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特開2023-78611減磁リスク指数表示方法、減磁リスク指数表示装置、および減磁リスク指数表示プログラム
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  • 特開-減磁リスク指数表示方法、減磁リスク指数表示装置、および減磁リスク指数表示プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078611
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】減磁リスク指数表示方法、減磁リスク指数表示装置、および減磁リスク指数表示プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20230531BHJP
   G01R 33/12 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
G06F30/23
G01R33/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191812
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 健治
【テーマコード(参考)】
2G017
5B146
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017CA02
2G017CB02
2G017CB18
5B146DJ04
5B146DJ07
5B146DJ14
(57)【要約】
【課題】永久磁石の不可逆減磁への減磁リスクと不可逆減磁のレベルの両方を容易に把握できるようにする。
【解決手段】本発明の永久磁石の減磁リスクを表示する消磁リスク表示方法は、永久磁石のメッシュ分割モデルを生成するステップと、永久磁石のB-H曲線および減磁開始点を設定するステップと、永久磁石を含む解析対象機器の磁場解析を実施し、永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素における動作点の磁界と磁束密度とを算出するステップと、動作点の磁界と磁束密度から各要素が可逆減磁状態と不可逆減磁状態のいずれであることを判定するステップと、可逆減磁状態である場合には減磁リスクを指標にし、不可逆減磁状態である場合には減磁率を指標にして、各要素の減磁リスク指数を求めるステップと、各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示するステップと、を含むようにした。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石の減磁リスクを表示する消磁リスク表示方法であって、
前記永久磁石のメッシュ分割モデルを生成するステップと、
前記永久磁石のB-H曲線および減磁開始点を設定するステップと、
前記永久磁石を含む解析対象機器の磁場解析を実施し、前記永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素における動作点の磁界と磁束密度とを算出するステップと、
動作点の磁界と磁束密度から前記各要素が可逆状態と不可逆状態のいずれであることを判定するステップと、
可逆状態である場合には減磁リスクを指標にし、不可逆状態である場合には減磁率を指標にして、前記各要素の減磁リスク指数を求めるステップと、
前記各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示するステップと、
を含むことを特徴とする減磁リスク指数表示方法。
【請求項2】
請求項1に記載の減磁リスク指数表示方法において、
前記減磁リスク指数求めるステップは、
前記要素が可逆状態の場合には、前記動作点の磁界Hと前記減磁開始点の磁界Hbを用いて、max(0、H/Hb)値のn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求め、
前記要素が不可逆状態の場合には、正の整数nと減磁率の和を減磁リスク指数として求める
ことを特徴とする減磁リスク指数表示方法。
【請求項3】
請求項1に記載の減磁リスク指数表示方法において、
前記減磁リスク指数求めるステップは、
前記要素が可逆状態の場合には、可逆領域の残留磁束密度Brと前記動作点の磁束密度Bと前記減磁開始点の磁束密度Bbを用いて、max(0,(Br-B)/(Br-Bb))値のn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求め、
前記要素が不可逆状態の場合には、正の整数nと減磁率の和を減磁リスク指数として求める
ことを特徴とする減磁リスク指数表示方法。
【請求項4】
請求項1に記載の減磁リスク指数表示方法において、
