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  • 特開-消耗電極アーク溶接電源 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078797
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】消耗電極アーク溶接電源
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20230531BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20230531BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/173 A
B23K9/095 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192073
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001DE04
4E082AA04
4E082AB01
4E082BA04
4E082CA01
4E082DA01
4E082EA11
4E082EC03
4E082EE03
4E082EF02
4E082FA04
(57)【要約】
【課題】消耗電極アーク溶接において、出力端子電圧によって溶滴のくびれの検出を正確に行って、スパッタ発生を少なくすること。
【解決手段】アーク発生部の溶接電圧Vwを検出線5によって入力して溶接電圧検出信号Vwdを出力する溶接電圧検出部VWDと、溶接電源の出力端子の電圧VTを入力して出力端子電圧検出信号Vtdを出力する出力端子電圧検出部VTDと、溶接電圧検出信号Vwd及び出力端子電圧検出信号Vtdを入力として両信号から選択された信号を電圧検出信号Vdとして出力する電圧検出切換部VDと、電圧検出信号Vdによって短絡期間中の溶滴のくびれを検出してくびれ検出信号Ndを出力するくびれ検出部NDと、を備えており、くびれ検出信号Ndが出力されると溶接電流Iwを減少させてアークを再発生させて溶接する消耗電極アーク溶接電源である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク発生部の溶接電圧を検出線によって入力して第1カットオフ周波数のローパスフィルタを通して溶接電圧検出信号を出力する溶接電圧検出部と、
前記溶接電圧検出信号によって短絡期間中の溶滴のくびれを検出してくびれ検出信号を出力するくびれ検出部と、を備えており、
前記くびれ検出信号が出力されると溶接電流を減少させてアークを再発生させて溶接する消耗電極アーク溶接電源において、
溶接電源の出力端子の電圧を入力して第2カットオフ周波数のローパスフィルタを通して出力端子電圧検出信号を出力する出力端子電圧検出部と、
前記溶接電圧検出信号及び前記出力端子電圧検出信号を入力として両信号から選択された信号を電圧検出信号として出力する電圧検出切換部と、をさらに備えており、
前記くびれ検出部は前記電圧検出信号によって短絡期間中の溶滴のくびれを検出して前記くびれ検出信号を出力する、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接電源。
【請求項2】
前記第2カットオフ周波数は前記第1カットオフ周波数よりも小である、
ことを特徴とする請求項1に記載の消耗電極アーク溶接電源。
【請求項3】
前記第2カットオフ周波数は0.8kHz~5kHzの範囲で設定される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の消耗電極アーク溶接電源。
【請求項4】
前記くびれ検出の精度を評価してくびれ検出精度評価信号を出力するくびれ検出精度評価部と、
を備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の消耗電極アーク溶接電源。
【請求項5】
前記電圧検出切換部は前記くびれ検出精度評価信号に基づいて入力信号の切り換えを行う、
ことを特徴とする請求項4に記載の消耗電極アーク溶接電源。
【請求項6】
前記くびれ検出精度評価信号に基づいて前記第2カットオフ周波数を設定する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の消耗電極アーク溶接電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出して溶接電流を減少させる消耗電極アーク溶接電源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤと母材との間で短絡期間とアーク期間とを繰り返し、短絡期間中にアークが再発生する前兆現象である溶滴のくびれを検出し、くびれを検出すると溶接電流を減少させてアークを再発生させる消耗電極アーク溶接のくびれ検出制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このくびれ検出制御方法によって、アーク再発生時の溶接電流の値が小さくなるために、スパッタ発生量が非常に少なくなり、溶融池の振動が小さくなりビード外観が良好になる。
