(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078963
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】フラット系の軽量気泡コンクリートパネル、軽量気泡コンクリートパネル構造体および建築物
(51)【国際特許分類】
E04F 13/14 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
E04F13/14 102C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192315
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中間 康博
(72)【発明者】
【氏名】清水 良平
(72)【発明者】
【氏名】松坂 昭哉
【テーマコード(参考)】
2E110
【Fターム(参考)】
2E110AA47
2E110AA57
2E110AB03
2E110AB04
2E110AB22
2E110AB23
2E110BA12
2E110BB22
2E110BB32
2E110EA00
2E110EA06
2E110GA33W
2E110GB23W
(57)【要約】
【課題】フラットな意匠感を損なうことなく、パネル表面についた線状擦傷等を目立たなくすることができる、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル、軽量気泡コンクリートパネル構造体および建築物を提供すること。
【解決手段】軽量気泡コンクリートから成るパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、パネル本体の表面に長辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝を有し、溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、かつ、溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、かつ、溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に長辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝を有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項2】
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に短辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝を有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項3】
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に長辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝と、短辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝とを有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項4】
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に長辺方向または短辺方向に沿って波線状に設けられた複数の溝を有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項5】
前記溝の幅が、0mmを超え、4mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項6】
前記溝の幅が、0mmを超え、2mm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項7】
前記溝の幅が、0.3mm以上、2mm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項8】
前記溝の深さが、0.3mm以上、4mm未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項9】
前記溝の深さが、0.3mm以上、2mm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項10】
前記溝の間隔が、0mmを超え、100mm以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項11】
前記溝の間隔が、10mm以上、60mm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項12】
前記溝の間隔が、10mm以上、30mm以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネルの表面に塗装が施されてなる、軽量気泡コンクリートパネル構造体。
【請求項14】
請求項13に記載の軽量気泡コンクリートパネル構造体を備えた、建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル、軽量気泡コンクリートパネル構造体および建築物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(ALC:Autoclaved Lightweight aerated Concrete)パネルは、軽量性、断熱性、不燃性、耐火性など、優れた特徴を持つ建材として、建築物の壁、屋根、床等に広く用いられている。
