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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078693
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】ロータリーエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 55/02 20060101AFI20230531BHJP
   F02B 53/12 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
F02B55/02 D
F02B53/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191944
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 博貴
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】小刀禰 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 亨
(72)【発明者】
【氏名】野本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】節家 淳
(72)【発明者】
【氏名】養祖 隆
(72)【発明者】
【氏名】菊地 拓哉
(57)【要約】
【課題】ロータリーエンジンの燃費性能を向上させる。
【解決手段】ロータ2の外周面2aのリセス7は、外周面中央Cに配置される第1凹部71と、第1凹部71に連続しかつL側に延びる第2凹部72とを備え、第1凹部は外周面中央Cを含みかつ該中央からL側に向かって所定長さL1を有する第1底面71aと、該第1底面からT側リセス端部7tまで傾斜しながら延びる第1傾斜面71bとを有する。ロータ外周面の長手方向に直交しかつロータの回転軸心Xを通る平面でリセスを横断したときのリセス断面積は、第1底面において最も大きくなり、第1底面と上記第1傾斜面との境界は上記中央と比べてT側に位置する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略楕円形状のトロコイド内周面を有するロータハウジングと、該ロータハウジングの両側に配置されて、該ロータハウジングと共にロータ収容室を形成するサイドハウジングと、上記ロータ収容室内に収容されて、該ロータ収容室内に3つの作動室を区画するとともに、回転によって各作動室を周方向に移動させながら、各作動室において吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を順に行なわせる略三角形状のロータと、上記ロータハウジングに設けられた点火プラグと、該点火プラグの作動を制御する制御部とを備え、上記ロータの上記作動室を区画する各外周面にリセスがそれぞれ形成されたロータリーエンジンであって、
上記ロータの外周面のリセスは、該外周面の長手方向の中央に配置されかつ上記ロータの回転方向に沿って延びる第1凹部と、該第1凹部に連続しかつ上記回転方向の前側に向かって延びる第2凹部とを備え、
上記第1凹部は、
上記中央を含みかつ該中央から上記前側に向かって所定長さを有する第1底面と、
上記回転方向の手前側に向かうにつれて上記第1凹部の深さが浅くなるように、上記第1底面から上記リセスにおける上記手前側の端まで傾斜しながら延びる第1傾斜面とを有し、
上記長手方向に直交しかつ上記ロータの回転中心を通過する平面で上記リセスを横断したときの該リセスの断面積は上記第1底面において最も大きくなり、上記第1底面と上記第1傾斜面との境界は上記中央と比べて上記回転方向の手前側に位置し、
上記制御部は、上記点火プラグが上記第2凹部と向かい合いかつ圧縮行程上死点以前の時期が点火時期となるように、上記点火プラグの作動を制御する
ことを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載されたロータリーエンジンにおいて、
上記長手方向に沿って見たとき、上記第1底面の長さは、上記第1傾斜面の長さよりも長い
ことを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたロータリーエンジンにおいて、
上記外周面の長手方向の中央から上記第1凹部および上記第2凹部の境界までの長さは、上記外周面の長手方向の中央から該外周面の上記前側の端までの長さの2/10以上4/10以下である
ことを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたロータリーエンジンにおいて、
上記外周面の長手方向の中央から上記リセスの上記手前側の端までの長さは、上記外周面の長手方向の中央から上記リセスの上記前側の端までの長さの2/10以上5/10以下である
ことを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載されたロータリーエンジンにおいて、
上記外周面の長手方向の中央から上記リセスの上記前側の端までの長さは、上記外周面の長手方向の中央から該外周面の上記回転方向の前側の端までの長さの7/10以上9/10以下である
ことを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のロータリーエンジンにおいて、
