(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078896
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】電磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 7/06 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
H01F7/06 C
H01F7/06 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192216
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】302038741
【氏名又は名称】新電元メカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111899
【弁理士】
【氏名又は名称】永山 陽二
(72)【発明者】
【氏名】樋口 丈洋
【テーマコード(参考)】
5E048
【Fターム(参考)】
5E048AA09
5E048AD02
5E048CB05
(57)【要約】
【課題】 部品点数が増加させずにコイルボビンのがたつきを抑えること可能な構成を有する電磁石を提供すること。
【解決手段】 ケース50に設けた係止部52がコイルボビン25の移動を規制するので、スペーサなどの別の部品を設けることなく、コイルボビン25のがたつきを抑えることが実現される。また、ソレノイド49においては、係止部52の底面53の面積を中間領域57の中心軸に直交する断面の面積よりも小さくしたので、吸引力(推力)を低下させずに、コイルボビン25のがたつきを抑えることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒形状に形成された巻胴部と、該巻胴部の第1の端部に設けられた第1のフランジ部と、前記巻胴部の第2の端部に設けられた第2のフランジ部を備えたコイルボビンと、
コイルワイヤを前記コイルボビンの前記巻胴部に巻回して形成されたコイルと、
磁性材からなり、略円筒形状に形成されると共に、内部に前記コイルボビン及び前記コイルが配置されたケースを有する電磁石であって、
前記ケースは、第1の端部、又は、第1の端部の近傍部分の内周面側に突出するように形成されると共に、第2の端部の側に向いた平坦面を備え、該平坦面が前記コイルボビンの前記第1のフランジ部に当接して前記コイルボビンが前記ケースの内部において移動することを規制するようになされた係止部を備えていることを特徴とする電磁石。
【請求項2】
磁性材からなると共に、前記ケースの第1の端面に当接するように設けられたエンドキャップを有し、
前記ケースは、前記第1の端部の端面の面積が前記係止部よりも中間部寄りの中間領域の中心軸と直交する方向における断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の電磁石。
【請求項3】
前記ケースは、前記第2の端部、又は、前記第2の端部の近傍部分の内周面側に突出するように形成されると共に、前記第1の端部の側に向いた平坦面を備え、該平坦面が前記コイルボビンの前記第2のフランジ部に当接して前記コイルボビンが前記ケースの内部において移動することを規制するようになされた別の係止部をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の電磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石に関し、特に、コイルボビンのがたつきを抑える構成を有する電磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
直動型のソレノイドや回転型のソレノイドなどの電磁石には、磁気回路を構成する磁性材に磁束の流れを生成するために励磁用のコイルが設けられている。このコイルは、ほとんどの場合、コイルボビンにコイルワイヤを巻回することによって形成されている。
図14は、従来技術に係る電磁石の断面図である。
図14において、100はソレノイド、101はフレーム、102a及び102bは脚部、102cは底部、102dは突出部、103はコイルボビン、103aはフランジ部、104はサブフレーム、104aは透孔、105は励磁コイル、106は筒体、106aはフランジ部、107はシール材、108は可動鉄心、109はエアダンパー室である。
【0003】
図14は、特開2011-071241号公報で開示されている電磁石である。ソレノイド100は、オープンフレーム型のソレノイドであり、ヨークと外殻を兼ねるフレーム101とサブフレーム104とを備えている。フレーム101は、一対の脚部102a及び102bと、底部102cとを備えている。底部102cには、その中央に半抜きプレス加工により突出部102dが形成されている。さらに、突出部102dが挿入されるように、筒体106の一方の開口端を底部102cにシール材107を介して押し当てることによって、筒体106の一方の開口端を気密状態になるようにしている。また、可動鉄心108を筒体106の他方の開口端から挿通して、可動鉄心108の一方の端部、筒体106の内面、及び、突出部102dの内面で形成される空間をエアダンパー室109としている。可動鉄心108は、コイルボビン103に巻回された励磁コイル105に通電すると、底部102cに向かって筒体106の内部を摺動する。このとき、エアダンパー室109のエアは圧縮され、筒体106の内面と可動鉄心108との僅かな間隙を通り、サブフレーム104の透孔104aを介して外部に少しずつ漏出して行く。
