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特開2023-7911サブマージアーク溶接用溶融型フラックス
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  • 特開-サブマージアーク溶接用溶融型フラックス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007911
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接用溶融型フラックス
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20230112BHJP
   B23K 35/30 20060101ALN20230112BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230112BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20230112BHJP
【FI】
B23K35/362 310A
B23K35/30 320A
C22C38/00 301A
C22C38/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111047
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横尾 友美
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 康仁
(72)【発明者】
【氏名】児嶋 一浩
【テーマコード(参考)】
4E084
【Fターム(参考)】
4E084AA02
4E084AA03
4E084AA05
4E084AA06
4E084AA07
4E084AA08
4E084AA09
4E084AA11
4E084AA12
4E084AA13
4E084AA14
4E084AA20
4E084CA16
4E084CA17
4E084CA23
4E084CA25
4E084CA26
4E084DA17
4E084EA04
4E084EA05
4E084HA01
(57)【要約】
【課題】サブマージアーク溶接中にフラックスの吹上現象が生じても、散布厚が不足することが抑制され、アーク安定性、スラグ剥離性およびビード形状などの溶接作業性に優れたサブマージアーク溶接用溶融型フラックスを提供する。
【解決手段】フラックス全質量に対し、発泡フラックス粒子の質量比率をX%とし、前記発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子の質量比率をY%とするとき、下記(1)式を満たすサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス全質量に対し、発泡フラックス粒子の質量比率をX%とし、前記発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子の質量比率をY%とするとき、下記(1)式を満たすサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
【数1】

【請求項2】
前記フラックス全質量に対し、粒径が0.3mm超~1.4mmの範囲にあるフラックス粒子が90質量%以上である請求項1に記載のサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
【請求項3】
嵩密度が0.6~1.3g/cmである請求項1又は請求項2に記載のサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼構造物を溶接する際に用いられるサブマージアーク溶接用溶融型フラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接は、粒状のフラックスを予め溶接部に沿って散布し、そのフラックス内に溶接ワイヤを連続的に供給し、フラックスに覆われた状態で、被溶接材と溶接ワイヤ先端との間でアークを発生させて溶接を行う方法である。
サブマージアーク溶接における溶接作業性の改善目的として、様々な検討が行われている。例えば特許文献1~3には、フラックス粒子を発泡させて多孔質粒子とし、嵩密度を小さくすることで、スラグ剥離性やビード外観などの溶接作業性が良好になることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-268997号公報
【特許文献2】特開昭62-183996号公報
