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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078723
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】紙容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 3/06 20060101AFI20230531BHJP
   B65D 65/40 20060101ALN20230531BHJP
【FI】
B65D3/06 B
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191985
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152930
【氏名又は名称】株式会社日本デキシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 安寿奈
(72)【発明者】
【氏名】中村 保昭
【テーマコード(参考)】
3E086
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AB01
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA15
3E086BB90
3E086CA40
(57)【要約】
【課題】含油食品を入れても油染みを生じ難く、その重量に対して立体的形状の保持に十分な剛性と接着強度を備え、耐熱性、低廉性に優れた紙容器を提供する。
【解決手段】紙容器10は、筒状の胴部材12と板状の底部材14から形成される。胴部材12は、耐油紙の少なくとも容器内側面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなり、その丸めた両端の重ね合わせ部分が溶着されている。底部材14も同様に耐油紙のラミネート紙基材からなり、胴部材12の下端に溶着されている。胴部材12の容器内側面には、ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層(A)と、最も容器内側の層としてプロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層(B)とが積層され、底部材14の容器内面には、少なくともポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層(A)が積層され、胴部材12の樹脂層(B)と底部材の樹脂層(A)とが溶着される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材の少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなり、その丸めた両端の重ね合わせ部分が溶着された筒状の胴部材と、
紙基材の少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなり、前記胴部材の下端に溶着された板状の底部材と、
を有する紙容器であって、
前記胴部材の容器内面に、紙基材と隣接する層として(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層と、最も容器内側の層として(B)プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層とが積層されており、
前記底部材の容器内面に、少なくとも(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層が積層されており、
前記胴部材の(B)プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層と、前記底部材の(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層とが、溶着されており、
前記胴部材および前記底部材の前記ラミネート紙基材を構成する前記紙基材が、耐油紙であることを特徴とする紙容器。
【請求項2】
請求項1記載の紙容器において、
前記胴部材のラミネート紙基材を構成する前記紙基材の全層にわたって耐油剤が配合され、
前記底部材のラミネート紙基材を構成する前記紙基材の少なくとも紙容器内面側に、耐油剤が配合された層が設けられている、ことを特徴とする紙容器。
【請求項3】
請求項1または2記載の紙容器において、
前記ラミネート紙基材を構成する前記紙基材の少なくとも一方の表面に、さらにポリエチレンイミンを含む層が設けられていることを特徴とする紙容器。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の紙容器において、
前記ラミネート紙基材のラミネート厚が10~100μmであり、前記ラミネート紙基材を構成する紙基材の紙坪量が100~500g/mである、ことを特徴とする紙容器。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の紙容器において、前記胴部材の丸めた両端の前記重ね合わせ部分の、一方の端部の(B)プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層と、他方の端部の前記耐油紙とが、超音波溶着されている、ことを特徴とする紙容器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の紙容器において、