【0003】
消耗電極アーク溶接電源を使用する場合、溶接電源と溶接を行う場所とが離れていることが多くある。この場合には、両者の間を溶接ケーブルで接続して溶接を行うことになる。このときに、溶接ケーブルによる抵抗分及びインダクタンス分が通電路に挿入されることになる。抵抗分は、溶接状態にあまり影響を与えない程度の小さな値であることが多いので無視することができる。しかし、インダクタンス分は、溶接ケーブルが数十mと長くなると溶接状態に影響を与えることになる。
【0004】
上記のくびれの検出は、短絡期間中の溶接電圧に基づいて行われるのが通常である。しかし、溶接個所の電圧である溶接電圧を検出するためには、専用の検出線を配線する必要がある。数十mの検出線を配線するには工数がかかり、手間である。また、溶接トーチは移動を繰り返すので、検出線の断線も発生するおそれがある。さらには、検出線が長くなると、溶接ケーブルを通電する溶接電流からの電磁波ノイズが重畳することになる。
【0005】
このために、くびれの検出を溶接電源の出力端子電圧で行うことができると、上記の問題は解消する。しかし、出力端子電圧には、溶接ケーブルのインダクタンス値による逆起電圧がノイズとして重畳する。この結果、出力端子電圧には大きなノイズが重畳することになる。このために、出力端子電圧によってくびれの検出を行うと誤検出が生じる。誤検出が発生すると、溶接状態が不安定になり、溶接品質が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5851798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では、出力端子電圧によってくびれの検出を正確に行うことができ、良好な溶接品質を得ることができる消耗電極アーク溶接電源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
アーク発生部の溶接電圧を検出線によって入力して第1カットオフ周波数のローパスフィルタを通して溶接電圧検出信号を出力する溶接電圧検出部と、
前記溶接電圧検出信号によって短絡期間中の溶滴のくびれを検出してくびれ検出信号を出力するくびれ検出部と、を備えており、
前記くびれ検出信号が出力されると溶接電流を減少させてアークを再発生させて溶接する消耗電極アーク溶接電源において、
溶接電源の出力端子の電圧を入力して第2カットオフ周波数のローパスフィルタを通して出力端子電圧検出信号を出力する出力端子電圧検出部と、
前記溶接電圧検出信号及び前記出力端子電圧検出信号を入力として両信号から選択された信号を電圧検出信号として出力する電圧検出切換部と、をさらに備えており、
前記くびれ検出部は前記電圧検出信号によって短絡期間中の溶滴のくびれを検出して前記くびれ検出信号を出力する、
ことを特徴とする消耗電極アーク溶接電源である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記第2カットオフ周波数は前記第1カットオフ周波数よりも小である、
ことを特徴とする請求項1に記載の消耗電極アーク溶接電源である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記第2カットオフ周波数は0.8kHz~5kHzの範囲で設定される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の消耗電極アーク溶接電源である。
【0011】
請求項4の発明は、
前記くびれ検出の精度を評価してくびれ検出精度評価信号を出力するくびれ検出精度評価部と、
を備えたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の消耗電極アーク溶接電源である。
【0012】
請求項5の発明は、
前記電圧検出切換部は前記くびれ検出精度評価信号に基づいて入力信号の切り換えを行う、
ことを特徴とする請求項4に記載の消耗電極アーク溶接電源である。
【0013】
請求項6の発明は、
前記くびれ検出精度評価信号に基づいて前記第2カットオフ周波数を設定する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の消耗電極アーク溶接電源である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、出力端子電圧によってくびれの検出を正確に行うことができ、良好な溶接品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接電源のブロック図である。
図2図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る消耗電極アーク溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0018】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトル、誤差増幅信号Eaを入力としてパルス幅変調制御を行う変調回路、パルス幅変調制御信を入力としてインバータ回路のスイッチング素子を駆動するインバータ駆動回路を備えている。
