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特開2023-78768装飾体に用いる三次元形状の基材の形成方法、三次元形状の基材および装飾体
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  • 特開-装飾体に用いる三次元形状の基材の形成方法、三次元形状の基材および装飾体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078768
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】装飾体に用いる三次元形状の基材の形成方法、三次元形状の基材および装飾体
(51)【国際特許分類】
   B44C 5/06 20060101AFI20230531BHJP
   A41G 1/00 20060101ALN20230531BHJP
【FI】
B44C5/06 G
A41G1/00 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192040
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】519106378
【氏名又は名称】京都ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】栗山 智
(57)【要約】
【課題】 吸水性を有する三次元形状の基材の先端に結晶性無機塩の結晶が析出した装飾体であって、隣り合う結晶ブロックの間の隙間が狭いか隙間のない、全体が結晶で覆われた装飾体となる基材の形成方法、三次元形状の基材、および装飾体を提供する。
【解決手段】吸水性を有する三次元形状の基材に、結晶性無機塩を溶解した水溶液を吸収させて、前記吸水性を有する三次元形状の基材の末端に前記結晶性無機塩の結晶を析出させた装飾体に用いる、吸水性を有する三次元形状の基材の形成方法であって、吸水性を有する紙片の上端および下端に篏合溝を形成した紙片を3枚以上準備して、これらを順番に繋いで、3枚それ以上を結合して、三次元形状とする、三次元形状の基材の形成方法、および得られる基材、装飾体である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性を有する三次元形状の基材に、結晶性無機塩を溶解した水溶液を吸収させて、前記吸水性を有する三次元形状の基材の末端に前記結晶性無機塩の結晶を析出させた装飾体に用いる、吸水性を有する三次元形状の基材の形成方法であって、
吸水性を有する紙片の上端および下端に篏合溝を形成した紙片を3枚以上準備する工程(1)と、
前記上端および下端に篏合溝を形成した紙片の一枚目の紙片Aの上端の篏合溝と二枚目の紙片Bの下端の篏合溝を勘合して、紙片Aと紙片Bを繋ぐ工程(2)と、
前記紙片Aと繋がれた紙片Bの上端の篏合溝と三枚目の紙片Cの下端の篏合溝を篏合して、紙片A、B、Cをこの順に繋ぐ工程(3)とを含み、
前記工程(3)を繰り返して紙片を繋いでいき、最後の紙片Xの上端の篏合溝と繋がれた紙片Aの下端の篏合溝を勘合して三次元形状とする、三次元形状の基材の形成方法。
【請求項2】
前記紙片Aから紙片Xまでの形状が同一であることを特徴とする請求項1記載の三次元形状の基材の形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の三次元形状の紙基材の形成方法で形成され、紙片の枚数が3枚である、三次元形状の基材。
【請求項4】
請求項3記載の三次元形状の基材を用いて製造された装飾体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾体に用いる三次元形状の基材の形成方法、三次元形状の基材および装飾体に関する。
【背景技術】
【0002】
室内において、三次元形状を有する吸水性の基材の末端に結晶性無機塩の結晶を析出させて桜やクリスマスツリーに見立てて装飾用として用いる装飾体は知られている。この装飾体は結晶性無機塩の水溶液に三次元形状を有する吸水性の基材の基端部を浸して水を吸い上げ、基材の上部の末端に無機塩の結晶を析出させて装飾体としている(特許文献1ないし3)。
