IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリエンタル白石株式会社の特許一覧

特開2023-79020既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造
<>
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図1
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図2
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図3
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図4
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図5
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図6
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図7
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図8
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図9
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図10
  • 特開-既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079020
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20230531BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20230531BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
E01D1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192409
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】福島 万貴
(72)【発明者】
【氏名】武知 勉
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA07
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】道路橋示方書の規定を満足する既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造を提供する。
【解決手段】既設コンクリート床版が撤去された既設コンクリート桁2と、既設コンクリート桁2上に載置されて接続された新設のプレキャスト床版3と、を接合する既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1において、既設コンクリート桁2を、スターラップ20の上端を機械式定着手段で既設コンクリート桁2の上面に定着し、プレキャスト床版3の上縁側鉄筋30を、フック部31aが形成された新設のスターラップ31で取り囲み、既設コンクリート桁2に接合された桁側連結鋼材4と、プレキャスト床版3に接合された床版側連結鋼材5と、これらを連結する複数の連結棒材6と、を備え、新設のスターラップ31及び既設のスターラップ20で上縁側鉄筋30を取り囲むことにより、既設コンクリート桁2にプレキャスト床版3を有効に接合する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート床版が撤去された既設コンクリート桁と、この既設コンクリート桁上に載置されて接続された新設のプレキャスト床版と、を接合する既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造であって、
前記既設コンクリート桁は、既設のスターラップの上端部分が撤去され、残ったスターラップの上端が機械式定着手段で前記既設コンクリート桁の上面に定着され、
前記プレキャスト床版は、橋軸方向の引張抵抗材である上縁側鉄筋が、フック部が形成された新設のスターラップで取り囲まれており、
前記既設コンクリート桁に接合された桁側連結鋼材と、前記プレキャスト床版に接合された床版側連結鋼材と、これらを連結する複数の連結棒材と、を備え、
前記新設のスターラップ及び前記既設のスターラップで前記上縁側鉄筋が取り囲まれることにより、前記既設コンクリート桁に前記プレキャスト床版が有効に接合されていること
を特徴とする既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【請求項2】
前記既設コンクリート桁は、連続桁であること
を特徴とする請求項1に記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【請求項3】
前記機械式定着手段は、前記残ったスターラップの上端に鋼製の円筒体がカシメ留められた圧着グリップであること
を特徴とする請求項2に記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【請求項4】
