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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079123
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】カバー部材
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/25 20060101AFI20230531BHJP
【FI】
C03C17/25 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192595
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】岩井 信樹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和孝
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC02
4G059AC22
4G059EA04
4G059EB05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】単一の膜で、複数の機能を奏する機能膜を有する、カバー部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】カバー部材は、第1面及び第2面を有するガラス板10と、前記第1面に形成された、機能膜60と、を備え、前記機能膜は、単一の膜で形成され、防眩機能と抗菌機能とを有している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を有するガラス板と、
前記第1面に形成された機能膜と、
を備え、
前記機能膜は、単一の膜で形成され、防眩機能と抗菌機能とを有している、カバー部材。
【請求項2】
前記機能膜は、
三次元ネットワーク結合を構成するマトリクスと、
無機酸化物微粒子と、
抗菌性の金属イオンと、
を備えている、請求項1に記載のカバー部材。
【請求項3】
前記機能膜は、
前記機能膜の厚み方向に前記無機酸化物粒子が積み重なっている第1領域と、
前記第1領域を囲む又は前記第1領域により囲まれる谷状の第2領域と、
が存在する、請求項2に記載のカバー部材。
【請求項4】
前記第1領域は台地状の領域である、請求項3に記載のカバー部材。
【請求項5】
前記第2領域は、前記無機酸化物粒子が積み重なっていないか又は前記無機酸化物粒子が存在しない部分を含む、請求項3または4に記載のカバー部材。
【請求項6】
前記第1領域の幅は3μm以上、
前記第2領域の幅は1μm以上である、請求項3から5のいずれかに記載のカバー部材。
【請求項7】
前記第1領域の幅は5μm以上、
前記第2領域の幅は2μm以上である、請求項3から5のいずれかに記載のカバー部材。
【請求項8】
前記第2領域においては、前記マトリクスが露出しており、
露出している前記マトリクスに前記金属イオンが含有されている、請求項3から7のいずれかに記載のカバー部材。
【請求項9】
前記第1領域においては、前記ガラス板上に前記マトリクスが配置され、当該マトリクス上に前記無機酸化物粒子が積み重なっており、
前記第1領域の前記マトリクスに前記金属イオンが含有されている、請求項3から8のいずれかに記載のカバー部材。
【請求項10】
前記第2領域の少なくとも1つは、閉じた曲線により形成されている、請求項3から9のいずれかに記載のカバー部材。
【請求項11】
前記第2領域として、複数の異なる大きさの閉じた曲線によって形成された領域を含んでいる、請求項10に記載のカバー部材。
【請求項12】
前記第1領域において、前記第2領域との境界付近が隆起している、請求項3から11のいずれかに記載のカバー部材。
【請求項13】
シリコンアルコキシドに、無機酸化物微粒子及び抗菌性の金属イオンを添加したコーティング液を形成するステップと、
前記コーティング液をガラス板に塗布するステップと、
前記コーティング液が塗布されたガラス板を加熱するステップと、
を備えている、カバー部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ等の被保護部材に設けられるカバー部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、抗菌イオン成分をイオン交換してガラス板の表面に抗菌性物質が設けられているガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-228186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年は抗菌性能に加え、防眩性能など、他の機能を付加した膜が求められている。しかしながら、このような複数の機能を奏する膜を生成するには、機能毎に複数の膜を積層しなければならず、製造が煩雑になるという問題があった。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、単一の膜で、複数の機能を奏する機能膜を有する、カバー部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.第1面及び第2面を有するガラス板と、
前記第1面に形成された、機能膜と、
を備え、
前記機能膜は、単一の膜で形成され、防眩機能と抗菌機能とを有している、カバー部材。
【0006】
項2.前記機能膜は、
三次元ネットワーク結合を構成する無機酸化物を含有するマトリクスと、
無機酸化物微粒子と、
抗菌性の金属イオンと、
を備えている、項1に記載のカバー部材。
【0007】
項3.前記機能膜は、
前記機能膜の厚み方向に前記無機酸化物粒子が積み重なっている第1領域と、
前記第1領域を囲む又は前記第1領域により囲まれる谷状の第2領域と、
が存在する、項2に記載のカバー部材。
【0008】
項4.前記第1領域は台地状の領域である、項3に記載のカバー部材。
【0009】
項5.前記第2領域は、前記無機酸化物粒子が積み重なっていないか又は前記無機酸化物粒子が存在しない部分を含む、項3または4に記載のカバー部材。
【0010】
項6.前記第1領域の幅は3μm以上、
前記第2領域の幅は1μm以上である、項3から5のいずれかに記載のカバー部材。
【0011】
