(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078858
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】回転機構及びロボット
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192165
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】牧角 知祥
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA18
3J027FA37
3J027FB32
3J027GA01
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC13
3J027GC24
3J027GC26
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
3J027GE07
3J027GE14
3J027GE23
(57)【要約】
【課題】組み立て作業性や分解作業性を向上できるとともに、安定動作させて製品寿命も延命化できる回転機構及びロボットを提供する。
【解決手段】実施形態の減速機構1Bは、出力シャフト9と、出力シャフト孔13b,14bを有する各キャリア13,14、及び出力シャフト挿入孔25a,25bを有する各揺動歯車11,12と、を備える。出力シャフト孔13b,14b及び出力シャフト挿入孔25a,25bは、出力シャフト9が挿入されるとともに内周面に出力シャフト9が接触される。出力シャフト孔13b,14b及び出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の面粗度Raは、1.6μm以下であり、かつ内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数は、0.2以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトが挿入されるとともに内周面に前記シャフトが接触されるシャフト挿入孔を有し、前記シャフトに対して回転自在な回転体と、
を備え、
前記内周面の面粗度Raは、1.6μm以下であり、かつ前記内周面の前記シャフトに対する静摩擦係数は、0.2以下である
回転機構。
【請求項2】
前記回転体は、少なくとも前記内周面を含む前記シャフトの周囲が樹脂により形成されており、前記シャフトは金属により形成されている
請求項1に記載の回転機構。
【請求項3】
内歯を有する内歯歯車と、
前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、
前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に回転力を伝達する入力クランクシャフトと、
前記揺動歯車の回転力が伝達される出力シャフトと、
前記出力シャフトの軸方向両端部を回転自在に支持する支持部と、
を備え、
前記シャフトは、前記出力シャフトであり、
前記回転体は、前記揺動歯車及び前記支持部であり、
前記シャフト挿入孔は、前記揺動歯車に形成された歯車側シャフト孔及び前記支持部に形成された支持部側シャフト孔である
請求項1又は請求項2に記載の回転機構。
【請求項4】
前記出力シャフトの軸方向両端部のうちの少なくともいずれか一方に設けられ、前記出力シャフトの軸方向の位置決めを行うシムを有する
請求項3に記載の回転機構。
【請求項5】
前記シムは、弾性変形する弾性シムを有する
請求項4に記載の回転機構。
【請求項6】
前記シムは、前記出力シャフトが挿入される環状のスペーサを有する
請求項4又は請求項5に記載の回転機構。
【請求項7】
前記内歯歯車は、
筒状のケースと、
前記ケースの内周面に周方向に沿って並ぶ複数の内歯ピンと、
を備え、
前記ケースの熱伝導率は、前記揺動歯車の熱伝導率よりも高い
請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の回転機構。
【請求項8】
前記内歯歯車は、
筒状のケースと、
前記ケースの内周面に周方向に沿って並ぶ複数の内歯ピンと、
を備え、
前記ケースの熱伝導率は、前記内歯ピンの熱伝導率よりも高い
請求項3から請求項7のいずれか一項に記載の回転機構。
【請求項9】
内歯を有する内歯歯車と、
樹脂により形成され、前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、
金属により形成され、前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に回転力を伝達する入力クランクシャフトと、
金属により形成され、前記揺動歯車の回転力が伝達される出力シャフトと、
樹脂により形成され、前記出力シャフトの軸方向両端部を回転自在に支持する支持部と、
を備える
回転機構。
【請求項10】
第1部材及び第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材との間に設けられ、前記第1部材に対して前記第2部材を回転させる回転機構と、
を備え、
前記回転機構は、
内歯を有する内歯歯車と、
樹脂により形成され、前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、
金属により形成され、前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に回転力を伝達する入力クランクシャフトと、
金属により形成され、前記揺動歯車の回転力が伝達される出力シャフトと、
樹脂により形成され、前記出力シャフトの軸方向両端部を回転自在に支持する支持部と、
を備える
ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機構及びロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロボットとして、作業者と作業空間を共有する協調ロボットが知られている。この種の協調ロボットのうち、例えば多関節協調ロボット等には、2つのアームが連結される関節部に回転機構として減速機構が設けられ、さらに、減速機構に回転力を付与する電動モータ等が設けられている。電動モータの回転力を減速して出力することにより、2つのアームの一方に対して他方のアームに大きな出力トルクを付与することができる。
【0003】
