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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078730
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】ウッド型ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20230531BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230531BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230531BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20230531BHJP
【FI】
A63B53/04 C
A63B53/04 A
C08J5/04 CEZ
C08L101/00
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191994
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 良平
【テーマコード(参考)】
2C002
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002MM02
2C002PP01
4F072AA04
4F072AB05
4F072AB27
4F072AD04
4F072AD23
4F072AD38
4F072AD44
4F072AG03
4F072AH21
4F072AL04
4F072AL05
4J002AA00W
4J002BB00W
4J002CD00W
4J002CF21W
4J002CL00W
4J002CM02X
4J002FA04X
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】本発明は、軽量化を図りつつ、ヘッド本体の強度及び打球の飛距離を十分に大きくすることができるウッド型ゴルフクラブヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係るウッド型ゴルフクラブヘッド1は、フェース部2と、クラウン部3と、ソール部4とを有する中空のヘッド本体10を備え、フェース部2は、第1繊維11aが第1樹脂マトリックス11bに分散している第1繊維強化樹脂層11を有しており、第1繊維11aがPBO繊維であり、第1繊維強化樹脂層11は、フェース面2aと平行な方向に延びる複数の第1繊維11aからなる繊維束14が、厚さ方向に複数積層された多層構造を有しており、多層構造の各層における繊維束14は第1繊維11aが同じ方向に配向し、第1繊維強化樹脂層11は、層間における繊維束14の配向方向が所定角度で異なるように配置される2以上の層を含んでいる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース面を有するフェース部と、前記フェース部の上縁から後方に延びるクラウン部と、前記フェース部の下縁から後方に延びるソール部とを有する中空のヘッド本体を備え、
前記フェース部は、第1繊維が第1樹脂マトリックスに分散している第1繊維強化樹脂層を有しており、
前記第1繊維がポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維であり、
前記第1繊維強化樹脂層は、前記フェース面と平行な方向に延びる複数の前記第1繊維からなる繊維束が、厚さ方向に複数積層された多層構造を有しており、
前記多層構造の各層における繊維束は前記第1繊維が同じ方向に配向し、
前記第1繊維強化樹脂層は、層間における繊維束の配向方向が所定角度で異なるように配置される2以上の層を含んでいるウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記第1繊維強化樹脂層に含まれる全ての第1繊維のうち、繊維長さが60mm以上の第1繊維の含有量が50質量%以上である請求項1に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記第1繊維の引張強度が4.8GPa以上、引張弾性率が200GPa以下、密度が1.65g/cm以下である請求項1又は請求項2に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記フェース部は、第2繊維が第2樹脂マトリックスに分散している第2繊維強化樹脂層をさらに有する請求項1、請求項2又は請求項3に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記第1繊維強化樹脂層が、前記フェース部の最裏面に位置している請求項4に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記フェース部における前記第1繊維強化樹脂層の厚さが50%以上である請求項4又は請求項5に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記クラウン部と前記ソール部との前縁を含む領域に、前記フェース部が配置される開口が設けられており、前記開口の周縁部が金属製である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記ソール部が金属製である請求項7に記載のウッド型ゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウッド型ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