項7.前記第1領域の幅は5μm以上、
前記第2領域の幅は2μm以上である、項3から5のいずれかに記載のカバー部材。
【0012】
項8.前記第2領域においては、前記マトリクスが露出しており、
露出している前記マトリクスに前記金属イオンが含有されている、項3から7のいずれかに記載のカバー部材。
【0013】
項9.前記第1領域においては、前記ガラス板上に前記マトリクスが配置され、当該担体上に前記無機酸化物粒子が積み重なっており、
前記第1領域の前記マトリクスに前記金属イオンが含有されている、項3から8のいずれかに記載のカバー部材。
【0014】
項10.前記第2領域の少なくとも1つは、閉じた曲線により形成されている、項3から9のいずれかに記載のカバー部材。
【0015】
項11.前記第2領域として、複数の異なる大きさの閉じた曲線で形成された領域を含んでいる、項10に記載のカバー部材。
【0016】
項12.前記第1領域において、前記第2領域との境界付近が隆起している、項3から11のいずれかに記載のカバー部材。
【0017】
項13.シリコンアルコキシドに、無機酸化物微粒子及び抗菌性の金属イオンを添加したコーティング液を形成するステップと、
前記コーティング液をガラス板に塗布するステップと、
前記コーティング液が塗布されたガラス板を加熱するステップと、
を備えている、カバー部材の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、単一の膜で、複数の機能を奏する機能膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るカバー部材の一実施形態を示す断面図である。
図2図1の拡大断面図である。
図3図1の拡大断面図である。
図4】機能膜の凸部の断面を模式的に示す断面図である。
図5図1の各第断面図である。
図6】実施例1の表面性状を示すSEM写真である。
図7】実施例4の表面性状を示すSEM写真である。
図8】比較例の表面性状を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るカバー部材の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るカバー部材は、ディスプレイ、キーボード、電子黒板等の被保護部材を保護し、且つこれらの部材を外部から視認可能に構成されている。なお、ディスプレイとは、一般的なデスクトップ用のディスプレイのほか、モバイルPC、タブレットPC、カーナビゲーションなどの車載機器等の種々の機器に用いられるディスプレイが対象となる。その他、このカバー部材は、複写機やスキャナーの原稿ガラスとして用いることもできる。この場合の被保護部材は、カバー部材によって覆われる複写機やスキャナー等の電子機器の部品となる。
【0021】
図1はカバー部材の断面図である。図1に示すように、本実施形態に係るカバー部材100は、第1面及び第2面を有するガラス板10と、このガラス板10の第1面に積層される機能膜50,60と、を備えている。そして、このカバー部材10は、上述した被保護部材200を覆うように配置される。このとき、ガラス板10の第2面が被保護部材200と向き合うように配置され、機能膜50,60が外部を向くように配置される。以下、詳細に説明する。
【0022】
<1.ガラス板>
ガラス板10は、例えば、汎用のソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス等その他のガラスにより形成することができる。また、ガラス板10は、フロート法により成形することができる。この製法によると平滑な表面を有するガラス板10を得ることができる。但し、ガラス板10は、主面に凹凸を有していてもよく、例えば型板ガラスであってもよい。型板ガラスは、ロールアウト法と呼ばれる製法により成形することができる。この製法による型板ガラスは、通常、ガラス板の主面に沿った一方向について周期的な凹凸を有する。
【0023】
フロート法は、溶融スズなどの溶融金属の上に溶融ガラスを連続的に供給し、供給した溶融ガラスを溶融金属の上で流動させることにより帯板状に成形する。このように成形されたガラスをガラスリボンと称する。
【0024】
ガラスリボンは、下流側に向かうにつれて冷却され、冷却固化された上で溶融金属からローラにより引き上げられる。そして、ローラによって徐冷炉へと搬送され、徐冷された後、切断される。こうして、フロートガラス板が得られる。
【0025】
ガラス板10の厚さは、特に制限されないが、軽量化のためには薄いほうがよい。例えば、0.3~5mmであることが好ましく、0.6~2.5mmである事がさらに好ましい。これは、ガラス板10が薄すぎると、強度が低下するからであり、厚すぎると、ガラス部材10を介して視認される被保護部材200に歪みが生じるおそれがある。
【0026】
ガラス板10は、通常、平板であってよいが、曲板であってもよい。特に、保護すべき被保護部材200の表面形状が曲面等の非平面である場合、ガラス板10はそれに適合する非平面形状の主面を有することが好ましい。この場合、ガラス板10は、その全体が一定の曲率を有するように曲げられていてもよく、局部的に曲げられていてもよい。ガラス板10の主面は、例えば複数の平面が曲面で互いに接続されて構成されていてもよい。ガラス板10の曲率半径は、例えば5000mm以下とすることができる。この曲率半径の下限値は、例えば、10mm以上とすることができるが、特に局部的に曲げられている部位ではさらに小さくてもよく、例えば1mm以上とすることができる。
【0027】
次のような組成のガラス板を用いることもできる。以下では、ガラス板10の成分を示す%表示は特に断らない限り、すべてmol%を意味する。また、本明細書において、「実質的に構成される」とは、列挙された成分の含有率の合計が99.5質量%以上、好ましくは99.9質量%以上、より好ましくは99.95質量%以上を占めることを意味する。「実質的に含有しない」とは、当該成分の含有質が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下であることを意味する。
【0028】
本発明者は、フロート法によるガラス板の製造に適したガラス組成として広く用いられているフロート板ガラスの組成(以下、「狭義のSL」、または単に「SL」と呼ぶことがある)を元に、当業者がフロート法に適したソーダライムシリケートガラス(以下、「広義のSL」と呼ぶことがある)と見做している組成範囲、具体的には、以下のような質量%の範囲内で、T2、T4等の特性をできるだけ狭義のSLに近似させながら、狭義のSLの化学強化特性を向上させることのできる組成物を検討した。
