(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078888
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】遷移金属含有水酸化物、遷移金属含有水酸化物を前駆体とした正極活物質、遷移金属含有水酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230531BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230531BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230531BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192201
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】牧田 朱里
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮太
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 正洋
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二次電池に優れた電池容量を付与しつつ、遷移金属含有水酸化物が焼成される際に、遷移金属含有水酸化物に含有される添加金属元素の溶出を防止し、二次電池のサイクル特性と安全性を向上させることができる遷移金属含有水酸化物を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体であるニッケル、コバルト、マンガンからなる群から選択された少なくとも1種の主要金属元素と、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、ルテニウム、銅、亜鉛、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、ケイ素、スズ、リン及びビスマスからなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素と、を含有し、式(1)A=[S2×(X1-B1)/X2×(S1-B1)]×S3・・・(1)で算出されるA値が、3.00J/g・℃以下である遷移金属含有水酸化物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、遷移金属含有水酸化物であって、
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の主要金属元素と、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素と、を含有する遷移金属含有水酸化物であり、
下記式(1)
A=[S2×(X1-B1)/X2×(S1-B1)]×S3・・・(1)
(式(1)中、S1は標準物質の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、X1は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、B1は示差走査熱量測定に用いる試料用容器の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、S2は標準物質の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、X2は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、S3は標準物質の比熱容量(単位:J/g・℃)を表す。)で算出されるA値が、3.00J/g・℃以下である遷移金属含有水酸化物。
【請求項2】
下記式(2)
Ni1-x-yM1xM2y(OH)2+a・・・(2)
(式(2)中、M1はコバルト(Co)及び/またはマンガン(Mn)、M2はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素、0≦x<1.00、0<y≦0.20、x+y≦1.00、aは価数を満足させる数値を表す。)で表される請求項1に記載の遷移金属含有水酸化物。
【請求項3】
前記遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットした曲線における100℃以上125℃の範囲に、吸熱ピークの極大点を有さない請求項1または2に記載の遷移金属含有水酸化物。
【請求項4】
累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)が、5.0μm以上15.0μm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の遷移金属含有水酸化物。
【請求項5】
SO4成分の含有量が、0.60質量%以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の遷移金属含有水酸化物。
【請求項6】
前記添加金属元素として、アルミニウム(Al)を含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の遷移金属含有水酸化物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の遷移金属含有水酸化物がリチウム化合物と焼成された、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項8】
非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、遷移金属含有水酸化物の製造方法であって、
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の主要金属元素とマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素とを含有する原料液と、錯化剤を含む溶液と、を反応槽内に添加、混合し、前記反応槽内の反応溶液が液温40℃基準でのpHが9以上13以下の範囲に維持されるように、pH調整剤を前記反応槽内の前記反応溶液に供給することで、前記反応溶液中にて共沈反応をさせて、遷移金属含有水酸化物を得る晶析工程を含み、
