(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078856
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】ロータリーエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 55/02 20060101AFI20230531BHJP
F02B 53/12 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
F02B55/02 D
F02B53/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192163
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 博貴
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】小刀禰 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 亨
(72)【発明者】
【氏名】野本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】節家 淳
(72)【発明者】
【氏名】養祖 隆
(72)【発明者】
【氏名】菊地 拓哉
(57)【要約】
【課題】ロータリーエンジンの燃費を改善する。
【解決手段】ロータ2の外周面2aのリセス7は、外周面2aの長手方向の中央よりロータ回転方向の前側に延びるL側凹部7aと、L側凹部7aに連続し当該中央よりロータ回転方向の手前側に延びるT側凹部7bとを備え、ロータ2の外周面2aの長手方向に直交し且つロータ2の中心を通る平面でリセス7を横断したときのリセス7の断面積は、外周面2aの長手方向の中央部分7cにおいて最も大きく、且つL側凹部7aの長さがT側凹部7bの長さよりも長い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略楕円形状のトロコイド内周面を有するロータハウジングと、該ロータハウジングの両側に配置されて、該ロータハウジングと共にロータ収容室を形成するサイドハウジングと、上記ロータ収容室内に収容されて、該ロータ収容室内に3つの作動室を区画するとともに、回転によって各作動室を周方向に移動させながら、各作動室において吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を順に行なわせる略三角形状のロータと、上記ロータハウジングに設けられた点火プラグと、該点火プラグの作動を制御する制御部とを備え、上記ロータの上記作動室を区画する各外周面にリセスがそれぞれ形成されたロータリーエンジンであって、
上記ロータの外周面のリセスは、該外周面の長手方向の中央より上記ロータの回転方向の前側に延びるリーディング側凹部と、該凹部に連続し当該中央より上記ロータ回転方向の手前側に延びるトレーリング側凹部とを備え、
上記ロータの外周面の長手方向に直交し且つ上記ロータの中心を通る平面で上記リセスを横断したときの該リセスの断面積は、上記外周面の長手方向の中央部分において最も大きく、且つ上記リーディング側凹部の長さが上記トレーリング側凹部の長さよりも長くなっており、
上記制御部は、点火時期が、上記点火プラグがL側凹部に臨む、圧縮行程上死点よりも進角した時期になるように上記点火プラグの作動を制御することを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項2】
請求項1において、
上記リーディング側凹部は、上記断面積が上記中央部分から上記ロータ回転方向の前側に行くに従って該中央部分の断面積の1/3以上1/2の大きさまで漸次減少し、この大きさで上記ロータ回転方向の前方に向かって該リーディング側凹部の全長の少なくとも6/10の長さまで延びていることを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記トレーリング側凹部は、その底面が上記外周面の長手方向の中央部分から上記ロータ回転方向の手前側の端に至るまで該凹部の深さが漸次浅くなるようになだらかに傾斜して、上記断面積が上記中央部分から上記ロータ回転方向の手前側の端に至るまで漸次連続的に小さくなっていることを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記トレーリング側凹部の長さが上記リーディング側凹部の長さの2/10以上5/10以下であることを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記リーディング側凹部の長さが上記外周面の長手方向の中央から該外周面の上記ロータ回転方向の前側の端までの長さの7/10以上9/10以下であることを特徴とするロータリーエンジン。