SiO2 65~80%
Al23 0~16%
MgO 0~20%
CaO 0~20%
Na2O 10~20%
2O 0~5%
【0029】
以下、ガラス板10のガラス組成を構成する各成分について説明する。
(SiO2
SiO2は、ガラス板10を構成する主要成分であり、その含有率が低すぎるとガラスの耐水性などの化学的耐久性および耐熱性が低下する。他方、SiO2の含有率が高すぎると、高温でのガラス板10の粘性が高くなり、溶解および成形が困難になる。したがって、SiO2の含有率は、66~72mol%の範囲が適切であり、67~70mol%が好ましい。
【0030】
(Al23
Al23はガラス板10の耐水性などの化学的耐久性を向上させ、さらにガラス中のアルカリ金属イオンの移動を容易にすることにより化学強化後の表面圧縮応力を高め、かつ、応力層深さを深くするための成分である。他方、Al23の含有率が高すぎると、ガラス融液の粘度を増加させ、T2、T4を増加させると共にガラス融液の清澄性が悪化し高品質なガラス板を製造することが難しくなる。
【0031】
したがって、Al23の含有率は、1~12mol%の範囲が適切である。Al23の含有率は10mol%以下が好ましく、2mol%以上が好ましい。
【0032】
(MgO)
MgOはガラスの溶解性を向上させる必須の成分である。この効果を十分に得る観点から、このガラス板10ではMgOが添加されていることが好ましい。また、MgOの含有率が8mol%を下回ると、化学強化後の表面圧縮応力が低下し、応力層深さが浅くなる傾向にある。一方、適量を越えて含有率を増やすと、化学強化により得られる強化性能が低下し、特に表面圧縮応力層の深さが急激に浅くなる。この悪影響は、アルカリ土類金属酸化物の中でMgOが最も少ないが、このガラス板1においては、MgOの含有率は15mol%以下である。また、MgOの含有率が高いと、T2、T4を増加させると共にガラス融液の清澄性が悪化し高品質なガラス板を製造することが難しくなる。
【0033】
したがって、このガラス板10においては、MgOの含有率は1~15mol%の範囲であり、8mol%以上、12mol%以下が好ましい。
【0034】
(CaO)
CaOは、高温での粘性を低下させる効果を有するが、適度な範囲を超えて含有率が高すぎると、ガラス板10が失透しやすくなるとともに、ガラス板10におけるナトリウムイオンの移動が阻害されてしまう。CaOを含有しない場合に化学強化後の表面圧縮応力が低下する傾向にある。一方、8mol%を超えてCaOを含有すると、化学強化後の表面圧縮応力が顕著に低下し、圧縮応力層深さが顕著に浅くなるとともに、ガラス板10が失透しやすくなる。
【0035】
したがって、CaOの含有率は1~8mol%の範囲が適切である。CaOの含有率は、7mol%以下が好ましく、3mol%以上が好ましい。
【0036】
(SrO、BaO)
SrO、BaOは、ガラス板10の粘性を大きく低下させ、少量の含有では液相温度TLを低下させる効果がCaOより顕著である。しかし、SrO、BaOは、ごく少量の添加であっても、ガラス板10におけるナトリウムイオンの移動を顕著に妨げ、表面圧縮応力を大きく低下させ、かつ、圧縮応力層の深さがかなり浅くなる。
【0037】
したがって、このガラス板10においては、SrO、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0038】
(Na2O)
Na2Oは、ナトリウムイオンがカリウムイオンと置換されることにより、表面圧縮応力を大きくし、表面圧縮応力層の深さを深くするための成分である。しかし、適量を超えて含有率を増やすと、化学強化処理でのイオン交換による表面圧縮応力の発生を、化学強化処理中の応力緩和が上回るようになり、結果として表面圧縮応力が低下する傾向にある。
【0039】
また、Na2Oは溶解性を向上させ、T4、T2を低下させるための成分である一方、Na2Oの含有率が高すぎると、ガラスの耐水性が著しく低下する。ガラス板10においては、Na2Oの含有率が10mol%以上であればT4、T2を低下させる効果が充分に得られ、16mol%を超えると応力緩和による表面圧縮応力の低下が顕著になる。
【0040】
したがって、本実施形態のガラス板10におけるNa2Oの含有率は、10~16mol%の範囲が適切である。Na2Oの含有率は、12mol%以上が好ましく、15mol%以下がより好ましい。
【0041】
(K2O)
2Oは、Na2Oと同様、ガラスの溶解性を向上させる成分である。また、K2Oの含有率が低い範囲では、化学強化におけるイオン交換速度が増加し、表面圧縮応力層の深さが深くなる一方で、ガラス板10の液相温度TLを低下させる。したがってK2Oは低い含有率で含有させることが好ましい。
【0042】
一方、K2Oは、Na2Oと比較して、T4、T2を低下させる効果が小さいが、K2Oの多量の含有はガラス融液の清澄を阻害する。また、K2Oの含有率が高くなるほど化学強化後の表面圧縮応力が低下する。したがって、K2Oの含有率は0~1mol%の範囲が適切である。
【0043】
(Li2O)
Li2Oは、少量含有されるだけであっても圧縮応力層の深さを著しく低下させる。また、Li2Oを含むガラス部材を硝酸カリウム単独の溶融塩で化学強化処理する場合、Li2Oを含まないガラス部材の場合と比較して、その溶融塩が劣化する速度が著しく速い。具体的には、同じ溶融塩で繰り返し化学強化処理を行なう場合に、より少ない回数でガラス表面に形成される表面圧縮応力が低下する。したがって、本実施形態のガラス板10においては、1mol%以下のLi2Oを含有してもよいが、実質的にLi2Oを含有しない方が好ましい。
【0044】
(B23
23は、ガラス板10の粘性を下げ、溶解性を改善する成分である。しかし、B23の含有率が高すぎると、ガラス板10が分相しやすくなり、ガラス板10の耐水性が低下する。また、B23とアルカリ金属酸化物とが形成する化合物が揮発してガラス溶解室の耐火物を損傷するおそれが生じる。さらに、B23の含有は化学強化における圧縮応力層の深さを浅くしてしまう。したがって、B23の含有率は0.5mol%以下が適切である。本発明では、B23を実質的に含有しないガラス板10であることがより好ましい。
【0045】
(Fe23
