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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078756
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】振動板、及び、楽器
(51)【国際特許分類】
   G10C 3/06 20060101AFI20230531BHJP
   H04R 7/04 20060101ALI20230531BHJP
   H04R 7/02 20060101ALI20230531BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
G10C3/06 120
H04R7/04
H04R7/02 Z
H04R1/00 310F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192024
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100206391
【弁理士】
【氏名又は名称】柏野 由布子
(72)【発明者】
【氏名】安部 万律
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】澄野 慎二
(72)【発明者】
【氏名】篠原 大志
(72)【発明者】
【氏名】北川 敬司
(72)【発明者】
【氏名】安部 卓哉
【テーマコード(参考)】
5D016
【Fターム(参考)】
5D016AA01
5D016BA04
5D016EC01
(57)【要約】
【課題】伸縮変形及び/又は曲がり変形を抑えることが可能な振動板を提供する。
【解決手段】振動板1は、変形に異方性がある板状の振動板本体10と、振動板本体の第一面10aに対して当該第一面から突出するように設けられ、第一面に沿って振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第一補強材20と、振動板本体の第二面10bに対して当該第二面から突出するように設けられ、第二面に沿って振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第二補強材30と、を備える。振動板本体の厚さ方向Zから見て、第一補強材及び第二補強材の幅方向の少なくとも一部が、第一補強材及び第二補強材の長手方向の少なくとも一部において重なる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形に異方性がある板状の振動板本体と、
前記振動板本体の第一面に対して当該第一面から突出するように設けられ、前記第一面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第一補強材と、
前記振動板本体の第二面に対して当該第二面から突出するように設けられ、前記第二面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第二補強材と、を備え、
前記振動板本体の厚さ方向から見て、前記第一補強材及び前記第二補強材の幅方向の少なくとも一部が、前記第一補強材及び前記第二補強材の長手方向の少なくとも一部において重なる振動板。
【請求項2】
前記第一補強材及び前記第二補強材の幅方向の少なくとも一部が、前記第一補強材及び前記第二補強材の少なくとも一方の全長にわたって重なる請求項1に記載の振動板。
【請求項3】
変形に異方性がある板状の振動板本体と、
前記振動板本体の第一面に対して当該第一面から突出するように設けられ、前記第一面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第一補強材と、
前記振動板本体の第二面に対して当該第二面から突出するように設けられ、前記第二面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第二補強材と、を備え、
前記第一補強材及び前記第二補強材は、前記振動板本体の厚さ方向から見て幅方向に間隔をあけて配置され、
前記第一補強材と前記第二補強材との幅方向の間隔は、前記第一補強材及び前記第二補強材のいずれか一方の補強材のうちその長手方向に直交する断面における最大寸法の3倍以下である振動板。
【請求項4】
前記振動板本体は、前記第一面及び前記第二面に沿って延びる木目を有する木製であり、
前記第一補強材及び前記第二補強材は、前記振動板本体の木目方向に交差する方向に延びる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の振動板。
【請求項5】
前記振動板本体は、複数の木製板を積層した合板であり、
複数の前記木製板は、それぞれ前記第一面及び前記第二面に沿って延びる木目を有し、
前記第一補強材及び前記第二補強材は、少なくともいずれか一つの前記木製板の木目方向に交差する方向に延びる請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の振動板。
【請求項6】
前記第一補強材及び前記第二補強材の剛性が互いに等しい請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の振動板。
【請求項7】
前記第一補強材及び前記第二補強材は、同じ素材によって構成されている請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の振動板。
【請求項8】
前記第一補強材の長手方向に直交する断面積と、前記第二補強材の長手方向に直交する断面積とが互いに等しい請求項6又は請求項7に記載の振動板。
【請求項9】
前記第一補強材及び前記第二補強材は、前記第一補強材及び前記第二補強材の長手方向において互いに線対称となるように配置されている請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の振動板。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の振動板と、前記振動板本体を加振する加振器と、を備える楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動板、及び、楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、楽器には響板等の振動板を加振器によって加振することで放音するものがある。加振器は、例えばオーディオ信号に応じて動作し、振動板を加振することで振動板から発音させる。
特許文献1には、駆動部及び可動部を有する加振器が、振動板(響板)を有する楽器に取り付けられた構造が開示されている。この加振器は、磁石やコア等からなる磁路形成部(駆動部)に対して可動部が電磁的に接続され、可動部のコイルに電流を流すことで、可動部が磁路形成部に対して直線方向に往復動作することで振動する。加振器の駆動部は楽器のフレーム等に固定され、可動部のうちその振動方向の端部が振動板に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/115482号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、響板等の振動板では、温度や湿度の影響による経年変化によって振動板が伸縮変形したり、あるいは、振動板が曲がり変形(撓み変形)したりする。振動板の伸縮変形や曲がり変形は、振動板を加振器によって振動させる楽器において好ましくない。
