IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スパイバー株式会社の特許一覧

特開2023-78675タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法
<>
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図1
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図2
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図3
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図4
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図5
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図6
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図7
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図8
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図9
  • 特開-タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078675
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20230531BHJP
   C07K 14/435 20060101ALI20230531BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230531BHJP
   D01F 4/00 20060101ALI20230531BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230531BHJP
【FI】
C07K14/78 ZNA
C07K14/435
C12P21/02 C
D01F4/00
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191916
(22)【出願日】2021-11-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健大
(72)【発明者】
【氏名】上久保 裕生
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
4L035
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC03
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC09
4B064CC10
4B064CC12
4B064CC24
4B064CD02
4B064CD09
4B064CD21
4B064CE02
4B064CE03
4B064CE12
4B064CE17
4B064DA20
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045BA50
4H045CA40
4H045CA51
4H045EA60
4H045FA74
4H045GA15
4H045GA26
4L035AA04
4L035BB03
4L035DD13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被修飾部への修飾によって効率的に機能性を付与可能な、新規タンパク質ナノファイバーを提供する。
【解決手段】複数のタンパク質ナノロッドが軸方向に連結してなるタンパク質ナノファイバーであって、前記タンパク質ナノロッドが、末端に被修飾部を有し、且つ、βシート構造を形成可能なタンパク質を含み、前記タンパク質ナノロッドの連結部において前記被修飾部が露出している、タンパク質ナノファイバー。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のタンパク質ナノロッドが軸方向に連結してなるタンパク質ナノファイバーであって、
前記タンパク質ナノロッドが、末端に被修飾部を有し、且つ、βシート構造を形成可能なタンパク質を含み、
前記タンパク質ナノロッドの連結部において前記被修飾部が露出している、タンパク質ナノファイバー。
【請求項2】
前記タンパク質が、フィブロイン様タンパク質又はエラスチン様タンパク質である、請求項1に記載のタンパク質ナノファイバー。
【請求項3】
前記被修飾部が、タグ配列又は機能ドメインを含む、請求項1又は2に記載のタンパク質ナノファイバー。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質ナノファイバーの前記被修飾部の少なくとも一部を修飾してなる、修飾ナノファイバー。
【請求項5】
前記タンパク質ナノファイバーの前記被修飾部の少なくとも一部に修飾部を結合してなる、請求項4に記載の修飾ナノファイバー。
【請求項6】
前記修飾部が、分子捕捉部位、金属錯体部位、架橋性基、薬理活性部位、金属粒子部位、及び、機能性ペプチドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項5に記載の修飾ナノファイバー。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質ナノファイバーの前記被修飾部の少なくとも一部を修飾する修飾工程を含む、修飾ナノファイバーの製造方法。
【請求項8】
前記修飾工程が、前記被修飾部の少なくとも一部に修飾部を結合させる工程である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記修飾部が、分子捕捉部位、金属錯体部位、架橋性基、薬理活性部位、金属粒子部位、及び、機能性ペプチドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質ナノファイバー、修飾ナノファイバー及び修飾ナノファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属分子を用いたナノ構造体は、色素増感太陽電池(酸化チタン)、導電インク(銀ナノワイヤー)等実用化されている、あるいは実用化に近い状況にある。