耐油紙は、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)を含まないPFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)を含有することを特徴とする紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐油紙を基材とする紙容器に関し、特に、含油食品を入れるのに適した耐油紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料や食品用の紙容器として、樹脂のラミネート紙を基材とするラミネート紙容器が広く用いられている(例えば、特許文献1)。樹脂のラミネートは、紙容器に防水性や剛性を付与するだけでなく、容器成形時において、丸めた胴部材(サイド紙)の端部の樹脂層同士や、胴部材と底部材(ボトム紙)の樹脂層間の加熱溶着(ヒートシール)に重要な役割を果たしてきた。
【0003】
また、一般的なポリエチレン樹脂のラミネート紙を基材とする紙容器の場合、ポリエチレン樹脂の耐熱(融点110~130℃)が電子レンジ加熱には不十分であったので、特許文献1では、より高い耐熱のポリプロピレン樹脂(融点165℃)を使ったラミネート紙容器が提案されている。
【0004】
近年、環境配慮の観点から、使い捨て容器をプラスチック製から紙製に置き換える取り組みが進んでいる。唐揚げ等の含油食品用の容器についても同様であり、上記の特性に加え、耐油性も具備する紙容器が要求されるようになってきた。
【0005】
ところが、特許文献1の紙容器に含油食品を入れた場合、胴部材を形成する紙基材の端面、樹脂ラミネート層のピンホール、樹脂ラミネート層が薄くなった屈曲部などから油が染み込んでしまう(以下、「油染み」とも呼ぶ)。その結果、紙容器の外側から油が透けて見えて、紙容器の意匠性を損なったり、紙容器の内側のラミネート層にしわが生じて、食事の際に食欲を失ったりする可能性がある。
【0006】
これに対し、特許文献2には、含油食品用の包装紙として、紙基材をフッ素系の耐油剤で処理して形成されたフッ素系の耐油紙が記載されている。紙基材にフッ素系の耐油剤を塗布または含浸させる方法によって、紙基材の厚み方向の一部または全体にフッ素系の耐油剤が含まれている。
【0007】
特許文献3には、フッ素系の耐油剤を添加したパルプスラリーを原料とする紙基材と、その片面に形成されるオレフィン系樹脂のヒートシール層とを備え、全体として53g/mの坪量を有するラミネート耐油紙が記載されている。このラミネート耐油紙はヒートシールで袋状に加工されて含油食品用の包装袋に使用される。
【0008】
特許文献4には、ポリエチレンテレフタレート(PET)のラミネート紙基材からなる胴部材および底部材をヒートシールして立体的形状に形成された紙容器が記載されている。また、ヒートシール後に、紙容器の内面は、フッ素系の耐油剤を含む浸透防止塗工液でコーティングされている。コーティングによって内面の紙基材の端面などが覆われているため、含油食品を入れた場合でも、紙基材の端面などからの油染みが防止される。
【0009】
特許文献5には、紙基材と、紙基材の一方または両方の表面に耐油剤で形成された耐油層とを有する耐油紙が記載され、食品用トレーなどに使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016-98013号公報
【特許文献2】特開2019-70202号公報
【特許文献3】特開2021-4422号公報
【特許文献4】特開2017-52199号公報
【特許文献5】特開2021-80591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2のフッ素系の耐油紙は、包装紙の状態で提供されるものに過ぎず、紙コップのような立体的形状の紙容器を形成するために必要なヒートシール層を備えていない。
また、特許文献3のラミネート耐油紙は、包装袋用であり、厚さが比較的薄い。紙コップのような立体的形状の紙容器の形成、および、内容物を入れた状態での立体的形状を保持するには、厚さが比較的厚く、ヒートシールによる接着強度も比較的強いものが要求される。つまり、特許文献3に例示されたラミネート耐油紙の評価結果からでは、紙容器の立体的形状の形成および保持に十分な剛性および接着強度が得られるかどうかを判断できない。
また、特許文献4の紙容器では、ヒートシール後の内面のコーティングにおいて、フッ素系の耐油剤の噴霧または塗布、および乾燥の処理を要し、製造工程が複雑になる。また、内面の紙基材の端部を確実に覆うには、十分な厚みまでコーティングする必要がある。そのため、コーティングが必要でない範囲も含めて、紙容器の内面全体をコーティングすることになり、フッ素系の耐油剤の使用量が増加し、紙容器の製造コストの上昇の原因になってしまう。
また、特許文献5の耐油紙を用いて紙容器を形成した場合、耐油層は耐油紙の表面のみに形成されているため、紙容器の内面における耐油紙の端面から油が染み込んでしまう。または、容器成型時の屈曲加工により耐油層に割れが生じて、その部分から油が染み込みやすくなる、という問題があった。
【0012】
従って、本発明が解決しようとする課題は、含油食品を入れても油染みを生じ難い紙容器であって、含油食品の重量に対しても紙容器の立体的形状の保持に十分な剛性と接着強度を備え、耐熱性にも優れ、製造コストの上昇を抑えることができる紙容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、紙基材から順にポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層とプロピレン-エチレン共重合体を含む樹脂層とを積層したラミネート紙基材を用いて胴部材を形成し、紙基材から順にポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層を積層したラミネート紙基材を用いて底部材を形成し、且つ、紙基材に耐油紙を用いることで、耐油性・剛性・接着強度・耐熱性・低廉性に優れる紙容器を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る紙容器は、