【0003】
ALCパネルを製造する際には、珪石およびセメント等の主原料に、アルミニウム粉末等の添加物を加えて混練し、それによって得られた混合液を所定の型枠内に流し込み、化学反応によって混合液を発泡させると同時に徐々に硬化させる。そして、混合液が半硬化状態となったところでピアノ線等により所定のパネル形状に切断した後、オートクレーブ(高温高圧蒸気釜)を用いた養生を行って、完全に硬化したALCパネルを得る(例えば、特許文献1)。
【0004】
このようにして得られるパネルは、製造の都合上、一般にフラットな平面を持ったパネル(フラットパネル)として生産される。
フラットパネルの特長として、どのような建物形状でもフィットする落ち着きのある意匠感をもたらすこと、アクセントで用いるデザインパネルの意匠感を引き立たせること、また、開口部や外壁パネルと取り合う他部材(玄関ドアなど)の意匠感を引き立たせる、といったものがあり、従来から根強い人気がある。
【0005】
一方で、パネル表面に溝または凹凸模様を付与することにより表面の意匠性を高めることも行われている(例えば、特許文献2)。
【0006】
ALCパネルには、一般的に(1)工場の製造過程、(2)現場までの搬送過程、(3)現場での施工過程、等においてパネル表面に擦傷や窪み傷等の傷が付いてしまうことがある。
【0007】
例えば、(1)工場の製造過程では、ALCが半硬化の状態で、ピアノ線等で所定のパネル厚になるよう切断する際に、切断面(パネル表面)に線状の擦傷がついてしまうことがある。また、(2)現場までの搬送過程では、ALCパネルを複数枚積み上げてブロック化し、複数のブロックをまとめて現場に搬送されるが、積み荷作業や荷下ろし作業の際に、パネル表面に線状の擦傷がついてしまうことがある。また、(3)現場での施工過程では、現場で荷下ろし後、ALCパネルに必要により所定の形状に電動工具等を用いて加工を行った後、建築物の外壁下地に、例えばビス等を用いて留め付ける。こういった施工過程において、例えば、パネルに工具等が当たって擦傷する、作業者が装着している安全帯が当たって擦傷する,仮設足場の鋼材に当たって擦傷する、といったことで、線状の擦傷や窪み傷等の傷がついてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-199408号公報
【特許文献2】特開2001-200602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような線状擦傷は、幅0.1mm~2mm程度の微細な傷であり、パネルの強度を低下させるようなものではない。しかし、特に、フラット系のALCパネルでは、所定範囲の線状擦傷等が生じると、フラットであるが故に、塗装仕上げを行った後でも傷跡が目立ってしまい、例え強度的に問題ないものであっても、外観の低下につながってしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、本発明の目的は、フラットな意匠感を損なうことなく、パネル表面についた線状擦傷等を目立たなくすることができる、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル、軽量気泡コンクリートパネル構造体および建築物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に長辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝を有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[2]
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に短辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝を有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[3]
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に長辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝と、短辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝とを有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[4]
軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体を備えた、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルであって、
前記パネル本体の表面に長辺方向または短辺方向に沿って波線状に設けられた複数の溝を有し、
前記溝の幅が、0mmを超え、7mm未満であり、
かつ、前記溝の深さが、0mmを超え、4mm未満であり、
かつ、前記溝が所定間隔で設けられていることを特徴とする、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[5]
前記溝の幅が、0mmを超え、4mm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[6]
前記溝の幅が、0mmを超え、2mm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[7]
前記溝の幅が、0.3mm以上、2mm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[8]