前記晶析工程における前記反応溶液の反応温度が35℃以上75℃以下であり、[前記原料液の単位時間あたりの添加量(単位:L/min)/前記反応槽の容積(単位:L)]×100の値が0.06以上0.25以下にて前記原料液を前記反応槽に添加する、遷移金属含有水酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記錯化剤が、アンモニウムイオン供給体であり、前記反応溶液のアンモニウムイオン濃度が、2.0g/L以上15.0g/L以下である請求項8に記載の遷移金属含有水酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属含有水酸化物、遷移金属含有水酸化物を前駆体とした正極活物質、遷移金属含有水酸化物の製造方法であり、特に、遷移金属含有水酸化物が焼成される際に、遷移金属含有水酸化物に含有されている微量元素である添加金属元素の相転移や偏析による溶出を防止することで、二次電池に優れた電池容量を付与しつつ、二次電池のサイクル特性と安全性を向上させることができる遷移金属含有水酸化物、遷移金属含有水酸化物を前駆体とした正極活物質、遷移金属含有水酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減等の観点から、携帯機器、動力源として電気を使用または併用する車両等、広汎な技術分野で二次電池が使用されている。二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池は、小型化、軽量化に適し、高利用率、高サイクル特性等といった特性を有している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質は、前駆体である遷移金属含有水酸化物をリチウム化合物と混合後に焼成することで製造される焼成物である。二次電池の電池容量を向上させるためには、正極活物質の製造時に、遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物の反応性を向上させる必要がある。そこで、遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物の混合物の焼成温度を所定の温度以上に設定する必要がある。
【0004】
しかし、遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物の混合物を所定の温度以上で焼成すると、二次電池の電池容量は向上するものの、遷移金属含有水酸化物に含有されている微量元素である添加金属元素が、相転移や偏析により溶出してしまうことがあった。遷移金属含有水酸化物から添加金属元素が溶出してしまうと、正極活物質中における添加金属元素の分散状態が不均一化して、二次電池のサイクル特性が低下する場合があった。
【0005】
そこで、添加金属元素であるアルミニウム及び他の遷移金属元素が溶解する金属水溶液に、ヒドロキシカルボン酸等のキレート化合物を添加して、水に対するアルミニウムの溶解性を向上させた上で、金属水溶液のpHを制御することで、アルミニウム及び他の遷移金属すべてを同様のpH範囲で共沈させて、遷移金属含有水酸化物を製造することが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、上記製造方法を用いることで、アルミニウムの分散状態が均一化された遷移金属含有水酸化物を製造することができ、遷移金属含有水酸化物をリチウム化合物と混合して焼成した正極活物質は、アルミニウムの分散状態が均一化されて、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性を付与できるとしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、二次電池の電池容量を向上させるために所定の温度以上で遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物の混合物を焼成すると、依然として、アルミニウムが相転移や偏析により溶出してしまうことがあり、遷移金属含有水酸化物からアルミニウム等の添加金属元素が溶出するのを防止して二次電池に優れたサイクル特性を付与する点で改善の余地があった。また、アルミニウム等の添加金属元素が遷移金属含有水酸化物から溶出すると、正極活物質の結晶構造安定性や電池構造安定性が低下して、二次電池の安全性が低下する場合があるという問題があった。
【0007】
そこで、添加金属元素の偏析を防止するために、遷移金属含有水酸化物の焼成温度を前記所定の温度よりも低い温度に設定すると、添加金属元素の偏析による溶出を防止できるものの、二次電池の電池容量が低下してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、二次電池に優れた電池容量を付与しつつ、遷移金属含有水酸化物が焼成される際に、遷移金属含有水酸化物に含有されている微量元素である添加金属元素の相転移や偏析による溶出を防止することで、二次電池のサイクル特性と安全性を向上させることができる遷移金属含有水酸化物及び遷移金属含有水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の遷移金属含有水酸化物は、示差走査熱量測定(Differental scanning calorimetry(略してDSC))により得られる熱容量を制御することで、優れた電池容量を付与できる焼成温度で遷移金属含有水酸化物を焼成しても、添加金属元素が相転移や偏析により溶出してしまうことを防止するものである。また、本発明の遷移金属含有水酸化物の製造方法は、反応溶液の温度範囲を所定の範囲内に制御しつつ、反応槽の容積に対する原料液の添加量を所定の範囲内に制御することで、示差走査熱量測定により得られる熱容量が制御された遷移金属含有水酸化物を製造するものである。
【0011】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、遷移金属含有水酸化物であって、
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の主要金属元素と、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素と、を含有する遷移金属含有水酸化物であり、
下記式(1)
A=[S2×(X1-B1)/X2×(S1-B1)]×S3・・・(1)
(式(1)中、S1は標準物質の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、X1は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、B1は示差走査熱量測定に用いる試料用容器の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、S2は標準物質の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、X2は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、S3は標準物質比熱容量(単位:J/g・℃)を表す。)で算出されるA値が、3.00J/g・℃以下である遷移金属含有水酸化物。