吸水性を有する三次元形状の基材は、たとえば、木の形に切り取った吸水性の紙片を二枚組み合わせて三次元の木の形状に形成しておき、無機塩の結晶を夫々の紙片の上部の末端に析出させて、全体として花や葉のある木の形状の装飾体とするものである。使用する直前に三次元形状を形成するように切り取られた紙片の一部を枝のように折り曲げてより三次元的にして無機塩の結晶が装飾体の全体に広がるようにしている。
【0003】
図6は、従来の三次元形状を有する吸水性の基材を示す図である。(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
三次元形状を有する吸水性の基材は、2枚の紙片1、1’を組み合わせているが、図示しない特定の容器に備え付けて使用される。周辺には枝3のような切り込みがあり、通常枝3は交互に反対側に折り曲げられて、より立体感を出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-329496号公報
【特許文献2】特開平8-2194号公報
【特許文献3】特開2016-221792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の三次元形状を有する吸水性の基材は、2枚の紙片を組み合わせて三次元形状とし、さらに基材の一部である枝を折り曲げてより立体感を上げようとしているが、結晶性無機塩を溶解した水溶液(以下、単に水溶液とよぶ場合がある)を吸い上げると、折り曲げた箇所は段々と元の状態に戻ってしまい、折角折り曲げてより立体的に見せようと意図した形状にはならない。また、2枚の紙片を組み合わせているので、2枚の紙片の間が大きく開き、結晶が出ても、紙片と紙片の間を結晶で完全に埋めることはできず、中の幹が見えて満開状態とすることができないという問題がある。
【0006】
図7は、従来の装飾体の例を示す写真である。上記のように図6に記載の基材に無機塩水溶液を浸して末端に結晶を析出させて装飾体としている。枝を折り曲げても水溶液を吸収すると元の状態に戻っているので、二つの結晶ブロックの間が広く開いている。従来の装飾体では、どうしてもこのような隙間が出来るという問題がある。この隙間をできるだけ狭くして、全体が結晶で覆われるような装飾体が望まれている。
【0007】
本発明は、吸水性を有する三次元形状の基材の先端に結晶性無機塩の結晶が析出した装飾体であって、隣り合う結晶ブロックの間の隙間が狭いか隙間のない、全体が結晶で覆われた装飾体となる基材の形成方法、三次元形状の基材、および装飾体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋭意検討した結果、特定の紙片を3枚以上組み合わせて吸水性を有する三次元形状の基材を用いることにより上記課題を達成できることを見出し本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、吸水性を有する三次元形状の基材に、結晶性無機塩を溶解した水溶液を吸収させて、前記吸水性を有する三次元形状の基材の末端に前記結晶性無機塩の結晶を析出させた装飾体に用いる、吸水性を有する三次元形状の基材の形成方法であって、
吸水性を有する紙片の上端および下端に篏合溝を形成した紙片を3枚以上準備する工程(1)と、
前記上端および下端に篏合溝を形成した紙片の一枚目の紙片Aの上端の篏合溝と二枚目の紙片Bの下端の篏合溝を勘合して、紙片Aと紙片Bを繋ぐ工程(2)と、
前記紙片Aと繋がれた紙片Bの上端の篏合溝と三枚目の紙片Cの下端の篏合溝を篏合して、紙片A、B、Cをこの順に繋ぐ工程(3)とを含み、
前記工程(3)を繰り返して紙片を繋いでいき、最後の紙片Xの上端の篏合溝と繋がれた紙片Aの下端の篏合溝を勘合して三次元形状とする、三次元形状の基材の形成方法である。
【0010】
さらに本発明は、前記紙片Aから紙片Xまでの形状が同一であることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、上記の三次元形状の基材の形成方法で形成され、紙片の枚数が3枚である吸水性を有する三次元形状の基材である。
【0012】
