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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078964
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】状態監視装置及び状態監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/08 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
G01M17/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192317
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】長本 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】竹田 伊知甫
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
(57)【要約】
【課題】構成及び処理を複雑化させることなく多数の対象項目の状態監視を実施できる状態監視装置及び状態監視方法を提供する。
【解決手段】状態監視装置1は、鉄道車両11に設けられた振動センサ2と、振動センサ2からの検出信号に基づいて、状態監視の対象項目毎の異常の有無を判断する判断部3と、対象項目毎に検出信号に対する計算区間を関連付けた参照テーブル5を記憶する記憶部4と、を備え、判断部3は、対象項目毎の計算区間に基づいて検出信号の出力値の区間二乗和を算出し、区間二乗和と予め設定された閾値との比較によって対象項目毎の異常の有無を判断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に設けられた振動センサと、
前記振動センサからの検出信号に基づいて、状態監視の対象項目毎の異常の有無を判断する判断部と、
前記対象項目毎に前記検出信号に対する計算区間を関連付けた参照テーブルを記憶する記憶部と、を備え、
前記判断部は、前記対象項目毎の前記計算区間に基づいて前記検出信号の出力値の区間二乗和を算出し、前記区間二乗和と予め設定された閾値との比較によって対象項目毎の異常の有無を判断する状態監視装置。
【請求項2】
前記参照テーブルには、前記検出信号の全区間を含む第1の計算区間が関連付けられた対象項目と、前記第1の計算区間よりも短い第2の計算区間が関連付けられた対象項目とが含まれている請求項1記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記参照テーブルにおいて、前記対象項目には、振動方向、周波数帯域、サンプリング周波数が更に関連付けられている請求項1又は2記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記振動センサは、3軸加速度センサである請求項1~3のいずれか一項記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記振動センサは、前記鉄道車両の前後の端部のそれぞれ又は前後の台車のそれぞれに設けられている請求項1~4のいずれか一項記載の状態監視装置。
【請求項6】
振動センサからの検出信号に基づいて、状態監視の対象項目毎の異常の有無を判断する判断ステップを備え、
前記判断ステップでは、対象項目毎に前記検出信号に対する計算区間を関連付けた参照テーブルを参照し、前記対象項目毎の前記計算区間に基づいて前記検出信号の出力値の区間二乗和を算出し、前記区間二乗和と予め設定された閾値との比較によって前記対象項目毎の異常の有無を判断する状態監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態監視装置及び状態監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両の保全体系は、時間基準保全から状態基準保全へとシフトしてきている。保全体系の変更には、状態監視技術の導入が不可欠であり、種々の研究・開発が進められている。従来の状態監視装置として、特許文献1に記載の状態診断装置がある。この従来の状態診断装置は、鉄道車両に搭載された駆動用機器の状態を診断する装置として構成されている。当該装置は、鉄道車両に搭載された駆動用機器の振動を検知するための振動センサによって検知された振動データがオクターブバンド分析された分析結果を、鉄道車両の動作モード及び走行速度別、或いは走行速度別に集約する集約手段と、集約手段の集約結果が駆動用機器のN(N≧1)種類の既知状態それぞれの集約結果基準データに適合するか否かを判別する判別手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-77055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象物の振動の検出結果に基づいて状態監視を行う従来の手法においては、状態監視の対象項目毎に振動の周波数特性や振動の変化などを複雑なアルゴリズムで捉える必要がある。状態監視の対象項目が多数の場合に項目毎に振動センサの設置やアルゴリズムの追加を行っていくと、構成や処理の複雑化を招くおそれがある。構成や処理が複雑化すると、装置自体の運用や管理が煩雑となり、メンテナンスの省力化が新たな課題として生じることとなる。