【0004】
ところで、ソレノイド100のように、エアダンパーを設ける、あるいは、コイルボビンの近傍にセンサなどのデバイスを設けるなどの構造上の理由から、外殻となるヨークとコイルボビンとの間に間隙を設けざるを得ないことがある。ヨークとコイルボビンとの間に間隙があると、コイルボビンのがたつきの原因となるので、何らかの手段によってコイルボビンを所定位置に保持する必要がある。特開2011-071241号公報のソレノイド100においては、筒体106のエアダンパー室109側のフランジ部106a、及び、シール材107をコイルボビン103のエアダンパー室109側のフランジ部103aに当接させてコイルボビン103を保持している。
【0005】
このような間隙は、比較的狭いものであれば、特開2011-071241号公報のソレノイド100のような手段によって対応することが可能である。間隙がこれ以上に広くなってくると、例えば非磁性材から形成したスペーサを設けるなどの別の手段が必要となってくる。しかし、スペーサを設けることは、部品点数が増加することになり、さらに電磁石の性能向上に寄与するものでもないので、好ましい解決手段とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、部品点数が増加させずにコイルボビンのがたつきを抑えること可能な構成を有する電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、略円筒形状に形成された巻胴部と、該巻胴部の第1の端部に設けられた第1のフランジ部と、前記巻胴部の第2の端部に設けられた第2のフランジ部を備えたコイルボビンと、コイルワイヤを前記コイルボビンの前記巻胴部に巻回して形成されたコイルと、磁性材からなり、略円筒形状に形成されると共に、内部に前記コイルボビン及び前記コイルが配置されたケースを有する電磁石であって、前記ケースは、第1の端部、又は、第1の端部の近傍部分の内周面側に突出するように形成されると共に、第2の端部の側に向いた平坦面を備え、該平坦面が前記コイルボビンの前記第1のフランジ部に当接して前記コイルボビンが前記ケースの内部において移動することを規制するようになされた係止部を備えていることを特徴とする電磁石である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、磁性材からなると共に、前記ケースの第1の端面に当接するように設けられたエンドキャップを有し、前記ケースは、前記第1の端部の端面の面積が前記係止部よりも中間部寄りの中間領域の中心軸と直交する方向における断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の電磁石。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ケースは、前記第2の端部、又は、前記第2の端部の近傍部分の内周面側に突出するように形成されると共に、前記第1の端部の側に向いた平坦面を備え、該平坦面が前記コイルボビンの前記第2のフランジ部に当接して前記コイルボビンが前記ケースの内部において移動することを規制するようになされた別の係止部をさらに備えていることを特徴とする電磁石である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、ケースに設けた係止部がコイルボビンの移動を規制するので、スペーサなどの別の部品を設けることなく、コイルボビンのがたつきを抑えることが実現される。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、電磁石に通電したときの吸引力を低下させずに、コイルボビンのがたつきを抑えることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、ケースの第1の端部又はその近傍部分、及び、第2の端部又はその近傍部分に対して、それぞれ係止部と別の係止部とを設けることによって、ケースの向きに関係なく電磁石を組み立てられる、すなわち、ケースの第1の端部と第2の端部とを識別した上で電磁石を組み立てる必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る直動型のソレノイドの断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部及びその周辺の拡大断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドの断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部及びその周辺の拡大断面図である。