前記溝の深さが、0.3mm以上、4mm未満である、[1]~[7]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[9]
前記溝の深さが、0.3mm以上、2mm以下である、[1]~[8]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[10]
前記溝の間隔が、0mmを超え、100mm以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[11]
前記溝の間隔が、10mm以上、60mm以下である、[1]~[10]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[12]
前記溝の間隔が、10mm以上、30mm以下である、[1]~[11]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネル。
[13]
[1]~[12]のいずれかに記載のフラット系の軽量気泡コンクリートパネルの表面に塗装が施されてなる、軽量気泡コンクリートパネル構造体。
[14]
[13]に記載の軽量気泡コンクリートパネル構造体を備えた、建築物。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、フラットな意匠感を損なうことなく、パネル表面についた線状擦傷等を目立たなくすることができる、フラット系の軽量気泡コンクリートパネル、軽量気泡コンクリートパネル構造体および建築物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る軽量気泡コンクリートパネルの一構成例を模式的に示す平面図である。
【
図2】パネルの長辺方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である。
【
図3】第2の実施形態に係る軽量気泡コンクリートパネルの一構成例を模式的に示す平面図である。
【
図4】パネルの短辺方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である。
【
図5】第3の実施形態に係る軽量気泡コンクリートパネルの一構成例を模式的に示す平面図である。
【
図6】パネルの長辺方向および短辺方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である。
【
図7】第4の実施形態に係る軽量気泡コンクリートパネルの一構成例を模式的に示す平面図である。
【
図8】パネルの斜め方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である。
【
図10】実施例のフラット系パネル、参考例としてデザインパネルを示す写真である。
【
図11】線状擦傷をつけた比較例のパネルに塗装した後の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の例示の実施の形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。本願明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
<軽量気泡コンクリートパネル>
(第1の実施形態)
図1は、本実施の形態に係る軽量気泡コンクリートパネル(以下、ALCパネルと称する。)の一構成例を示す平面図である。また、
図2は、パネルの長辺方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である(なお、
図2では溝は省略している。後掲する
図4、6および8も同様である。)。
本実施の形態に係るALCパネル1は、軽量気泡コンクリートから成る略長方形板状のパネル本体10を備え、パネル本体10の表面に、長辺方向に沿って略直線状に設けられた複数の溝11を有する。なお、パネル本体10の表面は、板状のパネル本体10のうち、広い主面を指す。
また、本実施の形態に係るALCパネル1は、フラット系のパネルであり、「フラット系」とは、遠目、具体的には、例えば概ね5m以上離れて見たときに全体として略平坦な質感を有するものであればよく、後述するように、比較的大きな凹凸により陰影を生み出し、模様を視認できるようにしたデザインパネルとは異なることを意味する。
【0016】
軽量気泡コンクリートとしては、例えば、JISA5416に記載のALCなどをあげることができる。例えば、セメント、石灰質原料、珪酸質原料、水を主原料として、内部に多量の気泡が混入された、かさ比重0.1~1.0程度の硬化体と、内部に埋設された補強材とから構成されている軽量気泡コンクリートを挙げることができる。
【0017】
パネル本体10の大きさは特に限定されるものではないが、一例として、図に示すパネル本体10は、長辺が1820mm、短辺が606mm、厚さが37mmの、略長方形状の板状を成している。但し、パネル外形として、設計、製造時の±2mm程度の誤差は許容するものとする。
なお、パネル本体10の内部には強度を確保するための図示しない補強鉄筋や補強網等が埋設されていてもよい。
【0018】
パネル本体10の一方の表面には、複数の略直線状の溝11が、パネル本体10の長辺と略平行に、所定間隔で形成されている。
なお、本明細書において「略直線状」とは、定規で引いたような一直線状だけではなく、フリーハンドで引いたような、ある程度蛇行した線状も含むものである。
【0019】
溝11の幅(最大幅)は、0mmを超え、7mm未満であり、0mmを超え、4mm以下であることが好ましく、0mmを超え、2mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがさらに好ましい。
