(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078953
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物、および、成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20230531BHJP
C08G 64/04 20060101ALI20230531BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230531BHJP
C08L 33/08 20060101ALI20230531BHJP
C08L 33/10 20060101ALI20230531BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20230531BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C08L69/00
C08G64/04
C08L101/00
C08L33/08
C08L33/10
C08K3/40
C08K5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192297
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】吉田 沙和
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002AA01X
4J002BC03X
4J002BC06X
4J002BC07X
4J002BG04X
4J002BG05X
4J002BG06X
4J002CF06X
4J002CF07X
4J002CF16X
4J002CG01W
4J002CL00X
4J002CN01X
4J002CN03X
4J002DL006
4J002EH027
4J002EH047
4J002EH097
4J002FD016
4J002FD030
4J002FD207
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
4J029AA09
4J029AB01
4J029AC01
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD10
4J029AE01
4J029BB13B
4J029HC05A
4J029JF141
4J029KB02
4J029KB05
4J029KC01
4J029KC02
4J029KD07
4J029KD09
4J029KE02
4J029KE06
4J029LA04
(57)【要約】
【課題】 透明性に優れ、離型性がよく、かつ、ガスの発生が抑制された成形品を提供可能な樹脂組成物、および、樹脂組成物から形成された成形品の提供。
【解決手段】 式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、ガラス充填剤と、エステル化合物を含む樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、ガラス充填剤7~100質量部を含み、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分の屈折率と、ガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下であり、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、エステル化合物を0.3~5.0質量部含み、エステル化合物が、炭素数40以上であり、融点60℃以上である、樹脂組成物。式(1)中、R
1はメチル基を表す。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、前記式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、ガラス充填剤と、エステル化合物を含む樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、ガラス充填剤5~100質量部を含み、
前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分の屈折率と、ガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下であり、
前記ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、エステル化合物を0.3~5.0質量部含み、
前記エステル化合物が、炭素数40以上であり、融点60℃以上である、
樹脂組成物。
式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化2】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含む、
請求項1に記載の樹脂組成物。
式(2)
【化3】
(式(2)中、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化4】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【請求項3】
前記他の熱可塑性樹脂の屈折率が1.4900~1.5500である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂中、式(1)で表される構成単位の割合が5質量%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記他の熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリレート重合体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含む、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含み、その質量比(b1/b2)が5~50/50~95である、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ガラス充填剤が扁平断面を有するガラス繊維を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記エステル化合物が、炭素数10~26の脂肪族カルボン酸と炭素数22以下の脂肪族アルコールとのエステル化合物を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記エステル化合物が、炭素数16~26の脂肪族飽和モノカルボン酸と炭素数16~22の一価脂肪族飽和アルコールとのエステル化合物、および/または、炭素数16~26の脂肪族飽和モノカルボン酸と、炭素数2~12の多価アルコールとのフルエステル化合物を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記樹脂組成物からガラス充填剤を除いた組成物のISO19252に準拠に従った動摩擦係数が0.40以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項13】
前記成形品が、ディスプレイ用部品、携帯情報端末部品、家庭用電気製品、または、室内調度品である、請求項12に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は機械的強度に優れると共に、耐熱性、透明性などに優れているために、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器分野、自動車分野など様々な分野において幅広く使用されている。
ポリカーボネート樹脂は、プラスチックガラスとしての用途も多く、各種方面で広く使用されている。しかしながら、プラスチックガラスとして従来の無機ガラスと比較すると、剛性が劣る傾向にある。この欠点を改良するために、ポリカーボネート樹脂にガラス充填剤を配合したガラス強化ポリカーボネート樹脂組成物が検討されている。
ポリカーボネート樹脂にガラス繊維等のガラス充填剤を配合することにより、弾性率、曲げ強度、耐衝撃性等の機械的物性を改善することができるが、ポリカーボネート樹脂とガラス充填剤との屈折率の差が大きいことに起因して、ポリカーボネート樹脂本来の優れた透明性が著しく損なわれるという課題がある。
【0003】