例えば、振動板に曲がり変形が生じると、振動板の一部領域の法線が傾く。この場合、振動板の一部領域に固定された可動部の振動方向が、駆動部(磁路形成部)に対して傾いてしまう。この状態では、可動部が振動した際に可動部が駆動部に対して擦れてしまうことがある。可動部が駆動部に対して擦れると、当該擦れに基づく振動が振動板に伝わることで、振動板から発音される音が歪んでしまう。すなわち、振動板の曲がり変形が、加振器による振動板の発音特性に影響を与えてしまう。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、伸縮変形及び/又は曲がり変形を抑えることが可能な振動板及びこれを備える楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、変形(伸縮変形及び/又は曲がり変形)に異方性がある板状の振動板本体と、前記振動板本体の第一面に対して当該第一面から突出するように設けられ、前記第一面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第一補強材と、前記振動板本体の第二面に対して当該第二面から突出するように設けられ、前記第二面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第二補強材と、を備え、前記振動板本体の厚さ方向から見て、前記第一補強材及び前記第二補強材の幅方向の少なくとも一部が、前記第一補強材及び前記第二補強材の長手方向の少なくとも一部において重なる振動板である。
【0007】
本発明の第二の態様は、変形(伸縮変形及び/又は曲がり変形)に異方性がある板状の振動板本体と、前記振動板本体の第一面に対して当該第一面から突出するように設けられ、前記第一面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第一補強材と、前記振動板本体の第二面に対して当該第二面から突出するように設けられ、前記第二面に沿って前記振動板本体が変形しやすい方向に延びる長尺状の第二補強材と、を備え、前記第一補強材及び前記第二補強材は、前記振動板本体の厚さ方向から見て幅方向に間隔をあけて配置され、前記第一補強材と前記第二補強材との幅方向の間隔は、前記第一補強材及び前記第二補強材のいずれか一方の補強材のうちその長手方向に直交する断面における最大寸法の3倍以下である振動板器である。
【0008】
本発明の第三の態様は、前記振動板と、前記振動板本体を加振する加振器と、を備える楽器である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、振動板の伸縮変形及び/又は曲がり変形を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一実施形態に係る楽器の平面図である。
図2図1の楽器の正面図である。
図3図1,2の楽器に備える加振器を示す断面図である。
図4図1,2の楽器に備える振動板の要部を示す斜視図である。
図5図1,2の楽器に備える振動板の要部を示す側面図である。
図6図5のVI-VI線断面図である。
図7図4~6に示す振動板の曲がり変形を抑制できることを説明するための模式図である。
図8】第一実施形態の振動板の第一変形例を示す平面図である。
図9図8のIX-IX線断面図である。
図10】第一実施形態の振動板の第二変形例を示す側面図である。
図11】第一実施形態の振動板の第三変形例を示す側面図である。
図12】第一実施形態の振動板の第四変形例を示す側面図である。
図13】第一実施形態の振動板の第五変形例を示す平面図である。
図14】第一実施形態の振動板の第六変形例を示す断面図である。
図15】第一実施形態の振動板の第七変形例を示す断面図である。
図16】第一実施形態の振動板の第八変形例を示す断面図である。
図17】第一実施形態の振動板の第九変形例を示す断面図である。
図18】本発明の第二実施形態に係る振動板の第一例を示す平面図である。
図19】本発明の第二実施形態に係る振動板の第二例を示す断面図である。
図20】本発明の他の実施形態に係る振動板の要部を示す斜視図である。
図21】1枚の板材の乾燥や湿潤に応じた状態変化を示す図であり、(a)は基準状態、(b)は乾燥状態、(c)は湿潤状態を示している。
図22】2枚の板材を重ねた構成の乾燥や湿潤に応じた状態変化を示す図であり、(a)は基準状態、(b)は乾燥状態、(c)は湿潤状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第一実施形態〕
以下、図1~7を参照して本発明の第一実施形態について説明する。
図1,2に示すように、本実施形態の楽器MIは、振動板1と、振動板1を加振する加振器2と、を備える。また、本実施形態の楽器MIは、フレーム3と、脚体4と、鍵盤5と、ペダル6と、を備え、グランドピアノのように構成されている。
【0012】
本実施形態の楽器MIにおいて、鍵盤5は楽器MIの奏者側(前側)に配置される。鍵盤5は、奏者の手指によって演奏操作される複数の鍵によって構成されている。
【0013】
振動板1は、鍵盤5の後方に配置される。本実施形態の振動板1は、グランドピアノの響板と同じような平面視形状を有する。響板は、その厚さ方向が上下方向に向くように配置される。振動板1の詳細については後述する。
【0014】
加振器2は、振動板1の下側に配置されている。本実施形態において、加振器2は振動板1に対して複数(図示例では三つ)取り付けられている。複数の加振器2は、鍵盤5の複数の鍵が並ぶ左右方向に間隔をあけて配置されている。加振器2の詳細については後述する。
【0015】
フレーム3は、振動板1を下側から支持する。フレーム3は、振動板1に固定されている。フレーム3の平面視形状は、振動板1の周縁部をほぼかたどった枠状の形状に形成されている。図1に例示するフレーム3の外郭は、振動板1の周縁部よりもやや小さく、振動板1に相似する形状に形成されている。
【0016】
脚体4は、フレーム3から下方に延びている。ペダル6は、脚体4の下端部に接続され、奏者側(前側)に配置される。ペダル6は、奏者の足によって演奏操作される。
【0017】
本実施形態の楽器MIでは、鍵盤5やペダル6の演奏操作に基づいて、加振器2が振動板1を加振(励振)することで、音響を発生させる(放音する)ことができる。なお、本実施形態の楽器MIでは、例えば予め用意された演奏データに基づいて、加振器2によって振動板1を加振することで音響を発生させてもよい。
【0018】
図3に示すように、本実施形態の加振器2は、ボイスコイル型のアクチュエータである。図3における上下方向は、図2における上下方向に対応している。加振器2は、磁路形成部100(駆動部)と、可動体200(可動部)と、を有する。可動体200は、棒状部201、キャップ203、ボビン204及びボイスコイル205を有する。