【
図5】本発明の第1及び第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
【
図6】本発明の第3の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
【
図7】本発明の第4の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドのケースの第1の端部の端面と係止部よりも中間部寄りの中間領域の中心軸と直交する方向における断面の面積比と推力との関係を示すグラフである。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係る直動型のソレノイドの解析モデルを示す模式図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に係る直動型のソレノイドの解析モデルを示す模式図である。
【
図11】本発明の第5の実施の形態に係る直動型のソレノイドの解析モデルを示す模式図である。
【
図12】本発明の第1及び第2の実施の形態に係る直動型のソレノイド、並びに、比較例の解析結果を示す表である。
【
図13】本発明の第5の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明に係る電磁石は、直動型のソレノイドに限られるものではなく、コイルボビン、ヨークとして機能するケースを備えていれば回転型のソレノイド等にも適用できるものである。さらに、可動磁極とケースの第1(一方)の端部とが接していれば、さらに好ましく適用できる。また、以下に説明する本発明の第1乃至第5の実施の形態は、シャフトを有していない直動型のソレノイドであり、可動磁極とスプールが一体になったものであるが、本発明はスプールやシャフト、スプリング等の有無に関係なく適用できるものである。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る直動型のソレノイドの断面図である。
図1において、10はケース、11は第1の端部近傍領域、12は係止部、17は中間領域、18は第2の端部近傍領域、19は肉薄部、20はコイルボビン、21は巻胴部、22aは第1のフランジ部、22bは第3のフランジ部、23は第2のフランジ部、23はコイル、30は固定磁極、31は構造部材、32は突出部、33はエンドキャップ兼固定部材、34は案内部材、35はスプール一体型可動磁極、36は可動磁極部、37は突出部、38は円筒状部、39はフランジ部、40はスプリング受、41は受け座部、41aは突出部、41bは離脱防止部、42はフィラーリング、43はスプリング、50はソレノイドである。
【0017】
本発明の第1の実施の形態に係るソレノイド44の概要について説明する。ソレノイド44は、
図1に示すように、略円筒状の外観を呈しており、ケース10、エンドキャップ兼固定部材33及び案内部材34によって外殻が形成されている。また、ソレノイド44は、スプール一体型可動磁極35が直進運動する直動型の電磁石であり、図示していないが、油圧回路に設けられたスプール弁と一体的に設けられている。なお、ソレノイド44においては、スプール一体型可動磁極35、固定磁極30、ケース10、コイル24、コイルボビン20、構造部材31の突出部32、及び、案内部材34の円筒状部38の中心軸は、すべて一致している。そこで、以下の第1の実施の形態に係るソレノイド44に関する説明において「中心軸」と記載した場合には、これらに共通している上述の中心軸を指すものとする。さらに、特許請求の範囲において「中心軸」と記載した場合には、可動磁極や固定磁極などに共通している中心軸を指すものとする。また、スプール一体型可動磁極35は、中心軸に沿って摺動し、図示していないスプール弁の流路を操作するように構成されている。くわえて、固定磁極30、スプール一体型可動磁極35、案内部材34、ケース10、エンドキャップ兼固定部材33及び構造部材31は、全て磁性材から形成されており、コイル24への通電によって生成される磁束の経路となる。
【0018】
また、ソレノイド44においては、詳しく後述するように、コイル24が巻回されているコイルボビン20がケース10、エンドキャップ兼固定部材33及び案内部材34からなる外殻の内部でがたつかないように、つまり、ソレノイド44の外部から加わる振動等によってコイル24がたつかないようにするために、第1の端部近傍領域11に係止部12を設けている点に特徴がある。なお、本件おいて、第1の端部近傍領域11における「端部近傍領域」とは、第1の端部(
図1においてケース10の下端部)からコイルボビン20の第1のフランジ部22aに接するところまでの範囲を示すものとする。また、第2の端部近傍領域18における「端部近傍領域」とは、第2の端部(
図1においてケース10の上端部)からコイルボビン20の第2のフランジ部23に接するところまでの範囲を示すものとする。また、中間領域17は、第1の端部近傍領域11と第2の端部近傍領域18との間の領域を示すものとする。
【0019】