かかる問題を解決するため、特許文献1には、芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に、該芳香族ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が0.0150以下であるガラス繊維1~150重量部、およびポリオキシエチレングリコール成分を50重量%以上含むポリオキシアルキレングリコールまたはポリオキシエチレン誘導体1~40重量部を配合してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、ポリカーボネート樹脂にガラス充填剤を配合した樹脂組成物の透明性を向上させることは検討されている。しかしながら、用途によっては、前記樹脂組成物から形成される成形品の表面におけるガラス充填剤の浮きに由来する透明性が問題となる場合がある。ここで、本発明者らは、エステル化合物を配合することにより、熱可塑性樹脂成分のガラス転移温度を低下させ、ガラスの浮きを抑制した。しかしながら、成形時にガスが発生してしまう場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、透明性に優れ、かつ、ガスの発生が抑制され、離形性の良い成形品を提供可能な樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂として所定のものを用い、かつ、エステル化合物として所定のものを用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、前記式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂と、ガラス充填剤と、エステル化合物を含む樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、ガラス充填剤5~100質量部を含み、前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分の屈折率と、ガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下であり、前記ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、エステル化合物を0.3~5.0質量部含み、前記エステル化合物が、炭素数40以上であり、融点60℃以上である、樹脂組成物。
式(1)
【化1】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化2】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
<2>前記ポリカーボネート樹脂が、さらに、式(2)で表される構成単位を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
式(2)
【化3】
(式(2)中、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化4】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
<3>前記他の熱可塑性樹脂の屈折率が1.4900~1.5500である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記ポリカーボネート樹脂中、式(1)で表される構成単位の割合が5質量%以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記他の熱可塑性樹脂が、(メタ)アクリレート重合体を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含む、<5>に記載の樹脂組成物。
<7>前記(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含み、その質量比(b1/b2)が5~50/50~95である、<5>に記載の樹脂組成物。
<8>前記ガラス充填剤が扁平断面を有するガラス繊維を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記エステル化合物が、炭素数10~26の脂肪族カルボン酸と炭素数22以下の脂肪族アルコールとのエステル化合物を含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記エステル化合物が、炭素数16~26の脂肪族飽和モノカルボン酸と炭素数16~22の一価脂肪族飽和アルコールとのエステル化合物、および/または、炭素数16~26の脂肪族飽和モノカルボン酸と、炭素数2~12の多価アルコールとのフルエステル化合物を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11>前記樹脂組成物からガラス充填剤を除いた組成物のISO19252に準拠に従った動摩擦係数が0.40以下である、<1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<12><1>~<11>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<13>前記成形品が、ディスプレイ用部品、携帯情報端末部品、家庭用電気製品、または、室内調度品である、<12>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、透明性に優れ、離型性がよく、かつ、ガスの発生が抑制された成形品を提供可能な樹脂組成物、および、前記樹脂組成物から形成された成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0009】
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、前記式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂(以下、単に、「他の熱可塑性樹脂」ということがある)と、ガラス充填剤と、エステル化合物を含む樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、ガラス充填剤7~100質量部を含み、前記樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分の屈折率と、ガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下であり、前記ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部に対し、エステル化合物を0.3~5.0質量部含み、前記エステル化合物が、炭素数40以上であり、融点60℃以上であることを特徴とする。
式(1)
【化5】
(式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化6】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。)
【0010】
このような構成とすることにより、透明性に優れ、離型性がよく、かつ、ガスの発生が抑制された成形品を提供可能な樹脂組成物が得られる。
すなわち、本発明者らは、成形品の透明性を向上させるために、ポリカーボネート樹脂として、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂を用いることを検討した。ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂は、本来的に流動性が高いため、樹脂組成物の流動性を高めることができ、ガラス充填剤の周辺にも十分に熱可塑性樹脂成分を充填させることができる。このように充填性を高めると、ガラス充填剤の浮きも抑制でき、成形品の透明性の向上が期待できる。しかしながら、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂は、ガラス充填剤との屈折率差が大きい。そのため、かかる観点から透明性が劣ってしまうことが分かった。そこで、ポリカーボネート樹脂に加え、さらに、ガラス充填剤よりも屈折率の低い熱可塑性樹脂を配合し、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差を所定の範囲以下とすることによって、透明性を向上させることができたと推測される。さらに、エステル化合物を配合することにより、可塑性樹脂成分のガラス転移温度を低下させ、ガラスの浮きを抑制した。また、エステル化合物の種類によっては、ガスを発生してしまうことが分かった。そこで、炭素数40以上であり、融点60℃以上であるエステル化合物(以下、「所定のエステル化合物」ということがある)を配合することにより、ガスの発生も効果的に抑制できた。特に、本実施形態においては、断熱金型などを用いずに透明性を向上させることができる点で価値が高い。
【0011】
熱可塑性樹脂成分とは、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂および他の熱可塑性樹脂の合計を意味する。本実施形態で用いる樹脂組成物は、樹脂組成物のガラス充填剤を除く成分の、通常95質量%以上、好ましくは97質量%以上、より好ましくは99質量%以上が熱可塑性樹脂成分である。
【0012】
<式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を含む。
ポリカーボネート樹脂が式(1)で表される構成単位を含むことにより、光沢性に優れかつ、表面が平滑な成形品が得られる。
式(1)
【化7】
