(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078541
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】タイヤ用マスターバッチの製造方法、およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20230531BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C08J3/22 CEP
C08J3/22 CEQ
B60C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191703
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂苅 佳祐
【テーマコード(参考)】
3D131
4F070
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131BA02
4F070AA05
4F070AC04
4F070AC05
4F070AC14
4F070AC40
4F070AC72
4F070AD02
4F070AE01
4F070AE03
4F070AE08
4F070FA05
4F070FB04
4F070FB06
4F070FC03
(57)【要約】
【課題】剛性に優れた加硫ゴムの原料となるマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】タイヤ用マスターバッチの製造方法は、少なくとも、セルロースナノファイバー分散液およびジエン系ゴムラテックスを混合し、混合液を作製する工程と、前記混合液を凝固させる工程とを含み、前記セルロースナノファイバー分散液中のセルロースナノファイバーの少なくとも一部は、長さの直径に対する比(すなわちL/D)が100~1000未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、セルロースナノファイバー分散液およびジエン系ゴムラテックスを混合し、混合液を作製する工程と、
前記混合液を凝固させる工程とを含み、
前記セルロースナノファイバー分散液中のセルロースナノファイバーの少なくとも一部は、長さの直径に対する比が100~1000未満である、
タイヤ用マスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの前記少なくとも一部は、長さが10μm以下である、請求項1に記載のタイヤ用マスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーが、パルプを含有する少なくとも二つの液流の衝突によって前記パルプを解繊する工程を含む方法によって作製されたものである、請求項1または2に記載のタイヤ用マスターバッチの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用マスターバッチの製造方法でタイヤ用マスターバッチを作製する工程と、
前記タイヤ用マスターバッチを用いてゴム組成物を作製する工程と、
前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む、
タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用マスターバッチの製造方法、およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースファイバーは、さまざまなバイオマスから取り出すことができ、環境負荷が小さいため、現在、セルロースファイバーの空気入りタイヤへの利用を含めた、セルロースファイバー利用に関するさまざまな研究開発が行われている(たとえば特許文献1~4参照)。
【0003】
空気入りタイヤは軽量化、たとえば薄肉化することによって低燃費化を図ることができるといった理由で、薄肉化が求められることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-63651号公報
【特許文献2】特開2012-122019号公報
【特許文献3】特開2009-191197号公報
【特許文献4】特開2020-55962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄肉化をすすめるためには、安全性などの観点から、空気入りタイヤを構成する加硫ゴムの剛性を向上することが肝要である。
【0006】
本発明は、剛性に優れた加硫ゴムの原料となるマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。これに加えて、本発明は、剛性に優れた加硫ゴムの原料となるゴム組成物の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するための手段の一つである、本発明のタイヤ用マスターバッチ(以下、単に「マスターバッチ」と言うことがある。)の製造方法は、
少なくとも、セルロースナノファイバー分散液およびジエン系ゴムラテックスを混合し、混合液を作製する工程と、
前記混合液を凝固させる工程とを含み、
前記セルロースナノファイバー分散液中のセルロースナノファイバーの少なくとも一部は、長さの直径に対する比(以下、「L/D」と言うことがある。)が100~1000未満である。
【0008】