【0005】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、構成及び処理を複雑化させることなく多数の対象項目の状態監視を実施できる状態監視装置及び状態監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る状態監視装置は、鉄道車両に設けられた振動センサと、振動センサからの検出信号に基づいて、状態監視の対象項目毎の異常の有無を判断する判断部と、対象項目毎に検出信号に対する計算区間を関連付けた参照テーブルを記憶する記憶部と、を備え、判断部は、対象項目毎の計算区間に基づいて検出信号の出力値の区間二乗和を算出し、区間二乗和と予め設定された閾値との比較によって対象項目毎の異常の有無を判断する。
【0007】
この状態監視装置では、鉄道車両に設けられた振動センサからの検出信号の出力値に対して区間二乗和を算出し、区間二乗和と閾値との比較によって対象項目ごとの異常の有無を判断する。このような手法によれば、二乗和を算出する計算区間を調整することで、同一の検出信号から各対象項目に応じた複数の特徴量を抽出できる。したがって、この状態監視装置では、対象項目毎に振動センサの設置や複雑なアルゴリズムの追加を行う必要は無く、構成及び処理を複雑化させることなく多数の対象項目の状態監視を実施できる。
【0008】
参照テーブルには、検出信号の全区間を含む第1の計算区間が関連付けられた対象項目と、第1の計算区間よりも短い第2の計算区間が関連付けられた対象項目とが含まれていてもよい。鉄道システムにおける状態監視の対象項目には、例えば車輪やダンパといった車両の走行系や、レールや橋梁といった敷設系が含まれ得る。これらの対象項目は、長期的に異常を監視すべき項目と、短期的に異常を監視すべき項目とに区分され得る。したがって、二乗和を算出する計算区間を短期的な異常の監視及び長期的な異常の監視の双方に対応付けることにより、より鉄道システムの実態に即した状態監視を実施できる。
【0009】
参照テーブルにおいて、対象項目には、振動方向、周波数帯域、サンプリング周波数が更に関連付けられていてもよい。これにより、同一の検出信号から各対象項目に応じた複数の特徴量をより精度良く抽出できる。
【0010】
振動センサは、3軸加速度センサであってもよい。これにより、振動センサの設置数を更に抑えることができる。
【0011】
振動センサは、鉄道車両の前後の端部のそれぞれ又は前後の台車のそれぞれに設けられていてもよい。鉄道車両の上記位置に振動センサを設けることで、鉄道システムの走行系及び敷設系の双方に関する振動を好適に取得できる。また、鉄道車両の前後の異なる位置の振動センサからの検出信号からそれぞれ特徴量を抽出することで、異常の有無の判断精度を向上できる。
【0012】
本開示の一側面に係る状態監視方法は、振動センサからの検出信号に基づいて、状態監視の対象項目毎の異常の有無を判断する判断ステップを備え、判断ステップでは、対象項目毎に検出信号に対する計算区間を関連付けた参照テーブルを参照し、対象項目毎の計算区間に基づいて検出信号の出力値の区間二乗和を算出し、区間二乗和と予め設定された閾値との比較によって対象項目毎の異常の有無を判断する。
【0013】
この状態監視方法では、鉄道車両に設けられた振動センサからの検出信号の出力値に対して区間二乗和を算出し、区間二乗和と閾値との比較によって対象項目ごとの異常の有無を判断する。このような手法によれば、二乗和を算出する計算区間を調整することで、同一の検出信号から各対象項目に応じた複数の特徴量を抽出できる。したがって、この状態監視方法では、対象項目毎に振動センサの設置やアルゴリズムの追加を行う必要は無く、構成及び処理を複雑化させることなく多数の対象項目の状態監視を実施できる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、構成及び処理を複雑化させることなく多数の対象項目の状態監視を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示に係る状態監視装置の一実施形態を示す概略的な構成図である。
図2】第1の計算区間が関連付けられた対象項目に関する参照テーブルの一例を示す図である。
図3】第2の計算区間が関連付けられた対象項目に関する参照テーブルの一例を示す図である。