溝11の深さ(最大深さ)は、0mmを超え、4mm未満であり、0.3mmを超え、4mm未満であることが好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがより好ましい。
【0020】
これらの溝11の間隔は、0mmを超え、100mm以下であり、10mm以上、60mm以下であることが好ましく、10mm以上、30mm以下であることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明における溝の深さとは、深さの最も大きい部分の寸法をいい、溝の幅とは幅の最も大きい部分の寸法をいい、溝の間隔とは溝の幅の中央部から隣接する同中央部までの寸法をいう。
【0022】
溝11の幅や深さおよび間隔を上記範囲とすることで、パネルの表面に線状に走る擦傷があっても、塗装仕上げ後には視認することが難しくなる。すなわち、パネル表面についた線状擦傷を目立たなくすることができる。また、フラットな意匠感も、この範囲における幅や深さおよび間隔であれば損なわれない。
なお、長辺方向に設けられた複数の溝11は、上記範囲であるならば、幅や深さおよび間隔は同じ(均一)でも構わないし、異なって(ランダム)いても構わない。
【0023】
溝11の幅や深さおよび間隔が上記範囲よりも大きいと、塗装仕上げ後において線状擦傷を目立たないようにする効果が十分に得られない。また、フラットな意匠感を十分に得ることができない。すなわち、デザインパネルに見えてしまう。一方、溝11の幅や深さおよび間隔が上記範囲よりも小さいと、製造時にパネル表面に精度よく溝11を形成することが製造技術的に(パネル厚みの誤差などにより)困難になる。
【0024】
特に、
図1に示すALCパネル1では、複数の溝11が、パネル本体10の長辺と略平行に形成されていることで、例えば
図2に示すような、パネル本体10の長辺方向に沿ってついた線状擦傷50aを、より効果的に目立たないようにすることができる。
【0025】
なお、これらの溝11の角度は、傾斜しておらず、略直角である方が、擦傷の形状と似ており、傷がより目立ちにくくなるため、好ましい。なお、溝の角度とは、パネル表面と溝底面とを繋ぐ、溝の側面部分の角度のことをいう。
製造上は、溝11の側面に傾斜を設けても設けなくても、どちらも可能であるが、溝11の幅および深さが比較的大きい場合(例えば、3~4mm程度である場合)には、均一な塗装面を確保する観点から、やや傾斜を設けたほうが好ましい。このような観点からは、溝11の側面部分の角度は、0度を超え~75度の範囲とする(パネル表面側の溝幅を底面幅より広くする)ことが好ましい。溝11の側面は湾曲していてもよい。
【0026】
このような溝11は、工場等において、例えば、切削刃による切削加工、ALCパネルが柔らかいうちに成形型を押し当てて整形する成形加工等により形成することができる。
【0027】
本発明のALCパネルは、パネルの製造時、運搬時または施工時に生じやすい線状の擦傷形状をパターン化し、仮にそのような擦傷が発生したとしても、同様の線状模様を予めパネル表面に施しておくことで、視覚的に模様の一部として認識されるように工夫を凝らしたものである。
【0028】
なお、本発明のALCパネルは、フラット系のパネルであり、ALCパネル表面に溝または凹凸模様を付与して意匠性を高めた、いわゆるデザインパネル(装飾模様付きパネル)とは異なるものである。このようなデザインパネルにおける溝または凹部の深さは、一般的に4mm以上の寸法とすることで、比較的大きな凹凸により陰影を生み出し、模様を視認できるようにしている(後掲する
図10の上段参照)。
【0029】
これに対し、本発明のALCパネルは、4mm未満の浅い線状溝を密に(狭い間隔で)形成することで、従来のフラットパネル同様、フラット系の意匠感を損なうことのないよう配慮したものとなっている。これにより、例えばアクセント的に用いるデザインパネルとの併用使いなどにおいても、違和感のない壁面意匠を創出することが可能となる。
【0030】
なお、完全なフラットパネルの場合、塗装時に塗り継ぎムラが発生しやすいといった問題があるが、本発明のALCパネルでは、浅い溝11が形成されていることで、そのような塗り継ぎムラが起きにくく、塗装の仕上げが良くなるといった利点もある。
また、パネルの施工時において、デザインパネルの場合、溝深さが大きいため、シーリング材充てん後のヘラ押さえが大変であるが、本発明のALCパネルでは、溝11が浅いため、パネル間のシーリング工事がやりやすくなるといった利点も挙げられる。
【0031】
このように、本発明によれば、フラット系のALCパネルにおいて表面に線状擦傷がついたパネルであっても、強度的に問題ないものであれば使用することができるため、廃棄されるパネルを削減することができ、資源のロスや、新しいパネルを用意することによるコストを削減することができる。
【0032】
(第2の実施形態)
つぎに、本発明の軽量気泡コンクリートパネルの第2の実施形態について説明する。
図3は、本実施形態の軽量気泡コンクリートパネルの一構成例を模式的に示す平面図である。また、
図4は、パネルの短辺方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である。
なお、以下の説明では、上述した実施形態と異なる点について主に説明し、同様の部分については、説明を省略する。
【0033】
この軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル2)では、パネル本体20の一方の表面には、複数の溝21が、パネル本体20の短辺と略平行に、所定間隔で形成されている。
【0034】
溝21の幅(最大幅)は、0mmを超え、7mm未満であり、0mmを超え、4mm以下であることが好ましく、0mmを超え、2mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがさらに好ましい。
