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特開2023-7916ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体の製造方法
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  • 特開-ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007916
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20230112BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20230112BHJP
   C12P 1/02 20060101ALI20230112BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20230112BHJP
   C12P 7/24 20060101ALI20230112BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20230112BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12N15/54
C12P1/02 Z
C12P7/02
C12P7/24
C12P13/00
C12P7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021111053
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向 由起夫
(72)【発明者】
【氏名】平尾 吉徳
(72)【発明者】
【氏名】山岸 一雄
(72)【発明者】
【氏名】中島 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】梅田 知晴
(72)【発明者】
【氏名】渡部 俊樹
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC17
4B064AC26
4B064AE63
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA57X
(57)【要約】
【課題】ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体の製造方法およびそれに関連する技術を提供する。
【解決手段】ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されたピリドキサールリン酸生産能を有する酵母を培地で培養し、その菌体を採取することにより、ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母の菌体であって、
ピリドキサールリン酸を含有し、
前記酵母が、ピリドキサールリン酸生産能を有し、
前記酵母が、非改変株と比較して、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている、菌体。
【請求項2】
前記ピリドキサールキナーゼが、BUD16遺伝子にコードされるタンパク質および/また
はBUD17遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項1に記載の菌体。
【請求項3】
前記ピリドキサールキナーゼが、下記(1a)、(1b)、もしくは(1c)に記載のタンパク質および/または下記(2a)、(2b)、もしくは(2c)に記載のタンパク質である、請求項1または2に記載の菌体:
(1a)配列番号25に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1b)配列番号25に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(1c)配列番号25に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2a)配列番号27に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2b)配列番号27に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2c)配列番号27に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項4】
前記ピリドキサールキナーゼの活性が、ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現を上昇させることにより増大した、請求項1~3のいずれか1項に記載の菌体。
【請求項5】
前記ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数を高めること、および/または該遺伝子の発現調節配列を改変することによって上昇した、請求項4に記載の菌体。
【請求項6】
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性が増大するように改変されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の菌体。
【請求項7】
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、PDX3遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項6に記載の菌体。
【請求項8】
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項6または7に記載の菌体:
(a)配列番号29に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号29に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号29に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項9】
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキサールリン酸合成酵素およびビタミンB6取り込み酵素からなる群より選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性が増大するように改変されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の菌体。
【請求項10】
前記ピリドキサールリン酸合成酵素が、SNZ1遺伝子にコードされるタンパク質および/またはSNO1遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項9に記載の菌体。
【請求項11】
前記ビタミンB6取り込み酵素が、TPN1遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項9または請求項10に記載の菌体。
【請求項12】
前記酵母が、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母である、請求項1~11のい
ずれか1項に記載の菌体。
【請求項13】
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項1~12のいずれか1項に記載の菌体。
【請求項14】
前記菌体が、乾燥菌体1 mg当たり120 pmol以上のピリドキサールリン酸を含有する、請求項1~13のいずれか1項に記載の菌体。
【請求項15】
酵母エキスを製造する方法であって、
請求項1~14のいずれか1項に記載の菌体を原料として酵母エキスを調製する工程
を含む、方法。
【請求項16】
酵母の菌体を製造する方法であって、
ピリドキサールリン酸生産能を有する酵母を培地で培養する工程;および
前記酵母の菌体を採取する工程
を含み、
前記菌体が、ピリドキサールリン酸を含有し、
前記酵母が、非改変株と比較して、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている、方法。
【請求項17】
ピリドキサールリン酸を製造する方法であって、
ピリドキサールリン酸生産能を有する酵母を培地で培養する工程;および
培養物からピリドキサールリン酸を採取する工程
を含み、
前記酵母が、非改変株と比較して、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている、方法。
【請求項18】
前記ピリドキサールキナーゼが、BUD16遺伝子にコードされるタンパク質および/また
はBUD17遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記ピリドキサールキナーゼが、下記(1a)、(1b)、もしくは(1c)に記載のタンパク質および/または下記(2a)、(2b)、もしくは(2c)に記載のタンパク質である、請求項16~18のいずれか1項に記載の方法:
(1a)配列番号25に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1b)配列番号25に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(1c)配列番号25に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸
配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2a)配列番号27に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2b)配列番号27に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2c)配列番号27に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項20】
前記ピリドキサールキナーゼの活性が、該ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現を上昇させることにより増大した、16~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数を高めること、および/または該遺伝子の発現調節配列を改変することによって上昇した、請求項20に記載の菌体。
【請求項22】
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性が増大するように改変されている、請求項16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、PDX3遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項22に記載の菌体。
【請求項24】
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項22または23に記載の方法:
(a)配列番号29に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号29に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号29に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項25】
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキサールリン酸合成酵素およびビタミンB6取り込み酵素からなる群より選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性が増大するように改変されている、請求項16~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記ピリドキサールリン酸合成酵素が、SNZ1遺伝子にコードされるタンパク質および/または SNO1遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ビタミンB6取り込み酵素が、TPN1遺伝子にコードされるタンパク質である、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記酵母が、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母である、請求項16~27の
いずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項16~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記菌体が、乾燥菌体1 mg当たり120 pmol以上のピリドキサールリン酸を含有する、請求項16および18~29のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリドキサールリン酸(「ピリドキサール-5’-リン酸」等ともいう)を含
有する酵母菌体の製造方法およびそれに関連する技術に関する。ピリドキサールリン酸は、例えば、食品分野において有用である。
【背景技術】
【0002】
ピリドキサールリン酸は、多くの酵素反応の補因子であることが知られており、例えば、ニンニク香気前駆体をニンニク香気に香気変換させる酵素反応などに有用である。
【0003】
ピリドキサールリン酸は、例えば、化学合成により工業生産されている。
【0004】
また、酵母によるピリドキサールリン酸の生産も報告されている(非特許文献1~3)。
【0005】
また、ピリドキサール-5'-リン酸シンターゼ活性を有する固定化細菌菌体を用いてピリドキシンリン酸からピリドキサールリン酸を生成したことが報告されている(非特許文献4)。
【0006】
ピリドキサールキナーゼは、ビタミンB6ビタマー(例えば、ピリドキシン、ピリドキサール、またはピリドキサミン)の5’位をリン酸化し、ビタミンB6ビタマーの5'-リン酸エステル(例えば、ピリドキシンリン酸、ピリドキサールリン酸、またはピリドキサミンリン酸)を生成する反応を触媒する酵素として知られている(例えば、EC 2.7.1.35)。ピ
リドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼは、ビタミンB6ビタマー間の相互変換および/またはビタミンB6ビタマーの5'-リン酸エステル間の相互変換を触媒する酵素と
して知られている(例えば、EC 1.4.3.5)。
【0007】
しかしながら、ピリドキサールキナーゼ活性またはピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性と酵母のピリドキサールリン酸生産能との関係は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Trufanov, A. V.; Solov'eva, Z. I., Biosynthesis of pyridoxal phosphate by yeasts. Biokhimiya (Moscow)
【非特許文献2】Pyridoxal 5-phosphate formation in microorganisms. II. Pyridoxal 5-phosphate accumulation in Candida albicans and Saccharomyces rouxii. Vitamine, 29(6) 519-220 (1964)
【非特許文献3】Ruamsub, C. et al., Production of pyridoxal phosphate by a mutant strain of Schizosaccharomyces pombe. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,65(8), 1789, (2001)
【非特許文献4】Hideaki, Y. et al., Synthesis of coenzymes by immobilized cell system. Enzyme Engineering, Vol 5, 405-411 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体の製造方法およびそれに関連する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように酵母を改変することにより酵母細胞内のピリドキサールリン酸の蓄積量が増大することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
酵母の菌体であって、
ピリドキサールリン酸を含有し、
前記酵母が、ピリドキサールリン酸生産能を有し、
前記酵母が、非改変株と比較して、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている、菌体。
[2]
前記ピリドキサールキナーゼが、BUD16遺伝子にコードされるタンパク質および/また
はBUD17遺伝子にコードされるタンパク質である、前記菌体。
[3]
前記ピリドキサールキナーゼが、下記(1a)、(1b)、もしくは(1c)に記載のタンパク質および/または下記(2a)、(2b)、もしくは(2c)に記載のタンパク質である、前記菌体:
(1a)配列番号25に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1b)配列番号25に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(1c)配列番号25に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2a)配列番号27に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2b)配列番号27に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2c)配列番号27に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質。
[4]
前記ピリドキサールキナーゼの活性が、ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現を上昇させることにより増大した、前記菌体。
[5]
前記ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数を高めること、および/または該遺伝子の発現調節配列を改変することによって上昇した、前記菌体。
[6]
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性が増大するように改変されている、前記菌体。
[7]
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、PDX3遺伝子にコードされるタンパク質である、前記菌体。
[8]
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記菌体:
(a)配列番号29に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号29に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリド
キサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号29に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質。
[9]
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキサールリン酸合成酵素およびビタミンB6取り込み酵素からなる群より選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性が増大するように改変されている、前記菌体。
[10]
前記ピリドキサールリン酸合成酵素が、SNZ1遺伝子にコードされるタンパク質および/またはSNO1遺伝子にコードされるタンパク質である、前記菌体。
[11]
前記ビタミンB6取り込み酵素が、TPN1遺伝子にコードされるタンパク質である、前記菌体。
[12]
前記酵母が、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母である、前記菌体。
[13]
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、前記菌体。
[14]
前記菌体が、乾燥菌体1 mg当たり120 pmol以上のピリドキサールリン酸を含有する、前記菌体。
[15]
酵母エキスを製造する方法であって、
前記菌体を原料として酵母エキスを調製する工程
を含む、方法。
[16]
酵母の菌体を製造する方法であって、
ピリドキサールリン酸生産能を有する酵母を培地で培養する工程;および
前記酵母の菌体を採取する工程
を含み、
前記菌体が、ピリドキサールリン酸を含有し、
前記酵母が、非改変株と比較して、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている、方法。
[17]
ピリドキサールリン酸を製造する方法であって、
ピリドキサールリン酸生産能を有する酵母を培地で培養する工程;および
培養物からピリドキサールリン酸を採取する工程
を含み、
前記酵母が、非改変株と比較して、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている、方法。
[18]
前記ピリドキサールキナーゼが、BUD16遺伝子にコードされるタンパク質および/また
はBUD17遺伝子にコードされるタンパク質である、前記方法。
[19]
前記ピリドキサールキナーゼが、下記(1a)、(1b)、もしくは(1c)に記載のタンパク質および/または下記(2a)、(2b)、もしくは(2c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(1a)配列番号25に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(1b)配列番号25に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、
欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(1c)配列番号25に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2a)配列番号27に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(2b)配列番号27に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質;
(2c)配列番号27に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質。
[20]
前記ピリドキサールキナーゼの活性が、該ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現を上昇させることにより増大した、前記方法。
[21]
前記ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数を高めること、および/または該遺伝子の発現調節配列を改変することによって上昇した、前記菌体。
[22]
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性が増大するように改変されている、前記方法。
[23]
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、PDX3遺伝子にコードされるタンパク質である、前記菌体。
[24]
前記ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号29に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号29に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号29に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有するタンパク質。
[25]
前記酵母が、さらに、非改変株と比較して、ピリドキサールリン酸合成酵素およびビタミンB6取り込み酵素からなる群より選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性が増大するように改変されている、前記方法。
[26]
前記ピリドキサールリン酸合成酵素が、SNZ1遺伝子にコードされるタンパク質および/または SNO1遺伝子にコードされるタンパク質である、前記方法。
[27]
前記ビタミンB6取り込み酵素が、TPN1遺伝子にコードされるタンパク質である、前記方法。
[28]
前記酵母が、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母である、前記方法。
[29]
前記酵母が、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、前記方法。
[30]
前記菌体が、乾燥菌体1 mg当たり120 pmol以上のピリドキサールリン酸を含有する、前
記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酵母のピリドキサールリン酸生産能を向上させることができ、以てピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体等を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Δb16株およびΔb17株をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した結果を示すグラフ。WTは野生型BY4742株を示す。
図2】B16株、B17株、およびB16-B17株をBurkholder合成培地で培養し、BUD16遺伝子およびBUD17遺伝子の転写量をRT-qPCRで定量した結果を示すグラフ。
図3】B16株、B17株、およびB16-B17株をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した結果を示すグラフ。
図4】Δp3株をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した結果を示すグラフ。
図5】P3株をBurkholder合成培地で培養し、PDX3遺伝子の転写量をRT-qPCRで定量した結果を示すグラフ。
図6】P3株をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した結果を示すグラフ。
図7】B16-B17株およびB16-B17-P3株をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した結果を示すグラフ。
図8】B16-B17株およびB16-B17-P3株をBurkholder合成培地で培養し、その無細胞抽出液を更に水で希釈して、ピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)、ピリドキサール5’リン酸(PLP)、ピリドキサミン5’リン酸(PMP)、ピリドキシン5’リン酸(PNP)をLC-MS/MSにより測定した結果を示すグラフ。
図9】T1株、Z1-O1株、B16-B17株、Z1-O1-T1株、B16-B17-T1株、Z1-O1-B16-B17株およびB16-B17-T1-Z1-O1株をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した結果を示すグラフ。
図10】B16-B17-T1-Z1-O1株およびB16-B17-T1-Z1-O1-P3株をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
<1>本発明の酵母
<1-1>本発明の酵母
本発明の酵母は、ピリドキサールキナーゼ(pyridoxal kinase)の活性が増大するように改変された酵母である。
【0016】
本発明の酵母は、ピリドキサールリン酸生産能を有する。
【0017】
「ピリドキサールリン酸」とは、以下の化学式で示される化合物を意味する。同化学式中、「P」は、リン酸基を表す。ピリドキサールリン酸を、「ピリドキサール-5’-リン
酸」または「PLP」ともいう。
【0018】
【化1】
【0019】
また、「ピリドキサールリン酸」とは、特記しない限り、フリー体のピリドキサールリン酸、その塩、またはそれらの混合物を意味する。塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。
【0020】
「ピリドキサールリン酸生産能を有する酵母」とは、培地で培養したときに、ピリドキサールリン酸を生成し、培養物中(例えば、菌体内および/または培地中)に蓄積する能力を有する酵母をいう。本発明の酵母は、少なくとも、ピリドキサールリン酸を菌体内に蓄積する能力を有していてよい。言い換えると、本発明の酵母の菌体は、ピリドキサールリン酸を含有していてよい。本発明の酵母は、回収できる程度にピリドキサールリン酸を菌体内および/または培地中に蓄積することができる酵母であってよい。また、本発明の酵母は、非改変株よりも多い量のピリドキサールリン酸を菌体内および/または培地中に蓄積することができる酵母であってよい。「非改変株」とは、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されていない対照株をいう。すなわち、非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、サッカロマイセス・セレビシエBY4742株等の後述する菌株が挙げられる。また、ピリドキサールリン酸生産能(具体的にはピリドキサールリン酸を菌体内に蓄積する能力)を有する酵母は、OD600あたり30 pmol以上、50 pmol以上、70 pmol以上、100 pmol以上、130 pmol以上、または160 pmol以上の量でピリドキサールリン酸を培養物中(特に菌体内)に蓄積することができる酵母であってよい。また、ピリドキサールリン酸生産能(具体的にはピリドキサールリン酸を菌体内に蓄積する能力)を有する酵母は、乾燥菌体1 mg当たり、120 pmol以上、200 pmol以上、280 pmol以上、400 pmol以上、520 pmol以上、または640 pmol以上の量でピリドキサールリン酸を培養物中(特に菌体内)に蓄積することができる酵母であってよい。言い換えると、本発明の酵母の菌体は、例えば、上記例示した量でピリドキサールリン酸を含有していてよい。なお、「ピリドキサールリン酸の量」とは、特記しない限り、PLP定量キット
「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」またはそれと同一のメカニズムを利用した酵素法により定量されるピリドキサールリン酸の量を意味するものとし、特に、PLP定量
キット「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」により定量されるピリドキサールリン酸の量を意味してよい。
【0021】
本発明の酵母を構築するための親株として用いられる酵母は、特に制限されない。
【0022】
酵母は、出芽酵母であってもよく、分裂酵母であってもよい。酵母は、一倍体の酵母であってもよく、二倍体またはそれ以上の倍数性の酵母であってもよい。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属、ピチア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピチア・シドウィオラム(Pichia sydowiorum)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)等のピチア属(ウィッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)属ともいう)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)等のキャンディダ属、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等のハンゼヌラ属、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属
に属する酵母が挙げられる。酵母としては、特に、サッカロマイセス属酵母やキャンディ
ダ属酵母が挙げられる。酵母として、さらに特には、サッカロマイセス属酵母が挙げられる。酵母として、さらに特には、サッカロマイセス・セレビシエが挙げられる。
【0023】
サッカロマイセス・セレビシエとしては、BY4742株(ATCC 201389; EUROSCARF Y10000
)、BY4743株(ATCC 201390)、S288C株(ATCC 26108)、Y006株(FERM BP-11299)が挙
げられる。サッカロマイセス・セレビシエとしては、特に、BY4742株が挙げられる。なお、BY4742株およびBY4743株は、いずれも、S288C株から得られた派生株である。キャンデ
ィダ・ユティリスとしては、ATCC 22023株が挙げられる。
【0024】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC, Address: 10801 University Boulevard Manassas, VA 20110, United States of America)より分譲を受けることができる。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることができる(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
【0025】
本発明の酵母は、上記例示したような菌株を適宜改変(例えば、ピリドキサールキナーゼの活性が増大する改変や任意でその他の改変)することにより取得できる。すなわち、本発明の酵母は、例えば、上記例示したような菌株に由来する改変株であってよい。なお、BY4742株に由来する改変株およびBY4743株に由来する改変株は、いずれも、S288C株に
由来する改変株にも該当する。本発明の酵母を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。
【0026】
<1-2>ピリドキサールキナーゼの活性増大
本発明の酵母は、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するよう改変されている。本発明の酵母は、具体的には、非改変株と比較してピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている。本発明の酵母は、ピリドキサールリン酸生産能を有する酵母を、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変することにより取得できる。また、本発明の酵母は、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように酵母を改変した後に、ピリドキサールリン酸生産能を付与または増強することによっても取得できる。なお、本発明の酵母は、ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されたことにより、ピリドキサールリン酸生産能を獲得したものであってもよい。
【0027】
ピリドキサールキナーゼの活性が増大するように酵母を改変することによって、酵母のピリドキサールリン酸生産能を向上させることができ、すなわち酵母によるピリドキサールリン酸生産を増大させることができる。ピリドキサールリン酸生産の増大としては、菌体内または培地中のピリドキサールリン酸の蓄積量の増大が挙げられる。ピリドキサールリン酸生産の増大としては、特に、菌体内のピリドキサールリン酸の蓄積量の増大が挙げられる。
【0028】
「ピリドキサールキナーゼ」とは、ビタミンB6ビタマーの5’位をリン酸化し、ビタミ
ンB6ビタマーの5'-リン酸エステルを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を
意味してよい(例えば、EC 2.7.1.35)。同活性を、「ピリドキサールキナーゼ活性」と
もいう。ピリドキサールキナーゼ活性は、具体的には、ATPの存在下でビタミンB6ビタマ
ーの5’をリン酸化し、5'-リン酸エステル型のビタミンB6ビタマーを生成する反応を触媒する活性であってよい。ビタミンB6ビタマーとしては、ピリドキサール、ピリドキシン、ピリドキサミンが挙げられる。ビタミンB6ビタマーの5'-リン酸エステルとしては、ピリ
ドキサール-5'-リン酸、ピリドキシン-5'-リン酸、ピリドキサミン-5'-リン酸が挙げられる。ピリドキサールキナーゼは、1種またはそれ以上のビタミンB6ビタマーを基質とする
ものであってよい。ピリドキサールキナーゼは、例えば、ピリドキサール、ピリドキシン、およびピリドキサミンから選択される1種、2種、または3種全てのビタミンB6ビタマーを基質とするものであってよい。すなわち、ピリドキサールキナーゼ活性は、より具体的には、ATPの存在下で、ピリドキサール、ピリドキシン、および/またはピリドキサミ
ンの5’をリン酸化し、それぞれピリドキサール-5'-リン酸、ピリドキシン-5'-リン酸、
および/またはピリドキサミン-5'-リン酸を生成する反応を触媒する活性であってよい。
【0029】
ピリドキサールキナーゼ活性は、さらに具体的には、以下の(1)、(2)、および/または(3)の反応を触媒する活性であってよい:
ATP + ピリドキサール ⇔ ADP + ピリドキサール-5'-リン酸 (1)
ATP + ピリドキシン ⇔ ADP + ピリドキシン-5'-リン酸 (2)
ATP + ピリドキサミン ⇔ ADP + ピリドキサミン-5'-リン酸 (3)
【0030】
ピリドキサールキナーゼ活性は、例えば、上述したピリドキサールキナーゼが触媒する反応を実施し、反応産物の生成を測定することにより、測定できる。ピリドキサールキナーゼ活性は、具体的には、例えば、ATPの存在下で酵素を基質(例えば、ビタミンB6ビタ
マー)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(例えば、ビタミンB6ビタマーの5'-リン酸エステル)の生成を測定することにより、測定できる。
【0031】
ピリドキサールキナーゼをコードする遺伝子を「ピリドキサールキナーゼ遺伝子」ともいう。
