IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水ハウス株式会社の特許一覧 ▶ ナンカイ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図1
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図2
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図3
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図4
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図5
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図6
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図7
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図8
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図9
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図10
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図11
  • 特開-クリップナットおよび建築用パネル 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079027
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】クリップナットおよび建築用パネル
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20230531BHJP
   E04C 2/30 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
E04B2/56 631J
E04C2/30 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192418
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000110664
【氏名又は名称】ナンカイ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 健夫
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 克己
(72)【発明者】
【氏名】潮 真之介
【テーマコード(参考)】
2E002
2E162
【Fターム(参考)】
2E002FA02
2E002FB02
2E002JD02
2E002MA01
2E002MA05
2E162CA11
(57)【要約】
【課題】プレキャスト成形板の裏面側に、ハット形鋼からなる補剛レールを、その底面部がプレキャスト成形板の裏面から浮き上がるように埋設して構成される建築用パネルに関して、その建築用パネルを躯体に連結するためのナット部材を補剛レールに対して簡単に精度良く取り付ける。
【解決手段】補剛レール20の底面部22の所定箇所に、矩形の窓孔24と円形の連結孔25とを形成する。ナット部材40と、ナット部材40の開口端に一端近傍を結合されたナット支持板5と、ナット支持板5の他端に設けられてナット部材40側に開口するクリップ部6と、を具備するクリップナットを、補剛レール20の窓孔24から底面部22の溝内に挿し込み、クリップ部6で窓孔24の開口縁部を挟持することにより、ナット部材40の雌ねじ孔の開口端が連結孔25に臨むように保持される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌ねじ孔を有するナット部材と、
前記ナット部材の軸心と直交するように前記雌ねじ孔の開口端に一端近傍を結合されたナット支持板と、
前記ナット支持板の他端に設けられたクリップ部と、
を具備し、
前記クリップ部は、前記ナット支持板を挟んで前記ナット部材の反対側に位置し、前記ナット部材側に向かって挟持片を開口させるように形成されている
ことを特徴とするクリップナット。
【請求項2】
請求項1に記載されたクリップナットにおいて、
前記ナット支持板と前記クリップ部とがばね弾性を有する一枚の薄鋼板を折り返して一体的に形成されている