前記機械式定着手段は、前記残ったスターラップの上端にクサビを用いて鋼製の円筒体が固定されたクサビ定着式、又は、前記残ったスターラップの上端にねじ溝を切削して長ナットを螺合するねじ定着式であること
を特徴とする請求項2に記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【請求項5】
前記機械式定着手段は、前記残ったスターラップの上端に筒状鋼材を外嵌してその間に経時硬化材からなる充填材を充填硬化させて定着する充填材充填式であること
を特徴とする請求項2に記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【請求項6】
前記桁側連結鋼材は、断面コの字状に成形された鋼板であり、
前記床版側連結鋼材は、帯状の鋼板からなり、
前記連結棒材は、両端にねじ部が形成され鋼棒であり、
前記桁側連結鋼材と前記床版側連結鋼材は、前記連結棒材でボルト接合されていること
を特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【請求項7】
前記桁側連結鋼材は、鋼棒からなる上下に段差のある枠体であり、
前記床版側連結鋼材は、矩形の鋼板からなり、
前記連結棒材は、両端にねじ部が形成された鋼棒であり、
前記桁側連結鋼材と前記床版側連結鋼材は、前記床版側連結鋼材間にボルト接合された前記連結棒材の上方を前記桁側連結鋼材が跨ぐことにより接合されていること
を特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【請求項8】
前記桁側連結鋼材は、鋼棒からなる上下に段差のある枠体であり、
前記床版側連結鋼材は、フック部付きのU字状の異形鋼棒からなり、
前記連結棒材は、U字状の鋼棒であり、
前記桁側連結鋼材と前記床版側連結鋼材は、橋軸方向に隣接する複数のU字状の前記床版側連結鋼材に前記連結棒材が挿通された上、前記連結棒材の上方を前記桁側連結鋼材が跨ぐことにより接合されていること
を特徴とする請求項2ないし7のいずれかに記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路橋などの橋梁では、車両の通行による繰り返しの輪荷重によりコンクリート床版が損傷するために、一定期間が経過すると、橋桁から損傷した既設の古いRC床版を撤去して新たな床版に架け替えて更新することが行われている。また、近年、更新後の新たな床版をプレキャスト床版により更新することが行われている。プレキャスト床版は、周囲の環境が整った工場等で製造するために、高品質な製品を安定して供給することができ、且つ更新工事の工期が短くて済むからである。
【0003】
例えば、特許文献1には、T型合成桁のコンクリート橋の現場打ちRC床版をPC合成桁用プレキャスト床版に取り替えるPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0034]~[0041]、図面の図5図14等参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載のPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法では、一体化された合成桁のRC床版との接合部分において、主桁3のズレ止め鉄筋12やスターラップ13を残置する必要があるため、ブレーカーやウォータージェットなどの超高圧水で大量のコンクリートを斫らなければならず、作業時間がかかるという問題があった。
【0005】
また、特許文献1に記載のPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法では、主桁上に配置されたズレ止め鉄筋12やスターラップ13を残置するため、プレキャスト床版に埋設された鋼板と鉄筋が干渉してしまい、適切な位置にプレキャスト床版を設置することが困難、又は設置に時間がかかるという問題があった。
【0006】
その上、特許文献1に記載のPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法では、PC合成桁用プレキャスト床版下にズレ止め鉄筋12やスターラップ13を定着するための空間と、その空間上部には横締めPC鋼材を配置するための床版厚さが必要となるため、更新後の床版の厚さが更新前より厚くなり、存置する主桁及び下部構造物に負担がかかるという問題もあった。
【0007】
このような問題を解決するべく、ズレ止め鉄筋やスターラップを途中で切断することも考えられる。しかし、道路示方書の考え方に従えば、合成桁の引張抵抗材であるスターラップは、トラス理論に基づいて設計する必要があり、圧縮弦材に定着されないと耐荷機構が成立せず、主桁のウェブ部分が有効に機能しなくなるという問題がある。
【0008】
そこで、このような問題を解決するべく、本願出願人らは、特許文献2及び特許文献3に記載のコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を提案した。コンクリート橋の主桁のスターラップなどの引張抵抗材を有効に定着して、古くなって損傷した既存のRC床版を新設の高品質なプレキャスト床版へ取り替えることができる。
【0009】