上記点火プラグは、上記ロータハウジングにおける、該ロータハウジングの短軸を挟んだ上記前側の位置に配置され、
上記制御部は、圧縮行程上死点前55°以下の範囲内に点火時期が収まるように、上記点火プラグの作動を制御する
ことを特徴とするロータリーエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、ロータリーエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーエンジンにおいては、トロコイド内周面を有するロータハウジングとロータの間に燃焼室が形成される。ロータの外周面には、その燃焼室を形成するリセス(凹み)が形成されている。例えば特許文献1には、そうしたロータのリセスについて記載されている。
【0003】
具体的に、上記特許文献1には、上記外周面の長手方向の中央からロータ回転方向の前側に延びるリーディング側凹部の容積を、ロータ回転方向の手前側に延びるトレーリング側凹部の容積よりも大きくすることが記載されている。上記特許文献1に記載されたリセスは、リーディング側凹部の容積を大きくすることで火炎の成長を促進し、アドバンス点火および着火遅れ期間の短縮を可能にして、燃焼重心のアドバンス化による熱効率の改善を狙ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-12410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、火炎の成長促進は、混合気の燃焼を早めたことで急峻な熱発生を招き得る。そのため、燃焼音、ガス漏れ等が懸念され、さらには冷却損失の悪化に伴って燃費性能の向上を図る上で不利になる。
【0006】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ロータリーエンジンの燃費性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、略楕円形状のトロコイド内周面を有するロータハウジングと、該ロータハウジングの両側に配置されて、該ロータハウジングと共にロータ収容室を形成するサイドハウジングと、上記ロータ収容室内に収容されて、該ロータ収容室内に3つの作動室を区画するとともに、回転によって各作動室を周方向に移動させながら、各作動室において吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を順に行なわせる略三角形状のロータと、上記ロータハウジングに設けられた点火プラグと、該点火プラグの作動を制御する制御部とを備え、上記ロータの上記作動室を区画する各外周面にリセスがそれぞれ形成されたロータリーエンジンに係る。
【0008】
上記ロータリーエンジンにおいて、上記ロータの外周面のリセスは、該外周面の長手方向の中央に配置されかつ上記ロータの回転方向に沿って延びる第1凹部と、該第1凹部に連続しかつ上記回転方向の前側に向かって延びる第2凹部とを備え、上記第1凹部は、上記中央を含みかつ該中央から上記前側に向かって所定長さを有する第1底面と、上記回転方向の手前側に向かうにつれて上記第1凹部の深さが浅くなるように、上記第1底面から上記リセスにおける上記手前側の端まで傾斜しながら延びる第1傾斜面とを有する。
【0009】
そして、本開示の第1の態様によれば、上記長手方向に直交しかつ上記ロータの回転中心を通過する平面で上記リセスを横断したときの該リセスの断面積は上記第1底面において最も大きくなり、上記第1底面と上記第1傾斜面との境界は上記中央と比べて上記回転方向の手前側に位置し、上記制御部は、上記点火プラグが上記第2凹部と向かい合いかつ圧縮行程上死点以前の時期が点火時期となるように、上記点火プラグの作動を制御する。
【0010】
以下、上記外周面の長手方向の中央を単に「外周面中央」と称し、上記回転方向の前側を「L側(Leading side)」と称し、上記回転方向の手前側を「T側(Trailing side)」と称し、上記圧縮行程上死点を「TDC」と称する場合がある。
【0011】
上記第1の態様によると、点火プラグは、TDCよりも早いタイミングで、第2凹部周辺の混合気に対して点火するようになっている。この点火によって生じた火炎は、概ね、点火プラグからL側に向かって吹き出すことになる。
【0012】
そして、ロータの回転に伴って、第2凹部に対してT側に位置する第1凹部の第1底面から上記火炎に混合気が供給されて、その混合気を燃やすことで火炎が成長していく。その後、第1底面よりもさらにT側に位置する第1傾斜面を通じて混合気が供給されて、その混合気を燃やし尽くすことで、一作動室における1サイクル分の燃焼が完了する。
【0013】
ここで、相対的に断面積が大きい第1底面は、単に第1傾斜面よりもL側に位置しているばかりでなく、上記外周面中央からL側に向かって延びている。そのため、この第1底面は、TDC以前のタイミング、つまり点火直後の燃焼前半のタイミングで上記火炎に混合気を供給することができる。
【0014】
一般に、TDCに近づくに従って外周面中央とロータハウジングとの隙間が狭くなってくる。しかしながら、第1底面の断面積を相対的に大きく形成したことで、当該断面積を小さく形成した場合と比較して、未燃混合気の流動性を確保しつつ、より多量の混合気を火炎に供給することができる。点火直後のタイミングに際し、より多量の混合気を燃焼させることができる。
【0015】