さらに、コイルボビン20は、巻胴部21の第1の端部に第1のフランジ部22aが形成され、巻胴部21の第2の端部に第2のフランジ部23が形成されている。くわえて、コイルボビン20は、巻胴部21の第1のフランジ部22aよりも所定距離だけ内側となる位置に第3のフランジ部22bが形成されている。第1のフランジ部22a、第2のフランジ部23及び第3のフランジ部22bは、略円板形状に形成されており、中心軸と直交する向きに配置されている。コイル24は、巻胴部21の第2のフランジ部23と第3のフランジ部22bとの間にコイルワイヤを巻回することによって形成されている。固定磁極30は、略円筒形状に形成されており、エンドキャップ兼固定部材33側の開口部には構造部材31の突出部32が圧入されている。スプリング43は、両端部が突出部32とスプリング受40の受け座部41とに当接した状態で設けられており、弾発力によってスプリング受40をスプール一体型可動磁極35側に常時押圧している。
【0020】
スプリング受40は、突出部41aが固定磁極30によって摺動可能に支持されると共にスプール一体型可動磁極35の突出部37に対向するように、かつ、離脱防止部41bがスプリング43に挿入された状態で突出部32に対向するように設けられている。また、スプール一体型可動磁極35は、可動磁極部36が案内部材34の円筒状部38によって摺動可能に支持されており、コイル24に通電すると固定磁極30に吸引されて摺動する。また、スプール一体型可動磁極35は、固定磁極30に吸引されて摺動すると、可動磁極部36のスプリング受40側に形成された突出部37がスプリング受40の突出部41aに当接して押圧する。その一方、スプリング受40は、スプリング43によって可動磁極部36側に押圧されている。したがって、スプール一体型可動磁極35は、コイル24の励磁による吸引力とスプリング43の弾発力とが釣り合うところで停止する。フィラーリング42は、固定磁極30と案内部材34の円筒状部38とを接続するものであり、油圧回路内を流れる作動油がコイル24側に浸入することを防止している。
【0021】
続けて、本発明の第1の実施の形態に係るソレノイド44のケース10について詳しく説明する。
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部及びその周辺の拡大断面図である。
図2において用いた符号は、すべて
図1と同じものを示す。さらに、
図5は、本発明の第1及び第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
図5において、13は底面、14は内側傾斜面、15は内側垂直面、16は平坦面であり、その他の符号は
図1と同じものを示す。なお、ケース10の
図5に表した部分は、本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースと全く同じ形状となっているが、ケース50の符号等については後述する。
【0022】
ソレノイド44のケース10は、
図2及び
図3に示すように、第1の端部近傍領域11の内周面側に突出する係止部12を形成している。係止部12は、第1の端部近傍領域11の内周面において円環状に突出しており、平坦面16がコイルボビン20の第1のフランジ部22aに当接している。また、係止部12は、内側垂直面15における径がコイルボビン20の第1のフランジ部22aの外径よりも小さくなるように形成されている。したがって、ソレノイド44に対して外部から衝撃や振動が加わり、コイルボビン20をエンドキャップ兼固定部材33側に移動させるような力が作用しても、係止部12がコイルボビン20の移動を規制するので、コイルボビン20は所定位置にそのまま保持されることになる。
【0023】
なお、この実施の形態に係るソレノイド44においては、係止部12を円環状に形成しているが、他の構成にすることも可能である。例えば、完全な円環状にせずに切り欠き部を設けると共に、第1のフランジ部に突出部を設け、係止部の切り欠き部に第1のフランジ部に突出部が挿入されるようにしてもよい。このようにすれば、コイルボビンを所定の方向に向けた上でソレノイドを組み立てることが容易になる。さらに、ケースにおいて、中心軸に対して90°未満となる範囲に扇状に形成されると共に、相対向するように配置された2つの係止部を形成し、コイルボビンにおいては、第1のフランジ部の縁辺部の相対向する2の領域に、かつ、中心軸に対して90°未満となる範囲にそれぞれ突出部を形成してもよい。このように構成することによって、コイルボビンを90°回転させるとコイルボビンをケースから離脱させることができ、逆に、コイルボビンをケースに挿入した後、コイルボビンを90°回転させるとコイルボビンがケースから離脱しないようにすることが可能となる。
【0024】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るソレノイドについて説明する。
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドの断面図である。
図3において、24はコイル、25はコイルボビン、26は巻胴部、27は第1のフランジ部、28は第2のフランジ部、29はコイル、45は可動磁極、45aは貫通孔、46は固定磁極、46aは径小部、46bは径大部、47は案内部材、47aは肉薄部、47bは肉厚部、48は傾斜面、49はソレノイド、50はケース、51は第1の端部近傍領域、52は係止部である。また、