ことを特徴とするクリップナット。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたクリップナットにおいて、
前記ナット部材の雌ねじ孔の開口端の座面に短筒状のかしめ部が突設され、
前記かしめ部が前記ナット支持板に形成された孔部に挿入されて圧着されるか、またはかしめ座金を嵌装することで前記ナット支持板に結合されている
ことを特徴とするクリップナット。
【請求項4】
プレキャスト成形板の裏面側に、ハット形鋼からなる補剛レールを、その底面部が前記プレキャスト成形板の裏面から浮き上がるように取り付けた建築用パネルにおいて、
前記補剛レールの底面部の所定箇所に、矩形の窓孔と円形の連結孔とが所定間隔で形成され、
請求項1または2に記載されたクリップナットが、前記補剛レールの前記窓孔から前記底面部と前記プレキャスト成形板との隙間に挿し込まれて、前記クリップ部が前記窓孔の開口縁部を挟持することにより、前記ナット部材の雌ねじ孔が前記連結孔に臨むように保持される
ことを特徴とする建築用パネル。
【請求項5】
請求項4に記載された建築用パネルにおいて、
前記ナット部材の雌ねじ孔の開口端の座面に短筒状のかしめ部が突設され、
前記かしめ部が前記ナット支持板に形成された孔部に挿入されて圧着されるか、またはかしめ座金を嵌装することで前記ナット支持板に結合され、
前記補剛レールの底面部に形成された連結孔に、前記ナット部材のかしめ部が嵌まり込んで保持される
ことを特徴とする建築用パネル。
【請求項6】
請求項4または5に記載された建築用パネルにおいて、
前記ナット支持板を打ち抜いて前記ナット部材側に屈曲させた押え片が設けられ、
前記押え片が前記プレキャスト成形板の裏面に当接することにより、前記ナット部材が前記補剛レールの底面部に押し当てられる
ことを特徴とする建築用パネル。
【請求項7】
請求項4、5または6に記載された建築用パネルにおいて、
前記ナット部材の前記開口端の反対側が前記プレキャスト成形板に埋設される状態で保持される
ことを特徴とする建築用パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、プレキャスト成形板の裏面側に補剛レールを埋設した建築用パネルを躯体に連結するためのクリップナットと、そのクリップナットを補剛レールに取り付けた建築用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、鉄骨3階建て住宅のカーテンウォール外壁等に使用可能な建築用パネルとして、プレキャスト成形板の裏面側に形鋼材を埋設した外壁パネルを開発し、特許文献1に開示している。その外壁パネル1は、図12に示すように、単層のメッシュ鉄筋11を埋設したプレキャスト成形板(当該文献中では「コンクリート単板」と記載)12の裏面側にハット形鋼からなる補剛レール(当該文献中では「溝型フレーム材」と記載)2を取り付けたものである。補剛レール2は、外側に張り出すフランジ部(ハットの鍔部分)21がメッシュ鉄筋11に溶接され、コ字形の溝部を囲む底面部(ハットの天面部分)22がプレキャスト成形板12の裏面から浮き上がるようにしてコンクリート内に埋設される。
【0003】
補剛レール2の溝内には、この外壁パネル1を躯体の梁等に連結するためのナット部材(当該文献中では「インサートナット」と記載)4が取り付けられる。このナット部材4は一端側が閉塞端となされた高ナットで、ねじ孔の開口端が補剛レール2の底面部22に形成された開口部23に臨むように、補剛レール2の溝内に予め溶接によって固定され、閉塞端はコンクリート内に埋設される。このような構成を採用することにより、材厚が薄くて強度に優れ、かつ、躯体への連結もしやすい外壁パネル1を得ることができる。
【0004】
また、本出願人は、前記外壁パネル1に類似した断面構造を有する床パネルも特許文献2に開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-295393号公報
【特許文献2】特開2006-124975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プレキャスト成形板の裏面側にハット形鋼からなる補剛レール2を埋設する特許文献1記載の外壁パネル1においては、コンクリートを型枠内に打設する前に、ナット部材4を補剛レール2またはメッシュ鉄筋11の所定位置に取り付けておく必要があるが、その取り付けに溶接作業を要するので加工手間がかかっている。しかも、コンクリートの打設によってナット部材4の位置や姿勢がずれることのないように、ナット部材4を溶接する際の固定強度を十分に確保する必要もある。
