(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078816
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】負極板
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20230531BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230531BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20230531BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20230531BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M10/0566
H01M10/0525
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192107
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】茅原 静佳
(72)【発明者】
【氏名】山村 英行
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AL07
5H029AM01
5H029AM07
5H029CJ08
5H029CJ16
5H029CJ22
5H029DJ07
5H029DJ08
5H029EJ11
5H029HJ01
5H050AA12
5H050BA17
5H050CB08
5H050DA04
5H050DA09
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA22
5H050GA10
5H050GA18
5H050GA22
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池の負極板の拡散抵抗を低減する。
【解決手段】集電体11と集電体11上に積層された合剤層12とを備えるリチウムイオン二次電池の負極板。一態様において合剤層12は負極活物質として80重量%以上の炭素粒子14を含有する。合剤層12はさらに98.8重量部の炭素粒子14当たり0.2重量部以下のラクトンを含有する。その一態様において合剤層12は98.8重量部の炭素粒子14当たり0.005重量部以上のラクトンを含有する。他の態様において合剤層は負極活物質とクマリンとを含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と前記集電体上に積層された合剤層とを備え、
前記合剤層は負極活物質として80重量%以上の炭素材料を含有し、
前記合剤層はさらに98.8重量部の炭素材料当たり0.2重量部以下のラクトンを含有する、
リチウムイオン二次電池の負極板。
【請求項2】
前記合剤層は98.8重量部の炭素材料当たり0.005重量部以上のラクトンを含有する、
請求項1に記載の負極板。
【請求項3】
前記ラクトンは以下から選ばれる1以上の化合物である:
α-ラクトン、例えばα-アセトラクトン;
β-ラクトン、例えばβ-プロピオラクトン;
γ-ラクトン、例えばγ-ブチロラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン及びγ-オクタラクトン;
δ-ラクトン、例えばδ-バレロラクトン、クマリン及びグルコノラクトン;
シクロペンタデカノリド;並びに
シクロヘキサデカノリド、
請求項1又は2に記載の負極板。
【請求項4】
集電体と前記集電体上に積層された合剤層とを備え、
前記合剤層は負極活物質とラクトンとを含有し、
前記ラクトンはクマリンである、
リチウムイオン二次電池の負極板。
【請求項5】
前記負極活物質は黒鉛である、
請求項1~4のいずれかに記載の負極板。
【請求項6】
正極板と、請求項1~5のいずれかに記載の負極板と、電解液とを備える、
リチウムイオン二次電池。
【請求項7】
正極板と、請求項1~5のいずれかに記載の負極板と、電解液とを組み合わせて電池を作製し、ここで前記電解液は前記合剤層に含まれる前記ラクトンと同一のラクトンを含有せず、
前記電池に通電することでコンディショニングを行う、
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項8】
負極活物質としての80重量%超の炭素材料、バインダーと、ラクトンと、分散媒とを混合することでペーストを作製し、
前記ペーストを集電体上に塗布するとともに、前記分散媒を除去することで前記集電体上に前記炭素材料、前記バインダー及び前記ラクトンを含有する合剤を積層する、
負極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池の負極板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~4はラクトンの添加された電解液からなるリチウムイオン二次電池を開示している。特許文献5はγ-ブチロラクトンを含有する負極用バインダーを開示している。特許文献6はγ-ブチロラクトンを含有する負極を開示している。特許文献7はクマリン環を有する酸二無水物を含む負極を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-019274号公報