中空のヘッド本体を有するウッド型ゴルフクラブヘッドには、軽量でかつ十分な強度を有することが望まれる。
【0003】
ウッド型ゴルフクラブヘッドの軽量化を図る観点から、繊維強化樹脂(FRP)の使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-117368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ソール部を除くクラブヘッド本体全体を、樹脂を含浸させたポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維で構成することが記載されている。また、特許文献1には、クラブヘッド本体の材料として、一方向に引き揃えたプリプレグを同一方向に積層した板材を用いることが記載されている。
【0006】
特許文献1には、繊維強化樹脂に含まれる繊維として、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維を用いることで、ボールの反発特性に優れ、伸びが大きく、更に打球時の振動吸収性が大きく、打球感が向上することが記載されている。
【0007】
一方で、本発明者は、単にポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維をフェース部に用いても、クラブヘッド本体の強度や打球の飛距離を十分に大きくし難いことを知得した。また、この理由が、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維の特性に起因して、フェース部の強度や打撃時の撓み量に異方性が生じることにあるとの知見を得た。
【0008】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、本発明の目的は、軽量化を図りつつ、ヘッド本体の強度及び打球の飛距離を十分に大きくすることができるウッド型ゴルフクラブヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るウッド型ゴルフクラブヘッドは、フェース面を有するフェース部と、前記フェース部の上縁から後方に延びるクラウン部と、前記フェース部の下縁から後方に延びるソール部とを有する中空のヘッド本体を備え、前記フェース部は、第1繊維が第1樹脂マトリックスに分散している第1繊維強化樹脂層を有しており、前記第1繊維がポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維であり、前記第1繊維強化樹脂層は、前記フェース面と平行な方向に延びる複数の前記第1繊維からなる繊維束が、厚さ方向に複数積層された多層構造を有しており、前記多層構造の各層における繊維束は前記第1繊維が同じ方向に配向し、前記第1繊維強化樹脂層は、層間における繊維束の配向方向が所定角度で異なるように配置される2以上の層を含んでいる。
【0010】
前記第1繊維強化樹脂層に含まれる全ての第1繊維のうち、繊維長さが60mm以上の第1繊維の含有量が50質量%以上であるとよい。
【0011】
前記第1繊維の引張強度が4.8GPa以上、引張弾性率が200GPa以下、密度が1.65g/cm以下であるとよい。
【0012】
前記フェース部は、第2繊維が第2樹脂マトリックスに分散している第2繊維強化樹脂層をさらに有するとよい。
【0013】
前記第1繊維強化樹脂層が、前記フェース部の最裏面に位置しているとよい。
【0014】
前記フェース部における前記第1繊維強化樹脂層の厚さが50%以上であるとよい。
【0015】
前記クラウン部と前記ソール部との前縁を含む領域に、前記フェース部が配置される開口が設けられており、前記開口の周縁部が金属製であるとよい。
【0016】
前記ソール部が金属製であるとよい。
【0017】
なお、本発明において、「前」とは、打撃する側を意味し、「後」とは、その反対側を意味する。「引張強度」及び「引張弾性率」とは、JIS K7073に準拠して求められる値を意味する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様に係るウッド型ゴルフクラブヘッドは、前記フェース部が、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維が第1樹脂マトリックスに分散している第1繊維強化樹脂層を有するので、軽量化を図ることができる。当該ウッド型ゴルフクラブヘッドは、複数のポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維が同じ方向に配向した繊維束が2層以上に積層された多層構造を有しており、かつこの多層構造に、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維の配向方向が所定角度で異なる2以上の層が含まれているので、前記フェース部の強度及び撓み量を大きくすると共に、この強度及び撓み量に異方性が生じることを抑制できる。従って、当該ウッド型ゴルフクラブヘッドは、前記ヘッド本体の強度を大きくすると共に、打球の飛距離を十分に大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るウッド型ゴルフクラブヘッドの模式的正面図である。