環状のボビン204は、キャップ203の下部に嵌め合わされることでキャップ203に固定されている。ボイスコイル205は、ボビン204の外周面に巻き付けられた導線によって構成されている。ボイスコイル205は、磁路形成部100が形成する磁場内において、ボイスコイル205に流れる電流を振動に変換する。キャップ203、ボビン204及びボイスコイル205は、磁路形成部100に対して電磁的に係合する電磁係合部202を構成する。
【0019】
棒状部201の下端部である第一端部201aは、電磁係合部202のキャップ203に連結固定されている。棒状部201は、キャップ203から上方向に延びている。棒状部201の上端部である第二端部201bは、振動板1の下面(例えば後述する振動板本体10の第二面10b)に固定された連結部210を介して振動板1に固定される。連結部210は、棒状部201の第二端部201bを振動板1に固定的に連結することで、可動体200の振動を振動板1に伝達する役割を果たす。
【0020】
磁路形成部100は、トッププレート101、磁石102及びヨーク103を上側から順番に並べて構成されている。電磁係合部202は、ダンパ150によって、磁路形成部100に対して接触することなく上下方向(振動板1の厚さ方向)に変位可能に支持される。ダンパ150は、例えば繊維等によって円盤状に形成されている。ダンパ150の円盤状の部分は、蛇腹状に波立たせた形状に形成されている。ダンパ150の外周側の端部はトッププレート101に取り付けられ、ダンパ150の内周側の端部が電磁係合部202に取り付けられている。磁路形成部100は、不図示の支持部材を介してフレーム3(図1,2参照)に支持される。
【0021】
トッププレート101は、例えば、軟鉄等の軟磁性材料からなり、中心に穴のあいた円盤状に形成されている。ヨーク103は、例えば、軟鉄等の軟磁性材料からなり、円盤状の円盤部103Eと、円盤部103Eよりも外径が小さい円柱状の円柱部103Fとを、双方の軸心を一致させて一体とした形状に形成されている。円柱部103Fの外径は、トッププレート101の内径よりも小さい。磁石102は、ドーナツ型の永久磁石である。磁石102の内径は、トッププレート101の内径よりも大きい。トッププレート101、磁石102及びヨーク103は、各々の軸心が一致し、それが磁路形成部100の軸心A1となっている。このような配置により、図3において破線の矢印で示した磁路が形成される。トッププレート101と円柱部103Fとに挟まれた空間である磁路空間105内にボイスコイル205が位置するように、電磁係合部202が配置される。その際、棒状部201の軸心A2が磁路形成部100の軸心A1と同心となるように、ダンパ150によって電磁係合部202の水平方向(図3において左右方向)の位置決めがされている。
【0022】
加振器2には、鍵盤5やペダル6(図1参照)の演奏操作や演奏データに基づく駆動信号が入力される。具体的に、駆動信号はボイスコイル205に入力される。このとき、ボイスコイル205が磁路空間105における磁力を受けることで、駆動信号が示す波形に応じた上下方向の駆動力がボビン204に作用する。したがって、磁路形成部100により電磁係合部202が励振されて、電磁係合部202と棒状部201とが一体となって上下方向に振動する。可動体200が上下方向に振動することで、当該振動が連結部210を介して振動板1に伝達され、振動板1が加振される。振動板1の振動は空気中に放音され、音響となる。
【0023】
以下、図4~7を参照して本実施形態に係る振動板1について説明する。
図4~6に示すように、振動板1は、振動板本体10と、第一補強材20と、第二補強材30と、を備える。
【0024】
振動板本体10は、線膨張係数と剛性に異方性がある素材で板状に形成されている。振動板本体10は、曲がり変形していない状態で平板状に形成されている。振動板本体10は、その厚さ方向Zに向く第一面10a及び第二面10bを有する。第一面10aと第二面10bとは、振動板本体10の厚さ方向Zにおいて互いに反対側に向いている。線膨張係数に異方性があるとは、振動板本体10の第一、第二面10a,10bが、これら第一、第二面10a,10bに沿う所定の第一方向Yにおける線膨張係数が、第一、第二面10a,10bに沿って第一方向Yに直交する第二方向Xにおける線膨張係数よりも大きいことを意味する。また、剛性に異方性があるとは、振動板本体10の第一方向Yにおける剛性が第二方向Xにおける剛性よりも大きいことを意味する。
【0025】
振動板本体10において、線膨張係数と剛性に異方性があることは伸縮変形に異方性があることを意味する。以下、振動板本体10などの板状部材の伸縮変形の異方性について説明する。
【0026】
図21に示すように、1枚(単体)の板材P1は、乾燥したり湿潤したりすることによって当該板材P1の厚さ方向(図21において上下方向)に直交する方向に伸縮変形する。具体的に、1枚の板材P1は、図21(a)に示す基準状態から乾燥する(図21(b)に示す乾燥状態となる)と、厚さ方向に直交する方向(図21において左右方向)に収縮する。また、1枚の板材P1は、基準状態から湿潤する(図21(c)に示す湿潤状態となる)と、厚さ方向に直交する方向に伸長する。そして、1枚の板材P1の伸縮変形に異方性があることは、1枚の板材P1が乾燥したり湿潤したりすることで基準状態に対して収縮したり伸長したりする長さが、板材P1の厚さ方向に直交する第一直交方向と、板材P1の厚さ方向及び第一直交方向の両方に直交する第二直交方向とで、異なることを意味する。
【0027】
振動板本体10の伸縮変形に依る曲がり変形は、振動板本体10の第一面10a及び第二面10bが湾曲するように振動板本体10が撓む変形を意味する。振動板本体10は、上述の線膨張係数と剛性に異方性があることによって、曲がり変形(撓み変形)に異方性を有する。そして、振動板本体10の伸縮変形に依る曲がり変形に異方性があるとは、第一方向Yが第二方向Xと比べて「振動板本体10が伸縮変形しやすい方向」であり、「振動板本体10が曲がり変形しやすい方向」であることを意味する。以下、振動板本体10などの板状部材の曲がり変形について説明する。
【0028】
振動板本体10などの板状部材の曲がり変形は、例えば図22に示すように、伸縮変形に異方性がある単体の板材P2,P3を2枚重ねることで板状部材PBが構成される場合に、生じ得る。具体的には、互いに重なる2枚の板材P2,P3の間で伸縮変形しやすい方向が直交している場合に、板状部材PBに曲がり変形が生じる。図22に例示する板状部材PBにおいては、上側の板材P2の伸縮変形しやすい方向が左右方向であり、下側の板材P3の伸縮変形しやすい方向が紙面に直交する方向である。
【0029】
板状部材PBが図22(a)に示す基準状態から乾燥する(図22(b)に示す乾燥状態となる)と、上側の板材P2は左右方向に積極的に収縮するが、下側の板材P3は左右方向に積極的に収縮しない。このため、上側の板材P2の上面側は左右方向に収縮するが、下側の板材P3が重なる上側の板材P2の下面側の左右方向の収縮は下側の板材P3によって抑制される。その結果として、図22(b)に示す乾燥状態では、下側に凸となるように板状部材PBが曲がり変形する。