前記各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示するステップは、前記可逆状態の要素と前記不可逆状態の要素の境界を弁別可能にコンター表示する
ことを特徴とする減磁リスク指数表示方法。
【請求項5】
請求項4に記載の減磁リスク指数表示方法において、
前記各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示するステップは、さらに、前記可逆状態の要素と前記不可逆状態の要素の体積比、または前記不可逆状態の要素の体積の全磁石の体積に対する比率を表示する
ことを特徴とする減磁リスク指数表示方法。
【請求項6】
永久磁石の減磁リスクを表示する減磁リスク表示装置であって
前記永久磁石のメッシュ分割モデルを生成するモデル生成部と、
前記永久磁石のB-H曲線および減磁開始点を設定するデータ設定部と、
前記永久磁石を含む解析対象機器の磁場解析を実施し、前記永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素における動作点の磁界と磁束密度を算出する磁場解析部と、
前記各要素が可逆状態と不可逆状態のいずれかであるかを動作点の磁界と磁束密度から判定する状態判定部と、
前記状態判定部で判定した可逆状態に含まれる要素では減磁リスクを指標にし、前記状態判定部で判定した不可逆状態に含まれる要素では減磁率を指標にして、各要素の減磁リスク指数を求める減磁リスク指数算出部と、
前記永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示する制御を行う表示部と、
を備えることを特徴とする減磁リスク指数表示装置。
【請求項7】
請求項6に記載の減磁リスク指数表示装置において、
前記減磁リスク指数算出部は、
可逆状態の要素では、前記動作点の磁界Hと前記減磁開始点の磁界Hbを用いて、max(0、H/Hb)値のn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求め、
不可逆状態の要素では、正の整数nと減磁率の和を減磁リスク指数として求める
ことを特徴とする減磁リスク指数表示装置。
【請求項8】
請求項6に記載の減磁リスク指数表示装置において、
前記減磁リスク指数算出部は、
可逆状態の要素では、可逆状態の残留磁束密度Brと前記動作点の磁束密度Bと前記減磁開始点の磁束密度Bbを用いて、max(0、(Br-B)/(Br-Bb))値のn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求め、
不可逆状態の要素では、正の整数nと減磁率の和を減磁リスク指数として求める
ことを特徴とする減磁リスク指数表示装置。
【請求項9】
請求項6に記載の減磁リスク指数表示装置において、
前記表示部は、前記可逆状態の要素と前記不可逆状態の要素の境界を弁別可能にコンター表示する
ことを特徴とする減磁リスク指数表示装置。
【請求項10】
請求項9に記載の減磁リスク指数表示装置において、
前記表示部は、さらに、前記可逆状態の要素と前記不可逆状態の要素の体積比、または前記不可逆状態の要素の体積の全磁石の体積に対する比率を表示する
ことを特徴とする減指数表示装置。
【請求項11】
永久磁石の減磁リスクを表示する減磁リスク指数表示プログムであって、
コンピュータに、
前記永久磁石のメッシュ分割モデルを生成するステップと、
前記永久磁石のB-H曲線および減磁開始点を設定するステップと、
前記永久磁石を含む解析対象機器の磁場解析を実施し、前記永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素の動作点の磁界と磁束密度を算出するステップと、
動作点の磁界と磁束密度から各要素が可逆状態と不可逆状態のいずれかであるかを判定するステップと、
前記要素が可逆状態の場合には減磁リスクを指標とし、前記要素が不可逆状態の場合には減磁率を指標にして、前記各要素の減磁リスク指数を求めるステップと、
前記各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示するステップと、
を実行させるための減磁リスク指数表示プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石の減磁リスク指数表示方法、減磁リスク指数表示装置、減磁リスク指数表示プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石は多くの電気機器で用いられており、その磁気的な特性を事前に把握しておくことが電気機器の設計において重要となる。この永久磁石の磁気特性の一つに、外部磁界による可逆減磁と不可逆減磁がある。可逆減磁では、永久磁石の残留磁束密度は不変であるが、不可逆減磁では、外部磁界を無くしても、永久磁石の残留磁束密度が元に戻らずに小さくなる現象として知られている。不可逆減磁が生じると永久磁石の磁力が低下し、電気機器の所望の性能を得ることができない。