式(1)中、R
1はメチル基を表し、R
2は水素原子またはメチル基を表し、X
1は下記のいずれかの式を表し、
【化8】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【0013】
ZがCと結合して形成される脂環式炭化水素としては、シクロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。ZがCと結合して形成される置換基を有する脂環式炭化水素としては、上述した脂環式炭化水素基のメチル置換体、エチル置換体などが挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0014】
式(1)中、X
1が、
【化9】
である場合、R
3およびR
4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
またX
1が、
【化10】
の場合、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の2価の脂環式炭化水素基を形成するが、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
式(1)中、X
1は下記構造が好ましい。
【化11】
【0015】
上記式(1)で表される構成単位の好ましい具体例としては、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわち、ビスフェノールCから構成される構成単位(カーボネート構成単位)である。
【0016】
本実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0017】
本実施形態において、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂は、さらに、式(2)で表される構成単位を含んでいてもよい。ここで、式(2)で表される構成単位を含むとは、本実施形態の樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂が、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂であることの他、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物等であってもよい趣旨である。式(2)で表される構成単位を含むことにより、得られる成形品の耐熱性がより向上する傾向にある。
式(2)
【化12】
式(2)中、X
2は下記のいずれかの式を表し、
【化13】
R
3およびR
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、ZはCと結合して炭素数6~12の、置換基を有していてもよい脂環式炭化水素を形成する基を表す。
【0018】
式(2)中、X
2が、
【化14】
である場合、R
3およびR
4は、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
またX
2が、
【化15】
の場合、Zは、上記式(2)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6~12の2価の脂環式炭化水素基を形成するが、2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5-トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
式(2)中、X
2は下記構造が好ましい。
【化16】
【0019】
本実施形態では、ポリカーボネート樹脂は、式(2)で表される構成単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0020】
本実施形態において、ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位および式(2)で表される構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。他の構成単位としては、以下に示すジヒドロキシ化合物由来の構成単位が例示される。
【0021】
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルエチル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-(1-メチルプロピル)フェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4'-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4'-(1,4-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4'-ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-6-メチル-3-tert-ブチルフェニル)ブタン。
【0022】
また、他の構成単位の一実施形態として、国際公開第2017/099226号の段落0008に記載の式(2)で表される構成単位、国際公開第2017/099226号の段落0043~0052の記載、特開2011-046769号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
また、本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位の割合が5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、さらには、35質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、75質量%以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の透明性がより向上する傾向にあると共に、成形品の表面硬度を高くすることができ、さらに、誘電正接を低くすることができる傾向にある。また、前記式(1)で表される構成単位の割合は、100質量%であってもよい。前記上限値以下とすることにより、荷重たわみ温度がより高くなる傾向にある。
【0024】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂における、上記式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位の合計は、末端基を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。前記合計の上限としては、100質量%以下である。
【0025】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂は、以下の形態が好ましい。
(A1)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A2)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A3)式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A4)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A5)式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A6)式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂と、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂のブレンド物
(A7)上記(A1)~(A6)において、ポリカーボネート樹脂またはそのブレンド物を構成するポリカーボネート樹脂が式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位以外の他の構成単位を含むポリカーボネート樹脂
(A8)上記(A1)~(A7)のポリカーボネート樹脂またはブレンド物と、他の構成単位とからなるポリカーボネート樹脂とのブレンド物
【0026】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の波長486nmにおける屈折率は、例えば、1.5600以上であり、さらには1.5700以上であり、特には、1.5800以上である。また、ポリカーボネート樹脂の屈折率の上限値は、1.6500以下であることが好ましく、1.6400以下であることがより好ましく、1.6300以下であることがさらに好ましく、1.6200以下であることが一層好ましく、1.6100以下であることがより一層好ましく、さらには、1.6000以下、特には、1.5990以下であってもよい。
屈折率は後述する実施例の記載に従って測定される。2種以上のポリカーボネート樹脂を含む場合は、混合物の屈折率とする。