【0030】
一方、板状部材PBが図22(a)に示す基準状態から湿潤する(図22(c)に示す湿潤状態となる)と、上側の板材P2は左右方向に積極的に伸長するが、下側の板材P3は左右方向に積極的に伸長しない。このため、上側の板材P2の上面側は左右方向に伸長するが、下側の板材P3が重なる上側の板材P2の下面側の左右方向の伸長は下側の板材P3によって抑制される。その結果として、図22(c)に示す湿潤状態では、上側に凸となるように板状部材PBが曲がり変形する。
【0031】
振動板1を示す図面(図4~6など)においては、振動板本体10が曲がり変形していないことを前提として、第一方向Y及び第二方向Xを直線で示している。
【0032】
本実施形態の振動板本体10は、第一面10a及び第二面10bに沿って延びる木目を有する木製である。振動板本体10の木目方向は、前述した第二方向Xに対応している。木製の振動板本体10は、木目方向に直交する方向(すなわち第一方向Y)において曲がり変形しやすい。なお、振動板本体10は、木材に限らず、例えば樹脂や紙などの他の素材であってよい。
【0033】
第一補強材20は、振動板本体10の第一面10aに対して当該第一面10aから振動板本体10の厚さ方向Zに突出するように設けられる。第一補強材20は、振動板本体10の第一面10aに沿って第一方向Yに延びる長尺状に形成されている。第一補強材20の長さ寸法L1は、第一補強材20の高さ寸法H1、及び、第一補強材20の幅寸法W1よりも十分に大きい。
【0034】
本実施形態の第一補強材20は、第一方向Yに沿って直線状に延びている。すなわち、第一補強材20は、振動板本体10の木目方向である第二方向Xに直交する方向に延びている。本実施形態において、第一補強材20の長さ寸法L1は第一方向Yに沿う寸法である。第一補強材20の幅寸法W1は、第一面10aに沿って第一補強材20の長手方向に直交する第一補強材20の幅方向の寸法である。本実施形態において、第一補強材20の幅方向は第二方向Xに対応する。また、第一補強材20の高さ寸法H1は振動板本体10の厚さ方向Zに対応する。
【0035】
本実施形態において、第一補強材20の幅寸法W1は、第一補強材20の長手方向の全体において一定である。
第一補強材20の高さ寸法H1は、例えば第一補強材20の長手方向の全体において一定であってよい。本実施形態では、図5に示すように、第一補強材20の高さ寸法H1が、第一補強材20の長手方向の位置に応じて変化する。具体的には、第一補強材20の長手方向の中間部分における第一補強材20の高さ寸法H1が、最も大きい。また、第一補強材20の高さ寸法H1は、第一補強材20の長手方向の中間部分から両端に向かうにしたがって小さくなっている。第一補強材20の高さ寸法H1は、振動板本体10の厚さ寸法H3よりも大きいことが好ましく、例えば振動板本体10の厚さ寸法H3の3倍であることがより好ましい。
【0036】
図6に示すように、第一補強材20の長手方向に直交する第一補強材20の断面形状は、その高さ寸法H1が幅寸法W1よりも長い長方形である。このため、第一補強材20の断面形状は、その幅方向において線対称となっている。図6において符号WC1で示す一点鎖線は、第一補強材20の幅方向における第一補強材20の中心線WC1である。第一補強材20の断面形状は、当該中心線WC1を軸とした線対称形状となっている。
【0037】
図4~6に示すように、第二補強材30は、振動板本体10の第二面10bに対して当該第二面10bから振動板本体10の厚さ方向Zに突出するように設けられる。すなわち、第二補強材30は、振動板本体10から第一補強材20と逆向きに突出している。第二補強材30は、振動板本体10の第二面10bに沿って第一方向Yに延びる長尺状に形成されている。第二補強材30の長さ寸法L2は、第二補強材30の高さ寸法H2、及び、第二補強材30の幅寸法W2よりも十分に大きい。
【0038】
本実施形態の第二補強材30は、第一補強材20と同様に、第一方向Yに沿って直線状に延びている。すなわち、第二補強材30は、振動板本体10の木目方向である第二方向Xに直交する方向に延びている。本実施形態において、第二補強材30の長さ寸法L2は第一方向Yに沿う寸法である。第二補強材30の幅寸法W2は、第二面10bに沿って第二補強材30の長手方向に直交する第二補強材30の幅方向の寸法である。本実施形態において、第二補強材30の幅方向は第二方向Xに対応する。また、第二補強材30の高さ寸法H2は振動板本体10の厚さ方向Zに対応する。
【0039】
第二補強材30は、例えば第一補強材20と異なる形状に形成されてよい。本実施形態の第二補強材30の形状は、第一補強材20と同じである。すなわち、第二補強材30の幅寸法W2は、第二補強材30の長手方向の全体において一定である。また、第二補強材30の高さ寸法H2は、第二補強材30の長手方向の位置に応じて変化している。第二補強材30の高さ寸法H2は、第一補強材20と同様に、振動板本体10の厚さ寸法H3よりも大きいことが好ましく、例えば振動板本体10の厚さ寸法H3の3倍であることがより好ましい。
【0040】
また、図6に示すように、第二補強材30の長手方向に直交する第二補強材30の断面形状は、その高さ寸法H2が幅寸法W2よりも長い長方形である。このため、第二補強材30の断面形状は、その幅方向において線対称となっている。図6において符号WC2で示す一点鎖線は、第二補強材30の幅方向における第二補強材30の中心線WC2である。第二補強材30の断面形状は、当該中心線WC2を軸とした線対称形状となっている。
【0041】
本実施形態において、上記した第一補強材20及び第二補強材30の剛性は、互いに等しい。また、第一補強材20及び第二補強材30の比重は、振動板本体10の比重以下である。また、第一補強材20及び第二補強材30は、同じ素材によって構成されている。
【0042】
本実施形態において、第一補強材20及び第二補強材30の素材は、いずれも木製である。木目方向は、第一補強材20と第二補強材30とで同じとなっている。第一補強材20の木目方向と第二補強材30の木目方向とは、完全に一致してもよいし、互いに若干傾斜していてもよい。なお、第一補強材20及び第二補強材30は、木材に限らず、樹脂(例えばCFRP)など他の素材であってもよい。
【0043】
図6に示すように、第一補強材20の断面形状及び第二補強材30の断面形状は、互いに等しい形状(すなわち長方形)である。また、第一補強材20の長手方向に直交する第一補強材20の断面積と、第二補強材30の長手方向に直交する第二補強材30の断面積とが互いに等しい。さらに、第一補強材20の断面形状と第二補強材30の断面形状とは、大きさを含めて同一である。
これにより、第一補強材20の断面形状と第二補強材30の断面形状とは、振動板本体10の厚さ方向Zにおいて互いに線対称となっている。図6において符号HC3で示す一点鎖線は、振動板本体10の厚さ方向Zにおける振動板本体10の中心線HC3である。第一補強材20の断面形状と第二補強材30の断面形状とは、互いに中心線HC3を軸とした線対称に形成されている。
【0044】
