IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼブラ株式会社の特許一覧

特開2023-78572ボールペン用水性インキ組成物及びボールペン
<>
  • 特開-ボールペン用水性インキ組成物及びボールペン 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078572
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インキ組成物及びボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20230531BHJP
   B43K 7/01 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191758
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 充
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA09
2C350NA02
4J039BC51
4J039BE33
4J039EA48
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】ボールペンの水性インキ組成物として使用されてボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食を効果的に抑制することができるボールペン用水性インキ組成物及びこれを用いたボールペンを提供すること。
【解決手段】着色剤と、水と、防錆剤とを含み、防錆剤が、ピラゾロン化合物を含有する、ボールペン用水性インキ組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤と、水と、防錆剤とを含み、
前記防錆剤が、ピラゾロン化合物を含有する、ボールペン用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記防錆剤の含有率が0.05質量%以上である、請求項1に記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記防錆剤の含有率が10質量%未満である、請求項1又は2に記載のボールペン用水性インキ組成物。
【請求項4】
インキ収容部材、及び、前記インキ収容部材の一端に取り付けられたボールペンチップを備えるボールペンであって、
請求項1~3のいずれか一項に記載のボールペン用水性インキ組成物が前記インキ収容部材に収容されており、
前記ボールペンチップがボールを有する、ボールペン。
【請求項5】
前記ボールが超硬合金ボールである、請求項4に記載のボールペン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン用水性インキ組成物及びボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンのペン先にはボールが用いられる。このボールの表面は、ボールペン用水性インキ組成物との長時間の接触により錆びることがある。そのため、ボールペンでは、ボールペン用水性インキ組成物中に防錆剤が含有されることがある。
【0003】
例えば下記特許文献1では、防錆剤としてベンゾトリアゾール誘導体を含有するボールペン用水性インキ組成物により、このようなボール表面等の錆びの発生を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-105226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のボールペン用水性インキ組成物に対しては、ボールの表面に対する錆の抑制をさらに効果的に行うことが求められていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ボールペンの水性インキ組成物として使用されてボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食を効果的に抑制することができるボールペン用水性インキ組成物及びこれを用いたボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により、上記課題を解決するに至った。
すなわち、本発明は、着色剤と、水と、防錆剤とを含み、上記防錆剤が、ピラゾロン化合物を含有する、ボールペン用水性インキ組成物である。
【0008】
ボールペン用水性インキ組成物が、着色剤、水及び防錆剤を含み、防錆剤がピラゾロン化合物を含有することにより、当該ボールペン用水性インキ組成物が、ボールペンの水性インキ組成物として使用されてボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食を効果的に抑制することができる。その結果、ボールペン用水性インキ組成物は、当該ボールペン用水性インキ組成物を用いて得られたボールペンに対し、その使用時における筆記線のカスレ又は線飛びの発生を抑制させ、良好な筆記感を実現させることができる。
【0009】
なお、上記ボールペン用水性インキ組成物がボール表面の腐食を効果的に抑制することができる理由については定かではないが、本発明者らは以下の理由によるのではないかと推察する。