図2図2は、図1のウッド型ゴルフクラブヘッドのトウ側から見た模式的側面図である。
図3図3は、図1のウッド型ゴルフクラブヘッドのIII-III線断面図である。
図4図4は、図1のウッド型ゴルフクラブヘッドのフェース部を取り外した状態を示す模式的正面図である。
図5図5は、図1のウッド型ゴルフクラブヘッドの第1繊維強化樹脂層を示す模式図である。
図6図6は、図5のフェース部の第1繊維強化樹脂層における第1繊維の配向方向を説明する図である。
図7図7は、図1のウッド型ゴルフクラブヘッドとは異なる形態におけるウッド型ゴルフクラブヘッドの図3に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載された数値については、記載された上限値と下限値との一方のみを採用すること、或いは上限値と下限値を任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0021】
[第一実施形態]
<ウッド型ゴルフクラブヘッド>
図1から図3のウッド型ゴルフクラブヘッド1は、中空のヘッド本体10を備える。ヘッド本体10は、フェース面2aを有するフェース部2と、フェース部2の上縁から後方に延びるクラウン部3と、フェース部2の下縁から後方に延びるソール部4とを有する。フェース面2aは、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1の打撃面を構成している。また、ヘッド本体10は、フェース部2の左右一対の側縁から後方に延びてクラウン部3とソール部4との間に配置されるサイド部5を有する。当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、例えばドライバ、ユーティリティ、フェアウェイウッド等として用いられる。中でも、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、ドライバとして好ましく用いられる。
【0022】
(フェース部)
図4に示すように、ヘッド本体10は、クラウン部3とソール部4との前縁を含む領域に開口10aを有している。フェース部2は、この開口10aを閉塞するように配置されている。フェース部2は、クラウン部3及びソール部4に対して、例えば接着剤で固定されている。フェース部2の厚さの下限としては、特に限定されるものではないが、例えば2mmが好ましく、3mmがより好ましい。フェース部2の厚さの上限としては、特に限定されるものではないが、例えば5mmが好ましく、4mmがより好ましい。
【0023】
図3及び図5に示すように、フェース部2は、第1繊維11aが第1樹脂マトリックス11bに分散している第1繊維強化樹脂層11を有する。また、図3に示すように、フェース部2は、第2繊維が第2樹脂マトリックスに分散している第2繊維強化樹脂層12を有する。フェース部2は、第1繊維強化樹脂層11と第2繊維強化樹脂層12とを含む複数の繊維強化樹脂層の積層体からなる。より詳しくは、フェース部2は、第1繊維強化樹脂層11及び第2繊維強化樹脂層12の2層構造体である。
【0024】
〔第1繊維強化樹脂層〕
第1繊維11aは、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維(PBO繊維)である。第1繊維強化樹脂層11は、フェース面2aと平行な方向に延びる複数の第1繊維11aからなる繊維束14が、厚さ方向(第1繊維強化樹脂層11の厚さ方向)に複数積層された多層構造を有する。図6に示すように、前記多層構造の各層110における繊維束14は第1繊維11aが同じ方向に配向している。
【0025】
図6に示すように、第1繊維強化樹脂層11は、層間における繊維束14の配向方向(繊維束14に含まれる第1繊維11aの配向方向)が所定角度で異なるように配置される2以上の層(層110-1から層110-n)を含んでいる。層間における繊維束14同士の配向角度としては、特に限定されるものではなく、層数nに応じて適宜設定可能である。例えば層数nを大きくして、前記配向角度を小さくすることで、第1繊維強化樹脂層11の面内における強度のばらつきを抑えやすい。
【0026】
第1繊維強化樹脂層11は、繊維束14の配向方向が全体として等角度で異なるように配置される2以上の層110を含んでいることが好ましい。「繊維束14の配向方向が全体として等角度で異なるように配置される2以上の層を含む」とは、任意の2以上の層において、面内方向の強度のばらつきを抑えるべく、平面視(第1繊維強化樹脂層の厚さ方向視)で繊維束14同士が全体として等角度で交差するように、繊維束14同士の配向方向を同じ角度ずつ変化させることを意味する。例えば第1繊維強化樹脂層11は、繊維束14の配向方向が直交する2つの層110を有していてもよく、繊維束14同士が45°ずつ交差する4つの層110を有していてもよく、繊維束14同士が22.5°ずつ交差する8つの層110を有していてもよい。また、「等角度」とは、厳密な等角度が好ましいが、±3°の範囲で許容差を有する。第1繊維強化樹脂層11を構成する各層110は、第1繊維11aの配向方向における強度が最も大きい。つまり、第1繊維強化樹脂層11を構成する各層110は、第1繊維11aの配向方向に対応して強度の異方性を有する。この点に関し、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、第1繊維強化樹脂層11が、繊維束14の配向方向が全体として等角度で異なるように配置される2以上の層110を含んでいることで、第1繊維11aとしてPBO繊維を用いた場合に、フェース部2の強度や打撃時の撓み量に異方性が生じることを抑制することができる。