減速機構としては、例えば回転位置精度や耐荷重性の高い偏心揺動型の減速機構が用いられる。この種の減速機構は、例えば内周面に内歯歯車が形成されたハウジングと、内歯歯車に噛合わされるとともに揺動回転される揺動歯車(外歯歯車)と、揺動歯車を回転自在に支持する偏心部(偏心体)を有するとともに、揺動歯車に回転力を伝達する入力クランクシャフト(第1回転部)と、揺動歯車の回転力が伝達される出力シャフト(キャリアピン)と、出力シャフトに連結された支持部(キャリア)と、を備える。支持部は、ハウジングに滑り軸受を介して回転自在に支持されている。また、出力シャフトは、支持部に形成された孔(被圧入孔)に圧入され、支持部と一体化されている。これにより、出力シャフトに揺動歯車の回転力が伝達されるとハウジングに対して支持部が回転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上述の従来技術では、支持部に出力シャフトが圧入されているので、減速機構の組み立て作業や分解作業が煩わしいものとなるという課題があった。また、支持部に対して出力シャフトが自由回転されないので、これら支持部や出力シャフトの限界PV値が低くなり、支持部や出力シャフトに焼き付き等の不具合が生じてしまう可能性があった。このため、減速機構を安定して動作させにくく、減速機構の製品寿命が低下してしまう可能性があった。
【0006】
本発明は、組み立て作業性や分解作業性を向上できるとともに、安定動作させて製品寿命も延命化できる回転機構及びロボットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る回転機構は、シャフトと、前記シャフトが挿入されるとともに内周面に前記シャフトが接触されるシャフト挿入孔を有し、前記シャフトに対して回転自在な回転体と、を備え、前記内周面の面粗度Raは、1.6μm以下であり、かつ前記内周面の前記シャフトに対する静摩擦係数は、0.2以下である。
【0008】
このように構成することで、回転体とシャフトとの組み立て作業性や分解作業性を向上できる。また、回転体の内周面の面粗度Raを1.6μm以下とし、かつ、回転体の内周面のシャフトに対する静摩擦係数を0.2以下とした。このため、回転体に対するシャフトの摺動抵抗を低減でき、回転体の限界PV値を高めることができる。よって、回転機構を安定動作させることができ、製品寿命を延命化できる。
【0009】
上記構成で、前記回転体は、少なくとも前記内周面を含む前記シャフトの周囲が樹脂により形成されており、前記シャフトは金属により形成されてもよい。
【0010】
上記構成で、内歯を有する内歯歯車と、前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に回転力を伝達する入力クランクシャフトと、前記揺動歯車の回転力が伝達される出力シャフトと、前記出力シャフトの軸方向両端部を回転自在に支持する支持部と、を備え、前記シャフトは、前記出力シャフトであり、前記回転体は、前記揺動歯車及び前記支持部であり、前記シャフト挿入孔は、前記揺動歯車に形成された歯車側シャフト孔及び前記支持部に形成された支持部側シャフト孔でもよい。
【0011】
上記構成で、前記出力シャフトの軸方向両端部のうちの少なくともいずれか一方に設けられ、前記出力シャフトの軸方向の位置決めを行うシムを有してもよい。
【0012】
上記構成で、前記シムは、弾性変形する弾性シムを有してもよい。
【0013】
上記構成で、前記シムは、前記出力シャフトが挿入される環状のスペーサを有してもよい。
【0014】
上記構成で、前記内歯歯車は、筒状のケースと、前記ケースの内周面に周方向に沿って並ぶ複数の内歯ピンと、を備え、前記ケースの熱伝導率は、前記揺動歯車の熱伝導率よりも高くてもよい。
【0015】
上記構成で、前記内歯歯車は、筒状のケースと、前記ケースの内周面に周方向に沿って並ぶ複数の内歯ピンと、を備え、前記ケースの熱伝導率は、前記内歯ピンの熱伝導率よりも高くてもよい。
【0016】
本発明の他の態様に係る回転機構は、内歯を有する内歯歯車と、樹脂により形成され、前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、金属により形成され、前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に回転力を伝達する入力クランクシャフトと、金属により形成され、前記揺動歯車の回転力が伝達される出力シャフトと、樹脂により形成され、前記出力シャフトの軸方向両端部を回転自在に支持する支持部と、を備える。
【0017】
このように構成することで、回転機構として偏心揺動型の減速機構の構成を採用した場合に、歯車側シャフト孔や支持部側シャフト孔の内周面の出力シャフトに対する静摩擦係数を、容易に下げることができる。また、揺動歯車や支持部の限界PV値を容易に高めることができる。このため、回転機構を安定動作させることができ、製品寿命を延命化できる。さらに、出力シャフトを金属により形成することで、出力シャフトの剛性を高めることができるので、回転機構をさらに安定動作させることができ、製品寿命をさらに延命化できる。
【0018】
本発明の他の態様に係るロボットは、第1部材及び第2部材と、前記第1部材と前記第2部材との間に設けられ、前記第1部材に対して前記第2部材を回転させる回転機構と、を備え、前記回転機構は、内歯を有する内歯歯車と、樹脂により形成され、前記内歯歯車の前記内歯に噛合わされる外歯を有し、揺動回転される揺動歯車と、金属により形成され、前記揺動歯車を回転自在に支持する偏心部を有するとともに、前記揺動歯車に回転力を伝達する入力クランクシャフトと、金属により形成され、前記揺動歯車の回転力が伝達される出力シャフトと、樹脂により形成され、前記出力シャフトの軸方向両端部を回転自在に支持する支持部と、を備える。
【0019】
このように構成することで、安定動作させて製品寿命も延命化できるロボットを提供できる。
【発明の効果】
【0020】
上述の回転機構及びロボットは、組み立て作業性や分解作業性を向上できるとともに、安定動作させて製品寿命も延命化できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態における協調ロボットの概略構成図である。
【
図2】本発明の第1実施形態における第2減速機構の概略構成図である。
【
図3】本発明の第2実施形態における減速機構の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
<協調ロボット>
図1は、協調ロボット100の概略構成図である。
以下の説明では、協調ロボット100の上下方向及び水平方向は、設置面Fに協調ロボット100を載置した状態で上下方向及び水平方向というものとする。
【0024】
図1に示すように、協調ロボット100は、設置面Fに載置されるベース部(請求項における第1部材又は第2部材の一例)101と、ベース部101上に設けられた回転ヘッド(請求項における第1部材又は第2部材の一例)102と、回転ヘッド(請求項における第1部材又は第2部材の一例)102の上部に回転自在に組み付けられたアームユニット(請求項における第1部材又は第2部材の一例)103と、これらベース部101、回転ヘッド102、及びアームユニット103の関節部106a,106b,106c(第1関節部106a、第2関節部106b、第3関節部106c)に組み付けられる減速機構1A,1B,1C(第1減速機構1A、第2減速機構1B、第3減速機構1C)と、駆動源としてのサーボモータ107,108,109(第1サーボモータ107、第2サーボモータ108、第3サーボモータ109)と、アームユニット103に取り付けられたエンドエフェクタ110と、を備える。