【0003】
バイオテクノロジー分野においてもナノ構造体は注目されており、タンパク質ナノファイバーは機械特性を望んだとおりにデザインした細胞の足場シート、生体分子デバイス、細胞工学デバイス、再生医療・組織工学、バイオセンサー・アクチュエーターとしての利用並びに軽量・高強度材料、グリーンナノハイブリッド、環境浄化材料、自己修復材料、フィルタ、紡糸、コーティング、構造・物性解析関連の高精度精密機器等の材料として期待されている。
【0004】
しかし、タンパク質ナノファイバーの実用化は困難であった(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. Wang, Y. Sun, Z. Li, A. Wu, and G. Wei, Materials(Basel)., vol.9, no.1, 2016 “Bottom-up synthesis and sensor applications of biomimetic nanostructures”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンパク質ナノファイバーへの機能性の付与は、多く分野での応用が期待される。
【0007】
本発明は、被修飾部への修飾によって、効率的に機能性を付与可能な、新規タンパク質ナノファイバーを提供することを目的とする。また、本発明は、タンパク質ナノファイバーの被修飾部が修飾されてなる、修飾ナノファイバー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、複数のタンパク質ナノロッドが軸方向に連結してなるタンパク質ナノファイバーであって、上記タンパク質ナノロッドが、末端に被修飾部を有し、且つ、βシート構造を形成可能なタンパク質を含み、上記タンパク質ナノロッドの連結部において上記被修飾部が露出している、タンパク質ナノファイバーに関する。
【0009】
一態様において、上記タンパク質は、フィブロイン様タンパク質又はエラスチン様タンパク質であってよい。
【0010】
一態様において、上記被修飾部は、タグ配列又は機能ドメインを含んでいてよい。
【0011】
本発明の他の一側面は、上記タンパク質ナノファイバーの上記被修飾部の少なくとも一部を修飾してなる、修飾ナノファイバーに関する。
【0012】
一態様に係る修飾ナノファイバーは、上記タンパク質ナノファイバーの上記被修飾部の少なくとも一部に修飾部を結合してなる修飾ナノファイバーであってよい。
【0013】
一態様において、上記修飾部は、分子捕捉部位、金属錯体部位、架橋性基、薬理活性部位、金属粒子部位、及び、機能性ペプチドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。
【0014】
本発明の更に他の一側面は、上記タンパク質ナノファイバーの上記被修飾部の少なくとも一部を修飾する修飾工程を含む、修飾ナノファイバーの製造方法に関する。
【0015】
一態様において、上記修飾工程は、上記被修飾部の少なくとも一部に修飾部を結合させる工程であってよい。
【0016】
一態様において、上記修飾部は、分子捕捉部位、金属錯体部位、架橋性基、薬理活性部位、金属粒子部位、及び、機能性ペプチドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被修飾部への修飾によって、効率的に機能性を付与可能な、新規タンパク質ナノファイバーが提供される。また、本発明によれば、タンパク質ナノファイバーの被修飾部が修飾されてなる、修飾ナノファイバー及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】タンパク質の構造の変化を示す模式図である。図1(a)は溶解したタンパク質を示し、図1(b)は円柱状のタンパク質ナノロッドが軸方向に連結してなるタンパク質ナノファイバーを示す。
図2】実施例1のタンパク質ナノファイバーの、ThTによる蛍光強度測定で得られる蛍光強度スペクトルを示す図である。
図3図3(a)は、実施例1の修飾ナノファイバーのAFM像を示す図であり、図3(b)は、修飾前のタンパク質ナノファイバーのAFM像を示す図である。
図4】実施例1の修飾ナノファイバーのAFM像における、金ナノ粒子間の距離のヒストグラムを示す図である。
図5】実施例2のタンパク質ナノファイバーの、ThTによる蛍光強度測定で得られる蛍光強度スペクトルを示す図である。
図6図6(a)は、実施例2の修飾ナノファイバーのAFM像を示す図であり、図6(b)は、修飾前のタンパク質ナノファイバーのAFM像を示す図である。
図7】実施例2の修飾ナノファイバーのAFM像における、金ナノ粒子間の距離のヒストグラムを示す図である。
図8図8(a)は実施例3の修飾ナノファイバー(3-1)のAFM像を示す図であり、図8(b)は実施例3の修飾ナノファイバー(3-2)のAFM像を示す図である。
図9】実施例4の抗体付加試験後の発光の様子を示す図である。
図10】実施例4の抗体付加試験後の各スポットの発光強度の平均値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
(タンパク質ナノファイバー)
本実施形態のタンパク質ナノファイバーは、複数のタンパク質ナノロッドが軸方向に連結して形成されている。タンパク質ナノロッドは、末端に被修飾部を有するタンパク質を含んでおり、当該被修飾部はタンパク質ナノロッド同士の連結部において、外側に露出している。また、タンパク質ナノロッド中で、タンパク質はβシート構造を形成している。また、βシートは、隣接ペプチド主鎖間の水素結合によって形成される。このシート状の構造を形成し隣接するペプチド鎖一本をβストランドとよぶ。本実施形態において、タンパク質は、タンパク質ナノロッドの軸方向に平行にβストランドを形成していてよい。
【0021】
本実施形態のタンパク質ナノファイバーは、タンパク質ナノロッド同士の連結部において被修飾部が露出したものであるため、被修飾部に容易に修飾を施すことができる。また、本実施形態のタンパク質ナノファイバーは、複数のタンパク質ナノロッドが軸方向に連結して形成されたものであり、且つ、タンパク質ナノロッド同士の連結部にそれぞれ被修飾部が存在しているため、一定の間隔で修飾を施すことができる。
【0022】