すなわち、ピラゾロン化合物中の窒素原子は電子供与性が高く酸素と結合しやすい。そのため、ピラゾロン化合物中の窒素が水性インキ組成物中の水に含まれる溶存酸素を捕捉し、あるいは、一部を分解する。
また、ピラゾロン化合物は、カルボニル基を持つため活性酸素種から受け取った電子を環構造の中に捕捉して共鳴構造を取ることで、比較的安定して水性インキ組成物中に存在できる。この働きにより、水性インキ組成物中で発生した活性酸素種を不活化でき、腐食反応などの活性酸素種が関わる反応を抑制できる。
以上の2つの効果により、ボールペンのボールの腐食を効果的に抑制できるのではないかと本発明者らは推察する。
【0010】
上記ボールペン用水性インキ組成物においては、前記防錆剤の含有率が0.05質量%以上であることが好ましい。上記ピラゾロン化合物の含有率が上記範囲にあることにより、ボールペン用水性インキ組成物は、ボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食をより効果的に抑制することができる。
上記ボールペン用水性インキ組成物においては、前記防錆剤の含有率は10質量%未満であることが好ましい。上記防錆剤の含有率が10質量%以下であることにより、防錆剤の析出及びボールペンの使用時における筆記性能の低下を抑制でき、また、ボールペン用水性インキ組成物の経時安定性が得られやすくなる傾向がある。
【0011】
本発明はまた、インキ収容部材、及び、上記インキ収容部材の一端に取り付けられたボールペンチップを備えるボールペンであって、上記ボールペン用水性インキ組成物が上記インキ収容部材に収容されており、上記ボールペンチップがボールを有する、ボールペンである。
【0012】
本発明のボールペンによれば、インキ収容部材に収容されるボールペン用水性インキ組成物が、ボールペンチップのボールに長時間接触しても、ボールの表面の錆びの発生が抑制される。その結果、本発明のボールペンによれば、その使用時における筆記線のカスレ又は線飛びの発生が抑制され、良好な筆記感を実現することができる。
【0013】
上記ボールペンは、上記ボールが超硬合金ボールである場合に特に有効である。すなわち、上記ボールが超硬合金ボールである場合に、ボールペン用水性インキ組成物が、ボールペンチップのボールに長時間接触しても、ボールの表面の錆びの発生が効果的に抑制される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボールペンの水性インキ組成物として使用されてボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食を効果的に抑制することができるボールペン用水性インキ組成物及びこれを用いたボールペンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るボールペンの一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
[ボールペン用水性インキ組成物]
本実施形態のボールペン用水性インキ組成物は、着色剤と、水と、防錆剤とを含み、防錆剤が、ピラゾロン化合物を含有する。
【0018】
ボールペン用水性インキ組成物が、着色剤、水及び防錆剤を含み、防錆剤がピラゾロン化合物を含有することにより、当該ボールペン用水性インキ組成物が、ボールペンの水性インキ組成物として使用されてボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食を効果的に抑制することができる。その結果、ボールペン用水性インキ組成物は、当該ボールペン用水性インキ組成物を用いて得られたボールペンに対し、その使用時における筆記線のカスレ又は線飛びの発生を抑制させ、良好な筆記感を実現させることができる。
【0019】
(防錆剤)
防錆剤は、ピラゾロン化合物を含有する。ピラゾロン化合物は、互いに隣り合う2個の窒素原子とカルボニル基とを有する5員環からなるピラロゾン骨格を有する。このようなピラゾロン化合物は、例えば下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される。
【化1】

【化2】
【0020】
上記一般式(1)中、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
上記一般式(2)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基又はアリール基を表す。
【0021】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。アルキル基は、無置換であってもよく、置換されていてもよい。
【0022】
上記アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられる。アリール基は、無置換であってもよく、置換されていてもよい。
【0023】
上記ピラゾロン化合物としては、3-メチル-5-ピラゾロン、3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロン、3-メチル-1-(4’-スルホフェニル)-5-ピラゾロン、3-メチル-1-(p-トリル)-5-ピラゾロン、3-メチル-1-(3'-スルファモイルフェニル)-5-ピラゾロン、アンチピリン、4-アミノアンチピリンなどが挙げられる。中でも、ボールに対する防錆効果を向上させる観点からは、上記ピラゾロン化合物は3-メチル-5-ピラゾロンであることが好ましい。
