(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078731
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】処理装置、処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01M 17/10 20060101AFI20230531BHJP
G01L 1/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
G01M17/10
G01L1/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191995
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】藤本 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】品川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】南 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 修
(57)【要約】
【課題】 物体が実際に使用される状況での荷重を考慮した物体の状態を、静荷重試験を行うことにより評価することができるようにする。
【解決手段】 処理装置200は、主電動機150および軸ばね座130における加速度の測定値と、鉄道車両が走行している時の台車枠100の運動を記述する運動方程式であってモード座標系で表現された運動方程式と、を用いて、主電動機150および軸ばね座130の位置の特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける変位の時間変化を算出し、主電動機150および軸ばね座130の位置の特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける変位の時間変化を用いて、静荷重試験の試験条件または静荷重試験の結果の使用条件を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の固有振動モードで振動する物体の状態を、静荷重試験を用いて評価するために用いる情報を算出する処理を行う処理装置であって、
前記物体が使用されている時の当該物体の振動に影響を与える所定位置における振動反映物理量の測定値または想定値と、前記物体の使用時の運動を記述する運動方程式であってモード座標系で表現された運動方程式と、を用いて、前記物体における複数の評価点の前記特定の固有振動モードにおける変位の時間変化を算出する時刻歴解析手段と、
前記時刻歴解析手段により算出された、前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化を用いて、前記静荷重試験の試験条件または前記静荷重試験の結果の使用条件を算出する条件算出手段と、
を備え、
前記振動反映物理量は、前記物体の使用時の振動が反映される物理量である、処理装置。
【請求項2】
前記特定の固有振動モードの情報を取得する固有振動モード取得手段をさらに備え、
前記時刻歴解析手段は、前記固有振動モード取得手段により取得された前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化を算出する、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記固有振動モード取得手段は、前記物体の所定位置の使用時における前記振動反映物理量の測定値または想定値の時間変化に基づいて、前記静荷重試験において荷重を与える方向の振動に対応する固有振動モードを前記特定の固有振動モードとして算出する、請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記物体の所定位置は、前記評価点の少なくとも1つを含む、請求項3に記載の処理装置。
【請求項5】
前記振動反映物理量は、加速度、速度、または変位である、請求項1~4のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記条件算出手段は、前記時刻歴解析手段により算出された前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化のそれぞれから、同一の時刻における当該複数の評価点の変位を特定し、特定した複数の評価点の変位を境界条件として、前記物体の運動を記述する物理座標系の運動方程式を用いた静解析を行うことにより、前記静荷重試験において当該評価点に与える静荷重を、前記静荷重試験の試験条件として算出する荷重算出手段を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項7】
前記評価点は、前記静荷重試験において静荷重を与える基準の部位に対応する位置に設定される少なくとも1つの基準評価点と、前記基準評価点とは異なる位置に設定される少なくとも1つの動的振動評価点と、を含む、請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
前記荷重算出手段は、前記時刻歴解析手段により算出された前記特定の固有振動モードにおける前記基準評価点の変位の時間変化において、当該特定の固有振動モードに対応する方向への変位の絶対値が最大となる時刻を特定し、前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化のそれぞれから、当該特定した時刻における当該複数の評価点の変位を特定する、請求項7に記載の処理装置。
【請求項9】
前記条件算出手段は、前記荷重算出手段により算出された、前記静荷重試験において前記複数の評価点に与える静荷重を、前記荷重算出手段により算出された、前記静荷重試験において前記基準評価点に与える静荷重を基準にして規格化し、規格化した前記静荷重を、前記静荷重試験の試験条件として算出する荷重規格化手段をさらに有する、請求項8に記載の処理装置。
【請求項10】
前記条件算出手段は、複数の方向の静荷重を前記物体に個別に与えた場合の前記評価点の変位をそれぞれ取得する変位取得手段と、
前記特定の固有振動モードにおける前記評価点の変位を目的変数とし、相互に異なる複数の方向の静荷重のそれぞれを個別に物体に与えた場合の前記評価点の変位を説明変数とする回帰式の回帰係数として非負値の回帰係数を、前記複数の方向の静荷重のそれぞれを個別に物体に与えることにより行われる複数の静荷重試験の結果の使用条件として算出する回帰係数算出手段と、を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項11】
前記回帰係数算出手段は、前記回帰係数が負の回帰係数となる場合に値が大きくなるペナルティ項を含む評価関数を用いた最小二乗法による計算を行うことにより前記非負値の回帰係数を算出する、請求項10に記載の処理装置
【請求項12】
前記変位取得手段は、前記物体の運動を記述する物理座標系の運動方程式を用いた静解析を行うことにより、相互に異なる複数の方向の静荷重のそれぞれを個別に物体に与えた場合の前記評価点の変位をそれぞれ算出する、請求項10または11に記載の処理装置。
【請求項13】
前記条件算出手段は、前記回帰係数算出手段により算出された全ての前記非負値の回帰係数の和に対する個々の前記非負値の回帰係数の割合である寄与率を算出する寄与率算出手段をさらに有する、請求項10~12のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項14】
前記評価点は、前記静荷重試験において静荷重を与える基準の部位に対応する位置に設定される少なくとも1つの基準評価点と、前記基準評価点とは異なる位置に設定される少なくとも1つの動的振動評価点と、を含む、請求項10~13のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項15】
前記回帰係数算出手段は、前記時刻歴解析手段により算出された前記特定の固有振動モードにおける前記基準評価点の変位の時間変化において、当該特定の固有振動モードに対応する方向への変位の絶対値が最大となる時刻を特定し、前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化のそれぞれから、当該特定した時刻における当該複数の評価点の変位を特定し、特定した変位を前記目的変数として用いて前記非負値の回帰係数を算出する、請求項14に記載の処理装置。
【請求項16】
前記物体は、鉄道車両用の台車枠を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項17】
前記振動反映物理量は、軸箱における加速度、速度、または変位である、請求項16に記載の処理装置。
【請求項18】
特定の固有振動モードで振動する物体の状態を、静荷重試験を用いて評価するために用いる情報を算出する処理を行う処理方法であって、
前記物体が使用されている時の当該物体の振動に影響を与える所定位置における振動反映物理量の測定値または想定値と、前記物体の使用時の運動を記述する運動方程式であってモード座標系で表現された運動方程式と、を用いて、前記物体における複数の評価点の前記特定の固有振動モードにおける変位の時間変化を算出する時刻歴解析工程と、
前記時刻歴解析工程により算出された、前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化を用いて、前記静荷重試験の試験条件または前記静荷重試験の結果の使用条件を算出する条件算出工程と、
を含み、