【0019】
上記の電源主回路PMの出力端子6aと溶接トーチ4とは溶接ケーブル7aで接続されており、もう一方の出力端子6bと母材2とは溶接ケーブル7bで接続されている。この溶接ケーブル7a、7bの長さは往復で最大40mになる場合もある。この溶接ケーブル7a、7bによるインダクタンス値がL(μH)となる。インダクタンス値Lは、長さ、敷設状態によって10~200μH程度の範囲で種々な値となる。
【0020】
減流抵抗器Rは、上記の電源主回路PMと出力端子6aとの間に挿入される。この減流抵抗器Rの値は、短絡負荷(0.01~0.03Ω程度)の50倍以上大きな値(0.5~3Ω程度)に設定される。このために、くびれ検出制御によって減流抵抗器Rが通電路に挿入されると、溶接電源内の直流リアクトル及び外部ケーブルのリアクトルに蓄積されたエネルギーが急放電される。トランジスタTRは、減流抵抗器Rと並列に接続されて、後述する駆動信号Drに従ってオン又はオフ制御される。
【0021】
溶接ワイヤ1は、送給機FDによって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間には溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0022】
溶接電圧検出回路VWDは、アーク発生部の溶接電圧Vwを検出線5によって入力し、予め定めた第1カットオフ周波数のローパスフィルタを通して溶接電圧検出信号Vwdを出力する。溶接電圧Vwは、給電チップ・母材間電圧である。給電チップの代わりに送給機FD又は溶接トーチ4の導電部から電圧を検出する場合もある。溶接電圧Vwは、くびれ検出の精度を高めるために、できる限りアーク発生部に近い位置での電圧であることが望ましい。検出線5は、溶接電圧Vwを検出するために、配線される。
【0023】
出力端子電圧検出回路VTDは、出力端子6aと6bとの間の出力端子電圧Vtを入力し、予め定めた第2カットオフ周波数のローパスフィルタを通して出力端子電圧検出信号Vtdを出力する。第2カットオフ周波数は第1カットオフ周波数よりも小である。
【0024】
溶接電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、溶接電流検出信号Idを出力する。
【0025】
電圧検出切換回路VDは、上記の溶接電圧検出信号Vwd及び上記の出力端子電圧検出信号Vtdを入力として、溶接作業者がスイッチ等の切り換えによって選択した溶接電圧検出信号Vwd又は出力端子電圧検出信号Vtdを電圧検出信号Vdとして出力する。
【0026】
短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が予め定めた短絡/アーク判別値Vta(10V程度)未満であるときは短絡期間にあると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間にあると判別してLowレベルになる短絡判別信号Sdを出力する。
【0027】
くびれ検出基準値設定回路VTNは、予め定めたくびれ検出基準値信号Vtnを出力する。溶接法、送給速度、溶接ワイヤ1の材質、直径等の溶接条件に応じて、このくびれ検出基準値信号Vtnの値は適正値に設定される。
【0028】
くびれ検出回路NDは、上記のくびれ検出基準値信号Vtn、上記の短絡判別信号Sd、上記の電圧検出信号Vd及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)であるときの電圧検出信号Vdの電圧上昇値がくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点で溶滴のくびれの形成状態が基準状態に達したと判別してHighレベルとなり、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化した時点でLowレベルになるくびれ検出信号Ndを出力する。また、短絡期間中の電圧検出信号Vdの微分値がそれに対応したくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。さらに、電圧検出信号Vdの値を溶接電流検出信号Idの値で除算して溶滴の抵抗値を算出し、この抵抗値の微分値がそれに対応するくびれ検出基準値信号Vtnの値に達した時点でくびれ検出信号NdをHighレベルに変化させるようにしても良い。
【0029】
くびれ時間検出回路TNDは、上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルとなるくびれ時間Tnを検出して、くびれ時間検出信号Tndを出力する。くびれ時間Tnは、短絡期間中にくびれを検出した時点からアークが再発生するまでの時間である。このくびれ時間Tnが適正値よりも短いときは、アーク再発生時の溶接電流Iwの値が十分小さな値まで減少することができないために、スパッタが発生することになる。他方、くびれ時間Tnが適正値よりも長いときは、低レベル電流値Ilの状態が長く続くために、溶接状態が不安定になる。したがって、くびれ時間Tnが適正範囲にあるときは、くびれ検出制御が適正に動作しているときである。
