(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078711
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】コアシェル型複合顆粒、コアシェル型複合顆粒を用いて作製した無機複合材料及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/025 20220101AFI20230531BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C01F7/025
C04B35/622
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191967
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】武藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】中園 大聖
(72)【発明者】
【氏名】横井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】タン ワイ キアン
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優作
(72)【発明者】
【氏名】河村 剛
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB02
4G076AC10
4G076BA13
4G076BA27
4G076BE11
4G076BF05
4G076CA03
4G076CA26
4G076DA20
4G076FA01
(57)【要約】
【課題】 構造が制御されたセラミックスなどの無機材料の原料粉末を好適に利用できるような複合粉末粒子とそれにより作製された構造制御された無機複合材料を提供すること。
【解決手段】 コアシェル型の複合顆粒は、マトリックス材料の粒子からなるコア部と、周方向に配向した棒状または平板状に形成された機能性粒子とマトリックス材料の粒子からなるシェル部とを有する。複合無機材料は、コアシェル型の複合顆粒によってグリーン体を形成し焼結することによって、海島構造を有し、かつ、海部の機能性粒子が配向している2段階の構造制御されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の無機材料の粒子からなるコア部と、該コア部の表面に付着されたシェル部とを有するコアシェル型の複合顆粒であって、前記コア部は、第一の無機材料による複数の粒子が球状に凝集された顆粒状であり、前記シェル部は、前記第一の無機材料による複数の粒子と棒状または平板状に形成された第二の無機材料による複数の粒子との混合物によって構成され、前記第二の無機材料による粒子が長軸を前記コア部の周方向に配向した状態で付着されていることを特徴とするコアシェル型の複合顆粒。
【請求項2】
請求項1に記載のコアシェル型の複合顆粒の製造方法であって、
コア部形成工程と、シェル部付着工程とを含み、
前記コア部形成工程は、
第一の無機材料の粒子の表面電荷を正に調整する工程と、
第一の無機材料の粒子の表面電荷を負に調整する工程と、
前記正に帯電した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液と負に帯電した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液とを混合し、前記混合液を円筒状の容器に入れ、前記円筒状容器を円周方向に回転して複合顆粒のコア部顆粒を形成する工程とを含み、
前記シェル部付着工程は、
棒状もしくは平板状の第二の無機材料の粒子の表面電荷を正または負に調整する工程と、
表面電荷を正または負に調整した棒状もしくは平板状の第二の無機材料の粒子の水系溶媒分散液と少なくともこれとは逆の電荷に調整した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液とを水系溶媒中で混合し、この混合液をコア部形成工程で作製したコア部顆粒の水系分散液に加えてさらにこの混合液を円筒状の容器に入れ、前記円筒状容器を円周方向に回転することでコア部顆粒の表面にシェル部を形成する工程とを含むものである
ことを特徴とするコアシェル型の複合顆粒の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のコアシェル型の複合顆粒を使用する無機複合材料であって、複数の前記複合顆粒によって形成され、前記コア部からなる島部と前記シェル部からなる海部とを有する海島構造であり、
前記海部に含有する棒状または平板状の第二の無機材料の粒子の長軸が前記島部の境界線方向に配向していることを特徴とする無機複合材料。
【請求項4】
前記棒状または平板状の第二の無機材料の粒子は、その特性に異方性があり、短軸または厚み方向の特性と長軸または面方向との特性が相互に異なることを特徴とすることを特徴とする請求項3に記載の無機複合材料。
【請求項5】
前記特性は、熱伝導性または電子伝導性であり、短軸もしくは厚み方向の特性よりも長軸もしくは面方向の熱伝導性または電子伝導性が高いことを特徴とすることを特徴とする請求項4に記載の無機複合材料。
【請求項6】
請求項3に記載の無機複合材料の製造方法であって、