図4図1に示した状態監視装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図5】実施例に用いた模擬車両及び模擬レールの構成を示す斜視図である。
図6】模擬車両の進行方向後側の車輪に脱線が発生した場合の振動センサからの検出信号の一例を示す図である。
図7図6に示した検出信号の区間二乗和を示す図である。
図8】模擬車両の進行方向後側の車輪に踏面フラットが発生した場合の振動センサからの検出信号の一例を示す図である。
図9図8に示した検出信号の区間二乗和を示す図である。
図10】模擬車両の進行方向後側の車輪に蛇行動が発生した場合の振動センサからの検出信号の一例を示す図である。
図11図10に示した検出信号の区間二乗和を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る状態監視装置及び状態監視方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本開示に係る状態監視装置の一実施形態を示す概略的な構成図である。この状態監視装置1は、鉄道車両システムに対する状態監視を行う装置として構成され、例えば車輪やダンパといった車両の走行系や、レールや橋梁といった敷設系を対象項目とする状態監視を実施する。図1に示すように、状態監視装置1は、振動センサ2と、判断部3と、記憶部4と、を備えている。
【0018】
振動センサ2は、例えば対象物におけるXYZ方向の加速度を検出する3軸加速度センサである。振動センサ2は、鉄道車両11に設けられている。振動センサ2は、鉄道車両11の台車に設けられていてもよい。本実施形態では、振動センサ2は、鉄道車両11の前後の台車12,12のそれぞれに設けられている。この場合、振動センサ2のそれぞれは、鉄道車両11の高さ方向から見て、台車における心皿の直上となる領域に位置していてもよい。振動センサ2は、鉄道車両11の台車12に加わる振動(加速度)を検出し、検出信号を判断部3に順次出力する。
【0019】
判断部3は、振動センサ2からの検出信号に基づいて、状態監視の対象項目毎の異常の有無を判断する部分である。判断部3は、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、及びCPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部を備えたコンピュータシステムである。かかるコンピュータシステムとしては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。当該コンピュータシステムは、メモリに格納されるプログラムをCPUで実行することにより、判断部3として機能する。判断部3は、例えば鉄道車両システムの保守センター内に配置され、ネットワークNを介して振動センサ2からの検出信号を受信可能となっている。
【0020】
判断部3は、振動センサ2からの検出信号を受け取ると、状態監視の対象項目毎の計算区間に基づいて検出信号の出力値の区間二乗和を算出する。そして、区間二乗和と予め設定された閾値との比較によって対象項目毎の異常の有無を判断する。判断部3は、例えば所定の計算区間を用いて算出された区間二乗和が閾値を超えたか否かに基づいて、対象項目毎の異常の有無を判断する。判断部3は、対象項目に異常があると判断した場合には、例えば鉄道車両11の走行制御装置や、鉄道システムの保守センター側の制御装置などに、対象項目に異常がある旨の信号を送信する。
【0021】
区間二乗和とは、あるデータに関し、当該データを含めた一定区間のデータの二乗を合計して得られる値である。区間二乗和の算出にあたって、判断部3は、記憶部4に記憶されている参照テーブル5を参照する。参照テーブル5には、状態監視の対象項目毎に検出信号に対する計算区間を関連付けられている。本実施形態では、振動センサ2は、180秒間を1つの検出サイクルとして検出信号を繰り返し出力する。そして、参照テーブル5には、図2に示すように、検出信号の全区間(1つの検出サイクルの全期間)を含む第1の計算区間が関連付けられた対象項目が含まれている。また、参照テーブル5には、図3に示すように、第1の計算区間よりも短い第2の計算区間が関連付けられた対象項目が含まれている。図2に示す対象項目は、長期的に異常を監視すべき項目であり、図3に示す対象項目は、短期的に異常を監視すべき項目である。
【0022】
参照テーブル5には、「振動方向」、「周波数帯域」、「サンプリング周波数」、「閾値」が各対象項目に対して関連付けられている。「振動方向」は、3軸加速度センサである振動センサ2から出力される検出信号のうち、どの方向の加速度の検出信号を用いるかを示すパラメータである。「周波数帯域」は、振動センサ2から出力される検出信号のうち、どの周波数帯域の信号成分を用いるかを示すパラメータである。「サンプリング周波数」は、1秒当たりの検出信号を何個のデジタルデータに変換するかを示すパラメータである。「閾値」は、検出信号の区間二乗和に対して設定されるパラメータである。「閾値」は、検出信号の最大値に基づいて規格化された値であってもよい。