【特許文献2】特開2013-020702号公報
【特許文献3】特開2012-89457号公報
【特許文献4】特開2005-078799号公報
【特許文献5】特許6052529号公報
【特許文献6】特開2011-044310号公報
【特許文献7】国際公開第2014/119377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明によりリチウムイオン二次電池の負極板の拡散抵抗を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1] 集電体と前記集電体上に積層された合剤層とを備え、
前記合剤層は負極活物質として80重量%以上の炭素材料を含有し、
前記合剤層はさらに98.8重量部の炭素材料当たり0.2重量部以下のラクトンを含有する、
リチウムイオン二次電池の負極板。
[2] 前記合剤層は98.8重量部の炭素材料当たり0.005重量部以上のラクトンを含有する、
[1]に記載の負極板。
[3] 前記ラクトンは以下から選ばれる1以上の化合物である:
α-ラクトン、例えばα-アセトラクトン;
β-ラクトン、例えばβ-プロピオラクトン;
γ-ラクトン、例えばγ-ブチロラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン及びγ-オクタラクトン;
δ-ラクトン、例えばδ-バレロラクトン、クマリン及びグルコノラクトン;
シクロペンタデカノリド;並びに
シクロヘキサデカノリド、
[1]又は[2]に記載の負極板。
[4] 集電体と前記集電体上に積層された合剤層とを備え、
前記合剤層は負極活物質とラクトンとを含有し、
前記ラクトンはクマリンである、
リチウムイオン二次電池の負極板。
[5] 前記負極活物質は黒鉛である、
[1]~[4]のいずれかに記載の負極板。
[6] 正極板と、[1]~[5]のいずれかに記載の負極板と、電解液とを備える、
リチウムイオン二次電池。
[7] 正極板と、請求項1~5のいずれかに記載の負極板と、電解液とを組み合わせて電池を作製し、ここで前記電解液は前記合剤層に含まれる前記ラクトンと同一のラクトンを含有せず、
前記電池に通電することでコンディショニングを行う、
リチウムイオン二次電池の製造方法。
[8] 負極活物質としての80重量%超の炭素材料、バインダーと、ラクトンと、分散媒とを混合することでペーストを作製し、
前記ペーストを集電体上に塗布するとともに、前記分散媒を除去することで前記集電体上に前記炭素材料、前記バインダー及び前記ラクトンを含有する合剤を積層する、
負極板の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によりリチウムイオン二次電池の負極板の拡散抵抗が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
<負極板>
【0009】
図1はリチウムイオン二次電池の負極板10の断面を示す。負極板10は集電体11と合剤層12とを備える。集電体11は例えば銅箔からなる。合剤層12は集電体11上に積層されている。合剤層12は負極活物質の炭素粒子14とラクトンとを含有する。炭素粒子14は負極活物質として用いられる炭素材料、例えば合成黒鉛又は天然黒鉛からなる。
図1に示す合剤層12は80重量%以上の上記炭素粒子14を含有する。合剤層12全体の100重量%からは例えばリチウム塩に対する非水溶媒や水といった分散媒は除外する。炭素粒子14を覆う被膜15については後述する。
【0010】
図1に示す合剤層12は98.8重量部の炭素粒子14当たり0重量部より多く0.5重量部以下のラクトンを含有する。合剤層12は98.8重量部の炭素材料当たり好ましくは0.001~0.2重量部、さらに好ましくは0.002~0.2重量部の、さらに好ましくは0.005~0.2重量部の、さらに好ましくは0.01~0.2重量部の、さらに好ましくは0.05~0.2重量部のラクトンを含有する。合剤層12は98.8重量部の炭素材料当たり0.1重量部のラクトンを含有していてもよい。
【0011】
ラクトンは分子内の水酸基(-OH)とカルボキシ基(-COOH)が脱水縮合することで生成する環状エステルである。一態様においてラクトンは2個以上の炭素原子と1個の酸素原子とからなる複素環式化合物である。環を構成する酸素原子に隣接した炭素原子はカルボニル基(>C=O)を形成している。
【0012】
ラクトンはα-ラクトン、例えばα-アセトラクトン;β-ラクトン、例えばβ-プロピオラクトン;γ-ラクトン、例えばγ-ブチロラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン及びγ-オクタラクトン;δ-ラクトン、例えばδ-バレロラクトン、クマリン及びグルコノラクトン;シクロペンタデカノリド;並びにシクロヘキサデカノリドの少なくともいずれかである。ラクトンは好ましくは下記式に表されるクマリンである。
【0013】
【0014】
<負極板の作製>
【0015】
図2を用いて負極板の作製方法を説明する。