また、永久磁石の不可逆減磁は、温度変化によっても生じる。
【0003】
このため、例えば特許文献1には、動作点が不可逆減磁に入るまでの減磁裕度を高精度に解析する永久磁石の磁場解析技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-181388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、永久磁石の大部分の領域における動作点は可逆減磁にあるものの、永久磁石の角部分では不可逆減磁に入る場合もある。特に、永久磁石の厚みを薄くすると、永久磁石の角部近傍において不可逆減磁に移行しやすい。この不可逆減磁の部分が微小であれば、電気機器の性能にはほとんど影響しないが、永久磁石の形状の最適化や品質向上を図るうえでは、不可逆減磁に入った部分がどの程度減磁されているかを把握することが必要な場合もある。
【0006】
上記の先行技術では、永久磁石が不可逆減磁に至る減磁裕度のみを解析しているため、不可逆減磁に入った部分がどの程度減磁されているかは、別途、解析する必要がある。
本発明は、上記の問題を解決し、永久磁石の不可逆減磁への裕度と不可逆減磁のレベルの両方の減磁状態を容易に把握できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の永久磁石の減磁リスクを表示する消磁リスク表示方法は、前記永久磁石のメッシュ分割モデルを生成するステップと、前記永久磁石のB-H曲線および減磁開始点を設定するステップと、前記永久磁石を含む解析対象機器の磁場解析を実施し、前記永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素における動作点の磁界と磁束密度とを算出するステップと、動作点の磁界と磁束密度から前記各要素が可逆状態と不可逆状態のいずれであることを判定するステップと、可逆状態である場合には減磁リスクを指標にし、不可逆状態である場合には減磁率を指標にして、前記各要素の減磁リスク指数を求めるステップと、前記各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示するステップと、を含むようにした。
【0008】
また、本発明の永久磁石の減磁リスクを表示する消磁リスク表示装置は、前記永久磁石のメッシュ分割モデルを生成するモデル生成部と、前記永久磁石のB-H曲線および減磁開始点を設定するデータ設定部と、前記永久磁石を含む解析対象機器の磁場解析を実施し、前記永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素における動作点の磁界と磁束密度を算出する磁場解析部と、前記各要素が可逆状態と不可逆状態のいずれかであるかを動作点の磁界と磁束密度から判定する状態判定部と、前記状態判定部で判定した可逆状態に含まれる要素では減磁リスクを指標にし、前記状態判定部で判定した不可逆状態に含まれる要素では減磁率を指標にして、各要素の減磁リスク指数を求める減磁リスク指数算出部と、前記永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素の前記減磁リスク指数をコンター表示する表示部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、永久磁石の可逆状態の部分における減磁リスクと、永久磁石の不可逆状態の部分における減磁率と、を重ねてコンター表示するので、磁場解析による永久磁石の減磁リスクと減磁状態を同時に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】減磁状態の評価方法を説明する図である。
図2】減磁リスク指数表示方法のフロー図である。
図3A】減磁リスク指数のコンター表示の一例を示す図である。
図3B】可逆状態と不可逆状態との弁別が容易なコンター表示の表示例を示す図である。
図4】減磁リスク指数表示装置のシステム構成図である。
図5】減磁リスク指数表示装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。また、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と特性例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0012】
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲または適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。したがって、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0013】
まず、図1により、永久磁石の磁場解析における減磁状態の動作について説明する。本明細書では、永久磁石が可逆減磁の状態を可逆状態と記し、不可逆減磁の状態を不可逆状態と記す。