前記コアシェル型の複合顆粒を適宜集合させてグリーン体を作製する工程と、前記グリーン体を焼結する工程とを含むことを特徴とする無機複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックスや金属などの焼結体の原料粉体となるコアシェル型複合顆粒、コアシェル型複合顆粒を用いて作製した無機複合材料及びそれらの製造方法に関し、詳しくは、シェル部に機能性粒子が配向したコアシェル型複合顆粒、該コアシェル型複合顆粒を用いて作製した、機能性粒子の配置、配向を制御した無機複合材料及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス材料は構造材として、また耐熱材として様々な分野において用いられており、集積回路の基板やパッケージ、焼成用容器やセッター、電気炉の炉心管などとして広く普及している。このセラミックス材料は、一般に、原料粉末を乾式や湿式の成形法によってグリーン体を成形し、グリーン体を焼結して製造される。さらに、近年、機能性を有する微粒子(機能性微粒子)をマトリックスとなるセラミック粉末と混合して、セラミックス材料を高機能化、高特性化する検討が盛んに行われている。
【0003】
一般にマトリックス中に機能性微粒子を添加した機能性を有する複合材料において、例えば電子伝導性や熱導電性などを付与するにはマトリックス中で機能性微粒子が接触してパスを形成することが必要でマトリックス中の機能性微粒子の比率が閾値を超えると急激に機能が発現する(パーコレーション転移)。パーコレーション転移を起こすには機能性微粒子の形状や配置が大きく影響する。ポリマー材料の複合材料の例では、特許文献1には短軸平均粒子径が0.005~0.05μmであり、長軸平均粒子径が0.1~3μmであり、かつアスペクト比が5以上である針状導電性酸化錫微粉末が開示され、少量の導電性付与剤でも導電路を有効に形成することが可能であることが記載されている。非特許文献1には、PMMA( ポリメタクリル酸メチル)、熱伝導性フィラーとしてh-BN(六方晶窒化ホウ素)を原料とし、それぞれ高分子電解質で逆の表面電荷に調整し、PMMA粒子表面にh-BN粒子を吸着させた複合粒子が開示され、得られた複合粒子を成形することで、h-BN粒子添加量が極めて少量であっても高い熱伝導性が発現することが開示されている。
【0004】
セラミックス材料においても、こうした機能性を発現させるためにはグリーン体における機能性微粒子の配置が非常に重要である。非特許文献2には、正の表面電荷を有するアルミナ粒子とアニオン性高分子電解質により表面電荷を負に調整したジルコニア粒子を用いて造粒操作によりコア部、さらにアルミナ粒子、ジルコニア粒子に加えて活性剤により電荷調整したCNT(カーボンナノチューブ)を加えて造粒操作することによりコア部表面にアルミナ粒子、ジルコニア粒子、CNT粒子からなるシェル部を形成したコアシェル型複合顆粒とこれを用いて焼結した複合材料は、CNT局所的、かつ連続的に導入されて、偏析三次元ネットワークを形成し、少量のCNTで機能発現することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】黒田太一、Nguyen Huu Huy Phuc、河村剛、松田厚範、武藤浩行 日本セラミックス協会2014年年会「h-BN添加高熱伝導高分子複合材料の作製」予稿集 1P005
【非特許文献2】佐藤 優作、横井 敦史、Tan Wai Kian、河村 剛、武藤 浩行、松田 厚範 粉体粉末冶金協会 2021年度秋季大会(第128回講演大会)「複合顆粒を用いた偏析三次元導電ネットワーク構造を有する セラミクス複合材料の開発」予稿集 2-7A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1はポリマーマトリックスに関する技術であり、単純にセラミックス等の無機材料には転用できない。例えば、セラミックスの母粒子にh-BN粒子を付着させた複合粒子は作製可能であるが、この複合粒子からグリーン体を作製して加熱しても焼結しない。ポリマーマトリックスの場合は高温に加熱したポリマーはある程度の流動性があるためh-BN粒子間、さらには複合粒子の表面に流動してh-BN粒子を保持、また、複合粒子どうしを接着させるが、セラミックス等の無機材料ではマトリックスとなる材料が流動せず機能性粒子の保持や隣り合う顆粒の接着に寄与出来ないためである。
【0008】
非特許文献2に記載のコアシェル型複合顆粒のシェル部のCNTはランダムに配置しており、配置、配向は制御できない。さらにこのコアシェル型複合顆粒から作製した焼結体においては、CNTを局所的、かつ連続的に導入されて、偏析三次元ネットワークは形成できるが、3次元ネットワーク内のCNTはランダムに存在し、配置、配向までは制御できない。
【0009】
本発明の目的は、構造が制御されたセラミックスなどの無機材料の原料粉末を好適に利用できるような複合粉末粒子とそれにより作製された構造制御された無機複合材料を提供することであり、詳しくは、コアシェル構造を有し、かつ、シェル部に含まれる機能性粒子の配置、配向を制御した粉末粒子を提供するとともに、この粉末粒子から作製した焼結体において、第一段としてマトリックス材料からなる島部と機能性材料が偏析した海部とからなる海島構造を有し、かつ、第二段として海部の機能性粒子が島部の境界線方向に配向した構造を有する二段階の構造制御された無機複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示される。