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記点火プラグは上記ロータハウジングの短軸位置よりも上記ロータ回転方向の前側において上記作動室の混合気に点火するように設けられ、
上記制御部は、上記点火プラグを上記リーディング側凹部に臨む圧縮行程上死点より55゜以下の範囲で進角した時期に点火するように制御することを特徴とするロータリーエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロータリーエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリーエンジンは、トロコイド内周面を有するロータハウジングとロータの間に燃焼室が形成される。ロータの外周面には燃焼室を形成するリセス(凹み)が形成されている。このロータのリセスに関し、特許文献1には、上記外周面の長手方向の中央からロータ回転方向の前側に延びるリーディング側凹部の容積をロータ回転方向の手前側に延びるトレーリング側凹部の容積よりも大きくすることが記載されている。リーディング側凹部の容積を大きくすることによって火炎の成長を促進し、アドバンス点火及び着火遅れ期間の短縮を可能にして、燃焼重心のアドバンス化による熱効率の改善を図る趣旨である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、火炎の成長促進は混合気の燃焼が速くなって熱発生が急になる結果を招く。そのため、燃焼音やガス漏れが懸念され、さらに、冷却損失が大きくなって燃費の向上に不利になる。これを本発明は解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の解決のために、圧縮行程上死点付近においてトレーリング側からリーディング側の火炎に向かう未燃混合気の流速を抑えるようにした。
【0006】
ここに開示するロータリーエンジンは、略楕円形状のトロコイド内周面を有するロータハウジングと、該ロータハウジングの両側に配置されて、該ロータハウジングと共にロータ収容室を形成するサイドハウジングと、上記ロータ収容室内に収容されて、該ロータ収容室内に3つの作動室を区画するとともに、回転によって各作動室を周方向に移動させながら、各作動室において吸気、圧縮、膨張及び排気の各行程を順に行なわせる略三角形状のロータと、上記ロータハウジングに設けられた点火プラグと、該点火プラグの作動を制御する制御部とを備え、上記ロータの上記作動室を区画する各外周面にリセスがそれぞれ形成されており、
上記ロータの外周面のリセスは、該外周面の長手方向の中央より上記ロータの回転方向の前側に延びるリーディング側凹部(以下、「L側凹部」という。)と、該L側凹部に連続し当該中央より上記ロータ回転方向の手前側に延びるトレーリング側凹部(以下、T側凹部」という。)とを備え、
上記ロータの外周面の長手方向に直交し且つ上記ロータの中心を通る平面で上記リセスを横断したときの該リセスの断面積は、上記外周面の長手方向の中央部分において最も大きく、且つL側凹部の長さがT側凹部の長さよりも長くなっており、
上記制御部は、点火時期が、上記点火プラグがL側凹部に臨む、圧縮行程上死点(以下、「TDC」という。)よりも進角した時期になるように上記点火プラグの作動を制御することを特徴とする。
【0007】
これによれば、TDCよりも前にL側凹部に臨む点火プラグによって混合気に点火され、火炎が主としてL側に伝播していく。その火炎に対して、ロータ回転方向の手前側(以下、「T側」という。)から混合気が供給されて火炎が成長していく。ロータが回転しているから、TDCに近づくに従ってロータの外周面の中央部分とロータハウジングの隙間が狭くなってくる。
【0008】