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部及びその周辺の拡大断面図である。
図4において用いた符号は、全て
図3と同じものを示す。さらに、
図5は、本発明の第1及び第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
図5において、53は底面、54は内側傾斜面、55は内側垂直面、56は平坦面、57は中間領域、58は第2の端部近傍領域であり、その他の符号は
図3と同じものを示す。
【0025】
本発明の第2の実施の形態に係るソレノイド49は、
図3に示すように、略円筒状の外観を呈しており、ケース50、固定磁極46及び案内部材47によって外殻が形成されている。なお、ソレノイド49において、ケース50、固定磁極46、案内部材47、コイル24及びコイルボビン20の中心軸は、すべて一致している。よって、以下の第2の実施の形態に係るソレノイド49に関する説明において「中心軸」と記載した場合には、これらに共通している上述の中心軸を指すものとする。案内部材47は、基端側の肉薄部47aと先端側の肉厚部47bを備えている。肉薄部47aは、可動磁極45が内部に配置されると共に摺動可能に支持している。可動磁極45は、中心軸に沿って貫通孔45aが形成されており、さらに、案内部材47の肉薄部47aに案内され、可動磁極45が肉厚部47bとの境界面である傾斜面48まで摺動可能になされている。
【0026】
固定磁極46は、コイル24に挿入された状態で配置される径小部46aと、ケース50に圧入される径大部46bとを備えている。コイルボビン25は、巻胴部26の第1の端部に第1のフランジ部27が形成され、巻胴部26の第2の端部に第2のフランジ部28が形成されている。さらに、第1のフランジ部27及び第2のフランジ部28は、略円板形状に形成されており、中心軸と直交する向きに配置されている。コイル29は、コイルボビン25の巻胴部26にコイルワイヤを巻回して形成されている。また、ソレノイド49のケース50は、
図4及び
図5に示すように、係止部52の内周面の下側部分を斜めに切り欠くような内側傾斜面54を形成し、可動磁極45及び案内部材47の肉薄部47aに接している底面53の幅Tbが中間領域57の中心軸に直交する断面の幅Taよりも狭くなるように構成している。これは、後述するように、発明者による実験や解析の結果、底面53の面積が中間領域57の中心軸に直交する断面の面積よりも小さいと、コイル29への通電時に可動磁極45を固定磁極46側に吸引する力が増加することを知得したことによる。
【0027】
続けて、本発明の第3及び第4の実施の形態に係るソレノイドについて説明する。
図6は、本発明の第3の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
図6において、60はケース、61は第1の端部近傍領域、62は係止部、63は外側傾斜面、64は底面、65は内側垂直面、66は平坦面、67は中間領域である。また、
図7は、本発明の第4の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
図7において、70はケース、71は第1の端部近傍領域、72は係止部、73は底面、74は内側下方垂直面、75は内側上方垂直面、76は上向き平坦面、77は下向き平坦面、78は中間領域である。なお、第2及び第3の実施の形態に係るソレノイドにおいて、ケース60及びケース70以外の構成部品は、全て第1の実施の形態に係るソレノイド44と同じであるので、ケース60及びケース70以外の構成部品についての説明は省略する。
【0028】
本発明の第3の実施の形態に係るソレノイドのケース60は、
図6に示すように、係止部52と同様に、第1の端部近傍領域61に係止部62を形成している。また、係止部62の底面64は、その面積が中間領域67の中心軸に直交する断面の面積よりも小さくなるような幅Tcに形成されている。ところで、係止部62は、内周面の下側部分を斜めに切り欠くように内側傾斜面54を形成した係止部52とは異なり、外周面の下側部分を斜めに切り欠くように外側傾斜面63を形成し、内周面側は内側垂直面65としている。後述するように、係止部の下側を斜めに切り欠く部分は、内周面側だけではなく、外周面側であってもほぼ同じ効果が得られる。係止部62の平坦面66は、係止部52の平坦面56と同様にコイルボビン25の第1のフランジ部27に当接するように設けられる。なお、ケース60の図示してない部分は、ケース50と同じ構成であるので、説明を省略する。
【0029】
本発明の第4の実施の形態に係るソレノイドのケース70は、