[2]下記式(2)
Ni1-x-yM1xM2y(OH)2+a・・・(2)
(式(2)中、M1はコバルト(Co)及び/またはマンガン(Mn)、M2はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素、0≦x<1.00、0<y≦0.20、x+y≦1.00、aは価数を満足させる数値を表す。)で表される[1]に記載の遷移金属含有水酸化物。
[3]前記遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットした曲線における100℃以上125℃の範囲に、吸熱ピークの極大点を有さない[1]または[2]に記載の遷移金属含有水酸化物。
[4]累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)が、5.0μm以上15.0μm以下である[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の遷移金属含有水酸化物。
[5]SO4成分の含有量が、0.60質量%以下である[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の遷移金属含有水酸化物。
[6]前記添加金属元素として、アルミニウム(Al)を含有する[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の遷移金属含有水酸化物。
[7][1]乃至[6]のいずれか1つに記載の遷移金属含有水酸化物がリチウム化合物と焼成された、非水電解質二次電池用正極活物質。
[8]非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である、遷移金属含有水酸化物の製造方法であって、
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の主要金属元素とマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素とを含有する原料液と、錯化剤を含む溶液と、を反応槽内に添加、混合し、前記反応槽内の反応溶液が液温40℃基準でのpHが9以上13以下の範囲に維持されるように、pH調整剤を前記反応槽内の前記反応溶液に供給することで、前記反応溶液中にて共沈反応をさせて、遷移金属含有水酸化物を得る晶析工程を含み、
前記晶析工程における前記反応溶液の反応温度が35℃以上75℃以下であり、[前記原料液の単位時間あたりの添加量(単位:L/min)/前記反応槽の容積(単位:L)]×100の値が0.06以上0.25以下にて前記原料液を前記反応槽に添加する、遷移金属含有水酸化物の製造方法。
[9]前記錯化剤が、アンモニウムイオン供給体であり、前記反応溶液のアンモニウムイオン濃度が、2.0g/L以上15.0g/L以下である[8]に記載の遷移金属含有水酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遷移金属含有水酸化物によれば、式(1):A=[S2×(X1-B1)/X2×(S1-B1)]×S3(式(1)中、S1は標準物質の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、X1は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、B1は示差走査熱量測定に用いる試料用容器の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、S2は標準物質の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、X2は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、S3は標準物質比熱容量(単位:J/g・℃)を表す。)で算出されるA値が3.00J/g・℃以下に制御されていることにより、優れた電池容量を付与できる焼成温度で遷移金属含有水酸化物を焼成しても、遷移金属含有水酸化物に含まれる添加金属元素が偏析してしまうことを防止できる。従って、本発明の遷移金属含有水酸化物によれば、二次電池に優れた電池容量を付与しつつ、焼成時における添加金属元素の偏析による溶出防止によって二次電池のサイクル特性と安全性を向上させることができる。
【0013】
本発明の遷移金属含有水酸化物によれば、遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットした曲線における100℃以上125℃の範囲に、吸熱ピークの極大点を有さないことにより、優れた電池容量を付与できる焼成温度で遷移金属含有水酸化物を焼成しても、遷移金属含有水酸化物に含まれる添加金属元素が偏析してしまうことを、さらに確実に防止できる。
【0014】
本発明の遷移金属含有水酸化物によれば、累積体積百分率が50体積%の粒子径(D50)が、5.0μm以上15.0μm以下であることにより、上記A値を3.00J/g・℃以下に制御することが容易化される。
【0015】
本発明の遷移金属含有水酸化物によれば、SO4成分の含有量が、0.60質量%以下であることにより、焼成時にリチウム化合物と遷移金属含有水酸化物との反応を最適化することを容易にすることができる。
【0016】
本発明の遷移金属含有水酸化物の製造方法によれば、晶析工程における反応溶液の反応温度が35℃以上75℃以下であり、[原料液の単位時間あたりの添加量(単位:L/min)/反応槽の容積(単位:L)]×100の値が0.06以上0.25以下にて原料液を反応槽に添加することにより、上記A値を3.00J/g・℃以下に制御した遷移金属含有水酸化物を製造することができる。
【0017】
本発明の遷移金属含有水酸化物の製造方法によれば、晶析工程で使用する錯化剤がアンモニウムイオン供給体であり、反応溶液のアンモニウムイオン濃度が2.0g/L以上15.0g/L以下であることにより、上記A値を3.00J/g・℃以下に制御された遷移金属含有水酸化物をより確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例及び比較例の遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の遷移金属含有水酸化物について詳細を説明する。
【0020】
本発明の遷移金属含有水酸化物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子であり、遷移金属含有水酸化物は、複数の一次粒子の凝集体である。本発明の遷移金属含有水酸化物の粒子形状は、特に限定されず、多種多様な形状となっており、例えば、略球形状、断面視略楕円形状、断面視台形状等を挙げることができる。