また、本実施形態では、図5に示すように、第一、第二補強材20,30の幅方向(第二方向X)から見た第一、第二補強材20,30の形状も、振動板本体10の中心線HC3を軸として互いに線対称となっている。
【0045】
第一補強材20と第二補強材30とは、振動板本体10の厚さ方向Zから見て、互いに重なっている。本実施形態では、図5に示すように、第一補強材20の長さ寸法L1と第二補強材30の長さ寸法L2とが互いに等しい。また、第一、第二補強材20,30の長手方向(第一方向Y)における第一、第二補強材20,30の位置が、互いに一致している。また、第一、第二補強材20,30の長手方向は互いに平行している。このため、第一補強材20と第二補強材30とは、これらの全長にわたって重なっている。また、第一補強材20及び第二補強材30は、これらの長手方向において互いに線対称となるように配置されている。
【0046】
図5において、符号LC1で示す一点鎖線は、第一補強材20の長手方向における第一補強材20の中心線LC1である。また、符号LC2で示す一点鎖線は、第二補強材30の長手方向における第二補強材30の中心線LC2である。図5においては、第一、第二補強材20,30の中心線LC1,LC2が互いに一致している。これにより、第一補強材20及び第二補強材30が、長手方向において互いに線対称となるように配置されている。
【0047】
また、本実施形態では、図6に示すように、幅方向における第一補強材20の位置と第二補強材30との位置が互いに一致している。すなわち、第一、第二補強材20,30の幅方向の中心線WC1,WC2が互いに一致している。また、第一、第二補強材20,30の幅寸法W1,W2は互いに等しい。このため、第一補強材20と第二補強材30とは、幅方向の全体において互いに重なっている。
【0048】
また、本実施形態では、第一、第二補強材20,30の長手方向(第一方向Y)に直交する断面において第一、第二補強材20,30の両方を含む断面形状が、幅方向において線対称となっている。すなわち、当該第一、第二補強材20,30の両方を含む断面形状は、第一、第二補強材20,30の幅方向の中心線WC1,WC2を軸として線対称となっている。
【0049】
また、本実施形態では、振動板本体10の厚さ方向Zにおいて、第一補強材20の突出方向の先端から第二補強材30の突出方向の先端に至る長さTH(合計長さTH)が、振動板本体10の厚さ寸法H3の5倍以上であることが好ましい。上記した合計長さTHは、第一、第二補強材20,30の高さ寸法H1,H2及び振動板本体10の厚さ寸法H3の合計に対応している。
【0050】
また、本実施形態では、各補強材20,30(第一補強材20及び第二補強材30をなす補強材)において、補強材20,30の最大高さ寸法をHMAXとし、補強材20,30の最大幅寸法をWMAXとして、
0.5≦HMAX/WMAX≦4.0
であることが好ましい。HMAX/WMAXは、例えば2.0程度であることがより好ましい。
【0051】
振動板1の補強材20,30は、図1に示す楽器MIにおいて、振動板本体10に対する加振器2の取付位置と干渉しないように配置されるとよい。また、振動板1の補強材20,30は、図1に例示するように、振動板本体10の厚さ方向Zから見て、枠状のフレーム3の内側に配置されてよい。また、第一補強材20及び第二補強材30の組は、図1に例示するように、補強材20,30の幅方向に間隔をあけて複数並んでよい。第一補強材20及び第二補強材30の複数の組は、図1に例示するように互いに平行してもよいが、例えば平行しなくてもよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の振動板1では、振動板本体10の第一面10aには、当該第一面10aから突出し、かつ、振動板本体10が変形(伸縮変形及び/又は曲がり変形)しやすい方向(第一方向Y)に延びる長尺状の第一補強材20が設けられる。また、振動板本体10の第二面10bには、当該第二面10bから突出し、振動板本体10が変形(伸縮変形及び/又は曲がり変形)しやすい方向に延びる長尺状の第二補強材30が設けられる。さらに、振動板本体10の厚さ方向Zから見て、第一補強材20と第二補強材30とが重なっている。これにより、振動板本体10が伸縮変形しやすい方向に伸縮しようとしたり、曲がり変形しやすい方向に曲がろうとしたりすることを、第一、第二補強材20,30によって効果的に抑制することができる。
以下、この点について説明する。
【0053】
例えば図7に示すように、振動板本体10が乾燥などによって伸縮変形しやすい方向(第一方向Y)に収縮しようとする応力(矢印F1で示す力)が振動板本体10に作用した際には、第一補強材20が、振動板本体10の第一面10a側に生じる上記応力を抑え込むことで、振動板本体10の第一面10a側の部位の収縮を抑える。また、第二補強材30が、振動板本体10の第二面10b側に生じる上記応力を抑え込むことで、振動板本体10の第二面10b側の部位の収縮を抑える。
また、図示しないが、振動板本体10が湿潤などによって伸縮変形しやすい方向(第一方向Y)に伸長ようとする応力が振動板本体10に作用した際には、第一補強材20が、振動板本体10の第一面10a側に生じる上記応力を抑え込むことで、振動板本体10の第一面10a側の部位の伸長を抑える。また、第二補強材30が、振動板本体10の第二面10b側に生じる上記応力を抑え込むことで、振動板本体10の第二面10b側の部位の伸長を抑える。
以上により、振動板本体10の乾燥や湿潤などによる第一方向Yにおける振動板本体10の伸縮変形を効果的に抑制できる。また、振動板本体10がその伸縮変形に依り曲がり変形しやすい方向に曲がろうとすることを効果的に抑制できる。
【0054】
また、本実施形態の振動板1では、振動板本体10が第一面10a及び第二面10bに沿って延びる木目を有する木製である。このため、振動板本体10は、その木目方向の直交方向(第一方向Y)に伸縮変形しやすい。これに対し、第一、第二補強材20,30は、これらが互いに重なるように、それぞれ木目方向に交差する方向に延びている。これにより、振動板本体10が木目方向の直交方向に伸縮変形しようとすることを、第一、第二補強材20,30によって効果的に抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態の振動板1では、第一、第二補強材20,30の剛性が互いに等しい。このため、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形を抑えるための力を、第一補強材20と第二補強材30とで揃える(あるいは等しくする)ことができる。これにより、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形をより効果的に抑えることができる。
【0056】
また、本実施形態の振動板1では、第一、第二補強材20,30の素材が同じである。このため、第一、第二補強材20,30を同じ形状、同じ大きさに形成するだけで、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形を抑える力を、第一補強材20と第二補強材30とで簡単に揃える(あるいは等しくする)することができる。