紙基材の少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなり、その丸めた両端の重ね合わせ部分が溶着された筒状の胴部材と、
紙基材の少なくとも容器内面となる面に樹脂層が設けられたラミネート紙基材からなり、前記胴部材の下端に溶着された板状の底部材と、
を有する紙容器であって、
前記胴部材の容器内面に、紙基材と隣接する層として(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層と、最も容器内側の層として(B)プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層とが積層されており、
前記底部材の容器内面に、少なくとも(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層が積層されており、
前記胴部材の(B)プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層と、前記底部材の(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層とが、溶着されており、
前記胴部材および前記底部材の前記ラミネート紙基材を構成する前記紙基材が、耐油紙であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る紙容器は、前記胴部材のラミネート紙基材を構成する前記紙基材の全層にわたって耐油剤が配合され、
前記底部材のラミネート紙基材を構成する前記紙基材の少なくとも紙容器内面側に、耐油剤が配合された層が設けられている、ことが好適である。
このような耐油紙で胴部材および底部材を構成することで、必要な箇所にのみ耐油剤配合層が配置されて、過剰な耐油剤の使用を防止することができる。
【0016】
また、本発明に係る紙容器は、前記ラミネート紙基材を構成する前記紙基材の少なくとも一方の表面に、さらにポリエチレンイミンを含む層が設けられていることが好適である。
このように構成すれば、ラミネート加工する際や加熱溶着する際、耐油紙と樹脂層との間にポリエチレンイミンの層が介在することになって、耐油紙と樹脂層とのラミネート加工または加熱溶着よりも接着強度が向上する。
【0017】
また、本発明に係る紙容器は、前記ラミネート紙基材のラミネート厚が10~100μmであり、前記ラミネート紙基材を構成する紙基材の紙坪量が100~500g/mである、ことが好適である。また、好ましくは、前記ラミネート紙基材を構成する紙基材の紙坪量が150~350g/mである。
このようにラミネート紙基材のラミネート厚および紙坪量を設定することで、その立体的形状を保持する紙容器の剛性が最適になる。
【0018】
また、本発明に係る紙容器は、前記胴部材の丸めた両端の前記重ね合わせ部分において、一方の端部の(B)プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層と、他方の端部の前記耐油紙とが、超音波溶着されている、ことが好適である。
【0019】
ヒートシール層としてポリプロピレンを含有する樹脂層を用いる場合、一般的なポリエチレンの樹脂層よりも融点が高くなるので、ヒートシールするのに必要な熱量が増える。しかし、熱をかけ過ぎると、紙基材が焦げるだけでなく、紙基材に含まれるフッ素系の耐油剤が損なわれてしまう場合がある。また、紙基材に配合されたフッ素系の耐油剤によって、紙基材の表面張力が低くなっているため、一般的な紙基材と比べると、ヒートシールによって溶融したラミネート樹脂(接着剤)がパルプ繊維の隙間に入り込み難くなっている。そのため、ヒートシールによる接着強度が低くなる傾向がある。超音波溶着は、熱可塑性樹脂を微細な超音波振動と加圧によって瞬時に溶融して接合する加工技術である。
【0020】
本発明では、胴部材の一方の端部の(B)プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体を含む樹脂層と、他方の端部の耐油紙とを重ね合わせて、受け台に載せて、超音波振動子と一体に設けられたホーンをシール箇所の上から押し当てた状態にする。超音波振動子に電圧を印加すると、電気的エネルギーが機械的振動エネルギーに変換され、その超音波振動がホーンを伝わって、樹脂層と耐油紙の接合面に強力な摩擦熱が発生する。このため、樹脂は、その溶融温度まで瞬時に上昇し、溶融して耐油紙と接着する。このように、超音波溶着は瞬時に完了するので、紙基材に過剰な熱がかからず、紙基材およびフッ素系の耐油剤が損なわれずに済み、また、樹脂の溶融が加圧状態の下で瞬時に起きるため、樹脂層と紙基材との接着力も低くならない。
【0021】
なお、本発明に係る紙容器において、耐油紙は、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)を含まないPFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の紙容器は、胴部材として紙基材から順に(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層と(B)プロピレン-エチレン共重合体を含む樹脂層とを積層したラミネート紙基材を用い、底部材として紙基材に少なくとも(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層を積層したラミネート紙基材を用いて、且つ、紙基材として耐油紙を用いて、これらを加熱溶着または高周波溶着することによって立体的形状に形成されたものであるから、耐油性・剛性・接着強度・耐熱性・低廉性に優れた紙容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】(a)は一実施形態に係る紙容器の正面図、(b)は断面図である。