また本発明は、上記三次元形状の紙基材を用いて製造された装飾体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、吸水性を有する三次元形状の基材の先端に結晶性無機塩の結晶が析出した装飾体であって、隣り合う結晶ブロックの間の隙間が狭いか隙間のない、全体が結晶で覆われた装飾体となる基材の形成方法、三次元形状の基材、および装飾体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明における一実施態様の紙片の側面図である。
図2】本発明の基材を形成する方法を説明する図である。
図3】本発明における紙片3枚で構成した基材の図である。(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
図4】本発明における紙片4枚で構成した基材の図である。(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
図5】本発明の一実施態様の装飾体を示す写真である。
図6】従来の三次元形状を形成する吸水性の基材を示す図である。(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
図7】従来の装飾体の例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0016】
(三次元形状の紙基材の形成方法)
本発明において、吸水性を有する三次元形状の基材とは、結晶が析出して装飾体となる三次元の形状の骨格を有するものをいう。三次元形状を形成する吸水性の基材(以下、単に吸水性の基材または単に基材という場合がある)の素材は吸水性を有し形状保持性があれば特に限定はないが、紙が汎用性があり好ましい。紙の種類は、水を吸い上げ基材の上部の末端に結晶性無機塩の結晶が析出する紙であれば特に限定はないが、たとえば、濾紙やコースター原紙などの吸収紙素材などを使用するのが好ましい。基材の厚みは、結晶が析出しても三次元形状を維持できる厚さであるのが好ましい。基材の大きさは、水溶液を吸い上げ結晶が十分析出すれば特に限定はなく、目的に合わせて決めればよいが、高さ30cm以内が好ましい。
【0017】
吸水性を有する三次元形状の基材の形状としては特に限定はないが、たとえば、花、樹木、動物や建築物などを形成したものが挙げられる。三次元形状を有する基材は、3枚またはそれ以上の枚数の切り取った紙片を組み合わせて、目的の形状の骨格を形成する。紙片を3枚以上組み合わせるので、基材を安定して直立させることができる。紙片は、紙素材からなり、三次元形状を形成することができる硬さのものが好ましい。紙片の条件は、上記の基材の条件を満たすものが用いられる。
【0018】
従来は、図6に示すように、2枚の紙片にそれぞれ上または下に1個篏合溝を作成して、上に篏合溝を有する紙片と下に篏合溝を有する紙片を組み合わせて、2枚の紙片で三次元形状の紙基材を形成していた。紙片を3枚以上組み合わせれば、より結晶が多く出ることは予測できるけれども、たとえば、3枚組み合わせて木の形状を作るとすれば、3枚の異なる位置に篏合溝を作る必要がある。そうすると工業的な量産化においては、3種類の異なる位置の篏合溝を有する紙片を必要としコスト高になると共に、基材の作成が煩雑であり、このような方法は手がつかなかった。
【0019】
本発明においては、一枚の紙片に上および下に1個、計2個の篏合溝を形成したものを用いる。もちろん紙片は組み合わせた時に何らかの形状を示す三次元形状の骨格となるように切り取ってある。篏合溝の位置は基材を直立させたときに上および下であれば限定はなく、基材を形成したときに垂直であるのが好ましいが、必ずしも垂直である必要はない。篏合溝の長さは、紙片の篏合溝を篏合した時に、いずれの紙片も置いた基台に接触できるように、上の篏合溝と下の篏合溝の長さの和が上の篏合溝の切り口から基台の位置までの長さ以上になるように篏合溝を形成するのが好ましい。上と下の篏合溝の奥が接する位置は特に限定はない。篏合溝の巾は上と下の篏合溝が篏合できれば特に限定はないが、単にカットしたものから2~3mmまでのものであれば好ましい。
【0020】