【0025】
回転ヘッド102は、ベース部101に対し第1回転軸線L1回りに回転自在に連結される。この連結された箇所が第1関節部106aであり、第1関節部106adに第1減速機構1A及び第1サーボモータ107が組み付けられる。
第1回転軸線L1は、例えば上下方向と一致している。回転ヘッド102には、第1減速機構1Aを介して第1サーボモータ107の回転が伝達される。これにより、ベース部101に対して回転ヘッド102が第1回転軸線L1回りに回転駆動される。
【0026】
アームユニット103は、例えば一方向に長い2つのアーム111,112(第1アーム111、第2アーム112)からなる。2つのアーム111,112のうち、第1アーム111の一端が、回転ヘッド102の上部に第2回転軸線L2回りに回転自在に連結される。この連結された箇所が第2関節部106bであり、第2関節部106bに第2減速機構1B及び第2サーボモータ108が組み付けられる。
【0027】
第2回転軸線L2は、例えば水平方向と一致している。第1アーム111には、第2減速機構1Bを介して第2サーボモータ108の回転が伝達される。これにより、回転ヘッド102に対して第1アーム111が第2回転軸線L2回りに回転駆動される。例えば第1アーム111は、ベース部101に対して前後方向に揺動駆動される。
【0028】
第1アーム111の他端には、2つのアーム111,112のうちの第2アーム112の一端が第3回転軸線L3回りに回転自在に連結される。この連結された箇所が第3関節部106cであり、第3関節部106cに第3減速機構1C及び第3サーボモータ109が組み付けられる。
第3回転軸線L3は、例えば水平方向と一致している。第2アーム112には、第3減速機構1Cを介して第3サーボモータ109の回転が伝達される。これにより、第1アーム111に対して第2アーム112が第3回転軸線L3回りに回転駆動される。例えば第2アーム112は、第1アーム111に対して上下方向に揺動駆動される。
【0029】
エンドエフェクタ110は、第2アーム112の他端に取り付けられている。回転ヘッド102、第1アーム111、及び第2アーム112を駆動させることにより、エンドエフェクタ110が3次元的に駆動される。
【0030】
また、このような協調ロボット100を構成するベース部101、回転ヘッド102、第1アーム111、及び第2アーム112は、例えばアルミ合金により形成されている。アルミ合金の熱伝導率は、201[W/m・K]程度である。その他、各々例えばマグネシウム合金、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、窒化ホウ素を含有して熱伝導率を高めた樹脂等により形成してもよい。マグネシウム合金の熱伝導率は、例えば51.2[W/m・K]程度である。
【0031】
[第1実施形態]
<減速機構>
次に、
図2に基づいて各減速機構1A~1Cについて説明する。
各減速機構1A~1Cの基本的構成は同一である。このため、以下の説明では、各減速機構1A~1Cのうちの第2減速機構1Bについてのみ説明し、第1減速機構1A及び第3減速機構1Cについての説明は省略する。
【0032】
図2は、第2減速機構1Bの概略構成図である。
図2に示すように、第2減速機構1Bは、いわゆる偏心揺動型の減速機構である。第2減速機構1Bは、円筒状のケース(請求項における内歯歯車の一例)2と、ケース2に回転自在に支持されたキャリア(請求項における支持部の一例)7と、キャリア7に回転自在に支持された入力クランクシャフト8、及び複数(例えば3つ)の出力シャフト9と、入力クランクシャフト8に回転自在に支持された揺動歯車11,12(第1揺動歯車11、第2揺動歯車12)と、を備える。
【0033】
ケース2の中心軸線C1は、第2回転軸線L2と一致している。以下の説明では、第2回転軸線L2と平行な方向を軸方向と称し、第2回転軸線L2回りを周方向と称し、軸方向及び周方向に直交する方向を径方向と称する場合がある。
【0034】
ケース2は、例えばアルミ合金により形成されている。その他、ケース2は、例えばマグネシウム合金、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、窒化ホウ素を含有して熱伝導率を高めた樹脂等により形成してもよい。ケース2の熱伝導率は、後述する内歯ピン6の熱伝導率よりも高いことが望ましい。
ケース2の外周面2aには、軸方向中央に、径方向外側に張り出す外フランジ部4が一体成形されている。外フランジ部4は、軸方向に沿う断面が四角形状に形成されている。
【0035】
外フランジ部4には、軸方向に貫通する複数のボルト孔4aが周方向に等間隔で形成されている。外フランジ部4には、例えば軸方向外側から回転ヘッド102が重ねられる。そして、外フランジ部4の回転ヘッド102とは反対側からボルト孔4aにボルト5を挿入する。このボルト5を回転ヘッド102の雌ネジ部102aに締め付けることにより、回転ヘッド102にケース2が固定される。
【0036】
ケース2の内周面2bには、軸方向両側に、それぞれ段差部3c,3d(第1段差部3c、第2段差部3d)を介して拡径部3a,3b(第1拡径部3a、第2拡径部3b)が形成されている。各拡径部3a,3bの内径は、ケース2の内周面2bの内径よりも大きい。各拡径部3a,3bに、キャリア7が設けられている。
【0037】
また、ケース2の内周面2bには、2つの段差部3c,3dの間に、複数の内歯ピン(請求項における内歯歯車の一例)6が設けられている。内歯ピン6は、例えば金属により形成されている。その他、内歯ピン6は、高熱伝導性の樹脂、非金属等で形成することが可能である。また、内歯ピン6は、カーボンナノチューブ(CNT)、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)を配合させた樹脂でもよい。さらに、内歯ピン6は、軸受鋼等の鉄系金属で形成してもよい。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により内歯ピン6を形成してもよい。
【0038】
内歯ピン6は、円柱状に形成されている。しかしながらこれに限られるものではなく、内歯ピン6は、中空の部材でもよい。内歯ピン6は、芯材を表面材で包んだ多層構造の部材であってもよい。例えば、内歯ピン6は、芯材と表面材の一方が鉄系金属で、他方が銅系またはアルミニウム系の金属であってもよい。この場合、機械的特性と熱的特性との両立を図ることができる。また、別の一例として、内歯ピン6は、芯材と表面材の一方が金属で構成され、他方が樹脂で構成されてもよい。また、内歯ピン6は、焼結金属で形成されてもよい。