【0023】
図2の例では、長期的に異常を監視すべき対象項目として、「空気ばね異常」、「軸ばね・軸受異常」、「軌道異常」の3項目が設定されている。「空気ばね異常」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」が5~20Hz、「計算区間」が180000データ(180sec/全区間)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が3000となっている。「軸ばね・軸受異常」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」が5~20Hz、「計算区間」が180000データ(180sec/全区間)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が2000となっている。「軌道異常」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」が5~20Hz、「計算区間」が180000データ(180sec/全区間)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が2000となっている。
【0024】
なお、図2の例では、「軸ばね・軸受け異常」の各パラメータと、「軌道異常」の各パラメータが同じになっているが、この場合、図示しないが、更なるパラメータとして、所定の計算区間を用いて算出された区間二乗和が閾値を超えている時間の長さを導入することで、両者の区別が可能となる。
【0025】
図3の例では、短期的に異常を監視すべき対象項目として、「脱線」、「車輪踏面フラット」、「蛇行動」、「左右動ダンパ異常/ヨーダンパ異常」、「軸ダンパ異常」、「レールの波状摩耗」、「橋梁異常」の7項目が設定されている。「脱線」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」がオーバーオール(DC~1kHz)、「計算区間」が100データ(100msec)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が2000となっている。
【0026】
「車輪踏面フラット」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」がオーバーオール(DC~1kHz)、「計算区間」が1500データ(1.5sec)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が1500となっている。「蛇行動」に対しては、「振動方向」が左右、「周波数帯域」がオーバーオール(DC~1kHz)、「計算区間」が1500データ(1.5sec)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が1500となっている。
【0027】
「左右動ダンパ異常/ヨーダンパ異常」に対しては、「振動方向」が左右、「周波数帯域」が5~20Hz、「計算区間」が1000データ(1.0sec)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が1000となっている。「軸ダンパ異常」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」が5~20Hz、「計算区間」が1000データ(1.0sec)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が1000となっている。
【0028】
「レールの波状摩耗」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」が5~20Hz、「計算区間」が1000データ(1.0sec)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が1000となっている。「橋梁異常」に対しては、「振動方向」が上下、「周波数帯域」が13~15Hz、「計算区間」が1600データ(1.6sec)、「サンプリング周波数」が1kHz、「閾値」が1000となっている。
【0029】
図3の例では、「軸ダンパ異常」の各パラメータと、「レールの波状摩耗」の各パラメータが同じになっているが、図2の「軸ばね・軸受け異常」及び「軌道異常」の場合と同様に、更なるパラメータとして、所定の計算区間を用いて算出された区間二乗和が閾値を超えている時間の長さを導入することで、両者の区別が可能となる。
【0030】