【0014】
図1は、永久磁石におけるB-H曲線の一例を示す図であり、横軸は磁界Hを、縦軸は磁束密度Bを表している。図1において、永久磁石に磁化方向と逆向きの磁界(図1において横軸負の向きの磁界)が加わると、永久磁石の磁束密度は低くなる。
【0015】
減磁前の永久磁石の磁界と磁束密度の関係は図1に示すB-H曲線1で示され、磁界Hが0の時の磁束密度Bは残留磁束密度30(値Br)と呼ばれている。B-H曲線1の右肩上がりの直線部(H>Hb)は可逆領域40であり、動作点10がこの可逆領域40上を移動する限りにおいては、残留磁束密度30の値Brは不変である。
【0016】
永久磁石形同期電動機(PMモータ)等の回転電機では、磁界Hが永久磁石の磁化方向とは逆方向に強く印加されてH<Hbとなり、動作点10が減磁開始点20(クニック点とも言う)を超えて可逆領域40から一時的にはみ出す場合がある。この場合には、磁界Hが弱くなっても動作点10は可逆領域40に戻ることはできず、第1分岐点(減磁開始点)21を左端点とする不可逆領域41(厳密には曲線だが、工学的には直線とみなせる場合が多い)に移動し、動作点10は動作点11に移行し、不可逆領域41の線上を左右に移動する。
【0017】
不可逆領域41における磁界H=0の残留磁束密度31の値Br’は元のBrよりも低くなる。この現象を不可逆減磁という。この不可逆領域41上を左右に移動している限りにおいて、残留磁束密度31は不変であるが、不可逆領域41の左端の第1分岐点21の磁界Hb’を超えて、H<Hb’になると、動作点11は、第2分岐点(減磁開始点)22を左端点とする新たな不可逆領域42上の動作点12に移行する。不可逆領域42における磁界H=0の残留磁束密度32の値Br”は先のBr’よりもさらに低くなる。
【0018】
つまり、永久磁石は、減磁開始点20、第1分岐点21や第2分岐点22の減磁開始点を超える磁界が印加されると減磁し、そして、最終的にある不可逆状態に落ち着くことになる。
【0019】
本明細書では、不可逆状態になった永久磁石の残留磁束密度と可逆状態の減磁していない永久磁石の残留磁束密度の比(Br’/Br、Br”/Br等)を1から減じた(1-残留磁束密度の比)値、を減磁率と定義し、不可逆状態の永久磁石の減磁状態を示すものとする。
【0020】
また、本明細書では、動作点が、残留磁束密度30(値Br)のB-H曲線1上にあり、可逆減磁する場合を、永久磁石が可逆状態にあるとする。そして、動作点が、残留磁束密度31(値Br’)のB-H曲線41上にある場合や、残留磁束密度32(値Br”)のB-H曲線42上にある場合等を、永久磁石が不可逆状態にあるとする。つまり、動作点の磁界と磁束密度と減磁前のB-H曲線とから、動作点が減磁前のB-H曲線の可逆領域40の線上にある場合には、永久磁石は可逆状態と判定し、線状にない場合には不可逆状態と判定する。
【0021】
本発明では、以上のように、磁場解析による永久磁石の減磁状態を容易に把握できるようにするために、不可逆状態においては、減磁前後の残留磁束密度の比を1から減じた値である減磁率を指標として減磁状態を示し、可逆状態においては、動作点の磁界と減磁開始点の磁界の比(H/Hb)を減磁リスクとし、減磁リスクを指標として減磁状態を示す。
【0022】
ところで、動作点の磁界Hは、常に負の値ではなく正の値もとり得る。減磁開始点の磁界Hb<0なので、H/Hb<0となるが、減磁リスクは0として求める必要がある。このため、減磁リスクをmax(0、H/Hb)値として求める。ここで、max(0、H/Hb)とは、0とH/Hbのうちの大きい方の値をとることを意味する。
【0023】
そして、本発明は、磁場解析の各要素の減磁状態を示す減磁リスク指数を導入し、磁場解析した要素の動作点の磁界と磁束密度から各要素が可逆状態と不可逆状態のいずれかであることを判定し、可逆状態である場合は、減磁リスクのn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求め、不可逆状態である場合は、正の整数nと減磁率の和を減磁リスク指数として求め、各要素の減磁リスク指数をコンター表示する。
【0024】
減磁リスク指数は、0からnまでは減磁リスクを示し、nからn+1までは減磁率を示しているので、減磁リスク指数が小さいほど、減磁の影響が小さいこと示し、減磁リスト指数が大きいほど、減磁の影響が大きいことを示している。したがって、減磁リスク指数は、可逆状態と不可逆状態とで、一元的に減磁による影響を示している。
【0025】
なお、減磁リスクは1より小さい値であり、減磁リスク指数は、n=1であれば、減磁状態を示すことができるが、nを1より大きな正の整数とすることにより、コンター表示した際の減磁リスクの分解能を向上することができるので、評価を容易に行うことができる。
【0026】