図2】(a)は胴部材の断面拡大図、(b)は底部材の断面拡大図である。
図3】(a)は胴部材の端部同士の溶着部分の垂直方向断面図、(b)はその水平方向断面図、(c)は胴部材と底部材の溶着部分の縦断面図である。
図4A】実施例と比較例の紙容器の耐油性試験結果の写真(内部、底)である。
図4B】実施例と比較例の紙容器の耐油性試験結果の写真(内部拡大)、および、比較例の紙容器の耐油性試験結果の写真(容器外面)である。
図5A】実施例と比較例の紙容器の電子レンジ加熱試験結果の写真(内部、底)。
図5B】実施例と比較例の紙容器の電子レンジ加熱試験結果の写真(内部拡大)、および、比較例の紙容器の電子レンジ加熱試験結果の写真(容器外面)。
図6】実施例の紙容器の外面への油付着時(写真3-1)、その拭き取り後(写真3-2)、比較例の紙容器の外面への油付着時(写真4-1)、その拭き取り後(写真4-2)の写真である。
図7】実施例のピンホール試験の結果(上)、同試験の比較例の結果(下)を示す拡大写真である。
図8】実施例の耐油紙と比較例の一般カップ原紙の油分浸透性試験(下端面からの浸透)の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の構成について詳しく説明する。図1(a)に、本発明の一実施形態に係る紙容器10の正面図を、及び図1(b)にその断面図を示す。紙容器10は、上方から下方へテーパー状に縮径された円筒状の胴部材12と、円板状の底部材14とからなり、胴部材12の上端の円形開口部の縁は外側にカール加工され、胴部材12の下端に底部材14が接合されている。
【0025】
図2(a)に胴部材12の断面拡大図を、及び図2(b)に底部材14の断面拡大図を示す。図2(a)に示すように、胴部材12は、耐油紙からなる紙基材12aの内面側に、(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層12bと、(B)プロピレン-エチレン共重合体を含む樹脂層12cとが順に積層されたラミネート耐油紙よりなり、紙容器に入れた含油食品は、プロピレン-エチレン共重合体を含む樹脂層12cと接触する。また、図2(b)に示すように、底部材14は、耐油紙からなる紙基材14aの内面側に(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層14bが積層されたラミネート耐油紙よりなり、紙容器に入れた含油食品は、ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層14bと接触することになる。
【0026】
<胴部材>
耐油紙からなる紙基材
図2(a)の胴部材12を構成するラミネート耐油紙は、耐油紙からなる紙基材12aがベース層になっている。耐油紙は、耐油剤を紙基材が含有することで、紙基材の内部や側面においても耐油性に優れる。耐油剤の主成分を、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、合成ゴムラテックス又はこれらの組み合わせにすることで、良好な耐油性が発揮される。特にフッ素系樹脂を主成分とする耐油剤は、フッ素系樹脂の低い表面張力が影響して、紙基材中に分散し易く、少ない添加量でも高い耐油性を発揮することが期待される。耐油剤の添加量が、パルプ繊維に対して4kg/t以上10kg/t以下であると、耐油性およびヒートシール層との密着性が優れる。フッ素系樹脂としては、アニオン性フッ素系樹脂を用いる場合は、アサヒガード(登録商標、旭硝子社製AG-E080)、ユニダイン(登録商標、ダイキン工業社製TG-8111)、ソルベラ(登録商標、Solvay社製PT5060)などの市販品から選択できる。また、カチオン性フッ素系樹脂を用いる場合は、アサヒガード(登録商標、旭硝子社製AG-E060)、CAPSTONE(登録商標、デュポン社製P620)などの市販品から選択できる。特に、耐油紙は、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)を含まないPFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)を含有することが好ましい。
【0027】
紙基材12aは、原料パルプに耐油剤およびその他の添加剤を含めたスラリー原料を使って、公知の抄紙方法で製造される。紙基材12aの構造は、単層または多層のいずれであってもよい。多層の紙基材12aとは、単層の紙基材を複数積層したものである。多層構造の紙基材12aを用いれば、紙基材12aの一方の(又は両方の)表面の層のみに耐油剤を含有させて、その他の層には耐油剤を含有させないようにすることが容易に可能になる。ただし、胴部材12の紙基材12aとしては、全層にわたって耐油剤を含有させたものが好ましい。
【0028】
ポリプロピレン単独重合体層