図1は、本発明における一実施態様の紙片の側面図である。図1の紙片1は、木を形どってあり、下半分が幹2の部分に相当し、上半分が多くの長短の枝3に相当する部分である。紙片1の上下に1個ずつ篏合溝4、4’が形成されている。上は中央から少し左の位置で上の端部から下に向って篏合溝4が形成され、下は幹2において右寄りに下の端部から上に向って篏合溝4’が形成されている。上の篏合溝4と下の篏合溝4’の長さの和が上の篏合溝4の切り口から下端の位置までの長さ以上である。これにより、紙片1を別の紙片1と組み合わせたときに、いずれの紙片1も置いた基台に接触できる。篏合溝4、4’の位置はこれらの位置からずれていてもよいし、必ずしも垂直でなく斜めであってもよい。
【0021】
紙片には切り込みと切り込みの間に空間があるように切り込みをいれて枝に見せかけるようにすることができる。そして、切込みを入れた部分を交互に反対側に開けば紙片だけで立体状になるようにすることができる。このような切り込みや形状などのついては、特開平7-329496号公報、特開平8-2194号公報に記載されているものが使用できる。
【0022】
また、紙片には単にカットするというカット部を設けても良い。このカットされた両側の間には隙間がなく両側が接触可能である。カット部を反対側に開いたり折ったりした状態の基材を水または無機塩の水溶液に浸すと、開く前の元の状態に戻ろうとするが、接触する部分、特に根元の部分が互いにひっかかると元の状態に戻りにくくなる。すなわち、カットされた両側の間に隙間がなく両側が接触可能であるカット部があるとひっかかりができ、広がりやすい。この状態で結晶が析出するとより広く結晶が析出することができる。
【0023】
また、カット部は角部を有するのがより好ましい。角部とは、頂点と頂点の両側の二つの半直線から構成される。具体的には、折れた直線風にカットされている状態である。カット部が角部を有することにより、該基材部が結晶性無機塩を溶解した水溶液を含侵しても、さらに角部が反対側にひっかかりそれ以上は戻らなくなる。それによって、無機塩の結晶が析出する範囲が広がりより広く結晶が析出することができる。
【0024】
吸水性を有する三次元形状の基材は、上記の紙片を3枚以上組み合わせて形成される。紙片を3枚以上組み合わせて吸水性を有する三次元形状の基材を形成する方法を図に従って説明する。
図2は、本発明の三次元形状の基材を形成する方法を説明する図である。図2は、紙片3枚を用いて三次元形状の基材を形成する場合である。
【0025】
1.紙片の上端および下端に篏合溝を形成した紙片を3枚以上準備する工程(1)
上記で説明した紙片の上端および下端に篏合溝を形成した紙片を3枚以上準備する。
図2(a)において、同じ形状の紙片A,B、Cが準備され、上端および下端に設けられた篏合溝a、b、c、a’、b’、c’の位置、巾、長さが同じである。
紙片A、B、Cの篏合溝4は図2(a)のように同じ位置、同じ巾、同じ長さでなくてもよいが、紙片Aから紙片Xまでの篏合溝は形状などすべて同一であるのが好ましい。形状などが同一であると量産化のときに、準備する紙片は1種類であり、紙をまとめてトムソンで打ち抜いたりできるので、製造工程が効率化できる。基材を形成しやすいというメリットもある。また三次元形状の基材の形状が安定することができる。
【0026】
2.前記上端および下端に篏合溝を形成した紙片の一枚目の紙片Aの上端の篏合溝と二枚目の紙片Bの下端の篏合溝を勘合して、紙片Aと紙片Bを繋ぐ工程(2)
図2(b)において、矢印は紙片Bの下端の篏合溝b’を紙片Aの上端の篏合溝aに入れることを示している。図2(c)の下側において、紙片Bの下端の篏合溝b’が紙片Aの上端の篏合溝aに篏合して一体化されている状態が示されている。この図では左半分が紙片Aで右半分が紙片Bであるように示されている。
【0027】
3.前記紙片Aと繋がれた紙片Bの上端の篏合溝と三枚目の紙片Cの下端の篏合溝を篏合して、紙片A、B、Cをこの順に繋ぐ工程(3)
図2(c)の上側に紙片Cが記載され、矢印は紙片Cの下端の篏合溝c’を紙片Bの上端の篏合溝bに入れることを示している。図2(d)に、紙片Cの下端の篏合溝c’が紙片Bの上端の篏合溝bに篏合して3枚の紙片が一体化されている状態が示されている。この状態では、紙片Aの下端の篏合溝a’と紙片Cの上端の篏合溝cは空いたままである。
【0028】
4.前記工程(3)を繰り返して紙片を繋いでいき、最後の紙片X(図2においては、紙片Cである)の上端の篏合溝と繋がれた紙片Aの下端の篏合溝を勘合して三次元形状とする。