【特許文献3】特公昭51-046653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サブマージアーク溶接の溶接現象は定常的ではなく、アーク空洞内のガスは一定の確率で順次に吹き上がり、フラックスを吹き飛ばす現象(吹上現象)が生じる場合がある。このような吹上現象が発現した場合、従来の発泡型の溶融型フラックスでは、フラックスの散布厚が不足してしまうという懸念がある。フラックスの散布厚が不足するとアークが直接的に視認できるようになり、大気の影響を排除した健全な溶接金属が得られなくなる。この理由は、アークの一部が大気に晒されると、溶接金属の窒素量が上昇し、ピット、ブローホール、ポックマークなどの溶接欠陥等の不具合が生じるためである。
【0005】
本開示は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、サブマージアーク溶接中にフラックスの吹上現象が生じても、散布厚が不足することが抑制され、アーク安定性、スラグ剥離性およびビード形状などの溶接作業性に優れたサブマージアーク溶接用溶融型フラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本開示の要旨は、以下の通りである。
<1> フラックス全質量に対し、発泡フラックス粒子の質量比率をX%とし、前記発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子の質量比率をY%とするとき、下記(1)式を満たすサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
【0007】
【数1】
【0008】
<2> 前記フラックス全質量に対し、粒径が0.3mm超~1.4mmの範囲にあるフラックス粒子が90質量%以上である<1>に記載のサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
<3> 嵩密度が0.6~1.3g/cmである<1>又は<2>に記載のサブマージアーク溶接用溶融型フラックス。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、サブマージアーク溶接中にフラックスの吹上現象が生じても、散布厚が不足することが抑制され、アーク安定性、スラグ剥離性およびビード形状などの溶接作業性に優れたサブマージアーク溶接用溶融型フラックスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施例に用いたフラックスの発泡している粒子と発泡していない粒子の判断に使用した画像解析の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックス(本開示において「溶融型フラックス」又は単に「フラックス」と称する場合がある。)の一例である実施形態について説明する。
なお、本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されていない場合は、これらの数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「~」の前後に記載される数値に「超」又は「未満」が付されている場合の数値範囲は、これらの数値を下限値又は上限値として含まない範囲を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階的な数値範囲の上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えてもよく、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、ある段階的な数値範囲の下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えてもよく、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
含有量について、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、サブマージアーク溶接を行う場合に用いる溶融フラックスとして、発泡フラックス粒子と、発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子(本開示において発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子を「非発泡フラックス粒子」と称する場合がある。)の質量比を一定範囲に制御することが前述の溶接作業性の向上に極めて有効であることを見出した。両者の質量比を規定することが溶接作業性の向上に有効である理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、発泡フラックス粒子と非発泡フラックス粒子の双方が相互干渉し、吹上に対して抵抗するためであると推定している。
【0013】