【0021】
本発明の遷移金属含有水酸化物の組成としては、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属である主要金属元素と、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素と、を含有する。本発明の遷移金属含有水酸化物の具体的な組成としては、例えば、下記式(2)
Ni1-x-yM1xM2y(OH)2+a・・・(2)
(式(2)中、M1はコバルト(Co)及び/またはマンガン(Mn)、M2はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素、0≦x<1.00、0<y≦0.20、x+y≦1.00、aは価数を満足させる数値を表す。)で表される遷移金属含有水酸化物が挙げられる。このうち、xの数値範囲は、電池容量がさらに向上する点から、0<x<1.00がより好ましく、0.02≦x≦0.30が特に好ましい。また、yの数値範囲は、電池容量がさらに向上する点から、0<y≦0.10がより好ましく、0.02≦y≦0.08が特に好ましい。
【0022】
本発明の遷移金属含有水酸化物の具体的な組成としては、例えば、上記式(2)において、添加金属元素M2としては、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)が好ましく、アルミニウム(Al)が特に好ましい。
【0023】
本発明の遷移金属含有水酸化物は、下記式(1)
A=[S2×(X1-B1)/X2×(S1-B1)]×S3・・・(1)
(式(1)中、S1は標準物質の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、X1は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、B1は示差走査熱量測定に用いる試料用容器の示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流(単位:mW)、S2は標準物質の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、X2は遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定に用いた質量(単位:mg)、S3は標準物質比熱容量(単位:J/g・℃)を表す。)から算出されるA値が3.00J/g・℃以下に制御されている。上記式(1)にて算出されるA値が3.00J/g・℃以下に制御されていることにより、優れた電池容量を付与できる焼成温度で遷移金属含有水酸化物を焼成(例えば、遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物の混合物を焼成)しても、遷移金属含有水酸化物に含まれる添加金属元素が偏析してしまうことを防止できる。従って、本発明の遷移金属含有水酸化物を焼成して得られた正極活物質では、添加金属元素の偏析による溶出が防止されているので、前記正極活物質を搭載した二次電池は、優れた電池容量を有しつつ、焼成時における添加金属元素の偏析による溶出の防止によって、優れたサイクル特性を得ることができる。また、焼成時における添加金属元素の偏析による溶出の防止によって、前記正極活物質の結晶構造安定性と電池構造安定性の低下が防止されて、前記正極活物質を搭載した二次電池は優れた安全性を有している。
【0024】
通常、遷移金属含有水酸化物は懸濁液の状態にて反応槽から取り出され、懸濁液に対して100℃~125℃で乾燥処理を実施することで遷移金属含有水酸化物を得るところ、上記式(1)から算出されるA値が低い場合には、通常の乾燥処理温度での乾燥処理では蒸発しきれない水分である遷移金属含有水酸化物粒子の内部に存在する水分が、低減されていることになる。一方で、上記式(1)から算出されるA値が高い場合には、通常の乾燥処理温度の乾燥処理では蒸発しきれない水分である遷移金属含有水酸化物粒子の内部に存在する水分が、多く含まれることになる。
【0025】
通常、遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物の混合物を作製して焼成するにあたり、リチウム化合物を添加する前に、予め、遷移金属含有水酸化物を300℃以上800℃以下の温度で酸化処理をして遷移金属含有酸化物を調製する。遷移金属含有水酸化物を酸化処理して遷移金属含有酸化物を調製する際に、遷移金属含有水酸化物粒子内部の水分が存在していた部分は空隙となる。遷移金属含有水酸化物粒子の内部に存在する水分が低減されている、すなわち、上記A値が低いと、酸化処理して得られた遷移金属含有酸化物粒子内部の空隙が低減されているので、遷移金属含有水酸化物から調製した遷移金属含有酸化物とリチウム化合物との反応性が適度に抑えられ、その結果、遷移金属含有水酸化物から調製した遷移金属含有酸化物の焼成時に添加金属元素が偏析してしまうことを防止できると考えられる。
【0026】
一方で、遷移金属含有水酸化物粒子の内部に存在する水分が多い、すなわち、A値が高いと、酸化処理して得られた遷移金属含有酸化物粒子内部の空隙が多くなっているので、遷移金属含有水酸化物から調製した遷移金属含有酸化物とリチウム化合物との反応性が必要以上に高くなり、その結果、遷移金属含有水酸化物の添加金属元素が偏析してしまうと考えられる。上記から、遷移金属含有水酸化物について、上記式(1)から算出されるA値を制御することにより、優れた電池容量を付与できる焼成温度で遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物を焼成しても、遷移金属含有水酸化物に含まれる添加金属元素が偏析してしまうことを防止できると考えられる。
【0027】
優れた電池容量を付与できる焼成温度としては、例えば、遷移金属含有水酸化物にリチウム化合物を反応させる温度としては、結晶成長の観点から比較的高い温度帯が好ましく、例えば、600℃以上1000℃以下の温度が挙げられる。
【0028】
上記式(1)から算出されるA値は3.00J/g・℃以下であれば、特に限定されないが、その上限値は、優れた電池容量を付与できる焼成温度(例えば、600℃以上1000℃以下の温度)で遷移金属含有水酸化物を焼成しても添加金属元素が偏析してしまうことをより確実に防止できる点から、2.50J/g・℃が好ましく、2.20J/g・℃が特に好ましい。一方で、上記式(1)から算出されるA値の下限値は、遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物の反応性が抑制されすぎてしまうことを防止する点から、1.00J/g・℃が好ましく、1.30J/g・℃がより好ましく、1.50J/g・℃がさらに好ましく、1.60J/g・℃が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0029】