しかし、特許文献2及び特許文献3に記載の発明を連続桁に適用した場合、上縁側に引張鉄筋が配置されるため次の問題が発生する。「道路橋示方書・同解説IIIコンクリート橋・コンクリート部材編 H29年11月 公益社団法人 日本道路協会 5章 5.2.5 鉄筋の定着(10)」において「スターラップは、引張鉄筋を取囲み、フックをつけて圧縮部のコンクリートに定着する。」と記載されている。したがって、連続桁では上縁側に引張鉄筋が配置されるため、上縁側鉄筋を取囲むようにスターラップを配置しなければならない。しかし、特許文献2及び特許文献3に記載のコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法では、その具体的対応方法が記載されておらず、特許文献2及び特許文献3に記載の発明を適用して、連続桁からなるコンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替えた場合、連続桁となるプレキャスト床版と既設コンクリート桁との具体的接合方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019-132070号公報
【特許文献2】特許第6845456号公報
【特許文献3】特許第6845457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、道路橋示方書の規定を満足する既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、既設コンクリート床版が撤去された既設コンクリート桁と、この既設コンクリート桁上に載置されて接続された新設のプレキャスト床版と、を接合する既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造であって、前記既設コンクリート桁は、既設のスターラップの上端部分が撤去され、残ったスターラップの上端が機械式定着手段で前記既設コンクリート桁の上面に定着され、前記プレキャスト床版は、橋軸方向の引張抵抗材である上縁側鉄筋が、フック部が形成された新設のスターラップで取り囲まれており、前記既設コンクリート桁に接合された桁側連結鋼材と、前記プレキャスト床版に接合された床版側連結鋼材と、これらを連結する複数の連結棒材と、を備え、前記新設のスターラップ及び前記既設のスターラップで前記上縁側鉄筋が取り囲まれることにより、前記既設コンクリート桁に前記プレキャスト床版が有効に接合されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、請求項1に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造において、前記既設コンクリート桁は、連続桁であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、請求項2に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造において、前記機械式定着手段は、前記残ったスターラップの上端に鋼製の円筒体がカシメ留められた圧着グリップであることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、請求項2に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造において、前記機械式定着手段は、前記残ったスターラップの上端にクサビを用いて鋼製の円筒体が固定されたクサビ定着式、又は、前記残ったスターラップの上端にねじ溝を切削して長ナットを螺合するねじ定着式であることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、請求項2に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造において、前記機械式定着手段は、前記残ったスターラップの上端に筒状鋼材を外嵌してその間に経時硬化材からなる充填材を充填硬化させて定着する充填材充填式であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、請求項2ないし5のいずれかに係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造において、前記桁側連結鋼材は、断面コの字状に成形された鋼板であり、前記床版側連結鋼材は、帯状の鋼板からなり、前記連結棒材は、両端にねじ部が形成され鋼棒であり、前記桁側連結鋼材と前記床版側連結鋼材は、前記連結棒材でボルト接合されていることを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、請求項2ないし6のいずれかに記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造において、前記桁側連結鋼材は、鋼棒からなる上下に段差のある枠体であり、前記床版側連結鋼材は、帯状の鋼板からなり、前記連結棒材は、両端にねじ部が形成された鋼棒であり、前記桁側連結鋼材と前記床版側連結鋼材は、前記床版側連結鋼材間にボルト接合された前記連結棒材の上方を前記桁側連結鋼材が跨ぐことにより接合されていることを特徴とする。
【0019】