以下、本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックスの実施形態について詳細に説明する。なお、本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックスは以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<サブマージアーク溶接用溶融型フラックス>
本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックスは、フラックス全質量に対し、発泡フラックス粒子の質量比率をX%とし、発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子(非発泡フラックス粒子)の質量比率をY%とするとき、下記(1)式を満たすように構成されている。
【0015】
【数2】
【0016】
発泡フラックス粒子の質量比率X%と非発泡フラックス粒子の質量比率Y%が(1)式を満たす、すなわち、フラックス全質量に対し、発泡フラックス粒子の質量比率が1~40%の範囲にある溶融型フラックスを用いてサブマージアーク溶接を行うことで、吹上現象を抑制する効果が得られ、アークが大気から晒される(オープンアーク)が抑制される。
発泡フラックス粒子の質量比(X/(X+Y))が0.01を下回ると、フラックス全体として発泡不足であり、安定したアーク空洞を形成することができないため、ビード形状の不良が生じやすい。一方、発泡フラックス粒子の質量比が0.40を超えると、吹上現象に抵抗することができずにオープンアークとなり、大気からの混入により溶接金属中のN量が増加し、ピット、ブローホールなどの気孔欠陥が発生しやすくなる。したがって、本開示に係る溶融フラックスは、発泡フラックス粒子の質量比を0.01~0.40とし、好ましくは0.01~0.30である。
【0017】
本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックスにおいて、発泡フラックス粒子と、発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子(非発泡フラックス粒子)の判断は、画像解析ソフトを使用して選別する。具体的には、任意に50gのフラックスを採取し、キーエンス社製デジタルマイクロスコープ(VHX-900)を使ってフラックスの写真を撮影(倍率は30倍)する。撮影した写真について画像解析ソフト(JTrim)を用いて1300×1200ピクセル(ピクセル数1560000)を二値化し、白い粒子を発泡している粒子、黒い粒子を発泡していない粒子と判断する。二値化については境界のしきい値を150とする。なお、白い部分と黒い部分を含む粒子、すなわち、発泡している部分と発泡していない部分の両方を含む粒子は、発泡フラックス粒子以外のフラックス粒子(非発泡フラックス粒子)と判断する。
【0018】
本発明者らは、このようなフラックスの拡大写真を用いた画像解析による発泡フラックス粒子、非発泡フラックス粒子の判断の精度について嵩密度を測定して検証した。
発泡フラックス粒子と非発泡フラックス粒子が混合したフラックスについて、5~30倍程度に拡大できる虫眼鏡を使用し、粒子の外観に基づいて分別作業を行った。なお、後述する実施例の表1における発明例F5のフラックスを用いた。具体的には、全体が白みないし黄みを帯びた軽石状の粒子A、全体が黒みを帯びたガラス状の粒子B、白みないし黄みを帯びた部分と黒みを帯びた部分が混在した粒子Cに分別した。
このように虫眼鏡を用いて外観に基づいて分別した粒子A、B、Cについて、それぞれJIS K5101に準拠して嵩密度を測定したところ、粒子Aは約0.5g/cm、粒子Bは約1.5g/cm、粒子Cは約1.0g/cmであった。この結果から、白みないし黄みを帯びた粒子Aは全体的に気泡を含むため嵩密度が小さく、黒みを帯びた粒子Bは全体的に気泡を含まないため嵩密度が大きく、白みないし黄みを帯びた部分と黒みを帯びた部分が混在した粒子Cは部分的に気泡を含むため、嵩密度は粒子Aと粒子Bのほぼ中間にあると考えることができる。
【0019】
一方、分別したフラックス粒子A、B、Cについて、それぞれ前述した方法によって拡大写真の画像解析を行ったところ、粒子Aは白色粒子、粒子Bは黒色粒子、粒子Cは白色と黒色が混在した粒子として識別された。
このような結果から、フラックス粒子の発泡の有無は、前述した画像解析によって精度良く判別することができる。すなわち、本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックスでは、前述した画像の二値化処理において白色粒子を発泡フラックス粒子とし、黒色粒子及び黒色と白色が混在した粒子を非発泡フラックス粒子として区別する。
そして、任意に50gのフラックスを採取し、前述した二値化処理により白色粒子と他の粒子(黒色粒子及び黒色と白色が混在した粒子)とを分別し、白色粒子の合計質量を測定することで、発泡フラックス粒子の質量比率X%と非発泡フラックス粒子の質量比率Y%を求めることができる。