前記振動反映物理量は、前記物体の使用時の振動が反映される物理量である、処理方法。
【請求項19】
請求項1~17のいずれか1項に記載の処理装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置、処理方法、およびプログラムに関し、特に、物体の静荷重試験を行うために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用の台車枠(以下の説明では必要に応じて台車枠とも称する)等の物体にかかる応力を評価するために静荷重試験が行われる。
特許文献1には、以下のことが記載されている。まず、有限要素法(FEM(Finite Element Method))で解析される解析モデル上の全ての節点において仮想的に歪みゲージを定義して、単荷重(上下荷重、前後荷重、左右荷重、ブレーキ荷重、ねじり荷重、モータ荷重、および主電動機荷重等)毎の応力を求める。このようにして求めた単荷重毎の応力を用いて複合応力を演算して、耐久限度線図上で強度評価を行う。そして、強度評価の結果に基づいて台車枠を製造し、静荷重試験を行う。
【0003】
また、特許文献2には、以下のことが記載されている。まず、FEMで解析される解析モデルの表面の任意の節点を対象節点として、対象節点と共に三角形を形成することができる2つの節点の組み合わせを基準節点ペアとして抽出する。また、基準節点ペアの間に仮想節点を規定する。そして、上下方向の荷重、左右方向の荷重、前後方向の荷重、およびねじり方向の荷重等、JIS E 4207:2019に示された複数の荷重条件毎に、荷重を与える前後における解析モデルの表面上の各節点の変位を取得する。そして、対象節点および仮想節点の変位に基づいて、台車枠の対象節点に対応する部位の強度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005―190242号公報
【特許文献2】特開2021―67991号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】鷲津久一郎 他4名 編、「有限要素法ハンドブック II 応用編」、初版、1983年1月25日、株式会社培風館、p.65-67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、台車枠等の物体が実際に使用される状況での荷重を考慮していない。したがって、物体が実際に使用される状況での荷重を考慮した物体の状態を、静荷重試験を行うことにより評価することができないという問題点がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、物体が実際に使用される状況での荷重を考慮した物体の状態を、静荷重試験を行うことにより評価することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の処理装置は、特定の固有振動モードで振動する物体の状態を、静荷重試験を用いて評価するために用いる情報を算出する処理を行う処理装置であって、前記物体が使用されている時の当該物体の振動に影響を与える所定位置における振動反映物理量の測定値または想定値と、前記物体の使用時の運動を記述する運動方程式であってモード座標系で表現された運動方程式と、を用いて、前記物体における複数の評価点の前記特定の固有振動モードにおける変位の時間変化を算出する時刻歴解析手段と、前記時刻歴解析手段により算出された、前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化を用いて、前記静荷重試験の試験条件または前記静荷重試験の結果の使用条件を算出する条件算出手段と、を備え、前記振動反映物理量は、前記物体の使用時の振動が反映される物理量である。
【0009】
本発明の処理方法は、特定の固有振動モードで振動する物体の状態を、静荷重試験を用いて評価するために用いる情報を算出する処理を行う処理方法であって、前記物体が使用されている時の当該物体の振動に影響を与える所定位置における振動反映物理量の測定値または想定値と、前記物体の使用時の運動を記述する運動方程式であってモード座標系で表現された運動方程式と、を用いて、前記物体における複数の評価点の前記特定の固有振動モードにおける変位の時間変化を算出する時刻歴解析工程と、前記時刻歴解析工程により算出された、前記特定の固有振動モードにおける前記複数の評価点の変位の時間変化を用いて、前記静荷重試験の試験条件または前記静荷重試験の結果の使用条件を算出する条件算出工程と、を含み、前記振動反映物理量は、前記物体の使用時の振動が反映される物理量である。
【0010】
本発明のプログラムは、前記処理装置の各手段としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物体が実際に使用される状況での荷重を考慮した物体の状態を、静荷重試験を行うことにより評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】第1実施形態の処理装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図3】第1実施形態の処理方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図4】台車枠の上下方向の振動に対応する固有振動モードの一例を示す図である。
【
図5】特定の固有振動モードにおける加速度の時間変化の第1の例を示す図である。
【
図6】特定の固有振動モードにおける加速度の時間変化の第2の例を示す図である。
【
図7】特定の固有振動モードにおける変位の時間変化の第1の例を示す図である。
【
図8】特定の固有振動モードにおける変位の時間変化の第2の例を示す図である。
【
図10】第2実施形態の処理装置の機能的な構成の一例を示す図である。
【
図11】第2実施形態の処理方法の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
なお、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。また、各図では、説明および表記の都合上、各構成のうち説明に必要な部分のみを必要に応じて簡略化して示す。
【0014】
以下の各実施形態では、物体が鉄道車両用の台車枠である場合を例示する。
図1は、台車枠100の概略構成の一例を示す図である。各図に示すx-y-z座標は、各図における向きの関係を示す図である。
図1に示すように、y軸に平行な方向が鉄道車両の走行方向(y軸の正の方向が進行方向)であり、z軸に平行な方向が鉄道車両の上下方向(不図示の軌道に対して垂直な方向)であり、x軸に平行な方向が鉄道車両の左右方向であるものとする。以下の説明では、鉄道車両の走行方向、鉄道車両の上下方向、鉄道車両の左右方向を、必要に応じて、それぞれ、走行方向、上下方向、左右方向と略称する。また、鉄道車両の進行方向(y軸の正の方向)に向かって左側(x軸の負の方向側)、鉄道車両の進行方向(y軸の正の方向)に向かって右側(x軸の正の方向側)を、それぞれ、必要に応じて、左側、右側と略称する。また、鉄道車両の進行方向側(y軸の正の方向側)、鉄道車両の進行方向とは反対側(y軸の負の方向側)を、それぞれ、必要に応じて、前側、後側と称する。また、上下方向のうち上方向、下方向を、必要に応じて、上方向、下方向と称する。
【0015】
図1において、台車枠100は、走行方向に延設される一対の側梁110(110a~110b)を備える。また、台車枠100は、左右方向に延設される一対の横梁120(120a~120b)を備える。側梁110(110a~110b)は、横梁120(120a~120b)の左右方向の両側に接続されている。
側梁110(110a~110b)の前側および後側の領域には、軸ばね座130(130a~130d)が設置されている。軸ばね座130(130a~130d)には、不図示の軸ばねが設置される。
【0016】
横梁120(120a~120b)には、主電動機受座140(140a~140b)が形成されている。主電動機受座140(140a~140b)に主電動機150(150a~150b)が設置される。静荷重試験においては、主電動機150(150a~150b)に静荷重が印加される場合があることから、主電動機150は台車枠100に含まれるものとする。その他、台車枠100の静荷重試験において使用される鉄道車両の部位も、台車枠100に含まれるものとする。また、側梁110(110a~110b)および横梁120(120a~120b)の左右方向の両側には、空気ばね座160(160a~160b)が設置されている。空気ばね座160(160a~160b)には、不図示の空気ばねが設置される。
なお、
図1は、以下の各実施形態の説明のために台車枠100を簡略化して図示したものであり、静荷重試験の対象となる台車枠100は特に限定されるものではない。以下、
図1に示した台車枠100を参照しながら本発明の各実施形態を説明する。
【0017】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態を説明する。
図2は、本実施形態の処理装置200の機能的な構成の一例を示す図である。処理装置200のハードウェアは、例えば、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置、および各種のインターフェースを備える情報処理装置を用いることにより実現される。
図3は、本実施形態の処理装置200を用いて行われる処理方法の一例を説明するフローチャートである。処理装置200は、特定の固有振動モードで振動する物体の状態を、静荷重試験を用いて評価するために用いる情報を算出する処理を行う。前述したように本実施形態では、物体が台車枠100である場合を例示する。以下に、