また、本実施形態のタンパク質ナノファイバーは、基本単位となるタンパク質ナノロッドの長さを調整することにより、連結部の間隔を、すなわち、修飾箇所の間隔を適宜調整することができる。すなわち、本実施形態のタンパク質ナノファイバーは、修飾が容易であり、且つ、修飾の程度を容易に制御することができる。
【0023】
タンパク質ナノロッドを構成するタンパク質は、末端に被修飾部を有し、βシート構造を形成可能なタンパク質であればよい。このようなタンパク質としては、例えば、フィブロイン様タンパク質、エラスチン様タンパク質等が挙げられる。
【0024】
フィブロイン様タンパク質は、βシート構造を形成可能な結晶領域と非晶領域とを含むタンパク質であり、後述の製造方法によってタンパク質ナノファイバーを容易に形成することができる。フィブロイン様タンパク質(単にフィブロインともいう)としては、人工フィブロインが好ましく、人工クモ糸フィブロインがより好ましい。
【0025】
エラスチン様タンパク質は、Le, Duc H. T., Tatsuya Okubo, and Ayae Sugawara-Narutaki. Biopolymers 103, no. 3 (March 2015): 175-85.にて、軸に沿ったβストランド構造が観察されている。
【0026】
被修飾部は、特に限定されず、所望の修飾方法に応じて適宜変更してよい。被修飾部としては、例えば、タグ配列、機能ドメイン等が挙げられる。
【0027】
タグ配列は特に限定されず、修飾可能な公知のタグ配列から適宜選択してよい。タグ配列としては、例えば、Hisタグ配列、Strep(II)-tag(WSHPNFEK)、細胞接着ペプチド(GRGDSPASS、REDV、EILDV、YEKPGSPPREVVPRPRPGV、KNNQKSEPLIGPK、YIGSR、RNIAELLKDI、RGDN、RYVVLPRPVCFEKGMNYTVR、IKVAV、PDSGR、RGDV、RGDT、RGDA、RGDF、RGDS、RGDF、RGDA、RGDM、等)、チタン結合配列(RKLPDA)等が挙げられる。
【0028】
機能ドメインは特に限定されず、修飾可能な公知の機能ドメインから適宜選択してよい。機能ドメインとしては、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、脱グリコシル化アビジン、DOPA修飾ペプチド(YKYKY)、GST結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、メタロチオネイン、成長因子(線維芽細胞成長因子、上皮成長因子、脳由来神経栄養因子、血管上皮細胞増殖因子、骨形成因子、毛様体神経栄養因子、インスリン様成長因子I、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターフェロンγ、レプチン、アクチビンA、単球化学誘引タンパク質3、インターロイキン6、グリア細胞株由来神経栄養因子、プロラクチン、マクロファージ炎症タンパク質-1a、ランテス(CCL5)、血管内皮細胞増殖因子-A、幹細胞因子)、抗体結合タンパク質(ProteinA、ProteinG、ProteinL等が挙げられる。
【0029】
タンパク質は、例えば、上述のタンパク質であってよく、上述のタンパク質の末端に被修飾部を付加、又は、末端が修飾部に置換されたものであってもよい。
【0030】
タンパク質ナノロッドは、複数のタンパク質分子が自己組織化して形成されたものであってよい。
【0031】
タンパク質ナノロッドの直径は、例えば0.1nm以上であってよく、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1.5nm以上である。また、タンパク質ナノロッドの直径は、例えば30nm以下であってよく、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下である。
【0032】
タンパク質ナノロッドの長さは、例えば10nm以上であってよく、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上である。また、タンパク質ナノロッドの長さは、例え500nm以下であってよく、好ましくは400nm以下、より好ましくは300nm以下である。
【0033】
タンパク質ナノロッドの長さ及び直径は、タンパク質の配列、分子量等によって調整することができる。
【0034】
タンパク質ナノファイバーは、タンパク質ナノロッドが軸方向に連結して形成されている。タンパク質ナノファイバーの直径は、例えば0.1nm以上であってよく、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1.5nm以上である。また、タンパク質ナノファイバーの直径は、例えば50nm以下であってよく、好ましくは20nm以下、より好ましくは5nm以下である。
【0035】
タンパク質ナノファイバーの直径は、タンパク質の配列、分子量等によって調整することができる。
【0036】
タンパク質ナノファイバーの長さは、例えば20nm以上であってよく、好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上である。また、タンパク質ナノファイバーの長さの上限は特に限定されず、その用途等に応じて適宜調整することができる。タンパク質ナノファイバー長さは、例えば100μm以下であってよく、10μm以下であってもよく、1μm以下であってもよい。
【0037】
タンパク質ナノファイバーの長さは、タンパク質ナノファイバーの形成時のタンパク質濃度、形成時間等によって調整することができる。
【0038】
(人工フィブロイン)
人工フィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってよい。人工フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0039】
本明細書において「人工フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。人工フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0040】
「人工フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0041】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0042】