【0020】
本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックスを構成する成分は特に限定されないが、以下、好ましい成分について説明する。
【0021】
[SiO:30~55%]
珪砂、珪灰石等を原料とするSiOは溶融スラグの粘性を調整してビード形状を良好にする。SiOが30%以上であると、溶融スラグの粘性が不足してアンダーカットやスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生し難くなる。一方、SiOが55%以下であると、スラグの粘度が高くなり過ぎず、ビード形状が良好となり易い。従って、SiOは30~55%とすることが好ましい。より好ましくは35~50%である。
【0022】
[Al:6~20%]
アルミナ等を原料とするAlは、溶融スラグの粘性を調整するのに有効な成分である。Alが6%以上であると、溶融スラグの粘性が低くなることが抑制され、アンダーカットが発生し難くなる。一方、Alが20%以下であると、溶融スラグの粘性が高くなり過ぎず、ビードが凸状になることが抑制される。従って、Alは6~20%とすることが好ましい。より好ましくは6~15%である。
[MgO:5~20%]
マグネシアクリンカ、酸化マグネシア等を原料とするMgOは、溶融スラグの粘性を調整してビード形状を良好にする。MgOが5%以上であると、溶融スラグの粘性が不足することが抑制され、ビードの蛇行やアンダーカットが発生し難い。一方、MgOが20%以下であると、ビード幅の広がりが不連続となり難い。従って、MgOは5~20%とすることが好ましい。より好ましくは10~20%である。
【0023】
[FeO:0.5~5%]
ミルスケール等を原料とするFeOは、溶融スラグの粘性及び融点を調整してビード形状を良好にする。また、耐ポックマーク性を高める効果がある。FeOが0.5%以上であると、ビードの蛇行や、ポックマークが発生し難くなる。一方、FeOが5%以下であると、スラグが焼き付きスラグ剥離性が悪くなることが抑制される。より好ましくは1~4%である。
【0024】
[MnO:18~28%]
酸化マンガン、焙焼マンガン等を原料とするMnOは、溶融スラグの粘性及びスラグ剥離性の調整に有効な成分である。この効果を得るためにMnOを18%以上含むことが好ましい。一方で、MnOの過剰の添加はビード形状を悪化させるため、その上限は28%とすることが好ましい。より好ましくは20~26%である。
【0025】
[TiO:2~6%]
ルチール、酸化チタン等を原料とするTiOは、ビード表面の平滑性を得るのに効果がある。この効果を得るためにTiOは2%以上含むことが好ましい。一方で、TiOの過剰の添加はスラグ剥離性が悪くなるため、その上限を6%とすることが好ましい。より好ましくは3~5%である。
【0026】
[CaF:5~9%]
蛍石等を原料とするCaFは、溶融スラグの流動性を調整してスラグ剥離性を良好にする効果がある。この効果を得るために5%以上含むことが好ましい。一方で、CaFの過剰の添加はガス成分が増加してポックマークが発生するため、その上限を9%とすることが好ましい。より好ましくは5~8%である。
【0027】
[NaO及びKOの1種または2種の合計:0.5~2.0%]
炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等を原料とするNaO及びKOは、アークの安定性を良好する効果がある。その効果を得るために0.5%以上を添加することが好ましい。一方で、NaO及び/又はKOの過剰の添加はビード形状を悪化させるため、NaO及びKOの1種または2種の合計の上限を2.0%とすることが好ましい。
【0028】
[Bi:0.05%以下]
酸化ビスマス等を原料とするBiは、スラグ剥離性を良好にする効果がある。Biが0.05%以下であれば、溶接金属の靭性が劣化することが抑制される。従って、Biは0.05%以下とすることが好ましい。なお、Biは、微量の添加でスラグ剥離性を良好にする効果が得られるが、その効果を得るためには0.001%以上とすることが好ましい。
【0029】
[B:1.5%以下]
酸化ホウ素等を原料とするBは、溶接金属のオーステナイト粒界に生成する初析フェライトの成長を抑制して靭性を向上させる効果がある。Bが1.5%以下であれば、溶接金属の高温割れが劣化することが抑制される。従って、Bは1.5%以下とすることが好ましい。なお、Bは、微量の添加で溶接金属の靭性を向上させる効果が得られるが、その効果を得るためには0.01%以上とすることが好ましい。
【0030】
[CaO:5.0%以下]
酸化カルシウム等を原料とするCaOは、溶接金属の靭性を向上させる効果がある。CaOが5.0%以下であれば、ビード形状が劣化することが抑制される。従って、CaOは5.0%以下とすることが好ましい。なお、CaOは、微量の添加で溶接金属の靭性を向上させる効果が得られるが、その効果を得るためには0.01%以上とすることが好ましい。