図3のフローチャートを参照しながら、本実施形態の処理装置200が有する機能の一例を説明する。
【0018】
<ステップS301:特定の固有振動モードの取得>
ステップS301において、固有振動モード取得部210は、物体が使用されている時に発生する固有振動モードの情報を、特定の固有振動モードの情報として取得する。
本実施形態では、静荷重試験において荷重を与える方向が上下方向である場合を例示する。したがって、固有振動モード取得部210は、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードの情報を特定の固有振動モードの情報として取得する。
【0019】
本実施形態では、固有振動モード取得部210は、鉄道車両が走行している時の台車枠100の所定位置における振動反映物理量の測定値または想定値の時間変化に基づいて、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードの情報を特定の固有振動モードの情報として取得する。
ここで、振動反映物理量は、物体の使用時の振動(本実施形態では、鉄道車両の走行時の台車枠100の振動)が反映される物理量である。本実施形態では、このような振動反映物理量として、加速度を例示する。なお、加速度に代えて、例えば、速度または変位(すなわち、加速度を算出可能な物理量)を振動反映物理量として用いても良い。
【0020】
また、本実施形態では、台車枠100の所定位置が、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)である場合を例示する。本実施形態では、静荷重試験において静荷重を与える部位が、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)である場合を例示する。したがって、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードの情報を取得する際には、固有振動モード取得部210は、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)における振動反映物理量(加速度)の測定値または想定値を取得するのが好ましい。
【0021】
また、本実施形態では、固有振動モード取得部210が、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)のそれぞれに加速度センサを設置して実際に鉄道車両を走行させた時に当該加速度センサで測定された加速度の時系列データ(加速度の時間変化を示すデータ)を入力して、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードを算出する場合を例示する。加速度の時系列データの入力は、例えば、不図示の外部装置(例えば加速度センサ)からの受信、可搬型記憶媒体からの読み出し、または処理装置200のユーザインターフェースに対する入力操作に基づいて行われる。
【0022】
そして、本実施形態では、固有振動モード取得部210が、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)に設置された加速度センサで測定された加速度の時系列データを用いて、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードを算出する場合を例示する。
【0023】
固有振動モード取得部210は、例えば、実稼働モード解析を行うことにより台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードを算出しても、理論モード解析を行うことにより台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードを算出しても良い。実稼働モード解析を行う場合、固有振動モード取得部210は、例えば、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザを用いて周波数応答関数を算出し、算出した周波数応答関数に基づいて、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードを算出する。また、理論モード解析を行う場合、固有振動モード取得部210は、例えば、台車枠の運動を記述する運動方程式に対する固有値解析を行うことにより固有値および固有ベクトルを算出し、固有値および固有ベクトルに基づいて、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードを算出する。実稼働モード解析および理論モード解析は、公知の技術で実現され、前述した手法に限定されない。
【0024】
本実施形態では、固有振動モード取得部210が、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)に設置された加速度センサで測定された加速度の時系列データ(すなわち、加速度の測定値)を用いる場合を例示した。しかしながら、必ずしも測定値を用いる必要はない。例えば、台車枠100の運動を記述する運動方程式を用いてFEMモデルを構成し、鉄道車両が走行している時の主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)の加速度(振動加速度)の時系列データを、FEMモデルを用いた数値解析を行うことにより算出しても良い。このようにする場合、鉄道車両が走行している時の主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)の加速度は、軌道条件に応じた周波数成分を有する仮想値(計算値)となる。以上のように、鉄道車両が走行している時の主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)の加速度の値は、想定値(計算値)であっても良い。なお、軌道条件は、どのような軌道がどのような状態で敷設されているのかを示す情報を用いて定められる条件である。また、台車枠100の運動を記述する運動方程式は、例えば、後述する(1)式である。
【0025】
また、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードが既知である場合、固有振動モード取得部210は、当該固有振動モードの情報を特定の固有振動モードの情報として入力しても良い。このようにする場合、特定の固有振動モードの情報は、例えば、処理装置200のユーザインターフェースに対する入力操作に基づいて入力される。
【0026】
図4は、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モードの一例を示す図である。
図4(a)~
図4(c)では、側梁110(110a~110b)、横梁120(120a~120b)、軸ばね座130(130a~130d)、および主電動機150(150a~150b)を点で表し、これらの接続関係を実線および破線で示す。破線は、変形前の元の状態を示し、実線は、変形後の状態を示す。
【0027】
本実施形態では、
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)に示す3つの固有振動モードωa、ωb、ωcが、台車枠100の上下方向の振動に対応する固有振動モード(特定の固有振動モード)として算出された場合を具体例として示す。
図4(a)~
図4(b)に示す特定の固有振動モードωa~ωbは、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に同位相で振動する固有振動モードである。2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に同位相で振動するとは、主電動機150aが上方向(下方向)に振動する時には主電動機150bも上方向(下方向に)に振動することを指す。一方、
図4(c)に示す固有振動モードωcは、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に逆位相で振動する固有振動モードである。2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に逆位相で振動するとは、2つの主電動機150(150a~150b)の一方が上方向に振動している時に、他方は下方向に振動することを指す。
図4(a)~
図4(c)に示すように、いずれの固有振動モードωa、ωb、ωcにおいても、横梁120(120a~120b)および側梁110(110a~110b)が、主電動機150(150a~150b)の上下動に付随して上下方向に振動することが分かる。
【0028】
<ステップS302:特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の算出>
図2および
図3の説明に戻り、ステップS302において、時刻歴解析部220は、物体が使用されている時の当該物体の振動に影響を与える所定位置における振動反映物理量の測定値または想定値と、物体の使用時の運動を記述する運動方程式であってモード座標系で表現された運動方程式と、を用いて、物体における複数の評価点(位置)の、特定の固有振動モードにおける変位の時間変化を算出する。
【0029】
前述したように本実施形態では、特定の固有振動モードが、固有振動モード取得部210で取得された固有振動モードωa、ωb、ωcである場合を例示する。なお、固有振動モード取得部210で取得された特定の固有振動モードの数が1つである場合、時刻歴解析部220は、当該1つの特定の固有振動モードについてのみステップS302の処理を行えば良い。