図2(d)において、矢印は紙片Cの上端の篏合溝cを紙片Aの下端の篏合溝a’に入れることを示している。右端の図は、紙片Cの上端の篏合溝cを紙片Aの下端の篏合溝a’に篏合して、紙片A、B、Cが完全に一体化した状態である。
【0029】
図2のように、紙片が3枚以上であると、工程(3)を繰り返して紙片を繋いでいくと、どんどん大きい輪の三次元形状が出来上がるが、実際には紙片の数は5枚ぐらいが好ましい。5枚以内であるとコンパクトな形状の装飾体となる。より好ましいのは4枚であり、最も好ましいのは3枚である。3枚であると、従来2枚で構成していた装飾体と同じ大きさでより結晶が多く析出した満開状態の装飾体となる。上記の三次元形状の紙基材の形成方法で形成された吸水性を有する三次元形状の基材である。すなわち、最も好ましいのは紙片Xが3枚目である。
【0030】
3枚以上の紙片を組み合わせた基材は、それだけで直立(自立)することができるので、従来のように無機塩の水溶液を入れる特定の容器を準備する必要はなくなるという効果も奏する。
【0031】
図3は、紙片3枚で構成した吸水性を有する三次元形状の紙基材の図である。(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
上記の方法により3枚の紙片A,B,Cを組み合わせてある。平面図において中央に三角形状5を形成し、交叉点6より外側に6本の線7が突出している。図6の紙片が2本のときの基材に比較して、突出する線7の数が4から6になり、さらに隣り合う紙片1の作る角度が90度から60度になり、紙片に同じ量の結晶が析出しても結晶ブロック間が狭いか無くなるので全体として満開状態になりやすい。
【0032】
図4は、紙片4枚で構成した吸水性を有する三次元形状の紙基材の図である。(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
図3の組み合わせに対して、さらにもう1枚の紙片1を加えて、上記の方法により4枚の紙片1を組み合わせてある。平面図において中央に四角形状8を形成し、交叉点6より外側に8本の線7が突出している。図6の紙片1が2本のときの基材に比較して、突出する線7の数が4から8になる。隣り合う紙片1の作る角度が90度は同じであるが、突出する線7の長さは短くなり、紙片1に同じ量の結晶が析出しても結晶ブロック間が狭いか無くなるので全体として満開状態になりやすい。
【0033】
(三次元形状の紙基材を用いて製造される装飾体)
上記の三次元形状の紙基材を用いて装飾体を製造する方法は、従来から知られている方法、すなわち結晶性無機塩の水溶液に吸水性を有する三次元形状の基材の基端部を浸して水を吸い上げ、基材の上部の末端に無機塩の結晶を析出させて装飾体を得ることができる。
【0034】
水溶液に用いる結晶性無機塩としては、リン酸一カリウム、リン酸一アンモニウム、リン酸一カルシウム、および硝酸アンモニウムのうち、少なくとも一種類以上を使用することができる。好ましいのはリン酸一カリウムである。
水溶液には、さらに結晶性がある塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウムなどを必要に応じ添加してもよい。これらの無機塩も本発明における結晶性無機塩に含めるものとする。
【0035】
水溶液中における結晶性無機塩の量は、飽和濃度範囲内で使用されるが、水溶液中の結晶性無機塩の濃度が結晶性無機塩の飽和濃度の60%以上96%以下であるのが好ましい。より好ましくは70%以上90%以下である。60%以上であれば、基材の末端に十分に結晶が析出することができる。96%以下であれば、0℃に近い低温状態でも水溶液中で結晶が析出しにくい。たとえば、リン酸一カリウムの飽和濃度は22g/100mL(25℃)であるので、15.4g/100mL以上21.1g/100mL以下が好ましい。
種類の異なる結晶性無機塩を混合する場合は、主たる結晶性無機塩の濃度が上記範囲にあるのが好ましい。
【0036】
結晶性無機塩を溶解した水溶液にはさらに無機酸および/または有機酸を混合して最終の無機塩の結晶量を増やすことができる。
無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、ホウ酸などが挙げられる。有機酸としては、たとえば、蟻酸、酢酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸などが挙げられる。好ましいのは有機酸である。特に好ましいのは、コハク酸、クエン酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸である。