本発明のマスターバッチの製造方法は、セルロースナノファイバー分散液およびジエン系ゴムラテックスを混合し、混合液を凝固させる、という手順を踏むため、セルロースナノファイバーの乾燥粉末をジエン系ゴムラテックスに添加して混練りする場合に比べて、セルロースナノファイバーを高度に分散することができ、加硫ゴムの剛性を向上することができる。
【0009】
しかも、セルロースナノファイバーの少なくとも一部が、L/D100~1000未満であることによって、加硫ゴムの剛性をいっそう向上することができる。これは、L/Dが1000未満であることによって、セルロースナノファイバー分散液および/または混合液の粘度が過度に高くなることを防止でき、セルロースナノファイバーをいっそう高度に分散させることができるためである、と考えられる。これに加えて、L/Dが100以上であることによって、セルロースナノファイバーの補強作用が効果的に発揮されるためである、と考えられる。
【0010】
本発明のタイヤ用マスターバッチの製造方法では、前記セルロースナノファイバーの前記少なくとも一部は、長さが10μm以下である、という構成が好ましい。
【0011】
この構成によれば、加硫ゴムの剛性をいっそう向上することができる。これは、その一部の長さが10μm以下であることによって、セルロースナノファイバー分散液および/または混合液の粘度が過度に高くなることをいっそう防止でき、セルロースナノファイバーを高度にいっそう分散させることができるためである、と考えられる。
【0012】
本発明のタイヤ用マスターバッチの製造方法では、前記セルロースナノファイバーが、パルプを含有する少なくとも二つの液流の衝突によって前記パルプを解繊する工程を含む方法によって作製されたものである、という構成が好ましい。
【0013】
この構成によれば、加硫ゴムの剛性をいっそう向上することができる。これは、これらの液流の衝突によってパルプが解繊されることによって、過度な粉砕を抑制することができ、その結果、過度な粉砕で生じ得たセルロースナノファーバーの補強作用の低下を抑制できるためである、と考えられる。
【0014】
本発明のタイヤの製造方法は、
上述の製造方法でタイヤ用マスターバッチを作製する工程と、
前記タイヤ用マスターバッチを用いてゴム組成物を作製する工程と、
前記ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0016】
<1.マスターバッチの製造方法>
本実施形態のマスターバッチの製造方法は、少なくとも、セルロースナノファイバー分散液およびジエン系ゴムラテックスを混合し、混合液を作製する工程(以下、「工程A」ということがある。)と、混合液を凝固させる工程(以下、「工程B」ということがある。)とを含む。本実施形態のマスターバッチの製造方法は、工程Aおよび工程Bを含むため、セルロースナノファイバーの乾燥粉末をジエン系ゴムラテックスに添加して混練りする場合に比べて、セルロースナノファイバーを高度に分散することができ、加硫ゴムの剛性を向上することができる。本実施形態のマスターバッチの製造方法は、必要に応じて、凝固物を脱水する工程(以下、「工程C」ということがある。)をさらに含むことができる。
【0017】
<1.1.工程A(混合液を作製する工程)>
工程Aでは、少なくとも、セルロースナノファイバー分散液およびジエン系ゴムラテックスを混合し、混合液を作製する。この混合では、分散機、たとえば高せん断ミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどを使用できる。
【0018】
セルロースナノファイバー分散液は、セルロースナノファイバーと水とを含んでいることができる。セルロースナノファイバー分散液では、セルロースナノファイバーが水中に分散していることができる。セルロースナノファイバー分散液は、必要に応じて、他の添加剤、たとえば有機溶媒、界面活性剤、分散剤を含んでいてもよい。分散剤として、たとえば、アクリル系分散剤、アクリルアミド系分散剤を挙げることができる。なお、セルロースナノファイバー分散液は、分散剤を含まないことが好ましい。これによりコストを低減できる。
【0019】
セルロースナノファイバーの原料として、たとえば、木材、もみ殻、藁、竹などを挙げることができる。原料がパルプである場合、たとえば、パルプに、化学処理および/または酵素処理したうえで水中で解繊する、という手順を含む方法によって、セルロースナノファイバーを得ることができる。パルプを、化学処理や酵素処理なしで、水中で機械的に解繊する、という手順を含む方法によっても、セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0020】
セルロースナノファイバーが、パルプを水中で機械的に解繊する工程を含む方法によって作製されたものである場合、その工程は、パルプを含有する少なくとも二つの液流の衝突によってパルプを解繊する工程であることが好ましい。これによれば、加硫ゴムの剛性をいっそう向上することができる。これは、これらの液流の衝突によってパルプが解繊されることによって、過度な粉砕を抑制することができ、その結果、過度な粉砕で生じ得たセルロースナノファーバーの補強作用の低下を抑制できるためである、と考えられる。そのような工程で作製されたセルロースナノファイバーとして、たとえば、スギノマシン社製の「WFo-10002」(後述の実施例で使用したセルロースナノファイバー製品)を挙げることができる。なお、液流の数は、二つであっても、三つであっても、四つ以上であってもよい。ちなみに、その衝突、すなわち、少なくとも二つの液流の衝突の前または後に、別の液流がさらに衝突してもよい。この別の液流は、パルプ含有の液流であってもよく、パルプ非含有の液流であってもよい。
【0021】