[1]第一の無機材料の粒子からなるコア部と、該コア部の表面に付着されたシェル部とを有するコアシェル型の複合顆粒であって、前記コア部は、第一の無機材料による複数の粒子が球状に凝集された顆粒状であり、前記シェル部は、前記第一の無機材料による複数の粒子と棒状または平板状に形成された第二の無機材料による複数の粒子との混合物によって構成され、前記第二の無機材料による粒子が長軸を前記コア部の周方向に配向した状態で付着されていることを特徴とするコアシェル型の複合顆粒。
[2][1]に記載のコアシェル型の複合顆粒の製造方法であって、
コア部形成工程と、シェル部付着工程とを含み、
前記コア部形成工程は、
第一の無機材料の粒子の表面電荷を正に調整する工程と、
第一の無機材料の粒子の表面電荷を負に調整する工程と、
前記正に帯電した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液と負に帯電した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液とを混合し、前記混合液を円筒状の容器に入れ、前記円筒状容器を円周方向に回転して複合顆粒のコア部顆粒を形成する工程とを含み、
前記シェル部付着工程は、
棒状もしくは平板状の第二の無機材料の粒子の表面電荷を正または負に調整する工程と、
表面電荷を正または負に調整した棒状もしくは平板状の第二の無機材料の粒子の水系溶媒分散液と少なくともこれとは逆の電荷に調整した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液とを水系溶媒中で混合し、この混合液をコア部形成工程で作製したコア部顆粒の水系分散液に加えてさらにこの混合液を円筒状の容器に入れ、前記円筒状容器を円周方向に回転することでコア部顆粒の表面にシェル部を形成する工程とを含むものである
ことを特徴とするコアシェル型の複合顆粒の製造方法。
[3][1]に記載のコアシェル型の複合顆粒を使用する無機複合材料であって、複数の前記複合顆粒によって形成され、前記コア部からなる島部と前記シェル部からなる海部とを有する海島構造であり、
前記海部に含有する棒状または平板状の第二の無機材料の粒子の長軸が前記島部の境界線方向に配向していることを特徴とする無機複合材料。
[4]前記棒状または平板状の第二の無機材料の粒子は、その特性に異方性があり、短軸または厚み方向の特性と長軸または面方向との特性が相互に異なることを特徴とすることを特徴とする[3]に記載の無機複合材料。
[5]前記特性は、熱伝導性または電子伝導性であり、短軸もしくは厚み方向の特性よりも長軸もしくは面方向の熱伝導性または電子伝導性が高いことを特徴とすることを特徴とする[4]に記載の無機複合材料。
[6][3]に記載の無機複合材料の製造方法であって、
前記コアシェル型の複合顆粒を適宜集合させてグリーン体を作製する工程と、前記グリーン体を焼結する工程とを含むことを特徴とする無機複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコアシェル型複合顆粒を無機材料の原料粉末とし、この原料粉末のグリーン体を作製し、焼結して得られる複合材料は、マトリックス材料からなる島部と機能性材料が偏析した海部とからなる海島構造を有し、かつ、海部の機能性粒子が島部の境界線方向に配向した構造を有する二段階の構造を有している。すなわち、原料粉末の設計により、従来の焼結プロセスで、海島構造を有すると同時に海部の機能性粒子の粒子配置、配向も制御した2段の構造制御がなされた複合材料を得ることが可能となる。また、本発明で得られた複合材料はシェル部の焼結、シェル部とコア部の界面の焼結、隣接する複合顆粒のシェル部どうしの焼結も良好で本発明の複合材料はマトリックス材料単独に近い材料強度を得ることが出来る。
【0012】
さらに、機能性微粒子とマトリックス粒子を単純に混合して作製した機能材料では、機能性の発現レベルはパーコレーション転移の前後で急激に変化して発現レベルの制御は難しいが、本発明においては、コアシェル型複合顆粒のコア部とシェル部の比率を調整することで複合材料の機能性の発現レベルを自由に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のコアシェル型の複合顆粒の断面模式図である。
【
図2】非特許文献2で作製した焼結体を破砕した断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例1のコア部顆粒の光学顕微鏡写真である。
【
図4】実施例1のコアシェル型複合顆粒の光学顕微鏡写真である。
【
図5】実施例1のコアシェル型複合顆粒表面を拡大した走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】実施例1の複合材料の破断面の光学顕微鏡写真である。
【
図7】実施例1の複合材料の破断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図8】実施例1の複合材料の破断面を拡大した走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明に係るコアシェル型の複合顆粒について説明する。本発明に係るコアシェル型の複合顆粒は、焼結体を製造するための原料粉末に用いられるものであり、本コアシェル型の複合顆粒によってグリーン体を成形し、グリーン体を焼結することにより無機複合材料を得る。