上記ピラゾロン化合物は、1種類を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
上記防錆剤の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、0.05質量%以上であることが好ましい。上記防錆剤の含有率が上記範囲にあることにより、ボールペン用水性インキ組成物は、ボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食をより効果的に抑制することができる。上記防錆剤の含有率は、ボール表面の腐食をより効果的に抑制する観点からは、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。但し、上記防錆剤の含有率は、10質量%未満であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが特に好ましい。上記防錆剤の含有率が10質量%未満であると、防錆剤の析出及びボールペンの使用時における筆記性能の低下を抑制でき、また、ボールペン用水性インキ組成物の経時安定性が得られやすくなる傾向がある。
【0025】
防錆剤中のピラゾロン化合物の含有率は、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。防錆剤中のピラゾロン化合物の含有率が上記範囲内にあることにより、ボールペン用水性インキ組成物は、ボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食をより効果的に抑制することができる。
【0026】
防錆剤は、本発明の作用効果に影響を与えない範囲内で、さらにピラゾロン化合物以外の防錆剤を含有していてもよい。ピラゾロン化合物以外の防錆剤としては、例えばジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸塩、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、サポニン、並びにジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0027】
(着色剤)
着色剤としては、染料及び顔料が挙げられる。染料は水溶性染料であることが好ましく、例えば、直接染料、酸性染料及び塩基性染料等である。顔料は水分散性顔料であることが好ましく、例えば、有機顔料及び無機顔料等である。上記着色剤は1種を単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
直接染料としては、例えば、カラーインデックス(以下、C.I.という)Direct Black 17,同19,同38,同154、C.I.Direct Yellow 1,同4,同12,同29、C.I.Direct Orange 6,同8,同26,同29、C.I.Direct Red 1,同2,同4,同13、C.I.Direct Blue2,同6,同15,同78,同87等が挙げられる。
【0029】
また、酸性染料としては、C.I.Acid Black2,同31、C.I.Acid Yellow 3,同17,同23,同73、C.I.Acid Orange 10,C.I.Acid Red 13,同14,同18,同27,同52,同73,同87,同92、C.I.Acid Blue 1,同9,同74,同90等が挙げられる。
【0030】
また、塩基性染料としては、C.I.Basic Yellow2,同3、C.I.Basic Red 1,同2,同8,同12、C.I.Basic Violet 1,同3,同10、C.I.Basic Blue5,同9,同26等が挙げられる。
【0031】
水分散性顔料としては、水系媒体に分散可能であれば特に制限されず、例えば、カーボンブラック及び金属粉等の無機顔料、アゾ系、フタロシアニン系及びキナクリドン系等の有機顔料、並びに蛍光顔料等が挙げられる。上記蛍光顔料は、樹脂粒子を蛍光染料で着色した有機蛍光顔料であってもよい。上記樹脂粒子としては、アクリル樹脂粒子、アクリロニトリルブタジエン樹脂粒子等が挙げられる。
【0032】
着色剤の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、0.5~15質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがより好ましい。
【0033】
(水)
本実施形態のボールペン用水性インキ組成物は、着色剤の水溶液又は水分散液として、或いは上述の成分とは別に、水を含有する。水の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、好ましくは20~80質量%であり、より好ましくは40~80質量%である。
【0034】
(水溶性有機溶剤)
本実施形態のボールペン用水性インキ組成物はさらに水溶性有機溶剤を含有していることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、及びジエチレングリコール等が挙げられる。ボールペン用水性インキ組成物が上記水溶性有機溶剤を含有することにより、ボールペン用水性インキ組成物の保湿効果が得られる傾向がある。水溶性有機溶剤の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは5~25質量%である。