通常Feは、Fe2+又はFe3+の状態でガラス中に存在し、着色剤として作用する。Fe3+はガラスの紫外線吸収性能を高める成分であり、Fe2+は熱線吸収性能を高める成分である。ガラス板10をディスプレイのカバーガラスとして用いる場合、着色が目立たないことが求められるため、Feの含有率は少ない方が好ましい。しかし、Feは工業原料により不可避的に混入することが多い。したがって、Fe23に換算した酸化鉄の含有率は、ガラス板10全体を100質量%として示して0.15質量%以下とすることがよく、0.1質量%以下であることがより好ましく、更に好ましくは0.02質量%以下である。
【0046】
(TiO2
TiO2は、ガラス板10の粘性を下げると同時に、化学強化による表面圧縮応力を高める成分であるが、ガラス板10に黄色の着色を与えることがある。したがって、TiO2の含有率は0~0.2質量%が適切である。また、通常用いられる工業原料により不可避的に混入し、ガラス板10において0.05質量%程度含有されることがある。この程度の含有率であれば、ガラスに着色を与えることはないので、本実施形態のガラス板10に含まれてもよい。
【0047】
(ZrO2
ZrO2は、とくにフロート法でガラス板を製造する際に、ガラスの溶融窯を構成する耐火レンガからガラス板10に混入することがあり、その含有率は0.01質量%程度であることが知られている。一方、ZrO2はガラスの耐水性を向上させ、また、化学強化による表面圧縮応力を高める成分である。しかし、ZrO2の高い含有率は、作業温度T4の上昇や液相温度TLの急激な上昇を引き起こすことがあり、またフロート法によるガラス板の製造においては、析出したZrを含む結晶が製造されたガラス中に異物として残留しやすい。したがって、ZrO2の含有率は0~0.1質量%が適切である。
【0048】
(SO3
フロート法においては、ボウ硝(Na2SO4)など硫酸塩が清澄剤として汎用される。硫酸塩は溶融ガラス中で分解してガス成分を生じ、これによりガラス融液の脱泡が促進されるが、ガス成分の一部はSO3としてガラス板10中に溶解し残留する。本発明のガラス板10においては、SO3は0~0.3質量%であることが好ましい。
【0049】
(CeO2
CeO2は清澄剤として使用される。CeO2により溶融ガラス中でO2ガスが生じるので、CeO2は脱泡に寄与する。一方、CeO2が多すぎると、ガラスが黄色に着色してしまう。そのため、CeO2の含有量は、0~0.5質量%が好ましく、0~0.3質量%がより好ましく、0~0.1質量%がさらに好ましい。
【0050】
(SnO2
フロート法により成形されたガラス板において、成型時にスズ浴に触れた面はスズ浴からスズが拡散し、そのスズがSnO2として存在することが知られている。また、ガラス原料に混合させたSnO2は、脱泡に寄与する。本発明のガラス板10においては、SnO2は0~0.3質量%であることが好ましい。
【0051】
(その他の成分)
本実施形態によるガラス板10は、上記に列挙した各成分から実質的に構成されていることが好ましい。ただし、本実施形態によるガラス板10は、上記に列記した成分以外の成分を、好ましくは各成分の含有率が0.1質量%未満となる範囲で含有していてもよい。
【0052】
含有が許容される成分としては、上述のSO3とSnO2以外に溶融ガラスの脱泡を目的として添加される、As25、Sb25、Cl、Fを例示できる。ただし、As25、Sb25、Cl、Fは、環境に対する悪影響が大きいなどの理由から添加しないことが好ましい。また、含有が許容されるまた別の例は、ZnO、P25、GeO2、Ga23、Y23、La23である。工業的に使用される原料に由来する上記以外の成分であっても0.1質量%を超えない範囲であれば許容される。これらの成分は、必要に応じて適宜添加したり、不可避的に混入したりするものであるから、本実施形態のガラス板10は、これらの成分を実質的に含有しないものであっても構わない。
【0053】
(密度(比重):d)
上記組成より、本実施形態では、ガラス板10の密度を2.53g・cm-3以下、さらには2.51g・cm-3以下、場合によっては2.50g・cm-3以下にまで減少させることができる。
【0054】
フロート法などでは、ガラス品種間の密度の相違が大きいと、製造するガラス品種を切り換える際に溶融窯の底部に密度が高い方の溶融ガラスが滞留し、品種の切り換えに支障が生じる場合がある。現在、フロート法で量産されているソーダライムガラスの密度は約2.50g・cm-3である。したがって、フロート法による量産を考慮すると、ガラス板10の密度は、上記の値に近いこと、具体的には、2.45~2.55g・cm-3、特に2.47~2.53g・cm-3が好ましく、2.47~2.50g・cm-3がさらに好ましい。
【0055】
(弾性率:E)
イオン交換を伴う化学強化を行うと、ガラス基板に反りが生じることがある。この反りを抑制するためには、ガラス板10の弾性率は高いことが好ましい。本発明によれば、ガラス板10の弾性率(ヤング率:E)を70GPa以上、さらには72GPa以上にまで増加させることができる。
【0056】
以下、ガラス板10の化学強化について説明する。
(化学強化の条件と圧縮応力層)
ナトリウムを含むガラス板10を、ナトリウムイオンよりもイオン半径の大きい一価の陽イオン、好ましくはカリウムイオン、を含む溶融塩に接触させ、ガラス板10中のナトリウムイオンを上記の一価の陽イオンによって置換するイオン交換処理を行うことにより、本発明によるガラス板10の化学強化を実施することができる。これによって、表面に圧縮応力が付与された圧縮応力層が形成される。
【0057】
溶融塩としては、典型的には硝酸カリウムを挙げることができる。硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとの混合溶融塩を用いることもできるが、混合溶融塩は濃度管理が難しいため、硝酸カリウム単独の溶融塩が好ましい。
【0058】
強化ガラス部材における表面圧縮応力と圧縮応力層深さとは、該物品のガラス組成だけではなく、イオン交換処理における溶融塩の温度と処理時間によって制御することができる。
【0059】
以上のガラス板10は、硝酸カリウム溶融塩と接触させることによって、表面圧縮応力が非常に高く、かつ、圧縮応力層の深さが非常に深い強化ガラス部材を得ることができる。具体的には、表面圧縮応力が700MPa以上かつ圧縮応力層の深さが20μm以上である強化ガラス部材を得ることができ、さらに圧縮応力層の深さが20μm以上かつ表面圧縮応力が750MPa以上である強化ガラス部材を得ることもできる。