【0039】
内歯ピン6の軸方向は、ケース2の中心軸線C1と一致している。内歯ピン6は、周方向に等間隔で配置されている。内歯ピン6は、揺動歯車11,12に噛合わされる内歯として機能する。
【0040】
キャリア7は、ケース2に形成された2つの拡径部3a,3bのうち、回転ヘッド102側の第1拡径部3aに設けられた第1キャリア(シャフトフランジ)13と、第1拡径部3aとは軸方向で反対側の第2拡径部3bに設けられた第2キャリア(ホールドフランジ)14と、からなる。
各キャリア13,14は、円板状に形成されている。各キャリア13,14の外周面は、対応する拡径部3a,3bに摺動可能に嵌め合わされている。各キャリア13,14は、対応する段差部3c,3dに突き当たることにより、軸方向の位置決めが行われる。
【0041】
各キャリア13,14は、例えば樹脂により形成されている。例えば、各キャリア13,14は、POM(polyacetal:ポリアセタール)により形成することが可能である。また、各キャリア13,14は、PEEK(poly Ether Ether Ketone:ポリエーテルエーテルケトン)を代表とした、PAEK(Polyaryl Ether Ketones:ポリアリールエーテルケトン)類など、POMとは異なる樹脂により形成されてもよい。樹脂として、PPS(Poly Phenylene Sulfide;ポリフェニレンサルファイド)又はPPSを配合した樹脂でもよい。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により各キャリア13,14を形成してもよい。例えば、PPSの熱伝導率は、0.2[W/m・K]程度である。窒化ホウ素を含有したPPSの熱伝導率は、例えば2.6[W/m・K]程度である。また、各キャリア13,14の線膨張係数は、例えばアルミ合金(23~24(×10-6/℃))以上であることが望ましい。
【0042】
各キャリア13,14の径方向中央には、軸方向に貫通する入力シャフト孔13a,14aが形成されている。これら入力シャフト孔13a,14aには、入力クランクシャフト8が挿入されている。
各入力シャフト孔13a,14aには、軸受15a,15b(第1軸受15a、第2軸受15bが設けられている。軸受15a,15bとしては、例えば玉軸受が用いられる。これら軸受15a,15bを介し、各キャリア13,14に入力クランクシャフト8が回転自在に支持されている。入力クランクシャフト8の回転軸線は、ケース2の中心軸線C1(第2回転軸線L2)と一致している。
【0043】
また、各キャリア13,14には、入力シャフト孔13a,14aの周囲に、複数(例えば3つ)の出力シャフト孔(請求項におけるシャフト挿入孔、支持部側シャフト孔の一例)13b,14bが周方向に等間隔で形成されている。これら出力シャフト孔13b,14bに、出力シャフト9が挿入されている。出力シャフト孔13b,14bの内周面の面粗度Raは、1.6μm以下である。また、出力シャフト孔13b,14bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数は、0.2以下である。
【0044】
2つのキャリア13,14のうち、第1キャリア13の第2キャリア14とは反対側の一面13cには、出力シャフト孔13bと同軸上にシム収納凹部41が形成されている。シム収納凹部41は、一面13c側が開口されているとともに、出力シャフト孔13bに通じている。
【0045】
シム収納凹部41には、円環状の弾性シム(請求項におけるシムの一例)42が収納されている。弾性シム42の内径は、出力シャフト孔13bの内径とほぼ同じか若干大きい程度である。弾性シム42は、ゴム等により形成されており、弾性変形する。弾性シム42はゴム以外で形成されていてもよく、弾性変形する材料で形成されていればよい。例えば、ゴムに代わってウェーブワッシャを弾性シム42として用いてもよい。
【0046】
弾性シム42上には、円環状のスペーサ(請求項におけるシムの一例)43が配置されている。スペーサ43の内径は、出力シャフト孔13bの内径とほぼ同じか若干大きい程度である。スペーサ43は、例えば金属により形成されている。これら弾性シム42及びスペーサ43は、キャリア13,14に対する出力シャフト9の位置決めを行うためのものである(詳細は後述する)。
【0047】
2つのキャリア13,14のうち、第2キャリア14の第1キャリア13とは反対側の一面14cには、出力シャフト孔14bと同軸上に凹部16が形成されている。凹部16は、一面14c側が開口されているとともに、出力シャフト孔14bに通じている。
凹部16には、例えばグリス17を充填することが可能である。グリス17は、出力シャフト9に伝達される熱を放熱するために使用される。グリス17の熱伝導率は、揺動歯車11,12及び第2キャリア14の熱伝導率よりも高い。グリス17の熱伝導率は、5[W/m・K]以上である。
【0048】
出力シャフト孔13b,14bに挿入された出力シャフト9は、例えばアルミ合金により形成されている。出力シャフト9は、アルミ合金に限られるものではなく、ステンレスにより形成することも可能である。ステンレスの熱伝導率は、16.7[W/m・K]程度である。この他、出力シャフト9として例えば鉄系金属を用いることができる。鉄系金属としては、所望の特性に応じて炭素鋼、軸受鋼、などを用いることができる。例えば鉄としてS45Cの熱伝導率は、45[W/m・K]程度である。
【0049】
出力シャフト9の第1キャリア13側の第1端部9aは、第1キャリア13の第2キャリア14とは反対側の一面13cから若干突き出ている。出力シャフト9の第1端部9aに、弾性シム42及びスペーサ43が装着された形になる。出力シャフト9の第1端部9aには、スペーサ43の上から第1止め輪18aが取り付けられている。スペーサ43に第1止め輪18aが突き当たることによって、出力シャフト9の第2キャリア14側に向かう移動が規制される。
【0050】
出力シャフト9の第2キャリア14側の第2端部9bは、第2キャリア14の一面14cよりも若干下がった位置にある。すなわち、出力シャフト9の第2端部9bは、第2キャリア14の凹部16内に収まった状態になる。出力シャフト9の第2端部9bには、第2止め輪18bが取り付けられている。第2止め輪18bも凹部16内に収まった形になる。凹部16の底面16aに第2止め輪18bが突き当たることによって、出力シャフト9の第1キャリア13側に向かう移動が規制される。
【0051】