加えて、第1底面の断面積を相対的に大きくしたことで、混合気のスキッシュ流の流動を弱め、その流速を抑制することができる。すなわち、燃焼前半のうちに多量の混合気を燃焼させながらも、その燃焼を緩慢に進行させることが可能になる。その結果、急峻な熱発生を抑制し、燃焼音、ガス漏れ、および、冷却損失の増加に伴う燃費性能の悪化等を抑制することができる。
【0016】
しかも、第1底面が外周面中央を含むことから、TDC頃に、ロータハウジングの短軸位置よりもL側で成長する火炎に対するT側からの混合気の供給速度が大きくなること、すなわち、T側からL側への混合気の流動が強くなることが避けられる。よって、点火後の主燃焼の燃焼速度が大きくならず、言わば、燃焼が緩慢になって、熱発生が急になることが避けられる。このため、冷却損失が大きくならず、燃費の向上に有利であり、燃焼音の低減やガス漏れ防止の面でも有利になる。
【0017】
また、第1底面の断面積を最も大きくしたことは、第2凹部の断面積を相対的に小さくしたことに等しい。これにより、第2凹部付近の混合気は、第1凹部付近の混合気よりも高圧になる。これにより、未燃混合気への点火に際し、その着火性を高めることができる。また、第1底面の断面積を大きくした分、第2凹部の断面積を相対的に小さくしたことで、燃焼を緩慢にしながらも、エンジンの幾何学的圧縮比を維持して熱効率を確保することができる。
【0018】
また、外周面中央よりT側に第1傾斜面を設けたことで、TDC後の燃焼後半に際し、ロータハウジングの短軸位置よりT側から火炎が存するL側への混合気の流動を、この第1傾斜面を通じて円滑に進めることができる。これにより、いわゆる二段燃焼の発生または規模を抑制することができるから、冷却損失の抑制に有利になる。その際、第1傾斜面は、リセスのT側の端からL側の第1底面に至るまで徐々に深くなっている。L側に向かって徐々に深くすることで、第1凹部におけるスキッシュ流の流速を弱め、ひいては燃焼の緩慢化による燃費性能の向上を果たす上で有利になる。
【0019】
このように、上記第1の態様によれば、第1凹部から多量の混合気を供給しながらも、燃焼前半および燃焼後半の双方において緩慢な燃焼を実現することができる。これにより、燃焼音、ガス漏れ等を抑制しつつ、冷却損失を抑制して燃費性能を向上させることができる。また、第2凹部の断面積を上述の如く設定することで、燃費性能の向上にさらに有利になる。
【0020】
また、本開示の第2の態様によれば、上記長手方向に沿って見たとき、上記第1底面の長さは、上記第1傾斜面の長さよりも長い、としてもよい。
【0021】
上記第2の態様によると、第1凹部の全容積のうち、第1底面によって区画される容積の割合を増やすことが出来る。第1底面によって区画される容積は、第1傾斜面によって区画される容積よりも大きくなるため、第1凹部の全容積を拡大し、燃焼の緩慢化、ひいては燃費性能を向上させることができる。また、第1傾斜面の長さを相対的に短くした分、この第1傾斜面は、L側に向かって急峻に深くなる。これにより、第1傾斜面を通じたスキッシュ流の流速を弱め、ひいては燃焼の緩慢化による燃費性能の向上を果たす上で有利になる。
【0022】
また、本開示の第3の態様によれば、上記外周面の長手方向の中央から上記第1凹部および上記第2凹部の境界までの長さは、上記外周面の長手方向の中央から該外周面の上記前側の端までの長さの2/10以上4/10以下である、としてもよい。
【0023】
上記第3の態様によると、外周面中央に対してL側では、第1凹部の第1底面と比べて第2凹部が長く延びることになる。これによれば、EGRの導入等、エンジンの運転状態に応じて点火時期が変化したとしても、第2凹部から外れた位置に点火プラグを臨ませることなく、点火時に点火プラグと第2凹部とを向かい合わせることができるようになる。これにより、点火時期の変化を許容し、プラグ位置まで至る混合気の通り道を確保することが可能になる。
【0024】
また、本開示の第4の態様によれば、上記外周面の長手方向の中央から上記リセスの上記手前側の端までの長さは、上記外周面の長手方向の中央から上記リセスの上記前側の端までの長さの2/10以上5/10以下である、としてもよい。これにより、二段燃焼及び燃焼音を抑えつつ点火時期を大きく進角させることが可能になる。
【0025】
また、本開示の第5の態様によれば、上記外周面の長手方向の中央から上記リセスの上記前側の端までの長さは、上記外周面の長手方向の中央から該外周面の上記回転方向の前側の端までの長さの7/10以上9/10以下である、としてもよい。これにより、点火プラグを第2凹部に臨ませた状態で点火することができるロータの回転角度の範囲が広くなり、点火時期の進角に有利になる。
【0026】
また、本開示の第6の態様によれば、上記点火プラグは、上記ロータハウジングにおける、該ロータハウジングの短軸を挟んだ上記前側の位置に配置され、上記制御部は、圧縮行程上死点前25°以上55°以下の範囲内に点火時期が収まるように、上記点火プラグの作動を制御する、としてもよい。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、本開示によれば、ロータリーエンジンの燃費性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本開示の実施形態に係るロータリーエンジンの概要を示す斜視図。
図2】同エンジンのロータ及びロータハウジングを示す正面図。
図3】同ロータの外周面を示す平面図。
図4】同ロータの縦断面図。
図5】TDCでのロータとロータハウジングの隙間の大きさを示す断面図。
