(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078852
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】変形量測定シート体及びシート成形体の加飾方法並びに加飾成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/16 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
G01B11/16 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192159
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502048634
【氏名又は名称】アリス化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521517234
【氏名又は名称】株式会社モビテック
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(74)【代理人】
【識別番号】100224742
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】菅原 一也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 修明
(72)【発明者】
【氏名】南 和宏
(72)【発明者】
【氏名】松浦 慎一
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065AA65
2F065BB05
2F065BB28
2F065CC02
2F065DD03
2F065FF04
2F065JJ03
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065QQ31
(57)【要約】
【課題】加飾したシート状部材を立体形状に成形するに際し、変形量の大きな部分を有する立体形状であっても加飾内容を正確に補正することが可能な変形量測定シート体を提供するとともに、それを用いたシート成形体の加飾方法を提供すること。また、加飾内容の歪みが僅少な加飾成形体、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】シート状部材を所定の立体形状に延伸させたときの変形量を測定するために用いる変形量測定シート体100において、少なくとも一方の面には光学的特性のひとつである明度が異なる複数の薄色領域11・11…及び複数の濃色領域12・12…が設けられている構成とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状部材を所定の立体形状に延伸させたときの変形量を測定するために用いる変形量測定シート体において、
少なくとも一方の面には光学的特性の異なる複数の領域が設けられていることを特徴とする、変形量測定シート体。
【請求項2】
少なくとも一方の面には色相または彩度または明度の異なる複数の領域が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の変形量測定シート体。
【請求項3】
前記複数の領域が一の方向とそれに直交する方向とに二次元的に配置され、
各々の隣り合う領域の光学的特性が異なることを特徴とする、請求項1または2に記載の変形量測定シート体。
【請求項4】
前記複数の領域は矩形であり、
一の方向とそれに直交する方向とに格子状に配置されることを特徴とする、請求項3に記載の変形量測定シート体。
【請求項5】
所定の立体形状を有するとともに加飾内容の歪みが僅少である加飾状態を呈するシート成形体の加飾方法において、
請求項1から4の何れか1項に記載の変形量測定シート体を前記シート状部材と同形状に延伸させる事前変形工程と、
前記変形量測定シート体の変形後の面を、変形の状態が反映された加飾データとともに二次元の複数の変形領域に展開する二次元展開工程と、
前記複数の変形領域とそれらに当て込まれている加飾内容とが延伸前の変形量測定シート体の表面に設けられた各領域の形状となるように補正することで補正加飾データを得る補正工程とを備え、
立体的に延伸させるシート状部材を前記補正加飾データに基づいて加飾することを特徴とする、シート成形体の加飾方法。
【請求項6】
前記二次元展開工程は、変形後の変形量測定シート体をスキャンして三次元スキャンデータを得るためのスキャン工程と、
光学的特性の異なる前記複数の領域における境界線を三次元スキャンデータから算出して領域ごとに分割する分割工程と、
前記境界線を二次元に変換することで三次元スキャンデータにおける分割された領域を二次元の複数の変形領域に変換する変換工程とを備えることを特徴とする、請求項5に記載のシート成形体の加飾方法。
【請求項7】
前記スキャン工程は変形後の変形量測定シート体をスキャンして変形後の変形量測定シート体の形状データ及び表面の光学的特性を三次元スキャンデータとして得る工程であり、
前記分割工程は前記形状データと前記撮影された表面の光学的特性とに基づいて前記複数の領域における境界線を算出して領域ごとに分割する工程であることを特徴とする、請求項6に記載のシート成形体の加飾方法。
【請求項8】
前記スキャン工程の後の工程として歪みの僅少な加飾状態となるように前記三次元スキャンデータに疑似的に加飾内容を当て込む疑似加飾工程をさらに備え、
前記補正工程は前記変換工程によって得られた前記複数の変形領域を変形領域内の分割された疑似的な加飾部分とともに延伸前の変形量測定シート体の表面に設けられた各領域の形状となるように補正することで補正加飾データを得る工程であることを特徴とする、請求項6または7に記載のシート成形体の加飾方法。
【請求項9】
所定の立体形状を有するとともに加飾内容の歪みが僅少である加飾部を備える加飾成形体において、