【0030】
物体が使用されている時の当該物体の振動に影響を与える所定位置は、使用時における物体の振動の特徴が表れる位置であるのが好ましい。本実施形態では、物体が台車枠100である場合を例示する。したがって、鉄道車両が走行している時の台車枠100の振動に影響を与える所定位置は、鉄道車両が走行している時の台車枠100の振動の特徴が現れる位置であるのが好ましい。鉄道車両が走行している時の台車枠100の振動は、軌道条件に大きく依存する。このような軌道条件の影響を大きく受け、台車枠100の振動の特徴が良く現れる部位として不図示の軸箱が挙げられる。そこで、本実施形態では、鉄道車両が走行している時の台車枠100の振動に影響を与える所定位置が軸箱(の設置位置)である場合を例示する。また、前述したように本実施形態では、振動反映物理量が加速度である場合を例示する。したがって、本実施形態では、鉄道車両が走行している時の台車枠100の振動に影響を与える所定位置における振動反映物理量の測定値または想定値が、鉄道車両が走行している時の軸箱の加速度(振動加速度)の測定値である場合を例示する。ただし、ステップS301で説明した、鉄道車両が走行している時の主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)の加速度と同様に、鉄道車両が走行している時の軸箱の加速度は、想定値(計算値)であっても良い。すなわち、鉄道車両が走行している時の軸箱の加速度の値は、軌道条件に応じた周波数成分を有する仮想値(計算値)であっても良い。
【0031】
また、本実施形態では、複数の評価点が、静荷重試験において静荷重が与えられる位置に設定される場合を例示する。前述したように本実施形態では、静荷重試験において静荷重を与える部位が、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)である。したがって、複数の評価点は、主電動機150(150a~150b)および軸ばね座130(130a~130d)の位置に設定される。なお、以下の説明では、主電動機150(150a~150b)の位置が主電動機150(150a~150b)の重心位置であり、軸ばね座130(130a~130d)の位置が軸ばね座130(130a~130d)における軸ばねの取付位置である場合を例示する。
【0032】
次に、鉄道車両が走行している時の台車枠100の運動を記述する運動方程式であってモード座標系で表現された運動方程式の一例について説明する。
鉄道車両が走行している時の軸箱の加速度の時系列データに対して時間範囲を絞って分析を行えば、台車枠100に生じる特徴的な固有振動モードを特定することが可能である。しかしながら、鉄道車両が走行している時の軸箱の実際の加速度には、軌道からの外乱や、輪軸を含む台車全体の固有振動成分も含まれる。したがって、台車枠100が有する特定の固有振動モードの影響を定量化することは容易ではない。このことから、本発明者らは、台車枠100の変形形態を、FEM等の数値解析によって固有振動モード毎に分解し、固有振動モード毎の時間応答を求めることにより、個々の固有振動モードの影響を定量化することを着想した。具体的には、拘束モードに基づくモード合成法を基礎として、台車枠100の振動を記述する運動方程式を定式化し、当該運動方程式を用いて、固有振動モード毎の変位の時刻歴を算出する時刻歴応答解析を行う。
台車枠100の振動を表す運動方程式は、以下の(1)式で表される。
【0033】
【0034】
ここで、[M]は、台車枠100の質量行列である。[C]は、台車枠100の減衰行列(粘性減衰行列ともいう)である。[K]は、台車枠100の剛性行列である。
{u}は、台車枠100の変位ベクトルである。{F}は、台車枠100の外力ベクトルである。
【0035】
本実施形態では、台車枠100の振動には、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向の3つの成分があるものとする。従って、{u}を構成する各節点の変位および{F}を構成する各節点の外力は、3つの自由度を有する。なお、(1)式において、・は、d/dt(時間の1階微分)を表し、・・は、d2/dt2(時間の2階微分)を表す(このことは、以降の式でも同じである)。
【0036】
lは、数値解析における変位分布の近似解の自由度に対応する。本実施形態では、数値解析として、有限要素法(以下、FEMと称する)を用いる場合を例示する。したがって、lは、例えば、FEMのメッシュの節点の数である。この場合、台車枠100の質量行列[M]、台車枠100の減衰行列[C]、および台車枠100の剛性行列[K]の要素(成分)には、それぞれ、各要素に対応する密度から導出される値、各要素に対応する粘性減衰係数から導出される値、および各要素に対応する剛性から導出される値が与えられる。密度、粘性減衰係数、および剛性は、位置によらずに同じ値としても異なる値としても良い。台車枠100の質量行列[M]、減衰行列[C]、および剛性行列[K]の成分は、例えば、FEMによる数値解析を行う公知のソルバーにおいて、FEMのメッシュと、台車枠100全体の密度、粘性減衰係数、および剛性と、を用いて算出される。
【0037】
(1)式の左辺第1項は、台車枠100に作用する重力を表す慣性項である。(1)式の左辺第2項は、台車枠100に作用する粘性力を表す減衰項である。(1)式の左辺第3項は、台車枠100に作用する剛性力を表す剛性項である。
【0038】
ここでは、固有値解析を行うに際して(1)式の左辺第2項(減衰項)を無視する(0(零)とする)。したがって、以下では、(1)式の左辺第2項(減衰項)を0(零)とする。
台車枠100の変位ベクトル{u}を、境界の変位ベクトル{xb}と、内部の変位ベクトル{xi}とに分割する。境界の変位ベクトル{xb}の要素(変位)は、台車枠100の変位ベクトル{u}の要素(変位)のうち、軸箱の振動加速度を入力する台車枠100の位置(FEMモデルのメッシュの節点の位置)における要素である。境界の変位ベクトル{xb}は、鉄道車両が走行している時の軸箱の加速度の測定値を積分することにより求められる。以下の説明では、軸箱の振動加速度を入力する台車枠100の位置(FEMモデルのメッシュの節点の位置)を、必要に応じて境界位置と称する。
【0039】
内部の変位ベクトル{xi}の要素(変位)は、台車枠100の変位ベクトル{u}の要素(変位)のうち、境界位置以外の台車枠100の位置(FEMモデルのメッシュの節点の位置)における要素である。以下の説明では、境界位置以外の台車枠100の位置(FEMモデルのメッシュの節点の位置)を、必要に応じて内部位置と称する。各式において、
xiの添え字iは、境界位置における要素であることを示し、xbの添え字bは、内部位置における要素であることを示す。
【0040】
このように台車枠100の変位ベクトル{u}を、境界の変位ベクトル{xb}と、内部の変位ベクトル{xi}とに分割することに伴い、台車枠100の質量行列[M]、剛性行列[K]、外力ベクトル{F}を、境界位置の成分と内部位置の成分とに分割する。そうすると、(1)式は、以下の(2)式のように変形される。
【0041】
【0042】
ここで、添え字iiは、境界位置に影響を受けない内部位置を示す。例えば、[Mii]は、台車枠100の質量行列[M]の要素(質量)のうち、境界位置に影響を受けない内部位置の要素を格納する行列を示す。添え字bbは、内部位置に影響を受けない境界位置を示す。例えば、[Mbb]は、台車枠100の質量行列[M]の要素(質量)のうち、内部位置に影響を受けない境界位置の要素を格納する行列を示す。添え字biは、内部位置に影響を受ける境界位置を示す。例えば、[Mbi]は、台車枠100の質量行列[M]の要素(質量)のうち、内部位置に影響を受ける境界位置の要素を格納する行列を示す。添え字ibは、境界位置に影響を受ける内部位置を示す。例えば、[Mib]は、台車枠100の質量行列[M]の要素(質量)のうち、境界位置に影響を受ける内部位置の要素を格納する行列を示す。[Kii]、[Kbb]、[Kib]、[Kbi]は、それぞれ、前述した[Mii]、[Mbb]、[Mib]、[Mbi]の説明において、Mii]、[Mbb]、[Mib]、[Mbi]をそれぞれ[Kii]、[Kbb]、[Kib]、[Kbi]に置き換えると共に質量行列[M]を剛性行列[K]に置き替えたものとなる。外力ベクトル{Fi}、{Fb}は、それぞれ、外力ベクトル{F}の要素(外力)のうち、内部位置における要素、境界位置における要素からなるベクトルである。
内部の変位ベクトル{xi}は、以下の(3)式のように表される。
【0043】
【0044】
内部の変位ベクトル{xi}に対して境界の変位ベクトル{xb}を拘束して(2)式の運動方程式に固有値解析を適用することにより、固有振動数ωjおよび固有ベクトル{Φj}を算出し、算出した固有ベクトル{Φj}によりモード行列[Φ]が構成される。具体的には、以下の(4)式に示すように、(2)式の運動方程式を、境界の変位ベクトル{xb}を含まずに、内部の変位ベクトル{xi}を含む運動方程式とする。ここで、(2)式の外力ベクトル[Fi]を0(零)とおく。そして、(2)式の運動方程式に対して、以下の(5)式に示す一般固有値問題を解くことにより、モード行列[Φ]が算出される。ここで、特定の固有振動モードの番号をjとする。
【0045】
【0046】
なお、固有ベクトルは、固有モードベクトルとも称される。固有値解析の手法は、例えば、非特許文献1に記載のモード解析法を用いることにより実現することができ、公知の技術であるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。また、固有ベクトルを基底とする変位ベクトルの座標系のことをモード座標系と称する。