【0032】
ピリドキサールキナーゼ遺伝子としては、BUD16遺伝子およびBUD17遺伝子が挙げられる。BUD16遺伝子またはBUD17遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれBUD16タンパク
質もしくはBud16pまたはBUD17タンパク質もしくはBud17pともいう。ピリドキサールキナ
ーゼとしては、1種のピリドキサールキナーゼの活性を増大させてもよく、2種またはそれ以上のピリドキサールキナーゼの活性を増大させてもよい。例えば、BUD16タンパク質
および/またはBUD17タンパク質の活性を増大させてよい。
【0033】
ピリドキサールキナーゼ遺伝子およびピリドキサールキナーゼとしては、真核生物等の各種生物のものが挙げられる。真核生物としては、酵母が挙げられる。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ等の上記例示した酵母が挙げられる。各種生物由来のピリドキサールキナーゼ遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるピリドキサールキナーゼのアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースや特許文献等の技術文献から取得できる。サッカロマイセス・セレビシエのBUD16遺伝子およびBUD17遺伝子の塩基配列は、Saccharomyces Genome Database(http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。また、サッカロマイセス・セレビシエS288C株(ATCC 26108)のBUD16遺伝子は、NCBIデータベースにGenBank accession NC_001137として登録されている染色体Vの塩基配列中、96858~97796位の塩基配列に相当する。サッカロマイセス・セレビシエS288C株のBUD17遺伝子は、NCBIデータベースにGenBank accession NC_001146として登録されている染色体XIVの塩基配列中、674923~675876位の塩基配列に相当する。サッカロマイセス・セレビシエS288C株のBUD16遺伝子の塩基配列、および同遺伝子がコードするBUD16タンパク質のアミノ
酸配列を、それぞれ配列番号24および25に示す。サッカロマイセス・セレビシエS288C株のBUD17遺伝子の塩基配列、および同遺伝子がコードするBUD17タンパク質のアミノ酸
配列を、それぞれ、配列番号26および27に示す。なお、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のBUD16遺伝子およびBUD17遺伝子の塩基配列ならびにBUD16タンパク質およびBUD17タンパク質のアミノ酸配列は、BY4742株およびBY4743株のものと同一であってよい。
すなわち、ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、例えば、上記例示したピリドキサールキナーゼ遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号24または26に示す塩基配列)を有する遺伝子であってよい。また、ピリドキサールキナーゼは、例えば、上記例示したピリドキサー
ルキナーゼのアミノ酸配列(例えば、配列番号25または27に示すアミノ酸配列)を有するタンパク質であってよい。なお、「遺伝子またはタンパク質が塩基配列またはアミノ酸配列を有する」という表現は、特記しない限り、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列またはアミノ酸配列を含むことを意味してよく、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列またはアミノ酸配列からなる場合も包含してよい。
【0034】
ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したピリドキサールキナーゼ遺伝子、例えば上記例示したBUD16遺伝子やBUD17遺伝子、のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。「BUD16遺伝子」および「BUD17遺伝子」という用語は、それぞれ、上記例示したBUD16遺伝子およびBUD17遺伝子に加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したピリドキサールキナーゼ遺伝子やピリドキサールキナーゼのホモログや人為的な改変体が挙げられる。
【0035】
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(例えば活性または性質)に対応する機能(例えば活性または性質)を有することをいう。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることを意味してよい。ピリドキサールキナーゼ遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントがピリドキサールキナーゼ活性を有するタンパク質をコードすることを意味してよい。また、ピリドキサールキナーゼについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがピリドキサールキナーゼ活性を有することを意味してよい。
【0036】
以下、保存的バリアントについて例示する。
【0037】
ピリドキサールキナーゼ遺伝子のホモログまたはピリドキサールキナーゼのホモログは、例えば、上記例示したピリドキサールキナーゼ遺伝子の塩基配列または上記例示したピリドキサールキナーゼのアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、ピリドキサールキナーゼ遺伝子のホモログは、例えば、各種生物の染色体を鋳型にして、これら公知のピリドキサールキナーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0038】
ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列(例えば配列番号25または27に示すアミノ酸配列)において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0039】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、
置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場
合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミ
ノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的
には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入
、または付加には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0040】
また、ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する
アミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0041】
また、ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記塩基配列(例えば配列番号24または26に示す塩基配列)から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的な
ハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、同一性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上
、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性
を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0042】
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる
ことができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリ
ダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0043】
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、コドンの縮重による上記例示したピリドキサールキナーゼ遺伝子のバリアントであってもよい。例えば、ピリドキサールキナーゼ遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
【0044】
なお、アミノ酸配列間の「同一性」とは、blastpによりデフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味する。また、塩基配列間の「同一性」とは、blastnによりデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて算出される塩基配列間の同一性を意味する。
【0045】
なお、上記の遺伝子やタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、任意の遺伝子およびタンパク質にも準用できる。
【0046】
<1-3>ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性増大
本発明の酵母は、さらに、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ(pyridoxine (pyridoxamine)phosphate oxidase)の活性が増大するよう改変されていてよい。具体的には、本発明の酵母は、さらに、非改変株と比較してピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性が増大するように改変されていてよい。
【0047】
一態様においては、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性が増大するように酵母を改変することによって、酵母のピリドキサールリン酸生産能を向上させることができ、すなわち酵母によるピリドキサールリン酸生産を増大させることができる、と期待される。
【0048】
「ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ」とは、ビタミンB6ビタマー間の相互変換および/またはビタミンB6ビタマーの5'-リン酸エステル間の相互変換を触媒
する活性を有するタンパク質を意味してよい(例えば、EC 1.4.3.5)。同活性を、「ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性」ともいう。ビタミンB6ビタマーとしては、ピリドキサール、ピリドキシン、ピリドキサミンが挙げられる。ビタミンB6ビタマーの5'-リン酸エステルとしては、ピリドキサール-5'-リン酸、ピリドキシン-5'-リン
酸、ピリドキサミン-5'-リン酸が挙げられる。すなわち、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼは、例えば、ピリドキサール、ピリドキシン、およびピリドキサミン間の相互変換、ならびに/またはピリドキサール-5'-リン酸、ピリドキシン-5'-リン酸、およびピリドキサミン-5'-リン酸間の相互変換反応を触媒する酵素であってよい。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼにより相互変換されるビタミンB6ビタマーの組み合わせとしては、ピリドキシンとピリドキサールの組み合わせやピリドキサールとピリドキサミンの組み合わせが挙げられる。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼは、具体的には、例えば、ピリドキシンとピリドキサール間の相互変換および/またはピリドキサールとピリドキサミン間の相互変換を触媒してよい。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼにより相互変換されるビタミンB6ビタマーの5'-リ
ン酸エステルの組み合わせとしては、ピリドキシン-5'-リン酸とピリドキサール-5'-リン酸の組み合わせやピリドキサール-5'-リン酸とピリドキサミン-5'-リン酸の組み合わせが挙げられる。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼは、具体的には、例えば、ピリドキシン-5'-リン酸とピリドキサール-5'-リン酸間の相互変換および/またはピリドキサール-5'-リン酸とピリドキサミン-5'-リン酸間の相互変換を触媒してよい。
【0049】
ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性は、例えば、上述したピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼが触媒する反応を実施し、反応産物の生成を測定することにより、測定できる。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性は、具体的には、例えば、酵素を基質(例えば、ビタミンB6ビタマーまたはその5'-リン酸エステル)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(例えば、別のビ
タミンB6ビタマーまたはその5'-リン酸エステル)の生成を測定することにより、測定で
きる。
【0050】
ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼをコードする遺伝子を「ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子」ともいう。
【0051】
ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子としては、PDX3遺伝子が挙げられる。PDX3遺伝子にコードされるタンパク質を、PDX3タンパク質もしくはPdx3pとも
いう。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼとしては、1種のピリドキシ
ン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性を増大させてもよく、2種またはそれ以上のピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの活性を増大させてもよい。
【0052】
ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子およびピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼとしては、真核生物等の各種生物のものが挙げられる。真核生物としては、酵母が挙げられる。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ等の上記例示した酵母が挙げられる。各種生物由来のピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼのアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースや特許文献等の技術文献から取得できる。サッカロマイセス・セレビシエのPDX3遺伝子の塩基配列は、Saccharomyces Genome Database(http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。サッカロマイセス・セレビシエS288C株のPDX3遺伝子の塩基配列、および同遺伝子が
コードするPDX3タンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号28および29に示す。なお、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のPDX3遺伝子の塩基配列およびPDX3タン
パク質のアミノ酸配列は、BY4742株およびBY4743株のものと同一であってよい。すなわち、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子は、例えば、上記例示したピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号28に示す塩基配列)を有する遺伝子であってよい。また、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼは、例えば、上記例示したピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼのアミノ酸配列(例えば、配列番号29に示すアミノ酸配列)を有するタンパク質であってよい。
【0053】
なお、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子は、元の機能が維持されたタンパク質をコードする限り、上記例示した遺伝子や公知の塩基配列を有する遺伝子に限られず、そのバリアントであってもよい。同様に、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼは、元の機能が維持されている限り、上記例示したタンパク質や公知のアミノ酸配列を有するタンパク質に限られず、そのバリアントであってもよい。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ活性を有することを意味してよい。遺伝子やタンパク質のバリアントについては、先述したピリドキサールキナーゼおよびそれをコードする遺伝子の保存的バリアントに関する記載を準用できる。
【0054】
<1-4>ピリドキサールリン酸合成酵素の活性増大
本発明の酵母は、さらに、ピリドキサールリン酸合成酵素(pyridoxal phosphate synthase)の活性が増大するよう改変されていてよい。具体的には、本発明の酵母は、さらに、非改変株と比較してピリドキサールリン酸合成酵素の活性が増大するように改変されていてよい。
【0055】
「ピリドキサールリン酸合成酵素」とは、ピリドキサールリン酸を合成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(例えば、EC 4.3.3.6)。同活性を、「ピリドキサールリン酸合成酵素活性」ともいう。ピリドキサールリン酸合成酵素活性は、具体的には、グリセルアルデヒド-3-リン酸、リボース-5-リン酸、およびグルタミンからピリドキサールリン酸を生成する反応を触媒する活性であってよい。
【0056】
ピリドキサールリン酸合成酵素活性は、例えば、上述したピリドキサールリン酸合成酵素が触媒する反応を実施し、反応産物の生成を測定することにより、測定できる。ピリドキサールリン酸合成酵素活性は、具体的には、例えば、酵素を基質(例えば、グリセルアルデヒド-3-リン酸、リボース-5-リン酸、およびグルタミン)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(例えば、ピリドキサールリン酸)の生成を測定することにより