前記加飾成形体の形状に変形された請求項1から4の何れか1項に記載の変形量測定シート体の形状と変形前の前記変形量測定シート体の形状との差異に基づいて補正された加飾面を有することを特徴とする、加飾成形体。
【請求項10】
所定の立体形状を有するとともに加飾内容の歪みが僅少である加飾部を備える加飾成形体の製造方法において、
請求項5から6の何れか1項に記載の補正加飾データを用いてシート状部材に裏面印刷する印刷工程と、
印刷されたシート状部材を立体的に成形する成形工程と、
前記成形工程後のシート状部材の印刷面にゲルコートを塗布する塗布工程とを備えることを特徴とする、加飾成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷・塗装・凹凸等(以下、「加飾内容」という)が施されたシート体を所定の立体形状に延伸させるときに発生する加飾内容の歪みを僅少にすることを目的として、加飾内容を予め補正するために用いる変形量測定シート体、及びそれを用いてシート成形体を加飾するシート成形体の加飾方法、並びに所定の立体形状を有するとともに加飾内容の歪みが僅少な加飾成形体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂や金属等の薄いシート体を立体形状にするための加工方法として、真空成形や圧空成形・プレス成形・深絞り加工等の加工技術が知られている。これらの加工技術は一枚のシート体から複雑な立体形状を得ることができるため、加工費用が低廉であるという特徴がある。
【0003】
特に近年では、立体形状となるように成形加工する前の平面状のシート体に予め印刷や塗装等の加飾を施し、それを所定の立体形状に成形する技術が知られている。立体形状に対して二次加工として加飾を行う場合には、立体的な表面を任意の角度から見た時に加飾の内容が歪むことなく見えるようにしなければならない。そのためには、熟練者による手作業や、高自由度のロボットアームを用いて立体形状に応じて加飾の内容を適宜変形させながら加飾する必要がある。それ故、加工費用や加工時間を要するという問題がある。
しかし、予め加飾したシート体を立体形状に成形する技術を採用することで、平面状のシート体への加飾は安価な従来技術を用いることができる。そのため、加工費用も低廉になり、加工時間も短縮することができるようになる。
【0004】
ところが、樹脂や金属等の延伸性のあるシート体を立体形状に加工する場合、シート体の表面は立体形状に応じて延伸する。しかも、延伸の程度はシート体全体において均一ではなく、長大に延伸する部分もあれば、ほとんど延伸しない部分も存在し得る。
シート体の表面が延伸すると、予め平面のシート体に対して施された加飾内容は立体形状に成形されることで変化してしまう。例えば、形状や模様は延伸することで変形する。また、色は延伸することで薄くなったり色相が変化したりする。そのため、予め加飾したシート体を立体形状に成形する方法では、立体形状に加工した状態において所望する加飾内容を呈することは極めて困難であるという問題があった。
【0005】
この点、従来においては、シート体を立体形状に成形した状態における延伸状態を測定し、その測定結果に基づいて加工前のシート体に施す加飾内容を予め補正しておくという技術が開発されている。延伸状態が正しく測定することができれば、立体形状に成形した状態において所望の加飾内容とすることができる。
【0006】
例えば特許文献1には、印刷を施したプラスチック製平面フィルムを半球状に三次元成形する場合において、フィルムに描いた格子イメージの変形後の各交点及び格子の対角線の交点の位置座標から補正値を導出し、その補正値に基づいて図形の点・線分等の描画データを補正する技術が開示されている。
【0007】
特許文献1の技術を概説すると、当該技術は
図15(a)のフローに従って実施される。フィルムには、縦方向と横方向に延びる多数の直線ラインで構成された格子イメージ(テストイメージ)が描かれている。フィルムを上方が凸となるように半球状に三次元成形すると、直線ラインが歪むことになる。
図15(b)は、変形前後のフィルムのテストイメージを重ね合わせた状態で表示している。
【0008】
第1イメージ入力工程及び第2イメージ入力工程では、変形前後のテストイメージをコンピュータに読み込む。次に、第1描画形状測定工程では、格子を構成する四角形の交点と、その四角形の頂点を通る2本の対角線の交点の座標値とを測定する。補正式導出工程では、測定した座標値を用いて所定の補正式によって座標ごとの係数を導出する。第3イメージ入力工程では、実際にフィルムに印刷すべきサンプルイメージを読み込み、読み込まれたサンプルイメージに描かれている形状は第2描画形状測定工程で測定され、特徴点とよばれる線分の始点・終点の座標値や曲率等のデータを得る。そして、描画データ作成工程では、テストイメージの格子の座標と前記特徴点とを一致させ、前記係数に基づいて各特徴点をどの程度補正させるかの補正値を算出し、補正した版下イメージを作成する。
【0009】
上記フローに従って得た版下イメージを出力(印刷)工程としてフィルムに印刷し、それを同じ三次元形状に成形すれば、歪みのない印刷状態が達成される
この技術であれば、如何なる三次元形状物に対しても、その正確な印刷用版下イメージを、サンプルイメージを基に容易に作成することができるので、トライアンドエラーを繰り返すことなく、量産化を早期に立ち上げることができるとされている。
【0010】
このようにあらかじめ印刷の内容を補正する技術は、特許文献1のように形状の補正に用いられるものだけでなく、色の補正を行う技術としても開示されている。
【0011】
例えば特許文献2には、グリッドを用いて形状を補正するとともにグリッドごとの面積変化率を求めておき、次いで形状補正された対象画像を再びグリッド上に配置したうえで各グリッドの重心を頂点とするメッシュを作成し、変形前後の色と面積変化率との対応関係に基づいて、メッシュの各頂点(グリッドの重心)に形成すべき変形前の色を定めることにより画像の色を補正する技術が開示されている。