【0016】
本発明において複合顆粒とは異種粒子から構成される集積物を表し、本発明の複合顆粒は球状の形態を有する。ここで球状とは真球に限定されずおおよそ球形であることを表す。
図1に本発明のコアシェル型の複合顆粒の模式図を示す。コアシェル型とは球状の形態における球の中心部から動径方向の途中で構成する粒子成分が変わることを表し、中心側をコア部、表面側をシェル部とする。コア部は第一の無機材による複数の粒子から構成される。シェル部は第一の無機材料による複数の粒子と棒状または平板状の第二の無機材料による複数の粒子との混合物によって構成され、前記棒状または平板状の第二の無機材料による粒子の長軸が複合顆粒の周方向に配向している。ここで、第二の無機材料による粒子の長軸が複合顆粒の周方向に配向しているとは、個々の第二の無機材料による粒子の長軸の中心から最も近いコア部との界面の点における法線方向と第二の無機材料による粒子の長軸方向がおおよそ直角であることを表す。おおよそ直角とは60度から120度の範囲であることを表し、第二の無機材料の粒子の7割以上がこの範囲である。
【0017】
第一の無機材料による粒子は、セラミックスや金属からなる粒子であり、1種の粒子でも2種以上の粒子であっても良い。なお、複数の種類の粒子を用いる場合、後述の顆粒の形成しやすさから平均の粒子径の比が10倍以内であることが好ましい。セラミックスや金属の種類は特に制限はないが、セラミックスとしては酸化物、炭化物、窒化物等があげられる。尚、酸化物は、単一酸化物であっても複合酸化物であっても良い。かかるセラミックスには、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、マグネシア、カルシア、チタニア、酸化バナジウム、スピネル、フェライトなどが例示でき、これらは単独で用いられても混合物で用いられても良い。更には、これらの固溶体であっても良い。
【0018】
更に、金属としては、鉄系、銅系、アルミニウム系、ニッケル系、モリブデン系、チタン系、タングステン系の各粉末などが例示されるがこれに限られるものではない。また、これらは単独で用いられても混合物で用いられても良く、合金であっても良い。合金としては、各種のものを用いることができるが、例えば、鉄合金、合金鋼、銅合金、ニッケル合金、アルミ合金、超鋼合金などが例示される。また、サーメットとしては、TiC-Niサーメットや、Al2O3-Crサーメット、Al2O3-Feサーメットが例示されるが、これに限られるものではない。
【0019】
第一の無機材による粒子の幾何形状に制限はなく、球状、針状、塊状、柱状、扁平状、板状、繊維状、不定形等々が適用可能である。
【0020】
シェル部を構成する棒状または平板状の第二の無機材料による粒子について説明する。本発明において棒状とは形状が長さ方向に比べて動径方法の大きさが小さい形状であり棒状、針状、ロッド状とも言われる。動径方向を短軸、長さ方向を長軸とも表現する。棒状の粒子の大きさは径が0.05μmから5μm、長さは0.5μmから50μmであることが好ましい。後述する配向のしやすさからアスペクト比は3以上であることが好ましく5以上であることがより好ましい。なお、本発明において棒状に糸状は含まない。ここで、糸状とはアスペクト比が100以上である材料を表す。非特許文献2で使用するCNTは糸状に該当する。糸状の材料は一般的に柔軟性が高く、後述のシェル部を顆粒化する過程で第一の無機材料の粒子に絡まり配向しない。剛直である場合は、顆粒との吸着が点での接触となり吸着力が弱いために顆粒に取り込まれない。
図2に非特許文献2で作製した焼結体を破砕した断面のSEM写真を示す。CNTは配向せずランダムであることがわかる。
【0021】
本発明において平板状とは長さ又は幅方向に比べて厚みが小さい形状の粒子であり、板状・薄片状・鱗片状・フレーク状とも言われる。平板状の粒子の大きさは長軸方向での平均粒子径が0.5μmから50μmであることが好ましく、後述する配向のしやすさからアスペクト比は3以上であることが好ましく5以上であることがより好ましい。
【0022】
第二の無機材料の粒子は、セラミックスや金属からなる粒子であり、第一の無機材の粒子として挙げた材料を利用できる。本発明において第二の無機材料の粒子は特定の特性が顕著に高い、または、低い材料であることが好ましい実施態様である。特定の特性としては、例えば、電子伝導性、熱伝導性、磁性、誘電性、弾性等をあげることが出来る。本発明において、パーコレーションにより高い性能が発現する高い電子伝導性、高い熱伝導性を有する材料であることが特に好ましい実施態様である。
【0023】
高い電子伝導性を有する材料としてはSnO2、ZnO、TiO2、CeO2等やこれらに異種原子をドーピングした材料をあげることができる。高い熱伝導性を有する材料としては、Al2O3、MgO、ZnO、SiO2、TiO2、マイカ、チタン酸カリウム、酸化鉄、タルク等の酸化物粒子、窒化ホウ素、窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物粒子、炭化珪素等の炭化物粒子、銅、アルミニウム等の金属粒子、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。磁性材料としては鉄、ニッケル、コバルトなどがあげられる。さらに、マルチフェロイック物質に利用される材料も利用でき、BiFeO3、BaTiO3,Pd(Zr、Ti)O3、CaMnO3、LaFeO3、TbMnO3などをあげることができる。