請求項8に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造は、請求項2ないし7のいずれかに記載の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造において、前記桁側連結鋼材は、鋼棒からなる上下に段差のある枠体であり、前記床版側連結鋼材は、フック部付きのU字状の異形鋼棒からなり、前記連結棒材は、U字状の鋼棒であり、前記桁側連結鋼材と前記床版側連結鋼材は、橋軸方向に隣接する複数のU字状の前記床版側連結鋼材に前記連結棒材が挿通された上、前記連結棒材の上方を前記桁側連結鋼材が跨ぐことにより接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1~8に係る発明によれば、引張抵抗材を介して既設のスターラップで上縁側鉄筋を間接的に取り囲むことにより、前述の道路橋示方書の規定を満足した上で、既設コンクリート桁に新設のプレキャスト床版を有効に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の構成を示すT桁橋を橋軸直角方向に沿って切断した鉛直断面図である。
図2図2は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の主要構成を示す斜視図である。
図3図3は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の桁側連結鋼材のみを示す斜視図である。
図4図4は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の床版側連結鋼材のみを示す斜視図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の構成を示すT桁橋を橋軸直角方向に沿って切断した鉛直断面図である。
図6図6は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の主要構成を示す斜視図である。
図7図7は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の桁側連結鋼材のみを示す斜視図である。
図8図8は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の床版側連結鋼材のみを示す斜視図である。
図9図9は、本発明の第3実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の構成を示すT桁橋を橋軸直角方向に沿って切断した鉛直断面図である。
図10図10は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の主要構成を示す斜視図である。
図11図11は、同上の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の床版側連結鋼材のみを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
[第1実施形態]
図1図4を用いて、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造について説明する。本実施形態は、連続桁の既設橋梁であるT桁橋Bに本発明を適用した場合を例示して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1の構成を示すT桁橋Bを橋軸直角方向Yに沿って切断した鉛直断面図である。また、図2は、本実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1の主要構成を示す斜視図である。
【0024】
第1実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1が適用されたT桁橋Bは、老朽化又は損傷した鉄筋コンクリート製の既設のRC床版が撤去されたプレストレストコンクリート製のT型の既設のPC桁2と、このPC桁2上に載置されて接続されたプレキャストコンクリート製の新設のプレキャスト床版3と、から上部構造B1が構成されている。そして、このT桁橋Bは、上部構造B1が2径間以上に亘り図示しない下部構造に3カ所以上で支承された連続桁となっている。なお、図中のXは、橋軸方向Xであり、図中のYは、橋軸直角方向Yであり、図中のZは、上下方向Zである。
【0025】
(プレキャスト床版)
このため、図1に示す既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1では、プレキャスト床版3の上縁側鉄筋30が、引張力が作用する引張鉄筋となっている。よって、T桁橋Bは、既設のRC床版を新設のプレキャスト床版3に更新した場合でも、前述の道路橋示方書の規定により、スターラップで上縁側鉄筋を取囲み、フックをつけて圧縮部のコンクリートに定着する必要がある。
【0026】
そこで、本実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1では、上縁側鉄筋30が新設のスターラップ31で取り囲まれており、このスターラップ31は、フック部31aが形成され、このフック部31aがプレキャスト床版3の橋軸直角方向鉄筋32に沿って配置され、プレキャスト床版3の下部のコンクリートに定着されている。なお、ここで上縁側鉄筋30が新設のスターラップ31で取り囲まれているとは、図1に示すように、上縁側鉄筋30が上方にはらんでしまうことや橋軸直角方向へずれてしまうことを拘束するために新設のスターラップ31で少なくとも三方を取り囲むことを指し、必ずしも上縁側鉄筋30の四方を一周して取り囲んで拘束することを指していない。