この技術であれば、グリッドの範囲内に色補正点(メッシュの頂点)を配置するため、グリッドの格子点の厳密な位置に左右されることなく適切な位置で色補正することができる。この結果、変形が施される媒体に変形前に画像を形成する際に、より適切に色の補正を行なうことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002-264462号公報
【特許文献2】特開2012-161928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1の技術では、格子イメージの各交点及びその各交点から得られる対角線の交点の座標を用いて補正の係数を導出している。ここで、格子イメージを構成する線はある程度の幅を持っている。交点を測定する場合には、線の幅の中心線同士が交差する座標点を算出して間接的に交点を求めなければならないため、交点の座標の測定には線の幅の乱れや幅の境界線の認識に起因する誤差が生じ得る。特に、対角線の交点の座標においては、4つの交点の座標の誤差がそれぞれ影響を与えるため誤差が大きくなりやすい。
【0014】
しかも、三次元成形によってフィルムの表面は延伸する。例えば格子イメ―ジの線に直交する方向の延伸が大きい場合には、格子イメージの線の幅は太くなる。線が太くなると、線の色が薄くなって線そのものの認識が困難になり、交点の座標の測定誤差はさらに大きくなると考えられる。
また、フィルムの表面の延伸において、格子イメージの線に沿う方向への延伸が大きい場合には、格子イメージの線の幅は細くなる。線が細くなると、線そのものの認識が困難になり、交点の座標を得る事ができなくなる。この場合、欠落した座標は人の手で値を入力しなければならず、その値も正確なものではなくなってしまう。
【0015】
このように交点の座標が不正確になると、サンプルイメージの補正も不正確になり、三次元形状における印刷状態に歪みが生じてしまうという問題がある。特に、例えば成形する三次元形状が深いものであると全体的な延伸量が大きくなり、形状の変化が急激なものであるとフィルムに局所的に延伸量の大きな部分が生じることになるため、上記問題が顕著となりやすい。
【0016】
この問題は印刷する形状の補正の場合に限らず、色の補正を行う特許文献2の技術でも同様のことがいえる。特許文献2の技術においても、まず、グリッドの交点の変形前後の座標に基づいて形状の補正を行っている。そのとき得られた四角形の面積変化率を用いて、メッシュの頂点(グリッドの重心)の位置の色を定めている。したがって、形状補正における変形後のグリッドの交点を正確に測定できなければ、面積変化率も不正確となり、ひいては色の補正も不正確になる。
【0017】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加飾したシート状部材を立体形状に成形するに際し、変形量の大きな部分を有する立体形状であっても加飾内容を正確に補正することが可能な変形量測定シート体を提供するとともに、それを用いたシート成形体の加飾方法を提供することにある。また、加飾内容の歪みが僅少な加飾成形体、及びその製造方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を以下に説明する。
本発明の変形量測定シート体(以下、単に「シート体」という)は、シート状部材から加飾されたシート成形体を生産するに際して、前記シート状部材を立体形状に成形する際の変形状態を予め把握するための部材である。すなわち、本発明のシート体は、シート成形体と同様の立体形状に延伸させたときの変形量を予め測定して把握するために用いるものである。ここで、加飾とは印刷や塗装の他、レーザーマーキングやエンボス加工等シート体に何らかの装飾的な加工を施すことをいう。
【0019】
本発明のシート体は、少なくとも一方の面に光学的特性の異なる複数の領域を設けたことを基本構成としている。素材には樹脂や金属等のように延伸性を有するとともに、シート成形体と同じ形状に延伸させる場合にシート体の各部が同じように延伸するものを用いる。また、シート体の厚さは延伸させて立体形状に加工可能であれば特に問わない。
【0020】
前述のようにシート体の表面は複数の領域において光学的特性が異なるように構成されている。ここで、領域とは一定の面積を有する部分をいい、その領域の内外の光学的特性の相違に基づいて領域の境界線を識別するように用いるものをいう。したがって、領域それ自体を境界線あるいは点として用いるものは、一定の面積を有していると見ることができたとしても、ここでいう”領域”とは異なる。
また、光学的特性とは、色・透過率・反射率等、外部から定量的に測定可能な光に関する特性全般をいう。
【0021】
このように、シート体の表面に光学的特性の異なる複数の領域を設けることで、領域が一定の面積を有することにより、シート体を立体形状となるように延伸させたとしても光学的特性が大きく変化することはない。
例えば、領域ごとに色が異なるように構成した場合にあっては、幅の細い”線”や僅かな面積の”点”を延伸させる場合とは異なり、一定の面積を有する領域であることにより延伸による色の希薄化が軽減される。そのため、大きく延伸したとしても領域そのものが消失したり、領域内の色が希薄となって領域の境界線を認識できなくなったりすることがない。その他の光学的特性においても同様の作用がある。
【0022】
したがって、上記のような基本構成を備えた本発明のシート体を用いることにより、変形後の領域を正確に認識することができるため、変形量を精度良く算出することができる。その結果、領域ごとの変形量に基づいて成形による加飾内容の変形の具合を予測し、加飾内容を正確に補正することができる。例えば、立体形状に延伸させることによる形状の変形の程度や色の変色の程度を正確に予測することができる。
【0023】