【0031】
[BaO:5.0%以下]
酸化バリウム等を原料とするBaOは、溶接金属の靭性を向上させる効果がある。BaOが5.0%以下であれば、ビード形状が劣化することが抑制される。従って、BaOは5.0%以下とすることが好ましい。なお、BaOは、微量の添加で溶接金属の靭性を向上させる効果が得られるが、その効果を得るためには0.01%以上とすることが好ましい。
【0032】
本開示に係る溶融型フラックスの残部は、前記原料に微量に含まれるP及びS等の不純物である。
【0033】
[粒度]
次にフラックスの粒度について説明する。粒度に基づくフラックスの含有量についても本開示に係る溶融型フラックスの全質量に対する質量%で表し、単に%と記載する。
【0034】
粒径が0.3mm超~1.4mmのフラックス粒子は安定したビード形状を形成するために重要な粒子である。また、このようなフラックス粒子は、スラグ剥離性を良好にする効果がある。粒径0.3mm超~1.4mmのフラックス粒子が90%以上であれば、ビード形状が凸形状となることが抑制され、ガス抜けも悪くなることが抑制され、ポックマークが発生し難い。また、フラックスが微粉化し難くなる。このため、本開示に係るフラックスは、粒径0.3mm超~1.4mmのフラックス粒子の合計質量が90%以上であることが好ましい。なお、粒径が0.3mm以下の粒子及び粒径が1.4mmを超える粒子の各含有量はより少ないほど好ましい。
【0035】
フラックス粒子の粒径は、JIS Z3352:2017 サブマージアーク溶接及びエレクトロスラグ溶接用フラックスにおける「6.3 フラックスの粒度試験」に準じて測定する。JIS Z8801-1:2019「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」において相当する公称目開き(300μm及び1.4mm)のふるいを使用し、ふるい分け時間は、4分間とする。JIS Z8815:1994「ふるい分け試験方法通則」における機械ふるい分けを行い、測定機器として、ロータップ型 ふるい振とう機を用いる。試験に用いるフラックスは200gとする。このようなフラックスの粒度試験において、公称目開き1.4mmのふるいを透過し、かつ公称目開き300μmのふるいを透過しないフラックス粒子が、粒径0.3mm超~1.4mmのフラックス粒子である。
【0036】
[嵩密度]
フラックスの嵩密度は、溶接時に溶融プールの大気とのシールド性および溶接ビードの広がりに作用する。フラックスの嵩密度が0.6g/cm以上であれば、フラックスの吹上現象が起こり難く、シールド不足となってポックマークが発生することが抑制される。一方、フラックスの嵩密度が1.3g/cm以下であれば、ビードが広がり難くなってアンダーカットが発生することが抑制される。したがって、本開示に係るフラックスの嵩密度は0.6~1.3g/cmとすることが好ましい。より好ましい範囲は0.6~1.2g/cmである。
フラックスの嵩密度の測定は、JIS K5101-12-1:2004に準拠して実施することができる。
嵩密度(g/cm)=(試料の入った受器の質量(g)-受器の質量(g))/ 受器の内容積(cm
【0037】
<サブマージアーク溶接用溶融型フラックスの製造方法>
次に、本開示に係るサブマージアーク溶接用溶融型フラックスの製造方法について説明する。本開示に係る溶融型フラックスの製造方法は、発泡フラックス粒子と非発泡フラックス粒子が式(1)を満たすように含まれれば特に限定されない。例えば、発泡フラックス粒子及び非発泡フラックス粒子の質量比率が異なる複数種のフラックスを製造し、発泡フラックス粒子と非発泡フラックス粒子の質量比(X/(X+Y))が式(1)を満たすように配合してもよい。製造容易性の観点からは、原料、製造条件を調整して、発泡フラックス粒子と非発泡フラックス粒子が式(1)を満たす質量比で形成されるようにフラックスを製造する方法が好ましい。
【0038】
本開示に係るにサブマージアーク溶接用溶融型フラックスは、例えば、前述した成分を含むように原料を配合し、加熱によって溶融したフラックスを水で冷却して製造することができる。このように溶融したフラックスを水で冷却して製造する場合、製造されるフラックスにおける発泡フラックス粒子の質量比率は、原料、冷却速度などの製造条件に依存する。例えば、Mn、Siなどの元素を含む比較的還元されやすい酸化物を含む組成の原料を還元剤(C、Alなど)とともに高温(例えば1300~1700℃)で溶融することで発泡フラックス粒子の割合が上昇する傾向がある。
【0039】
また、フラックスの嵩密度を調整する方法としては、フラックスの各種原材料を混合して電気炉で溶解した後、溶融したフラックスを温水中で冷却して、冷却速度を遅らせてフラックスを発泡させる方法や、溶融したフラックスをジェット水冷中で冷却して、針状、鹿角状、球状及び鱗片状粒子の混在したフラックスとすることによりフラックスの嵩密度を調整することができる。
