(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078644
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】工作機械用シール部材
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/08 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
B23Q11/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191873
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 朋尚
(72)【発明者】
【氏名】宮城 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】岡村 東英
(57)【要約】
【課題】工作機械の摺動面に確実に密着し、工作機械への取り付け時のシール性を確保することができる工作機械用シール部材を提供する。
【解決手段】工作機械の取付部に取り付けられる工作機械用シール部材10であって、支持部材に支持される弾性部材14を備え、弾性部材14は、取付部と支持部材とで挟まれる板状の本体部22と、工作機械の摺動面と摺接する先端縁26を有し、本体部22の一端から突出した板状の突出部24と、本体部22の他端から一端に向かって形成された切り込み28と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の取付部に取り付けられる工作機械用シール部材であって、
支持部材に支持される弾性部材を備え、
前記弾性部材は、
前記取付部と前記支持部材とで挟まれる板状の本体部と、
前記工作機械の摺動面と摺接する先端縁を有し、前記本体部の一端から突出した板状の突出部と、
前記本体部の他端から前記一端に向かって形成された切り込みと、
を有する、工作機械用シール部材。
【請求項2】
前記本体部は、前記切り込みにより分割された複数の分割片を有し、
前記突出部は、多角形状であり、前記複数の分割片と接続された複数の直線部と、前記複数の直線部のうちの隣接する2つの直線部に挟まれた角部とを有する請求項1に記載の工作機械用シール部材。
【請求項3】
前記突出部は、前記先端縁が前記摺動面と摺接することにより前記本体部に対して湾曲し、
前記本体部に対する前記突出部の角度は、5°以上85°以下の範囲内である請求項1または2に記載の工作機械用シール部材。
【請求項4】
前記突出部は、前記先端縁に前記切り込みを有しない一体形状である請求項1~3のいずれか1項に記載の工作機械用シール部材。
【請求項5】
前記弾性部材は、前記切り込みの先端に設けられたストップホールを更に有する請求項1~4のいずれか1項に記載の工作機械用シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械用シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、クーラントや加工の際に発生する切り屑(以下、切粉という)などの異物が隙間部分から機械内部に侵入するのを防止するため、工作機械用シール部材(工作機械用ワイパーとも言う)が取り付けられる。
【0003】
工作機械用シール部材は、一平面に用いられる場合のみならず、コーナー部に用いられる場合もある。コーナー部とは、共有する一辺から異なる向きに広がる二平面と、共有される辺とを含む領域をいう。多様な角度のコーナー部から異物を除去するために、角度をもって配置された第1ワイパー部と第2ワイパー部とを備えた工作機械用シール部材(工作機械用ワイパー)が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
特許文献1に記載の工作機械用シール部材は、第1ワイパー部のリップ部と第2ワイパー部のリップ部との対向する端縁相互が一体となって、リップ部の弾性により第1,第2ワイパー部の角度が変化する。
【0005】
特許文献2に記載の工作機械用シール部材は、第1ワイパー本体と第1弾性摺動部とを有する第1ワイパー部、及び、第2ワイパー本体と第2弾性摺動部とを有する第2ワイパー部を備えている。第1弾性摺動部と第2弾性摺動部とは、端部同士を接合部として一体化され、接合部を中心に180°未満の角度で開閉可能に構成されている。第1ワイパー本体と第2ワイパー本体とを連結する連結部は、第1弾性摺動部と第2弾性摺動部とがなす上記の角度に応じて伸縮する蛇腹構造を有している。
【0006】
特許文献3に記載の工作機械用シール部材は、板状の支持部材と、工作機械の摺動面と摺接する板状の弾性部材とを備え、弾性部材が工作機械の取付部と支持部材とで挟まれるように、工作機械に取り付けられる。弾性部材は、支持部材の縁部から工作機械の摺動面側に突出する突出部を含む。突出部の先端縁は、複数の直線部と、複数の直線部のうちの隣接する2つの直線部に挟まれた角部とを有している。突出部には、角部から支持部材側に向かって、当該突出部の途中にまで切り込みが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-95651号公報