【0027】
(PC桁)
PC桁2は、前述のように、損傷した鉄筋コンクリート製のRC床版部分(既設コンクリート床版)が撤去されており、それに伴って既設のスターラップ20の上端部分が斫り取られて撤去されている。そして、スターラップ20の端部をPC桁2に定着するために、残ったスターラップ20の上端に鋼製の円筒体(円筒鋼材)からなる圧着グリップ21がカシメ留められている。ここで、残ったスターラップ20の上端をPC桁2の上面に定着させる定着手段は、圧着グリップ21に限られず、スターラップ端部にねじ止めやその他の方法により機械的にスターラップの鉄筋より径が拡大した拡径部を固着して定着することができる機械式定着手段であればよい。
【0028】
なお、圧着グリップ以外の機械式定着手段としては、クサビを用いて既設のスターラップ20の上端部分に円筒鋼材を固定するクサビ定着式のものや、既設のスターラップ20の上端部分にねじ溝を切削してそのねじ溝に長ナットを螺合するねじ定着式のものが挙げられる。また、既設のスターラップ20の上端部分に筒状鋼材を外嵌してその間に経時硬化材からなる充填材を充填硬化させて定着する充填材充填式の機械式定着手段、又は、前述の種々の機械式定着手段と充填材の組み合せた機械式定着手段とすることもできる。なお、この経時硬化材からなる充填材は、無機系、有機系(例えば、エポキシ系、アクリル系、ウレア系、ウレタン系)、樹脂モルタルなど、を採用することができる。
【0029】
また、図1図2に示すように、既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1は、PC桁2に接合された桁側連結鋼材4と、プレキャスト床版3に接合された左右一対の床版側連結鋼材5,5と、これらを連結して接合する複数の連結棒材6と、を備えている。
【0030】
(桁側連結鋼材)
この桁側連結鋼材4は、図3に示すように、長方形状(矩形状)の底面部40と、この底面部40の短手方向の両端部から上方に立ち上がる2つの側面部41,41とを有する厚さ12mmの鋼板からなる断面コの字状に成形された部材である。図3は、本実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1の桁側連結鋼材4のみを示す斜視図である。
【0031】
底面部40には、側面部41と接する縁沿いに、前述のPC桁2のスターラップ20の端部を挿通する長手方向(橋軸方向X)に沿った左右2列の複数のスターラップ孔42と、軽量化や無収縮モルタルなどの充填材の充填性を確保するための複数の円形の円形孔43と、が穿設されている。また、このスターラップ孔42は、位置調整可能とするため長手方向(橋軸方向X)に長い長孔となっている。
【0032】
また、側面部41には、連結棒材6を挿通するための棒材挿通孔44が穿設されている。この棒材挿通孔44も、現地で連結棒材6を挿通する関係上、位置調整可能とするため長手方向(橋軸方向X)に長い長孔となっている。
【0033】
図2に示すように、桁側連結鋼材4は、ワッシャープレート7を介して圧着グリップ21でスターラップ20(図示せず、図1参照)の上端部に固定されることにより、PC桁2の上端に載置されて設置されている。
【0034】
(床版側連結鋼材)
床版側連結鋼材5は、図4に示すように、厚さ12mmの帯状の鋼板からなり、破線で示す上部51半分がプレキャスト床版3に埋設され、実線で示す下部52半分がプレキャスト床版3の下面から下方へ突設されている(図1参照)。図4は、本実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1の床版側連結鋼材5のみを示す斜視図である。
【0035】
この床版側連結鋼材5の上部51には、図4図1に示すように、プレキャスト床版3の橋軸直角方向鉄筋32を挿通する円形の鉄筋挿通孔53が形成されている。この鉄筋挿通孔53は、床版側連結鋼材5がプレキャスト床版3のコンクリート打設時に設置されているので、位置調整の必要はなく、橋軸直角方向鉄筋32の径に応じた円形の孔となっている。
【0036】
一方、床版側連結鋼材5の下部52には、連結棒材6を挿通するための棒材挿通孔54が穿設されている。この棒材挿通孔54も、現地で連結棒材6を挿通する関係上、前述の棒材挿通孔44と同様に、位置調整可能とするため長手方向(橋軸方向X)に長い長孔となっている。
【0037】
(連結棒材)
連結棒材6は、直径25mmの鋼棒であり、図2に示すように、両端にねじ部60が形成され、前述の棒材挿通孔44及び棒材挿通孔54に挿通されてナット61でボルト固定されることにより、桁側連結鋼材4と床版側連結鋼材5とを連結・接合する機能を有している。これにより、新設のスターラップ31及びPC桁2のスターラップ20で、プレキャスト床版3の上縁側鉄筋30を間接的に取り囲むことができ、前述の道路橋示方書の規定を満足することができる。
【0038】
プレキャスト床版3とPC桁2との間の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1の周囲には、型枠等を組み立てて無収縮モルタルなどの充填材(図示せず)が充填されて硬化され、一体化されている。
【0039】