上記では、可逆状態においては、動作点の磁界と減磁開始点の磁界の比(H/Hb)を指標として減磁リスクとすることを説明したが、可逆領域の残留磁束密度Brと前記動作点の磁束密度Bと前記減磁開始点の磁束密度Bbを用いて、(Br-B)/(Br-Bb)を減磁リスクとして求めてもよい。この場合、max(0,(Br-B)/(Br-Bb))値のn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求める。
【0027】
つぎに、実施形態の減磁リスク指数表示方法を、図2のフロー図により詳細に説明する。
【0028】
まず、ステップS21で、有限要素法等による解析を前提に、解析対象の永久磁石を含む電気機器の全体モデルのメッシュ分割データを設定する。この際に、解析対象に対称性がある場合は、その対称性を利用して、一部を切り出して解析することも可能であるため、用意するのは一部のメッシュ分割データでもよい。
【0029】
そして、ステップS22で、永久磁石およびそれ以外の磁性体のB-H曲線データおよび永久磁石の減磁開始点を設定する。B-H曲線の入力データは、通常、磁界Hと磁束密度Bの点列であるが、連続関数など他の形式で入力してもよい。減磁開始点は、永久磁石のB-H曲線の第2象限における直線部からの離脱点として設定するが、ユーザが設定してもよいし、計算機内で自動設定してもよい。自動設定の場合には、例えば、残留磁束密度の減少率0.999以下を不可逆減磁とする。
【0030】
ステップS23で、ステップS21で入力したメッシュ分割データ、およびステップS22で入力したB-H曲線を用いて、有限要素法等で永久磁石を含む電気機器の磁場解析を実行する。これにより、メッシュ分割した永久磁石の各要素の磁界と磁束密度を算出し、B-H曲線における各要素の動作点を求める(磁場解析して各要素の磁界と磁束密度を算出して、動作点を求める)。つぎに、各要素で以下のステップを実施する。
【0031】
ステップS24で、ステップS23で求めた動作点が、B-H曲線の減磁開始点を超えたか否かを判定し、超えていない場合(S24のNo)は、ステップS26に進む。超えている場合(S24のYes)は、ステップS25に進み、ステップS25にて動作点の位置に応じて磁場解析に用いるB-H曲線を更新して、ステップS26に進む。
【0032】
ステップS26で最終時間ステップに到達したかどうかを判定し、到達している場合(S26のYes)は、ステップ28に進み、到達していない場合(S26のNo)は、ステップ27に進み、時間ステップを1つ進めて、ステップS23を実施する。
【0033】
ステップS28で、この過渡磁界解析において、動作点が一度でも減磁開始点を超えた場合(S28のYes)は、ステップS29に進み、ステップS29において、当該要素の残留磁束密度と減磁していない当該要素の残留磁束密度の比を1から減じた値(1-残留磁束密度比)を減磁率として算出し、倍率n(n:正の整数)を加算して減磁リスク指数とし、ステップS31に進む。また、ステップS28で、この過渡磁界解析において、動作点が減磁開始点を超えていない場合(S28のNo)は、ステップS30に進み、ステップS30において、動作点の磁界と減磁開始点の磁界の比(H/Hb)を減磁リスクとして算出し、n倍して減磁リスク指数とし、ステップS31に進む。
【0034】
ステップS31で、ステップS29またはステップS30で求めた、永久磁石のメッシュ分割した各要素の減磁リスク指数をコンター表示する。
【0035】
上記では、磁場解析終了後に永久磁石の減磁リスク指数をコンター表示する例を説明したが、過渡解析の途中段階で、随時、永久磁石の減磁リスク指数をコンター表示するようにしてもよい。この場合、ステップS26をステップS31の後に持ってきて、ステップS31にて、各時刻ステップにおける各要素の減磁リスク指数をコンター表示する処理を行うようにする。
【0036】
図3Aは、図2で説明したステップS211における永久磁石のメッシュ分割した各要素の減磁リスク指数のコンター表示の一例を示す図である。
図3Aでは、減磁リスクの表示倍率nを1(n=1)にした際の減磁リスク指数のコンター表示を示している。永久磁石は、太線の矩形領域(横長の矩形領域)として示され、メッシュ分割した永久磁石の各要素の減磁リスク指数の値を表示色が異なるカラーコード(カラーパレット)に割当てて表示している。
減磁リスク指数に応じて異なる表示色で表示されるので、各要素の表示色から当該要素が可逆状態であるか、または不可逆状態であるかを識別でき、永久磁石の可逆状態/不可逆状態の分布を把握できるとともに、永久磁石の減磁リスクと減磁状態を同時に把握できる。
【0037】
0から1.0の範囲の値になる減磁率、および0から1.0の範囲の値になる減磁リスクを指標とする減磁リスク指数は、n=1の際には、0から2.0の範囲の値となる。
図3Aでは、減磁リスク指数が、0から1.5値の範囲、つまり、減磁リスクが0から1.0の値の範囲で、減磁率が0から0.5の値の範囲の減磁リスク指数を表示している。このように、カラーコードを割当てる減磁リスク指数の範囲を狭めることにより、コンター表示した際の減磁リスク指数の分解能を高めることができるので、永久磁石の減磁状態を詳細に把握できる。