【0027】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、下限値が5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、12,000以上であることが一層好ましい。また、Mvの上限値は、32,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、29,000以下であることがさらに好ましく、27,000以下であることが一層好ましい。
粘度平均分子量を上記下限値以上とすることにより、成形性が向上し、かつ、機械的強度の高い成形品が得られる。また、上記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性が向上し、薄肉の成形品なども効率的に製造することができる。
樹脂組成物が2種以上のポリカーボネート樹脂を含む場合は、各ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量に質量分率をかけた値の合計とする。
特に、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、20,000~30,000であることが好ましく、20,000~28,000であることがより好ましい。また、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、12,000~28,000であることが好ましく、18,000~27,000であることがより好ましい。
粘度平均分子量(Mv)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0028】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂(式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位を含む全ポリカーボネート樹脂)は、ISO 15184に従って測定した鉛筆硬度が3B~2Hであることが例示され、2B~2Hが好ましい。鉛筆硬度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
特に、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、H~2Hであることが好ましく、また、式(2)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、2B~HBであることが好ましい。
【0029】
本実施形態で用いるポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、特開2014-065901号公報の段落0027~0043および実施例の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、40質量部以上であることが好ましく、50質量部以上であることがより好ましく、60質量部以上であることがさらに好ましく、70質量部以上であることが一層好ましく、72質量部以上であることがより一層好ましく、75質量部以上であることがさらに一層好ましく、76質量部以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の衝撃強度がより向上する傾向にあり、また、樹脂組成物の耐熱性の低下を効果的に抑制できる傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物における、ポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂成分100質量部に対し、85質量部以下であることが好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度、および、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
【0031】
<式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂に加えて、これ以外の他の熱可塑性樹脂を含む。前記他の熱可塑性樹脂(通常は、ポリカーボネート樹脂よりも屈折率の低い樹脂)を含むことにより、熱可塑性樹脂成分の屈折率を低くすることができる。
前記ポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂は、その種類等特に定めるものではないが、通常、ポリカーボネート樹脂およびガラス充填剤よりも屈折率が低いものが選択される。具体的には、他の熱可塑性樹脂(好ましくは後述する(メタ)アクリレート重合体)の波長486nmにおける屈折率は、1.5500以下であることが好ましく、1.5400以下であることがより好ましく、1.5300以下であることがさらに好ましく、1.5250以下であることが一層好ましい。また、他の熱可塑性樹脂の屈折率の下限値は、1.4900以上であることが好ましく、1.5000以上であることがより好ましく、1.5100以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度をより高めることができる。
【0032】
他の熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリレート重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート・スチレン共重合体(MS樹脂)、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が例示され、(メタ)アクリレート重合体が好ましい。特に、(メタ)アクリレート重合体を含むことにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度を高めることができ、また、樹脂組成物の流動性を高めることができる。
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体は、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含むことが好ましく、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含むことが好ましい。芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を含むことにより、ポリカーボネート樹脂との相溶性を高めることができ、メチルメタクリレート構成単位(b2)を含むことにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度を高めることができる。
【0033】
芳香族(メタ)アクリレート構成単位を構成する単量体である芳香族(メタ)アクリレート(b1)とは、芳香族基を有する(メタ)アクリレートのことをいう。芳香族(メタ)アクリレート(b1)としては、ベンゼン環および/またはナフタレン環を含む(メタ)アクリレートであることが好ましく、ベンゼン環を含む(メタ)アクリレートであることがより好ましい。芳香族(メタ)アクリレート(b1)の具体例としては、フェニル(メタ)アクリレート、ビフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらのうち、好ましくはフェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートであり、より好ましくはフェニルメタクリレートである。
(メタ)アクリレート重合体は、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0034】
メチルメタクリレート構成単位(b2)を構成する単量体は、メチルメタクリレートである。
【0035】
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体においては、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含む場合、(b1)/(b2)の質量比は、5~50/50~95であることがより好ましく、25~50/50~75であることがさらに好ましく、25~45/55~75であることが一層好ましく、30~40/60~70であることがより一層好ましい。
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体が、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)を含む場合、他の構成単位を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。他の構成単位を含む場合、スチレン構成単位、ならびに、(b1)と(b2)以外の(メタ)アクリレート構成単位が好ましく、(b1)と(b2)以外の(メタ)アクリレート構成単位がより好ましい。(b1)と(b2)以外の(メタ)アクリレート構成単位としては、メチルメタクリレート以外の脂肪族(メタ)アクリレートが例示される。