図6】リセス断面積の変化を示すグラフ。
図7】TDC前の点火時期におけるロータとロータハウジングとの関係を示す断面図。
図8】TDC前の燃焼前半におけるロータとロータハウジングとの関係を示す断面図。
図9】TDC後の燃焼後半におけるロータとロータハウジングとの関係を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
<ロータリーエンジンの全体構成>
図1は、本開示の実施形態に係るロータリーエンジン1(以下、単にエンジン1という。)の概要を示す斜視図である。また、図2は、そのエンジン1のロータ2およびロータハウジング3を示す正面図である。
【0031】
図1に示すエンジン1は、車両に搭載されるものであって、1つ又は複数のロータ2を備えている(図例では2つ)。各々ロータ2を収容する2つのロータハウジング3間にインターミディエイトハウジング4が設けられている。2つのロータハウジング3の両外側にサイドハウジング5が設けられている。1つのロータハウジング3に着目すれば、インターミディエイトハウジング4は、そのロータハウジング3の片側にあって、ロータハウジング3及びサイドハウジング5と共にロータ収容室31を形成するサイドハウジングであると位置付けることができる。
【0032】
図1では、エンジン1のフロント側(図1の右側)の一部を切り欠いてエンジン内部を示すとともに、リヤ側(図1の左側)のサイドハウジング5もエンジン内部を示すために分離して示している。図中の符号Xは、出力軸としてのエキセントリックシャフトの回転軸心である。
【0033】
図2に示すように、ロータハウジング3は、平行トロコイド曲線で描かれる回転軸心Xの方向から見て略楕円形状(俵型)のトロコイド内周面3aを有する。図1に示すように、ロータハウジング3の内周面とインターミディエイトハウジング4の両側の内側面4aとサイドハウジング5の内側面5aによってロータ収容室31が形成され、このロータ収容室31にロータ2が収容されている。インターミディエイトハウジング4の両側のロータ収容室31は、ロータ2の回転位相が異なっている点を除けば構成は同じである。
【0034】
ロータ2は、回転軸心Xの方向から見て各辺の中央部が外側に膨出した略三角形状をなし、その三角形の頂部間の略長方形状の外周面2aにリセス7が形成されている。ロータ2の三角形の各頂部に設けられたアペックスシール14がロータ2の回転に伴ってロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接する。このロータ2によって、図2に示すように、ロータ収容室31の内部が3つの作動室8に区画されている。
【0035】
ロータ2は、エキセントリックシャフト6の偏心輪6aに支持されていて、自転しながら、回転軸心Xの周りに該自転と同方向に公転する(この自転及び公転を含めて、広い意味で単にロータ2の回転という)。そして、ロータ2が1回転する間に3つの作動室8が周方向に移動し、それぞれで吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程が行われる。これにより発生する回転力がロータ2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
【0036】
図2において、ロータ2は矢印で示すように時計回り方向に回転し、回転軸心Xを通るロータ収容室31の長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の左側が概ね吸気行程及び排気行程の領域となり、右側が概ね圧縮行程及び膨張行程の領域となる。
【0037】
図1に示すように、インターミディエイトハウジング4の内側面4aとサイドハウジング5の内側面5aにおける上記吸気行程及び排気行程の領域に対応する部位に、吸気ポート11~13及び排気ポート10が開口している。図示は省略しているが、吸気行程ないし圧縮行程の作動室8に燃料を噴射する燃料噴射弁がロータハウジング3の頂部に設けられている。
【0038】
図2に示すように、ロータハウジング3の側部における、回転軸心Xを通るロータ収容室31の短軸Zを挟んだロータ2の回転方向(以下、「ロータ回転方向」という)のL側の位置に、点火プラグ9が電極部をロータ収容室31側に露出させて取り付けられている。なお、長軸Yと短軸Zは互いに直交している。
【0039】
図示は省略するが、エンジン1は、排気ガスの一部を吸気通路に還流するEGR装置を備え、エンジン1の運転状態に応じて排気ガスの還流が行われる。
【0040】
また、エンジン1は、吸気スロットル弁、燃料噴射弁、点火プラグ9及びEGR装置の作動を含めて、上記エンジン1の作動を制御する制御部としてのコントロールユニットを備えている。
【0041】
<コントロールユニットについて>
コントロールユニットは、マイクロコンピュータをベースとするものであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、信号入出力(I/O)バスとを備えている。コントロールユニットには、車両のアクセル開度センサ、車速センサ、エンジン回転角センサ、空燃比センサ、エンジン水温センサ、エアフローセンサ等からの各種情報の信号が入力される。
【0042】
コントロールユニットは、各種センサからの入力信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判定する。コントロールユニットは、判定された運転状態に応じて、スロットル弁の開度、EGR装置によるEGR率、各作動室8における点火プラグ9による点火時期、燃料噴射弁による燃料噴射量及び燃料噴射タイミングの制御を行う。