【特許文献2】特開2018-167373号公報
【特許文献3】特許第6535709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に記載の工作機械用シール部材は、第1,第2ワイパー部のリップ部によって、コーナー部を構成する隣接面の一方面と他方面を掻き取ることができる。特許文献1,2に記載の工作機械用シール部材は、第1,第2ワイパー部の角度が変化するので、様々な角度のコーナー部に適用することができる。一方、工作機械用シール部材に対する要求は、より高いものとなっている。工作機械用シール部材は、工作機械の摺動面に確実に密着し、工作機械への取り付け時のシール性を確保することが求められる。
【0009】
特許文献3に記載の工作機械用シール部材は、工作機械への取り付け時に、突出部に設けられた切り込みが開いて隙間が発生するので、シール性を確保することが難しい。
【0010】
そこで、本発明は、工作機械の摺動面に確実に密着し、工作機械への取り付け時のシール性を確保することができる工作機械用シール部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る工作機械用シール部材は、工作機械の取付部に取り付けられる工作機械用シール部材であって、支持部材に支持される弾性部材を備え、前記弾性部材は、前記取付部と前記支持部材とで挟まれる板状の本体部と、前記工作機械の摺動面と摺接する先端縁を有し、前記本体部の一端から突出した板状の突出部と、前記本体部の他端から前記一端に向かって形成された切り込みと、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性部材を構成する本体部の他端から一端に向かって切り込みが形成されていることにより、突出部の先端縁を切断することなく工作機械の摺動面に添わせることができ、突出部の先端縁が工作機械の摺動面に確実に密着し、工作機械への取り付け時のシール性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る工作機械用シール部材の構成を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る工作機械用シール部材の構成を示す正面図である。
【
図3】
図2中のIII-III線に沿って切断した断面における要部拡大図である。
【
図4】支持部材を取り外した工作機械用シール部材における弾性部材の正面図である。
【
図5】
図4中の符号Vで示した角部周辺の拡大図である。
【
図6】工作機械用シール部材を工作機械に取り付ける前の弾性部材の構成を説明する説明図である。
【
図7】第1変形例の弾性部材の構成を説明する説明図である。
【
図8】第2変形例の弾性部材の構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
1.実施形態
図1において、工作機械用シール部材10は、支持部材12と、弾性部材14とを備える。支持部材12は、図示しない工作機械の移動体に設けられた取付部に固定される。弾性部材14は、工作機械の摺動面16と摺接するように、支持部材12に支持される。工作機械の摺動面16は、機台表面やカバー表面などである。工作機械用シール部材10は、工作機械の摺動面16に対し相対的に往復移動し得るように、支持部材12において工作機械の取付部に取り付けられる。
図1では、工作機械用シール部材10は、5つの摺動面16を有する工作機械に取り付けられ、Y軸方向と平行な矢印方向に往復移動する。5つの摺動面16は、正面視で5角形のC字状となるように配置されている。
【0016】
図2に示すように、支持部材12は、正面視で多角形状を有する板状部材である。支持部材12は、本実施形態では、5つの摺動面16の配置に合わせ、5角形のC字状に形成されている。支持部材12は、例えば金属で形成される。
【0017】
図3に示すように、支持部材12は、ボルト17とナット18を用いて工作機械(図示しない)の取付部19に固定される。ボルト17が挿入されるボルト穴20は、支持部材12、弾性部材14、及び取付部19を貫通するように設けられている。
【0018】
弾性部材14は、本体部22と、突出部24とを有する。本体部22と突出部24とは、接着剤を介さずに一体的に形成されている。弾性部材14は、高分子材料(例えばゴムや樹脂)などの弾性材料で形成される。弾性部材14を構成する弾性材料は、耐油性を有し、50度以上の硬度を有することが好ましい。弾性材料の硬度は、55~99度がより好ましく、60~98度が最も好ましい。本明細書における硬度は、JIS K6253に基づき、タイプAデュロメータにより測定したショアA硬度をいう。弾性部材14は、原料の弾性材料からなるシート母材からの打ち抜きにより作製することができる。