【0035】
本実施形態のボールペン用水性インキ組成物は、上述の成分に加えて、pH調整剤、増粘剤、防腐剤(防黴剤)、潤滑剤、染料溶解助剤、乾燥性向上剤及び固着樹脂等の添加剤を含有していてもよい。
【0036】
pH調整剤としては、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び酢酸ソーダ等の無機塩類、並びに、トリエタノールアミン及びジエタノールアミン等の水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等を用いることができる。pH調整剤の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、好ましくは0.1~3質量%である。
【0037】
増粘剤としては、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、トラガカンドガム、アルギン酸、ゼラチン、寒天、カゼイン、サイリウムシードガム及びタマリンドシードガム等の天然系増粘剤、並びに、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウム及びカルボキシビニルポリマー等の合成系増粘剤が挙げられる。増粘剤の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.2~1質量%である。増粘剤の含有率が3質量%以下であると、ボールペン用水性インキ組成物の粘度の過度の増加を抑制し、ボールペンチップの先端部(ペン先)におけるボールペン用水性インキ組成物の詰まりを抑制できる傾向がある。一方、増粘剤の含有率が0.1質量%以上であると、ボールペン用水性インキ組成物の粘度の過度の低下を抑制し、ペン先からのインキ漏れを抑制できる傾向がある。
【0038】
防腐剤(防黴剤)としては、石炭酸、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、及び2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等が挙げられる。防腐剤の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、好ましくは0.1~5質量%であり、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0039】
潤滑剤としては、オレイン酸等の高級脂肪酸、長鎖アルキル基を有するノニオン性界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンオイル、チオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)及びチオ亜燐酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜燐酸トリエステル、並びに、それらの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、及びアルカノールアミン塩等が挙げられる。潤滑剤の含有率は、ボールペン用水性インキ組成物全量を基準として、好ましくは0.3~5質量%であり、より好ましくは0.5~3質量%である。
【0040】
本実施形態のボールペン用水性インキ組成物は、上述の成分を、例えば、ディゾルバー、ヘンシェルミキサー及びホモミキサー等の攪拌機を用いて、混合することにより得られる。攪拌機の攪拌条件は特に制限されないが、例えば、ディゾルバー攪拌機を用いて、回転数100~1000rpmで30~180分間攪拌することにより、各成分が均一に分散したボールペン用水性インキ組成物を得ることができる。
【0041】
本実施形態のボールペン用水性インキ組成物の粘度は、温度25℃及びせん断速度0.75s-1において、500~5000mPa・sであることが好ましく、1500~3500mPa・sであることがより好ましい。上記粘度が500mPa・s以上であることにより、ペン先からのインキ漏れを起こしにくく、描線のにじみが少なくなる傾向がある。また、上記粘度が5000mPa・s以下であることにより、ボールペン用水性インキ組成物の排出をスムーズにし、ボールペンの使用時において線割れが低減された筆記線を得られる傾向がある。
【0042】
本実施形態のボールペン用水性インキ組成物のpHは、6~12であるであることが好ましく、7~9であることがより好ましい。
【0043】
[ボールペン]
図1は、本発明の一実施形態に係るボールペンを示す模式断面図である。図1に示すボールペン100において、ボールペン用水性インキ組成物12はインキ収容部材14内に充填(収容)されている。インキ収容部材14の一端にはボールペンチップ20が取り付けられている。このボールペンチップ20は、ボールホルダー24及びボールホルダー24によって回転可能に保持されるボール26で構成され、ジョイント25によりインキ収容部材14に固定されている。また、インキ収容部材14内には、ボールペンチップ20側と反対側に、ボールペン用水性インキ組成物12と隣接した状態で逆流防止体16が収容されている。ここで、逆流防止体16は、ボールペン用水性インキ組成物12との間に隙間が生じないように配置される。