【0030】
くびれ検出精度評価回路NAは、上記の短絡判別信号Sd及び上記のくびれ時間検出信号Tndを入力として、以下の処理を行い、くびれ検出精度評価信号Naを出力して液晶パネル等にその値を表示する。
1)短絡判別信号Sdによって溶接中に発生した総短絡回数を計数する。
2)溶接中にくびれ時間検出信号Tndの値が予め定めた適正範囲内であったくびれ時間適正回数を計数する。
3)(くびれ時間適正回数/総短絡回数)×100(%)を演算して、くびれ検出精度評価信号Naとして出力する。
ここで、適正範囲は、例えば0.1~0.5msである。くびれ検出精度評価信号Naの値が大きいほどくびれ検出の精度が高いことを示している。また、くびれ時間検出信号Tndの平均値と目標値との差分値、短絡解除時の溶接電流検出信号Idの値等に基づいてくびれ検出精度評価信号Naを出力しても良い。
【0031】
低レベル電流設定回路ILRは、予め定めた低レベル電流設定信号Ilrを出力する。
【0032】
電流比較回路CMは、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記の溶接電流検出信号Idを入力として、Id<IlrのときはHighレベルになり、Id≧IlrのときはLowレベルになる電流比較信号Cmを出力する。
【0033】
駆動回路DRは、上記の電流比較信号Cm及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、くびれ検出信号NdがHighレベルに変化するとLowレベルに変化し、その後に電流比較信号CmがHighレベルに変化するとHighレベルに変化する駆動信号Drを上記のトランジスタTRのベース端子に出力する。したがって、この駆動信号Drはくびれが検出されるとLowレベルになり、トランジスタTRがオフ状態になり通電路に減流抵抗器Rが挿入されるので、短絡負荷を通電する溶接電流Iwは急減する。そして、急減した溶接電流Iwの値が低レベル電流設定信号Ilrの値まで減少すると、駆動信号DrはHighレベルになり、トランジスタTRがオン状態になるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の状態に戻る。この結果、溶接電流Iwは、低レベル電流設定信号Ilrの値を維持する。
【0034】
電流制御設定回路ICRは、上記の短絡判別信号Sd、上記の低レベル電流設定信号Ilr及び上記のくびれ検出信号Ndを入力として、以下の処理を行い、電流制御設定信号Icrを出力する。
1)短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から予め定めた初期期間中は、予め定めた初期電流設定値を電流制御設定信号Icrとして出力する。
2)その後は、電流制御設定信号Icrの値を、上記の初期電流設定値から予め定めた短絡時傾斜で予め定めたピーク設定値まで上昇させ、その値を維持する。
3)くびれ検出信号NdがHighレベル(くびれ検出)に変化すると、電流制御設定信号Icrの値を低レベル電流設定信号Ilrの値に切り換えて維持する。
4)短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化し、予め定めた遅延期間Tdが経過すると、電流制御設定信号Icrを、予め定めたアーク時傾斜で予め定めた高レベル電流設定値まで上昇させ、その値を維持する。
【0035】
電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の溶接電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0036】
電圧設定回路VRは、アーク期間中の溶接電圧を設定するための予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、この電圧設定信号Vr及び上記の電圧検出信号Vdを入力として、電圧設定信号Vr(+)と電圧検出信号Vd(-)との誤差を増幅して電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0037】
制御切換回路SWは、上記の電流誤差増幅信号Ei、上記の電圧誤差増幅信号Ev及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡)に変化した時点から、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)に変化して上記の遅延期間及び上記の高電流期間が経過した時点までの期間中は電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、それ以外の期間中は電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。この回路により、短絡期間+遅延期間Td+高電流期間中は定電流制御となり、それ以外のアーク期間中は定電圧制御となる。