本発明の遷移金属含有水酸化物では、優れた電池容量を付与できる焼成温度で遷移金属含有水酸化物を焼成しても、添加金属元素が偏析してしまうことをさらに確実に防止できる点から、遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットしたDSC曲線における100℃以上125℃の範囲には、吸熱ピークの極大点を有さないことが好ましい。
【0030】
本発明の遷移金属含有水酸化物の粒子径は、特に限定されないが、例えば、累積体積百分率が50体積%の粒子径(以下、単に「D50」ということがある。)の下限値は、上記式(1)から算出されるA値を3.00J/g・℃以下に制御することが容易化できつつ、正極活物質の正極への搭載密度を向上させる点から、5.0μmが好ましく、7.0μmがより好ましく、10.0μmが特に好ましい。一方で、遷移金属含有水酸化物のD50の上限値は、上記式(1)から算出されるA値を3.00J/g・℃以下に制御することが容易化できつつ、電解質との接触性を向上させる点から、15.0μmが好ましく、13.0μmが特に好ましい。上記したD50は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0031】
本発明の遷移金属含有水酸化物は、後述するように、原料液として、主要金属と硫酸の塩及び添加金属と硫酸の塩を水に溶解させた金属イオンを含む水溶液を使用することがある。従って、本発明の遷移金属含有水酸化物は、硫酸成分(SO4成分)を含有することがある。遷移金属含有水酸化物100質量%中におけるSO4成分の含有量は、特に限定されないが、その上限値は、リチウム化合物の反応を効率よく進行させる点から、0.60質量%が好ましく、0.50質量%が特に好ましい。一方で、SO4成分の含有量の下限値は、低ければ低いほど好ましいが、工業的な生産コストの観点から、例えば、0.10質量%が好ましく、0.15質量%が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0032】
次に、本発明の遷移金属含有水酸化物の製造方法について説明する。本発明の遷移金属含有水酸化物の製造方法では、晶析工程を含んでいる。晶析工程とは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属である主要金属元素の塩とマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素の塩とを含む溶液(原料液)と、錯化剤を含む溶液と、を反応槽内に添加、混合し、反応槽内の反応溶液が液温40℃基準でのpHが、例えば、9以上13以下の範囲、好ましくはpH11~13の範囲に維持されるように、pH調整剤を反応槽内の反応溶液に供給することで、反応溶液中にて主要金属元素と添加金属元素を中和晶析にて共沈反応をさせて、遷移金属含有水酸化物粒子を得る工程である。晶析工程において、反応槽の容積に対する原料液の単位時間あたりの添加量を所定の範囲に制御しつつ、反応槽内の反応溶液の温度範囲を所定の範囲に制御することで、上記式(1)から算出されるA値が3.00J/g・℃以下に制御された本発明の遷移金属含有水酸化物を製造することができる。従って、本発明の遷移金属含有水酸化物を製造するにあたり、従来使用されていた物質以外の特別な成分を使用する必要はない。
【0033】
具体的には、共沈反応により、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の主要金属元素の塩(例えば、硫酸塩)とマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素の塩(例えば、硫酸塩)とを含む溶液(原料液)に、錯化剤を含む溶液とpH調整剤とを、適宜、添加して、反応槽内の混合溶液(反応溶液)を、適宜、撹拌することで、反応槽内にて中和反応させて晶析させることにより、遷移金属含有水酸化物粒子を調製し、遷移金属含有水酸化物粒子を含むスラリー状の懸濁物を得る。懸濁物の溶媒としては、例えば、水が挙げられる。従って、原料液としては、主要金属元素の塩と添加金属元素の塩を含む水溶液が挙げられる。また、錯化剤を含む溶液としては、錯化剤の水溶液が挙げられる。
【0034】
錯化剤としては、水溶液中で、主要金属元素のイオン及び添加金属元素のイオンと錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ウラシル二酢酸、及びグリシン等が挙げられる。また、アンモニウムイオン供給体としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム等が挙げられる。
【0035】
共沈反応に際しては、反応溶液である水溶液のpH値を調整するため、上記の通り、適宜、pH調整剤を添加する。pH調整剤としては、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)が挙げられる。
【0036】
共沈反応に際しては、上記の通り、反応槽の容積に対する原料液の単位時間あたりの添加量を所定の範囲に制御しつつ、反応槽内の反応溶液の温度範囲を所定の範囲に制御する。具体的には、反応槽の容積V(L)に対する原料液の単位時間あたりの添加量B(L/min)の割合としては、[添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値が0.06以上0.25以下の範囲となるように、原料液を反応槽に添加する。[添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値が0.06以上0.25以下の範囲に制御されることで、共沈反応の際に、結晶成長速度を適度に制御することで、上記式(1)から算出されるA値を3.00J/g・℃以下に制御することに寄与できる。
【0037】
また、反応溶液の温度としては、35℃以上75℃以下の範囲となるように調整する。反応溶液の温度を35℃以上75℃以下の範囲とすることで、共沈反応の際に、結晶成長速度を適度に制御することで、遷移金属含有水酸化物内部の空隙を抑えるのに適した結晶成長の速度となり、上記式(1)から算出されるA値を3.00J/g・℃以下に制御することに寄与できる。
【0038】
上記から、[添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値と反応溶液の温度を上記範囲に制御することで、上記A値を3.00J/g・℃以下に制御した遷移金属含有水酸化物を製造することができる。
【0039】