【0024】
また、棒状においては動径方向と長さ方向の特性が、板状においては厚み方向と長さ又は幅方向の特性が異なる場合、本発明の構造制御が有効であり、棒状においては幅及び厚み方向よりも長さ方向の特性が高いこと、板状においては厚み方向よりも長さ又は幅方向の特性が高い場合、特に有効である。
【0025】
本発明のコアシェル型複合顆粒の製造方法について説明する。本発明のコアシェル型の複合顆粒の製造方法は、コア部形成工程と、シェル部付着工程からなる。コア部形成工程は、第一の無機材料の粒子の表面電荷を正に調整する工程と、第一の無機材料の粒子の表面電荷を負に調整する工程と、前記正に帯電した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液と負に帯電した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液とを混合し、前記混合液を円筒状の容器に入れ、前記円筒状容器を円周方向に回転して複合顆粒のコア部顆粒を形成する工程とを含む。シェル部付着工程は、棒状もしくは平板状の第二の無機材料の粒子の表面電荷を正または負に調整する工程と、表面電荷を正または負に調整した棒状もしくは平板状の第二の無機材料の粒子の水系溶媒分散液と少なくともこれとは逆の電荷に調整した第一の無機材料の粒子の水系溶媒分散液とを水系溶媒中で混合し、この混合液をコア部形成工程で作製したコア部顆粒の水系分散液に加えてさらにこの混合液を円筒状の容器に入れ、前記円筒状容器を円周方向に回転することでコア部顆粒の表面にシェル部を形成する工程を有する。ここで水系溶媒とは水、水に可能な溶剤と水との混合溶媒を表し、水に可能な溶剤とはアルコール系溶剤、ケトン系溶剤等をあげることが出来る。
【0026】
表面電荷とは、粒子が有する見かけ上の電位であり、粒子表面に極性を有する層が積層されている場合には、最も外側の層の電荷が表面電荷となる。表面電荷の調整には水系溶媒中で電離して正に帯電するカチオン性高分子電解質、水系溶媒中で電離して負に帯電するアニオン性高分子電解質を好ましく利用できる。水系溶媒中で電離して正に帯電するカチオン性高分子電解質としては例えば、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン(PVAm)、ポリ(ビニルピロリドン・N,N-ジメチルアミノエチルアクリル酸)共重合等のカチオン性高分子をあげることができる。水系溶媒中で電離して負に帯電するアニオン性高分子電解質としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリカルボン酸(PCA)等のアニオン性高分子をあげることができる。
【0027】
第一の無機材料の粒子、第二の無機材料の粒子は、これらの材料を水系溶媒に分散すると正または負の表面電荷をもっている。正の表面電荷をもっていれば、アニオン性高分子電解質を吸着させることで、強い負の表面電荷を付与できる。反対に、負の表面電荷をもっている場合は、カチオン性高分子電解質を吸着させることで強い正の表面電荷を付与できる。また、カチオン性高分子電解質あるいはアニオン性高分子電解質で表面電荷を調整した後、さらに逆の電荷をもった高分子電解質を吸着させることで電荷を反転させることが出来る。この操作により粒子の表面電荷を所望する電荷に調整できる。この操作は正負正、負正負等多数回の処理を行って高分子電解質をより強固に吸着させても良い。なお、高分子電解質等による処理を行わなくても水系溶媒に分散しただけでも十分な表面電荷を有する場合は水系溶媒に分散する処理を表面電荷調整工程とすることができる。
【0028】
高分子電解質の吸着に起因する橋架け凝集などにより粒子の分散性が阻害される場合、高分子電解質に代えてイオン性界面活性剤を用いても良い。このイオン性界面活性剤を用いても、その吸着により粒子表面に電荷を付与することができる。
【0029】
各粒子に高分子電解質を吸着させる方法としては、例えば、水系溶媒に高分子電解質を溶解した溶液中電荷調整する粒子を投入、撹拌、分散させることで、粒子表面に高分子電解質を吸着させることができる。ここで、十分な高分子電解質を粒子に吸着させるために、粒子の投入量に比べて過剰量の高分子電解質を溶液中に含ませることが好ましい。この場合は、余剰の高分子電解質を除去する操作、例えば、沈殿、遠心分離、ろ過などの作業により液体と粒子とを分離し、余剰の高分子電解質を除去する。その後、水系溶媒に粒子を再分散することにより水系溶媒に分散した分散液をえる。この分散液の固形分は特に制限はないが、1から20体積%である。
【0030】
あるいは、特願2013-507747号に記載のように水系溶媒に粒子を添加した混合液を撹拌するとともに液物性(ゼータ電位、粘度など)をモニタリングしながら、高分子電解質を溶解した水系溶媒を滴下し、液物性の変化から十分な高分子電解質が粒子に吸着したと判断できるところで滴下をストップする方法も好ましく利用できる。この手法により水系溶媒に分散した分散液が得られる。
【0031】