【0038】
つぎに、可逆状態と不可逆状態との弁別が容易なコンター表示の表示例について説明する。
【0039】
図3Bは、永久磁石のメッシュ分割した各要素の減磁リスク指数をコンター表示する際に、可逆状態の要素と不可逆状態の要素の境界を太線表示して弁別可能にコンター表示している。可逆状態の要素の減磁リスク指数(減磁リスク)と可逆状態の要素の減磁リスク指数(1+減磁率)とは異なるカラーコードに割当てているため弁別可能だが、境界を太線表示することにより、弁別がより容易になる。
【0040】
また、永久磁石のメッシュ分割した各要素の減磁リスク指数をコンター表示する際に、可逆状態の要素と不可逆状態の要素とで、異なる塗りつぶしパターンやテクスチャにより、減磁リスク指数に割当てたカラーコードのコンター表示を行うようにしてもよい。これによっても、可逆状態と不可逆状態との弁別が容易にできる。
【0041】
図3Bにおいて、図示しないが、さらに、可逆状態の要素と不可逆状態の要素の体積比または、不可逆状態の要素の体積の全磁石の体積に対する比率を表示するようにしてもよい。これにより、永久磁石の減磁状態を容易に把握することができる。
【0042】
つぎに、実施形態の減磁リスク指数表示装置101の構成を説明する。
図4は、実施形態の減磁リスク指数表示装置101のシステム構成図である。
【0043】
減磁リスク指数表示システム100は、永久磁石のメッシュ分割した各要素の減磁リスク指数を求める減磁リスク指数表示装置101と、ディスプレイ等の減磁リスク指数のコンター表示を行う表示装置102と、計算データをファイルとして記憶する記憶装置103と、マウスやキーボード等の解析の操作指示やデータ入力を行う入力装置104と、を備えて構成する。
【0044】
詳しくは、減磁リスク指数表示装置101はコンピュータ(計算機)であり、不図示の、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM、HDD(Hard Disk Drive)、入出力I/F(Interface)、通信I/FおよびメディアI/Fを有する。
【0045】
CPUは、ROMまたはHDDに記憶されたプログラムに基づき作動し、図2で説明した減磁リスク指数表示処理を実行する。ROMは、コンピュータの起動時に実行されるブートプログラムや、コンピュータのハードウェアに係るプログラム等を記憶する。
【0046】
CPUは、入出力I/Fを介して、入力装置104、および、表示装置102を制御する。CPUは、入出力I/Fを介して、入力装置104からデータを取得するとともに、生成したデータを表示装置102へ出力する。
【0047】
HDDは、CPUにより実行されるプログラムおよび当該プログラムによって使用されるデータ等を記憶する。通信I/Fは、通信網またはネットワークを介して他の装置からデータを受信してCPUへ出力し、また、CPUが生成したデータを、通信網またはネットワークを介して他の装置へ送信する。
【0048】
メディアI/Fは、記録媒体に格納されたプログラムまたはデータを読み取り、RAMを介してCPUへ出力する。記録媒体は、DVD(Digital Versatile Disc)、PD(Phase change rewritable Disk)等の光学記録媒体、MO(Magneto Optical disk)等の光磁気記録媒体、磁気記録媒体、導体メモリテープ媒体または半導体メモリ等である。
【0049】
CPUは、目的の処理に係るプログラムを、メディアI/Fを介して記録媒体からRAM上にロードし、ロードしたプログラムを実行する。また、CPUは、他の装置から通信I/Fにより通信網またはネットワークを介して目的の処理に係るプログラムを読み込んでもよい。
【0050】
入力装置104は、例えばキーボードやマウスであり、B-H曲線をはじめとする解析に必要な入力データの減磁リスク指数表示装置101への入力、入力データを保存したデータファイルの読み書きの指定、計算の実行などに使用する。
【0051】
記憶装置103は、入力装置104で入力されたB-H曲線をはじめとする解析に必要な入力データと、減磁リスク指数表示装置101で計算された減磁リスク指数等の計算データをファイルとして記憶する。
【0052】
なお、図4では、記憶装置103は、減磁リスク指数表示装置101の外部に配置しているが、減磁リスク指数表示装置101の内部に設置してもよい。また、減磁リスク指数表示装置101は、ネットワークを介して、表示装置102、記憶装置103、入力装置104を接続するようにしてもよい。
【0053】
つぎに、減磁リスク指数表示装置101の構成を、図5の機能ブロック図により説明する。図5の減磁リスク指数表示装置101の各機能ブロックは、減磁リスク指数表示装置101のCPUがプログムを実行することによりそれぞれのブロックの機能を実現する。