本実施形態に係る人工フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0043】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)モチーフ-REP]、又は式2:[(A)モチーフ-REP]-(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
【0044】
天然由来のフィブロインの具体的な例としては、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0045】
本実施形態に係る人工フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。人工フィブロインとしては、難燃性により優れることから、改変クモ糸フィブロインが好ましい。
【0046】
人工フィブロインの具体的な例として、例えば、国際公開第2021/187502号に記載されるようなクモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する人工フィブロイン(第1の人工フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する人工フィブロイン(第2の人工フィブロイン)、(A)モチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する人工フィブロイン(第3の人工フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された人工フィブロイン(第4の人工フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する人工フィブロイン(第5の人工フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する人工フィブロイン(第6の人工フィブロイン)が挙げられる。
【0047】
人工フィブロインは、第1の人工フィブロイン、第2の人工フィブロイン、第3の人工フィブロイン、第4の人工フィブロイン、第5の人工フィブロイン、及び第6の人工フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ人工フィブロインであってもよい。
【0048】
(人工フィブロインの製造方法)
上記いずれの実施形態に係る人工フィブロインも、例えば、当該人工フィブロインをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
【0049】
人工フィブロインをコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロインをコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したフィブロインのアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、人工フィブロインの精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる人工フィブロインをコードする核酸を合成してもよい。
【0050】
調節配列は、宿主における人工フィブロインの発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、人工フィブロインを発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
【0051】
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、人工フィブロインをコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
【0052】
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
【0053】
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
【0054】
原核生物を宿主とする場合、人工フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
【0055】
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
【0056】
真核生物を宿主とする場合、人工フィブロインをコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
【0057】
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0058】
人工フィブロインは、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該人工フィブロインを生成及び蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
【0059】
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。
【0060】
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
【0061】
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
【0062】
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0063】
発現させた人工フィブロインの単離及び精製は通常用いられている方法で行うことができる。例えば、当該人工フィブロインが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
【0064】
また、人工フィブロインが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として人工フィブロインの不溶体を回収する。回収した人工フィブロインの不溶体はタンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により人工フィブロインの精製標品を得ることができる。当該人工フィブロインが細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該人工フィブロインを回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、その培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