【0007】
本願が開示する発明は、かかる状況を改善するためになされたものであって、コンクリート単板その他のプレキャスト成形板にハット形鋼からなる補剛レールを埋設して構成される、外壁パネルや床パネル等の建築用パネルに関して、その建築用パネルを躯体に連結するためのナット部材を、補剛レールに対して溶接によらず、誰でも簡単に適正な位置へしっかりと取り付けることを可能にすることを目的としている。
【0008】
併せて、本願が開示する発明は、かかるナット部材を補剛レールに取り付けた建築用パネルの実用的構成を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するため、本願が開示する発明に係るクリップナットは、雌ねじ孔を有するナット部材と、前記ナット部材の軸心と直交するように前記雌ねじ孔の開口端に一端近傍を結合されたナット支持板と、前記ナット支持板の他端に設けられたクリップ部と、を具備し、前記クリップ部は、前記ナット支持板を挟んで前記ナット部材の反対側に位置し、前記ナット部材側に向かって挟持片を開口させるように形成されている、との基本的構成を採用する。
【0010】
この基本的構成に係るクリップナットにおいて、前記ナット支持板と前記クリップ部とは、ばね弾性を有する一枚の薄鋼板を折り返して一体的に形成することができる。
【0011】
また、前記ナット部材と前記ナット支持板との結合部位については、前記ナット部材の雌ねじ孔の開口端の座面に短筒状のかしめ部が突設され、前記かしめ部が前記ナット支持板に形成された孔部に挿入されて圧着されるか、またはかしめ座金を嵌装することで前記ナット支持板に結合されている、ものとすることができる。
【0012】
そのクリップナットが適用される建築用パネルは、ハット形鋼からなる補剛レールを、その底面部が前記プレキャスト成形板の裏面から浮き上がるように取り付けた建築用パネルにおいて、前記補剛レールの底面部の所定箇所に、矩形の窓孔と円形の連結孔とが所定間隔で形成され、前記クリップナットが、前記補剛レールの前記窓孔から前記底面部と前記プレキャスト成形板との隙間に挿し込まれて、前記クリップ部が前記窓孔の開口縁部を挟持することにより、前記ナット部材の雌ねじ孔が前記連結孔に臨むように保持される、ものとして特徴づけられる。
【0013】
この構成に係る建築用パネルにおいては、前記ナット部材の雌ねじ孔の開口端の座面に短筒状のかしめ部が突設され、前記かしめ部が前記ナット支持板に形成された孔部に挿入されて圧着されるか、またはかしめ座金を嵌装することで前記ナット支持板に結合され、前記補剛レールの底面部に形成された連結孔に、前記ナット部材のかしめ部が嵌まり込んで保持される、ように構成することができる。
【0014】
また、前記クリップナットには前記ナット支持板を打ち抜いて前記ナット部材側に屈曲させた押え片が設けられ、前記ナット支持板に設けられた前記押え片が前記プレキャスト成形板の裏面に当接することにより、前記ナット部材が前記補剛レールの底面部に押し当てられるようにすると、より好ましい。
【0015】
また、前記建築用パネルは、前記ナット部材の前記開口端の反対側が前記プレキャスト成形板に埋設される状態で保持される、ように構成することもできる。
【発明の効果】
【0016】
前述のように構成されるクリップナットを用いることにより、プレキャスト成形板に埋設されるハット形鋼の底面部に対して、ナット部材を、溶接によらず、また特別な工具等も必要とせず、誰でも簡単に適正な位置へしっかりと取り付けることが可能になる。
【0017】
また、補剛レールの底面部に矩形の窓孔と円形の連結孔とを形成して、その窓孔から補剛レールの溝内にクリップナットを挿し込み、クリップナットのクリップ部で窓孔の開口縁部を挟持する構成を採用することで、ナット部材の開口端を補剛レールの連結孔に臨むように精度良く保持することができる。さらに、補剛レールに対してナット部材を取り付けるためのスペースをコンパクトに納めることができる。
【0018】
このように構成される建築用パネルを採用することで、建築用パネルの製造や躯体への連結に際しての作業性を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本願が開示する発明に係るクリップナットが取り付けられる建築用パネルの裏面側の斜視図である。
図2】本願が開示する発明の第1実施形態にかかるクリップナットの形態を示す斜視図であり、(a)は上面側、(b)は下面側の形態をそれぞれ示している。
図3】前記第1実施形態にかかるクリップナットを補剛レールに取り付けるときの形態を示す斜視図であり、(a)は取付前、(b)は取付後の形態をそれぞれ示している。