これに対して、上記ロータリエンジンでは、ロータの外周面のリセスの断面積は外周面の中央部分において最も大きい。従って、TDC頃に、ロータハウジングの短軸位置よりもロータ回転方向の前側(以下、「L側」という。)で成長する火炎に対するT側からの混合気の供給速度が大きくなること、すなわち、T側からL側への混合気の流動が強くなることが避けられる。よって、点火後の主燃焼の燃焼速度が大きくならず、言わば、燃焼が緩慢になって、熱発生が急になることが避けられる。このため、冷却損失が大きくならず、燃費の向上に有利であり、燃焼音の低減やガス漏れ防止の面でも有利になる。
【0009】
また、ロータの外周面のリセスの断面積がその外周面の長手方向の中央部分において最も大きいということは、この中央部分よりもさらにL側の凹部の容積が相対的に小さいということである。換言すれば、ロータの外周面の中央部分の断面積を大きくする代わりにL側の凹部の容積を小さくしたということである。従って、燃焼を緩慢にしながらもエンジンの圧縮比を維持して熱効率を確保することができる。また、点火プラグよりもL側の容積を小さくすることにも繋がるから、点火後の火炎の急激な成長を抑える上で有利に働く。
【0010】
また、ロータの外周面の長手方向中央からのL側凹部の長さがT側凹部の長さよりも長いということは、点火プラグをL側凹部に臨ませた状態で点火することができるロータの回転角度の範囲が広いということである。従って、EGR(排気ガスの再循環)に伴う点火時期の進角化が容易になる。
【0011】
一実施形態では、L側凹部は、上記断面積が上記中央部分から上記ロータ回転方向の前側(以下、「L側」という。)に行くに従って該中央部分の断面積の1/3以上1/2の大きさまで漸次減少し、この大きさでL側に向かって該L側凹部の全長の少なくとも6/10の長さまで延びている。従って、点火後の火炎の急激な成長を抑えることができる。
【0012】
一実施形態では、T側凹部は、その底面が上記外周面の長手方向の中央部分からT側の端に至るまで該凹部の深さが漸次浅くなるようになだらかに傾斜して、上記断面積が上記中央部分からT側の端に至るまで漸次連続的に小さくなっている。
【0013】
従って、TDC後において、ロータハウジングの短軸位置よりT側から火炎が存するL側への混合気の流動が上記傾斜したT側凹部を通して円滑に進む。よって、未燃混合気の供給をスムースに進めることで、いわゆる二段燃焼の発生または規模を抑制にも繋がるため、排気損失の低減に有利に働き、ひいては冷却損失を抑制することができる。
【0014】
一実施形態では、T側凹部の長さがL側凹部の長さの2/10以上5/10以下である。これにより、二段燃焼及び燃焼音を抑えつつ点火時期を大きく進角させることが可能になる。
【0015】
一実施形態では、L側凹部の長さが上記外周面の長手方向の中央から該外周面のL側の端までの長さの7/10以上9/10以下である。これにより、点火プラグをL側凹部に臨ませた状態で点火することができるロータの回転角度の範囲が広くなり、点火時期の進角に有利になる。
【0016】
一実施形態では、上記点火プラグは上記ロータハウジングの短軸位置よりもL側側において上記作動室の混合気に点火するように設けられ、
上記制御部は、上記点火プラグをL側凹部に臨むTDCより55゜以下の範囲で進角した時期に点火するように制御する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、点火後の主燃焼の熱発生が急になることが避けられるから、冷却損失が大きくならず、燃費の向上に有利であり、燃焼音の低減やガス漏れ防止の面でも有利になり、さらに、点火時期の進角にも有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るロータリピストンエンジンの概要を示す斜視図。
【
図2】同エンジンのロータ及びロータハウジングを示す正面図。
【
図5】TDCでのロータとロータハウジングの隙間の大きさを示す断面図。
【
図6】リセス断面積がロータ外周面の長手方向においてどのように変化しているかを示すグラフ図。
【
図7】TDC前後のロータとロータハウジングの関係を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0020】
<ロータリーエンジンの全体構成>