本発明は、上記手段の他、以下の手段を採用することもできる。
例えば、上記構成のシート体において、少なくとも一方の面には色相または彩度または明度の異なる複数の領域が設けられる構成とすることもできる。
複数の領域ごとに異なる色相または彩度または明度とすることにより、シート体の変形量を測定する場合に用いる認識手段として一般的なカメラを用いることができる。そのため、加飾内容の補正を行うための設備に普及機器を採用したとしても、高画質で撮影することができ、安価な設備で高い認識精度を得ることができる。
【0024】
また、シート体の表面に設けられた前記複数の領域が一の方向とそれに直交する方向とに二次元的に配置され、各々の隣り合う領域の光学的特性が異なるように構成することも可能である。
一の方向とそれに直交する方向とに二次元的に配置することで、直交する各方向に対する変形量を測定することができる。そのため、加飾内容の補正において直交座標系を用いることができ、補正の計算が容易になる。
【0025】
特に、前記複数の領域を矩形とし、一の方向とそれに直交する方向とに格子状に配置されるようにすることで、前記複数の領域はいわゆる市松模様状となる。変形前の矩形の頂角は直角であるため、矩形領域のデータとして作成された加飾内容においては、データ全体を均等に分割することができる。そのため、加飾内容の領域ごとの補正精度のばらつきを低減することができる。
【0026】
ところで、上記のようなシート体を用いて加飾内容の歪みが僅少な加飾状態を呈するシート成形体を加飾する方法としては、以下のような手段を採用することができる。
その方法は、事前変形工程と、二次元展開工程と、補正工程とを備え、立体的に延伸させるシート状部材を前記補正工程によって得られた補正加飾データに基づいて加飾する方法である。
【0027】
前記事前変形工程は、前記シート体をシート成形体となるシート状部材と同形状に延伸させるための工程である。ここで、同形状に延伸とは、同一の大きさ・形状に延伸させる場合に限定されず、シート成形体となるシート状部材とは大きさの異なる相似形の形状に延伸させる場合も含む。
【0028】
前記二次元展開工程は、事前変形工程で変形させた変形量測定シート体における変形後の面を、変形の状態が反映された加飾データとともに二次元の複数の変形領域に展開する工程である。変形量測定シート体は全てが均等に延伸するわけではなく、形状によっては大きく延伸する部分もあればほとんど延伸しない部分もある。本工程では、変形した変形量測定シート体を所定の部分ごとに二次元の複数の変形領域に展開して、領域ごとに延伸の具合が反映された複数の変形領域を得る工程である。
【0029】
前記補正工程は、前記複数の変形領域とそれらに当て込まれている加飾データとを延伸前のシート体の表面に設けられた各領域の形状となるように補正することで補正加飾データを得る工程である。二次元に変換された変形領域は延伸前のシート体の領域の形状に対して歪んだ形状をしている。その歪みを加飾データとともに延伸前の整然とした領域の形状となるように補正する。これにより、補正加飾データを得ることができる。
【0030】
このようにして得られた補正加飾データに基づいてシート状部材に加飾を施し、シート体と同形状に延伸させてシート成形体とすれば、立体形状となった状態において加飾内容の歪みが僅少な加飾状態を呈するシート成形体とすることができる。
【0031】
前記二次元展開工程は、変形後の変形量測定シート体をスキャンして三次元スキャンデータを得るためのスキャン工程と、光学的特性の異なる前記複数の領域における境界線を三次元スキャンデータから算出して領域ごとに分割する分割工程と、前記境界線を二次元に変換することで三次元スキャンデータにおける分割された領域を二次元の複数の変形領域に変換する変換工程とすることもできる。
【0032】
前記スキャン工程は、変形後のシート体をスキャンして三次元スキャンデータを得るための工程である。シート体のスキャンにおいては少なくとも光学的特性が異なる境界線部分における点群データ(三次元の座標データ)やそこから生成されるSTL(Stereolithography)データ等、画像等の三次元スキャンデータを取得できるものであれば方式は限定されない。
【0033】
前記分割工程は、光学的特性の異なる前記複数の領域における境界線を三次元スキャンデータから算出し、領域ごとに分割する工程である。分割された境界線は三次元のデータであり、ベクトルデータの他、数式や座標データとすることも可能である。
【0034】
前記変換工程は、前記境界線を二次元に変換することで三次元スキャンデータにおける分割された領域を二次元の複数の変形領域に変換する工程である。分割工程で算出された三次元のデータを二次元の変形領域に変換する場合には、領域ごとに三次元の曲面を二次元の平面に展開する公知の方法を採用することができる。
加飾データをこの変換工程の前に三次元スキャンデータ上に配置する場合には、領域の変換とともに加飾データも領域ごとに二次元に変換される。また、加飾データを変換工程の後に二次元の変形領域上に配置するようにすることも可能である。
【0035】
上記シート成形体の加飾方法においては、スキャン工程を、変形後の変形量測定シート体をスキャンして変形後の変形量測定シート体の形状データ及び表面の光学的特性を三次元スキャンデータとして得る工程とすることもできる。この場合、変形後のシート体全体の形状データと表面全体の光学的特性を撮影したデータとをスキャン工程で一旦取り込み、前記分割工程では、前記形状データと前記撮影された表面の光学的特性とに基づいて前記複数の領域における境界線を算出して領域ごとに分割する。
【0036】
このようにすることで、領域の境界線部分のみならず、領域内の変形具合や光学的特性の変化の具合を三次元画像から把握することができる。その結果、領域内で局所的な変形が生じていた場合に、より細分化した領域に分割し直す判断をすることができる。
【0037】