図4】前記第1実施形態にかかるクリップナットを補剛レールに取り付けるときの形態を示す側面図である。
図5】前記第1実施形態にかかるクリップナットを補剛レールに取り付けた状態を、補剛レールの材軸方向から見た断面図である。
図6】前記第1実施形態にかかるクリップナットを取り付けた建築用パネルを躯体に連結した形態を示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は躯体側から建築用パネルの裏面を見た正面図である。
図7】本願が開示する発明の第2実施形態にかかるクリップナットの形態を示す斜視図であり、(a)は上面側、(b)は下面側の形態をそれぞれ示している。
図8】前記第2実施形態にかかるクリップナットを補剛レールに取り付けるときの形態を示す斜視図であり、(a)は取付前、(b)は取付後の形態をそれぞれ示している。
図9】前記第2実施形態にかかるクリップナットを補剛レールに取り付けるときの形態を示す側面図である。
図10】前記第2実施形態にかかるクリップナットを補剛レールに取り付けた状態を、補剛レールの材軸方向から見た断面図である。
図11】前記第2実施形態にかかるクリップナットを取り付けた建築用パネルを躯体に連結した形態を示す縦断面図である。
図12】特許文献1に開示された外壁パネルの要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下において部位・部材の相対的な位置関係や動作の向きを説明する際には、建築用パネルの製造段階、つまり建築用パネルの意匠面を下、裏面を上に向けて、裏面側に補剛レールを組み付け、その状態で型枠内にコンクリートを打設するときの姿勢を基準にして上下方向(厚さ方向)を特定する。また便宜的に、建築用パネルの長辺方向を縦方向(高さ方向)、短辺方向を横方向(幅方向)と呼ぶこととする。
【0021】
また、複数の実施形態において機能または作用が実質的に共通する構成要素には同一の数字符号を付して、後述の実施形態における重複説明を簡略化する。先述の実施形態における特定の構成要素と、後述の実施形態における類似の構成要素とを区別あるいは対比する場合には、当該構成要素に対応する数字符号に大文字アルファベット(A、B…)を付記するが、数字符号が共通する構成要素についての基本的概念は各実施形態を通じて共通である。
【0022】
<建築用パネル>
図1は、本願が開示する発明に係るクリップナットが取り付けられる建築用パネル10の基本的構成を示す。建築用パネル10は、単層のメッシュ鉄筋11を埋設したプレキャスト成形板12の裏面側にハット形鋼からなる2本の補剛レール20を長辺方向に取り付けたものである。補剛レール20は、外側に張り出すフランジ部21がメッシュ鉄筋11に溶接され、コ字形の溝部を囲む底面部22がプレキャスト成形板12の裏面から浮き上がるようにしてコンクリート内に埋設される。これらの構成は、特許文献1に記載された外壁パネル1と実質的に同じである。ただし、本願が開示する発明においては、以下に説明するクリップナットを補剛レール20に取り付けるために、補剛レール20における底面部22の所定箇所(例えば両端近傍および中間部)に、矩形の窓孔24と円形の連結孔25とが所定間隔で形成されている。窓孔24および連結孔25は、ともに補剛レール20の幅方向における中心線上に配置されている。矩形の窓孔24は、その長辺を補剛レール20の材軸方向に向けて形成されている。この窓孔24は、この建築用パネル10をクレーン等で吊り上げて搬送する際の掛止部としても使用される。
【0023】
<第1実施形態>
図2図6は、本願が開示する発明の第1実施形態に係るクリップナット3Aの構成と、補剛レール20に対する取付形態を示している。クリップナット3Aは、基本的構成として、雌ねじ孔を有するナット部材40と、ナット部材40の雌ねじ孔の開口端に一端近傍を結合されたナット支持板5と、ナット支持板5の他端に設けられたクリップ部6と、を具備する。
【0024】
例示形態におけるナット部材40は、軸心方向の両端が開口した、標準ないしそれ以下の高さを有する六角ナットである。本明細書では、後述する高ナットと区別するため、標準的な高さのものも含めて、この実施形態に係るナット部材40を「低ナット41」と称する。この低ナット41の座面には、短筒状のかしめ部(図示せず)が突設されている。
【0025】
例示形態におけるナット支持板5は、ばね弾性を有する略等幅の薄鋼板によって形成されている。その薄鋼板の幅寸法は、補剛レール20に形成された矩形の窓孔24の短辺寸法よりもわずかに小さくなるように設定されている。