所望の表面電荷が得られたかは、得られた粒子のゼータ電位を測定することで確認できる。ゼータ電位が正なら正の表面電荷、負なら負の表面電荷である。また、正の表面電荷を有することを正に帯電、負の表面電荷を有することを負に帯電とも表現する。表面電荷調整後の粒子の表面電荷の大きさはゼータ電位の絶対値で20mVから150mVであることが好ましく、30mVから100mVであることがより好ましい。
【0032】
次にコアシェル型複合顆粒のコア部の作製について説明する。表面電荷調整工程により正に調整した第一の無機材料の粒子の分散液と負に調整した第一の無機材料の粒子の分散液を粒子量が等量となるように混合する。なお、第一の無機材料の粒子が複数の種類の粒子からなる場合は、表面電荷を正に調整した粒子と負に調整した粒子の量が等量となるように表面電荷を調整した粒子の分散液を準備して混合する。例えば、種類の異なる粒子それぞれ半量ずつ表面電を正、負に調整した分散液を準備して混合すれば良い。種類が2種で等量の場合は一方を正、他方を負に調整した分散液を準備して混合しても良い。
【0033】
表面電荷を正に調整した分散液と負に調整した分散液を混合すると、静電相互作用により粒子が凝集し様々な大きさの凝集体となって沈降する。この混合液を円筒状の容器に入れ、ローテータ等により円周方向に容器を回転させる。円周方向に容器を回転させるとは容器の上面、下面の円の中心を通る線を軸として回転させることを表す。回転速度は容器の大きさに依存するが、例えば10~50rpmである。特に制限はないが、混合液の量は容器容積の6割以上、静置して粒子を沈降させた際の高さが容器高さの5割以下であることが好ましい。この工程で凝集体となった粒子は回転方向に引き上げられては重力による落下を繰り返す。静電相互作用により凝集体どうしが付着してサイズが大きくなるとともに突起部はくずれるために球状に成長する。さらに、凝集サイズにより外力の受け方が異なるために外力がそろう、すなわち、粒子径がそろうようになってくる。その結果、凝集体は粒子径が比較的そろった球状となる。こうして得られた粒子径が比較的そろった球状となった凝集体をコアシェル型複合顆粒のコア部顆粒とする。粒子の種類、容器のサイズ、回転速度にもよるが、回転時間は0.1日から10日である。回転時間が長いほどコア部の単分散性、真球度が高くなる。このようにして作製されたコア部の表面には、表面電荷が正に調整された第一の無機材料と、表面電荷が負に調整された第一の無機材料とが混在した状態となり、後述のシェル部の吸着を可能にしている。
【0034】
コアシェル型複合顆粒のシェル部付着工程について説明する。
【0035】
第一の無機材料の粒子と第二の無機材料の粒子を所望量準備し、これらの粒子の表面電荷を正に調整した粒子と負に調整した粒子の量が等量となるように第一の無機材料と第二の無機材料の表面電荷を調整した粒子の分散液を準備して混合する。第一および第二の無機材料は、それぞれ正および負に調整した双方を使用することができる。すなわち、第一の無機材料と第二の無機材料を混合したときの全体における表面電荷が正または負の一方に偏らず均等な状態となるように調整するのである。例えば、第一の無機材料の粒子と第二の無機材料の粒子それぞれ半量ずつ表面電荷を正、負に調整した分散液を準備して混合する。第一の無機材料と第二の無機材料の粒子の量が等しい場合は一方を正、他方を負に調整して混合してもよい。一方が多い場合は、多い方の粒子についてシェル部粒子トータルの半量分を正または負に調整し、残りの粒子と他方の粒子を逆の電荷に調整して混合しても良い。
【0036】
こうして得られた混合液を、所望量のコアシェル型複合顆粒のコア部粒子を水系溶媒に分散した分散液と混合する。
【0037】
この混合液を円筒状の容器に入れ、コア部を作製したのと同様にローテータ等により円周方向に容器を回転させる。コア部の表面は、複数の第一の無機材料によって構成されており、これらの表面電荷は正に調整されたものと、負に調整されたものとの双方が存在し、シェル部を構成する第一または第二の無機材料は、調整された表面電荷の極性に応じてコア部の表面に吸着されることとなる。このように、コア部粒子の表面に第一の無機材料の粒子と第二の無機材料の粒子の凝集物が付着して顆粒が成長するが、この時、顆粒は回転、落下を繰り返す。棒状または平板状の第二の無機材料の粒子が球状の顆粒の動径方向に長軸方向が向いて吸着した場合、回転の流速により円周方向に倒す力が働き、また、落下の際の衝突においても円周方向に倒す力が働く。円周方向に配向した粒子は顆粒との接点面積が広いため顆粒に強く吸着して固定される。周囲の粒子との位置関係等で円周方向に配向できない場合はその倒そうとする力で顆粒から脱落し、再度、顆粒に付着することを繰り返す。その結果、コア部粒子の表面に第一の無機材料の粒子と第二の無機材料の粒子の凝集体からなり、第二の無機材料の長軸が複合顆粒の円周方向に配向したシェル部が形成される。シェル部を形成する回転時間は1時間から100時間である。
【0038】
本発明のコアシェル型複合顆粒は必要に応じて他の成分を含有しても良い。例えば、脱脂工程の阻害とならないレベルでグリーン体(未焼結の成形体)の強度を上げる目的でポリマー樹脂を含んでも良い。この場合、顆粒化の工程で表面電荷を調整したポリマー樹脂の粒子を混合することで顆粒に取り込まれる。
【0039】