また、上記シート成形体の加飾方法においては、前記スキャン工程の後の工程として歪みの僅少な加飾状態となるように前記三次元スキャンデータに疑似的に加飾内容を当て込む疑似加飾工程をさらに備えることも可能である。この場合、前記補正工程は前記変換工程によって得られた前記複数の変形領域を変形領域内の分割された疑似的な加飾部分とともに延伸前の変形量測定シート体の表面に設けられた各領域の形状となるように補正することで補正加飾データを得る工程とする。
【0038】
このように、加飾データをスキャン工程の後の工程として三次元スキャンデータ上に配置して歪みの僅少な加飾状態となるように疑似的に加飾内容を適用することにより、最終的なシート成形体においてどのような加飾状態となるかを事前に確認することができる。また、加飾内容を微修正しながら所望の加飾状態となるように調整することができるため、トライアンドエラーの回数を低減することができる。
【0039】
上記のような変形量測定シート体を用いれば、変形前後の形状の差異に基づいて補正された加飾面を有する加飾成形体を得ることができる。前記加飾性成形体は、加飾内容の歪みが僅少である加飾部を備える。ここで、加飾成形体は加飾されたシート成形体単体からなるものに限定されず、シート成形体に別の部材や処理等が加わった複合成形体であっても本発明の加飾成形体に含まれる。
【0040】
このような加飾成形体は、特に、補正加飾データを用いてシート状部材に裏面印刷する印刷工程と、印刷されたシート状部材を立体的に成形する成形工程と、前記成形工程後のシート状部材の印刷面にゲルコートを塗布する塗布工程とを備える方法で製造することができる。
加飾として印刷を採用し、シート状部材の裏面に印刷することで、加飾成形体とした際に表面に印刷面が露出せず、摩耗により印刷内容が消失する恐れがない。また、シート状部材の印刷面にゲルコートを重ねて塗布することで、加飾成形体としての強度を向上させることができる。その他、ゲルコートの硬度を調整することで、衝撃吸収性等の機能性を発揮させることも可能である。
【発明の効果】
【0041】
本発明のシート体では、少なくとも一方の面に光学的特性の異なる複数の領域を設けた構成としたことにより、シート体を立体形状となるように延伸させたとしても光学的特性が大きく変化することがない。そのため、変形後の領域を正確に認識することができ、変形量を精度良く算出することができる。
このようなシート体及びそれを用いたシート成形体の加飾方法によれば、変形量の大きな部分を有する立体形状であっても領域ごとの変形量に基づいて成形による加飾内容の変形の具合を予測し加飾内容を正確に補正することができ、加飾内容の歪みを僅少にするために試作を繰り返したり補正を熟練者の経験に頼ったりする必要がないという効果がある。
【0042】
また、本発明のシート体に基づいて補正された加飾面を有するように構成することで、加飾内容の歪みが僅少な加飾成形体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の変形量測定シート体を表す正面図である。
【
図2】本発明の所望する加飾状態のシート成形体を表す斜視図である。
【
図3】本発明のシート成形体に加飾する加飾内容を表す図である。
【
図4】本発明の変形量測定シート体を用いたシート成形体の加飾方法を表すフローチャートである。
【
図5】本発明のシート成形体の加飾方法における事前変形工程及びスキャン工程を表す説明図である。
【
図6】本発明のシート成形体の加飾方法における擬似加飾工程及び分割工程を表す説明図である。
【
図7】本発明のシート成形体の加飾方法における変換工程及び補正工程を表す説明図である。
【
図8】本発明の加飾成形体を表す斜視図及び部分断面図である。
【
図9】本発明の変形例1の変形量測定シート体を表す正面図である。
【
図10】本発明の変形例1の加飾されたシート成形体を表す斜視図である。
【
図11】本発明の変形例1の変形量測定シート体を用いたシート成形体の加飾方法を表すフローチャートである。
【
図12】本発明の変形例1のシート成形体の加飾方法における変換工程及び補正工程を表す説明図である。
【
図13】本発明の変形例2の加飾成形体を表す斜視図及び部分断面図である。
【
図14】変形量測定シート体の他の変形例を表す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明を実施するための形態について、
図1から
図8に基づいて以下に説明する。
なお、
図1における左右方向をx方向、上下方向をy方向とする。また、変形後の加飾内容や領域の形状は説明のために模式的に表現したものである。
【0045】
本発明の変形量測定シート体100(以下、同様に「シート体」という)は、
図1に示すように長方形のシート状部材1からなり、その一方の面には明度の高い正方形の薄色領域11・11…と明度の低い正方形の濃色領域12・12…とがx方向及びy方向それぞれについて交互に直交して配置されるように複数設けられている。
前記シート状部材1は、x方向及びy方向の二軸延伸可能な素材からなり、例えばアクリル(PMMA)・ポリエチレンテレフタレート(PET)・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料の他、アルミニウム合金・チタン合金・ステンレス鋼等の金属材料等を用いることもできる。ただし、シート体100に用いるシート状部材1は、
図2に示す実際に加飾するシート成形体200に用いられるシート状部材210と同じ素材か、または素材が異なる場合であってもシート状部材1・210の対応する各部が同じように延伸するものを選択する必要がある。
図1の実施形態においては、4.5mm厚の白色のアクリル板を用いている。
【0046】
シート状部材1の表面に設けられた明度の異なる複数の領域は、例えば印刷により形成することができる。前記薄色領域11・11…は例えば白色や薄い灰色とすることができ、前記濃色領域12・12…は例えば黒色や濃い灰色とすることができる。このとき、濃色領域12・12…は薄色領域11・11…との明度差が大きい方が望ましい。また、表面の反射率が低いマットなインクを用いるのがハイライトの影響を受けにくいため望ましい。