【0038】
送給速度設定回路FRは、予め定めた送給速度設定信号Frを出力する。送給制御回路FCは、この送給速度設定信号Frを入力として、この設定値に相当する送給速度で溶接ワイヤ1を送給するための送給制御信号Fcを上記の送給機FDに出力する。
【0039】
図2は、図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)はくびれ検出信号Ndの時間変化を示し、同図(D)は駆動信号Drの時間変化を示し、同図(E)は短絡判別信号Sdの時間変化を示し、同図(F)は電流制御設定信号Icrの時間変化を示す。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0040】
同図(B)に示す溶接電圧Vw又は図示しない出力端子電圧Vtは、溶接作業者の選択によって溶接電圧検出信号Vwd又は出力端子電圧検出信号Vtdが切り換えられて図1の電圧検出信号Vdとして出力される。上述したように、溶接電圧検出信号Vwdは、アーク発生部の溶接電圧Vwを検出線5によって入力して第1カットオフ周波数のローパスフィルタを通した信号である。また、出力端子電圧検出信号Vtdは、溶接電源の出力端子電圧Vtを入力して第2カットオフ周波数のローパスフィルタを通した信号である。
【0041】
(1)時刻t1の短絡発生から時刻t2のくびれ検出時点までの動作
時刻t1において溶接ワイヤ1が母材2と接触すると短絡期間になり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは数V程度の短絡電圧値に急減する。そして、図1の電圧検出信号Vdの値が短絡/アーク判別値Vta未満になったことを判別して、同図(E)に示すように、短絡判別信号SdはLowレベルからHighレベルに変化する。これに応動して、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrは時刻t1において予め定めた高レベル電流設定値から小さな値である予め定めた初期電流設定値に変化する。時刻t1~t11の予め定めた初期期間中は上記の初期電流設定値となり、時刻t11~t12の期間中は予め定めた短絡時傾斜で上昇し、時刻t12~t2の期間中は予め定めたピーク設定値となる。短絡期間中は上述したように定電流制御されているので溶接電流Iwは電流制御設定信号Icrに相当する値に制御される。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t1においてアーク期間の溶接電流値から減少し、時刻t1~t11の初期期間中は初期電流値となり、時刻t11~t12の期間中は短絡時傾斜で上昇し、時刻t12~t2の期間中はピーク値となる。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、後述する時刻t2~t3のくびれ時間Tn中はHighレベルとなり、それ以外の期間はLowレベルとなる。同図(D)に示すように、駆動信号Drは、後述する時刻t2~t21の期間はLowレベルとなり、それ以外の期間はHighレベルとなる。したがって、同図において時刻t2以前の期間中は、駆動信号DrはHighレベルとなり、図1のトランジスタTRがオン状態となるので、減流抵抗器Rは短絡されて通常の消耗電極アーク溶接電源と同一の状態となる。例えば、上記の初期期間は1ms程度であり、初期電流値は50A程度であり、短絡時傾斜は400A/ms程度であり、ピーク値は450A程度である。
【0042】
同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwがピーク値となる時刻t12あたりから上昇する。これは、溶滴にくびれが次第に形成されるためである。この溶接電圧Vwの変化を電圧検出信号Vdによって検出する。時刻t12からの期間がくびれを検出する期間となる。
【0043】
(2)時刻t2のくびれ検出時点から時刻t3のアーク再発生時点までの動作
時刻t2において、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwが上昇して、電圧検出信号Vdの初期期間中の電圧値からの電圧上昇値ΔVが予め定めたくびれ検出基準値Vtnと等しくなったことによってくびれを検出すると、同図(C)に示すように、くびれ検出信号NdはHighレベルに変化する。これに応動して、同図(D)に示すように、駆動信号DrはLowレベルになるので、図1のトランジスタTRはオフ状態となり減流抵抗器Rが通電路に挿入される。同時に、同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrは低レベル電流設定信号Ilrの値へと小さくなる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwはピーク値から急減する。