【0047】
(3)式において、[Φc]は、拘束モードをあらわす行列であり、以下の(6)式から求められる。
【0048】
【0049】
以上の準備をもとに、台車枠100の有効質量を要素とする有効質量行列[Meff]を用いると、(1)式に示す物理座標系の運動方程式は、以下の(7)式および(8)式~(10)式のように、モード座標系(固有ベクトルを基底とする変位ベクトル{x}の座標系)の運動方程式で表現することができる。本実施形態では、(7)式により、物体の使用時の運動を記述する運動方程式であって、モード座標系で表現された運動方程式が構成される場合を例示する。
【0050】
【0051】
ここで、{η}は、モード座標系における台車枠100の変位ベクトルである。モード座標系における台車枠100の変位ベクトル{η}には、モード座標系における変位が固有振動モード毎に格納される。Tは、転置行列であることを示す。また、モード座標系における台車枠100の質量行列[Mη]、減衰行列[Cη]、剛性行列[Kη]は、それぞれ、対角行列である。
【0052】
(7)式の運動方程式を解く際には、(7)式の運動方程式を用いてFEMモデルを構成する。FEMモデルを構成する方法自体は、特許文献1、2に記載されているように公知の技術で実現される。そして、鉄道車両が走行している時の軸箱の加速度(振動加速度)の測定値(または想定値)を(7)式の{xb・・}に与え、モード座標系における台車枠100の変位ベクトル{η}を算出する。ここで、特定の固有振動モードの番号をjとする。また、番号jの特定の固有振動モードのモード座標系における変位を要素とする変位ベクトルを{ηj}とする。そうすると、FEMモデルの物理座標系における各メッシュの節点自由度の変位を要素とする変位ベクトル{xnode_dof,j}は、以下の(11)式により求められる。
【0053】
【0054】
以上のようにして、主電動機150(150a~150b)の位置および軸ばね座130(130a~130d)の位置において、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcごとの変位の時間変化が、物理座標系において算出される。以下の説明では、特に断りのない限り、時刻歴解析部220で算出されて出力される変位は、物理座標系における変位であるものとする。
【0055】
図5および
図6は、主電動機150(150a~150b)の位置および軸ばね座130(130a~130d)の位置での、各特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける加速度の時間変化と、全ての特定の固有振動モードωa、ωb、ωcの合成加速度の時間変化との一例を示す図である。
図5および
図6に示す加速度は、主電動機150(150a~150b)の位置および軸ばね座130(130a~130d)の位置での、各特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける変位を時間積分することにより算出される。
【0056】
図5および
図6において、1軸、2軸は、それぞれ、前側(y軸の正の方向側)の輪軸、後側の輪軸を意味する。また、右、左は、それぞれ、進行方向に向かって右側(x軸の正の方向側)、左側を意味する。軸ばね座1軸右、軸ばね座1軸左、軸ばね座2軸右、軸ばね座2軸左は、それぞれ、
図1に示す軸ばね座130b、130a、130d、130cを示し、主電動機1軸、主電動機2軸は、それぞれ、
図1に示す主電動機150a、150bを示す。このような表記の方法は、
図5および
図6以外の図においても同じである。
【0057】
また、
図5および
図6において、モードωa、ωb、ωcは、それぞれ、固有振動モードωa、ωb、ωcのグラフであることを示す。このような表記の方法は、
図5および
図6以外の図においても同じである。全モードは、全ての特定の固有振動モードωa、ωb、ωcの合成加速度のグラフであり、全ての特定の固有振動モードωa、ωb、ωcのグラフを重ね合わせる(加算する)ことにより得られる。
【0058】
図5は、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に同位相で振動する特定の固有振動モードωa~ωbが支配的な期間での、各特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける加速度の時間変化を示す(特定の固有振動モードωa~ωbについては
図4(a)~
図4(b)を参照)。
図5において、両矢印線の上にωa、ωbを付している記号は、それぞれ、当該両矢印線で示す期間において特定の固有振動モードωa、ωbによる変位(振動)が支配的であることを示す。一方、
図6は、2つの主電動機150(150a~150b)が、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に逆位相で振動する特定の固有振動モードωcによる変位(振動)が支配的な期間での、各特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける加速度の時間変化を示す(特定の固有振動モードωcについては
図4(c)を参照)。
図6において、両矢印線の上にωcを付している記号は、当該両矢印線で示す期間において特定の固有振動モードωcによる変位(振動)が支配的であることを示す。
【0059】
図5~
図6に示すように、時刻歴解析部220により、特定の固有振動モードωa~ωcごとに複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)の変位の時間変化を算出することができる。したがって、どの時間帯においてどの固有振動モードが振動に大きく影響を与えているのかを評価点ごとに把握することができる。
【0060】
図7および
図8は、主電動機150(150a~150b)の位置および軸ばね座130(130a~130d)の位置での、各特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける変位の時間変化の一例を示す図である。
図7は、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に同位相で振動している期間における、各特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける変位の時間変化を示す。
図8は、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に逆位相で振動している期間における、各特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける変位の時間変化を示す。
図7および
図8に示すような時間変化(時間波形)が時刻歴解析部220により算出され出力される。
【0061】
図2において、条件算出部230は、以上のようにして時刻歴解析部220により算出された特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の時間変化を用いて、静荷重試験の試験条件を算出する。本実施形態では、条件算出部230は、静荷重試験の試験条件として、静荷重試験において各評価点に与える静荷重を算出する場合を例示する。本実施形態では、条件算出部230は、荷重算出部231および荷重規格化部232を有する。
【0062】
<ステップS303:静荷重試験において複数の評価点に与える静荷重の算出>
図3のステップS303において、荷重算出部231は、時刻歴解析部220により算出された特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の時間変化において同一の時刻における当該複数の評価点の変位を境界条件として、物体の運動を記述する物理座標系の運動方程式を用いた静解析をより行うことにより、静荷重試験において当該評価点に与える静荷重を算出する。複数の特定の固有振動モードの情報が固有振動モード取得部210により取得された場合、荷重算出部231は、特定の固有振動モードのそれぞれについて、静荷重試験において複数の評価点に与える静荷重を個別に算出する。
【0063】
本実施形態では、複数の評価点として、静荷重試験において静荷重を与える基準の部位に対応する位置に設定される少なくとも1つの基準評価点と、当該基準評価点とは異なる位置に設定される少なくとも1つの動的振動評価点と、が設定される場合を例示する。前述したように本実施形態では、複数の評価点は、主電動機150(150a~150b)の位置および軸ばね座130(130a~130d)の位置に設定される。これらのうち、主電動機150(150a~150b)の位置が基準評価点の位置であり、軸ばね座130(130a~130d)の位置が動的振動評価点の位置であるものとする。基準評価点は、例えば、JIS等の規格により静荷重試験において静荷重を与えることが定められている部位に対応する位置に設定される。
【0064】
以上のようにして複数の評価点を定める場合、基準評価点(主電動機150の位置)において特定の固有振動モードの影響を最も大きく受ける時刻は、当該特定の固有振動モードに対応する方向への当該基準評価点の変位の絶対値が最大となる時刻である。
【0065】
図4(a)および
図4(b)に示す特定の固有振動モードωa、ωbにおいては、基準評価点が設定される2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に同位相で振動する。したがって、特定の固有振動モードωa、ωbにおける2つの基準評価点(2つの主電動機150(150a~150b))の変位の時間変化において、当該2つの基準評価点の振動が共に上方向(または下方向)であるという条件の下で、当該基準評価点の変位の絶対値が最大となる時刻が、当該特定の固有振動モードωa、ωbに対応する方向への当該基準評価点の変位の絶対値が最大となる時刻である。