図1に示すロータリーエンジン1(以下、単にエンジン1という)は、車両に搭載されるものであって、2つのロータ2を備えている。各々ロータ2を収容する2つのロータハウジング3間にインターミディエイトハウジング4が設けられている。2つのロータハウジング3の両外側にサイドハウジング5が設けられている。1つのロータハウジング3に着目すれば、インターミディエイトハウジング4は、そのロータハウジング3の片側にあって、ロータハウジング3及びサイドハウジング5と共にロータ収容室31を形成するサイドハウジングであると位置付けることができる。
【0021】
図1では、エンジン1のフロント側(
図1の右側)の一部を切り欠いてエンジン内部を示すとともに、リヤ側(
図1の左側)のサイドハウジング5もエンジン内部を示すために分離して示している。図中の符号Xは、出力軸としてのエキセントリックシャフトの回転軸心である。
【0022】
図2に示すように、ロータハウジング3は、平行トロコイド曲線で描かれる回転軸心Xの方向から見て略楕円形状(俵型)のトロコイド内周面3aを有する。
図1に示すように、ロータハウジング3の内周面とインターミディエイトハウジング4の両側の内側面4aとサイドハウジング5の内側面5aによってロータ収容室31が形成され、このロータ収容室31にロータ2が収容されている。インターミディエイトハウジング4の両側のロータ収容室31は、ロータ2の回転位相が異なっている点を除けば構成は同じである。
【0023】
ロータ2は、回転軸心Xの方向から見て各辺の中央部が外側に膨出した略三角形状をなし、その三角形の頂部間の略長方形状の外周面2aにリセス7が形成されている。ロータ2の三角形の各頂部に設けられたアペックスシールがロータ2の回転に伴ってロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接する。このロータ2によって、
図2に示すように、ロータ収容室31の内部が3つの作動室8に区画されている。
【0024】
ロータ2は、エキセントリックシャフト6の偏心輪6aに支持されていて、自転しながら、回転軸心Xの周りに該自転と同方向に公転する(この自転及び公転を含めて、広い意味で単にロータ2の回転という)。そして、ロータ2が1回転する間に3つの作動室8が周方向に移動し、それぞれで吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程が行われる。これにより発生する回転力がロータ2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
【0025】
図2において、ロータ2は矢印で示すように時計回り方向に回転し、回転軸心Xを通るロータ収容室31の長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の左側が概ね吸気行程及び排気行程の領域となり、右側が概ね圧縮行程及び膨張行程の領域となる。
【0026】
図1に示すように、インターミディエイトハウジング4の内側面4aとサイドハウジング5の内側面5aにおける上記吸気行程及び排気行程の領域に対応する部位に、吸気ポート11~13及び排気ポート10が開口している。図示は省略しているが、吸気行程ないし圧縮行程の作動室8に燃料を噴射する燃料噴射弁がロータハウジング3の頂部に設けられている。
【0027】
図2に示すように、ロータハウジング3の側部における、回転軸心Xを通るロータ収容室31の短軸Zの位置よりもロータ2の回転方向(以下、「ロータ回転方向」という。)のL側の位置に、点火プラグ9が電極部をロータ収容室31側に露出させて取り付けられている。なお、長軸Yと短軸Zは互いに直交している。
【0028】
図示は省略するが、ロータリーエンジン1は、排気ガスの一部を吸気通路に環流するEGR装置を備え、エンジン運転状態に応じて排気ガスの環流が行なわれる。
【0029】
また、ロータリピストンエンジン1は、吸気スロットル弁、燃料噴射弁、点火プラグ91,92及びEGR装置の作動を含めて、上記エンジンの作動を制御する制御部としてのコントロールユニットを備えている。
【0030】
<コントロールユニットについて>
コントロールユニットは、マイクロコンピュータをベースとするものであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、信号入出力(I/O)バスとを備えている。コントロールユニットには、車両のアクセル開度センサ、車速センサ、エンジン回転角センサ、空燃比センサ、エンジン水温センサ、エアフローセンサ等からの各種情報の信号が入力される。