【0043】
点火プラグ9による点火時期については、圧縮行程上死点前(Before Top Dead Center:BTDC)55°以下、好ましくは30°以上50°以下の範囲内に収まるように設定し、該設定に基づいて点火プラグ9の点火コイルの通電時期を制御する。
【0044】
点火時期は、燃焼重心が圧縮行程上死点後(After Top Dead Center:ATDC)10°~30°の熱効率が高い適切な位置にくるように、EGR率に応じて制御される。なお、図2において鎖線で示すように、ロータ2の頂点の1つが点火プラグ9の反対側において短軸Z上に位置付けられているとき、当該頂点の反対側に位置する作動室8がTDCになっている。
【0045】
EGR率が高くなるほど着火遅れ期間が長くなるとともに、燃焼重心がリタードしていく。そこで、EGR率に応じて着火遅れ期間を設定するとともに、EGR率に応じて目標熱発生開始時期(見掛けの熱発生開始の目標時期)を設定する。そうして、目標熱発生開始時期から着火遅れ期間だけ進角した時期が点火プラグ9の点火時期とされる。
【0046】
<ロータのリセスについて>
図3は、ロータ2の外周面2aを示す平面図である。また、図4は同ロータ2の縦断面図であり、図5はTDCでのロータ2とロータハウジング3の隙間の大きさを示す断面図である。また図6は、リセス断面積の変化を示すグラフである。
【0047】
ここで、図4は、図3のIV-IV断面に相当する。そして、その図4における第2凹部72のa-a断面が図5の上図(a)に相当し、第1凹部71における第1底面71aのb-b断面が図5の中央図(b)に相当し、第1凹部71における第1傾斜面71bのc-c断面が図5の下図(c)に相当する。
【0048】
また図6は、リセス断面積がロータ外周面2aの長手方向においてどのように変化しているかを示す。図6の横軸はロータ外周面2aの長手方向の中央を原点(0)としてL側をプラス、T側をマイナスで表した位置座標(単位mm)である。より正確には、ロータ外周面2aの両端に位置するアペックスシール14を結んだ直線上で測った長さ位置が、ここでいう位置座標に相当する。なお、図6において、符号9aは点火プラグ9のプラグホールである。
【0049】
(リセスの全体構成)
図3に示すように、ロータ2の外周面(以下、「ロータ外周面」という。)2aに形成されたリセス7は、ロータ回転方向に長く延びている。ロータ回転方向におけるリセス7の中央は、ロータ外周面2aの長手方向の中央(以下、「外周面中央」という。)CよりもL側にオフセットしている。
【0050】
これにより、上記外周面中央Cからリセス7のL側の端(以下、「L側リセス端部」という。)7lまでの長さLlは、該外周面中央Cからリセス7のT側の端(以下、「T側リセス端部」という)7tまでの長さLtよりも長くなる(Ll>Lt)。なお、ここでいう「長さ」とは、いずれもロータ外周面2aに沿って測った長さをいう。特段の記載がない限り、以下に登場する種々の「長さ」についても同様である。また、「外周面中央C7」は、ロータ2の中心角でいえば4~8゜程度の広がりを有する部分をいう。
【0051】
具体的に、外周面中央CからT側リセス端部7tまでの長さLtが、同じく外周面中央CからL側リセス端部7lまでの長さLlの2/10以上5/10以下である(後者の長さLlが、前者の長さLtの2倍以上5倍以下である)ことが好ましく、さらに好ましくは略1/4である。
【0052】
また、外周面中央CからL側リセス端部7lまでの長さ(リセス7全体のL側の開始位置)Llは、外周面中央Cからロータ外周面2aのL側の端までの長さLaの7/10以上9/10以下の範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは3/4である。一方、外周面中央CからT側リセス端部7tまでの長さ(リセス7全体のT側の開始位置)Ltは、外周面中央Cからロータ外周面2aのL側の端までの長さLaの18/100以上36/100以下の範囲にあることが好ましい。
【0053】
そして、本実施形態に係るリセス7は、該外周面中央Cに配置されかつロータ回転方向に沿って延びる第1凹部71と、該第1凹部71に連続しかつL側に向かって延びる第2凹部72とを備えている。リセス7の容積は、作動室8の幾何学的圧縮比が9.7以上となるように設定されている。
【0054】
これら2つの凹部71~72は、それぞれ、ロータ外周面2aの長手方向に所定長さL1~L2を有する底面71a~72aを有している。具体的に、第1凹部71は、上記長手方向に第1長さL1を有する第1底面71aを備えている。第2凹部72は、上記長手方向に第2長さを有する第2底面72aを備えている。
【0055】
図4に示すように、第1凹部71は、第2凹部72よりも深く陥没した形状となっている。例えば本実施形態では、第1底面71aの深さD1が、第2底面72aの深さD2よりも深くなっている(図5を参照)。
【0056】
なお、ここでいう「深さ」とは、ロータ外周面2aに直交しかつ回転軸心Xに向かって延びる直線に沿って測定される深さをいう。特に本実施形態では、そうした直線に沿って測定される深さのうち、特にロータ幅方向における最大深さを「深さ」とみなす。
【0057】
具体的に、第2底面72aの深さD2は、第1底面71aの深さD1の1/2以上3/4以下とすることができ、好ましくは略2/3とすることができる。