図7に示すように、係止部52と同様に、第1の端部近傍領域71に係止部72を形成している。また、係止部72の底面73は、その面積が中間領域78の中心軸に直交する断面の面積よりも小さくなるような幅Tdに形成されている。ところで、係止部72は、内周面又は外周面の下側部分を斜めに切り欠いている係止部52又は係止部62とは異なり、内周面の下端部から垂直に立ち上がる内側下方垂直面74が形成され、内側下方垂直面74の上端部からケース70の中心軸側に突出するように形成されている。また、係止部72は、上向き平坦面76と下向き平坦面77との2つの平坦面と内側上方垂直面75によって囲まれるように形成されている。このように、係止部を斜めに切り欠くような傾斜面を形成しないものにおいてもほぼ同じ効果が得られる。上向き平坦面76は、係止部52の平坦面56と同様にコイルボビン20の第1のフランジ部22aに当接するように設けられる。なお、ケース70の図示してない部分は、ケース50と同じ構成であるので、説明を省略する。
【0030】
次に、本発明の第2乃至第4の実施の形態に係るソレノイドの磁場解析等の結果について説明する。
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイドのケースの第1の端部の端面と係止部よりも中間部寄りの中間領域の中心軸と直交する方向における断面の面積比と推力との関係を示すグラフである。また、
図9は、本発明の第1の実施の形態に係る直動型のソレノイドの解析モデルを示す模式図である。
図9において、80はケース部材、81は係止部、82は底面、83はエンドキャップ部材、84は磁極部材、85はコイルである。さらに、
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る直動型のソレノイドの解析モデルを示す模式図である。
図10において、86は係止部、87は底面であり、その他の符号は
図9と同じものを示す。
図11は、本発明の第4の実施の形態に係る直動型のソレノイドの解析モデルを示す模式図である。
図11において、88は係止部、89は底面であり、その他の符号は
図9と同じものを示す。くわえて、
図12は、本発明の第1及び第2の実施の形態に係る直動型のソレノイド、並びに、比較例の解析結果を示す表である。また、
図13は、本発明の第4の実施の形態に係る直動型のソレノイドにおけるケースの係止部の細部の形状を示す拡大切断部端面図である。
図13において、90はケース、91は第1の端部近傍領域、92は係止部、93は底面、94は内側垂直面、95は平坦面、96は中間領域である。
【0031】
本発明の第2の実施の形態に係るソレノイドに関する説明で触れたように、推力(吸引力)を向上するために、例えば、ケース50を底面53の面積が中間領域57の中心軸に直交する断面の面積よりも小さくなるように形成している。しかし、ソレノイドの大きさに比して相対的に小さい吸引力しか要求されない用途では、第5の実施の形態に係る直動型のソレノイドのケース90のように構成することも可能である。すなわち、ケース90は、第1の端部近傍領域91に係止部92を形成している。係止部92は、平坦面95と底面93との2つの平坦面と内側垂直面94によって囲まれるように形成されている。平坦面95は、係止部52の平坦面56と同様にコイルボビン25の第1のフランジ部27に当接するように設けられる。なお、ケース90の図示してない部分は、ケース50と同じ構成であるので、説明を省略する。
【0032】
第5の実施の形態に係るソレノイドのケース90は、第2及び第3の実施の形態に係るソレノイドのように下側を切り欠いておらず、また、第3の実施の形態に係るソレノイドのように底面の面積を小さくするための段差も形成していない。したがって、係止部92の底面93の幅Teは、中間領域96の中心軸に直交する断面の幅Taよりもかなり大きく、底面93の面積は中間領域96の中心軸に直交する断面の面積よりもかなり大きくなる。以上のように、第5の実施の形態に係るソレノイドのケース90は、第2の実施の形態に係るソレノイドのケースよりも推力が低下するが、ケースの母材を切削加工する回数は少なくなるので、ソレノイドの製造コストを他の実施の形態よりも多少低減することができる。
【0033】
次に、発明者が第2、第3及び第5の実施の形態に係るソレノイドをモデル化して磁場解析を行った結果について説明する。
図9は、第1の実施の形態に係るソレノイドに対応するものであり、ケース部材80、エンドキャップ部材83、磁極部材84がコイル85を取り囲むように配置されており、係止部81及び底面82はケース10の係止部12及び底面13に対応している。また、
図10は、第2の実施の形態に係るソレノイドに対応するものであり、ケース部材80、エンドキャップ部材83、磁極部材84がコイル85を取り囲むように配置されており、係止部86及び底面87はケース60の係止部62及び底面64に対応している。
図11は、第4の実施の形態に係るソレノイドに対応するものであり、ケース部材80、エンドキャップ部材83、磁極部材84がコイル85を取り囲むように配置されており、係止部88及び底面89はケース90の係止部92及び底面93に対応している。なお、
図9乃至
図11のモデルにおいて、本発明との関連性がない又は小さい部分の構成は簡略化している。
【0034】