【0031】
コントロールユニットは、入力信号に基いて、エンジン1の運転状態を判定するとともに、その運転状態に応じて、スロットル弁の開度、EGR装置によるEGR率、各作動室8における点火プラグ9による点火時期、燃料噴射弁による燃料噴射量及び燃料噴射タイミングの制御を行なう。点火プラグ9による点火時期についてはBTDC(圧縮行程上死点前)55゜以下の範囲に設定し、該設定に基づいて点火コイルの通電時期を制御する。
【0032】
点火時期は、燃焼重心がATDC(圧縮行程上死点後)10゜~30゜の熱効率が高い適切な位置にくるように、EGR率に応じて制御される。なお、
図2に示す鎖線で示すように、ロータ2の頂点の1つが点火プラグ9の反対側において短軸Z上に位置付けられているとき、当該頂点の反対側に位置する作動室がTDCになっている。
【0033】
EGR率が高くなるほど着火遅れ期間が長くなるとともに、燃焼重心がリタードしていく。そこで、EGR率に応じて着火遅れ期間を設定するとともに、EGR率に応じて目標熱発生開始時期(見掛けの熱発生開始の目標時期)を設定する。そうして、目標熱発生開始時期から着火遅れ期間だけ進角した時期が点火プラグ9の点火時期とされる。
【0034】
<ロータのリセスについて>
図3に示すように、ロータ2の外周面(以下、「ロータ外周面」という。)2aに形成されたリセス7は、ロータ回転方向に長く延びている。リセス7は、ロータ外周面2aの長手方向の中央CよりL側に延びるL側凹部7a(以下、「L側凹部7a」という。)と、該L側凹部7aに連続しロータ外周面2aの中央よりT側に延びるT側凹部7bとを備えている。このリセス7の容積は、作動室8の幾何学的な圧縮比が9.7以上になるように設定されている。
【0035】
L側凹部7aの長さL1はT側凹部7bの長さL2よりも長くなっている。T側凹部7bの長さL2はL側凹部7aの長さL1の2/10以上5/10以下であること(L側凹部7aの長さがT側凹部7bの長さの2倍以上5倍以下であること)が好ましい。
【0036】
また、L側凹部7aの長さ(L側凹部7aのL側の開始位置)は、ロータ外周面2aの長手方向の中央から測ってロータ外周面2aのL側の端までの長さの7/10以上9/10以下の範囲にあることが好ましい。一方、T側凹部7bの長さ(T側凹部7bのT側の開始位置)は、ロータ外周面2aの長手方向の中央から測ってロータ外周面2aのL側の端までの長さの18/100以上36/100以下の範囲にあることが好ましい。
【0037】
リセス7の開口幅(ロータ幅方向の大きさ)は、L側凹部7aのロータ回転方向の前端からロータ外周面2aの中央部分7cに至る間は略一定である。中央部分7cにおいて開口幅がロータ幅方向の両側に少し広がっている。この中央部分7cからT側凹部7bのT側の端に向かって開口幅が漸次狭まり、当該手前側の端において開口幅がL側凹部7aの上記前端と略同じ大きさになっている。ここに、「中央部分7c」はロータ2の中心角でいえば4~8゜程度の広がりを有する部分をいう。
【0038】
図4に示すように、リセス7は、ロータ外周面2aの長手方向の中央部分7cが最も深い。L側凹部7aは、当該中央部分7cからL側に向かって傾斜した底面を備えて深さが中央部分7cの深さの1/3以上1/2以下まで浅くなり、その1/3以上1/2以下の深さでL側に延び、ロータ回転方向の前端において傾斜部を備えて深さが零になっている。T側凹部7bは、その底面が外周面2aの長手方向の中央部分7cからT側の端に至るまで該凹部の深さが漸次浅くなるようになだらかに傾斜している。
【0039】
図5((a)、(b)及び(c)はTDC位置での
図4のa-a断面、b-b断面及びc-c断面)に示すように、リセス7の底面はロータ幅方向に平坦に広がり両側部が円弧状に立ち上がっている。従って、リセス7の断面積(ロータ外周面2aの長手方向に直交し且つロータ2の中心を通る平面でリセス7を横断したときの断面積。以下、「リセス断面積」という。)はリセス7の深さに略対応する大きさとなっている。
【0040】
図6はリセス断面積がロータ外周面2aの長手方向においてどのように変化しているかを示す。
図6の横軸はロータ外周面2aの長手方向の中央を原点(0)としてL側をプラス、T側をマイナスで表した位置座標(単位mm)である。
【0041】