【0060】
なお、厚みが3mm以上のガラス板10を用いる場合には、化学強化ではなく、風例強化を一般的な強化方法として用いることができる。強化処理は、カバー部材としては一般的に実施されるが、用途や要求される特性によっては必須ではない。また、強化処理は、(後述の)機能膜形成に先立って実施されることが多いが、機能膜の機能発現に阻害がない限り、機能膜形成後に実施されても構わない。
【0061】
<2.機能膜>
次に、図2及び図3を参照しつつ、機能膜について説明する。図2は機能膜が積層されたガラス板の一部断面図、図3は機能膜が積層されたガラス板の他の例示す一部断面図である。図2及び図3に示すように、カバー部材400及び500は、ガラス板10と、ガラス板10の上に設けられた機能膜50及び60とを備えている。図2及び図3では、ガラス板10の第1面10sに機能膜50及び60が直接形成されているが、ガラス板10と機能膜50及び60との間に別の膜が介在していても構わない。機能膜50及び60は、無機酸化物微粒子5(以下、単に「粒子」ということがある)と、三次元ネットワーク結合を構成するマトリクス2と、抗菌性の金属イオンを含んでいる。機能膜50及び60には空隙が含まれていてもよい。空隙は、マトリクス2中に、又は粒子5及びマトリクス2に接するように存在していてもよい。
【0062】
機能膜50及び60には、第1領域50p及び60pと第2領域50v及び60vとが存在する。第1領域50p及び60pでは、機能膜50及び60の厚み方向に粒子5が積み重なっている。第2領域50v及び60vは、機能膜50及び60をその表面側から厚さ方向に沿って観察すると、第1領域50p及び60pを囲んでいる。ただし、第2領域50v及び60vは、第1領域50p及び60pにより囲まれていてもよい。第1領域50p及び60pと第2領域50v及び60vとは、例えば、いずれか一方の領域が、互いに離間して存在する他方の複数の領域の間に介在する。
【0063】
この構造は海島構造と呼ばれることがある。第2領域50v及び60vは、その表面が周囲の第1領域から後退した谷状領域である。したがって、海島構造の島部は、当該島部が第1領域50p及び60pである場合は海部から突出し、当該島部が第2領域50v及び60vである場合は海部から陥没している。第2領域50v及び60vでは、第1領域50p及び60pよりも粒子5の積み重なりが少ない。第2領域50v及び60vは、粒子5が積み重なった部分50tを含んでいてもよい(図2参照)。あるいは、第2領域50v及び60vは、粒子5が積み重なっていないか又は粒子5が存在しない部分を含んでいてもよい(図3参照)。少なくとも一部の第2領域50v及び60vは、粒子5が積み重なっていないか又は粒子5が存在しない部分により構成されていてもよい。第1領域50p及び60pは、その少なくとも一部、さらには個数基準で50%以上、場合によっては全部が、台地状領域であってもよい。なお、マトリクス2は、第1領域50p及び60p及び第2領域50v及び60vの両方に存在するが、第2領域50v及び60vでは少なくとも一部が外部に露出している。一方、第1領域50p及び60pでは、ガラス板10上にマトリクス2が配置され、その上に粒子5が積層されている。
【0064】
「台地状」は、SEM等により膜を観察したときに、機能膜50及び60の凸部の上部が台地状に見えることを意味するが、厳密には、膜の断面において、L2/L1≧0.75、特にL2/L1≧0.8が成立することをいう。ここで、図4に示すように、L1は、各凸部の高さHの50%相当部分の長さであり、L2は、高さHの70%相当部分、好ましくは75%相当部分の長さである。図4に示すように、1つのL1に対し、L2は、2以上の部分に分かれて存在することがある。この場合、L2は、2以上の部分の合計長さにより定める。
【0065】
第1領域50p及び60pと第2領域50v及び60vとの境界50b及び60bは、機能膜50及び60の平均厚さTにより定めることができる(図3参照)。平均厚さTは、後述するとおり、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。境界50b及び60bの間隔により、第1領域50p及び60pの幅Wpと第2領域50v及び60vの幅Wvとが定まる。
【0066】
幅Wpは、3μm以上、さらに5μm以上、好ましくは7μm以上であってもよい。幅Wvは、1μm以上、2μm以上、好ましくは3μm以上であってもよい。例えば、幅Wpが幅Wvよりも大きいことが好ましい。幅Wpが大きい場合、機能膜50,60において可視光を直接透過しやすくなるため、ヘイズ率が低くなる傾向にある。一方、幅Wvが小さい場合、第1領域50p及び60pと第2領域50v及び60vとの境界が近接する。これにより、第2領域50v及び60vとの境界付近で、第1領域50p及び60pの壁による可視光の散乱により視認しにくくなってグロス値が低くなる。例えば、第2領域50v及び60vが存在しないと、機能膜は第1領域50p及び60pだけになってしまい、その可視光透過性能と変わらない膜になってしまう。そのため、第2領域50v及び60vが存在しないと、第1領域50p及び60pの壁による散乱の効果が相対的に弱くなる可能性がある。したがって、幅Wvは、上記のような1μm以上であることが好ましい。幅Wp及び幅Wvが、上記のような範囲を同時に満たす場合、この機能膜50,60は、低いヘイズ率と低グロスとの両立に特に適している。
【0067】
第1領域50p及び60p及び第2領域50v及び60vは、それぞれ、例えば0.25μm2以上、さらに0.5μm2以上、特に1μm2以上、場合によっては5μm2以上、さらに10μm2以上、にわたって広がる領域であってもよい。
【0068】
機能膜50及び60には、第1領域50p及び60pと第2領域50v及び60vとが存在する。機能膜50が形成された領域の面積に占める第2領域50v及び60vの比率は、例えば5~90%、さらに10~70%、特に20~50%であってもよい。機能膜50及び60は、第1領域50p及び60p及び第2領域50v及び60vのみから構成されていてもよい。
【0069】
また、図5に示すように、第1領域60pの少なくとも一部においては、第2領域60vとの境界付近が隆起している。これによっても、機能膜60に入射した可視光を適度に散乱するため、グロスが低くなる傾向にある。この点は、機能膜50においても同様である。また、この効果は、特に第2領域50v及び60vの幅が小さいと、隆起部分が近接するため、高くなる。