また、ラミネート耐油紙は、耐油紙からなる紙基材12aの内面側に、該紙基材12aに隣接するようにポリプロピレン単独重合体の樹脂層12bが積層されている。紙基材層12aに直接、ポリプロピレン単独重合体の樹脂層12bが積層されていることで、成形加工時、特に板状のラミネート耐油紙を丸めて円筒状の胴部材12を形成する工程や、胴部材12の上端部を外側にカールさせる工程等において、紙基材12aと樹脂層12bとの剥離が生じ難くなっている。なお、ポリプロピレン単独重合体(「PPホモポリマー」とも呼ぶ)の融点は約165℃であり、分子量は特に限定されるものではないが、メルトフローレートとして5~60g/10minの範囲であることが望ましい。また、樹脂層12bは、ポリプロピレン単独重合体のみによって形成されていてもよく、あるいは30質量%以下、望ましくは10質量%以下の範囲であれば、その他のポリマー(例えば、ポリエチレン等)を混合したブレンドポリマーによって形成されていてもよい。
【0029】
プロピレン-エチレン共重合体層
また、ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層12bの内面側には、さらにプロピレン-エチレン共重合体を含む樹脂層12cが積層されている。このプロピレン‐エチレン共重合体の樹脂層12cが容器の最も内面側に設けられていることで、胴部材12を丸めた端部同士を加熱溶着した場合、あるいは胴部材12と底部材14を加熱溶着した場合に、溶着部分において優れた接着強度を得ることができる。プロピレン-エチレン共重合体は、プロピレンモノマー単位とエチレンモノマー単位とを有する共重合体であって、例えば、プロピレン-エチレンランダムコポリマー、プロピレン-エチレンブロックコポリマー、プロピレン-エチレン-1-ブテンターポリマー等が挙げられる。なお、プロピレン-エチレン共重合体(「PPランダムコポリマー」、「PPブロックコポリマー」とも呼ぶ)の融点は約135~150℃であり、分子量は特に限定されるものではないが、メルトフローレートとして5~60g/10minの範囲であることが望ましい。また、樹脂層12cは、これらプロピレン‐エチレン共重合体のみによって形成されていてもよく、あるいは30質量%以下、望ましくは10質量%以下の範囲であれば、その他のポリマー(例えば、ポリエチレン等)を混合したブレンドポリマーによって形成されていてもよい。
【0030】
プロピレン-エチレン共重合体としては、モノマー全量中、プロピレンモノマーを50モル%以上、好ましくは80モル%以上含有していることが望ましい。プロピレンモノマーの含有量が少ないと、ポリエチレンの性質に近くなるため、融点が下がって耐熱性に劣る場合があるほか、胴部材の端部同士を加熱溶着した際の接着強度が十分に得られない場合がある。本実施形態においては、ポリプロピレン単独重合体の樹脂層12bとプロピレン-エチレン共重合体の樹脂層12cが隣接している。両者の樹脂層12b,12cの間に他の樹脂層が設けられていても構わないが、少なくとも耐油紙からなる紙基材12aと隣接する層としてポリプロピレン単独重合体の樹脂層12b、紙容器10の最も内面側の層としてプロピレン-エチレン共重合体の樹脂層12cが積層されている必要がある。また、本実施形態のようにポリプロピレン単独重合体の樹脂層12bとプロピレン-エチレン共重合体の樹脂層12cとが隣接していると、ポリプロピレン単独重合体とプロピレン-エチレン共重合体との親和性が高いため、これらの層間の剥離が生じ難くなる。
【0031】
胴部材12の内面の加熱溶着部分には、ラミネート耐油紙の端部があり、その端部において紙基材12aの端面が露出しているが、紙基材12aを全層にわたって耐油紙で形成したことにより、露出している端面から油やアルコール等が浸み込まない。よって、ラミネート耐油紙の端部をスカイブヘミング加工(紙基材12aの端面が露出しないように、端部を半分の厚みに剥ぎ取って、折り返す加工)をする必要がなくなる。
【0032】
なお、本実施形態の胴部材12において、紙容器10の外面を保護するため、耐油紙からなる紙基材12aの外面側にもポリプロプレン単独重合体を含む樹脂層を設けてもよい。本発明の胴部材としては、少なくとも容器内面側となる一方の面に(A)ポリプロピレン単独重合体の樹脂層と(B)プロピレン-エチレン共重合体の樹脂層が設けられていればよい。また、胴部材12の両面に樹脂層が設けられている場合、それぞれの樹脂層が異なる種類の樹脂からなっていてもよい。また、胴部材12には、必要に応じてバリアー層を設けていてもよい。
【0033】
特に、胴部材12の耐油紙においては、少なくともその一方の表面に、さらにポリエチレンイミンを含む層が配置されていることが好適である。ラミネート耐油紙を円筒状に丸め加工して加熱溶着する際、耐油紙の紙基材12aと、ポリエチレンを含有する樹脂層12cとの間にポリエチレンイミンの層が介在することになって、耐油紙の紙基材12aと、ポリエチレンを含有する樹脂層12cとを直接、加熱溶着するよりも接着強度が向上する。また、耐油紙の紙基材12aをラミネート加工する際も、耐油紙の表面にポリエチレンイミンを含む層が配置されていれば、耐油紙とポリプロピレンの樹脂層12bとの間にポリエチレンイミンの層が介在することになって、耐油紙と樹脂層との接着強度が向上するというメリットがある。
【0034】
<底部材>
本実施形態の底部材14を構成しているラミネート耐油紙では、胴部材12と同様に耐油紙からなる紙基材14aを用いており、紙基材14aの内面側には、ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層14bが積層されている。
【0035】
紙基材14aの構造は、単層または多層のいずれであってもよいが、特に、多層構造の紙基材14aを用いて、容器の内面側になる表面の層にだけ耐油剤を含有させて、その他の層には耐油剤を含有させないようにすることが好ましい。底部材14の紙基材14aについては、内面側の表面にだけ耐油性が付与されていればよいため、耐油剤の使用量を低減できるメリットがある。
【0036】