図4は、上述した状態監視装置1の動作の一例を示すフローチャートである。状態監視装置1では、振動センサ2からの検出信号に基づいて、状態監視の対象項目毎の異常の有無を判断する判断ステップが実行される。判断ステップでは、図4に示すように、まず、振動センサ2からの検出信号の取得がなされる(ステップS01)。次に、判断部3において、対象項目毎に検出信号に対する計算区間を関連付けた参照テーブル5の参照がなされる(ステップS02)。判断部3では、対象項目毎の計算区間に基づいて検出信号の出力値の区間二乗和の算出がなされる(ステップS03)。区間二乗和の算出の後、算出された区間二乗和と予め設定された閾値との比較がなされる(ステップS04)。区間二乗和と閾値との比較により、対象項目毎の異常の有無が判断される(ステップS05)。
【0031】
以上説明したように、状態監視装置1では、鉄道車両11に設けられた振動センサ2からの検出信号の出力値に対して区間二乗和を算出し、区間二乗和と閾値との比較によって対象項目ごとの異常の有無を判断する。このような手法によれば、二乗和を算出する計算区間を調整することで、同一の検出信号から各対象項目に応じた複数の特徴量を抽出できる。したがって、状態監視装置1では、対象項目毎に振動センサ2の設置や複雑なアルゴリズムの追加を行う必要は無く、構成及び処理を複雑化させることなく多数の対象項目の状態監視を実施できる。
【0032】
本実施形態では、参照テーブル5において、検出信号の全区間を含む第1の計算区間が関連付けられた対象項目と、第1の計算区間よりも短い第2の計算区間が関連付けられた対象項目とが含まれている。鉄道システムにおける状態監視の対象項目には、例えば車輪やダンパといった車両の走行系や、レールや橋梁といった敷設系が含まれ得る。これらの対象項目は、長期的に異常を監視すべき項目と、短期的に異常を監視すべき項目とに区分され得る。したがって、二乗和を算出する計算区間を短期的な異常の監視及び長期的な異常の監視の双方に対応付けることにより、より鉄道システムの実態に即した状態監視を実施できる。
【0033】
本実施形態では、参照テーブル5において、対象項目には、振動方向、周波数帯域、サンプリング周波数が更に関連付けられていてもよい。これにより、同一の検出信号から各対象項目に応じた複数の特徴量をより精度良く抽出できる。
【0034】
本実施形態では、振動センサ2として3軸加速度センサが用いられている。これにより、振動センサ2の設置数を抑えることができる。さらに、本実施形態では、振動センサ2が鉄道車両の前後の台車12,12のそれぞれに設けられている。鉄道車両11の台車12に振動センサ2を設けることで、鉄道システムの走行系及び敷設系の双方に関する振動を好適に取得できる。また、異なる位置の振動センサ2からの検出信号からそれぞれ特徴量を抽出することで、異常の有無の判断精度を向上できる。
【0035】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、判断部3がネットワークNを介して振動センサ2からの検出信号を受信するようになっているが、判断部3を鉄道車両11側(例えば運転台など)に設け、有線又は無線によって振動センサ2からの検出信号を受信する態様としてもよい。また、振動センサ2は、必ずしも鉄道車両11の前後の台車12,12のそれぞれに設ける必要はなく、台車12のいずれかにのみ設ける態様としてもよい。振動センサ2を設ける位置は、必ずしも台車12に限られず、例えば鉄道車両11の前後の端部のそれぞれに設けられていてもよい。鉄道車両11の前後の端部に振動センサ2を設ける場合、振動センサ2は、鉄道車両11の高さ方向から見て、台車12と重ならない領域の床下などに配置されていてもよい。
【0036】
以下、状態監視の実施例について説明する。本実施例では、図5に示すような模擬車両21及び模擬レール(不図示)を用い、図2及び図3に示した状態監視の各対象項目のうち、「脱線」、「車輪踏面フラット」、「蛇行動」の3項目について、振動センサ2による検出信号の取得と、検出信号の区間二乗和の算出とを行った。図5の例では、振動センサ2は、模擬車両21の前後の台車相当部分23,23において、当該模擬車両21の幅方向の中央(心皿相当部分)付近にそれぞれ配置した。
【0037】
図6は、模擬車両の進行方向後側の車輪に脱線が発生した場合の振動センサからの検出信号の一例を示す図である。図6では、横軸に時間(sec)、縦軸に加速度(m/sec)を示し、振動センサ2からのZ方向(車両高さ方向)の検出信号をプロットしている。図6中のグラフAは、模擬車両21の進行方向後側の台車相当部分23に配置された振動センサ2からの検出信号であり、図6中のグラフBは、模擬車両21の進行方向前側の台車相当部分23に配置された振動センサ2からの検出信号である。サンプリング周波数は、1kHzである。図6では、測定開始後2.8秒~5.6秒の期間で加速度が急峻に増減していることが確認できる。また、この期間以外でも幾つかの細かい加速度の増減が確認できる。
【0038】