【0058】
また、図3に示すように、第1凹部71は、ロータ外周面2aの短手方向(ロータ幅方向)において、第2凹部72よりも若干幅広の形状となっている。すなわち、本実施形態では、第1凹部71における第1底面71aの幅W1は、第2凹部72における第2底面72aの幅W2よりも長くなっている。なお、ここでいう「幅」とは、ロータ外周面2aの短手方向に沿って測定される深さをいう。
【0059】
(第1凹部の詳細)
さらに詳しくは、本実施形態に係る第1凹部71は、外周面中央Cを含む第1底面71aと、当該中央Cと比べてT側に配置された第1傾斜面71bと、第1凹部71を第2凹部72に連接する第2傾斜面71cとを有している。第1傾斜面71b、第1底面71aおよび第2傾斜面71cは、T側からL側に向かってこの順番で連続している。
【0060】
第1底面71aは、外周面中央CからL側に向かって延びており、長手方向に所定長さ(以下、「第1長さ」という)L1を有する。外周面中央Cから第1底面71aのT側の端(第1底面71aと第1傾斜面71bとの境界)までの長さは、第1底面71aのL側の端(第1底面71aと第2傾斜面71cとの境界)までの長さよりも短い。第1底面71aは、ロータ2の回転軸心Xから延びかつ外周面中央Cを貫く直線と直交するように延びている。
【0061】
第1傾斜面71bは、第1底面71aのT側の端と連続しており、T側に向かって第1凹部71の深さが浅くなるように、第1底面71aからT側リセス端部7tまで傾斜しながら延びている。第1傾斜面71bは、T側に向かって徐々に深さを浅くするようにかつ徐々に幅狭となる傾斜面として構成されており、その深さがゼロになるまで滑らかに延びている。第1底面71aと第1傾斜面71bとの境界は、外周面中央Cと比べてT側に位置する。
【0062】
一方、第2傾斜面71cは、第1底面71aのL側の端と連続しており、L側に向かって第1凹部71の深さが浅くなるように、第1底面71aから上記第2凹部72まで傾斜しながら延びている。第2傾斜面71cは、L側に向かって徐々に深さを浅くするようにかつ徐々に幅狭となる傾斜面として構成されており、第2底面72aのT側の端に至るまで滑らかに延びている。
【0063】
第1底面71aは、第1傾斜面71bおよび第2傾斜面71cと比べて平坦な平面をなす。このことは、第1底面71aにおける断面積が、第1傾斜面71bおよび第2傾斜面71cにおける断面積よりも緩やかに変化していることに等しい。
【0064】
例えば図6に示すように、リセス7の断面積は、第1底面71aに対応する第1範囲R1では略一定となり、第1傾斜面71bおよび第2傾斜面71cに対応する範囲(第1範囲R1の紙面左右に隣接する範囲)では相対的に急峻に減少するようになっている。
【0065】
また、第1底面71aは、前述のように、ロータ外周面2aの長手方向に沿って、所定の長さ範囲(第1長さL1)にわたって延びている。長手方向に沿って見たとき、この第1長さL1は、図3に示すように、第2底面72aの長さ範囲(第2長さL2)と同程度であり、かつ第1傾斜面71bおよび第2傾斜面71cの長さよりも長い。
【0066】
具体的に、第1長さL1は、第2長さL2の8/10以上12/10以下とすることが好ましく、さらに好ましくは略9/10である。また、外周面中央Cから第1凹部71および第2凹部72の境界までの長さ(言い換えると、外周面中央Cから第2傾斜面71cまでの長さ)は、外周面中央Cからロータ外周面2aのL側の端までの長さLaの2/10以上4/10以下である。
【0067】
また、長手方向に沿って見たとき、第1傾斜面71bの長さ(第3長さL3)は、第2傾斜面71cの長さよりも長い。具体的に、第3長さL3は、第1長さL1の4/10以上8/10以下とすることが好ましく、さらに好ましくは略6/10である。また、外周面中央Cから第1底面71aおよび第1傾斜面71bの境界までの長さLcは、外周面中央Cからロータ外周面2aのL側の端までの長さLaの1/20以上3/20以下とすることが好ましい。
【0068】
(第2凹部の詳細)
一方、第2凹部72は、上記第2底面72aに加えて、該第2底面72aを上記L側リセス端部7lに接続する第3傾斜面72bを有している。第2底面72aおよび第3傾斜面72bは、T側からL側に向かってこの順番で連続している。
【0069】
第3傾斜面72bは、第2底面72aから上記L側リセス端部7lに向かって徐々に浅くなるように傾斜するとともに、徐々に幅狭となる傾斜面として構成されており、その深さがゼロになるまで滑らかに延びている。一方、第2底面72aは、第2底面72aと比べて平坦な平面をなす。このことは、第2底面72aにおける断面積が、第3傾斜面72bにおける断面積よりも緩やかに変化していることに等しい。
【0070】
例えば図6に示すように、リセス7の断面積は、第2底面72aに対応する第2範囲R2では略一定となり、第3傾斜面72bに対応する範囲(第1範囲R1の紙面右側に隣接する範囲)では相対的に急峻に減少するようになっている。
【0071】
また、第2底面72aは、前述のように、ロータ外周面2aの長手方向に沿って、所定の長さ範囲(第2長さL2)にわたって延びている。長手方向に沿って見たとき、この第2長さL2は、上記第1長さL1と同様に第1傾斜面71bおよび第2傾斜面71cの長さよりも長くなっているとともに、第3傾斜面72bの長さと比べてもより長くなっている。
【0072】
(断面積のさらなる詳細)