【0054】
モデル生成部51は、永久磁石のメッシュ分割モデルを生成する処理部である。詳しくは、有限要素法等による解析を前提に、解析対象の永久磁石を含む電気機器の全体モデルのメッシュ分割データを設定する。この際に、解析対象の対称性を利用して、一部を切り出して解析することも可能であるため、用意するのは一部のメッシュ分割データでもよい。
【0055】
データ設定部52は、永久磁石のB-H曲線および減磁開始点を設定する。詳しくは、永久磁石およびそれ以外の磁性体のB-H曲線データおよび永久磁石の減磁開始点を設定する。B-H曲線の入力データは、通常、磁界Hと磁束密度Bの点列であるが、連続関数など他の形式で入力してもよい。減磁開始点は、永久磁石のB-H曲線の第2象限における直線部からの離脱点を減磁開始点として設定する。
【0056】
磁場解析部53は、永久磁石を含む解析対象機器の磁場解析を実施し、永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素における動作点の磁界と磁束密度を算出する。詳しくは、モデル生成部51で生成したメッシュ分割データ、およびデータ設定部52で設定したB-H曲線を用いて、有限要素法等で永久磁石を含む電気機器の磁場解析を実行する。これにより、メッシュ分割した永久磁石の各要素の磁界と磁束密度を算出し、B-H曲線における動作点を求める。
【0057】
状態判定部54は、各要素が可逆状態と不可逆状態のいずれかであるかを動作点の磁界と磁束密度から判定する。詳しくは、動作点の磁界と磁束密度と減磁前のB-H曲線とから、動作点が減磁前のB-H曲線の可逆領域40の線上にある場合には可逆状態と判定し、線状にない場合には不可逆状態と判定する。
【0058】
また、状態判定部54は、磁場解析部53で求めた動作点が、B-H曲線の減磁開始点を超えたか否かを判定する。そして、状態判定部54は、動作点がB-H曲線の減磁開始点を超えた場合に、磁場解析部53が磁場解析に用いるB-H曲線を更新する(例えば、図1に示した不可逆領域41)。
【0059】
減磁リスク指数算出部55は、状態判定部54で判定した可逆状態に含まれる要素では減磁リスクを指標にし、状態判定部54で判定した不可逆状態に含まれる要素では減磁率を指標にして、各要素の減磁リスク指数を求める。
【0060】
詳細には、減磁リスク指数算出部55は、不可逆状態になった永久磁石の残留磁束密度と可逆状態の減磁していない永久磁石の残留磁束密度の比(Br’/Br、Br”/Br等)を1から減じた(1-残留磁束密度の比)値、を減磁率とする。
そして、減磁リスク指数算出部55は、可逆状態の要素では、動作点の磁界Hと減磁開始点の磁界Hbを用いて、max(0、H/Hb)値を減磁リスクとし、減磁リスクのn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求め、不可逆状態の要素では、正の整数n(表示倍率)と減磁率の和を減磁リスク指数として求める。
【0061】
また、減磁リスク指数算出部55は、可逆状態の要素では、可逆状態の残留磁束密度Brと動作点の磁束密度Bと減磁開始点の磁束密度Bbを用いて、max(0、(Br-B)/(Br-Bb))値のn倍(nは正の整数)を減磁リスク指数として求め、不可逆状態の要素では、正の整数nと減磁率の和を減磁リスク指数として求めてもよい。
【0062】
表示部56は、表示装置102に、永久磁石のメッシュ分割モデルの各要素の減磁リスク指数をコンター表示する制御を行う。詳しくは、表示部56は、メッシュ分割した永久磁石の各要素の減磁リスク指数の値を表示のカラーコード(カラーパレット)に割当てて、図4の表示装置102に表示する。
【0063】
表示部56は、可逆状態の要素と不可逆状態の要素の境界を太線表示して弁別可能にコンター表示するか、また、表示部56は、可逆状態の要素と不可逆状態の要素とで、異なる塗りつぶしパターンやテクスチャにより、減磁リスク指数に割当てたカラーコードのコンター表示を行う。
さらに、表示部56が、可逆状態の要素と不可逆状態の要素の体積比、または、不可逆状態の要素の体積の全磁石の体積に対する比率を示す値を表示するようにしてもよい。
【0064】
上記の実施形態によれば、永久磁石の減磁リスクならびに減磁した場合の減磁率を試作前に同時に把握できて、永久磁石の配置の最適化、永久磁石の厚みや長さの最適化ができ、試作回数の削減や、永久磁石を用いた電気機器のコストパフォーマンスの向上に寄与する。
【0065】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 B-H曲線
10、11、12 動作点
20、21、22 減磁開始点
30、31、32 残留磁束密度
51 モデル生成部
52 データ設定部
53 磁場解析部
54 状態判定部
55 減磁リスク指数算出部
56 表示部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5