、測定できる。
【0057】
ピリドキサールリン酸合成酵素をコードする遺伝子を「ピリドキサールリン酸合成酵素遺伝子」ともいう。
【0058】
ピリドキサールリン酸合成酵素遺伝子としては、SNZ1遺伝子およびSNO1遺伝子が挙げられる。SNZ1遺伝子およびSNO1遺伝子にコードされるタンパク質を、それぞれSNZ1タンパク質およびSNO1タンパク質もしくはSnz1pおよびSno1pともいう。ピリドキサールリン酸合成酵素としては、1種のピリドキサールリン酸合成酵素の活性を増大させてもよく、2種またはそれ以上のピリドキサールリン酸合成酵素の活性を増大させてもよい。SNZ1遺伝子およびSNO1遺伝子は、ピリドキサールリン酸合成酵素のサブユニットをコードしてよい。すなわち、ピリドキサールリン酸合成酵素は、例えば、SNZ1タンパク質およびSNO1タンパク質を含む複合体であってよい。すなわち、SNZ1タンパク質は、SNO1タンパク質との組み合わせで(具体的にはSNO1タンパク質と複合体を形成して)ピリドキサールリン酸合成酵素として機能してよい。また、SNO1タンパク質は、SNZ1タンパク質との組み合わせで(具体的にはSNZ1タンパク質と複合体を形成して)ピリドキサールリン酸合成酵素として機能してよい。
【0059】
SNO1タンパク質は、例えば、グルタミンを加水分解してアンモニアとグルタミン酸を生成する反応を触媒する活性を有してよい。同活性を、「SNO1活性」ともいう。
【0060】
SNO1活性は、例えば、上述したSNO1タンパク質が触媒する反応を実施し、反応産物の生成を測定することにより、測定できる。SNO1活性は、具体的には、例えば、酵素を基質(例えば、グルタミン)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(例えば、アンモニア)の生成を測定することにより、測定できる。
【0061】
SNZ1タンパク質は、例えば、グリセルアルデヒド-3-リン酸、リボース-5-リン酸、およびアンモニアからピリドキサールリン酸を生成する反応を触媒する活性を有してよい。SNZ1タンパク質の基質となり得るアンモニアは、SNO1タンパク質の触媒作用によりグルタミンから生成したものであってよい。同活性を、「SNZ1活性」ともいう。
【0062】
SNZ1活性は、例えば、上述したSNZ1タンパク質が触媒する反応を実施し、反応産物の生成を測定することにより、測定できる。SNZ1活性は、具体的には、例えば、酵素を基質(例えば、グリセルアルデヒド-3-リン酸、リボース-5-リン酸、およびアンモニア)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(例えば、ピリドキサールリン酸)の生成を測定することにより、測定できる。
【0063】
ピリドキサールリン酸合成酵素遺伝子およびピリドキサールリン酸合成酵素としては、真核生物等の各種生物のものが挙げられる。真核生物としては、酵母が挙げられる。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ等の上記例示した酵母が挙げられる。各種生物由来のピリドキサールリン酸合成酵素遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるピリドキサールリン酸合成酵素のアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースや特許文献等の技術文献から取得できる。サッカロマイセス・セレビシエのSNZ1遺伝子およびSNO1遺伝子の塩基配列は、Saccharomyces Genome Database(http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。サッカロマイセス・セレビシエS288C株のSNZ1遺伝子の塩基配列、
および同遺伝子がコードするSNZ1タンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号30および31に示す。サッカロマイセス・セレビシエS288C株のSNO1遺伝子の塩基配列、お
よび同遺伝子がコードするSNO1タンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号32および33に示す。なお、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のSNZ1遺伝子およびSNO1
遺伝子の塩基配列ならびにSNZ1タンパク質およびSNO1タンパク質のアミノ酸配列は、BY47
42株およびBY4743株のものと同一であってよい。すなわち、ピリドキサールリン酸合成酵素遺伝子は、例えば、上記例示したピリドキサールリン酸合成酵素遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号30または32に示す塩基配列)を有する遺伝子であってよい。また、ピリドキサールリン酸合成酵素は、例えば、上記例示したピリドキサールリン酸合成酵素のアミノ酸配列(例えば、配列番号31または33に示すアミノ酸配列)を有するタンパク質であってよい。
【0064】
なお、ピリドキサールリン酸合成酵素遺伝子は、元の機能が維持されたタンパク質をコードする限り、上記例示した遺伝子や公知の塩基配列を有する遺伝子に限られず、そのバリアントであってもよい。同様に、ピリドキサールリン酸合成酵素は、元の機能が維持されている限り、上記例示したタンパク質や公知のアミノ酸配列を有するタンパク質に限られず、そのバリアントであってもよい。ピリドキサールリン酸合成酵素についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがピリドキサールリン酸合成酵素活性を有することを意味してよい。また、SNZ1タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがSNZ1活性を有することを意味してよい。また、SNZ1タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、SNO1タンパク質との組み合わせで(具体的にはSNO1タンパク質と複合体を形成して)ピリドキサールリン酸合成酵素として機能することを意味してもよい。また、SNO1タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがSNO1活性を有することを意味してよい。また、SNO1タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、SNZ1タンパク質との組み合わせで(具体的にはSNZ1タンパク質と複合体を形成して)ピリドキサールリン酸合成酵素として機能することを意味してもよい。遺伝子やタンパク質のバリアントについては、先述したピリドキサールキナーゼおよびそれをコードする遺伝子の保存的バリアントに関する記載を準用できる。
【0065】
<1-5>ビタミンB6取り込み酵素の活性増大
本発明の酵母は、さらに、ビタミンB6取り込み酵素の活性が増大するよう改変されていてよい。具体的には、本発明の酵母は、さらに、非改変株と比較してビタミンB6取り込み酵素の活性が増大するように改変されていてよい。
【0066】
「ビタミンB6取り込み酵素」とは、細胞外のビタミンB6ビタマーを細胞内に取り込む、細胞膜上のビタミンB6輸送体酵素を意味してよい。細胞外のビタミンB6ビタマーを細胞内に取り込む活性を、「ビタミンB6取り込み活性」ともいう。ビタミンB6取り込み活性は、具体的には、細胞外のピリドキサール、ピリドキシン、および/またはピリドキサミンを細胞内に取り込む活性であってよい。
【0067】
ビタミンB6取り込み酵素をコードする遺伝子を「ビタミンB6取り込み酵素遺伝子」ともいう。
【0068】
ビタミンB6取り込み酵素遺伝子としては、TPN1遺伝子が挙げられる。TPN1遺伝子にコードされるタンパク質を、TPN1タンパク質もしくはTpn1pともいう。ビタミンB6取り込み酵
素としては、1種のビタミンB6取り込み酵素の活性を増大させてもよく、2種またはそれ以上のビタミンB6取り込み酵素の活性を増大させてもよい。
【0069】
ビタミンB6取り込み酵素遺伝子およびビタミンB6取り込み酵素としては、真核生物等の各種生物のものが挙げられる。真核生物としては、酵母が挙げられる。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ等の上記例示した酵母が挙げられる。各種生物由来のビタミンB6取り込み酵素遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるビタミンB6取り込み酵素のアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースや特許文献等の技術文献から取得できる。サッカロマイセス・セレビシエのTPN1遺伝子の塩基配列は、Saccharomyces Geno
me Database(http://www.yeastgenome.org/)に開示されている。サッカロマイセス・セレビシエS288C株のTPN1遺伝子の塩基配列、および同遺伝子がコードするTPN1タンパク質
のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号34および35に示す。なお、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のTPN1遺伝子の塩基配列およびTPN1タンパク質のアミノ酸配列は、BY4742株およびBY4743株のものと同一であってよい。すなわち、ビタミンB6取り込み酵素遺
伝子は、例えば、上記例示したビタミンB6取り込み酵素遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号34に示す塩基配列)を有する遺伝子であってよい。また、ビタミンB6取り込み酵素は、例えば、上記例示したビタミンB6取り込み酵素のアミノ酸配列(例えば、配列番号35に示すアミノ酸配列)を有するタンパク質であってよい。
【0070】
なお、ビタミンB6取り込み酵素遺伝子は、元の機能が維持されたタンパク質をコードする限り、上記例示した遺伝子や公知の塩基配列を有する遺伝子に限られず、そのバリアントであってもよい。同様に、ビタミンB6取り込み酵素は、元の機能が維持されている限り、上記例示したタンパク質や公知のアミノ酸配列を有するタンパク質に限られず、そのバリアントであってもよい。ビタミンB6取り込み酵素についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントがビタミンB6取り込み活性を有することを意味してよい。遺伝子やタンパク質のバリアントについては、先述したピリドキサールキナーゼおよびそれをコードする遺伝子の保存的バリアントに関する記載を準用できる。
【0071】
<1-6>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、ピリドキサールキナーゼ等のタンパク質の活性を増大させる手法(ピリドキサールキナーゼ遺伝子等の遺伝子を導入する方法およびピリドキサールキナーゼ遺伝子等の遺伝子のプロモーター活性を増大させる方法も含む)について説明する。
【0072】
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して増大することを意味する。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して増大することを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、宿
主の説明において例示した株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち宿主が属する種の基準株)と比較して増大してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、サッカロマイセス・セレビシエBY4742株と比較して増大してもよい。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。「タンパク質の細胞当たりの分子数」とは、同タンパク質の分子数の細胞当たりの平均値を意味してよい。また、「タンパク質の活性が増大する」とは、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することを含む。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
【0073】
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、9倍以上、11倍以上、または16倍以上に
上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその活性が測定できる程度に生産されていてよい。
【0074】
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成できる。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味する。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の細胞当たりの発現量」とは、同遺伝子の発現量の細胞当たりの平均値を意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、9倍以上、11倍以上、または16倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。
【0075】
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
【0076】
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体中に多数のコピーが存在する配列としては、特有の短い繰り返し配列からなる自律複製配列(ARS)や、約150コピー存在するrDNA配列が挙げられる。ARSを含むプラスミドを用いて酵母の形質転換
を行った例が、国際公開95/32289号パンフレットに記載されている。また、ピリドキサールリン酸の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンを用いて染色体上にランダムに導入することもできる。
【0077】
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
【0078】
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、シングルコピーベクターであってもよく、マルチコピーベクターであってもよい。また、ベクターは、形質転換体を選択するためのマーカーを含むことが好ましい。マーカーとしては、KanMX、NatMX(nat1)、HygMX(hph)遺伝子等の抗生物質耐性遺伝子や、LEU2、HIS3、URA3遺伝子等の栄養要求性を相補する遺伝子が挙げられる。酵母
細胞内で自律複製可能なベクターとしては、例えば、CEN4の複製開始点を持つプラスミドや2μm DNAの複製開始点を持つマルチコピー型プラスミドが挙げられる。酵母細胞内で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pAUR123(タカラバイオ社製)やpYES2(インビトロジェン社)が挙げられる。
【0079】
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、発現可能に宿主に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
【0080】
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。酵母において機能するターミネーターとしては、CYC1、ADH1、ADH2、ENO2、PGI1、TDH1ターミネーターが挙げられる。
【0081】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0082】
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に宿主に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上のタンパク質(例えば酵素)をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体(例えば酵素複合体)を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0083】
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を
鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同
遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得
した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、遺伝子を改変することにより、該遺伝子のバリアントを取得できる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的
の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCR
を用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用い
る方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。また、遺伝子のバリアントを全合成してもよい。
【0084】
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が目的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
【0085】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称である。発現調節配列としては、例えば、プロモーターが挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。
【0086】
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。より強力なプロモーターは、例えば、構成的(constitutive)プロモーターであってもよく、誘導性(inducive)プロモーターであってもよい。より強力なプロモーターは、特に、構成的プロモーターであってよい。酵母で利用できるより強力なプロモーターとしては、PGK1、PGK2、PDC1、TDH3、TEF1、TEF2、TPI1、HXT7、ADH1、GPD1、KEX2プロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。
【0087】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。すなわち、遺伝子の異種発現を行う場合等には、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl.
Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
【0088】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
【0089】
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0090】
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の脱感作(desensitization to feedback inhibition)も含まれる。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導
入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'-ニトロ-N-
ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増
強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
【0091】
2倍体以上の倍数性を有する酵母を宿主として用いる場合であって、染色体の改変によりタンパク質の活性を増大させる場合には、同酵母は、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、タンパク質の活性が増大するように改変された染色体と野生型染色体とをヘテロで有していてもよく、タンパク質の活性が増大するように改変された染色体をホモで有していてもよい。
【0092】
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。酵母の形質転換法としては、プロトプラスト法、KU法(H.Ito et al., J. Bateriol., 153-163 (1983))、KUR法(発酵と工業 vol.43, p.630-637 (1985))、エレクトロポレーショ
ン法(Luis et al., FEMS Micro biology Letters 165 (1998) 335-340)、キャリアDNAを用いる方法(Gietz R.D. and Schiestl R.H., Methods Mol.Cell. Biol. 5:255-269 (1995))等、通常酵母の形質転換に用いられる方法を採用することができる。また、酵母の胞子形成、1倍体酵母の分離、等の操作については、「化学と生物 実験ライン31 酵母の実験技術」、初版、廣川書店;「バイオマニュアルシリーズ10 酵母による遺伝子
実験法」初版、羊土社等に記載されている。
【0093】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0094】
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
【0095】
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、9倍以上、11倍以上、または16倍以上に上昇してよい。
【0096】
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、9倍以上、11倍以上、または16倍以上に上昇してよい。
【0097】
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、ピリドキサールキナーゼの活性増強や
ピリドキサールキナーゼ遺伝子の導入に限られず、任意のタンパク質の活性増強や、任意の遺伝子、例えばそれら任意のタンパク質をコードする遺伝子、の発現増強に利用できる。
【0098】
<2>本発明の菌体
本発明の菌体は、ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体である。本発明の菌体は、例えば、本発明の酵母の菌体であってよい。本発明の酵母はピリドキサールリン酸生産能を有するため、同酵母の菌体はピリドキサールリン酸を含有し得る。具体的には、本発明の酵母がピリドキサールリン酸を菌体内に蓄積する能力を有する場合、同酵母の菌体はピリドキサールリン酸を含有し得る。すなわち、本発明の菌体は、より具体的には、酵母の菌体であって、ピリドキサールリン酸を含有し、前記酵母がピリドキサールリン酸生産能(具体的にはピリドキサールリン酸を菌体内に蓄積する能力)を有し、且つ、前記酵母がピリドキサールキナーゼの活性が増大するように改変されている、菌体であってよい。本発明の菌体は、例えば、本発明の酵母を培養し、菌体を回収(採取)することにより製造できる。すなわち、本発明の菌体は、例えば、後述する本発明の方法によって製造することができる。本発明の菌体におけるピリドキサールリン酸の含有量については、本発明の酵母の菌体におけるピリドキサールリン酸の含有量についての記載を準用できる。菌体中のピリドキサールリン酸含有量は、常法により測定できる。菌体中のピリドキサールリン酸含有量は、例えば、実施例に記載の手法により測定できる。本発明の菌体は、例えば、湿菌体や乾燥菌体等の任意の形態で利用することができる。本発明の菌体の用途は特に制限されない。本発明の菌体は、例えば、食品材料として使用できる。本発明の菌体は、具体的には、例えば、酵母エキスの原料として使用できる。
【0099】
<3>本発明の方法
<3-1>ピリドキサールリン酸の製造方法
本発明の方法の一態様は、本発明の酵母を培地で培養する工程、および培養物からピリドキサールリン酸を採取する工程を含む、ピリドキサールリン酸を製造する方法である。同方法を、「本発明のピリドキサールリン酸製造方法」ともいう。
【0100】
使用する培地は、本発明の酵母が増殖でき、ピリドキサールリン酸が生産される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、酵母の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。そのような培地としては、SD培地、SG培地、SDTE培地、YPD培地、Burkholder合成培地が挙げられる。培地は、例えば、炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、および
その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有していてよい。培地成分の種類や濃度は、使用する酵母の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0101】
炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム
等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビ
タミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
また、生育にアミノ酸や核酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。
【0107】
培養条件は、本発明の酵母が増殖でき、ピリドキサールリン酸が生産される限り、特に制限されない。培養は、例えば、酵母の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する酵母の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
【0108】
培養は、液体培地を用いて、好気条件、微好気条件、または嫌気条件で行うことができる。培養は、好ましくは、好気条件で行うことができる。「好気条件」とは、液体培地中の溶存酸素濃度が、0.33 ppm以上、好ましくは1.5 ppm以上である条件であってよい。好
気条件の場合、酸素濃度は、例えば、飽和酸素濃度に対して、5~50%、好ましくは10~20%程度に制御されてもよい。好気培養は、具体的には、通気または振盪により行うこと
ができる。「微好気条件」とは、培養系に酸素が供給されているが、液体培地中の溶存酸素濃度が0.33ppm未満である条件であってよい。「嫌気条件」とは、培養系に酸素が供給
されない条件であってよい。培養温度は、例えば、25~35℃、好ましくは27℃~33℃、より好ましくは28℃~32℃であってよい。培地のpHは、例えば、pH3~10、好ましくはpH4~8であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。pHの調整には
、無機または有機の酸性またはアルカリ性の物質、例えばアンモニアガス等、を用いることができる。培養期間は、例えば、10時間~200時間、または15時間~120時間であってよい。培養条件は、培養の全期間において一定であってもよく、培養中に変化させてもよい。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。培養は、種培養と本培養の2段階で行ってもよい。そのような場合、種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、なくてもよい。例えば、種培養と本培養を、共に回分培養で行ってもよい。あるいは、例えば、種培養を回分培養で行い、本培養を流加培養または連続培養で行ってもよい。
【0109】
このような条件下で本発明の酵母を培養することにより、ピリドキサールリン酸が生成し、ピリドキサールリン酸を含有する培養物が得られる。ピリドキサールリン酸は、具体的には、菌体内および/または培地中に蓄積してよい。すなわち、ピリドキサールリン酸の製造方法において、培養物からピリドキサールリン酸を採取する工程とは、菌体および/または培地からピリドキサールリン酸を採取する工程であってよい。
【0110】
ピリドキサールリン酸が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の
手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用い
ることができる。
【0111】
ピリドキサールリン酸の回収は、例えば、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により実施できる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、晶析法が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。なお、菌体内にピリドキサールリン酸が蓄積する場合には、例えば、菌体を超音波などにより破砕することができ、次いで、遠心分離によって菌体を除去して得られる上清からピリドキサールリン酸を回収することができる。また、ピリドキサールリン酸が培地中に析出する場合は、遠心分離又は濾過等によりピリドキサールリン酸を回収することができる。また、培地中に析出したピリドキサールリン酸は、培地中に溶解しているピリドキサールリン酸を晶析した後に、併せて単離してもよい。回収されるピリドキサールリン酸は、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であってよい。
【0112】
回収されるピリドキサールリン酸は、ピリドキサールリン酸以外に、酵母菌体、培地成分、水分、酵母の代謝副産物等の他の成分を含んでいてもよい。回収されるピリドキサールリン酸の純度は、例えば、50%(w/w)以上、好ましくは85%(w/w)以上、特に好ましくは95%(w/w)以上であってよい。
【0113】
<3-2>ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体の製造方法
本発明の方法の別の態様は、本発明の酵母を培地で培養する工程、および前記酵母の菌体を採取する工程を含む、ピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体を製造する方法である。同方法を、「本発明の菌体製造方法」ともいう。ピリドキサールリン酸含有酵母菌体の製造方法に用いられる本発明の酵母は、少なくとも、菌体内にピリドキサールリン酸を蓄積することができる酵母であってよい。
【0114】
ピリドキサールリン酸含有酵母菌体の製造方法における培地および培養条件は、ピリドキサールリン酸を含有する菌体が得られる限り、特に制限されない。ピリドキサールリン酸含有酵母菌体の製造方法における培地および培養条件については、ピリドキサールリン酸の製造方法における培地および培養条件についての記載を準用できる。
【0115】
本発明の酵母を培養することにより、ピリドキサールリン酸が生成し、ピリドキサールリン酸を含有する菌体が得られる。
【0116】
菌体は、適宜、培養物から回収することができる。菌体の回収は、例えば、公知の固液分離手法により実施できる。そのような手法としては、例えば、遠心分離や濾過が挙げられる。
【0117】
<3-3>酵母エキスの製造方法
本発明の菌体(例えば、本発明の酵母の菌体)は、例えば、酵母エキスの製造に利用できる。すなわち、本発明の方法の別の態様は、本発明の菌体を原料として酵母エキスを調製する工程を含む、酵母エキスを製造する方法である。同方法を、「本発明の酵母エキス製造方法」ともいう。
【0118】
本発明の酵母エキス製造方法により製造される酵母エキスを、「本発明の酵母エキス」ともいう。本発明の酵母エキスは、ピリドキサールリン酸を含有する。本発明の酵母エキスは、本発明の菌体を原料として用いる以外は、通常の酵母エキスと同様に製造することができる。酵母エキスは、酵母菌体を熱水抽出したものを処理したものでもよいし、酵母菌体を消化したものを処理したものでもよい。また、必要に応じて、得られた酵母エキス
を濃縮してもよいし、乾燥し粉末の形態にしてもよい。
【0119】
本発明の酵母エキスは、例えば、酵母エキス中の固形分全量に対し、ピリドキサールリン酸を、0.1重量%以上含有してよい。
【実施例0120】
以下、非限定的な実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0121】
実施例1.ピリドキサールキナーゼ遺伝子欠損によるPLP蓄積量への影響評価
本実施例では、酵母のピリドキサールキナーゼ遺伝子を欠損させ、PLP蓄積量へ与える
影響を評価した。
【0122】
(1)ピリドキサールキナーゼ遺伝子欠損酵母の作製
酵母サッカロマイセス・セレビシエのピリドキサールキナーゼはBUD16およびBUD17遺伝子にコードされ、ビタミンB6ビタマー(ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン)をリン酸化することが知られている。そこで、サッカロマイセス・セレビシエの野生型株BY4742(ATCC 201389)のBUD16遺伝子を破壊した株を作製した。手順を以下に示す。
【0123】
(1-1)BUD16遺伝子破壊株の作製
野生型株におけるBUD16遺伝子を破壊するために、まず、5’末端にBUD16遺伝子の開始
コドンより上流40塩基を付加した配列番号1のプライマーBUD16KOf、および5’末端にBUD16遺伝子の終始コドンより下流40塩基を付加した配列番号2のプライマーBUD16KOrを用い、G418耐性を付与するkanMX遺伝子をプラスミドベクターpUC118に挿入して構築したプラ
スミドpUC-kanMXを鋳型としてkanMX遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした
。得られたDNA断片でBY4742株を形質転換し、200 μg/mLのG418を含むYPD平板培地に塗布した。生育した形質転換体からBY4742株のBUD16遺伝子破壊株(以下、Δb16株)を得た。YPD平板培地の組成を以下に示す。
【0124】
<YPD平板培地>
グルコース 20 g
Bacto Yeast Extract 10 g
Bacto Peptone 20 g
寒天 20 g
脱イオン水で全量を1 Lとした。
【0125】
(2)ピリドキサールキナーゼ遺伝子欠損酵母におけるPLP蓄積量の評価
以上のように作製したBUD16遺伝子を破壊したΔb16株、およびBY4742株を親株とする酵母ノックアウトコレクション(OpenBiosystem社、MATαライブライリー)に含まれるBUD17遺伝子破壊株(以下、Δb17株)をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定し
た。Burkholder合成培地の組成を以下に示す。
【0126】
<Burkholder合成培地>
グルコース 20 g
アスパラギン 2 g
高リン酸溶液(4倍濃度;リン酸二水素カリウム 6 g/L、硫酸マグネシウム七水和物 2 g/L、塩化カルシウム二水和物 1.32 g/L、ヨウ化カリウム 0.4 mg/L) 250 mL
微量金属溶液(1,000倍濃度;硫酸亜鉛七水和物 300 mg/L、塩化鉄(III)六水和物 250 mg/L、ホウ酸 60 mg/L、硫酸銅(II)五水和物40 mg/L、硫酸マンガン五水和物 30 mg/L
、モリブデン酸ナトリウム二水和物 25 mg/L) 1 mL
アミノ酸・塩基溶液(20倍濃度;アルギニン塩酸塩 0.4 g/L、ヒスチジン塩酸塩 0.4 g/L、メチオニン 0.4 g/L、ウラシル 0.4 g/L、イソロイシン 0.6 g/L、リシン塩酸塩 0.6
g/L、チロシン 0.6 g/L、トリプトファン 0.8 g/L、アデニン硫酸塩 0.8 g/L、ロイシン
1.2 g/L、フェニルアラニン 1.2 g/L、バリン 3.0 g/L、トレオニン4.0 g/L) 50 mL
ビタミン溶液(1,000倍濃度;ビオチン 20 mg/L、ニコチン酸 200 mg/L、ピリドキシン塩酸塩 200 mg/L、チアミン塩酸塩 200 mg/L、パントテン酸カルシウム 200 mg/L、イノ
シトール 10 g/L) 1 mL(オートクレーブ滅菌後に添加する)
脱イオン水で全量を1 Lとした。
【0127】
BY4742株、Δb16株、およびΔb17株をBurkholder合成培地で一晩培養した液5 mLを、それぞれ50 mLのBurkholder合成培地に植菌し、300 mL容三角フラスコでOD600値が1に達す
るまで30℃で振盪培養した。50 mLの培養液から細胞を集菌し、25 mLの無菌水で3回洗浄
した後、500 μLの無菌水に懸濁し、細胞懸濁液のOD600値を記録した。細胞懸濁液を500 μLのジルコニアビーズを加えたスクリューキャップ付き1.5 mLチューブに移し、ビーズ
式細胞破砕装置にて細胞を破砕した。細胞破砕液を新しい1.5 mLマイクロチューブに移し、遠心分離により上澄液を回収して細胞抽出液とした。細胞抽出液のPLP量は、酵素法に
よるPLP定量キット「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」を用い、その使用説明
書に従って測定した。
【0128】
結果を図1に示す。野生型BY4742株、ピリドキサールキナーゼ遺伝子を破壊したΔb16
株およびΔb17株における細胞内PLP量は、OD600あたりBY4742: 9.32 pmol、Δb16: 2.69 pmol、Δb17: 5.29 pmolであった。どちらのピリドキサールキナーゼ遺伝子破壊株も野生型株と比べてPLP蓄積量が減少した。
【0129】
以上の結果より、ピリドキサールキナーゼはPLPを蓄積させる方向に働いていることが