【0027】
第1繊維11aの配向方向が全体として等角度で異なるように配置される層110の層数nの下限としては、4が好ましく、8がより好ましい。前記層数が前記下限に満たないと、フェース部2の強度や打撃時の撓み量に異方性が生じることの抑制効果が不十分となるおそれがある。なお、前記層数の上限としては、特に限定されるものではないが、例えば50とすることができる。
【0028】
第1繊維強化樹脂層11は、全ての層110を構成する繊維束14の配向方向が、全体として等角度で異なるように設けられていることが好ましい。この構成によると、フェース部2の強度や打撃時の撓み量に異方性が生じることを容易かつ確実に抑制することができる。
【0029】
第1繊維強化樹脂層11に含まれている全ての第1繊維11aのうち、繊維長さが60mm以上の第1繊維11aの含有量が50質量%以上であることが好ましい。また、前記含有量の下限としては、60質量%がより好ましい。前述のように、第1繊維強化樹脂層11に含まれる複数の第1繊維11aは、フェース面2aと平行に延びている。この構成において、図5に示すように、フェース部2の周縁から周縁に亘って延びるように各第1繊維11aの長さを大きくすると共に、フェース部2自体の面積を制御することで、第1繊維強化樹脂層11における繊維長さが60mm以上の第1繊維11aの含有量を前記下限以上に制御することができる。前記含有量が前記下限に満たないと、第1繊維11aの長さを十分に大きくできないことに起因して、フェース部2の強度と打撃時の撓み量との両方を十分に高めることが困難になるおそれがある。
【0030】
図1に示すように、フェース部2のトウヒール方向長さLの下限としては、70mmが好ましく、75mmがより好ましい。また、図2に示すように、フェース部2の高さHの下限としては、40mmが好ましく、45mmがより好ましい。フェース部2をこのようなサイズとすることで、第1繊維強化樹脂層11における第1繊維11aの長さを前記範囲に制御しやすい。なお、「トウヒール方向」とは、ゴルフクラブヘッドを所定のライ角及びロフト角になるように水平面に配置した状態における前後方向と直交する水平方向を意味する。また、「フェース部の高さ」とは、ヘッド本体の重心と、この重心をフェース面に垂直投影した投影点とを通る仮想線に垂直な平面にフェース部を投影した投影像におけるフェース部の高さを意味する。
【0031】
第1繊維11aの引張強度の下限としては、4.8GPaが好ましく、5.2GPaがより好ましい。前記引張強度が前記下限に満たないと、打撃時における第1繊維強化樹脂層11の耐久性が不十分となるおそれがある。一方、前記引張強度の上限としては、特に限定されるものではないが、第1繊維強化樹脂層11の撓み性を確保しやすい観点から、6.2GPaとすることができる。
【0032】
第1繊維11aの引張弾性率の上限としては、200GPaが好ましく、190GPaがより好ましい。前記引張弾性率が前記上限を超えると、打撃時の撓み量を十分に大きくすることができないおそれがある。一方、前記引張弾性率の下限としては、特に限定されるものではないが、第1繊維強化樹脂層11の強度を確保しやすい観点から、120GPaとすることができる。
【0033】
第1繊維11aの密度の上限としては、1.65g/cmが好ましく、1.55g/cmがより好ましい。前記密度が前記上限を超えると、フェース部2の軽量化を十分に促進できないおそれがある。一方、前記密度の下限としては、特に限定されるものではないが、第1繊維強化樹脂層11の強度を確保しやすい観点から、1.40g/cmとすることができる。
【0034】
第1繊維11aは、引張強度、引張弾性率及び密度がいずれも前記範囲内に含まれることが好ましい。この構成によると、フェース部2の軽量化を図りつつ、フェース部2の強度と打撃時の撓み量とを向上しやすい。
【0035】
第1繊維強化樹脂層11は、同じ方向に配向した複数の第1繊維11aを第1樹脂マトリックス11bに分散させたプリプレグが、第1繊維11aの配向方向が交差するように多層に積層されることで形成されている。第1樹脂マトリックス11bの主成分としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂や、ポリオレフィン、ポリアミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。なお、「主成分」とは、質量換算で最も含有量の大きい成分を意味しており、例えば含有量が50質量%以上の成分を意味する。
【0036】
第1繊維強化樹脂層11は、フェース部2の最裏面に位置している。この構成によると、打撃時に最も引張応力が加わりやすいフェース部2の最裏面にPBO繊維を配置することで、フェース部2の強度を高めつつ、打撃時の撓み量を十分に向上しやすい。
【0037】
フェース部2における第1繊維強化樹脂層11の厚さの下限としては、50%が好ましく、60%がより好ましい。前記厚さが前記下限に満たないと、フェース部2の強度と打撃時の撓み量との両方を十分に高めることが困難になるおそれがある。
【0038】