【0065】
(タンパク質ナノファイバーの製造方法)
本実施形態のタンパク質ナノファイバーは、例えば、上述のタンパク質を、可溶化剤を含む溶解液に溶解させて、タンパク質含有溶液を得る第一の工程と、タンパク質含有溶液のタンパク質に対する溶解度を下げることにより、タンパク質ナノファイバーを得る第二の工程と、を含む製造方法により、製造することができる。
【0066】
可溶化剤としては、タンパク質を可溶化できるものであればよい。可溶化剤としては、ランダムコイル構造が形成されるようにタンパク質を可溶化できるものが好ましく、また、単量体として溶解されるようにタンパク質を可溶化できるものが好ましい。このような可溶化剤としては、例えば、尿素、塩酸グアニジウム(GuHCl)、チオシアン酸グアニジン(GTC)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、過塩素酸塩等を挙げることができ、これらのうち、尿素及び塩酸グアニジンが好ましい。
【0067】
タンパク質は、例えば、可溶化剤を含む水又はバッファーに溶解させることで可溶化することができる。バッファーとしては、例えば、トリス塩酸緩衝液(トリスヒドロキシメチルアミノメタン及び塩酸)、リン酸緩衝液(リン酸及びリン酸ナトリウム)、酢酸緩衝液(酢酸及び酢酸ナトリウム)、クエン酸緩衝液(クエン酸及びクエン酸ナトリウム)、ホウ酸緩衝液、MES(2-モルホリノエタンスルホン酸)緩衝液、Pipes(ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸))緩衝液、MOPS(3-モルホリノプロパンスルホン酸)緩衝液、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)緩衝液、トリシン緩衝液及びCAPS(3-シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸)緩衝液等が挙げられる。
【0068】
可溶化させるタンパク質の形態は特に限定されず、例えば、粉末状、液状等であってよい。
【0069】
可溶化として尿素を用いた場合の溶解方法としては、例えば、以下の方法をあげることができる。タンパク質の粉末試料3~7mgに尿素バッファー(6~8M尿素、10mM Tris HCl、pH7.0)を200~300μL加え、5分間振とう(1800rpm)させてタンパク質を溶解する。タンパク質を完全に溶解させるために超音波処理(20~30%、10秒、4~5回、インターバル5~10分)を行ってもよい。
【0070】
第一の工程は、濾過(例えばフィルタ濾過)、遠心分離等によって、タンパク質含有溶液中の不純物を除去することを含んでいてもよい。
【0071】
第二の工程では、タンパク質含有溶液のタンパク質に対する溶解度を下げることで、タンパク質の自己組織化によりタンパク質ナノファイバーが形成される。
【0072】
第二の工程で、溶解度を下げる方法としては、例えば、タンパク質含有溶液中の可溶化剤の濃度を低下させる方法が挙げられる。水の添加、有機溶媒の添加、低濃度の可溶化剤溶液の添加、上述のバッファーの添加等によって、可溶化の濃度を低下させることができる。また、透析によって、タンパク質含有溶液中の可溶化剤の濃度を低下させる方法も用いることができる。
【0073】
本実施形態のタンパク質は、図1に示すように、可溶化している状態では立体構造を形成しておらず、部分的に接触(図1(a)破線による○で示した箇所)しているにすぎないが、溶解度を徐々に低下させることにより、自己組織化し、円柱状のタンパク質ナノロッドが軸方向に連結したタンパク質ナノファイバーを形成する。
【0074】
第二の工程により形成されたタンパク質ナノファイバーは、例えば、遠心分離、フィルタ濾過等の方法により回収することができる。
【0075】
(修飾ナノファイバー)
本実施形態の修飾ナノファイバーは、タンパク質ナノファイバーの被修飾部の少なくとも一部を修飾して形成される。
【0076】
修飾ナノファイバーの用途は特に限定されず、例えば、再生医療における細胞足場材、DDS、創傷被覆材、バイオセンサー、触媒、フィルター、分子補足材、伝導フィルム等の用途に好適に用いることができる。
【0077】
修飾ナノファイバーは、例えば、タンパク質ナノファイバーの被修飾部の少なくとも一部に修飾部を結合して形成されたものであってよい。
【0078】
修飾部としては、例えば、分子捕捉部位、金属錯体部位、架橋性基、薬理活性部位、金属粒子部位、及び、機能性ペプチドからなる群より選択される少なくとも1つを含む修飾部が挙げられる。
【0079】
分子捕捉部位としては、例えば、抗体、アルブミン、シクロデキストリン、DNA/RNAアプタマー等が挙げられる。
【0080】
金属錯体部位としては、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)誘導体、EGTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)誘導体、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸)誘導体、メタロチオネイン、フェリチン、セルロプラスミン、アルブミン等が挙げられる。
【0081】
架橋性基は、架橋点となり得る官能基を示す。架橋性基としては、例えば、マレイミド、システイン、DOPA(3,4-ジヒドロオキシフェニルアラニン)誘導体、チロシン、グルタミン、リジン、一級アミン、カルボニル基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0082】
薬理活性部位としては、例えば、血圧降下ペプチド、血栓抑制ペプチド、オピオイドペプチド、ラクトフェリン、バクテリオリシン、抗菌ペプチド、経口免疫寛容ペプチド、インスリン、グルカゴン、成長因子(線維芽細胞成長因子、上皮成長因子、脳由来神経栄養因子、血管上皮細胞増殖因子、骨形成因子、毛様体神経栄養因子、インスリン様成長因子I、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターフェロンγ、レプチン、アクチビンA、単球化学誘引タンパク質3、インターロイキン6、グリア細胞株由来神経栄養因子、プロラクチン、マクロファージ炎症タンパク質-1a、ランテス(CCL5)、血管内皮細胞増殖因子-A、幹細胞因子)等が挙げられる。