そして、時刻t21において、溶接電流Iwが低レベル電流値Ilまで減少すると、同図(D)に示すように、駆動信号DrはHighレベルに戻るので、図1のトランジスタTRはオン状態となり減流抵抗器Rは短絡される。この結果、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t21からアークが再発生する時刻t3まで低レベル電流値Ilを維持する。したがって、トランジスタTRは、時刻t2にくびれが検出されてから時刻t21に溶接電流Iwが低レベル電流値Ilに減少するまでの期間のみオフ状態となる。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、溶接電流Iwが小さくなるので時刻t2から一旦減少した後に急上昇する。
【0044】
ここで、図1のくびれ検出精度評価回路NAによって溶接終了時に、時刻t2~t3のくびれ時間Tnが予め定めた適正範囲内となった回数が総短絡回数に占める比率を算出して、くびれ検出精度評価信号Na(%)として出力される。この値が大きいほど、くびれ検出制御が誤検出なく正常に動作していることを示している。
【0045】
(3)時刻t3のアーク再発生から遅延期間Tdが経過して時刻t4の高電流期間が終了するまでの動作
時刻t3においてアーク3が再発生すると、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは急増し、電圧検出信号Vdの値は短絡/アーク判別値Vta以上となる。時刻t3~t31の期間が予め定めた遅延期間Td(1ms程度)となる。同図(F)に示すように、電流制御設定信号Icrの値は、時刻31まで低レベル電流設定信号値Ilrのままとなる。そして、時刻t31~t4の期間が予め定めた高電流期間(2ms程度)となる。電流制御設定信号Icrの値は、時刻t31から上昇し、上記の高レベル電流設定値(400A程度)に達するとその値を維持する。時刻t3にアークが再発生してから遅延期間Td及び高電流期間が経過する時刻t4まで溶接電源は定電流制御されているので、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中は低レベル電流値Ilとなり、時刻t31からは上昇し、高レベル電流値に達するとその値を時刻t4まで維持する。同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3~t31の遅延期間Td中はアーク電圧値となり、時刻t31~t4の高電流期間中はそれよりも大の高レベル電圧値となる。同図(C)に示すように、くびれ検出信号Ndは、時刻t3にアークが再発生するので、Lowレベルに変化する。
【0046】
(4)時刻t4の高電流期間終了時点から時刻t5の次の短絡発生までのアーク期間の動作
時刻t4において高電流期間が終了すると、溶接電源は定電流制御から定電圧制御へと切り換えられる。このために、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、アーク負荷に応じて高レベル電流値から次第に減少する。同様に、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは高レベル電圧値から次第に減少する。
【0047】
上記の第1カットオフ周波数の設定について説明する。アーク発生部に検出線が配線されており、図1の電圧設定切換回路VDによって溶接電圧検出信号Vwdが選択されている場合は、溶接電圧検出信号Vwdには溶接ケーブルのインダクタンスによる逆起電圧は重畳しない。他方、溶接電圧検出信号Vwdには、溶接ケーブルを通電する溶接電流Iwからの電磁波ノイズが重畳する。この電磁波ノイズは、逆起電圧よりも、ノイズ強度が小さく、かつ、高周波である。したがって、この電磁波ノイズを除去するために、第1カットオフ周波数は10kHz程度に設定される。この結果、溶接ケーブルの長さが実際に使用されている最大長である往復40mである状態で溶接を行った場合でも、くびれ検出精度評価信号Naはほぼ100%となり、くびれ検出は誤検出することなく動作する。
【0048】
次に、上記の第2カットオフ周波数の設定について説明する。アーク発生部に検出線が配線されておらず、図1の電圧設定切換回路VDによって出力端子電圧検出信号Vtdが選択されている場合は、出力端子電圧検出信号Vtdには溶接ケーブルのインダクタンスによる逆起電圧が重畳する。この逆起電圧を除去するために、第2カットオフ周波数は0.8kHz~5kHzの範囲に設定される。このように設定すると、溶接ケーブルの長さが最も多く使用されている往復30m以下である状態で溶接を行った場合、くびれ検出精度評価信号Naは80%以上となる。第2カットオフ周波数が0.8kHz未満になると、逆起電圧によるノイズは除去されるが、くびれ形成に伴う短絡電圧の微小な上昇も平滑されて検出精度が低下する。逆に、第2カットオフ周波数が5kHzを超えると、逆起電圧によってくびれの誤検出が増加して精度が低下する。くびれ検出精度評価信号Naが80%以上であれば、スパッタ発生が減少した上で、溶接状態も安定している。80%未満になると誤検出が増加して、溶接状態が不安定になりやすくなる。さらには、第2カットオフ周波数は1kHz~3kHzの範囲に設定することがより好ましい。このように設定すると、くびれ検出精度評価信号Naは90%以上となり、よりスパッタ発生が少なくなる。