図1の実施形態においては、薄色領域11・11…には印刷を施さずに素材色である白色のままとし、濃色領域12・12…を灰色で印刷することで、いわゆる市松模様を呈している。
【0047】
一方、
図2には所望の加飾状態を呈したシート成形体200が示されている。このシート成形体200は浴槽の表面層を構成する成形体であり、シート状部材210に熱を加えながら真空成形により立体形状である浴槽の形状に成形することで製造される。立体形状に成形する方法としては真空成形の他、圧空成形やプレス成形等公知の成形法を用いることもできる。
成形体200の窪みの内側や縁となる平面部には印刷による加飾部を有する。印刷の内容には円あるいは多角形等の図形部21・21…や、特定の面積に模様をあしらった模様部22等が含まれている。このような加飾部を有するシート成形体200とするためには、
図3に示すような加飾内容の印刷データを用いて変形前のシート状部材210に印刷を施し、浴槽の形状に真空成形する。
【0048】
ところが、立体形状としての浴槽は深く成形される。特に側面部は大きく延伸するため、4.5mmの厚さを有するシート状部材210は最も薄いところで0.5mm程度まで薄くなる。そのため、特に側面部に配置される図形部21・21…においては形状の変形が著しくなってしまう。
そこで、前述の本発明のシート体100を用いて成形による変形を予め予想し、変形後においては加飾内容の歪みが僅少な加飾部となるように加飾内容を補正するようにする。その加飾方法の工程を
図4のフローチャートに示す。以下、シート成形体200の加飾方法について説明する。ここで、
図4に示す各工程名のアルファベットと
図5から
図7に示すアルファベットとは一致させてある。
【0049】
まず、(A)事前成形工程では、
図1に示したシート体100を用いてシート成形体200と同形状となるように真空成形する。
図5(A)に示す図は、説明のためにシート成形体100である浴槽の底面を上向きにして配置している。真空成形によってシート状部材1は大きく延伸するため、薄色領域11・11…と濃色領域12・12…とからなる市松模様は大きく歪む。特に平面部の薄色領域11(1)・濃色領域12(1)に対して、側面部の薄色領域11(2)・濃色領域12(2)は正方形が大きく引き伸ばされて歪曲する。
【0050】
ここで、シート体100において、幅の細い”線”によりグリッドが印刷されたものや、僅かな面積の”点”を整列させて印刷されたものを用いる場合には、浴槽のような変形量の大きな立体形状では、線や点が大きく引き伸ばされて色が薄くなったり線が認識不能なまでに細くなったりする場合がある。
しかし、本発明のシート体100は、所定の面積を有する領域ごとに明度の異なる色が印刷されているため、変形量の大きな浴槽のような立体形状であっても、領域そのものが細くなって消失することはなく、単なる線や点と比較して色の希薄化も軽減される。
【0051】
次に、(B)スキャン工程では、(A)事前成形工程で成形したシート体100を、三次元スキャナSを用いてスキャンする。スキャンにおいては、成形したシート体100を回転テーブルに載置したうえで、パターン投影カメラを用いて全周スキャンする方法を採用することができる。なお、回転テーブルは必ずしも用いる必要はなく、カメラがシート体100の周りをまわるようにしてもよい。
この(B)スキャン工程においては、シート体100の立体形状の点群データと合わせて、シート体100表面の画像データを撮影してコンピュータ上に取り込む。そして、
図5(B)に示すように、専用ソフトウェアで点群データから三角形のポリゴン31・31…で面を張ったSTLデータを生成する。これらSTLデータと変形した市松模様を撮影した画像データの画像32を合成して三次元スキャンデータ3としてディスプレイに表示する。
【0052】
次に、(C)擬似加飾工程では、ディスプレイに表示された三次元スキャンデータ3に対して、
図6(C)に示すように、専用ソフトウェアを用いて三次元スキャンデータ3の表面に擬似的に歪みの無い状態で加飾内容の当て込みを行う。この作業は、例えば三次元スキャンデータ3に加飾内容をテクスチャとしてUVマッピングした状態で表示し、歪んだ部分を三次元空間でレタッチする方法や三次元データと連動した二次元テクスチャをレタッチする等の方法で微調整する機能を有するソフトウェアによって行うことができる。なお、三次元スキャンデータ3の表面に歪みの無い状態で擬似的に加飾ができるものであれば、その他の手法であってもよい。
【0053】
次に、(D)分割工程では、
図6(D)に示すように、歪みの無い状態で擬似的に加飾された三次元スキャンデータ3を分割領域33・33…ごとに分割する。分割の手順としては、例えば、三次元スキャンデータ3に含まれる画像32から薄色領域11と濃色領域12との境界線34を画像解析によってグレースケールとして認識し、境界線34・34…の三次元曲線を得る。そして、各境界線34・34…で囲まれた分割領域33を三次元スキャンデータ上に記録するとともに、分割領域33内に含まれる加飾内容の情報を記録する。これを分割領域33・33…の全てについて行う。三次元曲線の曲線関数には例えば近似曲線としてベジェ曲線やNURBS(非一様有理Bスプライン)を用いることができる。
前述のように、認識の対象が所定の面積を有する領域であることから、大きく引き伸ばされたとしても領域そのものが細くなって消失したり、認識不可能なまでに色が希薄化したりすることはないため、(D)分割工程における薄色領域11と濃色領域12との境界線34の認識が容易となる。
【0054】