【0040】
また、フラックスの粒度を調整する方法としては、例えば、噴流水を直接、メルトに衝撃的に当てる方法が挙げられる。水圧、水量、溶融状態のフラックス量を制御して水砕し、ふるい分けすることでフラックスの粒度を調整することができる。
【実施例0041】
以下、本開示の効果を実施例により更に詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[サブマージアーク溶接用溶融型フラックスの製造]
表1に示す各成分組成、質量比率、嵩密度の溶融フラックスを試作した。なお、表1において下線は、本開示の範囲外であることを示す。また、「0」、「0.0」、又は「0.00」は、その成分を含まない(添加していない)ことを意味する。
【0043】
(溶融フラックスF1の製造)
表1のフラックス記号F1に示す成分となるように原料を配合、混合し、電気炉で1350℃に加熱して溶融状態のフラックス(メルト)とした後、大量の水中に投入して冷却した。溶融状態のフラックスを投入する前の冷却水の温度を20℃に設定した。
【0044】
(溶融フラックスF2~F17の製造)
それぞれ表1に示す成分となるように原料の配合を変更したこと以外は溶融フラックスF1と同様の方法により溶融フラックスF2~F17を製造した。
【0045】
(溶融フラックスF21~F22の製造)
それぞれ表1に示す成分となるように原料の配合を変更したこと以外は溶融フラックスF1と同様の方法により溶融フラックスF21~F22を製造した。
【0046】
[測定]
上記のようにして製造した各フラックスを任意に50g採取し、前述した画像解析によって発泡フラックス粒子とその他の粒子(非発泡フラックス粒子)に分別して各粒子の質量比率(%)X、Yを計測した。
また、各フラックスの嵩密度を前述したJIS K5101-12-1:2004に準拠した方法によって測定した。
さらに、各フラックスの粒度について、ロータップ型 ふるい振とう機(伊藤製作所社製、商品名:ロータップ型ふるい振とう機S型)を用い、前述したJIS Z8815:1994「ふるい分け試験方法通則」に準拠した方法により、粒径が0.3mm超~1.4mmのフラックス粒子の質量比率(%)を測定した。
【0047】
【表1】

【0048】
[評価]
試作した溶融フラックスを用いてサブマージアーク溶接を行った。具体的には、表2に示す溶接条件で表4に示すJIS Z3351:2012 YS-S6のワイヤ径4.8mmのソリッドワイヤと、表3に示すJIS G3136:2012 SN490Bの板厚16mmの鋼板を用いてビードオンプレート溶接を行った。なお、表3及び表4に示す各成分以外はFe及び不純物である。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
溶接作業性の評価は、アークの安定性、スラグ剥離性、ビード形状(アンダーカット、ピットの有無、ビード表面の不整)、ブローホールの有無を調査した。
アークの安定性は、溶接時の溶接電圧変動が±5V以内であれば「安定」とした。
スラグ剥離性は、溶接後のスラグは自然剥離するため、刷毛でスラグを除去し、目視で確認できる残存スラグの面積を推定し、スラグ剥離率95%以上を「良好」、98%以上を「非常に良好」とした。
ビード表面の不整は、溶接長長さ150mmの範囲でビード幅の最小値と最大値の差が7mm以下を「良好」、5mm以下を「非常に良好」とした。また、ビード幅の最小値と最大値の差が7mmを超える場合は「不良」とし、ビード形状の欠陥が生じた場合はその欠陥を記載した。
ブローホールは、JIS Z3104:1995に示す鋼溶接継手の放射線透過試験法に基づいて試験を行い、一つも疵が発生しない場合に無欠陥とした。
それらの評価結果を表5にまとめて示す。
【0053】
【表5】

【0054】
表1、表5、表6においてフラックス記号F1~F17は本発明例、フラックス記号F21~F22は比較例である。
本発明例であるフラックス記号F1~F17は、発泡フラックス粒子の質量比が本開示の範囲内にあり、これらのフラックスを用いたビードオンプレート溶接において、アークが安定してアンダーカット、ピット等が生じずビード形状が良好で、スラグ剥離性も良好であり、ピットやブローホールも生じず、溶接作業性が良好であった。
【0055】
比較例中のフラックス記号F21は、発泡フラックス粒子の質量比が小さいので、アークが安定せず、アンダーカットが生じた。
比較例中フラックス記号F22は、発泡フラックス粒子の質量比が大きいので、オープンアークとなり、アークが安定せず、ビード形状が不良となった。また、ピットやブローホールが生じた。
【符号の説明】
【0056】
1 発泡しているフラックス粒子(発泡フラックス粒子)
2 発泡していないフラックス粒子(非発泡フラックス粒子)
図1