溝21の深さ(最大深さ)は、0mmを超え、4mm未満であり、0.3mmを超え、4mm未満であることが好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがより好ましい。
また、これらの溝21の間隔は、0mmを超え、100mm以下であり、10mm以上、60mm以下であることが好ましく、10mm以上、30mm以下であることがより好ましい。
【0035】
特に、
図3に示すALCパネル2では、複数の溝21が、パネル本体20の短辺と略平行に形成されていることで、例えば
図4に示すような、パネル本体20の短辺方向に沿ってついた線状擦傷50bを、より効果的に目立たないようにすることができる。また、フラットな意匠感も損なわれない。
なお、短辺方向に設けられた複数の溝21は、上記範囲であるならば、深さや間隔は同じ(均一)でも構わないし、異なって(ランダム)いても構わない。
【0036】
(第3の実施形態)
つぎに、本発明の軽量気泡コンクリートパネルの第3の実施形態について説明する。
図5は、本実施形態の軽量気泡コンクリートパネルの一構成例を模式的に示す平面図である。また、
図6は、パネルの長辺方向および短辺方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である。
なお、以下の説明では、上述した実施形態と異なる点について主に説明し、同様の部分については、説明を省略する。
【0037】
この軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル3)では、パネル本体30の一方の表面には、複数の溝31aが、パネル本体30の長辺と略平行に、所定間隔で形成され、複数の溝31bが、パネル本体30の短辺と略平行に、所定間隔で形成されている。すなわち、長辺方向の複数の溝31aと、短辺方向の複数の溝31bとは交差するように形成されている。
【0038】
溝31a,31bの幅(最大幅)は、0mmを超え、7mm未満であり、0mmを超え、4mm以下であることが好ましく、0mmを超え、2mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがさらに好ましい。
溝31a,31bの深さ(最大深さ)は、0mmを超え、4mm未満であり、0.3mmを超え、4mm未満であることが好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがより好ましい。
また、これらの溝31a,31bの間隔は、0mmを超え、100mm以下であり、10mm以上、60mm以下であることが好ましく、10mm以上、30mm以下であることがより好ましい。
【0039】
特に、
図5に示すALCパネル3では、複数の溝31a,31bが、パネル本体30の長辺および短辺と略平行に形成されていることで、例えば
図6に示すような、パネル本体30の長辺方向についた線状擦傷50a、短辺方向についた線状擦傷50bを、より効果的に目立たないようにすることができる。また、フラットな意匠感も損なわれない。
なお、長辺方向に設けられた複数の溝31aと、短辺方向に設けられた複数の溝31bとは、上記範囲であるならば、深さや間隔は同じ(均一)でも構わないし、異なって(ランダム)いても構わない。
【0040】
(第4の実施形態)
つぎに、本発明の軽量気泡コンクリートパネルの第4の実施形態について説明する。
図7は、本実施形態の軽量気泡コンクリートパネルの一構成例を模式的に示す平面図である。また、
図8は、パネルの斜め方向についた線状擦傷を模式的に示す平面図である。
なお、以下の説明では、上述した実施形態と異なる点について主に説明し、同様の部分については、説明を省略する。
【0041】
この軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル4)では、パネル本体40の一方の表面には、複数の溝41が、パネル本体40の長辺または短辺と略平行に、所定間隔で形成されている。
図7では、複数の溝41が、パネル本体40の長辺と略平行に、所定間隔で形成されている場合を示している。
上述した実施形態では、溝は略直線状に形成されていたが、本実施形態のALCパネル4では、複数の溝41は、略直線状ではなく、波線状に形成されている。
なお、「溝41が、パネル本体40の長辺または短辺と略平行に形成されている」とは、波線の振幅の中心を結ぶ直線が、パネル本体10の長辺または短辺と略平行であることを意味する。
【0042】
溝41の幅(最大幅)は、0mmを超え、7mm未満であり、0mmを超え、4mm以下であることが好ましく、0mmを超え、2mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがさらに好ましい。
溝41の深さ(最大深さ)は、0mmを超え、4mm未満であり、0.3mmを超え、4mm未満であることが好ましく、0.3mm以上、2mm以下であることがより好ましい。
また、これらの溝41の間隔は、0mmを超え、100mm以下であり、10mm以上、60mm以下であることが好ましく、10mm以上、30mm以下であることがより好ましい。
【0043】
特に、
図7に示すALCパネル4では、複数の波線状の溝41が、パネル本体40の長辺と略平行に形成されていることで、例えば
図8に示すような、パネル本体10の長辺および短辺に対して斜め方向についた線状擦傷50cを、より効果的に目立たないようにすることができる。また、フラットな意匠感も損なわれない。
なお、長辺方向に設けられた複数の波線状溝41は、上記範囲であるならば、深さや間隔は同じ(均一)でも構わないし、異なって(ランダム)いても構わない。
【0044】