すなわち、弾性シム42、スペーサ43、及び各止め輪18a,18bは、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の位置決めを行う機能を有している。このうち、弾性シム42及びスペーサ43は、ケース2、各キャリア13,14及び出力シャフト9の製造誤差を吸収し、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の位置調整を行う機能を有している。つまり、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の軸方向のガタの大きさに応じて弾性シム42やスペーサ43の軸方向の厚さを調整し、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の軸方向のガタを抑える。このガタとは、ケース2、各キャリア13,14及び出力シャフト9の製造誤差により、各キャリア13,14に対して出力シャフト9が軸方向に移動し得る遊びによって生じるガタのことである。
【0052】
ここで、弾性シム42の軸方向の厚さは、若干圧縮された状態となるように決定される。これにより、装着された弾性シム42に生じる復元力によって、第2キャリア14側に向かって第1キャリア13を付勢する。この結果、確実に各キャリア13,14や出力シャフト9のガタツキが抑えられる。また、経年劣化等によって各キャリア13,14に対する出力シャフト9の軸方向のガタが大きくなった場合でも、このガタを弾性シム42によって吸収できる。また、第2キャリア14側に向かって第1キャリア13を付勢することにより、各キャリア13,14の各入力シャフト孔13a,14aに設けられた各軸受15a,15bに、予圧を付与することにもなる。
【0053】
さらに、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の軸方向の移動が規制されるので、換言すれば、各キャリア13,14の軸方向への移動が規制される。このため、各キャリア13,14は、各々対応するケース2の拡径部3a,3bに嵌め合わされた状態が維持される。また、各キャリア13,14と各出力シャフト9とが一体化される。出力シャフト9は、各キャリア13,14の出力シャフト孔13b,14bに挿入されていることから、入力クランクシャフト8の周囲に配置された状態になる。
入力クランクシャフト8は、出力シャフト9と同様に、例えばアルミ合金により形成されている。この他、入力クランクシャフト8として、出力シャフト9と同様に例えばステンレスやさまざまな鉄系金属を用いることができる。
【0054】
入力クランクシャフト8の第1キャリア13側の第1端部8aは、第1キャリア13に設けられた第1軸受15aを介して軸方向外側に突出されている。この第1端部8aに、第2サーボモータ108が連結される。入力クランクシャフト8に、第2サーボモータ108の回転が伝達される。
【0055】
入力クランクシャフト8の第2キャリア14側の第2端部8bは、第2キャリア14に設けられた第2軸受15bの第1キャリア13とは反対側の端面とほぼ同一面上に位置されている。
入力クランクシャフト8には、各キャリア13,14に設けられた各軸受15a,15bの間に、第1偏心部21a及び第2偏心部21bが軸方向で並んで形成されている。また、入力クランクシャフト8には、各偏心部21a,21bの間に、これら偏心部21a,21bよりも直径の大きい拡径部20が形成されている。
【0056】
第1偏心部21aは、第1キャリア13側に配置されている。第2偏心部21bは、第2キャリア14側に配置されている。各偏心部21a,21bは、第2回転軸線L2から偏心されている。各偏心部21a,21bは、互いに位相角がずれている。例えば、各偏心部21a,21bは、互いに180°位相角がずれている。
【0057】
各偏心部21a,21bには、それぞれ軸受15c,15d(第3軸受15c、第4軸受15d)が設けられている。これら軸受15c,15dも第1軸受15a、第2軸受15bと同様に、例えば玉軸受が用いられる。軸受15c,15dの軸方向の間隔は、これら軸受15c,15dの軸方向端面が拡径部20に突き当たることにより規制されている。このような各軸受15c,15dを介し、各偏心部21a,21bに、それぞれ揺動歯車11,12(第1揺動歯車11、第2揺動歯車12)が回転自在に支持されている。
【0058】
2つの揺動歯車11,12は、例えば樹脂により形成されている。例えば、揺動歯車11,12は、POM(polyacetal:ポリアセタール)により形成することが可能である。この他、揺動歯車11,12として、上記キャリア13,14を形成する材料と同様に、さまざまな樹脂を用いることができる。揺動歯車11,12は樹脂により形成されているので、揺動歯車11,12の熱伝導率よりも出力シャフト9の熱伝導率及び入力クランクシャフト8の熱伝導率が高い。また、揺動歯車11,12の熱伝導率よりもケース2の熱伝導率が高い。さらに、揺動歯車11,12の熱伝導率よりも内歯ピン6の熱伝導率が高い。
【0059】
2つの揺動歯車11,12は、2つのキャリア13,14の間に一定の間隔をあけて配置されている。2つの揺動歯車11,12の径方向中央には、厚さ方向に貫通され対応する軸受15c,15dの外周面が嵌め合わされるクランクシャフト挿入孔24a,24b(第1クランクシャフト挿入孔24a、第2クランクシャフト挿入孔24b)が形成されている。これにより、各軸受15c,15dを介し、各偏心部21a,21bにそれぞれ揺動歯車11,12が回転自在に支持される。偏心部21a,21bによって、揺動歯車11,12は揺動回転される。
【0060】
2つの揺動歯車11,12の外周部には、ケース2に設けられた内歯ピン6に噛合わされる外歯23a,23bが形成されている。各外歯23a,23bの歯数は、内歯ピン6の数よりも例えば1つだけ少ない。
また、2つの揺動歯車11,12には、出力シャフト9に対応する位置に、この出力シャフト9が挿入される出力シャフト挿入孔25a,25b(第1出力シャフト挿入孔25a、第2出力シャフト挿入孔25b;請求項におけるシャフト挿入孔、歯車側シャフト孔の一例)が形成されている。各出力シャフト挿入孔25a,25bの内径は、これら出力シャフト挿入孔25a,25bに出力シャフト9が挿入された状態で、揺動歯車11,12の揺動回転を許容できる大きさである。
さらに、出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の面粗度Raは、1.6μm以下である。また、出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数は、0.2以下である。
【0061】
このように構成された第2減速機構1Bの2つのキャリア13,14のうち、第2キャリア14の第1キャリア13とは反対側の一面14cに、例えば第1アーム111が重ねられる。そして、第1キャリア13に、図示しないボルトによって第1アーム111が固定される。