【0057】
また、本実施形態の振動板1では、第一、第二補強材20,30の間で剛性や素材が同じである上で、長手方向に直交する第一、第二補強材20,30の断面積が互いに等しい。このため、仮に、第一補強材20と第二補強材30とで断面形状が異なっていても、温度や湿度の変化に対してこれら補強材20,30がその長手方向に伸縮変形する特性が第一補強材20と第二補強材30とで同じとなる。これにより、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形を抑制する効果が振動板本体10の第一面10a側と第二面10b側とで差が生じることを抑制できる。その結果として、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形を好適に抑制できる。
【0058】
また、本実施形態の振動板1において、第一補強材20及び第二補強材30は、第一、第二補強材20,30の長手方向において互いに線対称となるように配置されている。これにより、仮に、第一補強材20と第二補強材30とで長さ寸法L1が異なっていたり、第一補強材20と第二補強材30とで配置する態様が異なっていたりしても、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形を効果的に抑制することができる。
【0059】
本実施形態の振動板1において、第一補強材20の突出方向の先端から第二補強材30の突出方向の先端に至る合計長さTHが、振動板本体10の厚さ寸法H3の5倍以上である場合には、振動板本体10の厚さ方向Zおける2つの補強材20,30の断面二次モーメントが振動板本体10に対して大きくなる。これにより、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形を2つの補強材20,30によって効果的に抑制することができる。
【0060】
また、本実施形態の振動板1において、補強材20,30(第一、第二補強材20,30をなす補強材)の最大高さ寸法HMAXと最大幅寸法WMAXとの比HMAX/WMAXが0.5以上である場合には、振動板本体10の厚さ方向Zへの補強材20,30の反り(上下反り)を抑えることができる。また、HMAX/WMAXが4.0以下であることで、補強材20,30の幅方向への補強材20,30の反り(左右反り)を抑えることができる。すなわち、振動板本体10の厚さ方向Z及び補強材20,30の幅方向の各方向おける補強材20,30の断面二次モーメントをバランスよく保つことができる。これにより、補強材20,30に上下反りや左右反りが発生することを効果的に抑制し、その結果として、補強材20,30の上下反りや左右反りに基づいて振動板本体10にその伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形が生じることを効果的に抑制できる。
【0061】
また、HMAX/WMAXが2程度(補強材20,30の高さ寸法H1,H2が幅寸法W1,W2の2倍程度)である場合には、振動板本体10の剛性を基準とした補強材20,30の剛性(補強材20,30の比剛性)を効果的に高めることができる。これにより、振動板本体10の伸縮変形をより効果的に抑制できる。また、振動板本体10がその伸縮変形に依り曲がり変形しやすい方向に曲がろうとすることをより効果的に抑制できる。
【0062】
また、本実施形態の振動板1において、補強材20,30の比重が振動板本体10の比重以下である場合にも、補強材20,30の比剛性を高めることができる。これにより、振動板本体10の伸縮変形をより効果的に抑制できる。また、振動板本体10がその伸縮変形に依り曲がり変形しやすい方向に曲がろうとすることをより効果的に抑制できる。
【0063】
また、本実施形態の振動板1において、補強材20,30の高さ寸法が振動板本体10の厚さ寸法H3の3倍である場合にも、補強材20,30の比剛性を高めることができる。これにより、振動板本体10の伸縮変形をより効果的に抑制できる。また、振動板本体10がその伸縮変形に依り曲がり変形しやすい方向に曲がろうとすることをより効果的に抑制できる。
【0064】
本実施形態の楽器MIによれば、上記したように伸縮変形や曲がり変形を効果的に抑制された振動板1に、加振器2が取り付けられる。このため、振動板1の伸縮変形や曲がり変形に基づいて加振器2による振動板1の発音特性が変化することを抑制できる。
【0065】
第一実施形態においては、例えば図8,9に示すように、振動板本体10の厚さ方向Zから見て、第一補強材20及び第二補強材30の幅方向の一部だけが重なってもよい。図8,9に例示する構成では、第一、第二補強材20,30の幅方向の中心線WC1,WC2が互いにずれて位置することで、第一補強材20及び第二補強材30の幅方向の一部だけが重なっている。図8においては、第一補強材20と第二補強材30とが重なる領域を線状のハッチングによって示している。
【0066】
また、例えば第一、第二補強材20,30の幅方向の一部が、第一、第二補強材20,30のうち一方の全長にわたって重なってよい。図8に例示する構成では、第一補強材20の長さ寸法L1を第二補強材30の長さ寸法L2よりも短くすることで、第一、第二補強材20,30の幅方向の一部が第一補強材20の全長にわたって重なっている。
図8,9に例示した構成であっても、上記実施形態と同様に、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形を効果的に抑制することができる。
【0067】
ただし、補強材20,30の一方の幅寸法に対し、幅方向において第一、第二補強材20,30が互いに重なる部分の大きさの割合は、大きい方がより好ましい。補強材20,30の一方の幅寸法に対し、幅方向において第一、第二補強材20,30が互いに重なる部分の大きさの割合が大きい程、振動板本体10の伸縮変形や伸縮変形に依る曲がり変形をより効果的に抑制することができる。すなわち、図6に例示したように第一、第二補強材20,30がこれらの一方の幅方向の全体にわたって重なることが、最も好ましい。
【0068】
第一実施形態においては、例えば図10に示すように、第一、第二補強材20,30の長さ寸法L1,L2が互いに異なってもよい。図10においては、第一補強材20の長さ寸法L1が第二補強材30の長さ寸法L2よりも短い。そして、図10に例示する構成では、長手方向における第一補強材20の中心線LC1及び第二補強材30の中心線LC2が互いに一致している。すなわち、第一補強材20及び第二補強材30は、これらの長手方向において互いに線対称となるように配置されている。したがって、前述した第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0069】
第一実施形態においては、例えば図11に示すように、第一補強材20と第二補強材30とで配置する態様が異なっていてもよい。図11においては、1つの第一補強材20が振動板本体10の第一面10aに配置されることに対し、第二補強材30は当該第二補強材30を長手方向に複数(図11では3つ)に分割して配置されている。そして、図11に例示する構成では、長手方向における第一補強材20の中心線LC1及び第二補強材30の中心線LC2が互いに一致している。すなわち、第一補強材20及び第二補強材30は、これらの長手方向において互いに線対称となるように配置されている。したがって、前述した第一実施形態と同様の効果が得られる。