図7は、図6に示した検出信号の区間二乗和を示す図である。図7では、横軸に時間(sec)、縦軸に区間二乗和(規格化値)を示している。図7中のグラフA,Bは、図6のグラフA,Bに対応する検出信号の区間二乗和をそれぞれプロットしたものである。区間二乗和の計算区間は、100データ(1msec)である。図7に示すように、検出信号の区間二乗和を算出すると、検出信号中から脱線に関連する振動成分の波形が特徴量として抽出される。
【0039】
この振動成分の波形により、実際には、測定開始後4.2秒~5.6秒の期間で模擬車両21に脱線が生じていることが分かる。また、図7のグラフA,Bを比較すると、測定開始後4.2秒~5.6秒の期間において、脱線が生じた方の台車に配置された振動センサ2からの検出信号の区間二乗和の波形のピーク値及び積分値は、脱線が生じていない方の台車に配置された振動センサ2からの検出信号の区間二乗和の波形のピーク値及び積分値よりも大きくなっていることが分かる。したがって、2つの波形に対し、ピーク値及び積分値の少なくとも一方に対する閾値をそれぞれ設定することで、脱線の発生の有無及びいずれの台車の車輪に脱線が発生したかを判断することができる。
【0040】
図8は、模擬車両の進行方向後側の車輪に踏面フラットが発生した場合の振動センサからの検出信号の一例を示す図である。図8では、横軸に時間(sec)、縦軸に加速度(m/sec)を示し、振動センサ2からのZ方向(車両高さ方向)の検出信号をプロットしている。図8中のグラフAは、模擬車両21の進行方向後側の台車相当部分23に配置された振動センサ2からの検出信号であり、図8中のグラフBは、模擬車両21の進行方向前側の台車相当部分23に配置された振動センサ2からの検出信号である。サンプリング周波数は、1kHzである。図8では、測定開始後2秒~14秒の期間で加速度が急峻に増減していることが確認できる。
【0041】
図9は、図8に示した検出信号の区間二乗和を示す図である。図9では、横軸に時間(sec)、縦軸に区間二乗和(規格化値)を示している。図9中のグラフA,Bは、図8のグラフA,Bに対応する検出信号の区間二乗和をそれぞれプロットしたものである。区間二乗和の計算区間は、1500データ(1.5sec)である。図9に示すように、検出信号の区間二乗和を算出すると、検出信号中から踏面フラットに関連する振動成分の波形が特徴量として抽出される。
【0042】
この振動成分の波形により、実際には、測定開始後2秒~12秒の期間で模擬車両21に踏面フラットが生じていることが分かる。また、図9のグラフA,Bを比較すると、両者の波形には形状の違いが現れていることが分かる。したがって、2つの波形に対し、ピーク値及び積分値などの閾値をそれぞれ設定することで、踏面フラットの発生の有無及びいずれの台車の車輪に踏面フラットが発生したかを判断することができる。
【0043】
図10は、模擬車両の進行方向後側の車輪に蛇行動が発生した場合の振動センサからの検出信号の一例を示す図である。図10では、横軸に時間(sec)、縦軸に加速度(m/sec)を示し、模擬車両21の進行方向後側の台車相当部分23に配置された振動センサ2からのY方向(車両幅方向)の検出信号をプロットしている。サンプリング周波数は、1kHzである。図10では、測定開始直後~10秒の期間で加速度が急峻に増減していることが確認できる。
【0044】
図11は、図10に示した検出信号の区間二乗和を示す図である。図11では、横軸に時間(sec)、縦軸に区間二乗和(規格化値)を示している。区間二乗和の計算区間は、1500データ(1.5sec)である。図11に示すように、検出信号の区間二乗和を算出すると、検出信号中から蛇行動に関連する振動成分の波形が特徴量として抽出される。図10では、測定開始直後~10秒の期間において一様に加速度が増減しているように見えるが、図11では、区間二乗和の増減が明瞭に現れており、測定開始後5.5秒付近に波形のピークが位置していることが分かる。したがって、この区間二乗和の波形のピーク値に対する閾値を設定することで、蛇行動の発生の有無を判断することができる。
【0045】
図6図8図10に示した異常時の検出信号では、いずれも加速度の急峻な増減が異常の発生に応じて持続しているが、異常が発生している期間中の検出信号の波形が互いに類似しており、当該波形から状態監視の各対象項目の特徴量を見出すことは難しい。一方で、図7図9図11に示した検出信号の区間二乗和では、各対象項目に応じた複数の特徴量を波形として抽出できることが分かる。したがって、この区間二乗和に対してそれぞれ適切な閾値を設定することで、対象項目毎に振動センサの設置や複雑なアルゴリズムの追加を行うことなく、多数の対象項目の状態監視を実施できる。
【符号の説明】
【0046】
1…状態監視装置、2…振動センサ、3…判断部、4…記憶部、5…参照テーブル、11…鉄道車両、12…台車。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11