【0070】
第2領域50v及び60vの形状は特に限定されないが、閉じた曲線により形成される形状(例えば楕円を含む円形状)、多角形状、異形状等、種々の形状を挙げることができる。また、複数の第2領域50v及び60vの大きさは異なっていてもよい。すなわち、大きさの異なる複数の第2領域50v及び60vが、機能膜50,60に分散してもよい。
【0071】
<2-1.粒子>
粒子5の形状は、特に制限されないが、球状であることが好ましい。粒子5は球状粒子により実質的に構成されていてもよい。ただし、粒子5の一部は、球状以外の形状、例えば平板状の形状を有していてもよい。粒子5は球状粒子のみにより構成されていても構わない。ここで、球状粒子とは、重心を通過する最短径に対する最長径の比が1以上1.8以下、特に1以上1.5以下であって、表面が曲面により構成されている粒子をいう。球状粒子の平均粒径は、5nm~200nm、さらに10nm~100nm、特に20nm~60nmであってもよい。球状粒子の平均粒径は、個々の粒径、具体的には上述の最短径と最長径との平均値、の平均により定まるが、その測定は、SEM像に基づいて、30個、好ましくは50個の粒子を対象として実施することが望ましい。
【0072】
粒子5を構成する材料は、特に制限されないが、金属酸化物等の無機酸化物、特に酸化シリコンを含むことが好ましい。ただし、金属酸化物は、例えば、Al、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物を含んでいてもよい。
【0073】
粒子5は、後述するように、粒子5の分散液から機能膜50及び60へと供給することができる。この場合は、粒子5が個々に独立して分散している分散液を用いることが好ましい。粒子が鎖状に連なっている分散液と比較して、粒子が凝集していない分散液の使用は、機能膜50及び60における粒子の望ましい凝集状態の実現に適している。互いに独立した粒子5は、分散媒等の液体の揮発に伴って移動しやすく、膜中において良好な特性の達成に適した凝集状態となりやすいためである。
【0074】
<2-2.マトリクス>
マトリクス2は、Siの酸化物である酸化シリコンを含み、酸化シリコンを主成分とすることが好ましい。酸化シリコンを主成分とするマトリクス2は、膜の屈折率を低下させ、膜の反射率を抑制することに適している。マトリクス2は、酸化シリコン以外の成分を含んでいてもよく、酸化シリコンを部分的に含む成分を含んでいてもよい。
【0075】
酸化シリコンを部分的に含む成分は、例えば、ケイ素原子及び酸素原子により構成された部分を含み、この部分のケイ素原子又は酸素原子に、両原子以外の原子、官能基その他が結合した成分である。ケイ素原子及び酸素原子以外の原子としては、例えば、窒素原子、炭素原子、水素原子、次段落に記述する金属元素を例示できる。官能基としては、例えば次段落にRとして記述する有機基を例示できる。このような成分は、ケイ素原子及び酸素原子のみから構成されていない点で、厳密には酸化シリコンではない。しかし、マトリクス2の特性を記述する上では、ケイ素原子及び酸素原子により構成されている酸化シリコン部分も「酸化シリコン」として取り扱うことが適当であり、当該分野の慣用にも一致する。本明細書では、酸化シリコン部分も酸化シリコンとして取り扱うこととする。以上の説明からも明らかなとおり、酸化シリコンにおけるシリコン原子と酸素原子との原子比は化学量論的(1:2)でなくてもよい。
【0076】
マトリクス2は、酸化シリコン以外の金属酸化物、具体的にはケイ素以外を含む金属酸化物成分又は金属酸化物部分を含み得る。マトリクス2が含み得る金属酸化物は、特に制限されないが、例えば、Al、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物である。マトリクス2は、酸化物以外の無機化合物成分、例えば、窒化物、炭化物、ハロゲン化物等を含んでいてもよく、有機化合物成分を含んでいてもよい。
【0077】
酸化シリコン等の金属酸化物は、加水分解可能な有機金属化合物から形成することができる。加水分解可能なシリコン化合物としては、式(1)で示される化合物を挙げることができる。
nSiY4-n(1)
Rは、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロイル基及びアクリロイル基から選ばれる少なくとも1種を含む有機基である。Yは、アルコキシ基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種である加水分解可能な有機基、又はハロゲン原子である。ハロゲン原子は、好ましくはClである。nは、0から3までの整数であり、好ましくは0又は1である。
【0078】
Rとしては、アルキル基、例えば炭素数1~3のアルキル基、特にメチル基が好適である。Yとしては、アルコキシ基、例えば炭素数1~4のアルコキシ基、特にメトキシ基及びエトキシ基が好適である。上記の式で示される化合物を2種以上組み合わせて用いてもよい。このような組み合わせとしては、例えばnが0であるテトラアルコキシシランと、nが1であるモノアルキルトリアルコキシシランとの併用が挙げられる。
【0079】
式(1)で示される化合物は、加水分解及び重縮合の後、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。この構造において、Rで示される有機基は、シリコン原子に直接結合された状態で含まれる。
【0080】
<2-3.金属イオン>
金属イオンは、抗菌性を有するものであり、1価または2価の銅イオン、銀イオンなどで形成することができる。機能膜50,60の金属イオンの含有量は、ネットワーク結合を構成する化合物のうち最も重量比の大きい主成分に対し、モル比で2~50%であることが好ましく、5~25%であることがさらに好ましい。
【0081】
金属イオンは、マトリクス2に含有されている。そのため、マトリクス2が外部に露出する第2領域50v,60vでは、第2領域50v,60vに接する菌やウイルスに対して抗菌または抗ウイルス性能を発揮する。一方、第1領域50p,60pでは、表面に金属イオンはほとんど存在しないが、付着した菌やウイルスが粒子5の間を通過し、ガラス板10付近のマトリクス2に接すれば、それに含有されている金属イオンによって、抗菌または抗ウイルス性能が発揮される。