フェース部2における第1繊維強化樹脂層11の厚さの上限としては、特に限定されるものではなく、100%未満の任意の値とすることができ、例えば95%とすることができる。なお、第1繊維強化樹脂層11はPBO繊維を含んでいるため、第1繊維強化樹脂層11の表面に研磨加工等を施すと、PBO繊維の毛羽立ちを生じるおそれがある。その結果、フェース部2の美観が低下を生じるおそれや、フェース部2を所望の強度等に形成し難くなるおそれがある。このような観点から、本実施形態では、第1繊維強化樹脂層11のフェース面2a側に第2繊維強化樹脂層12を積層することで、第1繊維強化樹脂層11がフェース面2aに露出することを防止している。
【0039】
〔第2繊維強化樹脂層〕
第2繊維強化樹脂層12は、複数の第2繊維が第2樹脂マトリックスに分散している。当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、第1繊維強化樹脂層11に加えて第2繊維強化樹脂層12を有することで、フェース部2全体の品質を制御しやすい。特に、第2繊維強化樹脂層12によって第1繊維強化樹脂層11がフェース面2aに露出することを防止することで、PBO繊維の毛羽立ちに起因する美観の低下を抑えつつ、フェース部2全体の物性を制御しやすい。
【0040】
前記第2繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。前記第2繊維が炭素繊維である場合、第2繊維強化樹脂層12は、炭素繊維強化樹脂層(CFRP層)として構成される。前記繊維がガラス繊維である場合、第2繊維強化樹脂層12は、ガラス繊維強化樹脂層(GFRP層)として構成される。前記2樹脂マトリックスの主成分としては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂や、ポリオレフィン、ポリアミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。第2繊維強化樹脂層12は、例えば前記複数の第2繊維が前記第2樹脂マトリックスに分散したプリプレグを多層に積層することで形成されている。
【0041】
第1繊維強化樹脂層11と第2繊維強化樹脂層12とは、第1樹脂マトリックス11bと前記第2樹脂マトリックスとが融着することで積層されてもよく、接着剤等を用いて積層されてもよい。
【0042】
フェース部2の反発係数の下限としては、0.820が好ましく、0.825がより好ましい。前記反発係数が前記下限に満たないと、打球の飛距離を十分に大きくすることができないおそれがある。なお、「フェース部の反発係数」とは、ヘッド本体の重心をフェース面に垂直投影した投影点(スイートスポット)における値を意味し、当該反発係数はR&A推奨のキャノンテストによる測定値である。
【0043】
図4に示すように、ヘッド本体10において、クラウン部3とソール部4との前縁を含む領域には、フェース部2が配置される開口10aが設けられている。この開口10aの周縁部は金属製であることが好ましい。換言すると、図1に示すように、ヘッド本体10は、フェース部2の周縁2bを取り囲むようにこの周縁2bに連続して配置される環状の枠部13を有しており、この枠部13が金属製であるとよい。この構成によると、フェース部2の周縁2bを金属製の枠部13によって支持することができ、これによりフェース部2を集中的に撓ませることができる。その結果、打球の飛距離をより大きくすることができる。また、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、このようにフェース部2が集中的に撓む構成にあっても、第1繊維強化樹脂層11に、繊維束14の配向方向が全体として等角度で異なるように配置される2以上の層110が設けられているので、フェース部2の強度を大きくして、フェース部2の割れを抑制することができる。枠部13を構成する金属としては、例えばチタン、ステンレス鋼、マレージング鋼、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。なお、本発明において、「金属」とは、合金を含む概念である。
【0044】
(クラウン部)
クラウン部3の前縁部は、前述の枠部13の一部分を構成している。そのため、クラウン部3の前縁部は金属製である。一方で、枠部13以外の部分におけるクラウン部3の材質は特に限定されるものではない。例えばクラウン部3は、その全体が金属製であってもよく、繊維強化樹脂からなる部分を有していてもよい。
【0045】
(ソール部)
ソール部4の前縁部は、前述の枠部13の一部分を構成している。そのため、ソール部4の前縁部は金属製である。一方で、枠部13以外の部分におけるソール部4の材質は特に限定されるものではない。例えばソール部4は、繊維強化樹脂からなる部分を有していてもよい。但し、ソール部4は枠部13以外の部分も金属製であることが好ましい。すなわち、ソール部4は、その全体が金属製であることが好ましい。ソール部4が金属製であることで、ソール部4の強度を十分に大きくすることができ、打撃時等におけるヘッド本体10の割れをより確実に抑制することができる。
【0046】
ソール部4が金属製である場合、ソール部4を構成する金属としては、例えばチタン、ステンレス鋼、マレージング鋼、アルミニウム、マグネシウム等が挙げられる。中でも、軽量でかつソール部4の強度を十分に大きくできるチタンが好ましい。
【0047】
<利点>