そして、(E)変換工程では、分割領域33・33…のそれぞれについて、三次元曲線関数を二次元曲線関数に変換して、変形領域41・41…を得る。このとき、分割領域33内に含まれる加飾内容の情報も二次元画像として変換される。この変換においては、三次元曲線関数を二次元曲線関数に展開するための公知の手法を採用することができる。例えば分割領域33ごとに基準点を定義し、その基準点から分割領域33を構成する4つの境界線34・34…あるいは分割領域33内を更に細分化した線ごとのベクトルを求めて曲率を算出し、それを二次元にプロットする方法等を採用することができる。
変換された二次元変換データ4は
図7(E)に示すように、それぞれ形状の異なる変形領域41・41…となっている。
【0055】
これを、(F)補正工程により正方形の補正領域42・42…に補正する。この補正においては、例えば変形領域41・41…の境界曲線を直交する直線に投影変換して矩形とするとともに投影距離の比率に応じて変形領域41・41…内の画像も伸縮させ、次いで矩形の各辺の長さが正方形となるように比率に応じて変形領域41・41…を伸縮させる方法等を採用することができる。これにより、
図7(F)に示すような補正加飾データ5を得ることができる。
補正加飾データ5の全体の大きさは、シート体100の大きさとなるように調整する。その際、(A)事前変形工程前のシート体100の表面を予め3Dスキャナでスキャンし、そのデータ上の薄色領域11及び濃色領域12からなる格子全体の大きさに合うように調整することができる。
【0056】
上記補正加飾データ5は、実際の変形の程度を見込んで、分割された領域ごとにあらかじめ歪ませてある。これにより、上記工程により得られた補正加飾データ5を用いてシート体100と同様の4.5mm厚のアクリル板からなるシート状部材210に印刷を施し、浴槽の立体形状に真空成形すれば、歪みが僅少な加飾状態を呈するシート成形体200とすることができる。このとき、補正加飾データ5とシート状部材210との位置合わせについては、一例として、変形量の少ない平面部の直線部や角部を位置出しとして用いることができる。
【0057】
このシート成形体200を利用した加飾成形体300として、
図8に示す浴槽が挙げられる。この浴槽である加飾成形体300は、シート成形体200とゲルコート層320とからなる。シート成形体200においては、その印刷面310はシート状部材210の裏面となるように印刷がされている。その印刷面310に積層するように硬質のゲルコートが塗布され、ゲルコート層320を形成している。
このような構成とすることにより、加飾内容の歪みが僅少である加飾部を備える加飾成形体300とすることができる。
【0058】
以上、本発明のシート体100によれば、シート成形体200の加飾方法において、三次元スキャンデータ3における境界線34を正確に認識することができる。そのため、浴槽のような変形量の大きな部分を有する立体形状であっても、加飾内容を正確に補正することができ、加飾内容の歪みを僅少にするために試作を繰り返したり補正を熟練者の経験に頼ったりする必要がない。
【0059】
『変形例1』
次に、本発明の変形例について、
図9から
図12に基づいて説明する。なお、以降の説明において、前述の実施の形態と同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0060】
本変形例のシート体101は、
図9に示すように正方形のステンレス鋼製のシート状部材1からなり、その中心から同心円状の複数の円と放射状の直線とにより複数の領域が設けられている。これら円と直線とは印刷によって描かれるものではなく、光が鏡面反射する鏡面反射領域13・13…と光が拡散反射する拡散反射領域14・14…とが円周方向及び半径方向に交互に配置されることで設けられている。
【0061】
シート状部材1の表面に設けられた鏡面反射性あるいは拡散反射性を有する複数の領域は、例えば表面が研磨されたステンレス鋼製の薄板素材に対して、鏡面反射領域13・13…となる部分にマスキングを施したうえで拡散反射領域14・14…となる部分にのみサンドブラスト処理やエッチング処理を行うことにより形成することができる。
【0062】
一方、
図10には所望の加飾状態を呈したシート成形体201が示されている。このシート成形体201は金属製の手洗いボウルを構成する成形体であり、シート状部材210をプレス成形により立体形状である洗いボウルの形状に成形することで製造される。この手洗いボウルは略半球状の容器であり、中心軸に対して軸対称の形状となっている。軸対称の形状に成形する方法としてはプレス成形の他、深絞り成形等公知の成形法を用いる事もできる。
シート成形体201の窪みの内側には表面処理及び印刷による加飾部を有する。表面処理の内容にはアルファベット等の文字部23・23…が含まれ、印刷の内容には写真をインクジェット印刷した写真部24等が含まれている。このような加飾内容とするためのマスキング用のデータや印刷データの説明は
図3と同様であるため省略する。
【0063】
前述のシート体101を用いたシート成形体201の加飾方法の工程を
図11のフローチャートに示す。以下、シート成形体201の加飾方法について説明する。
シート成形体201の加飾方法の工程においては、
図4に示すフローチャートに対して(C)擬似加飾工程を省略している代わりに、加飾データを(E)変換工程の後に変形領域上に配置する点が異なっている。
【0064】
まず、(A)事前成形工程では、
図9に示したシート体101を用いてシート成形体201と同形状となるようにプレス成形する。このとき、シート体101の中心と立体形状の中心とが一致するように成形する。次に、(B)スキャン工程では、(A)事前成形工程で成形したシート体101を、三次元スキャナSを用いてスキャンする。この(B)スキャン工程においては、シート体101の立体形状の点群データのみを撮影してコンピュータ上に取り込む。そして、専用ソフトウェアで点群データからSTLデータを生成する。これらSTLデータを三次元スキャンデータ3としてディスプレイに表示する。
【0065】
次に、(D)分割工程では、三次元スキャンデータ3を分割領域33・33…(図示せず)ごとに分割する。このとき、