【0082】
<2-4.機能膜の物性>
機能膜50,60におけるマトリクス2に対する粒子1の比は、質量基準で、例えば0.05~10、さらに0.05~7であり、好ましくは0.05~5である。機能膜50,60における空隙の体積比率は、特に制限されないが、10%以上、さらに10~20%であってよい。ただし、空隙は存在しなくても構わない。
【0083】
機能膜50,60の膜厚は、特に制限されないが、防眩性が適切に得られやすい等の観点からは、第1領域50p,60pの膜厚は、例えば50nm~1000nm、さらに100nm~700nm、特に100nm~500nmが適切である。一方、第2領域50v,60vの膜厚は、例えば10nm~500nm、好ましくは30nm~300nmが適切である。特に、ガラス板10の第1面から測定した機能膜50,60の最高部と最低部との差分は、粒子5の平均粒径の3倍以上、さらに4倍以上であってもよい。
【0084】
スパークルは、防眩機能を付与するための微小凹凸と表示パネルの画素サイズとの関係に依存して発生する輝点である。スパークルは、表示装置とユーザの視点との相対的な位置の変動に伴って不規則な光のゆらぎとして観察される。スパークルは、表示装置の高精細化に伴って顕在化してきている。幅Wp及び幅Wvを上述した範囲とすることで、機能膜50,60は、スパークルを抑制しながら、グロス及びヘイズをバランスよく低下させることに特に適している。
【0085】
<2-5.機能膜の形成方法>
機能膜50,60の形成方法は、特には限定されないが、例えば、以下のように形成することができる。まず、上述したマトリクスを構成する材料、例えば、テトラエトキシシラン等のシリコンアルコキシドを酸性条件下でアルコール溶液とし、前駆体液を生成する。また、例えば、コロイダルシリカ等の無機酸化物微粒子を含有する分散液を、前駆体液に混合する。さらに、上述した抗菌性の金属イオンを含む液、例えば、塩化銅水溶液または硝酸銅水溶液を含有する分散液を、前駆体液に混合する。その他、必要に応じて、各種の添加剤を混合することもできる。例えば、ホウ素をホウ酸として添加することができる。例えば、機能膜50,60にホウ素が残留すると、ホウ素(BO-)が抗菌性の銅イオンを引きつける効果があるため、銅イオンが凝集して酸化銅などの結晶となるのを抑制することができる。こうして、機能膜50,60用のコーティング液が生成される。
【0086】
なお、無機酸化物微粒子を含む分散液の溶媒は、特には限定されないが、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メチルエチルケトン、トルエン、メチルイソブチルケトン等を挙げることができる。この中で、例えば、溶媒として、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、トルエン、メチルイソブチルケトン等の沸点が高く(例えば、75℃以上)無極性の化合物を用いると、上述した第1領域50p,60p及び第2領域50v,60vが形成されるため、好ましい。
【0087】
次に、洗浄したガラス板10の第1面に、コーティング液を塗布する。塗布方法は特には限定されないが、例えば、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法などを採用することができる。その後、塗布したコーティング液をオーブンなどで、例えば、溶液中のアルコール分を揮発させるため、所定温度(例えば、80~120℃)で乾燥した後、例えば、加水分解及び有機鎖の分解のため、所定温度(例えば、200~500℃)で焼結させると、機能膜50,60を得ることができる。
【0088】
<3.カバー部材の光学特性>
上記のように抗菌膜2が形成されたカバー部材100の光学特性としては、例えば、可視光透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、カバー部材10のヘイズ率は、例えば20%以下、さらに15%以下、特に10%以下であり、場合によっては1~8%、さらに1~6%であってもよい。
【0089】
グロスは、鏡面光沢度により評価することができる。ガラス板10の60°鏡面光沢度は、例えば60~130%、さらに70~120%、特に80~110%、85~100%である。これらの鏡面光沢度は、機能膜50及び60を形成した面10sについて測定された値である。なお、カーナビゲーション等の車載機器のディスプレイのカバー部材としては、一般的に、120~140%のグロスを示すものが用いられている。一方、ガラス板10のヘイズ率は、例えば20%以下、さらに15%以下、特に10%以下であり、場合によっては1~8%、さらに1~6%、特に1~5%であってもよい。
【0090】
60°鏡面光沢度Gとヘイズ率H(%)との間には、関係式(a)が成立することが好ましく、関係式(b)が成立することがさらに好ましく、関係式(c)が成立することがさらに好ましい。G及びHは関係式(d)を満たすものであってもよい。
H≦-0.2G+25 (a)
H≦-0.2G+24.5 (b)
H≦-0.2G+24 (c)
H≦-0.15G+18 (d)
【0091】
なお、グロスはJIS Z8741-1997の「鏡面光沢度測定方法」の「方法3(60度鏡面光沢)」に従って、ヘイズはJIS K7136:2000に従ってそれぞれ測定することができる。
【0092】
<4.特徴>
本実施形態に係るカバー部材100は、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係るガラス部材100では、機能膜50,60では、マトリクス2に抗菌性の金属イオンが担持されている。そのため、抗菌・抗ウイルス機能を発揮することができる。特に、三次元ネットワーク結合を構成するマトリクス2に金属イオンが担持されているため、金属イオンの溶出を抑制することができる。例えば、第1領域50p及び60pでは、金属イオンを担持するマトリクス2が粒子5に覆われているため、金属イオンの溶出をさらに抑制することができる。
【0093】
(2)機能膜50,60において、粒子が積層された第1領域50p及び60pを有するため、可視光を直接透過しやすくなり、ヘイズ率を低くすることができる。一方、第2領域50v及び60vを有すると、第1領域50p及び60pとの境界付近での可視光の散乱により視認しにくくなり、グロス値が低くなる。この効果は、特に、第2領域50v及び60vの幅が小さい場合、第1領域50p及び60pの壁や隆起部分が近接するため高くなる。したがって、本実施形態の機能膜によれば、防眩効果を向上することができる。