図11において、複数に分割された第二補強材30の合計の長さ寸法L2は、第一補強材20の長さ寸法L1と等しいが、例えば異なっていてもよい。
【0070】
第一実施形態において、第一補強材20と第二補強材30とは、例えば図12に示すように、補強材20,30の長手方向(第一方向Y)に互いにずれて位置してもよい。この場合、長手方向の一方側に位置する第一補強材20の第一端部21と第二補強材30の第一端部31との距離D1(第一距離D1)、及び、長手方向の他方側に位置する第一補強材20の第二端部22と第二補強材30の第二端部32との距離D2(第二距離D2)が、いずれも第一、第二補強材20,30のうち長い方の補強材の長さ寸法の20%以下であることが好ましい。図12に例示する構成では、第一補強材20の長さ寸法L1が第二補強材30の長さ寸法L2よりも長い。このため、上記した第一距離D1及び第二距離D2は、第一補強材20の長さ寸法L1の20%以下であることが好ましい。
【0071】
第一実施形態においては、例えば図13に示すように、振動板本体10の厚さ方向Zから見て、第一、第二補強材20,30が、これらの長手方向の一部において重なってもよい。図13においては、第一、第二補強材20,30が互いに交差することで、第一、第二補強材20,30の長手方向の中途部が互いに重なる。図13においては、第一補強材20と第二補強材30とが重なる領域を線状のハッチングによって示している。図13においては、第一、第二補強材20,30が、これらの幅方向の全体にわたって重なっているが、例えば第一、第二補強材20,30の幅方向の一部だけが重なってもよい。また、第一、第二補強材20,30は、例えば第一、第二補強材20,30の長手方向の端部において重なってもよい。
【0072】
第一、第二補強材20,30がこれらの長手方向の一部において重なる構成であっても、第一実施形態と同様に、第一方向Y(振動板本体10が伸縮変形しやすい方向)への振動板本体10の伸縮変形や、第一方向Y(振動板本体10が曲がり変形しやすい方向)に曲がろうとすることを、第一、第二補強材20,30によって抑制することができる。
ただし、補強材20,30の一方の全長に対して、第一、第二補強材20,30が互いに重なる部分の長さの割合は、大きい方が好ましく、例えば50%以上であることがより好ましい。補強材20,30の一方の全長に対して、第一、第二補強材20,30が互いに重なる部分の長さの割合が大きい程、振動板本体10の伸縮変形や曲がり変形をより効果的に抑制することができる。すなわち、図6,8に例示したように第一、第二補強材20,30がこれらの少なくとも一方の全長にわたって重なることが、もっとも好ましい。
【0073】
第一実施形態において、第一、第二補強材20,30は、例えば図13に示すように、第一方向Y(振動板本体10が変形(伸縮変形及び/又は曲がり変形)しやすい方向)に対して交差してもよい。ただし、第一方向Yに対する第一、第二補強材20,30の長手方向の傾斜角度は、第二方向Xに対する第一、第二補強材20,30の長手方向の傾斜角度よりも小さいことが好ましい。すなわち、第一、第二補強材20,30は主に第一方向Yに延びることが好ましい。
【0074】
また、第一、第二補強材20,30は、主に第一方向Yに直線状に延びることに限らず、例えば、第二方向Xに湾曲(蛇行)しながら主に第一方向Yに延びる長尺状に形成されてもよい。図13においては、第一補強材20が直線状に延びており、第二補強材30が第二方向Xに湾曲(蛇行)しながら主に第一方向Yに延びている。
【0075】
第一実施形態において、補強材20,30(第一、第二補強材20,30)の幅寸法は、例えば補強材20,30の長手方向において変化してもよい。図13においては、第一補強材20の幅寸法が、長手方向の一方側から他方側(図13において左側から右側)に向かうにしたがって大きくなっている。なお、図13において、第二方向Xに蛇行する第二補強材30の幅寸法は、当該第二補強材30の長手方向の全体において一定となっている。
【0076】
第一実施形態において、補強材20,30の長手方向に直交する補強材20,30の断面形状は、長方形に限らず、任意であってよい。補強材20,30の断面形状は、例えば図14に示すように、高さ方向(厚さ方向Z)における補強材20,30の基端部にくびれを有する形状に形成されてもよい。図14に例示する補強材20,30の断面形状は、上記第一実施形態と同様に、幅方向において線対称となる形状となっている。また、図14においては、第一実施形態と同様に、第一補強材20の断面形状と第二補強材30の断面形状とが、振動板本体10の厚さ方向Zにおいて互いに線対称に形成されている。
【0077】
第一実施形態においては、例えば図15,16に示すように、補強材20,30の長手方向に直交する補強材20,30の断面形状が、第一補強材20と第二補強材30とで異なっていてもよい。図15においては、第一補強材20の断面形状が長方形であり、第二補強材30の断面形状が図14と同様に高さ方向における第二補強材30の基端部にくびれを有する形状となっている。図16においては、第一補強材20の断面形状が長方形であり、第二補強材30の断面形状が三角形となっている。このような構成であっても、長手方向に直交する第一、第二補強材20,30の断面積が互いに等しい場合には、前述した第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0078】
第一実施形態においては、例えば図17に示すように、補強材20,30の長手方向に直交する補強材20,30の断面において、第一補強材20の高さ寸法H1と第二補強材30の高さ寸法H2とが互いに異なっていてもよい。図17においては、第二補強材30の高さ寸法H2が、第一補強材20の高さ寸法H1よりも小さい。このような構成では、加振器2を振動板本体10の第二面10bに取り付ける場合に、加振器2が高さ寸法の小さい第二補強材30に干渉することを効果的に抑制することができる。
なお、図17に例示したように第一補強材20の高さ寸法H1と第二補強材30の高さ寸法H2とが互いに異なっていても、長手方向に直交する第一、第二補強材20,30の断面積が互いに等しい場合には、前述した第一実施形態と同様の効果が得られる。
【0079】
〔第二実施形態〕
次に、主に図18,19を参照して本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態においては、第一実施形態と同様の構成要素について同一符号を付す等して、その説明を省略する。
【0080】
図18は、第二実施形態の第一例の振動板1Cを示している。図19は、第二実施形態の第二例の振動板1Dを示している。第二実施形態の振動板1C,1Dは、第一実施形態の振動板1と同様に、図1,2に示した楽器MIに適用可能である。
図18,19に示す振動板1C,1Dは、いずれも第一実施形態と同様に、振動板本体10と、第一補強材20と、第二補強材30と、を備える。振動板本体10は、第一実施形態と同様である。