次に本発明のコアシェル型の複合顆粒を用いた無機複合材料の製造方法について説明する。本発明のコアシェル型複合顆粒を無機材料の原料粉末とし、この原料粉末のグリーン体を作製し、焼結して無機複合材料を得る。グリーン体の成形は、原料の粉末粒子を焼成前に所望の形態に成形する工程である。例えば、型に投入しプレスして成形するプレス成形、原料の粉末粒子を含むスラリーを用いた鋳込み成形や、ドクターブレードによるテープ成形や、3Dプリンタによる積層造形などが例示される。スラリーを用いた場合には乾燥が行われ、焼結体の原型形状を有するグリーン体が造形される。
【0040】
次に、グリーン体を焼結する工程について説明する。焼結とは加熱によりグリーン体を形成する粒子同士の表面が接合し、緻密化した焼結体とする工程である。焼結方法は従来知られている方法を利用可能で、無機材料に合わせて適宜選択する。焼結温度は材料により適宜選択すればよく、本発明においては第一の無機材料の粒子の一般的な焼結温度を選択すればよい。焼成炉は、可燃性ガスを燃焼させる燃焼炉、黒鉛発熱体、金属発熱体、セラミックス発熱体等の発熱体に通電することで加熱する電気炉などを用いることが出来る。焼結は必要に応じて大気下、真空化、不活性、酸化性、還元性などの制御雰囲気下で行うことが出来る。なお、焼結工程の前に有機物を取り除く脱脂工程を設けても良い。有機物を除去するため、400℃程度までゆっくり温度を上げて試料を加熱し、その後、高温で加熱して焼結を行う。
【0041】
また、焼結工程として、加圧しながら焼結する加圧焼結も好ましく利用できる。例えば、型を使って加圧しながら焼結するホットプレス法を利用できる。さらに、加圧しながら被加工物にパルス通電し、電磁的エネルギーや被加工物の自己発熱および粒子間に発生する放電プラズマエネルギーなどを複合的に焼結の駆動力とする放電プラズマ焼結法も好ましく利用できる。これらの加圧しながら焼結する方法では、グリーン体の加圧成形を兼ねることが出来る。加圧により成形され、加圧を開放することなくそのまま加圧を継続して焼結する。圧力は一般的に20~100MPaである。
【0042】
次に、本発明の無機複合材料について説明する。本発明の無機複合材料は本発明のコアシェル型の複合顆粒を使用する無機複合材料であって、複数の前記複合顆粒によって形成され、焼結後に前記シェル部が連続相を形成して海部となり、個々のコア部は海部により独立した島部となる海島構造となっている。このときの海部は、シェル部によって形成されるところ、前述のとおり、シェル部が第一の無機材料と第二の無機材料との混合物で構成されていることから、海部は両者が混合している領域によって形成されるものである。従って、第二の無機材料は、海部を形成する領域に存在するものとなる。さらに、前記海部において棒状または平板状の第二の無機材料の粒子の長軸が前記島部の境界線方向に配向している。ここで、第二の無機材料の粒子の長軸が前記島部の境界線方向に配向しているとは、個々の第二の無機材料の粒子の長軸の中心から最も近い海部との界面の点における法線方向と第二の無機材料の粒子の長軸方向がおおよそ直角であることを表す。おおよそ直角とは60度から120度の範囲であることを表し、第二の無機材料の粒子の7割以上がこの範囲である。
【0043】
海部において棒状または平板状の第二の無機材料の粒子の長軸が前記島部の境界線方向に配向することで少量でも第二の無機材料の粒子どうしの接触頻度が高くなりパーコレーション転移となる。さらに、海島構造の島部には第二の無機材料の粒子を含まないので、大幅に第二の無機材料の量を低減しても第二の無機材料の特性を発現させることが出来る。さらに通常パーコレーション転移では粒子の比率に対して性能の発現が急速に立ち上がるため、性能の制御が難しい。本発明の無機複合材料においては、海部でパーコレーション転移を発現すれば、島部と海部の比率で複合材料全体としての性能を制御できる。このように本発明のコアシェル型の複合顆粒を使用することにより海島構造の導入と海部の粒子配向の2段階の構造制御が可能となることが本発明の大きな特徴である。
【実施例0044】
本発明について、以下に実施例を示し更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0045】
(実施例1)
(複合顆粒のコア部形成)
第一の無機材料の粒子として140nmのアルミナ粒子(TM-DAR、大明化学工業社製)を準備した。アルミナ粒子を脱イオン水に粒子の固形分が9体積%となるように分散させ、この分散液のゼータ電を大塚電子社製ELS-Z1により測定した。ゼータ電位は+51mVで十分な帯電を有していることからこの分散液を正に帯電したアルミナ粒子の水分散液とした。次に、ポリアニオン(高分子電解質;アニオン性高分子)であるポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSS、和光富士フイルム社製)の1質量%水溶液にアルミナ粒子を投入し、ローテーター(タイテック社製)により30分撹拌することでアルミナ粒子表面にPSSを吸着させた。その後、冷却遠心分離機 Model7000(KUBOTA社製、回転速度1万rpm)によりアルミナ粒子を沈降さえて上澄み液を除去した後、脱イオン水で洗浄することで未吸着のPSSを除去して脱イオン水を粒子の固形分が9体積%となるように加えて分散液とした。この分散液のゼータ電位を同様の方法で測定すると-39mVで十分な帯電量を有しており、この分散液を負に帯電したアルミナ粒子の水分散液とした。
【0046】