わかった。また、BUD16およびBUD17両遺伝子がPLPの蓄積に貢献していることがわかった
【0130】
実施例2.ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現によるPLP増量効果の検討
本実施例では、酵母のピリドキサールキナーゼ遺伝子の発現を増強させ、PLPの増量効
果を検討した。
【0131】
(1)ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現酵母の作製
野生型株においてピリドキサールキナーゼをコードするBUD16およびBUD17遺伝子を高発現させるために、BUD16およびBUD17遺伝子のプロモーター領域を構成性かつ強力であるグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(以下、TDH3)のプロモーター領域に置換することにより、ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現株を作製した。なお、BY4742株はLEU2遺伝子およびHIS3遺伝子の欠損株であり、ロイシン要求性およびヒスチジン要求性を示す。また、カンジダ・グラブラータのLEU2遺伝子(以下、CgLEU2)およびHIS3遺伝子(以下、CgHIS3)はサッカロマイセス・セレビシエのLEU2遺伝子およびHIS3遺伝子の欠損をそれぞれ相補することができる。手順を以下に示す。
【0132】
(1-1)BUD16遺伝子高発現株の作製
野生型株におけるBUD16プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にBUD16遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号1のプライマーBUD16KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgLEU2遺伝子をプラスミドベクターpUC118に挿入して構築したプラス
ミドpCgLsを鋳型としてCgLEU2遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、およ
び5’末端にBUD16遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号5のプライマーTDH3p-BUD16rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物
をそれぞれ精製した後に混合し、プライマーBUD16KOfおよびプライマーTDH3p-BUD16rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でBY4742株を形質転換し、ロイシンを含まないSC-Leu平板培地に塗布した
。生育した形質転換体からBUD16プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下
、B16株)を得た。SC-Leu平板培地の組成を以下に示す。
【0133】
<SC-Leu平板培地>
グルコース 20 g
Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids 6.7 g
ロイシンを含まないアミノ酸・塩基溶液(20倍濃度;アルギニン塩酸塩 0.4 g/L、ヒスチジン塩酸塩 0.4 g/L、メチオニン 0.4 g/L、ウラシル 0.4 g/L、イソロイシン 0.6 g/L、リシン塩酸塩 0.6 g/L、チロシン 0.6 g/L、トリプトファン 0.8 g/L、アデニン硫酸塩
0.8 g/L、フェニルアラニン 1.2 g/L、バリン 3.0 g/L、トレオニン4.0 g/L) 50 mL
寒天 20 g
脱イオン水で全量を1 Lとした。
【0134】
(1-2)BUD17遺伝子高発現株の作製
野生型株におけるBUD17プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にBUD17遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号6のプライマーBUD17KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgLEU2遺伝子をもつプラスミドpCgLsを鋳型としてCgLEU2遺伝子をPCR
にて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)
、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付
加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にBUD17遺伝子の開始コドンよ
り下流40塩基を付加した配列番号7のプライマーTDH3p-BUD17rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した
。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃
、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プラ
イマーBUD17KOfおよびプライマーTDH3p-BUD17rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片
をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でBY4742株を形質転換し、ロイシンを含まないSC-Leu平板培地に塗布した。生育した形質転換体からBUD17プロ
モーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、B17株)を得た。
【0135】
(1-3)BUD16およびBUD17遺伝子二重高発現株の作製
BUD16プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB16株におけるBUD17プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にBUD17遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号6のプライマーBUD17KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgHIS3遺伝子をプラス
ミドベクターpUC19に挿入して構築したプラスミドpCgH3を鋳型としてCgHIS3遺伝子をPCR
にて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)
、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付
加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にBUD17遺伝子の開始コドンよ
り下流40塩基を付加した配列番号7のプライマーTDH3p-BUD17rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した
。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃
、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プラ
イマーBUD17KOf およびプライマーTDH3p-BUD17rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でB16株を形質転換し
、ヒスチジンを含まないSC-His平板培地に塗布した。生育した形質転換体からBUD17プロ
モーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、B16-B17株)を得た。SC-His平板培
地の組成を以下に示す。
【0136】
<SC-His平板培地>
グルコース 20 g
Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids 6.7 g
ヒスチジンを含まないアミノ酸・塩基溶液(20倍濃度;アルギニン塩酸塩 0.4 g/L、メチオニン 0.4 g/L、ウラシル 0.4 g/L、イソロイシン 0.6 g/L、リシン塩酸塩 0.6 g/L、チロシン 0.6 g/L、トリプトファン 0.8 g/L、アデニン硫酸塩 0.8 g/L、ロイシン 1.2 g/L、フェニルアラニン 1.2 g/L、バリン 3.0 g/L、トレオニン4.0 g/L) 50 mL
寒天 20 g
脱イオン水で全量を1 Lとした。
【0137】
(2)ピリドキサールキナーゼ遺伝子の発現量解析
以上のように作製したTDH3プロモーター置換株においてピリドキサールキナーゼ遺伝子が高発現していることを、それぞれのmRNA量をRT-qPCRで定量することにより解析した。
【0138】
BY4742株、B16株、B17株、およびB16-B17株をBurkholder合成培地で一晩培養した液2 mLを、それぞれ10 mLのBurkholder合成培地に植菌し、試験管でOD600値が1に達するまで30℃で振盪培養した。10 mLの培養液を集菌し、5 mLの無菌水で洗浄した細胞について、RNA抽出キット「RNeasy Mini Kit(Qiagen)」を用い、その使用説明書に従って全RNAを抽出した。それぞれの全RNAサンプルについて、1ステップRT-PCRキット「One Step TB Green PrimeScript RT-PCR Kit II(タカラバイオ)」を用いて、BUD16、BUD17、および内部標準
としてのUBC6遺伝子由来のmRNAを増幅・定量した。BUD16の増幅には配列番号8のプライ
マーBUD16RTfおよび配列番号9のプライマーBUD16RTrを用いた。BUD17の増幅には配列番
号10のプライマーBUD17RTfおよび配列番号11のプライマーBUD17RTrを用いた。UBC6の増幅には配列番号12のプライマーUBC6RTfおよび配列番号13のプライマーUBC6RTrを用いた。RT-qPCRの反応にはThermal Cycler Dice(タカラバイオ)を用いた。
【0139】
結果を図2に示す。BUD16プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB16株およびB16-B17株におけるBUD16遺伝子の転写量はどちらも野生型株に対して約9倍に上昇した(図2
のパネル(a))。BUD17プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB17株およびB16-B17株におけるBUD17遺伝子の転写量はどちらも野生型株に対して約11倍に上昇した(図2
パネル(b))。
【0140】
(3)ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現酵母におけるPLP蓄積量の評価
BY4742株、B16株、B17株およびB16-B17株をBurkholder合成培地で一晩培養した液5 mL
を、それぞれ50 mLのBurkholder合成培地に植菌し、300 mL容三角フラスコでOD600値が1
に達するまで30℃で振盪培養した。50 mLの培養液から細胞を集菌し、25 mLの無菌水で3
回洗浄した後、500 μLの無菌水に懸濁し、細胞懸濁液のOD600値を記録した。細胞懸濁液を500 μLのジルコニアビーズを加えたスクリューキャップ付き1.5 mLチューブに移し、
ビーズ式細胞破砕装置にて細胞を破砕した。細胞破砕液を新しい1.5 mLマイクロチューブに移し、遠心分離により上澄液を回収して細胞抽出液とした。細胞抽出液のPLP量は、酵
素法によるPLP定量キット「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」を用い、その使
用説明書に従って測定した。
【0141】
結果を図3に示す。野生型BY4742株、BUD16遺伝子を高発現させたB16株、BUD17遺伝子
を高発現させたB17株、およびBUD16とBUD17両遺伝子を高発現させたB16-B17株における細胞内PLP量は、OD600あたりBY4742: 10.1 pmol、B16: 23.1 pmol、B17: 28.3 pmol、B16-B17: 50.3 pmolであった。BUD16およびBUD17遺伝子の単独高発現によりそれぞれ2.3倍および2.8倍にPLP蓄積量が増加した。さらに、BUD16とBUD17遺伝子の二重高発現により5.0倍にPLP蓄積量が増加した。
【0142】
以上の結果より、ピリドキサールキナーゼ遺伝子を高発現させることにより、PLPの蓄
積量を増加させられることがわかった。さらに、BUD16およびBUD17両遺伝子を同時に高発現させることにより加算的にPLP蓄積量を増加させることができた。
【0143】
実施例3.ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子欠損および高発現によるPLP増量効果の検討
本実施例では、酵母のピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子を欠損させ、PLP蓄積量へ与える影響を評価するとともに、酵母のピリドキシン(ピリドキサ
ミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子の発現を増強させ、PLPの増量効果を検討した。
【0144】
(1)ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子欠損株におけるPLP蓄
積量の評価
酵母サッカロマイセス・セレビシエのピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼはPDX3遺伝子にコードされ、ビタミンB6ビタマーおよびそのリン酸化体を相互変換することが知られている。そこで、BY4742株を親株とする酵母ノックアウトコレクション(OpenBiosystem社、MATαライブライリー)に含まれるPDX3遺伝子破壊株(以下、Δp3株)をBurkholder合成培地で培養し、細胞内PLP量を測定した。
【0145】
BY4742株およびΔp3株をBurkholder合成培地で一晩培養した液5 mLを、それぞれ50 mL
のBurkholder合成培地に植菌し、300 mL容三角フラスコでOD600値が1に達するまで30℃で振盪培養した。50 mLの培養液から細胞を集菌し、25 mLの無菌水で3回洗浄した後、500
μLの無菌水に懸濁し、細胞懸濁液のOD600値を記録した。細胞懸濁液を500 μLのジルコ
ニアビーズを加えたスクリューキャップ付き1.5 mLチューブに移し、ビーズ式細胞破砕装置にて細胞を破砕した。細胞破砕液を新しい1.5 mLマイクロチューブに移し、遠心分離により上澄液を回収して細胞抽出液とした。細胞抽出液のPLP量は、酵素法によるPLP定量キット「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」を用い、その使用説明書に従って測定した。
【0146】
結果を図4に示す。野生型BY4742株およびピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子を破壊したΔp3株における細胞内PLP量は、OD600あたりBY4742: 9.32 pmol、Δp3: 9.91 pmolであった。ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子を破壊してもPLP蓄積量に影響を与えなかった。
【0147】
(2)ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子高発現酵母の作製
野生型株におけるPDX3プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’
末端にPDX3遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号14のプライマーPDX3KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgLEU2遺伝子をもつプラスミドpCgLsを鋳型としてCgLEU2遺伝子をPCR
にて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)
、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付
加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にPDX3遺伝子の開始コドンより
下流40塩基を付加した配列番号15のプライマーTDH3p-PDX3rを用い、サッカロマイセス
・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した
。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃
、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プラ
イマーPDX3KOfおよびプライマーTDH3p-PDX3rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec
)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でBY4742株を形質転換し、ロイシンを含まないSC-Leu平板培地に塗布した。生育した形質転換体からPDX3プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、P3株)を得た。
【0148】
(3)PDX3遺伝子の発現量解析
以上のように作製したPDX3プロモーターをTDH3プロモーターに置換した株においてPDX3遺伝子が高発現していることを、mRNA量をRT-qPCRで定量することにより解析した。
【0149】
BY4742株およびP3株をBurkholder合成培地で一晩培養した液2 mLを、それぞれ10 mLのBurkholder合成培地に植菌し、試験管でOD600値が1に達するまで30℃で振盪培養した。10 mLの培養液を集菌し、5 mLの無菌水で洗浄した細胞について、RNA抽出キット「RNeasy Mini Kit(Qiagen)」を用い、その使用説明書に従って全RNAを抽出した。それぞれの全RNAサンプルについて、1ステップRT-PCRキット「One Step TB Green PrimeScript RT-PCR Kit II(タカラバイオ)」を用いて、PDX3および内部標準としてのUBC6遺伝子由来のmRNAを増幅・定量した。PDX3の増幅には配列番号16のプライマーPDX3RTfおよび配列番号17の
プライマーPDX3RTrを用いた。UBC6の増幅には配列番号12のプライマーUBC6RTfおよび配列番号13のプライマーUBC6RTrを用いた。RT-qPCRの反応にはThermal Cycler Dice(タ
カラバイオ)を用いた。
【0150】