【0081】
図18に示す振動板1Cにおいて、第一補強材20は、図13に例示した第一補強材20と同様に形成されている。すなわち、第一補強材20は、主に第一方向Yに直線状に延びており、その幅寸法が長手方向の一方側から他方側(図13において左側から右側)に向かうにしたがって大きくなっている。また、第二補強材30は、図13に例示した第二補強材30と同様に形成されている。すなわち、第二補強材30は、第二方向Xに湾曲(蛇行)しながら主に第一方向Yに延びている。第二補強材30の幅寸法は、当該第二補強材30の長手方向の全体において一定となっている。第一補強材20の幅方向における最大寸法W1MAX(最大幅寸法W1MAX)は、第二補強材30の幅寸法よりも大きい。
【0082】
図19に示す振動板1Dにおいて、第一補強材20及び第二補強材30は、それぞれ図15に例示した第一補強材20及び第二補強材30と同様の断面形状を有する。第二補強材30の幅方向における最大寸法W2MAX(最大幅寸法W2MAX)は、第一補強材20の幅寸法W1よりも大きい。
【0083】
図18,19に示す第二実施形態の振動板1C,1Dでは、第一補強材20と第二補強材30とがこれらの幅方向(主に第二方向X)に間隔をあけて配置されている。このため、第一補強材20と第二補強材30とは、振動板本体10の厚さ方向Zにおいて重ならない。
第一補強材20と第二補強材30との幅方向の間隔Iは、第一補強材20及び第二補強材30のいずれか一方の補強材のうちその長手方向に直交する断面における最大寸法の3倍以下である。ここで、第一補強材20と第二補強材30との幅方向の間隔Iは、長手方向に直交する断面における第一補強材20の図心C1と第二補強材30の図心C2との距離である。一方の補強材の断面における最大寸法は、例えば一方の補強材の幅方向における最大寸法(最大幅寸法)であってもよいし、例えば一方の補強材の高さ方向における最大寸法(最大高さ寸法)であってもよい。
【0084】
図18に示す振動板1Cでは、第一補強材20と第二補強材30との幅方向の間隔Iが、第一補強材20の最大幅寸法W1MAXの3倍以下となっている。図18における符号Rは、第一補強材20の図心C1を起点とした第一補強材20の最大幅寸法W1MAXの3倍の範囲の一例を示している。これにより、図18では、第一補強材20と第二補強材30との幅方向の間隔Iが、第一補強材20の最大幅寸法W1MAXの3倍以下であることが示されている。
【0085】
図19に示す振動板1Dでは、第一補強材20と第二補強材30との幅方向の間隔Iが、第二補強材30の最大幅寸法W2MAXの3倍以下となっている。図19における符号Rは、第二補強材30の図心C2を起点とした第二補強材30の最大幅寸法W2MAXの3倍の範囲の一例を示している。これにより、図19では、第一補強材20と第二補強材30との幅方向の間隔Iが、第二補強材30の最大幅寸法W2MAXの3倍以下であることが示されている。
【0086】
以上説明したように、第二実施形態の振動板1C,1Dでは、第一実施形態と同様に、振動板本体10の第一面10aには、当該第一面10aから突出し、かつ、振動板本体10が変形(伸縮変形及び/又は曲がり変形)しやすい方向(第一方向Y)に延びる長尺状の第一補強材20が設けられる。また、振動板本体10の第二面10bには、当該第二面10bから突出し、振動板本体10が変形(伸縮変形及び/又は曲がり変形)しやすい方向に延びる長尺状の第二補強材30が設けられる。そして、これら第一補強材20と第二補強材30とは、振動板本体10の厚さ方向Zから見て、補強材20,30の幅方向に間隔をあけて配置されている。幅方向における第一補強材20と第二補強材30との間隔は、第一、第二補強材20,30のいずれか一方の補強材のうちその長手方向に直交する断面における最大寸法の3倍以下である。これにより、第一実施形態の場合と同様に、振動板本体10が伸縮変形しやすい方向に伸縮しようとしたり、曲がり変形しやすい方向に曲がろうとしたりすることを、第一、第二補強材20,30によって効果的に抑制することができる。
【0087】
また、第二実施形態の振動板1C,1Dでは、前述した第一実施形態と同様の効果を奏し得る。さらに、第二実施形態の振動板1C,1Dを適用した楽器MI(図1,2参照)では、第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0088】
第二実施形態における補強材の態様は、第一、第二補強材20,30がその幅方向において互いに間隔をあけて配置されることを除き、例えば、前述した第一実施形態(例えば図4~6)やその変形例(例えば図8~17)と同様であってもよい。
【0089】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0090】
本発明において、振動板本体10は、1枚の板材に限らず、例えば図20に示すように複数(図示例では3枚)の板材11を積層した合板であってよい。図20に例示する振動板本体10において、板材11は木製板11である。複数の木製板11は、それぞれ振動板本体10の第一面10a及び第二面10bに沿って延びる木目を有する。複数の木製板11の木目方向は、例えば互いに揃っていてもよいし、例えば互いに交差してもよい。例えば所定の木製板11の木目方向が、所定の木製板11を挟む別の2つの木製板11の木目方向に対して交差し、別の2つの木製板11の木目方向が互いに揃っていてもよい。3枚の板材11を重ねた振動板本体10は、曲がり変形に異方性を有する。具体的には、第一方向Yのほうが第二方向Xよりも曲がり変形しやすい。
【0091】
振動板本体10が上記した合板である場合、第一面10aに設けられた第一補強材20及び第二面10bに設けられた第二補強材30は、第一面10a及び第二面10bに沿って少なくともいずれか1つの木製板11の木目方向に交差する方向(例えば直交方向)に延びているとよい。すなわち、第一、第二補強材20,30は、少なくとも1つの木製板11が伸縮変形しやすい方向に延びているとよい。図20では、第一、第二補強材20,30は、振動板本体10の第一面10aをなす木製板11の木目方向に直交する方向に延びている。
振動板本体10が合板であっても、第一、第二補強材20,30が上記のように設けられることで、第一、第二実施形態の場合と同様に、振動板本体10が曲がり変形しやすい方向に曲がろうとすること(振動板本体10の曲がり変形)を、第一、第二補強材20,30によって効果的に抑制することができる。
【0092】
本発明の振動板は、図1,2に例示したピアノのような鍵盤楽器に限らず、例えば弦楽器や打楽器(例えばカホン)などのように振動板を備える他の楽器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1,1C,1D…振動板、2…加振器、10…振動板本体、10a…第一面、10b…第二面、11…木製板(板材)、20…第一補強材、30…第二補強材、X…第二方向(木目方向)、Y…第一方向(振動板本体10が変形しやすい方向)、Z…厚さ方向
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