図7では、特定の固有振動モードωa、ωbに対応する方向(
図7に示す例では下方向)への主電動機150(150a~150b)の位置の変位の絶対値が最大となる時刻を、それぞれ、ta、tbと表記している。
【0066】
一方、
図4(c)に示す特定の固有振動モードωcにおいては、基準評価点が設定される2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に逆位相で振動する。したがって、特定の固有振動モードωcにおける2つの基準評価点(2つの主電動機150(150a~150b))の変位の時間変化において、当該2つの基準評価点の一方の振動が上方向であり他方の振動が下方向であるという条件の下で、当該基準評価点の変位の絶対値が最大となる時刻が、当該特定の固有振動モードωcに対応する方向への当該基準評価点の変位の絶対値が最大となる時刻である。
図8では、特定の固有振動モードωcに対応する方向(下方向、上方向)への主電動機150(150a~150b)の位置の変位の絶対値が最大となる時刻を、それぞれtc1、tc2と表記している。
【0067】
以下では、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcに対応する方向への主電動機150(150a~150b)の位置の変位の絶対値が最大となる時刻ta、tb、tc1、tc2が特定される場合を例示してステップS303の処理の一例を説明する。
【0068】
なお、主電動機150(150a~150b))の変位の時間変化を、加速度センサ等を用いて測定しても良い。このようにする場合、主電動機150(150a~150b)の位置(基準評価点の位置)は、主電動機150(150a~150b)の重心位置ではなく、主電動機150(150a~150b)に対して取り付けた加速度センサの位置になる。また、主電動機150(150a~150b))の変位の時間変化を測定する場合には、ノイズフィルタ等を用いて、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける2つの基準評価点(2つの主電動機150(150a~150b))の変位の時間変化のノイズを低減させてから、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcに対応する方向への主電動機150(150a~150b)の位置の変位の絶対値が最大となる時刻ta、tb、tc1、tc2を特定して良い。また、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける2つの基準評価点(2つの主電動機150(150a~150b))の位置の変位の時間変化の(ノイズではない)異常値を除いてから、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcに対応する方向への主電動機150(150a~150b)の位置の変位の絶対値が最大となる時刻ta、tb、tc1、tc2を特定して良い。このような異常値は、例えば、軌道不整が生じている場合に生じる。また、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcにおける2つの基準評価点(2つの主電動機150(150a~150b))の変位の時間変化において、当該特定の固有振動モードωa、ωb、ωcに対応する方向への主電動機150(150a~150b)の位置の変位の絶対値が最大となる時刻ta、tb、tc1、tc2以外の時間帯に、当該時間変化が特徴的な形状を示す場合、当該時間帯の中の時刻を特定しても良い。
【0069】
荷重算出部231は、特定の固有振動モードωaにおける複数の評価点(主電動機150の位置および軸ばね座130の位置)の変位の時間変化のそれぞれにおいて、時刻taでの変位を読み取る。そして、荷重算出部231は、特定の固有振動モードωaにおける複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)の時刻taでの変位を、当該評価点における拘束条件として、台車枠100の運動を記述する物理座標系の運動方程式を用いた静解析を、当該運動方程式を用いて構成したFEMモデルを用いて実行する。なお、台車枠100の運動を記述する物理座標系の運動方程式は、例えば、(1)式である。荷重算出部231は、このような拘束条件を用いた静解析を行うことにより、複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に対応するメッシュの節点に生じる反力を算出する。本実施形態では、複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に対応するメッシュの節点における反力を、静荷重試験において複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重とする場合を例示する。
【0070】
荷重算出部231は、特定の固有振動モードωb、ωcについても、以上のようにして、静荷重試験において複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重を算出する。
【0071】
<ステップS304:静荷重試験において複数の評価点に与える静荷重の規格化>
以上のようにして静荷重試験において複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重の算出が、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcのそれぞれについて行われると、
図3のステップS304において、荷重規格化部232は、静荷重試験において複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重を、静荷重試験において基準評価点(主電動機150)に与える静荷重を基準にして規格化する。なお、規格化は、標準化とも称される。
【0072】
荷重規格化部232は、例えば、荷重算出部231により算出された、静荷重試験において動的振動評価点(軸ばね座130)に与える静荷重を、荷重算出部231により算出された、静荷重試験において基準評価点(主電動機150)に与える静荷重を1.00Nとした時の値(相対値)に換算する。
【0073】
例えば、荷重算出部231により算出された、静荷重試験において基準評価点(主電動機150)に与える静荷重がX(N)である場合、荷重算出部231は、荷重算出部231により算出された、静荷重試験において複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重を、それぞれ、1/X倍した値を算出する。荷重規格化部232は、以上のような規格化を、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcのそれぞれについて個別に行う。以下の説明では、このようにして算出される、静荷重試験において複数の評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重を規格化した値を、必要に応じて規格化静荷重値と称する。
【0074】
図9に、規格化静荷重値の一例を示す。
図9においては、この値を規格化静荷重値と表記する。
図9に示した数値は、主電動機150に与える荷重を1とした比率をあらわす。また、正の値は上方向に与える荷重であることを示し、負の値は下方向に与える荷重であることを示す。
【0075】
<ステップS305:計算結果の出力>
次に、ステップS305において、出力部240は、条件算出部230で算出された情報を出力する。本実施形態では、出力部240は、荷重規格化部232により算出された規格化静荷重値を示す情報を出力する。出力の形態として、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、処理装置200の内部または外部の記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうちの少なくとも1つが採用される。
【0076】
試験者は、例えば、特定の固有振動モードωaにおける振動によって評価部位(例えば主電動機受座140)に生じる応力を評価する場合、規格化静荷重値のうち、特定の固有振動モードωaにおける値を参照して、各評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重の値を算出する。例えば、主電動機150(150a~150b)に5Nの静荷重を与える場合、
図9に示す値を5倍した値を算出する。なお、これらの算出は、処理装置200で行われても良い。
【0077】
そして、試験者は、以上のようにして算出した各評価点(主電動機150および軸ばね座130)に与える静荷重の値を台車枠100に与えて静荷重試験を行う。この時、全ての評価点(主電動機150および軸ばね座130)に同時に当該値の静荷重を与えても良いが、例えば、以下のようにしても良い。まず、規格化静荷重値に基づいて算出した値の静荷重を主電動機150(150a~150b)のみに同時に与えて静荷重試験を行う。次に、規格化静荷重値に基づいて算出した値の静荷重を軸ばね座130(130a~130dのみに同時に与えて静荷重試験を行う。そして、これらの静荷重試験の結果から得られた評価部位(例えば主電動機受座140)に生じる応力を加算することにより、当該評価部位における応力を算出する。なお、これらの算出は、処理装置200で行われても良い。本実施形態では、このようにして評価部位における応力を算出することにより、台車枠100が実際に使用される状況での荷重を考慮した台車枠100の評価部位の応力を、台車枠100の静荷重試験を行うことにより正確に評価することができる。