【0026】
ナット支持板5の一端近傍には円形の孔部(図示せず)が形成され、その孔部に低ナット41のかしめ部が挿入されて、かしめ圧着されるか、あるいは、ナット支持板5の上からかしめ部にかしめ座金42が嵌装される。このようなかしめ接合により、低ナット41の開口端に、その軸心と直交するようにしてナット支持板5の一端近傍が結合される。さらに、ナット支持板5における低ナット41の両側縁近傍を切り込んで下向きに折曲し、低ナット41の対向二側面を挟み込むことで、低ナット41の回り止め51が形成されている。
【0027】
なお、低ナット41とナット支持板5との結合には、クリンチナット(セルフクリンチングナット)、カレイナット、スカート付きナット、圧入ナット、ローレットナット等の名称で流通しているナット類のかしめ形態を採用することもできる。
【0028】
例示形態におけるクリップ部6は、ナット支持板5を構成する薄鋼板の他端を延長して上側に折り返すことにより、ナット支持板5と一体的に形成されている。折り返しによって形成された挟持片61はナット支持板5を挟んで低ナット41の反対側に位置し、低ナット41側に向かって開口する。挟持片61の先端には、その端縁を斜め上向きに折り上げた迎えリップ62が形成されている。
【0029】
さらに例示形態では、ナット支持板5における低ナット41の近傍箇所に、ナット支持板5を上面視略コ字形に打ち抜いて屈曲させた押え片52が設けられている。押え片52は、低ナット41側を基点にして、ナット支持板5の他端側へ斜め下向きに延び出し、その延出端は、ナット支持板5から低ナット41の高さよりも大きく離隔している。
【0030】
このように構成されたクリップナット3Aは、図3図5に示すように、補剛レール20に形成された矩形の窓孔24から、低ナット41側を先にして、補剛レール20の底面部22とプレキャスト成形板12との隙間に挿し込まれる。そのままクリップナット3Aを前進させると、窓孔24の開口縁部がクリップ部6に挟持され、クリップ部6の折り返し部に突き当たって止まる。このときに低ナット41の開口端(かしめ部またはかしめ座金42)が、補剛レール20に形成された連結孔25にちょうど嵌まり込んで、開口端の雌ねじ孔を臨ませるように保持される。つまり、図4に示すように、低ナット41の軸心からクリップ部6の折り返し部までの寸法Pが、補剛レール20における窓孔24の開口縁から連結孔25の中心までの寸法Qと合致するように設定されている。ナット支持板5に形成された押え片52はプレキャスト成形板12の裏面に弾性的に当接して、その反発力により低ナット41を補剛レール20の底面部22に押し付ける作用をなす。
【0031】
このようにして補剛レール20にクリップナット3Aが取り付けられた建築用パネル10は、例えば図6に示すようにして躯体に建て込まれ、フック状の建築用パネル取付金具91等を低ナット41にボルト92で締結するなどして、鉄骨梁のフランジ93に取り付けれた略溝形の建築用パネル取付レール94に連結される。
【0032】
<第2実施形態>
図7図11は、本願が開示する発明の第2実施形態に係るクリップナット3Bの構成と、補剛レール20に対する取付形態を示している。
【0033】
この実施形態に係るクリップナット3Bも、基本的構成として、ナット部材40と、ナット部材40の雌ねじ孔の開口端に一端近傍を結合されたナット支持板5と、ナット支持板5の他端に設けられたクリップ部6と、を具備する。ただし、この実施形態では、ナット部材40に、開口端の反対側が閉塞端となされた高ナット43が採用されている。高ナット43の開口端とナット支持板5との結合形態については、第1実施形態と同様のかしめ形態を採用することができる。
【0034】
ナット部材40に高ナット43を採用したこのクリップナット3Bは、プレキャスト成形板12のコンクリートを打設する前に補剛レール20に取り付けられる。すなわち、図8図10に示すように、メッシュ鉄筋11(図8には図示せず)に溶接した補剛レール20の窓孔24から、高ナット43側を先にして、補剛レール20の溝内に挿し込まれる。そのままクリップナット3Bを前進させると、窓孔24の開口縁部がクリップ部6に挟持され、クリップ部6の折り返し部に突き当たって止まる。このときに高ナット43の開口端(かしめ部またはかしめ座金42)が、補剛レール20に形成された連結孔25にちょうど嵌まり込んで、開口端の雌ねじ孔を臨ませるように保持される。その状態で型枠内にコンクリートを打設すると、高ナット43の閉塞端がプレキャスト成形板12に埋設される状態で保持される。
【0035】