また、底部材14の容器内面側に積層される樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリプロピレン単独重合体を用いることが望ましい。例えば、電子レンジ等に使用する紙容器においては、特に食品と接触する底部材14において耐熱性が要求されるので、この底部材14の内面にポリプロピレン単独重合体の樹脂層14bが積層されていることで、優れた耐熱性を発揮することができる。加えて、ポリプロピレン単独重合体は、胴部材12の最内面に積層されたプロピレン-エチレン共重合体と親和性が高いため、胴部材12と底部材14とを加熱溶着した際、溶着部分において優れた接着強度を得ることができる。
【0037】
また、本実施形態の底部材14には、紙基材14aの容器内面側のみにポリプロピレン単独重合体層14bが設けられているが、例えば、容器の外面を保護するため、紙基材14aの外面側にも樹脂層を設けていてもよい。また、底部材14の両面に樹脂層が設けられている場合、それぞれの樹脂層が異なる種類の樹脂からなっていてもよい。あるいは、底部材14の紙基材の一方の面に複数の樹脂層が積層されていてもよいが、少なくとも容器内面側の紙基材と隣接する樹脂層として、ポリプロピレン単独重合体を用いることが望ましい。
【0038】
<製造方法>
紙基材に樹脂を積層する方法として、例えば、溶融押出ラミネート法など、従来公知の手法が挙げられる。胴部材12に使用するラミネート耐油紙のように、紙基材12aに複数の樹脂層12b,12cを積層する場合、共押出ラミネート法によって同時に紙基材12a上に樹脂を押し出して積層してもよい。紙基材の表面に積層される樹脂層の膜厚は、通常、10~100μmの範囲である。膜厚が10μm未満であると、ピンホールが発生する場合があり、100μmを超えると、不経済であるほか、容器の組み立てに支障が生じる場合がある。耐油紙からなる紙基材12aとしては、100~500g/mの範囲の坪量のものが好ましく、より好ましくは、150~350g/mの範囲の坪量のものである。また、剥離防止性などのラミネート特性を改善するため、紙基材に樹脂をラミネートする際、さらにコロナ放電照射処理あるいはオゾン吹付処理等を行なってもよい。このようにラミネート紙基材のラミネート厚および紙坪量を設定することで、立体的形状を保持する紙容器10の剛性が最適になる。
【0039】
図3(a)に胴部材12の端部同士の加熱溶着部分の垂直方向断面の拡大図、図3(b)にその水平方向断面の拡大図、図3(c)に胴部材12と底部材14との加熱溶着部分の垂直方向断面の拡大図を示す。
【0040】
図3(b)に示すように、胴部材12は、扇状のラミネート耐油紙を丸めて両端同士を重ね合わせられ、つまり、最内層のプロピレン-エチレン共重合体の樹脂層12cが紙基材12aと対面するように単純に重ね合わせられ、その重ね合わせ部分の紙基材12aと樹脂層12cとを加熱溶着することによって、上方から下方にテーパー状に縮径された円筒状に形成されている。また、胴部材12の円筒上端部には外巻にカールされたカール部分が形成され、円筒下端部には略180°内側方向に折り曲げられた折り返し部分が形成されている。
【0041】
なお、例えば、本実施形態の胴部材12の外面にもポリプロピレン単独重合体の樹脂層が積層されている場合は、胴部材12の加熱溶着部分で、外面のポリプロピレン単独重合体の樹脂層と、最内面のプロピレン-エチレン共重合体の樹脂層12cとの間で加熱溶着されることになり、これらの樹脂層の組み合わせにおいて良好な接着強度が得られる。
【0042】
他方、図3(c)に示すように、底部材14は、円板状部分と、その周縁部が略直角に折り曲げられた屈曲部分とを有している。そして、底部材14の屈曲部分が、胴部材12の折り返し部分によって挟み込まれ、底部材14の内面の樹脂層14b(ポリプロピレン単独重合体層)と、胴部材12の最内面の樹脂層12c(プロピレン-エチレン共重合体層)とが加熱溶着によって接合されて、良好な接着強度が得られる。
【0043】
加熱溶着の方法としては、いずれも熱風、電熱、電子線等、従来公知の手段を用いることができる。
【0044】
なお、胴部材12の重ね合わせ部分の接合(紙基材12aと、プロピレン-エチレン共重合体の樹脂層12cとの接合)については、特に、高周波溶着法を用いるとよい。
【0045】
以上の本実施形態の構成によれば、紙容器10は、胴部材12として、耐油紙の紙基材12aから順に、(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層12bと、(B)プロピレン-エチレン共重合体を含む樹脂層12cとを積層したラミネート紙基材を用いる。また、底部材14として、耐油紙の紙基材14aに、(A)ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層14bを積層したラミネート紙基材を用いる。そして、これらの胴部材12および底部材14を加熱溶着または高周波溶着することによって立体的形状に形成されているから、耐油性・剛性・接着強度・耐熱性・低廉性に優れた紙容器を提供することができる。
【0046】
例えば、胴部材12の紙基材12aに直接、プロピレン-エチレン共重合体の樹脂層12cが積層されている場合、円筒状にするための丸め加工の際に胴部材12内面に負荷がかかって、紙基材12aと内面の樹脂層12cとの間で剥離を生じることがあった。また、円筒状に丸められた胴部材12は、さらに円筒上端部を上から押し込んで外巻にカールさせる工程や、底部材14と噛み合わせるため円筒下端部を内側方向に折り曲げた折り返し部分を形成する工程等もあり、これらの工程においても胴部材12内面に負荷がかかるため、紙基材12aと内面の樹脂層12cとの間で剥離を生じてしまうおそれがあった。このように紙基材12aと樹脂層12cとが剥離してしまうと、外観を損なうほか、非常に小さな剥離箇所からでも内容物が侵入して、結果として漏れが発生してしまうことになるため、大きな問題であった。これに対して、本実施形態の胴部材12では、紙基材12aに、これと隣接するように(A)ポリプロピレン単独重合体の樹脂層12bが積層されており、紙基材12aの繊維に(A)ポリプロピレン単独重合体が絡み付いた状態で強く密着しているため、樹脂層12bのみが紙基材12aから剥がれてしまうことがなく、非常に剥離しにくい。