【0044】
また、ボールペン100においては、インキ収容部材14、ジョイント25、ボールペンチップ20、ボールペン用水性インキ組成物12及び逆流防止体16により中芯10が構成されており、この中芯10が本体軸18に装着され、さらに本体軸18の後端(ボールペンチップ20と反対側の一端)に通気孔を有する尾栓28が取り付けられている。
【0045】
ボールペン100によれば、インキ収容部材14に収容されるボールペン用水性インキ組成物が、ボールペンチップ20のボール26に長時間接触しても、ボール26の表面の錆びの発生が効果的に抑制される。その結果、ボールペン100によれば、その使用時における筆記線のカスレ又は線飛びの発生が抑制され、良好な筆記感を保つことができる。
【0046】
以下、ボールペン100の構成要素について説明するが、ボールペン用水性インキ組成物12以外の構成には、通常のボールペンに用いられる一般的な構成を適用することができる。ボールペン用水性インキ組成物12には、上記実施形態に係るボールペン用水性インキ組成物が用いられる。
【0047】
インキ収容部材14としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリアセタール若しくはポリカーボネートなどの樹脂、又は、金属からなるものを使用することができる。また、インキ収容部材14の形状は特に制限されず、例えば、円筒状等とすることができる。
【0048】
逆流防止体16は、ボールペン用水性インキ組成物を流出させない機能(流出防止性)や、ボールペン用水性インキ組成物をドライアップさせない機能(密栓性)等を有するものであり、こうした機能を有する公知の逆流防止体を特に制限なく使用することができる。かかる逆流防止体16は、例えば、基油と増稠剤とを含んで構成されている。基油としては、鉱油、ポリブテン、シリコン油、グリセリン及びポリアルキレングリコール等が挙げられる。また、増稠剤としては、金属石鹸系増稠剤、有機系増稠剤及び無機系増稠剤等が挙げられる。
【0049】
なお、ボールペンチップ20を下方に向けた場合に、逆流防止体16がボールペン用水性インキ組成物12中に沈降しないように、逆流防止体16の粘度や、ボールペン用水性インキ組成物12と逆流防止体16との間の比重差を調整することが好ましい。また、逆流防止体16は、ボールペン用水性インキ組成物12と相溶しない組成とすることが好ましい。
【0050】
本体軸18及び尾栓28としては、例えば、ポリプロピレン等のプラスチック材料からなるものを使用することができる。
【0051】
ジョイント25としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリアセタール及びポリカーボネート等からなるものを使用することができる。
【0052】
ボールペンチップ20におけるボールホルダー24を構成する材料としては、例えば金属、合金等が挙げられる。
ボール26は通常、金属を含む。ボールペン100は、ボール26が超硬合金ボールである場合に特に有効である。すなわち、ボールペン用水性インキ組成物が、ボールペンチップ20のボール26に長時間接触しても、ボール26の表面の錆びの発生が効果的に抑制される。その結果、ボールペン100によれば、その使用時における筆記線のカスレ又は線飛びの発生が効果的に抑制され、筆記感を特に良好に保つことができる。超硬合金は主成分と結合材との合金であり、例えば、主成分として、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム及びタングステンカーバイド等を含み、結合材として、コバルト、クロム、チタン及びニッケル等の金属を含むことができる。ボール26の直径は0.3~1.2mmであることが好ましい。
【0053】
上述した構成を有する実施形態のボールペン100は、ボールペン用水性インキ組成物を除いて、通常のボールペン等の製造方法により製造することができる。
【0054】
以上、本発明のボールペン用水性インキ組成物及び該ボールペン用水性インキ組成物が充填されたボールペンの好適な実施形態について説明したが、ボールペン用水性インキ組成物及びボールペンは上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態のボールペンは、本体軸18を有していなくてもよく、インキ収容部材14がそのまま本体軸となっていてもよい。さらに、上記実施形態のボールペンは、インキ収容部材14中のボールペン用水性インキ組成物及び逆流防止体が後端(ボールペンチップ20と反対側の一端)側から加圧された状態となるような加圧機構を有するものであってもよい。また、上記実施形態のボールペンは、逆流防止体16を有していなくてもよい。
【実施例0055】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0056】
[ボールペン用水性インキ組成物の調製]
(実施例1~17及び比較例1~6)
着色剤含有液、水溶性有機溶剤、防腐剤、潤滑剤、分散剤、pH調整剤、増粘剤、防錆剤および水を、表1~4に示す含有率(単位:質量%)となるように混合し、ボールペン用水性インキ組成物を得た。
【0057】