第1アーム111には、第2キャリア14の入力シャフト孔14aに嵌め合わされる凸部111aが形成されている。これにより、第2キャリア14に対する第1アーム111の径方向の位置決めが行われる。凸部111aは、第2軸受15b及び入力クランクシャフト8の第2端部8bと微小隙間を介して対向する程度に突出されている。
【0062】
<第2減速機構の動作及び作用>
次に、第2減速機構1Bの動作及び作用について説明する。
第2サーボモータ108を駆動させることにより、入力クランクシャフト8が回転される。これにより、各偏心部21a,21bに回転自在に支持された各揺動歯車11,12が揺動回転される。すると、ケース2の内歯ピン6に、各揺動歯車11,12の外歯23a,23bの一部が噛合わされる。
【0063】
このとき、各外歯23a,23bの歯数は、内歯ピン6の数よりも例えば1つだけ少ないので、内歯ピン6(ケース2)に対して各外歯23a,23bの噛合い箇所が周方向に順次ずれるようにして揺動歯車11,12が自転される。この自転は、入力クランクシャフト8の回転に対して減速する。
【0064】
揺動歯車11,12の出力シャフト挿入孔25a,25bには、出力シャフト9が挿入されている。このため、揺動歯車11,12が自転されることにより、各出力シャフト9に揺動歯車11,12の自転方向の回転力が伝達される。さらに、各出力シャフト9は、各キャリア13,14によって回転自在に支持されている。このため、各キャリア13,14に揺動歯車11,12の回転力が伝達される。
【0065】
各キャリア13,14の外周面は、対応するケース2の拡径部3a,3bに摺動可能に嵌め合わされている。このため、ケース2に対して各キャリア13,14が回転される。すなわち、第2サーボモータ108による回転が、減速してキャリア7(第1キャリア13、第2キャリア14)に出力される。
ケース2には、回転ヘッド102が固定されている。一方、各キャリア13,14のうちの第2キャリア14には、第1アーム111が固定されている。このため、回転ヘッド102に対して第1アーム111が、第2回転軸線L2回りに回転される。
【0066】
ここで、例えば第1アーム111(第2キャリア14)の回転を規制した場合、第2サーボモータ108による回転は、減速してケース2に出力される。この場合、第1アーム111に対して回転ヘッド102が、第2回転軸線L2回りに回転される。すなわち、減速機構1A~1Cは、ケース2及びキャリア7のいずれか一方の回転を規制することにより、他方が各サーボモータ107~109に対する出力となる。このような動作原理は、第1減速機構1A、第3減速機構1Cも同様である。
【0067】
ところで、出力シャフト9と、各キャリア13,14とは、各キャリア13,14に形成された出力シャフト孔13b,14bに出力シャフト9を挿入することにより一体化されている。これにより、各キャリア13,14に対して出力シャフト9が自由回転される。しかも各キャリア13,14を樹脂により形成することで、各キャリア13,14とは別に軸受を設けることなく、各キャリア13,14に出力シャフト9を回転自在に支持させることを実現している。
【0068】
これに加え、出力シャフト孔13b,14bの内周面の面粗度Raは、1.6μm以下である。また、出力シャフト孔13b,14bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数は、0.2以下である。この結果、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の摺動抵抗を低減でき、各キャリア13,14に対して出力シャフト9がスムーズに回転される。
【0069】
このことは、各揺動歯車22a,22bと出力シャフト9との間にも同様のことがいえる。すなわち、各揺動歯車22a,22bは、樹脂により形成されている。各揺動歯車22a,22bに形成された出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の面粗度Raは、1.6μm以下である。また、出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数は、0.2以下である。このため、各揺動歯車22a,22bとは別に軸受を設けることなく、各揺動歯車22a,22bに対して出力シャフト9がスムーズに接触される。
【0070】
ところで、内歯ピン6と揺動歯車11,12との噛合い、ケース2と各キャリア13,14との摺動摩擦、各キャリア13,14と出力シャフト9との摺動摩擦、軸受15a~15dの摺動摩擦等により、各々の部材が発熱する。
ここで、入力クランクシャフト8や出力シャフト9は、例えばアルミ合金により形成されている。入力クランクシャフト8や出力シャフト9の熱伝導率は、揺動歯車11,12の熱伝導率よりも高い。
【0071】
このため、第2減速機構1Bの内部に籠る熱が、入力クランクシャフト8や出力シャフト9に積極的に伝達される。例えば、各軸受15a~15dの熱や揺動歯車11,12の熱が積極的に入力クランクシャフト8に伝達される。また、内歯ピン6や第3軸受15c、第4軸受15dによる揺動歯車11,12への熱の伝達や揺動歯車11,12自体の熱によって揺動歯車11,12に籠る熱が、積極的に出力シャフト9に伝達される。
【0072】
入力クランクシャフト8に伝達された熱は軸方向全体に渡って行き渡り、第1端部8aや第2端部8bに至るまで伝達される。そして、各端部8a,8bを介して放熱される。第2端部8bは第1アーム111の凸部111aと微小隙間を介して対向しているので、第2端部8bの熱が第1アーム111にも伝達される。第1アーム111は例えばアルミ合金により形成されているので、入力クランクシャフト8や出力シャフト9の熱伝導率以上である。このため、入力クランクシャフト8から第1アーム111に伝達された熱が効果的に放熱される。
【0073】
一方、出力シャフト9に伝達された熱は軸方向全体に渡って行き渡り、第1端部9aや第2端部9bに至るまで伝達される。そして、各端部9a,9bを介して放熱される。
ここで、第2キャリア14には、出力シャフト9の第2端部9bの周囲に、凹部16が形成されている。さらに、凹部16には、グリス17が充填されている。グリス17が充填された凹部16の開口を閉塞するように、つまり、第2キャリア14の一面14cに重なるように第1アーム111が配置されている。このため、グリス17を介し、第1アーム111に出力シャフト9の第2端部9bの熱が効率よく伝達される。よって、出力シャフト9から第1アーム111に伝達された熱が効果的に放熱される。
【0074】
また、ケース2は、例えばアルミ合金により形成されている。内歯ピン6は、金属材料、高熱伝導性の樹脂、非金属材料等で形成することが可能である。揺動歯車11,12は、例えば樹脂により形成されている。そして、ケース2の熱伝導率は、揺動歯車11,12の熱伝導率よりも高く、かつ内歯ピン6の熱伝導率は、揺動歯車11,12の熱伝導率よりも高い。このため、ケース2や内歯ピン6に、内歯ピン6と揺動歯車11,12との噛合いにより生じる熱を積極的に伝達できる。よって、第2減速機構1Bの内部に熱が籠ってしまうことが抑制される。