【0047】
なお、本実施形態のラミネート紙容器10は、底部材14が円板状であるカップ形状の容器であるものの、形状はこれに限定されず、例えば矩形板状の底部材14を用いた直方体あるいは立方体形状の容器であってもよい。また、必要に応じて、別途製造された蓋材等によって容器を密封し、例えば、電子レンジ等で加熱する際には蓋材を外したり、あるいは一部を開封したりして、使用するものであってもよい。
【実施例0048】
以下、実施例により、本発明についてさらに具体的に説明を行なうが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
<実施例1の紙容器>
耐油紙の片面にポリプロピレン(PP)を主成分とするラミネート(「PPラミネート」と呼ぶ)を有するラミネート耐油紙を用いて胴部材および底部材を形成し、これらを加熱溶着して、実施例1の耐油紙仕様の紙容器(口径165mm、高さ40mm)を得た。
【0050】
胴部材(PPランダムコポリマー/PPホモポリマー/耐油紙)
PPランダムコポリマーは、日本ポリプロ社製のFL02Cで、層厚25μmである。
PPホモポリマーは、サンアロマー社製のPHA03Aで、層厚15μmである。
耐油紙は、日本製紙社製の全層に耐油剤が配合された全層耐油紙で、坪量260g/m、層厚300μmである。
【0051】
底部材(PPホモポリマー/耐油紙)
PPホモポリマーは、サンアロマー社製のPHA03Aで、層厚25μmである。
耐油紙は、日本製紙社製の全層に耐油剤が配合された全層耐油紙で、坪量260g/m、層厚300μmである。
【0052】
<比較例1の紙容器>
実施例1との違いは、耐油紙に代えて、一般カップ原紙を用いてラミネート紙を形成し、これを使って胴部材および底部材を形成して、比較例1の一般紙仕様の紙容器を得たことであり、他の条件は実施例1と同じにした。一般カップ原紙は、坪量260g/m、層厚300μmである。
【0053】
<耐油性の試験>
発明者らは、実施例1および比較例1の紙容器に市販のオリーブオイルを10g充填し、冷蔵庫(温度0℃、湿度25%)に3日間静置した後、目視によって油分の浸透の有無を調査した。評価は、3日間静置後の紙容器を上方・側方・下方から目視して、紙容器の表面に「しみ・変色・シワ・剥離・変形」が有る場合を「油分の浸透がある」とし、無い場合を「油分の浸透がない」とすることで行った。結果は、実施例1の紙容器では「油分の浸透がない」であり、比較例1の紙容器では「油分の浸透がある」であった。
【0054】
図4Aの写真で、耐油性の試験後の紙容器の内面(写真1-1、1-4)、および、底面(写真1-2、1-5)をそれぞれ比較すると、比較例1には、容器内部に露出するラミネート紙の端面からの油による油染み(写真1-4の上方の矢印)が生じていた。この油染みは、胴部材と底部材の両方に広がっていた。底部材への広がりは、胴部材の下端における折り返し部分を介して、染み込んだ油が底部材のラミネート紙の紙基材に伝わったものと考えられる(写真1-5の上方の矢印)。なお、この部分の油染みの拡大写真を図4Bの写真1-3、1-6にそれぞれ示す。
【0055】
また、比較例1には、これ以外にも容器内部における胴部材の下方部分に油染みが生じていた(写真1-4の下方の矢印)。この部分に対応する容器外面の写真(図4Bの写真1-7)によると、容器内部における胴部材の下端から上方への油の浸透範囲が認められた。写真1-5によると底部材の対応する箇所には油染みが認められなかったことから、容器内部における胴部材の下方部分のラミネートのピンホールを通って紙基材に浸透した油による油染みと考えられる。
【0056】
これに対して、実施例1の紙容器には、写真1-1~1-3からも明らかなように比較例1のような油染みは生じておらず、実施例1の紙容器が耐油性に優れることが分かった。
【0057】
<電子レンジ加熱試験>
次に、発明者らは、コンビニエンスストアで販売されているペペロンチーノを恒温恒湿器(温度10℃、湿度10%)に載置し、ペペロンチーノの温度が10℃になったら恒温恒湿器から取り出して(これは、店頭の商品棚に並べられるペペロンチーノの設定温度が5℃以上、10℃以下であることに基づく)、実施例1の紙容器に入れ、電子レンジ(1600W、1分間)で加熱した。ペペロンチーノの重量は、パスタとオリーブオイルを合わせた重さであり、約200gである。加熱後、目視によって油分の浸透の有無を調査した。評価は、電子レンジ加熱後の紙容器からペペロンチーノを取り出して、紙容器を上方・側方・下方から目視して、紙容器の表面に「しみ・変色・シワ・剥離・変形」が有る場合を「油分の浸透がある」とし、無い場合を「油分の浸透がない」とすることで行った。結果は、実施例1の紙容器では「油分の浸透がない」であり、比較例1の紙容器では「油分の浸透がある」であった。
【0058】
図5Aの写真で、電子レンジ加熱試験後の紙容器の内面(写真2-1、2-4)、および、底面(写真2-2、2-5)をそれぞれ比較すると、比較例1には、容器内部に露出するラミネート紙の端面からの油による油染み(写真2-4の矢印)が生じていた。この油染みは、胴部材のみに広がっていた。この部分の油染みの拡大写真を図5Bの写真2-3、2-6にそれぞれ示す。
【0059】