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体は、芳香族(メタ)アクリレート構成単位(b1)とメチルメタクリレート構成単位(b2)の合計が、末端基を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。前記合計の上限は末端基を除く全構成単位の100質量%以下であってもよい。
【0036】
本実施形態で用いる(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は、好ましくは5,000以上であり、より好ましくは10,000以上であり、さらに好ましくは13,000以上である。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の衝撃強度、耐熱性がより向上する傾向にある。また、(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は、好ましくは30,000以下であり、より好ましくは25,000以下であり、さらに好ましくは20,000以下であり、一層好ましくは16,000以下である。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。
(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0037】
本実施形態で用いられる(メタ)アクリレート重合体は、上述の他、国際公開第2014/038500号、国際公開第2013/094898号、特開2006-199774号公報、特開2010-116501号公報、特開2014-065901号公報、特開2016-027068号公報に記載のもの、ならびに、特開2016-047937号公報に記載の「芳香族(メタ)アクリレート」を採用することができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0038】
本実施形態の樹脂組成物における他の熱可塑性樹脂(好ましくは(メタ)アクリレート重合体)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、15質量部以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の表面硬度、および、樹脂組成物の流動性がより向上する傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物における他の熱可塑性樹脂(好ましくは(メタ)アクリレート重合体)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、60質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましく、30質量部以下であることが一層好ましく、28質量部以下であることがより一層好ましく、25質量部以下であることがさらに一層好ましく、24質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物から形成される成形品の衝撃強度がより向上する傾向にあり、また、樹脂組成物の耐熱性の低下を効果的に抑制できる傾向にある。
【0039】
<ガラス充填剤>
本実施形態の樹脂組成物は、ガラス充填剤を含む。ガラス充填剤を含むことにより、得られる成形品の機械的強度を向上させることができる。
本実施形態におけるガラス充填剤は、特に定めるものではなく、熱可塑性樹脂の強化に用いられる充填剤を広く用いることができる。
【0040】
本実施形態に用いられるガラス充填剤の波長486nmにおける屈折率は、例えば、1.5500以上であり、さらには1.5600以上であり、特には1.5700以上である。また、ガラス充填剤の屈折率は、例えば、1.5900以下であり、さらには1.5850以下であり、特には1.5800以下である。屈折率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
2種以上のガラス充填剤を含む場合、ガラス充填剤の屈折率は、各ガラス充填剤の屈折率に質量分率をかけた値の合計とする。
【0041】
本実施形態で用いるガラス充填剤は、繊維状、板状、ビーズ状等のいずれの形状であってもよいが、繊維状であることが好ましい。
本実施形態で用いるガラス充填剤が繊維状である場合、数平均繊維長(カット長)が0.5~10.0mmのものが好ましく、1.0~5.0mmのものがより好ましい。このような数平均繊維長のガラス充填剤(ガラス繊維)を用いることにより、機械的強度をより向上させることができる。数平均繊維長(カット長)が0.5~10.0mmのガラス繊維は、チョップドストランドとして販売されているものが例示される。数平均繊維長は光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値から数平均繊維長を算出する。観察の倍率は20倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。概ね、カット長に相当する。
また、ガラス繊維の断面形状は、円形、楕円形、長円形、長方形、長方形の両短辺に半円を合わせた形状、まゆ型等いずれの形状であってもよい。
本実施形態では、ガラス充填剤が扁平断面を有するガラス繊維を含むことが好ましく、扁平率が1.5~8であることがより好ましく、扁平率が2~6であることがさらに好ましい。このような扁平ガラス繊維を用いることにより、光の散乱を効果的に抑制し、得られる成形品の透明性をより向上させることができる。
ガラス繊維の数平均繊維径は、下限が、4.0μm以上であることが好ましく、4.5μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。ガラス充填剤の数平均繊維径の上限は、25.0μm以下であることが好ましく、20.0μm以下であることがより好ましい。なお、ガラス繊維の数平均繊維径は、電子顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維径を測定する対象のガラス繊維をランダムに抽出し、中央部に近いところで繊維径を測定し、得られた測定値から算出する。観察の倍率は1,000倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。円形以外の断面を有するガラス繊維の数平均繊維径は、断面の面積と同じ面積の円に換算したときの数平均繊維径とする。
【0042】
次に、本実施形態で好ましく用いられるガラス繊維について説明する。
ガラス繊維は、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、Dガラス、Rガラス、Mガラス等を溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本実施形態では、Eガラスを含むことが好ましい。
本実施形態で用いるガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。本実施形態で用いるガラス繊維は、集束剤で集束されていてもよい。この場合の集束剤としては、エポキシ系集束剤またはウレタン系集束剤が好ましい。
【0043】
ガラス繊維は市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子社製、T-187、T-286H、T-756H、T-289H、T-511-FGF、オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540、日東紡社製、CSG3PA820等が挙げられる。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物におけるガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、5質量部以上であり、6質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることが好ましく、8質量部以上であることが好ましく、9質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、12質量部以上であることが一層好ましく、15質量部以上であることがより一層好ましく、18質量部以上であることがさらに一層好ましく、20質量部以上であることが特に一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる成形品の機械的強度がより向上する傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物におけるガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、100質量部以下であり、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましく、70質量部以下であることが一層好ましく、さらには、50質量部以下、30質量部以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、射出成形時の流動性が向上する傾向にある。