このうち、[添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値の上限値は、上記式(1)から算出されるA値をより確実に3.00J/g・℃以下に制御する点から、0.25が好ましく、0.22がより好ましく、0.20がさらに好ましく、0.18が特に好ましい。一方で、[添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値の下限値は、上記式(1)から算出されるA値で表される比熱容量をより確実に3.00J/g・℃以下に制御する点から、0.06が好ましく、0.07が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0040】
また、反応溶液の温度の上限値は、上記式(1)から算出されるA値をより確実に3.00J/g・℃以下に制御する点から、75℃が好ましく、70℃がより好ましく、60℃がさらに好ましく、55℃が特に好ましい。一方で、反応溶液の温度の下限値は、上記式(1)から算出されるA値をより確実に3.00J/g・℃以下に制御する点から、35℃が好ましく、37℃がより好ましく、40℃が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0041】
また、錯化剤としてアンモニウムイオン供給体を使用する場合、アンモニウムイオン供給体は、原料液の供給部とは別の供給部から反応槽へ添加することが好ましい。すなわち、反応槽には、原料液の供給部と、原料液の供給部とは異なるアンモニウムイオン供給体の供給部と、を設けることが好ましい。また、アンモニウムイオン供給体を使用する場合、反応溶液のアンモニウムイオン濃度は、特に限定されないが、反応溶液のアンモニウムイオン濃度の上限値は、上記式(1)から算出されるA値をより確実に3.00J/g・℃以下に制御する点から、15.0g/Lが好ましく、14.7g/Lがより好ましく、14.4g/Lが特に好ましい。一方で、反応溶液のアンモニウムイオン濃度の下限値は、特に限定されないが、上記式(1)から算出されるA値をより確実に3.00J/g・℃以下に制御する点から、2.0g/Lが好ましく、4.0g/Lがより好ましく、5.0g/Lがさらに好ましく、6.0g/Lが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。また、反応槽における反応雰囲気は、不活性雰囲気下が好ましく、例えば、窒素雰囲気下が好ましい。
【0042】
反応槽に設置された撹拌装置としては、例えば、三枚羽根等の撹拌羽根を備えた撹拌機が挙げられ、撹拌条件は、撹拌羽根等の回転数を所定範囲に適宜調整すればよい。
【0043】
本発明の遷移金属含有水酸化物の製造方法に用いる反応槽としては、例えば、得られた遷移金属含有水酸化物を反応槽から分離するためにオーバーフロー管からオーバーフローさせる連続式反応槽や、反応終了まで遷移金属含有水酸化物を系外に排出しないバッチ式反応槽を挙げることができる。
【0044】
上記のように、晶析工程で得られた遷移金属含有水酸化物粒子を懸濁物からろ過後、アルカリ水溶液で洗浄して、遷移金属含有水酸化物粒子に含まれる不純物(例えば、SO4成分)を除去する。その後、固液分離工程にて固相と液相を分離して、遷移金属含有水酸化物を含む固相を水洗し、遷移金属含有水酸化物を、100℃~130℃程度の温度で加熱処理して乾燥させることで、粉体状の遷移金属含有水酸化物を得ることができる。
【0045】
本発明の遷移金属含有水酸化物は、非水電解質二次電池用正極活物質の前駆体として使用することができる。以下に、本発明の遷移金属含有水酸化物を前駆体とした非水電解質二次電池の正極活物質(以下、単に「正極活物質」ということがある。)について説明する。正極活物質は、前駆体である本発明の遷移金属含有水酸化物が、例えば、リチウム化合物と混合した状態で焼成された態様となっている。正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、放電容量が高い二次電池を得る点から、三方晶系の結晶構造または六方晶型の結晶構造または単斜晶型の結晶構造であることが好ましい。
【0046】
遷移金属含有水酸化物を前駆体とした正極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極活物質として使用することができる。
【0047】
正極活物質を製造する際には、焼成の前処理として、遷移金属含有水酸化物を遷移金属含有酸化物に調製する工程を実施して、遷移金属含有酸化物を前駆体として使用してもよい。遷移金属含有水酸化物から遷移金属含有酸化物を調製する方法としては、リチウム化合物を添加する前に、酸素ガスが存在する雰囲気下、例えば、300℃以上800℃以下の温度、好ましくは500℃以上750℃以下の温度で、1時間以上10時間以下にて加熱する酸化処理を挙げることができる。
【0048】
次に、正極活物質の製造方法について説明する。例えば、正極活物質の製造方法は、まず、遷移金属含有水酸化物(または前処理を行って得られた遷移金属含有酸化物)にリチウム化合物を添加、混合して、遷移金属含有水酸化物(または遷移金属含有酸化物)とリチウム化合物との混合物を調製する。リチウム化合物としては、リチウムを有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、ハロゲン化リチウム等を挙げることができる。また、リチウム化合物の配合量は、所望のリチウム組成の正極活物質となるように適宜選択可能である。
【0049】
次に、上記混合物を焼成することで正極活物質を製造することができる。焼成工程の条件としては、非水電解質二次電池の電池容量が向上する焼成温度、例えば、600℃以上1000℃以下の焼成温度が挙げられる。また、焼成して得られた正極活物質(すなわち、本発明の遷移金属含有水酸化物とリチウム化合物との焼成品)の、X線回折パターンから分析した(104)面における半値幅は、非水電解質二次電池の電池容量が向上する焼成温度にて上記混合物が焼成されると、所定の範囲内に制御される。遷移金属含有水酸化物が、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の主要金属元素と、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、リン(P)及びビスマス(Bi)からなる群から選択された少なくとも1種の添加金属元素と、を含有する組成、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)を含有する組成では、焼成して得られた正極活物質の、X線回折パターンから分析した(104)面における半値幅が、0.220°以上0.250°以下の範囲内になっていると、非水電解質二次電池の電池容量が向上する焼成温度(例えば、600℃以上1000℃以下の焼成温度)にて上記混合物が焼成されている。上記(104)面における半値幅の範囲のうち、非水電解質二次電池の電池容量がさらに向上する焼成温度となっている点から、0.230°以上0.240°以下の範囲が好ましい。