【0083】
金属粒子部位としては、例えば、金ナノ粒子、白金ナノ粒子、銀ナノ粒子、銅ナノ粒子、ニッケルナノ粒子等が挙げられる。
【0084】
機能性ペプチドとしては、例えば、レクチン、プロテアーゼインヒビター、細胞接着ペプチド、Hisタグ配列、Strep(II)-tag(WSHPNFEK)、DOPA修飾ペプチド等が挙げられる。
【0085】
本実施形態の修飾ナノファイバーは、例えば、タンパク質ナノファイバーの被修飾部の少なくとも一部を修飾する修飾工程を含む、製造方法によって製造することができる。
【0086】
修飾の方法は特に限定されず、タンパク質ナノファイバーが有する被修飾部に応じて、公知の方法から適宜選択してよい。修飾の方法としては、例えば、ジスルフィド結合、DOPA相互作用(ジフェノール又はベンゼン環のスタッキングに起因する相互作用)、抗体結合等が挙げられる。
【0087】
被修飾部は、例えば、π-πスタッキング、カチオン-π相互作用、アニオン-π相互作用、金-金相互作用(オーロフィリック相互作用)、ハロゲン結合、インターカレーション、水素結合、ファンデルワールス力等の結合または作用により被修飾部を修飾することができる。
【0088】
本実施形態のタンパク質ナノファイバーは、例えば酵素処理等によって被修飾部の一部をタンパク質から除去することができる。すなわち、本実施形態の修飾ナノファイバーは、タンパク質ナノファイバーの被修飾部の一部を除去する除去工程と、当該除去工程を経たタンパク質ナノファイバーの被修飾部の少なくとも一部を修飾する修飾工程と、を含む製造方法によって製造されたものであってよい。
【0089】
本実施形態の修飾ナノファイバーは、例えば酵素処理等によって被修飾部をタンパク質ナノファイバーから切断することで、修飾部位を除去することができる。すなわち、本実施形態の修飾ナノファイバーは、タンパク質ナノファイバーの被修飾部の少なくとも一部を修飾する修飾工程と、当該修飾工程で修飾された被修飾部の少なくとも一部を除去する除去工程と、を含む製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0090】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例0091】
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
〔人工フィブロインの製造〕
(1)発現ベクターの作製
ネフィラ・クラビぺス(Nephila clavipes)由来のフィブロイン(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列をGenBankのウェブデータベースより取得した後、生産性の向上を目的としてアミノ酸残基の置換、挿入及び欠失を施し、さらにN末端にタグ配列及びヒンジ配列を付加して、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有する人工フィブロイン(PRT799)を設計した。設計した人工フィブロインをコードする核酸を合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。この核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
【0093】
(2)タンパク質の発現
得られた発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
【0094】
【表1】
【0095】
当該シード培養液を500mLの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
【0096】
【表2】
【0097】
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、人工フィブロインを発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とする人工フィブロインサイズのバンドの出現により、目的とする人工フィブロインの発現を確認した。
【0098】
(3)タンパク質の精製
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1mMのPMSFを含む20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社製)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100mg/mLの濃度になるように8M グアニジン緩衝液(8M グアニジン塩酸塩、10mM リン酸二水素ナトリウム、20mM NaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収することにより、人工フィブロイン(PRT799)を得た。
【0099】
実施例1
〔タンパク質ナノファイバーの製造〕
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むフィブロイン(PRT799)の粉末試料(1)を準備した。粉末試料(1)10mgに、尿素バッファー(6M尿素、10mM TrisHCl、pH7.0)を1mL加え、濃度が約10mg/mLになるように秤量した。数秒間卓上遠心を行ったあと、1分間ボルテックス処理を行った。一晩、室温で静置し、遠心分離(20℃、20000g、20分間)を行い、上澄みを別の容器に分取した。この上澄みを50℃で5分間熱処理を行ったあと、微量超音波ホモジナイザーQSONICA(ワケンビーテック株式会社製)を使用し、超音波処理をAmp20で120秒間行った。希釈溶液10mM TrisHCl、pH7.0を等量加え、溶媒が3M尿素になるように二倍希釈した。室温で一晩静置し、ナノファイバー溶液を得た。
【0100】
〔単量体試料の調整〕