また、本実施形態の樹脂組成物におけるガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、5質量%以上であることが好ましく、9質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることが一層好ましい。また、前記ガラス充填剤(好ましくはガラス繊維)の含有量は、樹脂組成物中、50質量%以下であることが好ましく、41質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、さらには、30質量%以下、特には、28質量%以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、ガラス充填剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0045】
<エステル化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、炭素数40以上であり、融点60℃以上であるエステル化合物を含む。このような所定のエステル化合物を含むことにより、得られる成形品の離型性が向上し、また、透明性が向上する傾向にある。
【0046】
所定のエステル化合物の炭素数は、40以上であり、45以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、55以上であることがさらに好ましく、60以上であることが一層好ましく、65以上であることがより一層好ましく、70以上であることがさらに一層好ましく、75以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、押出時のガス性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。また、所定のエステル化合物の炭素数は、100以下であることが好ましく、95以下であることがより好ましく、90以下であってもよく、85以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂との相溶性が良く、透明性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物が所定のエステル化合物を2種以上含む場合、その炭素数は、各エステル化合物のエステルの炭素数に質量分率をかけた値の合計値とする。
【0047】
所定のエステル化合物の融点は、60℃以上であり、65℃超であってもよく、66℃以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、押出時のガス性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。また、所定のエステル化合物の融点は、80℃以下であることが好ましく、75℃以下であることがより好ましく、70℃未満であってもよい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂との相溶性が良く、透明性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物が所定のエステル化合物を2種以上含む場合、その融点は、各エステル化合物の融点に質量分率をかけた値の合計値とする。
【0048】
所定のエステル化合物は、1種または2種以上の脂肪族カルボン酸と1種または2種以上の脂肪族アルコールとのエステル化合物であることが好ましい。
【0049】
脂肪族カルボン酸の炭素数は、10以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましく、16以上であることがさらに好ましく、18以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、押出時のガス性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。また、脂肪族カルボン酸の炭素数は、26以下であることが好ましく、24以下であることがより好ましく、22以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂との相溶性が良く、透明性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。
脂肪族カルボン酸は、脂肪族飽和カルボン酸であっても、脂肪族不飽和カルボン酸であってもよいが、脂肪族飽和カルボン酸であることが好ましい。
また、脂肪族カルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸であることが好ましく、モノカルボン酸であることが好ましい。
【0050】
脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0051】
脂肪族アルコールの炭素数は、アルコールの価数にもよるが、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、押出時のガス性がより向上する傾向にある。また、脂肪族アルコールの炭素数は、22以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、16以下であることがさらに好ましく、12以下であることが一層好ましく、8以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂との相溶性が良く、透明性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。
【0052】
脂肪族アルコールは、飽和アルコールであっても、不飽和アルコールであってもよいが、飽和アルコールであることが好ましい。
脂肪族アルコールは、モノアルコールであっても、多価アルコールであってもよいが、多価アルコールであることが好ましい。多価アルコールのアルコールの価数は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、また、10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。
【0053】
脂肪族アルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0054】
所定のエステル化合物におけるエステル基の数は、一分子中、1つ以上であることが好ましく、2つ以上であることがより好ましく、3つ以上であることがさらに好ましく、4つ以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、押出時のガス性がより向上する傾向にある。また、所定のエステル化合物におけるエステル基の数は、一分子中、8つ以下であることが好ましく、7つ以下であることがより好ましく、6つ以下であることがさらに好ましく、5つ以下であることが一層好ましく、4つ以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱可塑性樹脂との相溶性が良く、透明性が改善し、射出成形時の離形性も向上する傾向にある。
【0055】
本実施形態においては、所定のエステル化合物が、炭素数10~26(好ましくは炭素数10~22)の脂肪族カルボン酸と炭素数22以下の脂肪族アルコールとのエステル化合物を含むことが好ましく、炭素数16~26(好ましくは炭素数16~22)の脂肪族飽和モノカルボン酸と炭素数16~22の一価脂肪族飽和アルコールとのエステル化合物、および/または、炭素数16~26(好ましくは炭素数16~22)の脂肪族飽和モノカルボン酸と、炭素数2~12の多価アルコールとのフルエステル化合物を含むことがより好ましい。
また、所定のエステル化合物の詳細は、特開2020-029481号公報の段落0047~0054の記載を参酌でき、この内容は明細書に組み込まれる。
【0056】
本実施形態においては、所定のエステル化合物の分子量が500以上であることが好ましく、700以上であることがより好ましく、900以上であることが一層好ましく、1100以上であってもよく、また、2000以下であることが好ましく、1800以下であることがより好ましく、1600以下であることがさらに好ましい。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物におけるエステル化合物の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、0.3質量部以上含み、0.4質量部以上であることが好ましく、0.6質量部以上であることがより好ましく、0.8質量部以上であることがさらに好ましく、1.1質量部以上であることが一層好ましく、1.5質量部以上であることがより一層好ましく、1.8質量部以上であることがさらに一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性をより効果的に発揮させることができる。また、本実施形態の樹脂組成物におけるエステル化合物の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対し、5.0質量部以下であり、4.5質量部以下であることが好ましく、4.0質量部以下であることがより好ましく、3.5質量部以下であることがさらに好ましく、3.0質量部以下であることが一層好ましく、2.5質量部以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、ガスの発生を効果的に抑制することができる。