結果を図5に示す。PDX3プロモーターをTDH3プロモーターに置換したP3株におけるPDX3遺伝子の転写量は野生型株に対して約16倍に上昇した。
【0151】
(4)ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子高発現酵母におけるPLP蓄積量の評価
BY4742株およびP3株をBurkholder合成培地で一晩培養した液5 mLを、それぞれ50 mLのBurkholder合成培地に植菌し、300 mL容三角フラスコでOD600値が1に達するまで30℃で振
盪培養した。50 mLの培養液から細胞を集菌し、25 mLの無菌水で3回洗浄した後、500 μLの無菌水に懸濁し、細胞懸濁液のOD600値を記録した。細胞懸濁液を500 μLのジルコニアビーズを加えたスクリューキャップ付き1.5 mLチューブに移し、ビーズ式細胞破砕装置にて細胞を破砕した。細胞破砕液を新しい1.5 mLマイクロチューブに移し、遠心分離により上澄液を回収して細胞抽出液とした。細胞抽出液のPLP量は、酵素法によるPLP定量キット「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」を用い、その使用説明書に従って測定した。
【0152】
結果を図6に示す。野生型BY4742株およびPDX3遺伝子を高発現させたP3株における細胞内PLP量は、OD600あたりBY4742: 10.1 pmol、P3: 9.52 pmolであった。PDX3遺伝子を高発現させてもPLP蓄積量に影響を与えなかった。
【0153】
以上の結果より、野生型株においてピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子を欠損させても高発現させてもPLP蓄積量は増加しないことがわかった。
【0154】
実施例4.ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現とピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子高発現の組み合わせによる影響評価
本実施例では、酵母のピリドキサールキナーゼ遺伝子とピリドキシン(ピリドキサミン
)リン酸オキシダーゼ遺伝子を組み合わせて高発現させ、PLPの増量効果を検討した。
【0155】
(1)ピリドキサールキナーゼ遺伝子とピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子の組み合わせ高発現株の構築
BUD16およびBUD17プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB16-B17株におけるPDX3
プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にPDX3遺伝子の開始
コドンより上流40塩基を付加した配列番号14のプライマーPDX3KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、ノー
セオトリシン耐性を付与するnatMX遺伝子をプラスミドベクターpUC118に挿入して構築し
たプラスミドpUC-natMXを鋳型としてnatMX遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycle
とした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にPDX3遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号15のプライマーTDH3p-PDX3rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを
鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プライマーPDX3KOfおよびプライマーTDH3p-PDX3rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycle
とした。得られたDNA断片でBUD16およびBUD17両遺伝子を子発現するB16-B17株を形質転換し、100 μg/mLのノーセオトリシンを含むYPD平板培地に塗布した。生育した形質転換体
からPDX3プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、B16-B17-P3株)を得た。
【0156】
(2)ピリドキサールキナーゼ遺伝子とピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子の組み合わせ高発現株におけるPLP蓄積量の評価
BY4742株、B16-B17株、およびB16-B17-P3株をBurkholder合成培地で一晩培養した液5 mLを、それぞれ50 mLのBurkholder合成培地に植菌し、300 mL容三角フラスコでOD600値が1に達するまで30℃で振盪培養した。50 mLの培養液から細胞を集菌し、25 mLの無菌水で3
回洗浄した後、500 μLの無菌水に懸濁し、細胞懸濁液のOD600値を記録した。細胞懸濁液を500 μLのジルコニアビーズを加えたスクリューキャップ付き1.5 mLチューブに移し、
ビーズ式細胞破砕装置にて細胞を破砕した。細胞破砕液を新しい1.5 mLマイクロチューブに移し、遠心分離により上澄液を回収して細胞抽出液とした。細胞抽出液のPLP量は、酵
素法によるPLP定量キット「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」を用い、その使
用説明書に従って測定した。
【0157】
結果を図7に示す。野生型BY4742株、ピリドキサールキナーゼ遺伝子を高発現させたB16-B17株、およびPDX3遺伝子を組み合わせて高発現させたB16-B17-P3株における細胞内PLP量は、OD600あたりBY4742: 19.8 pmol、B16-B17: 101 pmol、B16-B17-P3: 132 pmolであ
った。上の結果と同様に、BUD16とBUD17両遺伝子の高発現により5.1倍にPLP蓄積量が増加した。BUD16とBUD17両遺伝子の高発現に加えてPDX3遺伝子も高発現させると6.7倍にまでPLP蓄積量が増加した。
【0158】
なお、BY4742株のOD600あたりの乾燥菌体重量(Dry Cell Weight;DCW)は、約0.236 mg-cell/OD600(n=4の平均値)であった。そこで、OD600あたりのDCWを各株で一定である
と仮定して、DCWあたりのPLP量を算出すると、BY4742: 83.9 pmol/mg-DCW、B16-B17: 428
pmol/mg-DCW、B16-B17-P3: 559 pmol/mg-DCWであった。
【0159】
以上の結果より、ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現と組み合わせることにより、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子を高発現させるとPLP蓄積量が
さらに増加することがわかった。
【0160】
(3)LC-MS分析によるVB6類分析とピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの効果確認
実施例4(1)で作成したBY4742株、B16-B17株、およびB16-B17-P3株の無細胞抽出液
を更に水で希釈し、ピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)、ピリドキサール5’リン酸(PLP)、ピリドキサミン5’リン酸(PMP)、ピリドキシン5
’リン酸(PNP)の測定をLC-MS/MSにより行った。用いた逆相の液体クロマトグラフィー
の分離条件は以下の通りである。
【0161】
HPLC:LC-1200/1290(アジレント社)
分離カラム:Discovery HS-F5(Supelco。2.1×150mm、3μm)(シグマアルドリッチ社)
カラム温度:40℃
移動相A:5mM ギ酸アンモニウム水溶液 および 0.2%ギ酸
移動相B:メタノールに終濃度0.1%となるようギ酸を溶解
流速:0.25ml/min
溶出条件:溶出は、移動相A及び移動相Bの混合液を用いて行った。混合液に対する移動相Bの比率は0分~3分(0%)、3分~10分(0%~100%)、10分~15分(100%)とした。
【0162】
前述の分離条件によって溶出されたピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)、ピリドキサール5’リン酸(PLP)、ピリドキサミン5’リン酸(PMP)、ピリドキシン5’リン酸(PNP)を質量分析計に導入してマスクロマトグラムに定量を行った。分析条件は下記の通りである。
【0163】
質量分析装置:Agilent 6470 トリプル四重極 LC/MS(アジレント社)
検出モード:ポジテイブ&ネガテイブ
解析ソフト:Agilent MassHunter ワークステーションソフトウエア(アジレント社)
検量線:定量は、ピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)は0、0.05uMの二点検量より、ピリドキサール5’リン酸(PLP)、ピリドキサミン5’リン酸(PMP)、ピリドキシン5’リン酸(PNP)については0、0.5uMの二点検量より濃度算出
を行った。ピリドキサール(PL)は4.2分、ピリドキサミン(PM)は2.2分、ピリドキシン(PN)は5.7分、ピリドキサール5’リン酸(PLP)は3.2分、ピリドキサミン5’リン酸(PMP)は1.8分、ピリドキシン5’リン酸(PNP)は3.2分に検出された。
【0164】
結果を図8に示す。野生型BY4742株ではピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼの基質であるピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)、ピリドキサミン5’リ
ン酸(PMP)の濃度が低い一方、ピリドキサールキナーゼ遺伝子を高発現させたB16-B17株ではピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)、ピリドキサミン5’リン酸(PMP)の濃度上昇が確認され、更にPDX3遺伝子を組み合わせて高発現させたB16-B17-P3株においてはピリドキサール(PL)、ピリドキサール5’リン酸(PLP)の濃度が上昇し、ピリドキサミン(PM)、ピリドキシン(PN)、ピリドキサミン5’リン酸(PMP)が低下したことが確認できた。
【0165】
実施例5 PLP合成酵素遺伝子およびビタミンB6取り込み酵素遺伝子高発現との組み合わ
せ評価
本実施例では、上記のPLP増量効果をもつ遺伝子高発現に加えて、酵母のPLP合成酵素遺伝子およびビタミンB6取り込み酵素遺伝子高発現を組み合わせ、PLP蓄積量の増量効果を
評価した。
【0166】
(1)PLP合成酵素遺伝子高発現酵母の作製
酵母サッカロマイセス・セレビシエのPLP合成酵素は複合体を形成しており、SNZ1およ
びSNO1遺伝子にコードされている。酵母のSNZ1およびSNO1遺伝子を高発現させるために、SNZ1およびSNO1遺伝子のプロモーター領域を構成性かつ強力であるTDH3遺伝子のプロモーター領域に置換することにより、ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現株を作製した。手順を以下に示す。
【0167】
(1-1)SNZ1およびSNO1遺伝子二重高発現株の作製
野生型株におけるSNZ1プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’
末端にSNZ1遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号18のプライマーSNZ1KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgLEU2遺伝子をもつプラスミドpCgLsを鋳型としてCgLEU2遺伝子をPCR
にて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)
、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付
加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にSNZ1遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号19のプライマーTDH3p-SNZ1rを用い、サッカロマイセス
・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した
。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃
、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プラ
イマーSNZ1KOf およびプライマーTDH3p-SNZ1rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でBY4742株を形質転換し、ロイシンを含まないSC-Leu平板培地に塗布した。生育した形質転換体からSNZ1プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、Z1株)を得た。
【0168】
SNZ1プロモーターをTDH3プロモーターに置換したZ1株におけるSNO1プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にSNO1遺伝子の開始コドンより上流40塩
基を付加した配列番号20のプライマーSNO1KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgHIS3遺伝子をもつプラ
スミドpCgH3を鋳型としてCgHIS3遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃
、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。
次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、
および5’末端にSNO1遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号21のプラ
イマーTDH3p-SNO1rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型と
してTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プライマーSNO1KOf およびプライマーTDH3p-SNO1rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98
℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとし
た。得られたDNA断片でZ1株を形質転換し、ヒスチジンを含まないSC-His平板培地に塗布
した。生育した形質転換体からSNO1プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、Z1-O1株)を得た。
【0169】
(2)ビタミンB6取り込み酵素遺伝子高発現酵母の作製
酵母サッカロマイセス・セレビシエのビタミンB6取り込み酵素をコードするTPN1遺伝子を高発現させるために、TPN1遺伝子のプロモーター領域を構成性かつ強力であるTDH3遺伝子のプロモーター領域に置換することにより、ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現株を作製した。手順を以下に示す。
【0170】
(2-1)TPN1遺伝子高発現株の作製
野生型株におけるTPN1プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’
末端にTPN1遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号22のプライマーTPN1KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgLEU2遺伝子をもつプラスミドpCgLsを鋳型としてCgLEU2遺伝子をPCR
にて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)
、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付
加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にTPN1遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号23のプライマーTDH3p-TPN1rを用い、サッカロマイセス
・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した
。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃
、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プラ
イマーTPN1KOf およびプライマーTDH3p-TPN1rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でBY4742株を形質転換し、ロイシンを含まないSC-Leu平板培地に塗布した。生育した形質転換体からTPN1プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、T1株)を得た。
【0171】
(3)PLP合成酵素遺伝子とビタミンB6取り込み酵素遺伝子の組み合わせ高発現酵母の作

PLP合成酵素遺伝子およびビタミンB6取り込み酵素遺伝子を組み合わせて高発現させる
ために、SNZ1、SNO1、およびTPN1遺伝子のプロモーター領域を構成性かつ強力であるTDH3遺伝子のプロモーター領域にすべて置換した株を作製した。なお、BY4742株はURA3遺伝子の欠損株であり、ウラシル要求性を示す。また、カンジダ・グラブラータのURA3遺伝子(以下、CgURA3)はサッカロマイセス・セレビシエのURA3遺伝子の欠損を相補することができる。手順を以下に示す。
【0172】
(3-1)SNZ1 SNO1 TPN1高発現株の作製
SNZ1およびSNO1プロモーターをTDH3プロモーターに置換したZ1-O1株におけるTPN1プロ
モーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にTPN1遺伝子の開始コド
ンより上流40塩基を付加した配列番号22のプライマーTPN1KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgURA3遺
伝子をプラスミドベクターpUC18に挿入して構築したプラスミドpCgUを鋳型としてCgURA3
遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末
端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にTPN1遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号23のプライマーTDH3p-TPN1rを用い、サッカ
ロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRに
て増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、
伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混
合し、プライマーTPN1KOf およびプライマーTDH3p-TPN1rを用い、2つのPCR産物を連結し
たDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でZ1-O1株を形質転換し、ウラシルを含まないSC-Ura平板培地に塗布した。生育した形質転換体からTPN1プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、Z1-O1-T1株)を得た。SC-Ura平板培地の組成を以下に示す。
【0173】
<SC-Ura平板培地>
グルコース 20 g
Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids 6.7 g
ウラシルを含まないアミノ酸・塩基溶液(20倍濃度;アルギニン塩酸塩 0.4 g/L、ヒスチジン塩酸塩 0.4 g/L、メチオニン 0.4 g/L、イソロイシン 0.6 g/L、リシン塩酸塩 0.6
g/L、チロシン 0.6 g/L、トリプトファン 0.8 g/L、アデニン硫酸塩 0.8 g/L、ロイシン
1.2 g/L、フェニルアラニン 1.2 g/L、バリン 3.0 g/L、トレオニン4.0 g/L) 50 mL
寒天 20 g
脱イオン水で全量を1 Lとした。
【0174】
(4)PLP増量遺伝子高発現の組み合わせ株の作製
酵母サッカロマイセス・セレビシエのピリドキサールキナーゼ遺伝子、ピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子、PLP合成酵素遺伝子、およびビタミンB6
り込み酵素遺伝子を組み合わせて高発現させるために、BUD16、BUD17、PDX3、SNZ1、SNO1、およびTPN1遺伝子のプロモーター領域を構成性かつ強力であるTDH3遺伝子のプロモーター領域にすべて置換した株を作製した。
【0175】
(4-1)BUD16 BUD17 TPN1高発現株の作製
BUD16およびBUD17プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB16-B17株におけるTPN1
プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にTPN1遺伝子の開始
コドンより上流40塩基を付加した配列番号22のプライマーTPN1KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、CgURA3遺伝子をプラスミドベクターpUC18に挿入して構築したプラスミドpCgUを鋳型としてCgURA3遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の
末端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にTPN1遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号23のプライマーTDH3p-TPN1rを用い、サッ
カロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCR
にて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)
、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に
混合し、プライマーTPN1KOf およびプライマーTDH3p-TPN1rを用い、2つのPCR産物を連結
したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング
(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でB16-B17株を形質転換し、ウラシルを含まないSC-Ura平板培地に塗布した。生育した形質転換体
からTPN1プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、B16-B17-T1株)を得た。
【0176】
(4-2)SNZ1 SNO1 BUD16 BUD17高発現株の作製
SNZ1およびSNO1プロモーターをTDH3プロモーターに置換したZ1-O1株におけるBUD16プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にBUD16遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号1のプライマーBUD16KOf、および5’末端にTDH3プ
ロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、プラスミ
ドpCgUを鋳型としてCgURA3遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5
’末端にBUD16遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号5のプライマーTDH3p-BUD16rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3
プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物を
それぞれ精製した後に混合し、プライマーBUD16KOf およびプライマーTDH3p-BUD16rを用
い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でZ1-O1株を形質転換し、ウラシルを含まないSC-Ura平板培地に塗布した。
生育した形質転換体からBUD16プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、Z1-O1-B16株)を得た。
【0177】
SNZ1、SNO1およびBUD16プロモーターをTDH3プロモーターに置換したZ1-O1-B16株におけるBUD17プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にBUD17遺伝
子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号6のプライマーBUD17KOf、および5’
末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用
い、ハイグロマイシンB耐性を付与するhphMX遺伝子をプラスミドベクターpUC118に挿入して構築したプラスミドpUC-hphMXを鋳型としてhphMX遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番号4のプライ
マーKO-TDH3pf、および5’末端にBUD17遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配
列番号7のプライマーTDH3p-BUD17rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲ
ノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プライマーBUD17KOfおよびプライマーTDH3p-BUD17rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条
件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min
)、30 cycleとした。得られたDNA断片でZ1-O1-B16株を形質転換し、300 μg/mLのハイグロマイシンBを含むYPD平板培地に塗布した。生育した形質転換体からBUD17プロモーター
がTDH3プロモーターに置換された株(以下、Z1-O1-B16-B17株)を得た。
【0178】
(4-3)BUD16 BUD17 TPN1 SNZ1 SNO1高発現株の作製
BUD16、BUD17およびTPN1プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB16-B17-T1株におけるSNZ1プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にSNZ1遺伝
子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号18のプライマーSNZ1KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用
い、プラスミドpUC-hphMXを鋳型としてhphMX遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にSNZ1遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号1
9のプライマーTDH3p-SNZ1rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNA
を鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10
sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これ
ら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プライマーSNZ1KOfおよびプライマーTDH3p-SNZ1rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱
変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でB16-B17-T1株を形質転換し、300 μg/mLのハイグロマイシンBを含むYPD平板培地に塗布した。生育した形質転換体からBUD17プロモーターがTDH3プ
ロモーターに置換された株(以下、B16-B17-T1-Z1株)を得た。
【0179】
BUD16、BUD17、TPN1およびSNZ1プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB16-B17-T1-Z1株におけるSNO1プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にSNO1遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号20のプライマーSNO1KOf、
および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライマーKO-TDH3prを用い、プラスミドpUC-kanMXを鋳型としてkanMX遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)
、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にSNO1遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号21のプライマーTDH3p-SNO1rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲ
ノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プライマーSNO1KOf およびプライマーTDH3p-SNO1rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2.5 min)
、30 cycleとした。得られたDNA断片でB16-B17-T1-Z1株を形質転換し、200 μg/mLのG418を含むYPD平板培地に塗布した。生育した形質転換体からSNO1プロモーターがTDH3プロモ
ーターに置換された株(以下、B16-B17-T1-Z1-O1株)を得た。
【0180】
(4-4)BUD16 BUD17 TPN1 SNZ1 SNO1 PDX3高発現株の作製
BUD16、BUD17、TPN1、SNZ1およびSNO1プロモーターをTDH3プロモーターに置換したB16-B17-T1-Z1-O1株におけるPDX3プロモーターをTDH3プロモーターと置換するために、まず、5’末端にPDX3遺伝子の開始コドンより上流40塩基を付加した配列番号14のプライマーPDX3KOf、および5’末端にTDH3プロモーター領域の上流部を付加した配列番号3のプライ
マーKO-TDH3prを用い、プラスミドpUC-natMXを鋳型としてnatMX遺伝子をPCRにて増幅した。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃
、2 min)、30 cycleとした。次に、5’末端に上のPCR断片の末端配列を付加した配列番
号4のプライマーKO-TDH3pf、および5’末端にPDX3遺伝子の開始コドンより下流40塩基を付加した配列番号15のプライマーTDH3p-PDX3rを用い、サッカロマイセス・セレビシエS288C株のゲノムDNAを鋳型としてTDH3プロモーター領域をPCRにて増幅した。PCRの条件は
、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃、2 min)、30 cycleとした。これら2つのPCR産物をそれぞれ精製した後に混合し、プライマーPDX3KOfおよびプライマーTDH3p-PDX3rを用い、2つのPCR産物を連結したDNA断片をPCRにて増幅した
。PCRの条件は、熱変性(98℃、10 sec)、アニーリング(60℃、15 sec)、伸長(68℃
、2.5 min)、30 cycleとした。得られたDNA断片でB16-B17-T1-Z1-O1株を形質転換し、100 μg/mLのノーセオトリシンを含むYPD平板培地に塗布した。生育した形質転換体からPDX3プロモーターがTDH3プロモーターに置換された株(以下、B16-B17-T1-Z1-O1-P3株)を得た。
【0181】
(5)各高発現株のPLP蓄積量の評価
BY4742株、T1株、Z1-O1株、B16-B17株、Z1-O1-T1株、B16-B17-T1株、Z1-O1-B16-B17株
、B16-B17-T1-Z1-O1株およびB16-B17-T1-Z1-O1-P3株をBurkholder合成培地で一晩培養し
た液5 mLを、それぞれ50 mLのBurkholder合成培地に植菌し、300 mL容三角フラスコでOD600値が1に達するまで30℃で振盪培養した。50 mLの培養液から細胞を集菌し、25 mLの無
菌水で3回洗浄した後、500 μLの無菌水に懸濁し、細胞懸濁液のOD600値を記録した。細
胞懸濁液を500 μLのジルコニアビーズを加えたスクリューキャップ付き1.5 mLチューブ
に移し、ビーズ式細胞破砕装置にて細胞を破砕した。細胞破砕液を新しい1.5 mLマイクロチューブに移し、遠心分離により上澄液を回収して細胞抽出液とした。細胞抽出液のPLP
量は、酵素法によるPLP定量キット「Vitamin B6 enzymatic assay(BUHLMANN)」を用い
、その使用説明書に従って測定した。
【0182】
結果を図9および図10に示す。野生型BY4742株および各高発現株における細胞内PLP
量は、OD600あたりBY4742: 20.4 pmol、T1: 24.0 pmol、Z1-O1: 20.5 pmol、B16-B17: 137 pmol、Z1-O1-T1: 26.4 pmol、B16-B17-T1: 135 pmol、Z1-O1-B16-B17: 139 pmol、B16-B17-T1-Z1-O1: 130 pmolであった。また、B16-B17-T1-Z1-O1: 135 pmol、B16-B17-T1-Z1-O1-P3: 164 pmolであった。
【0183】
以上の結果より野生型株において、PLP合成酵素遺伝子およびビタミンB6取り込み酵素
遺伝子をそれぞれ高発現させても、これらを組み合わせて高発現させてもPLP蓄積量は顕
著に増加しなかった。また、ピリドキサールキナーゼ遺伝子高発現株において、PLP合成
酵素遺伝子およびビタミンB6取り込み酵素遺伝子を高発現させてもPLP増量効果はみられ
なかった。しかし、これらの遺伝子高発現に加えてピリドキシン(ピリドキサミン)リン酸オキシダーゼ遺伝子を高発現させることにより、最終的に野生型株の8倍にまでPLP蓄積量を増加させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明によれば、酵母のピリドキサールリン酸生産能を向上させることができ、以てピリドキサールリン酸を含有する酵母菌体等を効率よく製造することができる。
【0185】
<配列表の説明>
配列番号1~23:プライマー
配列番号24:Saccharomyces cerevisiaeのBUD16遺伝子の塩基配列
配列番号25:Saccharomyces cerevisiaeのBUD16タンパク質のアミノ酸配列
配列番号26:Saccharomyces cerevisiaeのBUD17遺伝子の塩基配列
配列番号27:Saccharomyces cerevisiaeのBUD17タンパク質のアミノ酸配列
配列番号28:Saccharomyces cerevisiaeのPDX3遺伝子の塩基配列
配列番号29:Saccharomyces cerevisiaeのPDX3タンパク質のアミノ酸配列
配列番号30:Saccharomyces cerevisiaeのSNZ1遺伝子の塩基配列
配列番号31:Saccharomyces cerevisiaeのSNZ1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号32:Saccharomyces cerevisiaeのSNO1遺伝子の塩基配列
配列番号33:Saccharomyces cerevisiaeのSNO1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号34:Saccharomyces cerevisiaeのTPN1遺伝子の塩基配列
配列番号35:Saccharomyces cerevisiaeのTPN1タンパク質のアミノ酸配列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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