以上説明した本実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1によれば、新設のプレキャスト床版3内にあるスターラップ31及び既設のスターラップ20で上縁側鉄筋30を間接的に取り囲まれることとなる。これにより、前述の道路橋示方書の規定を満足した上で、既設コンクリート桁であるPC桁2に新設のプレキャスト床版3を有効に接合することができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、図5図8を用いて、本発明の第2実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’について説明する。本実施形態も、連続桁の既設橋梁であるT桁橋Bに適用した場合を例示して説明する。図5は、本発明の第2実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’の構成を示すT桁橋Bを橋軸直角方向Yに沿って切断した鉛直断面図であり、図6は、第2実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’の主要構成を示す斜視図である。また、図7は、既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’の桁側連結鋼材4’のみを示す斜視図であり、図8は、既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’の床版側連結鋼材5’のみを示す斜視図である。
【0041】
第2実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’が、前述の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1と相違する点は、図5図6に示すように、PC桁2に載置される桁側連結鋼材4’と、プレキャスト床版3に接合された床版側連結鋼材5’,・・・,5’と、これらを連結して接合する複数の連結棒材6’と、を備えている点であり、同一構成のPC桁2とプレキャスト床版3については、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0042】
(桁側連結鋼材)
桁側連結鋼材4’は、直径20mmの鋼棒からなり、図7に示すように、平面視矩形状の枠体となっている。また、桁側連結鋼材4’は、平面視矩形状の長辺部分が下辺部40’であり、短辺部分が上辺部41’となり、これらを上下に繋ぐ立上り部42’を有した上下に段差のある枠体となっている。
【0043】
この桁側連結鋼材4’は、下辺部40がPC桁2上に載置され、上辺部41が床版側連結鋼材5’間にボルト接合された連結棒材6’を跨いで充填剤で周囲が固められることでプレキャスト床版3とPC桁2とを連結する機能を有している。
【0044】
(床版側連結鋼材)
床版側連結鋼材5’は、厚さ12mmの矩形の鋼板からなり、図8に示すように、破線で示す上部51’半分がプレキャスト床版3に埋設され、実線で示す下部52’半分がプレキャスト床版3の下面から下方へ突設されている(図5参照)。床版側連結鋼材5’は、図6に示すように、左右二列に所定間隔をおいて、複数設けられている。
【0045】
この床版側連結鋼材5’の上部51’には、図8図5に示すように、プレキャスト床版3の橋軸直角方向鉄筋32を挿通する円形の鉄筋挿通孔53’が形成されている。この鉄筋挿通孔53’は、床版側連結鋼材5がプレキャスト床版3のコンクリート打設時に設置されているので、位置調整の必要はなく、橋軸直角方向鉄筋32の径に応じた円形の孔となっている。
【0046】
一方、床版側連結鋼材5の下部52’には、連結棒材6’を挿通するための棒材挿通孔54’が穿設されている。この棒材挿通孔54’は、現地で連結棒材6’を挿通する関係上、位置調整可能とするため長手方向(橋軸方向X)に長い長孔となっている。
【0047】
(連結棒材)
連結棒材6’は、前述の連結棒材6と比べて橋軸方向Xに沿った長さあたりの設置本数が少なくなる分、太くする必要があり、直径35mmの鋼棒となっている。図6に示すように、連結棒材6’は、連結棒材6と同様に、両端にねじ部60’が形成され、前述の棒材挿通孔54’に挿通されてナット61’でボルト固定されることにより、床版側連結鋼材5’同士を連結し、充填材を介して桁側連結鋼材4’と床版側連結鋼材5’とを連結・接合している。
【0048】
これにより、既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’は、スターラップ31を介してPC桁2のスターラップ20で、プレキャスト床版3の上縁側鉄筋30を間接的に取り囲むことができ、前述の道路橋示方書の規定を満足することができる。
【0049】
プレキャスト床版3とPC桁2との間の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’の周囲には、型枠等を組み立てて無収縮モルタルなどの充填材(図示せず)が充填されて硬化され、一体化されている。
【0050】
(ワッシャープレート)
また、ワッシャープレート7’は、前述のワッシャープレート7と相違して、異なるスターラップ20の端部に圧着された複数の圧着グリップ21に跨って設置されてスターラップ20の上端部の定着力を補っている。桁側連結鋼材4’がプレート状となっておらず、圧着グリップ21に当接して介在していないからである。
【0051】