【0037】
無機酸および/または有機酸(以下、単に酸という場合がある )の量は、好ましくは結晶性無機塩1モルに対して0.005モル以上3.0モル以下である。より好ましくは、0.01モル以上1.0モル以下である。0.005モル以上であれば、結晶性無機塩の結晶が基材の末端に析出することが明確に確認でき、3.0モル以下であれば経済的である。酸はそのまま水溶液中に添加してもよいが、5~20倍程度に希釈して添加してもよい。好ましいのは量が正確に投入できる点で後者である。
【0038】
該水溶液には香料を配合してもよい。香料としては、たとえば、ゲラニオール、シトラール、テルピネオール、l-メントール、リナロール、リモネンなどを使用することができる。これらを水中に乳化分散または可溶化して含ませることができる。
【0039】
装飾体キットに用いられる容器は、底に結晶性無機塩を溶解した水溶液を満たす空間が形成されていればよい。従来は、紙片が2枚であり末端に結晶が析出すると倒れる可能性があるため、基材を安定した状態で支承するような、たとえば、基材を差し込むための底の十字状の切込などがある構造の容器が用いられてきた。本発明の装飾体は、自立することができるので、底に結晶性無機塩を溶解した水溶液を満たす空間が形成されていればよく、従来のような特別の容器は必要ではない。容器の底の形状としては、特に正方形などの矩形状の板に限定されるものではなく、円状、楕円状などであってもよい。
【0040】
容器の材質は結晶性無機塩を溶解した水溶液を安定に保持できれば限定はなく、プラスチック製、ガラス製、ステンレス製などが挙げられる。容器の大きさ、水溶液を満たす空間の深さなどは基材の大きさや水溶液の量などによって決めればよい。
【0041】
上記の紙片には、結晶性無機塩を含ませてもよい。結晶性無機塩は前記の結晶性無機塩と同じであっても異なっていてもよい。同じ結晶性無機塩であるのが、析出する結晶が結晶性無機塩と同じになるので好ましい。
【0042】
事前に紙片すなわち基材に結晶性無機塩を含浸させておくと、特開2021-28150号公報に記載してあるように、無機塩水溶液の吸収速度が早くなり、結晶が従来よりも著しく早く析出することができる。また、毛細管現象による水溶液の紙中での上昇する高さを向上させることができる。
【0043】
また、紙片には特定の染料を含ませるのが好ましい。紙片に染料を含ませておくと、結晶性無機塩が基材の末端に移動していくときに引きつられて移動して、その結果結晶が染料を含むことができる。そうすれば結晶が染料で染まったかのように見える。異なる色の染料を用いれば異なる色の結晶が得られる。そしてカラフルな結晶を楽しむことができる。
【0044】
このような染料としては水溶性であって、且つ紙片と反応しにくいものがよい。染料が水溶性であれば多かれ少なかれそのような傾向がある。染料としては、カチオン染料なども用いることができるが、スルフォン酸Na基、カルボン酸Na基などを含む酸性染料、直接染料などのアニオン染料が好ましい。特に好ましいのは、反応性が小さい食用色素に用いる染料である。食用色素であれば結晶と共に口に入ったとしても安全であり、実使用上好ましい。
【0045】
紙片に染料を含ませる方法としては、紙片を染料水溶液に浸漬して含浸するか、染料水溶液をスプレーして付与し、その後乾燥すればよい。染料水溶液の染料濃度を変えれば紙片への染料含有量も制御できる。
【0046】
紙片の処理温度は常温ないし50℃が好ましい。乾燥温度も常温乾燥ないし50℃が好ましい。結晶性無機塩の水溶液を作成する場合にも水溶液中における結晶性無機塩(B)の濃度は、0.01質量%以上、5.0質量%以下が好ましい。より好ましくは0.1質量%以上、2.5質量%以下である。
【0047】
装飾体を製造する方法は、室温において基材を容器に設置し、結晶性無機塩を溶解した水溶液を容器に入れればよい。水溶液は毛細管現象で基材に吸収され、基材の先端から結晶が析出し始める。結晶は容器の中の水溶液が全部吸収されてからでも暫くは結晶が析出し続ける。基材の大きさにもよるが、結晶が完全に析出するまでの時間は通常5~10時間である。