本実施形態の樹脂組成物は、エステル化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0058】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂((メタ)アクリレート重合体等)、ガラス充填剤、および、所定のエステル化合物に加え、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外の他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、各種樹脂添加剤などが挙げられる。
樹脂添加剤としては、例えば、着色剤、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤等)、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。これらの詳細は、特開2014-065901号公報の段落0059~0080の記載、特開2018-165017号公報の段落0069~0093の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂((メタ)アクリレート重合体等)と、ガラス充填剤と、所定のエステル化合物と、必要に応じ配合される樹脂添加剤(例えば、安定剤)の合計が100質量%となるように調整される。
【0059】
本実施形態の樹脂組成物は安定剤を含んでいてもよい。
安定剤としては、熱安定剤や酸化防止剤が挙げられる。
熱安定剤としては、リン系安定剤が好ましく用いられる。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0060】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系安定剤が好ましく用いられる。
ヒンダードフェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフェート、3,3',3'',5,5',5''-ヘキサ-tert-ブチル-a,a',a''-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0061】
このようなヒンダードフェノール系安定剤としては、具体的には、例えば、BASF社製「Irganox(登録商標。以下同じ)1010」、「Irganox1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0062】
本実施形態の樹脂組成物における安定剤の含有量は、熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。安定剤の含有量を前記範囲とすることにより、安定剤の添加効果がより効果的に発揮される。
本実施形態の樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0063】
<屈折率の差>
本実施形態では、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の屈折率の差が0.0150以下となるように調整される。なお、屈折率の差とは絶対値を意味する。このような構成とすることにより、得られる成形品の透過率を向上させることができ、光沢性に優れた成形品が得られる。前記屈折率の差の上限値は、0.0130以下であることが好ましく、0.0080以下であることがより好ましく、0.0060以下であることがさらに好ましく、0.0040以下であることが一層好ましく、0.0030以下であることがより一層好ましく、0.0025以下であることがさらに一層好ましく、さらには、0.0020以下、0.0010以下、0.0009以下、0.0008以下であることが好ましい。前記屈折率の差の下限は、0が理想であるが、例えば、0.0001以上、さらには、0.0003以上であっても十分に要求性能を満たすものである。
【0064】
<動摩擦係数>
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物からガラス充填剤を除いた組成物のISO19252に準拠に従った動摩擦係数が0.40以下であることが好ましい。前記動摩擦係数は、主に、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂を用いること、所定のエステル化合物を配合することによって達成される。すなわち、式(1)で表される構成単位を含むポリカーボネート樹脂および所定のエステル化合物を用いることにより、樹脂組成物中でのガラス充填剤の流動性が向上し、得られる成形品表面におけるガラス充填剤の浮きを効果的に抑制できる。また、所定のエステル化合物を配合することにより、熱可塑性樹脂成分のガラス転移温度を高くし、ガラス充填剤の浮きを効果的に抑制できる。結果として、得られる成形品の表面の動摩擦係数を小さくできる。
【0065】
より具体的には、本実施形態の樹脂組成物からガラス充填剤を除いた組成物から形成される長さ90mm×幅50mm×厚み2mmの試験片は、荷重30NのときのISO 19252に従った動摩擦係数が0.40以下であることが好ましく、0.37以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましく、0.33以下であることが一層好ましく、0.32以下であることがより一層好ましい。動摩擦係数の下限値としては、0が理想であるが、0.01以上、さらには0.10以上でも実用レベルである。動摩擦係数の測定方法は、後述する実施例の記載に従う。
【0066】
<樹脂組成物の他の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、ヘイズが小さいことが好ましい。
具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、金型温度80℃で成形した際のヘイズが30%以下であることが好ましく、29%以下であることがより好ましく、28%以下であることがさらに好ましく、27%以下であることが一層好ましく、26%以下であることがより一層好ましく、25%以下であることがさらに一層好ましい。前記ヘイズの下限値は0%が理想であるが、1%以上が実際的である。
上記ヘイズは後述する実施例の記載に従って測定される。
【0067】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、上記ポリカーボネート樹脂、他の熱可塑性樹脂、ガラス充填剤、および、所定のエステル化合物、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240~320℃の範囲である。
【0068】
<成形品>
上記した樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。すなわち、本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から成形される。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。中でも、パネル状のものが好ましく、厚さは例えば、1mm~5mm程度である。
本実施形態の成形品は金型成形によって成形されることが好ましい。特に、本実施形態の樹脂組成物を、金型温度を75~105℃の範囲で成形することが好ましく、75~95℃の範囲で成形することが好ましい。通常、金型温度を低くすることにより、優れた離形性が達成できるが、透明性においては、金型温度を高くすることにより、改善する。本実施形態では金型温度を高くしても、優れた離型性を有しており、透明性も達成できる。
【0069】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本実施形態の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本実施形態の樹脂組成物がこれらで得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0070】
本実施形態の成形品は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、ディスプレイ用部品、携帯情報端末部品、家庭用電気製品、または、室内調度品に好適である。