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むフィブロイン(PRT799)の粉末試料(1)を準備した。1.5mLチューブにチオシアン酸グアニジンバッファー(5Mチオシアン酸グアニジン、10mM TrisHCl、pH7.0)を1mL分注し、濃度が約5mg/mLになるように秤量した。数秒間卓上遠心を行ったあと、1分間ボルテックス処理を行った。一晩、室温で静置し、遠心分離(20℃、20000g、20分間)を行い、上澄みを別の容器に分取した。この上澄みを50℃で5分間熱処理を行ったあと、微量超音波ホモジナイザーQSONICA(ワケンビーテック株式会社製)を使用し、超音波処理をAmp20で120秒間行った。8000MW cutoff、6.4mm幅の透析チューブ(BioDesign Inc.)を10cm程度にカットし、内部に上澄み液を入れて、尿素バッファー(6M尿素、10mM TrisHCl、pH7.0)を外液として透析(外液量 500mL、18時間以上)を行った。透析終了後、溶液を回収し、1mg/mLとなるように希釈し、単量体溶液を得た。
【0101】
〔βシート構造の確認〕
<ThT染色による蛍光強度測定>
βシート構造に強く反応するThTを用い、蛍光強度スペクトルによる解析を行った。蛍光スペクトルの測定には蛍光光度計RF-5300PC(株式会社島津製作所)を用いた。測定には、フィブロイン可溶化溶液に、蛍光色素チオフラビンT(ThT)を0.1mg/mlとなるように添加したものを用いた。
蛍光光度計による測定は、下記条件で行った。
測定範囲440~600nm
励起波長450nm
測定濃度1mg/ml
スキャンスピード Medium
測定回数 試料ごとに1回
本実施形態では、ThTによる蛍光強度測定で得られる蛍光強度スペクトルにおいて、480nm-500nmの範囲内にピークがあることが好ましい。この場合、タンパク質ナノファイバーがβシート構造を有していると言える。
測定の結果を図2に示す。図2に示すとおり、ナノファイバー溶液は、490nmに蛍光極大波長を持つスペクトルを示した。この結果から、タンパク質ナノファイバーがβシート構造を有することが確認された。
【0102】
〔修飾ナノファイバーの製造〕
ナノファイバー溶液25μLをマイカに添加して、30秒間サンプルをマイカ上で放置した。このマイカをMilliQ水で10秒間洗浄を3回繰り返し、残った水をエアスプレーで吹き飛ばして、ナノファイバーをマイカ上にキャストした。ナノファイバーがのっているマイカ上にNi-NTA-Nanogold(商品名、Nanoprobes社製)原液を25μL滴下し、10分間放置した。そのまま、このマイカをMilliQ水で10秒間洗浄を3回繰り返し、残った水をエアスプレーで吹き飛ばして金ナノ粒子を付加したナノファイバーを作成した。
【0103】
〔修飾ナノファイバーの評価〕
得られた修飾ナノファイバーについて、SPM(SPM-9700、島津製作所)でナノファイバーの形態を観察した。得られたAFM像を図3(a)に示す。なお、図3(b)は、修飾前のタンパク質ナノファイバーのAFM像を示す図である。
また、画像解析ソフトImage Jを用いてAFM像における金ナノ粒子間の距離を求め、ヒストグラムを作成した。作成されたヒストグラムを図4に示す。また、ガウスフィッティングを行ったところ、最も比率が高い金ナノ粒子間の距離は31.4nmと算出された。この結果から、基本単位のタンパク質ナノロッドの長さが約31nmであり、タンパク質ナノロッドの連結部に露出した被修飾部に、金ナノ粒子を含む修飾部が修飾されていることが確認された。
【0104】
実施例2
〔タンパク質ナノファイバーの製造〕
配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むフィブロインの粉末試料(2)を準備した。粉末試料として、粉末試料(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ナノファイバー溶液(2)を得た。
【0105】
〔βシート構造の確認〕
実施例1と同様にして、ThT染色による蛍光強度測定を行った。結果を図5に示す。図5に示すとおり、ナノファイバー溶液は、490nmに蛍光極大波長を持つスペクトルを示した。この結果から、タンパク質ナノファバイーがβシート構造を有することが確認された。
【0106】
〔修飾ナノファイバーの製造及び評価〕
ナノファイバー溶液(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして修飾ナノファイバーの製造を行った。
得られた修飾ナノファイバーについて、AFM(原子間力顕微鏡)観察を行った。得られたAFM像を図6(a)に示す。なお、図6(b)は、修飾前のタンパク質ナノファイバーのAFM像を示す図である。
また、画像解析ソフトImage Jを用いてAFM像における金ナノ粒子間の距離を求め、ヒストグラムを作成した。作成されたヒストグラムを図7に示す。また、ガウスフィッティングを行ったところ、最も比率が高い金ナノ粒子間の距離は34.2nmと算出された。この結果から、基本単位のタンパク質ナノロッドの長さが約34nmであり、タンパク質ナノロッドの連結部に露出した被修飾部に、金ナノ粒子を含む修飾部が修飾されていることが確認された。
【0107】
実施例3
〔タンパク質ナノファイバーの製造〕
配列番号2で示されるアミノ酸配列を含むフィブロインの粉末試料を準備した(配列番号2で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号3)を付加したADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである)。粉末試料10mgに、尿素バッファー(6M尿素、10mM TrisHCl、pH7.0)を1mL加え、濃度が約10mg/mLになるように秤量した。数秒間卓上遠心を行ったあと、1分間ボルテックス処理を行った。一晩、室温で静置し、遠心分離(20℃、20000g、20分間)を行い、上澄みを別の容器に分取した。この上澄みを50℃で5分間熱処理を行ったあと、微量超音波ホモジナイザーQSONICA(ワケンビーテック株式会社製)を使用し、超音波処理をAmp20で120秒間行った。希釈溶液10mM TrisHCl、pH7.0を等量加え、溶媒が3M尿素になるように二倍希釈した。室温で一晩静置し、ナノファイバー溶液を得た。
【0108】
〔修飾ナノファイバー(3-1)の製造〕
ナノファイバー溶液25μLをマイカに添加して、30秒間サンプルをマイカ上で放置した。このマイカをMilliQ水で10秒間洗浄を3回繰り返し、残った水をエアスプレーで吹き飛ばして、ナノファイバーをマイカ上にキャストした。ナノファイバーがのっているマイカ上にNi-NTA-Nanogold原液を25μL滴下し、10分間放置した。そのまま、このマイカをMilliQ水で10秒間洗浄を3回繰り返し、残った水をエアスプレーで吹き飛ばして金ナノ粒子を付加したナノファイバー(3-1)を作成した。
【0109】