【0075】
なお、上記のような放熱作用については、第1減速機構1A、第3減速機構1Cも同様である。これら第1減速機構1Aや第3減速機構1Cの内部に籠る熱は、入力クランクシャフト8や出力シャフト9によって放熱される。また、入力クランクシャフト8や出力シャフト9を介して回転ヘッド102や第2アーム112等に伝達され、効果的に放熱される。さらに、ケース2や内歯ピン6によって、各減速機構1A,1Cの内部に熱が籠ってしまうことが抑制される。
【0076】
このように、上述の減速機構1A,1B,1Cでは、回転体である各キャリア13,14に形成された出力シャフト孔13b,14bの内周面の面粗度Raは、1.6μm以下である。また、出力シャフト孔13b,14bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数は、0.2以下である。同様に、回転体である各揺動歯車22a,22bに形成された出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の面粗度Raは、1.6μm以下である。また、出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数は、0.2以下である。
【0077】
このため、各キャリア13,14と別に軸受を設けることなく、各キャリア13,14に出力シャフト9をスムーズに回転自在に支持できる。各揺動歯車22a,22bと別に軸受を設けることなく、各揺動歯車22a,22bに出力シャフト9をスムーズに接触させることができる。また、各キャリア13,14や各揺動歯車22a,22bの限界PV値を高めることができる。このため、減速機構1A,1B,1Cを安定動作させることができ、製品寿命を延命化できる。
【0078】
各キャリア13,14や各揺動歯車22a,22bと出力シャフト9との接触に軸受を設ける必要のない分、減速機構1A,1B,1Cを小型化できる。
これに加え、各キャリア13,14の線膨張係数は、例えばアルミ合金(23~24(×10-6/℃))以上である。一方、出力シャフト9は、例えばアルミ合金により形成されている。このため、減速機構1A,1B,1Cを駆動させることによって各キャリア13,14の温度が上昇した場合でも出力シャフト孔13b,14bの内径に対して出力シャフト9の外径が大きくなりすぎることがなく、各キャリア13,14に出力シャフト9をスムーズに回転自在に支持させることができる。
【0079】
各キャリア13,14の出力シャフト孔13b,14bに出力シャフト9を挿入している。このため、各キャリア13,14に出力シャフト9を圧入して固定する場合と比較して、各減速機構1A,1B,1Cの組み立て作業性及び分解作業性を向上できる。
【0080】
各キャリア13,14や各揺動歯車22a,22bを樹脂により形成することにより、出力シャフト孔13b,14bや出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の面粗度Raを、容易に1.6μm以下とすることができる。また、出力シャフト孔13b,14bや出力シャフト挿入孔25a,25bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数を、容易に0.2以下とすることができる。
一方、出力シャフト9を金属により形成することで、出力シャフト9の剛性を高めることができる。このため、減速機構1A,1B,1Cをさらに安定動作させることができ、製品寿命を延命化できる。
【0081】
偏心揺動型の減速機構(減速機構1A,1B,1C)で、上記のように出力シャフト孔13b,14bを有する第1キャリア13や出力シャフト挿入孔25a,25bを有する第2キャリア14を用いることにより、各減速機構1A,1B,1Cの小型化を図りつつ、駆動効率を向上できる。また、各キャリア13,14や各揺動歯車22a,22bの限界PV値を容易に高めることができ、出力シャフト9の剛性も高めることができるので、各減速機構1A,1B,1Cを確実に安定動作させることができる。各減速機構1A,1B,1Cの製品寿命を延命化できる。
【0082】
また、出力シャフト9の第1端部9a側に弾性シム42及びスペーサ43を設けた。このため、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の位置決めを容易に、かつ精度よく行うことができる。弾性シム42及びスペーサ43によって、ケース2、各キャリア13,14及び出力シャフト9の製造誤差を吸収できる。また、弾性シム42及びスペーサ43によって、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の位置調整を行うことができる。
【0083】
出力シャフト9の位置調整として2つの部材(弾性シム42、スペーサ43)を用いるので、この2つの部材の組み合わせにより位置調整の方法のバリエーションを増やすことができる。このため、より容易、かつ高精度に各キャリア13,14に対する出力シャフト9の位置決めを行うことができ、出力シャフトのガタツキを抑えることができる。
【0084】
とりわけ、弾性シム42が弾性変形される。このため、弾性シム42を若干軸方向に圧縮変形させて取り付けることにより、この弾性シム42に生じる復元力によって、第2キャリア14側に向かって第1キャリア13を付勢できる。この結果、確実に各キャリア13,14や出力シャフト9のガタツキを抑えることができる。また、経年劣化等によって各キャリア13,14に対する出力シャフト9の軸方向のガタが大きくなった場合でも、このガタを弾性シム42によって吸収できる。さらに、第2キャリア14側に向かって第1キャリア13を付勢することにより、各キャリア13,14の各入力シャフト孔13a,14aに設けられた各軸受15a,15bに、予圧を付与することにもできる。
【0085】
減速機構1A,1B,1Cでは、ケース2の熱伝導率は、各揺動歯車22a,22bの熱伝導率よりも高い。このため、減速機構1A,1B,1C内の熱を、ケース2を介して効率よく放熱できる。
また、ケース2の熱伝導率は、内歯ピン6の熱伝導率よりも高くすることにより、この内歯ピン6に籠る熱を積極的にケース2に伝達させることができる。これにより、減速機構1A,1B,1C内の熱を、ケース2を介して効率よく放熱できる。
【0086】
上記のような各減速機構1A,1B,1Cを、協調ロボット100の各関節部106a,106b,106cに用いることにより、協調ロボット100の動作を安定させることができる。また、協調ロボット100の製品寿命を延命化できる。
【0087】