ボールペン用水性インキ組成物の調製に用いた材料の詳細は以下のとおりである。
(着色剤含有液)
・カーボンブラック水分散液:FUJI SP BLACK 8091(商品名)、富士色素株式会社製、カーボンブラックの含有率:30質量%
・有機黄色顔料水分散液:AF イエロー E-12(商品名)、大日精化工業株式会社製、有機黄色顔料の含有率:38質量%
・有機赤色顔料水分散液:AF レッド E-6(商品名)、大日精化工業株式会社製、有機赤色顔料の含有率:32質量%
・有機青色顔料水分散液:AF ブルー E-2B(商品名)、大日精化工業株式会社製、有機青色顔料の含有率:40質量%
・蛍光顔料水分散液(桃色):ルミコール NKW-3907E(商品名)、日本蛍光化学株式会社製、蛍光顔料の含有率:33.5質量%
・蛍光顔料水分散液(空色):ルミコール NKW-3908E(商品名)、日本蛍光化学株式会社製、蛍光顔料の含有率:33.5質量%
(水溶性有機溶剤)
・グリセリン:日油株式会社製
・エタノール:富士フィルム 和光純薬株式会社製
(防腐剤)
トップサイド280(商品名):チオールピリジンオキシド塩、株式会社パーマケム・アジア製
(潤滑剤)
ノンサールON-1N(商品名):オレイン酸ナトリウム、日油株式会社製
(分散剤)
メガファックF-477(商品名):含フッ素基・親水性基・親油性基含有オリゴマー、DIC株式会社製
(pH調整剤)
トリエタノールアミン:三井化学株式会社製
(増粘剤)
キサンタンガム:DSP五協フード&ケミカル株式会社製
(防錆剤)
・3-メチル-5-ピラゾロン:富士フィルム 和光純薬株式会社製
・3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロン:富士フィルム 和光純薬株式会社製
・3-メチル-1-(4’-スルホフェニル)-5-ピラゾロン:富士フィルム 和光純薬株式会社製
・ベンゾトリアゾール:富士フィルム 和光純薬株式会社製
・トリルトリアゾール:TT-130F(商品名)、城北化学工業株式会社製
・3,5-ジメチルピラゾール:富士フィルム 和光純薬株式会社製
(水)
イオン交換水
【0058】
[特性評価]
図1に示したボールペンのインキ収容部材に、実施例1~17及び比較例1~6で得られたボールペン用水性インキ組成物をそれぞれ充填して、ボールペンを作製した。ボールホルダー24には、ステンレス製のものを用い、ボール26には、タングステンカーバイドを主成分として含み、結合材としてコバルトを含む超硬合金ボール(直径:0.5mm)を用いた。作製したボールペンに対して下記評価を行った。
【0059】
(防錆性)
作製したボールペンを、ペン先(ボールペンチップ20側の一端)が下向きとなるように、温度60℃湿度90%の環境下で、60日間保存した。保存後のボールペンにおける超硬合金ボールのボールペン用水性インキ組成物と接していた表面を光学顕微鏡で観察し、下記基準に従って防錆性を評価した。評価結果を表1~4に示す。

A:保存後のボール表面が滑らかであり、保存前後の外観に変化が認められない。
B:保存後のボール表面が粗く、保存前後の外観に変化が認められる。
C:保存後のボール表面がかなり粗く、保存前後の外観に顕著な変化が認められる。
【0060】
(筆記特性)
作製したボールペンを、ペン先が下向きとなるように、温度60℃湿度30%の環境下で、60日間保存した。保存後のボールペンを用いて、レポート用紙に文字及びループを筆記し、筆記線の状態を目視により観察した。観察結果に基づき、下記基準に従って筆記特性を評価した。評価結果を表1~4に示す。

A:筆記感が非常に良好(滑らか)であり、筆記線にカスレ及び線飛びの異常が見られない。
B:筆記感は良好(滑らか)であり、筆記線にカスレ及び線飛びの異常が見られない。
C:筆記感が悪く、筆記線にカスレ又は線飛びが見られる。
D:筆記感が悪く、筆記線にカスレ若しくは線飛びが多く見られる、又は、インキが排出されない。
【0061】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】
【0062】
比較例1~6のボールペン用水性インキ組成物を用いたボールペンでは、保存後のボール表面が粗かった。また、保存後のボールペンを用いて筆記したときの筆記感が悪く、筆記線にカスレや線飛びが生じたり、インキが排出されなかったりする傾向があった。一方、実施例1~17のボールペン用水性インキ組成物を用いたボールペンでは、保存後のボール表面に凹凸が認められず、表面が滑らかであった。また、保存後のボールペンを用いて筆記したときの筆記感が良好(滑らか)であり、筆記線にカスレ及び線飛びの異常が認められなかった。なお、実施例1~17においては、保存後のボール表面に凹凸が認められず、表面が滑らかであったことから、ボール表面の腐食が抑制されたものと考えられる。
【0063】
以上のことから、ボールペン用水性インキ組成物により、ボールペンの水性インキ組成物として使用されてボールペンのボールと長時間接触しても、ボール表面の腐食を効果的に抑制することができることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
10…中芯、12…ボールペン用水性インキ組成物、14…インキ収容部材、16…逆流防止体、18…本体軸、20…ボールペンチップ、24…ボールホルダー、25…ジョイント、26…ボール、28…尾栓、100…ボールペン。

図1