また、上述した実施形態では、複数の波線状溝41が、パネル本体40の長辺方向に沿って設けられた場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、複数の波線状溝が、パネル本体40の短辺方向に沿って設けられていてもよいし、長辺方向および短辺方向に沿って設けられていてもよい。
【0045】
なお、上述した実施形態では、線状(略直線状、波線状)の溝により、パネル本体についた線状擦傷を目立たなくすることについて主に説明してきたが、本実施形態の線状溝は、パネル本体についた、線状擦傷以外の傷についても目立たなくすることができる。
線状擦傷以外の傷として具体的には、例えば、径5mm未満の範囲に入る、深さ4mm以内の窪み傷(穴状の傷)、径10mm未満の範囲に入る、深さ2mm以内の窪み傷、および径20mm未満の範囲に入る、深さ1mm以内の窪み傷、径4mm以内の範囲に入る、深さ4mm以内の面状傷跡(表面が薄く陥没したような傷)等が挙げられる。本実施形態のALCパネルによれば、このような点状、面状の傷についても、塗装仕上げ後には目立たなくすることができる。
【0046】
<構造体>
本発明の構造体は、上述したようなフラット系の軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)の表面に塗装が施されてなる。
本発明の構造体では、フラット系のALCパネルの表面に上述したような浅い溝が密に形成されているので、ALCパネルに線状擦傷等がついている場合であっても、塗装仕上げ後には、傷跡を視認することが難しくなる。すなわち、フラットな意匠感を損なうことなく、パネル表面についた線状擦傷等を目立たなくすることができる。
【0047】
塗装には、ALCパネルの塗装において一般的に用いられている塗装材(下塗り材、中塗り材、上塗り材を含む)を、特に限定されることなく用いることができる。
【0048】
<建築物>
さらに、本発明の技術的思想は、上述したようなフラット系の軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)または構造体を備えた建築物にも及ぶものとする。
すなわち、上述したようなフラット系のALCパネルまたは構造体を備えた建築物では、フラットな質感を維持しつつ、線状擦傷等が目立たないものとなり、建築物の外観の低下を効果的に抑制することができる。
【0049】
上述したような、本発明のフラット系の軽量気泡コンクリートパネルまたは構造体は、例えば、建築物の外壁として使用されるが、これに限定されず、建築物の内壁、間仕切り壁、天井の壁等として使用されるものであってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、複数の溝が、パネル本体の一方の表面に設けられている場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、複数の溝は、パネル本体の両方の表面に設けられていてもよい。
【0051】
また、上述した実施形態では、平面視で略長方形状のパネル本体として、向かい合う2組の辺において、一方の組の辺の長さが、他方の組の辺の長さと異なる(すなわち、長辺をなす組と短辺をなす組とがある)場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、4辺の長さが等しい、すなわち正方形状のパネルについても適用可能である。この場合、長辺方向は「第1の方向」、短辺方向は「(第1の方向と直交する)第2の方向」と読み替えるものとする。
さらに、長方形状以外の形状のパネルにおいても、本発明の技術的思想は及ぶものとする。
【実施例0052】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例および比較例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例)
軽量気泡コンクリートからなるパネル本体の表面に、長辺方向に沿って複数の略直線状の溝を形成し、実施例のパネルとした。この溝の深さは、2mmであり、溝の間隔は、10mmとした。また、複数の溝の間隔は、パネル本体の短辺方向で均一とした。
【0054】
(比較例)
溝が形成されていない、フラットな軽量気泡コンクリートパネルを用意し、これを比較例のパネルとした。
【0055】
パネルの大きさは、実施例、比較例ともに、長辺が1820mm、短辺が606mm、厚さが37mmの、略長方形状の板状である。
【0056】
実施例のパネルは、パネル長辺方向に沿って、幅0.5mm程度、深さ0.5mm程度、長さ0mm~1820mmの線状の傷をつけても、傷跡は殆ど目立たないことを確認した。
そして、本実施例パネルに対し、塗装を施した。塗装の厚さは約1mmとした。その結果、全体として表面に線状の傷をつけても傷跡は殆ど目立たず、かつ、フラットな質感も保たれるパネルとなることが確認できた。
【0057】
実施例のパネルの写真を
図9に示す。また、
図10は実施例の塗装後のフラット系パネル(下段)、また参考例としてデザインパネル(上段)の写真である。また、線状擦傷のついた比較例のパネルに塗装した後の実際の現場写真を
図11に示す。
塗装が施されたパネルの表面を目視により観察したところ、比較例のパネルでは傷跡が目立ってしまい、先の実施例パネルとの違いを確認することができた。
【0058】
このように、本発明では、フラットな意匠感を損なうことなく、パネル表面についた線状擦傷等を目立たなくすることができる、フラット系の軽量気泡コンクリートパネルを提供することができる。
本発明による軽量気泡コンクリートパネルを用いることで、フラットな意匠感を損なうことなく、パネル表面についた線状擦傷等を目立たなくできるものとなり、建築物のフラット系の壁パネルとして広く利用することができる。