このように、第1凹部71および第2凹部72それぞれの底面71a,72aを比較したとき、第1凹部71の第1底面71aは、第2凹部72の第2底面72aと比べて、幅広かつより深く形成されている。
【0073】
また、図5に示すように、第1底面71aおよび第2底面72aは、ロータ幅方向に平坦に広がり両側部が円弧状に立ち上がっている。したがって、ロータ外周面2aの長手方向に直交しかつロータ2の中心を通る平面でリセス7を横断したときのリセス7の断面積(以下、「リセス断面積」ともいう。)は、リセス7の深さに略対応する大きさとなっている。
【0074】
そのため、上述した幅および深さの大小関係に鑑みると、本実施形態に係るリセス断面積は、第1底面71aにおいて最大となる。第1底面71aの深さD1が略一定であることを考慮すると、リセス断面積は、外周面中央Cにおいて最大となると言い換えることもできる。
【0075】
具体的に、第1底面71aの断面積を第1断面積とし、第2底面72aの断面積を第2断面積とすると、リセス断面積は、
第1断面積>第2断面積 …(A)
の関係を満足することになる。
【0076】
また前述のように、本実施形態に係る第1底面71aおよび第2底面72aは、底面同士を接続する第2傾斜面71c等と比べて平坦に構成されているため、それぞれ、相対的に略一定の断面積を有する。
【0077】
そのため、上述した(A)の関係は、長手方向における第1底面71aおよび第2底面72aの略全域で満足されることになる。
【0078】
例えば図6に示すように、第2断面積(図6の範囲R2を参照)は、第1断面積(図6の範囲R1を参照)の1/2以上3/4以下とすることができる。より詳細には、リセス断面積は、第1底面71aに対応する第1範囲R1(原点0からT側に-10mmかつL側に+30mmの範囲)が最も大きい。この範囲からL側に向かって第1凹部71の全長の1/6程度の長さまでに、リセス断面積は、第1範囲R1におけるリセス断面積(第1断面積)の1/2以上3/4以下の大きさになるように漸次減少している。そこから、リセス断面積は、L側に向かって第2範囲R2を通過するまでは、第1範囲R1におけるリセス断面積の1/2以上3/4以下の大きさのまま略一定であり、その後、第2範囲R2の全長の1/6程度の距離でL側リセス端部7lに到達し、リセス断面積がゼロになっている。
【0079】
また、T側では、第1底面71aのT側に第1傾斜面71bが位置していることから、リセス断面積は、その第1範囲R1からT側リセス端部7tに至るまで漸次連続的に小さくなっている。
【0080】
また、第1底面71aと第1傾斜面71bとの境界は、外周面中央Cと比べてT側に位置している。つまり、第1底面71aは、外周面中央Cを通過するようにT側からL側にかけて延びており、第1傾斜面71bおよび第2底面72aと比べて大きな容積を有するようになっている。一方、第1傾斜面71bは、長手方向の長さ(第3長さL3)が相対的に短い分、第1底面71aおよび第2底面72aと比べて小さな容積を有することになる。
【0081】
<作用効果>
図7は、TDC前の点火時期におけるロータ2とロータハウジング3との関係を示す断面図である。また、図8は、TDC前の燃焼前半におけるロータ2とロータハウジング3との関係を示す断面図であり、図9は、TDC後の燃焼後半におけるロータ2とロータハウジング3との関係を示す断面図である。
【0082】
エンジン1の運転に際し、点火プラグ9は、TDCよりも早いタイミングで、第2凹部72周辺の混合気に対して点火するようになっている(図7参照)。この点火によって生じた火炎は、点火プラグ9からL側に向かって吹き出すことになる。
【0083】
その後、ロータ2の回転に伴って、第2凹部72に対してT側に位置する第1凹部71、特にその第1底面71aから上記火炎に混合気が供給されて、その混合気を燃やすことで火炎が成長していく(図8参照)。
【0084】
その後、第1底面71aよりもさらにT側に位置する第1傾斜面71bを通じて混合気が供給されて、その混合気を燃やし尽くすことで、一作動室8における1サイクル分の燃焼が完了する(図9参照)。
【0085】
ここで、図5等を用いて説明したように、相対的に断面積が大きい第1底面71aは、単に第1傾斜面71bよりもL側に位置しているばかりでなく、上記外周面中央CからL側に向かって延びている。そのため、この第1底面71aは、TDC以前のタイミング、つまり点火直後の燃焼前半のタイミングで上記火炎に混合気を供給することができる。
【0086】
図5の(a)および(b)の比較、ならびに、同図の(b)および(c)の比較から見て取れるように、一般に、TDCに近づくに従ってロータ外周面2aとロータハウジング3との隙間が狭くなってくる。しかしながら、上記実施形態のように第1凹部71の断面積を相対的に大きく形成したことで、当該断面積を小さく形成した場合と比較して、未燃混合気の流動性を確保しつつ、より多量の混合気を火炎に供給することができる。点火直後のタイミングに際し、より多量の混合気を燃焼させることができる。
【0087】
加えて、第1底面71aの断面積を相対的に大きくしたことで、混合気のスキッシュ流の流動を弱め、その流速を抑制することができる。すなわち、燃焼前半のうちに多量の混合気を燃焼させながらも、その燃焼を緩慢に進行させることが可能になる。その結果、急峻な熱発生を抑制し、燃焼音、ガス漏れ、および、冷却損失の増加に伴う燃費性能の悪化等を抑制することができる。
【0088】