【実施例0071】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0072】
【0073】
<製造例1:ポリカーボネート樹脂A1-1の製造>
ビスフェノールC(BPC)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.79モル(5.74kg)を、撹拌機および留出凝縮装置付きのアルミ(SUS)製反応器(内容積10リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs2CO3)を、BPC1モルに対し1.5×10-6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを留出させた。
次に、反応器内の温度を60分かけて284℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに60分間反応を続け、重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の撹拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は289℃、撹拌動力は1.00kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を二軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp-トルエンスルホン酸ブチルを二軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を二軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してポリカーボネート樹脂A1-1のペレットを得た。
【0074】
<ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)の測定>
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度(η)(単位:dL/g)を求め、以下のSchnellの粘度式から算出した。
η=1.23×10-4Mv0.83
【0075】
<ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度の測定>
ポリカーボネート樹脂ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(ファナック株式会社製「α-2000i-150B」)を用い、シリンダー設定温度260℃、金型温度70℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/秒の条件下にて、平板状試験片(150mm×100mm×2mm厚)を作製した。この平板状試験片について、ISO 15184に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機(株)製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0076】
<(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量(Mw)>
(メタ)アクリレート重合体の重量平均分子量はクロロホルムを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したポリスチレン(PS)換算の値とした。
【0077】
<エステル化合物の融点の測定方法>
エステル化合物の融点は、示差走査型熱量測定(DSC)によって測定した値であり、融解のメインピークのピーク温度(℃)をいう。具体的には、30℃から予想される融点+40℃まで20℃/分で昇温した際に検出される吸熱メインピークのピークトップの温度(℃)を測定した。
【0078】
2.実施例1~12、比較例1~20
<樹脂組成物ペレットの製造>
上記表1に記載した各成分(ガラス充填剤を除く)を、下記表2~表7に示す割合(特記しない限り、質量部にて表示)にて配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、1ベントを二軸押出機(芝浦機械株式会社製、TEM26SX)に上流のフィーダーより供給し、さらにガラス充填剤をバレルの途中より供給して(押出機の上流(ホッパー部位)から、バレル長さLの3/5の下流位置)、シリンダー設定温度260℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hrにて押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、溶融混練して樹脂組成物ペレットを得た。
【0079】
<ヘイズ(Haze)>
金型温度80℃におけるヘイズは以下の通り測定した。
上記で得られた樹脂組成物ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機((株)日本製鋼所製「J55-60H」)を用い、シリンダー設定温度280℃、金型温度80℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度100mm/sの条件下にて、平板状試験片(90mm×50mm×2mm厚)を射出成形した。
上記で得られた平板状試験片について、JIS K-7105に準じ、ヘイズメーターを用いて、23℃におけるHAZE(ヘイズ)を測定した。
ヘイズメーターは、日本電色工業(株)製のNDH-2000型ヘイズメーターを用いた。
ヘイズの単位は%で示した。
また、ヘイズが90%以上の場合は、白濁と示した。
【0080】
<離形抵抗>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機((株)日本製鋼所製「J55-60H」)を用い、シリンダー設定温度260℃、金型温度80℃、スクリュー回転数100rpm、射出速度100mm/秒の条件下にて、箱形成形品(タテ30mm、ヨコ54mm、奥行き34mm、肉厚1.5mm)を、箱形成形品の左側壁の最前面中央付近に設けたサイドゲート(ゲート厚み1.5mm×ゲート幅3mm)より、樹脂を注入して成形し、射出成形する際の離型性を評価した。
A:成形品にエジェクターピン痕のないもの
B:上記A以外、例えば、成形品をエジェクターピンが貫通し、割れが生じたもの等
【0081】
<ガス性>
上記樹脂組成物ペレットの製造において、ガス発生量を目視により以下の通り評価した。
A:ガス発生量が標準またはそれ以下
B:ガス発生量が標準よりも多い
【0082】
<動摩擦係数(30N)>
上記で得られた樹脂組成物ペレットにおいて、ガラス充填剤を除き他は同様に行って、からガラス充填剤を除いた組成物ペレットを得た。前記組成物ペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機((株)日本製鋼所製「J55-60H」)を用い、シリンダー設定温度260℃、金型温度70℃、スクリュー回転数100rpm、射出速度30mm/秒の条件下にて、100mm×100mm×2mm厚の平板状試験片を射出成形した。得られた平板状試験片について、ISO 19252に準拠し、スクラッチテスター(カトーテック(株)製)を用いて、荷重30Nにて測定した動摩擦係数を求めた。
【0083】
<屈折率の測定方法>
各種樹脂、熱可塑性樹脂成分およびガラス充填剤の屈折率は以下の通り測定した。
各種樹脂および熱可塑性樹脂成分の屈折率は、以下の方法で行った。
屈折率測定用の平板状試験片(90mm×50mm×1mm厚)を製造し、波長486nmにおける屈折率を測定した。
屈折率の測定に際し、セキテクノトロン社製「MODEL2010 プリズムカプラ」を用いた。
屈折率測定用の平板状試験片(90mm×50mm×1mm厚)は、樹脂、または、熱可塑性樹脂成分であって上記と同様に製造したものを、100℃で5時間乾燥させた後、射出成形機((株)日本製鋼所製「J55-60H」)を用い、シリンダー設定温度280℃、金型温度80℃にて、スクリュー回転数100rpm、射出速度100mm/sの条件下にて射出成形して作製した。
ガラス充填剤の屈折率については、熱可塑性樹脂成分とガラス充填剤の混合物の平板状試験片を製造し、その屈折率から熱可塑性樹脂成分の屈折率を引くことで、値を算出した。
また、得られた屈折率より、屈折率差(熱可塑性樹脂成分の屈折率-ガラス充填剤の屈折率、絶対値)を算出した。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
上記表2~表7において、レジン屈折率とは、波長486nmにおける熱可塑性樹脂成分の屈折率を意味し、GF屈折率とは、波長486nmにおけるガラス充填剤の屈折率を意味する。また、屈折率差とは、波長486nmにおける熱可塑性樹脂成分の屈折率と波長486nmにおけるガラス充填剤の屈折率の差を意味する。
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の樹脂組成物から形成された成形品は、透明性が高く、離型性に優れ、かつ、ガスの発生を効果的に抑制できた。