図2は負極板に用いる負極合剤ペーストの作製を模式的に表す。80重量%超の炭素粒子14と、バインダー17と、ラクトン粒子18と、分散媒19とを混合することでペーストを作製する。炭素粒子14と、バインダー17と、ラクトン粒子18とは、分散媒19中に分散する。ラクトン粒子18は分散媒19に溶けてもよい。一態様において分散媒19にはラクトンそれ自体は含まれない。一態様において水である。ラクトン粒子18は分散媒19に溶解してもよい。
【0016】
図2においてラクトン粒子18を構成するラクトンは常温、20℃±15℃において固体のラクトン、例えばクマリンである。ラクトン粒子18は常温、20℃±15℃において液体であるラクトン、例えばγ-ブチロラクトンに置き換えてもよい。
【0017】
図2に示すように作製したペーストを集電体、例えば銅箔上に塗布する。塗布されたペーストから分散媒を除去する。ラクトンが分散媒に溶けている場合は塗布されたペースト中にラクトンを残留させる。以上により
図1に示すように集電体11上に炭素粒子、バインダー及びラクトンを含有する合剤層12を積層する。
【0018】
ラクトンの添加によってラクトンのオキソ基(=O)が分解するとともに水酸基(-OH)に変化する。ラクトンの分解物と水との親和性が向上する。このため負極合剤ペースト中の
図2に示す炭素粒子14及びバインダー17が均一に分散する。したがってペーストが塗布されて形成された
図1に示す合剤層12の状態が良好となる。また炭素粒子14からリチウムイオンがよく拡散する。
【0019】
上述の炭素粒子及びバインダーが均一に分散する効果は負極合剤ペーストへのラクトンの添加によって生じる。これに対して負極合剤ペーストにラクトンを添加せず、特許文献1~4に記載のようにラクトンを電解液に添加した場合には、当該効果は得られない。またラクトンを電解液に添加した場合には、炭素粒子からリチウムイオンがよく拡散するようになる効果もあまり得られない。
【0020】
<電池の作製>
【0021】
正極板と、
図1に示す負極板10と、リチウム塩を含有する電解液とを組み合わせて電池を作製する。一態様において電解液は非水系である。一態様において電解液は
図1に示すペーストに含まれるラクトンを含有しない。電池を作製した後に負極板からラクトンが溶け出した結果、ラクトンが電解液に含まれるようになることはこれに含まれない。
【0022】
作製した電池に通電することでコンディショニングを行う。
図1に示す炭素粒子14の近傍においてラクトンがコンディショニング時に分解する。分解したラクトンは配位子として炭素粒子14表面の炭素原子に配位する。配位した分解物は炭素粒子表面に被膜15を形成する。被膜15は負極板10周辺におけるリチウムイオンの拡散抵抗を低減させる。
【実施例0023】
ラクトンとしてクマリンを選択した。表1の例1C1及びC2に示すように負極合剤の各成分を混合した。これらの例においては負極合剤にクマリンを混合しなかった。また例W1、W2、W3及びW4に示すようにクマリン及び負極合剤の各成分を混合した。各例において分散媒である水を除く合剤全体で100重量%とした。CMCはカルボキシメチルセルロースである。SBRはスチレン・ブタジエンゴムである。
【0024】
負極合剤を集電体に塗布して負極板を作製した。負極板と正極板と電解液を組み合わせて評価用セルを作製した。例C2の電解液には表1に記載の濃度(重量%)で電解液にクマリンを添加した。負極板のIV抵抗、拡散抵抗及び反応抵抗を従来の方法に従って測定した。IV抵抗はいわゆる内部抵抗であり、その成分として拡散抵抗及び反応抵抗を含んでいる。拡散抵抗は活物質粒子内でのリチウムイオンの移動抵抗である。反応抵抗は活物質と電解液との界面の電荷移動の抵抗である。結果を表1に示す。例C1のIV抵抗の測定値を100(%)として各抵抗の測定値を換算した。
【0025】
【0026】
図3は拡散抵抗の変化をポイントで表す。1ポイントは例C1のIV抵抗の測定値を100で割ったものである。例W1~W4と例C1との対比より、合剤層がラクトン、例えばクマリンを含有することで負極板の拡散抵抗が低減することが分かる。拡散抵抗低減の効果を得る上で、ラクトンの含有比率は98.8重量部の黒鉛当たり0.005~0.5重量部のいずれでもよい。例W2と例C2との対比より、同じ含有比率であれば電解液にラクトン、例えばクマリンを添加するよりも、負極合剤に添加する方が、負極板の拡散抵抗の低減に役立つことが分かる。
【0027】
図4はIV抵抗の変化をポイントで表す。例W1~W3と例C1との対比より、合剤層が98.8重量部の黒鉛当たり0.005~0.2重量部のラクトン、例えばクマリンを含有することで、負極板のIV抵抗もまた低減することが分かる。また例W2に示されるように98.8重量部の黒鉛当たり0.05重量部のラクトン、例えばクマリンを添加した時にその効果が最も強くなる。
【0028】
表1に基づきIV抵抗より詳細に検討する。合剤層がラクトンを含有することで、その含有量に応じて反応抵抗が増加する。これは負極板のIV抵抗が増加する方向に寄与する。しかしながら、合剤層が98.8重量部の黒鉛当たり0.005~0.2重量部のラクトンを含有する場合には拡散抵抗低減の寄与がこれを上回る。したがって、上記分量のラクトンの添加はIV抵抗の低減に役立つ。
10 負極板、 11 集電体、 12 合剤層、 14 炭素粒子、 15 被膜、 17 バインダー、 18 ラクトン粒子、 19 分散媒