【0019】
本体部22は、工作機械の取付部19と支持部材12とで挟まれる板状の部材である。工作機械の摺動面16側の本体部22の端部を一端とし、摺動面16と反対側の本体部22の端部を他端とする。突出部24は、本体部22の一端から突出した板状の部材である。突出部24は、工作機械の摺動面16と摺接する先端縁26を有する。
【0020】
突出部24は、先端縁26が摺動面16と摺接することにより本体部22に対して湾曲している。本体部22に対する突出部24の角度θは、5°以上85°以下の範囲内であることが望ましい。角度θは、更には10°以上80°以下の範囲内が望ましく、15°以上75°以下の範囲内がより望ましい。
【0021】
図4は、支持部材12を取り外した工作機械用シール部材10における弾性部材14の正面図である。
図4では工作機械の摺動面16を省略している。
図4に示すように、弾性部材14は、本体部22の他端から一端に向かって形成された切り込み28を有する。切り込み28は、本実施形態では、直線的なスリット形状を有する。
【0022】
切り込み28は、本体部22に設けられており、本体部22を分割する。すなわち、本体部22は、切り込み28により分割された複数の分割片30を有する。本実施形態では、本体部22に4つの切り込み28が設けられ、本体部22は5つの分割片30を有している。各分割片30には、2つ又は3つのボルト穴20が設けられている。分割片30に設けるボルト穴20の数は特に限定されない。本実施形態では、切り込み28は、本体部22の他端から一端に向かって当該一端まで形成されている。
図4に示されている点線は、本体部22(分割片30)と突出部24との境界線である。各々の分割片30と突出部24との境界線は、切り込み28の先端(工作機械の摺動面16側)で接続されている。
【0023】
切り込み28は突出部24に設けられていない。したがって、突出部24は、分割されておらず、先端縁26に切り込み28を有しない一体形状である。突出部24は、多角形状であり、複数の分割片30と接続された複数の直線部32と、複数の直線部32のうちの隣接する2つの直線部32に挟まれた角部34とを有する。突出部24は、本実施形態では、5角形のC字状に形成されており、5つの直線部32と4つの角部34とが一体化された一体形状を有する。複数の直線部32のうちの隣接する2つの直線部32は、共有する一辺から異なる向きに広がる2つの摺動面16に対してそれぞれ押し付けられる。
【0024】
図5に示すように、突出部24を構成する角部34は、弾性を有しているため、突出部24の先端縁26を工作機械の摺動面(図示省略)と摺接させた際に、僅かに膨らむように開く場合がある。しかし、角部34の先端と摺動面との隙間は僅かであり、切粉やクーラントなどの異物の侵入を防ぐ程度のシール性は確保されている。工作機械用シール部材10を工作機械の摺動面に押し付けることにより、角部34の先端と摺動面との隙間を埋めることができる。
【0025】
2.取付方法
次に、上述したように構成された工作機械用シール部材10の取付方法について説明する。
図6は、工作機械用シール部材10を工作機械に取り付ける前の弾性部材14の構成を説明する説明図である。
図6の(a)は弾性部材14の正面図である。
図6の(b)は弾性部材14の側面図である。
図6に示すように、工作機械用シール部材10を工作機械に取り付ける前の弾性部材14は、正面視で矩形形状を有する長尺の板状部材である。弾性部材14は、原料の弾性材料からなるシート母材からの打ち抜きにより作製される。切り込み28を広げるように弾性部材14を折り曲げることにより、支持部材12と略同形状(5角形のC字状)とすることができる。工作機械の取付部19と支持部材12との間に弾性部材14を配置し、ボルト穴20に支持部材12側からボルト17を挿入し、取付部19側からナット18を締めることにより、工作機械用シール部材10を工作機械に取り付けることができる(
図3参照)。突出部24は、先端縁26が摺動面16と摺接する前は湾曲していないが、先端縁26が摺動面16と摺接することにより、本体部22に対して湾曲する。本体部22に対する突出部24の角度θは、5°以上85°以下の範囲内が望ましい。
【0026】
3.作用及び効果
上述したように構成された工作機械用シール部材10は、コーナー部の角度に適合した角度で工作機械の取付部19に取り付けられる、異型一体形状を有する。コーナー部は、共有する一辺から異なる向きに広がる2つの摺動面16と、共有される辺とを含む領域である。工作機械用シール部材10は、弾性部材14を構成する本体部22の他端から一端に向かって切り込み28が形成されていることにより、突出部24の先端縁26を切断することなく工作機械の摺動面16に添わせることができ、先端縁26が摺動面16に確実に密着し、工作機械への取り付け時のシール性が確保される。