したがって、この第2実施形態では、ナット支持板5に第1実施形態のような押え片52を設ける意味はない。しかし、部材を共通化する目的で、第1実施形態と同じ加工形態の薄鋼板を第2実施形態のナット支持板5に採用したとしても特に不都合はない。
【0036】
このようにしてコンクリートの打設前に補剛レール20にクリップナット3Bが取り付けられ、高ナット43が部分的にプレキャスト成形板12に埋設される建築用パネル10も、図11に示すようにして躯体に建て込まれ、第1実施形態と全く同様にして躯体に連結される。
【0037】
以上、二通りの実施形態を示して説明したように、本願が開示する発明に係るクリップナット3A、3Bを用いることにより、プレキャスト成形板12に埋設される補剛レール20の底面部22に対して、ナット部材40(低ナット41、高ナット43)を、溶接によらず、また特別な工具等も必要とせず、誰でも簡単に適正な位置へしっかりと取り付けることが可能になる。クリップ部6は適度な弾性を有するので、補剛レールの板厚が多少、異なっていても、無理なく取り付けることができる。
【0038】
また、補剛レール20の底面部22に矩形の窓孔24と円形の連結孔25とを形成して、その窓孔24から補剛レール20の溝内にクリップナット3A、3Bを挿し込み、そのクリップ部6で窓孔24の開口縁部を挟持する構成を採用することで、ナット部材40の雌ねじ孔の開口端を補剛レール20の連結孔25に臨むように精度良く保持することができるとともに、補剛レール20に対してナット部材40を取り付けるためのスペースをコンパクトに納めることができる。
【0039】
そして、このように構成される建築用パネル10を採用することで、建築用パネル10の製造や躯体への連結に際しての作業性を格段に向上させることができる。
【0040】
特に、低ナット41を有する第1実施形態のクリップナット3Aは、補剛レール20をコンクリート内に埋設してから補剛レール20に取り付けられるので、例えば躯体との連結に使用する連結孔25にナット部材40(低ナット41)が配置されていなかった、間違った連結孔25にナット部材40(低ナット41)が配置されていた、取り付けられていたクリップ部材が他部材に干渉してしまう等々、施工現場で不測の事態が生じたとしても、その場でクリップナット3Aを後付けしたり付け替えたりすることができる。
【0041】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施の形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の形状、構造、材質、数量、接合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に同等以上の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変することが可能である。
【0042】
例えば、クリップナット3A、3Bのナット支持板5とクリップ部6とは、一枚の薄鋼板によって一体的に形成される形態に限らず、二つの部材を組み合わせて形成されてもよい。また、第1実施形態に示したクリップナット3Aの押え片52は、プレキャスト成形板12に向けて適度の反力を発揮しさえすれば、ナット支持板5を略コ字形に打ち抜く形態に限らず、適宜の打ち抜き加工や切り込み加工等によって形成することもできるし、ナット支持板5に他の弾性部材を添着するなどして形成することもできる。クリップ部6の挟持力だけでナット支持板5が補剛レール20の底面部22に沿うようにしっかりと保持されるならば、押え片52はなくてもよい。また、第2実施形態に示したクリップナット3Bの高ナット43は、開口端の反対側が閉塞されていない形態であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願が開示する発明は、外壁パネル、床パネルその他の建築用パネルをはじめとして、プレキャスト成形体にハット形鋼を埋設する様々な建築部材等の連結部位において幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 建築用パネル
11 メッシュ鉄筋
12 プレキャスト成形板
20 補剛レール
21 フランジ部
22 底面部
24 窓孔
25 連結孔
3A、3B クリップナット
40 ナット部材
41 低ナット
42 かしめ座金
43 高ナット
5 ナット支持板
51 回り止め
52 押え片
6 クリップ部
61 挟持片
62 迎えリップ
91 建築用パネル取付金具
92 ボルト
93 鉄骨梁のフランジ
94 建築用パネル取付レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12