【0050】
また、焼成工程の条件としては、昇温速度50℃/h以上300℃/h以下、焼成時間5時間以上20時間以下が挙げられる。焼成の雰囲気については、特に限定されないが、例えば、大気、酸素などが挙げられる。また、焼成に用いる焼成炉としては、特に限定されないが、例えば、静置式のボックス炉やローラーハース式連続炉などが挙げられる。
【0051】
本発明の遷移金属含有水酸化物は、電池容量が向上する焼成温度で焼成される際に、遷移金属含有水酸化物に含有されている微量元素である添加金属元素の相転移や偏析による溶出を防止できるので、正極活物質中における添加金属元素の分散状態が均一化されていることから、非水電解質二次電池に優れたサイクル特性も付与できる。また、本発明の遷移金属含有水酸化物は、電池容量が向上する焼成温度で焼成される際に、添加金属元素の偏析による溶出を防止できるので、正極活物質の結晶構造が安定化されて非水電解質二次電池に優れた安全性も付与できる。
【実施例0052】
次に、本発明の遷移金属含有水酸化物の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0053】
実施例及び比較例の遷移金属含有水酸化物の製造
実施例1の遷移金属含有水酸化物の製造
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸アルミニウムとをニッケル:コバルト:アルミニウムのモル比を91.0:4.0:5.0の割合にて溶解した水溶液である原料液(主要金属元素と添加金属元素を含む水溶液)、硫酸アンモニウム水溶液(アンモニウムイオン供給体)及び水酸化ナトリウム水溶液(pH調整剤)を、連続式反応槽へ滴下して、晶析工程を行った。晶析工程では、[原料液の単位時間あたりの添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値が0.18となるように原料液を反応槽へ滴下し、反応槽内の混合液の液温は45℃に維持し、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で12.22、アンモニア濃度を11.0g/Lに維持しながら、撹拌羽根を備えた撹拌機により連続的に攪拌した。反応槽内は、窒素雰囲気とした。中和反応により晶析した遷移金属含有水酸化物粒子は、反応槽のオーバーフロー管からオーバーフローさせて、遷移金属含有水酸化物粒子の懸濁物として取り出した。上記のようにして、オーバーフローにより取り出した遷移金属含有水酸化物粒子の懸濁物を、ろ過後、アルカリ水溶液(8質量%の水酸化ナトリウム水溶液)で洗浄して、固液分離した。その後、分離した固相に対して水洗し、さらに、脱水して、100℃~130℃での乾燥処理を施して、粉体状の遷移金属含有水酸化物を得た。
【0054】
実施例2の遷移金属含有水酸化物の製造
ニッケル:コバルト:アルミニウムのモル比を87.0:9.0:4.0に変更した原料液を用い、[原料液の単位時間あたりの添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値が0.07となるように原料液を反応槽へ滴下し、反応槽内の混合液の液温を40℃に維持し、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で12.03、アンモニア濃度を7.5g/Lに維持した以外は、実施例1と同様にして、遷移金属含有水酸化物を製造した。
【0055】
実施例3の遷移金属含有水酸化物の製造
[原料液の単位時間あたりの添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値が0.15となるように原料液を反応槽へ滴下し、反応槽内の混合液の液温を50℃に維持し、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で12.15、アンモニア濃度を11.7g/Lに維持した以外は、実施例1と同様にして、遷移金属含有水酸化物を製造した。
【0056】
実施例4の遷移金属含有水酸化物の製造
[原料液の単位時間あたりの添加量B(L/min)/反応槽の容積V(L)]×100の値が0.07となるように原料液を反応槽へ滴下し、反応槽内の混合液の液温を40℃に維持し、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で12.49、アンモニア濃度を14.2g/Lに維持した以外は、実施例1と同様にして、遷移金属含有水酸化物を製造した。
【0057】
比較例1の遷移金属含有水酸化物の製造
反応槽内の混合液の液温を30℃に維持し、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で12.41、アンモニア濃度を10.7g/Lに維持した以外は、実施例1と同様にして、遷移金属含有水酸化物を製造した。
【0058】
実施例と比較例の遷移金属含有水酸化物の物性の評価項目は以下の通りである。
【0059】
(1)平均粒子径(D50)
粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA-920)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。測定条件として、水を溶媒とし、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを1mL投入し、サンプル投入後の透過率は85±3%の範囲とし、超音波を発生させサンプルを分散させた。また、解析時の溶媒屈折率は、水の屈折率である1.333を使用した。
【0060】
(2)SO4成分の含有量
得られた遷移金属含有水酸化物を塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製、Optima7300DV)を用いてS成分の含有量を測定した。測定によって得られたS成分の含有量をSO4成分に換算することで、遷移金属含有水酸化物中のSO4成分の含有量を算出した。
【0061】
(3)示差走査熱量測定により得られる125℃における熱流
示差走査熱量測定装置としてエスアイアイナノテクノロジー株式会社の「示差走査熱量計DSC6220」を使用して、示差走査熱量測定装置の試料用容器とアルミニウム(Al)製の試料用容器に投入した20mgの実施例と比較例の遷移金属含有水酸化物(式(1)のX2に対応)について、窒素雰囲気下にて下記の測定プログラムにて測定を行った。その結果から、それぞれ、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットしたDSC曲線を作成した。得られたDSC曲線から、125℃における遷移金属含有水酸化物の熱流(式(1)のX1に対応)と125℃における試料用容器の熱流(式(1)のB1に対応)を求めた。また、標準物質について、標準物質であるα-アルミナを試料用容器に20mg投入(式(1)のS2に対応)し、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットしたDSC曲線を作成した。得られたDSC曲線から、125℃における標準物質の熱流(式(1)のS1を求めた。標準物質の比熱容量(式(1)のS3に対応)は、0.930J/g・℃の値を使用した。標準物質については、DSC測定に使用される公知の物質であれば、特に限定されないが、例えばα-アルミナやサファイアなどが挙げられる。
