテープ
38 検査袋の収容部
40 検水
42 標線
44 チオ硫酸ナトリウム剤
46 包装小袋
48 発色酵素基質培地