【0078】
なお、本実施形態のように規格化静荷重値を算出すれば、静荷重試験において各評価点に与える静荷重の値を容易に算出することができるので好ましい。しかしながら、処理装置200は、必ずしも規格化静荷重値を算出する必要はない。例えば、規格化前の荷重を、静荷重試験における試験条件としても良い。
【0079】
また、本実施形態では、物体が、鉄道車両用の台車枠である場合を例示した。しかしながら、静荷重試験に供される物体であり、使用時に振動する物体であれば、物体は、鉄道車両用の台車枠に限定されない。
【0080】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を説明する。第1実施形態では、時刻歴解析部220により算出された特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の時間変化を用いて、静荷重試験の試験条件を算出する場合を例示した。本実施形態では、時刻歴解析部220により算出された特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の時間変化を用いて、静荷重試験の結果の使用条件を算出する場合について説明する。このように本実施形態は、第1実施形態に対し、静荷重試験の結果の使用条件を算出する点が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1実施形態と同一の部分については、
図1~
図9に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0081】
図10は、本実施形態の処理装置1000の機能的な構成の一例を示す図である。処理装置1000のハードウェアは、例えば、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置、および各種のインターフェースを備える情報処理装置を用いることにより実現される。
図11は、本実施形態の処理装置1000を用いて行われる処理方法の一例を説明するフローチャートである。本実施形態の処理装置1000も、第1実施形態の処理装置200と同様に、特定の固有振動モードで振動する物体の状態を、静荷重試験を用いて評価するために用いる情報を算出する処理を行う。前述したように本実施形態でも第1実施形態と同様に、物体が台車枠100である場合を例示する。以下に、
図11のフローチャートを参照しながら、本実施形態の処理装置1000が有する機能の一例を説明する。
【0082】
<ステップS1101:特定の固有振動モードの取得>
ステップS1101において、固有振動モード取得部1010は、物体が使用されている時に発生する固有振動モードの情報を、特定の固有振動モードの情報として取得する。
本実施形態では、特定の固有振動モードにおける評価点の変位を目的変数とし、相互に異なる複数の方向の静荷重のそれぞれを個別に物体に与えた場合の評価点の変位を説明変数とする回帰式の回帰係数を算出する。
【0083】
第1実施形態では、固有振動モード取得部210は、静荷重試験において静荷重が与える方向(具体例では上下方向)の振動に対応する固有振動モードの情報を特定の固有振動モードの情報として取得する。これに対し本実施形態では、固有振動モード取得部1010は、回帰式の目的変数に対応する特定の固有振動モードの情報を取得する。
【0084】
したがって、本実施形態では、固有振動モード取得部1010は、必ずしも、第1実施形態で説明したような加速度の測定値または想定値(計算値)を用いた解析をする必要はない。例えば、評価者が、物体の状態(例えば評価部位の応力)を評価する際に当該物体に与える固有振動モードを決めて、当該固有振動モードの情報を特定の固有振動モードの情報として、例えば、処理装置200のユーザインターフェースを操作して入力しても良い。
【0085】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、固有振動モード取得部1010が、第1実施形態で説明した固有振動モードωa、ωb、ωcの情報を取得する場合を例示する。この場合、3つの回帰式が算出される。この場合、固有振動モードωa、ωb、ωcの振動がそれぞれ物体に与えられた場合の物体の状態(例えば評価部位の応力)が固有振動モードωa、ωb、ωcごとに個別に把握される。なお、1つの回帰式を算出すれば良い場合には、固有振動モード取得部210が取得する固有振動モードの数は1つで良い。
【0086】
<ステップS1102:特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の算出>
ステップS1102において、時刻歴解析部220は、特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の時間変化を算出する。ステップS1102の処理(時刻歴解析部220の機能)は、第1実施形態で説明したステップS302の処理と同じである。本実施形態でも第1実施形態と同様に、複数の評価点の位置が、主電動機150(150a~150b)の重心位置および軸ばね座130(130a~130d)における軸ばねの取付位置である場合を例示する。
【0087】
図10において、条件算出部1030は、時刻歴解析部220により算出された特定の固有振動モードにおける複数の評価点の変位の時間変化を用いて、静荷重試験の結果の使用条件を算出する。本実施形態では、条件算出部230は、静荷重試験の結果の使用条件として、特定の固有振動モードにおける評価点の変位を目的変数とし、相互に異なる複数の方向の静荷重のそれぞれを個別に物体に与えた場合の評価点の変位を説明変数とする回帰式の回帰係数を算出し、全ての回帰係数の和に対する個々の回帰係数の割合である寄与率を算出する場合を例示する。条件算出部1030は、変位取得部1031と、回帰係数算出部1032と、寄与率算出部1033と、を有する。本実施形態では、以下の(12)式の重回帰式を用いる場合を例示する。
【0088】
【0089】
ここで、{y
i,j}は、時刻歴解析部220により算出された番号jの特定の固有振動モードにおける位置iの評価点の変位を要素とする変位ベクトルである。本実施形態では、特定の固有振動モードωa、ωb、ωcに対応する方向への主電動機150(150a~150b)の位置の変位の絶対値が最大となる時刻ta、tb、tc1、tc2における各評価点iの変位が変位ベクトル{y
i,j}の要素である場合を例示する(
図7および
図8を参照)。
【0090】
{xi,1}は、第1の方向の静荷重を物体(本実施形態では台車枠100)に与えた場合の位置iの評価点における変位を要素とする変位ベクトルである。本実施形態では、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に同位相で変位する方向の静荷重を主電動機150に与えた場合の位置iの評価点における変位が変位ベクトル{xi,1}の要素である場合を例示する。
【0091】
{xi,2}は、第2の方向の静荷重を物体(本実施形態では台車枠100)に与えた場合の位置iの評価点における変位を要素とする変位ベクトルである。本実施形態では、2つの主電動機150(150a~150b)が上下方向に逆位相で変位する方向の静荷重を主電動機150に与えた場合の位置iの評価点における変位が変位ベクトル{xi,2}の要素である場合を例示する。
【0092】
{xi,3}は、第3の方向の静荷重を物体(本実施形態では台車枠100)に与えた場合の位置iの評価点における変位を要素とする変位ベクトルである。本実施形態では、側梁110(110a~110b)のねじりが生じる方向の静荷重を台車枠100に与えた場合の位置iの評価点における変位が変位ベクトル{xi,3}の要素である場合を例示する。なお、側梁110(110a~110b)のねじりが生じる方向は、例えば、横梁120a~120bの左右方向において離隔した2箇所(合計4箇所)における荷重によって生じる回転角を用いて算出される。
a、b、cは、回帰係数であり、非負値(0(零)または正の実数値)であることが要請される。dは、切片である。
【0093】
ステップS1102において特定の固有振動モードにおける複数の評価点(位置i)の変位の時間変化が算出されることにより、(12)式の回帰式の目的変数である変位ベクトル{yi,j}(の要素yi,j)が算出される。
【0094】
<ステップS1103:所定方向の静荷重を物体に与えた場合の複数の評価点の変位の取得>
図11において、ステップS1101~S1102の処理と並行してステップS1103の処理が行われ、(12)式の回帰式の説明変数である変位ベクトル{x
i,1}、{x
i,2}、{x
i,3}(の要素x
i,1、x
i,2、x
i,3)が取得される。すなわち、変位取得部1031は、複数の方向の静荷重を物体(本実施形態では台車枠100)に個別に与えた場合の評価点の変位を取得する。この変位は、例えば、台車枠100の運動を記述する物理座標系の運動方程式を用いた静解析を、当該運動方程式を用いて構成したFEMモデルを用いて実行することにより算出される。この場合、変位は、計算値(想定値)である。なお、台車枠100の運動を記述する物理座標系の運動方程式は、例えば、(1)式である。また、この変位は、固有振動モードごとに分解されている変位ではなく、全ての固有振動モードにおける変位が重畳されたものである。また、変位取得部1031は、歪みゲージ等のセンサを用いて測定された変位を取得しても良い。また、ステップS1103の処理は、ステップS1101~S1102の処理の前または後で行われても良い。