当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、フェース部2が、PBO繊維が第1樹脂マトリックス11bに分散している第1繊維強化樹脂層11を有するので、軽量化を図ることができる。当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、複数のPBO繊維が同じ方向に配向した繊維束14が2層以上に積層された多層構造を有しており、かつこの多層構造に、PBO繊維の配向方向が所定角度で異なる2以上の層110が含まれているので、フェース部2の強度及び撓み量を大きくすると共に、この強度及び撓み量に異方性が生じることを抑制できる。従って、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド1は、ヘッド本体10の強度を大きくすると共に、打球の飛距離を十分に大きくすることができる。より詳しくは、フェース部2の強度に異方性が生じることを抑制することでフェース部2の割れを抑制できると共に、フェース部2の反発係数を大きくすることで打球の飛距離を十分に大きくすることができる。
【0048】
[第二実施形態]
<ウッド型ゴルフクラブヘッド>
図7のウッド型ゴルフクラブヘッド21は、中空のヘッド本体20を備える。ヘッド本体20は、フェース面22aを有するフェース部22と、フェース部22の上縁から後方に延びるクラウン部3と、フェース部22の下縁から後方に延びるソール部4とを有する。フェース面22aは、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド21の打撃面を構成している。当該ウッド型ゴルフクラブヘッド21のフェース部22以外の構成は、図1から図3のウッド型ゴルフクラブヘッド1と同様とすることができる。そのため、以下では、フェース部22についてのみ説明する。
【0049】
(フェース部)
フェース部22は、第1繊維が第1樹脂マトリックスに分散している第1繊維強化樹脂層23を有する。前記第1繊維は、PBO繊維である。フェース部22は、第1繊維強化樹脂層23以外の繊維強化樹脂層を備えていない。第1繊維強化樹脂層23の具体的な構成は、図1から図3のウッド型ゴルフクラブヘッド1の第1繊維強化樹脂層11と同じとすることができる。
【0050】
フェース部22は、第1繊維強化樹脂層23のみから構成されていてもよい。一方で、フェース部22は、第1繊維強化樹脂層23がフェース面22aに露出しないように構成されていてもよい。第1繊維強化樹脂層23がフェース面22aに露出しないことで、PBO繊維の毛羽立ちに起因する品質の低下を抑えることができる。第1繊維強化樹脂層23がフェース面22aに露出しない構成としては、例えば第1繊維強化樹脂層23の表面に金属蒸着膜を形成する構成が挙げられる。
【0051】
<利点>
当該ウッド型ゴルフクラブヘッド21は、フェース部22が第1繊維強化樹脂層23を有するので、軽量化を図ることができる。また、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド21は、フェース部22が第1繊維強化樹脂層23を有するので、フェース部22の強度及び撓み量を大きくすると共に、この強度及び撓み量に異方性が生じることを抑制できる。従って、当該ウッド型ゴルフクラブヘッド21は、ヘッド本体20の強度を大きくすると共に、打球の飛距離を十分に大きくすることができる。
【0052】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0053】
例えば前記フェース部は、前記第1繊維強化樹脂層及び前記第2繊維強化樹脂層以外の第3繊維強化樹脂層を有していてもよい。この場合、前記第3繊維強化樹脂層に含まれる第3繊維の種類は特に限定されるものではない。また、前記第3繊維強化樹脂層の配置は、特に限定されるものではなく、例えばフェース部の最表面に配置されてもよく、前記第1繊維強化樹脂層と前記第2繊維強化樹脂層との間に配置されてもよい。加えて、前記フェース部は、前記第3繊維強化樹脂層以外の1又は複数の繊維強化樹脂層をさらに有していてもよい。
【0054】
前述のように、当該ウッド型ゴルフクラブヘッドは、打撃時に最も引張応力が加わりやすい前記フェース部の最裏面に前記第1繊維強化樹脂層が配置されていることが好ましい。但し、ウッド型ゴルフクラブヘッドに求められる品質によっては、前記第1繊維強化樹脂層が前記フェース部の最裏面に配置されない構成を採用することも可能である。
【0055】
前述のように、当該ウッド型ゴルフクラブヘッドにあっては、前記フェース部が配置される開口の周縁部は金属製であることが好ましい。但し、ウッド型ゴルフクラブヘッドに求められる品質によっては、前記開口の周縁部の一部分又は全部分を金属以外の材質で形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明の一態様に係るウッド型ゴルフクラブヘッドは、軽量化を図りつつ、ヘッド本体の強度及び打球の飛距離を十分に大きくするのに適している。
【符号の説明】
【0057】
1、21 ウッド型ゴルフクラブヘッド
2、22 フェース部
2a、22a フェース面
2b 周縁
3 クラウン部
4 ソール部
5 サイド部
10、20 ヘッド本体
10a 開口
11、23 第1繊維強化樹脂層
11a 第1繊維
11b 第1樹脂マトリックス
12 第2繊維強化樹脂層
13 枠部
14 繊維束
110 層
H フェース部の高さ
L フェース部のトウヒール方向長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7