【0094】
(3)以上のように、本発明では、単一の機能膜50,60で、防眩機能と抗菌・抗ウイルス機能との両方の機能を発揮することができる。したがって、機能膜50,60の製造が簡易である。
【0095】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0096】
<5-1>
上記実施形態で示した機能膜は、第1領域50p及び60p、第2領域50v及び60vを有しているが、第1領域50p及び60pのみで形成されてもよい。この場合、粒子の分散液をプロピレングリコールモノメチルエーテルにより形成すればよい。このように、機能膜が第1領域50p及び60pだけで形成されていたとしても、後述するように、防眩機能及び抗菌・抗ウイルス機能を発現することができる。
【0097】
<5-2>
本発明に係るカバー部材は、無色透明のほか、ガラス板1、機能膜50,60の少なくとも1つに着色することで、有色透明、又は半透明にすることができる。
【実施例0098】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例には限定されない。
(1)実施例及び比較例の準備
50mmx50mmのフロートガラス板上に、機能膜を積層することで、実施例1~4、比較例に係るカバー部材を形成した。
【0099】
表1の組成を有するコーティング液を調整した。まず、マトリクス用の前駆体液を調製した(単位はgである)。そして、これらの混合溶液を60℃で7時間攪拌し、TEOSの加水分解反応により前駆体液を得た。この前駆体液に対し、粒子の分散液及び硝酸銅を攪拌しながら混合した。そして、この混合溶液を室温で攪拌し、コーティング液を得た。実施例1~4と比較例との相違は、比較例のコーティング液には、硝酸銅が含まれていない点である。したがって、比較例には抗菌・抗ウイルス機能はない。
【表1】
・KBM-903(信越シリコーン製)
・MEK-ST-L(日産化学製オルガノシリカゾル)
・PGM-AC-4130Y(日産化学製オルガノシリカゾル)
・MIBK-ST-L(日産化学製オルガノシリカゾル)
【0100】
次に、このコーティング液をフローコーティングによりガラス板上に、厚みが200~300nm程度となるように塗布し、10分間の自然乾燥の後、300℃に設定したオーブン内で30分加熱し、機能膜を形成した。こうして、実施例1~4、比較例に係るカバー部材が完成した。
【0101】
(2) 評価
実施例1~4及び比較例のカバー部材に対し、以下の試験を行った。結果は、表2に示すとおりである。
【0102】
(2-1) 光学特性
グロス値及びヘイズ率を測定した。グロス値として、60°グロス値をグロスチェッカ(堀場製作所製「グロスチェッカIG-320」)を用いて機能膜を形成した側から測定した。ヘイズ率は、日本電色工業株式会社製ヘイズメータNDH2000により行った。この際、機能膜を入射面とし、試料の3点でヘイズ率を測定し、その平均値をヘイズ率とした。
【0103】
(2-2) 外観
カバー部材の第2面を照明付きの検査台上に配置し、照明をカバー部材に照射した状態で、機能膜側から見たときのカバー部材の外観を、以下の基準で検査した。
A:目視で膜ムラが観察されない
B:目視で膜ムラがわずかに観察される
【0104】
(2-2) 耐久試験
実施例2~4に係るカバー部材を25mlの水に24時間浸漬し、その間に所定時間おきに、その水から1.5mlを抽出し、銅イオンの溶出量(コーティング単位面積当たりの溶出量)を算出した。この溶出量の算出は、次のように行った。まず、パックテスト銅(共立理化学研究所製)で発色させた検水をデジタルパックテスト銅(同上)で測定し、液中に含まれる銅イオン濃度を求めた後、試験前の銅に対する溶出量の質量%を算出した。
【0105】
(2-3) 抗ウイルス試験
抗菌性の評価を、以下の通り、JIS Z2801:2012(フィルム密着法)に基づいて行った(ISO22916に相当)。
・試験細菌:E.Coli(大腸菌 NBRC3972)
・試料形態:上記カバー部材
・作用時間:24時間
・抗菌活性値(R)の算出:R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At
U0:ガラス板の接種直後の生菌数の対数値の平均値
Ut:ガラス板の24時間後の生菌数の対数値の平均値
At:カバー部材の24時間後の生菌数の対数値の平均値
・作用条件:温度35℃、湿度90%以上(JIS準拠)
・密着フィルム:40mm×40mmのPPフィルム(JIS基準)
・試験菌液の摂取量:0.2ml
・試験菌液の生菌数:1.1×106
・生菌数測定:ガラス板の菌液接種直後および24時間培養後のカバー部材の生菌数を測定
【0106】
(2-4) 考察
上記試験の結果、本実施例1~4に係るカバー部材は、グロス値及びヘイズ率が適正であり、十分な防眩機能が得られていることが分かった。また、抗ウイルス活性は、いずれも2.5以上であった。2.0以上で抗ウイルス活性があると評価されるため、本実施例1~4に係るカバー部材においては十分な抗ウイルス性能が確認できた。また、銅の溶出量について、実施例1及び比較例では測定はしていないが、実施例2~4では、耐久試験においても約30~40%の銅が機能膜中に残存しているため、十分な耐久性能があると考えられる。外観に関し、実施例1は、僅かな膜ムラが見られたが、実施例2~4は特に問題はなかった。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例1,4,及び比較例の機能膜をSEMにて撮影し、表面性状を観察した。図6に示す実施例1は上述した第1領域のみで機能膜が構成されている。上記のように、防眩機能及び抗ウイルス機能は十分であるが、表面の凹凸が大きく、外観においてわずかに膜ムラが観察された。一方、図7に示す実施例4の機能膜には、第1領域及び略円形の第2領域が形成されており、防眩機能及び抗ウイルス機能は十分であり、外観も問題なかった。図8に示す比較例の機能膜も第1領域及び第2領域を有しているが、第2領域は異形であった。
【符号の説明】
【0109】
10 ガラス板
50,60 機能膜
100 カバー部材
200 被保護部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8