また、比較例1には、これ以外に、容器外面の写真(図5Bの写真2-7)に示すように、胴部材と底部材の加熱溶着部分において油染みが認められた。この油染みは、容器内面のラミネートを通って紙基材に浸透した油による油染みと考えられる。
【0060】
これに対して、実施例1の紙容器には、写真2-1~2-3からも明らかなように比較例1のような油染みは生じておらず、実施例1の紙容器が耐熱性に優れることが分かった。
【0061】
<油分の付着・拭き取り試験>
次に、発明者らは、実施例1の紙容器の胴部材の外面(耐油紙の表面)にオリーブオイル(1滴)を付着させて、10分後に拭き取った。拭き取り後、胴部材の外面を目視によって油染みの有無を調査した。評価は、拭き取り後の紙容器の胴部材の外面を目視して、外面に「しみ・変色」が有る場合を「油染みがある」とし、無い場合を「油染みがない」とすることで行った。比較例1の紙容器の胴部材の外面(一般カップ原紙の表面)に対しても同様にオリーブオイルの付着・拭き取り試験を行った。
【0062】
結果は、実施例1の耐油紙仕様の紙容器では「油染みがない」であり、比較例1の一般紙仕様の紙容器では「油染みがある」であった。図6に、油分の拭き取り後の実施例1(写真3-2)および比較例1(写真4-2)の紙容器の外面(油分を付着した部分)を拡大して撮影した写真を示す。この試験によって、比較例1の胴部材の外面は、一般カップ原紙の表面であることから、写真4-2のように油分が付着した場合に油染みが生じるが、実施例1の胴部材の外面は、耐油紙の表面であることから、写真3-2のように油分が付着しても油染みにならず、実施例1は比較例1よりも耐油性に優れることが分かった。
【0063】
<ピンホール試験>
次に、紙容器の底部材を胴部材の下端に加熱溶着する際に、胴部材の内面のPPラミネート(PPホモポリマーの樹脂層およびPPランダムコポリマーの樹脂層)にピンホールが発生するケースを想定し、発明者らは、実施例1および比較例1の紙容器の胴部材の内面のPPラミネートに予め微小なピンホール(直径2~3mm)を形成した。ピンホールは、底部材との接合部分よりも僅か上方の位置に、胴部材の内周面に沿って、7箇所に形成した。図7の写真6から判別されるように3つのピンホールと4つのピンホールを少し離して形成した。そして、その紙容器にピンホールより上のレベルまでオリーブオイル(約10g)を入れて10分間静置した。10分間静置後、胴部材の内面に懐中電灯の光を当てて、ピンホールの位置に対応する胴部材の外面を目視して、油染み通しの有無を調査した。評価は、10分間静置後の紙容器の胴部材の外面を目視して、外面に「しみ・変色」が有る場合を「油染み通しがある」とし、無い場合を「油染み通しがない」とすることで行った。
【0064】
結果は、比較例1の紙容器の胴部材の外面(一般カップ原紙の表面)の観察によって、「しみ・変色」が透けて見えたことから、「油染み通りがある」となった。これに対し、実施例1の紙容器の胴部材の外面(耐油紙の表面)には、「しみ・変色」が透けて見えるようなことはなく、「油染み通りがない」となった。図7の写真5に、10分間静置後の実施例1の紙容器の外面(ピンホールの位置に対応する部分)の拡大写真を示す。図7の写真6に、10分間静置後の比較例1の紙容器の外面(ピンホールの位置に対応する部分)の拡大写真を示す。この試験によって、比較例1の胴部材は一般カップ原紙を用いていることから、容器内面のPPラミネートに形成されたピンホールから油が染み込んで、写真6のように、容器外面から油染み通しが見えてしまうが、実施例1の胴部材は耐油紙を用いていることから、万が一、容器内面のPPラミネートにピンホールが発生した場合でも、そのピンホールからの油が耐油紙に染み込むことが殆どなく、写真5のように容器外面に油染み通りが発生しない。従って、実施例1は比較例1よりも耐油性に優れることが分かった。
【0065】
<原紙端面からの油分浸透性試験>
次に、実施例1と比較例1にて使用する原紙(耐油紙、一般カップ原紙)について、それぞれの端面からの油分浸透性を比較した。
油分浸透性試験では、それぞれの原紙(約4cm×約5cm)を立てた姿勢で、下端面を容器に入れられたオリーブオイルに5mm程度の深さまで浸けて、その状態を維持し、10分後および24時間後に、原紙へのオリーブオイルの浸透高さを観察した。浸透性の評価は、それぞれの原紙の下端面からオリーブオイルがどの程度上方まで浸透したかどうかで判断した。
【0066】
結果は、比較例1の一般カップ原紙においては、10分後に下端面から上方に平均5mm程度までオリーブオイルが浸透し、24時間後にはほぼ上端面まで浸透していた。これに対し、実施例1の耐油紙においては、24時間経ってもオリーブオイルの浸透範囲はほとんどゼロであった。図8の写真7は、それぞれの原紙の10分後、24時間後の原紙表面を撮影したものである。これらのことから、一般カップ紙においては油分の浸透が生じるが、耐油紙については油分の浸透は生じないことが分かった。
【0067】
上記実施例の紙容器は、いずれも容器内外からの油分の付着に対して、油分の浸透や油染み、油染み通しが生じず優れた耐油性を示し、電子レンジ加熱に対しても優れた耐熱性を示す。その他、試験後に紙容器が変形や剥離などを生じたものもなく、紙容器の剛性、接着強度も良好であると言える。また、紙容器の内面における胴部材の端面からの油分浸透の対策も不要であり、製造コストの上昇も抑えられる。従って、総合的に非常に優れた紙容器が得られた。
【符号の説明】
【0068】
10 紙容器
12 胴部材
14 底部材
12a、14a 紙基材
12b、14b ポリプロピレン単独重合体を含む樹脂層
12c プロピレン-エチレン共重合体を含む樹脂層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8