【0049】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、溶接電圧検出信号及び出力端子電圧検出信号を入力として両信号から選択された信号を電圧検出信号として出力する電圧検出切換部と、をさらに備えており、くびれ検出部は電圧検出信号によって短絡期間中の溶滴のくびれを検出してくびれ検出信号を出力する。
1)溶接施工時において、溶接作業者は、まずは検出線を配線することなく、電圧検出切換回路を操作して出力端子電圧検出信号が電圧検出信号として出力されるように選択する。
2)溶接を実施し、スパッタ発生状態及び溶接状態の安定性を観察して評価し、良好な場合はこの状態で溶接を継続する。
3)上記の評価が悪い場合には、検出線を配線し、電圧検出切換回路を操作して溶接電圧検出信号が電圧検出信号として出力されるように選択する。そして、この状態で溶接を行う。
このようにすると、多くの場合は、検出線を配線することなく、くびれ検出制御を有効に動作させることができる。この結果、本実施の形態では、多くの施工現場において、検出線を配線することなく、出力端子電圧によってくびれの検出を正確に行うことができ、良好な溶接品質を得ることができる。
【0050】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、出力端子電圧検出信号のための第2カットオフ周波数は、溶接電圧検出信号のための第1カットオフ周波数よりも小である。このようにすると、出力端子電圧検出信号から溶接ケーブルのインダクタンスによる逆起電圧を除去することができるので、誤検出することなくくびれ検出制御を動作させることができる。
【0051】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、第2カットオフ周波数は0.8kHz~5kHzの範囲で設定される。このようにすると、出力端子電圧検出信号から溶接ケーブルのインダクタンスによる逆起電圧を除去し、かつ、くびれの形成に伴う電圧上昇を正確に検出することができるので、くびれ検出の精度を向上させることができる。
【0052】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、くびれ検出の精度を評価してくびれ検出精度評価信号を出力するくびれ検出精度評価部を備えている。このようにすると、くびれ検出の精度を客観的データとして評価することができる。
【0053】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、電圧検出切換部は前記くびれ検出精度評価信号に基づいて入力信号の切り換えを行う。上記においては、出力端子電圧検出信号と溶接電圧検出信号との切換を、溶接作業者による観察・評価によって行っていた。しかし、このようにすれば、くびれ検出の精度を客観的データとして評価することができるので、電圧検出方式の切り換えを的確に行うことができる。
【0054】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、くびれ検出精度評価信号に基づいて第2カットオフ周波数を設定する。このようにすると、くびれ検出精度評価信号の値に基づいて第2カットオフ周波数を適正化することができるので、くびれ検出の精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 検出線
6a、6b 出力端子
7a、7b 溶接ケーブル
CM 電流比較回路
Cm 電流比較信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FD 送給機
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
ICR 電流制御設定回路
Icr 電流制御設定信号
ID 溶接電流検出回路
Id 溶接電流検出信号
Il 低レベル電流値
ILR 低レベル電流設定回路
Ilr 低レベル電流設定信号
Iw 溶接電流
NA くびれ検出精度評価回路
Na くびれ検出精度評価信号
ND くびれ検出回路
Nd くびれ検出信号
PM 電源主回路
R 減流抵抗器
SD 短絡判別回路
Sd 短絡判別信号
SW 制御切換回路
Td 遅延期間
TND くびれ時間検出回路
Tnd くびれ時間検出信号
TR トランジスタ
VD 電圧検出切換回路
Vd 電圧検出信号
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
Vt 出力端子電圧
Vta 短絡/アーク判別値
VTD 出力端子電圧検出回路
Vtd 出力端子電圧検出信号
VTN くびれ検出基準値設定回路
Vtn くびれ検出基準値(信号)
Vw 溶接電圧
VWD 溶接電圧検出回路
Vwd 溶接電圧検出信号
ΔV 電圧上昇値
図1
図2