上記正に帯電したアルミナ粒子の水分散液と負に帯電したアルミナ粒子の水分散液を等量混合し、混合液を円筒状のガラス製容器(口内径×胴径×全長:φ10×φ21×45mm)に2mL、脱イオン交換水を8mL加えて固形分を1.8体積%とし、回転ローラー(IBI Scientific社製ROLAAUV1S)を用いて、円周方向に15rpmの回転速度で3時間、20rpmの回転速度で1日、30rpmの回転速度で6日間回転させてコア部顆粒を作製した。
図3に、このコア部顆粒の光学顕微鏡写真を示す。コア部顆粒はおおよそ真球で、直径は300~600μmであった。
【0047】
(複合顆粒のシェル部付着)
棒状あるいは平板粒子として平板状の窒化ホウ素(BN)粒子(デンカ社製、HGP)を準備した。この粒子の平面の平均の直径は5μm、厚みは0.2μmでアスペクト比は25である。この粒子を界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウム(SDC、Sigma-Aldrich社製)の水溶液(0.5質量%)中に投入しローテーター(タイテック社製)により30分撹拌することで粒子表面にSDCを吸着させた。その後、棒状または平板状粒子を水溶液中から回収し、脱イオン水にて洗浄して未吸着のSDCを取り除いた。次いで、得られたSDC被覆された粒子を、ポリカチオン(高分子電解質;カチオン性高分子)であるポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(PDDA)の1質量%水溶液に投入しローテータ-(タイテック社製)により30分間攪拌することで粒子の最表面にPDDAを吸着させた。その後、冷却遠心分離機 Model7000(KUBOTA社製、回転速度1万rpm)によりBN粒子を沈降さえて上澄み液を除去した後、脱イオン水で洗浄することで未吸着のPDDAを除去して脱イオン水を粒子の固形分が9体積%となるように加えて分散液とした。この分散液のゼータ電位を同様の方法で測定すると+60mVで十分な帯電量を有しており、この分散液を正に帯電したBN粒子の水分散液とした。
【0048】
正に帯電したBN粒子の水分散液(9体積%)と正に帯電したアルミナ粒子の水分散液(9体積%)と負に帯電したアルミナ粒子の水分散液(9体積%)を粒子の体積比率が1:4:5となるように混合し、この混合液1.25mLと固形分1.8体積%のコア部顆粒分散液8.75mLを混合(コア部粒子とシェル部粒子の体積比率8:5)して、円筒状のガラス製容器(口内径×胴径×全長:φ10×φ21×45mm)に入れ、回転ローラー(IBI Scientific社製ROLAAUV1S)を用いて、円周方向に30rpmの回転速度で72時間回転させてコア部顆粒の表面にシェル部を付着させた。その後、複合顆粒が含まれる懸濁液を、送風定温恒湿器(YAMATO社製、DKM600)に60℃、3時間乾燥させて複合顆粒を得た。複合顆粒を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S-4800)および光学顕微鏡(Leica製、DMS1000)で観察した。光学顕微鏡写真を
図4に示す。複合顆粒はおおよそ球状で、直径は300~600μmであった。走査型電子顕微鏡による複合顆粒の表面拡大写真を
図5に示す。板状粒子(黒く見ている粒子)が周方向に配向した状態であり、また、法線方向に立った板状粒子は見られない。
【0049】
(グリーン体作製と焼結)
得た複合顆粒を、Φ10mmの黒鉛ダイスに充填し、エス・エス・アロイ社製、CSP-KIT-02121を用いて通電プラズマ焼結法によりグリーン体を作製するとともに焼結を行った。圧力は40MPaとし、1250℃、10分間の条件で焼結し、本発明の無機複合材料とした。得られた複合材料の破断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S-4800)および光学顕微鏡(Leica製、DMS1000)で観察した。光学顕微鏡写真を
図6に示す。海島構造を有していることがわかる。走査型電子顕微鏡写真を
図7に、拡大写真を
図8に示す。海部のBN粒子長軸が島部の境界線方向に配向していることがわかる。
【0050】
(比較例1)
正に帯電したBN粒子の水分散液と正に帯電したアルミナ粒子の水分散液と負に帯電したアルミナ粒子の水分散液を実施例1の複合顆粒全体でのアルミナ粒子とBN粒子の比率と同じになるように、9体積%の正電荷を有するアルミナ分散液、負電荷を有するアルミナ分散液、および、9体積%のBN分散液をそれぞれ1.5mL、1.625mL、0.125mLを一括して混合し、この混合液3.25mLをガラス製容器(口内径×胴径×全長:φ10×φ21×45mm)に入れ、脱イオン交換水を6.75mL加えて、回転ローラー(IBI Scientific社製ROLAAUV1S)を用いて、円周方向に20rpmの回転速度で1週間回転することでアルミナ粒子とBN粒子が均一に分散した複合顆粒を作製した。さらに、実施例1と同様に焼結して比較の無機複合体を得た。
【0051】
(熱伝導率の測定)
実施例1と比較例1の複合材料の熱伝導率を厚み1.8mm、30℃の温度条件下においてキセノンフラッシュ法(LINSEIS社製、XFA300)により評価した。
実施例1の複合材料は14.9W/mK、比較例の均一な複合材料は11.7W/mKで、本発明の複合材料は高い熱伝導性を示した。