セルロースナノファイバーの少なくとも一部は、長さの直径に対する比、すなわちL/Dが100~1000未満である。L/Dが100~1000未満であることによって、加硫ゴムの剛性をいっそう向上することができる。これは、L/Dが1000未満であることによって、セルロースナノファイバー分散液および/または混合液の粘度が過度に高くなることを防止でき、セルロースナノファイバーをいっそう高度に分散させることができるためである、と考えられる。これに加えて、L/Dが100以上であることによって、セルロースナノファイバーの補強作用が効果的に発揮されるためである、と考えられる。L/Dは、150以上であってもよく、200以上であってもよい。L/Dは、700未満であってもよく、500未満であってもよい。セルロースナノファイバーの長さや直径、L/Dは、後述の実施例に記載の方法で測定される値である。
【0022】
セルロースナノファイバーの少なくともその一部について、長さが10μm以下であることが好ましい。10μm以下であると、加硫ゴムの剛性をいっそう向上することができる。これは、その一部の長さが10μm以下であることによって、セルロースナノファイバー分散液および/または混合液の粘度が過度に高くなることをいっそう防止でき、セルロースナノファイバーを高度にいっそう分散させることができるためである、と考えられる。長さは、2μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。
【0023】
ジエン系ゴムラテックスは、ジエン系ゴム粒子(以下、単に「ゴム粒子」と言うことがある。)を含有するゴムラテックスである。ジエン系ゴムラテックスでは、ジエン系ゴム粒子が、コロイド状に分散媒に分散していることができる。具体的には、ジエン系ゴムラテックスでは、ジエン系ゴム粒子が、コロイド状に水に分散していることができる。ジエン系ゴムラテックスは有機溶媒を含んでいてもよい。このように、分散媒は、たとえば有機溶媒を含有する水であってもよい。なお、ジエン系ゴムは、主鎖に不飽和炭化水素結合、好ましくは炭素-炭素二重結合を有することができる。
【0024】
ジエン系ゴムラテックスとして、たとえば、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックスを挙げることができる。なかでも天然ゴムラテックスが好ましい。
【0025】
天然ゴムラテックスとして、たとえば、濃縮天然ゴムラテックス、フィールドラテックスを挙げることができる。天然ゴムラテックスでは、ゴム粒子が、コロイド状に分散媒に分散していることができる。具体的には、天然ゴムラテックスでは、ゴム粒子が、コロイド状に水に分散していることができる。天然ゴムラテックスは有機溶媒を含んでいてもよい。このように、分散媒は、たとえば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0026】
天然ゴムラテックスの乾燥ゴム分は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。天然ゴムラテックスにおける乾燥ゴム分の上限は、たとえば60質量%、50質量%である。
【0027】
ジエン系ゴムラテックスとセルロースナノファイバー分散液との混合は、セルロースナノファイバーが、ジエン系ゴムラテックスの乾燥ゴム分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上となるようにおこなうことができる。この混合は、セルロースナノファイバーが、ジエン系ゴムラテックスの乾燥ゴム分100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下となるようにおこなうことができる。
【0028】
工程Aでは、ジエン系ゴムラテックスおよびセルロースナノファイバー分散液とともに、カーボンブラックスラリーを混合してもよい。
【0029】
カーボンブラックスラリーは、カーボンブラックと水とを含んでいることができる。カーボンブラックスラリーでは、カーボンブラックが水中に分散していることができる。カーボンブラックスラリーは、カーボンブラックを水に添加し、撹拌することで得ることができる。撹拌では、分散機、たとえば高せん断ミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどを使用できる。カーボンブラックスラリーは、必要に応じて、他の添加剤、たとえば有機溶媒、界面活性剤を含んでいてもよい。
【0030】
カーボンブラックとしては、たとえばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどのファーネスブラックのほか、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。これらのうち一種または二種以上を使用することができる。
【0031】
<1.2.工程B(混合液を凝固させる工程)>
【0032】
工程Bでは混合液を凝固させる。すなわち、混合液中の、ゴム粒子やセルロースナノファイバーを共凝固させる。混合液がカーボンブラックを含む場合、ゴム粒子やセルロースナノファイバーとともにカーボンブラックも共凝固させることができる。混合液を凝固するために、混合液を加熱乾燥してもよく、パルス乾燥してもよく(上述の特許文献1参照)、混合液に凝固剤を添加してもよい。手間ないし工数の観点から、加熱乾燥や、凝固剤の添加が好ましい。凝固剤は、たとえば酸である。酸としてギ酸、硫酸などを挙げることができる。凝固剤の添加は、混合液を撹拌しながらおこなってもよく、混合液を加熱しながらおこなってもよく、これら(すなわち撹拌や加熱)を任意に組み合わせた状態でおこなってもよい。