<測定プログラム>
1.30℃ 5分保温
2.30℃~180℃ 10℃/min 昇温
3.180℃ 5分保温
【0062】
実施例と比較例の遷移金属含有水酸化物、標準物質及び試料用容器の125℃における熱流の測定結果を用いて、A=[S2×(X1-B1)/X2×(S1-B1)]×S3で表される式(1)にて、A値を算出した。
【0063】
実施例と比較例の遷移金属含有水酸化物の晶析工程の条件と物性の評価結果について、下記表1に示す。
【0064】
【0065】
実施例と比較例の遷移金属含有水酸化物を用いた正極活物質の製造
実施例の遷移金属含有水酸化物と比較例の遷移金属含有水酸化物に対して、それぞれ、予め、焼成の前処理として、遷移金属含有水酸化物を酸化処理して遷移金属含有酸化物に調製する酸化処理工程を実施した。酸化処理として、大気雰囲気下、遷移金属含有水酸化物を550℃の温度で3時間加熱した。その後、遷移金属含有酸化物に、Li/(Ni+Co+Al)のモル比が1.02となるように、水酸化リチウム粉末を添加して混合し、遷移金属含有酸化物と水酸化リチウムの混合物を得た。得られた混合物に対して、焼成温度750℃、昇温速度170℃/h、焼成時間6時間の焼成条件にて酸素雰囲気下にて焼成処理を行って、正極活物質を得た。
【0066】
実施例と比較例の遷移金属含有水酸化物から得られた正極活物質の評価項目は以下の通りである。
【0067】
(4)アルミニウムの偏析状態
EDS搭載走査型電子顕微鏡 SEM-EDS JSM-IT1500(日本電子株式会社)を用いて、正極活物質のアルミニウムの偏析状態を観察し、以下の基準にて評価した。
◎:アルミニウムの偏析が全く認められない。
○:アルミニウムの偏析がほとんど認められない。
△:アルミニウムの偏析が若干認められる。
×:アルミニウムの偏析が多く認められる。
【0068】
(5)(104)面における半値幅
CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=44.5±1の範囲に現れる回折ピークの半値幅を測定した。具体的には、粉末X線回折測定は、X線回折装置(株式会社リガク製、UltimaIV)を用いて行った。正極活物質の粉末を専用の基板に充填し、CuKα線源(40kV/40mA)を用いて、回折角2θ=0°~100°、サンプリング幅0.03°、スキャンスピード20°/minの条件にて測定を行うことで、粉末X線回折図形を取得した。取得した粉末X線回折図形を、積分強度計算ソフトウェアを用いて平滑化処理やバックグラウンド除去処理を行い、該粉末X線回折図形から、2θ=44.5±1の範囲に現れる回折ピークの半値幅を算出した。2θ=44.5±1の範囲に現れる回折ピークの半値幅は、以下の基準にて評価した。
○:0.230°以上0.240°以下
△:0.220°以上0.230°未満または0.240°超0.250°以下
×:0.220°未満または0.250°超
【0069】
実施例と比較例の遷移金属含有水酸化物から得られた正極活物質の評価結果を、下記表2に示す。
【0070】
【0071】
上記表1、2から、式(1)で算出されるA値が3.00J/g・℃以下である実施例1~4の遷移金属含有水酸化物では、電池容量が向上する焼成温度である750℃で焼成して正極活物質を製造しても、アルミニウムの偏析は防止されており、実施例1~4の遷移金属含有水酸化物を前駆体とした正極活物質にて組み上げた非水電解質二次電池に、優れたサイクル特性も付与できることが判明した。また、実施例1~4の遷移金属含有水酸化物を前駆体とした正極活物質では、(104)面における半値幅が0.220°~0.250°の範囲であり、750℃の焼成温度が、実施例1~4の遷移金属含有水酸化物を前駆体とした正極活物質にて組み上げた非水電解質二次電池の電池容量が向上する焼成温度であることが裏付けられた。また、実施例1~4の遷移金属含有水酸化物では、電池容量が向上する焼成温度で焼成される際に、添加金属元素の偏析を防止できるので、非水電解質二次電池に優れた安全性も付与できることが判明した。
【0072】
特に、式(1)で算出されるA値が1.94J/g・℃以下である実施例2~4の遷移金属含有水酸化物では、非水電解質二次電池の電池容量が向上する、正極活物質の(104)面における半値幅が0.220°~0.250°の範囲となる750℃で焼成して正極活物質を製造しても、アルミニウムの偏析がほとんど認められない、または全く認められないことから、優れた電池容量やサイクル特性と安全性をより確実に付与できることが判明した。また、式(1)で算出されるA値で表される比熱容量が1.69J/g・℃である実施例2、式(1)で算出されるA値で表される比熱容量が1.94J/g・℃である実施例3では、アルミニウムの偏析がほとんど認められないだけではなく、正極活物質の(104)面における半値幅が○評価であり、非水電解質二次電池の電池容量もさらに向上することが判明した。また、
図1に示すように、実施例1~4の遷移金属含有水酸化物では、DSC曲線における100℃以上125℃の範囲に、吸熱ピークの極大点を有さなかった。なお、
図1は、実施例及び比較例の遷移金属含有水酸化物の示差走査熱量測定により得られる、縦軸に熱流(単位:mW)、横軸に温度(単位:℃)をプロットしたDSC曲線である。
【0073】
一方で、式(1)で算出されるA値が4.09J/g・℃である比較例1の遷移金属含有水酸化物では、非水電解質二次電池の電池容量が向上する、正極活物質の(104)面における半値幅が0.222°となる750℃で焼成して正極活物質を製造すると、アルミニウムの偏析が多く認められ、電池容量が優れていても、非水電解質二次電池のサイクル特性と安全性が低下する場合があることが判明した。また、
図1に示すように、比較例1の遷移金属含有水酸化物では、DSC曲線における100℃以上125℃の範囲に、吸熱ピークの極大点を有していた。
A値が制御されている本発明の遷移金属含有水酸化物は、二次電池に優れた電池容量を付与しつつ、遷移金属含有水酸化物が焼成される際に、遷移金属含有水酸化物に含有されている添加金属元素の偏析による溶出を防止することで、二次電池のサイクル特性と安全性を向上させることもできるので、特に、高機能機器に搭載されるリチウムイオン二次電池の分野で利用価値が高い。