しかも、第1底面71aが外周面中央Cを横断することから、TDC頃に、ロータハウジング3の短軸位置よりもL側で成長する火炎に対するT側からの混合気の供給速度が大きくなること、すなわち、T側からL側への混合気の流動が強くなることが避けられる。よって、点火後の主燃焼の燃焼速度が大きくならず、言わば、燃焼が緩慢になって、熱発生が急になることが避けられる。このため、冷却損失が大きくならず、燃費の向上に有利であり、燃焼音の低減やガス漏れ防止の面でも有利になる。
【0089】
また、第1底面71aの断面積を最も大きくしたことは、第2凹部72の断面積を相対的に小さくしたことに等しい。これにより、第2凹部72付近の混合気は、第1凹部71付近の混合気よりも高圧になる。これにより、未燃混合気への点火に際し、その着火性を高めることができる。また、第1底面71aの断面積を大きくした分、第2凹部72の断面積を相対的に小さくしたことで、燃焼を緩慢にしながらも、エンジン1の幾何学的圧縮比を維持して熱効率を確保することができる。
【0090】
また、外周面中央CよりT側に第1傾斜面71bを設けたことで、TDC後の燃焼後半に際し、ロータハウジング3の短軸位置よりT側から火炎が存するL側への混合気の流動を、この第1傾斜面71bを通じて円滑に進めることができる。これにより、いわゆる二段燃焼の発生または規模を抑制することができるから、冷却損失の抑制に有利になる。その際、第1傾斜面71bは、T側リセス端部LtからL側の第1底面71aに至るまで徐々に深くなっている。L側に向かって徐々に深くすることで、第1凹部71におけるスキッシュ流の流速を弱め、ひいては燃焼の緩慢化による燃費性能の向上を果たす上で有利になる。
【0091】
このように、上記実施形態によれば、第1凹部71から多量の混合気を供給しながらも、燃焼前半および燃焼後半の双方において緩慢な燃焼を実現することができる。これにより、燃焼音、ガス漏れ等を抑制しつつ、冷却損失を抑制して燃費性能を向上させることができる。また、第2凹部72の断面積を上述の如く設定することで、燃費性能の向上にさらに有利になる。
【0092】
また、図3等に示すように、第1底面71aの長さ(第1長さL1)を第1傾斜面71bの長さ(第3長さL3)よりも長くすることで、第1凹部71の全容積のうち、第1底面71aによって区画される容積の割合を増やすことが出来る。第1底面71aによって区画される容積は、第1傾斜面71bによって区画される容積よりも大きくなるから、第1凹部71の全容積を拡大し、燃焼の緩慢化、ひいては燃費性能を向上させることができる。また、第1傾斜面71bの長さを相対的に短くした分、この第1傾斜面71bは、L側に向かって急峻に深くなる。これにより、第1傾斜面71bを通じたスキッシュ流の流速を弱め、ひいては燃焼の緩慢化による燃費性能の向上を果たす上で有利になる。
【0093】
また、外周面中央Cから第1凹部71および第2凹部72の境界までの長さは、外周面中央Cからロータ外周面2aのL側の端までの長さLaの2/10以上4/10以下とされる。
【0094】
これによれば、図6の0mm以上の区間に示すように、図中の原点に相当する外周面中央Cに対してL側では、第1凹部71の第1底面71aと比べて第2凹部72が長く延びることになる。そのことで、EGRの導入等、エンジン1の運転状態に応じて点火時期が変化したとしても、第2凹部72から外れた位置に点火プラグ9を臨ませることなく、点火時に点火プラグ9と第2凹部72とを向かい合わせることができるようになる。これにより、点火時期の変化を許容し、プラグ位置まで至る混合気の通り道を確保することが可能になる。
【0095】
また、図3に示したように、外周面中央CからT側リセス端部7tまでの長さは、当該中央CからL側リセス端部7lまでの長さの2/10以上5/10以下に設定される。これにより、二段燃焼及び燃焼音を抑えつつ点火時期を大きく進角させることが可能になる。
【0096】
また、外周面中央CからL側リセス端部7lまでの長さLlは、外周面中央Cから該外周面のL側の端までの長さLaの7/10以上9/10以下に設定される。これにより、点火プラグ9を第2凹部72に臨ませた状態で点火することができるロータ2の回転角度の範囲が広くなり、点火時期の進角に有利になる。
【0097】
《他の実施形態》
上記実施形態では、第1傾斜面71bおよび第2傾斜面71cは、それぞれ第1凹部71の一要素として定義されていたが、この定義は、便宜上のものにすぎない。例えば、第2傾斜面71cを第2凹部72の一要素としてもよい。上述した(A)の関係は、そうした定義に関わらず成立するものである。
【0098】
また、第1底面71aおよび第2底面72aは、上記回転方向に沿って傾斜または湾曲していてもよい。これらの底面は、底面同士を接続する第2傾斜面71cや、底面をリセス7の端に接続する第3傾斜面72b等と比べて、相対的に緩慢に変化するような断面積を有していればよい。
【符号の説明】
【0099】
1 ロータリーエンジン
2 ロータ
2a ロータ外周面
3 ロータハウジング
3a トロコイド内周面
4,5 サイドハウジング
7 リセス
71 第1凹部
71a 第1底面
71b 第1傾斜面
72 第2凹部
72a 第2底面
7l L側リセス端部(リセスの前側の端)
7t T側リセス端部(リセスの手前側の端)
8 作動室
9 点火プラグ
31 ロータ収容室
L1 第1長さ(第1底面の長さ)
L2 第2長さ(第2凹部の底面の長さ)
L3 第3長さ(第1傾斜面の長さ)
C 外周面中央(外周面の長手方向の中央)
X 回転軸心
Z 短軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9