〔酵素処理及び修飾ナノファイバー(3-2)の製造〕
ナノファイバー溶液25μLをマイカに添加して、30秒間サンプルをマイカ上で放置した。このマイカをMilliQ水で10秒間洗浄を3回繰り返し、残った水をエアスプレーで吹き飛ばして、ナノファイバーをマイカ上にキャストした。
PreScission Protease(商品名、Cytiva社製)1μL原液を希釈溶液10mM TrisHCl、pH7.0で100μLまで希釈し、25μLをマイカ上のナノファイバーに滴下した。乾燥しないように水を張ったトレイに入れて蓋をして14時間静置した。MilliQ水で10秒間洗浄を3回行い、残った水をエアスプレーで吹き飛ばした。
次いで、マイカ上のナノファイバーにNi-NTA-Nanogold原液を25μL滴下し、10分間放置した。そのまま、このマイカをMilliQ水で10秒間洗浄を3回繰り返し、残った水をエアスプレーで吹き飛ばして金ナノ粒子を付加したナノファイバー(3-2)を作成した。
【0110】
〔ナノファイバーの評価〕
得られた修飾ナノファイバー(3-1)及び(3-2)について、SPM(SPM-9700、島津製作所)でナノファイバーの形態を観察した。得られたAFM像を図8に示す。なお、図8(a)は修飾ナノファイバー(3-1)のAFM像を示す図であり、図8(b)は修飾ナノファイバー(3-2)のAFM像を示す図である。
また、画像解析ソフトImage Jを用いてAFM像における高さの情報から金ナノ粒子を同定し、100nm当たりの金ナノ粒子の個数を求めた結果を表3に示す。修飾ナノファイバー(3-1)の100nm当たりの金ナノ粒子の個数は1.79個であり、修飾ナノファイバー(3-2)の100nm当たりの金ナノ粒子の個数は1.11個であった。この結果から、酵素処理によって、タンパク質ナノファイバーの表面に露出した被修飾部(Hisタグ配列)の一部が切断され、吸着される金ナノ粒子が減少することが確認された。
【0111】
【表3】
【0112】
実施例4
〔タンパク質ナノファイバーの製造〕
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むフィブロイン(PRT799)の粉末試料を準備した。粉末試料10mgに、尿素バッファー(6M尿素、10mM TrisHCl、pH7.0)を1mL加え、濃度が約10mg/mLになるように秤量した。数秒間卓上遠心を行ったあと、1分間ボルテックス処理を行った。一晩、室温で静置し、遠心分離(20℃、20000g、20分間)を行い、上澄みを別の容器に分取した。この上澄みを50℃で5分間熱処理を行ったあと、微量超音波ホモジナイザーQSONICA(ワケンビーテック株式会社製)を使用し、超音波処理をAmp20で120秒間行った。希釈溶液10mM TrisHCl、pH7.0を等量加え、溶媒が3M尿素になるように二倍希釈した。室温で一晩静置し、ナノファイバー溶液を得た。
【0113】
〔単量体試料の調製〕
配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むフィブロイン(PRT799)の粉末試料を準備した。1.5mLチューブにチオシアン酸グアニジンバッファー(5Mチオシアン酸グアニジン、10mM TrisHCl、pH7.0)を1mL分注し、濃度が約5mg/mLになるように秤量した。数秒間卓上遠心を行ったあと、1分間ボルテックス処理を行った。一晩、室温で静置し、遠心分離(20℃、20000g、20分間)を行い、上澄みを別の容器に分取した。この上澄みを50℃で5分間熱処理を行ったあと、微量超音波ホモジナイザーQSONICA(ワケンビーテック株式会社製)を使用し、超音波処理をAmp20で120秒間行った。8000MW cutoff、6.4mm幅の透析チューブ(BioDesign Inc.)を10cm程度にカットし、内部に上澄み液を入れて、尿素バッファー(6M尿素、10mM TrisHCl、pH7.0)を外液として透析(外液量 500mL、18時間以上)を行った。透析終了後、溶液を回収し、1mg/mLとなるように希釈し、単量体溶液を得た。
【0114】
〔抗体の付加(ドットプロッティング)〕
Immuno-Blot PVDFメンブレン(BIO-RAD社)を5cm×7.5cmにカットし、メタノール溶液1mLに浸漬した後、MilliQ水で30分間浸水処理を行い、次いで尿素バッファー(6M尿素、10mM TrisHCl、pH7.0)で30分間浸水処理を行った。メンブレン上の指定した位置に、100ng/100μLの単量体溶液又はナノファイバー溶液を吸引によって、メンブレンへ吸着した。メンブレンをラップで包み、一晩静置後、TBS-T(250mM Tris、1.5M 塩化ナトリウム、0.05% Tween20)で洗浄し、TBS-Tを入れ替えて10分間の浸透を3回繰り返した。次に、ブロッキングバッファー(BIO-RAD社)5mLに浸し、1時間浸透し、また、TBS-T(250mM Tris、1.5M 塩化ナトリウム、0.05% Tween20)で洗浄し、TBS-Tを入れ替えて10分間の浸透を3回繰り返した。Hisタグ抗体0.8μLを8mLのブロッキングバッファーで10,000倍に希釈して、メンブレンを浸し、1時間浸透した。また、TBS-T(250mM Tris、1.5M 塩化ナトリウム、0.05% Tween20)で洗浄し、TBS-Tを入れ替えて10分間の浸透を5回繰り返した。
ケミルミ発光試薬キット(SuperSignal West Femto Maximum Sensitivity Substrate、Thermo Scientific社)に従い、2次抗体と基質を混ぜた溶液にメンブレンを染み込ませ、ChemDoc(BIO-RAD社)にて撮影した。撮影した発光の様子を図9に示す。各スポットの発光強度の平均値を図10に示す。
その結果、ナノファイバーでは強い発光を示し、単量体ではナノファイバーと比較して弱い発光しか示さなかった。この結果から、ナノファイバーでは被修飾部(Hisタグ配列を含む末端部分)が外側に露出ているのに対し、単量体ではフォールディング・分子間相互作用・凝集・立体障害等によってHisタグ配列を含む末端部分が覆われ、抗体が付着しにくい構造を有していると考えられる。よって、実施例4により、タンパク質ナノファイバーの修飾にあたって、タンパク質ナノロッドが軸方向に連結する構造、及び、連結部において被修飾部が露出している構造が重要であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023078675000001.app