リセス断面積は、ロータ外周面2aの中央部分7c(本実施形態では原点0からL側に5mmの範囲)が最も大きい。この中央部分7cからL側に向かってL側凹部7aの全長の1/10程度の長さまでに、リセス断面積が中央部分7cにおけるリセス断面積の1/3以上1/2以下の大きさになるように漸次減少している。そこから、リセス断面積は、L側に向かってL側凹部7aの全長の7/10程度の長さまでは中央部分7cにおけるリセス断面積の1/3以上1/2以下の大きさのまま略一定であり、その後、L側凹部7aの全長の1/10程度の距離でリセス断面積が零になっている。
【0042】
また、T側では、T側凹部7bの深さが漸次浅くなるように該T側凹部7bのの底面がなだらかに傾斜していることに対応して、リセス断面積が中央部分7cからT側凹部7bのT側の端に至るまで漸次連続的に小さくなっている。なお、
図6において、符号9aは点火プラグ9のプラグホールである。
【0043】
<作用効果>
上記実施形態によれば、T側凹部7bを短くしている。すなわち、T側凹部7bのT側の開始位置をロータ外周面2aの長手方向の中央から測ってロータ外周面2aのL側の端までの長さの36/100の位置よりL側にしている。従って、二段燃焼が強くなることが抑えられるため、燃費の改善に有利になる。また、T側凹部7bのT側の開始位置をロータ外周面2aの長手方向の中央から測ってロータ外周面2aのL側の端までの長さの18/100の位置よりT側にしたから、燃焼音が大きくなることが抑えられる。
【0044】
また、L側凹部7aを長くしている。すなわち、L側凹部7aのL側の開始位置をロータ外周面2aの長手方向の中央から測ってロータ外周面2aのL側の端までの長さの7/10以上9/10以下の範囲にしている。従って、EGR時に着火遅れを考慮して点火時期を大きく進角化させたときでも、L側凹部7aを通して混合気を点火プラグ9のプラグホールに供給することができる。よって、失火の懸念が払拭される。
【0045】
そうして、
図7に1点鎖線で示すようにTDCよりも進角した時期にL側凹部7aに臨む点火プラグ9によって混合気に点火したときは、火炎が主としてL側に伝播していく。その火炎に対して、T側から混合気が供給されて火炎が成長していく。ロータ2の回転によりTDCに近づくに従ってロータ外周面2aの中央部分7cとロータハウジング3の隙間が狭くなってくる。
【0046】
これに対して、上記実施形態では、リセス7の断面積はロータ外周面2aの中央部分7cにおいて最も大きい。従って、
図7に実線で示すように、TDCにおいても、ロータ2とロータハウジング3の短軸位置における隙間は過度に小さくならない。よって、ロータハウジング3の短軸位置よりもL側で成長する火炎に対するT側からの混合気の供給速度が大きくなること、すなわち、T側からL側への混合気の流動が強くなることが避けられる。よって、点火後の主燃焼の燃焼速度が大きくならず、言わば、燃焼が緩慢になって、熱発生が急になることが避けられる。このため、冷却損失が大きくならず、燃費の向上に有利であり、燃焼音の低減やガス漏れ防止の面でも有利になる。
【0047】
また、ロータ外周面2aの長手方向の中央部分7cよりもL側の凹部7aの断面積が中央部分7cの断面積の1/3以上1/2以下であるから、燃焼を緩慢にしながらもエンジンの圧縮比を維持して熱効率を確保することができ、点火後の火炎の急激な成長を抑える上でも有利になる。
【0048】
また、T側凹部7bは、その底面がロータ外周面2aの長手方向の中央部分7cからT側の端に至るまで該凹部7bの深さが漸次浅くなるようになだらかに傾斜して、断面積が中央部分7cからT側の端に至るまで漸次連続的に小さくなっている。従って、
図7に二点鎖線で示すTDC後において、ロータハウジング3の短軸位置よりT側から火炎が存するL側への混合気の流動が上記傾斜したT側凹部7bを通して円滑に進む。よって、未燃混合気の供給をスムースに進めることで、いわゆる二段燃焼の発生または規模を抑制にも繋がるため、排気損失の低減に有利に働き、ひいては冷却損失を抑制することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ロータリーエンジン
2 ロータ
2a ロータ外周面
3 ロータハウジング
3a トロコイド内周面
4,5 サイドハウジング
7 リセス
7a L側凹部
7b T側凹部
7c 中央部分
8 作動室
9 点火プラグ
31 ロータ収容室
Z 短軸