図8は、ケース部材80の中心軸に直交する断面における面積に対して底面87の面積の比率を変化させたものをグラフ化したものであり、磁気回路の未飽和状態、飽和状態、これらの中間状態における吸引力について解析している。この解析結果によれば、磁気回路の未飽和状態において、底面87の面積をケース部材80の中心軸に直交する断面における面積の0.6~0.7倍とした範囲、並びに、飽和状態及び中間状態において、0.7~0.9倍とした範囲において、最も高い吸引力が得られることが分かった。また、底面87の面積をケース部材80の中心軸に直交する断面における面積よりも大きくして行くと、吸引力が漸次低減して行くことが分かった。以上を勘案すると、飽和状態に関係なく高い吸引力を得る観点から、底面87の面積をケース部材80の中心軸に直交する断面における面積の0.7~0.8倍とすると、最も有利であると言える。すなわち、本発明の第2の実施の形態に係る直動型のソレノイド49においては、ケース50の係止部52がコイルボビン25の移動を規制することに加えて、可動磁極45に対する吸引力が向上されるという効果がある。さらに、発明者が知得したところによれば、ケースに対して可動磁極が直接的に接離する構成であれば、ソレノイド49と構成が異なるものであっても、同様の効果が得られることが分かった。
【0035】
また、本発明の第2、第3及び第5の実施の形態に係る直動型のソレノイドのケースを比較したところ、内周面に傾斜面を形成(内側面取)した第1の実施の形態に係るソレノイドが外周面に傾斜面を形成(外側面取)した第3の実施の形態に係るソレノイドよりも僅かに有利であり、傾斜面無し(面取無し)の第5の実施の形態に係るソレノイドの吸引力が明確に低いことが分かった。また、発明者の他の試作や実験の結果から、本発明の第4の実施の形態に係るソレノイドのように、傾斜面を形成する以外の手段でケースの底面の面積を狭くすることも吸引力の向上に有効であることが分かった。
【0036】
以上のように、本発明の第1乃至第5の実施の形態に係る電磁石においては、ケース10乃至60に設けた係止部12乃至92がコイルボビン20又はコイルボビン25の移動を規制するので、スペーサなどの別の部品を設けることなく、コイルボビン20又はコイルボビン25のがたつきを抑えることが実現される。また、本発明の第2乃至第4の実施の形態に係る電磁石においては、係止部52乃至72の底面53乃至73の面積を中間領域57乃至78の中心軸に直交する断面の面積よりも小さくしたので、吸引力(推力)を低下させずに、コイルボビン25のがたつきを抑えることができる。さらに、本発明の第1乃至第5の実施の形態に係る電磁石においては、ケースの第1の端部又はその近傍部分、及び、第2の端部又はその近傍部分に対して、それぞれ係止部と別の係止部とを設けることによって、ケースの向きに関係なく電磁石を組み立てられる、すなわち、ケースの第1の端部と第2の端部とを識別した上で電磁石を組み立てる必要がなくなる。
【0037】
本発明は以上に説明した内容に限定されるものではなく、例えば、本発明の各実施の形態に係るソレノイドをロータリソレノイド適用するなど、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限りにおいて種々の構成にすることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 ケース
11 第1の端部近傍領域
12 係止部
13 底面
14 内側傾斜面
15 内側垂直面
16 平坦面
17 中間領域
18 第2の端部近傍領域
19 肉薄部
20 コイルボビン
21 巻胴部
22a 第1のフランジ部
22b 第3のフランジ部
23 第2のフランジ部
24 コイル
25 コイルボビン
26 巻胴部
27 第1のフランジ部
28 第2のフランジ部
29 コイル
30 固定磁極
31 構造部材
32 突出部
33 エンドキャップ兼固定部材
34 案内部材
35 スプール一体型可動磁極
36 可動磁極部
37 突出部
38 円筒状部
39 フランジ部
40 スプリング受
41 受け座部
41a 突出部
41b 離脱防止部
42 フィラーリング
43 スプリング
44 ソレノイド
45 可動磁極
45a 貫通孔
46 固定磁極
46a 径小部
46b 径大部
47 案内部材
47a 肉薄部
47b 肉厚部
48 傾斜面
49 ソレノイド
50 ケース
51 第1の端部近傍領域
52 係止部
53 底面
54 内側傾斜面
55 内側垂直面
56 平坦面
57 中間領域
58 第2の端部近傍領域
60 ケース
61 第1の端部近傍領域
62 係止部
63 外側傾斜面
64 底面
65 内側垂直面
66 平坦面
67 中間領域
70 ケース
71 第1の端部近傍領域
72 係止部
73 外側傾斜面
74 内側下方垂直面
75 内側上方垂直面
76 上向き平坦面
77 下向き平坦面
78 中間領域
80 ケース部材
81 係止部
82 底面
83 エンドキャップ部材
84 磁極部材
85 コイル
86 係止部
87 底面
88 係止部
89 底面
90 ケース
91 第1の端部近傍領域
92 係止部
93 底面
94 内側垂直面
95 平坦面
96 中間領域
100 ソレノイド
101 フレーム
102a 脚部
102a 脚部
102c 底部
102d 突出部
103 コイルボビン
103a フランジ部
104 サブフレーム
104a 透孔
105 励磁コイル
106 筒体
106a フランジ部
107 シール材
108 可動鉄心
109 エアダンパー室