【0095】
<ステップS1104:回帰係数の算出>
次に、ステップS1104において、回帰係数算出部1032は、ステップS1102で時刻歴解析部220により算出された(12)式の回帰式の目的変数である変位ベクトル{yi,j}(の要素yi,j)と、ステップS1103で変位取得部1031により取得された(12)式の回帰式の説明変数である変位ベクトル{xi,1}、{xi,2}、{xi,3}(の要素xi,1、xi,2、xi,3)と、を用いた重回帰分析を行うことにより、(12)式に示す回帰式の回帰係数a、b、cおよび切片dを算出する。以下の説明では、(12)式の回帰式の目的変数である変位ベクトル{yi,j}を、必要に応じて動的変位ベクトル{yi,j}と称し、(12)式の回帰式の説明変数である変位ベクトル{xi,1}、{xi,2}、{xi,3}を、必要に応じて静的変位ベクトルと称する。
【0096】
例えば、回帰係数算出部1032は、動的変位ベクトル{yi,j}の要素yi,j(時刻歴解析部220により算出された番号jの特定の固有振動モードにおける位置iの評価点の変位)と、静的変位ベクトル{xi,1}、{xi,2}、{xi,3}の要素xi,1、xi,2、xi,3(台車枠100に第1、第2、第3の方向に静荷重を与えた場合の位置iの評価点の変位)とのうち、同一の位置iにおける要素を1つずつ選択して1つの教師データとし、位置iが異なる複数の教師データを作成する。回帰係数算出部1032は、このような教師データの作成を、特定の固有振動モード毎(j毎)に個別に行う。
【0097】
そして、回帰係数算出部1032は、番号jが同じ特定の固有振動モードに対する教師データを用いて重回帰分析を行うことにより(12)式に示す回帰式の回帰係数a、b、cおよび切片dを算出することを、特定の固有振動モード毎(j毎)に個別に行う。なお、重回帰分析の手法として、例えば、回帰係数が非負値になるような拘束条件を課した最小二乗法等の手法を用いればよい。
【0098】
すなわち、B:=(d,a,b,c),yi={yi,j},xi=(1,{xi,1},{xi,2},{xi,3})Tとおき、(12)式を以下の(13)式のように書き直す。ここで、εiは、平均0(零)のランダム誤差である。
【0099】
【0100】
前記ランダム誤差εiを最小にする回帰係数Bを最小二乗法により算出するための評価関数は、以下の(14)式となる。(14)式の[]内の数式の第1項が、前記ランダム誤差εiの二乗和をあらわす。(14)式の[]内の第2項は、回帰係数Bの正則化項あり、第3項は回帰係数Bを非負値にする拘束条件であるペナルティ項である。λは、正値の正則化パラメータである。γは、正値のペナルティーパラメータである。nは、教師データの数である。biは、前記回帰係数Bの構成要素であり、b1=d,b2=a,b3=b,b4=cとなっている。
【0101】
【0102】
(14)式の最小化は、(14)式の[]内の数式を前記回帰係数Bについて偏微分した以下の(15)式の計算により実現され、求める解B^(前記ランダム誤差εiを最小にする回帰係数B)は、以下の(16)式の関係を満たす。ここで、||pは、要素が1のp次元ベクトルである。なお、B^は、(16)式においてBの上に^が付されている記号に対応する(このような表記は他の式においても同じである)。
【0103】
【0104】
そして、以下の(17)式および(18)式のように定義すると、(16)式は、以下の(19)式で記述できる。
【0105】
【0106】
ここで、||4は、要素が1の4次元ベクトルである。diagγ{B<0}は、行列γ{B<0}の対角成分が要素に当該要素に対する係数であるペナルティーパラメータγのペナルティを課す演算をあらわす記号である。
(19)式から、求める解B^は、以下の(20)式により決定できる。
【0107】
【0108】
なお、以上のようにして回帰係数a、b、cおよび切片d(回帰係数Bの最適解B^)を算出する際に、1つの特定の固有振動モードに対して、(12)式に示す回帰式の回帰係数a、b、cおよび切片dの組として複数の組が算出されるように、動的変位ベクトル{yi,j}および静的変位ベクトル{xi,1}、{xi,2}、{xi,3}に格納する要素を定めても良い。このような場合、回帰係数算出部1032は、1つの特定の固有振動モードに対して算出された(12)式に示す回帰式の回帰係数a、b、cおよび切片dの組のうち、決定係数(R2)が最大となる組を、当該特定の固有振動モードに対する回帰係数a、b、cおよび切片dとして決定すれば良い。
【0109】
<ステップS1105:寄与率の算出>
次に、ステップS1105において、寄与率算出部1033は、ステップS1104で回帰係数算出部1032により算出された全ての回帰係数の和に対する個々の回帰係数の割合である寄与率を算出する。(12)式に示す回帰式では、寄与率は、a/(a+b+c)、b/(a+b+c)、c/(a+b+c)になる。
【0110】
ここで、寄与率の使用方法の一例を説明する。試験者は、(12)式に示す3つの説明変数において定められている第1~第3の方向の静荷重をそれぞれ個別に台車枠100に与えて3つの静荷重試験を行う。試験者は、3つの静荷重試験の結果として得られる評価部位に生じる応力と、当該静荷重試験に対応する寄与率とを乗算することを、3つの静荷重試験の結果のそれぞれに対して行う。そして、寄与率が乗算された応力の和を、特定の固有振動モードの振動によって評価部位に生じる応力とする。このようにして、3つの静荷重試験の使用条件(各静荷重試験で得られた評価部位の応力を足し合わせる際の割合)が寄与率として算出される。
【0111】
図12に、寄与率の一例を示す。ここでは、回帰式の目的変数および説明変数(変位ベクトル{y
i,j}、{x
i,1}、{x
i,2}、{x
i,3})が前述した具体例である場合を例示する。なお、固有振動モードωcにおいては、前述した第1~第3の方向以外の静荷重による変位とは異なる側梁110(100a~100b)の変位が認められたので、固有振動モードωa、ωb、ωcのうち、固有振動モードωa、ωbについてのみ回帰係数a、b、cを算出した。
図12において、主電動機上下同相(a)の欄の回帰係数の値は、回帰係数aの値を示す。側梁ねじり(c)の欄の回帰係数の値は、回帰係数cの値を示す。主電動機上下逆相(b)の欄の回帰係数の値は、回帰係数bの値を示す。
【0112】
<ステップS1106:計算結果の出力>
次に、ステップS1106において、出力部240は、条件算出部1030で算出された情報を出力する。本実施形態では、出力部240は、寄与率算出部1033により算出された寄与率を示す情報を出力する。出力の形態として、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、処理装置200の内部または外部の記憶媒体への記憶、および外部装置への送信のうちの少なくとも1つが採用される。
【0113】
前述したように試験者は、例えば、(12)式に示す目的変数において定めている特定の固有振動モードの振動によって生じる評価部位の応力を評価する場合に、第1~第3の方向の静荷重を個別に台車枠100に与えることにより行われる3つの静荷重試験の結果(評価部位における応力)を、どのように足し合わせればよいのかを、寄与率から把握することができる。例えば、試験者は、(12)式に示す3つの説明変数(変位ベクトル{xi,1}、{xi,2}、{xi,3})の変位を得る際に台車枠100に与える静荷重の条件として定めた条件で、第1~第3の方向の静荷重を個別に台車枠100に与える静荷重試験を行う。そして、評価者は、これらの静荷重試験で得られた評価部位における応力と、寄与率とを用いた前述した計算を行うことにより、(12)式に示す目的変数において定めている特定の固有振動モードの振動によって生じる評価部位の応力を算出することができる。なお、この算出は、処理装置1000で行われても良い。本実施形態では、このようにして評価部位における応力を算出することにより、台車枠100が実際に使用される状況での荷重を考慮した台車枠100の評価部位の応力を、台車枠100の静荷重試験を行うことにより正確に評価することができる。
【0114】
なお、本実施形態で説明したように寄与率を算出すれば、複数の静荷重試験の結果(例えば評価部位における応力)を、どのように足し合わせればよいのかを直観的に理解しやすいので好ましい。しかしながら、処理装置1000は、必ずしも寄与率を算出しなくても良い。例えば、処理装置1000は、回帰係数a、b、cを、静荷重試験の結果の使用条件としても良い。また、本実施形態においても、第1実施形態で説明した種々の変形例を採用しても良い。
【0115】
なお、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。また、本発明の実施形態は、PLC(Programmable Logic Controller)により実現されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現されてもよい。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0116】
100 台車枠
110 側梁
120 横梁
130 軸ばね座
140 主電動機受座
150 主電動機
160 空気ばね座
200 処理装置
210 固有振動モード取得部
220 時刻歴解析部
230 条件算出部
231 荷重算出部
232 荷重規格化部
240 出力部
1000 処理装置
1010 固有振動モード取得部
1030 条件算出部
1031 変位取得部
1032 回帰係数算出部