【0027】
弾性部材14は、原料の弾性材料からなるシート母材からの打ち抜きにより、正面視で矩形形状を有する長尺の板状部材として作製される。このため、1つのシート母材から多数の弾性部材14が得られるので、生産効率や歩留まりが向上する。
【0028】
工作機械用シール部材10は、切り込み28を広げるように弾性部材14を折り曲げ、複数の摺動面16に添わせるようにして工作機械の取付部19に取り付けることができるので、様々な角度のコーナー部に適用することができる。
【0029】
突出部24は、先端縁26が摺動面16に押し付けられ、本体部22に対して湾曲する(
図3参照)。湾曲した突出部24の先端縁26が摺動面16に確実に密着するので、工作機械用シール部材10は、工作機械への取り付け時のシール性がより向上するとともに、摺動面16に対して相対的に往復移動した際に、摺動面16上の異物を確実に除去することができる。本体部22に対する突出部24の角度θを5°以上85°以下の範囲内とすることにより、シール性が更に向上する。
【0030】
4.変形例
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0031】
上述した実施形態では、工作機械用シール部材10を工作機械に取り付ける前の弾性部材14が、正面視で矩形形状を有する長尺の板状部材である場合について説明したが、本発明はこれに限らない。
【0032】
図7に示す弾性部材44のように、正面視で5角形のC字状に形成された板状部材として構成しても良い(第1変形例)。
図7の(a)は弾性部材44の正面図である。
図7の(b)は弾性部材44の側面図である。弾性部材44は、上述した実施形態の弾性部材14と同様に、本体部22と突出部24と切り込み28とを有する。突出部24は、先端縁26が工作機械の摺動面16と摺接する前は湾曲していないが、先端縁26が摺動面16と摺接することにより、本体部22に対して湾曲する。弾性部材としては、矩形形状や5角形に限らず、4角形や6角形などの多角形状とすることができる。工作機械用シール部材は、弾性部材の形状を変更することにより、多様な角度のコーナー部から異物を除去することができる。
【0033】
上述した実施形態では、弾性部材14が、本体部22と、突出部24と、切り込み28とで構成される場合について説明したが、本発明はこれに限られない。
【0034】
図8に示す弾性部材54のように、本体部22、突出部24、及び切り込み28に加え、切り込み28の先端に設けられたストップホール56を有する構成としても良い(第2変形例)。
図8に示されている点線は、本体部22(分割片30)と突出部24との境界線である。各々の分割片30と突出部24との境界線は、ストップホール56の底(工作機械の摺動面16側)で接続されている。弾性部材54は、切り込み28の先端にストップホール56が設けられていることにより、切り込み28を広げるように折り曲げた際の、切り込み28の先端への応力集中が緩和される。
【0035】
上述した実施形態では、本体部の他端から一端に向かって形成された切り込みとして、本体部22の他端から一端に向かって当該一端まで形成された切り込み28を設けるようにしたが、本発明はこれに限られない。例えば、本体部22の他端から一端に向かって、当該一端まで到達しない途中まで形成された切り込みを設けるようにしても良い。また、本体部22の他端から一端に向かって、突出部24の先端縁26まで到達しない途中まで形成された切り込みを設けるようにしても良い。
【0036】
切り込み28は、上述した実施形態では直線的なスリット形状を有しているが、本発明はこれに限られない。切り込み28は、例えば、涙滴状、円形状、U字状、湾曲状、三角状としても良い。
【0037】
突出部24は、上述した実施形態では、先端縁26が摺動面16と摺接する前は湾曲しておらず、先端縁26が摺動面16と摺接することにより本体部22に対して湾曲するように構成されているが、本発明はこれに限られない。突出部24は、先端縁26が摺動面16と摺接していない状態で、本体部22に対して湾曲した構成としても良い。この場合、本体部22に対する突出部24の角度は、例えば5°以上85°以下の範囲内としても良い。
【0038】
上述した実施形態では、工作機械用シール部材として、支持部材12に弾性部材14が支持されている工作機械用シール部材10を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限られず、支持部材12に支持される前の弾性部材14を工作機械用シール部材として適用しても良い。
【0039】
以上、実施形態及び変形例について説明したが、本発明は上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 工作機械用シール部材
12 支持部材
14,44,54 弾性部材
22 本体部
24 突出部
26 先端縁
28 切り込み
30 分割片
32 直線部
34 角部
56 ストップホール