【0033】
凝固後は、必要に応じて、凝固物を廃液から分離する。凝固物は、たとえば小片状をなすことができる。なお、小片状の凝固物をクラムということがある。凝固物を廃液から分離するために、たとえばフィルターを利用することができる。
【0034】
<1.3.工程C(凝固物を脱水する工程)>
凝固物を必要に応じて脱水する。凝固物を脱水するために、たとえば、押出機、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーを使用することができる。なかでも押出機が好ましい。押出機を使用することによって、圧搾などの作用で凝固物を脱水し、この脱水後の凝固物を乾燥させながら可塑化することができる。押出機として、たとえば単軸押出機を挙げることができる。
【0035】
<1.4.その他の工程>
押し出された凝固物、すなわち脱水された凝固物を、必要に応じて切断し、必要に応じて任意の形状(たとえばベール状)に圧縮成形する。切断のために、たとえばペレタイザーを使用することができる。
【0036】
このようにして得られたマスターバッチはベール状をなすことができる。マスターバッチは、ベール状に限られず、たとえばペレット状をなしていてもよく、棒状をなしていてもよく、シート状をなしていてもよい。
【0037】
マスターバッチは、ジエン系ゴムを含むゴム成分を含む。マスターバッチ中のゴム成分100質量%中、ジエン系ゴムの量は、たとえば、80質量%以上であることができ、90質量%以上であることができ、100質量%であることもできる。
【0038】
マスターバッチはセルロースナノファイバーを含む。マスターバッチがセルロースナノファイバーを含むため、加硫ゴムの剛性を向上することができる。セルロースナノファイバーの量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。セルロースナノファイバーの量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0039】
マスターバッチは、配合剤、たとえばカーボンブラックをさらに含むことができる。
【0040】
<2.タイヤの製造方法>
本実施形態のタイヤの製造方法は、上述の方法でマスターバッチを作製する工程と、マスターバッチを用いてゴム組成物を作製する工程と、ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程とを含む。
【0041】
<2.1.マスターバッチを用いてゴム組成物を作製する工程>
この工程(具体的には、マスターバッチを用いてゴム組成物を作製する工程)は、少なくともマスターバッチおよび配合剤を混練りしてゴム混合物を作製することと、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得ることとを含むことができる。
【0042】
この工程では、少なくともマスターバッチおよび配合剤を混練りしてゴム混合物を作製する。配合剤としては、充てん剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、老化防止剤、シランカップリング剤、加硫系配合剤など挙げることができる。配合剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。ただし、この段階では、加硫系配合剤を添加しないことが好ましい。充てん剤として、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを挙げることができる。充てん剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。この段階でカーボンブラックを添加する場合、そのカーボンブラックの特性は、カーボンブラックスラリーで使用されるカーボンブラックの特性と同じであってよく、異なっていてもよい。たとえば、この段階で添加するカーボンブラックのグレードが、ASTM(American Society for Testing and Materials)で、カーボンブラックスラリーで使用されるカーボンブラックのグレードと同じであってよく、異なっていてもよい。老化防止剤として、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などを挙げることができる。老化防止剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。マスターバッチおよび配合剤とともに、ほかのゴムを混練りしてもよい。このようなゴムとして、たとえば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどを挙げることができる。これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。混練りは、混練機でおこなうことができる。混練機として密閉式混練機、オープンロールなどを挙げることができる。密閉式混練機としてバンバリーミキサー、ニーダーなどを挙げることができる。
【0043】
この工程では、少なくともゴム混合物および加硫系配合剤を混練りしてゴム組成物を得る。加硫系配合剤として硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などを挙げることができる。加硫系配合剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。硫黄として粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを挙げることができる。硫黄は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などを挙げることができる。加硫促進剤は、これらから、一つまたは任意の組み合わせを選択して、使用することができる。混練りは、混練機でおこなうことができる。混練機として密閉式混練機、オープンロールなどを挙げることができる。密閉式混練機としてバンバリーミキサー、ニーダーなどを挙げることができる。