【0048】
本発明の吸水性を有する三次元形状の紙基材に、結晶性無機塩を溶解した水溶液を吸収させて、前記吸水性を有する三次元形状の紙基材の末端に前記結晶性無機塩の結晶を析出させた装飾体は、隣り合う結晶ブロックの間の隙間が狭いか隙間のない、全体が結晶で覆われた装飾体となる。
基材は、本発明の三次元形状の基材の形成方法により、紙片を用いて簡単に作成でき、紙片が3枚以上であるので基材は自立することができ、特定の容器を必要としない。
また、篏合溝の位置、形状、大きさが同じである同一形状の紙片を用いると、量産化のときに1種類ですむので効率的である。
【実施例0049】
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない
【0050】
(製造例1)(結晶性無機塩の水溶液の製造)
1Lビーカーにリン酸一カリウム 2.6g、10重量%塩化ナトリウム水溶液 0.8gと「PEG1000」(ポリエチレングリコール、数平均分子量1000)の10重量%水溶液 0.8g、8.5重量%リン酸水溶液 0.4gおよび水 12.2gを入れ室温下スターラーで3時間攪拌して固形物を溶解して無色透明液状の結晶性無機塩の水溶液を得た。
【0051】
(製造例2)(結晶性無機塩と染料を含んだ染料水溶液の製造)
100mlのビーカーに結晶性無機塩であるリン酸一カリウム0.2gと赤色102号(食用色素)の1質量%水溶液1gを水20gに加えて、室温下スターラーで3時間攪拌して赤色透明液状の結晶性無機塩と染料を含んだ染料水溶液を得た。
【0052】
(実施例1)
コースター原紙(厚み0.8mm)を用いて、三次元の形状を形成する吸水性の紙片を樹木状(高さ8cm、幅5.2cm)に切り取った後、枝となるように端部から切り取りした。さらに図1に記載したように上端および下端に篏合溝を形成した。(上端の篏合溝の長さ28mm、巾1.5mm、下端の篏合溝の長さ59mm、巾1.5mm)。これを3枚作成した。この紙片を上記の染料水溶液に30分間浸して取り出し、室温で30分放置した後、37℃の乾燥機の中に入れ1時間乾燥して、結晶性無機塩を含んだ吸水性の紙片3枚を得た。3枚の紙片を用いて、図2に記載の基材の形成方法に準じて3枚の紙片を組み合わせた基材を作成した。
アクリル製の円形容器(半径4cm、深さ1cm)を25℃の室内に準備して、この中に製造例1で製造した水溶液を注いだ。この液の中に上記のように形成した基材を直立させて置いた。すぐに根元から液が浸透し始めた。室内の温度は20℃であり、空調設備を稼働して部屋内の空気を循環させた。約6時間後、図5に示すような、樹木の全体はピンク色の無機塩の結晶で覆われた桜のような装飾体が得られた。
図5は、本発明の一実施態様の装飾体を示す写真である。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様にして、三次元の形状を形成する吸水性の紙片を樹木状(高さ10cm、幅8cm)に切り取った後、枝となるように端部から切り取りして、紙片を作成した。さらに図6に記載したように1枚は中央上端にのみ篏合溝を形成し、別の1枚は中央下端にのみ篏合溝を形成した。(上端の篏合溝の長さ28mm、巾1.5mm、下端の篏合溝の長さ59mm、巾1.5mm)。この2枚の紙片を組み合わせて図6のような基材を作成した。これを、基材を差し込むための底の十字状の切込がある構造の容器に固定した。そこに製造例1で製造した水溶液を注いだ。すぐに根元から液が浸透し始めた。室内の温度は20℃であり。空調設備を稼働して部屋内の空気を循環させた。8時間後に無機塩の結晶が析出した装飾体が得られた。
図7に示すような、結晶ブロック間の隙間ができ、中の幹に相当する部分が見えてしまっている。
【0054】
以上の結果より、本発明の基材を用いると、従来よりも結晶が広がり、結晶ブロックの間の隙間が少なく全体が結晶で覆われる装飾体となることがわかった。
【符号の説明】
【0055】
1、1’ 紙片
2 幹
3 枝
4 篏合溝
5 三角形状
6 交叉点
7 突出する線
8 四角形状
9 基材
A 紙片
B 紙片
C 紙片
a 篏合溝
b 篏合溝
c 篏合溝
a’ 篏合溝
b’ 篏合溝
c’ 篏合溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7