図9のシート体101は
図1のシート体100同様、認識の対象が所定の面積を有する領域であることから、大きく引き伸ばされたとしても領域そのものが細くなって消失したり、認識不可能なまでに色が希薄化したりすることはない。そのため、(D)分割工程における鏡面反射領域13と拡散反射領域14の境界線34の認識が容易となる。
【0066】
次の(E)変換工程については、
図12を用いて詳述する。(E)変換工程では、三次元の領域である分割領域33・33…(図示せず)のそれぞれについて、三次元曲線関数を二次元曲線関数に変換し、
図12(E)に示すような変形領域41・41…を得る。シート成形体201は軸対称の形状であるため、変換された二次元変換データ4においても中心を基準に上下左右が対象の変形領域41・41…が生成される。
【0067】
このような変形領域41・41…を有する二次元変換データ4について、コンピュータ上で所定の位置に所定の加飾内容を配置する。これを、(F)補正工程により均等な間隔の同心円からなる補正領域42・42…に補正する。これにより、
図12(F)に示すような補正加飾データ5を得ることができる。
【0068】
以上のように、シート成形体201が軸対称の立体形状である場合には、中心位置を基準として同一の変形領域41・41…の集合体が軸対称に現出するため、加飾内容を3次元スキャンデータ上に配置するのではなく、二次元変換データ4に対して配置することもできる。これにより、コンピュータ上で行う作業工程を簡略化することができる。
なお、シート成形体201とするうえでシート状部材210に補正加飾データ5を用いて印刷する場合の、補正加飾データ5とシート状部材210との位置合わせについては、一例として、変形量の少ない平面部の直線部や角部を位置出しとして用いることができる。
【0069】
『変形例2』
次に、本発明の別の変形例について
図13に基づいて説明する。本変形例は
図1に示すシート体100を用いたシート成形体からなる加飾成形体の他の素材を用いた変形例のひとつであり、自動車のドアパネルである。
【0070】
本変形例の加飾成形体301は高張力鋼やアルミニウム合金からなり、加飾部としてドアパネル表面に印刷が施されている。一般的に自動車のドアに対する加飾は、塗装・デカール・ラッピング等が挙げられる。しかし、塗装はマスキングに技術を要するうえ、写真等の複雑な加飾をすることは困難である。一方、デカールやラッピングであれば写真等複雑な加飾が可能であるが、しわにならないように貼り付ける作業に技術を要するうえ、凹凸等の変形部があると加飾内容が歪んでしまう。
【0071】
そこで、本変形例では、
図1のようなシート体100を用いて本発明のシート成形体の加飾方法によって印刷することで、シート成形体202を製造する。あらかじめ高張力鋼やアルミニウム合金の平板上に補正した内容の印刷を施すことで、プレス成形によってドアパネルの立体形状に成形した際、歪みの僅少な印刷面310を有するシート成形体202とすることができる。なお、プレス成形時に印刷面310となる部分に保護シートを貼り付けて成形することで、印刷面に傷が生じるのを防止することができる。
【0072】
そして、シート成形体202の印刷面310上に塗装等で透明なハードコート層330を形成して、加飾成形体301とする。これにより、複雑な凹凸等のあるデザインのドアパネルであっても、歪みの僅少な加飾部を有する加飾成形体301とすることができる。
【0073】
『シート体の他の変形例』
本発明は以上の実施形態に限られず、シート体の他の変形例として、
図14に示すようなものを採用することもできる。
例えば
図14(a)に示すシート体102は、長方形の透明のシート状部材1からなり、その一方の面には光を透過する三角形の透過領域15・15…と光を透過しない三角形の非透過領域16・16…とがx方向及びy方向それぞれについて交互に直交して配置されるように複数設けられている。非透過領域16は、反射性の印刷であってもよいし、特定の色彩を有する印刷であってもよい。
【0074】
また、
図14(b)に示すシート体103は、
図1のシート体100と同様であるが、薄色領域11・11…及び濃色領域12・12…を構成するx方向とy方向の直線は、外周部に近いほどその間隔が狭くなるように構成されている。このようなパターンとすることで、変形の大きな外周部近傍において単位面積当たりの領域が多くなるため、より精度良く変形量を測定することができる。
【0075】
さらに、
図14(c)に示すシート体104は、領域を構成する直線がx方向とy方向にたいして傾斜して配置されることで、正方形の領域が斜め方向に直交して配置される構成となっている。このようなパターンとすることで、斜め方向への変形が著しい立体形状においては、変形の大きな方向を直交座標とした座標系を用いることもできる。
【0076】
上記例示した他にも、図示しないが、領域の整列の向きが左半分はx方向及びy方向に直交するように配置され、右半分は斜め方向に直交するように配置されるようにすることも可能である。
また、領域の光学的特性は、可視光における特性だけでなく、赤外線や紫外線等の別の波長の光に対して反射率や色相等が異なるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
100,101,102,103,104 変形量測定シート体
1 シート状部材
11 薄色領域
12 濃色領域
13 鏡面反射領域
14 拡散反射領域
15 透過領域
16 非透過領域
2 加飾内容
21 図形部
22 模様部
23 文字部
24 写真部
3 三次元スキャンデータ
31 ポリゴン
32 画像
33 分割領域
34 境界線
4 二次元変換データ
41 変形領域
42 補正領域
5 補正加飾データ
200,201,202 シート成形体
210,211 シート状部材
300,301 加飾成形体
310 印刷面
320 ゲルコート層
330 ハードコート層
S 三次元スキャナ