【0044】
ゴム組成物は、マスターバッチに由来するゴム成分を含む。マスターバッチに由来するゴム成分の量は、ゴム組成物中のゴム100質量%に対して、たとえば、20質量%以上であることができ、40質量%以上であることができ、60質量%以上であることができ、80質量%以上であることができ、100質量%であることもできる。
【0045】
ゴム組成物はセルロースナノファイバーを含む。ゴム組成物がセルロースナノファイバーを含むため、加硫ゴムの剛性を向上することができる。セルロースナノファイバーの量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。セルロースナノファイバーの量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。
【0046】
ゴム組成物はカーボンブラックを含むことができる。カーボンブラックの量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。カーボンブラックの量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、好ましくは70質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
【0047】
ゴム組成物がカーボンブラックを含む場合、ゴム組成物におけるカーボンブラックとセルロースナノファイバーとの合計量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。この合計量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは60質量部以下である。
【0048】
ゴム組成物は、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、硫黄、加硫促進剤などをさらに含むことができる。これらのうち、一つまたは任意の組み合わせをゴム組成物は含むことができる。硫黄の量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、硫黄分換算で好ましくは0.5質量部~5質量部である。加硫促進剤の量は、ゴム組成物中のゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部~5質量部である。
【0049】
ゴム組成物は、タイヤの作製に使用できる。具体的には、タイヤを構成するタイヤ部材の作製に使用可能である。たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムなどの作製にゴム組成物を使用できる。これらのタイヤ部材のうち、一つまたは任意の組み合わせを作製するためにゴム組成物を使用できる。
【0050】
<2.2.ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程>
本実施形態のタイヤの製造方法は、ゴム組成物を用いて未加硫タイヤを作製する工程を含む。この工程は、ゴム組成物を含むタイヤ部材を作製すること、およびタイヤ部材を備える未加硫タイヤを作製することを含むことができる。タイヤ部材として、たとえば、トレッドゴム、サイドウォールゴム、チェーハーゴム、ビードフィラーゴムを挙げることができる。なかでも、サイドウォールゴムが好ましい。
【0051】
<2.3.その他の工程>
本実施形態のタイヤの製造方法は、未加硫タイヤを加硫成型する工程をさらに含むことができる。本実施形態の方法で得られたタイヤは、空気入りタイヤであることができる。
【0052】
<3.上述の実施形態には種々の変更を加えることができる>
上述の実施形態には、種々の変更を加えることができる。たとえば、以下の変形例から、一つまたは複数を選択して、上述の実施形態に変更を加えることができる。
【0053】
上述の実施形態では、カーボンブラックスラリーを作製するために水を使用する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、水に代えて希薄ゴムラテックスを使用してもよい。具体的には、希薄ゴムラテックスにカーボンブラックを添加し、撹拌するという手順でカーボンブラックスラリーを作製してもよい。希薄ゴムラテックスでは、ゴム粒子が,コロイド状に水に分散していることができる。水は、たとえば有機溶媒を含有する水であってもよい。希薄ゴムラテックスの乾燥ゴム分は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。乾燥ゴム分の上限は、好ましくは5質量%、より好ましくは2質量%である。希薄ゴムラテックスは、たとえば天然ゴムラテックスを水で薄めるという手順で作製することができる。天然ゴムラテックスに代えて、合成ゴムラテックスを使用してもよい。
【0054】
上述の実施形態では、マスターバッチおよび配合剤を混練りしてゴム混合物を作製する、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。たとえば、ゴム混合物をマスターバッチとみなしてもよい。