以上説明した第2実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’によれば、前述の道路橋示方書の規定を満足した上で、連続桁である既設のコンクリート桁に新設のプレキャスト床版を有効に接合することができる。但し、桁側連結鋼材4’は、終局時に変形するおそれがあるため、第1実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1の方が耐久性が高いと言える。
【0052】
[第3実施形態]
次に、図9図11を用いて、本発明の第3実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1”について説明する。本実施形態も、連続桁の既設橋梁であるT桁橋Bに適用した場合を例示して説明する。図9は、本発明の第3実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1”の構成を示すT桁橋Bを橋軸直角方向Yに沿って切断した鉛直断面図であり、図10は、第3実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1”の主要構成を示す斜視図である。また、図11は、既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1”の床版側連結鋼材5”のみを示す斜視図である。
【0053】
第3実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1”が、前述の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1’と相違する点は、図9図10に示すように、プレキャスト床版3に接合された床版側連結鋼材5”,・・・,5”と、連結棒材6”であり、同一構成のPC桁2、プレキャスト床版3、連結棒材6’、ワッシャープレート7’等については、同一符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0054】
第3実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1”は、図9図10に示すように、PC桁2に載置される前述の桁側連結鋼材4’と、プレキャスト床版3に接合された床版側連結鋼材5”,・・・,5”と、これらを連結して接合する複数の連結棒材6”と、を備えている。
【0055】
(床版側連結鋼材)
床版側連結鋼材5”は、前述の床版側連結鋼材5や床版側連結鋼材5’の鋼板からなるのと相違して、D16の異形鋼棒からなる(図上リブや節は省略している)。図11に示すように、床版側連結鋼材5”は、U字状の連結鋼材本体50”と、その端部にそれぞれ形成された一対のフック部51”と、から構成されている。
【0056】
また、図9図11に示すように、フック部51”とその近傍がプレキャスト床版3に埋設されて定着され、U字状の連結鋼材本体50”がプレキャスト床版3の下面から突出するように設けられている。
【0057】
そして、図9図10に示すように、U字状の連結鋼材本体50”の内に連結棒材6”が挿通されことで、充填材を介して前述の桁側連結鋼材4’と連結・接合されている。
【0058】
(連結棒材)
連結棒材6”は、前述の連結棒材6’と同様に直径35mmの鋼棒からなるが、床版側連結鋼材5”が鋼板ではなくボルト接合できないためねじ部が形成されておらず、ボルト状となっていない。この連結棒材6”は、図10に示すように、折り曲げられてU字状となっており、橋軸方向Xに沿って隣接する複数の床版側連結鋼材5”,5”に跨って挿通されている。
【0059】
以上説明した第3実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1”によれば、前述の道路橋示方書の規定を満足した上で、連続桁である既設のコンクリート桁に新設のプレキャスト床版を有効に接合することができる。
【0060】
また、本発明の実施形態に係る既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造1~1”について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0061】
特に、既設橋梁としてプレストレスが導入されたPC桁からなるT桁橋Bを例示したが、これらに限られず、新設の既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造には、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,1’,1”:既設コンクリート桁とプレキャスト床版との接合構造
2:PC桁(既設コンクリート桁)
20:スターラップ(新設のスターラップ)
21:圧着グリップ(機械式定着手段)
3:プレキャスト床版
30:上縁側鉄筋(引張抵抗材)
31:スターラップ(既設のスターラップ)
31a:フック部
32:橋軸直角方向鉄筋
4,4’:桁側連結鋼材
40:底面部
41:側面部
42:スターラップ孔
43:円形孔
44:棒材挿通孔
40’:下辺部
41’:上辺部
42’:立上り部
5,5’,5”:床版側連結鋼材
51,51’:上部
52,52’:下部
53,53’:鉄筋挿通孔
54,54’:棒材挿通孔
50”:連結鋼材本体
51”:フック部
6,6’,6”:連結棒材
60,60’:ねじ部
61,61’:ナット
7,7’:ワッシャープレート
B:T桁橋(既設橋梁)
B1:上部構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11