上述の第1実施形態では、出力シャフト9の第1端部9a側に弾性シム42及びスペーサ43を設けた場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、出力シャフト9の第2端部9b側に弾性シム42及びスペーサ43を設けてもよい。出力シャフト9の両端部9a,9bに、弾性シム42及びスペーサ43を設けてもよい。また、弾性シム42又はスペーサ43のいずれかを設けてもよい。
【0088】
[第2実施形態]
<減速機構>
次に、
図1を援用し、
図3に基づいて、第2実施形態について説明する。
図3は、第2実施形態の減速機構201の概略構成図である。なお、第1実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明する。また、第2実施形態の説明中、第1実施形態と同一名称を用いて説明を省略する場合がある。
【0089】
図1に示すように、第2実施形態では、協調ロボット100に減速機構201が用いられる点は、前述の第1実施形態と同様である。
図2に示すように、第2実施形態の減速機構201は、いわゆる偏心揺動型の減速機構であり、ケース2と、キャリア7と、入力クランクシャフト8と、出力シャフト9と、揺動歯車11,12と、を備える点は、前述の第1実施形態の各減速機構1A,1B,1Cと同様である。
【0090】
前述の第1実施形態と第2実施形態との相違点は、第1実施形態では、出力シャフト9の第1端部9a側に弾性シム42が設けられているのに対し、第2実施形態では、弾性シム42が設けられていない点にある。
すなわち、第1キャリア13の一面13cには、シム収納凹部41(
図2参照)が形成されておらず、第1キャリア13の一面13cは、全体に渡って平坦である。そして、出力シャフト9の第1端部9a側には、スペーサ43のみが設けられている。
このように構成した場合でも、前述の第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0091】
本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、ロボットとしての協調ロボット100に、減速機構1A~1C,201を用いた場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではない。2つの部材(第1部材、第2部材)を有し、2つの部材の間に減速機構1A~1C,201が設けられ、2つの部材のうち第1部材に対して第2部材が回転される構成のさまざまなロボットに、上述の実施形態の構成を採用できる。
【0092】
上述の実施形態では、歯車機構の一例として減速機構1A~1C,201について説明した。しかしながら歯車機構はこれらに限られるものではない。減速機構1A~1Cに代わって2つの歯車が噛合わされ、2つの歯車のうちの一方の歯車に回転力を伝達するか、又はその一方の歯車の回転力が伝達されるシャフトを有するさまざまな歯車機構に上述の実施形態の構成を採用できる。
【0093】
上述の実施形態では、減速機構1A~1C,201はいわゆる偏心揺動型の減速機構であり、ケース2の中心軸線C1と同軸の1つのセンタークランクシャフト(入力クランクシャフト8,208)を有する場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、偏心揺動型の減速機構として、複数の入力クランクシャフト8,208を連動して回転させることにより、揺動歯車11,12を揺動回転させる構成でもよい。この場合、入力クランクシャフト8,208自体が中心軸線C1回りに公転しながら自転される。
【0094】
上述の協調ロボット100は、駆動源としてサーボモータ107,108,109を用いた場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、駆動源として、サーボモータに代わって他の電動モータ、油圧モータ、エンジン等、さまざまな駆動源を用いることができる。
【0095】
上述の実施形態では、各キャリア13,14は、例えば樹脂により形成されている場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、出力シャフト孔13b,14bの内周面の面粗度Raが1.6μm以下であり、かつ出力シャフト孔13b,14bの内周面の出力シャフト9に対する静摩擦係数が0.2以下であればよい。
【0096】
例えば各キャリア13,14を樹脂以外の材料により形成し、出力シャフト孔13b,14bの内周面に、フッ素樹脂加工を施してもよい。各キャリア13,14のうち、少なくとも出力シャフト孔13b,14bの内周面を含む出力シャフト9の周囲のみ樹脂により形成してもよい。この他、各キャリアを焼結金属や鋳物で形成してもよい。出力シャフト孔13b,14bの内周面を含む出力シャフト9の周囲のみ、焼結金属や鋳物により形成してもよい。
【0097】
上述の実施形態では、弾性シム42やスペーサ43は円環状である場合について説明した。そして、出力シャフト9の第1端部9aに装着されている場合について説明した。しかしながらこれに限られるものではなく、弾性シム42やスペーサ43によって、ケース2、各キャリア13,14及び出力シャフト9の製造誤差を吸収できる形状であればよい。また、弾性シム42及びスペーサ43によって、各キャリア13,14に対する出力シャフト9の位置調整を行うことができる形状であればよい。例えば、弾性シム42やスペーサ43をU字状に形成してもよい。この場合、例えば第1キャリア13に形成されたシム収納凹部41に、弾性シム42のみならずスペーサ43も収納するように構成するとよい。このように構成することで、弾性シム42やスペーサ43の形状に関わらず弾性シム42やスペーサ43の脱落を防止できる。
【0098】
本明細書で開示した実施形態のうち、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0099】
1A,1B,1C,201…減速機構(回転機構)
2…ケース(内歯歯車)
6…内歯ピン(内歯)
7…キャリア(回転体、支持部)
8…入力クランクシャフト
9…出力シャフト(シャフト)
9a…第1端部(端部)
9b…第2端部(端部)
11…第1揺動歯車(回転体、揺動歯車)
12…第2揺動歯車(回転体、揺動歯車)
13…第1キャリア(回転体、支持部)
13b,14b…出力シャフト孔(シャフト挿入孔、支持部側シャフト孔)
14…第2キャリア(回転体、支持部)
21a…第1偏心部(偏心部)
21b…第2偏心部(偏心部)
23a,23b…外歯
25a…第1出力シャフト挿入孔(シャフト挿入孔、歯車側シャフト孔)
25b…第2出力シャフト挿入孔(シャフト挿入孔、歯車側シャフト孔)
42…弾性シム(シム)
43…スペーサ(シム)
100…協調ロボット(ロボット)
101…ベース部(第1部材、第2部材)
102…回転ヘッド(第1部材、第2部材)
103…アームユニット(第1部材、第2部材)
111…第1アーム(第1部材、第2部材)
112…第2アーム(第1部材、第2部材)