【0055】
上述の実施形態では、タイヤが空気入りタイヤである、という構成を説明した。しかしながら、上述の実施形態は、この構成に限定されない。
【実施例0056】
以下に、本発明の実施例を説明する。
【0057】
実施例で使用した原料および薬品を次に示す。
天然ゴムラテックス 「NRフィールドラテックス」Golden Hope社 製
固形天然ゴム 「NRフィールドラテックス」Golden Hope社製
を乾燥させた固形ゴム
CNF 「WFo-10002」スギノマシン社製
2wt%濃度、繊維径10~50nm、繊維長1~9μm、
粘度6,000mPa・s(条件:25℃、60rpm(B型粘度 計)
カーボンブラック 「ダイアブラックA」三菱ケミカル社製
酸化亜鉛 「酸化亜鉛2種」三井金属鉱業社製
ステアリン酸 「ステアリン酸」日本油脂社製
ワックス 「OZOACE0355」日本精蝋社製
老化防止剤A 「サントフレックス6PPD」フレキシス社製
老化防止剤B 「ノクラック224」大内新興化学工業社製
硫黄 「油処理150メッシュ粉末硫黄」鶴見化学工業社製
加硫促進剤 「サンセラーNS-G」三新化学工業社製
【0058】
セルロースナノファイバーの長さや直径の測定
セルロースナノファイバー製品(具体的には、「WFo-10002」)は、上述の繊維径および繊維長を有するセルロースナノファイバーが水に分散した分散液である。この分散液を蒸留水で希釈した。この希釈液をグリッドに滴下し、乾燥させた上で、電界放出形走査電子顕微鏡、つまりFE-SEMでセルロースナノファイバーを観察した。観察条件は次の通りであった。
観察倍率 2000倍
作動距離 WD=2mm
検出器 InLens
電子ビームの加速電圧 1kV
FE-SEM画像に映ったセルロースナノファイバーの長さ、および直径を測定した。この測定値から、長さの直径に対する比、すなわちL/Dを算出した。
セルロースナノファイバーの長さやL/Dは、次の通りであった(代表値)。
長さ8μm L/D 258
【0059】
実施例1~3におけるマスターバッチの作製
セルロースナノファイバー分散液に、表1に示す配合にしたがって天然ゴムラテックスを加え、これをミキサー(「スーパーミキサーSM-20」カワタ社製)で、1000rpm、30分間攪拌し、混合液を得た。混合液をオーブンに入れ、70℃で一晩乾燥させた。このような手順でマスターバッチを得た。
【0060】
比較例2におけるマスターバッチの作製
固形天然ゴムに、セルロースナノファイバーの乾燥粉末を添加したうえで混練りした。このような手順でマスターバッチを得た。なお、乾燥粉末は、セルロースナノファイバー分散液を乾燥させることによって得た(以下同様)。
【0061】
比較例3におけるマスターバッチの作製
セルロースナノファイバーの乾燥粉末を天然ゴムラテックスに加え、これをミキサー(「スーパーミキサーSM-20」カワタ社製)で、1000rpm、30分間攪拌し、混合液を得た。混合液をオーブンに入れ、70℃で一晩乾燥させた。このような手順でマスターバッチを得た。
【0062】
実施例1~3と、比較例2および3とにおける未加硫ゴムの作製
硫黄と加硫促進剤とを除く配合剤を、表1にしたがってマスターバッチに添加し、バンバリーミキサーで混練りし、ゴム混合物を得た。ゴム混合物と硫黄と加硫促進剤とをバンバリーミキサーで混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0063】
比較例1における未加硫ゴムの作製
硫黄と加硫促進剤とを除く配合剤を、表1にしたがって固形天然ゴムに添加し、バンバリーミキサーで混練りし、ゴム混合物を得た。ゴム混合物と硫黄と加硫促進剤とをバンバリーミキサーで混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0064】
各例における加硫ゴムの作製
未加硫ゴムを150℃、30分間で加硫し、加硫ゴムを得た。
【0065】
S50およびS100
加硫ゴムのS50(すなわち50%伸びにおける引張応力)およびS100(すなわち100%伸びにおける引張応力)を、JIS K-6251 2017に準じて測定した。具体的には、加硫ゴムから、ダンベル状3号形のダンベル状試験片を切り出し、ダンベル状試験片の引張力を引張試験機で測定し、50%および100%伸びにおける引張応力を求めた。比較例1の引張応力を100とした指数で、各例の引張応力を表1に示す。指数が大きいほど引張応力が大きいことを示す。なお、引張応力が大きいほど、引張に対して加硫ゴムが変形しにくいため、加硫ゴムの剛性が優れる。
【0066】
【表1】
表に示す「Dry」は、セルロースナノファイバーの乾燥粉末の添加を表す。いっぽう、「Wet」は、セルロースナノファイバー分散液の添加を表す。表に示す「充てん材総量」は、セルロースナノファイバーとカーボンブラックとの合計量を意味する。
【0067】
マスターバッチを作製するために、固形天然ゴムに、セルロースナノファイバーの乾燥粉末を添加したうえで混練りする、という手順を踏んだ比較例2の加硫ゴムは、比較例1の加硫ゴムに比べて、低ひずみ領域の引張応力、すなわちS50およびS100が劣っていた。
【0068】
マスターバッチを作製するために天然ゴムラテックスにセルロースナノファイバーの乾燥粉末を加える、という手順を踏んだ比較例3の加硫ゴムは、比較例1および2の加硫ゴムに比べて、S50およびS100が優れていた。
【0069】
マスターバッチを作製するために天然ゴムラテックスとセルロースナノファイバー分散液とを混合する、という手順を踏んだ実施例1~3の加硫ゴムは、比較例1~3の加硫ゴムに比べて、S50およびS100が優れていた。